説明

食品の製造方法及び食品改質用酵素製剤

【課題】トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼ含む溶液を24時間程度保持した場合であっても各酵素の活性が保持される方法を提供し、物性及び食味の改善された食品の製造方法及び食品改質用の酵素製剤を提供する。
【解決手段】(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスグルタミナーゼと、グルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼを用いる、米飯食品等食品の製造方法及び食品改質用の酵素製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの食品は、澱粉、タンパク質、糖類、脂質など様々な成分により構成されており、これらが複合的に食品の食感を作り上げている。中でも澱粉やタンパク質の食感への寄与は大きく、澱粉の経時的変化は特に重要とされる。
【0003】
特許文献1によれば、澱粉含有食品の物性改良剤として、α−グルコシダーゼであるトランスグルコシダーゼを炊飯時に米に添加することによって、やわらかく、粘りがあり、かつ経時劣化しにくい炊飯米を得ることができる。かなりの効果が見られるものの、米粒同士のほぐれ性や物性改良効果において改善の余地が残っていた。このように、いずれの方法によっても、炊飯直後の食感を向上させ、かつその優れた食感を長時間にわたって維持するという2つを両立させることは難しい。
【0004】
トランスグルタミナーゼの米飯への利用に関して、特許文献2には、米類の炊飯時にトランスグルタミナーゼと、タンパク質部分加水分解物、少糖類、糖アルコールを炊飯水に添加して炊飯することにより、炊飯後長時間保存されても風味を損ねず、特に粘りの付与された炊飯米を製造する方法が開示されているが、トランスグルタミナーゼの添加のみでは、歯ごたえは発現したが、トランスグルタミナーゼと小麦タンパク質部分加水分解物を添加した炊飯米と比べ、粘りが欠如し、のどごしが劣っていた、と記載されている。また、特許文献3には、トランスグルタミナーゼを添加することにより多加水米飯の低温保管もしくは低温流通時に生じる澱粉の劣化を防止する方法が記載されているが、通常の炊飯米と多加水米飯は米粒の食感等全く別のものである。
【0005】
特許文献4には、タンパク質の物性改良に有効な酵素であるトランスグルタミナーゼをα-グルコシダーゼと併用することで、α-グルコシダーゼ単独では得られない粒感やほぐれ性を有し、かつ長時間にわたり食感を維持できる米飯が製造可能である、と記載されている。食感及び経時変化の改善の両面においてかなり高い効果が見られるものの、食感面において粒感が増す一方日本人の好むもちもち感、ふっくら感がやや弱いという課題が残されていた。特許文献5には、この課題を解決するべく、トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼの3酵素を併用する技術が開示されており、3酵素を併用した食品物性改良用の酵素製剤「アクティバ」スーパーライス(味の素社製)が市販されている。この市販品は、主に米飯の物性改良剤として使用され、十分な改質効果を発揮している。
【0006】
グルコースオキシダーゼが米飯の物性改良に用いられた例は特許文献5が初めてである。特許文献6には、グルコースオキシダーゼにより米飯中のグルコース量を減量させることでダイエットご飯を製造する方法、特許文献7には、グルコースオキシダーゼとグルコースを添加してレトルト米飯を製造することでグルコースに溶存酸素が取り込まれ米飯中の脂質酸化による劣化を防ぐ方法が記載されているが、いずれも物性改良に関する記載は一切ない。パンに対するグルコースオキシダーゼの使用に関しては多くの報告があり、生地安定性向上などに効果を発揮することが知られているが、パンは米飯とは全く異なる食品であり、食感も大きく異なるもので、パンへのグルコースオキシダーゼの添加効果と米飯食品への添加効果は異なるものである。
【0007】
トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼの3酵素を併用した上記の市販酵素製剤の使用方法としては、通常、米の浸漬液に溶解させ炊飯する方法が多いのであるが、大規模な炊飯工場においては作業性を重視する為、別途液体タンクに酵素製剤の高濃度水溶液を調整し、酵素水溶液を自動ポンプにて米に添加し炊飯する方法をとることがあり、酵素製剤の高濃度水溶液が24時間程度液体タンク内に保持されることがある。
【0008】
本発明者らは、トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼを含む上記市販製剤の高濃度溶液が24時間程度液体タンク内に保持された場合、各酵素の活性が低下し、十分な改質効果が発揮されない、という新たな課題を見出した。例えば、上記市販製剤の20%水溶液を25℃にて24時間保存した場合、トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼは90%以上、α−グルコシダーゼも20%以上失活することを見出した。さらに、3酵素併用の場合のみならず、トランスグルタミナーゼとα−グルコシダーゼ、あるいはトランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼの2酵素併用の場合においても、高濃度溶液が24時間程度保持された場合、各酵素の活性が低下することを見出した。
【0009】
酵素製剤の安定性が低いことは、食感改善効果のバラつき、ユーザーの使用方法を制限することを意味する。例えば、酵素製剤水溶液の長時間保存が不可能であれば、米飯食品の大規模生産に使用する場合、別途設備投資、人員配置等の対策をとる必要がある。
【0010】
酵素の安定化方法として、アスコルビン酸酸化酵素の精製工程、製剤化工程において可溶性澱粉を添加する方法(特許文献8)、肉軟化酵素に増粘剤、蛋白、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献9)、フォスファターゼ、グリコシダーゼにアラビアゴム、植物性蛋白を添加する方法(特許文献10)、マンナーゼにコーヒー由来材料を添加する方法(特許文献11)等が知られている。また、酸素による活性低下が知られているトランスグルタミナーゼの安定化方法として、特許文献12には、トランスグルタミナーゼと、(a)有機酸、そのアルカリ金属塩若しくはそのエステル、(b)無機酸若しくはその塩、(c)ポリフェノール、(d)チオール又は(e)糖アルコールである物質の一とを併用する方法、或いは(a′)有機酸、そのアルカリ金属塩及びそのエステル、(b′)無機酸及びその塩、(c)ポリフェノール、(d)チオール及び(e)糖アルコールの5種の物質から選ばれる2種以上の物質とを併用する方法が開示されているが、特許文献13にはそのような添加剤の添加による効果は不十分であることが記載され、蛋白部分加水分解物を用いる方法が開示されている。特許文献12にはトランスグルタミナーゼと酸性物質と塩基性物質の併用については記載されておらず、また他の酵素での効果について開示も示唆も無い。酵素は種類によって機能、特徴が全く異なるものであるため、各方法は特定の酵素に効果のあるものに過ぎない。すなわち、全ての酵素を安定化できる技術は知られておらず、また、トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼの安定化を同時に達成する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2005/096839
【特許文献2】特開平9-206006号公報
【特許文献3】特許3310081号
【特許文献4】特開2009-022267号公報
【特許文献5】WO2010/035858
【特許文献6】特許3718495号
【特許文献7】特許2808060号
【特許文献8】特開平5-244948号公報
【特許文献9】特開平10-136942号公報
【特許文献10】特表2007-519408号公報
【特許文献11】特開2007-275065号公報
【特許文献12】特開平4-207194号公報
【特許文献13】WO96/11264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、物性及び食味の改善された食品の製造方法及び食品改質用の酵素製剤を提供することである。特に、α−グルコシダーゼ、トランスグルタミナーゼの単独使用や両酵素の併用のみでは得られない食感、例えば「もちもち感」、「ふっくら感」あるいは「粒感」、「パラパラ感」を有する米飯食品の製造方法を提供することである。より具体的には、トランスグルタミナーゼと、グルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼの2酵素、あるいはトランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼの3酵素を含む溶液を24時間程度保持した場合であっても各酵素の活性が保持される方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、鋭意検討の結果、トランスグルタミナーゼと、グルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼの2酵素、あるいはトランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼの3酵素に加え、リン酸塩、炭酸塩、有機酸、アミノ酸を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出だし、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質 と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを用いることを特徴とする食品の製造方法。
(2)酸性物質がリンゴ酸又はクエン酸であり、塩基性物質がリン酸水素二ナトリウム又はリン酸三ナトリウム又は炭酸ナトリウム又はである(1)記載の方法。
(3)(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸とを用いることを特徴とする食品の製造方法。
(4)塩基性アミノ酸がヒスチジンである(3)記載の製造方法。
(5)(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼと(B)酸性物質と(C)塩基性物質とを含有する溶液、又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を含有する溶液を調製し、用いることを特徴とする食品の製造方法。
(6)(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(B)酸性物質と(C)塩基性物質とを含有する溶液、又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼ及び(C)塩基性アミノ酸とを含有する溶液を調製し、用いることを特徴とする食品の製造方法。
(7)酸性物質の量が、該溶液の0.02〜20重量%であり、塩基性物質の量が0.02〜50重量%であり、該溶液のpHが5.0〜8.0である(5)又は(6)記載の方法。
(8)食品が米飯食品である(1)乃至(7)の何れかに記載の方法。
(9)食品が米飯食品であり、トランスグルタミナーゼの量が原料生米1g当たり0.05〜12Uであり、α−グルコシダーゼの量が原料生米1g当たり15〜150,000Uであり、グルコースオキシダーゼの量が原料生米1g当たり0.03〜210である(6)記載の方法。
(10)グルコースオキシダーゼの量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000Uであり、α−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34Uであり、α−グルコシダーゼの量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.15〜200,000Uである(6)又は(9)記載の方法。
(11)(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを有効成分として含有する酵素製剤。
(12)(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を有効成分として含有する酵素製剤。
(13)(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを有効成分として含有する酵素製剤又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を有効成分として含有する酵素製剤であって、グルコースオキシダーゼの含有量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000Uであり、α−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34Uである酵素製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼを含む酵素溶液を24時間程度保持した場合であっても各酵素の活性が保持され、品質の良好な食品を得ることができる。特に、α−グルコシダーゼ、トランスグルタミナーゼの単独使用や両酵素の併用のみでは得られない食感、例えば「もちもち感」、「ふっくら感」あるいは「粒感」、「パラパラ感」を有する米飯食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実験例1に係るトランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ含有溶液中の各酵素の安定性の比較を示す図である。
【図2】実験例1に係るトランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ含有溶液中の各酵素の安定性の比較を示す図である。
【図3】実験例1に係るトランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ含有溶液中の各酵素の安定性の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明による食品の製造方法及び食品改質用の酵素製剤には、(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、酸性アミノ酸等の酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウム等の塩基性物質とを用いる。 あるいは、(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸とを用いる。
【0017】
本発明のグルコースオキシダーゼは、グルコース、酸素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生成された過酸化水素は、タンパク中のSH基を酸化することでSS結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、タンパク中に架橋構造を作る。グルコースオキシダーゼは、微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。「スミチームPGO」という商品名で新日本化学工業(株)より市販されている微生物由来のグルコースオキシダーゼが一例である。尚、カタラーゼが混合されているグルコースオキシダーゼ製剤が市販されているが、グルコースオキシダーゼ活性を有していれば、他の酵素との混合物であっても構わない。
【0018】
グルコースオキシダーゼの酵素活性については、グルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることで過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素にアミノアンチピリン及びフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることで生成したキノンイミン色素が呈する色調を、波長500nmで測定し定量する。1分間に1μmolのグルコースを酸化するのに必要な酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0019】
本発明のトランスグルタミナーゼはタンパク質やペプチド中のグルタミン残基を供与体、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素のことを指し、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のものなど、種々の起源のものが知られている。本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。味の素(株)より「アクティバ」TGという商品名で市販されている放線菌由来のトランスグルタミナーゼが一例である。
【0020】
トランスグルタミナーゼの酵素活性についてはベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行い、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後525nmの吸光度を測定し、ヒドロキサム酸の量を検量線より求め活性を算出する。37℃、pH6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0021】
本発明のα-グルコシダーゼは、非還元末端α-1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。α-グルコシダーゼのうち、α-1,4結合よりα-1,6結合への糖転移活性を有するトランスグルコシダーゼが好ましい。尚、トランスグルコシダーゼL「アマノ」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、α−グルコシダーゼの一例である。
【0022】
α−グルコシダーゼの酵素活性については、1mM α-メチル-D-グルコシド1mlに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mlを加え、酵素溶液0.5ml添加して、40℃、60分間を作用させた時に、反応液2.5ml中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0023】
本発明の酸性物質とは蒸留水に溶解した際にpHが酸性となるものを指し、無機酸、有機酸、アミノ酸、それらの酸性塩を指す。食品への使用実績、食品の味への影響、溶解性、緩衝能より、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リンゴ酸、クエン酸、グリシンが好ましく、リンゴ酸、クエン酸がより好ましい。酸性物質の量は、(A)トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、(B)酸性物質、(C)塩基性物質の混合溶液の0.02〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、1〜5重量%がさらに好ましい。尚、ヒスチジン等塩基性アミノ酸を用いる場合、酸性物質を併用しなくてもよい。
【0024】
本発明の塩基性物質とは蒸留水に溶解した際にpHがアルカリ性となるものを指し、無機塩、有機酸塩、アミノ酸塩、塩基性アミノ酸を指す。食品への使用実績、米飯食品の味への影響、溶解性、緩衝能より、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リジン、アルギニン、ヒスチジンが好ましく、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、ヒスチジンがより好ましい。塩基性物質の量は、(A)トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、(B)酸性物質、(C)塩基性物質の混合溶液の0.02〜50重量%が好ましく、0.1〜30重量%がより好ましく、2〜9重量%がさらに好ましい。尚、ヒスチジン等塩基性アミノ酸を用いる場合、酸性物質を併用しなくてもよい。
【0025】
本発明において、塩基性アミノ酸を単独で用いる場合を除き、酸性物質と塩基性物質の両方を用いる必要があるが、それらを蒸留水に溶解させた際の溶液のpHが5.0〜8、好ましくは6.0〜7.4、より好ましくは6.5〜7.4の範囲となるよう適宜組み合わせればよい。例えば、リンゴ酸又はクエン酸とリン酸水素二ナトリウムの組み合わせの場合、溶液中の濃度は酸性物質が1%、塩基性物質9%となるように配合すればよく、リンゴ酸又はクエン酸とクエン酸三ナトリウムの組み合わせの場合、溶液中の濃度は酸性物質2.5%、塩基性物質7.5%となるように配合すればよい。
【0026】
本発明の食品としては、米飯食品、麺類、パン、水産加工品及び水産品、畜肉加工品及び肉、乳製品、豆製品、野菜、果物、スナック菓子等が挙げられる。米飯食品として、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炒飯、炊き込みご飯、おこわ、お粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当などが挙げられる。また、これらの冷凍品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品も含まれる。麺類として、うどん、焼きそば、そば、中華麺、パスタ等が挙げられる。また、これらの冷凍品、チルド品、レトルト品、乾燥品も含まれる。パン類として調理パン、菓子パン、サンドイッチ、食パン、米粉パン、黒パン等が挙げられる。また、これらの冷凍品、乾燥品も含まれる。
【0027】
本発明の米飯食品の原料となる米は、どのような品種の米でもよく、軟質米でも硬質米でも、また新米でも古米でも構わない。また、低食味米でも良食味米でも構わない。更に、低タンパク米(タンパク調整米)等酸や酵素で処理された加工米でも構わない。
【0028】
本発明の米飯食品の製造方法において、(A)トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、(B)酸性物質、(C)塩基性物質を混合した溶液を調製せずに、生米又は炊飯米に添加作用させることは可能であるが、本発明の課題解決の点で、該混合溶液を生米又は炊飯米に添加作用させることを特徴とする。もちろん、溶液を調製せずにこれらを添加作用させてもよいのであるが、添加作用させる方法は、炊飯までのどの段階で作用させてもかまわないし、炊飯後でもかまわない。すなわち吸水のため米を浸漬させる浸漬液に(A)〜(C)を添加してもよいし、浸漬後、炊飯前に添加してもよい。また、炊飯後炊飯米に振りかけて作用させてもよい。蒸米製造ラインにおいては、蒸し工程の前もしくは後に酵素を振りかけて作用させてもよい。
【0029】
本発明において、米に作用させるグルコースオキシダーゼの添加量は、原料生米1gに対して酵素活性が0.001U以上、好ましくは0.001〜500U 、より好ましくは0.03〜210Uの範囲が適正である。グルコースオキシダーゼを米に作用させた効果としては「もちもち感」や「弾力」が米飯食品に顕著に付与され、特に「もちもち感」はトランスグルタミナーゼやα−グルコシダーゼの添加では得ることのできない食感である。トランスグルタミナーゼとα−グルコシダーゼの併用においても一定の「弾力」付与効果は得られるが、より強い「弾力」を得るためにトランスグルタミナーゼの比率を増やすとα−グルコシダーゼの「ふっくら感」付与機能が抑えられる傾向があった。しかし、グルコースオキシダーゼの使用により、α−グルコシダーゼの機能を抑えすぎることなく強い「弾力」を付与することが可能である。一方、グルコースオキシダーゼを500U以上添加した場合、「弾力」が強すぎることによりゴムのような不自然な食感となるため、好ましさは低下する。
【0030】
本発明において、米に作用させるトランスグルタミナーゼの添加量は、グルコースオキシダーゼの添加量が原料生米1gに対して酵素活性が0.001U以上、好ましくは0.001〜500U 、より好ましくは0.03〜210Uの場合において、原料生米1gに対して酵素活性が0.0001U以上、好ましくは0.0001〜120U 、より好ましくは0.05〜12Uの範囲が適正である。さらに、グルコースオキシダーゼの添加量がトランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000U、好ましくは0.1〜900Uとなるようにトランスグルタミナーゼを添加するのが望ましい。
【0031】
本発明において、米に作用させるα−グルコシダーゼの添加量は、原料生米1gに対して酵素活性が0.03U以上、好ましくは0.03〜300,000U 、より好ましくは15〜150,000Uの範囲が適正である。α−グルコシダーゼの量は、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.15〜200,000Uが好ましい。さらに、グルコースオキシダーゼの添加量がα−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34U、好ましくは0.000006〜3Uとなるようにα−グルコシダーゼを添加するのが望ましい。
【0032】
繰り返しになるが、トランスグルタミナーゼとα−グルコシダーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼとを米に作用させて米飯食品の製造する場合の各酵素の添加量比は、酵素活性(ユニット数)において、グルコースオキシダーゼが、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000U、好ましくは0.1〜900U、及び/又はα−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34U、好ましくは0.000006〜3Uが適当である。各酵素の添加量比が上記の範囲にあるとき、製造直後の品質(ふっくら感、もちもち感、粒感、ほぐれ性等物性)が良好で、時間経過による品質劣化の抑制された米飯食品を製造することができる。
【0033】
各酵素の反応時間は、酵素が基質物質に作用することが可能な時間であれば特に構わず、非常に短い時間でも逆に長時間作用させても構わないが、現実的な作用時間としては5分〜24時間が好ましい。また、反応温度に関しても酵素が活性を保つ範囲であればどの温度であっても構わないが、現実的な温度としては0〜80℃で作用させることが好ましい。すなわち、通常の炊飯工程を経ることで十分な反応時間が得られる。
【0034】
(A)トランスグルタミナーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、(B)酸性物質、(C)塩基性物質の他に、デキストリン、澱粉、加工澱粉、還元麦芽糖等の賦形剤、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、油脂、色素、酸味料、香料、カタラーゼ等の酵素等その他の食品添加物等を添加混合することにより、米飯食品改質用の酵素製剤を得ることができる。本発明の酵素製剤は液体状、ペースト状、顆粒状、粉末状のいずれの形態でも構わない。また、酵素製剤における各酵素の配合量は0%より多く、100%より少ないが、グルコースオキシダーゼの含有量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000U、好ましくは0.1〜900U、及び/又はα−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34U、好ましくは0.000006〜3Uであるのがよい。酸性物質、塩基性物質の量は、酵素製剤を5倍量の蒸留水に溶解させた溶液のpHが5.0〜8.0、好ましくは6.0〜7.4、より好ましくは6.5〜7.4となるようにすればよい。酵素製剤における酸性物質の量は、0.001〜99重量%が好ましく、0.1〜80重量%がより好ましく、1〜50重量部がさらに好ましい。但し、塩基性物質としてヒスチジン等の塩基性アミノ酸を用いる場合は、酸性物質を併用してもよいが、併用しなくてもよい。酵素製剤における塩基性物質の量は0.001〜99重量%が好ましく、0.1〜80重量%がより好ましく、1〜50重量%がさらに好ましい。
【0035】
以下に実験例、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されない。
【実験例1】
【0036】
トランスグルタミナーゼ(以下TGと略すことがある)、α−グルコシダーゼ(以下AGと略すことがある)、グルコースオキシダーゼ(以下GOと略すことがある)、デキストリンからなる米飯用酵素製剤(製剤100gあたりTG6.2g、7,378U、AG4.74g、2,940,000U、GO31.3g、65,730U含有)を超純水に溶解し、20%溶液を調製した。溶液中の各酵素の濃度はAG0.95%、TG1.24%、GO6.26%である。TGは味の素社製「アクティバ」TG(1,190U/g)AGは天野エンザイム社製α−グルコシダーゼ「アマノ」(620,000U/g)、GOは新日本化学工業社製「スミチームPGO」(2,100U/g))を用いた。調製した酵素溶液を25℃にて保存した際の各酵素の残存活性を測定したところ、図1に示したように各酵素の活性は低下し、特にGO、TGは24時間後の酵素活性は殆ど残存していなかった。また、溶液中の各酵素の濃度がAG3.20%、TG2.00%となるように溶解した溶液を調製し、保存した際の各酵素の残存活性を測定した結果を図2に示し、各酵素濃度がTG1.24%、GO6.26%となるように溶解した溶液を調製し、保存した際の各酵素の残存活性を測定した結果を図3に示した。各酵素濃度が同じとなるように各酵素のみを溶解した溶液を調製し、保存した際の各酵素の残存活性を測定したところ、表1に示したようにGO以外の活性低下は見られなかった。ことより、図1〜3に示した現象は、TGと、GO又はAGの2酵素あるいはTG、AG、GOの3酵素の混合溶液において発現するものであり、何らかの相互作用によるものであると考えられる。
【0037】
【表1】

【実験例2】
【0038】
生米「北海道きらら397」300gを市水にて洗米し、市水に1時間浸漬した。浸漬米は水切りをした後、炊飯器「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)に投入し、生米に対して1.5倍加水となるよう市水を加えた。尚、1.5倍加水とは、浸漬時の生米への吸水量と浸漬後の加水量の合計が、生米300gの1.5倍量である450gとなるように加水することである。そこに、表2に示した配合でAG、GO、TGを添加し溶解させ、上記炊飯器にて炊飯した。得られた冷凍米飯は、−20℃にて1週間保存した後、レンジアップをして官能評価を行った。官能評価は、硬さ、もちもち感、保水感、ふっくら感、粘り、パラパラ感、弾力、粒感の8項目について行った上で、白飯としての食感バランスの好ましさを、◎、○、△、×の記号で表した。◎は「非常に好ましい」、○は「好ましい」、△は「やや好ましい」、×は「好ましくない」を意味する。評価人数は5人とした。尚、表中の3.4E+2や5.6E-6は指数表示を意味しており、それぞれ3.4×10の2乗、5.6×10の−6乗を意味している。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示す通り、3酵素を併用した際のAG、TG、GOそれぞれの添加量は、ある一定の範囲内において、添加することによる好ましい効果が確認された。また、GO/AG比(ユニット比)、GO/TG比(ユニット比)においても、ある一定の範囲内において好ましい効果が確認された。AGは、生米1g当たり0.03〜300,000Uにてやや好ましい効果、15〜150,000Uにて好ましい効果を発揮した。TGは、生米1g当たり0.0001〜115Uにてやや好ましい効果、0.05〜11.5Uにて好ましい効果を発揮した。GOは、生米1g当たり0.001〜504Uにてやや好ましい効果、0.03〜210Uにて好ましい効果を発揮した。また、AG1Uに対するGO量としては、0.000003〜34Uにてやや好ましい効果、0.000006〜3Uにて好ましい効果を発揮した。TG1Uに対するGO量としては、0.003〜9130Uにてやや好ましい効果、0.1〜807Uにて好ましい効果を発揮した。以上の値を整理すると、米飯食品に対してAG及びTG及びGOを添加する場合、AGの添加量は生米1g当たり0.03〜300,000Uが好ましく、15〜150,000Uがより好ましかった。TGの添加量は生米1g当たり0.0001〜120Uが好ましく、0.05〜12Uがより好ましかった。GOの添加量は生米1g当たり0.001〜500Uが好ましく、0.03〜210Uがより好ましかった。また、AG1Uに対するGO量は0.000003〜34Uが好ましく、0.000006〜3Uがより好ましいことが示され、TG1Uに対するGO量は0.003〜10,000Uが好ましく、0.1〜900Uがより好ましいことが示された。以上のように上記範囲内の条件にて3酵素を併用することで、「硬さ」「もちもち感」「保水感」「ふっくら感」「粘り」「パラパラ感」「粒感」のいずれの項目も犠牲にすることなくこれらをバランスよく付与することが可能となった。特にこれまでは困難と考えられていた、「硬さ」「粒感」といった食感と「もちもち感」「ふっくら感」といった食感を同時に付与することで、好ましい食感が実現された。
【実施例1】
【0041】
実験例1で用いたAG、TG、GOを用いて表3に示した配合の酵素製剤を調製し、実験例1同様20%溶液を調製した。尚、デキストリンは松谷化学社製の「パインデックス#1」を用いた。酵素製剤溶液を25℃、24時間保存後の各酵素の残存活性を測定した。調製直後の活性値を100とした時の24時間後の酵素活性残存率を求め、結果を表3に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示したように、TG、GO、AG3酵素に特定の酸性物質及び/又は塩基性物質を所定量配合することにより、酵素溶液を24時間保持した後であっても各酵素の活性が保持されることが確認できた。
【実施例2】
【0044】
表3に示した配合の酵素製剤を調製し、実施例1同様20%溶液を調製後、25℃、24時間保存した。生米「コシヒカリ」380gに市水580gを加え1時間浸漬した後、24時間保存後の酵素製剤溶液を3.8g(酵素製剤として0.76g)添加(原料米1gに対し、酵素製剤として0.002g、GOとして1.3U、TGとして0.1U、AGとして61.1U、酸性物質と塩基性物質の合計量として0.001gし、炊飯器「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)にて炊飯した。炊飯米を真空冷却機「食品用急速冷却機CMJ-40」(三浦プロテック社製)にて25℃以下に冷却した。得られた炊飯米(白飯)について、密封性の高い容器に移し伸縮性ラップにて覆い20℃の恒温槽にて24時間保管した後、レンジアップして訓練したパネルにて官能評価を行った結果を表4に示す。官能評価はWO2005/096839において確認された米への効果に対して本素材が相加・相乗的に効果を示すか否かを確認した。尚、官能評価は対照区として設定した炊飯直前にGO、TG、AG、酸性物質、塩基性物質をそれぞれ各試料と等量添加し、同様の操作にて作成した白飯と比較して物性が同等であり、味覚に影響が全くないものを◎、物性が同等であり、味覚にほとんど差がないものを○、異味がするものを×とした。
【0045】
【表4】

【0046】
表4に示したとおり、TG、GO、AG3酵素に、特定の酸性物質及び/又は塩基性物質を所定量配合することにより、酵素溶液を24時間保持した後であっても、炊飯直前に3酵素を添加した対照品と同等の食感、食味を有することを確認した。特に、酸性物質としてリンゴ酸、クエン酸、塩基性物質としてリン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、ヒスチジンを所定量用いた場合、炊飯米の味覚には全く影響がなかった。
【実施例3】
【0047】
実験例1で用いたTGと、AG又はGOの二酵素を用いて表5に示した配合の酵素製剤を調製し、実験例1同様20%溶液を調製した。尚、デキストリンは松谷化学社製の「パインデックス#1」を用いた。酵素製剤溶液を25℃、24時間保存後の各酵素の残存活性を測定した。調製直後の活性値を100とした時の24時間後の酵素活性残存率を求め、結果を表5に示した。
【0048】
【表5】

【0049】
表5に示したようにTGと、AG又はGOの二酵素に特定の酸性物質及び/又は塩基性物質を所定量配合することにより、酵素溶液を24時間保持した後であっても各酵素の活性が保持されることが確認できた。
【実施例4】
【0050】
表5に示した配合の酵素製剤を調製し、実施例1同様20%溶液を調製後、25℃、24時間保存した。生米「コシヒカリ」380gに市水580gを加え1時間浸漬した後、24時間保存後の酵素製剤溶液を3.8g(酵素製剤として0.76g)添加(原料米1gに対し、酵素製剤として0.002g、TGとして0.2U、AGとして208.0U、又は、TGとして0.1U、GOとして1.3U、酸性物質と塩基性物質の合計量として0.001gとし、炊飯器「IHジャー炊飯器NJ-HS06-S」(三菱電機社製)にて炊飯した。炊飯米を真空冷却機「食品用急速冷却機CMJ-40」(三浦プロテック社製)にて25℃以下に冷却した。得られた炊飯米(白飯)について、密封性の高い容器に移し伸縮性ラップにて覆い20℃の恒温槽にて24時間保管した後、レンジアップして訓練したパネルにて官能評価を行った結果を表6に示す。官能評価はWO2005/096839において確認された米への効果に対して本素材が相加・相乗的に効果を示すか否かを確認した。尚、官能評価は対照区として設定した炊飯直前にTG、AG、GO、酸性物質、塩基性物質をそれぞれ各試料と等量添加し、同様の操作にて作成した白飯と比較して物性が同等であり、味覚に影響が全くないものを◎、物性が同等であり、味覚にほとんど差がないものを○、異味がするものを×とした。
【0051】
【表6】

【0052】
図2,図3に示したとおり、GOを除き、TG、AG単体での酵素は安定している。しかし、TGと、AG又はGOの二酵素を併用することによってTG,AGの酵素活性が失活する事が確認された。一方、表6に示したとおり、TGと、AG又はGOの二酵素に、特定の酸性物質及び/又は塩基性物質を所定量配合することにより、酵素溶液を24時間保持した後であっても、炊飯直前に二酵素を添加した対照品と同等の食感、食味を有することを確認した。特に、酸性物質としてクエン酸、塩基性物質としてリン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムを所定量用いた場合、炊飯米の味覚には全く影響がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によると、食品の品質、特に米飯食品の品質を向上できるため、食品分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質 と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項2】
酸性物質がリンゴ酸又はクエン酸であり、塩基性物質がリン酸水素二ナトリウム又はリン酸三ナトリウム又は炭酸ナトリウム又はである請求項1記載の方法。
【請求項3】
(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸とを用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項4】
塩基性アミノ酸がヒスチジンである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼと(B)酸性物質と(C)塩基性物質とを含有する溶液、又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を含有する溶液を調製し、用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項6】
(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(B)酸性物質と(C)塩基性物質とを含有する溶液、又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼ及び(C)塩基性アミノ酸とを含有する溶液を調製し、用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項7】
酸性物質の量が、該溶液の0.02〜20重量%であり、塩基性物質の量が0.02〜50重量%であり、該溶液のpHが5.0〜8.0である請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
食品が米飯食品である請求項1乃至7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
食品が米飯食品であり、トランスグルタミナーゼの量が原料生米1g当たり0.05〜12Uであり、α−グルコシダーゼの量が原料生米1g当たり15〜150,000Uであり、グルコースオキシダーゼの量が原料生米1g当たり0.03〜210である請求項6記載の方法。
【請求項10】
グルコースオキシダーゼの量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000Uであり、α−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34Uであり、α−グルコシダーゼの量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.15〜200,000Uである請求項6又は9記載の方法。
【請求項11】
(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを有効成分として含有する酵素製剤。
【請求項12】
(A)トランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼ及び/又はα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を有効成分として含有する酵素製剤。
【請求項13】
(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(B)リン酸、リン酸塩、有機酸、アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性物質と(C)リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、塩基性アミノ酸、酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基性物質とを有効成分として含有する酵素製剤又は(A)トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びα−グルコシダーゼと(C)塩基性アミノ酸を有効成分として含有する酵素製剤であって、グルコースオキシダーゼの含有量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003〜10,000Uであり、α−グルコシダーゼ1U当たり0.000003〜34Uである酵素製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206048(P2011−206048A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48867(P2011−48867)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】