説明

食品の食感測定方法、及び食品の食感測定装置

【課題】食品の「シャキシャキ感」及び「サクサク感」などの食感を正確に測定する。
【解決手段】測定すべき食品に所定の挿入速度でプローブを挿入し、その際に発生する振動を取得する。次いで、前記振動に関する波形データをフィルタリング処理し、複数の周波数帯域における波形データを得る。次いで、前記周波数帯域それぞれに対応した前記波形データに関する、単位時間当たりの振幅密度を得、前記食品の食感を各周波数帯域における前記振幅密度から測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の食感測定方法、及び食品の食感測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人は、味、香りおよび色といった多くの要素を基準として食物や農産物の嗜好的判断を行うが、その中で食感は、特に重要な要素である。このような食感は、食物の力学特性(弾性や粘性)に由来している。従って、食物の弾性や粘性を測定すれば、このような食感を定量化することが考えられる。麺類やパスタなどでは、麺などの被試験体を押し圧治具で一定距離押し圧した後、被試験体が押し圧治具に与える応力(反発力)を零にする位置まで押し圧治具を戻したときの距離と押し圧加重の関係から被試験体が有する反発エネルギーを計算し、習慣的に使われていた「ねばり」や「腰の強さ」という食感を定量的に測定している(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
ところが、食感には、「ねばり」や「腰」だけでなく、様々な種類がある。例えば農産物において、新鮮なキウリやセロリなどを咀嚼した際の「シャキシャキ」及び「サクサク」とした食感や、食べ頃になったセイヨウナシの「トロリ」とした食感は、我々の嗜好を大いにそそるものである。これらの食感は、従来のレオメーターなどの機械力学的な測定では表現できず、もっぱら人による官能検査により評価されている。
【0004】
また、近年、クッキーやスナック菓子などの乾いた多孔質性をもつ食品において、「パリパリ感」であるクリスプネス(Crispness)を測定するために、これらの食品の破断曲線を測定し、その周波数解析を行うことで所定の周波数領域での破断エネルギーを求め、それをクリスプネスの指標として定量化している(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−190688号公報(第2−3頁、第1図)
【0006】
【特許文献2】特開2001−133374号公報(第2−4頁、第3図)
【0007】
官能検査を利用して正確に食品の評価を行うためには、熟練した技術を持つ複数の試験者を必要とする。ワインや煙草といった高度な嗜好を要求される商品では、このような熟練した試験者が養成されているが、セロリやキウリなどの安価な農産物では、このような熟練者の養成は行われておらず、都度、非熟練の試験者を募り、予め定めた官能検査表に基づき、食感判定をしている。
【0008】
また、対象物を被験者に咀嚼させ、発生する音をマイクロフォンで採取する方法も発明されている。しかしながら、このような方法では、食品の破壊音が試験者の骨を通る間に高周波成分が減衰し、総ての振動成分がデータとしてマイクロフォンに採取されないなどの問題を生じる。また、試験者の口の開け方、口蓋の容積及び唾液の量などの個人差が著しいという問題も生じていた。このような事から、判定結果のばらつきが大きく、しかも官能試験の際の試験者の異同に起因して、過去の測定結果と現在の測定結果とを正確に比較することは困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載されているような被試験体を破壊するときに生じる破断曲線を用いる方法では、測定対象物は水分含有量が数%以下の乾いた多孔性食品に限られ、キウリやレタスなど水分を多く含む食材に適用した場合には、破断曲線がその食感と必ずしも有意な相関が得られないと言う問題を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、食品の「シャキシャキ感」及び「サクサク感」などの食感を正確に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明は、
測定すべき食品に所定の挿入速度でプローブを挿入し、その際に発生する振動を取得する工程と、
前記振動に関する波形データをフィルタリング処理し、複数の周波数帯域における波形データを得る工程と、
前記周波数帯域それぞれに対応した前記波形データに関する、単位時間当たりの振幅密度を得、前記食品の食感を各周波数帯域における前記振幅密度から測定する工程と、
を具えることを特徴とする、食品の食感測定方法に関する。
【0012】
また、本発明は、
測定すべき食品に所定の挿入速度で挿入し、所定の振動を発生させるためのプローブと、
前記振動を取得するための振動取得手段と、
前記振動に関する波形データに対してフィルタリング処理を施し、複数の周波数帯域における波形データを得るためのフィルタリング手段とを具え、
前記周波数帯域それぞれに対応した前記波形データに関する、単位時間当たりの振幅密度を得、前記食品の食感を各周波数帯域における前記振幅密度から測定するように構成したことを特徴とする、食品の食感測定装置に関する。
【0013】
本発明者らは、従来より、食品に対してプローブを挿入した際に得た振動に関する波形データを利用して前記食品の食感を数値化し、計測することを試みている。しかしながら、このような方法で食品の食感を測定しようとすると、前記プローブの挿入に起因した実際のデータ取得時間はコンマ数秒程度の極めて短時間に限られてしまう。したがって、所定のサンプリング周波数を採用してサンプリングした場合、得られるデータ数が限られてしまう場合がある。この結果、前記食品の食感を前記データ数を基に解析しようとした場合、前記データ数の不足から、十分な解像度を得ることができないばかりか、前記食品の食感に特徴的な高周波成分を得られない場合がある。
【0014】
例えば、人の耳では、大体20000Hzまでの音を検知することができるので、この周波数帯域までの食感を判定するために必要となるデータ数は約40000以上となる。
【0015】
そこで、本発明者らは、上述したプローブ挿入を利用した食品の食感測定において、十分なデータ数を得て十分な解像度で前記食品の食感を計測すべく、鋭意検討を実施した。その結果、上述のようなプローブ挿入によって得た波形データを、例えばサンプリング速度を100kHzにすることによって、0.512秒程度の十分に短いサンプリング時間とした後、フィルタリング手段によって複数の周波数帯域における波形データに変換し、各周波数帯域毎に応じて複数の波形データを得ることを想到した。この結果、食品の食感解析を行うに足るデータが得られることを見出した。
【0016】
したがって、食品の食感解析に対して十分なデータ数を得ることができ、十分な解像度で前記食品の食感を得ることができるようになる。また、特定の食品の食感に特徴的な高周波成分のデータをも得ることができ、前記食品の食感をより高精度に測定することができるようになる。
【0017】
なお、各周波数帯域に応じた前記複数の波形データは、食品の食感を測定するに際して数量化する必要があるが、本発明では、前記波形データから単位時間当たりの振幅密度を得るようにしている。この振幅密度は、以下に詳述するように、比較的簡易な手法で得ることができるので、目的とする食品の食感をより簡易かつ高精度に計測することができる。
【0018】
なお、本発明の好ましい態様においては、前記波形データに対して前記フィルタリング処理を施す以前に、電源ノイズを除去する。これによって、上述した各周波数帯域に応じて波形データから前記電源ノイズに起因したノイズを除去することができるようになり、前記波形データを利用した食品の食感計測をより高精度で行うことができる。
【0019】
また、本発明の一態様においては、上記フィルタリング処理をオクターブ単位又は1/2オクターブ単位で実行する。これは、人の知覚が高周波数成分に対するほど鈍感になって捉えられにくくなる傾向があることを参考にして、人の知覚劣化を補正する観点からオクターブ単位あるいは1/2オクターブ単位での周波数帯域における振動データを得るようにしたものである。但し、このような理由の如何によらず、上述したようなオクターブ単位あるいは1/2オクターブ単位でのフィルタリング処理という指針が与えられることにより、目的とする食品の食感をより簡易に計測することができるようになる。
【0020】
さらに、本発明の他の態様においては、上記フィルタリング処理を0〜25600Hzの周波数帯域で行う。この場合、ほぼ総ての食品において、「シャキシャキ感」や「サクサク感」に基づいた特徴的な波形データ(単位時間当たりの振幅密度)を得ることができる。
【0021】
また、本発明のさらに他の態様においては、前記波形データを得る際のサンプリング速度を100kHz以上とする。これによって、サンプリング時間を十分短時間化することができ、食品の食感測定を十分な解像度で実施することができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、食品の「シャキシャキ感」及び「サクサク感」などの食感を正確に測定することを可能とする方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の食品の食感測定装置の一例を示す構成図である。図1に示す食品の食感測定装置10は、注射器11と、この注射器11の内管11Aの先端部に設けられた、側面に溝部12Aを有するプローブ12と、注射器11及びプローブ12間に設けられた圧電素子13とを具えている。また、注射器11の後方には水槽15が設けられており、水槽15中の水をポンプ16を介して注射器11内に送り込み、注射器11の内管11Aを外管11Bに対して前記水の圧力によって下降させ、プローブ12を食品S中に挿入できるように構成されている。また、プローブ12の食品Sに対する挿入によって得た振動に対して、以下に詳述するような解析処理を行うためのコンピュータ14が設けられている。
【0025】
なお、プローブ12の形状は、円柱又は多角形の断面を有する角柱などから構成することができる。その他、プローブ12は、円錐、三角錐、及び四角錘などの部材から構成することもできる。また、その大きさは、以下に示す食感測定方法において、食感を測定すべき食品の種類などに応じて十分な大きさの振動が得られ、十分な大きさの波形データを得て、以下に示すフィルタリング処理を経ることによって得た振動データに基づいて、前記食品の食感を正確に測定できるように設定する。
【0026】
また、プローブ12の側面に設けた溝部12Aは、前記同様に、食感を測定すべき食品の種類などに応じて十分な大きさの振動が得られ、フィルタリング処理を通じた振動データに基づいて前記食品の食感を正確に測定できるように設けられているものであり、図示のように側面の全体に設けることもできるが、前記側面の一部に設けることもできるし、前記溝部を全く設けないようにすることもできる。
【0027】
但し、水分量の多い食品の食感を測定するに際しては、プローブ12の側面に溝部を設けないと、十分な大きさの振動を得ることができずに、正確な食感の測定ができない場合があるので、このような場合において、プローブ12の側面の少なくとも一部に溝部を設けることが好ましい。
【0028】
次に、図1に示す装置10を用いた食品の食感測定方法について説明する。最初に、水槽15からポンプ16によって注射器11内に水を送り込み、先端部においてプローブ12が取り付けられた内管11Aを下降させ、食品S中に挿入させる。このときの挿入速度は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1mm/秒〜400mm/秒に設定する。この場合、食品S中の水分の多少に拘わらず、十分な大きさの振動を得ることができ、十分な大きさの波形データを得て、以下に示すフィルタリング処理を経ることによって得た振動データに基づいて、前記食品の十分正確な食感の測定を行うことができるようになる。
【0029】
プローブ12を食品S中に挿入させると、プローブ12が食品S中の細胞や繊維などと接触し、あるいはそれらを破壊することによって、プローブ12が振動するようになる。本発明においては、このような振動を圧電素子13によって取得し、電気信号に変換した後、コンピュータ14に送信する。
【0030】
コンピュータ14においては、前記振動に関する前記電気信号から、前記振動を波形データとして図2に示すように表示する。前記波形データは、図2に示すスケールから明らかなように、横軸に時間軸をとり、縦軸に振幅(電圧値)をとることによって表され、時間に対する電圧信号として表される。また、この波形データは、食品としてネギを採用した場合のものを示している。この場合、プローブ12が食品であるネギ中に挿入された時刻は、測定開始後約0.8秒であり、プローブ12は前記食品(ネギ)中を通過して、1.12秒後に停止した。また、プローブ12の挿入速度は24mm/秒とし、挿入距離は約9mmとした。
【0031】
図2から明らかなように、測定開始から約0.8秒のプローブ12が食品中に挿入されるまでと、プローブ12が停止した1.12秒後において、交流電源に起因した周期60Hzの電源ノイズが観察される。したがって、本例においては、食品の食感をより正確に測定するために、前記電源ノイズを以下の手段に従って除去する。
【0032】
データのサンプリングを例えば100kHzのサンプリング周波数で実施した場合、60Hzのノイズを除去するためには、以下のようにして実施する。今の場合、信号取得時間は1.12−0.8=約0.312秒であるので、例えば60Hzの3波長分のデータ(データ数にして5000点相当)を交流電源ノイズ要素とし、これを複数に亘って反復、すなわち、つなぎ合わせることによって、前記信号取得時間分よりも長時間化し、得られた反復ノイズデータを交流電源ノイズとして、上述した波形データから差し引く。これによって、上述した波形データから前記電源ノイズを除去することができる。
【0033】
但し、上記内容はあくまで一例であって、サンプリング周波数も任意に設定することができ、交流電源ノイズ要素も任意に設定することができる。また、上記方法とは全く異なる方法で電源ノイズを除去するようにすることもできる。
【0034】
このようにしてノイズデータを得た後、このノイズデータを図2に示す波形データから差し引くと、測定開始から約0.8秒までの周期的な電源ノイズと約1.12秒後の周期的な電源ノイズを除去することができるようになる。このようにして電源ノイズを除去した後の波形データを図3に示す。図3においては、測定開始から約0.8秒までの周期的な電源ノイズと約1.12秒後の周期的な電源ノイズとがほぼ完全に除去されていることから、この間の波形データからも周期的な電源ノイズが除去されていることが分かる。
【0035】
次に、図3に示す波形データからサンプリングを行い、得られた振動データに基づいて食品の食感測定を行う。上述したように、サンプリング周波数を100kHzとすると、上述したように信号取得時間が約0.312秒であるから、得られる振動データ数は100000×0.312=31200個となる。この限られた振動データ数中には様々な周波数成分が含まれており、通常のフーリエ解析を行った場合、解像度が劣化するとともに、周波数成分に上限が生じるようになる。
【0036】
一方、一般人、特に若年者では、20000Hz周波数の程度までの音を検知することができるので、0〜20000Hzまでの周波数帯域における振動データに基づいて食品の食感を測定するに際しては、40000個以上の振動データが必要となる。したがって、このような広範の周波数帯域を利用し、得られる振動データの高周波成分が除かれないようにするとともに、十分高い解像度の食感データを得るには、上記31200個の振動データでは少ないことが分かる。
【0037】
かかる観点より、本例では、図3に示す波形データにフィルタリング処理を施し、複数の周波数帯域に対応した波形データを得るようにしている。本例では、前記フィルタリング処理として、以下に示す周波数帯域のフィルターをそれぞれ用いた。
周波数帯域(Hz) 0〜50
50〜100
100〜200
200〜400
400〜800
800〜1600
1600〜3200
3200〜6400
6400〜12800
12800〜25600
【0038】
図4(a)〜(j)は、上述のようにして得た各周波数帯域での波形データを示したものである。このように、上述したフィルタリング処理を施すことにより、図3でしめされた単一の波形データから複数の波形データ(本例では10個の波形データ)を得ることができるようになる。
【0039】
なお、上記周波数帯域の決定はオクターブ単位で実施している。これは、人の知覚が高周波数成分に対するほど鈍感になって捉えられにくくなる傾向があることを参考にして、人の知覚劣化を補正する観点からオクターブ単位での周波数帯域における振動データを得るようにしたものである。このようにオクターブ単位でのフィルタリング処理という指針が与えられることにより、前記フィルタリング処理を簡易に行うことができ、目的とする食品の食感をより簡易に計測することができるようになる。
【0040】
また、図4に示す波形データは、上述したネギに代えてダイコンを使用したものである。
【0041】
さらに、本発明では、上述したオクターブ単位での周波数帯域に代えて1/2オクターブ単位での周波数帯域を用いてフィルタリング処理することもできる。この場合に用いる周波数帯域(Hz)は以下に示すようなものである。
周波数帯域(Hz) 0〜50
50〜100
100〜140
140〜200
200〜280
280〜400
400〜560
560〜800
800〜1120
1120〜1600
1600〜2240
2240〜3200
3200〜4480
4480〜6400
6400〜8960
8960〜12800
12800〜17920
17920〜25600
【0042】
図5(a)〜(r)は、上述のようにして得た各周波数帯域での波形データを示したものである。このように、上述したフィルタリング処理を施すことにより、図3でしめされた単一の波形データから18個の波形データを得ることができるようになる。
【0043】
なお、このような1/2オクターブ単位での周波数帯域を用いる理由についても、オクターブ単位での周波数帯域を用いる場合と同じであるが、1/2オクターブ単位での周波数帯域を用いたフィルタリング処理では、オクターブ単位での周波数帯域を用いたフィルタリング処理よりもより多くの波形データを得ることができるので、食感測定をより高解像度で行うことができるようになる。
【0044】
なお、図5に示すデータは、上記同様にネギに関するものである。
【0045】
次に、図4及び図5に示す波形データから食感を測定するための数値データを得る。図4及び図5から明らかなように、波形データは、0Vを中心にプラスとマイナスとに分布しているので、図4及び図5に示す波形データを単に時間に対して積分したのみでは得られる数値データ、すなわち振動データが0となってしまう。そこで、本例(本発明)では、図4及び図5に示す波形データを二乗した後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、次いで、得られた積算値の平方根を採った後、前記時間幅で除することによって前記波形データに関する振動データを得るようにしている。
【0046】
また、上記に代えて、図4及び図5に示す波形データの絶対値を採った後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、次いで、前記時間幅で除することによって前記波形データに関する振幅データを得ることもできる。
【0047】
本例(本発明)では上記いずれの方法も有効であるが、後者の方法においてより正確に食感を測定できる場合が多い。
【0048】
本例(本発明)では、前記振動データは単位時間当たりにおいて、前記波形データの振幅に関するデータとして得られるので、前記振動データを(単位時間当たりの)振幅密度と称している。なお、図6においては、上述した演算過程を図を用いて経時的に示したものである。また、振幅密度を用いた食品の食感測定は、以下の実施例において詳述する。
【0049】
本例では、フィルタリング処理を0〜25600Hzの周波数帯域間で実施しているが、この場合、ほぼ総ての食品において、「シャキシャキ感」や「サクサク感」に基づいた特徴的な振動データ(単位時間当たりの振幅密度)を得ることができる。
【0050】
また、前記振幅密度を得るに際し単位時間を1秒としているが、前記単位時間は1秒に限られるものではなく、100μm/プローブ12の挿入速度以上とすれば十分である。これは、例えば水分を多量に含む果実などの食品においては、細胞の平均的な大きさが約100μmであるので、前記大きさをプローブ12の挿入速度で除した時間よりも前記単位時間が短い場合は、プローブ12が食品中の細胞などに接触し、あるいは破壊したりせずに、結果として図2に示すような波形データを得ることができない場合があるからである。
【0051】
しかしながら、上述したように、プローブ12の好ましい挿入速度が0.1mm/秒〜400mm/秒であり、この場合100μm/プローブ12の挿入速度=2.5×10−4〜1秒となることから、本発明においては、特に単位時間を1秒とすれば、この間にプローブ12は食品内の1個以上の細胞を破壊したりすることになるので、上述した波形データ、すなわち振幅密度は前記食品の食感を十分に反映したものとなる。
【実施例】
【0052】
上述した本発明の食感測定装置及び食感測定方法を用いて、上述したようなネギの食感試験と、同じ条件でダイコンの食感試験とを実施した。ネギ及びダイコンについて、上述したような手順で波形データを得るとともに、ノイズ除去及びフィルタリグ処理を行い、さらに前記演算処理を通じて得た振幅密度を縦軸に取るとともに、フィルタリング処理を実施した際の、各周波数帯域を横軸に取ったものを図7及び図8に示した。
【0053】
なお、図7はフィルタリング処理をオクターブ単位での周波数帯域を用いて実施した場合であり、図8はフィルタリング処理を1/2オクターブ単位での周波数帯域を用いて実施した場合である。
【0054】
図7及び図8から明らかなように、ネギとダイコンとを比較すると、全体的にネギの方が振幅密度が高い。これは、ダイコンよりネギの方がその細胞などを破壊するに対してより大きなエネルギーが必要であることに対応している。また、ネギにおいては、400−25600Hzにおける振幅密度が高くなっており、これがネギに特徴的な食感、いわゆるシャキシャキ感を表していると考えられる。
【0055】
このように、本例(本発明)によれば、ネギ及びダイコンの食感をデータによって数値化して測定できることが分かる。
【0056】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の食品の食感測定装置の一例を示す構成図である。
【図2】図1に示す装置を用いて得た、電源ノイズ除去前の波形データの一例を示すグラフである。
【図3】図2に示す波形データより、電源ノイズを除去した後の波形データの一例を示すグラフである。
【図4】図3に示す波形データをフィルタリング処理して得た、各周波数帯域における波形データの一例を示すグラフである。
【図5】同じく、図3に示す波形データをフィルタリング処理して得た、各周波数帯域における波形データの一例を示すグラフである。
【図6】図4及び図5に示す波形データから単位時間当たりの振幅密度を得る演算過程を示すグラフである。
【図7】ネギ及びダイコンの振幅密度を各周波数帯域に対してプロットして得たグラフである。
【図8】同じく、ネギ及びダイコンの振幅密度を各周波数帯域に対してプロットして得たグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 食品の食感測定装置
11 注射器
12 プローブ
13 圧電素子
14 コンピュータ
15 水槽
16 ポンプ
S 食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定すべき食品に所定の挿入速度でプローブを挿入し、その際に発生する振動を取得する工程と、
前記振動に関する波形データをフィルタリング処理し、複数の周波数帯域における波形データを得る工程と、
前記周波数帯域それぞれに対応した前記波形データに関する、単位時間当たりの振幅密度を得、前記食品の食感を各周波数帯域における前記振幅密度から測定する工程と、
を具えることを特徴とする、食品の食感測定方法。
【請求項2】
前記プローブの前記挿入速度は、0.1mm/秒〜400mm/秒であることを特徴とする、請求項1に記載の食品の食感測定方法。
【請求項3】
前記フィルタリング処理は、前記波形データをオクターブ単位での周波数帯域において得るように実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の食品の食感測定方法。
【請求項4】
前記フィルタリング処理は、前記波形データを1/2オクターブ単位での周波数帯域において得るように実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の食品の食感測定方法。
【請求項5】
前記フィルタリング処理は、0〜25600Hzの周波数帯域間で行うことを特徴とする、請求項3又は4に記載の食品の食感測定方法。
【請求項6】
前記振幅密度を得るための前記単位時間は、100μm/前記挿入速度以上の大きさに設定することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項7】
前記単位時間は1秒であることを特徴とする、請求項5に記載の食品の食感測定方法。
【請求項8】
前記振幅密度は、前記波形データの絶対値を得た後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、得られた積算値を前記時間幅で除することによって得ることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項9】
前記振幅密度は、前記波形データを二乗した後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、得られた積算値の平方根を採った後、前記時間幅で除することによって得ることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項10】
前記フィルタリング処理前の前記波形データから、電源ノイズを除去する工程を具えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項11】
前記電源ノイズの除去は、電源ノイズ要素を複数に亘って反復し、前記振動の取得時間以上の長さとして反復ノイズデータを得た後、前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引くようにして行うことを特徴とする、請求項10に記載の食品の食感測定方法。
【請求項12】
前記電源ノイズは交流電源ノイズであるとともに、前記電源ノイズ要素は前記交流電源ノイズが整数個の波を含む時間分の交流電源ノイズ要素であって、前記交流電源ノイズ要素を複数に亘って反復することにより、前記反復ノイズデータを得た後、前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引くことを特徴とする、請求項11に記載の食品の食感測定方法。
【請求項13】
前記振動に関する前記波形データは、前記プローブに隣接して設けた機械的電気信号変換素子によって取得することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項14】
前記振動を取得するためのサンプリング速度が100kHz以上であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項15】
前記プローブは、円柱または多角形の断面を持つ角柱であり、その側面の一部あるいは全てに、溝部を有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項16】
前記プローブは、円柱または多角形の断面を持つ角柱であり、その側面において溝部を全く有しないことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項17】
前記食品の食感は、前記食品のシャキシャキ感又はサクサク感であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項18】
測定すべき食品に所定の挿入速度で挿入し、所定の振動を発生させるためのプローブと、
前記振動を取得するための振動取得手段と、
前記振動に関する波形データに対してフィルタリング処理を施し、複数の周波数帯域における波形データを得るためのフィルタリング手段とを具え、
前記周波数帯域それぞれに対応した前記波形データに関する、単位時間当たりの振幅密度を得、前記食品の食感を各周波数帯域における前記振幅密度から測定するように構成したことを特徴とする、食品の食感測定装置。
【請求項19】
前記プローブの前記挿入速度は、0.1mm/秒〜400mm/秒に設定したことを特徴とする、請求項18に記載の食品の食感測定装置。
【請求項20】
前記フィルタリング手段において、前記フィルタリング処理は、前記波形データをオクターブ単位での周波数帯域において得るように実行することを特徴とする、請求項18又は19に記載の食品の食感測定装置。
【請求項21】
前記フィルタリング処理は、前記波形データを1/2オクターブ単位での周波数帯域において得るように実行することを特徴とする、請求項18又は19に記載の食品の食感測定装置。
【請求項22】
前記フィルタリング処理は、0〜25600Hzの周波数帯域間で行うことを特徴とする、請求項20又は21に記載の食品の食感測定装置。
【請求項23】
前記振幅密度を得るための前記単位時間は、100μm/前記挿入速度以上の大きさに設定することを特徴とする、請求項18〜22のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項24】
前記単位時間は1秒であることを特徴とする、請求項23に記載の食品の食感測定装置。
【請求項25】
前記振幅密度は、前記波形データの絶対値を得た後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、得られた積算値を前記時間幅で除することによって得るようにしたことを特徴とする、請求項18〜24のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項26】
前記振幅密度は、前記波形データを二乗した後、前記波形データの時間幅に亘って積算し、得られた積算値の平方根を採った後、前記時間幅で除することによって得るようにしたことを特徴とする、請求項18〜24のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項27】
前記フィルタリング処理前の前記波形データから、電源ノイズを除去する電源ノイズ除去手段を具えることを特徴とする、請求項18〜26のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項28】
前記電源ノイズ除去手段において、前記電源ノイズの除去は、電源ノイズ要素を複数に亘って反復し、前記振動の取得時間以上の長さとして反復ノイズデータを得た後、前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引くようにして行うことを特徴とする、請求項27に記載の食品の食感測定装置。
【請求項29】
前記電源ノイズは交流電源ノイズであるとともに、前記電源ノイズ要素は前記交流電源ノイズが整数個の波を含む時間分の交流電源ノイズ要素であって、前記交流電源ノイズ要素を複数に亘って反復することにより、前記反復ノイズデータを得た後、前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引くことを特徴とする、請求項28に記載の食品の食感測定装置。
【請求項30】
前記振動取得手段は、前記プローブに隣接して設けた機械的電気信号変換素子であることを特徴とする、請求項18〜29のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項31】
前記振動取得手段において、前記振動を取得するためのサンプリング速度が100kHz以上であることを特徴とする、請求項18〜30のいずれか一に記載の食品の食感測定方法。
【請求項32】
前記プローブは、円柱または多角形の断面を持つ角柱であり、その側面の一部あるいは全てに、溝部を有することを特徴とする、請求項18〜31のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項33】
前記プローブは、円柱または多角形の断面を持つ角柱であり、その側面において溝部を全く有しないことを特徴とする、請求項18〜31のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項34】
前記食品の食感は、前記食品のシャキシャキ感又はサクサク感であることを特徴とする、請求項18〜33のいずれか一に記載の食品の食感測定装置。
【請求項35】
測定すべき食品に所定の挿入速度でプローブを挿入し、その際に発生する振動に関する波形データから前記食品の食感を測定する際の電源ノイズ除去方法であって、
電源ノイズ要素を複数に亘って反復し、前記振動の取得時間以上の長さとして反復ノイズデータを得る工程と、
前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引く工程と、
を具えることを特徴とする、電源ノイズ除去方法。
【請求項36】
前記電源ノイズは交流電源ノイズであるとともに、前記電源ノイズ要素は前記交流電源ノイズが整数個の波を含む時間分の交流電源ノイズ要素であって、前記交流電源ノイズ要素を複数に亘って反復することにより、前記反復ノイズデータを得た後、前記波形データから前記反復ノイズデータを差し引くことを特徴とする、請求項35に記載の電源ノイズ除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−57476(P2007−57476A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245956(P2005−245956)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】