説明

食品加工廃水の処理材および食品加工廃水の処理方法

【課題】効果的に食品加工廃水中の有機物を固定化除去でき、しかも、その固定化速度が迅速であり、悪臭の消臭効果も付与できる食品加工廃の処理材を提供する。
【解決手段】カルシウムアルミネート化合物を含有する食品加工廃水の処理材であり、カルシウムアルミネート化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm/g以上であることを特徴とする前記食品加工廃水の処理材であり、カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.5〜3であることを特徴とする前記食品加工廃水の処理材であり、さらに、水酸化アルシウムを含有する前記食品加工廃水の処理材であり、前記食品加工廃水の処理材を用いることを特徴とする食品加工廃水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、食品加工廃水の処理材および食品加工廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が顕在化している。中でも、食品加工廃水は生活に密着したものであり、その発生そのものを規制できないことから、その処理方法の改善が求められている。食品加工廃水とは、食肉加工廃水、水産加工廃水、給食廃水、パン・菓子製造廃水、弁当加工廃水等を総称するものである。これらの食品加工廃水には、油脂やタンパク質、血液成分などの有機物が多く含まれる。水質汚染のみならず、悪臭の原因ともなるため、その対策が強く求められている現状にある。
【0003】
食品加工廃水の処理方法としては、凝集剤を用いる方法(特許文献1)や処理装置を用いる方法(非特許文献1)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−297238号公報
【非特許文献1】http://brator.sinto.co.jp/WTSHOKUHIN.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の凝集剤を用いる方法では、十分に食品加工廃水の処理ができないものであった。具体的には、油脂やタンパク質、血液成分などの有機物を十分なレベルまで低減できなく、さらに、悪臭を防止できるものでもなかった。また、処理装置を利用する方法では、高額な装置を購入する必要があり、経済的に余裕のある大企業では対応できるものの、一般の食品加工工場では装置の導入が難しいため、有益な方法とはなっていないのが実状である。今日では、効果的で経済性に富む食品加工廃水の処理方法の開発が強く待たれている。さらに、廃水の悪臭も消臭効果のある食品加工廃水の処理方法の開発が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意努力を重ね、種々の実験検討を通して、前記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、カルシウムアルミネート化合物を含有する食品加工廃水の処理材であり、カルシウムアルミネート化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm/g以上であることを特徴とする前記食品加工廃水の処理材であり、カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.5〜3であることを特徴とする該食品加工廃水の処理材であり、さらに、水酸化アルシウムとを含有する前記食品加工廃水の処理材であり、前記食品加工廃水の処理材を用いることを特徴とする食品加工廃水の処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の食品加工廃水の処理材は、排水中のあらゆる成分を効果的に低減でき、また、その固定化速度も迅速である。さらに、悪臭の消臭効果も付与できなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0010】
本発明の食品加工廃水の処理材に係るカルシウムアルミネート化合物とは、CaOとAlを主体とする化合物を総称するものであり、特に限定されるものではなく、その具体例としては、CaOをC、AlをA、アルカリ金属元素をRと表記すると、CA(CaO・2Al)、CA(CaO・Al)、C12(12CaO・7Al)、C11・CaF(11CaO・7Al・CaF)、CA(3CaO・Al)、3CaO・3Al・CaSO4などの結晶性の化合物、CR(8CaO・3Al・RO)、C14R(14CaO・5Al・RO)、C(3CaO・5Al・2RO)などのRO成分を含む結晶性のCaO−Al−RO系化合物や、CaOとAlを主成分とする非晶質の化合物などが挙げられる。
【0011】
本発明の食品加工廃水の処理材に係るカルシウムアルミネート化合物を工業的に得る場合、不純物が含まれることがあるが、その種類及び含有量は、本発明を阻害しない範囲内であれば特に制限されるものではない。その具体例としては、Fe、SiO、MgO、TiO、P、ClおよびBなどが挙げられる。
【0012】
カルシウムアルミネート化合物に前記不純物が含まれる場合、化合物としては、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・2Feなどのカルシウムアルミノフェライト、2CaO・FeやCaO・Feなどのカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al・SiOやアノーサイトCaO・Al・2SiOなどのカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiOやアケルマナイト2CaO・MgO・2SiOやモンチセライトCaO・MgO・SiOなどのカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiOやダイカルシウムシリケート2CaO・SiOやランキナイト3CaO・2SiOやワラストナイトCaO・SiOなどのカルシウムシリケートなどが混在する場合がある。これらの化合物は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲であれば混在していてもよい。
【0013】
本発明の食品加工廃水の処理材に係るカルシウムアルミネート化合物は、CaO/Alのモル比が0.5〜3の範囲とすることが好ましく、1〜2がより好ましい。CaO/Alのモル比が0.5未満では、食品加工廃水中の成分の除去スピードが充分でない場合があり、3を超えると液相中でのカルシウムアルミネート化合物の分散が悪くなる傾向にあり、効率良く食品加工廃水中の成分を除去できない場合がある。
【0014】
本発明の食品加工廃水の処理材に係るカルシウムアルミネート化合物の粉末度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積で3000cm/g以上が好ましく、4000〜8000cm/g以上がより好ましい。カルシウムアルミネート化合物の粉末度が3000cm/g未満では、食品加工廃水中の成分の固定化・除去速度が遅くなり、効率が悪くなる場合がある。8000cm/gを超えても更なる効果の向上が期待できず、また、粉体が二次凝集して廃水中での分散性が悪くなり、処理効果が低下する傾向を示す場合もある。
【0015】
本発明の水酸化カルシウムとは、特に限定されるものではない。Ca(OH)と表される化合物を総称するものである。その不純物も環境に有害なものを含まなければ特に限定されるものではない。Ca(OH)含有量で80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。不純物としては、炭酸カルシウムや酸化カルシウムを含む場合がある。
【0016】
水酸化カルシウムの比表面積は特に限定されるものではないが、通常、BET比表面積で2m/g以上が好ましく、5m/g以上がより好ましい。水酸化カルシウムのBET比表面積が2m/g未満であると、カルシウムアルミネート化合物との相互作用が弱くなる傾向にあり、食品加工廃水中の成分の除去スピードが十分でなくなる場合がある。
【0017】
水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、水酸化カルシウムとカルシウムアルミネート化合物からなる食品加工廃水の処理材のCaO/Alのモル比が1〜6の範囲となるように配合することが好ましく、3〜5の範囲となるように配合することがより好ましい。
【0018】
本発明では、食品加工廃水の処理材に係るカルシウムアルミネート化合物の他に、モンモリロナイトやカオリナイトなどに代表される層状化合物であるベントナイト類、クリノプチロライトやモルデナイトに代表されるゼオライト類、セピオライト、アパタイトやリン酸ジルコニウムなどのリン酸塩、ハイドロタルサイト類、活性炭、多硫化物や硫化物やチオ硫酸塩類や亜硫酸塩類などのイオウ化合物、アマルガム、硫酸第一鉄や塩化第一鉄などの鉄化合物、セルロース類、ポリビニルアルコール、キトサンなどの水溶性高分子類、ジアルキルジチオカルバミン酸類、キノリン化合物類、ポリアミン類、および糖類などの公知の有害物質低減材料を1種または2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明に用いる食品加工廃水の処理材の形態は、特に限定されるものではなく、溶液状態、粉末、顆粒状、ペレット、カラム、およびフィルターなどのいずれの形態であってもよい。また、液状や粉末状や顆粒状の物質を汚水中に投入し、固液分離してもよく、水和物のカラムやフィルターとして、食品加工廃水を通水させてもよい。
【0020】
食品加工廃水の処理材の使用量は、廃水中の各成分の濃度や廃水の種類によって異なるため、一義的に決定されるものではないが、通常、食品加工廃水1000ccあたり、0.5〜1000gが好ましく、1〜500gがより好ましい。0.5g未満では、処理効果が充分でない場合があり、1000gを超えて使用しても更なる効果の増進が期待できず不経済である。
【0021】
本発明の食品加工廃水の処理材は、いずれの食品加工廃水にも有効であるが、廃水の溶媒が水であることが必要である。
【実施例】
【0022】
「実施例1」
水酸化カルシウムと各種のカルシウムアルミネート化合物を表1に示すモル比で配合して食品加工廃水の処理材とした。この食品加工廃水の処理材5gを食品加工廃水の1000ccに入れて攪拌し、15分後および3時間後に食品加工廃水の処理効果を確認した。また、悪臭の有無についても確認した。なお、比較のために、市販の吸着材を用いた場合についても同様に行った。結果を表1に併記した。
【0023】
<使用材料>
水酸化カルシウム:市販の消石灰、BET比表面積5m/g。
カルシウムアルミネート化合物(1):1モルの炭酸カルシウムと1モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1500℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。CaO・Alを主体、ブレーン比表面積5000cm/g。
カルシウムアルミネート化合物(2):12モルの炭酸カルシウムと7モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。結晶質の12CaO・7Alを主体、ブレーン比表面積5000cm/g。
カルシウムアルミネート化合物(3):3モルの炭酸カルシウムと1モルの酸化アルミニウムを混合粉砕し、1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。3CaO・Alを主体、ブレーン比表面積5000cm/g。カルシウムアルミネート化合物(4):カルシウムアルミネート化合物(2)の結晶質の12CaO・7Alにシリカを3%添加し、1650℃で溶融した後、急冷して合成した非晶質の12CaO・7Al。ブレーン比表面積5000cm/g。
カルシウムアルミネート化合物(5):1モルの炭酸カルシウムと2モルの酸化アルミニウムとを混合粉砕し、1500℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。CaO・2Alを主体、ブレーン比表面積5000cm/g。
処理材イ:市販の硫酸アルミニウム
処理材ロ:市販のゼオライト
食品加工廃水:食肉加工廃水、BOD(生物化学的酸素要求量)…1000mg/l、COD(化学的酸素要求量)…400mg/l、n−H(ノルマルヘキサン抽出物質含有量)…50mg/l
【0024】
<測定方法>
食品加工廃水の処理効果:処理材で処理する前の液相の全炭素量と、処理材で処理後の液相の全炭素量を有機全炭素分析装置(TOC)で定量した。処理前の液相の全炭素濃度を100%とした時の、処理後の液相の全炭素濃度の相対値から、有機分が99.9%以上低減された場合は◎、90%以上低減されたが99.9%まで低減できなかった場合を○、70%以上低減されたが89.9%まで低減できなかった場合を△、70%まで低減されなかった場合を×とした。
悪臭の有無:処理前と変わらなく悪臭がひどい場合は×、改善効果は認められるものの、悪臭が認められる場合は△、悪臭が全く認められない場合は○とした。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、本発明により、食品加工廃水中の有機物が著しく低減することが判る。また、CaO/Alモル比が0.5〜6にある本願発明の処理材は食品加工廃水に有効で、特に、CaO/Alモル比が3〜5にある処理材は効率良く食品加工廃水中の有機物を固定化除去することが判る。そして、悪臭の消臭効果にも優れていることがわかる。
【0027】
「実施例2」
処理材としてカルシウムアルミネート化合物(4)を使用し、ブレーン比表面積を表2に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から、本発明により、食品加工廃水中の有機物が著しく低減することが判る。また、カルシウムアルミネート化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm/g以上であることが好ましいことが判る。
【0030】
「実施例3」
処理材としてカルシウムアルミネート化合物(4)を使用し、食品加工廃水1000ccに対する使用量を表3に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3から、本発明により、食品加工廃水中の有機物が著しく低減することが判る。また、処理材の使用量が所定量で効果が上がることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の食品加工廃水の処理材および食品加工廃水の処理方法により、効果的に食品加工廃水中の有機物を固定化除去でき、しかも、その固定化速度が迅速であるため、食品加工廃水の処理用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート化合物を含有する食品加工廃水の処理材。
【請求項2】
カルシウムアルミネート化合物の粉末度がブレーン比表面積で3000cm/g以上であることを特徴とする請求項1記載の食品加工廃水の処理材。
【請求項3】
カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比が0.5〜3であることを特徴とする請求項1または2の食品加工廃水の処理材。
【請求項4】
さらに、水酸化カルシウムを含有する請求項1〜3のいずれか一項記載の食品加工廃水の処理材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の食品加工廃水の処理材を用いることを特徴とする食品加工廃水の処理方法。

【公開番号】特開2008−259957(P2008−259957A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104328(P2007−104328)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】