説明

食品品質評価方法、食品品質評価表示方法、食品品質評価装置及び食品品質評価表示装置

【課題】 食品の原料となった生物の生息時の健全性を評価して食品の品質の指標とする食品品質評価方法・装置とその結果の表示方法・表示装置。
【解決手段】 食品の原料となった生物の特定代謝酵素、例えばチトクロムP450−1Aの活性度を計測し、計測された特定代謝酵素の活性度に基づいてその食品の品質を評価する食品品質評価方法とそれを実行するための食品品質評価装置であり、特定代謝酵素により産生された蛍光物質を励起する波長の照射光を食品の原料となった生物のサンプル14に照射する照射光照射手段12、13と、蛍光物質からの蛍光光強度変化を検出する蛍光光強度検出手段17、18とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品品質評価方法、食品品質評価表示方法、食品品質評価装置及び食品品質評価表示装置に関し、特に、食品の原料となった生物の生息時の健全性を評価して食品の品質の指標とする食品品質評価方法・装置とその結果の表示方法・表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、食品の品質について現代社会が求める新しい評価方法とその結果の表示方法を提供するためになされたもので、現代社会が、食品の品質や安全について従来の評価方法では評価し切れていないという不安をいだいていることに鑑みてなされたものである。
【0003】
食品は、加工されたものであってもその原料はほとんど全てが生物由来であることから、原料となった生物が生息していた期間においてその生物が健康であれば、食品原料として望ましい。そこで、原料となった生物の生息時の健全性を評価できる技術が必須である。
【0004】
また、計測した結果を消費者に正確に伝達すると共に、消費者が購入の際に商品の品質の優劣を判断できる根拠となるような表示の方法、提供の方法が必要となる。
【0005】
ところで、代謝酵素チトクロムP450−1Aのような代謝酵素の存在自体の検知に関しては、光ファイバを介してその酵素又はその酵素との反応によって発生した物質からの反射光、散乱光、透過光、蛍光光を取得し、その光信号によってその代謝酵素の活性を検出する光ファイバセンサが特許文献1により提案されている。
【特許文献1】特開平9−276275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、食品の原料となった生物の生息時の健全性を評価して食品の品質の指標とする食品品質評価方法・装置とその結果の表示方法・表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の食品品質評価方法は、食品の品質の評価方法であって、原料となった生物の特定代謝酵素の活性度を計測し、計測された前記特定代謝酵素の活性度に基づいて該食品の品質を評価することを特徴とする方法である。
【0008】
この場合に、特定代謝酵素の活性度として、例えばチトクロムP450の特定の群の酵素活性を利用することができる。
【0009】
また、このような食品品質評価方法によって得られた品質評価データーを対象食品に添付することで、食品品質評価表示方法を行うことができる。その場合、例えば、品質評価データーは、コード化、暗号化、若しくは、そのままの状態で原料となった生物を用いている商品に添付される媒体に表示することができる。
【0010】
さらに、このような食品品質評価表示方法により商品に添付された品質評価データーを読み出して表示する食品品質評価表示装置を構成することもできる。
【0011】
また、本発明の食品品質評価装置は、食品の原料となった生物の特定代謝酵素の活性度を計測し、計測された前記特定代謝酵素の活性度に基づいて該食品の品質を評価する食品品質評価方法を実行するための食品品質評価装置であって、
前記特定代謝酵素により産生された蛍光物質を励起する波長の照射光を食品の原料となった生物のサンプルに照射する照射光照射手段と、前記蛍光物質からの蛍光光強度変化を検出する蛍光光強度検出手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この場合に、照射光照射手段と蛍光光強度検出手段が光ファイバセンサからなるようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食品品質評価方法、食品品質評価表示方法、食品品質評価装置及び食品品質評価表示装置によると、生産現場では、まじめに育成に取り組んで健康な生産を行っている生産者に正当な評価を与えることができる。市場や流通、一般消費者においては、科学的根拠に基づいた品質の評価が可能になり、市民の健康増進に寄与し、国民の体力の向上につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
前記したように、食品は、加工されたものであってもその原料はほとんど全てが生物由来であることから、原料となった生物が生息していた期間においてその生物が健康であれば、食品原料として望ましいと言える。そこで、原料となった生物の生息時の健全性を評価し、この評価値をもって食品の品質の指標とすることができる。これが本発明の食品品質評価方法の原理である。
【0015】
すなわち、その生物が粗悪な生育環境におかれたとき、若しくは、健康を損ねる薬品の投与や毒物の侵入を受けたときに、その生物中に特有の代謝酵素が発現される。そこで、その代謝酵素の活性度を計測したときに、測定値が低い値を持つということは、逆に対象となった生物が健康な状態であることを意味する。この事実をもってその食品の品質が高いと評価することができる。
【0016】
例えば、代謝酵素チトクロムP450−1A(以下、CYP1Aと略す。)は、生物が毒物に接触したとき、飢餓状態におかれたとき、あるいは、強いストレス状態におかれたときにその生物内に発現することが知られている。これら代謝酵素が発現される条件は生育環境としては決して望ましいとは言えないものであり、その生物が健康を害していることが予想され、このような条件で生育された生物は食品の材料としてはふさわしくないと考えられる。
【0017】
そこで、このような代謝酵素の発現状態若しくは活性度を定量的に測定し、その測定結果が高い活性状態であることを示していれば、上記のような悪い環境で生育されたものであり、健康を害していた可能性があり、食品としてふさわしくないと評価できる。
【0018】
逆に、その測定結果から活性度が低ければ、優れた生育環境で育成され、健康であることを意味する。したがって、この酵素の活性を測定して、食品となった生物の健全性を評価できる。
【0019】
これまで、健康な生物を食品とすることは一般市民感情として当然のことと理解されてきたが、その健康さを科学的に証明する手段がなかった。例えばこのチトクロムP450−1Aの発現状況を利用する評価方法は十分に科学的根拠があり、本発明に基づいて新しい食品の品質評価技術と表示方法が提供される。
【0020】
図1に、本発明の食品品質評価方法において用いる光ファイバ型酵素活性センサの基本構成を説明する。光ファイバ酵素活性センサ11は、光ファイバ13を経て検査部位14に光源12から励起光15を導き、さらに、そこで発生した蛍光16を光ファイバ17により光検出器18へと導く光ファイバ光学系であり、その具体例は、例えば特許文献1に詳細に示されている。この場合、光源12から所定の波長の励起光15を照射するには、単色光源を用いるか、照射光路中に波長選択光フィルタを配すればよく、また、特定波長の蛍光16の強度を光検出器18で検出するには、同様に検出光路中にその特定波長を励起波長から分ける波長選択光フィルタを配するか、あるいは、特許文献1に示されているように、波長分析器で特定波長の蛍光16の強度を検出するようにすればよい。
【0021】
次に、このような光ファイバ酵素活性センサ11を用いて酵素の活性を検出する原理を、図2を用いて説明する。いま、例えば、図2(b)の化学反応式中に化学構造を示すようなethoxyresorufinを基質(試験薬)32とすると、この基質32に特異的にCYP1Aが作用することから、図2(a)に示すように、生物内で代謝酵素31(CYP1A)が誘導されていると、図2(b)の化学反応式に示されたようなethoxyresorufin32のO−脱アルキル基反応が起こり、蛍光物質であるresorufin33が産生する。この物質33は、波長540nm付近の緑色光35により励起すると、波長590nm付近に赤い蛍光36を発するので、この蛍光36を、光ファイバ酵素活性センサとして2本の光ファイバ34、37(光ファイバ34は、図1の光ファイバ13に、光ファイバ37は光ファイバ17にそれぞれ対応する。)を用いて検出すれば、体内のCYP1Aの存在及びその濃度が分かる。
【0022】
resorufin33の濃度と図1のような光ファイバ酵素活性センサ11により検出した蛍光強度との関係を図3に示す。resorufinの濃度とそれからの蛍光強度との間に極めてよい直線性があることが分かる。つまり、検出される蛍光の強度からresorufinの濃度を定量的に測定できることを意味している。
【0023】
図4に、このような原理を利用した本発明の光センシングシステムの1例のシステム構成図を示す。
【0024】
この光センシングシステムは、計測部1と計測室部2と測定PC3とに大きく分けられており、計測部1中に、励起用光源(図1の光源12に対応)としてのHe−Ne緑色レーザ21が内蔵され、それから発振された波長543.5nmの緑色励起光は、偏向プリズム22を経て光路変換後、ビームスプリッタ23を経て、ランチャユニット24まで導かれ、そのランチャユニット24中の光軸に垂直に移動調整可能に取り付けられた集光レンズにより、光ファイバセンサ(図1の光ファイバ酵素活性センサ11に対応)25の後端のコネクタ26中の励起光導入用ファイバ(図1の光ファイバ13に対応)の入射端に位置合わせして入射される。コネクタ26に続く光ファイバセンサ25は計測室部2に配置され、その励起光導入用ファイバに入射された励起光は、光ファイバセンサ25の先端の光ファイバセンサヘッド27から射出され、例えばガラスセル10中の測定サンプルSに照射される。測定サンプルSから発せられた蛍光は、再び光ファイバセンサヘッド27に入射し、その中の蛍光検出用ファイバ(図1の光ファイバ17に対応)の入射端に入射し、計測部1内のコネクタ26まで導かれ、蛍光検出用ファイバの後端から射出され、励起光波長をカットして測定サンプルSからのピーク波長590nmの蛍光を透過させる波長選択光フィルタ28を経て、検出器42でその蛍光強度が検知される。一方、ビームスプリッタ23で反射された励起光は、検出器41でその強度が検知される。
【0025】
検出器41と検出器42からのそれぞれ励起光強度信号と蛍光強度信号とは、光パワーメータ4に入力され、そこで規格化された蛍光強度はデジタル化されて測定PC3に送られ、蛍光強度の時間変化等が測定PC3に表示、記録される。
【0026】
この蛍光強度値により測定サンプルSの食品(生物)中の特定の代謝酵素、上記ではCYP1Aの活性度が計測される。特定の代謝酵素の活性度としては、例えば蛍光強度の単位経過時間当たりの増大比(曲線の傾き)を用いる。
【0027】
代謝酵素としては、CYP1A以外の分子種も、ethoxyresorufin以外の反応試薬の使うことによってその活性度が検出される。次の表1に各CYP分子種に有効な反応試薬、代謝反応及び生成物を示した。CYP1A、CYP2B何れも生成物がresorufinであるため、反応試薬を変えるのみで、同一の光センシングシステムで計測できる。
【0028】
【表1】

なお、測定サンプルSが肉片のような固形物の場合は、ガラスセル10を用いずに光ファイバセンサヘッド27から直接その測定サンプルSに励起光を照射するようにしてもよい。
【0029】
さて、例えば市販食用牛肝臓中にチトクロムP450−1A(CYP1A)が検出され、この牛が生前、農薬、食品添加物あるいは環境汚染物質等の何らかの有害化学物質に暴露されていたことが予想される。図5は、市販食用牛肝臓中におけるCYP1Aの検出結果の1例を示す図である。市販の国産食肉牛の肝臓を3種類A,B,C購入し、その一部を任意の大きさに切り取り、肝臓中のスジや脂肪を取り除いた後、肝重量に対し3倍量のKPB緩衝液を加えてpH調整をし、ホモジナイズして肝試料を均一な状態にした後、遠心分離処理を行ったものをサンプルとして用いた。
【0030】
測定は、ガラスセル10内にサンプル、KPB緩衝液、反応補助剤NADPHを入れ、ガラスセル10の側面に、図4に示したように、光ファイバセンサヘッド27を配置し、ガラスセル10内の溶液を連続攪拌しながら行った。測定開始から1分後にethoxyresorufinを滴下し、10分間の蛍光強度の経時変化を測定した。図5はその結果であり、各サンプルA,B,Cにつき2回ずつ測定したものをそれぞれ平均化して示したグラフである。サンプル毎に違いは見られるが、サンプルにethoxyresorufin滴下直後から蛍光強度が非常に速く増加して行く様子を確認することができる。また、サンプルに応じて蛍光強度の増大比が違い、すなわち、CYP1Aの活性度の違いが明確化できる。
【0031】
さて、以上のようにして得られた例えばCYP1Aの活性度データーを、食品のトレーサビリイティ(履歴追跡)情報として記録し、また、その情報を食品に添付することで、その食品の品質評価結果を表示することができる。
【0032】
そのためには、その評価情報をコード化、暗号化、若しくは、そのままの状態で、その生物を利用して製造された商品のラベルに印刷、若しくは、ラベル以外のシール、コードパターン等として表示することで、消費者がその商品の品質の優劣を判断できる情報として商品に貼り付けて表示することができる。
【0033】
また、商品に添付されたこのような情報を電子的データーとして電子媒体や素子(チップ)等に記録保存、若しくは、読み取り可能コードとして記録、印刷することができ、さらには、そのような記録を読み出して表示することもできる。そのために、店頭等に専用の食品品質評価表示装置を設けるようにすることもできる。
【0034】
このような本発明の食品品質評価方法、食品品質評価表示方法、食品品質評価装置及び食品品質評価表示装置による波及効果は、主に3つの分野に及ぶことが予想される。1つは、酪農水産農業の生産現場である。生産現場では、特定の代謝酵素が発現していないことを立証することにより、生産品の品質を客観的に評価できる明確な基準を得たことで、まじめに育成に取り組んで健康な生物の生産を行っている生産者は、正当な評価を得ることができる。これまで、ITを活用し、育成プロセスをトレーサビリィティ情報として消費者に提供しようとしているが、その情報がどのように評価されるか不明な部分が多く、不安を与えていたが、この問題は払拭される。
【0035】
他の1つは、市場や流通での評価である。本発明に係る方法で高品質であると評価されたものと、評価を受けていないものを比較した場合、前者は有利に取引されることが期待できる。特に流通においては、値段が高くとも少しでも健康に良い食品を提供することを重視し、これをビジネスモデルとする業界があり、この分野においては、科学的根拠に基づいた品質の評価は不可欠な要素となる。
【0036】
さらに、一般消費者においても、健康な生物を食品とすることへの願望は自然な要求であり、このことが立証されている食品が提供されることへの期待感が大きく、好調な売れ行きが見込める。さらに、高品質の食品を摂取することにより市民の健康増進に寄与し、国民の体力の向上、ひいては経済力、国力の向上に寄与することが期待できる。また、市民の健康増進は現在社会的に大きな負担となっている医療費の削減にも役立ち、経済効果も大きいものがある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の食品品質評価方法において用いる光ファイバ型酵素活性センサの基本構成を説明するための図である。
【図2】光ファイバ酵素活性センサを用いて酵素の活性を検出する原理を説明するための図である。
【図3】resorufinの濃度と光ファイバ酵素活性センサにより検出した蛍光強度との関係を示す図である。
【図4】本発明に基づく光センシングシステムの1例のシステム構成図である。
【図5】市販食用牛肝臓中におけるCYP1Aの検出結果の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…計測部
2…計測室部
3…測定PC
4…光パワーメータ
10…ガラスセル
11…光ファイバ酵素活性センサ
12…光源
13…光ファイバ
14…検査部位
15…励起光
16…蛍光
17…光ファイバ
18…光検出器
21…He−Ne緑色レーザ
22…偏向プリズム
23…ビームスプリッタ
24…ランチャユニット
25…光ファイバセンサ
26…コネクタ
27…光ファイバセンサヘッド
28…波長選択光フィルタ
31…代謝酵素(CYP1A)
32…基質(試験薬:ethoxyresorufin)
33…産生物質(蛍光物質:resorufin)
34、37…光ファイバ
35…励起光
36…蛍光
41…検出器
42…検出器
S…測定サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の品質の評価方法であって、原料となった生物の特定代謝酵素の活性度を計測し、計測された前記特定代謝酵素の活性度に基づいて該食品の品質を評価することを特徴とする食品品質評価方法。
【請求項2】
前記特定代謝酵素の活性度として、チトクロムP450の特定の群の酵素活性を利用することを特徴とする請求項1記載の食品品質評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の食品品質評価方法によって得られた品質評価データーを対象食品に添付することを特徴とする食品品質評価表示方法。
【請求項4】
前記品質評価データーをコード化、暗号化、若しくは、そのままの状態で原料となった生物を用いている商品に添付される媒体に表示することを特徴とする請求項3記載の食品品質評価表示方法。
【請求項5】
請求項4に記載の食品品質評価表示方法により商品に添付された前記品質評価データーを読み出して表示することを特徴とする食品品質評価表示装置。
【請求項6】
食品の原料となった生物の特定代謝酵素の活性度を計測し、計測された前記特定代謝酵素の活性度に基づいて該食品の品質を評価する食品品質評価方法を実行するための食品品質評価装置であって、
前記特定代謝酵素により産生された蛍光物質を励起する波長の照射光を食品の原料となった生物のサンプルに照射する照射光照射手段と、前記蛍光物質からの蛍光光強度変化を検出する蛍光光強度検出手段とを備えていることを特徴とする食品品質評価装置。
【請求項7】
前記照射光照射手段と前記蛍光光強度検出手段が光ファイバセンサからなることを特徴とする請求項6記載の食品品質評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−30047(P2006−30047A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211128(P2004−211128)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(594066017)
【出願人】(500487550)株式会社アドヴァンストテクノロジ (8)
【出願人】(596067386)
【Fターム(参考)】