説明

食品改良剤および該食品改良剤を添加した食品

【課題】動物性ミネラルイオンを含む酢と食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類又は乳化剤等を配合し、両者の機能を相互に作用させた複合相乗効果により、それぞれの本来の機能に加え、さらに機能を向上させる食品改良剤を提供する。
【解決手段】動物性ミネラルイオンの存在する醸造酢の抗菌、水和、酸化防止、界面、蛋白質、炭水化物の改質、色調、香味の安定の諸機能に食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類又は乳化剤の1種又は2種以上を物性を調整し混和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品改良剤および該食品改良剤を添加した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者は先に、酢酸、醸造酢(以下これらを区別する必要がないときは単に酢という)にミネラルイオンを溶解した食品改良剤を提案した(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−57178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記食品改良剤は、酢に動物性ミネラルイオン(例えばほたて貝殻カルシウム)を溶解することで、食品改良機能をもち、しかもミネラルイオンの作用効果により以下に記述するとおりの有用な食品改良剤となる。この食品改良剤を所望量、食品に添加すると両者は容易に混和し、品質の改良、向上と保存効果が発揮され、さらにこれを醤油、味噌、マヨネーズ、ドレッシング、油脂、液糖に所望量を混和することで新たな機能性を有する調味食品となる。
【0004】
本発明は、これらの諸機能をさらに増強し、改良を加え、動物性ミネラルイオンが存在する酢に、食品添加剤の1種又は2種以上を添加することにより、それぞれが有する機能や効果を失うことなく、独自の有効な機能を有する、これまでにない優れた食品改良剤および該改良剤を添加した食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、動物性ミネラルイオンが存在する酢の有する機能を利用してこれに食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類又は乳化剤の内の1種又は2種以上を添加し新たな効果を有する食品改良剤である。
【0006】
さらに本発明の第ニは、前記食品改良剤を混和した食品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、動物性ミネラルイオンの存在する酢のもつ食品に及ぼす抗菌、水和、酸化防止、界面効果、蛋白質又は炭水化物の改質、色調又は香味の安定の諸機能が、食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類又は乳化剤の各機能に複合し、相乗した新しい機能性を有する食品改良剤並びに該改良剤を混和した食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる動物性ミネラルイオンの原料は、貝殻、卵殻、家畜の骨、サンゴ殻、魚骨など(以下ミネラル原料という)を300℃から1,250℃の温度で焼成し粉砕したもの(以下単にミネラルということがある)である。動物性のミネラル原料は、起源となる素材は1週間から1年、長くても3年程度の短期間に育成され、その構成はカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リンなど多種のミネラルを成分として含有するものである。このミネラル原料を焼成し粉砕して使用することで、生体の摂取に際し違和感がないものとなる。
【0009】
本発明で用いる酢は、醸造酢又は酢酸である。醸造酢は食用アルコール濃度15%から50%の水溶液に103から1010の酢酸菌濃度の醸造酢培養液、又は種酢を1部から50部混合し、常温で醸造発酵したものである。
【0010】
醸造酢にミネラルイオンを溶解するには、前記醸造発酵中の液(以下発酵液という)にミネラルを添加して溶解する。ミネラルの添加は、発酵液の発酵が進行しpHが2ないし4になった時点で適量を添加する。発酵液にミネラルを添加し溶解するとpHは上昇し、pHが6に近づけばミネラルの添加を一旦止め、発酵を促進し、再びpHが2ないし4になればミネラルを添加し溶解させ、この作業を繰り返し、ミネラルイオンの量が3.5ないし6.8部に達し、pHが5ないし6になればミネラルの添加を中止し、発酵を完了する。
【0011】
一方、酢酸水溶液にミネラルを溶解するには、酸の濃度を12ないし25%とした酢酸水溶液にミネラルを添加することにより、所望のミネラルイオン量が存在する酢酸水溶液が得られる。
【0012】
なお、本発明においては、ミネラルイオンが存在する酢として、前記の醸造発酵酢又は酢酸水溶液を用いるが、醸造酢はその製造過程で酢酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などの多種類の有機酸を醸成することから、食品の調味効果に優れ、食味、食感を重視する用途には醸造酢が好まれる。
また、醸造酢中の動物性ミネラルイオンの1ないし2以上の成分が酵素の基質への触媒作用を補完し、又は反応速度を促進し、あるいは収率の向上の効果をもつ。
動物性ミネラルイオンが存在する酢に添加する、食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類、乳化剤(以下これらを区別する必要がないときは食品添加剤という)については、以下の実施例で具体的に説明する。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を記述するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
また、各実施例における混合比率は特に表示した以外は重量比とした。
また、食品添加剤を酢に添加する場合、食品添加剤の形状によっては両者の混合方法を考慮する必要がある。例えば食品添加剤の形状が粉状の場合には、液体であるミネラル酢46部に澱粉54部を加え混和し粉状にし、これに粉状の食品添加剤を混ぜ合わせる。また食品添加剤が液状である場合には、食品添加剤をその自重の10ないし50倍の麦芽糖に混合した配合剤を、液体である酢に添加し均一に混和する。以下の実施例では食品添加剤を上記のように酢に添加した状態で試験試料(食品)に添加しているが、試験試料中の配合比は実数により算出している。
【0014】
また、以下の実施例の各表における評価記号は、試料1グラム中の細菌数について、
−: 菌は存在しない
+: 菌数102以上
++:菌数103以上
として計測値を記号で表示している。
<実施例1>
【0015】
ミネラル含有の醸造酢A(以下「醸造酢A」という)および酵素のリゾチームはそれぞれ食品の抗菌機能を有しているが、醸造酢Aはグラム陰性菌に強く、グラム陽性菌には効果の少ない部分がある。一方、リゾチームはグラム陽性菌にのみ効果があることが知られている。実施例1では、ミネラル含有の醸造酢と酵素との相乗作用により、グラム陰性菌、陽性菌に対する効果を試験しこれを確認した。
【0016】
さつま芋は、土壌由来の細菌に汚染されやすく、グラム陰性菌とグラム陽性菌の混在が見られ、とくにグラム陽性菌の耐熱胞子菌であるバチルス属菌、クロストリジュウム属菌が付着している傾向がある。
このさつま芋を加熱加工して試験試料とし、該試験試料に醸造酢Aに食品抗菌剤のリゾチーム製剤(酵素成分100%)を0.4%混合した食品改良剤Bを、表1に示す割合で添加し、食品改良剤Bの効果を試験した。
【0017】
試験は、食品衛生法又は同法に準拠して行い、細菌類の区分は標準寒天培地で計測するものを一般生菌とし(以下一般生菌という)、耐熱胞子菌のバチルス属菌とクロストリジュム属菌及び酵母は選択培地により同定判別し、その結果を表1に示した。表1に示すとおり、食品改良剤B(醸造酢Aとリゾチーム製剤とを併用)を使用することで、一般生菌をはじめ抑止の難しい耐熱胞子菌まで幅広い抗菌効果があることが確認できた。
【0018】
【表1】

【0019】
<実施例2>
食品は、酵母の増殖により酸敗、白カビ、包装の膨張などの損失を受けることがある。酵母エキスを生産するβグルカナーゼあるいはプロテアーゼは酵母の細胞壁を溶解する溶菌機能を有しており酵母エキスの生産に利用されている。醸造酢Aにβグルカナーゼ(酵素成分40%)1%を添加した食品改良剤C、醸造酢Aにプロテアーゼ(酵素成分85%)2%を添加した食品改良剤Dとを用いて、変敗起因の酵母(サッカロミセス属)、産膜酵母(カンジダ属、ピヒア属)の増殖阻止試験をした。
【0020】
試験試料は変敗酵母が増殖しやすい野菜の浅漬けを試料とし、常温で保存して7日経過後の細菌の増殖を計測し、その結果を表2に示した。表2に示すとおり、醸造酢Aのみを添加した試験試料では、一般生菌については有効であるが酵母には効果が低い結果であった。また、βグルカナーゼのみ、あるいはプロテアーゼのみを添加した試験試料では一般生菌には効果が無く酵母には有効であった。一方、食品改良剤C、同Dを添加した試験試料では、一般生菌及び酵母の双方に対して抗菌効果が強化され、また食味も良好であり、これら酵素が酵母の溶菌作用を発揮するに際し、醸造酢Aの機能が補助、促進し、相乗効果を発現し、広範囲に及ぶ食品改良剤であることが確認できた。
【0021】
【表2】

【0022】
<実施例3>
醸造酢Aに、油脂分解酵素リパーゼ製剤(酵素成分20%)0.5%、バリン3%を配合し食品改良剤Eを用意しスポンジケーキの品質改良の試験をした。
【0023】
材料配合時に食品改良剤Eを1%添加品、また醸造酢Aを1%添加品、およびリパーゼ0.01%とバリン0.03%とを添加した添加品の3種を作った。1日経過後、6名による試食を実施したが、フレーバー、甘味、食味のすべてについて食品改良剤Eを添加したケーキが優れていると評価した。またレオメーターで荷重5kg、くさび型プランジャーによる弾性値測定では、改良材Eを添加したケーキは293N、醸造酢Aを添加したケーキは198N、リパーゼ、バリンを添加したケーキは244Nであった。この結果、食品改良剤Eについて食味と物性の相乗効果を確認することができた。
<実施例4>
【0024】
野菜に含有する硝酸の量について、その量が過剰であると健康に影響があると言われている。野菜を調理する際に、これを減らす方法について試験をした。
醸造酢Aに、食品添加剤として50,000分子のキトサン5%を加え食品改良剤Fとし、これを2%添加した水溶液を茹で水とし、小松菜140グラムを茹でた。同様に、比較品gとして無添加の水で茹でた小松菜、比較品hとして上記と同じキトサンを0.1%添加した水で茹でた小松菜、比較品jとして醸造酢Aを2%添加した水で茹でた小松菜をそれぞれ用意し、茹でた直後の小松菜に含まれる硝酸の量を測定しイオンの量として計測した。結果を表3に示す。
表3から明らかなように、食品改良剤Fを添加した水で茹でた小松菜の硝酸イオン残量は各比較品に比べ硝酸除去量は多く、相乗効果を確認することができた。
【0025】
【表3】

【0026】
<実施例5>
醸造酢Aとプロテアーゼ製剤(酵素成分85%)、アミノ酸のDLアラニンを用意し、カスタードプリンに添加して品質改良の相乗効果について試験をした。
醸造酢Aに対し、プロテアーゼ製剤2%、DLアラニン6%を配合し食品改良剤Kとし、これを0.5%添加したカスタードプリンkを作った。
一方、別にプロテアーゼ製剤0.02%とDLアラニン0.06%を添加したプリンmを作り、製造時及び5℃で25時間経過後の食味について比較を行なった。その結果、食品改良剤Kを添加したプリンkの方が食味、食感ともに優れていた。また、食品改良剤Kを添加したプリンkの製造時の一般生菌数は9×10であったものが、25時間後2×102であったが、プロテアーゼ製剤とDLアラニンを添加したプリンmは、25時間経過後一般生菌数は8×104にまで増えていた。この結果食品改良剤Kにおいて酵素、アミノ酸との相乗効果を確認することができた。
<実施例6>
【0027】
醸造酢Aに対しαアミラーゼ製剤(成分10%)5%を配合した食品改良剤Lを用意し、これを小麦粉に1%添加し饅頭を製造した。一方、比較品として同じくαアミラーゼ製剤0.05%を添加した饅頭を製造し、食味と保型性及び保水性について試験をした。また、これを常温開放の条件下で1日経過後の下記項目を測定した。
その結果、食品改良剤Lを添加した饅頭の容積を100として計測すると比較品は94であり、食品改良剤Lを添加した饅頭の容積比は6%多くなっていた。さらに水分量では食品改良剤Lを添加したものが44%、比較品が41%で3%の差があった。また、食味については食品改良剤Lを添加したものは比較品より弾力に優れていた。以上の結果、食品改良剤Lの相乗効果を確認することができた。
<実施例7>
【0028】
醸造酢Aにβアミラーゼ酵素製剤(酵素成分12%)を2%、同リパーゼ製剤(酵素成分7%)を0.4%、バリン6%を配合し食品改良剤Nを用意した。この食品改良剤Nを0.5%添加してバターケーキを作り、品質について試験した。比較品として醸造酢Aを除くβアミラーゼ製剤0.01%、バリン0.03%を配合して添加しバターケーキを作成した。これらを簡易な包装をして5℃で12日間保存した後、食味、香味、保水性及び保存性について測定した。その結果、食品改良剤Nを添加したケーキは、フレーバー、口当たりがよく、保存性では酵母、カビの発生は無く、水分減量は2.7%であった。また、比較品はフレーバー、食感が劣り、酵母、カビを示す真菌数は3×10であり、水分減量は3.8%であった。この結果から食品改良剤Nは酵素とアミノ酸と複合しての相乗効果があることが確認できた。
<実施例8>
【0029】
醸造酢Aに酵素プロテアーゼ製剤(酵素成分85%)2%を配合した食品改良剤Pを用意した。これを1.5%添加してハンバーグを作った。比較品にはプロテアーゼ製剤のみを0.03%添加した。5℃にて4日経過後では食品改良剤Pを添加したものは一般生菌数が4×10であり、比較品は7×104であり、保存性で大きな差があった。さらに電子レンジで再加熱し、食味、肉汁、フレーバーについて試食した結果、食品改良剤Pの添加品は製造時の品質を維持しており、比較品は食味、肉汁で劣化していた。相乗効果による品質安定が確認できた。
<実施例9>
【0030】
醸造酢Aに、αアミラーゼ製剤(酵素成分10%)を4%配合して食品改良剤Qを用意した。これを生米比で1%添加し、加水量を生米比117%とし、比較品はアミラーゼ製剤0.04%を添加し同じ加水量にて炊飯米の試験をした。
炊飯での標準加水量は、生米比105ないし110%であるが、この試験では標準加水より6%増量し品質改良と水和性に伴う歩留まりについて試験をした。
炊飯直後の食品改良剤Qを添加したご飯の食味と色調は良好であった。一方、比較品は水気の多い食味であり、色調は劣っていた。これらを15℃で2日間保存し、2日経過後において食味を調べたところ、食品改良剤Qを添加した飯米の食感には変化がなく加水量の影響もなかったが、比較品では食味がさらに低下していた。これにより炊飯での食味と色調、また水和の効果による歩留まりの向上について相乗効果が確認できた。
<実施例10>
【0031】
醸造酢Aに、セルラーゼ製剤(酵素成分28%)5%を配合した食品改良剤Rを用意し、これを3%添加した水溶液を作り、この液にカットしたキャベツ、キュウリ、レタス(以下野菜という)を20分間浸漬した。これを脱水し、5℃で保存し時間経過による細菌の増殖と食味について試験をした。一方、比較品sはセルラーゼ製剤を0.04%、比較品tは醸造酢A3%をそれぞれ添加した水溶液を用いた。
一般生菌の初発菌数は9×102であった。3日経過後において、食品改良剤Rを添加した野菜は5×103であり、比較品sは9×107,比較品tは6×104であった。食品改良剤Rを添加した野菜は各比較品より食味は良好であり、保存性と食味についての相乗効果を確認することができた。
<実施例11>
【0032】
醸造酢Aに、酵素リパーゼ(酵素成分20%)2%とモノグリセド1%を配合、混和した食品改良剤Uを用意し、これをフライの衣に1%添加し油で揚げてフライをつくり、食味と酸化の傾向を試験した。また比較品vには酵素リパーゼを0.004%とモノグリセド0.01%を添加し、比較品wは醸造酢Aを1%添加した。加工時での酸価は1.1であった。これらのフライを保存温度5℃で7日間保存した。7日間経過後に試食をしたところ、食品改良剤Uを添加したフライと比較品vは食味、香りともに良好であったが、比較品wは食味、香りともに劣り、酸価は、食品改良剤Uを添加したフライが1.2であり、比較品vは2.4であり、比較品wは3.1であった。この結果、食味と酸化についての相乗効果を確認することができた。
<実施例12>
【0033】
醸造酢Aに、プロテアーゼ製剤(酵素成分85%)1%、グルタミナーゼ製剤(酵素成分5%)2%を配合した食品改良剤Xを用意し、鶏肉を原料とするエキスに対し材料の総量の2%を添加し鶏肉エキスをつくった。比較品はプロテアーゼ製剤0.02%、グルタミナーゼ製剤0.01%を添加した。
この結果、エキス収率で比較すると、食品改良剤Xを添加したエキスの収率を100とすると、比較品は87であった。また15℃で一般生菌数が10の4乗になるまでの保存期間は、食品改良剤Xを添加したエキスでは32日で、比較品が17日であった。これによりエキス収率の向上と保存期間の確保において相乗効果を確認することができた。
【0034】
上述したように、本発明は、動物性ミネラルイオンの存在する酢の抗菌、水和、酸化防止、界面、蛋白質の改質、色調、香味の安定の諸機能に、食品添加剤である酵素、アミノ酸、多糖類又は乳化剤の内の1種又は2種以上を加えることで、それぞれ本来の機能に、両者の持つ特有の効果を複合し相乗した新たな効果が生まれ、優れた食品改良剤を提供でき、その結果優れた品質の食品を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性ミネラルイオンが存在する酢に、食品添加剤の酵素、アミノ酸、多糖類、乳化剤の内の1種又は2種以上を添加した食品改良剤。
【請求項2】
請求項1に記載の食品改良剤を混和した食品。