説明

食品添加剤組成物

【課題】高親水性で乳化力、可溶化力に優れた食品用ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することで、エタノールや各種の塩類を高濃度に含む食品に、香料、油脂類を安定に配合して、風味などを改善できる食品添加物組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】グリセリンを含まず、ジグリセリンの含量が3質量%以下のポリグリセリン、更にはトリグリセリン以下の低重合度ポリグリセリンの含量が20質量%以下である好ましくは分離膜により水溶性低分子量有機物を除去した食品用ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであるポリグリセリン脂肪酸エステルと、より好ましくはアルコール類を併用した食品添加剤組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステル由来の不快な味や臭いを呈することなくアルコールや各種の塩類を高濃度に含む食品に、香料、油脂類を安定に配合して、風味などを改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルコール、各種の塩類を高濃度に含む食品に、香料、油脂類を安定に配合して風味などを改善するための、新規な組成の親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した食品添加剤組成物に関する。更に詳しくは、新規な高親水性ポリグリセリン脂肪酸エステル、油溶性物質と、好ましくは水及び/又はアルコール類を含む、可溶化物又は油滴の平均粒子径が微細で安定性が良好な乳化物である、食品添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノール、及び塩類の多い食品に可溶化物、乳化物を安定に配合する事は難しいために、この課題を解決するための技術がいろいろ提案されている。このような食品で使用される乳化剤、可溶化剤は、その乳化力、可溶化力に優れるだけでなく、高親水性であるものが望まれている。
【0003】
耐塩性、耐アルコール性に優れた乳化物や可溶化物を得る方法として、蔗糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルを利用する方法が報告されているが、蔗糖脂肪酸エステルは高親水性であるにも関らず、耐塩性、耐アルコール性に劣るため、ポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて改善したものが多く公知化されている。
【0004】
例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、レシチン、有機酸モノグリセリドを加えたものが開示されているが(特許文献1)、これは親水性の蔗糖エステルと、親水性の有機酸モノグリセライドを併用して、ポリグリセリン脂肪酸エステルの親水性を補うというものである。炭素数12から14の飽和脂肪酸のモノポリグリセリンエステルを使用する技術は(特許文献2)、炭素数の短い脂肪酸を使用して、高親水性化しようとするものである。また、高純度に精製して高親水性化した蔗糖脂肪酸モノエステルテルをポリグリセリン脂肪酸エステルと併用する技術も開示されている(特許文献3)。
【0005】
このように、ポリグリセリン脂肪酸エステルは耐塩性、耐アルコール性に優れた乳化、可溶化物に利用されているものの、親水性については不十分であったため、高親水性化するために、いろいろな検討がなされている。
【0006】
例えば、合成したポリグリセリン脂肪酸エステルを精製する方法として、ポリグリセリンと脂肪酸との反応物をイオン交換膜により精製、溶媒抽出などにより高純度化しようとする方法(特許文献4〜6)、新規なエステル化方法で高親水性化しようとする方法(特許文献7、8)、ポリグリセリンと脂肪酸との反応物を分子蒸留によってもモノ、ジ、トリエステルを分離精製する方法(特許文献9)が開示されている。これらの方法は、未反応ポリグリセリン及びポリグリセリン脂肪酸エステルの高次エステルを除去若しくは高親水性ポリグリセリンエステルを選択的に合成することにより高親水性化を図る方法であるが、いずれの方法によっても、水溶性の酸化生成物を除去できないため、乳化物や可溶化物の耐塩性、耐アルコール性が低下し、味も悪かった。また、コストの面でも好ましいとは言い難い。
【0007】
また、精製したポリグリセリンを利用して高親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルとする方法としては、原料ポリグリセリンを蒸留などの方法により、グリセリン、ジグリセリンを分離除去してポリグリセリン脂肪酸エステルとする方法や(特許文献10)、強酸性イオン交換樹脂を利用する方法(特許文献11)等が開示されている。蒸留によりポリグリセリンを精製する方法は、加熱によるポリグリセリンの変質が起こり、また、加熱をしない強酸性イオン交換樹脂を利用する方法は、クロマトグラム法で、生産機器が高価になること、作業が煩雑で生産コストが高くなることから、依然改良の余地のあるものであった。
【0008】
近年本発明者らは、分子蒸留法がもつ課題、例えば、加温によるポリグリセリンの変質、また、強酸性イオン交換樹脂を利用する方法がもつ課題、例えば、処理工程の煩雑化等の問題点を解決するする方法として分子膜による分別方法により得られるポリグリセリンを利用する方法(特許文献12)及びその食品用乳化剤又は可溶化剤としての利用(特許文献13)を報告している。この方法によれば水溶性の低分子量物質であるグリセリン、ジグリセリン、及び乳酸などの副生物が除去され、味、臭い、色相が改善されたポリグリセリンを得ることができる。分子膜による分別方法により得られるポリグリセリンを親水基にもつポリグリセリン脂肪酸エステルと、油溶性物質、アルコール類とからなる食品添加剤組成物は、耐塩性、耐アルコール性が格段に改善され、エタノールを含む食品や高濃度に塩類を含む食品の製造に極めて有用であり、かつ、食品の風味に影響しにくいことは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−245588
【特許文献2】特開平09−168369
【特許文献3】特開平08−205771
【特許文献4】特開平06−228052号公報
【特許文献5】特開平06−279359号公報
【特許文献6】特開2007−116930号公報
【特許文献7】特開2000−287631号公報
【特許文献8】特開平08−217725号公報
【特許文献9】特開2004−331607号公報
【特許文献10】特開平06−192065号公報
【特許文献11】特開平05−310625号公報
【特許文献12】特開2009−073763号公報
【特許文献13】特願2008−274008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、エタノールを含む食品や高濃度に塩類を含む食品に、香料、油脂類を安定に配合して、ポリグリセリン脂肪酸エステル由来の不快な味や臭いを呈することなく食品の風味などを改善できる食品添加物組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上述の事情に鑑み鋭意研究した結果、次のようなポリグリセリン脂肪酸エステルと、より好ましくはアルコール類を併用することで、油滴の平均粒径が微細であり、なおかつ安定に乳化した食品添加剤組成物若しくは油溶性物質を可溶化した食品添加物組成物とすることができ、本発明の食品添加物組成物を利用することで、エタノールを含む食品、高濃度に塩類を含む食品に、香料、油脂類を安定に配合することができ、ポリグリセリン脂肪酸エステル由来の不快な味や臭いを呈することなく食品の風味などを改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、好ましくは水溶性低分子量有機物を分子膜により除去した、ガスクロマトグラフィーによる定量値で、グリセリンを含まず、ジグリセリンの含量が3%以下のポリグリセリンと脂肪酸を合成して得られるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、アルコールや各種の塩類を高濃度に含む食品に、香料、油脂類を安定に配合することができ、ポリグリセリン脂肪酸エステル由来の不快な味や臭いを呈することなく食品の風味などを改善できる食品添加物組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明は、アルコール、各種の塩類を高濃度に含む食品に、香料、油脂類を安定に配合して風味などを改善するための食品添加剤組成物であり、新規な組成の親水性ポリグリセリン脂肪酸エステル、油溶性物質と、好ましくは水及び/又はアルコール類を含む、可溶化物又は油滴の平均粒子径が微細で安定性が良好な乳化物である。
【0015】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ガスクロマトグラフィーによる定量値で、グリセリンを含まず、ジグリセリンの含量が3%以下のポリグリセリンと脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルである。本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルの平均重合度及び脂肪酸組成は特に限定するものではないが、ポリグリセリンの平均重合度が6〜10で、且つガスクロマトグラフィーによる定量値でトリグリセリン以下の低重合度ポリグリセリンの含量が20質量%以下であるポリグリセリンと、食品で許可されている炭素数8以上の脂肪酸とのエステルが好ましい。より好ましくは、乳化及び/又は可溶化剤として優れた性能を発揮する炭素数14以上の脂肪酸を利用した上記ポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0016】
エステル化度は特に限定するものではないが、低いものほど高親水性となるため、エステル化度の低いものが望ましい。好ましくは、ポリグリセリンに対して1モル以下の脂肪酸とのエステルである。
【0017】
HLBとは、Hydrophile―Lipophile Balanceの略称であり、界面活性剤等の親水性を示す指標であり、理論上求められる計算値または乳化試験によって求められる実測値の何れかまたは双方を反映するものであるが、本発明でいうHLBの値は、乳化法で得られる実測値であり、実施例にてこの測定法を示す。
【0018】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルの親水性を定量的に表現すると、HLBで15以上であることが望ましい。
【0019】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、水溶性低分子量有機物を分子膜により除去したポリグリセリンと、脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルであれば、更に好ましい。
【0020】
水溶性低分子量有機物を分子膜により除去したポリグリセリンは、本発明者らが開発した分子膜による分画方法であり、分画法の詳細は特開2009−073763号公報に示している。分子膜としては、特に限定するものではないが、逆浸透膜(RO膜)、ナノ膜(ナノフィルトレーション膜、NF膜)、限外濾過膜(UF膜)等が挙げられる。本法によりポリグリセリンの低重合度物及び水溶性の低分子量有機物が除去され、分子蒸留や有機溶媒など他の分画法と異なる組成のポリグリセリンが得られる。水溶性有機物の詳細は不明であるが、乳酸などの酸化生成物が知られている。
【0021】
水溶性低分子量有機物を分子膜により除去したポリグリセリンの組成は、具体的にはグリセリンは含まず、ジグリセリンは3%以下のポリグリセリンであり、更に好ましくは、グリセリンを含まず、ジグリセリンの含量が3%以下であり、且つトリグリセリン以下の低重合度物の含量が20%以下のポリグリセリンである。
【0022】
分子膜にて分画されたポリグリセリンは低重合度物、及び水溶性の低分子量有機物が除去されており、分子蒸留など他の分画法と異なる組成のポリグリセリンが得られるため、このポリグリセリンを原料として合成したポリグリセリン脂肪酸エステルは、いずれも食品の味に影響を及ぼさず、優れた乳化性能、可溶化性能を有する。
【0023】
なお、本発明におけるポリグリセリンの組成分析は、ポリグリセリンをトリメチルシリル化誘導体とし、その上でガスクロマトグラフィー(GLC)にて分析を行い、各成分のピーク面積を百分率として求めることができる。GLC法による分析は、メチルシリコーンなど低極性液相を化学結合せしめた、フューズドシリカキャピラリー管を用いて100〜320℃まで10℃/分の昇温分析を行えば容易に実施することができる。また、ガスクロマトグラム上のピークの同定は、例えば、ガスクロマトフラフ/質量分析計(GC/MS)にて各ピークの分子量を求めることにより行うことができる。
【0024】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸エステル化は、目的とする食品及び用途により特に限定されるものではないが、公知の方法でおこなうことができる。
【0025】
本発明で使用されるアルコール類とは特に規定するものでは無いが、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールの他、ショ糖、マルトース、フラクトースなの糖類が好ましい。これらのアルコール類を本発明高親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルと混合し、油溶性物質と良く混合すると、乳化、可溶化能が増強されて、油滴の平均粒径がより微細で安定な組成物となり得る。本発明で使用されるアルコール類の使用量は規定するものではないが、アルコール類/高親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルとの比率は0.1/1〜10/1である。好ましくは1/1〜10/1である。
【0026】
本発明でいうエタノールを含む食品には、焼酎、カクテル、発泡酒などの酒精飲料が挙げられ、これらの食品には、エタノールが1〜50質量%含有されている。無機塩類及び/又は有機塩類の多い食品としては、醤油、だしつゆ、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、麺ツユなどの調味料、及びスープ類、及び清涼飲料水、スポーツドリンクなどが挙げられ、これらの食品には、無機塩類及び/又は有機塩類として、各種アミノ酸塩、各種ミネラル、食塩などが、通常3質量%以上配合されている。
【0027】
本発明で言う油溶性物質とは特に限定するものではではないが、植物油、香料、油溶性ビタミン、コエンザイムQ10などをいう。
【0028】
本発明で言うポリグリセリン脂肪酸エステルと油溶性物質との組成比は、特に規定するものではないが、質量比で0.1/1〜10/1である事が望ましく、0.2/1〜10/1であることがより好ましい。
【0029】
本発明の食用加工油脂及び食品には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、例えば本発明の多価アルコール脂肪酸エステル以外の多価アルコール脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの食品添加物として使用されている界面活性剤や、水溶性高分子などを併用することも可能である。
【0030】
本発明の食品添加剤組成物の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、乳化物であれば、アルコール類の水溶液と本発明のポリグリセリン脂肪酸エステル等を十分に混合しながら均一にし、ここに油溶性物質を含む油性成分を加えて、更に高圧ホモイナイザー等で微細化すると高濃度の微細分散物が得られる。可溶化物の製造方法も同様である。
【0031】
本発明の食品添加剤組成物は、乳化物の場合、油滴の平均粒子径が微細で安定である。具体的には、本発明の食品添加剤組成物は、油滴の平均粒径は200nm以下であることが望ましい。
【0032】
本発明の食品添加剤組成物の食品に対する配合量については、特に限定するものではないが一般的には食品に対して1%以下添加される。
【0033】
本発明の食品添加剤組成物は、食品に添加した場合、油滴の平均粒径は200nm以下が好ましく、さらに望ましくは100nm以下であることが好ましい。また、本発明の食品添加剤組成物を85℃で30分間保持した場合の粒経の変化率が、初期粒径に対して30%以下の変化率であることが望ましく、10%以下の変化率であることがより望ましい。
【0034】
なお、本発明の食品添加剤組成物及びそれを食品に添加したときの、油滴の平均粒径の測定は、粒度分布測定装置(コールターカウンターN4MD:コールター社)により測定することができる。
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は「質量%」を意味する。
【実施例1】
【0036】
(ポリグリセリンの合成と水溶性低重合度物の除去)
グリセリンに対して、苛性ソーダを0.1%加え、250℃で3時間、反応させてデカグリセリンを合成し、限外濾過膜(UF膜)にて精製した。こうして得られた精製ポリグリセリンの組成は、トリメチルシリル化誘導体とし、ガスクロマトグラフィー(GLC)条件(カラム充填剤:Diasolid ZT(3mm×0.5m、日本クロマト工業株式会社製)、昇温速度:50〜320℃、10℃/分、キャリアガス及び流量:窒素、40ml/分、検出器:FID)で分析を行い、ガスクロマトフラフ面積法にて各成分の量を測定した。比較例として、未精製品についても同様の測定をおこなった。
【表1】

【実施例2】
【0037】
(ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB測定)
ポリグリセリンとして、デカグリセリン、オクタグリセリン、ヘキサグリセリンを一般的な方法で合成した。更にこれらのポリグリセリンをUF膜にて低重合ポリグリセリンを除去し、原料ポリグリセリンを得た。この原料ポリグリセリンを使用してポリグリセリンモノステアリン酸エステルを合成した。
【0038】
また比較品として、〔1〕低重合度ポリグリセリンを除去しないポリグリセリンを原料として、同じように合成したポリグリセリンモノステアリン酸エステル(未精製品)、〔2〕ポリグリセリンを分子蒸留して、本品と同程度まで低重合度ポリグリセリンを除去したポリグリセリンを原料として、同じように合成したポリグリセリンモノステアリン酸エステル(分子蒸留品)、〔3〕上記ポリグリセリンモノステアリン酸エステル(未精製品)を下記に示す溶媒分別法で精製したポリグリセリンモノステアリン酸エステル(溶媒精製品)を合成した。
【0039】
溶媒分別法:ポリグリセリンモノステアリン酸エステル(未精製品)80gを720mLのメタノールに溶解し、溶解後に800mLヘキサンを加えた。40℃〜45℃に1時間攪拌した。これを20℃〜25℃に放置して、2層に別ける。下層にヘキサンを加え同様の処理をする。更に同様な精製処理を行い、下層の溶媒を除去してポリグリセリンモノステアリン酸エステル(溶媒精製品)を得る。
【0040】
(HLB測定法)
乳化剤として、ポリグリセリンモノステアリン酸エステル(a)とソルビタンモノステアリン酸エステル(HLB=4.7)(b)を種々の組み合わせ比率で用いて、下記処方でエマルションを調製した。このとき得られたエマルションの粒径が最小となる乳化剤の比率から、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルのHLBを下記式から算出した。この時流動パラフィンのHLBは10.5とした。
HLB=(10.5−4.7×b/4)4/a
【0041】
(乳化処方)
油相 流動パラフィン 40(質量%)
乳化剤(a+b) 4
水相 精製水 56
【0042】
(乳化法)
油相を80℃に加温して、攪拌しながら同温度以上に加温した水相を加えて乳化した。冷却しながら、攪拌を続けて40℃で放置した。得られたエマルションは一日放置後粒経を測定した。
【0043】
(色相、臭い、味の評価)
ポリグリセリンモノステアリン酸エステルの着色の程度は、APHA又はガードナーで測定し、下記の基準で分類した。
◎:APHA60未満、○:APHA60以上〜ガードナー1未満、△:ガードナー1以上〜4未満、×:ガードナー4以上
臭い及び味は10名のパネルを用いて、よい場合に5点、ややよい場合に4点、普通の場合に3点、やや悪い場合に2点、悪い場合に1点とスコアーをつけ、その平均値から、下記の基準で分類、評価した。
◎:4以上、○:3以上〜4未満、△:2以上〜3未満、×:2未満
評価した。
【0044】
(結果)
結果を表2に示した。本発明品のHLBはいずれも比較品である未精製品よりも大きく、15以上の値を示した。なお、本発明品は比較品である分子蒸留品や溶媒精製品と同程度のHLBを示したが、本発明品の方が、また本乳化実験では広い組み合わせ範囲で微細なエマルションが得られるなど優れた乳化性能を示した他、本発明品はほぼ無色で臭いも少なく、味の点でも優れていた。
【表2】

【実施例3】
【0045】
油溶性物質としてオレンジオイルを含有する下記の食品添加剤組成物を調製した。
【0046】
(処方)
処方1 処方2
オレンジオイル 10% 5%
デカグリセリンモノステアリン酸エステル 10 10
グリセリン 30 30
精製水 残部 残部
【0047】
(調製方法)
オレンジオイル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンを加温して溶解し、加温した精製水を加えて攪拌すると高粘性の透明均一溶液となる。
【0048】
(アルコール耐性の評価)
10%エタノール水溶液にエマルションを1%溶解した時の粒径をコールターカウンターにより測定した。更に、85℃で30分間保持した後の粒径を測定して、粒径の変化率を下記の基準で分類した。
◎:10%未満、○:20%未満、△:30%未満、×:30%以上
【0049】
(耐塩性の評価)
3%食塩水にエマルションを1%溶解した時の粒径を測定した。また85℃で30分間保持した後の、粒径を測定して、粒径の変化率を上記の基準で分類した。
【0050】
(結果)
結果を表3に示す。本発明に係わるポリグリセリン脂肪酸エステルを利用した食品添加剤組成物は、比較例よりも粒径が微細であり、アルコール耐性及び耐塩性が改善されることが示された。また、味及び臭いの点で比較例よりも優れていた。
【表3】

【実施例4】
【0051】
油溶性物質としてトコフェロールを含有する下記の食品添加剤組成物を実施例3に記載の方法で調製し、実施例3に記載の方法で、耐アルコール性試験及び耐塩性試験を行った。
(処方)
処方3 処方4
トコフェロール 10% 20%
オクタグリセリンモノステアアリン酸エステル 30 30
ソルビトール液(70%) 30 30
精製水 残部 残部
(結果)
結果を表4に示す。本発明に係わるポリグリセリン脂肪酸エステルを利用した食品添加剤組成物は、比較例よりも粒径が微細であり、アルコール耐性及び耐塩性が改善されることが示された。また、味及び臭いの点で比較例よりも優れていた。
【表4】

【実施例5】
【0052】
油溶性物質としてコエンザイムQ10を含有する下記の食品添加剤組成物を実施例3に記載の方法で調製し、実施例3に記載の方法で耐アルコール性試験及び耐塩性試験を行った。
(処方)
処方5 処方6
コエンザイムQ10 5% 3%
エタノール 10 10
精製大豆レシチン 1 1
デカグリセリンモノオレイン酸エステル 30 30
ソルビトール液(50%) 残部 残部
【0053】
(結果)
結果を表5に示す。本発明に係わるポリグリセリン脂肪酸エステルを利用した食品添加剤組成物は、比較例よりも粒径が微細であり、アルコール耐性及び耐塩性が改善されることが示された。
【表5】

【実施例6】
【0054】
油溶性物質として香料を含有する下記の食品添加剤組成物を調製し、アルコール濃度16%の市販清酒に、本発明の食品添加剤組成物を0.1%加えて、良く混合した。
【0055】
(処方)
香料 40%
本発明のデカグリセリンモノステアリン酸エステル 30
グリセリン 30
【0056】
(調製方法)
上記成分をよく混合して、これを20℃でホモミキサー、3000rpmで、5分処理して粘度の高い溶液を得た。
【0057】
(結果)
本発明の食品添加剤組成物を混合した市販清酒は、油滴の平均粒経が50nmで、85℃、30分放置した時の油滴の平均粒径は53nmと安定であり、25℃で1年間放置しても濁ることはなかった。また、本発明の食品添加剤組成物は、清酒の風味を損ないものであった。
【実施例7】
【0058】
油溶性物質として香料を含有する下記の食品添加剤組成物を調製し、アルコール濃度12%の果実酒に、本発明の食品添加剤組成物を0.5%加えてよく攪拌した。
【0059】
(処方)
香料 40%
本発明のデカグリセリンモノパルミチン酸エステル 30
エタノール 10
水 20
【0060】
(調製方法)
上記成分をよく攪拌した後、600気圧の高圧ホモジナイザーで処理をして均一な溶液とした。
【0061】
(結果)
本発明の食品添加剤組成物を混合した果実酒は、油滴の平均粒径が60nmで、85℃、30分放置した時の油滴の平均粒径は62nmで安定であり、25℃で1年間放置しても濁ることはなかった。また、本発明の食品添加剤組成物は、果実酒の風味を損ないものであった。
【実施例8】
【0062】
油溶性物質として香料を含有する下記の食品添加剤組成物を調製し、得られた溶液をアルコール濃度15%の白酒に、0.5%加えてよく攪拌した。
【0063】
(処方)
香料 50%
本発明のオクタグリセリンモノオレイン酸エスエル 10
グリセリン 30
エタノール 5
水 5
【0064】
(調製方法)
上記成分をよく攪拌して均一溶液をとした後、20℃でホモミキサー、3000rpmで、5分間処理して粘度の高い溶液を得た。
【0065】
(結果)
本発明の食品添加剤組成物を混合した白酒は、油滴の平均粒径が150nmで、85℃、30分放置した時の油滴の平均粒径は155nmで安定であった。また、本発明の食品添加剤組成物は、白酒の風味を損ないものであった。
【実施例9】
【0066】
油溶性物質として香料を含有する下記の食品添加剤組成物を調製し、得られた溶液を塩分濃度16%の市販醤油に、0.5%加えてよく攪拌した。
【0067】
(処方)
香料 10部
本発明のデカグリセリンモノオレイン酸エステル 5
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン 1
ソルビトール 15
水 5
【0068】
(調製方法)
上記成分をよく攪拌して均一溶液をとした後、20℃でホモミキサー、3000rpmで、5分間処理して粘度の高い溶液を得た。
【0069】
(結果)
本発明の食品添加剤組成物を混合した市販醤油は、油滴の平均粒径が90nmで、85℃、30分放置した時の油滴の平均粒径は95nmで安定であった。25℃で1年間放置しても濁ることはなかった。また、本発明の食品添加剤組成物は、醤油の風味を損ないものであった。
【0070】
なお、食品添加剤組成物を同様に混合した市販の減塩だしつゆ(塩分濃度5%)も同様の効果が認められた。
【実施例10】
【0071】
油溶性物質として香料を含有する下記の食品添加剤組成物を調製し、得られた溶液をアルコール濃度5%の市販発泡酒に0.5%加えてよく攪拌した。
【0072】
(処方)
香料 30%
本発明のデカグリセリンモノステアリン酸エステル 30
グリセリン 30
卵黄リゾレシチン 1
精製水 9
【0073】
(調製方法)
デカグリセリンモノステアレート、グリセリン、卵黄リゾレシチンを良く攪拌して、均一溶液とした後、香料を良く攪拌をしながら添加する。
【0074】
(結果)
本発明の食品添加剤組成物を混合した市販発泡酒は、油滴の平均粒径が65nmで、85℃、30分放置による油滴の平均粒径は66nmと安定であった。25℃で1年間放置しても濁ることはなかった。また、本発明の食品添加剤組成物は、発泡酒の風味を損ないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜50質量%のエタノールを含む食品に添加するための組成物であって、該組成物が、ガスクロマトグラフィーによる定量値で、グリセリンを含まず、ジグリセリンの含量が3%以下のポリグリセリンと脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルと、油溶性物質とを含有することを特徴とする食品添加剤組成物。
【請求項2】
3質量%以上の無機塩類及び/又は有機塩類を含む食品に添加するための組成物であって、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルと油溶性物質とを含有することを特徴とする食品添加剤組成物。
【請求項3】
更に、水を含有することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の食品添加剤組成物。
【請求項4】
更に、アルコール類を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項5】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルと油溶性物質の比率が質量比で、ポリグリセリン脂肪酸エステル/油溶性物質=0.1/1〜10/1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項6】
上記油溶性物質が、香料、油溶性ビタミン、動植物性油脂、コエンザイムQ10からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項7】
上記アルコール類が、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ショ糖、マルトース、フルクトースからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項8】
食品に添加したときの油滴の平均粒径が200nm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項9】
上記組成物を食品に添加して、85℃で30分間保持した場合の油敵の平均粒経の変化率が、初期粒径に対して30%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項10】
上記ポリグリセリンの平均重合度が6〜10で、且つガスクロマトグラフィーによる定量値でトリグリセリン以下の低重合度ポリグリセリンの含量が20質量%以下であるポリグリセリンと炭素数8以上の脂肪酸とのエステルであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項11】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルがHLB15以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。
【請求項12】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、水溶性低分子量有機物を分子膜により除去したポリグリセリンと、脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の食品添加剤組成物。

【公開番号】特開2011−50255(P2011−50255A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199311(P2009−199311)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(000228729)日本サーファクタント工業株式会社 (44)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】