説明

食品組成物

【課題】 レトルトパウチに封入された状態で提供される油麩丼用の食品組成物のとろみを最適に調整するための条件を提供する。
【解決手段】 砂糖を加えただし汁に、油麩、味噌、たまねぎまたは長ねぎを加えて煮込み、だし汁を食材に浸み込ませた後、レトルト処理を施して得られる食品組成物に、デンプンを1.0〜1.8重量%の範囲で添加し、レトルトパウチを開封して加熱した後の、前記食品組成物中の液状成分の、剪断速度が0.1〜0.3sec−1の領域における粘度が、剪断速度が0.7sec−1以上の領域における粘度の1.5〜2.1倍となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる丼物と称される、丼に盛った米飯に具を載せた料理に用いる、具に相当する食品組成物に関し、特に具に油麩を含む食品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の我が国においては、地域振興の手段の一つとして、当該地域特産の食材を用いたことを特徴とする料理が考案されている。その食材は、必ずしも高級品である必要がないため、B級グルメと称して、全国的なコンクールが開催され、高い評価を得て、当該地域に観光客を誘致したり、地域の特産品の売り上げ向上に寄与したりする例も少なくない。
【0003】
このような料理の一つとして、丼物も提案されている。丼物の歴史は比較的新しく、ご飯とおかずを同一の容器に盛り付け、手軽に短時間で食べられるようにしたのが特徴であり、カツ丼のように、西洋料理との折衷として考案されて広く普及し、各地域で様々なバリエーションを有するものや、宮城県の亘理地域に発祥したとされる「はらこめし」のような地域独特のものがある。
【0004】
後者の類型として、やはり宮城県の登米地方独特の丼物として、「油麩丼」が地域振興に貢献している。これは、簡単に言えば、カツ丼における豚カツを油麩に置き換えたものであるが、カツ丼の場合は、具をタレで煮込んだ後、卵とじにするのに対し、油麩丼の場合は、卵を加えても全体を卵とじにしないで、タレに片栗粉などのデンプンを加えて「とろみ」を付与する場合があるという違いがある。
【0005】
なお、油麩とは、やはり宮城県登米地方に伝承されてきた食材で、小麦粉に含まれるたんぱく質であるグルテンを練り上げて棒状にし、植物油で揚たもので、外観はフランスパンに似ている。これを油麩丼に用いる際は1〜2cm程度の厚さに輪切りにする。
【0006】
そして油麩丼は、飲食店で提供されたり、家庭で調理されたりする他、食材をタレで煮込んだ後レトルト処理を施して、レトルトパウチ詰めのインスタント食品としても、提供されている。これは、レトルトパウチごと電子レンジなどで加熱し、ご飯に載せるだけなので、手軽に食べられ、加熱の際に卵を加えるのが一般的な食べ方である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この際に問題となるのが、油麩やたまねぎなどの具を除いた液状成分の粘度である。つまり丼物においては、米飯の上の部分に適当な量の液状成分が浸透すると、具のみ、液状成分が混じった米飯、米飯のみの3種類の部分が形成され、それぞれの食味を賞味できるが、粘度が高過ぎると、液状成分が米飯に浸透した部分が殆ど形成されず、逆に粘度が低過ぎると、米飯のみの部分が形成されず、場合によっては、丼の底部まで、液状成分が浸透して、粥もしくは雑炊のようになってしまう。
【0008】
粘度、つまり、とろみは、デンプンの添加量に依存し、最適な状態を得るには、料理人の勘や経験に頼るところが大きい。しかしながら、特にレトルト食品とした場合は、食べる直前の加熱の際、とろみを調整するために、デンプンや水分を追加するのは、実質的に不可能である。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、レトルトパウチに封入された状態で提供される油麩丼用の食品組成物のとろみを最適に調整するための条件を提供することにある。
【0010】
本発明は、前記の課題に鑑み、前記のとろみの最適範囲を、物理的な特性から評価し、それに対応したデンプンの最適添加量を検討した結果、なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、醤油及び調味料を含むタレを8〜12重量%、水を50〜60重量%、砂糖を2〜3重量%、デンプンを1.0〜1.8重量%、味噌を0.1〜0.2重量%、油麩を10〜15重量%、たまねぎまたは長ねぎの少なくともいずれかを10〜20重量%を含む材料を加熱した後、レトルト処理を施してなる食品組成物であって、レトルトパウチを開封して加熱した後の、前記食品組成物中の液状成分の、剪断速度が0.1〜0.3sec−1の領域における粘度が、剪断速度が0.7sec−1以上の領域における粘度の1.5〜2.1倍であることを特徴とする食品組成物である。
【発明の効果】
【0012】
一般に、水などの液体の粘度は、剪断速度への依存性がないニュートン流体に属する。一方で、高分子化合物の溶融液や溶液は、疑塑性流体やビンガム流体の挙動を示す。疑塑性流体は流れが強くなるほど流動しやすくなる、つまり、剪断速度の増加に従って剪断応力の増加が減少する流体であり、ビンガム流体は一定の剪断応力に達しないと流動を始めないという特徴がある。
【0013】
多くの高分子化合物の溶融体や溶液は、疑塑性流体及びビンガム流体の両方の流動特性を示すことがある。つまり、静止状態では固体に近い特性を発現し、流れや攪拌が強くなるに伴い、粘度が低下するという現象が見られる。
【0014】
片栗粉などのデンプンは、食用に供することができる、代表的な天然の高分子化合物であり、しかも水に分散させた状態で加熱すると、結晶構造をとっているデンプン分子の隙間に水分子が入り込むことで、分子鎖間の距離が増加し、やがては個々の分子鎖が水中に拡がるという性質がある。この現象をデンプンの糊化と称する。糊化状態は常温で放置すると、次第に元の状態に戻るが、加熱により再び糊化し、デンプンを含む分散系の疑塑性流動やビンガム流動をより顕著にする。
【0015】
つまり、本発明の油麩丼用の食品組成物は、レトルト処理後、保存による時間経過で、再びデンプンが結晶化し、食べる直前に加熱すると、レトルトパウチから押し出す際は、円滑に流動し、米飯の上に載せた状態では、固体に近い状態となり、タレなどからなる液状成分は、米飯の下部まで浸透することがなく、前記のような理想的な状態に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 デンプン添加量を変えたときの剪断速度と粘度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、具体的な例に基づき、本発明の実施の形態について説明する。本発明の油麩丼用の食品組成物の材料には、前記の油麩の他、一般的にはたまねぎ、長ねぎなどが用いられ、好みに応じて紅生姜などを加えてもよい。
【0018】
調理例を次に説明する。だし汁、醤油、みりん及び調味料を含むタレが10.0重量%、水が56.5重量%、砂糖が2.0重量%、片栗粉が1.4重量%、味噌が0.1重量%、油麩が12重量%、たまねぎが8重量%、長ねぎが10重量%となるように、それぞれの材料を秤量した。
【0019】
まず鍋に、タレと水を入れて軽く沸騰させ、砂糖を加えて撹拌した。そこへ、油麩、たまねぎ、長ねぎを入れて、タレが浸み込むように約5分間煮込んだ。次いでこれらをアルミニウム箔とポリエステルフィルムを積層したラミネートフィルムで製作されたレトルトパウチに封入し、レトルト処理を施した。なお、ここで味付けのため、タレの他に味噌を加えたのは。いわゆるレトルト臭を除去するためである。
【0020】
前記のように調製した食品組成物200gが充填されたレトルトパウチを、電子レンジを用いて、500Wで110秒加熱して、常温に戻した後、食品組成物の液状成分のみを30メッシュの金網で分離し、B型粘度計で粘度を測定した。その際、比較のために、片栗粉の含有量が0.8重量%のものと、2.0重量%のものを調製し、同様に粘度を測定した。
【0021】
図1は、デンプンつまり、片栗粉の添加量を変えたときの剪断速度と粘度の関係を示す図である。図1において、正方形(□)のプロットは片栗粉の含有量が0.8重量%、円形(○)のプロットは片栗粉の含有量が1.4重量%、三角形(△)のプロットは片栗粉の含有量が2.0重量%のものである。
【0022】
これらの食品組成物を深さが約8cmの、透明な容器に盛った米飯にのせて、液状成分の浸透状態を観察したしたところ、片栗粉が2.0重量%では、まったく液状成分が浸透しなかった。これに対し、片栗粉が1.4重量%では、米飯の上から、約3cmの箇所まで浸透しているのが認められ、片栗粉が0.8重量%では、丼の底の部分の米飯まで浸透していた。
【0023】
ここで、図1に示したデータから、剪断速度が0.2sec−1の粘度を、剪断速度が0.8sec−1の粘度で除した数値を示すと、片栗粉が2.0重量%では、2.18、片栗粉が1.4重量%では、1.88、片栗粉が0.8重量%では1.47であった。これと同様の検討により、液状成分の米飯への浸透が望ましい状態になるための、片栗粉の添加量を確認したところ、概ね1.0〜1.8重量%の範囲であり、このときの前記と同様に算出した粘度の比は、1.5〜2.1であった。つまり、食品組成物の液状成分の粘度を前記のパラメーターを用いることで調整すると、レトルトパウチから小さな力でも円滑に押し出され、米飯に載せた状態では、ある程度固体のような挙動を示して、適度に米飯に浸透することが確認できた。
【0024】
以上に説明したように本発明によれば、レトルトパウチに充填した状態で提供できる、油麩丼用の食品組成物のとろみの程度を、最適に調整することが可能となり、油麩丼の普及に寄与するところは大きいと考えられる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば片栗粉の代替として、コーンスターチを用いるような、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油及び調味料を含むタレを8〜12重量%、水を50〜60重量%、砂糖を2〜3重量%、デンプンを1.0〜1.8重量%、味噌を0.1〜0.2重量%、油麩を10〜15重量%、たまねぎまたは長ねぎの少なくともいずれかを10〜20重量%を含む材料を加熱した後、レトルト処理を施してなる食品組成物であって、レトルトパウチを開封して加熱した後の、前記食品組成物中の液状成分の、剪断速度が0.1〜0.3sec−1の領域における粘度が、剪断速度が0.7sec−1以上の領域における粘度の1.5〜2.1倍であることを特徴とする食品組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−165728(P2012−165728A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43006(P2011−43006)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(508116702)社会福祉法人はらから福祉会 (2)
【Fターム(参考)】