説明

食品

【目的】炭素材を含む食品について、生体でのポリ塩化ビフェニルの蓄積抑制効果を高めることにある。
【構成】食品は、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含んでいる。ここで用いられる炭素材は、通常、平均細孔径が0.70〜0.90nmでありかつ比表面積が950〜1,600m/gである。この食品は、食品中に含まれていたり、生体内に蓄積されたりしているポリ塩化ビフェニルを含むダイオキシン類を炭素材により吸着することができる。また、食品に含まれるこのような炭素材は、摂取された後、生体から排泄物とともに排泄され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、特に、炭素材を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食用魚の市場においては、養殖技術の進歩を背景として、ハマチや鯛などの種々の養殖魚が大量に供給されており、魚種によっては、養殖魚の市場占有率が天然魚のそれを大きく上回るようになっている。
【0003】
ところで、食用魚の養殖においては、稚魚の段階から飼料を積極的に給餌している。ここで用いられる飼料は、通常、鰯等の魚介類系材料から調製したミンチやフィッシュミール、若しくはこれらに魚油や各種の添加物を混合したものであるが、魚介類系材料は、自然環境中に含まれるダイオキシン類を微量に含んでいるため、このような飼料中にも魚介類系材料に由来するダイオキシン類が微量に存在することになる。このため、このような飼料を摂取しながら成長した養殖魚は、飼料中に含まれるダイオキシン類を生物濃縮により濃縮し、それらを体内に蓄積しているおそれがある。ダイオキシン類は、ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)において規定されているように、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)およびポリ塩化ビフェニル(PCBs)(特に、コプラナーポリ塩化ビフェニル(Co−PCBs))を総称したものであるが、いわゆる環境ホルモンとしての作用を示すことから、それらを蓄積した養殖魚を長期間継続的に食料として摂取すると、人体への悪影響が懸念される。
【0004】
そこで、本願出願人は、先に、カーボンブラック、活性炭およびグラファイトのようなダイオキシン類を吸着可能な炭素材を食料に添加した食品を提案している(特許文献1)。この食品に含まれる炭素材は、食料中に含まれる微量なダイオキシン類を吸着することができ、また、この食品を摂取した生体から排泄物とともに排泄される。したがって、この食品を給餌された家畜や養殖魚介類は、通常の飼料を給餌されたものに比べてダイオキシン類の含有量が大幅に減少し得る。
【0005】
しかし、この食品において用いられる炭素材は、PCDDsおよびPCDFsの吸着能に比べてPCBsの吸着能に劣るため、生体内におけるPCBsの蓄積を十分に抑制できない。
【0006】
【特許文献1】国際公開 WO2005/039312公報
【0007】
本発明の目的は、炭素材を含む食品について、生体でのPCBsの蓄積抑制効果を高めることにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の食品は、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含んでいる。この食品は、食品中に含まれていたり、生体内に蓄積されたりしているダイオキシン類を炭素材により吸着することができる。特に、ここで用いられる炭素材は、カルシウムが結合したものであるため、PCDDsおよびPCDFsに対する吸着能に優れているのに加え、PCBsに対する吸着能も優れている。そして、食品に含まれるこのような炭素材は、摂取された後、生体から排泄物とともに排泄され得る。したがって、この食品は、それを摂取した生体において、PCBsを含むダイオキシン類が蓄積するのを効果的に抑制することができる。
【0009】
この食品において用いられる炭素材は、例えば、平均細孔径が0.70〜0.90nmでありかつ比表面積が950〜1,600m/gが好ましい。このような炭素材を用いると、ダイオキシン類、特にPCBsが生体に蓄積するのをより効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明の食品は、例えば、魚介類の養殖、家禽の飼育若しくは家畜の飼育において用いることができる。本発明に係る魚介類の養殖方法は、魚介類に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含んでいる。また、本発明に係る家禽の飼育方法は、家禽に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含んでいる。さらに、本発明に係る家畜の飼育方法は、家畜に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含んでいる。
【0011】
本発明に係るこれらの方法は、本発明の食品を給餌しているため、養殖若しくは飼育された魚介類、家禽若しくは家畜の体内にPCBsを含むダイオキシン類が蓄積するのを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の食品は、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含んでいるため、それを摂取した生体において、PCBsを含むダイオキシン類が蓄積するのを効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明の方法により養殖若しくは飼育された魚介類、家禽若しくは家畜は、本発明の食品が給餌されたものであるため、PCBsを含むダイオキシン類が体内に蓄積しにくく、ヒト用の安全な食料として供給可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の食品は、ヒトが摂取する食品はもちろんのこと、鶏、アヒル、ハト、鶉および鴨などの家禽、犬、猫、豚、馬、兎、鹿および牛などの家畜、魚介類並びにその他の動物の飼育や養殖において用いる飼料も含めた概念のものである。
【0015】
本発明の食品は、食料と炭素材とを主に含む、いわゆる加工食品である。ここで用いられる食料は、ヒトを含む動物が食用とするもの、すなわち、動物が生存するために摂取して滋養を図ることができるものであり、植物性、動物性を問わない。また、天然食料および加工食料のいずれでもよい。さらに、食料は、炭素材と均一に混合可能な形態のものが好ましく、粉状、裁断状若しくはミンチ状等の固形状、液体状または流動状のいずれの形態のものであってもよい。
【0016】
一方、本発明の食品に含まれる炭素材は、カルシウムが結合したものである。カルシウムが結合される炭素材は、賦活処理、例えば水蒸気による賦活処理を施すことで、各種の化合物等に対する吸着能を発揮可能な細孔構造が形成された、実質的に炭素からなるものであり、例えば、カーボンブラック、活性炭およびグラファイト並びにこれらの任意の組み合わせによる混合物を挙げることができる。
【0017】
炭素材の形状は、特に限定されるものではないが、食料と均一に混合しやすい粉末状、顆粒状若しくは微小な繊維状のものが好ましい。炭素材は、これらの各種の形状のものが混合されたものであってもよい。
【0018】
また、炭素材は、上述の細孔構造が特定の平均細孔径および比表面積により特徴付けられたものが好ましい。具体的には、炭素材の平均細孔径は、PCBsの分子の大きさよりもやや大きい0.70〜0.90nmが好ましく、0.70〜0.85nmがより好ましい。また、炭素材の比表面積は、950〜1,600m/gが好ましく、980〜1,400m/gがより好ましい。炭素材の平均細孔径および比表面積をこの範囲に設定することで、本発明の食品を摂取した生体において、PCBs、特に、ノンオルトCo−PCBsおよびモノオルトCo−PCBs、殊にモノオルトCo−PCBsが蓄積するのをより効果的に抑制することができる。炭素材の平均細孔径および比表面積は、炭素材に対する賦活処理の条件を調節することで上述の範囲に調整することができる。
【0019】
ここで、炭素材の平均細孔径は、t−プロット法により測定した場合のものであり、正式には(2t)/nmの単位で表示されるものである。また、比表面積は、窒素ガス吸着のBET法により測定した場合のものである。
【0020】
上述の炭素材に対し、カルシウムは、次のようにして結合させることができる。先ず、炭素材に塩化カルシウム水溶液を添加して均一に混合する。そして、この溶液を加熱して水分を蒸発させた後、炭素材の燃焼を防止するために貧酸素雰囲気下若しくは無酸素雰囲気下において炭素材を150〜300℃、好ましくは160〜200℃で60〜120分程度加熱すると、脱水反応が進行し、主に細孔内にカルシウムが結合した炭素材が得られる。ここで、加熱温度が150℃未満のときは、脱水反応が進行しにくくなり、カルシウムが結合した所要の炭素材が得られない可能性がある。逆に、加熱温度が300℃を超えると、炭素材における炭素とカルシウムとの結合組織が破壊され、カルシウムが結合した所要の炭素材が得られない可能性がある。
【0021】
ここで、炭素材におけるカルシウムの結合量は、炭素材と塩化カルシウム水溶液との混合割合を、塩化カルシウム水溶液濃度を考慮して調節することで制御することができる。炭素材に対するカルシウムの結合量は、通常、炭素材100g当りのカルシウム量が2.0〜10gになるよう設定するのが好ましい。カルシウム量が2.0g未満の場合は、炭素材において、PCBsの吸着能が不十分になる可能性がある。逆に、10gを超える場合は、炭素材の表面にカルシウムが積層しやすくなり、ダイオキシン類に対する吸着力が却って低下する可能性がある。
【0022】
カルシウムの結合量は、通常、陽イオン交換容量測定法により確認することができる。
【0023】
本発明の食品において、炭素材の含有割合は、通常、0.1〜1.0重量%に設定するのが好ましい。炭素材の含有割合が0.1重量%未満のときは、本発明の食品が後述する効果を発揮しにくくなる可能性がある。逆に、1.0重量%を超える場合は、食料の食感や風味を損ねる可能性があり、また、それに比例した効果が得られにくくなる一方で食品が高価になるため不経済である。
【0024】
本発明の食品は、上述の食料に上述の炭素材を加えて混合すると製造することができる。この際、炭素材は、そのまま食料と混合されてもよいし、或いは、例えば、水中に分散させた状態(例えばスラリー状)で食料と混合されてもよい。
【0025】
本発明の食品は、食料中に含まれる微量なダイオキシン類を炭素材により吸着することができる。特に、炭素材は、カルシウムが結合されたものであるため、PCDDsおよびPCDFsに対する吸着能に優れているのに加え、PCBsに対する高い吸着能を示す。これは、PCBsなどのダイオキシン類は、塩化物イオンによる負電荷を有しているのに対し、カルシウムが結合した炭素材は、通常、正電荷を有しているため、炭素材へ引き付けられて吸着しやすいためと考えられる。このため、この食品をヒトを含む動物が摂取した場合、食料に含まれるダイオキシン類および体内、特に消化器系に蓄積しているダイオキシン類は、PCBsを含めて効果的に炭素材に吸着される。そして、PCBsを含むダイオキシン類を吸着した炭素材は、排泄物とともに生体外へ排泄される。
【0026】
したがって、本発明の食品は、生体内にPCBsを含むダイオキシン類を蓄積させにくく、また、生体内に既に蓄積されているPCBsを含むダイオキシン類を体外へ排出する機能も発揮し得る。この結果、本発明の食品は、生体内にPCBsを含むダイオキシン類が蓄積するのを抑制することができる。
【0027】
本発明の食品は、このような機能を有する機能性食品であるため、ヒト用の加工食品または養殖魚介類、家禽若しくは家畜などの飼料として利用することができる。
【0028】
養殖魚介類、家禽若しくは家畜などの飼料として本発明の食品を利用する場合、例えば、本発明の食品を継続的に給餌しながら養殖魚介類、家禽若しくは家畜などを養殖若しくは飼育することができる。この場合、養殖若しくは飼育された生物は、本発明の食品の機能のため、体内にPCBsを含むダイオキシン類が蓄積しにくい。すなわち、本発明の食品を飼料として用いて養殖若しくは飼育された養殖魚介類、家禽若しくは家畜などは、通常の飼料を用いて養殖若しくは飼育されたものに比べ、PCBsを含むダイオキシン類の含有量が大幅に減少することになる。したがって、本発明の食品を用いて養殖若しくは飼育された養殖魚介類、家禽および家畜などは、通常の飼料を用いて養殖若しくは飼育されたものに比べ、ヒト用のより安全な食料になり得る。
【実施例】
【0029】
実施例1〜6
内容積が500ミリリットルの容器中に表1に示す炭素材5gを入れ、これに2重量%の塩化カルシウム水溶液200ミリリットルを加えて室温で60分間攪拌した。続いて、この容器内に水を加えて水洗して過剰なカルシウムを除去し、炭素材を分離した。この炭素材を内容積が500ミリリットルのガラス製フラスコへ移し替え、温度調節機能付の攪拌器を用いて攪拌しながら加熱して水分を蒸発させた後、貧酸素雰囲気下において炭素材を160℃で90分間加熱した。これにより、約5gのカルシウム結合炭素材を得た。得られた約5gのカルシウム結合炭素材におけるカルシウム結合量は、表1に示す通りである。
【0030】
一方、市販のラット用飼料に対し、1g当りの含有量が30pgになるようダイオキシン類(PCDDsとPCDFsとの合計10pg、ノンオルトCo−PCBs10pgおよびモノオルトCo−PCBs10pgの混合物)を添加し、ダイオキシン類含有飼料を調製した。そして、このダイオキシン類含有飼料に対して表1に示す割合でカルシウム結合炭素材を添加して均一に混合し、炭素材含有飼料を調製した。
【0031】
比較例1
市販のラット用飼料に対し、1g当りの含有量が30pgになるようダイオキシン類(PCDDsとPCDFsとの合計10pg、ノンオルトCo−PCBs10pgおよびモノオルトCo−PCBs10pgの混合物)を添加し、ダイオキシン類含有飼料を調製した。そして、このダイオキシン類含有飼料に対し、表1に示す割合で同表に示す炭素材を添加して均一に混合し、炭素材含有飼料を調製した。
【0032】
【表1】

【0033】
評価
各実施例および比較例で得られた炭素材含有飼料のうちの一つを90日間に渡って給餌しながら三匹のラットを飼育した。ここでは、ラット一匹当りに対し、炭素材含有飼料の給餌量が90日の合計で900gになるよう設定した。
【0034】
給餌開始から90日経過後の各ラットについて、体内におけるダイオキシン類の蓄積量を調べた。ここでは、ラットをと殺して丸ごとホモゲナイズし、「野生生物のダイオキシン類蓄積状況等調査マニュアル」(平成14年9月、財団法人自然環境研究センター発行)に記載のダイオキシン類測定法に従ってラットに含まれるダイオキシン類総量、すなわち、ラットにおけるダイオキシン類の蓄積量を求めた。そして、各ラットが摂取したダイオキシン類の吸収率(ダイオキシン類の蓄積量÷食品からのダイオキシン類摂取合計量×100)を計算した。結果を表2に示す。表2に示したダイオキシン類の蓄積量および吸収率は、三匹のラットの平均値である。
【0035】
【表2】

【0036】
表2によると、比較例1の炭素材含有飼料が与えられたラットは、PCBs、特にモノオルトCo−PCBsの吸収率が極めて高く、体内に多量のモノオルトCo−PCBsが蓄積しているのに対し、実施例1〜6の炭素材含有飼料が与えられたラットは、比較例1に比べて体内におけるPCBsの蓄積量が大幅に減少していることがわかる。特に、平均細孔径および比表面積が所定範囲の炭素材を含む飼料が与えられたラットは、ノンオルトCo−PCBsおよびモノオルトCo−PCBsの蓄積量がいずれも激減している。これによると、カルシウムが結合した炭素材を含む飼料は、ラットの体内にPCBs、PCDDsおよびPCDFsの各ダイオキシン類が蓄積するのを効果的に抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品。
【請求項2】
前記炭素材は、平均細孔径が0.70〜0.90nmでありかつ比表面積が950〜1,600m/gである、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
魚介類に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含む、魚介類の養殖方法。
【請求項4】
家禽に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含む、家禽の飼育方法。
【請求項5】
家畜に対し、吸着能を発揮可能な細孔構造を有しかつカルシウムが結合した炭素材を含む食品を給餌する過程を含む、家畜の飼育方法。


【公開番号】特開2008−104449(P2008−104449A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157090(P2007−157090)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】