説明

食器洗浄機用洗浄剤

【課題】 アルカリ剤や酵素を含有することなく、タンパク汚れや油脂汚れに対して優れた洗浄力を有し、安全で環境に優しい自動食器洗浄機用洗浄剤を提供する。
【解決手段】下記一般式で表されるメルカプトアルキルスルホン酸もしくはその塩(P)および/またはメルカプトアルキルカルボン酸もしくはその塩(Q)を必須成分とする食器洗浄機用洗浄剤を使用する。
HS−(CH2m−SO3-・B+ (1)
HS−(CH2nCOO-・B+ (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食器洗浄機器用洗浄剤に関する。さらに詳しくは、食器に付着したタンパク質や油脂などの汚れを洗浄し、かつこの汚れの再付着を防止する洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、業務用自動食器洗浄機用洗浄剤は、アルカリ剤を主成分とし、その液性は、pH11を超える強アルカリ性である。このため、洗浄剤、あるいは洗浄液に接触した場合、皮膚及び粘膜への刺激が強く、安全性に問題がある。また、このような強アルカリ性の洗浄液の洗浄排水は、環境へ悪影響を及ぼし好ましくない。このため安全性、環境への負荷軽減等の観点から、近年、業務用自動食器洗浄機に用いられる洗浄剤において弱アルカリ化もしくは中性化が強く求められている。
【0003】
洗浄剤の弱アルカリ化として、従来のアルカリ剤を中心とした業務用の自動食器洗浄機用洗浄剤のアルカリ量を減らして、弱アルカリ化させただけのものや、炭酸ソーダなどの弱アルカリ剤と非イオン界面活性剤等を使用した洗浄剤が提案されている(特許文献1)。この場合、従来の洗浄剤に対して、廃水負荷等が軽減されるものの、完全な解決には至っていない。また、このようなアルカリを低減化した洗浄剤や弱アルカリ洗浄剤では、油脂やデンプン除去といったアルカリによる乳化力、加水分解力によって洗浄される汚れに対しては、洗浄性が乏しいという問題があった。
【0004】
また、アルカリ剤を全く含まない自動食器洗浄機用液体洗浄剤組成物も提案されているが(特許文献2)、洗浄力等の性能において、充分な性能を有するものではなかった。
【0005】
また、弱アルカリ洗浄剤の洗浄力を改善するために、弱アルカリ性領域での酵素の使用が提案されている(特許文献3)。しかし、酵素は洗浄温度、洗浄液のpH、洗浄時間等に、その性能が大きく左右される。例えば、デンプン分解酵素であるアミラーゼにおいては、高温や、アルカリ性域での活性の低さや失活の問題があった。また従来の発明は、家庭用自動食器洗浄機のような長時間の洗浄工程(20分〜30分)において実施されるものであり、業務用自動食器洗浄機のような短い洗浄時間(1分30秒以下)では効果がなかった。
【0006】
また、自動食器洗浄機で使用される固形ブロック洗浄剤は、苛性ソーダのような高アルカリを基剤とすることを前提に凝固、固化させることが検討されてきた(水和ナトリウム材料を用いる凍結加工法、特許文献4)。この従来の方法で、アルカリ剤を含まない洗浄剤を製造した場合、経時的に膨張し、亀裂が生じてしまう。さらに洗浄剤の溶解性が悪く、供給水温や供給水圧が低い場合に必要量の洗浄剤を供給できないという問題がある。また配合する成分によっては、失活あるいは分解等が起きてしまう。
【0007】
【特許文献1】特開2001−64698号公報
【特許文献2】特開2002−146400号公報
【特許文献3】特開平10−195483号公報
【特許文献4】特公昭59−4480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、アルカリ剤や酵素を含有することなく、優れた洗浄力を有し、安全で環境に優しい自動食器洗浄機用洗浄剤を提供することにある。特に業務用自動食器洗浄機において優れた性能を示す、自動食器洗浄機用洗浄剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、メルカプトアルキルスルホン酸もしくはその塩(P)および/またはメルカプトアルキルカルボン酸もしくはその塩(Q)を必須成分とする食器洗浄機用洗浄剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の食器洗浄機用洗浄剤は、アルカリ性物質の併用を必要とせず、中性pH領域で使用できるので、洗浄機の金属部分の腐食を抑えることができる。また、洗浄後の廃液の環境への影響も少いので地球に優しいクリーンな洗浄剤である。また、本洗浄剤はタンパク質および油脂汚れの両方に対する洗浄力が非常に高いので、残存汚れの完全除去と短時間での洗浄効果が要求される業務用食器洗浄機用洗浄剤にも特に有用である。さらに、洗浄温度を高くしてもアルカリ性物質による腐食や酵素の失活などの問題がないため、本発明の洗浄剤は高温で使用することによりさらに高い洗浄度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の食器洗浄機用洗浄剤は、食器に付着したタンパク質や油脂汚れを食器洗浄機で洗浄する際に使用されるメルカプト基を含有する界面活性剤を必須成分とする洗浄剤であり、具体的には、下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルスルホン酸またはその塩(P)、下記一般式(2)で表されるメルカプトアルキルカルボン酸またはその塩(Q)、およびこれらの混合物をを必須成分とすることを特徴とする。
HS−(CH2m−SO3-・B+ (1)
HS−(CH2n COO-・B+ (2)
(式中、mは1〜24の整数;nは1〜24の整数;B+はプロトン、または塩基が解離したカチオンを表す。)
【0012】
本発明のメルカプトアルキルスルホン酸またはその塩(P)とは、上記の一般式(1)により表されるメルカプトアルキルスルホン酸、またはその塩である。
式中のmは、通常1〜24、好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜8の整数である。mが24を超えると溶解性が不十分であるため適さない。
【0013】
式中のB+は、プロトン、または塩基が解離したカチオンを表す。
さらに、この塩基の25℃におけるpKbが5.0以下のものが好ましい。 さらに好ましくは、pKbが3.0以下である。
【0014】
ここで、pKbとは塩基解離定数を表し、段階解離する場合は、最も低い塩基解離定数のことをpKbとする。
【0015】
また、pKbが5.0以下の塩基とは、本質的に強塩基を表し、このような塩基としては、無機塩基と有機塩基が挙げられる。
【0016】
+が無機塩基が解離したカチオンの場合、BOHは水溶液中で下式のような平衡反応で解離する。
【0017】
【化1】

【0018】
この平衡の平衡定数Kbは次式で表される。
b=[B+][OH-]/[BOH]
つまりpKbの値が低いほど強い塩基を表す。
【0019】
+が有機塩基が解離したカチオンの場合、Bは水溶液中で下式のような平衡反応で解離する。
【0020】
【化2】

【0021】
この平衡の平衡定数Kbは次式で表される。
b=[B+][OH-]/[B]
つまりpKbの値が低いほど強い塩基を表す。
【0022】
ここで、無機塩基としては、具体的にナトリウム(pKb0.2)、カリウム(pKb4.1)等のアルカリ金属が挙げられる。
有機塩基としては具体的に、アンモニア(pKb4.8)、メチルアミン(pKb3.4)、等の有機アミン;グアニジン(pKb1.5)、アルギニン(pKb1.5)等のアミジン系化合物が挙げられる。
【0023】
本発明のメルカプトアルキルカルボン酸またはその塩(Q)とは、前記の一般式(2)により表されるメルカプトアルキルカルボン酸、またはその塩である。
式中のnは、通常1〜24、好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜8の整数であり、24を超えると溶解性が不十分であるため適さない。
【0024】
式中のB+は上記した(P)の場合と同様である。
【0025】
本発明におけるメルカプトアルキルスルホン酸またはその塩(P)の添加量は、水100部に対して0.001部〜10部が好ましく、洗浄性の観点から0.01部〜1部がさらに好ましい。添加量が0.001部未満の場合、洗浄性が不十分で、10部より多い場合、食器に残存しやすくなるため適さない。
【0026】
本発明におけるメルカプトアルキルカルボン酸またはその塩(Q)の添加量は、水100部に対して0.001部〜10部が好ましく、洗浄性の観点から0.01部〜1部がさらに好ましい。添加量が0.001部未満の場合、洗浄性が不十分で、10部より多い場合、食器に残存しやすくなるため適さない。
【0027】
本発明の洗浄剤は、洗浄剤の安定性が確保できるpHであれば特に限定しないが、金属への腐食性の観点からpH5.5〜9.5で使用することが好ましい。
【0028】
本発明の洗浄剤は、その状態が液状であっても固体状であってもよい。
固体状の場合は、使いやすいように粉末にしてそのまま使用してもよいし、水などで溶解させて液状にしてもよい。さらに、例えばポリエチレングリコールなどの水溶性の形成賦与剤を配合して成形体に固めて使用することもできる。
【0029】
本発明の洗浄剤は、洗浄性を向上させるために、さらに他の界面活性剤、無機中性塩、キレート剤、消泡剤を加えてもよい。
【0030】
他の界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が挙げられ、一般的に知られているノニオン界面活性剤を使用することが可能である。
例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、プルロニック型ブロックポリマー、テトロニック型ブロックポリマー、リバースプルロニック型ブロックポリマー、リバーステトロニック型ブロックポリマー、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2)、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、パーム核脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類、アルキルグルコシド類、アミンオキサイド類等があげられる。これらのノニオン界面活性剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
無機中性塩としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム等があげられ、硫酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
キレート剤としては、アミノポリ酢酸およびその塩、各種リン酸塩、ホスホン酸またはホスホノカルボン酸およびその塩、有機酸塩、アミノ酸およびその塩等があげられ、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウムが好ましい。
消泡剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0033】
本発明の別の態様は、本発明の洗浄剤を使用して食器のタンパク汚れや油脂汚れを洗浄する洗浄方法にある。本方法は中性付近のpHでもタンパク汚れや油脂汚れの洗浄性に優れているので、食器洗浄機内の金属部分やガラス部分を腐食することなく、食品加工製造設備の洗浄に有効に使用することができる。
【0034】
本発明の洗浄方法の一例を以下に説明するが、これに限定されない。
本発明の食器洗浄機用洗浄剤を含む洗浄液を設備内部に通じ、水ですすぐなどの方法があり、これにより食器のタンパク汚れや油脂汚れを効率よく除去することができる。
また、本発明の食品加工製造設備用洗浄剤は、高温で使用することも可能であり、これによって更に洗浄性が向上する。
【実施例】
【0035】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
製造例1 (メルカプトプロピオン酸ナトリウムの合成)
メルカプトプロピオン酸(東京化成社製)1.06gを200mLのビーカーに入れ、イオン交換水100gを加えて溶解させ、水酸化ナトリウム0.36gを加え、マグネチック攪拌子を用いて40℃、200rpmの回転数でマグネチックスターラーで10分間攪拌した。その後、エバポレーターで水分を留去して乾固させて、本発明のメルカプトプロピオン酸ナトリウムを得た。
【0037】
<タンパク汚れ評価のテストピース作成>
タンパク汚れのモデル物質として、卵白1.5mlを5cm×2cm×2mmのガラスプレートに塗布し、120℃、0.01MPaの減圧乾燥器で1時間乾燥させて卵白を固着させた。水で1分間軽く洗い、再度120℃、0.01MPaの減圧乾燥器で1時間乾燥させ、タンパク汚れが付着したガラスプレートを作製した。
【0038】
<油脂汚れ評価のテストピース作成>
米澱粉1gを水20gに溶解し、80℃で3分間攪拌して糊化させた。これに、加熱してとかした牛脂20gを加えてよく攪拌し、53℃前後まで冷ました後、卵黄10g加えて攪拌したものを本試験用の油脂汚れとした。この油脂汚れを5cm×2cm×2mmのガラスプレートに塗布し、室温で放置して乾燥させ、油脂汚れが付着したガラスプレートを作製した。
【0039】
実施例1 (メルカプトプロピルスルホン酸ナトリウム)
200mLビーカーに、メルカプトプロピルスルホン酸ナトリウム0.14gとイオン水199.9gを入れて溶解させ、タンパク汚れ評価と油脂汚れ評価用のガラスプレートを1枚とマグネチック攪拌子を入れ、25℃、200rpmの回転数でマグネチックスターラーで10分間攪拌させた。
攪拌後、ガラスプレートを取り出し、水で軽くすすぎ、再度減圧乾燥器で120℃、30分間乾燥させた。
油脂汚れ評価用のガラスプレートについても。同様の操作を行った。
【0040】
実施例2 (メルカプトプロピオン酸ナトリウム)
メルカプトプロピルスルホン酸ナトリウム0.14gの代わりに、製造例で調製したメルカプトプロピオン酸ナトリウム0.10gに変更した以外は実施例1と同様におこない、タンパク汚れ評価用のガラスプレートと油脂汚れ評価用のガラスプレートをそれぞれ洗浄した。
【0041】
比較例1 (プロパンスルホン酸ナトリウム)
メルカプトプロピルスルホン酸ナトリウム0.14gの代わりに、メルカプト基を有しないプロパンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)0.12gに変更した以外は実施例1と同様におこなった。
【0042】
比較例2 (プロピオン酸ナトリウム)
メルカプトプロピルスルホン酸ナトリウム0.14gの代わりに、メルカプト基を有しないプロピオン酸ナトリウム(和光純薬社製)0.08gに変更した以外は実施例1と同様におこなった。
【0043】
<タンパク汚れの評価方法>
まず、タンパク汚れの除去率を以下の式で算出した。
除去率(%)={[(A)−(C)]/[(A)−(B])}×100
但し、A:汚れ付着後のガラスプレートの重量(g)
B:最初のガラスプレートの重量(g)
C:洗浄後のガラスプレートの重量(g)
【0044】
次に、このタンパク汚れの除去率に基づき、以下の尺度で評価した。
○・・・除去率:80%以上
△・・・除去率:50%以上80%未満
×・・・除去率:50%未満
【0045】
<油脂汚れの評価方法>
まず、上記のタンパク汚れの除去率と同じ計算式で、油脂汚れの除去率を算出した。
次に、この油脂汚れの除去率に基づき、以下の尺度で評価した。
○・・・除去率:80%以上
△・・・除去率:50%以上80%未満
×・・・除去率:50%未満
【0046】
【表1】

【0047】
表1で示すように、本発明のチオール基を含む化合物は、タンパク汚れと油脂汚れの両方に対しても高い洗浄効果があることから、食器洗浄機用洗浄剤として高い洗浄効果を有すると言える。一方、チオール基を含まない比較例の化合物では、タンパク汚れに対する洗浄効果が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の食器洗浄機用洗浄剤は、アルカリ剤や酵素を含有することなく、優れた洗浄力を有し、安全で環境に優しい洗浄剤である。特にタンパク汚れに対して優れた洗浄力を有していることから、食器に強固にこびりついた卵などの汚れを洗浄することができる。また、アルカリ性物質による腐食や酵素の失活などの問題がないため、本発明の洗浄剤は高温で使用することによって、さらに高い洗浄度を得ることができる。よって業務用食器洗浄機に特に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるメルカプトアルキルスルホン酸もしくはその塩(P)および/または下記一般式(2)で表されるメルカプトアルキルカルボン酸もしくはその塩(Q)を必須成分とすることを特徴とする食器洗浄機用洗浄剤。
HS−(CH2m−SO3-・B+ (1)
HS−(CH2nCOO-・B+ (2)
(式中、mは1〜24の整数、;nは1〜24の整数;B+はプロトンまたは塩基が解離したカチオンを表す。)
【請求項2】
該塩基BのpKb(25℃)が0〜5.0である請求項1記載の食器洗浄機用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の食器洗浄機用洗浄剤で食器に付着したタンパク質または油脂による汚れを洗浄する洗浄方法。

【公開番号】特開2008−231221(P2008−231221A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71910(P2007−71910)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】