説明

食用サボテンの処理方法、食用サボテン及び食用サボテン添加食品

【課題】 食用サボテンの表皮の青臭さをマスキングするとともに、褐変色を抑制することができる食用サボテンの処理方法、その処理方法により処理された食用サボテン及び当該食用サボテンを添加した食品を実現する。
【解決手段】
本発明の食用サボテンの処理方法によれば、マスキング工程S3において食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させることにより、食用サボテンの青臭さの原因となるにおい成分を包接することができるので、食用サボテンの青臭さをマスキングして改善することができる。褐変色抑制工程S2において食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させることにより、食用サボテンの褐変色を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用サボテンの処理方法、その処理方法により処理された食用サボテン及び当該食用サボテンを添加した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多肉植物であるアロエは、表皮を除いた葉肉が、食感の楽しさ、多糖類を多く含んでいる点などに注目されて、ヨーグルトなどに添加されて食されている。例えば、特許文献1には、アロエ葉肉を含有した飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−298971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メキシコなどで食習慣のあるサボテンはアロエ同様の多肉植物であり、食物繊維、カルシウム、カリウムなどのミネラルやアミノ酸、アスコルビン酸、ビタミン類などを豊富に含んでいる。また、表皮にはポリフェノールが多く含まれているなど栄養価も高く、見た目にも楽しめるため、葉肉のみならず表皮も食用としたい反面、表皮には独特の青臭さがあり、味を損ねる原因となっている。また、表皮は、収穫後に長期間放置すると鮮緑色から褐色がかった緑色に変色(褐変色)が生じるため、色めが悪くなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、食用サボテンの表皮の青臭さをマスキングするとともに、褐変色を抑制することができる食用サボテンの処理方法、その処理方法により処理された食用サボテン及び当該食用サボテンを添加した食品を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、食用サボテンの処理方法において、食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させて青臭さの原因となるにおい成分を包接してマスキングするマスキング包接工程を備えた、という技術的手段を用いる。
【0007】
サイクロデキストリンは、6単位以上のD−グルコースが環状に結合したオリゴ糖であり、分子内に空洞を持ち、分子を空洞内に包み込む包接性を有している。請求項1に記載の発明によれば、マスキング工程において食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させることにより、食用サボテンの青臭さの原因となるにおい成分を包接することができるので、食用サボテンの青臭さをマスキングして改善することができる。また、サイクロデキストリン水溶液は褐変色を抑制する効果を奏することができる。ここで、食用サボテンとは、食習慣のあるサボテンの茎節を意味する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の食用サボテンの処理方法において、食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させて褐変色を抑制する褐変色抑制工程を更に備えた、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、褐変色抑制工程において食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させることにより、食用サボテンの褐変色を更に効果的に抑制することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の食用サボテンの処理方法において、前記マスキング工程において、前記サイクロデキストリンとして、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンあるいはこれらの化学修飾体よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いる、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、サイクロデキストリンとして、マスキング工程において、サイクロデキストリンとして、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンあるいはこれらの化学修飾体よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。これらのサイクロデキストリンは、高いマスキング効果を発現するため、マスキング工程に好適に用いることができる。また、化学修飾により水溶性を向上させることなどにより、マスキング効果を向上させることもできる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法において、前記褐変色抑制工程において、前記有機酸塩として、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム及び乳酸ナトリウムの少なくとも1種を用いる、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項4に記載の発明のように、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム及び乳酸ナトリウムは、食用サボテンの褐変色の抑制効果が高いため、褐変色抑制工程における有機酸塩として好適に用いることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法において、前記食用サボテンがウチワサボテンである、という技術的手段を用いる。
【0015】
ウチワサボテンは、代表的な食用サボテンであり、茎節が大きな扇状で繁殖力が強いため、請求項5に記載の発明のように、本発明の食用サボテンとして好適に用いることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、食用サボテンが、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法において処理されたものである、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項6に記載の発明のように、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法において処理された食用サボテンは、青臭さがマスキングされ、褐変色が抑制されているため、食用として好適に用いることができる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、食用サボテン添加食品において、請求項6に記載の食用サボテンを添加した、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の食用サボテンは、青臭さがマスキングされ、褐変色が抑制されているため、ヨーグルトに添加する等により食用サボテン添加食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の食用サボテンの処理方法を示す工程図である。
【図2】サイクロデキストリン水溶液を用いて処理したウチワサボテンの測色色差計による測定結果を示す説明図である。
【図3】有機酸塩として酢酸ナトリウムを用いた褐変色抑制工程を実施したウチワサボテンの測色色差計による測定結果を示す説明図である。
【図4】有機酸塩としてクエン酸三ナトリウムを用いた褐変色抑制工程を実施したウチワサボテンの測色色差計による測定結果を示す説明図である。
【図5】有機酸塩として乳酸ナトリウムを用いた褐変色抑制工程を実施したウチワサボテンの測色色差計による測定結果を示す説明図である。
【図6】有機酸塩含有製剤としてシンヤクアオモノ−NF2(日本新薬株式会社製)を用いた褐変色抑制工程を実施したウチワサボテンの測色色差計による測定結果を示す説明図である。
【図7】未処理のウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムである。
【図8】マスキング工程を実施したウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムである。
【図9】ヨーグルトに添加するウチワサボテンの処理方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
食用サボテンの処理は、図1に示す工程により行う。前処理工程S1では、食用サボテンの茎節、例えばウチワサボテン、の表皮の棘を除去した後に、表皮の最外部の薄皮を除去し、用途に応じて所定の大きさに切断する。本工程において、色調を鮮やかにするために、ブランチング処理(例えば、食用サボテンを沸騰水に数十秒くぐらせる)を行うこともできる。
【0022】
続く褐変色抑制工程S2では、前処理が行われた食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させて褐変色を抑制する。ここで、食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させる方法は、浸漬が最も容易で効果的であるが、噴霧、塗布など各種接触方法を採用することもできる。
【0023】
有機酸塩としては、酢酸ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムの少なくとも1種を用いることができる。酢酸ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムは、食用サボテンの褐変色の抑制効果が高いため、褐変色抑制工程においる有機酸塩として好適に用いることができる。
【0024】
食用サボテンの褐変色は、長期間の保存により、緑色を発するクロロフィルのマグネシウムがはずれてフェオフィチンに変化することが一因と考えられる。この変化は酸性状態で起こりやすく、食用サボテンが酸性(例えば、ウチワサボテンではpH4程度)であることが主な要因となる。
褐変色を抑制するメカニズムとして、有機酸塩水溶液に接触させることにより、中性側にシフトさせることができるため、クロロフィルのマグネシウムがはずれることを抑制することができることが推定される。
【0025】
有機酸塩水溶液の濃度は、特に制限されないが、褐変色を効果的に抑制するためには、例えば1重量%〜5重量%程度とすることができる。有機酸塩水溶液の使用量は、食用サボテンを浸漬する場合には同重量程度とすればよい。
【0026】
続くマスキング工程S3では、食用サボテンをサイクロデキストリン水溶液に接触させてにおい成分を包接することにより食用サボテンの青臭さをマスキングする。ここで、褐変色抑制工程S2同様に、食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させる方法は、浸漬が最も容易で効果的であるが、噴霧、塗布など各種接触方法を採用することもできる。
【0027】
サイクロデキストリンは、D−グルコースがα−1,4−グルコシド結合により6単位以上結合して環状構造を有するオリゴ糖である。D−グルコース6単位からなるサイクロデキストリンがα−サイクロデキストリン、7単位からなるサイクロデキストリンがβ−サイクロデキストリン、8単位からなるサイクロデキストリンがγ−サイクロデキストリンと呼ばれている。
【0028】
サイクロデキストリンは、分子内に空洞を備えており、内部に様々の物質を包み込む包接性を有している。ここで、α−サイクロデキストリンの分子環径は約0.45nmであり、β−サイクロデキストリンの分子環径は約0.60nmであり、γ−サイクロデキストリンの分子環径は約0.85nmである。空洞の内側は疎水性、外側は親水性を示す。サイクロデキストリンによる包接は、どんな分子に対しても起こるわけでなく、特定の分子を選択的に包接する分子認識という特性がある。このサイクロデキストリンの分子認識により、におい成分を選択的に包接して、マスキングすることができる。
【0029】
マスキング工程S3で用いるサイクロデキストリンは、D−グルコースがα−1,4−グルコシド結合により6単位以上結合して環状構造を有するオリゴ糖であれば、特に限定されるものではないが、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンを好適に用いることができる。特に、α−サイクロデキストリンは、サボテンのにおい成分を選択的に包接することができるので、他のサイクロデキストリンに比べ、青臭さの抑制効果が高い。
【0030】
また、サイクロデキストリン誘導体を用いることもできる。サイクロデキストリン誘導体としては、グルコース、マルトース、セルロース等を結合させた分岐サイクロデキストリンやアルキル基、ヒドロキシアルキル基などと結合させて化学修飾した部分アルキル化サイクロデキストリンを使用することができる。化学修飾したサイクロデキストリンは、非修飾のサイクロデキストリンに比べて水に対する溶解性が高いので、好適に用いることができる。
【0031】
サイクロデキストリン水溶液の濃度は、特に制限されないが、包接反応を効率よく行なうためには、例えば1重量%〜5重量%程度とすることができる。サイクロデキストリン水溶液の使用量は、食用サボテンを浸漬する場合には同重量程度とすればよい。あえて青臭さを少し残して食用サボテンの存在感を主張するような狙いがある場合には、
溶液濃度、処理時間などの処理条件により調節することもできる。
【0032】
上述の工程により処理されたサボテンは、各種食品に添加して用いることができる。例えば、ヨーグルト、パン、ケーキ、ドレッシングなど各種食品に添加することにより、それらを食した人は、色調、歯ごたえなどを楽しむことができるとともに、有益な栄養成分などを摂取することができる。
【0033】
ここで、褐変色抑制工程S2とマスキング工程S3とはどちらを先に実施してもよい。また、マスキング工程S3において、サイクロデキストリン水溶液により十分な褐変色抑制効果が得られる場合には、褐変色抑制工程S2を省略することができる。
【0034】
褐変色抑制工程S2は、前処理工程S1におけるブランチング処理と同時に行うこともできる。例えば、食用サボテンを加熱した有機酸塩水溶液に数十秒くぐらせることにより行うことができる。
【0035】
以下に本発明の食用サボテンの処理方法に係る実施例を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1:褐変色抑制工程の効果の検証)
サイクロデキストリンとして、α−サイクロデキストリンであるデキシパールα−100(塩水港精糖株式会社製)を、有機酸塩として酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム及び乳酸ナトリウム、有機酸塩含有製剤として酢酸ナトリウム製剤シンヤクアオモノ−NF2(日本新薬株式会社製)を用いて、褐変色抑制工程の効果の確認を行った。表1にシンヤクアオモノ−NF2の成分を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
前処理工程において1cm角に成形したウチワサボテンに30秒間のブランチング処理を施した後に、上述のサイクロデキストリン、有機酸塩及び有機酸塩含有製剤の1〜5重量%の水溶液に浸漬し、3日間の色調変化を観察した。比較のため、ウチワサボテンを水に浸漬したものをブランクとして用いた。水溶液とウチワサボテンの量比は、重量比で1:1とした。
【0039】
色調変化は、目視による確認とともに、測色色差計(NE−2000:日本電色工業株式会社製)により定量化して測定した。
【0040】
測色色差計では、色の明るさ(明度)を表すL*値、赤み、緑みを表すa*値、黄色み、青みを表すb *値という3種類のパラメータを計測し、色調の変化を数値化するものである。a*値は、+方向ならば赤みを、−方向ならば緑みを示し、褐変色を敏感に検出可能であるため、それぞれのa*値(5試料の平均値)を用いて褐変色を評価した。
【0041】
サイクロデキストリン、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、乳酸ナトリウム及びシンヤクアオモノ−NF2の水溶液を用いた場合のa*値の経時変化を図2〜6にそれぞれ示す。ブランクのa*値は、時間の経過とともに増大し、未処理のウチワサボテンは褐変色を示している。
【0042】
サイクロデキストリンの水溶液を用いた場合、図2に示すように、浸漬3日後においてすべての濃度の水溶液でa*値がブランクよりも低く、褐変色の抑制効果が認められた。
【0043】
酢酸ナトリウムの水溶液を用いた場合、図3に示すように、浸漬3日後においてすべての濃度の水溶液でa*値がブランクよりも低く、褐変色の抑制効果が認められた。濃度が高い方が褐変色の抑制効果が高く、また、サイクロデキストリンの水溶液を用いた場合よりも、高い褐変色の抑制効果が認められた。
【0044】
クエン酸三ナトリウムの水溶液を用いた場合、図4に示すように、浸漬3日後においてすべての濃度の水溶液でa*値がブランクよりも低く、褐変色の抑制効果が認められた。
【0045】
乳酸ナトリウムの水溶液を用いた場合、図5に示すように、浸漬3日後においてすべての濃度の水溶液でa*値がブランクよりも低く、褐変色の抑制効果が認められた。
【0046】
シンヤクアオモノ−NF2の水溶液を用いた場合、図6に示すように、浸漬3日後においてすべての濃度の水溶液でa*値がブランクよりも低く、褐変色の抑制効果が認められた。また、サイクロデキストリンの水溶液を用いた場合よりも、高い褐変色の抑制効果が認められた。
【0047】
また、3重量%のシンヤクアオモノ-NF−2の水溶液に1日浸漬後に、引き続き50重量%の砂糖水に浸漬し、変色の確認を行ったところ、変色せずに鮮緑を維持していた。
【0048】
以上より、有機酸塩水溶液を用いた変色抑制工程によって褐変色の抑制効果を奏することができることが確認できた。特に、酢酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムを有効成分として含有するシンヤクアオモノ−NF2の水溶液において、高い褐変色の抑制効果が認められた。
また、マスキング工程で使用するサイクロデキストリンでも褐変色の抑制効果を奏することができることが確認できた。
【0049】
(実施例2:マスキング工程の効果の検証)
α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリンとしてそれぞれデキシパールα−100、デキシパールβ−100、デキシパールγ−100(塩水港精糖株式会社製)を用い、また、化学修飾体としてβ−サイクロデキストリンにマルトースの枝を付加したG2−β−サイクロデキストリンを用い、マスキング工程の効果の確認を行った。
【0050】
前処理工程において1cm角に成形したウチワサボテンに30秒間のブランチング処理を施した後に、上述のサイクロデキストリンを1〜3重量%溶解した砂糖水(50重量%)に浸漬し、1日後の青臭さの変化を確認した。比較のため、ウチワサボテンを砂糖水に浸漬したものをブランクとして用いた。水溶液とウチワサボテンの量比は、重量比で1:1とした。
【0051】
青臭さの確認は、人間の嗅覚による官能検査とガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)によるにおい成分の検出により行った。
【0052】
ガスクロマトグラフ質量分析装置によるにおい成分の検出では、すり潰したウチワサボテンをバイヤルビンに1.0g入れて、ヘッドスペースのガスをサンプリングして分析に供した。ヘッドスペースガスの注入量は1000μlとした。カラム温度は35℃を5分間維持した後、130℃までは2℃/min、220℃までは5℃/minで昇温し、スキャンモード、スキャンレンジm/z40〜300でGC/MSクロマトグラムの測定を行った。
【0053】
官能検査の結果、いずれのサイクロデキストリンを用いた場合でも、青臭さが抑制されており、マスキング工程によるマスキング効果を確認することができた。マスキング効果が高い順は、デキシパールα−100、デキシパールγ−100、G2−β−サイクロデキストリン、デキシパールβ−100であった。α−サイクロデキストリンは、サボテンのにおい成分を選択的に包接することができるので、他のサイクロデキストリンに比べ、マスキング効果が高いと推定された。また、化学修飾したサイクロデキストリンは、非修飾のサイクロデキストリンに比べて水に対する溶解性が高いので、G2−β−サイクロデキストリンの方が、デキシパールβ−100よりもマスキング効果が高かったと推定された。
【0054】
デキシパールα−100の2重量%砂糖水でマスキング処理したウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムを未処理のウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムと比較した。図5は未処理のウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムであり、図6はマスキング工程を実施したウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムである。
【0055】
図7に示すように、未処理のウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムではHexanal、1−Hexenol、3-Hexen-1-olなど青臭さの原因と考えられているにおい成分が検出された。一方、図8に示すように、マスキング工程後のウチワサボテンのGC/MSクロマトグラムでは、上記のにおい成分はほとんど検出されなかった。これは、サイクロデキストリンがにおい成分を包接したことを示しており、サイクロデキストリンによりマスキング効果が発現することが確認された。
【0056】
(実施例3:食品への添加)
マスカットフレーバー、上白糖などを用いて調製されたヨーグルト70gに、図9に示す工程を経たウチワサボテンを20個、シロップ5gをそれぞれ添加し、サボテンヨーグルトを作製した。ヨーグルトの白色にウチワサボテンの鮮緑色がよく映えて色調を楽しむことができた。また、ウチワサボテン、ヨーグルトともに食感が良くなり、歯ごたえなどを楽しむことができた。
【0057】
[発明を実施するための形態の効果]
本発明の食用サボテンの処理方法によれば、マスキング工程S3において食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させることにより、食用サボテンのにおい成分を包接することができるので、食用サボテンの青臭さをマスキングして改善することができる。また、サイクロデキストリン水溶液は褐変色を抑制する効果を奏することができる。
褐変色抑制工程S2において食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させることにより、食用サボテンの褐変色を更に効果的に抑制することができる。
マスキング工程S3ではサイクロデキストリンとして、褐変色抑制工程S2では有機酸塩として好ましいものを選択することにより、更に優れた効果を得ることができる。
また、ウチワサボテンは、代表的な食用サボテンであり、茎節が大きな扇状で繁殖力が強いため、本発明の食用サボテンとして好適に用いることができる。
本発明の処理方法において処理された食用サボテンは、青臭さがマスキングされ、褐変色が抑制されているため、食用として好適に用いることができ、ヨーグルトに添加する等により食用サボテン添加食品を製造することができる。
【符号の説明】
【0058】
S1 前処理工程
S2 褐変色抑制工程
S3 マスキング工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用サボテンをサイクロデキストリン水溶液に接触させて青臭さの原因となるにおい成分を包接してマスキングするマスキング工程を備えたことを特徴とする食用サボテンの処理方法。
【請求項2】
食用サボテンに有機酸塩水溶液を接触させて褐変色を抑制する褐変色抑制工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の食用サボテンの処理方法。
【請求項3】
前記マスキング工程において、前記サイクロデキストリンとして、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンあるいはこれらの化学修飾体よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の食用サボテンの処理方法。
【請求項4】
前記褐変色抑制工程において、前記有機酸塩として、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム及び乳酸ナトリウムの少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法。
【請求項5】
前記食用サボテンがウチワサボテンであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の食用サボテンの処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載された食用サボテンの処理方法により処理されたことを特徴とする食用サボテン。
【請求項7】
請求項6に記載の食用サボテンを添加したことを特徴とする食用サボテン添加食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−4611(P2011−4611A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148467(P2009−148467)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】