説明

食用油を用いた海中付着生物防汚剤

【課題】
海中の付着生物汚染を目的とした塗布型防汚剤は、殻付きで販売する養殖貝類に使
用すると防汚剤が残留したまま食品として供給される可能性が高く、食品安全の面から、防汚剤の残留によって食品の安全性が損なわれることがなく、残留防汚剤の除去を行わなくてよい海中付着生物防汚剤を提供する。
【解決手段】
本発明は、海面養殖貝類(カキ類、アコヤガイ類、アワビ類)において、殻の表面を汚損する海中付着生物の防汚剤として、食用油脂類が効果を有することを見出し、本発明は乳化した高融点のパーム油脂を原料とする食用油脂を用いた塗布型防汚剤であるため、防汚剤の残留によって食品の安全性が損なわれることがなく、残留防汚剤の除去を行わなくてよいことを特徴とする海中付着生物防汚剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面養殖貝類(カキ類、アコヤガイ類、アワビ類)において問題となる、殻の表面を汚損する海中付着生物の付着を阻止する効果を示す防汚剤に関する。
【背景技術】
【0002】
海面養殖貝類(カキ類、アコヤガイ類、アワビ類)においては、海中に垂下して飼育するため、養殖中の貝類に付着生物が着生して汚損する。これらの付着生物は、養殖生産物の成長や生残を疎外するだけでなく、製品として販売する際に除去作業を必要とするため多大な労役が発生して経営に影響を与える。
【0003】
これらの付着生物による汚染を阻止することを目的とした塗布型防汚剤は数多く存在するが、いずれも有毒物あるいは食品不適な成分で構成されており、殻付きで販売する養殖貝類に使用すると防汚剤が残留したまま食品として供給される可能性が高く食品安全の面から実用性がなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って殻付きで販売する養殖貝類に使用する付着生物による汚染を阻止することを目的とした塗布型防汚剤には、
1.残留しても食品の安全性に影響を与えないこと。
2.汚損阻止効果が一定期間保持されること
3.残留防汚剤の除去を行わなくてよいこと
4.飼育生物の生残に影響がないこと
が求められる。本発明はこれらの課題を解決するために食品由来の物質を付着生物による汚染を阻止することを目的とした塗布型防汚剤として用い有効性を見出すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の食用油を用いた海中付着生物防汚剤は、課題を解決するための手段として、食用油脂を塗布型防汚剤として用いることを特徴とする。発明者らは固化した食用油脂が、付着生物の着生時に幼生の付着行動を阻止することを見出した。
【0006】
本発明の食用油を用いた海中付着生物防汚剤は、食用油脂として高融点のパーム油脂を原料とすることを特徴とする。発明者らは高融点であるため、通常の気温あるいは水温下では液化せず養殖生物の殻上に残存して付着生物の付着行動を阻止することを見出した。
【0007】
本発明の食用油を用いた海中付着生物防汚剤は乳化した高融点のパーム油脂を原料とすることを特徴とする。発明者らは乳化された高融点のパーム油脂が親水性が高く、含水状態の養殖生物の殻上に容易に付着し、残留する融点の油脂を用いることで、付着数が減少することを付着生物による汚染を阻止することを見出した。また、融点が50℃以上であると夏季の高気温下での作業にも支障を生じないが、60℃以上では塗布する生物を殺傷するため融点は50〜60℃が望ましい。
【0008】
本発明の食用油を用いた海中付着生物防汚剤は、残留防汚剤の除去を行わなくてよいことを特徴とする海中付着生物防汚剤である。従来の塗布型防汚剤と異なり食品成分で構成されているため、殻付きで販売する養殖貝類に防汚剤が残留しても食品安全の面から問題を生じない。
【発明の効果】
【0009】
本発明による食用油を用いた海中付着生物防汚剤を用いることで、殻付きで販売する養殖貝類に防汚剤が残留しても食品安全の面から問題を生じることなく海面養殖貝類(カキ類、アコヤガイ類、アワビ類)のる殻の表面を汚損する海中付着生物の付着阻止を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明を実施するための形態の本発明による2種類のフジツボに対する室内実験での付着阻止を示すフジツボ付着数の比較図である。
【図2】この発明を実施するための形態の本発明による屋外実験での付着阻止を示す経時的なマガキへのフジツボ付着数の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施の形態を説明する。本発明の食用油を用いた海中付着生物防汚剤は乳化した高融点(融点50〜60℃)のパーム油脂に酸化防止剤を融解して作成する。作成された食用油を用いた海中付着生物防汚剤は、添着剤が液状を保つ温度に保持しながら養殖中の貝類に塗布あるいはどぶ漬けする。付着した防汚剤はすみやかに冷却され固化することで飼育生物殻面に付着する。防汚剤の追加塗布は状況に応じて1ヶ月程度毎に行う。
【実施例】
【0012】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定したものではなく海中に直接垂下する海面養殖貝類(カキ類、アコヤガイ類、アワビ類)においても有効である。
汚損生物としてフジツボ類を用いた付着阻止実施例および飼育生物としてマガキを用いた使用実施例を示す。汚損生物としてフジツボ類を用いた付着阻止実施例は、流水式プランクトンネットによる網生簀方式とし、付着基盤にセラミックス板(76mm×26mm)を用いた。生簀内に不二製油(株)製の高融点乳化パーム油脂であるユニショート(USと略記する)を海中付着生物防汚剤食用油脂 として塗布した全基盤8枚とタテジマフジツボとサラサフジツボのキプリス幼生200個体を入れ、24h後の付着数を観察した。無塗布基盤は対照区とした。また、US基盤と無塗布基盤を同時に垂下した場合の付着数を数え、基盤選択実験とした。なお、セラミックス板は全てフジツボ抽出液で前処理して着底誘引状態とした。飼育生物としてマガキを用いた使用実施例では、養殖場で垂下飼育中のマガキ(殻長平均9.7cm)を無塗布の対照区、US塗布区に分け、垂下後のUSの付着防止効果を確認した。
タテジマフジツボの場合、無塗布、US基盤への付着率がそれぞれ106、0個体であった。選択実験でもUS基盤に対して幼生の付着がほとんどみられなかった。サラサフジツボの場合でも同様の結果が得られた。野外実験では、実験開始2週間後に全実験区に付着生物がみ
られ、付着生物重量が対照区>US塗布区の順であった。カキに付着したフジツボ個体数も対照区に比べてUS塗布区の方が少なかった。しかし、5週間後では実験区による差はみら
れなかった。結果を図1、2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は食用油脂を用いた塗布型防汚剤であるため、防汚剤の残留によって食品の安全性が損なわれることがなく、残留防汚剤の除去を行わなくてよいことを特徴とする海中付着生物防汚剤であるため貝類の養殖おける安定生産と生産効率の向上を可能にし、水産業における養殖分野(養殖業)において貢献度が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂を塗布型防汚剤として用いることを特徴とする食用油を用いた海中付着生物防汚剤。
【請求項2】
上記食用油脂の融点が50〜60℃のパーム油脂を原料とすることを特徴とする請求項1に記載の食用油を用いた海中付着生物防汚剤。
【請求項3】
上記海中付着生物防汚剤は乳化した上記パーム油脂を原料とすることを特徴とする請求項2に記載の食用油を用いた海中付着生物防汚剤。
【請求項4】
上記海中付着生物防汚剤は、残留防汚剤の除去を行わなくてよいことを特徴とする請求項3に記載の食用油を用いた海中付着生物防汚剤。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−10676(P2012−10676A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152906(P2010−152906)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】