説明

食用油脂製造方法

【課題】 製造工程を複雑化させることなく、一般に油脂中への添加量増に伴って析出しやすくなる添加物としての植物ステロール脂肪酸エステルを析出無しに高濃度に油脂に溶解させられ、劣化もなく優れた植物ステロールの効果をより強力に発現可能な油脂製品を得られる食用油脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 食用油脂原料に植物ステロール脂肪酸エステルを混合、溶解させる際、食用油脂原料を加温すると共にビタミンEを混合しつつ植物ステロール脂肪酸エステルを混合させることにより、植物ステロール脂肪酸エステルをより多く食用油脂原料に溶解させることができ、保存を経ても油脂中に植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくく、安定した品質で強力なコレステロール吸収抑制能力を備える食用油脂を調製、製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂原料に植物ステロール類を溶解させる食用油脂製造方法に関し、特に、食用油脂原料に植物ステロール脂肪酸エステルを所定量のビタミンEと共に混合することで、通常は析出しやすい植物ステロール脂肪酸エステルを析出させずに高い割合で配合可能な食用油脂製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロールは、遊離状態や脂肪酸エステル等の形態で植物に存在しており、コレステロール等の動物ステロール同様に生体に存在するアルコールの一種であるが、この植物ステロールを人が摂取すると、人体へのコレステロールの吸収を抑えられることが以前から知られており、医薬品等で利用されてきた。近年、健康志向の高まりに伴って日常生活におけるコレステロール吸収抑制が重視され、日常の食事で十分な量の植物ステロールの摂取を図ることが大きな関心を集めている。
【0003】
こうした中、植物ステロールが、もともと植物中の油脂分に含まれ、植物油の精製時における脱臭工程で脱臭留出物の一部として油脂から分離されていたものであることから、この植物ステロールを脱臭留出物から取出し、精製された後の調理用油や、サラダ油等の食用油脂に植物ステロールを再度添加し、従来は油脂製品中にごくわずか残留していただけの植物ステロールの量を大幅に増やす試みがなされている。
【0004】
ただし、植物ステロール自体は、水や油脂に極めて溶けにくく、仮に食用油脂等に溶けきれる分より多くの植物ステロールを配合すると、保存中に植物ステロールが析出、沈降することとなり、清澄性を重視するサラダ油等では商品価値が著しく低下してしまうため、添加量が1%程度にとどめられるという問題があった。このため、植物ステロールの油脂への溶解性を高め、植物ステロールを析出させずに、その含有量を高くした油脂を得る方法が強く求められていた。近年、植物ステロールに脂肪酸を結合させてエステル化した植物ステロール脂肪酸エステルが、植物ステロールに比べ油脂に溶けやすい点に着目し、人の消化器で再び植物ステロールと脂肪酸に分解する植物ステロール脂肪酸エステルの油脂中における成分割合を増やすことで植物ステロールの摂取量増大を図る手法が数多く提案されている。
【0005】
さらに近年、植物ステロール脂肪酸エステルを比較的低コストで精製する技術が開発され(例えば、特許第3192410号公報や特許第3192411号に記載)、植物ステロール脂肪酸エステル自体を精製品として入手可能となっており、これを用いた新たな食用油脂の開発が可能となっている。
【特許文献1】特許第3192410号公報
【特許文献2】特許第3192411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食用油脂の製造において、植物ステロール脂肪酸エステル精製品の食用油脂原料に対する添加量が3%以下とそれほど多くない場合は、植物ステロール脂肪酸エステルは食用油脂中に完全に溶解し、その後の析出や油脂の濁り等も生じないことがわかっている。
【0007】
ただ、食用油脂製品としては、植物ステロール等をより多く含んでコレステロールの吸収抑制作用をより強力に得られることがそのまま製品価値を高めることにつながるため、植物ステロール脂肪酸エステルの添加量増大が強く求められている。しかし、単純に油脂原料への添加量を増やしていくと、他の添加物と同様、食用油脂を長期保存したり、低温環境下に置いたりした場合に、植物ステロール脂肪酸エステルが食用油脂から析出する傾向があり、清澄性を要求されることの多い油脂製品としては見栄えが悪くなるという点でそのまま製品化することは難しいという課題を有していた。
【0008】
一方、他の添加物の場合と同様に、植物ステロール脂肪酸エステルと食用油脂原料を加温混合すれば、添加量を増大させられることが期待できるものの、加温に伴って食用油脂に色変化や酸化といった劣化が見られるようになるため、前記同様製品としては不都合があるなど、従来においては食用油脂への植物ステロール脂肪酸エステルの添加量を容易に増やすことはできなかった。そのため、油脂製品とするものは、植物ステロール脂肪酸エステルの添加量を、常温で確実に溶解させられ、長期保存を経ても析出が生じない程度の低濃度(3%程度)とせざるを得ず、強力なコレステロール吸収抑制効果を付与できないという課題を有していた。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、製造工程を複雑化させることなく、一般に油脂中への添加量増に伴って析出しやすくなる添加物としての植物ステロール脂肪酸エステルを析出無しに高濃度に油脂に溶解させられ、劣化もなく優れた植物ステロールの効果をより強力に発現可能な油脂製品を得られる食用油脂の製造方法並びに当該製造方法で製造される食用油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る食用油脂製造方法は、40℃以上70℃未満の所定温度まで温めた食用油脂原料に、ビタミンEを0.001重量%以上の所定量添加しつつ、前記食用油脂原料と略同じ温度まで温めた植物ステロール脂肪酸エステルを15重量%以下の所定量溶解させて食用油脂を得るものである。
【0011】
このように本発明によれば、食用油脂原料に植物ステロール脂肪酸エステルを混合、溶解させる際、食用油脂原料を所定の温度に加温すると共にビタミンEを混合しつつ植物ステロール脂肪酸エステルを混合させることにより、植物ステロール脂肪酸エステルをより多く食用油脂原料に溶解させることができ、保存を経ても油脂中に植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくく、安定した品質で強力なコレステロール吸収抑制能力を備える食用油脂を調製、製造できる上、この得られた油脂は低温下でも植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくいため、清澄状態を維持するための特別な手法を用いることなく取扱うことができ、通常の食用油脂と同様のサラダ油やドレッシング等の用途に問題なく使用できる。
【0012】
また、本発明に係る食用油脂製造方法は必要に応じて、前記食用油脂原料が、前記所定温度として60℃まで温められる一方、前記植物ステロール脂肪酸エステル及びビタミンEも略同じ温度まで温められた上で混合されるものである。
【0013】
このように本発明によれば、食用油脂原料とこれに溶解させる植物ステロール脂肪酸エステル及びビタミンEを適切な温度に管理しつつ混合することにより、安定した溶解状態が得られ、低温環境下で植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくく、さらには過度の加熱による油脂の劣化もなく、見た目に優れ、且つ安定した品質の食用油脂を製造することができる。
また、本発明に係る食用油脂製造方法は必要に応じて、前記ビタミンEが、10重量%以下の所定量添加されるものである。
【0014】
このように本発明によれば、食用油脂原料に対するビタミンEの添加量を適切な範囲とし、植物ステロール脂肪酸エステルより油脂に溶けやすいビタミンEが多くなり過ぎるのを抑えることにより、植物ステロール脂肪酸エステルの油脂中への溶解性を最大限高めながら、過剰なビタミンEが植物ステロール脂肪酸エステルの油脂への溶解を阻害する形となって植物ステロール脂肪酸エステルの析出に至る事態を防止でき、油脂製品の清澄性や安定性の低下、食味の変化等を防げる。
【0015】
また、本発明に係る食用油脂は、40℃以上70℃未満の所定温度まで温められた食用油脂原料に、ビタミンEを0.001重量%以上10重量%以下の所定量添加しつつ、植物ステロール脂肪酸エステルを15重量%以下の所定量溶解させて得られるものである。
【0016】
このように本発明によれば、食用油脂原料と植物ステロール脂肪酸エステルをビタミンEを伴いつつ所定の温度環境下で混合して食用油脂とすることにより、植物ステロール脂肪酸エステルを多く溶解させた状態を得ながら、低温環境下で植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくく、さらには過度の加熱による油脂の劣化も伴わないこととなり、身体に与える影響が良好であることに加え、安定した品質とすることができ、低温環境下でも特別な手間をかけることなく通常の食用油脂と同様に取扱うことができ、サラダ油やドレッシング等の用途にも問題なく利用でき、使い勝手に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態に係る食用油脂製造方法を説明する。本実施の形態に係る食用油脂製造方法は、油脂製品の製造工程において、精製された食用油脂原料に対し植物ステロール脂肪酸エステルとビタミンEを所定の温度環境下で添加し、これらを溶解させて植物ステロール脂肪酸エステルの含有割合を通常より高めた食用油脂を得るものである。
【0018】
食用油脂の主要な油脂分となる油脂原料としては、特に制限はなく、菜種油、コーン油、綿実油、パーム油、大豆油、ひまわり油、紅花油、オリーブ油、及び米油等の植物油や、豚脂、牛脂、及び乳脂等の動物油の他、こうした長鎖脂肪酸トリグリセライドからなる一般の油脂以外に、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)も用いることができ、これら食用の油脂類の中から一つ又は二種類以上を組合せて使用する。
【0019】
前記植物ステロール脂肪酸エステルは、植物油の脱臭処理工程等で留出物として分離された原料を所定の処理を経て精製することで得られた公知の製品であり、詳細な説明を省略する。この植物ステロール脂肪酸エステルは食用油脂に対して15重量%以下の所定量混合するが、植物ステロール脂肪酸エステル添加による効果をより強く得るには、従来混合可能と考えられてきた3重量%を上回る量の混合が望ましい。
【0020】
また、食用油脂原料に添加しようとするビタミンEは、α−トコフェロールをはじめとして、植物油の精製工程で留出物として分離された原料から精製されて得られる公知の添加物であり、詳細な説明は省略する。このビタミンEは食用油脂に対して0.001〜10重量%の混合が望ましい。
【0021】
なお、植物ステロール脂肪酸エステルとビタミンEの合計の添加量が30%を超える程度に多くなると、混合後の油脂の粘度が高くなり、攪拌の際に油脂中に生じる小気泡が攪拌を終えても消失しなくなる。この場合、油脂中に残った小気泡は、植物ステロール脂肪酸エステルが結晶化する際に核となって結晶化を誘発することから、植物ステロール脂肪酸エステルの極めて析出しやすい状態となっている。植物ステロール脂肪酸エステルの添加量は、こうした性質とビタミンEの添加量を考慮して決定される。
【0022】
これら各材料を食用油脂原料に添加する工程では、食用油脂原料を40℃以上70℃未満、好ましくは60℃程度に加温するようにしており、食用油脂原料に対しこれと略同じ温度に加温したビタミンE、植物ステロール脂肪酸エステルを加えると、析出しやすい植物ステロール脂肪酸エステルを高濃度に溶解可能となっている。特に60℃で加温混合すれば、食用油脂原料の加温に伴う酸化、色変化等の劣化をほとんど引き起こさずに各添加物を最大限溶解させられる。なお、植物ステロール脂肪酸エステルが固相から液相に変化する温度が40℃弱であるため、植物ステロール脂肪酸エステルと食用油脂原料とを混合する温度が40℃より低いと、油脂中に十分溶解しきれない。また、植物ステロール脂肪酸エステルと食用油脂を70℃以上に加温すると、植物ステロール脂肪酸エステルを油脂中に確実に溶解させられるものの、食用油脂に色変化(褐変)や酸化といった劣化が見られるようになり、製品としては不都合がある。
【0023】
次に、本実施形態に係る食用油脂製造方法による各添加物の添加工程について説明する。まず、以前の工程で精製された食用油脂原料を、所定の攪拌(混合)槽内に投入して攪拌しながら、加温により40℃ないし70℃、好ましくは60℃程度の所定温度まで上昇させ、前記温度に達した状態で、別途食用油脂原料と同様の温度に維持している植物ステロール脂肪酸エステル及びビタミンEを適量添加し、攪拌して均一な混合状態が得られるようにする。この時、混合物の温度が一定となるように加温状態を制御する。
【0024】
十分な混合、溶解状態が得られたら、加温を停止し、放置して常温域までゆっくり自然冷却する。常温に達した状態では、添加成分の析出もなく、濁りのない清浄な食用油脂となっており、これを攪拌槽から取出し、最終的に瓶、缶等に充填密封して食用油脂製品を得ることとなる。結果的に、通常の製造工程に加温しながら混合するプロセスが加わるのみであり、製造工程をさほど複雑化させることなく、析出しやすい植物ステロール脂肪酸エステルを高濃度に溶解させ、且つ油脂の劣化を引き起こすこともなく優れた食用油脂製品を得ることができる。
【0025】
このように、本実施の形態に係る食用油脂製造方法では、食用油脂原料に植物ステロール脂肪酸エステルを混合、溶解させる際、食用油脂原料を所定の温度に加温すると共にビタミンEを混合しつつ植物ステロール脂肪酸エステルを混合させることから、植物ステロール脂肪酸エステルをより多く食用油脂原料に溶解させることができ、保存を経ても油脂中に植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくく、安定した品質で強力なコレステロール吸収抑制能力を備える食用油脂を調製、製造できる。また、得られた食用油脂は、低温下でも植物ステロール脂肪酸エステルの結晶が析出しにくいため、清澄状態を維持するための特別な手法を用いることなく取扱うことができ、通常の食用油脂と同様のサラダ油やドレッシング等の用途に問題なく使用できる。
【実施例】
【0026】
本発明に係る食用油脂製造方法を適用し、菜種を原料とする食用油脂原料(菜種油)について、各添加物の添加・混合する温度や混合割合を変えて油脂を調製し、最終的に得られた食用油脂製品の曇り発現時間や透明度等を測定し、品質について比較した評価結果を説明する。
【0027】
まず、食用油脂原料、ビタミンE、及び植物ステロール脂肪酸エステル(これ以降、植物SEと略称する)をそれぞれ加温して到達させる40℃、50℃、60℃、70℃、及び80℃の5通りの混合温度について、食用油脂原料に対するビタミンEと植物SEの各添加割合を複数通り設定してそれぞれ複数種類の食用油脂を調製し、それぞれの性質を比較した。
【0028】
ここで、食用油脂原料に対するビタミンEの添加割合は、加温で到達させる温度が40℃、50℃、60℃の場合、0、0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.005重量%、0.01重量%、0.1重量%、1重量%、及び10重量%の9通りとし、また、70℃及び80℃の場合、0、0.01重量%、0.1重量%、1重量%、及び10重量%の5通りとする。さらに植物SEの添加割合は、0、1重量%、3重量%、5重量%、7重量%、10重量%、15重量%、20重量%、及び30重量%の9通りとして、一混合温度につき45又は81通りの添加割合の組合わせを得て、それぞれ所定の混合温度で食用油脂を調製する。得られた食用油脂を、周囲温度0℃の環境下で急速冷却し、清澄状態の油脂中に曇りが発現するまでの時間を比較した。各混合温度ごとの、ビタミンE、植物SEの各添加量と対応する曇り発現時間の各値を表1及び表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2を見ると、各混合温度で、植物SE添加量が3%以下の各添加例では、ビタミンEの添加量によらず曇り発現時間が測定終了(5時間経過)以降となって清澄状態が十分長く継続しており、この程度の添加量であれば、特別な工夫がなくても食用油脂原料に植物SEを溶解させられることがわかる。
【0032】
植物SE添加量が5%以上になると、いずれの混合温度においても、曇り発現時間が著しく早まっており、特に植物SEの添加量が15%を超えると、曇り発現時間が全て0(冷却開始時点から植物SEが結晶化していて濁っている状態)となるなど、食用油脂に植物SEを完全に溶解させられない状態が現れている。ただし、混合温度が高くなるにつれて、複数の添加例で曇り発現時間がより遅くなる傾向が現れ、且つ植物SE添加量が15%の例にも曇り発現時間の遅れが見られるようになっている。曇り発現時間が遅くなって析出しにくくなっているということは、植物SEが油脂中により良く溶解していることを示しており、本比較試験が、急冷による加速試験であることを考慮すると、後述する室温冷却試験でも見られるように、混合温度を高くすれば植物SEが長期にわたり析出しない状態が得られるといえる。
【0033】
一方、表2においてビタミンEの添加量をより細かい刻みとした混合温度40℃、50℃、及び60℃の各例に注目すると、植物SE添加量が5%以上の各例において、ビタミンE添加量が0.001重量%以上でビタミンE未添加の場合との有意な差が現れており、ビタミンEを0.001重量%以上添加するのが好ましいことがわかる。また、いずれの混合温度においても、ビタミンEの添加量が多くなるほど曇り発現時間がより遅くなる傾向が現れており、ビタミンE添加量を多くすれば植物SEをより適切に溶解させて析出しにくくできることが確認できた。
【0034】
続いて、食用油脂原料と各添加物の混合温度40℃、50℃、60℃の3通りの温度状態について、前記同様に食用油脂原料に対するビタミンEと植物ステロール脂肪酸エステルの各添加割合を複数通り設定してそれぞれ複数種類の食用油脂を調製し、得られた食用油脂を常温(25℃)の室温環境中に放置し、清澄状態の油脂中に曇りが発現するまでの時間を比較した。各混合温度ごとの、ビタミンE、植物SEの各添加量と対応する曇り発現時間の各値を表3に示す。なお、前記の比較試験と異なり、食用油脂原料に植物SEを確実に溶解させられることが見込める植物SE添加量3%以下の各添加例については曇り発現時間の測定を省略している。
【0035】
【表3】

表3を見ると、各混合温度で、植物SE添加量が5%の各添加例では、植物SEを添加していないものと同様に、測定終了時(300時間経過)に曇りの発現が無く、清澄状態が継続しており、食用油脂原料に植物SEが適切に溶解して析出しにくくなっていることがわかる。
【0036】
植物SE添加量が10%以上になると、いずれの混合温度においても、ビタミンE添加量の少ない例で曇り発現時間が早まっており、特に40℃の場合で、食用油脂から植物SEが析出しやすくなる状態が現れている。ただし、混合温度が高くなるにつれて、曇り発現時間がより遅くなる傾向が見られるようになっている。上記の急冷による加速試験の結果と合わせて、混合温度を高く、且つビタミンEの添加量を多くすれば植物SEが長期にわたり析出しないことが確認できた。
【0037】
一方、表3における各混合温度での植物SEとビタミンEの添加量をいずれも15%とした例では、曇り発現時間が0となっている。これは、混合直後から懸濁状態となっていたもので、油脂中における植物SEとビタミンEの占める割合が多くなり過ぎて溶解しきれなくなり、より析出しやすい植物SEの析出に至ったと見られ、ビタミンEの添加量にも上限があることがわかる。
【0038】
さらに、食用油脂原料を加温して到達させた30℃、50℃、70℃、及び80℃の4通りの温度状態について、食用油脂原料に対する植物SEとビタミンEの添加する際の温度を複数通り設定してそれぞれ複数種類の食用油脂を調製し、それぞれの性質を比較した。
【0039】
ここで、食用油脂原料に対する植物SE及びビタミンEの添加時における温度は、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、及び80℃の7通りとして、混合時の温度の組合わせを28通り得て、28種類の食用油脂を調製する。食用油脂原料に対するビタミンEの添加割合は0.045重量%、植物SEは5重量%となっている。これらの食用油脂を周囲温度4℃の環境下で冷却保存し、1週間後の油脂の透視度を30度透視度計にて測定し、比較した。さらに、同じ1週間後の時点における油脂の色度をロビボンド色度計(光路長133.4mm)にて測定し、比較した。食用油脂原料と植物SE(及びビタミンE)の混合時における各温度と対応する透視度、色度の各値を表4、表5に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
表4を見ると、植物SEや食用油脂原料の各温度が40℃以上となるような場合、高い透視度が得られており、冷却保存を経ても、植物SEが析出せず、清澄状態となっていることがわかる。一方、植物SEや食用油脂原料の混合する際の温度が40℃より低いと、透視度が低く、冷却保存で食用油脂から植物SEが析出している状態が現れている。また、表5を見ると、植物SEや食用油脂原料の混合時の温度が高くなるほど、混合後の食用油脂に色変化が現れており、混合温度が70℃以上となると、食用油脂の色度が一般に製品化可能な上限とされている色度値(Yellow:6-Red:0.6)を超えており、劣化度合が油脂製品として望ましくないレベルに達していることがわかる。なお、表5における空欄は、植物SEの析出により透視度が確保できず、色度測定が行えなかったことを示している。これらから、本発明の食用油脂製造方法に基づき、植物SEと油脂原料との混合を、ビタミンEの添加と共に40℃以上70℃未満となる所定温度で行うと、食用油脂を過度に高温として品質の劣化を招くことなく、高い添加割合で確実に溶解させられ、低温保存の際も植物SEが析出しない状態が得られることが確認できた。
【0043】
以上により、本発明に係る食用油脂製造方法では、食用油脂原料に対するビタミンEの添加割合を0.001ないし10重量%、植物SEの添加割合を15重量%以下、混合時の温度範囲を40℃ないし70℃、より好ましくは60℃とすることで、最終的に精製された食用油脂製品を長期保存や低温保存した場合でも植物SEを析出させず清澄性を維持した状態とすることができ、見栄えを低下させることなく植物SEの添加量を増大させてその効能を強化した食用油脂を得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃以上70℃未満の所定温度まで温めた食用油脂原料に、ビタミンEを0.001重量%以上の所定量添加しつつ、前記食用油脂原料と略同じ温度まで温めた植物ステロール脂肪酸エステルを15重量%以下の所定量溶解させて食用油脂を得ることを
特徴とする食用油脂製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の食用油脂製造方法において、
前記食用油脂原料が、前記所定温度として60℃まで温められる一方、前記植物ステロール脂肪酸エステル及びビタミンEも略同じ温度まで温められた上で混合されることを
特徴とする食用油脂製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の食用油脂製造方法において、
前記ビタミンEが、10重量%以下の所定量添加されることを
特徴とする食用油脂製造方法。
【請求項4】
40℃以上70℃未満の所定温度まで温められた食用油脂原料に、ビタミンEを0.001重量%以上10重量%以下の所定量添加しつつ、植物ステロール脂肪酸エステルを15重量%以下の所定量溶解させて得られることを
特徴とする食用油脂。

【公開番号】特開2006−55064(P2006−55064A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239983(P2004−239983)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(397077461)理研農産化工株式会社 (4)
【Fターム(参考)】