説明

食用油

【課題】有効成分が豊富な魚油そのものを使用し、酸化し難くて魚臭が殆ど無く、通常の料理用として利用可能な食用油を提供すること。
【解決手段】魚の頭部に同量の水を加え、圧力−0.088MPaG〜−0.0971MPaG,温度30℃〜55℃で低圧・加熱しながら、少なくとも60分間蒸気を除去した後、容器を密封したまま、圧力0.2MPaG,温度60℃〜120℃で、少なくとも60分間加圧・加熱して得た抽出物を液分と固形分とに分離し、液分を静置して上澄みとして得た魚油に、オリーブオイル及びごま油とを配合して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚油をベースとする食用油に関する。
【背景技術】
【0002】
魚油中に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)等のn−3系PUFA(多価不飽和脂肪酸)の機能性が世界的に認知されつつあり、従来から知られている脳機能増強、中性脂肪やコレステロール低下作用等に加え、骨粗しょう症の予防、抗癌効果等が新たに報告されている。
ところが、魚油中の有効成分であるPUFAは酸化しやすく、著しい品質の低下を招き、時には有害物質へと変質する。また、酸化した魚油は、色もコーヒー色になり甚だしい悪臭を発する。
このため、魚油は、主としてソフトカプセルの形態で健康食品として利用されているにすぎず、食用油として通常の料理に使用するのは難しかった。
【0003】
そこで、本出願人は、先に、魚の頭を利用して、色が淡く、ビタミン類、DHA,EPA等の有効成分が多く含有され、酸化し難くて魚臭も少ない魚油を製造する方法を特願2007−220762号として提案した。
しかしながら、この方法で製造した魚油でも僅かな魚臭が残ってしまい、食用油として使用するのを嫌う消費者もあった。
また、従来、魚油を主材料とし、さまざまなマスキング剤を添加して魚臭を抑えた食用油が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シソ科、フトモモ科、クスノキ科の香辛料又はその抽出物から少なくとも2種を選択して配合した魚油用抗酸化矯臭剤が記載されている。
しかし、このような矯臭剤を魚油に添加しても、もともとの魚臭がきついため、一時的に臭いを抑えることはできるが、戻り臭を防ぐことはできなかった。
また、特許文献2には、DHA油にレモン油を添加して成る加熱料理用食用油が記載されている。
この食用油は、加熱時における酸化を防ぎ、魚臭をマスキングするという効果はあるものの、魚油そのものを使用することはできず、魚油から脂肪酸油を抽出し、脱臭工程を経てDHA油を精製するという面倒な工程が必要であった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−236418号公報
【特許文献2】特開平8−275728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、有効成分が豊富な魚油そのものを使用し、酸化し難くて魚臭が殆ど無く、通常の料理用として利用可能な食用油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の食用油は、魚の頭部に同量の水を加え、圧力−0.088MPaG〜−0.0971MPaG,温度30℃〜55℃で低圧・加熱しながら、少なくとも60分間蒸気を除去した後、容器を密封したまま、圧力0.2MPaG,温度60℃〜120℃で、少なくとも60分間加圧・加熱して得た抽出物を液分と固形分とに分離し、液分を静置して上澄みとして回収した魚油に、オリーブオイル及びごま油とを配合して成る。
本発明で使用する魚油は、本出願人が先に出願した特願2007−220762号に係る魚油である。
魚油の原料となる魚は、鮪、鰹等の比較的大型の魚種が適しており、酸化を防ぐために冷凍保存したものを用いるのが望ましい。
【0008】
魚油を得るには、魚の頭及び水を容器に投入してから、魚油の融点に近い30〜40℃、圧力−0.0939MPaG〜−0.0971MPaGで沸騰させるのが理想的であるが、真空ポンプの能力は大きなものが要求され、コストもかかることから、工業生産的には、魚油の品質に悪影響を与えない55℃、−0.088MPaG程度で十分であると考えられる。
低圧状態で沸騰させる時間、及び、次工程において加熱・加圧する時間は60分から90分が適当であるが、それ以上であっても良い。
【0009】
オリーブオイルは、加熱による酸化に強く、風味の良いエキストラヴァージンオリーブオイルが適している。
ごま油は、通常のごま油でもよいが、風味と香りが優れた玉締め法により製造されたごま油を使用するのが望ましい。
配合割合は、魚油を20〜80重量%、好ましくは40〜50%、オリーブオイルを5〜40重量%、好ましくは10〜30%、ごま油を5〜40重量%、好ましくは10〜30%とするが、風味・色合い等により合計100%になるよう適宜調整できる。
さらに、にんにく又はその抽出物を添加しても良い。
【発明の効果】
【0010】
有効成分が無駄なく抽出され、酸化し難くて魚臭も少なく、PCB等の揮発性有害成分が除去されて非常に安全性の高い魚油をそのまま配合してあるので、魚油中に含有されているビタミンE、ビタミンD、ビタミンA、EPA、DHA等を損なうことなく食品として摂取することができ、成人病対策や魚食の減少による必須脂肪酸不足の解消に有効であり、しかも、魚油をさらに精製する手間が不要である。
また、濃厚な芳香のあるオリーブオイル及びごま油を加えたため、僅かな魚臭も完全に抑えられ、通常の揚げ油、炒め油、ドレッシング、マヨネーズ等として好みの料理に幅広く利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
魚の頭部に同量の水を加え、圧力−0.088MPaG〜−0.0971MPaG,温度30℃〜55℃で低圧・加熱しながら、少なくとも60分間蒸気を除去した後、容器を密封したまま、圧力0.2MPaG,温度60℃〜120℃で、少なくとも60分間加圧・加熱して得た抽出物を液分と固形分とに分離し、液分を静置して上澄みとして回収した魚油に、オリーブオイル及びごま油を配合して食用油とする。
【実施例1】
【0012】
−70℃で冷凍保存された鮪の頭部16kgを冷凍のまま4つに分け、半解凍の状態になるまで放置した後、16kgの水と共に真空・圧力釜に投入した。
次に、圧力−0.088MPaG、温度55℃の条件下で60分間激しく沸騰させながら、発生した蒸気を真空ポンプにより継続的に吸引除去した。
次いで、真空吸引を停止し、真空・圧力釜を密封したまま、直ちに圧力を0.2MPaGに加圧設定すると共に、103℃まで昇温させ、60分間この加圧・加熱条件を維持した。真空状態を保ちながら加熱するため、真空・圧力釜の水蒸気の蒸発により、真空から徐々に圧力が高まり、激しい沸騰を続け、大気圧を超えた状態で沸騰が停止する。即ち、0.2MPaG、103℃の条件下では油液分は沸騰しない。
【0013】
加圧・加熱処理後、真空・圧力釜から取り出した物質を、24.5kgの液分と、骨、筋組織等から成る6.2kgの固形分とに分離した。
さらに、液分を5分間静置して上澄み部分5.3kgを魚油として回収した。
このようにして得た魚油50ccに、エキストラヴァージンオリーブオイル25ccと、玉締法で製造したごま油25ccを配合し、食用油を完成させた。
【実施例2】
【0014】
実施例1と同様にして製造した魚油50%、エキストラヴァージンオリーブオイル40%、玉締め法で製造したごま油10%を配合して成る油100mlに、スライスしたにんにく10g及び鷹の爪1本を加えて、にんにくの色が黄金色に変わるまで弱火で加熱した。
この油を常温に放置してさめてから、実施例1と同様に製造した魚油100mlを加え、にんにく風味の食用油を完成させた。
【0015】
被験者18名(男13名、女5名)を対象として、実施例1及び実施例2の食用油の官能試験を行なった。
まず、透明なガラス容器3本に、実施例1と同様にして製造した魚油、実施例1の食用油及び実施例2の食用油をそれぞれ110ccずつ入れ、その臭いを被験者に嗅いでもらって、魚臭を全く感じない、やや感じる、魚臭が強いの3段階に評価してもらった。その試験結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
この試験結果から、実施例1及び実施例2の食用油はいずれも魚臭が無く、通常の料理にも使用できることがわかった。
つぎに、実施例1及び実施例2の食用油をサラダ油として用い、トマトとスライスした玉ねぎのサラダにかけて風味の評価をした。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
この試験結果から、実施例1及び実施例2の食用油は味、臭いともサラダに使用して問題ないことがわかった。
さらに、実施例2の食用油でペペロンチーニを作り、全員に試食させたところ、全員から非常に美味しいとの評価を得た。また、めんつゆやしょうゆとの相性が良いことも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚の頭部に同量の水を加え、圧力−0.088MPaG〜−0.0971MPaG,温度30℃〜55℃で低圧・加熱しながら、少なくとも60分間蒸気を除去した後、容器を密封したまま、圧力0.2MPaG,温度60℃〜120℃で、少なくとも60分間加圧・加熱して得た抽出物を液分と固形分とに分離し、液分を静置して上澄みとして回収した魚油に、オリーブオイル及びごま油を配合して成ることを特徴とする食用油。
【請求項2】
前記魚油を20〜80重量%、前記オリーブオイルを5〜40重量%、前記ごま油を5〜40重量%の割合で配合してある請求項1に記載の食用油。
【請求項3】
にんにく又はその抽出物を添加してある請求項1又は2に記載の食用油。