説明

食肉の加工方法並びにソーセージの製造方法

【課題】凍結原料肉の解凍の短時間化、節水、環境負荷軽減、ドリップの低減を実現すると共に、低塩濃度、リン酸塩無添加でも保形性を有し、且つ柔らかく消化性の良い新食感の食肉製品を製造可能となる食肉の加工方法、並びにこの加工方法で生成した加工肉(原料肉)を用いたソーセージの製造方法を提供すること。
【解決手段】凍結状態の原料肉塊を包装フィルムで真空包装し、この真空包装した原料肉塊に100〜250MPaの静水圧処理を施すことにより、原料肉塊中に含まれる水分を固体から液体へと相変化させて解凍し、この解凍した原料肉塊をミンチにした後、ミンチ肉を加熱して結着させて食肉加工製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧処理を用いた食肉の加工方法、並びにこの加工方法で生成した加工肉(原料肉)を用いたソーセージの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉加工メーカーによる食肉製品は、凍結保存されている原料肉を解凍して加工し、製品とするが、この凍結原料肉の解凍方法としては、大量の氷水や10℃以下の冷水を使用する流水解凍や、室内で温度や湿度を調整しながら行う自然解凍が一般的である。
【0003】
しかし、この現状の解凍方法は、いずれも解凍に要する時間とコストが負担となっている。
【0004】
更に、流水解凍の場合は、水質汚染による環境問題も懸念されるため、水質浄化装置の設置によるコストがさらに増大するという問題もあり、自然解凍の場合は、大量のドリップ(滴)が発生するという問題もあった。
【0005】
一方、ソーセージは、凍結原料肉(硬直した肩肉、もも肉)を自然解凍または流水中で解凍後、カッティングし(ミンチにし)、高濃度の食塩、リン酸塩、亜硝酸塩を含む塩漬剤を添加して塩漬した後、ケーシングに充填、加熱して原料肉に加熱ゲル特性を付与することで製造される。
【0006】
このソーセージ製造において、高濃度食塩、リン酸塩の添加は、ミンチにした肉の結着性を高めると共に、柔らかくジューシーな食感を出すために必要不可欠であるが、反面、高塩・高カロリー化の原因となっている。
【0007】
しかし、単に食塩やリン酸塩の添加量を減らすだけでは、硬くボソボソでジューシー感を失うなど食感の著しい低下を招くため、低塩、無リン酸塩の食肉製品を工業的に生産することは非常に難しい。
【0008】
また、従来、低塩・低リン酸塩のソーセージの製造方法(下記特許文献1)が提案されているが、この製法は、充填した肉バッターを500〜4000バール(50〜400MPa)の静水圧で処理することで肉をゲル化させる(結着させる)ものであったため、確かに高濃度の塩やリン酸塩をあまり添加せずともソーセージを製造可能となるが、高圧処理によって肉が硬くなり、食感が悪くなってしまうものであった。
【0009】
また、下記非特許文献1には、原料肉を破砕したミートホモジネートを150MPaで加圧すると食塩濃度に関係なく結着性が増すこと、低食塩・低脂肪・低リン酸塩のミートエマルジョンをケーシング後に100〜200MPaで加圧すると、加熱損失が少なく、弾力性に富んだフランクフルトタイプのソーセージが得られること等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−250650号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】食肉加工分野への高圧利用をめぐる最近の情勢,高圧力の科学と技術,Vol.16,No.1(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
出願人は、上記従来の食肉解凍方法の問題点に鑑み、これを解決するための手法について鋭意研究を重ね試行錯誤した末に、凍結状態の原料肉に高圧処理を施すと、通常の製造工程と比べて凍結原料肉の解凍の短時間化、節水、環境負荷軽減、ドリップの低減が実現すると共に、低塩濃度、低リン酸塩でも保形性を有し、且つ柔らかく消化性の良い新食感の食肉製品を製造可能となることを見い出し、本発明の画期的な食肉の加工方法を完成させた。
【0013】
また、本発明は、この食肉の加工方法で生成した加工肉(原料肉)を用いた低塩濃度、低リン酸塩のソーセージの製造方法を提供することも技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0015】
凍結状態の原料肉塊を包装フィルムで真空包装し、この真空包装した原料肉塊に100〜250MPaの静水圧処理を施すことにより、原料肉塊中に含まれる水分を固体から液体へと相変化させて解凍し、この解凍した原料肉塊をミンチにした後、ミンチ肉を結着させて加工肉に生成することを特徴とする食肉の加工方法に係るものである。
【0016】
また、前記真空包装した原料肉塊に150MPaの静水圧処理を5〜10分間施すことを特徴とする請求項1記載の食肉の加工方法に係るものである。
【0017】
また、前記請求項1,2のいずれか1項に記載の肉の加工方法で生成した加工肉を用いてソーセージを製造することを特徴とするソーセージの製造方法に係るものである。
【0018】
また、前記加工肉100部に対し、脂肪を10部以下、食塩添加量を1部以下配合し、リン酸塩を添加せずに製造することを特徴とする請求項3記載のソーセージの製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように、凍結状態の原料肉塊を包装フィルムで真空包装し、この真空包装した原料肉塊に100〜250MPaの静水圧処理を施すことにより、原料肉塊中に含まれる水分を固体から液体へと相変化させて解凍するから、原料肉塊の品質を保持したまま次工程(加工)へと移行できると共に、解凍に要する時間短縮と、流水を用いないことによる節水並びに環境負荷軽減と、ドリップの低減を実現でき、しかも、凍結状態からの静水圧処理によって原料肉塊のタンパク質のゲル形成特性が変化しているため、高い結着性を示すものとなり、これにより高濃度の食塩やリン酸塩を添加せずともミンチにした肉を容易に結着させることができるので、ミンチ肉を結着させて製造するハムやソーセージなどの食肉製品を低塩・低リン酸塩にして容易に製造可能で、社会問題化しているメタボリック症候群に対応した健康指向型食肉製品への貢献も大いに期待できるなど、極めて実用性に優れた画期的な食肉の加工方法となる。
【0020】
しかも本発明で生成した加工肉は、体内に摂取後、タンパク質分解酵素の分解を受け易く、消化性に優れ、栄養分の吸収性が向上することが確認されており、また、血漿中の総アミノ酸濃度が高く推移することが確認されている。従って、少量のタンパク質食品で必要栄養量を摂取でき、消化器官への負担が軽減され、子供や消化力が低下した高齢者、病人などへの栄養補給能の向上を狙った食肉製品への貢献も期待できると共に、体内の各組織でのタンパク質合成及びエネルギー産生基質となるアミノ酸の供給能力が高いために、持久力向上の可能性も期待できるなど、極めて実用性に優れた画期的な食肉の加工方法となる。
【0021】
また、請求項2記載の発明においては、確実に解凍時のドリップが少なく、且つ高圧処理による肉色の変色も少ない解凍肉(原料肉)が得られることになる一層実用性に優れた食肉の加工方法となる。
【0022】
また、請求項3記載の発明においては、柔らかく咀嚼性に優れた新食感を持つものにして、低塩・低リン酸塩の健康指向型ソーセージを製造できる極めて実用性に優れた画期的なソーセージの製造方法となる。
【0023】
特に、請求項4記載の発明においては、前記作用・効果に加えて、低脂肪、無リン酸塩の健康指向型ソーセージを製造できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】原料肉の解凍条件、原料配合の違いとソーセージの破断応力との関係を示したグラフである。
【図2】原料肉の解凍条件、原料配合の違いとソーセージの破断エネルギーとの関係を示したグラフである。
【図3】原料肉の解凍条件、原料配合の違いとソーセージの破断歪率との関係を示したグラフである。
【図4】原料肉の解凍条件、原料配合の違いとソーセージの硬さとの関係を示したグラフである。
【図5】酵素消化物中の遊離アミノ酸濃度の測定結果を示したグラフである。
【図6】酵素消化物中のペプチド平均鎖長測定結果を示したグラフである。
【図7】ラット血漿中各アミノ酸濃度の増加パターンを示したグラフである。
【図8】ラット血漿中総アミノ酸濃度の経時変化を示したグラフである。
【図9】SDS−PAGEによるタンパク質の分析結果を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0026】
凍結状態の原料肉塊を包装フィルムで真空包装し、この真空包装した原料肉塊に100〜250MPaの静水圧処理を施す。
【0027】
すると、原料肉塊中で凍結状態であった水分が、高圧下における相変化によって液体へと変化することになり、この相変化が生じたまま例えば低温下(4℃付近)で除圧すると、原料肉塊中の水分が凍結状態には戻らず、解凍状態になる。
【0028】
この際、包装フィルムで真空包装された原料肉塊からは、従来までの流水中や室温での長時間解凍と比べて原料肉塊の成分が流出しにくい上、凍結状態からの高圧処理によって肉質の低下を招くことなく(ミオグロビンやミオシンの変性を引き起こすことなく)軟化促進(筋原線維の脆弱化)され、尚且つ低温下で処理が行われるので原料肉塊中での微生物増殖を防止した状態で解凍されることになる。
【0029】
また、静水圧処理は、処理対象物のみならず処理媒体である水も含めて全ての部位に瞬時に均一に圧力が行き亘るため、加圧に伴う圧力媒体(水)及び処理対象物(原料肉塊)の発熱(3℃/100MPa)により、解凍潜熱除去に対する熱エネルギー供給がもたらされ、原料肉塊全体を短時間に均一に解凍できる。
【0030】
従って、本発明においては、解凍に要する時間短縮と、流水を用いないことによる節水並びに環境負荷軽減と、ドリップの低減を実現できた。また、解凍時に原料肉塊の品質低下が少ないため、品質を高く保持したまま次工程(加工)へと移行できる。
【0031】
また、例えば、前記静水圧処理を、0〜5℃の温度下で、150MPaで5〜10分間施すこととすれば、確実に解凍時のドリップが少なく、且つ高圧処理による肉色の変色も少ない解凍肉が得られることが、出願人の試作実験により確認されている。
【0032】
次いで、この解凍した原料肉塊をミンチにした後、ミンチ肉を結着させて加工肉(原料肉)に生成する。
【0033】
この際、原料肉塊は、前述の凍結状態からの静水圧処理によってハムやソーセージの結着性に関与する食肉タンパク質のゲル形成特性が変化し、高い結着性を示すものとなっている。
【0034】
そのため、ミンチ肉を結着させて製造するハムやソーセージなどの食肉加工品は、通常ミンチにした肉の結着性を高めるために高濃度の食塩とリン酸塩とを添加する必要があったが、本発明のミンチにした原料肉は、高濃度の食塩とリン酸塩とを添加せずとも容易に結着させることができるので、低塩・低リン酸塩の加工肉(原料肉)を生成することが可能となる。
【0035】
従って、本発明の食肉の加工方法で生成した加工肉(原料肉)で例えばソーセージを製造すれば、低塩・低リン酸塩でも結着性に優れるために、食塩とリン酸塩の配合量を少量化した健康指向型のソーセージを容易に製造可能となる。
【0036】
また、出願人の試作実験によると、このようにして製造したソーセージは、既存のソーセージの食感とは異なるものの、低塩・低リン酸塩であるにもかかわらず、柔らかく咀嚼性に優れた新食感を持つものができあがることが確認されている。
【0037】
これは、100〜250MPaの静水圧処理を施しても、原料肉塊中のミオシン、ミオグロビンは変性せずに未変性のミオシンが乖離した状態で残っている一方で、ミオシンの加熱ゲル形成を阻害するアクチンには脱重合変性が起こるため、少量の食塩、脂肪を添加したミートエマルジョンを加熱した際に、ミオシンフィラメント型のしっかりしたしなやかな加熱ゲルが形成されることによるものと推察される。
【0038】
尚、出願人の試作実験によれば、前記加工肉(原料肉)100部に対し、脂肪を10部以下、食塩添加量を1部以下配合し、即ち脂肪及び食塩の配合量を通常の製法の1/2以下とし、さらにリン酸塩を添加せずにソーセージを製造することも可能であることが確認されており、このようにして製造したソーセージは、柔らかく咀嚼性に優れた新食感を持つものにして、低塩・低脂肪・無リン酸塩の健康指向型食肉製品となった。
【0039】
よって、従来法では困難であった低塩濃度、無リン酸塩且つ低脂肪の健康指向型食肉製品の製造が可能となるため、脂肪を中心としたエネルギーの摂取過多が原因とされるメタボリック症候群に対応した食肉製品への貢献が期待できる。
【0040】
また、出願人の試作実験によると、本発明の食肉の加工方法で生成した加工肉は、体内に摂取後、タンパク質分解酵素による分解を受け易く、消化性が向上することが確認されている。従って、少量のタンパク質食品で必要栄養量を摂取できると共に、消化器官への負担の軽減が期待できる。また、体内の各組織でのタンパク質合成及びエネルギー産生基質となるアミノ酸の供給能力が高いことが確認されており、持久力が向上する可能性も秘めている。
【実施例】
【0041】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0042】
本実施例は、と殺後48時間経過した豚の赤肉を280g前後の大きさに切り分け、真空包装を行って、−30℃で凍結保存したものを原料肉塊とし、この原料肉塊を用いてソーセージを製造した。
【0043】
≪比較例(自然解凍した原料でのソーセージの製造)≫
前記原料肉塊を4℃の低温室に24時間放置して自然解凍を行い、原料肉100部に対し背油25部、食塩2.5部、リン酸塩0.2部、亜硝酸塩0.015部、ビタミンC0.03部、氷水20部を混合してカッティング・塩漬を行った後、ケーシングに充填し、70℃の熱水中で30分間加熱してゲル化させ、比較対照用のソーセージを製造した。
【0044】
≪実施例1(高圧解凍、通常の原料配合(標準配合)でのソーセージの製造)≫
凍結状態の原料肉塊を、圧力媒体の水を4℃に調節した高圧処理装置の処理容器に入れ、100MPa,150MPa,200MPa,250MPaのそれぞれの圧力に到達後10分間保持して加圧解凍した。
【0045】
高圧処理装置は、三菱重工株式会社製MFP−7000(加圧部寸法:直径60mm、深さ200mm)を用いた。
【0046】
除圧後の肉塊は、100MPaでは完全に解凍されなかったが、150MPa以上で完全に解凍されており、高圧力下では0℃以下でも凍らない不凍域において短時間に解凍可能なことが実証された。
【0047】
従って、ソーセージの製造には150MPa以上で完全に解凍されたものを使用した。原料配合、製造工程は、前記比較例と同様とした。
【0048】
尚、100MPaは本実施例では完全に解凍されなかったが、加圧温度及び圧力保持時間を適正化することにより解凍可能であることが確認されている。
【0049】
≪実施例2(高圧解凍、低塩・低脂肪・リン酸塩無添加でのソーセージの製造)≫
原料肉は、前記実施例1で採用した150MPa以上で解凍した3実験区を用いた。
【0050】
原料肉100部に対し背油10部、食塩1.0部、亜硝酸塩0.015部、ビタミンC0.03部、氷水20部を混合し、リン酸塩は無添加とした。
【0051】
カッティング以降の製造工程は、前記比較例と同様の工程で低塩・低脂肪・リン酸塩無添加のソーセージを製造した。
【0052】
高圧解凍したものは、いずれも加熱工程で良好にゲル化していること、並びに前記比較例と同等のピンク色の発色が観察され、本件発明の圧力範囲の加圧処理条件では肉の色素成分とされているミオグロビンも変性していないことが証明された。
【0053】
≪実験1(解凍ドリップ、加熱損失の測定)≫
原料肉塊の凍結・解凍時に問題となるドリップの発生量、解凍条件と原料配合の違いが最終工程の加熱工程において熱水中に流出する量を加熱損失として測定した。また、解凍ドリップと加熱損失を合計した数値を全ドリップとした。その結果を表1に示す。
【0054】
解凍ドリップは、自然解凍に比べ高圧解凍を行ったものはいずれも少なく、特に150MPaが最も少なかった。
【0055】
加熱損失は、実施例1の標準配合(SDP)並びに実施例2の低塩・低脂肪・リン酸塩無添加(LSFNP)共に高圧解凍の中では150MPaが最も少なく、全ドリップについても同様の傾向を示した。
【0056】
以上のことから、150MPaの圧力処理による解凍は、解凍時間の大幅な短縮と共に、肉類の冷凍・解凍に伴って発生するドリップやソーセージ製造時の加熱損失を低下させ、製品の歩留り向上に貢献することが判明した。
【0057】
【表1】

【0058】
≪実験2(ソーセージの物性測定)≫
解凍条件及び原料配合を変えて製造したソーセージの物性を測定した。
【0059】
物性測定装置は、YAMADEN株式会社製3305S型物性測定装置を用い、ロードセル200N、測定速度10mm/sec、温度20℃、湿度60%の測定条件により測定した。
【0060】
即ち、破断特性(破断応力、破断エネルギー、破断ひずみ率)は、直径32mm、高さ15mmに切断した試料を直径5mmディスク型プランジャーを用い、前述の条件により測定した。測定値は、図1〜図3に示した。
【0061】
また、テクスチャー特性(硬さ、凝集性)は、直径20mmディスク型プランジャーを用いたほかは、破断特性と同一条件で測定した。測定値は、図4、表2に示した。
【0062】
その結果、150MPaで解凍した原料肉で作製した実施例1の標準ソーセージ(SDP)の物性(破断応力、破断エネルギー、破断ひずみ率、テクスチャー特性のかたさ)は、比較例に比べ1/2以下に減少したが、実施例2の低塩・低脂肪・無リン酸ソーセージ(LSFNP)の場合は、破断エネルギーや破断歪率が比較例に比べ顕著に増加した。
【0063】
一方、破断応力、硬さ及び凝集性は、実施例1,実施例2共に比較例よりも小さかった。
【0064】
これらのことから、実施例2の150MPaで解凍した原料肉で作製したソーセージは、低塩・低脂肪・リン酸塩無添加にもかかわらず、比較的軟らかく、滑らかな舌触りが際立つ、従来のソーセージとは異なる特徴的な食感を有する加熱ゲルを形成することが証明された。
【0065】
【表2】

【0066】
≪実験3(ソーセージの消化性)≫
比較例(SD)と実施例2の150MPaで解凍した原料肉で作製したソーセージ(LSF)を用いて、in vitro及びin vivo消化性について検討するために消化酵素処理(in vitro)及び動物投与実験(in vivo)を行った。
【0067】
[in vitro消化性]
前処理として、SD,LSFの各ソーセージサンプルを脱脂し、乾燥,粉末化してソーセージタンパク質を得た。この各ソーセージタンパク質(1g)にペプシン(10mg,pH1.2)を添加し、37℃で1〜4時間インキュベーションした後、pH6.8に調製し、トリプシン(10mg)及びキモトリプシン(10mg)を添加し、37℃で1〜4時間インキュベーションした。続いて、15分間煮沸し、遠心(×14000rpm、15分)後、上清を回収し、凍結乾燥したものを試料とした。
【0068】
この試料の遊離アミノ酸濃度測定を行った。その結果を図5に示す。
【0069】
消化酵素処理を行ったSD,LSFの消化物中の遊離アミノ酸濃度は、ほぼ同じであった。
【0070】
また、上記試料のペプチド平均鎖長測定を行った。その結果を図6に示す。
【0071】
2〜4時間まで消化酵素処理したLSFのペプチド平均鎖長が、SDのそれより短いことが示された。
【0072】
以上のことから、LSFは、消化酵素による影響を受け易く、消化性が向上することが確認された。
【0073】
[in vivo消化性]
比較例(SD)と実施例2の低塩・低脂肪・リン酸塩無添加のソーセージ(LSF)をWistarラット(7週齢♂)に対して、蛋白質相当量として2g/kg体重を経口投与し、投与後、30分,1時間,4時間の3実験区でラットの血液を回収し、遠心分離により血清を回収してこの血清から血漿中のアミノ酸濃度を測定(生体アミノ酸分析)した。その結果を図7,図8に示す。
【0074】
LSFは、SDと比較してラットの血漿中総アミノ酸濃度は高く推移し、消化・吸収性が優れることが明らかとなった。特に摂取4時間後では、SD摂取群と比べ、LSF摂取群では、アミノ酸濃度の増加量が上昇することが示された。
【0075】
また、投与後、30分,1時間,4時間の3実験区でラットの胃,十二指腸,空腸,回腸を洗浄・回収(PBS)し、遠心分離により得た可溶性内容物(上清)のタンパク質抽出画分をSDS−PAGEで分析した。その結果を図9に示す。
【0076】
胃の可溶性内容物において、LSF摂取群ではバンドが多く見られ、LSFタンパク質がより消化し易いことがわかった。
【0077】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結状態の原料肉塊を包装フィルムで真空包装し、この真空包装した原料肉塊に100〜250MPaの静水圧処理を施すことにより、原料肉塊中に含まれる水分を固体から液体へと相変化させて解凍し、この解凍した原料肉塊をミンチにした後、ミンチ肉を結着させて加工肉に生成することを特徴とする食肉の加工方法。
【請求項2】
前記真空包装した原料肉塊に150MPaの静水圧処理を5〜10分間施すことを特徴とする請求項1記載の食肉の加工方法。
【請求項3】
前記請求項1,2のいずれか1項に記載の肉の加工方法で生成した加工肉を用いてソーセージを製造することを特徴とするソーセージの製造方法。
【請求項4】
前記加工肉100部に対し、脂肪を10部以下、食塩添加量を1部以下配合し、リン酸塩を添加せずに製造することを特徴とする請求項3記載のソーセージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−24571(P2011−24571A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141798(P2010−141798)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年(平成21年)3月5日 財団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、「食の高付加価値化に資する基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(307010144)財団法人にいがた産業創造機構 (6)
【Fターム(参考)】