説明

飲料の退色防止法

【課題】天然色素を含有する飲料(天然色素含有飲料)の退色を防止する方法を提供する。また、退色が防止された天然色素含有飲料を提供する。
【解決手段】本発明により、天然色素含有飲料に鉄イオンを添加することを含む、天然色素含有飲料の光酸化による退色防止法が提供される。また、本発明により鉄イオンを含有する、光酸化による退色が防止された天然色素含有飲料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然色素を含有する飲料、例えば、天然色素で着色された飲料および有色の天然果汁等を含む飲料の退色を防止する方法に関する。また、本発明は退色が防止された天然色素含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
天然着色料として食品添加物として用いられる天然色素は、大きく分けるとカロテノイド系、アントラキノン系、アントシアニン系、フラボノイド系、ポルフィリン系、ジケントン系、ベタシアニン系、アザフィロン系、その他(クチナシ青色素、クチナシ赤色素等)に分類される。これらの天然色素は一般に耐光性に劣っており、そのような天然色素で着色された飲料は光に当たると光酸化反応によって一般に退色することが知られている。また、天然色素はpH、溶存酸素、炭酸ガス、熱、光、金属イオン、ビタミンC等の影響を受けて変色や退色をおこしやすいことも知られている。特にアントシアニン系の色素は光に対して不安定であるため、食品への応用が限られていた(「新版・食用天然色素」、p51)。このような光によって退色しやすい天然色素含有飲料も近年の消費者のニーズに合わせて透明あるいは色の薄いプラスチック容器(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル)に詰められて売られるようになってきたので、天然色素含有飲料の退色防止は重要な課題となっている。このような色素の退色を防止するため、従来抗酸化剤が一般に使用されてきた。抗酸化剤による退色抑制は効果が十分に得られず、その結果、抗酸化剤を使用しても、なお求める色調以上に天然色素を添加する必要性が生じることもあった。さらに、天然色素は合成着色料に比べて一般に退色しやすく、飲料などの食品に使用する場合コストが割高になるという問題も生じていた。
【0003】
アントシアニン系色素がある種の金属イオンとの共存下で錯体を形成することにより安定化することが報告されている(「新版・食用天然色素」、p52)が、一方、アントシアニンは鉄イオン等の金属カチオンと錯体を形成することにより色が変わり、特に青色側にシフトし、場合によっては沈澱することも知られている(「色から見た食品のサイエンス」p99、“2.5 金属イオンの影響”)。また、鉄イオンは酸化剤として作用して天然色素の酸化を促進して退色を加速させる可能性があることも知られている。従って、一般には、天然色素を含有する食品の加工時に使用する水や他の原料に鉄イオン等の金属カチオンが含まれないように注意すべきであると考えられている。具体的には、アカキャベツ、ムラサキイモ色素等のアントシアニン色素は金属イオンによって変色しやすいことが報告されており(「新版・食用天然色素」、p54、表I-23、「最新ソフトドリンクス」p171〜p.179、「色から見た食品のサイエンス」p98〜103等)。このように、変色を避けるという観点からも一般には天然色素含有飲料への金属イオンの混入は避けられており、特に、天然色素を含む飲料へ金属イオンを積極的な含有させることは避けられてきた。
【0004】
【非特許文献1】「新版・食用天然色素」、p51、(清水 孝重、中村 幹雄、光琳、平成13年3月31日発行)
【非特許文献2】「最新ソフトドリンクス」p171〜p.179,(ソフトドリンクス編纂委員会 編、平成15年9月30日発行)
【非特許文献3】「色から見た食品のサイエンス」、第1章第2節、p98〜103、SCIENCE FORUM (高宮 和彦 他編、SCIENCE FORUM、2004年2月10日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により、天然色素を含有する飲料(天然色素含有飲料)の退色を防止する方法が提供される。また、本発明により、退色が防止された天然色素含有飲料が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、天然色素含有飲料に鉄イオンを含有させることを含む、天然色素含有飲料の退色、例えば光酸化による退色を防止する方法である。また、本発明は鉄イオンを含有する、光酸化による退色が防止された天然色素含有飲料でもある。
本発明において、鉄イオンの濃度は0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上、特に0.1〜100ppm、好ましくは1〜100ppm、特に好ましくは10〜100ppmである。
また、本発明において、前記天然色素はアントシアニン系色素、フラボノイド系色素(例えばベニバナ由来の色素、特にベニバナ黄色素)、またはクチナシ由来の色素(例えばクチナシ青色色素)である。本発明において、前記天然色素は、特にアカキャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素、ベニバナ黄色素またはクチナシ青色素である。
また、本発明において、前記天然色素含有飲料のpHは3.0〜4.5である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、天然色素を含有する飲料、例えば有色の天然果汁を含む飲料および天然色素で着色された飲料の退色を長期にわたって防止することができる。本発明により退色を防止された飲料は、流通過程での保管が容易であり、色のついた飲料を好む消費者のニーズにも合致する。また、退色防止のために多量の色素を含有させる必要がないため、従来事実上困難であった色の薄い(淡い色の)飲料(例えば色の薄い果汁飲料や淡い色に着色した果汁配合の乳性飲料)を製造および販売することも可能となる。本発明において、鉄イオンを含有させることにより天然色素で着色された飲料の色調は少なくとも目視で判断する限り変化しないので、天然色素含有飲料を変色させることなく極めて簡便に天然色素含有飲料の退色を防止することができる。本発明によれば、特に透明プラスチック容器、たとえばPETボトルに収納されて保管または販売される天然色素含有飲料の退色を効果的に防止することができる。また本発明の天然色素含有飲料は無色透明プラスチック容器または色の薄い透明容器、たとえば透明PETボトルに収納されて保管または販売される場合に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、天然色素含有飲料に鉄イオンを含有させることを特徴とする、天然色素含有飲料の光存在下における退色を防止する方法である。本明細書において、天然色素含有飲料には、本来的に天然色素を含む飲料(例えば、有色の天然果汁を含む飲料)および天然色素で着色された飲料が含まれる。また、本発明は鉄イオンを含有する、光酸化による退色が防止された天然色素含有飲料でもある。
一般に天然色素含有飲料中の天然色素は退色しやすく、特に光の存在下で光酸化を受けて退色する傾向があるが、本発明により鉄イオンを含有させることにより、そのような退色を防止することができる。
本明細書において「天然色素」とは天然物に含まれる色素または天然物から得られる色素全般をいう。着色用の天然色素としては食品添加物として許容される色素であればいずれの色素でも良いが、特にアントシアニン系色素、フラボノイド系色素およびクチナシ由来の色素(例えばクチナシの果実から得られるイリドイド配糖体とタンパク質分解物の混合物にβ-グルコシダーゼを添加して得られるクチナシ青色素)が好ましい。本発明において、アントシアニン系色素として、アカキャベツ色素(主色素はシアニジンアシルグリコシドと言われている)、シソ色素(主色素はシアニジン、マロニルシソニンと言われている)、ブドウ果汁色素(主色素はマルビジン-3-グルコシド等と言われている)およびブドウ果皮色素(主色素はマルビジン-3-グルコシドと言われている)、ムラサキイモ色素(主色素はシアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンシルグルコシドと言われている)、アカダイコン色素(主色素はペラルゴニジンアシルグリコシドと言われている)が好ましく、特に、アカキャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素が好ましい。本発明においてフラボノイド系色素としてベニバナ由来の色素が好ましく、特にベニバナ黄色素(主色素はサフロミン類と言われている)が好ましい。本発明において、クチナシ由来の色素としてクチナシ青色素が特に好ましい。これらはいずれも食品添加物として一般に使用されている。なお、「アカキャベツ色素」、「アカダイコン色素」、「ムラサキイモ色素」、「ベニバナ黄色素」および「クチナシ青色素」等の色素の名称は食品衛生法に基づく添加物の表示に従ったものであり、その意味するところも食品衛生法上の取り扱いに従う。
【0009】
本発明において天然色素含有飲料に含有させる鉄イオンは2価であっても3価であってもよい。天然色素含有飲料に添加する場合、鉄イオンは食品添加物として許容される鉄化合物または鉄化合物を含む組成物として添加されることが好ましい。食品添加物として許される鉄化合物または鉄化合物を含む組成物には、3価の鉄イオンとして塩化第二鉄、クエン酸第二鉄、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、2価の鉄イオンとしてクエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、硫酸第一鉄が含まれ、これらの鉄化合物はいずれも本発明において天然色素含有飲料に配合することができる。また、好ましくは、クエン酸第二鉄やピロリン酸第二鉄などの3価の鉄イオン化合物を配合することができる。
本発明において天然色素含有飲料に含有させる鉄イオンは、0.1ppm(100mlあたり0.01mgの鉄イオン)以上、より好ましくは1ppm(100mlあたり0.1mgの鉄イオン)以上である。より具体的には0.1〜100ppm(100mlあたり0.01mg〜10mgの鉄イオン)であるように添加されることが好ましく、1〜100ppmとなるように鉄イオンを添加することがより好ましく、10〜100ppmとなるように鉄イオンを添加することが特に好ましい。100ppmを越えて鉄イオンを含有させる場合は、飲料の味に影響を与える可能性を考慮して含有量を決定するのが好ましい。
【0010】
本発明の天然色素含有飲料のpHは3.0〜4.5であることが好ましい。また、本発明の天然色素含有飲料は鉄イオンの他に更に抗酸化剤を含むことがより好ましい。抗酸化剤は食品添加物として許容されている水溶性抗酸化剤であれば特に限定されず、たとえば、ヤマモモ抽出物、酵素処理イソクエルシトリン(糖転移イソクエルシトリン)等が含まれる。鉄イオンに加えて抗酸化剤を含有させることにより、一般には天然色素含有飲料の退色がさらに効果的に防止される。
本発明においては、鉄イオンを含有させることにより天然色素の色調の顕著な変化はみられないので、鉄イオンは食品衛生法上許容される範囲で飲料製造過程のいずれの段階において添加することもできる。
【0011】
鉄イオンを含有させた天然色素含有飲料の光存在下での耐退色性は、実施例に示したように、鉄イオンを含むまたは含まない天然色素含有飲料に一定期間強い光を照射して、色の変化を目視または分光測色計によって評価し、光照射を行わなかった対照と比較することによって評価することができる。例えば、鉄イオンを含むまたは含まない天然色素含有飲料を暗所(光照射時間0)および光照射下に保管し、目視により、「大きく退色した」の評価「1」から「全く退色が見られない」の評価「5」の5段階として鉄イオンの効果を評価とすることができる。典型的な試験においては、20,000 lxの条件で14日間蛍光照射し、前述のようにして光を照射しない場合と比較した色素の退色度が評価される。
分光測色計による評価は、例えば鉄イオンを含むまたは含まない天然色素含有飲料を暗所(遮光下)および光照射下に保管し、JISに規定されるL*a*b*表色系を用いて、色差をΔE*(ΔE* = {(ΔL*)2 + (Δa*)2 + (Δb*)21/2:ΔL*、Δa*、Δb*はそれぞれ、14日間光照射品と光照射をしない対照とのL*(明度、白色度)、a*(色度:色相及び彩度、+a*は赤方向、-a*は緑方向)、b*(色度:色相および彩度:+b*は黄方向、-b*は青方向)の差を表す)として表すことができる。ΔE*の具体的な測定方法はJIS等の規格に規定された条件および方法で行うことができる。例えば、鉄イオンを含むまたは含まない天然色素含有飲料を暗所(遮光下)および光照射下に保管し、ΔE*を測定することによって鉄イオンの効果を評価することができる。また、Δa*は赤色の変化、Δb*は黄色〜青色の変化の指標となるので、ΔE*と共にΔa*およびΔb*を評価することもできる。一方、他の成分が同一で鉄イオンを含まない試料を比較試料として鉄イオンの退色防止効果を評価することができる。光照射の光源としては一般の蛍光灯を用いることができる。
本発明により、20,000 lxの条件で14日間の蛍光照射後に退色が全くまたはほとんどみられない天然色素含有飲料が得られる。一般的な小売店および量販店の照度が約500〜約1000 lx、コンビニエンスストアや特に明るい陳列棚でも約1500 〜約2000 lx程度と考えられるので、20,000 lxの条件で14日間蛍光照射後に退色が全くまたはほとんどみられない場合には、本発明の、または本発明の方法によって製造された天然色素含有飲料は透明容器中であっても流通過程あるいは一般の小売店の陳列棚または保管庫にて少なくとも6ヶ月、一般には1年以上の間顕著な退色は見られないと期待される。
【0012】
本発明の方法によって退色が防止される天然色素含有飲料は透明でも不透明でもよく、ゼリーや果肉等の固形物を含んでいても良い。そのような天然色素含有飲料には、たとえば、天然色素を含有する、すなわち天然色素で着色された炭酸入りまたは無炭酸の清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、ヨーグルト飲料を含む乳酸飲料が含まれるが、これらに限定されない。特に、本発明の方法によって、低果汁系飲料および低果汁含有飲料の退色が防止される。本明細書において、低果汁系飲料とは、特に薄い濃度の果汁系飲料で色素による色づけが必要なものを意味し、低果汁含有飲料は、乳性飲料などに果汁を含有させるため色をつける必要が生じたものを意味する。本発明の方法によって退色が防止される低果汁系飲料および低果汁含有飲料飲料には、各種ぶどう系、さくらんぼ、イチゴ、アセロラ、各種ベリー、プルーン飲料(赤系飲料)、抹茶飲料、キウイ飲料等が含まれる。
本発明のまたは本発明の方法によって退色が防止された天然色素含有飲料は、無色透明または色の薄い透明プラスチック容器、たとえば無色または色の薄い透明PETボトルに収納されて保管または販売される場合に特に適している。
【実施例1】
【0013】
各鉄イオン濃度における退色防止効果
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、脱脂粉乳(最終濃度0.7%)、ダイズ多糖類(最終濃度0.13%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、クエン酸3ナトリウム(最終濃度0.015%)、ヤマモモ抽出物(最終濃度40ppm)、アカキャベツ色素(最終濃度0.2%)、およびピロリン酸第二鉄を鉄イオンの最終濃度が表1に示す各濃度となるように蒸留水へ添加し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。
退色状況の評価は以下のように行った。調製した各試料をサンヨーグロースキャビネット(MLR-350、三洋電機(株))を用いて15℃、20,000 lxの条件下で14日間の蛍光照射を行い、光照射をせず5℃に14日間保管した調製品(組成および他の条件は各蛍光照射試料と同じ)を(光照射試験の)対照として目視により、またはコニカミノルタ社製分光測色計CM-3500dを用いて色を数値化し、色差(ΔE*)を計算することにより退色を評価した。同時に、Δa*およびΔb*についても評価した。Δa*は赤色の変化、Δb*は黄色〜青色の変化の指標となる。また、鉄イオンの効果を調べるための対照(比較試料として示した)としては他の成分が同じで鉄イオンを添加しない調製品を使用した。
ΔE*はL*a*b*表色系により色を数値化し、ΔE* = {(ΔL*)2 + (Δa*)2 + (Δb*)21/2(ΔL*、Δa*、Δb*はそれぞれ、14日間光照射品のL*、a*、b*と5℃保存品のL*、a*、b*との差を表す。)として計算した。
退色度の目視による評価は5段階評価として行い、光照射した試料と対照の外観をそれぞれ観察し、全く退色が見られない場合を5、ほとんど退色が見られない場合を4、やや退色が見られる場合を3、退色が見られる場合を2、顕著な退色が見られる場合を1として試料の退色状況を評価した。結果を表1に示す。
【0014】
表1.蛍光照射試験(20,000 lx)結果

対照および全ての試料のpHは3.5である。
【0015】
鉄イオン濃度が0.1ppm以上、少なくとも100ppmまでの範囲で退色防止効果が確認された。特に鉄イオン濃度が1ppm〜100ppmの範囲で優れた退色防止効果が確認された。特に赤色の退色がよく防止された。いずれの場合も鉄イオンの添加による色調の顕著な変化および沈澱の形成は見られなかった。
【実施例2】
【0016】
各種天然色素に対する鉄イオンの退色防止効果
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、クエン酸3ナトリウム(最終濃度0.14%)、およびムラサキイモ色素(最終濃度0.2%)またはアカダイコン色素(最終濃度0.2%)またはベニバナ黄色素(最終濃度0.3%)またはクチナシ青色素(最終濃度0.1%)、およびピロリン酸第二鉄若しくはヤマモモ抽出物を各最終濃度が表2に示した濃度となるように蒸留水に添加し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。実施例1と同様に各試料の退色状況を評価した。結果を表2に示す。目視による5段階評価およびΔE*の測定および定義も実施例1と同様である。
【0017】
表2.蛍光照射試験(20,000 lx)結果

【0018】
鉄イオンはムラサキイモ色素、アカダイコン色素、ベニバナ黄色素、およびクチナシ青色素に対しても、アカキャベツ色素に対するのと同様に優れた退色防止効果が見られた。特にアカキャベツ色素については赤系、ベニバナ黄色素については黄色系、クチナシ青色素については青系の色の退色がよく防止されていることが確認された。いずれの場合も鉄イオンの添加による色調の顕著な変化および沈澱の形成は見られなかった。
【実施例3】
【0019】
鉄イオンによる退色防止効果とpHとの関連性
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、脱脂粉乳(最終濃度0.7%)、ダイズ多糖類(最終濃度0.13%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、ヤマモモ抽出物(最終濃度40ppm)、アカキャベツ色素(最終濃度0.2%)、およびピロリン酸第二鉄(鉄イオンの最終濃度10ppm)を蒸留水に添加し、更にクエン酸3ナトリウムを添加してpHが表2に示す値となるように調製し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。退色状況の評価を実施例1に記載したように行った。鉄イオンの効果を調べるための対照としての比較試料のpHは3.5とした。目視による5段階評価およびΔE*の測定および定義も実施例1と同様である。評価の結果を表3に示す。
【0020】
表3.蛍光照射試験(20,000 lx)結果

【0021】
飲料のpHが3.0〜4.5の範囲で鉄イオンによる退色防止効果が確認された。特に赤色の退色がよく防止された。いずれの場合も鉄イオンの添加による色調の顕著な変化および沈澱の形成は見られなかった。
【実施例4】
【0022】
鉄イオンと抗酸化剤の併用による退色防止効果
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、クエン酸3ナトリウム(最終濃度0.14%)、赤キャベツ色素(最終濃度0.2%)、ヤマモモ抽出物およびピロリン酸第二鉄を、ヤマモモ抽出物および鉄イオンの最終濃度がそれぞれ表4に示す各濃度となるようにそれぞれの成分を蒸留水へ添加し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。鉄イオン添加の効果を調べるための対照として、鉄イオンを添加しない調製品をそれぞれ比較試料7および8とした。
実施例1に記載したように退色状況の評価を行った。目視による5段階評価およびΔE*の測定および定義も実施例1と同様である。評価の結果を表4に示す。
【0023】
表4.蛍光照射試験(20,000 lx)結果

対照および全ての試料についてpHは3.5である。
【0024】
鉄イオンの添加は抗酸化剤の添加よりも退色防止効果に優れていることが示された。特に赤色の退色がよく防止された。また、鉄イオンに加えて抗酸化剤を添加すると退色防止効果が更に向上することも示された。いずれの場合も鉄イオンの添加による色調の顕著な変化および沈澱の形成は見られなかった。
【実施例5】
【0025】
クエン酸第二鉄による退色防止効果
果糖ブドウ糖液糖(最終濃度12.5%)、クエン酸(最終濃度0.2%)、クエン酸3ナトリウム(最終濃度0.14%)、赤キャベツ色素(最終濃度0.2%)、並びにヤマモモ抽出物およびクエン酸第二鉄を、ヤマモモ抽出物および鉄イオンの最終濃度がそれぞれ表4に示す各濃度となるようにそれぞれの成分を蒸留水へ添加し、得られた混合物を95℃にて殺菌後、PETボトルに充填して評価用試料を作製した。
実施例1に記載したように退色状況の評価を行った(但しΔE*の測定は行わなかった)。目視による5段階評価は実施例1と同様である。評価の結果を表5に示す。
【0026】
表5.蛍光照射試験(20,000 lx)結果

鉄イオンの添加による優れた退色防止効果が得られた。また、鉄イオンの添加による顕著な色調の変化および沈澱は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然色素含有飲料に鉄イオンを含有させることを含む、天然色素含有飲料の退色防止法。
【請求項2】
鉄イオンが3価鉄イオンである、請求項1記載の退色防止法。
【請求項3】
天然色素がアントシアニン系色素、フラボノイド系色素、またはクチナシ由来の色素である、請求項1または2記載の退色防止法。
【請求項4】
アントシアニン系色素がアカキャベツ色素、アカダイコン色素およびムラサキイモ色素からなる群より選ばれ、フラボノイド系色素がベニバナ黄色素であり、クチナシ由来の色素がクチナシ青色素である、請求項3記載の退色防止法。
【請求項5】
鉄イオンの濃度が0.1ppm以上となるように鉄イオンを添加する、請求項1〜4のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項6】
鉄イオンの濃度が0.1〜100ppmとなるように鉄イオンを添加する、請求項1〜4のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項7】
鉄イオンの濃度が1ppm以上となるように鉄イオンを添加する、請求項1〜4のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項8】
鉄イオンの濃度が1〜100ppmとなるように鉄イオンを添加する、請求項1〜4のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項9】
天然色素含有飲料のpHが3.0〜4.5である、請求項1〜8のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項10】
さらに抗酸化剤を含有させる、請求項1〜9のいずれか1項記載の退色防止法。
【請求項11】
鉄イオンを含む、光酸化による退色が防止された天然色素含有飲料。
【請求項12】
鉄イオンが3価鉄イオンである、請求項11記載の天然色素含有飲料
【請求項13】
天然色素がアントシアニン系色素、フラボノイド系色素、またはクチナシ由来の色素である、請求項12記載の天然色素含有飲料。
【請求項14】
アントシアニン系色素がアカキャベツ色素、アカダイコン色素およびムラサキイモ色素からなる群より選ばれ、フラボノイド系色素がベニバナ黄色素であり、クチナシ由来の色素がクチナシ青色素である、請求項13記載の天然色素含有飲料。
【請求項15】
鉄イオンの濃度が0.1ppm以上である、請求項11〜14のいずれか1項記載の天然色素含有飲料。
【請求項16】
鉄イオンの濃度が0.1ppm〜100ppmである、請求項11〜14のいずれか1項項記載の天然色素含有飲料。
【請求項17】
鉄イオンの濃度が1ppm以上である、請求項11〜14のいずれか1項記載の天然色素含有飲料。
【請求項18】
鉄イオンの濃度が1〜100ppmである、請求項11〜14のいずれか1項記載の天然色素含有飲料。
【請求項19】
pHが3.0〜4.5である、11〜18項いずれか1項に記載の天然色素含有飲料。
【請求項20】
さらに抗酸化剤を含有する、請求項11〜18のいずれか1項記載の天然色素含有飲料。
【請求項21】
透明容器に収納された請求項11〜20のいずれか1項記載の天然色素含有飲料。

【公開番号】特開2009−136187(P2009−136187A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314354(P2007−314354)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】