説明

飼料添加剤及び飼料

【課題】鳥類及び哺乳類、特に家畜の疾病を予防又は治療するための安全かつ簡便な手段を提供する。特に、グラム陽性細菌によって引き起こされる家畜の感染症を予防又は治療するための手段を提供する。
【解決手段】マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)及び/又はラムノリピッド(RL)を、鳥類又は哺乳類に摂取させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖脂質を含有する飼料添加剤、飼料及びこれらを用いた鳥類及び哺乳類の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の感染症は、家畜の体重を減少させたり、様々な病状を引き起したりするなど、その商品価値を著しく低下させる。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、ウシ、ヒツジ、ヤギの乳房炎、皮下腫瘍、膿血症、馬の発疹、豚、鶏の関節炎、皮膚炎、敗血症の原因菌である。また、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)は、豚の髄膜炎、敗血症、心内膜炎、関節炎の原因菌であり、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)はウシの鼓張症の原因菌である。
【0003】
抗生物質を家畜飼料に少量添加することにより家畜の成長が促進されることが1940年代に発見され、それ以来、家畜の成長を促進したり、疾病を予防したりする手段として、家畜の飼料に抗生物質を添加することが広く行われてきた。抗生物質は、家畜の病原菌感染の予防、代謝の改善、腸内の有害菌の増殖抑制の作用を示し、結果として疾病を予防し、成長を促進すると考えられているが、詳細は依然不明である。その一方で、飼料に抗生物質を混ぜることは、結果的に抗生物質を外環境に広くばら撒くこととなり、畜産界においても抗生物質耐性菌の出現が問題となっている。例えば、代表的な抗生物質耐性菌であるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))は、馬などの家畜でも発見されていることが報告されている。
このような背景下、近年では、抗生物質の飼料への添加が厳しく規制されるようになってきている。例えば、欧州では2006年までに抗生物質の飼料が全面禁止され、日本でも使用できる抗生物質の数が段階的に減ってきている。また、このような動きと相まって、生産者からは抗生物質の代替物についての要望が大きくなっている。
【0004】
このような抗生物質の代替の流れを受け、一部では、乳酸菌が生産するナイシン、バチルス菌が生産するイツリンなどのポリペプチド類を抗生物質の代わりに使用する動きも出てきている。また、乳化剤として缶コーヒーなどに添加されている糖脂質であるショ糖エステル類がバチルス菌等に対する抗菌作用を期待されて添加されている。
【0005】
一方、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)やラムノリピッドに代表される糖脂質には、界面活性作用をはじめとするさまざまな性質があり、以下に述べるような多様な用途への展開が図られている。例えば、MELを含むリポソームを用いて、遺伝子の導入効率を向上させる技術(特許文献1)、MELを用いて薬剤耐性等の遺伝子を含むリポソームの形成を阻害し、薬剤耐性菌等の発生を減少させる方法(特許文献2)、MELを抗炎症剤及び抗アレルギー剤の有効成分として用いる技術(特許文献3)等が知られている。また、ラムノリピッドを用いて天然繊維の吸水性を向上させる技術(特許文献4)、ラムノリピッドを用いて有害使用性有機化合物を含む非処理物から前記有機化合物を分離する技術(特許文献5)、ラムノリピッドを用いて高密度冷熱蓄熱輸送用の氷スラリーを調製することにより、氷の凝集及び合一を防止する技術(特許文献6)等が知られている。なお、MELやラムノリピッドの抗菌性は一部報告されているが(非特許文献1、非特許文献2)、家畜の感染症を引き起こす細菌に対する抗菌性については、未だ検討されておらず、MELやラムノリピッドを畜産分野で適用した例はない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−174727号公報
【特許文献2】特開2006−158387号公報
【特許文献3】特開2005−68015号公報
【特許文献4】特開2002−105854号公報
【特許文献5】特開2001−327803号公報
【特許文献6】特開2001−131538号公報
【非特許文献1】Fat. Sci. Technol., 91, 363-366, 1989
【非特許文献2】Biotechnol., 29, 91-96, 1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鳥類及び哺乳類、特に家畜の疾病を予防又は治療するための安全かつ簡便な手段を提供することを課題とする。本発明は、特に、グラム陽性細菌によって引き起こされる家畜の感染症を予防又は治療するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)及びラムノリピッド(RL)等の糖脂質が、家畜の感染症を引き起こすグラム陽性細菌に対して、抗菌活性を有することを見出し、発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)マンノシルエリスリトールリピッド及び/又はラムノリピッドを含有する鳥類又は哺乳類用の飼料添加剤。
(2)家畜用であることを特徴とする、(1)に記載の飼料添加剤。
(3)マンノシルエリスリトールリピッドが、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する酵母から得られることを特徴とする、(1)又は(2)の何れか一に記載の飼料添加剤。(4)ラムノリピッドが、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌から得られることを特徴とする、(1)〜(3)の何れか一に記載の飼料添加剤。
(5)疾病の予防又は治療用であることを特徴とする、(1)〜(4)の何れか一に記載の飼料添加剤。
(6)前記疾病がグラム陽性細菌により引き起こされる感染症であることを特徴とする、(5)に記載の飼料添加剤。
(7)グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属又はストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌である(6)に記載の飼料添加剤。
(8)グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィノコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)又はストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)である(7)に記載の飼料添加剤。
(9)(1)〜(8)の何れか一に記載の飼料添加剤を含む、飼料。
(10)(9)に記載の飼料を、鳥類又は哺乳類に摂取させることを特徴とする、鳥類又は哺乳類の飼育方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飼料添加剤を飼料に混合し、鳥類又は哺乳類に摂取させることにより、疾病を予防又は治療することができる。具体的には、グラム陽性細菌による感染症を予防又は治療することができる。本発明の飼料添加剤を含有する飼料は、鶏、豚、牛などの家畜の飼育に好適に用いることができる。また、本発明の飼料添加剤は、生分解性が高く、生体及び環境に対する安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の飼料添加剤は、家畜の疾病予防及び/又は治療効果を有する糖脂質、特にマン
ノシルエリスリトールリピッド(MEL)及び/又はラムノリピッド(RL)を含有することを特徴とする。
【0012】
MELは、糖脂質型のバイオサーファクタントの一種で、マンノース、エリスリトール及び脂肪酸が結合した構造を有しており、下記一般式(1)で表される。
【0013】
【化1】

【0014】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数3〜25の脂肪族アシル基である。特に、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数5〜14の脂肪族アシル基であることが好ましい。また、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数5〜13の脂肪族アシル基であってもよい。これらの脂肪族アシル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、R3及びR4は、一方がアセチル基であり、他方が水素であるか、両方がアセチル基である。
なお、R3及びR4が共にアセチル基であるものはMEL−A、R3が水素であり、R4がアセチル基であるものはMEL−B、R3がアセチル基であり、R4が水素であるものはMEL−Cと呼ばれる。
また、本発明の飼料添加剤におけるMELは、一種のみであっても、複数種の混合物であってもよい。
【0015】
本発明において用いるMELは、菌類、特に酵母類などの微生物を培養して得ることができる。例えば、シュードザイマ(Pseudozyma)属、カンジダ(Candida)属、クルツマノミセス(Kurtzmanomyces)属に属する酵母等を用いることができる。また、Shizonella melanogrammaを用いることもできる。この中でも、シュードザイマ属に属する酵母を用いることが好ましい。シュードザイマ属に属する酵母としては、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma antarctica等が挙げられる。具体的には、例えば、Pseudozyma aphidis NBRC
10182菌株、Peudozyma Antarctica NBRC 10260菌株、Peudozyma Antarctica NBRC 10736菌株を用いることができる。
NBRC 10182菌株、NBRC 10260菌株、NBRC 10736菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている株である。
また、MELは、合成したものや市販品を用いることもできる。
【0016】
ラムノリピッドは、糖脂質型のバイオサーファクタントの一種で、ラムノースと脂肪酸が結合した構造を有している。本発明において用いるラムノリピッドは特に制限されないが、例えば下記一般式(2)又は一般式(3)で表される構造を有するものを用いることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(2)において、R5は、水素原子、−CH2−〔CH(OH)〕m−CH2(OH)、−(XO)nH、若しくは炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基又は脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。R6は、水素原子又は2−デセノイル基である。R5とR6は独立している。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(3)において、R7は、水素原子、−CH2−〔CH(OH)〕m−CH2(OH)、−(XO)nH、若しくは炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基又は脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。R8は、水素原子又は2−デセノイル基である。R7とR8は独立している。
また、本発明の飼料添加剤におけるラムノリピッドは、一種のみであっても、複数種の混合物であってもよい。
【0021】
本発明において用いるラムノリピッドは、細菌を培養して得ることができる。例えば、
シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する細菌等を用いることができる。この中でも、シュードモナス属に属する細菌を用いることが好ましい。シュードモナス属に属する細菌としては、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas chlororaphis等が挙げられるが、Pseudomonas sp. を用いることもできる。バークホルデリア属に属する細菌としては、Burkholderia pseudomalle等が挙げられる。この中でも、特にPseudomonas aeruginosaを用いることが好ましい。具体的には、例えばPseudomonas aeruginosa NBRC 3924菌株、Pseudomonas sp. DSM 2874菌株等を用いることができる。
NBRC 3924菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている菌株である。
DSM 2874菌株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に登録されている菌株である。
また、ラムノリピッドは、合成したものや市販品を用いることもできる。
【0022】
上述した微生物を用いてMEL及びラムノリピッドを生産させるためには、以下のような方法を用いることができる。
MELを生産させるためには、天然油脂類、脂肪酸、アルコール、ケトン類、炭化水素類、n−アルカン等の原料のうち、用いる微生物に適した原料を選択し、その微生物の培養に通常用いられる培養温度を用いて培養すればよい。原料として好ましいのは、天然油脂類であり、例えば、大豆油、ひまわり油、ココナッツ油、綿実油、コーン油、パーム油等を用いることができ、この中でも特に大豆油が好ましく用いられる。
また、ラムノリピッドを生産させるためには、天然油脂類、脂肪酸、アルコール、ケトン類、炭化水素類、n−アルカン、糖類等の原料のうち、用いる微生物に適した原料を選択し、その微生物の培養に通常用いられる培養温度を用いて培養すればよい。このような方法として、例えば、特開平10−75796号公報に記載の方法を用いることができる。
何れの場合も、培養方法は特に制限されず、静置培養、往復動式振とう培養、回転動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法を用いることができる。
【0023】
Pseudozyma属に属する酵母を用いて、MELを生産する場合には、通常Pseudozyma属に属する酵母の培養に用いられる培地に、大豆油等の天然油脂類を添加し、20℃〜35℃で培養すればよい。
また、Pseudomonas属に属する細菌を用いて、ラムノリピッドを生産する場合には、通常Pseudomonas属に属する細菌の培養に用いられる培地に、大豆油等の天然油脂類、グルコース等の糖類、エタノール等のアルコール類を添加し、20〜40℃で培養すればよい。
【0024】
また、微生物を用いてMEL及び/又はラムノリピッドを生産する場合は、培養物を精製し、MEL及び/又はラムノリピッドの精製品を用いてもよいし、培養物を遠心分離し、MEL及び/又はラムノリピッドを含む分画を用いてもよい。また、培養物をそのまま用いてもよく、例えば、培養液や固体培養物を乾燥・粉砕したものなどを用いることができる。
【0025】
本発明の飼料添加剤は、MEL及びラムノリピッドの何れかを含んでいてもよく、これらの両方を含んでいてもよい。また、MEL及び/又はラムノリピッドの含有量は、特に制限されないが、効果を十分に得る観点からは、1質量%以上であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の飼料添加剤は、MEL及び/又はラムノリピッドの他に、鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療に有効な成分、栄養補助成分、保存安定性を高める成分等の任意
成分をさらに含むものであってもよい。このような任意成分としては、例えば、エンテロコッカス類、バチルス類、ビフィズス菌類等の生菌剤;アミラーゼ、リパーゼ等の酵素;L−アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等のビタミン;塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等のミネラル、DL−アラニン、DL−メチオニン、塩酸L−リジン等のアミノ酸;フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸及びそれらの塩類等の有機酸;エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;プロピオン酸カルシウム等の防カビ剤;CMC、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の粘結剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤;アスタキサンチン、カンタキサンチン等の色素;各種エステル、エーテル、ケトン類等の着香料が挙げられる。
【0027】
本発明の飼料添加剤の剤形は特に制限されず、例えば粉末、液体、錠剤など任意の形態とすることができる。本発明の飼料添加剤は、MEL及び/又はラムノリピッド、並びに必要に応じて任意成分を混合し、製剤化することにより製造することができる。
【0028】
また、MEL及びラムノリピッドは、鳥類又は哺乳類の疾病を引き起こす細菌に対して抗菌活性を示すことから、本発明の飼料添加剤は、これらの細菌によって引き起こされる鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療するために用いることができる。
本発明の飼料添加剤は、特にグラム陽性細菌により引き起こされる感染症の予防又は治療に好適に用いることができる。
このようなグラム陽性細菌としては、例えば、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Planococcus、Stomatococcus、Enterococcus、Peptococcus、Peptostreptococcus、Ruminococcus、Leuconostoc、Pediococcus、Aerococcus、Gemella、Coprococcus、Sarcina、Bacillus、Clostridium、Lactobacillus、Listeria、Erysipelothrix、Corynebacterium、Rhodococcus、Propionibacterium、Eubacterium、Actinomyces、Bifidobacterium、Mycobacterium、Nocardia、Dermatophilus等の属に属する細菌が挙げられる。
本発明の飼料添加剤は、特に、スタフィロコッカス属又はストレプトコッカス属に属する細菌、具体的にはStaphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus suis、Streptococcus bovis等により引き起こされる疾病の予防又は治療に好適に用いることができる。
【0029】
本発明の飼料添加剤は、鳥類又は哺乳類の飼料、ペットフード、ペット用サプリメント(以下、飼料という。)に用いられる他の飼料成分と混合して、鳥類又は哺乳類用の飼料とすることができる。飼料の種類や成分は、特に制限されない。また、本発明の飼料には、飼料添加剤に添加することができる、上記任意成分を加えて調製してもよい。また、本発明の飼料は、鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療するための飼料とすることもできる。
【0030】
本発明の飼料におけるMEL及び/又はラムノリピッドの含有量は、与える動物の種類、健康状態、飼料の種類、飼料成分、年齢、性別、体重等により適宜調節され、特に制限されないが、乾物質量当たり1〜10000質量ppm、好ましくは10〜1000質量ppmであることが好ましい。
【0031】
本発明の飼料は、飼料添加剤をそのまま飼料成分に添加し、混合して製造することができる。この際、粉末状、固形状の飼料添加剤を用いる場合は、混合を容易にするために飼料添加剤を液状又はゲル状の形態にしてもよい。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中におけるMEL及び/又はラムノリピッドの均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマ
リンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。
【0032】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、鳥類又は哺乳類である。例えば、家畜や犬、猫などのペットに用いることができる。本発明の飼料は、この中でも家畜、特に鶏、豚、牛の飼育に好適である。摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。
飼料を摂取させる方法及び飼育する方法は、動物の種類に応じて、通常用いられる方法をとることができる。
【実施例】
【0033】
<1>MELの生産
(a)シュードザイマ属酵母の培養
(前培養)
ポテトデキストロース培地10mlを試験管に入れ、シリコン栓をした。オートクレーブ滅菌後、Pseudozyma aphidis NBRC 10182を植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。
(本培養)
イオン交換水、大豆油 8%、NaNO3 0.2%、KH2PO4 0.02%、MgSO4・7H2O 0.02%、yeast extract 0.1%からなる培地50mlを500mlErlenmeyer フラスコに入れ、シリコン栓をしてオートクレーブにて滅菌した。そこに、前培養で得たNBRC 10182の前培養液を加え、30℃/220rpmにて7日間振とう培養を行った。
【0034】
(b)MELの抽出・精製
(抽出)
本培養で得た培養液50mlを分液ロートにとり、等量の酢酸エチルで二回抽出を行い、酢酸エチル層を合わせて溶媒を留去した。その後、メタノール25mlに溶解し、50mlのヘキサンで二回洗浄した後、メタノールを留去して、MELの粗精製物を得た(後述のアンスロン反応より、純度69%)。
(精製)
上記粗精製物1gを少量のクロロホルムに溶解し、シリカゲルカラムにて分画した。クロロホルム 500ml、クロロホルム/酢酸エチル=4/1 500ml、アセトン 500ml、メタノール 500mlを順次流して分画した。
各画分を薄層クロマトグラフィーにて展開し(展開溶媒CHCl3/MeOH/水=65/15/2)、下記文献1)に記述された、各種MELのRf値(Rf=0.52、0.58、0.63、0.77)を示す画分を選別し、これらの画分をまとめて標準サンプルとした。
1)Agric. Biol. Chem., 54 (1) 31-36, 1990
(純度測定:アンスロン反応)
酢酸エチルにより適度な濃度に希釈した粗精製物を試験管に入れ、溶媒を留去した。そこにアンスロン試薬(0.2%アンスロン75%硫酸液)5mlを加え、沸騰水中で10分間反応させ、620nmの吸収を測定した。標準サンプルとの比較により、粗精製物の純度算出を行った。
【0035】
<2>ラムノリピッドの生産
(a)シュードモナス属菌の培養
(前培養)
ペプトン培地10mlを試験管に入れ、シリコン栓をした。オートクレーブ滅菌後、Pseudomonas aeruginosa NBRC 3924を植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。
(本培養)
イオン交換水、CaCO3 0.2%、K2HPO4 0.05%、MgSO4・7H2O 0.05%、yeast extract 0.5%、Soy flour 0.5%からなる培地50mlを500mlErlenmeyerフラスコに入れ、シリコン栓をしてオートクレーブにて滅菌した。そこに、フィルター滅菌したエタノール1ml及び前培養で得たNBRC 3924の前培養液を加え、二日ごとにフィルター滅菌したエタノール0.75mlを加え、28℃/220rpmにて8日間振とう培養を行った。
【0036】
(b)ラムノリピッドの抽出・精製
(抽出)
本培養で得た培養液50mlを分液ロートにとり、メタノール/クロロホルム=1/1で二回抽出を行い、有機層を合わせて溶媒を留去し、ラムノリピッドの粗精製物を得た(後述のアンスロン反応より、純度55%)。
(精製)
上記本培養で得た培養液450mlをpH3に調製し、遠心分離により菌体を除去した。上清を、0.5M Tris−HClバッファー(pH9.0)で前処理したTSKgel DEAE−トヨパール 650Mを詰めたカラムに通し、その後0.5M Tris−HClバッファー(pH9.0)にてカラム洗浄した。NaCl濃度0〜0.4M(0.5M Tris−HClバッファー(pH9.0))の範囲でグラジエントをかけ、2.3ml/minでカラムに通し、ゲルに捕捉されているラムノリピッドを溶出させて分画した。
各画分を薄層クロマトグラフィーにて展開し(展開溶媒CHCl3/MeOH/水=65/25/4)、下記文献2)に記述された、各種ラムノリピッドのRf値(Rf=0.32、0.52)を示す画分を選別し、メタノール/クロロホルム=1/1で抽出して、これらの画分をまとめて溶媒を留去して標準サンプルとした。
2)Biotechnology Letters, 54 (12) 1213-1215, 1997
(純度測定:アンスロン反応)
メタノールにより適度な濃度に希釈した粗精製物を試験管に入れ、溶媒を留去した。そこにアンスロン試薬(0.2%アンスロン75%硫酸液)5mlを加え、沸騰水中で10分間反応させ、620nmの吸収を測定した。標準サンプルとの比較により、粗精製物の純度算出を行った。
【0037】
<3>抗菌性の評価
下記の要領で、MEL、ラムノリピッドについて、表1に示す各種細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
各種細菌の前培養は、感受性測定用ブイヨン培地(日水)を用いて行った。培養液の菌濃度を生理食塩水にて約1.0×105〜106CFU/mlとなるように調製したのち、測定培地に各種細菌を接種した。測定培地としては、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Bacillus subtilisについては感受性測定用培地(日水)を用い、Streptococcus suis、Streptococcus bovisについては血液寒天培地(ハートインフージョン培地:日水、綿羊無菌脱繊維血液:コージンバイオ)を用いた。培養は、Staphylococcus aureus及びStaphylococcus epidermidis、Bacillus subtilisについては好気培養、Streptococcus suis、Streptococcus bovisについては5%炭酸ガス培養にて、いずれも37℃、約20時間行った。培養終了後、MICを測定した。
MELは、<1>で得たMELの粗精製物(純度69%)を、ラムノリピッドは、<2>で得たラムノリピッドの粗精製物(純度55%)を使用した。また、比較のために、ショ糖エステル(Sucrose monodecanoate:シグマアルドリッチジャパン品)、マンノース(和光純薬工業品)、ラムノース(シグマアルドリッチジャパン品)についてもMICを測定した。
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
MEL及びラムノリピッドは、同じ糖脂質のSucrose monodecanoateと比較して、Staphylococcus、Streptococcus、Bacillus属の細菌に対して数〜数十倍高い抗菌活性を示した。一方、糖脂質の構成体であるマンノース及びラムノースは抗菌活性を示さなかった。
これより、MEL及びラムノリピッドを鳥類や哺乳類に摂取させて飼育することにより、上記各種細菌により引き起こされる疾病を予防又は治療する効果が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノシルエリスリトールリピッド及び/又はラムノリピッドを含有する鳥類又は哺乳類用の飼料添加剤。
【請求項2】
家畜用であることを特徴とする、請求項1に記載の飼料添加剤。
【請求項3】
マンノシルエリスリトールリピッドが、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する酵母から得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の飼料添加剤。
【請求項4】
ラムノリピッドが、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌から得られることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項5】
疾病の予防又は治療用であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項6】
前記疾病がグラム陽性細菌により引き起こされる感染症であることを特徴とする、請求項5に記載の飼料添加剤。
【請求項7】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属又はストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌である請求項6に記載の飼料添加剤。
【請求項8】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィノコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)又はストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)である請求項7に記載の飼料添加剤。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の飼料添加剤を含む、飼料。
【請求項10】
請求項9に記載の飼料を、鳥類又は哺乳類に摂取させることを特徴とする、鳥類又は哺乳類の飼育方法。

【公開番号】特開2008−118983(P2008−118983A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263605(P2007−263605)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】