説明

香りの選択方法

【課題】対象物の製品について高い性能評価を受けることができる香りを選択する香りの選択方法を提供すること。
【解決手段】複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、以下の(A)、(B)及び(C)から選択される1又は2以上の評価値を指標として、製品に付すべき香りを選択する工程(処理S5)とを含む香りの選択方法が提供される。
(A)各候補における、被験者の人数と記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数との比率
(B)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和との比率
(C)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者の喚起度の総和との比率

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香りの選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品の香りが消費者の嗜好性に影響を与えることがわかっている。そのため、製品を提供する側にとって、消費者の嗜好性の高い香りを選択することが重視され、嗜好性の高い香りを選択する選択方法や嗜好性の高い香りを評価する香りの評価方法が提案されている。例えば、香料又は香料が賦香された製品を複数回使用することによって嗜好性の高い香料成分を選択する方法が提案されている(特許文献1)。また、香りから受ける印象を評価する用語を、感覚評定用語と感情評定用語とに分類して、香りの特性を正確に評価しようとする方法が提案されている(特許文献2)。さらに、香りとともに視覚や聴覚を通じた刺激を与え、香りとこれらの刺激との組合せの記憶を評価する評価方法も報告されている(特許文献3)。
さらに、特許文献4では、食品を食べ、概念ボードに掲載された言葉及び画像と被験者の香味体験とを比較し、次いで香味(味および香り)から想起される言葉、感情、思想等を評価し、食品に添加すべき香味駆動体を特定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―63251号公報
【特許文献2】特開2001―174450号公報
【特許文献3】特表2001―501611号公報
【特許文献4】特表2007−530053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3には、香りの選択方法が開示されているものの、嗜好性、対称物との関連性の評価にとまり、製品性能評価まで言及していない。
また、特許文献4では、被験者に被験者の香味体験と、概念ボードに示された言葉及び画像とを比較させ、香味によって想起される記憶の提供を求めているため、示された概念ボードによって被験者が想起する内容は影響を受ける。さらに、特許文献4は、香りによる自己に関連した記憶の喚起度が製品性能評価に影響する点までは言及していない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、製品の性能について高い評価を受けることができる香りの選択が必要であると考え、鋭意検討を行った。そして、香りをかぐことにより喚起される自己に関連した記憶の喚起度が、製品の性能評価に影響を及ぼしていることがわかった。
さらに、本発明者らは、記憶の喚起度に基づいて、香りに対し特定の評価値を算出し、この評価値に基づいて香りを選択することで、製品の性能評価を高めることができる香りを選択できることがわかった。
【0006】
本発明はこのような知見に基づくものである。
すなわち、本発明によれば、
複数の候補のなかから、製品に付すべき香りを選択する香りの選択方法であって、
前記複数の候補がそれぞれ付された複数の製品を複数の被験者に提示する工程と、
前記被験者に対し、喚起すべき記憶の内容を指示せずに、前記各候補について、各候補をかぐことにより前記被験者に喚起される、各被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を回答させる工程と、
前記各候補について、前記複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、
以下の(A)、(B)及び(C)から選択される1又は2以上の評価値を指標として、製品に付すべき香りを選択する工程とを含む香りの選択方法が提供される。
(A)各候補における、被験者の人数と記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数との比率
(B)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和との比率
(C)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者の喚起度の総和との比率
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対象物の製品について性能評価を向上できる香りを選択する香りの選択方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態にかかるフローチャートを示す図である。
【図2】香りA〜Dの快さの評価結果平均値を示す図である。
【図3】香りA〜Dの(a) 被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価結果の高い群の人数比率を示す図である。(b)被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価結果の高い群の評価総和の比率を示す図である。
【図4】香りA〜Dについて、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さの評価結果の高い群と低い群の製品性能評価を示す図である。
【図5】香りAについての被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さの評価結果が高い群と低い群の製品性能評価を示す図である。
【図6】香りA〜Dについて、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さの評価結果の高い群についての香り別の製品性能評価を示す図である。
【図7】香りX〜Zの快さの評価結果平均値を示す図である。
【図8】香りX〜Zの(a) 被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価結果の高い群の人数比率を示す図である。(b)被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価結果の高い群の評価総和の比率を示す図である。
【図9】香りX〜Zについて、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さの評価結果の高い群と低い群の製品性能評価を示す図である。
【図10】香りXについての被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さの評価結果が高い群と低い群の製品性能評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
はじめに、図1を参照して、本実施形態の香りの選択方法の概要について説明する。
本実施形態の香りの選択方法は、製品に付すべき香りの候補である複数の候補のなかから、製品に付すべき香りを選択する香りの選択方法であり、複数の候補がそれぞれ付された複数の対象物(製品)を被験者に提示する工程(処理S2)と、被験者が各対象物に付された候補をかぎ(処理S3)、被験者に対し、喚起すべき記憶の内容を指示せずに、各候補について、香りをかぐことにより、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させ、その記憶の喚起度を前記被験者に回答させる工程(処理S4)と、この記憶の喚起度を指標として、複数の候補のなかから、対象物に付すべき香りを選択する工程(処理S5)とを含む。
【0010】
次に、本実施形態の香りの選択方法について詳細に説明する。
(処理S1)
この工程では、処理S2〜処理S5を実施するに先立ち、複数の香りからなる香りの群を被験者に提示する手順と、前記被験者から香りの群の各香りの嗜好性についての回答を得る手順と、嗜好性が最も高い香りから順に前記香りの群のうちの一部の複数の香りを、対象物に付す香りの候補(以下、単に候補という場合もある)として抽出する手順とを実施する。
はじめに、この工程では、香りを賦香する対象物を設定するとともに、前述した香りの群を設定する。香りを賦香する対象物は、特に限定されるものではないが、シャンプー、リンス等の毛髪洗浄剤、化粧水、化粧乳液等の化粧料、ファンデーション、メイクアップ製品等のパーソナル製品のほか、住居用洗浄剤、衣料用洗剤等のハウスホールド製品も含まれる。個人の嗜好性の高いパーソナル製品に関して本発明の香りの選択方法がより有効である。
【0011】
提示する香りの群の各香りは、1つの香料成分からなるものであってもよく、複数の香料成分が調合された調合香料であっても良い。
香りの群の各香りは、香りを賦香する対象物の主たる購買層の性質(年齢、性別、文化的背景など)により設定する。設定した香りの群の各香りについて(例えば10〜20種類の香りについて)、被験者の嗜好性を評価することが好ましい。嗜好性の高い香りのグループと嗜好性の低い香りのグループに分類し、嗜好性の高い香りのグループに属する複数の香りを対象物に付す候補として抽出する。例えば、設定した香りの群について被験者の嗜好性の評価結果の平均値が高い上位2〜8の香りを候補として抽出したり、嗜好性の評価結果の高い被験者の人数又は人数比率の多い上位2〜8の香りを候補として抽出したりすることができる。
【0012】
香りの嗜好性の評価は、香りから喚起される気分や感情の良さに関する項目を1つ以上備えることができる。
香りの嗜好性の評価項目は、たとえば、ポジティブ、楽しい、リラックスした、落ち着いた、フレッシュな、若返るような、エネルギーに満ちた、温かい、安全な、満足した、幸せな等の気分や感情の良さを示す評価項目である。
評価の尺度は、香りをかいでまったく評価項目の気分や感情がおきなかったことを示すポイントから、強く評価項目の気分や感情がおきたことを示すポイントの間で数値化する。評価の尺度は、一次元のビジュアルアナログスケールと呼ばれる尺度が好ましく、さらに数値を用いた尺度が好ましく、例えば数値を付帯した順序尺度、間隔尺度、比率尺度があげられる。ここで、高い嗜好性の評価結果としては、例えば、嗜好性として香りの快さを9段階で評価した場合(段階1:非常に不快〜段階9:非常に快い)、段階6以上の評価結果、又は段階7〜9の評価結果を採用することができる。
このように嗜好性の評価により、対象物に付すべき候補を抽出する。候補の抽出は、必ずしも必要ではないが、上記方法によらず、例えば対象物に使用頻度の高い香り、対象物に類似分野で使用頻度の高い香りを抽出し、又は、例えば対象物に関連した製品分野の香りの嗜好性や製品に求められる感覚(清潔感、安定感等)の評価により抽出する方法を採用することが可能である。
【0013】
(処理S2〜処理S4)
この工程では、処理S1にて抽出した複数の候補をそれぞれ対象物に付し、被験者に提示する。被験者は、各対象物に付された香りをかぐ。そして、被験者に対し、喚起すべき記憶の内容を指示せずに、各候補について、香りをかぐことにより、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させ、その記憶の喚起度を前記被験者に回答させる。
被験者は、対象物の主たる購買層の性質を反映していることが好ましい。各被験者が全ての対象物に付された香りをかいでもよいし、また、複数の被験者ごとに異なる香りが付された対象物の香りをかいてもよい。
被験者の数は、複数であり、喚起度の正確性を確保する観点から、たとえば、8名以上、さらに好ましくは10名以上であることが好ましい。被験者数は多いほど好ましいが、70名以下でも、50名以下であっても良い。
【0014】
被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させる際には、喚起すべき記憶の内容を被験者に指示せず(特定せず)に、自由に記憶を喚起させる。
ただし、過去の被験者自身に関連した記憶を喚起しやすいように、視覚または聴覚を通じて、前記記憶を喚起させることを問いかけてもよい。
視覚または聴覚を通じて、たとえば、「この香りはあなたに何か記憶を呼び起こしたでしょうか」という直接的な問いかけであってもよく、「この対象物の香りをかいだ後、思い出したことを考えて下さい」、「この対象物の香りをかいだときの、ご自分自身の経験を感じて下さい」という問いかけをしてもよい。
この工程では、喚起すべき記憶の内容を被験者に直接的に示す直接的な指示も、喚起すべき記憶の内容に関連した香り以外のものを提示するような間接的な指示もせずに、自由に記憶を喚起させる。即ち、思い出す記憶を特定した問いかけ(たとえば、香りから、過去に使用したことのある化粧料等の使用感を聞く)等の問いかけを実施せず、過去に被験者が受けた視覚や聴覚等による刺激と同じ又は類似の写真、画像、音楽等を示し、間接的に喚起すべき記憶の内容を特定することも実施しない。被験者に直接的又は間接的に喚起すべき記憶の内容を指示又は特定しないことによって、香りそのものから被験者自身の過去の記憶を思い出すことを妨げる要因を取り除き、被験者が香りから被験者自身の過去の記憶が自然とよみがえってくることを可能にする。
【0015】
ここで、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶は、いわゆる自伝的記憶を含むものである。「被験者の過去」とは、香りの選択のために与えたものでなく、被験者各々の過去を意味する。香りと被験者の過去の被験者自身に関連した記憶とは、本能においてリンクしており、香りをかぐと、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を思い出す。そして、思い出す度合いを記憶の喚起度(以下、「喚起度」という)として評価している。
被験者の過去の被験者自身に関連した記憶とは、たとえば、「10代のころに滞在したハワイの旅行」、「毎年夏休みに遊びにいっていた祖母の思い出」、「はじめてデオドラントスプレーを使用したときのこと」等である。
被験者は、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を回答する。
喚起度は、たとえば、記憶が喚起する感情の強さ、過去に引き戻される感覚の強さ、記憶の鮮明さ、記憶の情景が目に浮かぶようであるか、記憶の内容を再び体験したような感覚、記憶を特別なものと感じるかどうか、重要なものと感じるかどうか、記憶にかかわる場所や物、人物をさらに思い出すかどうか、記憶の内容の詳細さ等から選択される、少なくともいずれか1以上の項目を評価することで得られる。
なかでも、記憶が喚起する感情の強さ、過去に引き戻される感覚の強さ、記憶の鮮明さのいずれか1項目以上を評価することが好ましく、特に記憶が喚起する感情の強さ、過去に引き戻される感情の強さの項目を評価することが好ましい。
このように複数の項目から喚起度を評価することで、喚起度の正確性を上げることができる。また、記憶が喚起する感情の強さ、過去に引き戻される感覚の強さ、記憶の鮮明さの項目はいずれも相関性が高いため、これらの項目を評価することで、喚起度の正確性を担保することができる。
喚起度は、多段階評価を行うことが好ましく、本実施形態では数値化して評価する。
たとえば、記憶が喚起する感情の強さに関する喚起度は、感情の強さが非常に弱いことを示すポイントと、感情の強さが非常に強いことを示すポイントとの間で数値化する。
また、香りをかぐことで喚起される記憶が生じた当時に引きもどされるような感覚の程度に関する喚起度は、引き戻されるような感覚が全くないことを示すポイントと、完全に当時に引き戻されるような感覚を示すポイントとの間で数値化する。
香りをかぐことで喚起される記憶の鮮明さに関する喚起度は、記憶の内容が全体としてあいまいなものであることを示すポイントと、非常に鮮明なものであることを示すポイントとの間で数値化する。
なお、被験者は、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を回答するとしたが、被験者に、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶も回答させて、その後、喚起度を回答してもらってもよい。
【0016】
(処理S5)
この工程では、被験者から得られた喚起度に基づいて、対象物に付すべき香りを選択する。
まず、各候補について、複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類する。
たとえば、喚起度は多段階の数値で評価されるため、多段階の評価の数値範囲の中間値を基準として、各候補について複数の被験者から得られた複数の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類する。
また、多段階の評価の数値範囲の上位20〜50%を数値の高い群とし、残りを数値の低い群としてもよい。
そして、以下の(A)、(B)及び(C)から選択される1又は2以上の評価値を指標として、香りを選択する。
(A)各候補における、被験者の人数と記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数との比率
(B)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和との比率
(C)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者の喚起度の総和との比率
なお、(A)、(B)、(C)のいずれかひとつの評価値を指標としてもよいし、(A)、(B)、(C)のうち、複数の評価値を指標としてもよい。
【0017】
(A)を指標とした香りの選択方法について説明する。
各候補について複数の被験者から得られた複数の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、さらに、各候補における、被験者の人数と記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数との比率、たとえば、各候補の被験者の人数に対する記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数比率を算出する。そして、たとえば、記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数比率が最も高い香りを選択する。なお、選択する香りは、ひとつに限らず、複数であってもよい。たとえば、複数の候補のうち、記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数比率が高い方から順に、一部の複数の香りを選択してもよい。
なお、喚起度を評価する項目を複数用いる場合(たとえば、記憶が喚起する感情の強さ(項目1)、過去に引き戻される感覚の強さ(項目2)、記憶の鮮明さ(項目3)の3つの項目それぞれについて喚起度を評価している場合)には、たとえば、以下のようにして香りを選択する。
各項目ごとに、複数の被験者から得られた複数の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、各候補の被験者の人数に対する数値の高い群の被験者の人数比率を算出する。そして、候補ごとに、各項目の数値の高い群の人数比率(項目1の数値の高い群の人数比率+項目2の数値の高い群の人数比率+項目3の数値の高い群の人数比率)を合計し、最も高い数値となった香りを選択する。
また、複数の被験者から得られた複数の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類する。そして、各項目の数値の高い群の人数を合計し(項目1の数値の高い群の人数+項目2の数値の高い群の人数+項目3の数値の高い群の人数)、全ての被験者の人数に対する比率が最も高い数値となった香りを選択してもよい。
【0018】
次に、(B)を指標とした香りの選択方法について説明する。
各候補について複数の被験者から得られた複数の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類する。次に、各候補について、数値の高い群の被験者の喚起度の総和と、各候補の数値の低い群の喚起度の総和とを算出する。
そして、各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和との比率を算出する。たとえば、(喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和/喚起度の数値の低い群の喚起度の総和)により得られる比率を算出する。そして、前記比率が最も高い香りを選択する。なお、選択する香りは、ひとつに限らず、複数であってもよい。たとえば、複数の候補のうち、記憶の喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和に対する、記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和の比率(喚起度の高い群の喚起度の総和/喚起度の低い群の喚起度の総和)が高い方から順に、一部の複数の香りを選択してもよい。
なお、喚起度を評価する項目が複数ある場合(たとえば、記憶が喚起する感情の強さ(項目1)、過去に引き戻される感覚の強さ(項目2)、記憶の鮮明さ(項目3)の3つの項目それぞれについて喚起度を評価している場合)には、たとえば、各項目ごとに、数値の高い群の喚起度の総和と数値の低い群の喚起度の総和とを算出する。
そして、候補ごとに、例えば、各項目の数値の高い群の喚起度の総和の合計(項目1の数値の高い群の喚起度の総和+項目2の数値の高い群の喚起度の総和+項目3の数値の高い群の喚起度の総和)と各項目の喚起度の数値の低い群の喚起度の総和の合計(項目1の数値の低い群の喚起度の総和+項目2の数値の低い群の喚起度の総和+項目3の数値の低い群の喚起度の総和)を算出し、(喚起度の数値の高い群の喚起度の総和の合計/喚起度の数値の低い群の喚起度の総和の合計)により得られる比率が最も高い数値となった香りを選択する。
【0019】
さらに、(C)を指標とした香りの選択方法について説明する。
各候補について複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、数値の高い群と、数値の低い群とに分類する。次に、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者の喚起度の総和との比率、たとえば、記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和の被験者の喚起度の総和に対する比率を算出する。
そして、たとえば、記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和の被験者全体の喚起度の総和に対する比率(記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和/被験者の喚起度の総和)が最も高い香りを選択する。なお、選択する香りは、ひとつに限らず、複数であってもよい。たとえば、複数の候補のうち、(記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和/被験者の喚起度の総和)により得られる比率が高い方から順に、一部の複数の香りを選択してもよいし、前記比率が高い方から順に、一部の複数の香りを選択してもよい。
なお、喚起度を評価する項目が複数ある場合(たとえば、記憶が喚起する感情の強さ(項目1)、過去に引き戻される感覚の強さ(項目2)、記憶の鮮明さ(項目3)の3つの項目それぞれについて喚起度を評価している場合)には、項目ごとに、数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者全体の喚起度の総和とを算出する。
そして、候補ごとに、例えば、各項目の数値の高い群の被験者の喚起度の総和の合計(項目1の総和+項目2の総和+項目3の総和)とすべての項目の被験者全体の喚起度の総和の合計を算出し、被験者全体の喚起度の総和の合計に対する、数値の高い群の喚起度の総和の合計の比率が最も高い数値となった香りを選択する。
【0020】
以上のようにして選択された香りを対象物に付すべき香りとする。
このようにして、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度に基づいて、香りを選択することで、対象物の製品の性能評価を高めることができる香りを選択することができる。
また、以上のように、各候補について、複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、(A)喚起度の高い群の人数比率、(B)喚起度の高い群の喚起度の総和に対する喚起度の低い群の喚起度の総和に対する比率、または(C)各香りの喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和の被験者全体の喚起度の総和に対する比率により、候補の評価値を算出することで、製品の性能評価を高めることができる香りを適切に選択することができる。すなわち、記憶の喚起度の数値の高い群の人数比率が多い香りを製品に付せば、多くの消費者が製品性能評価を高く評価することにつながる。また、記憶の喚起度の数値の高い群の喚起度の総和が、記憶の喚起度の低い群の喚起度の総和あるいは被験者全体の記憶の喚起度の数値の総和に対する比率が高い香りを製品につければ、製品性能評価を非常に高く評価する消費者が出現することが見込まれる。
なお、上述した処理S1〜処理S5は、被験者が製品を使用する前段で実施される。
このようにすることで、製品自体の機能性評価に影響されずに、香り自体による記憶の喚起度を正確に評価することができる。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について説明する。
(処理S1)
まず、香りを賦香する対象物を決定し、対象物に付す香りの候補を抽出した。本実施例では、対象物はボディローションを用いた。次に、香りの群として17種類の香りを選択した。ボディローションの主たる購買層の性質を考慮して、被験者は、22〜31歳の米国人女性54人と、42〜51歳の米国人女性68名からなる122名とした。
【0022】
まず、同じ組成のボディローションに、17種類の香りをそれぞれ賦香し、122名の被験者の嗜好性の評価を行った。嗜好性の評価は、「この香りがどのくらい好きか嫌いか」の評価項目について「1:非常に嫌い」から「9:非常に好き」までの9段階の評価項目から1項目を選択する回答を求めた。
得られた被験者の嗜好性の評価に関する回答データを香りごとに集計し、平均値を算出した。17種類の香りを、嗜好性の回答データの平均値から嗜好性の高いグループと低いグループに分類し、嗜好性の高いグループ中から嗜好性の最も高い3種類のA〜Cの香りと嗜好性の高いグループの他の香りDの4種類の調香の異なる香りを候補として選択した。
表1に選択した4種類の候補を示す。香りAはオリエンタル調のバニラの香り、香りBはシトラス調でグレープフルーツの香り、香りCはフルーティ調の香り、香りDはグリーン、フローラル調でカシスをベースとした香りである。図2には、本工程で評価した香りA〜Dの快さについての評価結果の平均値を示す。香りA〜Cにはほとんど差が認められず、香りA〜CとDとの間に差が認められた。
【0023】
【表1】

【0024】
(処理S2〜S4)
次に、表1に示す4種類の候補をそれぞれボディローションに賦香した。なお、ボディローションは、いずれも同じ組成である。このボディローションを被験者に提示し、香りをかいでもらった。被験者は、22〜31歳の米国人女性であり、被験者の人数は香りA(香料A)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は71名、香りB(香料B)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は67名、香りC(香料C)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は68名、香りD(香料D)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は65名である。
【0025】
被験者には、各ボディローションの香りをかいでもらい、各候補について、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させ、その記憶の喚起度を被験者に回答してもらった。
被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させる際には、喚起すべき記憶の内容は指示しなかった。ただし、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶が喚起しやすい呼びかけを行った。記憶が喚起しやすい呼びかけの内容は「香りからなにか記憶がよみがえってくるか」及び「その記憶はどのようなものか」を趣旨とするものであり、具体的には以下のようであった。
「では、香りをかいでみましょう。この香りをかいでいる間に、この香りがあなたをどんな気分にするか、あなたにとってどんな意味があるものか、考えて下さい。この香りはあなたに何か記憶をよみがえらせましたか?その記憶はどんなものでしょうか?しばらくの間、その香りについて考えてください。その香りに名前をつけようとする必要はありませんし、その香りから何か連想があってもなくても良いです。私たちは、あなたがその香りを経験している間の、あなたの思いや感じていることに興味があるのです。正しい答えも間違った答えもありません。ただあなたの正直な意見を下さい。」
次に、よみがえってきた記憶(被験者の過去の被験者自身に関連した記憶)の内容を自由に記述することを求めた。
【0026】
その後、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を被験者に回答してもらった。喚起度を評価する項目は、喚起の状態(記憶の性質)とその強度に関するものである。具体的には、香りをかぐことで喚起された記憶について、どのくらい感情的な強さがあったか(記憶の感情的な強さ、評価項目1)、どのくらい記憶が生じた時間や場所に引き戻されるようであったか(引き戻される感覚、評価項目2)、どのくらい鮮明あるいはあいまいであったか(記憶の鮮明さ、評価項目3)の3項目を含めた。
香りをかぐことで喚起された記憶の感情的な強さについては、「1:非常に弱い」〜「9:非常に強い」の9段階の中から数値を選んで回答することを求めた。自伝的記憶が生じた当時に引き戻される感覚の程度については、「1:まったく引き戻されない」〜「9:完全に引き戻された」の9段階の中から、数値を選んで回答することを求めた。記憶の鮮明さについては、「1:全体的にあいまいな関連性」〜「9:非常に鮮明なできごと」の9段階の中から、数値を選んで回答することを求めた。
【0027】
(処理S5)
次に、前記工程にて得られた被験者の喚起度の回答データを集計し、対象物に付すべき香りを選択した。
喚起度は各評価項目において1〜9の数値の多段階評価で行ってもらったため、被験者の人数を各評価項目ごとに段階1〜5の低い評価の回答データ(喚起度の数値の低い群、以下評価の低い群という場合もある)と、段階6〜9の高い評価の回答データ(喚起度の数値の高い群、以下評価の高い群という場合もある)とに分類した。さらに、各々の候補の、評価の高い群の回答データの被験者の人数をカウントし、被験者全体に対する比率を算出した。また、評価の高い群の回答データの総和と、評価の低い群の回答データの総和、被験者全体の評価の総和、及び評価の高い群の回答データの総和の評価の低い群の回答データに対する比率、評価の高い群の回答データの総和の被験者全体の評価の総和に対する比率とを算出した。
表2に、香りA〜Dの喚起度の評価項目について、評価結果の高い群の回答の数(被験者の人数)と被験者全数に対する人数比率(表2の括弧内)、及び評価の高い群の回答データの総和、評価の高い群の回答データの総和の評価の低い群の回答データの総和に対する比率、評価の高い群の回答データの総和の回答データの総和に対する比率を示す。また図3(a)に、香りA〜Dの喚起度の評価項目について、評価結果の高い群の回答数の被験者全数に対する人数比率を示し、図3(b)に、香りA〜Dの喚起度の評価項目について、評価の高い群の回答データの総和の評価の低い群の回答データの総和に対する比率(評価の高い群の回答データの総和/評価の低い群の回答データの総和)を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示すように、香りA、香りCは被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さ(評価項目1)の喚起度の高い群の人数が多く、{評価の高い群の喚起度(回答データ)の総和/評価の低い群の喚起度(回答データ)の総和}も高い結果が得られた。特に香りAは全ての評価項目について被験者の半数以上が評価結果の高い群に分類され、すべての評価項目において、評価の高い群の人数比率が他の香りに比べて最も高かった。
また、香りAは、すべての評価項目において、{評価の高い群の喚起度の総和/評価の低い群の喚起度の総和}が高く、さらには、すべての項目において、喚起度の総和に対する、評価の高い群の喚起度の総和の比率も高い結果が得られた。
これらの結果は、香りAを賦香した対象物について、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の高い被験者が多いことを示す。
図2に示す嗜好性(香りの快さ)の評価では、香りAとCの評価結果に差がなく香りCがやや高い結果を示したが、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の評価項目については香りAが高い評価を示し、嗜好性の評価では選択できなかった香りAを選択することができる。
【0030】
(検証)
次に、対象物の性能の評価を行った。具体的には、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価を行った後、各被験者がそれぞれ評価した香りの賦香された対象物であるボディローションを1週間使用し、使用後に対象物に対する嗜好性、製品性能の評価を行った。使用後の対象物に対する嗜好性の評価は、「この製品をどのくらい好きか嫌いかについて、もっとも適切な記述を選ぶ」ように教示し、「1:非常に嫌い」「2:やや嫌い」「3:好きでも嫌いでもない」「4:やや好き」「5:非常に好き」の5項目から1項目を選択することを求めた。
対象物の製品性能の評価は、表3に示す20項目の製品性能評価項目のそれぞれについて「1:決してそう思わない」〜「5:どちらでもない」〜「9:強くそうだと思う」の9段階の中から数値を選択して回答することを求めた。
【0031】
【表3】

【0032】
表3に示す製品性能評価は、第1のグループ(製品性能評価項目1)と第2のグループ(製品性能評価項目2)に分類できる。第1のグループは、「肌に伸びやすい」、「すばやく吸収する」といった、ボディローションの機能性に関する評価であって、物理的な評価等の客観的な評価も可能である機能的性能評価項目である。第2のグループは、「私のための製品」、「私の肌をより美しく見せる」といった主観的な感覚が強く、物理的な評価等の客観的な評価が困難な情緒的性能評価項目である。
【0033】
対象物を使用した後の製品性能評価のデータを、使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の回答データとともに集計した。具体的には、使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の各評価項目について、喚起度の高い群(評価数値7〜9)に属する被験者の製品性能評価データの平均値と、喚起度の極めて低い群(評価数値1〜3)に属する被験者の製品性能評価データの平均値を対比した。
図4は、全ての香りA〜Dについて、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価項目のうち、使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さ(評価項目1)について、評価結果の高い群の製品性能評価の平均値と評価結果の低い被験者の製品性能評価の平均値を示す。
図4に示すように、評価項目1の喚起度の高い群の被験者の製品性能評価は、喚起度が低い群の被験者の製品性能評価よりも高い結果を示し、情緒的性能評価では6項目について高い有意差(p<0.01)が認められた。使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度が高い場合に、製品性能評価が高くなるものと認められる。
【0034】
さらに、図5に香りAに関する、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度(評価項目1)の高い群と低い群の製品性能評価の平均値を示す。喚起度の高い群は、機能的性能評価を含めて殆ど全ての製品性能評価において高い評価結果を示し、20項目中16項目について高い有意差(p<0.01)が認められた。
【0035】
記憶の感情の強さの評価項目における喚起度の高い群の被験者の製品性能評価結果の平均値を、香り別に対比した結果を図6に示す。図6に示すように、評価の高い群の被験者の人数比率が最も高く、評価の高い群の被験者の回答データの総和の比率が最も高い香りAが、製品性能評価結果の平均値についても他の香りと比べて高い結果を示した。
【0036】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
対象物をボディローションとし、ボディローションの主たる購買層の性質を考慮して、被験者は22〜31歳の米国人女性43〜49人とした。
【0037】
同じ組成のボディローションに、表4に示す3種類の香りの候補をそれぞれ賦香し、被験者の嗜好性の評価を行った。被験者は22〜31歳の米国人女性であり、被験者の人数は香りX(香料X)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は43名、香りY(香料Y)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は46名、香りZ(香料Z)を賦香したボディローションの香りをかいだ人数は49名である。嗜好性の評価は、「この香りがどのくらい好きか嫌いか」の評価項目について「1:非常に嫌い」から「9:非常に好き」までの9段階の評価項目から1項目を選択する回答を求めた。
得られた被験者の嗜好性の評価に関する回答データを香りごとに集計し、平均値を算出した。図7には、本工程で評価した香りX〜Zの快さについての評価結果の平均値を示す。香りX〜Zにはほとんど差が認められなかった。
【0038】
【表4】

【0039】
(処理S2〜S4)
次に、表4に示す3種類の候補をそれぞれボディローションに賦香し、これらのボディローションを被験者に提示し、香りをかいでもらった。なお、ボディローションは、いずれも同じ組成である。被験者は、嗜好性の評価と同じ22〜31歳の米国人女性であり、各香りの被験者の人数も嗜好性の評価と同じである。
【0040】
実施例1と同様に、被験者には、各ボディローションの香りをかいでもらい、各候補について、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を被験者に喚起させ、その記憶の喚起度を被験者に回答してもらった。喚起度を評価する項目も実施例1と同様であり、喚起の状態(記憶の性質)とその強度に関するものであって、香りをかぐことで喚起された記憶について、どのくらい感情的な強さがあったか(記憶の感情的な強さ、評価項目1)、どのくらい記憶が生じた時間や場所に引き戻されるようであったか(引き戻される感覚、評価項目2)、どのくらい鮮明あるいはあいまいであったか(記憶の鮮明さ、評価項目3)の3項目を含めた。喚起度の評価も実施例1と同様に段階1〜9の9段階の中から数値を選んで回答することを求めた。
【0041】
(処理S5)
被験者の喚起度の回答データの集計を行い、対象物に付すべき香りを実施例1と同様に選択した。
まず、実施例1と同様に、各評価項目について、段階1〜5の低い評価の回答データを評価の低い群とし、段階6〜9の高い評価の回答データを評価の高い群として分類した。
表5に、香りX〜Zの喚起度の評価項目について、実施例1と同様に、評価結果の高い群の回答の数(被験者の人数)と被験者全数に対する人数比率(表5の括弧内)、及び評価の高い群の回答データの総和、評価の高い群の回答データの総和の評価の低い群の回答データの総和に対する比率、評価の高い群の回答データの総和の回答データの総和に対する比率を示す。また図8(a)に、香りX〜Zの喚起度の評価項目について、評価結果の高い群の回答数の被験者全数に対する人数比率を示し、図8(b)に、香りX〜Zの喚起度の評価項目について、評価の高い群の回答データの総和の評価の低い群の回答データの総和に対する比率(評価の高い群の回答データの総和/評価の低い群の回答データの総和)を示す。
【0042】
【表5】

【0043】
表5に示すように、香りXは被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さ(評価項目1)の喚起度の高い群の人数が多く、{評価の高い群の喚起度(回答データ)の総和/評価の低い群の喚起度(回答データ)の総和}も高い結果が得られた。香りXは全ての評価項目について、評価の高い群の人数比率が他の香りに比べて高かった。香りXは、すべての評価項目において、{評価の高い群の喚起度の総和/評価の低い群の喚起度の総和}が他の香りに比べて高かった。なお、{評価の高い群の喚起度の総和/全ての被験者の喚起度の総和}については、評価項目1及び2については香りXが他の香りに比べて高い結果が得られたが、評価項目3については香りXとYが同等の結果が得られた。
これらの結果は、香りXを賦香した対象物について、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の高い被験者が多いことを示す。
図7に示す嗜好性(香りの快さ)の評価では、香りX〜Zの評価結果に殆ど差がない結果が得られたが、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の評価項目については香りXが高い評価を示し、嗜好性の評価では選択できなかった香りXを選択することができる。
【0044】
(検証)
次に、対象物の性能の評価を実施例1と同様に行った。実施例1と同様に対象製品の製品性能評価は、表3に示す20項目の製品性能評価項目について1〜9段階の中から数値を選択した回答を求めることによって行った。
【0045】
さらに実施例1と同様に、対象物を使用した後の製品性能評価のデータを、使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の回答データとともに集計した。
図9には、全ての香りX〜Zについて、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度の評価項目のうち、使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の感情的な強さ(評価項目1)について、評価結果の高い群の製品性能評価の平均値と評価結果の低い被験者の製品性能評価の平均値を示す。
図9に示すように、評価項目1の喚起度の高い群の被験者の製品性能評価は、喚起度が低い群の被験者の製品性能評価よりも高い結果を示し、情緒的性能評価では5項目について高い有意差(p<0.05)が認められた。使用前の被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度が高い場合に、製品性能評価が高くなるものと認められる。
【0046】
さらに、図10に香りXに関する、被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度(評価項目1)の高い群と低い群の製品性能評価の平均値を示す。喚起度の評価の高い群は、全ての製品性能評価において高い評価結果を示すことが認められた。
【0047】
実施例1及び実施例2の結果が示すように、記憶の喚起度の高い被験者は、製品性能評価が高くなる。本発明により記憶の喚起度の高い群の被験者の人数比率の高い香り、{評価の高い群の喚起度(回答データ)の総和/評価の低い群の喚起度(回答データ)の総和}の高い香り、{評価の高い群の喚起度の総和/全ての被験者の喚起度の総和}の高い香りを選ぶことによって、製品性能評価を高く評価される香りを選ぶことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の候補のなかから、製品に付すべき香りを選択する香りの選択方法であって、
前記複数の候補がそれぞれ付された複数の製品を複数の被験者に提示する工程と、
前記被験者に対し、喚起すべき記憶の内容を指示せずに、前記各候補について、各候補をかぐことにより前記被験者に喚起される、各被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を回答させる工程と、
前記各候補について、前記複数の被験者から得られた複数の記憶の喚起度を、記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類し、
以下の(A)、(B)及び(C)から選択される1又は2以上の評価値を指標として、製品に付すべき香りを選択する工程とを含む香りの選択方法。
(A)各候補における、被験者の人数と記憶の喚起度の数値の高い群の被験者の人数との比率
(B)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と喚起度の数値の低い群の被験者の喚起度の総和との比率
(C)各候補における、喚起度の数値の高い群の被験者の喚起度の総和と被験者の喚起度の総和との比率
【請求項2】
被験者の過去の被験者自身に関連した前記記憶の喚起度は、記憶が喚起する感情の強さ、過去に引き戻される感覚の強さ、記憶の鮮明さから選択されるいずれか1以上の項目を評価することで得られる請求項1に記載の香りの選択方法。
【請求項3】
前記複数の候補がそれぞれ付された複数の製品を被験者に提示する工程、及び前記被験者に記憶の喚起度を回答させる工程は、被験者が前記製品を使用する工程より前の工程である請求項1又は2に記載の香りの選択方法。
【請求項4】
前記製品に付すべき香りを選択する工程において、
記憶の喚起度の数値の高い群と、数値の低い群とに分類する分類法は、以下の(I)または(II)のいずれかである請求項1乃至3のいずれかに記載の香りの選択方法。
(I)多段階の評価の数値範囲の中間値を基準とする。
(II)多段階の評価の数値範囲の上位20〜50%を数値の高い群とし、それ以外を数値の低い群とする。
【請求項5】
前記複数の候補がそれぞれ付された複数の製品を被験者に提示する工程に先だって、前記複数の候補を抽出する工程であって、この工程が
前記複数の候補を含み、この複数の候補よりも多数の香りを含む香りの群を前記被験者に提示する手順と、
前記被験者から前記香りの群の各香りの嗜好性についての回答を得る手順と、
嗜好性が最も高い香りから順に前記香りの群のうちの一部の複数の香りを前記候補として選択する手順とを備える請求項1乃至4のいずれかに記載の香りの選択方法。
【請求項6】
前記被験者に被験者の過去の被験者自身に関連した記憶の喚起度を回答させる工程では、
被験者に対し、香りをかぐことで各被験者の過去の被験者自身に関連した記憶を喚起させるための、視覚または聴覚を通じた問いかけを含む請求項1乃至5のいずれかに記載の香りの選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−13207(P2011−13207A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72076(P2010−72076)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】