説明

香味増強剤

【課題】
本発明が解決しようとする課題は、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物又は乳製品代用品の香味を損なわずに「こく」やボリューム感を付与・増強し、乳製品等の味質を向上させる方法を提供することである。
【解決手段】
焙煎コーヒーを水、極性有機溶媒又はこれらの混合物で抽出して得られる抽出物を分画処理して得られた分画分子量10000以上の画分を乳製品等に添加することにより、乳製品等に、こく、ボリューム感を付与することができる。本発明の香味増強剤は乳製品等に制限なく使用することができ、味質を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物又は乳製品代用品用の香味増強剤、並びに当該香味増強剤を添加した乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳及び乳製品は、蛋白、脂肪、ビタミン、ミネラル等を豊富に含有し、栄養学的にもバランスがとれた食品であり、世界中で広く摂取されている。また、飲食品の栄養強化に加えて、風味をまろやかにする等の目的で牛乳、生クリーム、発酵乳、粉乳等を各種飲食品に添加することも広く行われている。さらに、乳脂肪等を原料としないマーガリンやファットスプレッド等の乳製品代用品も種々開発され、消費者の健康志向の高まりに伴い需要を伸ばしている(以下、「乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物又は乳製品代用品」を総じて「乳関連製品」と称する)。一般に、乳関連製品は、独特な好ましい香味や「こく」(深みのある濃厚な味わい)、ボリューム感を有しており、これが乳関連製品のおいしさに大きく寄与していると考えられる。
【0003】
しかしながら、乳関連製品の香味やこく、ボリューム感には乳脂肪が深く関与しており、カロリーカットやコストダウン等の目的で製品中の乳脂肪含量を抑えた場合にはこく、ボリューム感が不足し、これを必要十分なレベルで付与増強することが求められる。飲食品にこくを付与する方法として、これまでにグルタチオンを肉エキス、魚介エキス、野菜エキス等に添加することによりこく味の増強された調味料又は食品を製造する方法(特許文献1)、3−メチルノナン−2,4−ジオンを単独又はラクトン類等と組み合わせて添加することにより乳関連製品にこくを付与する香味料組成物(特許文献2)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、グルタチオンの乳関連製品に対するこく、ボリューム感の付与については報告がない。また、3−メチルノナン−2,4−ジオンとラクトン類を組み合わせた香味料組成物も、添加量によっては香味料組成物自体の香味が乳関連製品の香味に影響を及ぼす場合がある。
【0005】
一方、コーヒー抽出物の利用法として、焙煎コーヒーの水又は極性溶媒抽出物中の分子量の大きな特定画分を飲食品に添加することにより、飲食品保存中の劣化臭の生成を抑制する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、焙煎コーヒーの水又は極性溶媒抽出物の高分子量画分には、乳関連製品にこく、ボリューム感を付与する効果があることは全く知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−9465号公報
【特許文献2】特開2003−52330号公報
【特許文献3】特開2006−50904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は乳関連製品の香味に影響を与えることなく、乳関連製品に十分なこく、ボリューム感を付与すること及びこく、ボリューム感が付与された乳関連製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、乳関連製品に焙煎コーヒーの溶媒抽出物を添加すると、乳関連製品自体の香味に影響を与えることなく、こく、ボリューム感が付与・増強され、乳関連製品の味質が向上すること、及びこの効果は焙煎コーヒー抽出物に含まれる高分子量物質に由来することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下のように構成される。
(1)焙煎コーヒーを水、極性有機溶媒又はこれらの混合物で抽出して得られる抽出物を分画処理して得られた分画分子量10000以上の画分を有効成分とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品用の香味増強剤。
(2)分画分子量が30000以上である(1)に記載の香味増強剤。
(3)分画処理が限外ろ過膜又はサイズ排除クロマトグラフィーによる処理である(1)又は(2)に記載の香味増強剤。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の香味増強剤を乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品に固形分として0.1〜50ppmとなるよう添加することを特徴とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品の香味増強方法。
(5)(1)乃至(3)のいずれかに記載の香味増強剤を固形分として0.1〜50ppm含有することを特徴とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の香味増強剤を乳関連製品に添加すると、乳関連製品自体の香味に影響を与えることなく、こく、ボリューム感が付与・増強され、乳関連製品の味質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用するコーヒー抽出物は、通常飲用に供されているコーヒー豆の焙煎粉砕物を溶媒抽出することにより製造できる。原料のコーヒー豆は特に限定されるものではなく、例えば、アラビカ種、ロブスタ種などのいかなるコーヒー豆でも利用することができるが、ロブスタ種を用いると高分子量画分の収率が高くなる傾向がある。これらのコーヒー豆を常法によって焙煎処理するが、焙煎の程度は高い方が望ましく、L値16〜18程度の焙煎度が好ましい。
【0012】
本発明の抽出処理に使用する溶媒は、水または極性有機溶媒であり、極性有機溶媒は含水物であっても良い。極性溶媒としてはアルコール、アセトン、酢酸エチル等があげられ、これらの混合物であってもよい。特に水またはエタノール、或いはこれらの混合物が望ましい。溶媒の量は任意に選択できるが、一般には上記コーヒー豆1質量部に対し溶媒量2〜100質量部を使用する。
【0013】
抽出方法は特に限定されるものではなく、例えば、焙煎したコーヒー豆をそのまま又は粉砕して溶媒中に入れ、浸漬又は加熱還流することによってコーヒー抽出物を得ることができる。ついで、溶媒に不溶な固形物を除去して抽出液を得るが、固形物除去方法としては遠心分離、ろ過、圧搾等の固液分離手段を用いることができる。得られたコーヒー抽出液を分子量による分画精製の処理をすることにより本発明の香味増強剤が得られる。分画分子量は10000以上であり、特に30000以上の画分が好ましい。分子量による分画精製処理には限外ろ過膜やサイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。限外ろ過膜としては、分画分子量10000以上の膜であれば、いかなる材質、いかなる形態であっても利用することができ、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリスルフォン、酢酸セルロース、再生セルロース、ポリカーボネートなどの合成高分子膜であって、平膜、中空糸、板状、管状、スパイラル状などの形態を例示することができる。ろ過方法は加圧ろ過法、陰圧ろ過法のいずれでもよく、一過式もしくは循環方式のいずれの方法も利用することができる。また、サイズ排除クロマトグラフィー用充填剤としては、セファデックス(登録商標)G−25(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社製)、トヨパール(登録商標)HW−40(東ソー株式会社製)、などを例示することができる。
【0014】
分画精製により得られた焙煎コーヒー抽出液は、そのまま香味増強剤として乳関連製品に配合することができるが、さらに、脱色、脱臭等の精製処理をして使用することもできる。精製処理には活性炭や多孔性のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体あるいは二酸化ケイ素からなる合成吸着剤などが使用できる。精製用の合成吸着剤としては例えば三菱化学株式会社製「ダイヤイオン(登録商標)HP−20」やオルガノ株式会社製「アンバーライト(登録商標)XAD−2」などが使用できる。
【0015】
このようにして得られた焙煎コーヒー抽出物の分画分子量10000以上の画分を含む精製液は、液状のまま使用することもできるが、凍結乾燥または加熱乾燥などの処理を行い固形物として使用することも可能である。また、賦形剤(デキストリン等)を添加し噴霧乾燥により粉末状にすることも可能であり、用途に応じて種々の剤形を採用することができる。
【0016】
本発明の香味増強剤は乳関連製品すなわち乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物又は乳製品代用品に特に制限なく使用することができる。具体的には、乳としては「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日厚生省令第52号)に規定された生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、加工乳等を挙げることができる。乳製品としてはクリーム、バター、バターオイル、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、加糖粉乳、発酵乳、乳飲料等を挙げることができる。
【0017】
乳若しくは乳製品含有飲食物としては、上記の牛乳、クリーム、バター、練乳、粉乳等を添加した冷菓類、和洋菓子類、パン類、スープ類、コーヒー飲料、茶飲料、カレー、シチュー、各種インスタント食品等を挙げることができる。
【0018】
乳製品代用品としては、油脂を乳化して製造されるマーガリンやファットスプレッド等のバター代用品、コーヒーや紅茶等に添加するコーヒーホワイトナー等のクリーム類代用品を挙げることができる。
【0019】
飲食品等に対する本発明の香味増強剤の添加量は、固形成分として0.1〜50ppmの範囲が適当であるが、飲食品に酸味軽減剤自身の香味が影響を及ぼさない範囲内で添加するという観点からは0.1〜20ppmが好ましく、特に1〜10ppmが好ましい。
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
〔実施例1〕(分画分子量:10000)
焙煎コーヒー豆(ロブスタ種、L値18)100gに蒸留水1000gを加え、80℃で1時間加温して抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮、凍結乾燥し褐色のコーヒー抽出物20.5gを得た。この粉末5gに蒸留水1000gを加え、分画分子量約10000の限外ろ過膜(ウルトラセルアミコンYM10:ミリポア社製)を装備した撹拌式セル(ミリポア社製)に充填し、未通過部分を約15倍まで濃縮した。この濃縮液を減圧濃縮後、凍結乾燥し赤褐色のコーヒー抽出物A1.42gを得た。
【0022】
〔実施例2〕(分画分子量:30000)
焙煎コーヒー豆(ロブスタ種、L値18.5)100gに蒸留水1000gを加え、80℃で1時間加温して抽出した。不溶物を濾過により除去した後、濾液を減圧濃縮、凍結乾燥し褐色のコーヒー抽出物20.1gを得た。このコーヒー抽出物5gに、蒸留水1000gを加え、分画分子量30000の限外濾過膜(ウルトラセルアミコンYM30:ミリポア社製)を装備した攪拌式セル(ミリポア社製)に充填し、未通過部分を約15倍まで濃縮した。この濃縮液を減圧濃縮後、凍結乾燥し、茶褐色のコーヒー抽出物B1.14gを得た。
【0023】
〔実施例3〕低脂肪乳
市販の低脂肪牛乳(乳脂肪1.8%、無脂乳固形分8.5%)にコーヒー抽出物B及び比較例としてグルタチオン(和光純薬株式会社製 還元型グルタチオン)を1ppm〜5ppm添加し、無添加の場合との、こく、ボリューム感の違いを14名のパネルで評価した。評価点は無添加品を4点とし、乳感が強く感じられた場合を7点、乳感が感じられない場合を1点とした7段階評価とした。その結果を表1に示す。
【0024】
[表1]
評価サンプル 評価点
無添加品 4.00
コーヒー抽出物B添加品(1ppm) 4.21
コーヒー抽出物B添加品(3ppm) 4.68
コーヒー抽出物B添加品(5ppm) 5.07
グルタチオン(3ppm) 4.13
【0025】
表1の結果より、コーヒー抽出物Bを添加すると低脂肪乳に、こく、ボリューム感が付与され、その効果はグルタチオンよりも高かった。
【0026】
〔実施例4〕ミルクティー
紅茶葉8gに対し1/3量の湯(80℃)、L-アスコルビン酸Na 0.2gを添加して、5分間抽出した。その後、メッシュろ過し得られた濾液を20℃以下に冷却した。牛乳100g、グラニュー糖70g、予め水に溶解させた乳化剤0.3gを順次配合した後、質量を1000gに調整し撹拌した。重曹にてpHを6.8に調整後、10,000rpmで5分間乳化した。その後、コーヒー抽出物B及び比較例としてグルタチオンを添加し、123℃で20分間殺菌した。得られたミルクティーを常温で1週間保管後、無添加の場合との、こく、ボリューム感の違いを4名のパネルで評価した。評価点は実施例3と同じとした。その結果を表2に示す。
【0027】
[表2]
評価サンプル 評価点
無添加品 4.00
コーヒー抽出物B添加品(1ppm) 5.00
コーヒー抽出物B添加品(3ppm) 5.75
グルタチオン(3ppm) 4.13
【0028】
表2の結果より、コーヒー抽出物Bを添加するとミルクティーに、こく、ボリューム感が付与され、その効果はグルタチオンよりも高かった。
【0029】
〔実施例5〕ミルクココア
市販のミルクココア(乳脂肪1%、無脂乳固形分3%)にコーヒー抽出物A及びBを1ppm〜5ppm添加し、無添加の場合との、こく、ボリューム感の違いを4名のパネルで評価した。評価点は実施例3と同じとした。その結果を表3に示す。
【0030】
[表3]
評価サンプル 評価点
無添加品 4.00
コーヒー抽出物B添加品(1ppm) 4.88
コーヒー抽出物A添加品(5ppm) 5.75
コーヒー抽出物B添加品(5ppm) 6.25
【0031】
表3の結果より、コーヒー抽出物A、Bを添加するとミルクココアに、こく、ボリューム感が付与され、その効果はコーヒー抽出物Bの方がより高かった。
【0032】
〔実施例6〕ミルクコーヒー
コーヒー豆58gを粉砕し、豆に対し10倍量の湯(90〜95℃)でドリップした。得られた抽出液を急冷後、Bx.が2.5になるよう水で調整した。牛乳100g、グラニュー糖58g、予め水に溶解させた乳化剤0.3gを配合し、質量を1000gに調整後、撹拌した。その後、重曹にてpHを6.8に調整し、10,000rpmで5分間乳化した。得られたミルクコーヒーにコーヒー抽出物Bを添加し、123℃20分間殺菌したミルクコーヒーを常温で1週間保管後、無添加の場合との、こく、ボリューム感の違いを14名のパネルで評価した。評価点は実施例3と同じである。その結果を表4に示す。
【0033】
[表4]
評価サンプル 評価点
無添加品 4.00
コーヒー抽出物B添加品(1ppm) 4.86
コーヒー抽出物B添加品(3ppm) 4.93
コーヒー抽出物B添加品(5ppm) 5.11
【0034】
表4の結果より、コーヒー抽出物Bを添加するとミルクコーヒーに、こく、ボリューム感が付与された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の香味増強剤を乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物又は乳製品代用品に添加すれば、乳製品等自体の香味を損なうことなく、こくやボリューム感を付与・増強し、乳製品等の味質を向上に優れた効果が発揮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒーを水、極性有機溶媒又はこれらの混合物で抽出して得られる抽出物を分画処理して得られた分画分子量10000以上の画分を有効成分とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品用の香味増強剤。
【請求項2】
分画分子量が30000以上である請求項1記載の香味増強剤。
【請求項3】
分画処理が限外ろ過膜又はサイズ排除クロマトグラフィーによる処理である請求項1又は2に記載の香味増強剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの項に記載の香味増強剤を乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品に固形分として0.1〜50ppmとなるよう添加することを特徴とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品の香味増強方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかの項に記載の香味増強剤を固形分として0.1〜50ppm含有することを特徴とする乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物、又は乳製品代用品。

【公開番号】特開2008−54507(P2008−54507A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231761(P2006−231761)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】