説明

香料組成物

【課題】
清掃、防汚及び消臭などを目的として各種香料含有製剤をABS樹脂製品に使用した際、香料を要因としたABS樹脂の劣化が起こらないようなABS樹脂に対して安定な香料組成物を提供する。
【解決手段】
ABS樹脂に対して安定な香料化合物を香料組成物全体の重量を基準として60重量%以上含有するABS樹脂に対して安定な香料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃、防汚及び消臭などを目的として各種香料含有製剤をABS樹脂製品に使用した際、香料を要因としたABS樹脂の劣化が起こらないようなABS樹脂に対して安定な香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ABS樹脂(アクリルニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)は、便器器具、家電製品、OA機器、シンク、家具、ユニットバス、自動車内装など様々な製品に利用されているが、ABS樹脂は、各種の香料に弱く、樹脂表面の光沢の喪失や浸食を起こすことが多く、清掃のために、通常の香料を配合した家庭用洗浄剤などを、繰り返し使用すると香料を要因としたABS樹脂の劣化が起こり問題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、清掃、防汚及び消臭などを目的として各種香料含有製剤をABS樹脂製品に使用した際、香料を要因としたABS樹脂の劣化が起こらないようなABS樹脂に対して安定な香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ABS樹脂に対して安定な香料化合物を特定割合で含有するABS樹脂に対して安定な香料組成物を各種香料含有製品に配合することにより上記問題を解決することを見出し本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、ABS樹脂に対する香料の影響について単品香料をABS樹脂成型品の表面に直接塗布し常温で15時間放置後、樹脂表面への影響度合いを観察する試験により、濃度100%の単品香料のABS樹脂への影響を観察した。これによりABS樹脂に対して安定な香料化合物を見出し、これら香料化合物を特定割合で配合することによりABS樹脂に対して安定な香料組成物を見出した。
【0006】
従って、本発明の1つは、ABS樹脂に対して安定な香料化合物を香料組成物全体の重量を基準として60重量%以上含有することを特徴とするABS樹脂に対して安定な香料組成物であり、本発明の2つは、ABS樹脂に対して安定な香料化合物が、以下の香料化合物である香料組成物をあげることができるる。
リモネン、テルピノーレン、I.P SOLVENT 2028の炭化水素類;ジプロピレングリコール、ボルネオール、シトロネロール、1−デカノール、9−デセン−1−オール、ジヒドロミルセノール、ジメチルイソヘキシルカルビノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、フェンキルアルコール、ゲラニオール、シス−3−ヘキセノール、リナロール、p−メンタン−7−オール、ネロール、ノナノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、3,4,5,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−オール、テルピネオール、テトラヒドロリナロール、ヘキサノール、2−t−ブチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、メントールのアルコール類;セドリルメチルエーテル、シネオール、2−(3,5−ジメチル−3−シクロヘキセニル)−5−sec−ブチル−5−メチル−1,3−ジオキサン、リナロールオキサイド、2−ブチル−4,6−ジメチルジヒドロピラン、2,2,6−トリメチル−6−ビニルテトラヒドロピランのエーテル類;ヒドロキシシトロネラール、バニリンのアルデヒド類;バレルアルデヒドヘキシレングリコールアセタール、2,2,5−トリメチル−4−ヘキセナール ジメチルアセタールのアセタール類;1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2,3,8,8−テトラメチル−2−アセトナフトン、メチルセドリルケトン、δ−ダマスコンのケトン類;2−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、4−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチルフォーメイト、ジヒドロテルピニルアセテート、エチル2−エチル−6,6−ジメチル−2−シクロヘキセンカルボキシレート、ゲラニルアセテート、イソアミルイソバレレート、リナリルアセテートのエステル類;5−メチル−3−ヘプタノンオキシムのオキシム類;ユーカリプタス油、レモン油、ライム油、オレンジ油、パチョリ油、ペパーミント油、パインニードル油、ローズマリー油、ゼラニウム油、ハッカ油の天然精油類から選択される少なくとも1種の香料化合物。
【0007】
以下、本発明の香料組成物についてさらに詳細に説明する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の香料化合物はABS樹脂に対して安定であり、このABS樹脂に対して安定な香料化合物を調香して得られる香料組成物を、トイレ用洗浄剤、住居用洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナーなどの香料含有製剤に配合することにより、該香料含有製剤を使用すれば、香料を要因としたABS樹脂の劣化が起こらないため、使用中様々な場所で安心して使用することができる製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の香料組成物に使用される香料化合物としては、ABS樹脂に対して安定な香料化合物として、単品香料をABS樹脂成型品の表面に溶剤に希釈せず直接塗布し常温で15時間放置後、樹脂表面への影響度合いを観察した結果、樹脂表面への影響がなかった単品香料のグループをあげることができる。該単品香料のグループとしては、次の香料化合物をあげることができ、例えば、リモネン、テルピノーレン、I.P SOLVENT 2028の炭化水素類;ジプロピレングリコール、ボルネオール、シトロネロール、1−デカノール、9−デセン−1−オール、ジヒドロミルセノール、ジメチルイソヘキシルカルビノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、フェンキルアルコール、ゲラニオール、シス−3−ヘキセノール、リナロール、p−メンタン−7−オール、ネロール、ノナノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、3,4,5,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−オール、テルピネオール、テトラヒドロリナロール、ヘキサノール、2−t−ブチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、メントールのアルコール類;セドリルメチルエーテル、シネオール、2−(3,5−ジメチル−3−シクロヘキセニル)−5−sec−ブチル−5−メチル−1,3−ジオキサン、リナロールオキサイド、2−ブチル−4,6−ジメチルジヒドロピラン、2,2,6−トリメチル−6−ビニルテトラヒドロピランのエーテル類;ヒドロキシシトロネラール、バニリンのアルデヒド類;バレルアルデヒドヘキシレングリコールアセタール、2,2,5−トリメチル−4−ヘキセナール ジメチルアセタールのアセタール類;1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2,3,8,8−テトラメチル−2−アセトナフトン、メチルセドリルケトン、δ−ダマスコンのケトン類;2−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、4−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチルフォーメイト、ジヒドロテルピニルアセテート、エチル2−エチル−6,6−ジメチル−2−シクロヘキセンカルボキシレート、ゲラニルアセテート、イソアミルイソバレレート、リナリルアセテートのエステル類;5−メチル−3−ヘプタノンオキシムのオキシム類;ユーカリプタス油、レモン油、ライム油、オレンジ油、パチョリ油、ペパーミント油、パインニードル油、ローズマリー油、ゼラニウム油、ハッカ油の天然精油類の香料化合物をあげることができる。
【0010】
本発明の香料組成物の配合量は、上記香料化合物から選ばれる少なくとも1種ないし2種以上の香料化合物を、使用目的、香料組成物の種類などにより異なるが、ABS樹脂に対して安定な香料化合物が香料組成物全体の重量を基準として60重量%以上の範囲を例示することができる。より好ましくは、80重量%以上の範囲を例示することができる。
【0011】
また、上記香料化合物以外の香料成分として、ABS樹脂に悪影響を及ぼさない範囲で、嗜好性を高めるために天然及び合成の広い範囲の香料を利用することができる。そのような香料の例としては、たとえばジフェニルメタンなどの炭化水素;β−ナフトールメチルエーテル、エチル2−ナフチルエーテルなどのエーテル類;アミルシンナミックアルデヒド、エチルバニリン、ヘキシルシンナミックアルデヒドなどのアルデヒド類;ハイドロトロピックアルデヒドジメチルアセタールなどのアセタール類;ベンジルメチルケトンなどのケトン類;アミルサリシレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルサリシレート、シス−3−ヘキセニルベンゾエート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、ヘキシルベンゾエート、ヘキシルサリシレート、フェネチルフェニルアセテートなどのエステル類などの香料化合物、その他香料化学総覧,1,2,3[奥田治著 廣川書店出版]、Perfume and flavor Chemicals,1,2[Steffen Arctander著]、合成香料[印藤元一著 化学工業日報社出版]などに記載の香料化合物をあげることができる。また、香料の溶剤として、ABS樹脂に対して安定なジプロピレングリコール(DPG)、I.P SOLVENT 2028(イソパラフィン:出光石油化学社製商品名)、I.P SOLVENT 1620(イソパラフィン:出光石油化学社製商品名)などを用いることもできる。
【0012】
本発明のABS樹脂に対して安定な香料組成物を配合する香料含有製剤としては、特に限定されないが、例えば、トイレ用洗浄剤、住居用洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナー、カークリーナーなどをあげることができる。該香料含有製剤に対する配合量は、その利用目的により異なるが、通常、該香料含有製剤に対して、5〜15重量%の賦香率で配合することができ、好ましくは、5〜10重量%の範囲を例示することができる。
【実施例】
【0013】
以下実施例により本発明の実施の態様をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
ABS樹脂に対する香料の影響について下記の方法で試験し評価した。
[試験方法1]
5cm×5cmの東陶機器社製トイレタンク用ABS樹脂を試験片とした。この試験片の中央部分に濃度100%の単品香料0.1gを直接滴下の後、表面に塗布し常温で15時間放置する。放置後に表面をふき取り、該単品香料のABS樹脂への影響の度合いを肉眼で観察した。なお、固体のものはDPG(ジプロピレングリコール)で50%に溶解させて試験した。結果を表1〜表2に示す。
【0014】
評価基準は以下の通りである。
○ :変化なし
○△:輪じみのような後が僅かに確認できる程度(表面は問題なし)
△ :僅かにツヤがなくなる
△×:表面は平らだがはっきりとツヤがなくなり、大きく影響する
× :盛り上がりや凹みなど、大きく影響する
(評価1)ABS樹脂に対して安定な香料化合物についての評価
上記試験方法1で試験した結果に基づいて、評価基準が○、及び○△については、調合香料中において問題のない範囲と判断し、ABS樹脂に対して安定な香料化合物であると評価した。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
以上の結果より、表1及び表2に記載の評価1が○及び○△の単品香料はABS樹脂への影響がなくABS樹脂に対して安定な香料化合物であることがわかる。また、表2に記載の評価1が△、△×、×の単品香料は濃度100%ではABS樹脂に対して影響がありABS樹脂に対して不安定な香料化合物であることがわかる。
【0018】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
実施例1によりABS樹脂に対して安定であると評価された本発明の香料化合物による香料組成物処方(a)、およびそれ以外の香料化合物による香料組成物処方(b−1,b−2)の配合量を表3に示す。なお、配合量は重量%である。
【0019】
【表3】

【0020】
また、表3記載の*は以下の通りである。
*1:I.F.F.社製商品名(1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2,3,8,8−テトラメチル−2−アセトナフトン)
表3で得られた各グループごとの香料組成物処方を組み合わせて、本発明品の香料組成物である実施例2〜4及び比較品の香料組成物として比較例1〜3を得、表4にその香料組成物の処方を示す。
【0021】
【表4】

【0022】
[試験方法2]
表4に記載の実施例2〜4及び比較例1〜3で処方された香料組成物を下記表5のトイレ便座用クリーナー製剤処方により配合し、トイレ便座用クリーナーを製造する。得られたトイレ便座用クリーナーをスプレー容器に充填した。
3cm×20cmのABS樹脂試験プレートを湾曲させて試験板立て(4cm×18cm)にセットし、そのプレート上面にティッシュペーパーにスプレーして含浸させたトイレ便座用クリーナーを1日5回、8日間にわたり、各回均一に塗りつけた後、試料が蒸発するまで放置して概観変化を肉眼で観察し評価した。結果は表6に示す。
但し、
ABS樹脂試験プレート:宇部サイコン製 グレードEX215
【0023】
【表5】

【0024】
[試験方法3]
表4に記載の実施例2〜4及び比較例1〜3で処方された香料組成物を、下記に記載のオンタンク用トイレ芳香洗浄剤処方により配合し、オンタンク用トイレ芳香洗浄剤を製造する。得られたトイレ芳香洗浄剤を容器に充填、収納して水洗トイレ貯水槽の上部にあるABS樹脂製手洗い部(東陶機器社製HH0723)に設置した。そして、通常の使用方法にしたがってトイレ流水を流し、フラッシング試験を実施し、水洗トイレ貯水槽手洗い部のABS樹脂に対する影響を肉眼で観察して評価した。結果は表6に示す。
【0025】
ここで、フラッシング試験とは、1時間毎に3リットルずつの水を流し、該トイレ芳香洗浄剤を流水中に溶出させるものである。
[オンタンク用トイレ芳香洗浄剤処方]
香料 10
ニューポールT−240U 90
100(重量%)
但し、
ニューポールT−240U:三洋化成工業製 トイレ芳香洗浄剤基剤
[結果]
評価基準は以下の通りである。
○ :変化なし。
△ :僅かにツヤがなくなる。
△×:表面は平らだが、はっきりとツヤがなくなり大きく影響する。
【0026】
【表6】

【0027】
表6から明らかなように、試験方法2の本発明品である実施例2〜4の香料組成物を配合したトイレ便座用クリーナーは、ABS樹脂試験プレートへの影響はなく樹脂に対して非常に安定なクリーナーであることがわかる。一方、比較例1〜3の香料組成物を配合したトイレ便座用クリーナーは、ABS樹脂試験プレートを劣化させることがわかる。
【0028】
また、試験方法3の本発明品である実施例2〜4の香料組成物を配合したオンタンク用トイレ芳香洗浄剤は、ABS樹脂への影響はなく樹脂に対して非常に安定なトイレ芳香洗浄剤であることがわかる。一方、比較例1〜3の香料組成物を配合したトイレ芳香洗浄剤は、ABS樹脂を劣化させることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABS樹脂に対して安定な香料化合物を香料組成物全体の重量を基準として60重量%以上含有することを特徴とするABS樹脂に対して安定な香料組成物。
【請求項2】
ABS樹脂に対して安定な香料化合物が、以下の香料化合物である請求項1記載の香料組成物。
リモネン、テルピノーレン、I.P SOLVENT 2028の炭化水素類;ジプロピレングリコール、ボルネオール、シトロネロール、1−デカノール、9−デセン−1−オール、ジヒドロミルセノール、ジメチルイソヘキシルカルビノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、フェンキルアルコール、ゲラニオール、シス−3−ヘキセノール、リナロール、p−メンタン−7−オール、ネロール、ノナノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−2−ブテノール、3,4,5,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−オール、テルピネオール、テトラヒドロリナロール、ヘキサノール、2−t−ブチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、メントールのアルコール類;セドリルメチルエーテル、シネオール、2−(3,5−ジメチル−3−シクロヘキセニル)−5−sec−ブチル−5−メチル−1,3−ジオキサン、リナロールオキサイド、2−ブチル−4,6−ジメチルジヒドロピラン、2,2,6−トリメチル−6−ビニルテトラヒドロピランのエーテル類;ヒドロキシシトロネラール、バニリンのアルデヒド類;バレルアルデヒドヘキシレングリコールアセタール、2,2,5−トリメチル−4−ヘキセナール ジメチルアセタールのアセタール類;1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−2,3,8,8−テトラメチル−2−アセトナフトン、メチルセドリルケトン、δ−ダマスコンのケトン類;2−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、4−t−ブチルシクロヘキシルアセテート、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチルフォーメイト、ジヒドロテルピニルアセテート、エチル2−エチル−6,6−ジメチル−2−シクロヘキセンカルボキシレート、ゲラニルアセテート、イソアミルイソバレレート、リナリルアセテートのエステル類;5−メチル−3−ヘプタノンオキシムのオキシム類;ユーカリプタス油、レモン油、ライム油、オレンジ油、パチョリ油、ペパーミント油、パインニードル油、ローズマリー油、ゼラニウム油、ハッカ油の天然精油類から選択される少なくとも1種の香料化合物。