説明

駆動装置およびこれを備える撮像装置ならびに電子機器

【課題】被駆動体の駆動安定性が向上した駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置10は、一端を固定された、屈曲変位が励起される屈曲変位部材5と、屈曲変位部材5の屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において、屈曲変位部材5の自由端に連結された摩擦部材3と、摩擦部材3と摩擦接触した被駆動体2と、を備えている。これによって、駆動装置10は、摩擦部材3の位置が屈曲変位部材5の長手方向の寸法公差による影響を受けない構成となるため、摩擦部材3と被駆動体2とを高い位置精度で接触させることができる。よって、被駆動体2の駆動安定性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動体を駆動する駆動装置およびこれを備えた撮像装置ならびに電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、被駆動体を駆動するための駆動装置として、電気機械変換素子(圧電素子)を用いた駆動装置が提案されている。このような駆動装置は、例えば、カメラなどの光学装置のレンズを駆動する駆動装置としてよく用いられる。
【0003】
特許文献1および2には、屈曲変位する圧電素子を用いた駆動装置が開示されている。特許文献1および2に開示された駆動装置は、圧電素子と、圧電素子の自由端に形成された摩擦部材(被摺動部材)と、圧電素子を付勢する予圧機構と、被駆動体とを備えている。摩擦部材と被駆動体とは予圧機構の予圧によって摩擦接触しており、電圧印加によって圧電素子が屈曲変位すると、被駆動体は摩擦部材との間の摩擦力によってスライドする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−252103号公報(2007年9月27日公開)
【特許文献2】特開2007−274790号公報(2007年10月18日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示された駆動装置では、摩擦部材は圧電素子の長手方向の先端部に配されており、さらに予圧機構の予圧方向は圧電素子の長手方向と同じ方向であるため、摩擦部材の位置精度は、圧電素子の長手方向の寸法公差による影響を受けやすい。この圧電素子の長手方向は、特に寸法公差が大きい方向である。圧電素子の長手方向の寸法公差によって摩擦部材の予圧方向の位置がずれると、被駆動体と摩擦部材との接触状態の再現性が悪くなり、被駆動体に対する予圧状態が不安定になってしまう。特許文献1および2では、被駆動体を摩擦駆動方式によって駆動しているため、被駆動体に対する予圧状態が不安定であると、被駆動体は安定して駆動することができず、これによって被駆動体の位置再現性が低下してしまう。
【0006】
また、特許文献1および2に開示された駆動装置では、長期間動作させることにより、摩擦部の磨耗が生じて被駆動体と摩擦部材との接触状態が変化したり、摩擦部に傷が生じて被駆動体の位置再現性が低下したりするという課題も存在する。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩擦部材の位置精度を高めることによって、被駆動体の駆動安定性が向上した駆動装置を提供することにある。さらに、摩擦部材の経時変化による駆動特性の変動を低減し、長期間の駆動安定性を実現した駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る駆動装置は、上記の問題を解決するために、被駆動体を駆動する駆動装置であって、一端を固定された、屈曲変位が励起される屈曲変位部材と、上記屈曲変位部材の屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において、当該屈曲変位部材の自由端に連結された、上記被駆動体と摩擦接触する摩擦部材と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
上記構成では、屈曲変位部材が屈曲変位するとき、上記屈曲変位部材の自由端に連結された摩擦部材は、当該屈曲変位部材とともに変位する。摩擦部材の変位は、当該摩擦部材と摩擦接触した被駆動体に伝達される。これによって、被駆動体は駆動される。
【0010】
屈曲変位部材において固定端から自由端に向かう方向を長手方向とする。このとき、摩擦部が連結された、屈曲変位部材の屈曲変位方向に撓む面は、上記長手方向に対して略平行である。このため、屈曲変位部材の長手方向における摩擦部材の位置は、屈曲変位部材の長手方向における寸法公差に影響を受けることはない。
【0011】
屈曲変位部材は長手方向において最も大きい寸法公差を有するため、上記構成によれば、摩擦部材の位置精度を向上させることができる。これによって、摩擦部材によって被駆動体に伝達される変位の精度が向上するため、被駆動体を安定的に駆動することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る駆動装置において、上記屈曲変位部材の固定された一端は、当該屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において固定されており、上記屈曲変位部材の固定された面を固定面とするとき、上記摩擦部材は、上記屈曲変位部材において上記固定面と同一平面上に設けられていることが好ましい。
【0013】
上記構成では、摩擦部材が設けられる面は、屈曲変位部材の固定面と同一の面上にある。この構成によれば、屈曲変位部材の屈曲変位方向に撓む面に対して垂直な方向を屈曲変位部材の厚み方向とするとき、摩擦部材の位置精度は、屈曲変位部材の厚みの寸法公差によって影響を受けることがない。したがって、上記構成は、摩擦部材の位置精度をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る駆動装置は、上記屈曲変位部材の自由端に設けられ、かつ上記屈曲変位部材と異なる方向に屈曲変位する中間部材を備えており、上記摩擦部材は上記中間部材の自由端に設けられており、上記摩擦部材と上記屈曲変位部材の自由端との連結は上記中間部材を介して行われていることが好ましい。
【0015】
上記構成では、屈曲変位部材が屈曲変位すると、中間部材は屈曲変位部材の屈曲変位に伴って上記屈曲変位部材と異なる方向に屈曲変位する。中間部材の自由端に固定された摩擦部材は、当該中間部材とともに上記屈曲変位部材と異なる方向に変位する。この摩擦部材の変位は、当該摩擦部材と摩擦接触した被駆動体に伝達されるため、本発明に係る駆動装置は、被駆動体を屈曲変位部材の長手方向とは異なる方向に駆動することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る駆動装置において、上記屈曲変位部材の固定された一端は、当該屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において固定されており、上記屈曲変位部材の上記固定された面を固定面とするとき、上記中間部材において上記摩擦部材が設けられた面は、上記固定面と同一平面上にあることが好ましい。
【0017】
上記構成では、中間部材において摩擦部材が設けられる面は、屈曲変位部材の固定面と同一平面上にある。このため、屈曲変位部材の厚み方向における摩擦部材の位置精度は、屈曲変位部材の厚みの寸法公差による影響を受けることがない。したがって、摩擦部材の位置精度はより向上することができる。
【0018】
また、本発明に係る駆動装置において、上記屈曲変位部材は、電圧を印加することにより形状変位が励起される変位部材と、上記変位部材に積層されたシム部材とから形成されており、上記シム部材は、上記屈曲変位部材の自由端側に延設されたシム延設部を有しており、上記摩擦部材は、上記シム延設部に設けられていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、屈曲変位部材は、変位部材と、上記変位部材に積層されたシム部材とから形成されているため、積層工程よって形成される屈曲変位部材の厚みは、寸法公差が大きくなる。ここで、摩擦部材はシム延設部に設けられているため、屈曲変位部材の厚み方向における、摩擦部材の位置精度は、変位部材の厚みの寸法交差を考慮するのみでよい。したがって、屈曲変位部材の固定面とは同一平面ではない他の面に摩擦部材を設けたとしても、摩擦部材の位置精度は向上することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る駆動装置において、上記屈曲変位部材の固定された一端は、上記シム部材上にあることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、摩擦部材が設けられた面と、屈曲変位部材の固定された一端とは、同じシム部材上にある。このため、屈曲変位部材の厚み方向における摩擦部材の位置精度は、シム部材の厚みの寸法公差を考慮するのみでよい。したがって、屈曲変位部材の固定面とは同一平面ではない他の面に摩擦部材を設けたとしても、摩擦部材の位置精度は向上することができる。
【0022】
さらに、本発明に係る駆動装置において、上記シム延設部には切り欠き部が形成されており、上記シム延設部は、上記屈曲変位部材の自由端と異なる方向に屈曲変位することが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、本発明に係る駆動装置は、屈曲変位部材とは別体である中間部材を用いずとも、中間部材を用いた場合と同様に、被駆動体を屈曲変位部材の長手方向とは異なる方向に駆動することができる。
【0024】
また、本発明に係る駆動装置において、上記中間部材または上記シム延設部の屈曲変位方向に対して略平行な平面は、上記屈曲変位部材の屈曲変位方向に対して略平行な平面と直交することが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、屈曲部材および被駆動体は、屈曲変位部材の厚み方向が被駆動体の移動方向と垂直になるように配置される。この配置によれば、被駆動体の移動方向に対して略垂直な方向において、本発明に係る駆動装置を小型化することが容易となる。
【0026】
また、本発明に係る駆動装置は、上記摩擦部材が、上記被駆動体に直接接触していることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、本発明に係る駆動装置は、被駆動体を駆動するために、中間的な被駆動体を用いずともよい。これによって、本発明に係る駆動装置を小型化することが容易となる。
【0028】
また、本発明に係る駆動装置は、上記被駆動体の移動方向と、上記屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面とが略平行であってもよい。
【0029】
また、本発明に係る駆動装置は、上記被駆動体と上記屈曲変位部材との間に配置された固定部を備えており、上記屈曲変位部材の固定された一端は、上記固定部に固定されていることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、屈曲変位部材の一端は固定部に固定されているため、屈曲変位部材は、屈曲変位する際の変位特性を安定させることができる。また、固定部が被駆動体と屈曲変位部材との間に配置されているため、屈曲変位部材を固定部に固定する時の作業性を向上させることができ、ひいては本発明係る駆動装置の生産性を向上させることができる。
【0031】
また、本発明に係る駆動装置は、上記被駆動体を上記摩擦部材に付勢する予圧機構を備えていることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、被駆動体は、予圧部材によって摩擦部材に常時付勢される。これによって、被駆動体は、安定した位置を保つことができる。
【0033】
また、本発明に係る駆動装置において、上記被駆動体には、当該被駆動体と一体的に移動し、かつ上記摩擦部材と摩擦接触する接触部材が設けられており、上記摩擦部材および上記接触部材のうち、一方には固体潤滑材料による皮膜が形成されており、他方は炭素焼結材から形成されていることが好ましい。さらに、上記固体潤滑材料による皮膜は、ダイヤモンド状炭素膜であることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、接触部材および摩擦部材の磨耗を低減できるとともに、キズの発生を防止することができる。これによって、長期の動作によっても駆動特性の変化が少なく、駆動装置の耐久性を向上させることができる。さらに、耐落下衝撃に優れた駆動装置を提供することができる。
【0035】
本発明に係る駆動装置は、撮像対象となる物体を結像する光学系と、上記光学系により結像された像を電気信号に変換する撮像素子とを備え、上記被駆動体が上記光学系を保持することによって、撮像装置として用いることができる。
【0036】
また、本発明に係る撮像装置は、上記被駆動体の駆動を支持する駆動軸を備えており、上記光学系の光軸と上記駆動軸との間の最短距離は、上記摩擦部材における上記被駆動体との接触部と上記駆動軸との間の最短距離よりも短いことが好ましい。
【0037】
上記構成によれば、例えば駆動装置の製造時の組立てずれなどに起因して、摩擦部材と被駆動体との配置関係にずれが生じる場合においても、被駆動体の傾きを抑えることができる。すなわち、被駆動体の保持する光学系の光学中心位置のずれを低減することができる。また、被駆動体に付勢される予圧方向の変化は低減するため、被駆動体の駆動特性を安定化することができる。
【0038】
また、本発明に係る駆動装置および撮像装置は、電子機器に適用することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る駆動装置によれば、一端を固定された、屈曲変位が励起される屈曲変位部材と、上記屈曲変位部材の屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において、当該屈曲変位部材の自由端に連結された摩擦部材と、上記摩擦部材と摩擦接触した被駆動体と、を備えているため、摩擦部材の位置精度が向上することによって、被駆動体の駆動特性が安定化する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態における駆動装置を概略的に示す平面図であり、(b)はその側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における駆動装置を概略的に示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における駆動装置の屈曲変位部材を概略的に示す斜視図である。
【図4】(a)(b)は、摩擦部材と被駆動体との位置ずれを説明するための平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における駆動装置を概略的に示す斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における駆動装置の屈曲変位部材を概略的に示す斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態における駆動装置を概略的に示す模式図である。
【図8】本発明の第4の実施形態における駆動装置を概略的に示す模式図である。
【図9】本発明の第5の実施形態における駆動装置を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について、図1から図4に基づいて説明すると以下の通りである。
【0042】
まず、図1(a)(b)および図2を参照して、本実施形態における駆動装置10の概略構成について説明する。図1(a)は駆動装置10を示す側面図であり、図1(b)はその正面図である。図2は、駆動装置10を示す斜視図である。
【0043】
図1および図2に示すように、駆動装置10は、被駆動体2をZ方向に駆動する駆動装置である。駆動装置10は、電気的制御によって屈曲変位が生じる屈曲変位部材5、屈曲変位部材5に一端が設けられた中間部材4、中間部材4上に設けられた摩擦部材3、被駆動体2の被駆動体接触部2aを摩擦部材3側へ付勢する予圧部材1、ガイド軸(駆動軸)8、および筐体6を備えている。
【0044】
ここで、被駆動体2は、駆動装置10によって移動する部材であり、被駆動体2から突起状に形成された被駆動体接触部2aと、被駆動体接触部2aにおける摩擦部材3側に形成された接触部材2dとを有している。被駆動体接触部2aおよび接触部材2dは、被駆動体2に接着固定された、あるいは一体に形成された部材であり、被駆動体2と一体となって移動する。したがって、駆動装置10では、被駆動体2を駆動するための中間的な被駆動体などを必要としない。これによって、駆動装置10の小型化を図ることが容易であることに加え、各部材の配置の自由度を増すことができる。
【0045】
なお、以下の説明においては、図1に示すように、被駆動体2の移動方向をZ方向とし、静止状態における屈曲変位部材5の長手方向であり、かつZ方向に対して垂直である方向をY方向とし、Y方向およびZ方向に対して垂直な方向をX方向とする。
【0046】
屈曲変位部材5は、電気的制御によって屈曲変位を生じる部材である。屈曲変位部材5において、筐体6に固定された端部を固定端と称し、Y方向において固定端の反対側である、屈曲変位が生じる端部を自由端と称する。屈曲変位部材5は、図1(a)(b)に示すように、自由端の屈曲変位方向が被駆動体2の移動方向(Z方向)に対して略垂直になるように配置されている。
【0047】
また、屈曲変位部材5の固定端は、筐体6において被駆動体2の移動方向(Z方向)と平行に配置された固定壁(固定部)6aに接着固定されている。なお、屈曲変位部材5の固定端において固定壁6aに接着固定される部位を固定面5cとする。このとき、屈曲変位部材5の固定面5cは、屈曲変位部材5の厚み方向と直交する面である。なお、屈曲変位部材5の厚み方向とはX方向であり、厚み方向と直交する面とはYZ平面である。
【0048】
固定壁6aは、必ずしも筐体6と一体である必要はないが、固定壁6aと筐体6とが一体である方が部材点数の低減および位置精度の向上を図れるため好ましい。また、固定壁6aはX方向において、屈曲変位部材5と被駆動体2の間に配置することが好ましい。このような配置とすることで、屈曲変位部材5を固定壁6aに取り付ける時の作業性が向上し、生産性を高くすることができる。
【0049】
予圧部材1の両端部は、被駆動体2の被駆動体予圧部2bおよび筐体6の筐体予圧部6bのそれぞれに固定されている。予圧部材1と摩擦部材3との間には、被駆動体2の被駆動体接触部2aと、被駆動体接触部2aに接着固定された接触部材2dとが挟まれて配置されている。予圧部材1は、被駆動体2の被駆動体接触部2aを摩擦部材3(接触部材2d)側へ常時付勢する構成であり、接触部材2dと摩擦部材3とは摩擦接触する。このような構成によって、被駆動体2は安定した位置を保つことができる。
【0050】
予圧部材1は、コイルばねなどのように弾性を有する部材であればよい。予圧部材1がコイルばねである場合には、その一端または両端が弾性の無い密着巻きであることが好ましい。この構成によれば、コイルばねを被駆動体2および筐体6のそれぞれに固定するとき、接着剤などの塗布面積を大きく確保することができる。さらに、製造公差に起因するコイルばねの固定範囲のばらつきが起こらず、コイルばねによって安定した予圧荷重を実現することができる。
【0051】
ガイド軸8は、被駆動体2の駆動を支持し、被駆動体2をZ方向に沿って円滑に移動させるためのガイドであればよい。本実施形態では、ガイド軸8は筐体6の底面に対して垂直に設けられた軸であり、当該軸は被駆動体2に設けられた軸孔に通されている。ガイド軸8は、被駆動体2をガイドするものであれば軸に限定されず、例えばリニアガイドや板ばね等であってもよい。
【0052】
ガイド軸8は、被駆動体2の位置を安定に保つ効果を有する。例えば、駆動装置10を携帯電話などの携帯型の電子機器に応用する場合には、当該電子機器は落下などによる衝撃を受けるおそれが高いため、被駆動体2が筐体6から外れることを防止することが望まれる。ガイド軸8は、上記効果を有するため、被駆動体2が筐体6から外れることを防止するために有用である。
【0053】
被駆動体2がガイド軸8にガイドされて移動(摺動)するためには、ガイド軸8径よりも被駆動体2の軸孔径が大きいことが必要である。被駆動体2を円滑にガイドするためには、ガイド軸8と被駆動体2の軸孔径とのガタ(被駆動体2の軸孔径−ガイド軸8径)が、例えば5〜15μmになるように管理することが好ましい。このように上記ガタを管理することによって、被駆動体2の傾斜(チルト)が発生することなどを軽減でき、被駆動体2を円滑に駆動することができる。
【0054】
筐体6は、予圧部材1や屈曲変位部材5などをその内部に備える枠構造である。本実施形態では、筐体6は駆動装置10の強度や機能を確保するために用いられているが、駆動装置の実装状況によっては不要となる。例えば、駆動装置10が電子機器に内蔵され、当該電子機器に筐体6の代替となる他の構造が設けられている場合には、筐体6は不要である。
【0055】
次に、図3を参照して、駆動装置10における駆動機構を以下に説明する。図3は、屈曲変位部材5およびその周辺部材を示す斜視図である。
【0056】
図3に示すように、駆動装置10における駆動機構は、屈曲変位部材5、中間部材4、および摩擦部材3から形成される。
【0057】
屈曲変位部材5には、バイモルフ型の圧電素子を用いている。また、屈曲変位部材5は、図3に示すように、金属板からなるシム部材5a、およびシム部材5aの両面に形成された、形状変位する積層圧電素子(変位部材)5bから構成されている。なお、積層圧電素子5bがシム部材5aの片面のみに形成された構成であってもよい。
【0058】
また、屈曲変位部材5は、駆動装置が備えるべき正常機能を維持するために必要な屈曲変位度を有していればよいため、屈曲変位部材5は特定の構成や形状に限定されない。例えば、圧電素子の代わりに形状記憶合金などを用いてもよい。
【0059】
屈曲変位部材5の電極部(図示しない)は、図1に示す電極端子9に半田付けされており、屈曲変位部材5は、外部駆動回路(図示しない)によって電気的に屈曲変位する。また、屈曲変位部材5の一端は、筐体6の固定壁6aに接着固定された固定端であり、他方の端部は自由端になっている。
【0060】
屈曲変位部材5の自由端には、摩擦部材3が中間部材4を介して連結されている。図3に示すように、中間部材4は、一辺に切り込み4aを形成された板形状であり、切り込み4aが屈曲変位部材5の自由端側の一辺と平行に配置されている。なお、本実施形態における中間部材4は、Z方向に自由端を有する構成であれば限定されず、「L」字形状の一端が屈曲変位部材5の自由端における角部の一方側に固定された構成であってもよい。また、摩擦部材3は中間部材4の自由端に固定されている。
【0061】
屈曲変位部材5に電圧を印加すると、屈曲変位部材5の自由端は、図3の矢印(方向1)に示すように、XY平面に略平行な方向に屈曲変位する。一方、屈曲変位部材5の屈曲運動に伴って中間部材4がシーソー運動することによって、中間部材4の自由端は、図3の矢印(方向2)に示すように、XZ平面に略平行な方向に屈曲変位する。これによって、摩擦部材3がXZ平面に略平行な方向に変位する。さらに、摩擦部材3の変位は、予圧部材1により生じている摩擦部材3と接触部材2dとの間の摩擦力によって、被駆動体2に伝達される。ここでは、摩擦部材3がXZ平面に略平行な方向に変位するため、被駆動体2はガイド軸8に沿ってZ方向に移動する。
【0062】
中間部材4は、屈曲変位部材5と摩擦部材3の間に配置されることにより、屈曲変位部材5の変位方向とは異なる方向に摩擦部材3を移動させる変位方向変換を行う働きを有している。この働きによって、図1および図2に示すように、屈曲変位部材5の厚み方向がZ方向と垂直となるように、屈曲変位部材5を配置することが可能となる。これによって、駆動装置10の幅方向(X方向)の小型化を図ることができる。
【0063】
駆動装置10における駆動機構は、屈曲変位部材5の往復屈曲速度が異なるように、屈曲変位部材5に印加する電圧を制御する構成を有する。この構成では、被駆動体2と摩擦部材3との間に作用する摩擦力を速度差によって変化させ、被駆動体2と摩擦部材3との間に擦移動差を生じさせることによって、被駆動体2のZ方向における変位量(移動量)を変化させる。屈曲変位部材5を往復屈曲させるための駆動周波数には、数kHz以上、好ましくは非可聴である超音波周波数(20kHz以上)が用いられる。なお、電圧の制御方法に関しては、従来用いられている方法を用いればよい。
【0064】
以下に、摩擦部材3および接触部材2dの材料について説明する。摩擦部材3および接触部材2dの材料としては、基本的に、両者の摩擦係数を考慮して適した材料を選択すればよく、例えば、金属、樹脂、および炭素焼結材や、これらの材料に皮膜を施したものを使用することができる。なお、炭素焼結材とは炭素を1000〜3000℃程度で焼成したものであり、一般に炭素、黒鉛炭素、および黒鉛(グラファイト)と称されるもの、ならびに、これらの材料に添加物を添加したものを称している。
【0065】
摩擦部材3および接触部材2dの材料としては、さらに望ましいものが存在する。ここで、本発明の駆動装置10は摩擦部材3と接触部材2d間の摩擦力により被駆動体2を駆動するものであり、この摩擦駆動に起因して、摩擦部材3と接触部材2dには磨耗やキズが生じやすい。磨耗が生じると、摩擦部材3と接触部材2dとの接触状態が変化し、駆動特性が安定しない。一方、キズが生じると、そのキズの箇所における引っ掛かりに起因して動作特性が大幅に変化し、例えば微小送り精度や位置再現性等が大幅に悪化し、これによって駆動装置10は致命的な影響を受ける。このため、摩擦部材3および接触部材2dの材料としては、摩擦駆動による磨耗およびキズの発生を抑えるものが望ましい。また、キズに関しては、摩擦駆動だけでなく、駆動装置10の落下衝撃等によっても発生する。このため、駆動装置10を携帯電話機等の電子機器に用いる場合には特に、摩擦部材3および接触部材2dが耐落下衝撃に優れることが要求される。
【0066】
上記要求への対応として、摩擦部材3および接触部材2dの両方に、耐摩耗性の高い材料、例えば、チタン、タングステン、またはステンレス鋼等の金属材料や、炭化ケイ素(SiC)等のセラミック材料等を使用することとが考えられる。しかしながら、これらの材料を選択した場合であっても、摩擦駆動や落下衝撃によって摩擦部材3または接触部材2dに微少なキズが生じる場合があり、このキズが上述のような致命的な影響を及ぼすことがある。
【0067】
したがって、キズの発生を防止するためには、摩擦部材3および接触部材2dの両方に耐摩耗性の高い材料を用いるのではなく、どちらか一方に柔らかい材料を用いることが好ましい。例えば、黒鉛等の炭素焼結材は、鉛筆に使用されていることから分かるように、その層状の結晶構造に起因して、潤滑性が良く、自らが磨耗しやすい。このため、摩擦部材3または接触部材2dのどちらか一方に炭素焼結材を用いれば、相手材料へのダメージ(キズ発生)を防止することができる。また、炭素焼結材を用いた部材に微少なキズが発生したとしても、磨耗により略均一な面に回復することができる。
【0068】
ただし、摩擦部材3および接触部材2dの一方を炭素焼結材とした場合、その磨耗量が大きくなるという問題がある。そこで、後述の実施例に記載するように、摩擦部材3と接触部材2dの材料の組み合わせを検討したところ、摩擦部材3および接触部材2dの材料のうち、一方が炭素焼結材であり、他方がダイヤモンド状炭素(DLC:Diamond Like Carbon)膜を形成された材料である場合に、磨耗量が少なく、かつキズの発生も生じないことが判明した。
【0069】
したがって、摩擦部材3および接触部材2dの材料は、一方が炭素焼結材であり、他方がDLC皮膜を形成された材料であることが好ましい。なお、DLC皮膜は、固体で潤滑性の高い材料(固体潤滑材料)の一種である。
【0070】
また、中間部材4の材料としては、弾性を有する金属が好ましく、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、リン青銅などの金属を用いることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係る駆動装置10は、撮像対象となる物体を結像する光学系(レンズなど)と、光学系により結像された像を電気信号に変換する撮像素子とを備えることによって、カメラなどの撮像装置を実現することができる。
【0072】
そこで、図4を参照して、被駆動体2がその中央部に円環状のレンズ取り付け部2cを有する構成について以下に説明する。図4は、被駆動体2およびその周辺部材を模式的に示す正面図である。
【0073】
例えば、駆動装置10をカメラモジュール(カメラなどの撮像装置のレンズ駆動)に応用する場合、被駆動体2は、その中央部に円環状のレンズ取り付け部2cを有することによって、レンズバレル、またはレンズを直接保持するレンズ保持枠として機能する。被駆動体2がレンズ取り付け部2cにレンズを保有するとき、被駆動体2の移動方向(Z方向)は、上記レンズの光軸方向となる。また、駆動装置10の駆動機構によって被駆動体2が光軸方向(Z方向)に駆動されると、レンズ取り付け部2cに取り付けられたレンズのAF(オートフォーカス)動作が実現する。
【0074】
被駆動体2がレンズを保持するときには、レンズの光学中心位置の位置精度が高いこと、すなわち、図4(a)に示すレンズ取り付け部2cにおける光学中心位置Hの位置精度が高いことが要求される。例えば、AF機能を有するカメラモジュールにおいては、レンズの光学中心位置の位置精度は±50μm以下であることが好ましい。
【0075】
ここで、仮に、駆動装置10において摩擦部材3の位置ずれが生じた場合について説明する。例えば、図4(a)に示すように、予圧部材1による付勢がない状態において、摩擦部材3と接触部材2dとの間にΔXの間隔が生じた場合を考える。なお、図4(a)では現象が判りやすいように位置ずれが大きい場合を示している。図4(a)のような場合、予圧部材1による予圧荷重が付与されると、図4(b)に示すように、摩擦部材3と接触部材2dとが接するまで被駆動体2がガイド軸8を中心として回転してしまう。これによって、光学中心位置Hは、図4(b)に示す光学中心位置H’まで変化してしまう。また、予圧部材1による本来の予圧方向(X方向)とは異なる方向(Y方向)に予圧が付加されてしまい、ガイド軸8と被駆動体2の間に駆動負荷が生じる。このため、被駆動体2の駆動特性が不安定となってしまう。
【0076】
このような摩擦部材3の位置ずれが生じる原因としては、各部材の製造公差および組立て公差が挙げられる。特に、屈曲変位部材5が複数の部材の積層構造である場合には、その積層工程の製造公差によって、屈曲変位部材5の厚みの寸法公差は大きくなりやすい。
【0077】
そこで、駆動装置10では、屈曲変位部材5の固定面5cと、摩擦部材3において中間部材4に設けられる面とが同一平面上にある構成が好ましい。この構成によれば、例え屈曲変位部材5の厚み公差が大きくとも、摩擦部材3と接触部材2dとの間隔ΔXが大きくならない。このため、光学中心位置Hの変動を減少させることができる。また、予圧部材1による予圧方向が傾くことがなくなり、安定した駆動特性の駆動装置10を実現することができる。したがって、駆動装置10を、カメラモジュールなどの撮像装置に好適に利用することができる。
【0078】
また、摩擦部材3の位置ずれが生じる別の原因として、摩擦部材3または接触部材2dの磨耗による経時変化が挙げられる。前述のように、摩擦部材3および接触部材2dの材料を、炭素焼結材とDLCコートを施した材料との組み合わせから選択することによって、この磨耗による経時変化を低減できる。これよって、撮像装置の光学中心ずれを低減できるとともに、駆動装置10の駆動安定性を向上させることができる。
【0079】
駆動装置10のXY平面において、光学中心位置Hとガイド軸8との距離(最短距離)L1は、摩擦部材3における接触部材2dとの接触点とガイド軸8との距離(最短距離)L2より短くなるように、ガイド軸8の位置を設定することが好ましい。図4を基にこの理由を説明すると以下の通りである。光学中心位置Hはガイド軸8を回転中心として、摩擦部材3と接触部材2dとが接触するまで回転するため、L1<L2に設定することによって、摩擦部材3と接触部材2dとの間隔ΔXに起因する光学中心位置Hのずれを低減することができる。また、L1<L2に設定することによって、被駆動体2の回転角度が小さくなるため、予圧部材1による予圧方向の変化を少なくすることもでき、被駆動体2の駆動特性の安定化にも繋がる。
【0080】
また、屈曲変位部材5は、屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面のみが固定壁6aに接するように接着固定されることが好ましい。これによって、屈曲変位部材5を固定位置は、屈曲変位部材5における長手方向(Y方向)および厚み方向(Z方向)の寸法公差による影響を受けない。したがって、摩擦部材3は、Y方向およびZ方向に位置変動することがない。仮に、摩擦部材3がY方向およびZ方向に位置変動してしまうと、予圧部材1による予圧方向が本来の方向(X方向)とは、異なる方向に予圧が付与されてしまい、被駆動体2の駆動特性が不安定になってしまう。本実施形態では、屈曲変異する面のいずれか一方の面のみが固定される構成によって、被駆動体2の駆動特性を向上させることができる。
【0081】
一方、摩擦部材3に位置ずれが発生しても、この位置ずれを吸収することができるガイド機構として、被駆動体2をX方向に平行してずらすことのできるガイド機構を設けることも可能である。しかしながら、このようなガイド機構は、被駆動体2との間に調整用のガタが必要となるため、被駆動体2の傾斜(チルト)などの姿勢変化が生じやすくなってしまう。特に、駆動装置10をカメラモジュールなどの撮像装置に用いる場合には、上記チルトは、光学特性を劣化させる大きな要因となってしまう。
【0082】
また、固定壁6aの位置を移動させることで、摩擦部材3の位置ずれを吸収させることも可能であるが、屈曲変位部材5は高い周波数で振動しているため、固定壁6aを安定させて配置する方が好ましい。
【0083】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図5および図6に基づいて以下に説明する。図5は、実施形態2における駆動装置を概略的に示す斜視図であり、図6は、実施形態2における屈曲変位部材5およびその周辺部材を示す斜視図である。
【0084】
なお、本実施例においては、実施形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同様の部材には同一の部材番号を用いることとする。
【0085】
図6に示すように、本実施形態における屈曲変位部材5は、シム部材5aが自由端側に延設された構成のシム延設部5dを有しており、シム延設部5dには摩擦部材3が固定されている。シム延設部5dは「L」字形状であり、シム延設部5dには切り欠き部5eが形成されている。これによって、シム部材5aは、中間部材4と同様に、屈曲方向変換機能を有する。したがって、本実施形態においても、実施形態1において説明したように、駆動装置10の小型化が可能なように屈曲変位部材5を配置することができる。
【0086】
一方、実施形態1では中間部材4は屈曲変位部材5と別部材であるが、本実施形態ではシム延設部5dはシム部材5aと一体である。これによって、中間部材4に必要であった接着剤などによる固定が必要ではなくなり、駆動装置10を製造するための工程数を省略することができる。また、部品点数が低減され、コスト低減を図ることができるという効果も奏する。
【0087】
また、本実施形態では、摩擦部材3の位置精度に対する部材の寸法公差による影響が減少する。具体的には、中間部材4を用いないため、中間部材4の寸法公差による影響を受けなくなる。さらに、屈曲変位部材5の厚み公差による影響については、屈曲変位部材5の片側の積層圧電素子5bのみを考慮すればよくなり、この影響は実施形態1と比較して半減する。したがって、本実施形態においては、屈曲変位部材5の固定面5cとは異なる面に摩擦部材3を配置した場合においても、光学中心位置のずれや予圧状態の変動などを軽減することができる。これによって、駆動装置10の設計の自由度を増すことができる。
【0088】
また、図5に示すように、本実施形態は、予圧部材1として圧縮コイルばねを用いている点、および固定壁6aが屈曲変位部材5に対して被駆動体2とは逆側に配置されている点において、実施形態1と異なっている。
【0089】
〔実施形態3〕
本発明の第3の実施形態について図7に基づいて以下に説明する。図7は、実施形態3における駆動装置を示す模式図である。なお、本実施例においては、実施形態1および2との相違点を中心に説明し、実施形態1および2と同様の部材には同一の部材番号を用いることとする。
【0090】
図7に示すように、本実施形態では、被駆動体接触部2aがアーム状に形成されており、屈曲変位部材5側から被駆動体2に予圧を付与する構成となっている。このように、被駆動体接触部2aの形状を変更することによって、被駆動体2の形状などに合わせて予圧機構(図示しない)を変更することができる。これによって、予圧機構の配置および予圧方向の自由度を増すことができる。
【0091】
なお、本実施形態では、実施形態1において好ましい構成であると説明したように、屈曲変位部材5の固定面5cと、中間部材4において屈曲変位部材5に設けられた面と、摩擦部材3が設けられた面とが、同一平面上にある。このような構成とすることにより、摩擦部材3は、中間部材4の厚み公差による影響を受けることがないため、摩擦部材3をより精度良く配置することができる。その結果、光学中心位置のずれや予圧状態の変動などを軽減することができる。
【0092】
〔実施の形態4〕
本発明の第4の実施形態について図8に基づいて以下に説明する。図8は、実施形態4における駆動装置を示す模式図である。なお、本実施例においては、実施形態1〜3との相違点を中心に説明し、実施の形態1〜3と同様の部材には同一の部材番号を用いることとする。
【0093】
図8に示すように、本実施形態では、実施形態2と同様のシム延設部5dを有する構成において、固定壁6aに対する屈曲変位部材5の固定が、シム部材5aにおいて摩擦部材3が固定された面と同一の面で行われている。これによって、本実施形態では、実施形態2と異なり、摩擦部材3のX方向の位置精度が屈曲変位部材5の厚み公差による影響を全く受けなくなる。
【0094】
〔実施の形態5〕
本発明の第5の実施形態について図9に基づいて以下に説明する。図9は、実施形態5における駆動装置を示す模式図である。
【0095】
本実施形態は、屈曲変位部材5の配置方向と被駆動体2の移動方向が、実施形態1〜4とは異なる構成である。したがって、以下では、上記構成について中心に説明する。なお、実施の形態1〜4と同様の部材には同一の部材番号を用いることとする。
【0096】
本実施形態の駆動装置は、屈曲変位部材5の長さ方向と同じ向きに被駆動体2を移動させる構成である。そこで、図9に示すように、本実施形態では、静止状態のときにおける屈曲変位部材5の長手方向をY方向とし、屈曲変位部材5の厚み方向であり、かつY方向に垂直な方向をX方向とする。すなわち、被駆動体2の移動方向はY方向となる。
【0097】
本実施形態では、摩擦部材3は、中間部材4を介さずに屈曲変位部材5に接着固定されている。屈曲変位部材5は、屈曲変位方向に撓む面のうち一方の面において固定壁6aに固定されている。摩擦部材3において屈曲変位部材5に固定された面と、屈曲変位部材5において固定壁6aに固定された面とは、同一平面である。なお、固定壁6aは筐体(図示しない)に固定されている。
【0098】
被駆動体2の移動方向における側面には、接触部材2dが接着固定されており、接触部材2dは、予圧機構(図示しない)によって摩擦部材3に付勢されている。被駆動体2は、主ガイド軸8aおよび副ガイド軸8bによってY方向にガイドされている。なお、副ガイド軸8bは被駆動体2の回転を防止する回転止めの役割も有している。
【0099】
屈曲変位部材5は、電圧印加によってXY平面に略平行な方向に屈曲変位する。被駆動体2は、摩擦部材3のY方向への変位に伴い、摩擦部材3との摩擦力によってY方向に変位する。駆動装置の駆動機構の説明は、実施形態1における説明と同様である。
【0100】
実施形態1〜4における駆動装置は、撮像装置のAF機構に適した構成を有しているが、実施形態5における駆動装置は、撮像装置のズーム機構に適した構成を有しており、撮像装置の厚み(X方向)を薄型化することができるという特長を有している。
【0101】
〔本発明の他の構成〕
また、本発明に係る駆動装置の構成は、一端を固定し、屈曲変位が励起される屈曲変位部材と、前記屈曲変位部材の他端に配置され、前記屈曲変位部材の変位を伝達して被駆動体を駆動させる摩擦部材とを備え、前記屈曲変位部材の厚み方向に直交した面のいずれか一方に、屈曲変位部材の一端を固定し、かつ、摩擦部材を配置したことを特徴とする駆動装置としても、表現することができる。
【実施例】
【0102】
摩擦部材3および接触部材2dに用いる材料を様々に組み合わせた駆動装置10を準備し、各組み合わせによる駆動装置10について、10万回の連続動作試験を行った。各組み合わせにおける使用材料および試験結果について、以下に記載する。
【0103】
(組み合わせA)
摩擦部材3に炭素焼結材を用い、接触部材2dにはステンレス鋼(SUS304)にDLC皮膜を施したものを用いた。
【0104】
10万回の連続動作試験の結果、摩擦部材3の磨耗量は3μm以下であり、動作速度の変化は5%以下であった。摩擦部材3および接触部材2dの表面にはキズが見られず、位置再現性の変化も生じない良好な結果であった。更に30万回の連続動作試験を行っても、動作速度の変化は5%以下を維持し、位置再現性の変化も見られなかった。
【0105】
(組み合わせB)
摩擦部材3に炭素焼結材を用い、接触部材2dにステンレス鋼(SUS304)を用いた。
【0106】
10万回の連続動作試験の結果、摩擦部材3が約30μm磨耗し、動作速度が45%低下と大きく変化した。
【0107】
(組み合わせC)
摩擦部材3にSiCを用い、接触部材2dにステンレス鋼(SUS304)を用いた。
【0108】
10万回の連続動作試験の結果、接触部材2dにキズが発生し、位置再現性が低下した。また、摩擦部材3にもキズが発生していた。
【0109】
(組み合わせD)
摩擦部材3と接触部材2dの両者には、ステンレス鋼(SUS304)にDLC皮膜を施したものを用いた。
【0110】
10万回の連続動作試験の結果、DLC皮膜の一部に剥離(亀裂)が生じ、位置再現性が低下した。
【0111】
(組み合わせE)
摩擦部材3に炭素焼結材を用い、接触部材2dにステンレス鋼(SUS304)を用いた。接触部材2dには、さらに、フッ素系の潤滑剤(株式会社ハーベス:ドライサーフMZ-7000EL)を塗布した。
【0112】
10万回の連続動作試験の結果、摩擦部材3の磨耗量は3μm以下であり、耐久性は問題ないが、連続動作時と一時停止後の動作時で速度差が約20%見られた。
【0113】
以上の組み合わせにおける炭素焼結材としては、黒鉛が40%、炭素が60%含まれるものを使用した。また、以上の組み合わせにおけるDLC皮膜としては、SUS304に、中間層としてTi層とSi層を介して、膜厚約1μmで成膜したものを使用した。使用したSUS304の表面粗さはRa0.1μmであり、DLC皮膜後も略同等の表面粗さであった。
【0114】
なお、上記した以外の組み合わせとして、炭素焼結材同士や、炭素焼結材とガラスとの組み合わせ等を検討したが、初期の動作特性が優れない等、耐久性以外の課題が発生した。
【0115】
上記結果によれば、摩擦部材3と接触部材2dを炭素焼結材とDLC皮膜付材料とすることにより、磨耗量の低減とキズ発生防止の両者を満足することができることが分かった(組み合わせA)。
【0116】
一方、炭素焼結材を硬度の高い材料と組み合わせると、炭素焼結材料は相手材料にキズを生じさせにくいが、自らが磨耗して、動作速度に悪影響を与えることが分かった(組み合わせB)。
【0117】
また、硬度の高い材料同士の組み合わせ(組み合わせC、D)では、摩擦面に微少なキズが発生することによる位置再現性が低下することが分かった。このキズは致命的な問題であるため、確実に防止することが重要であり、したがって、一方を炭素焼結材料とすることが好ましいことが分かった。
【0118】
さらに、炭素焼結材と、潤滑剤を塗布した材料との組み合わせ(組み合わせE)では、磨耗やキズ発生という問題は生じなかったが、停止後の初期動作と連続動作とで速度が異なる結果となった。これは、連続動作時に潤滑剤が接触面から移動することによって、摩擦状態が変化することが原因と考えられる。また、潤滑剤の塗布量による動作特性の変化が見られることから、本組み合わせは好ましくないと考えられる。
【0119】
以上のことを考慮すると、摩擦部材3および接触部材2dの材料は、炭素焼結材とDLC皮膜面を有する材料との組み合わせが最も好ましいことが明らかである。これは、炭素焼結材が摩擦する相手としてDLC皮膜面を用いると、DLC皮膜の特長である表面の潤滑性によって、炭素焼結材の磨耗量が低減されるためと考えられる。
【0120】
なお、DLC皮膜以外であっても、固体で潤滑性の高い材料(固体潤滑材料)を用いることにより同様の効果が得られる。固体潤滑材料としては、DLC皮膜以外に、例えば、フッ素樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)、TiN皮膜、およびCrN皮膜等を挙げることができる。ただし、高硬度と潤滑性を両立できることからDLC皮膜を用いることが最も好ましい。
【0121】
また、磨耗量に関しては予圧の大きさによっても変化する。上記連続動作試験では、予圧を12gfに設定していた。予圧を低減させることで磨耗量を減少させることもできるが、予圧は被駆動体2と摩擦部材3とを安定して当接させるとともに、摩擦力を高める働きがあり、駆動推力や駆動安定性の低下が生じるため好ましくない。予圧は被駆動体2の重量により最適値が異なるが、例えば、カメラモジュールのレンズ駆動に使用する場合は、約5gfから50gfの間に設定することが好ましい。
【0122】
また、上記連続動作試験では、摩擦部材3を炭素焼結材とし、接触部材2dにDLC皮膜を施したが、これに限られず、接触部材2dを炭素焼結材とし、摩擦部材3にDLC皮膜を施してもよい。また、DLCコートを行う下地材料はSUS304に限定されるものではなく、他のステンレス鋼やアルミニウム、シリコン等の他の材料を使用してもよい。
【0123】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明に係る駆動装置は、例えばカメラモジュールなどの撮像装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0125】
1 予圧部材
2 被駆動体
2d 接触部材
3 摩擦部材
4 中間部材
5 屈曲変位部材
5a シム部材
5b 積層圧電素子
5c 固定面
5d シム延設部
6 筐体
8 ガイド軸
10 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体を駆動する駆動装置であって、
一端を固定された、屈曲変位が励起される屈曲変位部材と、
上記屈曲変位部材の屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において、当該屈曲変位部材の自由端に連結された、上記被駆動体と摩擦接触する摩擦部材と、を備えていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
上記屈曲変位部材の固定された一端は、当該屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において固定されており、
上記屈曲変位部材の固定された面を固定面とするとき、上記摩擦部材は、上記屈曲変位部材において上記固定面と同一平面上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
上記屈曲変位部材の自由端に設けられ、かつ上記屈曲変位部材と異なる方向に屈曲変位する中間部材を備えており、
上記摩擦部材は上記中間部材の自由端に設けられており、
上記摩擦部材と上記屈曲変位部材の自由端との連結は上記中間部材を介して行われていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
上記屈曲変位部材の固定された一端は、当該屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面のいずれか一方の面において固定されており、
上記屈曲変位部材の固定された上記面を固定面とするとき、上記中間部材において上記摩擦部材が設けられた面は、上記固定面と同一平面上にあることを特徴とする請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
上記屈曲変位部材は、電圧を印加することにより形状変位が励起される変位部材と、上記変位部材に積層されたシム部材とから形成されており、
上記シム部材は、上記屈曲変位部材の自由端側に延設されたシム延設部を有しており、
上記摩擦部材は、上記シム延設部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項6】
上記屈曲変位部材の固定された一端は、上記シム部材上にあることを特徴とする請求項5に記載の駆動装置。
【請求項7】
上記シム延設部には切り欠き部が形成されており、
上記シム延設部は、上記屈曲変位部材の屈曲変位方向と異なる方向に屈曲変位することを特徴とする請求項5または6に記載の駆動装置。
【請求項8】
上記中間部材または上記シム延設部の屈曲変位方向に対して略平行な平面は、上記屈曲変位部材の屈曲変位方向に対して略平行な平面と直交することを特徴とする請求項3から7までのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項9】
上記摩擦部材が、上記被駆動体に直接接触することを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項10】
上記被駆動体の移動方向と、上記屈曲変位部材において屈曲変位方向に撓む面とが略平行であることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項11】
上記被駆動体と上記屈曲変位部材との間に配置された固定部を備えており、
上記屈曲変位部材の固定された一端は、上記固定部に固定されていることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項12】
上記被駆動体を上記摩擦部材に付勢する予圧機構を備えていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項13】
上記被駆動体には、当該被駆動体と一体的に移動し、かつ上記摩擦部材と摩擦接触する接触部材が設けられており、
上記摩擦部材および上記接触部材のうち、一方には固体潤滑材料による皮膜が形成されており、他方は炭素焼結材から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項14】
上記固体潤滑材料による皮膜は、ダイヤモンド状炭素膜であることを特徴とする請求項13記載の駆動装置。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項に記載の駆動装置と、
撮像対象となる物体を結像する光学系と、
上記光学系により結像された像を電気信号に変換する撮像素子と、を備えており、
上記被駆動体は、上記光学系を保持していることを特徴とする撮像装置。
【請求項16】
上記被駆動体の駆動を支持する駆動軸を備えており、
上記光学系の光軸と上記駆動軸との間の最短距離は、上記摩擦部材における上記被駆動体との接触点と上記駆動軸との間の最短距離よりも短いことを特徴とする請求項15に記載の撮像装置。
【請求項17】
請求項1から14までのいずれか1項に記載の駆動装置、または請求項15もしくは16に記載の撮像装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−63349(P2010−63349A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175374(P2009−175374)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】