説明

騒音監視装置

【課題】遮音性に優れた仕切材を用いる代わりに騒音を自覚させることによって騒音の発生を抑止させ、しかも、既存の建物に簡易に設置でき、かつ利用も容易にする。
【解決手段】評価装置10は、部屋で生じた特定音を音センサ20の出力から検出する特定音検出部11と、特定音の発生位置までの距離を求める距離推算部13と、特定音の発生位置での音圧を推算する発生音圧推算部12とを備える。さらに、評価装置10は、他の部屋の評価装置10と通信し、特定音検出部11で検出した特定音の波形と他の部屋で検出された特定音の波形との類似度を評価する類似度評価部15とを備える。類似度評価部15の評価結果から特定音が他の部屋に伝達されていると判断されると、比較判定部17は、異なる部屋の音圧の差から仕切材の遮音性能を推定し、他の部屋に騒音が伝達されている可能性を通知装置30から通知させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内で発生した騒音が周囲に与える影響を可視化して報知する騒音監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、壁材や床材のような仕切材により仕切られた空間において発生した音は、仕切材を通して隣接空間に伝達されることがある。すなわち、音が発生した空間が、集合住宅の住戸のような部屋である場合、家の中の区画である部屋である場合、部屋の中に区画を形成する防音室のような部屋である場合に、部屋の外側の空間である隣接空間に音が伝達されることがある。隣接空間に伝達される音は、隣接空間に居る人にとって時に騒音と認識される。したがって、隣接空間に居る人に伝達される音は、たとえば、音圧レベルが40dB以下であることが要求される。
【0003】
この種の問題を解決するために、壁材や床材のような仕切材において遮音性を高める技術が種々提案されている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、自室から発生する騒音に対する自覚がなく、騒音が発生していることに気付かない場合がある。その一方で、自室から発生して隣接空間に伝達される騒音の大きさに気遣う人もまた多く存在する。
【0005】
上述の事情から、自室から隣接空間に伝達される騒音の大きさを推定することが要望されている。この種の技術としては、仕切材である床の振動を検知して振動の大きさを騒音の値に換算し、さらに騒音の値が閾値より大きいときに警告メッセージを出力する構成も知られている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−195490号公報
【特許文献2】特開2007−205071号公報
【特許文献3】特開2006−29859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載された技術のように、遮音性を高める仕切材を用いることは、有効な手段であるが、遮音性を高める仕切材は概して高価であって、コスト高になるという問題を有している。また、遮音性に優れた高価な仕切材を用いたとしても、隣接空間に伝達される音を皆無にすることは困難であるから、騒音が隣接空間に伝達される可能性が残される。
【0008】
一方、特許文献3に記載された技術のように、仕切材に伝達された振動を検出し、この振動から騒音の大きさを推定して、警告メッセージを出力する技術を採用すると、隣接空間に伝達される騒音を自覚させることが可能になる。また、遮音性に優れた仕切材を用いる場合と比較すると、騒音を自覚させるほうが低コストで実現可能になると考えられる。しかも、騒音を発生させる行為を抑止する効果があるから、騒音が隣接空間に伝達される可能性を大幅に低減できることになる。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載された技術を採用するには、仕切材に伝達された振動を検出するために、床材や天井材あるいは壁材などの仕切材の内部に衝撃力や振動を検出するためのセンサを配置する必要がある。そのため、専用の仕切材が必要になるから、コスト高になる上に、新築やリフォームの際にしか設置することができないという問題を有している。
【0010】
本発明は、遮音性に優れた仕切材を用いる代わりに騒音を自覚させることによって騒音の発生を抑止させ、しかも、既存の建物において簡易に設置可能にし、その上、仕切材の遮音性能を設定することなく簡易に利用可能にした騒音監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、建物の部屋で発生した音を検出する音センサと、音センサの出力を用いて特定音を検出し特定音に起因して隣接空間に伝達される音波の音圧を評価する評価装置と、評価装置の評価結果を前記部屋に通知する通知装置とを備え、評価装置は、前記部屋で生じる特定音を音センサの出力から検出する特定音検出部と、前記隣接空間に配置される他の評価装置と通信する通信用インターフェイスと、特定音検出部で検出した特定音の波形と通信用インターフェイスを通して他の評価装置から取得した特定音の波形との類似度を評価する類似度評価部と、類似度評価部の評価結果から特定音が前記隣接空間に伝達されていると判断された場合に前記隣接空間に騒音が伝達されている可能性を通知装置から通知させる比較判定部とを備えることを特徴とする。
【0012】
この騒音監視装置において、特定音検出部が検出した特定音の発生位置までの距離を求める距離推算部と、距離推算部が求めた距離と音センサの出力とから特定音の発生位置での音圧を推算する発生音圧推算部とをさらに備え、比較判定部は、通信用インターフェイスを通して前記他の評価装置から取得した特定音の音圧と発生音圧推算部が推算した特定音の音圧との差分を用いて前記隣接空間との間の仕切材の遮音性能を推定し、推定した遮音性能を用いて特定音が前記隣接空間への騒音になる可能性を判断する
することが好ましい。
【0013】
この騒音監視装置において、音センサは複数本のマイクロホンを備え、距離推算部はマイクロホンにそれぞれ音波が入射する時間差に基づいて特定音の発生位置までの距離を求めることが好ましい。
【0014】
この騒音監視装置において、比較判定部は、固体音の周波数域における最小可聴値と、音センサが検出している暗騒音の音圧とに基づいて騒音が伝達されている可能性を評価することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成によれば、遮音性に優れた床材を用いる代わりに騒音を自覚させることによって騒音の発生を抑止させ、しかも、既存の建物において簡易に設置することができ、その上、仕切材の遮音性能を設定することなく簡易に利用可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上の動作例を示す図である。
【図3】音圧と距離との関係を示す図である。
【図4】最小可聴値の周波数特性を示す図である。
【図5】同上の外観を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に説明する実施形態は、集合住宅における住戸における隣家を隣接空間として例示するが、集合住宅の住戸内の部屋あるいは戸建て住宅における部屋、室内に設置される防音室のような部屋であっても本実施形態の技術思想を適用することが可能である。すなわち、「隣接空間」は、壁や床のような仕切材を隔てた家、家の中の区画である部屋、部屋の中に設けた区画(防音室など)の外側空間などを意味する。集合住宅の場合の隣接空間は、同じ階で隣接している住戸だけではなく、異なる階で上下のいずれかに位置する住戸も含む。上階と下階との住戸では、下階の住戸がとくに重要である。
【0018】
一般に、隣接空間に騒音として伝達される音は、仕切材への衝撃によって生じる固体音と、仕切材から離れた場所で生じる空気音とに分類されている。以下の説明では、固体音の典型として主として床材を通して下階の住戸に伝達される足音を想定する。また、空気音は、話し声、映像機器や音響機器から出力される音、楽器の音、電気機器(掃除機、洗濯機、電動工具など)の使用時に発生する音などであって、主として壁材を通して隣家の住戸に伝達される。
【0019】
すなわち、図2に示すように、固体音または空気音を発生する部屋1aと、固体音または空気音が伝達される部屋1b〜1eとを想定する。部屋1b〜1eは、それぞれ同じ階の両隣の部屋1b,1cと、上階の部屋1dと下階の部屋1eとを意味する。また、部屋1aで発生し、部屋1aに隣接した部屋1b〜1eへの騒音となる音について、固体音と空気音との区別をせずに特定音として説明する。また、以下では、特定音が部屋1aで発生する場合を例として説明するが、他の部屋で特定音が発生する場合も同様の動作であるから、部屋1aを他の部屋に読み替えればよい。
【0020】
本実施形態では、図1に示すように、周囲音を検出する音センサ20と、1つの部屋で発生した特定音が他の部屋に騒音として伝達されたか否かを評価する評価装置10と、評価装置10による評価結果を通知する通知装置30とが、集合住宅のすべての住戸に設けられる。図2には、評価装置10と音センサ20と通知装置30とを設けた器体40を図示している。また、評価装置10は他の評価装置10との間で通信可能になっている。すなわち、各部屋1a〜1eの評価装置10は互いに通信する機能を備える。異なる評価装置10の間の通信に用いる通信路は、有線と無線とのどちらであってもよい。有線の通信路を用いる場合、集合住宅においてインターホンシステムなどに用いている既存の通信路を流用してもよい。
【0021】
評価装置10は、後述するように、自室の音センサ20が検出した音と他の評価装置10との通信により取得した他の部屋の音センサ20が検出した音との関係を用いて、他の部屋に居る人にその音が聞こえる程度を評価する。さらに、評価装置10は、自室で発生した特定音が他室に居る人に騒音として聞こえる可能性があるか否かを判断する。
【0022】
通知装置30は、特定音を発生した部屋1aに居る人に評価装置10の評価結果を通知する。すなわち、通知装置30は、評価装置10において、部屋1aで発生した音が他の部屋1b〜1eに居る人に騒音として伝達される可能性があると判断されたときに、特定音を発生した部屋1aに居る人に対してその旨を通知する。したがって、騒音の発生が可視化され、部屋1aに居る人に、自室からの騒音の発生を気付かせることができる。
【0023】
通知装置30としては、点灯と消灯とのみを行う報知灯、色が変化する報知灯、文字や図形を表示する表示器、それらの組み合わせなどを選択することができる。たとえば、報知灯であれば、常時は消灯しており、騒音と判断されると点灯する構成を採用することができる。あるいは、文字を表示する表示器としてバックライト付きの液晶表示器を用いるとすれば、常時は非表示であって、騒音と判断されると文字メッセージにより騒音の発生を通知するとともに、バックライトを点灯させる構成を採用することができる。
【0024】
通知装置30は、視覚的ではなく聴覚的に通知するように構成してもよい。すなわち、通知装置30は、通知音や音声メッセージを用いて評価装置10の評価結果を通知するように構成してもよい。たとえば、評価装置10により騒音の発生と判断されると、ビープ音を出力する構成や音声メッセージにより通知する構成などを通知装置30として採用することが可能である。さらに、視覚的通知と聴覚的通知をと組み合わせて行う通知装置30を採用してもよい。
【0025】
音センサ20は、複数個のマイクロホン21(図5参照)を備える。複数本のマイクロホン21を用いることにより、評価装置10では、各マイクロホン21に入射する音波の音圧や位相に基づいて音の発生位置を推定することが可能になる。音の発生位置を推定する技術については後述する。マイクロホン21は、どの動作原理のものを用いてもよいが、一般には、コンデンサ型、ダイナミック型、圧電型から選択される。
【0026】
音センサ20を構成するマイクロホン21は、音の発生位置を検出するために、離間して3個以上設けることが望ましい。音の発生位置までの距離がわかれば、音の発生位置での音圧を、音センサ20で検出した音圧と音の発生位置までの距離とから推定することが可能になる。音の発生位置までの距離を正確に求めるためには、隣接する各一対のマイクロホン21の間隔は大きいほうが望ましいが、音センサ20として許容されるサイズを考慮して通常は5〜30cm程度に設定される。
【0027】
以下では、音センサ20が3個のマイクロホン21を備え、マイクロホン21が一平面上で三角形の頂点に位置するように配置されている構成を想定して説明する。マイクロホン21は一直線上に並んでいなければよいが(つまり、三角形の頂点に位置していればよいが)、正三角形の各頂点にマイクロホン21が配置されることが好ましい。とくに、正三角形の1つの頂点を通る上下方向の直線を挟んで残りの2つの頂点が線対称の位置に配置されることが好ましい。
【0028】
評価装置10は、マイクロコンピュータ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などから選択されるプロセッサを備えたデジタル信号処理デバイスを用いて構成される。すなわち、評価装置10は、以下の機能を実現するためのプログラムを実行する。また、評価装置10は、音センサ20の出力をデジタル信号に変換するために図示しないアナログ−デジタル変換器を備える。
【0029】
評価装置10は、図1に示すように、音センサ20の出力信号を用いて特定音を検出する特定音検出部11を備える。特定音検出部11は、音センサ20の出力信号から所要の特徴量を抽出した後、抽出した特徴量を用いて特定音を検出するとともに、特定音の音圧を算出する。要するに、特定音検出部11は、他室に騒音として伝達される可能性がある特定音の特徴を抽出し、この特定音について音圧を算出する。
【0030】
ここに、特定音が足音である場合は、特定音検出部11が音センサ20の出力信号から抽出する特徴量は、音センサ20の出力信号の振幅、振幅の尖度、周波数分布などから選択される。この種の特徴量を用いて足音を検出する技術は既知技術を用いる。特定音が空気音である場合は、特定音検出部11が音センサ20の出力信号から抽出する特徴量は、出力信号の振幅、周波数分布などから選択される。
【0031】
ところで、音センサ20は室内の1箇所に配置されるから、隣接する複数の他室に伝達される特定音の音圧を評価するには、特定音が発生した場所での音圧を知る必要がある。音センサ20に入力される特定音の音圧は、特定音が発生した場所と音センサ20との距離に応じて変化するから、発生場所での特定音の音圧を見積もるには、音センサ20から特定音の発生場所までの距離を知ることが必要である。そのため、評価装置10は、特定音検出部11が検出した特定音について、特定音の発生位置における音圧を推定する発生音圧推算部12を備える。発生音圧推算部12は、音センサ20の出力から求められる特定音の音圧を、後述する距離推算部13が推算した特定音の発生位置までの距離によって補正し、特定音の発生位置における特定音の音圧を推算する。
【0032】
すなわち、特定音の音圧は特定音が発生した位置から音センサ20までの距離が大きいほど小さくなるから、発生音圧推算部12では、距離と音圧との関係を実測あるいは理論式によって規定しておくことにより、特定音の発生場所での音圧を推定することが可能になる。ここに、部屋1aが狭いほど距離変化に対する音圧の減衰が少なく、また部屋1aの残響時間が長いほど距離変化に対する音圧の減衰が少ないと考えられる。
【0033】
そこで、部屋1aの容積および残響時間から求められる評価値を、距離に対する音圧の減衰特性に対応付けている。具体的には、部屋1aの容積および残響時間から求められる「R値」という評価値を用い、図3に示すように、距離に対する音圧の減衰特性をR値ごとに分類する。R値は、部屋1aの容積が小さく、残響時間が長いほど小さい値になる。一般的な居住用の部屋では、R値は20〜50程度になる。
【0034】
R値は部屋1aの容積および残響時間から求められるが、特定音の発生場所における特定音の音圧を求めるには、音センサ20から特定音の発生場所までの距離を求める必要がある。そのため、評価装置10は、音センサ20の出力から音の発生位置までの距離を推定する距離推算部13を備える。本実施形態の距離推算部13は、特定音検出部11が検出した特定音について、評価装置10に規定した座標系における3次元の座標位置を求め、この座標位置により音センサ20から特定音の発生位置までの距離を求める。
【0035】
距離推算部13は、マイクロホン21に入射する音波を用いて音の発生位置の推定を行うために、たとえば、2D−CSP法(Two-Dimensional Cross-Power Spectrum Phase Analysis)を採用する。2D−CSP法は、音センサ20に入射する音波を球面波と仮定するから、音の発生位置が音センサ20から比較的近距離である場合でも音の発生位置が精度よく検出される。なお、2D−CSP法の詳細は、文献(林田亘平ほか,「近接音源位置推定のための2D−CSP法の評価」,信学技報,SIP2010-09,pp.49-54,電子情報通信学会)などに記載されている。
【0036】
距離推算部13は、音センサ20の出力を用いて特定音の発生位置を、音センサ20に対する3次元の相対位置として特定するから、特定音の発生位置から音センサ20までの距離が求められる。したがって、発生音圧推算部12は、距離推算部13が求めた特定音の発生場所までの距離を用いて、実際に特定音が発生した場所での音圧を算出することが可能になる。すなわち、発生音圧推算部12は、特定音検出部11で求められた音圧および距離推算部13で求められた特定音の発生場所までの距離を用いて、特定音が発生した場所での実際の音圧を推定する。
【0037】
ところで、本実施形態の評価装置10は、自室(部屋1a)で検出された特定音だけではなく、隣接する他室(部屋1b〜1e)で検出された特定音も用いることによって、他室に伝達される音の音圧を評価する点に特徴がある。そのため、評価装置10は、他の評価装置10と通信するための通信用インターフェイス14を備える。さらに、評価装置10は、他室の評価装置10に設けた特定音検出部11が検出した特定音の波形と、自室の評価装置10に設けた特定音検出部11が検出した特定音の波形との類似度を評価する類似度評価部15を備える。
【0038】
通信用インターフェイス14は、通信に用いる識別情報として個別に設定される通信用IDを備えている。また、通信用インターフェイス14は、通信相手となる評価装置10の通信用IDがあらかじめ登録される。通信相手となる評価装置10の通信用IDは、後述するパラメータ設定部18を用いて設定される。ここに、通信用IDは、評価装置10を識別できればよいから、適宜に定めることが可能であるが、集合住宅では設定時に部屋番号を用いることが好ましい。たとえば、自室が202号室である場合、他室の部屋番号として、201号室、203号室、302号室(上階)、102号室(下階)の各部屋番号が入力可能になるようにパラメータ設定部18を構成しておけば、通信用IDの設定作業が容易になる。
【0039】
類似度評価部15は、所定の時間窓(時間窓は、たとえば、数秒ごとに更新される)で得られる特定音の特徴量について類似度を評価する。特徴量としては、たとえば複数周波数の強度を正規化した周波数成分が用いられる。類似度の評価には、たとえば、周波数成分のユークリッド距離を用い、ユークリッド距離が規定の閾値以下である場合に、類似していると判断すればよい。すなわち、類似度評価部15は、自室と他室との評価装置10で検出した特定音について、規定の時間窓における周波数成分が類似している場合に、両評価装置10で検出した特定音を同じ特定音と推定する。
【0040】
ところで、異なる評価装置10で同じ時間窓の周波数成分の類似度を評価するために、評価装置10の動作を同期させる必要がある。そのため、部屋1aの評価装置10が特定音の発生を検出すると、この評価装置10は、あらかじめ登録された評価装置10に対して周波数成分の検出および返送を要求する。ここで、他の評価装置10から要求を受けた評価装置10(つまり、他室の評価装置10)は、特定音検出部11において、要求に従って時間窓を設定し、音センサ20の出力信号のうち時間窓を通過した出力信号から周波数成分を抽出する。抽出された周波数成分は、要求を行った評価装置10に返送される。
【0041】
したがって、特定音の検出をトリガとして他の評価装置10に周波数成分の返送を要求した評価装置10は、他の評価装置10から周波数成分を取得し、この周波数成分を、特定音検出部11が抽出した周波数成分とともに類似度評価部15に与えるのである。
【0042】
ここに、上述したトリガを発生させるために、評価装置10は、トリガ発生部16を備える。トリガ発生部16は、発生音圧推算部12が検出した音圧が規定の閾値以上であるときにトリガを発生する。トリガ発生部16に設定される閾値は、自室で発生した特定音について発生位置での音圧が他室に伝達されるか否かを判定するために設定されている。したがって、トリガ発生部16から他の評価装置10にトリガが与えられたときには、特定音が他室に伝達されている可能性があると言える。したがって、他室の評価装置10が同じ時間帯(時間窓)において検出した音の周波数成分を抽出し、特定音が実際に他室に伝達されたか否かを判定するのである。
【0043】
上述のように、類似度評価部15は、自室において特定音が発生したときに、他室に特定音が伝達されたか否かを判定する。類似度評価部15において他室に特定音が伝達されたと判断されたときには、他室に伝達された特定音が騒音になるか否かを判定する必要がある。そのため、評価装置10は、自室で発生した特定音が他室において騒音になる可能性を判断する比較判定部17を備える。
【0044】
比較判定部17は、通信用インターフェイス14を通して他室の評価装置10から取得した特定音の音圧(平均室内音圧)と、発生音圧推算部12が検出した特定音の音圧(平均室内音圧)との差分により、部屋1a〜1eを仕切る仕切材の遮音性能を推定する。ただし、自室の平均室内音圧は、自室の吸音レベルをあらかじめ設定しておくことにより算出される。
【0045】
また、比較判定部17が仕切材の遮音性能を推定するには、平均室内音圧を用いるのではなく、類似度評価部15により類似度が高いと判定された時間帯(時間窓)において、他室で検出された音圧と自室で検出された音圧とを比較してもよい。
【0046】
上述のようにして仕切材の遮音性能がわかれば、自室で発生した特定音が他室に伝達される程度の評価が可能になるから、比較判定部17は、自室で発生した特定音が他室において騒音になるか否かを判定する。
【0047】
なお、類似度評価部15が自室と他室とにおいて検出された周波数成分の類似度を評価する際に評価値として相関係数を用い、比較判定部17は、相関係数が規定値(たとえば、0.8)以上であるときに、特定音を騒音と判断してもよい。ここに、相関係数は抽出した周波数ごとの音圧を反映しているから、類似度評価部15が相関係数を用いて類似度を評価すれば、得られた相関係数の大きさを判定するだけで、騒音か否かを判定することが可能である。
【0048】
さらに、比較判定部17は、人の最小可聴値に基づいて音圧に対する閾値が設定され、設定された閾値を超える場合は、他室(部屋1b〜1e)の住人に対する騒音の発生と判断する。比較判定部17において騒音の発生と判断されたときには、通知装置30を通して自室(部屋1a)の住人に騒音が発生したことを通知する。つまり、自室で生じた特定音が他室の騒音になっていることを自室の住人に通知することによって注意を喚起することになる。
【0049】
ところで、人の最小可聴値は、雑音が存在しない環境における純音の音圧に対する周波数特性として表されている。また、最小可聴値には個人差があるから、人数の割合に応じて最小可聴値は統計的に定められている。すなわち、図4に示すように、可聴と非可聴との境界値を最小可聴値とし、境界値が得られた人数の割合ごとに最小可聴値が定められる。たとえば、1%の最小可聴値の特性は、この特性が得られる人数が全体の1%であることを意味し、50%の最小可聴値の特性は、この特性が得られる人数が全体の50%であることを意味する。言い換えると、図4において下側の特性ほど、その特性を最小可聴値とする人数が少ないことになる。
【0050】
上述のように、比較判定部17に設定される閾値は、最小可聴値に基づいて設定されるから、どの程度の割合の人にとって可聴である場合に閾値とするかは、パラメータ設定部18で設定される。パラメータ設定部18は、DIPスイッチのような機械接点を備えるスイッチ、またはメモリスイッチを構成するメモリが用いられる。メモリスイッチを用いる場合、別に設けた設定装置を接続してメモリスイッチの内容を設定する。ここに、設定装置は、専用機以外に、適宜のプログラムを実行して動作しているコンピュータ、タブレット端末、スマートホンなどから選択してもよい。パラメータ設定部18に設定する割合は、たとえば50%などとすればよい。また、最小可聴域となる音圧は周波数によって異なるから、音圧の代表値を閾値として用いる。代表値は、音圧の最小値あるいは平均値を用いる。
【0051】
ところで、比較判定部17における閾値を最小可聴値のみに基づいて設定すると、環境音(暗騒音)の音圧が比較的高い時間帯と、環境音の音圧が比較的小さい時間帯とのどちらにも同じ閾値が適用されることになる。一般的には、環境音の音圧が小さい時間帯のほうが小さい音圧であっても騒音と感じられる可能性が高いから、環境音の音圧に応じて閾値を調節することが望ましい。
【0052】
したがって、比較判定部17は、現場における環境音の音圧に関する時間帯別の計測結果に基づいて閾値を調節する機能を備えていることが好ましい。すなわち、時間帯に応じて環境音の音圧が高いほど比較判定部17の閾値を高く設定するのである。このように閾値を時間帯に応じて動的に設定することにより、自室(部屋1a)で生じた特定音が他室(部屋1b〜1e)の住人に騒音として感じられるか否かが的確に評価されることになる。具体的には、比較判定部17は、環境音の音圧に応じた既知のM′曲線を用いて空気音に対する閾値を定める。すなわち、あらかじめ計測した環境音の音圧、あるいは環境省が制定している住宅区域情報による環境音の音圧をM′曲線に当てはめることにより、空気音に対する閾値が定められる。
【0053】
評価装置10、音センサ20、通知装置30は、たとえば、図5に示すように、1つの器体40に設けられる。この器体40は、部屋1a〜1eの天井面、壁面などに取り付けることが想定されている。したがって、先行配線が可能である場合は、埋込型の配線器具と同様に、器体40の一部が壁面に埋め込まれ、壁内に配線された電源線から給電されることになる。また、電源として電池を用いる場合は、器体40に電池を内蔵させておけば、壁面の所望の位置に器体40を配置することが可能になる。
【0054】
音センサ20および通知装置30は器体40の前面に配置される。器体40の前面は角を落とした正方形状に形成される。また、音センサ20を構成する3個のマイクロホン21は正三角形の頂点となる位置に配置される。2個のマイクロホン21は、器体40の前面における下辺の両端付近に配置される。また、残りの1個のマイクロホン21は、器体40の前面における上部に配置される。
【0055】
図5に示す構成例は、通知装置30として、聴覚的通知を行うスピーカ31と、視覚的通知を行うLEDまたは有機EL光源を備えた報知灯32とを備える。報知灯32の点灯状態は変更可能とすることが望ましい。点灯状態は、連続点灯と点滅点灯との別で表すほか、調光レベル、発光色などによって表すようにしてもよい。また、比較判定部17は、他室への騒音になるか否かの2段階の判断だけではなく、騒音の程度を3段階以上に分類してもよい。たとえば、騒音の音圧を「大」「中」「小」の3段階に設定し、通知装置30では、「大」のときに赤色、「中」のときに黄色、「小」のときに消灯などとすればよい。点灯状態は、比較判定部17の判定結果が変化してから5秒程度でよい。
【0056】
この構成を採用すれば、他室に伝達される音圧が、通知装置30に設けたLEDあるいは有機EL光源の点灯状態で段階別に表されるから、たとえば、予備的警告を行う段階と、実際の警告を行う段階とに分けて通知することが可能になる。すなわち、特定音が他室に伝達されて騒音になる可能性がある場合に、通知装置30の点灯状態によって自室の住人に知らせることになる。
【0057】
通知装置30は、たとえば、他室に騒音が伝達される可能性がある場合、報知灯32を点灯させると同時にスピーカ31から報知音によって注意を促し、さらに、どの部屋1b〜1eに騒音が伝達されるかをスピーカ31から音声によって通知すればよい。
【0058】
さらに、騒音が伝達される可能性を通知した履歴を記憶するとともに、記憶した履歴を確認できるようにする機能を付加してもよい。履歴を記憶する機能は、評価装置10に付加すればよく、集合住宅であれば、履歴の確認は各住戸に配置されたインターホン親機(住戸機)で行えるようにすればよい。なお、履歴の確認は、パーソナルコンピュータで行えるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1a〜1e 部屋
10 評価装置
11 特定音検出部
12 発生音圧推算部
13 距離推算部
14 通信用インターフェイス
15 類似度評価部
16 トリガ発生部
17 比較判定部
18 パラメータ設定部
20 音センサ
21 マイクロホン
30 通知装置
31 スピーカ
32 報知灯
40 器体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の部屋で発生した音を検出する音センサと、
前記音センサの出力を用いて特定音を検出し特定音に起因して隣接空間に伝達される音波の音圧を評価する評価装置と、
前記評価装置の評価結果を前記部屋に通知する通知装置とを備え、
前記評価装置は、
前記部屋で生じる特定音を前記音センサの出力から検出する特定音検出部と、
前記隣接空間に配置される他の評価装置と通信する通信用インターフェイスと、
前記特定音検出部で検出した特定音の波形と前記通信用インターフェイスを通して他の評価装置から取得した特定音の波形との類似度を評価する類似度評価部と、
前記類似度評価部の評価結果から特定音が前記隣接空間に伝達されていると判断された場合に前記隣接空間に騒音が伝達されている可能性を前記通知装置から通知させる比較判定部と
を備えることを特徴とする騒音監視装置。
【請求項2】
前記特定音検出部が検出した特定音の発生位置までの距離を求める距離推算部と、
前記距離推算部が求めた距離と前記音センサの出力とから特定音の発生位置での音圧を推算する発生音圧推算部とをさらに備え、
前記比較判定部は、前記通信用インターフェイスを通して前記他の評価装置から取得した特定音の音圧と前記発生音圧推算部が推算した特定音の音圧との差分を用いて前記隣接空間との間の仕切材の遮音性能を推定し、推定した遮音性能を用いて特定音が前記隣接空間への騒音になる可能性を判断する
ことを特徴とする請求項1記載の騒音監視装置。
【請求項3】
前記音センサは複数本のマイクロホンを備え、前記距離推算部は前記マイクロホンにそれぞれ音波が入射する時間差に基づいて特定音の発生位置までの距離を求めることを特徴とする請求項2記載の騒音監視装置。
【請求項4】
前記比較判定部の前記閾値は、固体音の周波数域における最小可聴値と、前記音センサが検出している暗騒音の音圧とに基づいて設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の騒音監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113746(P2013−113746A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261032(P2011−261032)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】