説明

骨セメント材およびそれにより形成された生物吸収性(bioresorbable)硬化骨セメント複合材

【課題】向上した強度、優れた生体適合性、高い骨伝導率、適切かつ調節可能な生体内吸収効率を示すリン酸カルシウム−硫酸カルシウム複合材の提供。
【解決手段】粉成分および硬化液成分とを含む骨セメント材であって、前記粉成分が硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源を含み、この際、前記硫酸カルシウム源の重量比が前記硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源の合計重量に対して、65重量%未満であり、前記硬化液成分が約0.5M〜4Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含み、前記リン酸カルシウム源が、リン酸テトラカルシウム(TTCP)と第二リン酸カルシウムとを、含み、この際、第二リン酸カルシウムに対するTTCPのモル比が約0.5〜約2.5であり、さらに前記硫酸カルシウム源が、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(CSD)、または無水硫酸カルシウムである、骨セメント材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、薬剤に用いられる骨修復物質に関する。より詳細には、本発明の実施形態は、骨セメント材に関する。
【背景技術】
【0002】
骨セメント組成物は、損傷した自然骨を、結合、充填、および/または修復するために広く用いられている。骨セメントは、典型的に、整形外科、歯科的処置および/または他の医療用途に用いられている。しかし、優れた生体適合性、高い骨伝導性(osteoconductivity)および向上した機械的または物理的強度などの多くの利点を持ちながら、リン酸カルシウムの多くは臨床的には生体内吸収効率が低いとの欠点がある。一方で、硫酸カルシウム化合物はまた、高い溶解性を示し、多くの用途で、典型的に高い溶解性を示すため、新たな骨細胞が骨空洞の中で素早く成長することを促す。
【0003】
硫酸カルシウムを含む複合材は、一般的に、リン酸カルシウムよりも低い機械的および/または物理的強度を有する。従来の骨セメントペーストは、硬化時間が長いため様々な用途に対する適用を妨げてしまうという他の問題がある。例えば、特許文献1に開示されているリン酸カルシウム(CPC)ペーストは、長い硬化時間を要求している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4612053号明細書
【発明の開示】
【0005】
[発明が解決しようとする課題]
本発明の実施形態は、向上した強度、優れた生体適合性、高い骨伝導率、適切かつ調節可能な生体内吸収効率を示すリン酸カルシウム−硫酸カルシウム複合材を提供する方法を開示する。
【0006】
かかる実施形態の他の目的は、骨セメント材、骨セメントペースト、ペーストから作製される硬化骨セメント複合材、ペーストから溶液部分をリークさせながらペーストを加圧することによって強度が向上した硬化骨セメント複合材およびペーストから作製される多孔性硬化骨セメント複合材を提供する。
【0007】
本発明の実施形態は、骨セメント材、骨セメントペースト、硬化骨セメント複合材、向上した強度を有する硬化骨セメント複合材および多孔性硬化骨セメント複合材を提供する方法を提供する。
【0008】
[課題を解決するための手段]
(1)粉成分と、硬化液成分(setting liquid component)とを、粉に対する液体の割合が0.20cc/g〜0.50cc/gとなるように含む、骨セメント材(bone cement formula)であって、前記粉成分が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源を含み、この際、前記硫酸カルシウム源の重量比が、前記硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源の合計重量に対して、65重量%未満であり、前記硬化液成分が、0.5M〜4Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含み、前記リン酸カルシウム源が、リン酸テトラカルシウム(tetracalcium phosphate)(TTCP)と、第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate)とを、含み、この際、第二リン酸カルシウムに対するTTCPのモル比が、0.5〜2.5であり、さらに、前記硫酸カルシウム源が、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(CSD)または無水硫酸カルシウムであり、前記粉成分の硫酸カルシウム源の含有量が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源粉末の合計重量に対して、5重量%を超える、骨セメント材。
【0009】
(2)前記第二リン酸カルシウムが、無水第二リン酸カルシウム(無水リン酸二カルシウム)(dicalcium phosphate anhydrous)(DCPA)である、(1)に記載の骨セメント材。
【0010】
(3)前記硬化液成分が、1.0M〜2.0Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含む、(1)または(2)に記載の骨セメント材。
【0011】
(4)前記硬化液成分が、NHPO、(NHHPOもしくは(NHPO・3HOまたはこれらの混合物の溶液である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の骨セメント材。
【0012】
(5)前記硬化液成分が、(NHHPOの水溶液である、(4)に記載の骨セメント材。
【0013】
(6)前記リン酸カルシウム源が、TTCPおよびDCPAから構成される、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の骨セメント材。
【0014】
(7)前記骨セメント材から調製される硬化骨セメント複合材を溶液に浸漬すると、溶液中に溶解する孔形成剤をさらに含む、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の骨セメント材。
【0015】
(8)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の骨セメント材を混合することによって、骨セメントペーストを調製し;前記ペーストを金型で成型し;さらに前記金型を取り除いて、硬化骨セメント複合材のブロックを形成する;ことを有する、硬化骨セメント複合材の調製方法。
【0016】
(9)前記ペーストの粉に対する液体の割合が減少するように、前記ペーストが硬化する前に前記ペーストを前記金型中で加圧して前記ペーストから液体部分を除去することをさらに有し、この際、金型中で前記ペーストに加えられる圧力が、1MPa〜500MPaである、(8)に記載の方法。
【0017】
(10)前記骨セメント材の粉成分が孔形成剤を含む、または孔形成剤を前記混合工程中に添加する、または前記ペーストを金型で成型する前に孔形成剤をペーストと混合し、さらに、前記硬化骨セメント複合材のブロックを浸漬液(immersing liquid)に浸漬して(immerse)、前記孔形成剤を前記浸漬液中に溶解させ、多孔性ブロックが形成されるように、孔をブロック中に形成することをさらに有する、(8)または(9)に記載の方法。
【0018】
(11)前記孔形成剤が、LiCl、KCl、NaCl、MgCl、CaCl、NaIO、KI、NaPO、KPO、NaCO、アミノ酸のナトリウム塩、アミノ酸のカリウム塩、グルコース、多糖、脂肪酸のナトリウム塩、脂肪酸のカリウム塩、酒石酸水素カリウム(KHC)、炭酸カリウム、グルコン酸カリウム(KC11)、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC・4HO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびマンニトールからなる群より選択される、(10)に記載の方法。
【0019】
(12)前記浸漬液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6Mであるリン酸塩含有溶液、または水である、(10)または(11)に記載の方法。
【0020】
(13)含浸液(impregnating liquid)から除かれた含浸ブロックまたは含浸多孔性ブロックの圧縮強度が、含浸処理されない前記ブロックまたは多孔性ブロックに比べて、増加するように、前記ブロックまたは多孔性ブロックに含浸液を所定時間含浸させる(impregnate)ことをさらに有する、(8)〜(12)のいずれか1つに記載の方法。
【0021】
(14)前記含浸液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6M、であるリン酸塩含有溶液である、(13)に記載の方法。
【0022】
(15)前記ブロックまたは多孔性ブロックをペレット状に粉砕する(break up)ことをさらに有する、(8)〜(14)のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
[発明の要旨]
本発明の実施形態は、処置を必要とする穴または空洞を治療したり硬化したりする際に用いる本発明の骨セメントペースを骨中の穴または空洞に充填する方法を提供する。本発明の他の実施形態は、処置中に硬化骨セメント複合材をインプラントする方法を提供する。
【0024】
本発明の第1は、(1)粉成分と、硬化液成分(setting liquid component)とを、粉に対する液体の割合が0.20cc/g〜0.50cc/gとなるように含む、骨セメント材(bone cement formula)であって、前記粉成分が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源を含み、この際、前記硫酸カルシウム源の重量比が、前記硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源の合計重量に対して、65重量%以下(好ましくは65重量%未満)であり、前記硬化液成分が、0.5M〜4Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含み、前記リン酸カルシウム源が、リン酸テトラカルシウム(tetracalcium phosphate)(TTCP)と、第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate)とを、含み、この際、第二リン酸カルシウムに対するTTCPのモル比が、0.5〜2.5であり、さらに、前記硫酸カルシウム源が、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(CSD)または無水硫酸カルシウムであり、前記粉成分の硫酸カルシウム源の含有量が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源粉末の合計重量に対して、5重量%を超える、骨セメント材である。
【0025】
本発明の他の実施形態は、液体と粉との比が0.20cc/g〜0.50cc/g(「cc」は「立方センチメートル」、「g」は「グラム」)であり、好ましくは0.25cc/g〜0.40cc/gであり、より好ましくは0.25cc/g〜0.35cc/gである、粉成分と硬化液成分とを含む骨セメント材を提供する。
【0026】
他の形態においては、粉成分は、硫酸カルシウム源とリン酸カルシウム源との総重量に対して、重量比65%未満(より好ましくは重量比65%以下)の硫酸カルシウム源と、リン酸カルシウム源と、を含む。好ましくは、(6)前記リン酸カルシウム源が、TTCPおよびDCPA(のみ)から構成される。硬化液成分は、他の形態においては、約0.5M〜4Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含み、さらに好ましくは(3)硬化液成分が、1.0M〜2.0Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含む。他の形態においては、リン酸カルシウム源は、リン酸テトラカルシウム(TTCP)と第二リン酸カルシウムとを、第二リン酸カルシウムに対するリン酸テトラカルシウム(TTCP)のモル比として約0.5〜約2.5で含み、好ましくは約0.8〜2.0で含み、より好ましくは約1.0で含む。硫酸カルシウム源は、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(CSD)、または、無水硫酸カルシウムであり、好ましくはCSHである。
【0027】
なお、異なる医学的適応においては、要求される再吸収率も異なることがある。そのようなものとして、より望ましいセメントは、主成分の製剤(primary formula)や、パフォーマンス(performance)や作業/硬化時間を実質的に変えることなく骨再吸収率の範囲を与えることができる。例えば、インプラントされた硬化セメント複合材の再吸収率は、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源を共存させることによって調節可能である。我々の動物実験では、本発明の硬化された硫酸塩−リン酸塩セメント複合材の再吸収率は、硫酸塩/リン酸塩の比を調節することによって調節することができることを示している。
【0028】
本発明の一形態においては、粉成分の硫酸カルシウム源は、硫酸カルシウム源とリン酸カルシウム源との粉の総重量に対して、5%よりも多く、好ましくは10%〜55%の範囲で含む。他の形態においては、リン酸カルシウム源は、リン酸テトラカルシウム(TTCP)と第二リン酸カルシウムとを含み、好ましくは、無水第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate anhydrous)(DCPA)を含む。よって、(2)前記第二リン酸カルシウムが、無水第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate anhydrous)(DCPA)であると好ましい。第二リン酸カルシウムに対するTTCPのモル比は、約0.5〜2.5であり、約0.8〜2.0であり、好ましくは約1.0であり、硫酸カルシウム源は、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(CSD)または無水硫酸カルシウムであり、好ましくは、CSHである。
【0029】
下記の実験では、TTCP、DCPAおよびCSHの組み合せは特に好ましい。TTCP、DCPAおよびCSHは、特定の重量比範囲で組合したり混合したりすることができるので、様々な特異的かつ置き換えることのできない結果を得ることができる。一方で、様々な、TTCP/CSHおよびDCPA/CSHのような2つの混合物における実験では、満足な結果を得ることができなかった。
【0030】
アンモニウムは、一般的にむしろ有毒成分であると考えられているが、後述の実験では、アンモニウムは、セメント材に対して細胞毒物学的に許容可能であることだけではなく、前例のないパフォーマンスを示すことが分かった。アンモニウムイオン濃度が非常に低いと、セメントペーストは、水または体液(つまり、血液など)のような液体と接触した瞬間に分散するか、あるいは、セメントペーストの早期破壊を引き起こしうる、セメントペーストを正常(integrity)状態に保つためには低すぎる初期機械的強度を有するか、のいずれかになる。一方で、アンモニウムイオン濃度が高すぎると、セメントペーストが毒性を帯びてインプラント(詰め物)としては使用できなくなる。
【0031】
本発明の一形態において、硬化液成分は、好ましくは0.5M〜4.0M、より好ましくは0.5Mを超えて4.0M未満、さらに好ましくは約1.0M〜2.0M、さらにより好ましくは1.0M〜1.5M、特に好ましくは約1.2Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含む。
【0032】
ある例においては、(4)硬化液成分は、NHPO、(NHHPOもしくは(NH)3PO・3HOまたはこれらの混合物の溶液である。好ましくは、硬化液成分は、水溶液である。より好ましくは(5)硬化液成分は、(NHHPOの水溶液である。選択的に、硬化液成分は、さらにそれらに溶解したクエン酸または酒石酸のような有機酸を含むことができる。硬化液成分は、好ましくは、約7.0〜約9.0のpHを有する。より好ましくは約7.5〜約8.5のpHを有する。
【0033】
本発明の一形態においては、(7)粉成分は、前記骨セメント材から調製される硬化骨セメント複合材を溶液に浸漬すると、溶液中に溶解する孔形成剤をさらに含む。好ましくは、(11)かかる孔形成剤は、LiCl、KCl、NaCl、MgCl、CaCl、NaIO、KI、NaPO、KPO、NaCO、アミノ酸のナトリウム塩、アミノ酸のカリウム塩、グルコース、多糖、脂肪酸のナトリウム塩、脂肪酸のカリウム塩、酒石酸水素カリウム(KHC)、炭酸カリウム、グルコン酸カリウム(KC11)、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC・4HO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびマンニトールよりなる群から選択される。孔形成剤の使用量は、硬化骨セメント複合材の空孔率に比例する。
【0034】
本発明の一形態においては、リン酸カルシウム源は、TTCPおよびDCPAの混合物である。他の形態においては、骨セメント材は、骨セメントペーストを所望の作業時間(Working time)および硬化時間を有するようにできるので、作業者は、ペーストが硬化する前に、穴または空洞にペーストを充填するための十分な時間を確保することができる。なお、充填されたペーストは、許容できる最短時間で、処置によって要求される最小強度を向上させることができる。
【0035】
本発明の一形態においては、硬化骨セメント複合材は、毒性が低いので、患者に対して安全に適用することができ、なお、硬化骨セメントは、向上された生体吸収率(bioresorbable rate)を有する高い初期強度を有する特徴を有する。本発明の追加的な特徴や利益は、詳細な説明、請求の範囲などから明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[詳細な説明]
本発明の実施形態は、薬剤に対して向上した生体吸収率(bioresorbable rate)を有する硬化骨セメント複合材を作製するための方法、材、システムおよび/または工程を含む。当業者であれば、下記の実施形態の詳細な説明は、説明にのみ用いられるものであり、これらに制限されるものではないということを理解できるであろう。“一形態”、“ある形態”、“実施例”、“様々な実施形態”、“実施形態”、“ある例”、“一態様”、“実施態様、“様々な形態”などは、本発明の実施形態を示すものであって、特異的特徴、構造などを含み、すべての実施形態が特異的特徴、構造を含むわけではない。
【0037】
また、無論、本発明の目的を達成するために当業者であれば実施や多くの実施化のための特別な判断などを決定することができる。そして、これらの目的は実施化のために適宜変更することもできる。さらに本明細書に開示のない部分(本発明の特徴以外など)については当業者であれば明細書の開示の範囲から過度の実験なく適宜補うことによって実施することが出来る。
【0038】
本発明の実施形態は、整形外科、脊髄麻酔(spinal)、および根管手術などの様々な医療分野に適用可能な生体吸収性骨セメントである。生体吸収性骨セメントまたは生体吸収性骨セメント材の特徴または特性は、使いやすい作業環境と硬化時間とを有するため、高い強度、優れた生体適合性および高い骨伝導率ならびに調節可能な(またはフレキシブルな)生体内吸収効率を有する硬化ブロックを形成することができる。
【0039】
所望の強度および生物学的適合性を有する硬化骨セメント複合材を形成するための、フレキシブルで(または使いやすい)作業環境(または作業時間)および硬化時間の特性を有する生体吸収性骨セメントを調製または作製するために、本発明の他の実施形態は、下記で詳説する骨セメント材を開示する。他の形態においては、硬化骨セメント複合材を調製するための方法や工程は、骨セメントペーストを製造することを含み、ペーストを硬化(set)することのできる環境にかかるペーストを配置する。
【0040】
本発明の第2は、(8)上記で説明した骨セメント材を混合することによって、骨セメントペーストを調製し;前記ペーストを金型で成型し;さらに前記金型を取り除いて、硬化骨セメント複合材のブロックを形成する;ことを有する、硬化骨セメント複合材の調製方法である。硬化骨セメント複合材において、骨セメントペーストは上記で説明した骨セメント材を混合することによって調製することができる。
【0041】
本発明の一形態において、骨セメントペーストを調製するための工程は、攪拌のような混合機構によって粉成分と、硬化液成分とを混合することを含む。かかる粉成分は、例えば、硫酸カルシウム源と、リン酸カルシウム源との混合物を含んでもよい。または、硫酸カルシウム源と、リン酸カルシウム源とは別の異なった粉にしてもよい。この場合、硬化液成分と混合する前に、硫酸カルシウム源と、リン酸カルシウム源とを最初に混ぜて粉混合物を作製してもよい。上記で説明したリン酸カルシウム源は、リン酸テトラカルシウム(TTCP)および/または無水リン酸二カルシウム(DCPA)粉であってもよい。なお、TTCPおよび/またはDCPAと化学的な特徴や特性が似ているものであれば他のタイプの「源」を用いることもできる。
【0042】
本発明の一形態において、骨セメントペーストは、大気環境下あるいは血液のような体液の存在下、一定硬化時間で硬くなったり硬化したりする。手術中、処置者や医師は骨セメントペーストを、切れ目(incision)を通じて最適なツールによって損傷した骨の穴や空洞に配置する。例えば、整形外科、脊髄麻酔(spinal)あるいは、歯根管(root canal)処置のために、骨セメントペーストがその場(in-situ)で硬化骨セメント複合材に成ったり硬化したりする際に、一定の生体内吸収効率に応じて、徐々に、対象の生体によって吸収される。本発明の一形態においては,用途に応じて、骨セメントペースト、損傷した骨や歯などの部分を修復するために対象の生体にインプラントする前に、骨セメント複合材の剛ブロック(rigid block)またはセミ剛ブロック(semi rigid block)に成型することもできる。
【0043】
本発明の一形態においては、米国特許7,325,702号明細書に記載されているような従来の医療機器のような整形外科用ペーストをデリバリーするツールを用いて骨セメントペーストを骨の穴または空洞に注入することができ、あるいは、金型で硬化骨セメント複合材のブロックを形成するペーストを成型することもできる。つまり、前記ペーストを金型で成型することができる。なお、整形外科のデリバリーツールは、空洞が満たされるまで骨空洞にかかるペーストを継続的にデリバリーすることができる。さらに、さらに前記金型を取り除いて、硬化骨セメント複合材のブロックを形成することができる。
【0044】
粉成分が適切な孔形成剤を含まない場合は、用途に応じて、密セメントブロックを形成することもできる。かかる密ブロックは、例えば、(9)ペーストの粉に対する液体の割合が減少するように、ペーストが硬化する前にペーストを金型中で加圧してペーストから液体部分を除去することによって形成してもよい。他の形態においては、金型中で前記ペーストに加えられる圧力が、約1MPa〜500MPa、好ましくは100MPa〜500MPaである。(9)前記ペーストの粉に対する液体の割合が減少するように、前記ペーストが硬化する前に前記ペーストを前記金型中で加圧して前記ペーストから液体部分を除去することをさらに有し、この際、金型中で前記ペーストに加えられる圧力が、1MPa〜500MPaであると好ましい。
【0045】
なお、この密ブロック(密セメントブロック)は、医療用インプラントとして使用できる高い圧縮強度を有する。さらになお、リン酸カルシウムセメントの剛ブロックまたは固体密ブロック(solid dense block)は、所定時間含浸液に含浸するので、結果として、含浸ブロックの全体的な(overall)圧縮強度は、かような含浸処置を施していないブロックと比較して向上する。よって、(13)含浸液(impregnating liquid)から除かれた含浸ブロックまたは含浸多孔性ブロックの圧縮強度が、含浸処理されない前記ブロックまたは多孔性ブロックに比べて、増加するように、前記ブロックまたは多孔性ブロックに含浸液を所定時間含浸させる(impregnate)ことをさらに有すると特に好ましい。本発明の一形態において、含浸液は、リン酸塩含有溶液である。具体的な水溶液は、特に制限されないが、(NHPO、(NHHPO、NHPO、KPO、KHPO、KHPO、NaPO、NaHPO、NaHPOまたはHPOを含む。リン酸塩含有溶液は、約0.1M〜約6Mの濃度を有する。つまり、(14)前記含浸液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6M、であるリン酸塩含有溶液であると好ましい。好ましくは約1M〜約3Mの濃度を有する。
【0046】
また、骨セメント材の粉成分が孔形成剤を有する場合も好ましい。つまり、(10)前記骨セメント材の粉成分が孔形成剤を含む、または孔形成剤を前記混合工程中に添加する、または前記ペーストを金型で成型する前に孔形成剤をペーストと混合し、さらに、前記硬化骨セメント複合材のブロックを浸漬液(immersing liquid)に浸漬して(immerse)、前記孔形成剤を前記浸漬液中に溶解させ、多孔性ブロックが形成されるように、孔をブロック中に形成することをさらに有することも好ましい。
【0047】
骨セメント材の粉成分が孔形成剤を有する際、多孔性ブロックは組織工学によって作製された足場(骨格)(tissue-engineered scaffold)として用いることができる。浸漬液に(金型によって)成型されたブロックを浸漬することによって成型されたブロックから孔形成剤を除去することができるので、孔形成剤を浸漬液に溶解させる。かかる孔形成剤は、粉成分と硬化液成分とを混合する際に添加する、あるいは、または前記ペーストを金型で成型する前に孔形成剤をペーストと混合することができる。浸漬液は、例えば、酸性水溶液、塩基性水溶液、生理溶液、有機溶媒または実質的に純水でありうる。本発明の一形態において、浸漬液は上記した含浸液と同様でありうる。なお、(12)前記浸漬液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6Mであるリン酸塩含有溶液、または水であると好ましい。(11)孔形成剤は、上記述べたように、LiCl、KCl、NaCl、MgCl、CaCl、NaIO、KI、NaPO、KPO、NaCO、アミノ酸のナトリウム塩、アミノ酸のカリウム塩、グルコース、多糖、脂肪酸のナトリウム塩、脂肪酸のカリウム塩、酒石酸水素カリウム(KHC)、炭酸カリウム、グルコン酸カリウム(KC11)、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC・4HO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびマンニトールよりなる群から選択される。本発明の一形態において、浸漬液は、水でありうる。
【0048】
孔形成剤の含量も特に制限はないが、骨セメント材(例えば、TTCP/DCPA/CSH)と、孔形成剤(例えばKCl)との重量比は、骨セメント材を1としたときに、孔形成剤は0.5〜3程度が好ましい。他の形態においては、多孔性ブロックは、50〜90体積%の空孔率を有する。本発明の一形態においては、骨セメント材に対応するように調製する密ブロックまたは多孔性ブロックは、生体細胞の懸濁液または成長因子および/または薬剤の溶液にブロックを含浸することによって生体細胞、成長因子および/または薬剤をデポジット(deposite)することができる。(15)本発明で調製されたこの密ブロックおよび多孔性ブロックはさらに他の医学用途のためにペレット状に粉砕することもできる。
【0049】
下記の実施例は本発明の実施形態を説明するためだけのものであって本発明がかかる実施例に制限されるものではなく発明の説明または理解のためのみに用いられ、また、当業者であれば様々な改良や修飾が可能である。
【実施例】
【0050】
<実験手順>
(略語)
TTCP:リン酸テトラカルシウム
DCPA:無水リン酸二カルシウム
CSH:硫酸カルシウム0.5水和物
WT:作業時間(Working time)
ST:硬化時間
L/P比:液体/粉の比
CS:圧縮強度
(表中で使用されたシンボル)
#:2分間、粉と液体とを混合することによってもペーストを形成できない。
【0051】
*:金型から取り出した後(粉と液体とを30分混合)、Hank溶液に1日浸漬すると、硬化セメントブロックは壊れて崩壊し、粉の形態となった。
【0052】
※:Hank溶液に1日浸漬すると、硬化セメントブロックは壊れた(砕けた、または、割れ目が入ったが、粉の形態に分散はしなかった)。
【0053】
(TTCP粉の調製)
TTCP粉は、Brown and Epstein [Journal of Research of the National Bureau of Standards- A Physics and Chemistry 6 (1965) 69A 12]が示唆している方法によってピロリン酸二カルシウム(Ca)(Sigma Chem. Co., St. Louis, MO, USA)と、炭酸カルシウム(CaCO)(Katayama Chem. Co., 東京 日本)とを反応させることによってインハウスで(in-house)で作製した。
【0054】
TTCP粉は、12時間 Ca粉と、CaCO粉とを均一に混合することによって調製した。Ca粉と、CaCO粉との混合比は1:1.27(重量比)であり、かかる粉混合物は、1400℃で加熱し、2つの粉を反応させ、TTCPを形成した。
【0055】
(TTCP/DCPA/CSH複合材ペーストの調製
適量のTTCPおよびDCPAを、均一にボールミル(ball miller)で混合し、次いで、均一に適量のCSH粉と混合した。結果、TTCP/DCPA/CSHが混合された粉を所望のL/P比(例えば、0.28cc/g)で所望の硬化溶液(例えば、0.6M (NHHPO)と均一に混合し、TTCP/DCPA/CSHペーストを形成した。
【0056】
【表1】

【0057】
(複合材セメントの圧縮強度試験)
硬化セメントのCSを測定するために、1分混合後、セメントペーストを30分間、1.4MPaの圧力で直径6mm、深さ12mmの円筒状のステンレススチール金型に充填した。金型から取り出した後、37℃に保持したHank生理溶液に、かかる硬化セメントサンプルを浸漬し、1日攪拌し、イオン濃度が均一になるようにした。浸漬後、硬化セメントサンプルを、かかる溶液をCS試験のために取り出し、一方で硬化セメントサンプルは濡れ状態になるようにした(濡れている状態での試験)。かかるCS試験は、desk-top mechanical tester (Shimadzu AG-10kNX, 東京 日本)を用いて1.0mm/分のクロスヘッド速度で行った。この方法は、ASTM451−99a法に準じて行った。
【0058】
(作業時間(Working time)/硬化時間測定)
セメントペーストの作業時間(Working time)は、セメントペーストが機能できなくなったときを以って決定した。セメントペーストの硬化時間は、歯科用リン酸亜鉛セメントのためのISO1566で説明されている標準方法に基づいて行った。セメントは、400gの重量の加重で、直径1mmのVicat needleがセメント表面に環状のくぼみ(circular indentation)を形成していることが確認できなくなったとき硬化したとみなした。
【0059】
(pH測定)
初期段階(硬化工程中)のpH変化は、粉および硬化液体を混合した直後、セメントペーストに埋めたpHメータ(Suntex Instruments SP2000, Taipei, Taiwan)を用いて測定した。最初の測定は混合して混合後1分で行った。かかる測定は、ペーストが殆ど硬化するまで継続した。測定は混合後30分までは30秒毎で行った。その後は、60秒毎に行った。
【0060】
セメントペーストサンプルを浸漬するHank溶液のpH値の変化は、同じpHメータを用いてモニターした。粉と硬化溶液とを5分混合した後、2gのセメントペーストを取り、試験のための7.05のpH値を有する20mlのHank溶液に浸漬した。溶液を試験中37℃に保持し、継続的に攪拌し溶液のイオン濃度を均一に保持した。
【0061】
(細胞毒性テスト)
細胞毒性テストは、ISO10993−5に従って行った。この抽出方法を用いた。NIH/3T3線維芽細胞(播種密度(seeding density)5000個/ウェル)をウシ血清(10%)とPSF(1%)とが添加されたダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified essential medium)(DMEM)で24時間予備培養した。抽出物は、24時間37℃で0.1(g/ml)の割合で培地中に硬化セメントペーストを浸漬した後、遠心分離によって液体を回収することによって準備した。この抽出物を96ウェル マイクロプレート(1ウェル当たり、100μl)に添加し、5% COの湿気のある環境中で37℃でインベキュートした。24時間後、抽出物を吸出し、培地(100μl)とWST−1(10μl)との混合物をウェルに添加し、37℃、1時間インベキュートした。細胞の生存率(Cell viability)は、WST−1アッセイを使って測定した。これは、450nmでの吸収が細胞中のデヒドロゲナーゼ活性に比例するミトコンドリアデヒドロゲナーゼ活性(mitochondrial dehydrogenase activity)の比色分析である。1時間のインキュベーションの後、培地とWST−1との混合物を96ウェル マイクロプレートに移し、450nmでの吸収をELISA readerで測定した。Al粉をまたコントロールとして分析した。それぞれのサンプルについて4連で測定した(n=4)。
【0062】
【表2】

【0063】
コントロール1:TTCP/CSHセメントおよび(NHHPO硬化溶液
【0064】
【表3】

【0065】
表1に示すように、0.25M (NHHPOでペーストを調製した場合には、Hank溶液に浸漬する場合、成型した塊(molded lump)は壊れて崩壊した(*)、あるいは、Hank溶液に1日浸漬した後の圧縮強度が測定できなかった(※)。より高濃度の(NHHPO硬化溶液で調製したペーストについては、硬化セメントブロックは、表1に示すようにHank溶液に1日浸漬した(1d−CS)後に非常に低い圧縮強度を示す。一見して、TTCPおよびCSH相のみを有する粉成分は十分な結果を与えていない。
【0066】
コントロール2:TTCP/CSHセメントおよびNHPO硬化溶液
【0067】
【表4】

【0068】
表2は、コントロール2で使用したNHPO硬化溶液は、作業/硬化時間および1d−CSについては、コントロール1で使用した(NHHPO硬化溶液を向上できていないことを示している。一見して、TTCPおよびCSH相のみを有する粉成分は十分な結果を与えていない。
【0069】
コントロール3:DCPA/CSHセメントおよび(NHHPO硬化溶液
【0070】
【表5】

【0071】
表3に示すように、Hank溶液に浸漬する場合、DCPA/CSHセメントで成型した塊は、壊れて崩壊した(*)、またはHank溶液に1日浸漬した後の圧縮強度が測定できない(※)。一見して、DCPAおよびCSH相のみを有する粉成分は十分な結果を与えていない。
【0072】
コントロール4:DCPA/CSHセメントおよびNHPO硬化溶液
【0073】
【表6】

【0074】
表4に示すように、DCPA/CSHセメントで成型した塊の圧縮強度は、Hank溶液に1日浸漬した後には測定できない(※)。一見して、DCPAおよびCSH相のみを有する粉成分は十分な結果を与えていない。
【0075】
【表7】

【0076】
(実施例1)
(TTCP/DCPA)/CSHセメントおよび様々な硬化溶液
【0077】
【表8】

【0078】
表5に示されるデータは以下のようにまとめることができる:
1.KHPOで得られた硬化セメント複合材は非常に短いWT/STおよび低いCSを示す。
【0079】
2.(NH)HPOで得られた硬化セメント複合材は、妥当なWT/STを示すが、Hank溶液に浸漬させた後は分散する。
【0080】
3.NaHPO・2HOで得られた硬化セメント複合材は、妥当なWT/STを示すが、酸性が強すぎ、強度が低い。
【0081】
4.試験した全硬化溶液中、(NHHPOは最も高いCSを与えている。
【0082】
5.全ての(NHHPO濃度中、0.6Mが最も高いCS(41MPa)を与えている。
【0083】
(実施例2)
0.60M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0084】
【表9】

【0085】
表6(0.60M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH)に示される結果をまとめる:
(1)TTCP/DCPA/CSHセメント粉中のCSH含有量が約65重量%よりも高い場合には、CS値は非常に低くなる(<15MPa)。したがって、試験条件における適当なCSH含有量は、約65重量%よりも低い必要がある。より高強度(CS>30MPa)を得るには、CSH含有量は約35重量%よりも低い必要がある。
【0086】
(2)硬化溶液として0.60M (NHHPOを使用した場合に、全CSH含有量(約10重量%〜約90重量%)において、全細胞毒性値は、80%を超え許容可能である。
【0087】
(実施例3)
0.20〜3.0M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0088】
【表10】

【0089】
表7に示される結果(0.20〜3.00M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH(TTCP/DCPA:CSH=90:10))をまとめる:
(1)(NHHPO濃度が低すぎる(本試験条件において0.25M以下)場合には、硬化ペーストはHank溶液への浸漬によって分散しその強度は測定できない。
【0090】
(2)アンモニウムは寿命の維持には決定的な要素であるが、細胞毒性レベルを減少させるために、(NHHPO濃度は高すぎてはいけない(本試験条件において2M以上)。
【0091】
(3)適当な(NHHPO濃度は、0.25M〜2.0Mの範囲でなければならず、好ましくは0.5M〜1.0Mである(または、NHイオン濃度が0.50M〜4.0Mの範囲であり、好ましくは1.0M〜2.0Mの範囲である)。
【0092】
(実施例4)
0.20〜3.0M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0093】
【表11】

【0094】
表8に示される結果(0.20〜3.00M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH(TTCP/DCPA:CSH=75:25))をまとめる:
(1)(NHHPO濃度が低すぎる(本試験条件において0.25M以下)場合には、硬化ペーストはHank溶液への浸漬によって分散しその強度は測定できない。
【0095】
(2)アンモニウムは寿命の維持には決定的な要素であるが、細胞毒性レベルを減少させるために、(NHHPO濃度は高すぎてはいけない(本試験条件において>2M)。
【0096】
(3)適当な(NHHPO濃度は0.25M〜2.0Mの範囲でなければならず、好ましくは0.5M〜1.0M(または、NHイオン濃度が0.50M〜4.0Mの範囲であり、好ましくは1.0M〜2.0Mの範囲である)。
【0097】
(実施例5)
0.25〜1.0M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0098】
【表12】

【0099】
表9に示される結果(0.25〜1.0M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH(TTCP/DCPA:CSH=65:35))をまとめる:
(1)(NHHPO濃度が低すぎる(本試験条件において0.25M以下)場合には、硬化ペーストはHank溶液への浸漬によって分散しその強度は測定できない。
【0100】
(2)いくつかの例外を除いて、1−dCS値は全て20MPaより高く、特定の条件下では、30MPaより高い。
【0101】
(実施例6)
0.40〜1.0M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0102】
【表13】

【0103】
表10に示される結果(0.40〜1.00M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH(TTCP/DCPA:CSH=55:45))をまとめる:
(1)1−d CS値は全て20MPaより高く、特定の条件下では、30MPaより高い。
【0104】
(2)より高濃度(1.0M)およびより低L/P値(0.33cc/g未満)では、WT/STは少々短すぎる。
【0105】
(実施例7)
0.40〜0.60M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH
【0106】
【表14】

【0107】
表11に示される結果(0.40〜0.60M(NHHPOを混合したTTCP/DCPA/CSH(TTCP/DCPA:CSH=45:55))をまとめる:
(1)全1−d CS値は20MPaより高い。
【0108】
(2)全試験条件において、作業時間(Working time)は5.5分より長く、硬化時間は7.5分より長い。
【0109】
【表15】

【0110】
表12に示される結果をまとめる:
(1)“55:45”複合材を除いて、42d−CS値は全て20MPaより高く、42日間Hank溶液に浸漬した後でさえ強度の低下は緩やかである。CSH含有量を45重量%に増加した場合にも、複合材のCS値は著しく減少する。
【0111】
(実施例8)
1.0M (NHHPOと混合したTTCP/DCPA/CSHへの有機酸の添加の効果
【0112】
【表16】

【0113】
表13に示される結果の要約:
(1)1M (NHHPO硬化液にリンゴ酸を添加すると、硬化複合セメントのCS値が減少する。
【0114】
(2)1M (NHHPO硬化液にクエン酸を添加すると、硬化複合セメントのCS値が(約28MPaから約32MPaに)増加する。
【0115】
(3)1M (NHHPO硬化液に酒石酸を添加すると、硬化複合セメントのCS値が(約28MPaから約35MPaに)増加する。
【0116】
(TTCP/DCPA/CSH複合高密度ブロックの調製)
適当量のTTCP及びDCPA粉末をボールミルで均一に混合した後、適当量のCSH粉末と均一に混合した。得られたTTCP/DCPA/CSH混合粉末を、望ましいL/P比(例えば、0.28cc/g)で望ましい硬化液(例えば、0.6M (NHHPO)と均一に混合して、TTCP/DCPA/CSHペーストを形成した。
【0117】
十分硬化する前に、このペーストを、望ましい圧力(最大圧力150、300、または450Kgf)下で金型に仕込み、加圧し、ペーストから液体部分を搾り出した(squeeze)。金型から取り除いた後、硬化複合サンプルの1グループを防湿容器に1日入れた。他のグループのサンプルを、望ましい温度(37℃)で1日間、含浸液(例えば、1M (NHHPOまたは1M KHPO)中にさらに含浸した後、50℃で1日間、オーブンで乾燥した。
【0118】
(TTCP/DCPA/CSH複合多孔性ブロックの調製)
適当量のTTCP及びDCPA粉末をボールミルで均一に混合した後、適当量のCSH粉末と均一に混合した。得られたTTCP/DCPA/CSH混合粉末を、望ましいL/P比(例えば、0.28cc/g)で望ましい硬化液(例えば、0.6M (NHHPO)と均一に混合して、TTCP/DCPA/CSHペーストを形成した。
【0119】
次に、この複合ペーストを、孔形成剤(例えば、KCl粒子)と望ましい重量比(例えば、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:1または1:2)で均一に混合して、TTCP/DCPA/CSH/KClペーストを形成した。
【0120】
十分硬化する前に、この複合ペーストを、望ましい圧力(最大圧力450Kgf)下で金型に仕込み、加圧し、ペーストから液体部分を搾り出した(squeeze)。金型から取り除いた後、硬化複合ブロックの1グループを、37℃で3日間、脱イオン水に浸漬して、KCl粒子を溶出させ、多孔性複合ブロックを形成した後、50℃で1日間、オーブンで乾燥した。他のグループのサンプルを、望ましい温度(37℃)で1日間、含浸液(例えば、1M (NHHPOまたは1M KHPO)中にさらに含浸して、多孔性ブロックの強度を向上した後、50℃で1日間、オーブンで乾燥した。孔内から残った含浸液を除去するために、含浸した多孔性サンプルを、37℃で3日間、脱イオン水でさらに洗浄した。
【0121】
(空隙率の測定)
様々なサンプルの空隙率を、ASTM C830−00(2006)法、"Standard Test Methods for Apparent Porosity, Liquid Absorption, Apparent Specific Gravity, and Bulk Density of Refractory Shapes by Vacuum Pressure"に従って測定した。
【0122】
(実施例9)
高密度ブロック
【0123】
【表17】

【0124】
表14に示される結果の要約(TTCP/DCPA/CSH複合高密度ブロックの圧縮強度):
(1)含浸処理したサンプルが、すべての条件下でCS値が有意により高い。
(2)CS値が、すべての条件下で成型圧の増加に従って有意に増加する。
【0125】
(実施例10)
多孔性ブロック
【0126】
【表18】

【0127】
表15に示される結果の要約(0.6M (NHHPOと混合したTTCP/DCPA/CSH/KCl(孔形成剤)混合粉末から調製したTTCP/DCPA/CSH複合多孔性ブロック):
(1)空隙率の値は、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:1で46〜63%であり、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:2で81〜89%であり、これは組織工学によって作製された足場(骨格)(tissue-engineered scaffold)として使用される際に理想的である。
(2)空隙率の値は、一般的に、複合材中のCSH含有量の増加に従って増加する。
【0128】
【表19】

【0129】
表16に示される結果の要約(0.6M (NHHPOと混合したTTCP/DCPA/CSH/KCl(孔形成剤)混合粉末から調製したTTCP/DCPA/CSH複合多孔性ブロック):
(1)多孔性ブロックの圧縮強度(CS値)は、すべての試験条件下で複合材中のCSH含有量の増加に従って減少する。
【0130】
(2)TTCP/DCPA/CSH/KClから調製された多孔性ブロック(含浸処理なし)の圧縮強度(CS値)は、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:1で約2〜5MPaであり、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:2で約0.4〜0.9MPaである。
【0131】
(3)含浸処理は、多孔性ブロックの強度を有意に向上する。(NHHPOで含浸した多孔性ブロックの圧縮強度(CS値)は、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:1で約4.0〜8.4MPaに、およびTTCP/DCPA/CSH:KCl=1:2で約0.7〜1.6MPaに有意に増加する。KHPOで含浸した多孔性ブロックの圧縮強度(CS値)は、TTCP/DCPA/CSH:KCl=1:1で4.8〜8.8MPaに、およびTTCP/DCPA/CSH:KCl=1:2で約0.6〜1.5MPaに有意に増加する。
【0132】
(実施例11)
複合材移植片の吸収率(resorption ratio)の動物研究および測定
国立成功大学 メディカルカレッジアニマルセンター、台南市、台湾(National Cheng-Kung University, Medical College Animal Center, Tainan, Taiwan)で、動物研究を行った。成体(体重2.8〜3.5kg)の健常なオスのニュージーランド白ウサギを実験動物として使用した。ウサギを、ステンレススチールのケージに個別に飼育し、エサと水を自由に与えた。動物を受け取ってから研究を開始するまで、最低7日間の順応期間をとった。注入部位の毛を剃り、70%エタノールおよびベタダイン(商標)(BetadineTM)(ポビドンヨード10%)で洗浄した。すべての動物を通常の麻酔をかけて手術した。ペントバルビタールナトリウム(0.1ml/100g、東京化成工業株式会社、東京、日本)を通常の麻酔薬として使用し、キシロカイン(藤沢薬品工業株式会社(現:アステラス製薬株式会社)を局所麻酔薬として使用した。セメントペーストを大腿骨の骨顆(medial condyle)に移植するために、大腿骨の前面を縦方向に切開した。ウサギの膝関節の内側を切開して、大腿骨を暴露した。大腿骨を暴露した後、骨膜を出し(reflected)、2mmのパイロット穴をドリルで開けた。最終的な直径が5mmになるまで、ドリルのサイズを大きくしながら、この穴を徐々に広げた。特別な5mm直径ドリルバー(drill burr)を用いて、10mmの深さにリングを挿入して、適当な長さ(10mm)のドリル穴を確保した。
【0133】
2種類のリン酸カルシウム/硫酸カルシウム複合セメントペースト(90重量% TTCP/DCPA:10重量% CSH(以下、「90/10サンプル」と称する)および55重量% TTCP/DCPA:45重量% CSH(以下、「55/45サンプル」と称する)を、上記のようにして作製した骨の空洞部分に移植した。ペーストを充填した後、皮下組織及び皮膚を絹糸で1層ごとに閉じた。手術前後の感染(peri-operative infection)の危険をおさえるために、ウサギに、40mg/kgの投与量で抗生物質を皮下注射した。この動物を手術後12週間で剖検した。
【0134】
動物を剖検した後、大腿骨部分をすばやく切開し、過剰の組織を除いた。一眼レフカメラおよび画像分析システムによるスライスの写真を用いて、残った移植片の面積を算出した。移植片の吸収率を下記式によって測定した。
【0135】
【数1】

【0136】
要約:
「90/10サンプル」および「55/45サンプル」の残った移植片の平均割合は、上記したような写真で観察した結果、それぞれ、81.1%(吸収率=18.9%)および67.7%(吸収率=32.3%)である。これは、「55/45サンプル」の移植片の治癒速度が、「90/10サンプル」の移植片の治癒速度に比べて、約70%早いことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉成分と、硬化液成分(setting liquid component)とを、粉に対する液体の割合が0.20cc/g〜0.50cc/gとなるように含む、骨セメント材(bone cement formula)であって、
前記粉成分が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源を含み、この際、前記硫酸カルシウム源の重量比が、前記硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源の合計重量に対して、65重量%未満であり、
前記硬化液成分が、0.5M〜4Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含み、
前記リン酸カルシウム源が、リン酸テトラカルシウム(tetracalcium phosphate)(TTCP)と、第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate)とを、含み、この際、第二リン酸カルシウムに対するTTCPのモル比が、0.5〜2.5であり、さらに、
前記硫酸カルシウム源が、硫酸カルシウム0.5水和物(CSH)、硫酸カルシウム2水和物(calcium sulfate dihydrate)(CSD)または無水硫酸カルシウムであり、
前記粉成分の硫酸カルシウム源の含有量が、硫酸カルシウム源およびリン酸カルシウム源粉末の合計重量に対して、5重量%を超える、骨セメント材。
【請求項2】
前記第二リン酸カルシウムが、無水第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate anhydrous)(DCPA)である、請求項1に記載の骨セメント材。
【請求項3】
前記硬化液成分が、1.0M〜2.0Mの濃度でアンモニウムイオン(NH)を含む、請求項1または2に記載の骨セメント材。
【請求項4】
前記硬化液成分が、NHPO、(NHHPOもしくは(NHPO・3HOまたはこれらの混合物の溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の骨セメント材。
【請求項5】
前記硬化液成分が、(NHHPOの水溶液である、請求項4に記載の骨セメント材。
【請求項6】
前記リン酸カルシウム源が、TTCPおよびDCPAから構成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の骨セメント材。
【請求項7】
前記骨セメント材から調製される硬化骨セメント複合材を溶液に浸漬すると、溶液中に溶解する孔形成剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の骨セメント材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の骨セメント材を混合することによって、骨セメントペーストを調製し;
前記ペーストを金型で成型し;
さらに前記金型を取り除いて、硬化骨セメント複合材のブロックを形成する;
ことを有する、硬化骨セメント複合材の調製方法。
【請求項9】
前記ペーストの粉に対する液体の割合が減少するように、前記ペーストが硬化する前に前記ペーストを前記金型中で加圧して前記ペーストから液体部分を除去することをさらに有し、この際、金型中で前記ペーストに加えられる圧力が、1MPa〜500MPaである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記骨セメント材の粉成分が孔形成剤を含む、または孔形成剤を前記混合工程中に添加する、または前記ペーストを金型で成型する前に孔形成剤をペーストと混合し、さらに
前記硬化骨セメント複合材のブロックを浸漬液(immersing liquid)に浸漬して(immerse)、前記孔形成剤を前記浸漬液中に溶解させ、多孔性ブロックが形成されるように、孔をブロック中に形成することをさらに有する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記孔形成剤が、LiCl、KCl、NaCl、MgCl、CaCl、NaIO、KI、NaPO、KPO、NaCO、アミノ酸のナトリウム塩、アミノ酸のカリウム塩、グルコース、多糖、脂肪酸のナトリウム塩、脂肪酸のカリウム塩、酒石酸水素カリウム(KHC)、炭酸カリウム、グルコン酸カリウム(KC11)、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC・4HO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびマンニトールからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記浸漬液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6Mであるリン酸塩含有溶液、または水である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
含浸液(impregnating liquid)から除かれた含浸ブロックまたは含浸多孔性ブロックの圧縮強度が、含浸処理されない前記ブロックまたは多孔性ブロックに比べて、増加するように、前記ブロックまたは多孔性ブロックに含浸液を所定時間含浸させる(impregnate)ことをさらに有する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記含浸液が、リン酸塩濃度が、0.1M〜6M、であるリン酸塩含有溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブロックまたは多孔性ブロックをペレット状に粉砕する(break up)ことをさらに有する、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2012−85991(P2012−85991A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250120(P2010−250120)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(503115548)国立成功大學 (2)
【Fターム(参考)】