説明

骨塩定量ファントム及びコーンビームX線CT装置

【課題】コーンビームX線CT装置に適用することができ、歯科インプラント治療における骨密度の判断を的確に行うことができる骨塩定量ファントム及びそれを用いたコーンビームX線CT装置を提供すること。
【解決手段】本発明の骨塩定量ファントムは、歯科用コーンビームX線CT装置に用いられる骨塩定量ファントムであって、顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材と、樹脂にハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されており該軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体と、を備え、チンレストとして使用可能な形状とされていることを特徴とする。骨ブロック参照体はハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーンビームX線CT装置に用いられる骨塩定量ファントム及びコーンビームX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科において、歯根や顎部の骨の状況を知ることは診断のために重要であり、このため、主として単純X線撮影やパノラマ撮影によって歯根などの状況を撮影している。しかし、患部の状況をさらに詳しく知りたい場合は、これら単純X線撮影やパノラマ撮影では不十分であり、X線CT装置が用いられる(例えば特許文献1)。
【0003】
X線CT装置の方式には、検体に対して帯状にX線ビームを照射するマルチスライスCT(以下「MSCT」という)と、円錐状あるいは角錐状のX線ビームを照射するコーンビームCT(以下「CBCT」という)とがある。
【0004】
MSCTから得られるピクセル値又はボクセル値は、骨密度の絶対値を表すと考えられ、測定値から直接的に骨密度を求めることができる。これに対し、CBCTから得られるピクセル値及びボクセル値は、骨密度の絶対値をあらわすものではない。このため、骨密度の絶対値を測定するために骨塩定量ファントムを同時に測定し、その値から骨密度を補正により求めることが行われていた。
【0005】
骨塩定量ファントムは、ウレタンなどのマトリックス樹脂にハイドロキシアパタイトを含有させたものであり、たとえば、図8に示すように0〜400mg/cm3のハイドロキシアパタイトを含有した20個のブロック101a〜101tからなるものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−277214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、CBCT方式を採用するコーンビームX線CT装置では、その測定可能領域が狭いため、長さが200mmを超えるような、大きな骨塩定量ファントムを設置することが困難であった。また、コーンビームX線CT装置は、その特性上散乱X線が多く、撮影領域外の解剖構造が存在しており、日々のX線量のキャリブレーションも行われておらず、骨密度の絶対値の測定は行われていなかった。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、コーンビームX線CT装置に適用することができ、歯科インプラント治療等における骨密度の判断を的確に行うことができる骨塩定量ファントム及びそれを用いたコーンビームX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
歯科インプラント治療において、インプラントが顎骨に装着できるか否かを判断するためには、骨密度の測定が必要となるが、骨密度の正確な絶対値を求めなくても、インプラントを埋め込むことが可能な骨密度の閾値を超えるか否かを判断できればよい。発明者らはこのことに注目し、骨塩定量ファントムを小さな測定領域内に置くことのできるように、骨ブロック参照体の種類を減らし、顎部に対して隙間ができないように密着させることができる形状の骨塩定量ファントムを設計した。そして、実際のインプラント治療を行う予定の患者の顎部をコーンビームX線CT装置で測定し、さらにはMSCT方式のX線CT装置での測定値と比較を行った。その結果、両者の測定値には単純な比例関係が認められ、コーンビームX線CT装置での測定結果から、インプラントを埋め込むことが可能な骨密度の閾値を超えるか否かを判断することは、充分可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の局面の骨塩定量ファントムは、歯科用コーンビームX線CT装置に用いられる骨塩定量ファントムであって、顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材と、樹脂にハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されており該軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体とを備え、顎部に対して隙間ができないように密着させることができる形状とされていることを特徴とする。
【0011】
本発明の骨塩定量ファントムは、顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材と、樹脂にハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されており該軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体とを備えている。ここで、顎の軟組織等価材料とは、X線に対する透過率が顎の軟組織と同程度の材料をいう。骨ブロック参照体は、実際の歯の成分であるハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されているため、実際の歯に対するX線透過の挙動と近い挙動を示すこととなる。このため、本発明の骨塩定量ファントムは、実際の顎のX線に対する透過特性とよく似た挙動を示すこととなり、骨密度をより正確に判断することができる。
【0012】
また、本発明の骨塩定量ファントムは、顎部に対して隙間ができないように密着させることができる形状とされているため、顎とファントムとの間にコーンビームX線の透過率が極めて高く、誤差の原因となりやすい空隙が生じることはない。このため、実際の骨や歯の骨密度をより正確に測定することができる。
また、測定領域が小さく、ファントムを設置できるスペースが狭い歯科用コーンビームX線CT装置であっても、ファントムを設置することができる。
【0013】
したがって、本発明の骨塩定量ファントムは、コーンビームX線CT装置に用いることができ、歯科インプラント治療における骨密度の判断を的確に行うことができる。
【0014】
本発明の第2の局面の骨塩定量ファントムでは、チンレストとして使用可能な形状とされていることとした。こうであれば、チンレストが骨塩定量ファントムを兼ねることとなり、測定領域が小さく、ファントムを設置するスペースが狭い歯科用コーンビームX線CT装置であっても、ファントムを設置することができ、省スペース化を図ることができる。
【0015】
本発明の第3の局面の骨塩定量ファントムでは、ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体を備えることとした。こうすることで、各骨ブロック参照体との比較により、骨密度を数多くの段階に分けて判断することができるため、歯科インプラントの適用のタイミング等を的確に把握することができる。ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体の数としては、多いほうが骨密度をより細かく分類することができるが、骨塩定量ファントムの形状をチンレストとして使用可能な形状とするためには、多くの骨ブロック参照体を備えさせた場合、一つ当たりの骨ブロック参照体が小さくなって、骨密度を正確に量ることが困難となる。このため、好適な骨ブロック参照体の数は1〜4個、さらに好適なのは2〜3個、最も好適なのは2個である。ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる2個の骨ブロック参照体が存在すれば、顎骨密度を3群に判別でき、歯科インプラントの適用のタイミング等を的確に把握することができる。
【0016】
本発明の第4の局面の骨塩定量ファントムでは、ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体は、互いに5mm以上の間隔を開けて設置されていることとした。ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる骨ブロック参照体同士が近すぎると、一方の骨ブロック参照体が他方の骨ブロック参照体のX線の吸収特性に影響を与え、このため正確な骨密度を測定することが困難となる。さらに好ましいのは、ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体は、互いに10mm以上の間隔を開けて設置されていることである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1のコーンビームX線CT装置の模式図である。
【図2】実施例1のコーンビームX線CT装置のチンレストの斜視図である。
【図3】チンレスト6の図面代用写真である。
【図4】実施例1及び比較例1における図面代用写真である。
【図5】実施例1における正中矢状面においてスライス厚2.8mmのCBCT画像を再構成した図面代用写真である。
【図6】CBCT値とMSCTから得られた骨密度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例2のコーンビームX線CT装置のチンレストの斜視図である。
【図8】従来のMSCT法を用いたX線CT装置に用いられる骨塩定量ファントムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の骨塩定量ファントムは、顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材と、樹脂にハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されており該軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体と、を備えている。
顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材としては、X線に対する透過率が顎の軟組織と同程度の材料であれば、特に限定はない。例えばポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
また、骨ブロック参照体に用いる樹脂としても特に限定はないが、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0019】
また、本発明の骨塩定量ファントムは、顎部に対して隙間ができないように密着させることができる形状とされている。このためには、骨塩定量ファントムの形状が顎部の形状と整合していることが好ましい。しかしながら、例え骨塩定量ファントムが単なる板状であって、顎部の形状と必ずしも整合していなくとも、骨塩定量ファントムを顎部に押し当てることによって、顎部に密着させることができるものであればよい。こうであれば、顎部と骨塩定量ファントムとの間で、誤差の原因となる隙間が生じることがないからである。
【0020】
また、軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体の形状についても特に限定はなく、四角柱状や円柱状とすることができる。
【0021】
以下、本発明を具体化した実施例及び比較例を、図面を参照しつつ説明する。
2009年の1月から7月の間に下顎の骨移植を伴う歯科インプラント治療の行われた被験者合計15人(男2人、女13人)の術後の、実施例1のコーンビームX線CT装置による撮影、及び、比較例1のX線CT装置によるMSCTの撮影がなされた。CBCT撮影を受けた人の平均年齢55.2歳(SD標準偏差12.5)である。CBCT撮影とMSCT撮影の間の平均期間は3.8年であった。(範囲2.5-6.7年 標準偏差1.1)
【0022】
<測定装置および測定条件>
(実施例1)
構 造
実施例1では、フラットパネル検出器搭載のAlphard VEGA(朝日レントゲン工業社製)を用いた。この装置は、コーンビームX線を照射するCBCT方式のX線CT装置であり、図1に示すように、X線発生器1と、受像部2との間に、被検査人の頭部の位置を固定するための固定部3が設けられている。固定部3には、前頭部の位置決めを行うためのヘッドサポート4と、頭部の左右の位置決めを行うためのイヤーロッド5と、頭部の上下の位置決めを行うためのチンレスト6とが設けられている。固定部3の下方には被検査人が座るための椅子7が設置されている。また、X線発生器1と受像部2とは上方でアーム8によって連結されており、X線発生器1、受像部2及びアーム8は、チンレスト6の中心を通る上下方向を軸心として回転可能とされている。
【0023】
チンレスト6は、図2に示すように、前後長さ45mm、横幅60mmのチンレスト本体6aの上に同形状で厚さが10mmの骨塩定量ファントム10が貼り付けられた構造とされている。骨塩定量ファントム10は、顎の軟組織等価材料であるウレタン樹脂からなる軟組織部10aと、軟組織部材10aに埋め込まれた骨ブロック参照体10b(30×15×10mm)とから構成されている。骨ブロック参照体10bは、ウレタン樹脂にハイドロキシアパタイトを200mg/cm3含有させたものからなっている。チンレスト6の実際の写真の代用図面を図3に示す。
【0024】
測 定
測定は、図1に示す骨塩定量ファントム10の上に患者の顎部を載せた後、ヘッドサポート4、イヤーロッド5及びチンレスト6の位置を調節してから行った。
測定条件は以下のとおりである。
・照射野(画像の大きさ)高さ102 mm、直径102 mmとした。
・ボクセルサイズは0.2 mm×0.2 mm×0.2 mmとした。
・スキャンはX線管の管電圧80kV、管電流5mAとして撮影を行った。
・それぞれの患者の咬合面は、イヤーロッド5及びチンレスト6を用いて床面と平行になるようにセットした
・軸画像のDICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine…医用画像のフォーマット)ファイルは携帯用ハードディスクに保存した。
【0025】
(比較例1)
比較例1では、MSCT方式のX線CT装置である「Hispeed NX/i pro(装置名)」(GE Yokogawa Medical Systems 社製)を用い、下顎のらせん状のスキャンは、X線管の管電圧120 kV、管電流200 mAとして撮影を行った。
【0026】
−評 価−
<ボクセル値の測定>
実施例1におけるCBCTイメージ、及び、比較例1におけるMSCTイメージでは、下顎骨海綿骨のボクセル値を内藤らの方法により測定した(Naitoh, M., Hirukawa, A., Katsumata, A. &Ariji, E. (2009d) Evaluation of voxel values in mandibular cancellous bone: relationship between cone-beam computed tomography and multislicehelical computed tomography. Clinical Oral Implants Research 20: 503-506.)。
すなわち、3次元解析ソフトウェア(OsiriX)を用いたコンピュータ(Macintosh, G4, Apple Computer社製)を用いて、スライス厚2.8 mmのCBCT及びMSCTの歯列直交断面画像を、
・下顎前歯領域(中切歯と側切歯の間)
・下顎犬歯領域
・オトガイ孔領域
・下顎臼歯領域(第一大臼歯部)
において作成した。
その後、それぞれの画像において、関心領域ROI(面積7.1 mm2)を下顎骨海綿骨にセットした。ROIは合計120部位(すなわち15患者×装置2台×4部位)である。断面の位置およびROIの位置は、目視により、CBCT画像とMSCT画像でできるだけ一致させた。また、ROIの体積は2.8mm×7.1mm、ボクセル数はCBCTで2.48×103個、MSCTで6.5×102個であった。MSCTにおいて、CT値は骨密度チャートを用いて骨密度に変換した。ハイドロキシアパタイト0〜400mg/cm3の間の骨密度は内挿により求め、その外側の範囲では外挿により算出した。
結果を示す図面代用写真を図4a(CBCTで撮った実施例1)及び図4b(MSCTで撮った比較例1)に示す。
【0027】
さらに、実施例1においては、正中矢状面においてスライス厚2.8mmのCBCT画像を再構成した。結果を図5に示す。
ROI(関心領域)が0.2cm2でセットされた。MSCTによる測定において、合計120部位中の45部位がハイドロキシアパタイト(以下「HA」と略すことがある)100mg/cm3〜300mg/cm3の値であった。
16部位でHAは200mg/cm3未満であり、29部位でHAは200mg/cm3以上であった。それぞれの部位のボクセル値は、骨ブロック参照体の値以上か、未満かの2つの等級に分類された。
【0028】
−結 果−
・下顎骨海綿骨組織のCBCTから得られるボクセル値
下顎骨海綿骨組織のCBCTから得られるボクセル値を表1に示す。
値は30〜1075mg/cm3
HAとなり、総平均は327mg/cm3 HA(標準偏差235)となった。
【0029】
【表1】

【0030】
・下顎骨海綿骨組織のMSCTから得られる骨密度
下顎骨海綿骨組織の骨密度を表2に示す。値は22〜1104mg/cm3 HAとなり、総平均は316mg/cm3 HA(標準偏差235)となった。
【0031】
【表2】

【0032】
・CBCT及びMSCTから得られる骨密度の差
CBCTとMSCTのHA値の差は、15患者120部位において1〜123mg/cm3の範囲で、全体の平均値は38mg/cm3 HAであった(表3)。
73部位(60.8%)においてHAの差は38mg/cm3未満であり、HAの中央値は32mg/cm3であった。
【0033】
【表3】

【0034】
・骨ブロック参照体を用いた評価
参照体を用いることで、45部位(100mg/cm3
HA〜300mg/cm3 HA)中の38部位(84%)の骨密度が正確に評価された。
さらに、200mg/cm3 HA未満の16部位中15部位(94%)が正確に評価され、200mg/cm3 HA以上の29部位中23部位(79%)が正確に評価された(図6)。
以上の結果から、実施例1のようにCBCT方式のX線CT装置であっても、チンレストに1個の骨ブロック参照体を置き、それと比較をすれば、インプラント治療に必要な骨密度の判断を充分に行うことができることが分かった。
【0035】
−考 察−
歯科インプラント埋入に必要な骨の高さ、頬舌的な骨幅、埋入部位の骨密度は、術前に画像上で測定される。CBCT画像の精度は、線形測定に関して高いと報告されている(Naitoh, M., Katsumata, A., Mitsuya, S., Kamemoto,H. & Ariji, E. (2004) Measurement of mandibles with
microfocus X-ray computerized tomography and compact computerized tomography for dental use. The International Journal of
Oral & Maxillofacial Implants 19: 239−246.)。
【0036】
また、下顎骨の神経血管系の管構造(例えば下顎枝での二分化下顎管や、副オトガイ孔)は、明確に観察された(Naitoh, M., Hiraiwa, Y., Aimiya, H. & Ariji, E.(2009b) Observation of bifid mandibular canal using cone-beam computed tomography. The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants
24: 155−159. Naitoh, M., Hiraiwa, Y., Aimiya, H., Gotoh, K.& Ariji, E. (2009c) Accessory mental foramenassessment using cone-beam computed tomography. Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology Endodontics 107:289−294.Naitoh, M., Nakahara, K., Hiraiwa, Y., Aimiya, H.,
Gotoh, K. & Ariji, E. (2009e) Observation of buccal foramen in mandibular body using cone-beam computed tomography. Okajimas Folia Anatomica Japonica 86: 25−29.)。
【0037】
CBCTの放射線量は、ヘリカルCTに比べ少ない(Ludlow, J.B. & Ivanovic, M. (2008) Comparative dosimetry of dental CBCT devices and 64-slice CT for oral and maxillofacial radiology. Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology Endodontics 106: 106−114.、Okano, T., Hirata, Y., Sugihara, Y., Sakaino, R.,Tsuchida, R., Iwai, K., Seki, K. & Araki, K. (2009) Absorbed and effective doses from cone-beam volumetric imaging for implant planning. Dentomaxillofacial Radiology 38: 79−85.)
【0038】
CBCT画像から得られるピクセルまたはボクセル値が絶対値でないので、様々な方法が骨密度を評価するために提案されている。
(Araryarachkul, P., Caruso, J., Gantes, B., Schulz, E.,Riggs, M., Dus, I., Yamada, J. & Crigger, M. (2005) Bone density assessments of dental implant
sites: 2. Quantitative cone-beam computerized tomography. The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants 20: 416−424.、
Hua, Y., Nackaerts, O., Duyck, J., Maes, F. & Jacobs, R. (2009) Bone quality assessment based on cone-beam computed tomography imaging. Clinical Oral Implants Research 20: 767−771.、Naitoh, M., Aimiya, H., Hirukawa, A. & Ariji, E. (2009a) Morphometric analysis of mandibular trabecular bone using cone-beam computerized tomography: an in vitro study. The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants (in press). Naitoh, M., Hirukawa, A., Katsumata, A. & Ariji, E. (2009d) Evaluation of voxel values in mandibular cancellous bone: relationship between cone-beam computed tomography and multislice helical computed tomography. Clinical Oral Implants Research 20: 503−506.)
【0039】
大照射野(撮影範囲の広い)CBCTにおいて、回帰直線の利用は、下顎海綿骨の骨密度を推定するために提案されている(Naitoh, M., Hirukawa, A., Katsumata, A. & Ariji, E. (2009d) Evaluation of voxel values in mandibular cancellous bone: relationship between
cone-beam computed tomography and multislicehelical computed tomography. Clinical Oral Implants Research 20: 503−506.)。
【0040】
小照射野CBCTにおいて、下顎骨骨梁の形態計測の分析は行われた、そして、骨梁体積/総組織体積(BV/TV)は、下顎海綿骨の骨密度を評価するのに用いることができる。(Naitoh, M., Aimiya, H., Hirukawa, A. & Ariji, E.(2009a) Morphometric analysis of mandibular trabecular bone using cone-beam computerized tomography: an in vitro study. The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants (in press).)
【0041】
これまでの研究において、CBCTとMSCT間の骨密度の差は、1〜182mg/cm3
HA、平均値46mg/cm3 HAであった(Naitoh, M., Hirukawa, A., Katsumata, A. & Ariji, E. (2009d) Evaluation of voxel values in mandibular cancellous bone: relationship between cone-beam computed tomography and multislice helical computed tomography. Clinical Oral Implants Research 20: 503−506.)。本明細書においては、上記と同じ回帰直線を使用し、1〜123mg/cm3 HA、平均値38mg/cm3 HAである。骨密度評価のための回帰直線の有用性は、下顎海綿骨において確認された。一方で、他のCBCT装置を使用して回帰直線を得ることは難しいと考えられる。それ故、骨ブロック参照体の有用性が、下顎海綿骨の密度を測定するために評価された。
【0042】
MSCT値は、5つの骨ブロック参照体による骨密度チャートを用いて、骨密度に変換した(Naitoh, M., Kurosu, Y., Inagaki, K., Katsumata, A.,Noguchi, T. & Ariji, E. (2007) Assessment of mandibular buccal and lingual cortical bones in postmenopausal women. Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology Endodontics)
【0043】
しかし、実施例1におけるCBCTの画像の大きさが102mmに限定されたので、1つの骨ブロック参照体は低い骨密度を評価するのに用いられた。
Misch, C.E. (1999) Contemporary Implant Dentistry.2nd edition, 109−118. St Louis: Mosby.は、顎骨の海綿骨の骨密度を5つの段階に分類した:
D1:>1250 HU
D2: 850〜1250HU
D3: 350〜850HU
D4: 150〜350HU
D5:<150HU 医科用CTのCT値による
さらに、CT値は、これまでの研究により骨密度に変換された(Naitoh, M., irukawa, A., Katsumata, A. & Ariji, E. (2009d) Evaluation of voxel values in
mandibular cancellous bone: relationship between cone-beam computed tomography and multislice helical computed tomography. Clinical Oral Implants Research 20: 503−506.)。
D1:>1.02×103 mg/cm3 HA
D2: 7×102 〜1.02×103 mg/cm3 HA
D3: 2.9×102 〜7×102 mg/cm3 HA
D4: 1.3×102 〜2.9×102 mg/cm3 HA
D5:<1.3×102 mg/cm3 HA
したがって、200mg/cm3 HAの骨ブロック参照体の骨密度は、ほぼD4の中央値であった。
【0044】
45部位(MSCTで100mg/cm3 HA〜300mg/cm3 HA)中の38部位(84%)の骨密度が、参照体を用いることで、正確に評価された。
不正確な評価であった7部位中5部位において、MSCTによる骨密度は、180〜200mg/cm3HAの値に収まった。測定された下顎海綿骨と骨ブロック参照体の濃度は異なった。
【0045】
さらに、下顎海綿骨の軟組織体積は、骨ブロック参照体より大きかった、そして、X線照射野外に下顎枝があった。
これらは、CBCTの骨密度値に影響を及ぼす。
CBCTの閾値は、MSCTにおけるHAの約1.8×102mg/cm3に相当した。
また、骨密度の真値(200mg/cm3 HA)と閾値との違いは約20mg/cm3HAであった、そして、その値は回帰直線を使用したものより少なかった(中央値:32mg/cm3 HA)。
【0046】
200mg/cm3 HAの骨ブロック参照体は、撮影範囲の大きいCBCTにおいて、低い骨密度の下顎海綿骨を評価するために役立つと考えられる。
また、高いミネラル含有量の骨ブロック参照体を使うことにより、高い骨密度の下顎海綿骨を評価できると考えられる。
【0047】
−結 論−
CBCTとMSCTによる下顎骨の骨密度の差は1〜123mg/cm3 HAの範囲であり、平均値は38mg/cm3 HAであった。この値は上記の文献で得られた回帰直線を使用した。また、骨ブロック参照体は、撮影範囲の広いCBCTで下顎海綿骨の低い骨密度を評価するために役立った。
【0048】
なお、上記実施例1では、図2に示すように、チンレスト6に骨ブロック参照体10bを一つのみ埋め込んでいるが、これの替わりに、ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる2個あるいは3個以上の骨ブロック参照体を埋め込んでおいても良い。こうであれば、各骨ブロック参照体との比較により、骨密度を数多くの段階に分けて判断することができるため、歯科インプラントの適用のタイミング等を的確に把握することができる。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、以下に示すチンレスト型の顎骨骨密度ファントムを作製した。すなわち、図8に示すように、実施例2の顎骨骨密度ファントム20は、前後長さ48mm、横幅62mm、厚み10mmのウレタン樹脂からなる軟組織部21に、15mm角で厚さが10mmの骨ブロック参照体21a、21bが左右対称の位置に並んで埋め込まれている。軟組織部21を形成しているウレタン樹脂のX線透過率は、顎の軟組織と等価とされている。また、骨ブロック参照体22aはウレタン樹脂にハイドロキシアパタイトを100mg/cm3含有させたものからなっており、骨ブロック参照体22bはウレタン樹脂にハイドロキシアパタイトを300mg/cm3含有させたものからなっている。骨ブロック参照体22aと骨ブロック参照体22bとの間隔は10mmとされている。
【0050】
<測 定>
実施例1で用いた歯科用コーンビームCT及び比較例1で用いたマルチスライスCTと同じ装置を用いて、これらに頭部ファントム及び実施例2の顎骨骨密度ファントム20をセットし、実施例1と同様の条件で測定した。
【0051】
<結 果>
下顎海綿骨部の25箇所における測定結果を表4に示す。歯科用コーンビームCTにおいて100mg/cm3未満と判定された6箇所の領域は、マルチスライスCTにおいても全て100mg/cm3未満と判定された。また、歯科用コーンビームCTにおいて100mg/cm3以上300mg/cm3以下と判定された6箇所の領域は、マルチスライスCTにおいて、5箇所が100mg/cm3以上300mg/cm3以下と判定され、1箇所が100mg/cm3未満と判定された。さらに、歯科用コーンビームCTにおいて300mg/cm3以下と判定された13箇所の領域は、マルチスライスCTにおいても12箇所が300mg/cm3以下と判定され、1箇所が100mg/cm3以上300mg/cm3以下と判定された。
すなわち、測定箇所25箇所中、23箇所で判定の一致がみられ、実施例2の顎骨骨密度ファントムを用いれば、歯科用コーンビームCTを用いても、インプラントの適用可能性についての判断を行うことが充分に可能であることが分かった。
【0052】
【表4】

【0053】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10…骨塩定量ファントム
10a…軟組織部材
10b…骨ブロック参照体
6…チンレスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用コーンビームX線CT装置に用いられる骨塩定量ファントムであって、
顎の軟組織等価材料からなる軟組織部材と、樹脂にハイドロキシアパタイトが所定の割合で含有されており該軟組織部材に埋め込まれた骨ブロック参照体と、を備え、顎部に対して隙間ができないように密着させることができる形状とされていることを特徴とする骨塩定量ファントム。
【請求項2】
チンレストとして使用可能な形状とされていることを特徴とする請求項1に記載の骨塩定量ファントム。
【請求項3】
ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の骨塩定量ファントム。
【請求項4】
前記ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる複数個の骨ブロック参照体は、互いに5mm以上の間隔を開けて設置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の骨塩定量ファントム。
【請求項5】
ハイドロキシアパタイトの含有量の異なる2個の骨ブロック参照体を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の骨塩定量ファントム。
【請求項6】
チンレストを備えた歯科用コーンビームX線CT装置であって、
該チンレストは請求項1乃至5のいずれか1項の骨塩定量ファントムからなることを特徴とする歯科用コーンビームX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30035(P2012−30035A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281609(P2010−281609)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(500175325)学校法人愛知学院 (6)
【Fターム(参考)】