説明

骨形成装置及び骨形成方法

【課題】 感染の心配がない閉鎖空間で、周辺組織を損傷することなく、必要十分量の新生骨が得られる骨形成装置及び骨形成方法を提供する。
【解決手段】 骨欠損部110に仮骨形成する骨形成装置1において、骨欠損部110の両側の第一骨部101と第二骨部102とに固定される固定手段2と、固定手段2に連結される案内手段3と、第一骨部101と第二骨部102との間に設けた移動骨片103を設置し、案内手段3により第一骨部101、第二骨部102及び骨欠損部110内でのみ移動する移動部材103と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷、骨腫瘍及び人工関節設置後のゆるみ等の状況で生じる広範囲骨欠損部に対して、必要十分な量の生存骨を再生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨に生じた外傷、腫瘍及び人工関節設置後のゆるみ等の治療のために骨を部分的に切除することが行われている。この骨欠損部に対する処置は、骨移植法が主体で、新たな骨組織採取が必要であり、他人の保存骨を使用する例では、感染症や骨生着の問題が存在すると共に、骨移植量の限界が問題とされていた。
【0003】
そこで、図5に示すように、骨欠損部や骨短縮部で、皮膚上から骨にピンを刺入し、移動させることにより、骨を形成する技術がある(非特許文献1及び2)。 また、骨髄内に髄内釘を設置して、骨両端に固定した髄内釘装置を延長して、骨形成を行う方法がある(非特許文献3及び4)。
【非特許文献1】「The Tension-Stress Effect on the Genesis and Growth of Tissues」,GAVRIIL A.ILIZAROV, Clinical Orthopaedics and Related Research, Number 238, P249-P281 January, 1989
【非特許文献2】「Clinical Application of the Tension-Stress Effect for Limb Lengthening」, GAVRIIL A.ILIZAROV, Clinical Orthopaedics and Related Research, Number 250, P8-P26 January, 1990
【非特許文献3】「Mechanical Characterization of a Totally Intramedullary Gradual Elongation Nail」, Jean-Marc Guichet, Robert S. Casar, Clinical Orthopaedics and Related Research, Number 337, P281-P290, April, 1997
【非特許文献4】「GRADUAL FEMORAL LENGTHENING WITH THE ALBIZZIA INTRAMEDULLARY NAIL」, JEAN-MARC GUICHET, BARBARA DEROMEDIS, LEO T. DONNAN, GIOVANNI PERETTI, PIERRE LASCOMBES, FLAVIO BADO, THE JOURNAL OF BONE & JOINT SURGERY, VOLUME 85-A, NUMBER 5, P838-P848, MAY 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1及び2に記載されたものは、皮膚からピンを刺入する創外固定により骨片を移動するため、ピンによる感染の危険、牽引による周辺組織の損傷及び骨形成量の限界等の問題があった。また、上記非特許文献3及び4に記載されたものは、新生仮骨部分に回旋力を生じるため、骨が破壊されやすく、骨自身を延長させる方式のため、周辺組織の損傷及び骨形成量の限界等の問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのものであって、感染の心配がない閉鎖空間で、周辺組織を損傷することなく、必要十分量の新生骨が得られる骨形成装置及び骨形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明の骨欠損部に仮骨形成する骨形成装置は、前記骨欠損部の両側の第一骨部と第二骨部とに固定される固定手段と、前記固定手段に連結される案内手段と、前記第一骨部と前記第二骨部との間に設けた移動骨片を設置し、前記案内手段により前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内でのみ移動する移動部材と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、前記固定手段は、筒状の部材であり、前記案内手段は、前記固定手段に内包され、ネジ部を有する棒状の軸部材であり、前記移動部材は、前記固定手段に摺動するスライダ部と、前記案内手段のネジ部に螺合する内ネジ部とを有し、前記移動部材は、前記案内手段の回転により前記固定手段に沿って前記案内手段の軸方向へ移動することを特徴とする。
【0008】
また、前記固定手段は、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内に配置されることを特徴とする。
【0009】
また、前記案内手段は、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内に配置されることを特徴とする。
【0010】
また、前記第一骨部又は前記第二骨部の少なくとも一方は、人工関節であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の骨形成方法は、骨欠損部両側の第一骨部と第二骨部との間に移動骨片を備え、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記移動骨片内に設けた骨形成装置により前記移動骨片を前記第一骨部と前記第二骨部との一方から他方へ移動させ、仮骨を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
それによって、本発明は、感染の心配がない骨髄内の閉鎖空間で、周辺組織を損傷することなく、必要十分量の新生骨を得ることができる。また、簡単な構造及び低コストで構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は本実施形態の骨形成装置を示す。図1及び図2において、1は骨形成装置、2は固定手段の一例としての外筒、3は案内手段の一例としてのネジ棒、4は移動部材、5はネジ棒3を回転させる回転装置、6は第一蓋、7は第二蓋である。
【0014】
骨形成装置1は、外筒2、ネジ棒3、移動部材4、回転装置5,第一蓋6及び第二蓋7からなる。
【0015】
外筒2は、筒状の部材であり、一端側に筒部21、他端側に固定部22、その中間に中間部23を有する。筒部21は、内側にネジ棒3を挿入可能な空間21a、側面に回転装置5を装着すると共に、第一蓋6がネジ止め可能な第一孔21b及び一端の端面に第二蓋7がネジ止めされる第二孔21cを有する。固定部22は、内側にネジ棒3を挿入可能な空間22aを有し、外側は六角形等に形成されている。中間部23は、移動部材4が摺動可能に嵌合されるレール部23a、レール部23aに沿って開口する開口部23bを有する。
【0016】
ネジ棒3は、一端に回転装置5と噛み合う歯車部31、他端に外筒2の固定部22の内側の空間22aに挿入され、相対回転可能に支持される支持部32、歯車部31と支持部32との間にネジ部33を有し、外筒2に内包される棒状の軸部材である。
【0017】
移動部材4は、筒状の部材であり、一端側に、外筒2のレール部23a及び開口23bに嵌合し摺動するスライダ部41aを有する骨片支持部41、他端側に骨片支持部41より径の小さい小径部42、内側にネジ棒3のネジ部33に螺合する内ネジ部43を有する。なお、小径部42は、設けなくてもよい。
【0018】
回転装置5は、ネジ棒3を回転させて移動部材4を移動する際に使用するもので、筒状の部材であり、一端側にネジ棒3の内側に挿入可能な挿入部51、他端側に回転装置5を回転させる図示しない六角レンチ等が挿入される操作部52、その中間にネジ棒3の歯車部31と噛み合う歯車部53を有する。
【0019】
第一蓋6は、外筒2の第一孔21bを閉じるための蓋であり、第二蓋7は、外筒2の第二孔21cを閉じるための蓋である。なお、第一蓋6及び第二蓋7は、必ずしも装着する必要はない。
【0020】
図2は、組み立てた状態の骨形成装置1である。骨形成装置1を組み立てるには、まず、移動部材4のスライダ部41aを外筒2のレール部23aに嵌合させ、移動部材4を開口23b内で摺動可能に設置する。次に、外筒2の第二孔21cからネジ棒3を、途中でネジ部33と移動部材4の内ネジ部43とを螺合させながら、ネジ棒3の支持部32が外筒2の固定部22の内側の空間22aの奥に到達するまで挿入する。この時、ネジ部3の支持部32とネジ部33との境界が、外筒2の固定部22と中間部23との境界に重なるように設置するのが好ましい。
【0021】
このように組み立てられた状態の骨形成装置1では、回転装置5を第一孔21bに挿入し、ネジ棒3の歯車部31と回転装置5の歯車部53とを噛み合わせ、図示しない六角レンチ等を操作部52に挿入し、回転させることにより、ネジ棒3がその場で回転し、移動部材4をネジ棒3の回転により外筒2に沿ってネジ棒3の軸方向に移動させることができる。回転装置5を使用しない場合は、第一孔21b及び第二孔21cは、第一蓋6及び第二蓋7により閉じてもよい。なお、回転装置5を第二孔21cに挿入し、挿入部51とネジ棒3の内側に挿入することで、ネジ棒3の歯車部31と回転装置5の歯車部53とを噛み合わせてもよい。
【0022】
次に、この骨形成装置1の作動について説明する。図3は、骨形成装置1を骨に設置した状態を示す。図中、100は骨、101は第一骨部、102は第二骨部、103は移動骨片部、110は骨欠損部、120は仮骨形成部である。
【0023】
図3(a)に示すように、骨100は、部分的に切除された空間である骨欠損部110により、第一骨部101及び第二骨部102に分けられる。
【0024】
第一骨部101は、その骨髄内に骨形成装置1の外筒2の筒部21をピンやビス等の結合部材で固定する。この時、第一骨部101の端面101aが外筒2の筒部21と中間部23との境界に位置するように設置するのが好ましい。
【0025】
第二骨部102は、その骨髄内に骨形成装置1の外筒2の固定部22をピンやビス等の結合部材で固定する。この時、第二骨部102の端面102aが外筒2の固定部22と中間部23との境界に位置するように設置するのが好ましい。
【0026】
移動骨片部103は、本実施形態では、第二骨部102の一部を切断して作製したものであり、骨形成装置1の移動部材4の骨片支持部41にピンやビス等の結合部材で固定される。この時、移動骨片部103の第一端面103aが移動部材4の骨片支持部41と小径部42との境界に位置するように設置し、第二端面103bが移動部材4の骨片支持部41の端面41cに位置するように設置するのが好ましい。
【0027】
このように骨形成装置1と骨100とを結合した状態で、まず、図3(a)に示すように、移動部材4の骨片支持部41の端面41cを外筒2の固定部22と中間部23との境界に当接するように配置し、移動骨片部103の第二端面103bを第二骨部102の端面102aに当接させる。
【0028】
次に、図4に示すように、外筒2の筒部21の第一孔21bに回転装置5を挿入し、回転装置5の歯車部53とネジ棒3の歯車部31を噛み合わせ、図示しない六角レンチ等を回転させることで、回転装置5及びネジ棒3を回転させる。すると、図3(b)に示すように、移動部材4が、骨片支持部41のスライダ部41aに嵌合した外筒2の中間部23に形成されたレール部23aに沿って移動する。それと共に、移動骨片部103の第二端面103bが第二骨部102の端面102aから離れる。この時、移動させる距離は、1日に約1mmである。
【0029】
このように移動させると、移動骨片部103の第二端面103bと第二骨部102の端面102aとの間の骨欠損部110に仮骨が形成され、仮骨形成部120となる。なお、移動骨片部103の移動距離は、仮骨が形成されるスピードにあわせて設定すればよい。
【0030】
図3(c)に示すように、この移動を、移動部材4の骨片支持部41と小径部42との境界が、外筒2の筒部21と中間部23との境界に到達するまで、すなわち、移動骨片部103の第一端面103aが、第一骨部101の端面101aに到達するまで行う。すると、第一骨部101と第二骨部102との間が、移動骨片部103及び仮骨形成部120により連結され、骨欠損部110が無くなる。
【0031】
この後、回転装置5を外筒2の第一孔21bから抜き、そして、この骨形成装置1全体を骨100から抜き取る。また、骨形成装置1全体をそのまま放置し、骨と同化させてもよい。
【0032】
このように、感染の心配がない骨髄内で、周辺組織を損傷することなく、必要十分量の新生骨を得ることができる。
【0033】
なお、骨100の第一骨部101又は第二骨部102は人工関節であってもよい。また、骨形成装置1は、人骨のみでなく、動物、特にペット等に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態の骨形成装置の構成部品を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の骨形成装置を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態の作動を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態の回転装置周辺の拡大図である。
【図5】従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1…骨形成装置、2…外筒(固定手段)、21…筒部、21a…空間、21b…第一孔、21c…第二孔、22…固定部、22a…空間、23…中間部、23a…レール部、23b…開口部、3…ネジ棒(案内手段)、31…歯車部、32…支持部、33…ネジ部、4…移動部材、41…骨片支持部、41a…スライダ部、41c…端面、42…小径部、43…内ネジ部、5…回転装置、51…挿入部、52…操作部、53…歯車部、6…第一蓋、7…第二蓋、100…骨、101…第一骨部、101a…端面、102…第二骨部、102a…端面、103…移動骨片部、103a…第一端面、103b…第二端面、110…骨欠損部、120…仮骨形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨欠損部に仮骨形成する骨形成装置において、前記骨欠損部の両側の第一骨部と第二骨部とに固定される固定手段と、前記固定手段に連結される案内手段と、前記第一骨部と前記第二骨部との間に設けた移動骨片を設置し、前記案内手段により前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内でのみ移動する移動部材と、を備えたことを特徴とする骨形成装置。
【請求項2】
前記固定手段は、筒状の部材であり、前記案内手段は、前記固定手段に内包され、ネジ部を有する棒状の軸部材であり、前記移動部材は、前記固定手段に摺動するスライダ部と、前記案内手段のネジ部に螺合する内ネジ部とを有し、前記移動部材は、前記案内手段の回転により前記固定手段に沿って前記案内手段の軸方向へ移動することを特徴とする請求項1に記載の骨形成装置。
【請求項3】
前記固定手段は、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の骨形成装置。
【請求項4】
前記案内手段は、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記骨欠損部内に配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の骨形成装置。
【請求項5】
前記第一骨部又は前記第二骨部の少なくとも一方は、人工関節であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の骨形成装置。
【請求項6】
骨欠損部両側の第一骨部と第二骨部との間に移動骨片を備え、前記第一骨部、前記第二骨部及び前記移動骨片内に設けた骨形成装置により前記移動骨片を前記第一骨部と前記第二骨部との一方から他方へ移動させ、仮骨を形成することを特徴とする骨形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−158259(P2010−158259A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110586(P2007−110586)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】