説明

骨疾患治療剤

【課題】 グリフォラ・ガルガル(Grifola gargal)の子実体中に存在する破骨細胞形成抑制効果を示す化合物の特定と、当該化合物の骨疾患治療剤としての提供。
【解決手段】 3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン、セレビステロール、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩からなる群から選択される一つ以上を有効成分として含有することを特徴とする骨疾患治療剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症等の骨疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、骨形成と骨吸収とを繰り返している。このような骨のライフ・サイクルは、概略次のとおりである。
【0003】
即ち、軟骨細胞、骨芽細胞及び破骨細胞が、機能的な分業を行い、各細胞が骨の代謝を制御している。骨の代謝は、(1)軟骨内骨化による骨新生と成長、(2)骨形成と骨吸収のサイクルからなるリモデリングによる質的、量的な維持、及び(3)骨折等の損傷における骨再生の三過程に分類される。そして、骨の代謝は、種々のカルシウム代謝ホルモンやサイトカイン、各種細胞内伝達機構や転写因子等を介して、各細胞系の機能や細胞間の相互作用を調節することによって制御されている。
【0004】
例えば、休止期にある骨の表面が刺激を受けると、破骨細胞に情報が伝達されて骨の吸収が始まる。骨が吸収されているとき、他方では、骨芽細胞による骨の修復、形成が行なわれている。このように、正常な状態にある生体においては、骨の吸収と骨の形成とが並行して行なわれて、骨は新しく生まれ変わっている。
【0005】
ところで、近年においては、高齢者の骨粗鬆症が注目を浴びている。骨粗鬆症は、骨のリモデリングにおいて、骨の吸収が骨の形成を上回ることによって招来されるものである。従って、骨粗鬆症の予防、治療には、骨吸収を抑制するか、骨形成を促進することが必要である。
【0006】
このような状況下、種々の骨粗鬆症治療剤や、骨粗鬆症治療効果が期待される漢方薬や食品に由来する成分が提案されている。前者としては、活性型ビタミンDや特許文献1に記載されたリベロマイシンA誘導体等が挙げられる。また、後者としては、特許文献2に記載された冬虫夏草、特許文献3に記載されたエリンギや五加皮の水抽出物、特許文献4に記載された熟地黄や骨砕補の水抽出物、特許文献5に記載されたマコモタケ抽出物等が挙げられる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−35895号公報
【特許文献2】特開2004−315454号公報
【特許文献3】特開2005−330289号公報
【特許文献4】特開2005−330290号公報
【特許文献5】特開2006−193452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献の発明者等と同様に、本発明者等も、骨粗鬆症の予防・治療効果があり、副作用の問題の少ない化合物を希求して、研究を重ねてきた。そして、学名がグリフォラ・ガルガル(Grifola gargal;和名:アンニンコウ)である茸の子実体からの抽出物が、破骨細胞形成抑制効果を示すことを見出した。しかし、骨粗鬆症等の骨疾患治療剤としてヒトに摂取させるには、グリフォラ・ガルガルの子実体中に存在する破骨細胞形成抑制効果を示す化合物そのものの方が都合がよい。従って、本発明の目的は、グリフォラ・ガルガルの子実体中に存在する破骨細胞形成抑制効果を示す化合物を特定し、当該化合物を骨疾患治療剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、グリフォラ・ガルガルの子実体中に存在する破骨細胞形成抑制効果を示す化合物を特定するために鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、式(I)
【化1】

で示される3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン、式(II)
【化2】

で示されるセレビステロール、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩からなる群から選択される一つ以上を有効成分として含有することを特徴とする骨疾患治療剤に関する。
【0011】
前記骨疾患としては、骨粗鬆症が挙げられる。また、前記有効成分は、破骨細胞形成阻害剤として使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、安全性が高く、骨粗鬆症等の骨疾患の予防及び治療に有効な骨疾患治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る骨疾患治療剤の有効成分は、3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン、セレビステロール(cerevisterol)、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩からなる群から選択される一つ以上である。3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オンとセレビステロールは、グリフォラ・ガルガル(Grifola gargal)やカワリハラタケ(Agaricus blazei)に含有されている。セレビステロールは、セレビステリンとも呼称される。
【0014】
これらの化合物の薬学的に許容される塩とは、例えば、上記式(I)及び(II)において、水酸基の水素が、ナトリウム、カリウム、カルシウム等で置換されてアルカリ又はアルカリ土類金属塩となっているものやアンモニウム基で置換されてアンモニウム塩となっているもの、塩酸、硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、グリシン等のアミノ酸が付加した付加塩をいう。しかし、これらに限定されず、薬学的に許容されるものであれば、いずれであってもよい。
【0015】
3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン及びセレビステロールの各々は、グリフォラ・ガルガルやカワリハラタケの子実体から抽出によって単離することができる。ここで、グリフォラ・ガルガルは、南米原産のグリフォラ属の茸であり、近年、菌床栽培も可能となったものである。グリフォラ・ガルガルの子実体を得るための菌床栽培方法は、例えば特開2007−20560に開示されている。また、カワリハラタケは、ハラタケ属の茸である。
【0016】
3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン及びセレビステロールをグリフォラ・ガルガルの子実体から抽出する場合には、例えば、子実体乾燥物をヘキサン等の有機溶媒や水に入れ、可溶性成分を抽出した後、適切な条件下でカラム・クロマトグラフィーを繰り返せばよい。あるいは、エルゴステロールから、又はビタミンD類の合成方法を参考にして、有機合成することもできる(例えば、特開平5−163238及び特開平5−320127を参照のこと)。
【0017】
本発明に係る骨疾患治療剤の有効成分は、少なくとも破骨細胞の形成を抑制する作用を示す。従って、本発明の骨疾患治療剤が有効な疾患には、破骨細胞の過剰な形成や機能亢進を伴なって骨量が減少する内因性疾患と、骨折等の外因性疾患とが包含される。骨疾患の具体例としては、骨粗鬆症、破骨細胞腫、骨減少症、骨多孔症、骨軟化症、外傷性骨折、疲労骨折等が挙げられる。
【0018】
本発明に係る骨疾患治療剤の剤型、投与方法、投与量等は、使用目的や有効成分の物性を考慮して、適宜決定することができる。剤型の例としては、経口投与を目的として、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等が、また、非経口投与を目的として、注射剤、吸入剤、座剤、経皮吸収剤等が挙げられる。有効成分と共に使用される添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、溶剤等が挙げられる。
【0019】
投与量は、予防であるか治療であるか、疾患の状態、剤型、投与方法、患者の年齢や体重等の諸条件によって異なるが、成人に経口投与する場合であって、3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン又はその薬学的に許容される塩の場合は、通常、0.1乃至200μg/体重1kg/日、好ましくは0.2乃至50μg/体重1kg/日であり、セレビステロール又はその薬学的に許容される塩の場合は、通常、0.1乃至200μg/体重1kg/日、好ましくは0.4乃至100μg/体重1kg/日である。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)グリフォラ・ガルガルの子実体からの有効成分の抽出、同定
(1)有効成分の有無の判定方法
抽出液や分画液中の有効成分による活性及び細胞毒性の測定は、次のようにして行なった。
【0022】
(1−1)共存培養法による細胞の培養
マウス(♀、5乃至7週齢)の脛骨及び大腿骨から採取した骨髄細胞1.3×10個と、頭蓋骨から採取した骨芽細胞様間質細胞1.0×10個とを、10%牛胎児血清含有α−MEM(Minimun Essential Medium α- Medium)7.2mlに懸濁させた。これを、48穴の破骨細胞活性アッセイ用基質プレートに、150μl/ウェルで分注した。1,25−ジヒドロキシビタミンDの10%牛胎児血清含有α−MEM溶液(濃度:20ng/ml)50μl/ウェルと、被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの50μl/ウェルとを加え、全量250μl/ウェルとした。炭酸ガスインキュベータを用い、37℃、炭酸ガス濃度5%にて7日間培養した。なお、培養3日目には、各ウェル中の上澄み液100μlを除去し、代わりに、1,25−ジヒドロキシビタミンDの10%牛胎児血清含有α−MEM溶液(濃度:40ng/ml)50μl/ウェルと、被験試料を培養開始前に使用したものの2倍の濃度で含有する被験試料の10%牛胎児血清含有α−MEM溶液50μl/ウェルとを添加した。
【0023】
(1−2)TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定
上記のように、骨髄細胞と骨芽細胞様間質細胞とを、活性ビタミンDの存在下で共存培養を行なうと、TRAP(酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)を有する破骨様多核細胞(破骨細胞)に分化する。この細胞は、TRAP染色液で染色される。この染色された細胞の数を計測することにより、破骨細胞の形成が抑制されたか否かが分かる。
【0024】
TRAP染色液は、次のようにして調製した。先ず、50mMの酒石酸ナトリウムと0.1Mの酢酸ナトリウムとを含むTRAP緩衝液(pH=5.0)を調製した。次に、用時調製で、1.5mgのナフトールAS−MXリン酸塩を、150mlのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた。これにTRAP緩衝液15mlを加え、次に、9mgのファスト・レッド・バイオレットLB塩を加えて溶解させた。
【0025】
染色は、次のようにして行なった。ウェル中の培養液を除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。次いで、10%ホルマリン(=3.7%ホルムアルデヒド)含有PBS溶液を0.5ml/ウェルで加え、10分間放置し、細胞をウェルに固定させた。その後、エタノールを0.5ml/ウェルで加え、1分間放置した。乾燥後、ウェルにTRAP染色液0.3ml/ウェルを加え、室温で30分間インキュベートさせた。ウェルを蒸留水0.3ml/ウェルで洗浄し、その後乾燥させた。
【0026】
顕微鏡下において、ウェル当たりの、TRAP染色液によって染色された核を2個以上有する多核細胞の数を数えた。これが、ウェル当たりの破骨細胞数である。
【0027】
細胞を培養する際に、被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの(50μl)の代わりに、10%牛胎児血清含有α−MEM(50μl)を添加したものを用意し、同様に処理した。これがコントロールである。
【0028】
コントロールのウェル中の細胞数を100として、被験試料を添加したウェル中の細胞数の割合を算出した。値が小さいほど、破骨細胞形成抑制効果が高い。
【0029】
なお、図1に、コントロールのウェルの顕微鏡写真を、図2に破骨細胞の形成が抑制されたウェルの顕微鏡写真を示す。
【0030】
(1−3)MTTアッセイ法による細胞生存率の測定
MTTとは、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム ブロミドを指す。この化合物は、水溶性であり、水溶液は黄色を示すが、脱水素酵素によって、MTTとNADHとの間で酸化還元反応が生じると、MTTが還元されて青色のフォルマゾンとなる。この脱水素酵素は、ミトコンドリアの呼吸鎖に関連する酵素であるので、細胞の健康状態の指標となる。即ち、細胞が元気であれば、酵素活性が高く、フォルマゾンが多く生成されるが、細胞が死んでしまうと、フォルマゾンは生成されない。よって、波長570nmにおける吸光度測定によって、生成されたフォルマゾンの量、ひいては細胞の生存率を計測することができる。
【0031】
MTT溶液は、MTTを1mg/mlの濃度で含有するPBS溶液である。共存培養後、培養液を除去せず、125μl/ウェルの量でMTT溶液を加えた。次いで、炭酸ガスインキュベータを用い、37℃、炭酸ガス濃度5%にて2時間インキュベートした。培養液を除去し、100μl/ウェルの量でジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた。フォルマゾンをよく溶解させた後、波長570nmにおいてDMSO溶液の吸光度を測定した。
【0032】
細胞を培養する際に、被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの(50μl)の代わりに、10%牛胎児血清含有α−MEM(50μl)を添加したものを用意し、同様に処理した。これがコントロールである。
【0033】
コントロールの吸光度を100として、被験試料を添加した場合の吸光度の割合を算出した。値が小さいほど、細胞生存率又は細胞活性が低く、それは、被験試料の細胞毒性が強いことを示している。
【0034】
(2)原料
菌床栽培において、種菌の植え付けから約120日後にグリフォラ・ガルガル子実体を収穫した。これに、45℃の温風を一昼夜、その後70℃の温風を1時間あて、乾燥させた。このようにして温風乾燥されたグリフォラ・ガルガル子実体を、原料として用いた。
【0035】
(3)有効成分の抽出
抽出方法の概略は、図3及び図6に示すとおりである。具体的には、次のようにして有効成分を抽出した。
【0036】
(3−1)へキサン抽出
温風乾燥されたグリフォラ・ガルガル子実体500gをヘキサン5lに入れ、室温にて放置した。濾過により、へキサン溶液と残渣とに分けた。残渣にヘキサン5lを加え、室温にて放置し、更に抽出を行った。濾過により、へキサン溶液と残渣とに分け、更にもう一度、残渣にヘキサン5lを加え、室温にて放置して抽出を行った。ヘキサン溶液すべてを合一させ、次いでヘキサンを留去したところ、6.3gの固形分(ヘキサン可溶画分)が得られた。
【0037】
(3−2)フラッシュ・カラム・クロマトグラフィー(その1)
(3−1)で得られた固形分(5.2g使用)を、フラッシュ・カラム・クロマトグラフィー(シリカゲル60N;関東化学社製;充填剤重量:350g;φ4cm×60cm)に供した。具体的には、先ず、上記固形分のヘキサン/酢酸エチル(9:1(容量))溶液をカラムに流し、有効成分をカラムに保持させた。次いで、溶出液として、ヘキサン/酢酸エチル(9:1(容量))混液500ml、塩化メチレン500ml、塩化メチレン/アセトン(8:2(容量))混液500ml、アセトン500ml及び100%エタノール1,000mlをこの順で流した。
【0038】
溶出液を20mlずつ分取し、各々につき、(1−1)及び(1−2)に記載の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。但し、「被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの50μl」の代わりに、「分取した溶出液を62.5μg/ml、125μg/ml又は250μg/mlの濃度(但し、培養開始前の濃度)で含有する10%牛胎児血清含有α−MEM50μl」を用いた。
【0039】
この測定結果を踏まえ、溶出液を12の群(順に、GA−H−1乃至GA−H−12)にまとめた。これら12の群のそれぞれを被験試料として用い、(1−1)、(1−2)及び(1−3)に記載の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定とMTTアッセイを行った。但し、「被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの50μl」の代わりに、「分取した溶出液を62.5μg/ml、125μg/ml又は250μg/mlの濃度(但し、培養開始前の濃度)で含有する10%牛胎児血清含有α−MEM50μl」を用いた。なお、例えば分取した溶出液を62.5μg/mlの濃度で含有する10%牛胎児血清含有α−MEMを50μl/ウェルで用いた場合、ウェル中の培養液の全量は250μlであるから、培養液中の溶出液の濃度は12.5μg/mlとなる。また、検体数は、各溶出液の各濃度につき、3点であった。
【0040】
分取した溶出液を用いた場合のデータを、コントロールの平均値で除した値を、図4及び図5に示す。破骨細胞形成阻害活性が確認されたのは、GA−H−6乃至GA−H−11であった。
【0041】
(3−3)フラッシュ・カラム・クロマトグラフィー(その2)
(3−2)で得られた画分の中、GA−H−8をさらに分画した。
【0042】
先ず、GA−H−8の溶媒を留去したところ、368.8mgの固形分が得られた。この固形分を、フラッシュ・カラム・クロマトグラフィー(シリカゲル60N;関東化学社製;充填剤重量:200g;φ2.5cm×60cm)に供した。具体的には、先ず、上記固形分のヘキサン/酢酸エチル(6:4(容量))溶液をカラムに流し、有効成分をカラムに保持させた。次いで、溶出液として、ヘキサン/酢酸エチル(6:4(容量))混液200ml、ヘキサン/酢酸エチル(4:6(容量))混液200ml、酢酸エチル200ml、酢酸エチル/アセトン(5:5(容量))混液200ml、アセトン200ml及び100%エタノール500mlをこの順で流した。
【0043】
溶出液を20mlずつ分取し、各々につき、(1−1)及び(1−2)に記載の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。但し、「被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの50μl」の代わりに、「分取した溶出液を62.5μg/ml、125μg/ml又は250μg/mlの濃度(但し、培養開始前の濃度)で含有する10%牛胎児血清含有α−MEM50μl」を用いた。
【0044】
この測定結果を踏まえ、溶出液を14の群(順に、GA−H−8−1乃至GA−H−8−14)にまとめた。これら14の群のそれぞれを被験試料として用い、(1−1)、(1−2)及び(1−3)に記載の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定とMTTアッセイを行った。但し、「被験試料をメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈したもの50μl」の代わりに、「分取した溶出液を62.5μg/ml、125μg/ml又は250μg/mlの濃度(但し、培養開始前の濃度)で含有する10%牛胎児血清含有α−MEM50μl」を用いた。また、検体数は、各溶出液の各濃度につき、2点であった。
【0045】
被験試料を用いた場合のデータを、コントロールの平均値で除した値を図7及び図8に示す。強い破骨細胞形成阻害活性が確認されたのは、GA−H−8−8乃至GA−H−8−12であった。
【0046】
これらの画分を、薄層クロマトグラフィー及びNMRに供したところ、GA−H−8−9とGA−H−8−10は類似していたので、これらを一緒にした。この画分を、GA−H−8−9/10と名づけた。
【0047】
(3−4)調製用薄層クロマトグラフィー(その1)
(3−3)で行なった分画によって得られたGA−H−8−9/10の溶媒を留去したところ、66.5mg(画分9:21.9mg;画分10:44.6mg)の固形分が得られた。この固形分を、調製用薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60F254;メルク社製;20cm×20cm)に供した。塩化メチレン/メタノール(95:5(容量))混液、酢酸1%で展開させた。
【0048】
展開後、シリカゲルを26に分けて掻きとり(GA−H−8−9/10−1乃至GA−H−8−9/10−26)、成分の抽出を行なった。それらの抽出液を用い、前記と同様の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。
【0049】
この測定結果を踏まえ、GA−H−8−9/10−20を、更に精製する画分として選択した。この画分には、4.1mgの固形分が含まれていた。
【0050】
(3−5)Sep pakによる前処理とODSカラムによる高性能液体クロマトグラフィー
(3−4)に記載の処理によって得られた画分GA−H−8−9/10−20を、Sep pak固層抽出カートリッジ(ウォーターズ社製;ODS)に通し、次いでメタノール/水(9:1(容量))混液を流した。得られた溶出部を、高性能液体クロマトグラフ装置に接続されたODSカラム(資生堂社製;C18 Capcell pak AQ)に通し、有効成分を保持させた。メタノール/水(9:1(容量))混液を流し、GA−H−8−9/10−20−1乃至GA−H−8−9/10−20−19の画分を得た。
【0051】
各画分を用い、前記の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。その結果、GA−H−8−9/10−13に有効成分が濃縮されていた。
【0052】
(3−6)有効成分の分取
(3−5)で得られたGA−H−8−9/10−20−13の溶媒を留去し、残渣として1.4mgの化合物1を得た。
【0053】
(3−7)調製用薄層クロマトグラフィー(その2)
(3−3)で行なった分画によって得られたGA−H−8−12の溶媒を留去したところ、60.3mgの固形分が得られた。この固形分を、調製用薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60F254;メルク社製;20cm×20cm)に供した。塩化メチレン/メタノール(9:1(容量))混液、酢酸1%で展開させた。
【0054】
展開後、シリカゲルを27に分けて掻きとり(GA−H−8−12−1乃至GA−H−8−12−27)、成分の抽出を行なった。それらの抽出液を用い、前記の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。また、これらの画分を、薄層クロマトグラフィー及びNMRに供した。その結果、GA−H−8−12−17乃至GA−H−8−12−19は類似していたので、これらを一緒にした。この画分を、GA−H−8−12−17〜19と名付けた。なお、画分GA−H−8−12−17には2.8mg、画分GA−H−8−12−18には2.1mg、画分GA−H−8−12−17には2.1mgの固形分が含まれていた。
【0055】
(3−8)Sep pakによる前処理とODSカラムによる高性能液体クロマトグラフィー
(3−7)に記載の処理によって得られた画分GA−H−8−12−17〜19を、Sep pak固層抽出カートリッジ(ウォーターズ社製;ODS)に通し、次いでメタノール/水(95:5(容量))混液を流した。得られた溶出部を、高性能液体クロマトグラフ装置に接続されたODSカラム(資生堂社製;C18 Capcell pak AQ)に通し、有効成分を保持させた。メタノール/水(95:5(容量))混液を流し、GA−H−8−12−17〜19−1乃至GA−H−8−12−17〜19−30の画分を得た。
【0056】
各画分を用い、前記の方法で、TRAP染色法による破骨細胞形成数の測定を行った。その結果、GA−H−8−12−17〜19−19及びGA−H−8−12−17〜19−23に有効成分が濃縮されていた。
【0057】
(3−9)有効成分の分取
(3−8)で得られたGA−H−8−12−17〜19−19とGA−H−8−12−17〜19−23を合一させた後、溶媒を留去し、残渣として2.4mgの化合物2を得た。
【0058】
(4)有効成分の同定
(3−6)で得た化合物1と、(3−9)で得た化合物2の各々を、CDODに溶解させ、ジョエル(JOEL)社製ラムダ500FT H−NMRスペクトロメーターと、ジョエル(JOEL)社製ラムダ500FT 13C−NMRスペクトロメーターに供した。
【0059】
得られたデータを図9(化合物1)及び図10(化合物2)に示す。これらのデータより、化合物1は、3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン(C2844;分子量:428)であり、化合物2は、セレビステロール(C2846;分子量:430)であると同定された。
【0060】
(実施例2)イン・ビトロにおける破骨細胞の形成抑制に有効な濃度の決定
実施例1の(1−1)に記載した共存培養法において、ウェル当たり、化合物1(3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン)については0.1875μg、0.375μg、0.78125μgをメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈して50μlとしたものを、化合物2(セレビステロール)については1.5625μg、3.1215μgをメタノールに溶解し、それを10%牛胎児血清含有α−MEMで希釈して50μlとしたものを用いた。ウェル中の培養液の量は250μlであるから、培養液中の濃度では、化合物1は0.75μg/ml、1.5μg/ml、3.125μg/mlであり、化合物2は6.25μg/ml、12.5μg/mlであった。共存培養終了後、実施例1の(1−2)に記載したTRAP染色法と、(1−3)に記載したMTTアッセイ法を行なった。
【0061】
コントロールは、共存培養法において、被験試料を含まない10%牛胎児血清含有α−MEMを、50μl/ウェルの量で用いた。
【0062】
被験試料(各濃度につき)、コントロール共に、2点ずつ実験を行なった。被験試料を用いた場合のデータを、コントロールの平均値で除した値を図11(化合物1)及び図12(化合物2)に示す。
【0063】
化合物1に関し、3.125μg/mlとは、7.29×10−6Mに相当し、化合物2に関し、6.25μg/mlとは、1.45×10−5Mに相当する。化合物1は、共存培養法で培地中の被験試料濃度7.29×10−6Mで、細胞毒性は殆ど示さず、破骨細胞形成数は約20%まで抑制した。また、化合物2を培地中の被験試料濃度1.45×10−5Mで用いた場合には、MTTアッセイで約46%の細胞生存率となり、破骨細胞形成数は約10%であった。
【0064】
(実施例3) グリフォラ・ガルガル子実体温風乾燥物の摂取による骨芽細胞と破骨細胞のマーカーの血清又は尿中濃度の変動
8名の被験者の血液及び尿を採取し、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)、骨型アルカリホスファターゼ(以上、血清中)及びデオキシピリジノリン(尿中)を、以下の方法で定量した。
【0065】
(GOT及びGPT) 日本臨床化学会標準法により、定量した。
【0066】
(骨型ALP) 血清中骨型アルカリホスファターゼ測定用キットを用い、マイクロプレートを用いたEIA法の原理に基づき、骨型ALPを測定した。このキットでは、マイクロプレートのウェルにマウス抗骨型ALPモノクローナル抗体が固相化されている。このモノクローナル抗体に骨型ALPを結合させた後、アルカリホスファターゼの基質であるp−ニトロフェニルリン酸を添加し、結合された骨型ALPによって酵素反応を生じさせ、酵素反応の生成物であるp−ニトロフェノールの発色を測定した。骨型ALP濃度は、検量線から求めた。
【0067】
(DPD) 尿中デオキシピリジノリン測定用キットを用い、マイクロプレートを用いた競合法EIA法の原理に基づき、DPDを測定した。このキットでは、マイクロプレートのウェルにマウス抗DPDモノクローナル抗体が固相化されている。このモノクローナル抗体に、検体中のDPDとアルカリホスファターゼ標識DPDとを競合的に結合させ、洗浄後、アルカリホスファターゼの基質であるp−ニトロフェニルリン酸を添加し、結合されたアルカリホスファターゼ標識DPDによって酵素反応を生じさせ、酵素反応の生成物であるp−ニトロフェノールの発色を測定した。DPD濃度は、検量線から求めた。
【0068】
次いで、各被験者に、実施例1(2)に記載したグリフォラ・ガルガル子実体温風乾燥物を、10g/日の量で2週間、経口摂取させた。摂取終了後、8名の被験者の血液及び尿を採取し、GOT、GPT、骨型アルカリファターゼ(以上、血清中)及びデオキシピリジノリン(尿中)を定量した。なお、グリフォラ・ガルガル子実体温風乾燥物10g中の有効成分(3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン+セレビステロール)量は、約50乃至100μg程度である。
【0069】
結果を表1に示す。表1から明らかなように、本発明の骨疾患治療剤の有効成分2種類を含有するグリフォラ・ガルガル子実体温風乾燥物の摂取により、骨芽細胞の活性が増強され、また、破骨細胞の活性が低下した。
【0070】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】共存培養後にTRAP染色を行なった、コントロールのウェルの顕微鏡写真である。
【図2】共存培養後にTRAP染色を行なった、破骨細胞の形成が抑制されたウェルの顕微鏡写真である。
【図3】グリフォラ・ガルガル子実体温風乾燥物からの、破骨細胞形成抑制活性を示す成分の抽出手順(1)を示す図である。
【図4】フラッシュ・カラム・クロマトグラフィーで分画された各画分の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。
【図5】フラッシュ・カラム・クロマトグラフィーで分画された各画分の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。
【図6】図3に示した手順の後に行われた、破骨細胞形成抑制活性を示す成分の抽出手順(2)を示す図である。
【図7】フラッシュ・カラム・クロマトグラフィーで分画された各画分の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。
【図8】フラッシュ・カラム・クロマトグラフィーで分画された各画分の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。
【図9】有効成分である化合物1のH−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】有効成分である化合物2のH−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】化合物1(3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン)の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。
【図12】化合物2(セレビステロール)の、イン・ビトロにおける破骨細胞形成抑制活性(破骨細胞形成数)と細胞毒性(MTT活性)とを示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で示される3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン、式(II)
【化2】

で示されるセレビステロール、及びこれらの化合物の薬学的に許容される塩からなる群から選択される一つ以上を有効成分として含有することを特徴とする骨疾患治療剤。
【請求項2】
骨疾患が骨粗鬆症である、請求項1に記載の骨疾患治療剤。
【請求項3】
破骨細胞形成阻害剤である、請求項2に記載の骨疾患治療剤。
【請求項4】
有効成分が3β,5α−ジヒドロキシエルゴスタ−7,22−ジエン−6−オン及び/又はセレビステロールである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の骨疾患治療剤。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51793(P2009−51793A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222333(P2007−222333)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月25日 社団法人 日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会」に文書をもって発表
【出願人】(000141381)株式会社岩出菌学研究所 (14)
【出願人】(508021093)
【Fターム(参考)】