説明

骨疾患治療用磁場発生装置及び、それを用いた骨疾患治療の評価及び開発システム

【課題】本発明は骨形成に最適な磁場条件の評価システム及び骨疾患治療用磁場発生装置の提供を目的とする。
【解決手段】左右の磁心と上下の磁極とからなる略矩形形状の磁心枠と、当該磁心枠の左右の磁心の周囲にそれぞれ配設した励磁コイルを有するとともに、磁心枠の上下磁極の内側には磁場均一化凸部を有し、磁心枠の中央部が治療用空間であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
骨疾患治療に有効な磁場発生装置及びそれを用いた骨疾患治療の評価及び開発システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、魚がウロコでカルシウム代謝していることに着目し、これまでヒトの骨モデルになり得るか否か研究を進めてきた。
その結果、魚のウロコは骨芽細胞と破骨細胞が共存していることにより、両細胞の活性を同時に測定し、それらの相互作用を解析することで歯学、医学の骨研究領域では画期的な実験、評価モデルとなることが明らかになった。
ウロコは再生能力が非常に高い器官であり、ウロコの再生過程の組織学的観察から、ウロコを抜去後3日で、抜去前にウロコが存在していた場所に間葉細胞の集塊が現れ、この集塊中に骨基質が形成されることが明らかになった(非特許文献1、非特許文献2)。
骨基質の成長と平行して、骨芽細胞の活性が高くなり、再生ウロコは骨再生モデルとして最適であることが明らかになったことによって本願発明に至った。
【0003】
骨疾患の治療に、これまで用いられてきた磁場発生装置は、パルス波を印加したものであり、磁界の磁束密度分布に大きなバラツキがあった。
また、骨疾患に対してこれまで、50〜80mTの比較的強い磁場を約30分程度の短時間照射にて骨の治療が行われていたが、本願発明者らの解析では磁場が強いと骨の治療に悪影響が生じることも明らかになった。
【0004】
特開平7−8565号公報には、骨疾患治療用の磁気、刺激装置を開示するが、磁界の均一性が不十分で、しかも変動磁場の強さとして時間平均0.03〜0.5mTであり、これが骨形成に有効か否かは明らかではない。
【0005】
【非特許文献1】Hiroaki Yoshikubo,Nobuo Suzuki, Keiju Takemura, Masahiro Hoso, Sayaka Yashima,Shawichi Iwamuro,Yasuaki Takagi, Makoto J.Tabata and Atsuhiko Hattori,Osteoblastic activity and estrogenic response in the regenerating scale of goldfish, a good model of osteogenesis. Life Sciences, 76:2699-2709(2005)
【非特許文献2】鈴木信雄,田畑 純,和田重人,服部淳彦、魚類のウロコを用いた新しい骨モデル系の開発と歯科医療への応用, Dental Diamond,第31巻第13号:68-73(2006)
【特許文献3】特開平7−8565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は磁界の均一性に優れた磁場発生装置及び骨形成に最適な磁場条件の評価、開発システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る骨疾患治療用磁場発生装置は、左右の磁心と上下の磁極とからなる略矩形形状の磁心枠と、当該磁心枠の左右の磁心の周囲にそれぞれ配設した励磁コイルを有するとともに、磁心枠の上下磁極の内側には磁場均一化凸部を有し、磁心枠の中央部が治療用空間であることを特徴とする。
この場合に磁場は10〜100Hzの交流磁場、例えば50Hz、60Hzの商業周波数でよく、磁場強度は、少なくとも1〜10mTの範囲で制御可能になっている。
評価システムとして使用するには1mT未満及び10mTを超えて使用できるものがよいが治療用としては1〜10mTの範囲がよい。
【0008】
骨疾患の治療に最適な磁場の条件を検討するのに、魚体から一部のウロコを除去した魚を被検生物として磁場曝露下で飼育し、再生ウロコの骨芽細胞活性又は/及び破骨細胞活性を評価指標としたことを特徴とする。
骨芽細胞活性の指標としてはアルカリホスファターゼ活性、破骨細胞活性の指標としては酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、略矩形形状の磁心枠の上下磁極の内側に磁場均一化凸部を設けたことにより、従来の磁心にコイルを巻き付けただけのものに比較して、磁心枠の中央部に広くて、磁束密度分布が均一な治療用空間を形成することができる。
また、キンギョ等の魚のウロコ再生過程における骨形成解析システムを利用することで、骨形成に最適な磁場条件を得るための評価及び開発システムが得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る骨疾患治療用の磁場発生装置の構成例を図1〜図3に示す。
図1は磁場発生装置10の外観図を示し、図2は正面図を示し、図3は磁場発生部の要部図を示す。
磁場発生装置10は、左右の磁心11a、11bと上下の磁極11c、11dとからなる略矩形形状の磁心枠11を形成してある。
なお本実施例では、一対のコ字形状の磁心部材を対向配置し、突き合せ部11eで相互に突き合せて略矩形形状の磁心枠11にした例を示したが上下に磁場形成用の磁極が存在すれば突き合せ構造でなくても一体枠でもよい。
【0011】
本実施例においては、図1に示すように磁心枠11A、11B、11Cの三つを並列に配置し、その磁心の周囲を囲むようにして励磁コイル12a、12bを配置した例を示す。
また、磁心枠11を構成する上下の磁極11c、11dには内側に突出した磁場均一化凸部13a、13b、13c、13dを設けてある。
これにより磁心枠11の中央部に骨疾患の治療空間となる磁場空間23が形成されている。
なお、図1、2に示した架台21,上部固定枠22は磁心を固定するためのものでボルト(図示省略)等で連結してあり、磁場空間は左右の縦板23c、23d及び上下板23a、23bで仕切ってある。
12cはスペーサである。
【0012】
磁場発生装置のサイズは必要とする治療空間の大きさによるが図1に示した例について以下説明する。
1つの磁心枠は外形高さ160mm、横幅280mm、磁心厚み20mm、奥行80mmのものを三つ並設し、励磁コイルはコイル線径1.2mm、巻数600のものを4コ用いた。
また、磁場均一化凸部は高さが磁心厚みの約1/2の10mmで凸部幅20mmで左右の凸部の内側寸法約100mm、上下の凸部の頂面間寸法約100mmとなっていて評価用の磁場空間は80mm×80mm×150mmと設定した。
【0013】
図4〜図6に本実施例に用いた磁場発生装置10の磁場特性の測定結果を示す。
図4は磁界を模式的に示したもので、図5に示したline1〜6の線に沿って突き合せ部11eからの距離(cm)と磁場強度(mT)の関係の測定した結果から磁場空間80mm×80mm間で磁場が均一であることが分かる。
なお、図6にB−I特性線図を示す。
従来、U字型の底部にコイルを巻き、あるいはL字型の一方の磁心にコイルを巻き、コイルを巻いてない磁心部分を磁極としたものが多い。しかしその場合に、対向する磁極間の間に形成される磁界の分布は均一では無かった。
図4にて説明すると、本発明の場合に、磁極に磁場均一化凸部13aを設けたことにより、励磁コイル12a近傍の磁極間(図3にて、11cと11dとの間)の磁束密度が強くなり均一化する。
これにより、磁場均一化凸部13a、13b、13c、13dで囲まれた空間23が均一の磁場となり、骨疾患の磁場治療空間となる。
理想的には、左右の磁場均一化凸部の内側寸法と上下の磁場均一化凸部の頂面間寸法が概ね等しくなるように配置するのがよい。
【0014】
次にキンギョを用いて磁気の評価をした実験結果について説明する。
本発明に係る評価及び開発システムの前提となるキンギョのウロコ構成例を説明する。
ウロコ構造の模式図を図9(a)に示す。
ウロコは2層構造で、主体となる骨質層とそれを下から支持する線維層からなる。
表皮が被覆しており、ここに色素が存在するため、魚のウロコに色彩を与える。
骨質層のみを集めて成分分析にかけると、コラーゲンとハイドロキシアパタイトのピークが現われ、そのピークの形状からウロコが骨であることがわかる。
また骨質層の方面に生じる隆起線は、耳石と並んで魚類の年齢判定によく利用されており、一定の割合で外周へと増えていくことはよく知られている。
抜去する前のウロコとその周囲組織の模式図を図9(b)に示す。
骨質層の上に骨芽細胞と破骨細胞が並んでおり、線維層の下に線維芽細胞が並んでいる。
骨を形成する細胞が骨内部に存在しなく、付加的石灰化のみで骨を作っている。
その成長過程に軟骨が関与しないで直接化骨(軟骨が介在しない骨形成様式)である。
すなわち、ウロコはわれわれの頭蓋などでみられる膜性骨に近いが、それを構成する細胞は表面にのみ存在し、付加的石灰化のみで骨質層を形成する。
【0015】
(評価例)
キンギョ(16匹)を麻酔し、左側のウロコを取り除いた。
これらのキンギョ(魚)1を27℃で10日間飼育した。
ここで、10日間としたのは、非特許文献1,2に記載されているように、骨芽細胞の活性は、骨基質の成長と平行して、徐々に高くなり、10日目において最も高くなったからである。
餌は毎朝与え、水は毎日取り換えた。
飼育水槽30を磁場発生装置10に取り付け、60Hzの交流磁場を用いて磁場曝露した。
飼育水槽は水33を取り換えるための吸水管31と排水管32に連結してある。
この実験を、図6のデータに基づいて電流調整し、異なった磁場強度(1mT、3mT、5mT及び10mT)において4回行った。
図10に、飼育水槽30に商業電源を用いて3mTねらいの60Hz交流電流を通電した際の磁束密度分布測定結果を示す。
飼育水槽30の幅方向に対しても奥行き方向に対しても磁束密度(mT)が均一であることが分かる。
飼育開始から10日後に、キンギョ1を再び麻酔し、左側(再生ウロコ)のウロコをピンセットで抜き取り、10%ホルマリンを含む0.05Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)でウロコを固定し、0.05Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)で保存(4℃)した。
次にウロコの重量を測定し、96穴のマイクロプレートにウロコを1枚ずつ入れた。
破骨細胞の活性指標として酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)を用い、骨芽細胞の活性の指標としてアルカリフォスファターゼ(ALP)を使用し、磁場の骨組織に対する作用を調べた。
即ち、基質(10mMパラニトルフェノールリン酸)を含む緩衝液(骨芽細胞用:塩化マグネシウム(1mM)と塩化亜鉛(0.1mM)を含む0.1Mトリス緩衝液(pH9.5);破骨細胞用:酒石酸(20mM)を含む0.1M酢酸緩衝液(pH5.3))をウロコが入ったマイクロプレートに200μlずつ入れ、20℃で1時間反応し、骨芽及び破骨細胞の活性を測定した。
反応は2N水酸化ナトリウム(50μl)を加えることで停止し、その穴から150μlとり、別のマイクロプレートに移した。
次にマイクロプレートリーダーで測定(405nm)し、その吸光度からフォスファターゼにより生成されたパラニトルフェノール量を、標準曲線により求めた。
酵素活性は、ウロコ1mg当り、1時間で生成されたパラニトルフェノール量で示した。
磁場曝露せずに飼育した金魚をコントロールとし、その細胞活性を1.0とした場合の活性率化の比率を図7(a)に示す。
1mT以上で骨形成に影響を与え、3mTの磁場では骨芽及び破骨細胞の両方の活性を上昇させることから骨代謝亢進型の骨形成を促していることが明らかになった。
また、特徴的なのは、10mTの磁場では骨芽及び破骨細胞の両方の活性が低下することが明らかになり、10mTを超える磁場は逆に骨形成を阻害している。
また、図8にControl、3mT×10日間磁場曝露したウロコの写真を示す。
この写真観察においても磁場曝露にて骨形成が促進されていることが明らかである。
【0016】
次に、哺乳類においても磁場の影響を確認した。
生後4日のラットをエーテル麻酔で安楽死させ、頭蓋骨を切り出し、それを半分に切り、片方をコントロールとし、片方を磁場曝露に用い、2ml用のエッペンドルフチューブ(BM機器)にそれぞれ入れた。
次にそのチューブにHEPES(20mM)(pH7.0)及び抗生物質(1%)を含む培地(MEM、ICN Biomedicals Inc.)を1.5ml加えた。
そのチューブを3mTの磁場に37℃、20時間曝露し、破骨及び骨芽細胞の活性に及ぼす影響を調べた。
なお、コントロールは磁場に曝露せず、37℃で培養した。
曝露後、頭蓋骨は冷凍保存(−80℃)した。
分析直前に解凍し、500μlの蒸留水を入れ、超音波破壊機で破砕した。
遠心により残渣を除き、その上清中のTRAP及びALP活性をキンギョと同様な方法で測定した。
その結果を図7(b)に示すように、3mTの磁場にてラット頭蓋骨の骨形成に有効であることが明らかになった。
上述したとおり、骨形成には1mT以上で10mT以下がよく、特に効果が顕著なのは3mT〜5mTの範囲である。
この結果はキンギョのみならず哺乳類のラットでも確認ができたので、ヒトの骨疾患治療に有効であると思われ、骨粗鬆症等の骨疾患の治療にも利用できる。
また、魚の再生ウロコによる解析は、磁場による骨疾患の治療の研究に有効な評価及び開発システムであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る磁場発生装置の外観図を示す。
【図2】本発明に係る磁場発生装置の正面図を示す。
【図3】磁場発生の要部を示す。
【図4】磁界分布図を示す。
【図5】磁場強度変化を示す。
【図6】B−I特性を示す。
【図7】磁場曝露に対する細胞活性変化比率を示す。
【図8】ウロコの顕微鏡写真を示す。
【図9】キンギョのウロコの構造模式図を示す。
【図10】飼育水槽中の磁束密度分布測定結果を示す。
【符号の説明】
【0018】
1 魚
10 磁場発生装置
11(11A,11B,11C) 磁心枠
12a 励磁コイル
23 磁場空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の磁心と上下の磁極とからなる略矩形形状の磁心枠と、当該磁心枠の左右の磁心の周囲にそれぞれ配設した励磁コイルを有するとともに、磁心枠の上下磁極の内側には磁場均一化凸部を有し、磁心枠の中央部が治療用空間であることを特徴とする骨疾患治療用磁場発生装置。
【請求項2】
磁場は10〜100Hzの交流磁場であり、磁場強度は、少なくとも1〜10mTの範囲に制御可能であることを特徴とする請求項1記載の骨疾患治療用磁場発生装置。
【請求項3】
魚体から一部のウロコを除去した魚を被検生物として、請求項1又は2記載の磁場発生装置を用いて、再生ウロコの骨芽細胞活性又は/及び破骨細胞活性を評価指標としたことを特徴とする磁場による骨疾患の治療開発システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−200205(P2008−200205A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38259(P2007−38259)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】