説明

骨造成器具

【課題】本施術がより容易であり、患者への侵襲の小さい骨造成方法に使用される骨造成器具の提供。
【解決手段】この骨造成器具は、骨膜102bと骨面104との間に挿入されて骨面104を被覆する骨面被覆膜11と、骨面被覆膜11および骨膜102bを骨面104から挙上する上昇ナット12および上昇ボルト13と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨造成器具にかかり、特に骨を効果的に造成できる骨造成器具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯が欠損した場合の治療法としてインプラント治療は広く行われている。
しかしながら、インプラント導入予定部位において歯槽骨が不足する場合には、インプラントを植設するのが困難なので、そのような場合には歯槽骨において骨造成が行われる。
【0003】
骨造成方法としては、たとえば、歯槽骨からプレート状の移動骨片を切り出し、この移動骨片を、前記移動骨片を切り出した後の歯槽骨土台とプレートで連結するとともに、前記プレートに螺子機構を設け、この螺子機構によって前記移動骨片を前記歯槽骨土台から離間させることによって、前記移動骨片と歯槽骨土台との間で骨造成を行わせる方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、別の骨造成方法としては、延長させる範囲の上顎歯槽骨について粘膜骨膜を切開して髄質骨を露出させ、露出した髄質骨について上顎洞底に至る骨切りを行い、上顎洞底膜と髄質骨とを上顎洞内に押し上げて骨造成を行う方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−135478号公報
【特許文献2】特開2006−149460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの骨造成方法は、いずれも歯槽骨の骨切りを伴うから、施術が困難で、患者への侵襲が大きく、しかも長時間を要するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、施術がより容易であり、患者への侵襲の小さい骨造成方法が提供される骨造成器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、骨造成器具に関し、骨膜と骨面との間に挿入されて前記骨面を被覆する骨面被覆部材と、前記骨面被覆部材および前記骨膜を前記骨面から挙上する被覆部材挙上手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項1の骨造成器具においては、骨、たとえば歯槽骨における骨造成をしようとする範囲の骨膜を切開して骨面を露出させ、露出した骨面を前記骨面被覆部材で覆い、次いで前記骨面被覆部材の上側で骨膜を接合して切開前の状態に戻してから、前記被覆部材挙上手段で前記骨膜と骨面被覆部材とを挙上して前記骨膜と前記骨面との間に空間を形成する。そうすると、前記空間内部で骨が増殖することにより、前記骨面上に新たな骨が造成される。
【0010】
前記骨造成器具を用いることにより、骨造成をしようとする箇所において骨切りをすることなく骨造成を行うことができるから、患者への侵襲が小さく、高い安全性で、より容易に骨造成を行うことができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の骨造成器具において、前記骨面被覆部材が、可撓性を有する膜からなる骨面被覆膜であることを特徴とする。
【0012】
請求項2の骨造成器具においては、前記骨面被覆部材として骨面被覆膜を用いているから、骨膜と骨面との間に前記骨造成器具を設置すると、骨面と前記骨面被覆膜との間に密閉空間が形成される。したがって、前記骨造成器具を設置後、縫合または接着した骨膜の縫合部または接着部から万が一異物が侵入した場合においても、前記異物によって骨の造成が妨げられたり、感染を生じたりすることがない。また、前記骨面被覆膜を挙上させても前記骨面被覆膜の周縁部と前記骨面との密着状態が維持されるので、前記密閉空間内への他の細胞の侵入によって骨の造成が妨げられることがない。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の骨造成器具において、前記被覆部材挙上手段が、前記骨面被覆部材と前記骨面とに、前記骨面被覆部材と前記骨面とが互いに離間する方向の力を及ぼすことにより、前記骨面被覆部材および前記骨膜を挙上する内部挙上部材であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の骨造成器具においては、前記骨面被覆部材および前記骨膜を挙上する際、前記内部挙上部材は、前記骨膜被覆部材と前記骨面との間の空間に位置する。したがって、骨造成後、前記骨造成器具を除去すると、前記内部挙上部材が占めていた空間に対応する穴が新たに造成された骨に形成される。インプラント治療においては、この穴にインプラントを植設することができるから、新たに造成された骨にインプラントを植設するための穴をわざわざ穿孔する必要がない。
【0015】
なお 、請求項3に記載の骨造成器具において、前記内部挙上部材は、例えば、前記骨面被覆部材に固定された上昇ナットと、前記上昇ナットに螺合すると共に、先端において前記骨面を押圧する上昇ボルトと、を備える螺子式内部挙上部材である。
【0016】
前記螺子式内部挙上部材においては、上昇ボルトの回転角度によって前記骨面被覆部材および前記骨膜の挙上量を設定できるから、造成骨の成長に応じて、前記骨面被覆部材および前記骨膜の挙上量を徐々に増大させることができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1または2に記載の骨造成器具において、前記被覆部材挙上手段が、前記骨面被覆部材を前記骨面から離間する方向に前記骨膜の外側から牽引する牽引部材であることを特徴とする。
【0018】
請求項4の骨造成器具においては、前記骨面被覆部材を前記骨膜の外側から牽引して挙上しているから、挙上の際に前記牽引部材が骨面に接触することがない。また、骨膜の切開量を小さくすることも可能となる。したがって、前記内部挙上部材を用いる場合と比較して患者への侵襲がさらに小さい。
【0019】
なお、請求項4に記載の骨造成器具において、前記牽引部材は、例えば、前記骨面被覆部材に固定された牽引ナットと、前記牽引ナットに螺合する牽引ボルトと、前記骨膜の外側において前記牽引ボルトを所定の位置に保持する牽引ボルト保持部材と、を備える螺子式牽引部材である。
【0020】
前記螺子式牽引部材においては、牽引ボルトの回転角度によって前記骨面被覆部材の牽引量、ひいては挙上量を設定できるから、前記牽引量を徐々に増大させることによって前記骨面被覆部材および前記骨膜の挙上量を骨造成量に応じて徐々に増大させることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の骨造成器具において、前記骨面被覆部材の周縁部の少なくとも一部を前記骨面に固定する被覆部材固定手段を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項5の骨造成器具においては、前記骨面を前記骨面被覆部材で被覆後、前記骨面被覆部材の周縁部の少なくとも一部を被覆部材固定手段で骨面に固定するから、骨造成器具の設置後に骨面被覆部材の位置がずれることが防止される。
【0023】
なお、請求項5に記載の骨造成器具において、前記被覆部材固定手段は、好ましくは、リング状の部材である固定リングである。
【0024】
被覆部材固定手段として固定リングを用いれば、骨面被覆部材を骨面に均等な強さで固定できる。また、前記骨面被覆部材の周縁部を全周にわたって確実に前記骨面に密着させることができるから、前記骨面被覆部材を挙上させても前記骨面と前記骨面被覆部材との間の密閉空間に他の細胞が侵入せず、骨の造成が妨げられることがない。
【0025】
さらにまた、請求項2〜5の何れか1項に記載の骨造成器具において、前記骨面被覆膜は、シリコーンから形成されていることが好ましい。
【0026】
前記骨面被覆膜をシリコーンから形成すれば、伸縮性が高く、骨面の形状に馴染みやすいから、前記骨面被覆膜を挙上させたときの前記骨面被覆膜の周縁部と前記骨面との密着性をより向上させることができる。
【0027】
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の骨造成器具において、前記骨面被覆部材が生体吸収性材料から形成されていることを特徴とする。
【0028】
請求項6の骨造成器具においては、前記骨面被覆部材が生体吸収性材料から形成されているから、前記骨造成器具を設置後、最終的に、前記骨面被覆部材は生体に吸収されて消失してしまう。したがって、骨造成完了後に前記骨面被覆部材を除去する必要がなく、患者への侵襲がさらに小さい。
【0029】
なお、請求項6に記載の骨造成器具において、前記生体吸収性材料は、例えば、ゼラチン、キトサン、およびコラーゲンから選択された材料である。
【0030】
前記骨面被覆部材を形成する生体吸収性材料としてゼラチン、キトサン、およびコラーゲンから選択された材料を用いることにより、前記骨面被覆部材は生体吸収性を有するだけでなく、強度や弾性、柔軟性などの物理的特性にも優れたものとなる。
【0031】
ところで、前記骨造成器具を用いた骨造成方法は、骨を造成しようとする箇所の骨膜を切開して骨面を露出させる骨面露出工程と、前記骨面露出工程で露出された骨面を、請求項1〜6に記載の骨造成器具の備える骨面被覆部材で被覆する骨面被覆工程と、前記骨面露出工程で切開した骨膜を切開前の位置に戻して前記骨面被覆部材を被覆する骨膜戻し工程と、前記骨膜戻し工程で前記骨面被覆部材を被覆した骨膜を接合する骨膜接合工程と、前記骨膜接合工程で接合した骨膜、および前記骨面被覆部材を、前記骨造成器具の備える被覆部材挙上手段によって挙上する骨膜挙上工程と、を有する。
【0032】
前記骨造成方法においては、骨における骨造成をしようとする範囲の骨膜を切開して骨面を露出させ、露出した骨面を前記骨面被覆部材で覆い、次いで切開した骨膜を縫合して切開前の状態に戻してから、前記被覆部材挙上手段で前記骨膜と骨面被覆部材とを挙上して前記骨膜と前記骨面との間に空間を形成し、前記骨面上に骨組織を増殖させる。したがって、骨切りの必要がないから施術が容易であり、患者への侵襲が小さく、安全性が高い。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように本発明によれば、施術がより容易であり、患者への侵襲の小さい骨造成方法に使用される骨造成器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施形態1に係る骨造成器具の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る骨造成器具を用いて歯槽骨の骨造成を行う骨造成方法の一例について前半の手順を示す説明図である。
【図3】図3は、前記骨造成方法の後半の手順を示す説明図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る骨造成器具を用いて歯槽骨の骨造成を行う骨造成方法の別の例について前半の手順を示す説明図である。
【図5】図5は、前記骨造成方法の後半の手順を示す説明図である。
【図6】図6は、実施形態2に係る骨造成器具の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、実施形態3に係る骨造成器具の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の骨造成器具の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0036】
(1)実施形態1
図1に示すように、実施形態1に係る骨造成器具1は、後述する骨膜102bと骨面104との間に挿入される骨面被覆膜11と、骨面被覆膜11の中央部に設けられた上昇ナット12と、上昇ナット12に螺合して骨面被覆膜11を挙上する上昇ボルト13と、を有する。
【0037】
上昇ナット12の図1における下端部には、半径方向に沿って外側に延在するフランジ部121が形成され、上昇ナット12は、フランジ部121において骨面被覆膜11に固定されている。
【0038】
骨面被覆膜11は、図1では下向きのカップ状とされているが、骨面被覆膜11は、骨面104を被覆できるのであれば、カップ状には限定されず、円板状、または下向きの円錐状であってもよい。
【0039】
骨面被覆膜11は、通常はシリコーンから形成されるが、多孔性フッ素樹脂フィルムから形成されてもよく、ゼラチン、キトサン、およびコラーゲンなどの生体吸収性材料から形成されてもよい。生体吸収性材料から形成された骨面被覆膜11は、骨造成が終了した時点で生体に吸収されてしまうから、骨造成終了後に除去する必要がない点で好ましい。また、骨面被覆部材として、シリコーン等の可撓性の骨面被覆膜11ではなく、チタニウム等の金属プレート、ポリエチレン等の樹脂プレートを用いてもよい。さらにまた、骨面被覆部材に、骨形成を促進するタンパクを組み込むことにより、骨形成をさらに促進させるようにすることも可能である。
【0040】
上昇ナット12および上昇ボルト13は、チタニウム、アルミナ、アパタイト、窒化珪素などの生体適合性材料から形成される。但し、上昇ナット12については、ポリ乳酸樹脂やポリオール酸樹脂のような生体吸収性ポリマから形成されていてもよい。生体吸収性ポリマから形成された上昇ナット12もまた、骨造成が終了した時点で生体に吸収されてしまうから、骨造成終了後に除去する必要がない点で好ましい。また、被覆部材挙上手段として、上昇ナット12ではなく、上昇ボルト13が螺合するチタニウム等の金属プレート、ポリエチレン等の樹脂プレートを用い、これらのプレートを挙上させるようにすれば、プレート形状によって骨面被覆膜11の挙上形態を自由に変化させることができる。
【0041】
以下、骨造成器具1を用いて歯槽骨の造成を行う手順について説明する。
先ず、図2の(a)および(b)に示すように、歯槽骨100における骨造成を行う箇所の粘膜102aおよび骨膜102bを切開する。
【0042】
そして図2の(c)に示すように、切開した粘膜102aおよび骨膜102bを持ち上げて歯槽骨100の骨面104を露出させる。
【0043】
骨面104を露出させたら、図2の(d)に示すように、骨造成器具1を骨面104上に載置し、骨面104を骨面被覆膜11で覆う。この際、骨面被覆膜11の下に形成されたスペースに骨形成を促進するタンパクを適用することで、骨形成をさらに促進させることが可能である。骨面104を骨面被覆膜11で覆ったら、図2の(d)において矢印aで示すように、粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11と上昇ナット12とを覆う。
【0044】
粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11および上昇ナット12を覆ったら、図3(e)に示すように、粘膜102aおよび骨膜102bの切開箇所を縫合して密閉する。なお、粘膜102aおよび骨膜102bの切開箇所を縫合する代わりに外科用接着剤で接着してもよい。図3の(f)は、粘膜102aおよび骨膜102bを縫合、または接着して歯槽骨100の骨面104と骨膜102bとの間に骨造成器具1を設置した状態を示す。
【0045】
骨造成器具1を歯槽骨100の骨面104と骨膜102bとの間に設置したら、図3の(g)に示すように、上昇ボルト13を上昇ナット12が上昇する方向に回転させ、矢印bに示すように骨面被覆膜11とその上の骨膜102bおよび粘膜102aを挙上させ、骨面104と骨膜102bとの間に骨が成長するための空間106を形成する。なお、図3の(g)は、恰も骨面被覆膜11と骨膜102bと粘膜102aとを一挙動で挙上するように描かれているが、骨面104の上に新たな骨が成長するのに応じて上昇ボルト13を徐々に締め込み、骨面被覆膜11を挙上する高さを高くするのが好ましい。挙上のペースとしては、通常、1日に約1mmずつ高くし、最終的に10mm程度まで挙上させる。
【0046】
約1mmの挙上によって空間106が形成されると、空間106内の骨面104上で骨の成長が起こり、挙上と成長とが繰り返されることによって、図13(h)に示すように、造成骨108が形成される。
【0047】
骨造成が終了したら、粘膜102aおよび骨膜102bを再度切開して骨面被覆膜11と上昇ナット12とを除去し、造成骨108から上昇ボルト13を抜去する。なお、骨面被覆膜11が生体吸収性材料から形成され、上昇ナット12が生体吸収性ポリマまたはアパタイトのような生体吸収性セラミックスで形成されている場合は、骨造成が終了したときには、骨面被覆膜11は生体内に吸収されて消失し、上昇ナット12は造成骨108と一体化しているから、上昇ボルト13のみを抜去すればよい。
【0048】
造成骨108から上昇ボルト13を抜去すると穴が残るが、この穴は、インプラントを植設するための穴として利用できる。
【0049】
なお、図2および図3に示す例では、骨造成器具1において上昇ボルト13を交換することなく、締めこむ深さを深くすることによって骨面被覆膜11と粘膜102aおよび骨膜102bとの挙上高さを高くしているが、図4の(a)に示すように、骨造成器具1においては上昇ナット12に長さの異なる複数の上昇ボルト13(13a、13b、13c)が螺合できるようにし、造成骨108の成長高さに応じて上昇ボルト13を長さの短いものから長いものへと交換してもよい。なお図4の(a)に示す例においては、上昇ボルト13のうち、上昇ボルト13aが最も短く、上昇ボルト13cが最も長い。そして上昇ボルト13bは上昇ボルト13aと上昇ボルト13cとの中間の長さを有する。
【0050】
骨造成器具1において上昇ボルト13を交換しつつ、骨面被覆膜11と粘膜102aおよび骨膜102bの挙上高さを高くする場合には、図14の(b)に示すように、骨造成器具1においては上昇ナット12に最も長さの短い上昇ボルト13aを螺合させて歯槽骨100に設置する。
【0051】
空間106が造成骨108で充填されたら、図14の(c)に示すように、上昇ボルト13aを上昇ボルト13bに交換し、図5の(d)に示すように、上昇ボルト13bを回転させて上昇ナット12を上昇させ、造成骨108の表面である新たな骨面104と骨面被覆膜11とを離間させて骨面104上に空間106を形成する。空間106が形成されると、新たな骨面104で骨が成長し、造成骨108が更に成長する。
【0052】
空間106aが造成骨108で充填されたら、図15の(e)に示すように、上昇ボルト13bを上昇ボルト13cに交換し、上昇ボルト13cを回転させて上昇ナット12を上昇させ、造成骨108の表面である新たな骨面104と骨面被覆膜11とを離間させて新たな空間106を形成する。空間106が形成されると、新たな骨面104で骨が成長し、造成骨108が更に成長する。
【0053】
図15(f)は、図15(e)で形成された空間106が造成骨108で充填された状態を示す。図4および図5に示す例のように、造成骨108の成長高さに応じて上昇ボルト13を長さの短いものから長いものへと交換すれば、粘膜102aからの上昇ボルト13の突出を最小限にできるので、患者の口腔内の違和感を少なくすることが可能となる。
【0054】
なお、図2〜図5に示す骨造成方法は、上述のように歯槽骨100を対象とするものであるが、歯槽骨100は、通常、馬の鞍状の形状を有するから、骨面104上に骨造成器具1の骨面被覆膜11および上昇ナット12は、縫合または接着した粘膜102aおよび骨膜102bによって所定位置に保持される。また、骨面被覆膜11の周縁部が全周にわたって骨面104に密着する。したがって、骨面被覆膜11を骨面104に特に固定しなくても、骨面被覆膜11の位置に大きなずれが生じることがなく、空間106への他の細胞の侵入等により、骨の成長が妨げられることもない。
【0055】
実施形態1の骨造成器具1は、歯槽骨100に骨切を行う必要がないから、患者への侵襲が小さい。
【0056】
また、従来の骨造成法には、粘膜102aおよび骨膜102bを切開後、伸張して骨面104と骨膜102bとの間に空間を形成し、この空間にコラーゲン等を充填した後、粘膜102aおよび骨膜102bを縫合する方法がある。
【0057】
これに対して、実施形態1で述べた骨造成器具1を用いた骨造成法では、粘膜102aおよび骨膜102bを切開して骨面104を露出させた後、骨面被覆膜11で骨面104を被覆して粘膜102aおよび骨膜102bを接合し、その後、骨面被覆膜11と骨面104との間に空間106を形成している。
【0058】
したがって、実施形態1で述べた骨造成器具1を用いた骨造成法では、粘膜102aおよび骨膜102bを縫合する前に伸張することは行っていないから、粘膜102aおよび骨膜102bを伸張後、縫合することによる血行不良や感染が生じることがない、故に、前記血行不良による歯槽骨の栄養不良や歯槽骨の感染が防止されるから、造成骨108の成長が速い。
【0059】
(2)実施形態2
図6に示すように、実施形態2に係る骨造成器具2は、骨面被覆膜11の周縁部を骨面104に確実に密着させるため、被覆部材固定手段として固定リング14および固定リング14を骨面104に固定するための固定螺子15を有する以外は、実施形態1の骨造成器具1と同様の構成を有している。
【0060】
固定リング14には、ポリエチレン樹脂やフッ素樹脂製のリングが使用され、固定螺子15にはチタニウムなどの生体適合性材料が使用されるが、これらの材料には限定されない。固定リング14にポリ乳酸樹脂やポリオール酸樹脂のような生体吸収性ポリマを使用し、固定螺子15にアパタイトなどの生体吸収性セラミックスを使用すれば、固定リング14や固定螺子15は、骨造成後には生体に吸収されて消失しているから骨造成後に除去する必要がなく、好ましい。また、被覆部材固定手段として、固定リング14を用いることなく、ステープラーの針のような形状のもので骨面被覆膜11の周縁部を直接固定したり、固定螺子15ではなく、ステープラーの針のようなもので固定リング14を固定してもよい。
【0061】
骨造成器具2を用いて歯槽骨の造成を行う手順については、骨面104を骨面被覆膜11で覆った後、粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11を覆う前に、固定リング14と固定螺子15とで骨面被覆膜11の周縁部を骨面104に固定する点を除いては、実施形態1と同様である。
【0062】
実施形態2の骨造成器具2を用いた骨造成法では、骨面104を骨面被覆膜11で覆った後に固定リング14と固定螺子15とで骨面被覆膜11の周縁部4箇所を骨面104に固定してから、粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11を覆っている。したがって、実施形態2の骨造成器具2を用いた骨造成法は、実施形態1の骨造成器具1を用いた骨造成法の有する長所に加えて、歯槽骨の収縮が激しく、粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11を覆っただけでは骨面被覆膜11を固定できない場合や、そのままでは骨面被覆膜11の周縁部を骨面104に密着させることが困難な箇所においても、骨造成を容易に実施できるという特長がある。
【0063】
(3)実施形態3
図7に示すように、実施形態3の骨造成器具3は、歯槽骨100における骨造成を行う箇所の骨膜102bと骨面104との間に挿入される骨面被覆膜11と、骨面被覆膜11の中央部に設けられた牽引ナット16と、牽引ナット16に螺合して骨面被覆膜11を挙上する方向に牽引する牽引ボルト17と、歯槽骨100における骨造成を行う箇所に隣接している2本の歯牙110および112に固定されるとともに、牽引ボルト17を回転可能に保持する牽引ボルト保持部材18と、を有する。
【0064】
牽引ナット16の図7における下端部には、半径方向に沿って外側に延在するフランジ部161が形成され、牽引ナット16は、フランジ部161において骨面被覆膜11に固定されている。
【0065】
図7に示すように、牽引ボルト保持部材18は、両端に設けられた固定バンド19において歯牙110および歯牙112に固定される。一方、牽引ボルト17は、牽引ボルト保持部材18の中央部に設けられたボルト支持部18aにおいて回転可能に支持される。これによって、牽引ボルト17は、粘膜102aおよび骨膜102bの外側において回転可能に保持される。
【0066】
骨面被覆膜11については実施形態1のところで述べたとおりである。
【0067】
牽引ナット16および牽引ボルト17は、チタニウム、アルミナ、アパタイト、窒化珪素などの生体適合性材料から形成される。但し、牽引ナット16については、ポリ乳酸樹脂やポリオール酸樹脂のような生体吸収性ポリマから形成されていてもよい。生体吸収性ポリマから形成された牽引ナット16もまた、骨造成が終了した時点で生体に吸収されてしまうから、骨造成終了後に除去する必要がない点で好ましい。
【0068】
以下、骨造成器具3を用いて歯槽骨の造成を行う手順について説明する。
実施形態1のところで述べたように、先ず、歯槽骨100における骨造成を行う箇所の粘膜102aおよび骨膜102bを切開し、切開した粘膜102aおよび骨膜102bを持ち上げて歯槽骨100の骨面104を露出させる。
【0069】
次に、骨面被覆膜11を骨面104上に載置し、牽引ボルト保持部材18の固定バンド19を歯牙110および歯牙112に固定し、牽引ボルト17をボルト支持部18aに挿通し、牽引ナット16に螺合させる。
【0070】
そして、粘膜102aおよび骨膜102bを切開前の位置に戻して骨面被覆膜11と牽引ナット16とを覆い、粘膜102aおよび骨膜102bの切開箇所を縫合または接着して密閉する。そして、牽引ボルト17を回転させ、骨面被覆膜11を骨面104から離間する方向に牽引して空間106を形成する。この空間106内の骨面104上で骨の成長が起こり、造成骨108が形成される。
【0071】
実施形態3の骨造成器具3を用いた骨造成法は、実施形態1の骨造成器具1を用いた骨造成法の有する長所に加えて、牽引ボルト17の先端が骨面104に接触しないために、患者への侵襲が更に小さいという特長を有する。また、可撓性の骨面被覆膜11の表面に、粘膜102aから突出する牽引突起を一体的に形成し、この牽引突起を利用して骨面被覆膜11を牽引するようにすれば、骨膜102bと骨面104との間に挿入する部材を可撓性の骨面被覆膜11だけにできるから、実施形態1の骨造成器具1を用いた骨造成法に比べて、粘膜102aおよび骨膜102bの切開量を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 骨造成器具
2 骨造成器具
3 骨造成器具
11 骨面被覆膜
12 上昇ナット
13 上昇ボルト
13a 上昇ボルト
13b 上昇ボルト
13c 上昇ボルト
14 固定リング
15 固定螺子
16 牽引ナット
17 牽引ボルト
18 牽引ボルト保持部材
18a ボルト支持部
19 固定バンド
100 歯槽骨
102a 粘膜
102b 骨膜
104 骨面
106 空間
108 造成骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨膜と骨面との間に挿入されて前記骨面を被覆する骨面被覆部材と、
前記骨面被覆部材および前記骨膜を前記骨面から挙上する被覆部材挙上手段と、
を備える骨造成器具。
【請求項2】
前記骨面被覆部材は、可撓性を有する膜からなる骨面被覆膜である請求項1に記載の骨造成器具。
【請求項3】
前記被覆部材挙上手段は、前記骨面被覆部材と前記骨面とに、前記骨面被覆部材と前記骨面とが互いに離間する方向の力を及ぼすことにより、前記骨面被覆部材および前記骨膜を挙上する内部挙上部材である請求項1または2に記載の骨造成器具。
【請求項4】
前記被覆部材挙上手段は、前記骨面被覆部材を前記骨面から離間する方向に前記骨膜の外側から牽引する牽引部材である請求項1または2に記載の骨造成器具。
【請求項5】
前記骨面被覆部材の周縁部の少なくとも一部を前記骨面に固定する被覆部材固定手段を備える請求項1〜4の何れか1項に記載の骨造成器具。
【請求項6】
前記骨面被覆部材は生体吸収性材料から形成されている請求項1〜5の何れか1項に記載の骨造成器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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