説明

骨髄全体の分化

【課題】神経学的障害の処置において使用するための神経始原細胞の、効率よい、かつ、大規模の生成方法を提供する。
【解決手段】臨床的に有意な容量の神経始原細胞を生産する方法が提供される。この方法は:少なくとも1つの幹細胞を含む哺乳動物から得られる細胞の塊を提供する工程;および線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮増殖因子(EGF)を含む培地においてその少なくとも1つの幹細胞を培養して、臨床的に有意な容量の神経始原細胞を生産する工程、を包含する。骨髄細胞の塊は、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮増殖因子(EGF)を補充した培養物中で増殖され得る。さらに、本発明の方法は、この様式で、培養された神経始原細胞を、種々の神経病理状態の処置において、および罹患したまたは損傷した組織へと、特定の遺伝子でトランスフェクトした細胞を送達するように標的化することにおいて、利用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明の実施形態は、哺乳動物の骨髄全体から、臨床的に相当な容量の神経始原細胞を生成するための方法に関する。さらに、本発明の実施形態は、この様式で培養された神経始原細胞を用いた神経学的障害の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
動物の体内(神経から血液、骨まで)のほぼすべての細胞は、幹細胞のおかげでその存在がある。幹細胞は、(i)自分自身を新生する能力を有し;および(ii)非対称的な細胞分裂を通じて、1つのタイプより多くの細胞(すなわち、分化した細胞)を生成し得る細胞として一般に定義されている。F.M.Waft and B.L.M.Hogan,「Out of Eden.Stem Cells and Their Niches」,Science,284,1427−1430(2000)。幹細胞は、始原細胞と呼ばれる幹細胞の1つのタイプを生じる。始原細胞は、ついで、身体を構成する分化細胞へと増殖する。
【0003】
先行技術は、幹細胞から分化細胞への発達を、体中の種々の組織について記載している。米国特許第5,811,301号は、例えば、その開示は本明細書において参考として援用するが、これは、血液を含む種々の細胞の発達である、造血のプロセスを記載する。このプロセスは、多能性幹細胞(生物体のすべての細胞を生じ得る細胞である;多能性幹細胞以外により大きな発達可塑性を示す細胞は1つ(これは、受精卵であり、この受精卵は、単一の全能性幹細胞であり、子宮へと移植されるとき、生物全体を生じ得る)しかない)であり得るものから開始する。多能性幹細胞は、骨髄幹細胞を生じる。特定の成熟促進ポリペプチドは、骨髄幹細胞を分化させて前駆体細胞とする。この前駆体細胞は、ついで、種々の始原細胞へと分化する。種々のリンパ細胞、好中球、マクロファージ、および体の血液組織を含む他の細胞へと増殖する細胞は、この始原細胞である。
【0004】
造血のこの説明は、当然ほとんど不完全である。生物学は、血液のすべての細胞の完全な系統を決定するに至っていない(例えば、骨髄幹細胞と、それを生じる始原細胞との間の前駆体細胞のすべてはまだ同定されていない)し、そして骨髄細胞がどうやってまたはなぜ始原細胞へと分化するのかもまだ正確に決定されていない。たとえそうだったとしても、造血は、特によく研究されているが、なおも、他の臓器系の発達よりも知られていない。脳およびその発達については、例えば、米国特許第6,040,180号(その開示は、本明細書において参考として援用する)は、「脳発達の間の組織形成の理解の現在の欠如」を記載する。米国特許第5,849,553号(その開示は、本明細書において参考として援用する)は、「神経堤細胞の発達能力に関する当該分野の技術における不確実性」を記載する。
【0005】
幹細胞の同定および単離は、研究者のやる気を何十年もの間そいできた。今日に至るまで、個々の神経幹細胞または造血幹細胞を同定したものはいない。F.H.Gage,「Mammalian Neural Stem Cells」,Science,287,1433−1488(2000)。ここでは、2つの原理的な困難性が存在する。第一に、幹細胞は珍しい。例えば、造血が生じる骨髄において、数十億の骨髄細胞について1つの幹細胞が存在するのみである。G.Vogel,「Can Old Cells Learn New Tricks?」Science,287,1418−1419(2000)。第二におよびより重要なことに、研究者らは、幹細胞にユニークな分子マーカーを同定することができなかったのである代表的なイムノアッセイについて、ほとんどの幹細胞は、任意の他の細胞とおなじに見える。同上。この課題をよりひどくするのは、原始的な幹細胞は静止期にあり得ることである。結果として、幹細胞は、分子マーカーをほとんど発現しないかもしれない。(F.H.Gage,前出)。
【0006】
臨床的に有意な量で幹細胞を有効に単離し、そしてそれらを培養するための方法は、非常に重要である。研究者らは、すでに、未熟なニューロンを移植しており、これは、おそらく、ヒト胎児から神経障害を伴う成体患者までにおいて、神経幹細胞を含むと予測される。この手順は、1つの研究においてパーキンソン病を伴う患者のうち、50%までもの症状を減少させた。M.Barinaga,「Fetal Neuron Grafts Pave the Way for Stem Cell Therapies」、Science,287,1421−1422(2000)。この手順の欠点の多く(これは、胎児由来の物質を用いるという倫理的および実際上の困難点および成体脳組織からの物質の採取という固有の複雑な状態を含む)は、単離された幹細胞の培養物を使用すること、または成体個体から得られた幹細胞を使用することによって取り組まれ得る。D.W.Pincus et al.,Ann.Neurol.43:576−585(1998);C.B.Johansson et al.,Exp.Cell.Res.253:733−736(1999);およびS.F.Pagano et al.,Stem Cells 18:295−300(2000)。しかし、神経学的障害の処置において使用するための神経始原細胞の、効率よい、かつ、大規模の生成は、課題である。
【0007】
近年の証拠によって、中枢神経系の外にある始原細胞および骨髄細胞がニューロンまたはグリアのいずれかを、インビボで産生する能力を特に有し得ることが示唆されている。非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;および非特許文献4。骨髄ストローマ細胞もまた、複雑でかつ数週間に亙る時間のかかる培養プロセスの後に、インビトロでニューロンおよびグリアへと分化する能力を有することが示された。しかし、骨髄細胞全体からの神経始原細胞の生成は、報告されていない。
【非特許文献1】J.G.Toma et al.,Nat.Cell BioL 3:778−783 (2001)
【非特許文献2】E.Mezey et al.,Science 290:1779−1782(2000)
【非特許文献3】T.R.Brazleton et al.,Science 290:1775−1779(2000)
【非特許文献4】M.A.Eglitis et al.,Proc Natl.Acad.Sci.94:4080−4085(1997)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
臨床的に有意な容量の神経始原細胞を生産する方法であって、その方法は:
少なくとも1つの幹細胞を含む哺乳動物から得られる細胞の塊を提供する工程;および
線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮増殖因子(EGF)を含む培地においてその少なくとも1つの幹細胞を培養して、臨床的に有意な容量の神経始原細胞を生産する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の骨髄から得られる、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記細胞の塊は、成体哺乳動物から得られる、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記細胞の塊は、胎仔から得られる、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の脳から得られる、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記培地は、補充物をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記補充物は、B27、N2およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記培地は、さらなる化合物をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
上記さらなる化合物は、インターロイキン−3(IL−3)、幹細胞因子−1(SCF−1)、ソニックヘッジホッグ(Shh)、fms様チロシンキナーゼ(Flt3)リガンド、白血病阻害因子(LIF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
上記培地は、抗生物質をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
上記抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目11に記載の方法。
(項目13)
上記神経始原細胞のクラスターは、上記培地中で成長し、そして上記方法は、その培地から少なくとも1つのクラスターを分離する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する工程をさらに包含する、項目13に記載の方法。
(項目15)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する上記工程は、FGF−2およびEGFを含む培地中でその少なくとも1つのクラスターを培養する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目16)
神経病理状態を処置するための方法であって、その方法は:
少なくとも1つの幹細胞を含む、哺乳動物から得られた細胞の塊を提供する工程;
線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮増殖因子(EGF)を含む培地においてその少なくとも1つの幹細胞を培養して、神経始原細胞を生産する工程;および
哺乳動物にその神経始原細胞を投与する工程、
を包含する、方法。
(項目17)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の骨髄から得られる、項目16に記載の方法。
(項目18)
上記細胞の塊は、成体哺乳動物から得られる、項目16に記載の方法。
(項目19)
上記細胞の塊は、胎仔から得られる、項目16に記載の方法。
(項目20)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の脳から得られる、項目16に記載の方法。
(項目21)
上記培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である、項目16に記載の方法。
(項目22)
上記培地は、補充物をさらに含む、項目16に記載の方法。
(項目23)
上記補充物は、B27、N2およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目22に記載の方法。
(項目24)
上記培地は、さらなる化合物をさらに含む、項目16に記載の方法。
(項目25)
上記さらなる化合物は、インターロイキン−3(IL−3)、幹細胞因子−1(SCF−1)、ソニックヘッジホッグ(Shh)、fms様チロシンキナーゼ(Flt3)リガンド、白血病阻害因子(LIF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目24に記載の方法。
(項目26)
上記培地は、抗生物質をさらに含む、項目16に記載の方法。
(項目27)
上記抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目26に記載の方法。
(項目28)
上記神経始原細胞のクラスターは、上記培地中で成長し、そして上記方法は、その培地から少なくとも1つのクラスターを分離する工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目29)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する工程をさらに包含する、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する上記工程は、FGF−2およびEGFを含む培地中でその少なくとも1つのクラスターを培養する工程をさらに包含する、項目29に記載の方法。
(項目31)
上記神経病理状態は、脳腫瘍、脳虚血、卒中、脊髄損傷および神経変性障害からなる群より選択される、項目16に記載の方法。
(項目32)
上記神経始原細胞を投与する工程は、臨床的に有意な容量の神経始原細胞を投与する工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目33)
上記臨床的に有意な容量の神経始原細胞は、上記神経病理状態を処置するに十分である、項目32に記載の方法。
(項目34)
生物学的化合物を送達するための方法であって、その方法は:
少なくとも1つの幹細胞を含む哺乳動物から得られる細胞の塊を提供する工程;
線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮増殖因子(EGF)を含む培地においてその少なくとも1つの幹細胞を培養して、神経始原細胞を生産する工程;
その神経始原細胞にその生物学的化合物の局所産生を行わせる遺伝子を有させる工程;および
その神経始原細胞を哺乳動物に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目35)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の骨髄から得られる、項目34に記載の方法。
(項目36)
上記細胞の塊は、成体哺乳動物から得られる、項目34に記載の方法。
(項目37)
上記細胞の塊は、胎仔から得られる、項目34に記載の方法。
(項目38)
上記細胞の塊は、上記哺乳動物の脳から得られる、項目34に記載の方法。
(項目39)
上記培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である、項目34に記載の方法。
(項目40)
上記培地は、補充物をさらに含む、項目34に記載の方法。
(項目41)
上記補充物は、B27、N2およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目40に記載の方法。
(項目42)
上記培地は、さらなる化合物をさらに含む、項目34に記載の方法。
(項目43)
上記さらなる化合物は、インターロイキン−3(IL−3)、幹細胞因子−1(SCF−1)、ソニックヘッジホッグ(Shh)、fms様チロシンキナーゼ(Flt3)リガンド、白血病阻害因子(LIF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目42に記載の方法。
(項目44)
上記培地は、抗生物質をさらに含む、項目34に記載の方法。
(項目45)
上記抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目44に記載の方法。
(項目46)
上記神経始原細胞のクラスターは、上記培地中で成長し、そして上記方法は、その培地から少なくとも1つのクラスターを分離する工程をさらに包含する、項目34に記載の方法。
(項目47)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する工程をさらに包含する、項目46に記載の方法。
(項目48)
上記少なくとも1つのクラスターを継代培養する上記工程は、FGF−2およびEGFを含む培地中でその少なくとも1つのクラスターを培養する工程をさらに包含する、項目47に記載の方法。
(項目49)
上記生物学的化合物は、サイトカイン、脳由来神経栄養性因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン(NT−3)、ニューロトロフィン−4(NT−4)、ニューロトロフィン(NT−5)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、アミロイド前駆体タンパク質、プロテアーゼネキシン−1、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目34に記載の方法。
(項目50)
上記神経始原細胞は
0、神経病理状態を処置するために投与される、項目34に記載の方法。
(項目51)
上記神経病理状態は、脳腫瘍、脳虚血、卒中、脊髄損傷および神経変性障害からなる群より選択される、項目50に記載の方法。
(項目52)
上記神経始原細胞を投与する工程は、臨床的に有意な容量の神経始原細胞を投与する工程をさらに包含する、項目34に記載の方法。
(発明の要旨)
本明細書において記載される本発明は、臨床的に有意な量の神経始原細胞を生産するための効率よい方法を提供する。これらの神経始原細胞は、骨髄または他の適切な供給源から生産され得、そして種々の状態、特に神経病理状態を処置するために使用され得る。神経始原細胞が罹患したかまたは損傷した神経組織を追跡する能力に起因して、およびそのような組織の欠失した機能をさらに復元する能力に起因して、本発明の細胞は、神経組織自体が損傷している状態の処置において特に有用である。
【0009】
本発明のなおさらなる実施形態は、種々の化合物の送達を損傷したかまたは罹患した神経組織へと標的化するために、神経始原細胞を使用することを記載する。神経始原細胞は、そのような化合物の細胞自体での分泌を誘導する遺伝子を有するようにされ得るか、またはそのような化合物を、例えば、特定の生化学的経路を開始させるかまたは促進することによって、局所的な産生を行わせるようにされ得る。これらの遺伝子を有する神経始原細胞が罹患した神経組織または損傷した神経組織を追跡し得ることから、その特定の化合物の送達は、それに対応して、そのような組織へと標的化され得る。二連の処置効果は、この神経始原細胞が、欠失したかまたは損傷した神経組織機能を復元し、他方で、同時に治療化合物の標的化された送達を行う場合に達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、神経始原細胞の生存可能な代替供給源としての成体骨髄に基づく。この神経始原細胞は、種々の神経病理状態に関する治療戦略において使用され得る。
【0011】
神経始原細胞が見出されると予想される任意の細胞集団は、本発明の方法に従って使用され得る。そのような細胞集団としては、例えば、哺乳動物骨髄、脳組織、または任意の適切な胎仔組織を挙げることができる。好ましくは、細胞は、非胎仔哺乳動物の骨髄由来であり、最も好ましくはヒトに由来する。米国特許第6,204,053 B1号および同5,824,489号(これらの開示は、本明細書において参考として援用される)は、幹細胞を含むかまたは含むと考えられる細胞のさらなる供給源を同定する;これらの任意の細胞は、本発明の方法に従って使用され得る。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、細胞の塊は、例えば、ヒト成体骨髄などの適切な供給源から採取され得るか他の方法で得られ得る。その後、細胞の塊は、培養物中で増殖され、そして所望される場合、さらに継代培養されて、さらなる細胞の塊を生成することができる。任意の適切な培養培地が、本発明の方法に従って使用される(例えば、無血清ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F−12培地)。
【0013】
本発明の培地は、種々の培地補充物、成長(増殖)因子、抗生物質およびさらなる化合物を含むことができる。補充物としては、例示的に、B27補充物および/またはN2補充物(両方とも、Invtrogen Corporationから入手可能)を含み得る。増殖因子としては、例示的に、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)、上皮増殖因子(EGF)、および/または白血病阻害因子(LIF)を挙げることができ;そして抗生物質としては、例示的に、ペニシリンおよび/またはストレプトマイシンが挙げられ得る。本発明の好ましい実施形態では、増殖因子は、約15ng/ml〜約25ng/mlの量で含まれ得る。本発明において使用するために適切なさらなる化合物としては、例えば、インターロイキン−3(IL−3)、幹細胞因子−1(SCF−1)、ソニックヘッジホッグ(Shh)、およびfms様チロシンキナーゼ−3(Flt3)リガンドを挙げることができるがそれらに限定されない。いずれの理論に拘束されることを希望しないが、これらの特定の化合物は、本発明の方法に従って、球の産生を増強し得ると考えられる。さらなるまたは置換の補充物、増殖因子、抗生物質、および本発明の方法に使用するために適切なさらなる化合物は、当業者によって容易に認識され得、そしてこれらは、本発明の範囲内にあることが企図される。本発明の最も好ましい実施形態において、培養培地は、DMEM/F−12培地(B27を補充)であり、そしてさらに、両方とも10ng/mlのFGF−2およびEGF、ならびにペニシリンおよびストレプトマイシンを含む。
【0014】
十分な時間の後(一般に、約3〜約6日時間)、神経始原細胞のクラスター(例えば、球)が培養培地中で形成され得る。この培地中では、上記のように得られた幹細胞が含まれている。神経始原細胞の個々のクラスターは、その培地から取り除かれ得、そして互いに別々に継代培養され得る。そのような分離は、臨床的に有意な容量の神経始原細胞を生成するために任意の所望の回数反復され得る。これらの神経始原細胞は、種々の神経細胞(例えば、星状細胞、ニューロンおよび乏突起神経膠細胞)へと分化する能力を有し得る。
【0015】
本明細書において用いられる「臨床的に有意な容量」とは、疾患状態(神経病理状態を含む)の治療処置において利用されるに十分な細胞の量である。さらに、本明細書において使用されるように「処置」とは、疾患を改善させること、その合併症の重篤性を軽減すること、疾患が現れることを防ぐこと、疾患の再発を防ぐこと、単に疾患の悪化を予防すること、疾患に含まれる所望されない生物学的応答(例えば、炎症)を緩和すること、または上記の任意の効果を達成するための治療上の努力(そのような治療上の効果は最終的に失敗であったとしても)を含むがそれらに限定されない。
【0016】
本発明の神経始原細胞は、潜在的な、臨床および治療上の適用の宿主、ならびに医学研究における適用を有する。2つの可能な治療機構としては、(1)細胞が移植後に移動する能力を利用することによって、遺伝子産物のための送達ビヒクルとしてその細胞を使用すること;および(2)その細胞を用いて損傷したかまたは不在の神経組織を復元することによって組織機能を回復または増強することが挙げられる。
【0017】
以下の実施例において考察され、そして上記に示す第一の治療機構を参酌すると、本発明の神経始原細胞は、インビボで罹患したかまたは損傷した組織を「追跡」する能力を有する。従って、この細胞は、罹患したかまたは損傷を受けた組織の処置において有用な種々の化合物の標的化された送達を支援するために使用され得る。そのような化合物の送達は、遺伝子でその細胞をトランスフェクトすることによって達成され得る。この遺伝子は、例えば、化合物自体を細胞が構成的に分泌するよう誘導し、またはその化合物の局所的産生をもたらす生化学経路を促進するように誘導する。
【0018】
従って、本発明の1つの実施形態において、神経始原細胞は、トランスフェクトされるかまたは他の方法によって、任意の従来の方法論により、特定の遺伝子を有するようにされ得る。そのような方法論としては、プラスミドとして、特定の遺伝子を神経始原細胞に導入すること、またはより好ましくは、体細胞遺伝子移入を用いて、適切な遺伝子配列を含むウイルスベクターを利用してその細胞をトランスフェクトすることが挙げられ得る。適切なウイルスベクターとしては、組み換えアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスまたはレンチウイルスに基づく発現ベクターが挙げられるがそれらに限定されないが、非ウイルスベクターもまた、代替的に使用され得る。本発明の好ましい実施形態では、アデノウイルス血清型5(「Ad5」)ベースのベクター(Quantum Biotechnology,Inc.,Montreal,Quebec,Canadaから入手可能)を使用して、本発明の神経始原細胞へと所望の遺伝子配列を送達および発現させる。一旦所望の遺伝子を有するようにされると、神経始原細胞は、哺乳動物に移植または他の方法で投与され得る。
【0019】
この治療機構を用いることによって、本発明の神経始原細胞を用いて、種々の病理状態;その神経始原細胞が罹患または損傷している組織を追跡する点にまで哺乳動物神経組織が罹患または損傷している潜在的に任意の状態を処置し得る。神経病理障害の領域において、この治療様式は、種々の状態の処置において使用され得る。これらのうちのいくつかの例としては、脳腫瘍(例えば、免疫応答を増強するサイトカインまたは他の薬剤の送達を標的化することによるか、または腫瘍細胞に他の様式で毒性の化合物の送達を標的化することによる);脳虚血(例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、およびニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4およびニューロトロフィン−35(NT−3、NT−4およびNT−5)のような神経保護物質の送達を標的化することによる);脊髄損傷(例えば、再び、神経保護物質の送達を標的化することによるか、または塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インスリン様増殖因子−1(IGF−1)、およびグリア由来神経栄養因子(GDNF)のような神経突起成長を誘導する物質の送達を標的化することによる;ならびに神経変性障害(例えば、アルツハイマー病またはパーキンソン病(例えば、再び、神経保護物質または増殖因子の送達の標的化によるか、またはアミロイド前駆体タンパク質またはプロテアーゼネキシン−1のような他の神経保護因子の送達の標的化による)が挙げられ得る。
【0020】
以下の実施例において考察され、そして上記第二の治療機能を参酌すると、本発明の神経始原細胞はまた、インビボでニューロンおよびグリアを復元することができる。従って、この細胞は、罹患したかまたは損傷した神経組織を復元するために使用され得、そして細胞がインビボで、罹患したかまたは損傷した組織を追跡するさらなる能力に起因して、一旦投与されると、その細胞は、それら自身が、この治療機能をもたらすために、適切な生理学的部位を形成することができる。
【0021】
本発明の神経始原細胞が欠失または損傷した神経組織機能を復元する能力を考慮すると、これらの細胞は、多数の神経病理学的状態の処置において有用であり得る。これらの状態の多くは、上記に列挙したものに類似する。例示として、細胞がトランスフェクトされていないか、または他の方法で特定の遺伝子を有するようにされていない状態であったとしても、その細胞は、脳腫瘍、脳虚血、脊髄損傷および種々の神経変性障害の処置において使用され得る。
【0022】
実際には、トランスフェクトまたは他の方法で所望の遺伝子を有するようにされる、神経始原細胞はまた、この機構において考察される、さらなる神経細胞機能復元能力を提供し得、それによって、レシピエントに二重の処置効果を付与する。二重の処置効果としては、欠失または損傷した細胞機能の復元(例えば、第二の治療機構による)と、同じ領域への有利な化合物の標的化送達(例えば、第一の治療機構による)との組み合わせを含み得る。従って、脳腫瘍処置の例示的な例において、神経始原細胞は、遺伝子(この遺伝子は、サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子(TNF)またはインターロイキン−1(IL−1))分泌を誘導する)でトランスフェクトされ得、そしてレシピエントの脳に移植または他の方法で投与され得る。一旦投与されると、その細胞は、腫瘍によって損傷した組織を追跡し得、欠失した脳機能の少なくとも一部を復元し得、他方で、その腫瘍細胞に対して免疫応答を誘導し得るサイトカインを同時に分泌し得る。この二重の処置効果は、以下の実施例においてさらに記載される。
【0023】
上記のように培養により開発された神経始原細胞は、哺乳動物に移植または他の方法で投与されて、以上に考察されるような治療機構が実現され得る。一旦移植または他の方法で投与されると、これらの細胞は、罹患した組織(例えば、脳腫瘍、卒中または他の神経変性疾患によって損傷した組織などを含むがそれらに限定されない)の領域へと再配置され得る。さらに、神経始原細胞は、インビボで増殖し得、そしてさらに、それが広がる(例えば、腫瘍が広がる)に従って、罹患した組織を追跡し得る。移植は、任意の適切な方法によって実施され得る。これは、例えば、注射、接種、注入、直接の外科送達、またはこれらの任意の組み合わせのように、当業者によって過度な実験を要することなく容易に確かめられる。
【実施例】
【0024】
本明細書において引用されるすべての文献は、本明細書においてその全体が参考として援用される。以下の実施例は、本発明の方法に従って、神経始原細胞を培養するために使用され得る手順の代表例である。さらなる実施例は、本発明の別の実施形態に従って、神経学的障害を処置するために、これらの細胞へ遺伝子移入するか、および/または患者にこれらの細胞を移植するために使用され得る手順の代表例である。これらの実施例の改変は、当業者には明白である。
【0025】
(実施例1:神経始原細胞の単離および調製)
骨髄全体を、Fisherラット成体(16週齢〜24週齢)の大腿から採取した。培養物を、ポリ−D−リジンコーティングされた24ウェルプレートに1ウェルあたり10細胞の密度で配置した。これらの細胞を、B27(Gibco BRL(Gaithersburg,MD)から得た)、20ng/mlのFGF−2および20ng/mlのEGF(両方とも、Sigma Chemical Co.;St.Louis,MO(本明細書以後「Sigma」と称する)から入手可能)、ならびにペニシリンおよびストレプトマイシン(両方とも、Omega Scientific,Inc.;Tarzana,CAから入手可能)を補充した無血清ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F−12培地中で培養した。
【0026】
培養4日後、約10と約100細胞との間の多数の浮遊する球が、基礎になる接着単層から離れて別個に見ることができた(図1A)。これらの球を収集し、別個に継代培養した(図1B)。これらの細胞凝集物は、増幅を続け、そして増殖速度は、多数回の剥離および継代の後でさえ、安定のままであった。これらの球においてネスチン(神経幹細胞について、公知のマーカー、U.Lendahlら、Cell 60:585−595(1990))について多数の細胞が陽性と試験された(図2Cおよび図2D)。
【0027】
継代培養4日後に採られた球を、増殖因子のない培地で、ラミニンコーティングされた24ウェルプレートに配置した。接着した球および各々の球の外側の縁にある細胞は、突起伸長を開始し、そして接着の初期の部位から移動を開始した(図1C)。形成された球は、プレートの底から剥離し、そしてその後自由に浮遊したままであり(図1D)、多数の形態を示した(図4A)。神経始原細胞は、GFAPを発現し(図4Bおよび図4C)、そして初期の神経マーカーNeuNを発現した(図4Dおよび図4E)。分散した細胞もまた、後期ニューロンマーカーMAP2を発現した(図4F)。骨髄由来球を、同系動物の海馬に移植し、そしてNeuNを発現する細胞が見出された(図4G)。これら細胞のいくつかは、海馬構造に組み込まれた(図4H)。データをまた、CNPアーゼ(図4I)およびNF200(図4Jおよび4K)を含む、免疫組織化学のための他の抗体を利用して収集した。
【0028】
神経球(すなわち、神経組織由来の細胞)および骨髄由来球は、形態学的には識別不可能であった(図2Aおよび図2B)。ネスチン発現のパターンは、両方において類似していた(図2Cおよび図2D)。しかし、骨髄由来の球は、外胚葉性マーカーであるいビメンチンを発現し(図3A)、そしてまた、フィブロネクチンについての弱い染色を示した(図3B)。さらに、骨髄由来球は、CD90の強い発現を示し(図3C)、そして球の細胞のほとんどはまた、ニューロゲニン1の核での発現を示した(図3D)。
【0029】
(実施例2:複製欠損アデノウイルスベクターを利用した神経始原細胞の遺伝子移入)
βガラクトシダーゼについてのレポーター遺伝子またはサイトカインIL−12についての遺伝子のいずれかを有する5型複製欠損アデノウイルスベクターを用いて、神経始原細胞をインビトロで感染させた。感染後24時間で、成功裏の遺伝子移入を、β−ガラクトシダーゼ含有アデノウイルス感染した始原細胞について、X−gal染色(Gene Therapy Systems,Inc.から入手可能なX−gal Staining Assay Kit、;San Diego,CA)を用いて確認し、そしてIL−12遺伝子含有アデノウイルス感染した始原細胞について、IL−12酵素結合イムノソルベント検定法(BD Pharmingenから入手可能な「ELISA」キット;San Diego,CA)を用いて確認した。
【0030】
β−ガラクトシダーゼの成功裏の遺伝子移入を、X−galについての陽性の染色、およびβ−ガラクトシダーゼを有するアデノウイルス感染した始原細胞におけるβ−ガラクトシダーゼが生成する青色沈降物によって確認した(図5)。IL−12の成功裏の遺伝子移入を、IL−12遺伝子含有アデノウイルス感染した始原細胞から採取された培地中に陽性の光互変性のELISA反応によって確認した(表1)。
【0031】
【表1】

(実施例3:二重変異された単純ヘルペスウイルスI型を利用した神経始原細胞の遺伝子移入)
潜伏活性化転写物(LAT)をコードする遺伝子およびγ34.5遺伝子を欠損する単純ヘルペスウイルスI型(DM33と表示されるウイルス)を利用した。このウイルスは、GFPについての遺伝子を、強力なLATプロモーターの制御下に含み、そして従って、任意の成功裏に感染された細胞に対してGFPの構成的発現を付与する。このベクターを使用して、神経始原細胞をインビトロで感染させた。感染72時間後、成功裏の遺伝子移入を、蛍光顕微鏡のもとでGFP発現を観察することによって確認した(図6)。
【0032】
GFP発現を、DM33で感染して72時間後には神経始原細胞において見ることができた。このことによって、神経始原細胞への遺伝子移入のために単純ヘルペスI型を成功裏に利用する能力を確認した。
【0033】
(実施例4:神経始原細胞は、星状細胞、ニューロンおよび希突起神経膠細胞へ分化する能力を有する)
神経始原細胞を、インビトロで、レチノイン酸(既知の分化刺激剤)を含む必須増殖因子が欠如した培養培地中に再配置した。培養物の表面を、ポリ−D−リジン(Sigmaから入手可能)でコーティングして、分化しつつある細胞の付着を促進した。
【0034】
3日から4日後、神経始原細胞は、培養物表面に接着し、そして星状細胞、ニューロンおよび希突起神経膠細胞へと分化していた。これらの細胞の存在を、これらの3つの系統全てについての既知マーカーについて、免疫組織化学染色を行うことによる陽性の集団によって具体的に確認した。具体的には、培養物集団における星状細胞は、GFAPについて陽性であった。ニューロンは、β−IIIチューブリンについて陽性であった。そして、希突起神経膠細胞は、CNPアーゼについて陽性であった。このことは、本発明の神経始原細胞の多能性および真の始原性の特性を確認する。
【0035】
(実施例5:神経始原細胞は、インビボで脳腫瘍細胞の拡散を追跡する)
神経始原細胞を、上記実施例2に記載されるように、β−ガラクトシダーゼについての遺伝子を有する複製欠損アデノウイルスに感染させた。次いで、これらの細胞を、それぞれ、その右の大脳半球に確立したGL26脳腫瘍を有するC57bl/6マウスへと、腫瘍内移植した。11日後、マウスを安楽死させ、そしてその脳をすぐに採取し、凍結し、そしてクリオスタット(Janis Research Company、Inc.;Wilmington,MAから入手可能)を用いて切片化した。ついで、凍結した切片を、X−gal染色溶液で染色して、脳腫瘍内のβ−ガラクトシダーゼ発現神経始原細胞の存在を検出した。
【0036】
神経始原細胞は、主な腫瘍の塊において明らかに見ることができた。さらに、神経始原細胞は、主な腫瘍塊から外に移動した腫瘍細胞のポケットを追跡して明確に見ることができた。このことは、神経始原細胞が、脳を通じて拡散する腫瘍細胞のポケットを能動的に追跡する能力を明確に実証する。
【0037】
(実施例6:神経始原細胞は、インビボで、虚血性の脳損傷を追跡する)
Wistarラットの大脳中部動脈を、糸塞栓(thread embolus)で2時間にわたり閉塞させた。灌流圧力の低下によって、閉塞の有効性を確認した。神経始原細胞を、上記実施例2に記載されるように、β−ガラクトシダーゼについての遺伝子を有する複製欠損アデノウイルスで感染させた。細胞を、大脳中部動脈閉塞の後すぐまたは2時間後のいずれかで、頭蓋内に注入した。48時間後、ラットを安楽死させ、そしてその脳をすぐに採集し、凍結し、そして切片化した。次いで、新鮮に凍結した切片を、X−gal染色溶液を用いて染色し、脳におけるβ−ガラクトシダーゼ発現神経始原細胞の存在を検出した。
【0038】
神経始原細胞は、切片化した脳において明らかに同定可能であった。このことは、これらの細胞は、血液脳関門を容易に横切ることができることを示す。移植された細胞を、脳の虚血部分中にわたり、ほとんど、病理組織に浸潤する単一細胞として分布していた(図8)。いずれの理論にも束縛されることを望まないが、これは、損傷した組織に由来する化学走性の刺激に対するその細胞の応答の部分であり得ると考えられる。この細胞はまた、脳の正常な部分に見出され得、そしていくつかの細胞は、髄膜に配置されていた。
【0039】
(実施例7:神経始原細胞は、胎仔脳組織から生成され得る)
組織神経球を、上記実施例1において骨髄に関して記載される様式に類似する様式で、胎仔の脳初代培養物から生成した(すなわち、細胞を、B27、20ng/ml FGF−2、および20ng/ml EGF、ならびにペニシリンおよびストレプトマイシンを補充した無血清DMEM/F−12培地中で培養した)。神経幹細胞は、採取後2〜3日で球状の凝集物へと成長し、そして増殖因子補充培地で培養した(図7A)。これらの神経球は、ネスチンを発現する神経始原細胞を含んでいた(図7B)。
【0040】
神経幹細胞を、細胞を分化させるように誘導した後に、改変した培養条件中に再配置した。ニューロンは、β−IIIチューブリンを発現し(図7C)、星状細胞は、GFAPを発現し(図7D)、そして希突起神経膠細胞は、CNPアーゼを発現した(図7E)。AdLacZにインビトロで感染した神経幹細胞は、β−ガラクトシダーゼを発現した(図7F)。
【0041】
(実施例8:神経始原細胞は、インビボで腫瘍細胞を追跡する)
神経始原細胞−LacZを接種した、神経膠腫を有するマウスからの腫瘍を、X−galで染色し、そしてニュートラルレッドで対比染色した。腫瘍の広がりの4つの異なるパターンが検出され、そして神経始原細胞は、各々の症例において、移動する神経膠腫を追跡することが見出された:(1)隣接する正常な脳の深みへの腫瘍細胞の薄い成長;(2)隣接する組織への腫瘍塊の直接の伸長;(3)白質路に沿った、原発性腫瘍床から外への神経膠腫細胞の移動;および(4)主な腫瘍の塊から独立した腫瘍マイクロサテライト(それぞれ、図9A〜図9D)。腫瘍マイクロサテライト(図9D)に示される腫瘍細胞中に、β−ガラクトシダーゼ陽性神経始原細胞が散在していた。このことは、高解像度の顕微鏡写真で明らかになった(図9E)。
【0042】
神経始原細胞を、大脳半球の反対側の既存の腫瘍に接種した。この始原細胞を、左の大脳半球に導入した(図9F,左パネル)が、反対側の半球における腫瘍の近傍へと、特異的なランダムでない移動が実証された(図9F、右パネルおよび挿入ボックス)。神経始原細胞は、青色を呈した(β−ガラクトシダーゼの発現を示す)。他方、腫瘍細胞は、赤(細胞過多(hypercellular)の領域が神経赤(neural red)で徹底的に染色された)を。従って、神経始原細胞は、インビボにおいて広がりつつある神経膠腫についての強力な親和性を示す。
【0043】
(実施例9:サイトカインでトランスフェクトされた神経始原細胞は、インビボで局所的な免疫応答を誘導する)
神経始原細胞を、IL−12、3T3−IL−12またはLacZのいずれかを分泌するように細胞を誘導する遺伝子で、上記実施例2に記載されるようにトランスフェクトした。これらの神経始原細胞を、ラットの神経膠腫を有する脳へと接種した。
【0044】
フローサイトメトリー分析により、IL−12および3T3−IL−12を分泌する神経始原細胞を接種した脳においてT細胞の腫瘍内の強力な浸潤が見られた(図10A、それぞれ、左および中央のパネル)。しかし、LacZを分泌する神経始原細胞を接種した脳における腫瘍内のT細胞の含量は、はるかにより低く(図10A,右パネル)、そして偽トランスフェクトした神経始原細胞および生理食塩水を接種した神経膠腫において見られる浸潤に匹敵していた(データ示さず)。
【0045】
IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した腫瘍は、CD4+およびCD8+のT細胞の強力な浸潤を示した(図10D、それぞれ、左パネルおよび右パネル)。ここで、腫瘍/正常な組織境界に沿って多数の凝集物が伴う(図10D)。3T3−IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した腫瘍もまた、CD4+およびCD8+のT細胞の浸潤を実証した(図10B、それぞれ、左パネルおよび右パネル)。ここで、陽性の細胞は、腫瘍組織内に散在していた。しかし、LacZを分泌する神経始原細胞で処置した腫瘍は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞による腫瘍の浸潤を無視し得る程度に提示した(図10C,それぞれ、左パネルおよび右パネル)。
【0046】
原発性腫瘍床からの類似の成長における、T細胞浸潤の比較分析において、IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した脳における腫瘍マイクロサテライトは、強力なT細胞浸潤を実証したが、他方、3T3−IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した脳は、実証しなかった(図10E、それぞれ、左パネルおよび右パネル)。
【0047】
(実施例10:β−ガラクトシダーゼでトランスフェクトした神経始原細胞は、インビボで腫瘍細胞を追跡する)
RG2腫瘍細胞(培地5μl中100,000)を、Wistarラットの線条へと定位深部移植した。腫瘍移植後2日で、β−ガラクトシダーゼ遺伝子を有するアデノウイルスに感染した骨髄由来細胞を30,000個を、同じ部位に移植した。免疫組織学的分析を、細胞移植後60日後に行った。図12に示されるように、LacZについて染色される細胞は、10倍(図12A)および40倍(図12B)の倍率で、主な腫瘍の塊から外に移動する腫瘍の成長物において見出され得る。この切片を、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0048】
本発明の特定の実施形態に言及して上記説明を行ったが、多くの改変が、本発明の趣旨を逸脱することなくなされ得ることが理解される。添付の特許請求の範囲は、そのような改変を網羅することを意図しており、それらは、本発明の真の範囲および趣旨の中にある。従って、本明細書において開示される実施形態は、すべてが例示的であり、制限すると解釈されてはならない。本発明の範囲は、上記説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示される。従って、特許請求の範囲の等価物の意味および範囲内に入るすべての変化が、本発明に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本特許のファイルは、カラーで製作されるべき少なくとも1つの図面を含んでいる。カラー図面を伴う本特許のコピーは、請求および必要な料金の支払いによって特許商標庁によって提供される。
【図1】図1は、本発明の実施携帯に従って、ヒト骨髄から得られた神経始原細胞を示す。図1Aは、ポリ−D−リジンに配置されるとき、培養後4日に異なる細胞球を生じる単層を形成する、骨髄全体由来の細胞を示す。図1Bは、より高い倍率で図1Aの球を示す。細胞は、容易に収集され、継代培養され、そして増殖因子の存在下で別個に増殖され得る。図1Cは、この球が、一旦分化すると、接着し、そして細胞が外側に向けて移動し始めることを示す(矢印は、移動細胞を示す)。図1Dは、形成した球が底から剥離し、その後自由に浮遊したままであることを示す。
【図2】図2は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、ヒト骨髄から得られた神経始原細胞を示す。図2Aおよび2Bは、それぞれ、神経球(すなわち、神経細胞由来の球)および骨髄由来球が形態学的に識別できなかったことを示す。図2Cおよび2Dは、ネスチン発現パターン(赤)が、それぞれ、神経球および骨髄由来球の両方において類似することを示す。細胞核は、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で濃縮されることに起因して青色を提示する。
【図3】図3は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従ってヒト骨髄から得られた神経始原細胞を示す。図3Aは、骨髄由来球が外胚葉性マーカーのビメンチンを発現したことを示す。図3Bに示されるように、フィブロネクチンについての弱い染色もまた、神経始原細胞において観察された。図3Cに示されるように、骨髄由来球は、CD90の強い発現を示し、そして図3Dに示されるように、球状のその細胞の大多数は、ニューロゲニン1(Neurogenin 1)の核発現を示す。
【図4−1】図4は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従う、骨髄由来細胞のニューロンおよびグリアへの分化を示す。増殖因子を枯渇させた培地における基材への配置の後、骨髄由来細胞球は接着し、そして最初に接着した部位から移動して去り、そして図4Aに示されるように多様な形態を示した。図4Bおよび図4Cは、それぞれ分化後8日目および9日目の、グリア細胞マーカー線維性酸性タンパク質(GFAP)を発現する、本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。図4Dおよび4Eは、分化後8日目の神経マーカーNeuron Specific Enolase(NSE)を発現する本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。分散した細胞もまた、図4Fで示されるように、後期神経マーカーMAP2を発現した。骨髄由来球の同系動物の海馬への移植後、図4Gにおいて示されるように、NeuNを発現する細胞が見出された。これらの細胞のいくつかは、図4Hに示されるように、海馬構造へと統合されることが明らかであった。図4I、4Jおよび4Kは、免疫細胞学のために使用される代替の抗体を用いた。骨髄由来細胞の類似の文化を示す。図4Iは、40倍の倍率での乏突起神経膠細胞マーカーであるCNPアーゼ(1:400、Sigma)の使用を示す。他方、図4Jおよび図4Kは、ニューロンマーカーNF200(1:100 Chemicon)を、それぞれ20倍および40倍の倍率での使用を示す。
【図4−2】図4は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従う、骨髄由来細胞のニューロンおよびグリアへの分化を示す。増殖因子を枯渇させた培地における基材への配置の後、骨髄由来細胞球は接着し、そして最初に接着した部位から移動して去り、そして図4Aに示されるように多様な形態を示した。図4Bおよび図4Cは、それぞれ分化後8日目および9日目の、グリア細胞マーカー線維性酸性タンパク質(GFAP)を発現する、本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。図4Dおよび4Eは、分化後8日目の神経マーカーNeuron Specific Enolase(NSE)を発現する本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。分散した細胞もまた、図4Fで示されるように、後期神経マーカーMAP2を発現した。骨髄由来球の同系動物の海馬への移植後、図4Gにおいて示されるように、NeuNを発現する細胞が見出された。これらの細胞のいくつかは、図4Hに示されるように、海馬構造へと統合されることが明らかであった。図4I、4Jおよび4Kは、免疫細胞学のために使用される代替の抗体を用いた。骨髄由来細胞の類似の文化を示す。図4Iは、40倍の倍率での乏突起神経膠細胞マーカーであるCNPアーゼ(1:400、Sigma)の使用を示す。他方、図4Jおよび図4Kは、ニューロンマーカーNF200(1:100 Chemicon)を、それぞれ20倍および40倍の倍率での使用を示す。
【図4−3】図4は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従う、骨髄由来細胞のニューロンおよびグリアへの分化を示す。増殖因子を枯渇させた培地における基材への配置の後、骨髄由来細胞球は接着し、そして最初に接着した部位から移動して去り、そして図4Aに示されるように多様な形態を示した。図4Bおよび図4Cは、それぞれ分化後8日目および9日目の、グリア細胞マーカー線維性酸性タンパク質(GFAP)を発現する、本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。図4Dおよび4Eは、分化後8日目の神経マーカーNeuron Specific Enolase(NSE)を発現する本発明の神経始原細胞(DAPIで対比染色した細胞核)を示す。分散した細胞もまた、図4Fで示されるように、後期神経マーカーMAP2を発現した。骨髄由来球の同系動物の海馬への移植後、図4Gにおいて示されるように、NeuNを発現する細胞が見出された。これらの細胞のいくつかは、図4Hに示されるように、海馬構造へと統合されることが明らかであった。図4I、4Jおよび4Kは、免疫細胞学のために使用される代替の抗体を用いた。骨髄由来細胞の類似の文化を示す。図4Iは、40倍の倍率での乏突起神経膠細胞マーカーであるCNPアーゼ(1:400、Sigma)の使用を示す。他方、図4Jおよび図4Kは、ニューロンマーカーNF200(1:100 Chemicon)を、それぞれ20倍および40倍の倍率での使用を示す。
【図5】図5は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、β−ガラクトシダーゼ遺伝子を有する複製欠損アデノウイルスベクターを使用した、神経始原細胞への遺伝子移入することを示す。
【図6】図6は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従う、グリーン蛍光タンパク質(GFP)を有する二重単純ヘルペスI型に感染した、神経始原細胞を示す。
【図7】図7は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、胎仔脳初代培養物から生成される神経球を示す。図7Aは、球の凝集物へと成長した神経始原細胞を示す。図7Bは、これらの神経球によるネスチン発現を示す(DAPIで対比染色された核)。ニューロンは、β−IIIチューブリンを発現し、そして星状細胞はGFAPを発現し、そして乏突起神経膠細胞は、CNPアーゼを発現していた(それぞれ、図7C、7Dおよび7E)。図7Fは、AdLacZにインビトロで感染された神経始原細胞による、β−ガラクトシダーゼの発現を示す。倍率:図7B、7C、7Dおよび7Eについて400倍;図7Aおよび7Fについて100倍。
【図8】図8は、カラーで製作され、そして本発明の実することを示す。単一の細胞は、脳組織中に広く分布する(図8A)。移植された細胞は、損傷した脳幹神経節に対して親和性を示す(図8B;400倍の倍率)。
【図9】図9は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、インビボで腫瘍細胞を追跡する神経始原細胞を示す。図9Aは、隣接する正常な脳の深みへ腫瘍細胞が薄く成長することを示す。図9Bは、隣接する組織へ腫瘍の塊が直接伸びていくことを示す。図9Cは、白質路(tract)に沿った、原発性腫瘍床から離れる神経膠腫細胞の移動を示す。図9Dは、主な腫瘍の塊から独立した腫瘍マイクロサテライト(microsatellite)を示す。図9Eは、図9Dに示されたマイクロサテライトの高解像度の顕微鏡写真を示す。これは、さらに、腫瘍細胞に散在するβ−ガラクトシダーゼ陽性神経始原細胞を示す。図9Fは、神経始原細胞(左パネル)の接種、および腫瘍の塊(右パネル)を示す。腫瘍の塊には、反対側の半球(はめ込みボックス)から神経始原細胞が移動する。神経始原細胞は、青色(β−ガラクトシダーゼを発現する)を呈するが、他方、腫瘍細胞は、赤色(神経赤で強く染色される超細胞領域)を呈す。「T」は、腫瘍の塊、成長およびマイクロサテライトを示す。矢印は、腫瘍のポケットへの移動の直後に、神経始原細胞が散在することを示す。
【図10−1】図10は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、腫瘍内のCD4+およびCD8+のT細胞の浸潤を示す。図10Aは、IL−12を分泌する神経始原細胞(左パネル)および3T3−IL−12(中央パネル)で処置した脳組織における腫瘍内のT細胞浸潤、ならびにLacZを分泌する神経始原細胞(右パネル)で処置した組織における浸潤の相対的欠如を実証するフローサイトメトリー分析を示す。3T3−IL−12、LacZおよびIL−12(それぞれ、図10B、図10Cおよび図10D)を分泌する神経始原細胞で処置した組織におけるCD4+(左パネル)およびCD8+(右パネル)の腫瘍内の浸潤を示す。IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した組織中の腫瘍/正常な組織の境界に沿って凝集物が現れた(図10D、矢印は凝集物を示す)。図10Eは、IL−12および3Y3−IL−12(図10E、それぞれ、左および右のパネル)を分泌する神経始原細胞で処置した組織について、原発性腫瘍床からの同様の成長物におけるT細胞の浸潤の比較を示す。「T」は、腫瘍を示し、「N」は、正常な脳組織を示す。倍率:図10B、10Cおよび10Dについて、100倍;および図10Eについて200倍。
【図10−2】図10は、カラーで製作され、そして本発明の実施形態に従って、腫瘍内のCD4+およびCD8+のT細胞の浸潤を示す。図10Aは、IL−12を分泌する神経始原細胞(左パネル)および3T3−IL−12(中央パネル)で処置した脳組織における腫瘍内のT細胞浸潤、ならびにLacZを分泌する神経始原細胞(右パネル)で処置した組織における浸潤の相対的欠如を実証するフローサイトメトリー分析を示す。3T3−IL−12、LacZおよびIL−12(それぞれ、図10B、図10Cおよび図10D)を分泌する神経始原細胞で処置した組織におけるCD4+(左パネル)およびCD8+(右パネル)の腫瘍内の浸潤を示す。IL−12を分泌する神経始原細胞で処置した組織中の腫瘍/正常な組織の境界に沿って凝集物が現れた(図10D、矢印は凝集物を示す)。図10Eは、IL−12および3Y3−IL−12(図10E、それぞれ、左および右のパネル)を分泌する神経始原細胞で処置した組織について、原発性腫瘍床からの同様の成長物におけるT細胞の浸潤の比較を示す。「T」は、腫瘍を示し、「N」は、正常な脳組織を示す。倍率:図10B、10Cおよび10Dについて、100倍;および図10Eについて200倍。
【図11】図11は、カラーで作製され、本発明の実施形態に従って、ラットの海馬へのGFPを発現する神経始原細胞の移植を示す。図11Aは、移植された細胞の移動を示す(緑)。図11Bは、NSE(赤)およびGFPとNSEとを一緒に(黄色)発現する個々の細胞を示す。移植された細胞は、NSEについて染色され、そしてGFP(緑)、NSE(赤)、ならびにグリーン蛍光タンパク質(GFP)およびNSEの併せた画像(緑および赤)を示す(それぞれ図11C、11Dおよび11E)。倍率:図11Aについて100倍;図11Bについて630倍;および図11C、11Dおよび11Eについて200倍。
【図12】図12は、カラーで製作され、そして10倍(図12A)および40倍(図12B)で、主な腫瘍塊から外に移動する腫瘍成長においてみられる、LacZについて染色される神経始原細胞を示す。切片を、ヘマトキシリンで対比染色した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の、神経始原細胞を生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−99709(P2008−99709A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338253(P2007−338253)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願2003−538356(P2003−538356)の分割
【原出願日】平成14年10月18日(2002.10.18)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】