説明

骨髄幹細胞(BMSC)を骨分化させる方法およびその使用

本発明は、インビトロまたはエクスビボでヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、およびそれらを含む細胞集団を得る方法であって、該骨髄幹細胞を、ヒト血清または血漿および、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体に接触させるステップを含む方法を提供する。さらに、本発明は、新規な骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞型、およびそれらを含む細胞集団を提供するが、その際、該細胞集団は、好ましくは内皮細胞または前駆体などの細胞型をさらに含みうる。関連する態様では、本発明は、特に治療、好ましくは骨治療の分野における上記方法の使用、その方法を使用して得られる細胞および細胞集団の使用、ならびに具体的に本明細書に記載した細胞型および細胞集団の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ある態様では、本発明は、骨髄幹細胞(BMSC)を骨形成的に、そして好ましくは少なくとも部分的に、内皮的にも分化させるインビトロ法またはエクスビボ法、ならびにそのように分化した細胞の応用に関する。別の態様では、本発明は、既に開示されている骨前駆細胞および骨芽細胞に類似するが、それよりも新規な特性を示す細胞の特定の型および集団に関する。関連する態様では、本発明は、特に治療、好ましくは骨治療の分野における上記方法の使用、その方法を使用して得られる細胞および細胞集団の使用、ならびに具体的に本明細書に記載した細胞型および細胞集団の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
重篤な骨形成不全症小児において、同種骨髄移植の実現可能性は実証されている(非特許文献1)。その研究では、機能性の髄由来間葉系細胞が移植され、新規な高密度骨の形成に寄与し、移植した細胞が骨生成骨芽細胞に分化したことが示された。また、自家骨髄移植は、上腕頭の骨壊死を患う患者でも報告された(非特許文献2)。従って、特に新規な骨の生成が必要な治療の場合、骨分化することができる幹細胞、または骨分化に関与している細胞の移植は、骨関連疾患の治療の有望な手段であろう。
【0003】
従って、骨関連疾患の治療法として移植に適切な細胞、特に自家細胞を十分な量で提供する効率的技術に対しては大きなニーズがある。
【0004】
未分化の骨髄幹細胞も移植しうるが、これらの細胞はまだ骨形成系統に関与しておらず、従って移植した幹細胞の相当な比率が、骨組織の形成に最終的に寄与しない可能性がある。さらに、骨髄幹細胞のインビトロ培養によって、骨髄幹細胞をFGF−2などの増殖因子で処理したとき、その増殖能および分化を受けうるその能力が低下することが実証されている(非特許文献3)。例えば、その研究では、インビトロ培養した骨髄幹細胞の骨形成効率は、一回継代ですら、新たに単離した骨髄と比較して36分の1に減少した。従って、骨髄幹細胞をインビトロ増殖すると、移植での骨形成骨芽細胞の供給源としてのその効率が減少する恐れがある。
【0005】
Martinら(非特許文献4)は、ウシ胎仔血清(FCS)成分と組み合せて、線維芽細胞増殖因子2型(FGF−2)の存在下で骨髄幹細胞をインビトロ培養すると、たとえ細胞が特異的骨形成培養条件下でインビトロ骨分化を受ける受容能があっても、細胞は未成熟状態(低アルカリホスファターゼおよび線維芽細胞様形態)に保たれることを示している。しかしながら、該未成熟細胞の骨生成骨芽細胞へのインビボにおける分化は、依然として移植と同時に適切なシグナルが供給されるかどうかにかかっている。従って、該細胞は、インビトロで骨分化できるかもしれないが、その相当な割合は、依然としてインビボで骨芽細胞にはならないかもしれない。また、Chaudharyら(非特許文献5)には、FGF−2で処理したヒト骨髄幹細胞は、いかなる骨形成表現型も示さず(アルカリホスファターゼは発現せず)、実際、異栄養性形態を有することが示されている。同様に、Kalajzicら(非特許文献6)は、FGF−2が骨分化を阻害することを示している。
【0006】
加えて、ヒト治療で使用する物質の調製に、培地に非ヒト動物成分、例えば血清成分(FCSなど)を使用することは避けるべきである。しかし、Kuznetsovら(非特許文献7)が示すように、相同または自家ヒト血清を使用すると、ヒト骨髄幹細胞が、コロニーを形成し、インビトロで増殖し、そしてインビボで骨を形成する能力が著しく減少する。従って、Kuznetsovらは、FCSの使用が、骨髄幹細胞の効率的増殖とその骨形成能力の前提条件であることを示唆している。
【0007】
Takagiら (非特許文献8)は、特定の条件下、FGF−2を補充したドナー血清でヒト骨髄液をインキュベートした。2003年、Takagiらが、そのようにして得た細胞集団は、潜在的軟骨分化能を示しただけであり、従って細胞集団を著者らは軟骨の再生に使用することを企図した。
【0008】
Kobayashiら(非特許文献9)は、自家ドナー血清中で、ヒトBMSCを単離し維持するための特定の条件について記載し、こうした条件によって、ヒトBMSCは、その多分化能を保存しながら、十分にエクスビボ増殖しうると結論付けた。2005年、Kobayashiらは、分化させずにさらにBMSCの増殖を促進するために、二次培養でFGF−2を使用している。その著者らは、それらの細胞を骨芽前駆細胞もしくは骨芽細胞表現型細胞に向けて成長させる条件については開示していない。
【0009】
Linら (非特許文献10)は、自家ドナー血清中での多分化能ヒトBMSCの増殖時間の延長を報告した。一定の条件下では、細胞にFGF−2およびEGFを添加しても、細胞増殖は影響を受けず、骨形成の宿命に向けて細胞を成長させることはなかった。
【0010】
最大の骨形成を与えるためには、既に骨芽細胞の表現型を示している細胞を移植することが望ましいであろう。該細胞は、本質的に、骨形成活性が実証されている唯一の細胞であるからである。しかしながら、インビトロでの骨髄幹細胞の骨芽細胞への分化には、骨形成培地での培養が伴い(非特許文献11)、インビトロでの該細胞の増殖が低下する恐れがある。さらに、骨形成培地の使用には、細胞にそれ以上の成分を加える必要があり、細胞培養汚染の危険性が増大しかねない。
【非特許文献1】Horwitz et al. 1999. Nat Med 5(3): 309-13
【非特許文献2】Hernigou et al. 1997. J Bone Joint Surg Am 79:1726-1730
【非特許文献3】Banfi et al. 2000. Exp Hematol 28: 707-15
【非特許文献4】Martin et al. Endocrinology 138: 4456-4462, 1997
【非特許文献5】Chaudhary et al. Bone 34: 402-11, 2004
【非特許文献6】Kalajzic et al. J Cell Biochem 88: 1168-76, 2003
【非特許文献7】Kuznetsov et al. Transplantation 70: 1780-1787, 2000
【非特許文献8】Takagi et al. 2003 Cytotechnology 43: 89-96
【非特許文献9】Kobayashi et al. 2005 J Bone Joint Surg Br 87: 1426-3
【非特許文献10】Lin et al. 2005 Transplant Proc 37: 4504-5
【非特許文献11】Jaiswal et al. 1997. J Cell Biochem 64: 295-312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、細胞の高増殖能を維持し、自家性条件を確実にし、細胞培養に関与する成分の数を最小にする一方で、インビトロでヒト成体幹細胞、特にヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を生成するための単純で確実な方法に対するニーズが当技術分野にはある。
【0012】
さらに、特異的で有用な、例えば骨治療という状況で有用な特性を有する骨芽前駆細胞または骨芽細胞様細胞に対する、および該細胞を含む細胞集団に対するニーズが当技術分野にはある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記および従来技術の他の問題に対処する。
【0014】
特に、本発明者らは、本明細書に開示した培養条件を使用し、有利にはヒト起源の成体幹細胞、特に骨髄幹細胞(BMSC)はエクスビボで容易に増殖でき、有用な骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型、ならびにそれらを含む有用な細胞集団および他の表現型、に対して向けられ得ることに気づいた。
【0015】
従って、一態様では、本発明は、インビトロまたはエクスビボでヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得る方法であって、該骨髄幹細胞に、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を接触させるステップを含む方法に関する。
【0016】
本発明者らは、本発明の方法によって、曝露した幹細胞のかなりの画分、例えば、大半を骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型に分化できるということを観察した。従って、一態様では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞それ自体を得るために、本発明の方法を使用することができる。
【0017】
とはいえ、当然のことながら、一般的には、本発明の方法によって、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団、通常、該細胞をかなりの割合、例えば大部分を含む集団が生成される。本発明者らはまた、本方法から得られた細胞集団は、それ以上の細胞型を含んでよく、それらの少なくともいくつかは、 該集団中に存在する骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞の有用な特性を、特に骨治療と関連して増大できるということに気づいた。例えば、一実施形態では、本発明の方法から得られた細胞集団は、内皮細胞または内皮前駆体も含んでよい。
【0018】
従って、一態様では、本発明は、インビトロまたはエクスビボでヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る方法であって、該骨髄幹細胞に、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を接触させるステップを含む方法に関する。
【0019】
実験証拠によって示すように、本発明の方法は、3週間、より詳しくは21日間かけて、骨髄幹細胞を40,000〜710,000倍に増殖しうる。ヒト血清の使用は、ヒト骨髄幹細胞の増殖を顕著に減少させると説く従来技術(Kuznetsovら,2000)を考慮すると、該高度増殖は驚くべきことである。従って、本発明は、移植を目的として多数の細胞を生成できるようになる。これは、幹細胞を提供するために被験者から取り出さなければならない骨髄の試料サイズを有利に減少させる。さらに、分化した細胞を患者に移植できるようになると、本発明によって時間短縮が可能になり、従って結果的に治療が迅速化される。
【0020】
好ましい実施形態では、本方法は、線維芽細胞増殖因子、特にFGF−b、すなわちFGF−2を使用する。FGF−2が、骨髄幹細胞のより未成熟な表現型の原因であると説く従来技術(Martinら,1997、Kalajzicら,2003)を考慮すると、ヒト血漿または血清成分と組み合せてFGF−2を使用することによって、骨髄幹細胞の分化が刺激され、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の表現型特性が得られるということは驚くべきことである。
【0021】
従って、本方法は、別々に使用した場合、反対効果をもたらすことが従来技術で知られている要素を組み合わせることによって、予想外の有利な効果−高増殖および骨芽細胞表現型−をもたらす。さらにいっそう際立つことには、従来技術は、インビトロで骨芽細胞へ分化させるには、デキサメタゾン(dexamethasone)、アスコルビン酸ホスフェート(ascorbic acid phosphate)、およびβ−グリセロールホスフェート(beta-glycerolphosphate)などの成分を含む骨形成培地が必要であると説いた。驚くべきことに、本発明は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得るのに、該成分を必要としないことを示している。従って、培地中の成分の数は有利に減少し、結果として過誤もしくは汚染、または移植による該成分の持ち越し汚染、の確率も低下するであろう。
【0022】
さらに好ましい実施形態では、本方法は、骨髄幹細胞に対して自家性であるヒト血漿もしくは血清を使用し、および/または骨髄幹細胞の培養中にいかなる非ヒト動物性物質(血清成分など)も含まない。これは、例えば、得られた細胞が拒絶される危険性を減少し、および/または病原体による汚染の危険性を減少させることによって、本方法をヒト治療で使用するのに特に有利なものにする。
【0023】
本方法のさらに好ましい実施形態では、他の特徴、例えば、それだけには限定されないが、インキュベーション回数、継代、成分量などが定義されるが、それらは単独でまたは組み合わさって、さらに本方法と従来技術とを明確に分け、そして例えば骨移植における優位性という有利な特徴を細胞および細胞集団にもたらす基礎となる。
【0024】
本発明者らは、本発明の方法を使用して得られる骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、および細胞集団が、従来技術に勝る典型的な利点を示すことに気づいた。第一に、少なくともエクスビボで培養中、該細胞は、推定倍加時間が約2日という高増殖速度を示す。従って、比較的短時間内に十分な細胞数を生成することができ、それは患者治療期間を有利に制限する。第二に、該細胞は、基板の石灰化速度が比較的速く、それによって患者に細胞を移植後、骨形成が促進される。第三に、その細胞は、他の間葉系表現型へ、特に脂肪細胞または軟骨細胞へ分化する性向をほとんど、または実質的に全く示さない。これにより、その細胞を移植したとき、骨以外の組織の形成を有利に制限できる。
【0025】
従って、他の態様では、本発明は、本発明の方法を使用して得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、かつ細胞集団、およびそれらを含む培養物を提供し、さらに骨関連疾患におけるそれらの治療的使用、および骨関連疾患に対応するそれらを含む医薬製剤もまた提供する。
【0026】
本発明のそれ以上の開発では、治療、特に骨移植治療において特定の優位性を提供しうる、新たな骨形成細胞型およびそれらを含む新規な細胞集団を定義するために、本発明者らは、本発明の方法を実施して得られた細胞および細胞集団を詳細に分析した。従って、本発明は、該新規な細胞型、それらを含む集団、および特に骨治療におけるその使用も企図している。
【0027】
従って、一態様では、本発明は、(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーを、(2)CD63(例えば、抗体HOP−26によって認識される、Zannettinoら,2003. J Cell Biochem. 89: 56-66を参照)およびCD166から選択した少なくとも1個の幹細胞/未成熟骨芽前駆細胞マーカーと共に、同時発現することを特徴とする、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞(本明細書では「OOP−1細胞」)を提供する。(1)に基づいて、好ましい一実施形態では、該OOP−1細胞は、少なくともALPを発現し、さらに好ましい一実施形態では、該OOP−1細胞は、ALP、P1NP、およびBSPから選択した少なくとも2種のマーカー、例えば少なくともALPとP1NP、少なくともALPとBSP、または少なくともP1NPとBSPを発現し、よりさらに好ましい実施形態では、該OOP−1細胞は、ALP、BSP、およびP1NPの少なくとも全3個を発現することができる。(2)に基づいて、好ましい一実施形態では、該OOP−1細胞は、少なくともCD63を発現し、別の好ましい実施形態では、該OOP−1細胞は、少なくともCD166を発現し、さらに好ましい一実施形態では、該OOP−1細胞は、少なくともCD63とCD166を発現することができる。
【0028】
本発明者らが知る限りでは、従来技術は、ALP、P1NP、およびBSPが陰性であったとき、幹細胞/未成熟骨芽前駆細胞中にCD63および/またはCD166を観察したのみであった。従来技術の該CD63および/またはCD166陽性細胞は多分化能を示し、軟骨細胞、脂肪細胞、および骨芽細胞に分化することもあり得た。従って、ALP、P1NP、またはBSPの少なくとも1個が、CD63および/またはCD166と同時存在にすることは、今までに開示されていない新規な細胞型として、本発明の骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞(OOP−1細胞)を特徴付ける。さらに、この新規な細胞型は、高増殖速度、高石灰化速度、ならびに軟骨細胞および脂肪細胞へ分化する性向の実質的欠除という有利な特性の少なくともいくつかを示し、それは例えば骨治療という状況で特に有用である。
【0029】
好ましい実施形態では、該骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞(OOP−1細胞)は、オステオカルシン(OCN)に陰性である。OCNが、成熟骨芽細胞中で優先的に発現するようになることは当技術分野で知られている。従って、OCNの発現の欠除は、これらの細胞の成熟特性が低いことを意味する。
【0030】
別の態様では、本発明は、(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーと、(2)造血/内皮前駆体マーカーCD34と共に同時発現し、すなわち、これらに対して陽性であることを特徴とする、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞(本明細書では「OOP−2細胞」)を提供する。(1)に基づいて、好ましい実施形態では、該OOP−2細胞は、少なくともALPを発現し、さらに好ましい実施形態では、該OOP−2細胞は、ALP、P1NP、およびBSPから選択した少なくとも2個のマーカー、例えば少なくともALPとP1NP、少なくともALPとBSP、または少なくともP1NPとBSPを発現し、よりさらに好ましい実施形態では、該OOP−2細胞は、ALP、BSP、およびP1NPの少なくとも全3個を発現することができる。
【0031】
本発明者らが知る限りでは、CD34を発現する骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞は、今まで記載されたことがなく、かつCD34の欠除は、通常、骨髄間葉系幹細胞の特徴の一つと考えられる。従って、ALP、P1NP、またはBSPの少なくとも1個とCD34とが同時に存在することは、今までに開示されていない新規な細胞型として、本発明の骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞(OOP−2細胞)を特徴付ける。さらに、この新規な細胞型は、有利な特性、例えば、高増殖速度、高石灰化速度、および軟骨細胞および脂肪細胞へ分化する性向の実質的欠除という特性の少なくともいくつかを示し、それは例えば骨治療という状況で特に有用である。
【0032】
好ましい実施形態では、該骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞(OOP−2細胞)は、オステオカルシン(OCN)に陰性である。OCNは、成熟骨芽細胞で優先的に発現するようになることは当技術分野で知られている。従って、OCNの発現の欠除は、これらの細胞の成熟特性が低いことを意味する。
【0033】
本発明者らはまた、上記の本発明の骨芽前駆細胞または骨芽細胞型間の重複を企図している。例えば、いくつかの実施形態では、OOP−1細胞は、さらにCD34を同時発現しうる。他の実施形態では、OOP−2細胞は、さらにCD63およびCD166の少なくとも1個、例えば、片方もしくは両方を発現しうる。
【0034】
記載したように、本発明は、さらに、上記の本発明の骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団、例えば、上述したOOP−1および/またはOOP−2細胞型を含む細胞集団を包含する。典型的な細胞集団は、OOP−1および/またはOOP−2細胞型を少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、例えば少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも80%、そしてなおより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%含むであろう。好ましい実施形態では、細胞集団は、上記のOOP−1および/またはOOP−2細胞型以外の細胞型を50%未満、好ましくは40%未満、さらにいっそう好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満、よりさらに好ましくは10%未満、例えば7%未満、5%未満、または2%未満含むであろう。
【0035】
好ましい実施形態では、該細胞集団は、内皮細胞またはその前駆体を含みうる。好ましくは、該内皮細胞または前駆体は、フォンウィルブランド因子(vWF)、VEGFおよびCD133の少なくとも1個、例えば少なくとも2個、または少なくとも全3個を発現しうる。別の実施形態では、該内皮細胞は、CD34も同時発現することができる。
【0036】
有利なことに、本発明の骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞と一緒に、細胞集団中に該内皮細胞またはその前駆体が存在することが、おそらくそれだけには限定されないが、移植した細胞および組織を支持し、酸素添加する血管形成を刺激すること、および/または例えばVEGFなどの増殖因子を放出することによって、患者において該骨形成系統細胞の移植を改善しうることを本発明者らは気づいた。
【0037】
関連する態様では、本発明は、先に定義した細胞および細胞集団を含む医薬製剤、ならびにその治療的使用を提供する。
【0038】
本発明のこれらの特徴および他の特徴を以下本明細書および添付の特許請求の範囲にさらに説明し、かつ非限定的な例によって例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本明細書で使用する通り、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上、明瞭に別段の指示がない限り、単数および複数の指示物を含む。例として、「細胞」は、1個または1個を超える細胞をさす。
【0040】
本明細書で使用する「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含む(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的もしくは非制限的であり、付加的な列挙しない構成物、要素、または方法ステップを排除しない。
【0041】
評価項目による数値範囲の記述は、記載した評価項目ばかりでなく、その範囲内に包含される全数値および分数を含む。
【0042】
本明細書で使用する「約」という用語は、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、時間長などをさす場合、明記した値から+/−20%以下、好ましくは+/−10%以下、より好ましくは+/−5%以下、さらにいっそう好ましくは+/−1%以下、よりさらに好ましくは+/−0.1%以下の変動を包含することを意味するが、ただし該変動が開示した発明で実施するのに適切である限りにおいてである。
【0043】
本明細書に引用した全ての文書は、これによりすべて参照によって援用される。特に、具体的に言及した本明細書のすべての文書の教示は参照によって援用される。
【0044】
別段の定義が無い限り、技術用語および科学用語含め、本発明を開示する際に使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。
【0045】
1.発明の方法
発明の開示の節に詳述した通り、一態様では、本発明は、インビトロまたはエクスビボでヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得る方法、および骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る方法であって、骨髄幹細胞を、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体に接触させるステップを含む方法に関する。
【0046】
骨髄は、長骨の骨髄腔、数本のハバース管、および海綿状骨もしくは海綿質骨間の空間を占有する柔組織である。従来から2つの型の骨髄が識別されている。赤、これは若年期の全ての骨と、成人期の限定された場所(例えば海綿質骨)に見出され、主として血液細胞の生成(造血)に関与する。そして黄色、これには、主として脂肪細胞および結合組織が含まれる。
【0047】
全体として、骨髄は、造血幹細胞、赤血球、および白血球、およびそれらの前駆体、間葉系幹細胞(MSC)、間質細胞、およびそれらの前駆体、ならびに線維芽細胞、網状赤血球、脂肪細胞を含む細胞群、ならびに「間質」と称する結合組織網を形成する細胞を含む複合組織である。
【0048】
骨髄細胞は、マウスおよびヒトにおいて全身移植後、多くの多様な組織に寄与する。この能力は、骨髄中に存在する複数の幹細胞、例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、および/または髄多分化能幹細胞などの活性を反映しうる。例えば、Krauseら(Cell 105: 369-377, 2001)は、単一の骨髄由来幹細胞が、造血系統および非造血系統の細胞を生成できることを示した。これは、骨髄移植後、造血細胞および骨芽細胞が、通常の髄前駆体から派生できることを示したDominiciら(PNAS 101(32): 11761-6, 2004)によって確認されている。別の実施例では米国特許第5,486,359号は、例えば、骨、軟骨、筋肉、腱、結合組織、脂肪、または髄間質の間葉系統細胞を生成できる間葉系幹細胞を骨髄から単離することを開示している。さらに、Horwitzら(Nat Med 5(3): 309-13, 1999)は、重篤な骨形成不全症を有する小児で、同種骨髄移植が有効であることを示した。その研究では、機能的な髄由来間葉系細胞が移植され、新規な高密度骨の形成に寄与した。Horwitzら(PNAS 99(13): 8932-7, 2002)によって示されるように、移植した骨芽細胞の割合は、間葉系幹細胞(プラスチック接着骨髄細胞)のみの移植後、著しくは改善されず、間葉系幹細胞が存在すると考えられる接着集団中の骨髄細胞以外の骨髄細胞が、強力な移植可能骨芽細胞前駆体でありうるという結論に至った。上記に照らして、骨髄は、骨細胞(骨)系統の細胞を生成させる能力を有する数種の幹細胞型を含みうる。
【0049】
本明細書で使用する「骨髄幹細胞」または「BMSC」という用語は、従って骨髄中に存在し、特に、骨髄試料中に存在し、または(部分的には)骨髄試料から単離した任意の成体幹細胞をさす。骨髄(BMSC)試料は、例えば、対象の腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨、または他の髄腔から得られるであろう。BMSCという用語は、さらに、BMSCの子孫、例えば、対象試料から得られたBMSCの、インビトロまたはエクスビボ増殖によって得られた子孫を包含する。
【0050】
本明細書で使用する「幹細胞」という用語は、好適な条件に曝露した場合、少なくとも1個、好ましくは2個、またはそれ以上の異なる細胞型を発生できる任意の細胞をさす。該幹細胞は、インビボで、そして特定の条件下ではさらにインビトロで、広範に、またはおそらく無限に増殖することが可能であろうし、その際、該幹細胞の子孫は、母細胞の表現型特徴および増殖能を保持し、でなければ好適な条件に曝露した場合、より専門化した細胞、すなわちさらに分化した細胞を発生するであろう。例えば、幹細胞が、予め細胞分裂を受けることなく、他の細胞になるために分化した場合、あるいは幹細胞が一回以上の細胞分裂および/または分化を行って、他の細胞が生成された場合、幹細胞は、別のさらに分化した細胞を「発生させた」と言う。
【0051】
本明細書で使用する「成体幹細胞」という用語は、胎性期または出生後の生物中に存在し、またはそれから得られた幹細胞をさす。
【0052】
本発明による好ましい骨髄幹細胞は、少なくとも骨形成(骨)系統、例えば、骨形成細胞および/または骨芽前駆細胞および/または前骨芽細胞および/または骨芽細胞および/または骨細胞などの細胞を生成する能力を有する。
【0053】
好ましくは、本発明による少なくともいくつかの骨髄幹細胞は、本発明の方法により得られた細胞集団に含まれるそれ以上の細胞、例えば内皮系統細胞など、例えば内皮前駆細胞および/または内皮細胞を生成する能力もまた有しうる。
【0054】
少なくとも骨形成系統の細胞を生成する能力を有する、限定しないが典型的なBMSC型は間葉系幹細胞である。本明細書で使用する「間葉系幹細胞」または「MSC」(「髄間質細胞」としても知られる)という用語は、間葉系統細胞、通常は、2種またはそれ以上の間葉系統、例えば、骨細胞(骨)、軟骨細胞(軟骨)、筋細胞(筋肉)、腱細胞(腱)、線維芽細胞(結合組織)、脂肪細胞(脂肪)および間質生成(髄間質)系統を生成することができる成体の中胚葉由来幹細胞をさす。MSCは、例えば、骨髄、血液、臍帯、胎盤、胎児卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎児および青年の皮膚、骨膜、および脂肪組織から単離することができる。ヒトMSC、それらの単離、インビトロ増殖および分化については、例えば、米国特許第5,486,359号、米国特許第5,811,094号、米国特許第5,736,396号、米国特許第5,837,539号、または米国特許第5,827,740号に記載されている。当技術分野に記載されたMSCであり、そして当技術分野に記載された任意の方法によって単離されたいずれのMSCも、該MSCが、少なくとも骨細胞性(骨)系統の細胞、例えば、骨形成細胞および/または骨芽前駆細胞および/または前骨芽細胞および/または骨芽細胞および/または骨細胞などの細胞を生成することができるならば、本発明には適切であろう。
【0055】
潜在的には、それだけには限らないが、少なくともいくつかのMSCも、本発明の方法により得られた細胞集団に含まれるそれ以上の細胞、例えば、内皮系統細胞、例えば、内皮前駆細胞および/または内皮細胞などを生成しうる。
【0056】
MSCという用語は、さらに、MSCの子孫、例えば、動物またはヒト対象の生物試料から得られたMSCのインビトロまたはエクスビボ増殖によって得られた子孫を包含する。
【0057】
例に示すように、本方法には、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を接触させると、基板表面、例えば、培養容器の表面に接着するようなBMSC細胞の選択が伴う。基板表面、例えば、プラスチック表面に接着できるような(単核)細胞を選択することによって、骨髄(または他の供給源)からMSCを単離できることは当技術分野で周知ある(実際、MSCは、プラスチック接着細胞またはコロニー形成単位線維芽細胞と呼ばれる場合もある)。従って、いかなる仮説にも限定されないが、本発明者らは、本方法において、MSCが、少なくとも部分的にはBMSCからの骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞の入手に寄与しうると推測する。
【0058】
従って、一態様では、本発明はまた、インビトロまたはエクスビボでヒト間葉系幹細胞から、骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞を得る方法であって、MSCを、ヒト血漿または血清、および増殖因子に接触させるステップを含む方法を企図する。
【0059】
MSCは、生物試料、例えばBMSCを含む試料に含まれるであろうし、または当技術分野で周知の通り、少なくとも部分的にはそこから単離しうる。さらに、MSCは、少なくとも部分的には、骨髄または骨髄以外のMSCを含む供給源、例えば、血液、臍帯、胎盤、胎児卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎児および青年の皮膚、骨膜、ならびに脂肪組織から単離しうる。
【0060】
好ましい一実施形態では、BMSCまたはMSCが、分化することなく細胞増殖し倍加できる条件で、先に増殖させることなく、生物試料中に存在し、または少なくとも部分的にはそれから単離したBMSCまたはMSCを、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体と接触させることができる。
【0061】
骨髄からのMSCの調製物には、細胞亜集団が含まれることはさらに知られているが、この亜集団は小型であり、急速に増殖し、低密度で再播種すると周期的再生を行い、同じ培養中のより成熟したMSC前駆体である。この細胞亜集団は、「急速自己再生細胞」と称し、RS−1およびRS−2として同定される少なくとも2成分を含みうる(Colterら,PNAS 97(7): 3213-8, 2000、参照により本明細書に援用される)。従って、いかなる仮説にも限定されないが、本発明者らは、本方法では、2000年にColterらが記載したRS細胞は、おそらく、より成熟したMSCの中間体を通じて、BMSCからの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の入手に少なくとも部分的に寄与しうると推測する。可能性として、限定はしないが、本発明者らは、RS細胞も本発明の方法により得られた細胞集団に含まれるそれ以上の細胞、例えば、内皮系統細胞、例えば、内皮前駆細胞および/または内皮細胞などを生成しうると推測する。
【0062】
従って、一実施形態では、本発明はまた、インビトロまたはエクスビボでヒト急速自己再生細胞(RS)から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得る方法、またはそれらを含む細胞集団を得る方法であって、該RSに、ヒト血漿または血清と、増殖因子とを接触させるステップを含む方法を企図する。
【0063】
さらに、骨髄が、「サイドポピュレーション」(SP)と称する前駆体細胞集団を含むことは知られている。これらの細胞は、CD34low/neg造血系前駆体として同定されるが、非造血系組織と同様に造血系組織を再生するという点で、著しく可塑性に富む(Goodellら,1997. Nat Med 3(12):1337-45、参照により本明細書に援用される)。従って、いかなる仮説にも限定されないが、本発明者らは、1997年にGoodellらが記載したSP細胞は、本方法でおそらく、より成熟したMSCの中間体を通じて、BMSCからの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の入手に少なくとも部分的に寄与しうると推測する。可能性として、限定されないが、本発明者らは、SP細胞も本発明の方法により得られた細胞集団に含まれるそれ以上の細胞、例えば、内皮系統細胞、例えば、内皮前駆細胞および/または内皮細胞などを生成しうると推測する。
【0064】
従って、一実施形態では、本発明はまた、インビトロまたはエクスビボでヒトサイドポピュレーション細胞(SP)から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得る方法、またはそれらを含む細胞集団を得る方法であって、該SPに、ヒト血漿または血清と、増殖因子とを接触させるステップを含む方法を企図する。
【0065】
さらに、骨髄が、骨形成前駆細胞集団を含むことは知られており、この集団は、当初、骨形成マーカーの密度の低さ(例えば密度勾配遠心分離による)、非接着性質、および低発現レベルによって同定されている(Longら,1995. J Clin Invest. 1995 Feb; 95(2):881-7米国特許第5,972,703号、参照により本明細書に援用される)。しかしながら、該細胞は、骨芽細胞に分化するように誘発されるので、それらもまた基板表面に対して接着性になる。従って、いかなる仮説にも限定されないが、本発明者らは、1995年にLongらが記載した骨形成前駆体は、本方法で、BMSCからの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得るのに、少なくとも部分的に寄与しうると推測する。
【0066】
従って、一実施形態では、本発明はまた、インビトロまたはエクスビボでヒト骨形成前駆体(OP)から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得る方法、またはそれらを含む細胞集団を得る方法であって、該OPに、ヒト血漿または血清と、増殖因子とを接触させるステップを含む方法を企図する。
【0067】
さらに、骨髄が、造血系統および非造血系統の細胞を発生できる原始的前駆細胞集団(Krauseら,2001. Cell 105:369-377、Dominiciら,2004. PNAS 101 (32): 11761-6)を含むことは知られている。従って、いかなる仮説にも限定されないが、本発明者らは、該原始的前駆体は、本方法でおそらく、より成熟したMSCの中間体を通じて、BMSCからの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の入手に少なくとも部分的に寄与しうると推測する。可能性として、限定されないが、本発明者らは、該原始的前駆体も、本発明の方法により得られた細胞集団に含まれるそれ以上の細胞、例えば、内皮系統細胞、例えば、内皮前駆細胞および/または内皮細胞などを生成しうると推測する。
【0068】
当然のことながら、骨髄幹細胞集団の複雑さを考慮すると、本発明が、1個以上の具体的なBMSC型に限定されると見るべきではない。むしろ、本方法では、例えば上記の1個以上のBMSC細胞型は、おそらく異なる程度で骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得るのに、またはそれらを含む細胞集団を得るのに寄与しうる。他方で、当然のことながら、本方法が、特定のBMSC集団、例えば少なくとも部分的に他のBMSC集団から単離したMSCも使用しうる。
【0069】
本発明の態様によれば、ヒト骨髄幹細胞からの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の入手は、インビトロまたはエクスビボによる。本明細書で使用する「インビトロ」という用語は、動物または人体の外側または外部をさすものである。本明細書で使用する「インビトロ」という用語は、「エクスビボ」を含むと理解されるものとする。通常は、「エクスビボ」という用語は、動物または人体から取り出され、身体外側で、例えば培養容器で維持され、または増殖された、組織または細胞をさす。
【0070】
一実施形態では、BMSCはヒト対象の生物試料から得られる。
【0071】
本明細書で使用する「生物試料」または「試料」という用語は、生物源、例えば動物またはヒト対象などの生物、細胞培養物、組織試料から得られた試料をさす。動物またはヒト対象の生物試料は、動物またはヒト対象から取り出した、それらの細胞を含む試料をさす。動物またはヒト対象の生物試料は、1個以上の組織型を含み、そして1個以上の組織型の細胞を含みうる。動物またはヒト対象の生物試料を得る方法は、組織生検または血液採取など、当技術分野で周知である。
【0072】
ヒト対象の有用な生物試料には、その骨髄幹細胞が含まれる。通常は、該試料は、骨髄、例えば対象の腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨、または他の髄腔からから得られるであろう。別の有用な生物試料には、間葉系幹細胞が含まれ、例えば対象の血液、臍帯、胎盤、胎児卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎児および青年の皮膚、骨膜、または脂肪組織から得られるであろう。
【0073】
本明細書で使用する「対象」という用語は、真核生物、特に動物またはヒト生物をさす。動物対象には、動物の胎児形態、例えば胎児などが含まれる。ヒト対象には、胎児は含まれるが、胚は含まれない。
【0074】
別の実施形態では、BMSCは骨関連疾患の危険にさらされ、または同疾患を有しているヒト対象から得られる。本発明者らは、本発明の方法による、該対象のBMSCから得られた骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞の投与は、例えば新たな骨形成または骨密度の増加によって、該対象で骨関連疾患の治療に有用でありうることに気づいた。
【0075】
従って、本明細書で使用する「骨関連疾患」という用語は、あらゆる種類の骨疾患をさし、その疾病を有する対象に、骨形成系統細胞、例えば骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を投与することから、その治療は恩恵を受けるであろう。特に、該疾病は、例えば、骨形成の減少または過剰な骨吸収、骨中に存在する骨芽細胞または骨細胞の数、生存度、または機能の減少、対象の骨量の減少、骨痩せ、損なわれた骨強度または弾性などによって特徴付けられよう。
【0076】
限定されないが、一例として、本発明の骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞の投与から恩恵を受ける骨関連疾患には、局所性または全身性疾患、例えば、あらゆる種類の骨粗鬆症または骨減少症、例えば、原発性、閉経後、老人、コルチコイド誘発型骨壊死、あらゆる二次性、単一または多部位骨壊死、あらゆる種類の骨折、例えば、非癒合、変形癒合、遅延癒合骨折または圧迫、骨融合する必要がある状態(例えば、脊髄融合および再建)、顎顔面骨折、外傷性損傷または癌手術後などの骨再構築、頭蓋顔面骨再構築、骨形成不全症、溶骨性骨癌、ページェット病、内分泌学的疾病、高リン酸塩血症(hypophsophatemia)、低カルシウム血症、腎性骨異栄養症、骨軟化症、無形成骨症、リューマチ性関節炎、副甲状腺機能亢進、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、歯周病、ゴーハム−ストウト疾患およびマクキューン−オールブライト症候群が含まれるであろう。
【0077】
上記のように、本発明の方法は、BMSCから骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、またはそれらを含む細胞集団を得ることである。
【0078】
本発明の方法と関連して本明細書で使用するように、記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、一般的に骨物質または骨基質の形成に寄与し、またはその形成に寄与できる細胞に発生できる細胞を包含する。本発明者らによって実験的に実証された通り、当然のことながら、本発明のこの態様が、治療設定で骨形成を修復するのに有用な細胞および細胞集団を結果的にもたらす方法を提供する。従って、記述の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、本発明の方法から得られた骨形成系統の任意の該有用な細胞を包含することが望まれていると解釈すべきである。
【0079】
本開示は、本発明の方法を実施するための十分な指針、例えば、本明細書に企図し、一般的に先の記述により言及した、細胞および細胞集団に到るための指針を提供する。所望の細胞または細胞集団が得られたどうかの検証には、当業者は、例えば、実施例に開示した表現型評価法、または当技術分野でのそれ以上の試験を利用することができる。とはいえ、それ以上の指針により、そして限定されないが、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、以下のリスト:(a)CD90、CD73、およびCD105に陽性、(b)アルカリホスファターゼ(ALP)(より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP)陽性、(c)(成熟骨芽細胞に特異的な)オステオカルシンに陽性、(d)密度が1.050〜1.090g/cm3、(e)オステオネクチンに陽性(骨芽細胞および前駆体で陽性)、(f)細胞径が6〜70μmであり、実質的に立方形、(g)I型コラーゲン(プロコラーゲン)および/またはビメンチンおよび/または骨シアロタンパク質に陽性、(h)他の骨芽細胞特異的マーカー、例えば、BMP受容体、PTH受容体に陽性、(i)骨形成培地に曝露すると、外部環境を石灰化し、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成する能力の証拠(Jaiswalら,1997. J Cell Biochem 64: 295-312)から、少なくとも1個の特徴を有するであろうし、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の特徴を示すかもしれない任意の骨形成細胞系統細胞を包含しうる。
【0080】
上記の細胞特異的マーカーの発現は、当技術分野で公知の任意の好適な免疫学的技術、例えば、免疫細胞化学もしくは親和吸着法、ウエスタンブロット分析、FACS、ELISAなどを使用し、または(例えばALPに対する)任意の好適な生化学的酵素活性アッセイによって、またはマーカーmRNA量を測定する任意の好適な技術、例えば、ノーザンブロット、半定量または定量的RT−PCRなどによって検出することができる。本開示中に収載されたマーカーの配列データは公知であり、GenBankなどの公的データベースから得ることができる。細胞中のカルシウムの蓄積およびマトリックスタンパク質への沈着は、45Ca2+中で培養し、洗浄し、再培養し、次いで細胞内に存在するいかなる放射能も定量することによって、または細胞外マトリックス中に沈着させることによって(米国特許第5,972,703号)、またはCa2+アッセイキット(Sigmaキット#587)を使用し培養基板の石灰化をアッセイすることによって、または実施例に記載した通りに測定することができる。
【0081】
細胞が、特定のマーカーに陽性であると言うとき、これは、当業者であれば、測定が適切に行なわれた場合、そのマーカーに対して明瞭なシグナルが存在すると結論付けられるだろう、ということを意味する。本方法によって、マーカーの定量的評価が可能になる場合、陽性細胞は、対照細胞(例えば、本発明の方法を利用前のBMSC細胞、または他の任意の非骨形成細胞)によって生じた該シグナルよりも、少なくとも2倍高いシグナル、例えば少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍高いシグナルを生成しうる。
【0082】
説明したように、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得るために、生物試料中に存在するか、または少なくとも部分的にはそれから単離したBMSCを、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体に接触させる。
【0083】
当業者は、ヒト血漿および血清は、一種以上の増殖因子、サイトカイン、またはホルモンを含みうる複合生物学的組成物であることを理解している。従って、「ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を接触」という用語は、血漿または血清に加えて、すなわち外来的に、またはこれらを補って、該増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体が供給されることを示す。従って、血漿または血清中に含まれうる増殖因子の他に、BMSCは、血漿または血清に加えて、すなわち外来的に、またはこれらを補って供給される、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくはその誘導体と接触する。
【0084】
該増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、血漿または血清中に存在しないものであってよい。その場合、BMSCは(すなわち該)増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体と接触するが、BMSCが、もし血漿または血清単独と接触する場合は、BMSCは増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体と接触しないであろう。該増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、血漿または血清中に存在するものであってもよい。該事例では、BMSCは、血漿または血清単独と接触する場合よりも、多量または高濃度の(すなわち該)増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体と接触する。
【0085】
本明細書で使用する「増殖因子」という用語は、生物学的に活性な物質をさし、その物質は、単独で、または他の物質によって調節された場合、様々な細胞型の増殖、成長、分化、生存、および/または遊走に影響し、かつ生物体内で発生的、形態的、および機能的変化に影響を与えうる。通常は、増殖因子は、細胞中に存在し、増殖因子に応答する受容体(例えば、表面または細胞内受容体)に対して、リガンドとして結合することによって作用しうる。本明細書で増殖因子は、1つ以上のポリペプチド鎖を含む特にタンパク質性実体であってよい。
【0086】
一例として、そして限定しないが、「増殖因子」という用語は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリー、骨形成タンパク質(BMP)ファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)ファミリー、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)ファミリー、神経成長因子(NGF)ファミリー、上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリー、インスリン関連増殖因子(IGF)ファミリー、肝細胞増殖因子(HGF)ファミリー、造血成長因子(HeGF)、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)、アンジオポエチン、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリー、グルココルチコイド、およびなどの構成物を包含する。
【0087】
好ましい一実施形態では、増殖因子は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、FGFファミリーの該メンバーは、酸性のFGFであるFGF−1および塩基性のFGFであるFGF−2、int2(FGF−3)、hst(FGF−4)、FGF−5、hst2(FGF−6)、ケラチノサイト増殖因子(FGF−7)、アンドロゲン誘発増殖因子(FGF−8)、グリア活性化因子(FGF−9)、およびFGF−10〜23のいずれか、からなる群から選択される。
【0088】
好ましい一実施形態では、線維芽細胞増殖因子は、塩基性FGFであり、またFGF−b、FGF−2、BFGF、HBGH−2、プロスタトロピン(prostatropin)、またはヘパリン結合増殖因子2前駆体(HBGF−2)と呼ばれる。本発明者らは、FGF−bが本発明の方法で特に有効であることに気づいた。
【0089】
一実施形態では、FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、ヒト血清または血漿中に潜在的に存在するものに外来的に供給される唯一の増殖因子であり、本発明の方法でBMSCが接触する唯一の増殖因子である。
【0090】
別の実施形態では、BMSCは、FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体、およびFGF−2以外の1個以上の追加の増殖因子と接触する。好ましくは、該1個以上の追加の増殖因子はEGFを含まない。
【0091】
別の実施形態では、増殖因子は、骨形成タンパク質(BMP)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、BMPファミリーの該メンバーは、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−3b/GDF−10、BMP−6、BMP−7、BMP−8、およびBMP−15からなる群から選択されるいずれかである。
【0092】
一実施形態では、増殖因子は、血小板由来成長因子(PDGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、PDGFファミリーの該メンバーは、ニューロピリン−2、PDGF、PDGF−A、PDGF−B、PDGF−C、PDGF−D、PDGF−AB、およびPIGFからなる群から選択されるいずれかである。
【0093】
一実施形態では、増殖因子は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、TGFβファミリーの該メンバーは、TGF−β−1、TGF−β−2、TGF−β−3、TGF−β−4、GDF1(増殖/分化因子1)、GDF−2、GDF−3、GDF−5、GDF−6、GDF−7、GDF−8、GDF−9、GDF−11、GDF−15、INHA(インヒビンα鎖)、INHBA(インヒビンβA鎖)、INHBB(インヒビンβB鎖)、INHBC(インヒビンβC鎖)、INHBE(インヒビンβE鎖)、MIS(ミュラー管(Muellerian)抑制因子)、そしてさらにGDNF(グリア細胞系統由来神経栄養因子)、NRTN(ノイルツリン(neurturin))、PSPN(ペルセフィン(persephin))を含むGDNFサブファミリーの構成物からなる群から選択されるいずれかである。
【0094】
一実施形態では、その増殖因子は、神経成長因子(NGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、NGFファミリーの該構成物は、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NGF(β−神経成長因子)、NT3(ニューロトロフィン−3)、およびNT5からなる群から選択されるいずれかである。
【0095】
一実施形態では、増殖因子は、上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、EGFファミリーの該構成物は、アンフィレグリン、ベータセルリン、EGF、エピレグリン、HB−EGF(ヘパリン結合性EGF様増殖因子)、NRG1(ニューレグリン−1)アイソフォームGGF2、NRG1アイソフォームSMDF、NRG1−α、NRG1−β、TGFα、トモレグリン(Tomoregulin)−1およびTMEFF2からなる群から選択されるいずれかである。
【0096】
一実施形態では、増殖因子は、インスリン関連増殖因子(IGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、IGFファミリーの該構成物は、インスリン、IGF1A(インスリン様成長因子1A)、IGF1B、IGF2、INSL3(インスリン様3)、INSL5、INSL6、およびリラキシンからなる群から選択されるいずれかである。
【0097】
一実施形態では、増殖因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの構成物である。別の実施形態では、VEGFファミリーの該構成物は、VEGF、VEGF−B、VEGF−CおよびVEGF−Dからなる群から選択されるいずれかである。
【0098】
一実施形態では、増殖因子はグルココルチコイドである。別の実施形態では、該グルココルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、コルチコステロン、フルオシノロン、コルチゾン、ベタメタゾンからなる群から選択されるいずれかである。
【0099】
好ましい一実施形態では、本方法で使用される増殖因子はヒト増殖因子である。本明細書で使用する通り、「ヒト増殖因子」という用語は、自然発生のヒト増殖因子と実質的に同じ増殖因子をさす。例えば、その増殖因子がタンパク質性実体である場合、その構成ペプチドまたはポリペプチドは、自然発生のヒト増殖因子と同一の一次アミノ酸配列を有しうる。本方法では、該増殖因子は、細胞機能に対して望ましい効果を引き出すと予想されるのでヒト増殖因子の使用が好ましい。
【0100】
「自然発生の」という用語は、人が人工的に作った物とは区別される物として、自然に見られる対象または実体について記載するために使用する。例えば、自然の供給源から単離することができ、および研究室で人が意図的に改変していない、生物体内に存在するポリペプチド配列は、自然に発生するものである。特定の実体、例えばポリペプチドまたはタンパク質を指す場合、その用語は、自然に生じる、例えば個体間の通常のばらつきにより生じる全ての形態およびその変異体を包含する。例えば、タンパク質性増殖因子をさす場合、「自然発生の」という用語は、それらの構成ペプチドまたはポリペプチドの一次配列中に、個体間の通常の対立形質のばらつきによる差異を有する増殖因子を包含する。
【0101】
本方法は、増殖因子の生物学的に活性な変異体または誘導体を使用しうる。本発明の方法では、増殖因子の「生物学的に活性な」変異体または誘導体は、他の条件が実質的に同じであるとき、それぞれの増殖因子と少なくともほぼ同程度で、BMSCから骨芽細胞もしくは骨芽細胞表現型細胞を入手することができる。
【0102】
増殖因子が、その同族受容体と結合することによってその効果を発揮する場合、該増殖因子の生物学的に活性な変異体または誘導体は、その同族受容体に結合するために、結合親和性および/または特異性を示すであろうし、その結合親和性および/または特異性はそれに対して結合する増殖因子の親和性および/または特異性と少なくともほぼ同じくらい高い。例えば、該生物学的に活性な変異体または誘導体は、その同族受容体に対して結合親和性および/または特異性を有する可能性があり、それは、それぞれの増殖因子のその受容体に対する結合親和性および/または特異性の少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも90%、またはさらに100%以上である。上記の結合パラメーターは、自体公知のインビトロアッセイまたは細胞アッセイを使用し、当業者が容易に定量することができる。
【0103】
所与の増殖因子の活性が、すでに行われているアッセイ、例えば、インビトロアッセイまたは細胞アッセイ(例えば、細胞培養での分裂促進活性測定など)で、容易に測定できる場合、該増殖因子の生物学的に活性な変異体または誘導体は、該アッセイで活性を示すであろうし、その活性は、その増殖因子の活性と少なくともほぼ同じほど高い。例えば、該生物学的に活性な変異体または誘導体は、それぞれの増殖因子の活性の少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも90%、またはさらに100%以上の活性を示すであろう。
【0104】
ポリペプチドの「変異体」は、そのポリペプチドのアミノ酸配列に実質的に同一であるアミノ酸配列(すなわち、大部分同一であるが、全て同一ではない)を含む。本明細書で、「実質的に同一」は、少なくとも85%同一、例えば少なくとも90%同一、好ましくは少なくとも95%同一、例えば少なくとも99%同一であることをさす。配列差異は、1個以上(one of more)のアミノ酸の挿入(付加)、欠失および/もしくは置換の結果生じうる。
【0105】
2個のポリペプチド間の配列相同性は、そのポリペプチドのアミノ酸配列を配列し、一方でそのポリペプチドが同じアミノ酸残基を含む、配列中の位置数を採点し、他方で2個のポリペプチドがそれらの配列で異なる、配列中の位置数を採点することによって、決定することができる。2個のポリペプチドが、配列中の所与の位置に異なるアミノ酸残基を含む場合(アミノ酸置換)、またはそれらのポリペプチドの1個が、その位置にアミノ酸残基を含むが、他方のものはそうではなく、もしくはその逆である場合(アミノ酸挿入/付加、または欠失)、それらのポリペプチドは所与の位置でそれらの配列が異なる。
【0106】
配列相同性は、ポリペプチドが同じアミノ酸残基を含む、配列中の位置/配列中の総位置数の比率(割合)として算出される。
【0107】
変異体のアミノ酸配列と、その変異体が実質的に同一であるそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列との間の差異の少なくともいくつかは、アミノ酸置換を含みうる。好ましくは、該差異の少なくとも85%、例えば少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば100%がアミノ酸置換であってもよい。好ましくは、該アミノ酸置換は、保存性であってよい。本明細書で使用する「保存的置換」という用語は、一アミノ酸残基が、別の生物学的に類似するアミノ酸残基で置換されていることをさす。非限定的な保存的置換の例には、一疎水性アミノ酸残基、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニンと別のものとの置換、または一極性残基と別のものとの置換、例えば、アルギニンとリジン間、グルタミン酸とアスパラギン酸間、またはグルタミンとアスパラギン間の置換などが含まれる。
【0108】
変異体増殖因子は、1個以上のペプチドまたはポリペプチドを含んでよく、その少なくとも1個は、先に定義した通り、その増殖因子のそれぞれの構成ペプチドまたはポリペプチドの変異体である。
【0109】
ポリペプチドの「誘導体」は、例えば、糖鎖形成、リン酸化、アシル化、アセチル化、硫酸化、脂質化、アルキル化などによる、1個以上のアミノ酸残基の化学的改変および/または1個以上のアミノ酸残基における1個以上の部分の添加によって誘導体化しうる。通常は、誘導体ポリペプチド中、アミノ酸の50%未満、例えば40%未満、好ましくは30%未満、例えば20%未満、より好ましくは15%未満、例えば10%未満または5%未満、例えば4%未満、3%、2%、または1%が、そのように誘導体化されていてよい。誘導体タンパク質性増殖因子は、1個以上のペプチドまたはポリペプチドを含んでいてよく、その少なくとも1個は、少なくとも1個のアミノ酸残基で誘導体化されていてよい。
【0110】
別の実施形態では、本方法で使用する増殖因子では、非ヒト動物増殖因子、特に非ヒト哺乳動物増殖因子、またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体であってよい。本明細書で使用する通り、「非ヒト動物増殖因子」および「非ヒト哺乳動物増殖因子」という用語は、それぞれ、自然発生の非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子と実質的に同じ増殖因子をさす。例えば、増殖因子がタンパク質性実体である場合、その構成ペプチドまたはポリペプチドは、自然発生の非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子と同一の一次アミノ酸配列を有しうる。非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子が、ヒト動物増殖因子よりも少ない程度ではあるが、本方法に利用しうることは、後者のものがBMSC細胞と同じ起源のものであることから当業者であれば理解するであろう。特に、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物増殖因子は、それらが、所望の効果、例えば(類似の)ヒト増殖因子と似た効果を引き出す場合に使用してよい。
【0111】
好ましい実施形態では、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は組換え体であり、すなわち、組換え核酸分子の発現を通じて宿主生物によって産生され、その組換え核酸分子は、宿主生物またはその原種中に導入されており、かつ該ポリペプチドをコードする配列を含む。本明細書で使用する「組換え核酸分子」という用語は、組換えDNA技術を使用し、連結したセグメントを含む核酸分子(例えばDNAまたはcDNA分子)をさす。
【0112】
組換えによって発現した増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を使用することは、特に有利であろう。例えば、増殖因子がヒト増殖因子である場合、それは、ヒト生物学的物質から単離するよりも、容易に組換え供給源から調製できるであろう。さらに、ヒトまたは動物性物質からの増殖因子の単離は、病原性媒介物を伝達する危険性を伴いかねない。特に、常法に従って、これに、病原性媒介物の存在について調査できる細胞発現系を使用すると、組換え発現中、該危険性をより効果的に制御し、または排出することができる。有利には、細胞発現系がヒトから離れている場合、例えば細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、または昆虫細胞である場合、該危険性をさらに減少させることができる。それは、おそらく該培養物中に存在しうる病原性媒介物が、ヒト細胞またはヒトを害する可能性がおそらく低いからである。
【0113】
適切な発現系、例えばプラスミドおよびウイルスベクターなどの発現ベクター、宿主生物、例えば、細菌[例えば、大腸菌(E. coli)、S.チンフィムリウム(tymphimurium)、セラチアマルセセン(Serratia marcescens)、枯草菌(Bacillus subtilis)]、酵母[例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)およびピキアパストリス(Pichia pastoris)]、培養植物細胞[例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)およびタバコ(Nicotiana tobaccum)由来]、および動物細胞(例えば、哺乳動物細胞と昆虫細胞)、および植物または動物などの多細胞生物;ならびに組換え手法により発現し生成したタンパク質、例えば、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体の単離手順は当技術分野で公知である。例えば参照により本明細書に援用される、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual第2版" (Sambrookら,1989),Animal Cell Culture (R. I. Freshney編, 1987)、the series Methods in Enzymology (Academic Press), Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller & M. P. Calos, eds., 1987)、"Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology, 第3版" (F. M. Ausubelら編, 1987 & 1995)、Recombinant DNA Methodology II (R. Wu ed., Academic Press 1995)を含む公知の教本を参照されたい。また、組換え増殖因子は、一般に(例えば、Sigma、Biological Industries、R&D SYSTEMS、Peprotechなどから)市販されている。
【0114】
「血漿」という用語は従来から定める通りである。通常、血漿は、凝固を防ぐために、血液試料から採取すると同時にまたは直後に、抗凝血剤、例えば、ヘパリン、クエン酸塩[例えば、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸デキストロース(acid citrate dextrose)]、シュウ酸塩、またはEDTAによって得られた、またはこれらと接触させた全血試料から得る。続いて、好適な技術によって、通常は遠心分離によって、液体成分(血漿)からその血液試料の細胞成分を分離する。従って「血漿」という用語は、ヒトまたは動物身体の一部を形成しない組成物をさす。
【0115】
「血清」という用語は、従来から定める通りである。通常、血清は、第一に、試料中で凝固が生じるようにするステップ、続いて好適な技術、一般的に遠心分離によって、液体成分(血清)から、そのようにして形成された血液試料の血餅および細胞成分を分離するステップによって、全血試料から通常、得ることができる。凝固は、不活性触媒、例えば、ガラスビーズまたは粉末によって促進することができる。有利に、血清は、当技術分野で公知の血清分離チューブ(SST)を使用して調製でき、このチューブには、凝固を促進するための不活性触媒を入れ、さらに密度が液体成分と血餅間に位置するように設計したゲル、および遠心分離後の細胞成分を入れ、そのようにして分離を簡略化する。また、抗凝血剤およびフィブリンを除去することによって、血漿から血清を得ることができる。従って、「血清」という用語は、ヒトまたは動物身体の一部を形成しない組成物をさす。
【0116】
単離した血漿または血清は、直接、本発明の方法に使用することができる。それらは、後に本発明の方法で使用するために適切に貯蔵することもできる。通常は、血漿または血清は、血漿または血清のそれぞれの氷点より高いが、周囲温度より低い温度で、短期間、例えば約1〜2週間まで貯蔵することができる。通常、この温度は、約15℃以下、好ましくは約10℃以下、より好ましくは約5℃以下、例えば約5℃、4℃、3℃、2℃、または約1℃、最も好ましくは約5℃または約4℃である。また、血漿または血清は、それぞれのその氷点以下で、すなわち冷凍保存によって貯蔵することができる。当技術分野で通常の通り、血漿または血清の冷凍保存に有利な温度は、約−70℃以下、例えば約−75℃未満、または約−80℃以下であってよい。該温度は、貯蔵した血漿または血清のどんな解凍も有利に防止し、それによってその質を保存することができる。冷凍保存は、血漿または血清を貯蔵しなければならない期間に関わりなく使用できるが、長期保存、例えば数日より長く、または1〜2週間より長く保存する必要がある場合、特に適切であろう。
【0117】
保存または使用の前に、単離した血漿または血清を熱失活させることができる。熱失活は、当技術分野では主として補体を除去するために使用される。本方法が、自家性である血漿または血清をそれらの存在下で培養した細胞に利用する場合、血漿または血清を熱失活させる必要はないであろう。血漿または血清が、培養細胞と少なくとも部分的に同種である場合、血漿または血清を熱失活させることは有利でありうる。通常は、熱失活には、血漿または血清を一定で攪拌しながら56℃で30〜60分間、例えば30分間インキュベートするステップが伴い、その後、血漿または血清を放置して徐々に周囲温度に冷却する。当業者であれば、上記手順の任意の一般的変更および要件を承知しているであろう。
【0118】
任意に、血漿または血清はまた、保存または使用する前に滅菌してもよい。通常の滅菌手段は、例えば、細孔径が1μmより小さい、好ましくは0.5μmより小さい、例えば0.45μmより小さい、0.40μm、0.35μm、0.30μm、または0.25μm、より好ましくは0.2μm以下、例えば0.15μm以下、0.10μm以下の1つ以上のフィルターによるろ過を含みうる。
【0119】
一実施形態では、本方法は、接触させるヒトBMSCに対して自家性であるヒト血漿または血清を使用する。血漿または血清に関して「自家性」という用語は、血漿または血清が、該血漿または血清と接触するBMSCを得た対象と、同じ対象から得ることを示す。本発明者らは、自家性血漿または血清の使用が、BMSCから骨芽細胞および骨芽細胞表現型細胞を得るのに有利な条件を提供することに気づいた。さらに、BMSCを得た対象と同じヒト対象に、得られた骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞を投与する場合、自家性血漿または血清を使用することによって、対象が細胞を確実に最適に受けいれられるようになり、および/または例えば他の血清からの感染病原体の偶発的の伝達を回避しうる。
【0120】
別の実施形態では、本方法は、接触させるヒトBMSCに「相同」である、すなわち、BMSCを得た対象以外の、一人以上の(プールした)ヒト対象から得たヒト血漿または血清を使用しうる。
【0121】
別の実施形態では、本方法は、先に定義した通り、自家性および相同な血漿または血清の混合物を使用しうる。
【0122】
本明細書で使用する「接触すること」という用語は、直接的または間接的に、1個以上の分子、成分、または物質を、別のものと一緒にし、それによってその間の相互作用を促進することを意味する。通常は、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体、およびヒト血漿または血清は、BMSCを培養する培地中にそれらを入れることによって、BMSCと接触させてよい。
【0123】
実施形態では、ヒト血漿または血清は、0.5%〜30%、好ましくは1%〜20%、より好ましくは2%〜10%、例えば、5%〜10%、例えば約5%、6%、7%、8%、9%、または10%の比率(血清の容量/培地の容量)で培地に入れてよい。驚くべきことに、本発明者らは、BMSCから骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得るのに、比較的低量、例えば約5容量%以下、例えば1%〜5%、2%〜5%、3%〜5%、または4%〜5%のヒト血漿または血清で十分であることに気づいた。これにより、BMSCを培養するためにドナー(例えば、自家性血漿または血清の場合には患者)から入手する必要がある血漿または血清容量を有利に低減できるようになる。
【0124】
増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、上記の比率の一比率で、同じ培地に入れたヒト血漿または血清と組み合せて、BMSCが骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞へ分化するのを誘発し、それによって後者を得るのに十分な濃度で培地に入れてよい。通常は、増殖因子、例えばFGF−2、またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、培地に0.01〜100ng/ml、好ましくは0.1〜50ng/ml、例えば0.5〜30ng/ml、より好ましくは1〜20ng/ml、例えば1〜10ng/ml、例えば好ましくは5ng/ml未満、例えば1、2、3、4、または5ng/mlの濃度で入れることができる。増殖因子が、デキサメタゾンなどのグルココルチコイドである場合、該濃度は、好ましくは10−9〜10−5mMolになるであろう。当然のことながら、上記の濃度は、血漿または血清に加えて、すなわち外来的に、またはこれらを補って供給される、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体について言及している(本明細書の他の部分を参照されたい)。
【0125】
好ましい一実施形態では、FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、20ng/mlより低い、好ましくは10ng/mlより低い、さらにより好ましくは5ng/mlより低い、例えば1、2、3、4、または5ng/mlの濃度で含まれる。本発明者らは、分化を達成するには、該低いFGF−2濃度が特に好ましいものとなり得ると推測する。
【0126】
一実施形態では、上記濃度は、培地中の該増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体の総濃度、すなわち、血漿または血清が寄与し、それらに加えてもたらされた、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体の合計濃度を指すこともあり得る。
【0127】
別の実施形態では、上記濃度は、既に血漿または血清が寄与しているものに加えて、もたらされた該増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体の濃度を指すこともあり得る。当然、添加すべき増殖因子が、通常血漿または血清には存在しない(検出不能)場合、増殖因子の全濃度および追加濃度は、(実質的に)同じである。
【0128】
一実施形態では、BMSCの骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞への分化を誘発し、それによって後者を得るのに十分な時間の間、BMSCを、ヒト血漿または血清、および増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体に継続的に接触させてよい。「継続的に接触した」という用語は、該成分が全ての培地に含まれることを意味してよく、その際、BMSC、その子孫、および/またはそれらに由来する細胞を該時間培養する。通常は、ヒト血漿または血清、ならびに増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体は、該時間BMSCを培養するのに使用する全(新鮮)培地に実質的に同一なそれぞれの濃度で供給されるであろう。
【0129】
従って、通常は、t=0日間は、成長ホルモンおよびヒト血清または血漿の存在下で、単離したBMSCを最初に播種した(初代培養)時点に対応する。
【0130】
実施形態では、上記曝露時間は、少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも15日間、そしてなおより好ましくは少なくとも18日間、例えば少なくとも20日間であろう。例えば、その時間は、5〜30日間、好ましくは10〜30日間、より好ましくは15〜25日間、さらにいっそう好ましくは約20日間、例えば20、21、22またはそれくらいの日にちであろう。例えば、好ましい実施形態では、その時間は、12〜16日間、例えば12、13、14、15、または16日間、特に好ましくは約14日間であろう。別の好ましい実施形態では、その時間は、18〜24日間、例えば18、19、20、21、22、23または24日間、特に好ましくは約21日間であろう。
【0131】
別の実施形態では、上記時間には、一回以上の細胞継代、例えば1、2、3、4回、またはそれ以上の継代が含まれてよく、好ましくは上記時間には1、2、または3回継代、さらにいっそう好ましくは1または2回継代、例えば1回継代が含まれるであろう。継代数は、培養容器から細胞集団を取り出し、継代培養すなわち継代を経た回数をさす。当業者が理解するように、培地で増殖した細胞は、通常は、所与の集密度に到達するまで継代培養する。例えば、細胞が単層として存在する場合、細胞は、その集密度が60%以上、例えば70%以上、80%以上、または90%以上、またはさらに100%であるまで継代培養されるであろう。通常は、それらの細胞は、1/8〜2/3の割合で、例えば1/4〜1/2の割合で継代培養しうる。この割合は、継代培養後に同量の培地に導入される細胞比率を表す。細胞がコロニーで存在する場合は、細胞は、例えば培地で所与の日数、例えば4〜20日、例えば8〜15日、より好ましくは10〜15日、例えば10、11、12、13、または14日後、継代培養されるであろう。例えば、細胞は、コロニー当たりの平均細胞数が20以上、または50以上、または100以上、500以上になるまで継代培養されるであろう。
【0132】
特定の好ましい一実施形態では、細胞と、増殖因子、特にFGF−2および、ヒト血清または血漿との全接触時間が、好ましくは12〜16日間である場合、一次播種したBMSCは継代培養する必要はないかもしれず、直接採取してもよい。別の好ましい実施形態では、BMSCと、増殖因子、特にFGF−2および、ヒト血清または血漿との全接触時間が、好ましくは約18日間〜約24日間である場合、初代培養の一継代は、好ましくは8〜17日、さらにより好ましくは12〜16日、例えば最も好ましくは14日目に実施してよい。
【0133】
本発明者らは、BMSCを、増殖因子、特にFGF−2および、ヒト血清または血漿に約12〜16日間接触させることが好ましい可能性があることを観察した。この期間の最後に、細胞は、骨芽細胞に最も近似した表現型を示すからである。その後、形態の変化、低ALP、および高レベルの分化因子によって実証されるように、細胞は、少なくとも部分的脱分化を経ると思われる。とはいえ、上記期間は、現れた、より多くの骨形成系統細胞を得るために、さらに細胞を実質的に脱分化させることなく、約18〜24日間に、有利に伸長することができる。それ以上の継代を潜在的に含む、これらの期間のそれ以上の延長も可能ではあろうが、本発明者らは、増殖因子、特にFGF−2がそのように長時間存在することにより、望ましくないそれ以上の細胞脱分化が引き起こされる可能性があると推測する。従って、上記に引用した短い期間が好ましい。
【0134】
一実施形態では、本方法では、細胞培養で線維芽細胞の増殖を支持することができる、任意の培地を使用してよい。線維芽細胞の増殖を支持する培地製剤には、それだけには限定されないが、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(α−MEM)、基本必須培地(BME)、BGJb、F−12栄養混合液(Ham)などが含まれ、それらは市販されている(例えば、Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)。本方法で使用するのに特に適切な培地は、InvitrogenまたはCambrex(ニュージャージー)から購入できるα−MEM、IMDM、X−Vivo−10、X−Vivo20無血清培地(臨床等級)であろう。該液体培地には、自体公知の哺乳動物細胞の発生に必要な成分が含まれている。例えば、これらの成分には、無機塩(特にNa、K、Mg、Ca、そしておそらくCu、Fe、およびZn)、アミノ酸、ビタミン、および炭素源(例えばグルコース)などが含まれる。通常は、線維芽細胞の増殖を支持するために、上記の培地に5−20%の血清成分、例えばウシ胎仔血清(FCS)を加える必要があろう。しかしながら、線維芽細胞の増殖に必要なFCS中の因子が、増殖培地中に同定され、提供されているならば、所定の無血清培地を使用することもできる。有利には、本方法では、BMSCと接触させるヒト血漿または血清によって、この血清成分を表すことができ、その結果、それ以上の血清成分を培地に加えない。培地は、さらに、それだけには限定されないが、重炭酸ナトリウム、抗菌性および/または抗真菌性成分、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、および/またはアンフォテリシンなどを含む一種以上の当該化合物を含んでよい。
【0135】
好ましい実施形態では、BMSCは、非ヒト動物、特に非ヒト哺乳動物から得たいかなる成分にも接触しない。ヒト対象に、BMSCから得た骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を投与する場合、BMSCと非ヒト動物から得た成分との接触が起きないということは、対象が細胞を確実に最適で受けいれ、細胞への感染病原体の偶発的伝達が回避される。後者の関心は、プリオン疾患の出現、例えば動物からヒト伝達し得るBSEの出現によりますます重要になっている。
【0136】
特定の実施形態では、BMSCは、非ヒト動物に由来するいかなる血清成分とも接触しない。例えば、本方法でBMSCを培養し、分化させるために使用する培地は、非ヒト動物のいかなる血清成分も含まないであろう。上記のように、細胞培養物の増殖を維持するために、細胞培地に例えばFCSを添加することは、当技術分野では普通のことである。従って、本方法でBMSCを培養し、分化するために使用する培地には、いかなるFCSまたは他の非ヒト動物血清成分も含めないであろう。本発明者らは、BMSCが、非ヒト動物のいかなる血清成分とも接触しないとき、これにより、BMSCから骨芽細胞および骨芽細胞表現型細胞を得るのに有利な状態が引き起こされることに気づいた。
【0137】
別の実施形態では、BMSCを培養する培地は、任意の抗生物質成分または抗真菌剤成分を含まない。これらの成分が存在しないことによって、潜在的な培養物の汚染を容易に見極められるようになる。BMSCから得た骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞をヒト対象に投与する場合、これにより対象への病原性微生物の導入が回避される。
【0138】
一実施形態では、培地は、骨分化を誘発するために、当技術分野で通常使用される成分、例えば、グルココルチコイド(例えばデキサメタゾン)、アスコルビン酸−2−ホスフェートおよび/またはβ−グリセロールホスフェートを含まない。
【0139】
従って、上記の好ましい特徴を考慮すると、典型的な実施形態では、インビトロまたはエクスビボで、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、またはそれらを含む細胞集団を得る方法(および任意により、さらに他の細胞型、例えば内皮細胞または前駆体を含む)は、
(a)BMSCを含むヒト対象の生物試料、好ましくは骨髄試料から細胞を回収する、
(b)例えば好適な密度勾配遠心分離法または他の方法を使用して、(a)で回収した細胞から単核細胞を任意に単離する、
(c)ヒト血漿または血清および、増殖因子またはその生物学的に活性な変異体もしくはその誘導体を含む培地に、(a)または好ましくは(b)の細胞を加え、細胞−培地混合物を培養して、例えば基板表面、例えば培養容器などのガラスまたはプラスチック表面に細胞を接着させる、
(d)非接着物質を除去し、さらに(c)で定義した培地で接着細胞を培養して、例えば、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞様細胞、またはそれらを含む細胞集団を得られるようにする、
ステップを含む。
【0140】
好ましい一実施形態では、本方法は、好ましくは12〜16日目、例えば14日目に(d)で得られた細胞または細胞集団を採取するステップをさらに含んでよい。
【0141】
別の好ましい実施形態では、本方法は、約12〜16日目に(d)の細胞または細胞集団を継代培養し、約18〜24日目に、該培養細胞または細胞集団を採取するステップを含んでよい。
【0142】
好ましい一実施形態では、培養容器は、細胞接着が可能なプラスチック表面を準備しうる。別の実施形態では、その表面はガラス表面であってよい。さらに別の実施形態では、細胞増殖に役立つ好適な物質、例えばMatrigel(登録商標)、ラミニン、またはコラーゲンでその表面をコーティングしてよい。
【0143】
特定の成分に関して「単離すること」という用語は、その成分を、その成分を単離する組成物の少なくとも一種の他の成分から分離することを指す。従って、BMSCの単離は、BMSCを、BMSCを含む組成物の少なくとも一種の他の成分から分離することを含む。BMSCの単離は、BMSCを単離する組成物と比較して、他の成分、特に他の細胞成分に対する組成物中のBMSCの比率の上昇もまた伴う。例えば、生物試料からのBMSCの単離は、BMSCと、他の成分、特に試料の細胞成分からの分離をさす。
【0144】
任意の細胞集団に関連して、本明細書で使用する「単離した」という用語は、該細胞集団が、動物または人体の一部を形成しないこともまた意味する。
【0145】
一実施形態では、(a)または(b)の細胞は、1〜1×10細胞/mm、例えば1〜5×10細胞/mm、1〜1.5×10細胞/mm、例えば1×10〜5×10細胞/mm、好ましくは1×10〜5×10細胞/mm、例えば1×10〜1×10細胞/mm、または5×10〜5×10細胞/mm、または5×10〜1×10細胞/mm、例えば約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、または1×10細胞/mmで培養するために播種してよい。
【0146】
好ましい実施形態では、(d)の非接着物質の該除去は、1〜8日後、例えば2〜6日後、好ましくは1〜4日後に、より好ましくは約4日目、例えば4日目、さらにいっそう好ましくは1、2または3日目、さらにより好ましくは1または2日目に実施する。
【0147】
さらに、好ましい実施形態では、(d)の、該それ以上の接着細胞の培養は、5〜30日間、例えば約10〜25日間、より好ましくは約18〜22日間、さらにより好ましくは18〜24日間、例えば18、19、20、21、22、23、または24日間実施しうる。
【0148】
さらに好ましい実施形態では、(d)の、該それ以上の接着細胞の培養は、1回または1回以上、例えば2または3回細胞継代、好ましくは1または2回、より好ましくは1回継代を含みうる。好ましくは、それは、ステップ(c)後、約10〜18日目、例えば約12〜16日目、例えば14日目の継代を含みうる。
【0149】
好ましい一実施形態では、該継代は、培養手順を標準化するために一定期間、例えば約14日目、例えば培養14日目であってよい。
【0150】
好ましくは、細胞は、継代培養後、(d)でさらに培養するために1〜1×10細胞/mm、例えば1×10〜1×10細胞/mm、1×10〜1×10細胞/mm、好ましくは5×10〜5×10細胞/mm、例えば、約5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、または5×10細胞/mm、より好ましくは8×10〜2×10細胞/mm、例えば約1×10細胞/mmで再播種してよい。
【0151】
一実施形態では、細胞は、少なくとも5%、または少なくとも10%、例えば少なくとも30%、せいぜい90%、またはせいぜい80%、またはせいぜい50%、好ましくは30〜80%の集密で再播種してよい。
【0152】
一実施形態では、継代培養ステップは、二価イオンキレート剤(例えば、EDTAまたはEGTA)による細胞の処理および/またはトリプシンによる処理を含む。好ましい実施形態では、継代培養ステップは、二価イオンキレート剤(例えば、EDTAまたはEGTA)による細胞の処理を含み、トリプシンによる処理を含まない。トリプシンは、動物源に由来するかもしれず、従って病原性媒介物が導入される危険性を伴いうるので、有利である。
【0153】
工程ステップ(a)〜(d)のさらに好ましい実施形態は上記の通りである。
【0154】
先に説明したように、本発明の方法、およびその好ましい実施形態によって、優れた特性、例えば高速増殖、迅速な石灰化、および脂肪細胞または軟骨細胞へ分化する能力の実質的欠如という特性を示す、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、かつそれらを含む細胞集団が生じる。本発明者らはまた、これらの細胞および細胞集団を患者骨組織に移植した場合、優れた性能が発揮されることに気づいた。本発明の方法によって得られる細胞および細胞集団の該驚くべき特性を考慮すると、これらの細胞および集団は、自体、当技術分野に有益に寄与する。その上、以下の節でさらに説明し、その実験データで実証するように、本発明の方法は、これらの細胞でのマーカーの新規で予想外の組合せ、かつ骨治療に特に適している新規な細胞集団によって実証された骨形成細胞の新しい型を提供する。
【0155】
従って、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を得るために、本発明に従ってBMSCを処理した場合、細胞集団は、主として骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞で構成されて得られることは当業者なら理解するであろう。しかしながら、例えば細胞応答での変動のために、細胞集団は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞ではない細胞を低い比率で含みうる。
【0156】
従って、関連する一態様では、本発明によって、上記のように、本発明の方法を使用して得られる、または直接得られたヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞が提供される。
【0157】
一実施形態では、本発明によって、上記のように、本発明の方法を使用して得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む単離した細胞集団が提供される。例えば、該細胞集団は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を少なくとも60%、例えば少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、例えば85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、例えば95%またはさらに少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%含みうる。
【0158】
好ましい実施形態では、細胞集団は、該骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞以外の1個以上の細胞型を含みうる。例えば、その集団は、該骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞以外の細胞型を50%未満、例えば40%未満、好ましくは30%未満、例えば20%未満、より好ましくは15%未満または10%未満、例えば7%未満、5%未満または2%未満含みうる。
【0159】
細胞混合物中、残りの細胞の実際の表現型は重要であろう。混合物中の残りの細胞による、骨芽細胞をもたらす物質、例えば増殖因子および/または分化因子の内在的な生成に、骨芽細胞の迅速な増殖および分化が、少なくとも部分的におそらく依存するからである。この点で、骨生成およびリモデリングは、骨形成骨芽細胞と、骨微小環境内に、特に内皮細胞内に存在する他の細胞との間の複合的相互作用に、少なくとも部分的に依存することが知られているのは興味深く、この内皮細胞は、骨中の複合相互作用的通信網の重要な構成物でありうる。ヒト骨芽前駆細胞と内皮細胞間の細胞協力は、既に実証されている(Guillotinら,2004. Cell Physiol Biochem 14(4-6): 325-32)。さらに、内皮細胞の存在は、新たに形成された骨組織を活性化する、血管または毛細血管のin situ形成を引き起こしうる。本発明者らは、本発明の細胞混合物中の該残りの細胞が、内皮様であり、そして特異的マーカーの点から、マーカーCD133および/またはCD34に陽性であり、マーカーCD45に潜在的に陰性であり、特に好ましくは、vWF、VEGF、およびCD133の少なくともいずれか1個、2個、または全てに陽性であり、そして任意にCD34にも陽性であってよいことを見出した。
【0160】
従って、さらに好ましい一実施形態では、細胞集団は、内皮細胞または前駆体を含んでよい。別の実施形態では、細胞集団は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、および内皮細胞または前駆体を含んでよい。
【0161】
別の態様では、本発明は、骨関連疾患の治療に使用し、および/または骨関連疾患を治療する医薬品の製造のための、上記のように本発明の方法を使用して得られる、または直接得られたヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞に関する。
【0162】
一実施形態では、本発明は、骨関連疾患の治療に、および/または骨関連疾患を治療する医薬品の製造に使用するための骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む単離した細胞集団に関し、該集団は、上記の本発明の方法を使用して得られる、または直接得られたものである。
【0163】
一態様では、本発明の方法によって得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、または骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含み、上記の本発明の方法を使用して得られる、または直接得られた単離した細胞集団は、骨病変部位に、例えば手術または骨折に投与してもよい。
【0164】
別の態様では、本発明は、該治療を必要とする対象への、本発明の方法によって得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞の投与、または上記の本発明の方法を使用して得られる、または直接得られた、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含む単離した細胞集団の投与を含む、骨疾患を予防し、および/または治療する方法を提供する。
【0165】
ある態様では、本発明は、骨疾患を予防し、および/または治療する方法であって、
(a)該治療を必要とする対象から、BMSCを含む生物試料を得る、
(b)本発明の方法に従って、インビトロまたはエクスビボで、BMSCから骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得、または骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含む単離細胞集団を得る、および
(c)対象に、得られた該骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、またはそれらを含む該細胞集団を投与する
ステップを含む方法に関する。
【0166】
好ましい実施形態では、ステップ(b)には、自家性ヒト血漿または血清を、より好ましくは非ヒト動物成分、例えば血清成分、が欠除している自家性ヒト血漿または血清を使用する本発明の方法が含まれてよい。該条件を本明細書では、本発明の骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞を入手する「純粋自家性」条件と呼んでよい。
【0167】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含む、または上記の本発明の方法を使用して得られる、または直接得られた骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含む単離した細胞集団、および骨病変部位での投与に適した細胞集団を含む、医薬組成物に関する。
【0168】
2.本発明の細胞および集団
発明の開示の節で説明したように、本発明の方法から得られた細胞および細胞集団のそれ以上の研究によって、本発明者らは、骨治療での使用によって観察された有利な特性の根底にある、新規な骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞型、かつそれらを含む特異的細胞集団を定義できるようになった。
【0169】
特に、一態様では、本発明は、(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーを、(2)CD63およびCD166から選択した少なくとも一種の幹細胞/未成熟骨芽前駆細胞マーカーと共に、同時発現することを特徴とする骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞(本明細書では「OOP−1細胞」)、好ましくはヒト起源のそれらの細胞を提供する。
【0170】
従って、典型的な実施形態(a)〜(u)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞は、(a)少なくともALPおよびCD63、(b)少なくともP1NPおよびCD63、(c)少なくともBSPおよびCD63、(d)少なくともALP、P1NP、およびCD63、(e)少なくともALP、BSP、およびCD63、(f)少なくともP1NP、BSP、およびCD63、(g)少なくともALP、P1NP、BSP、およびCD63、(h)少なくともALPおよびCD166、(i)少なくともP1NPおよびCD166、(j)少なくともBSPおよびCD166、(k)少なくともALP、P1NP、およびCD166、(l)少なくともALP、BSP、およびCD166、(m)少なくともP1NP、BSP、およびCD166、(n)少なくともALP、P1NP、BSP、およびCD166、(o)少なくともALP、CD63、およびCD166、(p)少なくともP1NP、CD63、およびCD166、(q)少なくともBSP、CD63、およびCD166、(r)少なくともALP、P1NP、CD63、およびCD166、(s)少なくともALP、BSP、CD63、およびCD166、(t)少なくともP1NP、BSP、CD63、およびCD166、または(u)少なくともALP、P1NP、BSP、CD63、およびCD166と共に同時発現する。
【0171】
好ましい一実施形態(v)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(u)のいずれかに記載のそれらの細胞は、オステオカルシン(OCN)に陰性である。
【0172】
さらに好ましい実施形態(w)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(v)のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD34に陽性である。
【0173】
さらに好ましい実施形態(x)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(v)のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD34に陰性である。
【0174】
さらに好ましい実施形態(y)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(x)のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD90、CD73、およびCD105のいずれか1個、2個、または全3個にも陽性である。
【0175】
さらに好ましい実施形態(z)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(y)のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD45、CD19、およびCD14のいずれか1個、2個、または全3個に陰性である。
【0176】
さらに好ましい実施形態(ab)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(z)のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD133に陰性である。
【0177】
さらに好ましい実施形態(ac)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(ab)のいずれかに記載のそれらの細胞は、骨形成培地に曝露すると、外部環境を石灰化し、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成する能力の証拠を示す(Jaiswalら,1997. J Cell Biochem 64: 295-312)。(当技術分野で公知のように、石灰化培地中Red Alizarinで染色した表面の全比率によって測定する)1週間後の石灰化の量は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも55%、最も好ましくは少なくとも60%、例えば少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%、またはさらに100%であろう。有利には、上記レベルが、骨形成培地でわずか3〜4週間後に達成される場合、これらの細胞による石灰化は、従来のBMSCよりも極めて速い。
【0178】
興味深いことに、石灰化培地での、上記の本発明の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の倍加時間は、1〜3日、例えば約2日であろう。これは、こうした条件での従来の骨芽細胞の倍加時間である約6〜7日よりも相当に速い。
【0179】
よりさらに好ましい実施形態(ad)では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−1)細胞、特に上記の実施形態(a)〜(ac)のいずれかに記載のそれらの細胞は、脂肪細胞系統細胞(例えば脂肪細胞)または軟骨細胞系統細胞(例えば軟骨細胞)のどちらか一つに、好ましくはどちらにも実質的に分化しない。これらの細胞系への分化が存在しないことは、当技術分野で確立されている標準的分化誘発条件(例えばPittengerら,1999. Science 284: 143-7を参照)、およびアッセイ方法(例えば、誘発されると、脂肪細胞は、通常は脂質の蓄積を示すオイルレッドOによる染色、軟骨細胞は、通常はアルシアンブルーまたはサフラニンOによる染色)を使用し試験することができる。
【0180】
脂肪生成または軟骨分化する性向の実質的欠除は、それぞれの試験に使用した場合、試験した細胞、例えば試験したOOP−1細胞の50%未満、好ましくは40%未満、例えば30%未満、より好ましくは20%未満、さらにいっそう好ましくは10%未満、よりさらに好ましくは5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満、またはさらに0.1%未満が、脂肪生成または軟骨生成の分化の徴候を示すことを通常は意味する。
【0181】
別の態様では本発明は、(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーを、(2)造血/内皮前駆体マーカーCD34とともに、同時発現することを特徴とする、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞(本明細書では「OOP−2細胞」)、好ましくはヒト起源のそれらの細胞を提供する。
【0182】
従って、典型的な実施形態(a')〜(g')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞は、(a')少なくともALPおよびCD34、(b')少なくともP1NPおよびCD34、(c')少なくともBSPおよびCD34、(d')少なくともALP、P1NPおよびCD34、(e')少なくともALP、BSP、およびCD34、(f')少なくともP1NP、BSP、およびCD34、または(g')少なくともALP、P1NP、BSP、およびCD34と同時発現される。
【0183】
好ましい一実施形態(h')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(g')のいずれかに記載のそれらの細胞は、オステオカルシン(OCN)に陰性である。
【0184】
さらに好ましい実施形態(i')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に、上記の実施形態(a')〜(g')のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD63に陽性である。
【0185】
さらに好ましい実施形態(j')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(i')のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD166に陽性である。
【0186】
さらに好ましい実施形態(k')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(j')のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD90、CD73、およびCD105のいずれか1個、2個、または全3個にも陽性である。
【0187】
さらに好ましい実施形態(l')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(k')のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD45、CD19、およびCD14のいずれか1個、2個、または全3個に陰性である。
【0188】
さらに好ましい実施形態(m')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(l')のいずれかに記載のそれらの細胞は、CD133に陰性である。
【0189】
さらに好ましい実施形態(n')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(m')のいずれかに記載のそれらの細胞は、骨形成培地に曝露すると、外部環境を石灰化し、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成する能力の証拠を示す(Jaiswalら,1997)。(当技術分野で周知のように、石灰化培地中、Red Alizarinで染色された表面の全比率によって測定する)1週間後の石灰化の量は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも55%、最も好ましくは少なくとも60%、例えば少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%、またはさらに100%であろう。有利には、上記レベルが、骨形成培地でわずか3〜4週間後に達成される場合、これらの細胞による石灰化は、従来のBMSCよりも極めて速い。
【0190】
興味深いことに、石灰化培地での、上記の本発明の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の倍加時間は、1〜3日、例えば約2日であろう。これは、こうした条件での従来の骨芽細胞の倍加時間である約6〜7日よりも相当に速い。
【0191】
よりさらに好ましい一実施形態(o')では、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型(OOP−2)細胞、特に上記の実施形態(a')〜(n')のいずれかに記載のそれらの細胞は、脂肪細胞系統細胞(例えば脂肪細胞)または軟骨細胞系統細胞(例えば軟骨細胞)のどちらか一つに、好ましくはどちらにも実質的に分化しない。
【0192】
細胞が、特定のマーカーに対して陽性であると言う場合、これは、当業者であれば、適切な測定を実施した場合、好適な対照と比較して、例えばそのマーカーを抗体検出することが可能な、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応によって検出することが可能な別個のシグナルの存在または形跡を結論づけることを意味する。本方法によって、マーカーの定量的評価が可能になる場合、陽性細胞は、平均して、対照とは著しく異なるシグナル、例えばそれだけには限らないが、対照細胞が発する該シグナルよりも少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高い、またはよりさらに高いシグナルを発生しうる。
【0193】
細胞特異的マーカーの発現は、当技術分野で周知の任意の好適な免疫学的技術、例えば、フローサイトメトリー、免疫細胞化学または親和吸着法、ウエスタンブロット分析、ELISAなどを使用し、またはマーカーのmRNA量を測定する任意の好適な技術、例えばノーザンブロット、半定量または定量的RT−PCRなどにより検出することができる。
【0194】
実施形態では、上記骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、ALP陽性である言う場合、FACSによって定量してALP陽性である。実施形態では、ALP陽性細胞は、全細胞性タンパク質1mgにつき少なくとも300mUのALP、全細胞性タンパク質1mgにつき好ましくは少なくとも400mUのALP、全細胞性タンパク質1mgにつきより好ましくは少なくとも450mUのALP、全細胞性タンパク質1mgにつき、ALPを例えば少なくとも500mU、少なくとも600mU、少なくとも700mU、少なくとも800mU、少なくとも900mUまたは少なくとも1Uを含む。例えば、ALP活性は、全細胞性タンパク質1mgにつき400〜1500mU、全細胞性タンパク質1mgにつき、例えば450〜1500mU、500〜1500mU、550〜1500mU、または600〜1500mUであってよく、そして通常は全細胞性タンパク質1mgにつき400〜800mUであり、例えば細胞性タンパク質1mgにつき、約500mU、約550mU、約600mU、約650mU、約700mU、約750mU、または約800mUであってよい。上記のALP活性は、先に定義した一つ以上の他の特性(a)〜(h)と組み合せて存在してよい。
【0195】
実施形態では、本発明の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞がP1NPを陽性と言う場合、培地に以下の量でプロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)が生成される(培地1ml当たり10細胞につき、P1NPをngで表す):少なくとも0,4ng、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも1.0、さらにより好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.5、例えば少なくとも1.6、少なくとも1.7、少なくとも1.8または少なくとも2ng。例えば、P1NPは、0.4〜3.5、例えば、0.5〜3.5、0.8〜3.5、1.0〜3.5、1.2〜3.5、1.5〜3.5、1.8〜3.5、2.0〜3.5、2.2〜3.5、2.5〜3.5、2.8〜3.5または3.0〜3.5、例えば約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9または約2.0であってよい。上記のP1NPの生成は、先に定義した1個または複数の他の特性(a)〜(h)と組み合せて存在しうる。
【0196】
他の実施形態では、本発明の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、BSP陽性という場合、中程度から多量の骨シアロタンパク質を含みうる。定量法(例えば定量的RT−PCR)によって測定する場合、本発明の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞で生じたシグナルは、対照細胞(例えば、他の任意の非骨形成細胞)によって生じたシグナルよりも少なくとも2倍高いであろうし、好ましくは、少なくとも4倍、少なくとも10倍、そしてより好ましくは少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍高いであろう。上記の骨シアロタンパク質の産生は、先に定義した1つ以上の他の特性(a)〜(h)と組み合せて存在しうる。
【0197】
一般的に、上記CDおよび他のマーカーは、当技術分野で周知であり、細胞でそれらを検出するための方式および試薬は、当業者には得ることができる。
【0198】
別の態様では、本発明は、上記の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団、例えば上記のOOP−1および/またはOOP−2細胞型を含む細胞集団を包含する。好ましくは、該細胞集団は、OOP−1および/またはOOP−2細胞型を少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、例えば少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも80%、そしてなおより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、またはさらに少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%含みうる。
【0199】
例えば、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の全画分のうち、OOP−1細胞は、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%または少なくとも90%または少なくとも95%、またはさらに100%を構成しうる一方で、OOP−2は、該画分の残りの細胞を実質的に構成しうる。
【0200】
好ましい実施形態では、細胞集団は、上記の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、特にOOP−1および/またはOOP−2細胞型以外の細胞型を50%未満、好ましくは40%未満、さらにいっそう好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満、よりさらに好ましくは10%未満、例えば7%未満、5%未満または2%未満含みうる。
【0201】
好ましい実施形態では、該細胞集団は、内皮細胞またはその前駆体を含んでよい。
【0202】
好ましくは、該内皮細胞または前駆体は、フォンウィルブランド因子(vWF)、VEGF、およびCD133の少なくとも1個、例えば少なくとも2個の、または少なくとも全3個を発現しうる。
【0203】
従って、実施形態(a")〜(g")では、該内皮細胞は、(a")少なくともvWF、(b")少なくともVEGF、(c")少なくともCD133、(d")少なくともvWFおよびVEGF、(e")少なくともvWFおよびCD133、(f")少なくともVEGFおよびCD133、または(g")少なくともvWF、VEGF、およびCD133を発現する。
【0204】
別の実施形態(h")では、該内皮細胞、特に上記の実施形態(a")〜(g")の内皮細胞は、さらにCD34を発現する。
【0205】
従って、一実施形態では、細胞集団は、先に定義した(A)骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、特にOOP−1および/またはOOP−2細胞を含み、さらに、先に定義した(B)内皮細胞または前駆体を含む。
【0206】
一実施形態では、(A)下の骨形成細胞および(B)下の内皮細胞は一緒になって、該細胞集団形成する細胞の少なくとも50%、例えば少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも96%、例えば少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%、またはさらに100%を構成する。
【0207】
この(A+B)画分のうち、(A)下の骨形成細胞は、好ましくは少なくとも50%、例えば少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも80%、そしてなおより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、またはさらに少なくとも99%を構成し、好ましい例では90%〜99%、90%〜95%、または95%〜99%を構成する。
【0208】
従って、この(A+B)画分のうち、(B)下の内皮細胞は、好ましくは50%未満、例えば40%未満、より好ましくは30%未満、例えば20%未満、さらにいっそう好ましくは10%未満、例えば5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、またはさらに1%未満を構成する、好ましい例では、1%〜10%、5%〜10%、または1%〜5%を構成する。
【0209】
当然のことながら、本明細書に開示した細胞型および細胞集団は、本発明の分化方法を使用し、有利に到達できる。該方法は、(例えば、マーカープロフィールに基づくFACSを使用し)特定の細胞型をさらに分離し、または単離し、そして任意に該細胞型を組み合せて、所望の集団を形成することによって、任意に補足してよい。
【0210】
とはいえ、当然のことながら、本発明は、それらの構造特性および機能特性によって、細胞型および集団、すなわちそれ自体を定義するものであり、いかなるその調製方法にも限定されない。例によって、そして限定しないが、先に定義した骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞は、細胞を骨形成系統へ分化させる他の条件を使用し、かつ例えばFACSにより、本明細書で定義した特定のマーカープロフィールを有する細胞を選択して得られるであろう。同様に、内皮細胞は、例えば血管新生因子を使用して、または造血細胞から生成させ、続いて所望のマーカープロフィールにより細胞を選択しうるであろう。
【0211】
別の態様では、本発明はまた、特定のマーカープロフィールを有する特定の集団にも関する。
【0212】
例えば、本発明は、70%〜100%、好ましくは80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらにいっそう好ましくは95%〜100%、例えば90%〜100%、または90%〜98%または95%〜98%までCD105陽性であり、好ましくは、CD45陰性、CD19陰性、CD14陰性、CD90陽性、およびCD73陽性でもある細胞集団(「POP1」)に関する。
【0213】
本発明は、さらに、POP1としての特徴を有し、さらにCD105陽性細胞の70%〜100%、好ましくは80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらにいっそう好ましくは95%〜100%が、ALP陽性、および/またはP1NP陽性、および/またはBSP陽性でもある集団2(「POP2」)に関する。
【0214】
本発明は、さらに、POP1としての特徴を有し、さらにCD105陽性細胞の50%〜100%、例えば60%〜100%、好ましくは70%〜100%、例えば80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらにいっそう好ましくは95%〜100%が、CD63陽性および/またはCD166陽性でもある集団3(「POP3」)に関する。
【0215】
本発明は、さらに、POP2としての特徴を有し、さらにALP陽性および/またはP1NP陽性および/またはBSP陽性細胞の50%〜100%、例えば60%〜100%、好ましくは70%〜100%、例えば80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらにいっそう好ましくは95%〜100%が、CD63陽性および/またはCD166陽性でもある集団4(「POP4」)に関する。
【0216】
本発明は、さらに、POP1またはPOP3のいずれかとしての特徴を有し、細胞の1%〜20%、好ましくは1%〜10%、より好ましくは1%〜5%が、vWF陽性および/またはVEGF陽性および/またはCD133陽性である集団5(「POP5」)に関する。
【0217】
本発明はまた、細胞の約50%〜約98%、好ましくは約70%〜約98%、さらにいっそう好ましくは約80%〜約98%、例えば約90%〜約98%がALP陽性であり、細胞の約30%〜約98%、好ましくは約40%〜約98%、さらにいっそう好ましくは約50%〜約98%、例えば約60%〜約98%、約70%〜98%、約80%〜98%、またはさらに約90%〜98%がCD166陽性であり、細胞の約30%〜約98%、好ましくは約40%〜約98%、さらにいっそう好ましくは約50%〜約98%、例えば約60%〜約98%、約70%〜98%、約80%〜98%、またはさらに約90%〜98%がCD63陽性であり、細胞の約0.5%〜約10%、好ましくは約1%〜10%、さらにいっそう好ましくは約1%〜4%がCD133陽性であり、細胞の約0.5%〜約10%、好ましくは約1%〜10%、さらにいっそう好ましくは約1%〜4%がVEGF陽性であり、そして細胞の約0.5%〜約10%、好ましくは約2%〜10%、さらにいっそう好ましくは約5%〜10%、例えば約8%〜10%がvWF陽性である、集団6(「POP6」)にも関する。
【0218】
関連する態様では、本発明は、骨関連疾患の治療に、および/または骨関連疾患を治療する医薬品の製造に使用するための、先に定義した細胞または細胞集団に関する。
【0219】
ある態様では、上に定義した細胞または細胞集団は、骨病変部位に、例えば手術または骨折に投与してもよい。
【0220】
別の態様では、本発明は、該治療を必要とする対象に、先に定義した細胞または細胞集団を投与するステップを含む、骨疾患を予防し、および/または治療する方法を提供する。
【0221】
ある態様では、本発明は、骨疾患を予防し、および/または治療する方法であって、
(a)先に定義した細胞または細胞集団を得る、および
(b)対象に、得られた該細胞または細胞集団を投与する
ステップを含む方法に関する。
【0222】
好ましい実施形態では、ステップ(a)は、自家性ヒト血漿または血清を使用し、より好ましくは非ヒト動物成分、例えば血清成分が欠除している本発明の方法を含みうる。本明細書では、該条件は、本発明の骨芽細胞または骨芽細胞表現型細胞を得る「純粋な自家性」条件と呼んでよい。
【0223】
別の態様では、本発明は、先に定義した細胞および細胞集団を含み、骨病変部位での投与に適した医薬組成物に関する。
【0224】
3.本発明の細胞および集団に関連する別の態様
本発明の態様は、上記第1節に記載されている方法によって得られた、またはそれによって得られる骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、およびそれらを含む集団、かつ上記第2節に記載されている骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞、およびそれらを含む細胞集団それ自体に関する。
【0225】
別の態様では、本発明は、骨病変部位に組成物を投与するための手術道具を含み、およびさらに先に定義した本発明の細胞または細胞集団を含む該医薬組成物を含む装置であって、該装置が、該骨病変部位に該医薬組成物を投与するのに適している装置に関する。例えば、適切な手術道具は、骨病変部位に本発明の細胞を含む液体組成物を注射することができる。
【0226】
上記の態様によれば、本発明の細胞または細胞集団は、ヒト対象の骨の手術部位または骨折部位に導入してよい。骨芽細胞の骨への導入は、骨折および骨関連疾患の治療に有用である。
【0227】
記載したように、骨芽細胞は分化した骨芽細胞を導入しうる対象のBMSCから得るのが好ましい。しかしながら、BMSCは、対象と同一種または異なる種の生物から単離しうる。対象は、骨組織を有する任意の生物であってよい。好ましくは、対象は哺乳動物であり、最も好ましくは、対象はヒトである。
【0228】
BMSC細胞または本発明の細胞または細胞集団は、骨病変、例えば対象の手術部位または骨折部位に導入する前に、当該核酸により安定して、または一時的に形質転換しうる。当該核酸配列は、それだけには限定されないが、骨芽細胞の増殖、分化、および/または石灰化を高める遺伝子産物をコードする配列を含む。例えば、BMP−4発現系は、非治癒性骨折または骨粗鬆症の治療を目的とした、安定したやり方または一時的やり方でBMSCに導入することができる。BMSCおよび骨芽細胞の形質転換方法は、骨病変部位、例えば骨の手術または骨折に骨芽細胞を導入する方法として当業者には周知である。
【0229】
本発明の細胞または細胞集団は、単独で、または骨創傷および欠損の修復に有用なそれ以上の成分と混合して導入しうる。該組成物には、それだけに限定されないが、骨形成タンパク質、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸、キトサン、ポリ−L−リジン、およびコラーゲンが含まれる。例えば、その複合体を骨形成性(それ自体で骨を形成する)および骨誘導性にするために、脂肪間質細胞から分化した骨芽細胞と、脱塩骨マトリックス(DBM)または他のマトリックスとを混合してよい。自家性骨髄細胞と同種DBMを使用する類似の方法から、良好な結果が得られている(Connollyら,1995. Clin Orthop 313: 8-18)。
【0230】
本発明の細胞または細胞集団を単独で、または別の成分と混合して導入した場合、その組成物(例えば医薬組成物)は、その中に該細胞、例えば骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞の生存を確実にする別の成分を含むであろう。特に、細胞または細胞集団は、十分に無菌状態下で調製した、ヒト投与用等張賦形剤を含む医薬組成物の形で提供することができる。医薬製剤における一般原理については、読者はCell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy,G. Morstyn & W. Sheridan編,Cambridge University Press, 1996、およびHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。細胞賦形剤および組成物に任意に付随する成分の選択は、投与に使用する器具に一致して適合する。例えば、組成物は、適切なpH、例えばほぼ中性pHの適切な緩衝系(例えば、リン酸または炭酸緩衝系)を含み、かつ細胞または細胞集団に等張な条件を確実にするために、すなわち、浸透圧ショックを予防するために十分な塩を含みうる。例えば、これらを目的とする適切な溶液は、当技術分野で周知のリン酸緩衝食塩水(PBS)であってよい。さらに、組成物は、細胞生存度を高めうる輸送タンパク質、例えばアルブミンを含みうる。好ましくは、非ヒト動物性物質を確実に排除するために、アルブミンは、ヒト起源の(例えば、ヒト物質から単離し、または組換え産生した)ものであろう。アルブミンの適切な濃度は一般的に知られている。
【0231】
細胞または細胞集団は、それらが意図する組織部位へ移植または遊走でき、かつ機能的に不完全な領域を再構築または再生できるような方式で投与することができる。組成物の投与は、修復する筋骨格部位に依存する。例えば、骨形成は、外科手順に一致して促進でき、組織を再構築し、または開裂、もしくは人工股関節などの補綴用器具を挿入することができる。他の状況では、侵襲性手術は必要ではなく、注射によって、または(脊柱の修復に)誘導性内視鏡を使用し組成物を投与することができる。
【0232】
必要に応じて、細胞調製物は、さらに相補的生理活性因子、例えば骨形成タンパク質、例えばBMP−2もしくはBMP−4、または他の任意の増殖因子を含み、またはこれと同時投与することができる。他の潜在的な付随成分には、骨再生を補助するのに適切なカルシウムまたはリン酸の無機供給源が含まれる(国際公開公報第00/07639号)。必要に応じて、組織の再生を改善するために、細胞調製物は、担体マトリックスまたは物質に乗せて投与することができる。例えば、その物質は、顆粒状セラミック、またはバイオポイリマー、例えば、ゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノーゲン、もしくはオステオカルシンであってよい。多孔質マトリックスは、標準的技術に従って合成することができる(例えばMikosら,Biomaterials 14:323, 1993、Mikosら,Polymer 35:1068, 1994、Cookら,J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。
【0233】
一実施形態では、上に定義した細胞調製物は、液体組成物の形態で投与してもよい。
【0234】
別の実施形態では、インプラントを提供するために、本発明の細胞または細胞集団を適切な基板上に移送し、および/またはその上で培養してもよい。細胞を付着させ、培養することができる基板は、金属、例えば、チタン、コバルト/クロム合金またはステンレススチール、生理活性表面、例えばリン酸カルシウム、ポリマー表面、例えば、ポリエチレンなどであってよい。あまり好ましくはないが、基板として、ケイ酸物質、例えば、結晶質ガラスを使用することもできる。たとえリン酸カルシウムが基板の不可欠な成分ではなかったとしても、最も好ましいものは、チタンなどの金属およびリン酸カルシウムである。基板は、多孔質または非多孔質であってよい。
【0235】
例えば、増殖した細胞、または培養皿で分化させる細胞は、必要に応じて本発明の液体栄養培地でその固相担体をインキュベートすることによって、それらの細胞を増幅し、および/または分化過程を継続させるために、三次元固相担体に移送することができる。例えば、該担体に、該細胞を含む液体懸濁液を含浸することによって、三次元固相担体に細胞を移送することができる。このようにして得られた含浸担体は、ヒト対象に移植することができる。該含浸した担体は、最終的に移植する前に、液体培地にそれらを液浸することによって再培養することもできる。
【0236】
三次元固相担体は、それをヒトに移植できるようにするために、生体適合性でなければならない。それは、任意の好適な形のもの、例えば、シリンダー、球、プレート、または任意の形の一部であってよい。生体適合性三次元固相担体に適切な物質のうち、炭酸カルシウム、特にアラゴナイト、具体的にはサンゴ骨格の形のアラゴナイト;アルミナ、ジルコニア、リン酸三カルシウム、および/またはヒドロキシアパタイトをベースとする多孔質セラミック;炭酸カルシウムをヒドロキシアパタイトに形質転換できるようにする水熱交換によって得られた擬似サンゴ骨格;他にはアパタイト−ケイ灰石結晶質ガラス、生理活性結晶質ガラス、例えばBioglass(TM)ガラスを特に挙げることができる。
【実施例】
【0237】
(実施例1)BMSCを骨芽細胞に分化させる方法
ヒト対象の腸骨稜から30mlの骨髄を取り出し、同じ対象から100mlの血液を採取する。
【0238】
血漿は、当技術分野で普通に行われるように血液から調製する。より具体的には、抗血液凝固剤ヘパリンを補給した血液を20℃で2000rpmで15分間遠心分離して、細胞成分を除去し、血漿を回収し、56℃で50分間熱失活し、3000rpmで15分間遠心分離によって清澄にし、0.22μmの滅菌フィルターでろ過し、アリコートに分割し、−80℃で貯蔵する。
【0239】
Ficoll勾配遠心法を使用し、特にFicoll Paque plus(Amersham Pharmacia)を使用して、骨髄試料から単核細胞を回収し、20℃で1400rpm(450g)、30分間遠心分離する。
【0240】
細胞を回収し、PBSで洗浄し、培養フラスコに、IMDM(臨床等級)無血清培地(Cambrex)、先に単離した20%自家性血漿、および1ng/ml FGF−b(Peprotech)を含む培地に、175cm2の培養フラスコ(Corning)1個につき10×10細胞で沈着させる。培養4日目に、培地全体を交換し、それによって非接着物質を除去する。7および11日目に、培地の半分を交換する。12、13、または14日目に、細胞をPBSで洗浄し、EDTAを使用して剥がし、同じ培地で、175cm2の培養フラスコ1個につき1×10細胞でさらに培養するために継代培養する。上記のように、培養21〜24日目に細胞を回収する。移植目的に、5%ヒトアルブミンを含む無菌PBSに細胞を再懸濁する。表現型の特徴づけに細胞の一部を使用する(実施例2)。
【0241】
(実施例2)実施例1の方法によって得られた骨芽細胞および骨芽細胞様細胞の表現型の特徴づけ
Cell Therap Unitで培養し21日後、患者へ注射し、特徴付けするために細胞を回収する。注射用に20×10細胞を調製する。残りの細胞は、表現型の特徴付けに使用する。
【0242】
1.RT−PCRによる骨シアロタンパク質の半定量測定
RNA抽出緩衝液(RLT緩衝液、RNeasyキット,Qiagen)で、1〜2×10細胞を溶解し、加工するまで−80℃で貯蔵する。Qiagen社製RNeasyキットを使用し、溶解物から全RNAを抽出する。ランダムヘキサマーおよび逆転写酵素を使用し、全RNAの1μgを逆転写した。骨シアロタンパク質(BSP)およびハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチン用に、オリゴヌクレオチドプライマー対を使用して、第一鎖cDNA生成物を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)にかける。RT−PCR生成物は、2%アガロースゲルでの電気泳動によって分析し、可視化して、骨シアロタンパク質(BSP)の半定量測定を行う(0=発現なし、+=低発現、++=中程度発現、+++=高発現)。
結果:骨シアロタンパク質の発現(n=6)。BSPの発現は平均++である(+〜++の範囲)
【0243】
培養培地中の全プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)の投与量
21日目に、P1NPの投与量用に2mlの培養培地を−20℃で貯蔵する。P1NPレベルは、電気化学発光イムノアッセイ(Roche、Elecsys、1010/2010モジュラー分析)によって測定する。
結果:P1NP=培養培地(n=6)の21〜90(範囲)ng/ml
【0244】
アルカリホスファターゼ活性(APA)測定
アルカリホスファターゼ活性の測定に5×10〜10細胞を使用する。
【0245】
細胞を2mlのPBSで洗浄し、蒸留水で超音波処理する。遠心分離後、アルカリホスファターゼ活性およびタンパク質含有量の定量に上清を使用する。
【0246】
以下のように試薬を調製した。ジエタノールアミン緩衝液の調製:1M、pH9.8。原液(D8885−Sigma−Aldrich)を水で10倍に希釈し、HClでpH9,8に調整する。反応液の調製:1Mジエタノールアミン(pH9,8)および0,5mM MgCl(M8266Sigma−Aldrich)溶液。pNPP基板の調製:4−ニトロフェニルリン酸二ナトリウム塩六水和物(N4645、Sigma−Aldrich)溶液を含む反応液10mM。
【0247】
APAは、以下の反応を触媒する。
p−ニトロフェニルリン酸+HO→p−ニトロフェノール+リン酸
基質溶液(上清20μl+基質1000μl)を37℃でインキュベートする。37℃で分光光度計用チューブに移し、405nmで2分読取り後、さらに2分間インキュベートし、再度読み取り、さらに2分後最終読取りを行う。吸光度のδ(差分)の平均を計算し、吸光度/minであるδを表す。
【0248】
計算:1U=1分間に1μMのp−ニトロフェノールを生成する酵素量。p−ニトロフェノールのモル吸収係数=18450、mM=18,45μM=0,01845。20μlの試料では:APA(U/L、またはmU/ml)=δA×1020/0,01845×20。
【0249】
タンパク質量
クーマシー溶液を以下のように調製する:100mgクーマシーブルー(Merck 1.15444)+50mlエタノール95%+100ml HPO(85%)+HOを合わせて1Lにし、ホモジナイズしフィルターにかける。1mg/mlウシアルブミン含有溶液を以下のように調製する:BSA(1mg/ml)10〜50μl+HOを合わせて1ml。
【0250】
試料を以下のように調製する:上清200μl+HO 800μlまたは上清500μl+HO 500μl。クーマシー溶液2mlを加え、ボルテックスにかける。5分後、595nmでODを測定する。タンパク質をmg/mlで表す。
【0251】
試料ごとに、総タンパク質濃度(mU/mgタンパク質)に対してAPAレベルをレポートする。
結果:アルカリホスファターゼ(n=10).APA:693±126mU/mgタンパク質(平均±SEM)、範囲:274〜1472mU/mgタンパク質
【0252】
石灰化能
石灰化能の研究するために、培養14日目に、1個の6ウェルプレートに播種する。
【0253】
21日目に、このプレートの培地をMEM+15%FCS+50μg/mlアスコルビン酸+10−8Mデキサメサゾン+10mMβ−グリセロリン酸(EMEM、BioWhittaker BE12-136F、FCS In Vitrogen、スコルビン酸Sigma A-4403、デキサメサゾン、Sigma D-4902、β−グリセロリン酸、Sigma G-9891)に交換する。
【0254】
28日目にアリザリン染色をすることによって石灰化を可視化:ホルムアルデヒド4%を含むPBSで細胞を固定し、PBSで洗浄し、染色するためにアリザリンレッド2%(pH4.1)によりインキュベートする。
【0255】
全培養皿表面(n=10)の割合として石灰化を評価する。
【0256】
患者での上記の測定の具体例
【0257】
【表1】

それ以上の実験では、1週間目に75%以上ほどの高い石灰化能でさえ観察された(図2参照)。
【0258】
マーカーのプロファイリング
上記のようにマーカーの発現を追跡し、および/または続いて抗体染色および細胞のフローサイトメトリーを行った。これらの実験により、回収した細胞で以下のマーカー発現像が得られた。
【0259】
全集団は、>95%(またはさらに>99%)CD45−、CD19−、CD14−、CD90+、CD73+、CD105+であった。全細胞の90〜95%を骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型として特徴付けることができた。これらのうち、100%はALP+であり、50〜100%はCD166+であり、65〜100%はCD63+であった。これらの細胞はまた、P1NPおよびBSP陽性であった。これらの細胞の35%〜65%はCD34+であった。(全集団の中で、これは、80〜98%のALP+細胞、40〜98%のCD166+細胞、および60〜98%のCD63+細胞に相当した。)
【0260】
さらに、全集団に含まれる内皮細胞またはその前駆体の推定量は、全細胞の5〜10%であった。これらの細胞のうち、50〜75%はvWF(フォンウィルブランド因子)に陽性であり、25〜50%はVEGF+であり、25〜50%はCD133+であった。約50%細胞は、CD133およびVEGFと同時発現した。これらの全ての細胞はCD34+であった。(全集団の中で、これは、1〜4%のCD133陽性細胞、1〜4%VEGF陽性細胞、および約5〜8%のvWF陽性細胞を表した。)
【0261】
それ以上のマーカープロファイリングによって、本発明者らは、本開示の他の部分でも詳述した本発明の細胞型を定義できるようになった。
【0262】
(実施例3)実施例2の細胞の患者への移植
一例では、Gangjiら,2005 (Expert Opin Biol Ther 5(4): 437-42; J Bone Joint Surg Am 87 Suppl 1 :106-12によって先に記載した方法に従って、股関節(hip)壊死区域に骨芽細胞を移植することにより、大腿骨頭第2期骨壊死患者を治療した。
【0263】
ベースラインでは、患者の疼痛スコア(視覚的アナログスコア−VAS)は38mm(全スコア100のうち)であり、WOMAC股関節機能性スコアは43(全スコア96のうち)であり、Lesquesneは11(全スコア24のうち)であった。
【0264】
3および6ヵ月後、骨芽細胞移植によって治療した患者に、関節症状で顕著な改善が見られた。3および6ヵ月でVASスコアは0に下がり(図1A)、3および6ヵ月でWOMACは0に下がり(図1B)、3および6ヵ月でLequesne指数はベースラインの11から0に下がった。
【0265】
別の実施例では、骨芽細胞を股関節壊死区域に移植することによる、同じ方法によって、大腿骨頭第2期骨壊死患者を治療した。ベースラインでは、患者の視覚的アナログ疼痛スコアは6mmであり、Lesquesne機能性スコアは3であった。
【0266】
3および6ヵ月後、骨芽細胞移植によって治療した患者に、関節症状で顕著な改善が見られた。3および6ヵ月にVASスコアは0に下がり、3および6ヵ月にLequesne指数は0に下がった。さらに、骨芽細胞を移植しなかった他方の股関節は、人工股関節全置換術が必要な最終骨壊死期に進行した。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】大腿骨頭の骨壊死患者において、本発明に従って調製した細胞集団の注射の結果(菱形による実線)を示すグラフである。A:VASスコア、B:WOMACスコア。「B」−ベースライン、「3m」−3ヵ月、「6m」−6ヵ月、破線−経時的対照(対照組織診)。
【図2】本発明の細胞/集団による石灰化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロまたはエクスビボでヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を得る方法、または前記細胞を含む細胞集団を得る方法であって、該骨髄幹細胞を、ヒト血清または血漿、および塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−b、FGF−2)またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体に接触させるステップを含む方法。
【請求項2】
該ヒト血漿または血清が、骨髄幹細胞に対して自家性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該骨髄幹細胞が、非ヒト動物から得られた、血清成分などのいかなる物質にも接触しない、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
該骨髄幹細胞が、ヒト対象の生物試料、好ましくは該対象の骨髄試料から得られる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該ヒト対象が、骨関連疾患の危険にさらされているか、または同疾患を有している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(a)BMSCを含むヒト対象の生物試料、好ましくは骨髄試料から細胞を回収する;
(b)例えば好適な密度勾配遠心分離法または他の方法を使用して、(a)で回収した該細胞から単核細胞を任意に単離する;
(c)ヒト血漿または血清および、FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体を含む培地に、(a)または好ましくは(b)の細胞を加え、該細胞−培地混合物を培養して、例えば基板表面、例えば培養容器などのガラスまたはプラスチック表面に細胞を接着させる;
(d)非接着物質を除去し、さらに(c)で定義した該培地で接着細胞を培養して、例えば、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞様細胞、またはそれらを含む細胞集団が得られるようにする;
ステップを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
(e)培養12〜16日目に、好ましくは約14日目に(d)で得られた細胞または細胞集団を採取するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(e)培養12〜16日目に、好ましくは14日目に(d)の該細胞または細胞集団を継代培養し、さらに該継代培養した細胞または細胞集団を培養し、および培養18〜24日目、好ましくは約21日目に、該細胞または細胞集団を採取するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
FGF−2またはその生物学的に活性な変異体もしくは誘導体が、10ng/mlより低い濃度、好ましくは5ng/mlより低い濃度、さらにいっそう好ましくは1、2、3、4、または5ng/mlの濃度で含まれる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの方法によって得られる、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞もしくは骨芽細胞表現型細胞、またはそれらを含む単離細胞集団。
【請求項11】
ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞を少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そしてより好ましくは少なくとも95%を含む、請求項10で定義した単離細胞集団。
【請求項12】
内皮様細胞を20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満含む、請求項10または11のいずれかで定義した単離細胞集団。
【請求項13】
(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーを、(2)CD63およびCD166から選択した少なくとも一種の幹細胞/未成熟骨芽前駆細胞マーカーとともに、同時発現することを特徴とする、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項14】
以下の事象:
−該細胞がオステオカルシン(OCN)に陰性である;
−該細胞がCD34に陽性である;
−該細胞がCD90、CD73、およびCD105のいずれか1個、2個、または全3個に陽性である;
−該細胞がCD45、CD19、およびCD14のいずれか1個、2個、または全3個に陰性である;
−該細胞がCD133に陰性である;
のいずれか1つ、複数、または全てに当てはまる、請求項13に記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項15】
以下の事象:
−該細胞を骨形成培地に曝露すると、該細胞がその外部環境を石灰化し、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成することができる;
−該細胞が、脂肪細胞系統の細胞または軟骨細胞系統の細胞のどちらか一つに、好ましくはどちらにも実質的に分化しない;
のいずれか1つまたは両方に当てはまる、請求項13または14のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項16】
(1)アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型ALP、プロコラーゲン1型アミノ末端プロペプチド(P1NP)、および骨シアロタンパク質(BSP)から選択した少なくとも一種の骨芽細胞マーカーを、(2)造血/内皮前駆体マーカーCD34とともに、同時発現することを特徴とする、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項17】
以下の事象:
−該細胞がオステオカルシン(OCN)に陰性である;
−該細胞がCD63に陽性である;
−該細胞がCD166に陽性である;
−該細胞がCD90、CD73、およびCD105のいずれか1個、2個、または全3個に陽性である;
−該細胞がCD45、CD19、およびCD14のいずれか1個、2個、または全3個に陰性である;
−該細胞がCD133に陰性である;
のいずれか1つ、複数、または全てに当てはまる、請求項16に記載の骨芽前駆細胞または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項18】
以下の事象:
−該細胞を骨形成培地に曝露すると、該細胞がその外部環境を石灰化し、またはカルシウム含有細胞外マトリックスを合成することができる;
−該細胞が、脂肪細胞系統の細胞または軟骨細胞系統の細胞のどちらか一つに、好ましくはどちらにも実質的に分化しない;
のいずれか1つまたは両方に当てはまる、請求項16または17のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、または骨芽細胞表現型細胞。
【請求項19】
請求項13〜15のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、および/または請求項16〜18のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、ならびにさらにいっそう好ましくは少なくとも95%含む、請求項13〜15のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞、および/または請求項16〜18のいずれかに記載の骨芽前駆細胞、骨芽細胞、もしくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団。
【請求項20】
さらに、内皮細胞またはその前駆体を含む、請求項19で定義した細胞集団。
【請求項21】
該内皮細胞または前駆体が、フォンウィルブランド因子(vWF)、VEGF、およびCD133の少なくとも1個、少なくとも2個、または全3個を発現し、好ましくはCD34陽性である、請求項20で定義した細胞集団。
【請求項22】
該内皮細胞またはその前駆体を10%未満、好ましくは5%未満、または2%未満含む、請求項の20または21のいずれかで定義した細胞集団。
【請求項23】
治療に使用するための、請求項10もしくは13〜18のいずれかで定義した細胞、または請求項10、11、12もしくは19〜22のいずれかで定義した細胞集団。
【請求項24】
骨関連疾患を治療する薬剤を製造するための、請求項10もしくは13〜18のいずれかで定義した細胞、または請求項10、11、12もしくは19〜22のいずれかで定義した細胞集団の使用。
【請求項25】
骨病変部位に、請求項10もしくは13〜18のいずれかで定義した細胞、または請求項10、11、12もしくは19〜22のいずれかで定義した細胞集団を投与する、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
請求項10もしくは13〜18のいずれかで定義した細胞、または請求項10、11、12もしくは19〜22のいずれかで定義した細胞集団を含み、骨病変部位に該細胞または単離細胞集団を投与するのに適している、医薬組成物。
【請求項27】
骨病変部位に組成物を投与するための手術道具を含み、およびさらに請求項26に記載の医薬組成物を含む装置であって、該骨病変部位に該医薬組成物を投与するのに適している装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−526534(P2009−526534A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554685(P2008−554685)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001360
【国際公開番号】WO2007/093431
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(306015135)ユニヴェルシテ リブル ドゥ ブリュッセル (3)
【Fターム(参考)】