説明

骨髄採取用穿刺針およびこれに用いる海綿骨撹拌針

【課題】 髄腔内に浮遊する骨髄のみならず海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞をも十分に吸引採取することができる骨髄採取用穿刺針および海綿骨撹拌針を提供することを課題とする。
【解決手段】 針管状の外筒2と、この外筒に挿通される内芯3と、前記外筒の基部に固設される把持部4と、この把持部の外端に着脱自在に取り付けられ前記内芯を外筒に挿通した状態に拘束するためのキャップ5と、基部に回転操作用ハンドル6aを有し前記内芯を抜き取ったあとの外筒に挿入され外筒の先端から所要長さ突出し得る長さを有する海綿骨撹拌針6とで構成され、前記キャップおよび内芯を取り外したあとの把持部に吸引器7を接続自在としたことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療に関し、特に、患者の骨髄を採取して培養し培養物を患者の欠損部に戻して欠損部を再生したりする再生医療において、骨髄の中の細胞(髄液)を採取する骨髄採取用穿刺針およびこれに用いる海綿骨撹拌針に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の血液中には、赤血球、白血球、血小板の3種類の血球が含まれており、これら血球には寿命があるため絶えず新しい血球に入れ替っている。
【0003】
一定の血球数を維持するためには常に新しい血球の供給が必要であり、その供給源としているのが骨髄中の造血幹細胞である。この細胞が常に分裂して赤血球、白血球、血小板となり、血球は常時一定の数に保たれている。
【0004】
この造血機能に障害をもたらす疾病(所謂白血病等)の治療の手段として、適合性のある他人(ドナー)から骨髄を採取し、これを患者に移植して造血機能を回復させる骨髄移植が広く行われている。
【0005】
さらに、近年においては骨髄中に存在する幹細胞を用いて生体組織を再生させる再生医療が広く行われるようになってきている。
【0006】
上記骨髄の採取には、従来から吸引により採取する穿刺針が用いられている。
【0007】
従来から用いられている穿刺針は、外筒と、この外筒に内挿される内芯とで構成され、この穿刺針を骨の髄腔に刺通し、その先端が髄腔内に到達したとき内芯のみを引き抜き、代りに外筒の外端に吸引器(通常注射器)を接続して骨髄を吸引することにより採取するようになされている。
【0008】
しかし従来の穿刺針による採取では、穿刺針を刺した箇所の髄腔内の骨髄しか吸引採取することができないので、何箇所かに穿刺針を刺して採取しなければならず、そのため骨髄提供者に多大な苦痛を強いることになる。
【0009】
また骨髄の吸引採取時に外筒を傾斜させるなどして骨の内面に存在する海綿骨に接触させることを試み、海綿骨内に多く含有されている骨髄をも採取するように工夫はされているが、この採取方法によっても採取量には限界があり、十分な量の骨髄を採取することは難しかった。
【特許文献1】特表平11−501544号公報
【特許文献2】特表平9−510630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、髄腔内に浮遊する骨髄のみならず、海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞をも十分に吸引採取することができ、効率よく骨髄や上記の海面骨自体あるいはその近傍物に付着した細胞を採取することを可能とする骨髄採取用穿刺針およびこれに用いる海綿骨撹拌針を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段として本発明に係る骨髄採取用穿刺針は、針管状の外筒と、この外筒に挿通される内芯と、前記外筒の基部に固設された把持部と、基部に回転操作用ハンドルを有し前記内芯を抜き取ったあとの前記外筒に挿入され前記外筒の先端から所要長さ突出し得る長さを有する海綿骨撹拌針とを備え、前記内芯を取り外したあとの前記把持部に注射器等の吸引器を接続自在としてなり、前記外筒に前記内芯を挿通したのち前記外筒を骨に刺通し、次いで前記内芯を抜き取ったあとの前記外筒内に前記海綿骨撹拌針を挿通してこれを回転させることにより海綿骨部分を撹拌し、さらに前記海綿骨撹拌針を抜き外したあとの前記把持部に前記吸引器を接続して前記撹拌により抽出された骨髄を前記外筒を通じ吸引採取するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記把持部の外端に着脱自在に取り付けられ前記内芯を前記外筒に挿通した状態に拘束するためのキャップを備えることを特徴とする。これにより、キャップの内底部で内芯の後端を後退しないよう固定するようにすることが少ない部品で内芯の挿脱操作を容易にすることができる。
【0013】
また、前記海綿骨撹拌針を振動させる撹拌針振動駆動手段を備えることを特徴とする。撹拌針振動駆動手段により海綿骨撹拌針を例えば微少振動等の振動をさせることにより、海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞の採取を効率的に行うことが可能になる。
【0014】
また、前記外筒を振動させる外筒振動駆動手段を備えることを特徴とする。外筒振動駆動手段により外筒を例えば微少振動をさせることにより、外筒自体が振動するとともに外筒内の海綿骨撹拌針も振動し、海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞の採取を効率的に行うことが可能になる。
【0015】
本発明に係る海綿骨撹拌針は、針管状の外筒と、この外筒に挿通される内芯と、前記外筒の基部に固設された把持部とを有する骨髄採取用穿刺針に用いられるものであって、前記外筒に挿通し得る弾性に富む線材により構成され、基端に回転操作用ハンドルを有するとともに前記外筒の先端から突出する先端部分が自己の弾性により一側方へ湾曲する湾曲部とされていることを特徴とする。
【0016】
また、前記湾曲部が螺旋状のドリル構造とされていることを特徴とする。これにより、一層撹拌効果を高めることができる。
【0017】
さらに外筒の先端を鋭利な刃先に形成することにより、骨への刺通を容易にでき、また内芯の先端も鋭利な刃先とすれば一層刺通を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内芯のほかに外筒に挿通し得る海綿骨撹拌針を設け、外筒を骨に刺通したのち内芯に代え海綿骨撹拌針を挿通してこれを回転させることによりその先端で海綿骨を撹拌し、当該海綿骨内に含有されている骨髄を抽出して髄腔内の骨髄と共に吸引採取するようにしたので、髄腔内に浮遊する骨髄のみならず海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞をも十分に吸引採取することができ、この結果、1回の採取操作で多量の細胞を採取することができ、穿刺針を骨に何回も刺通することなく所定量の骨髄を採取することが可能となって、骨髄提供者に余分な苦痛を与えることが防がれる。
【0019】
また前記海綿骨撹拌針は、外筒先端から突出する部分が自己の弾性により一側方へ湾曲する構造となっているので、海綿骨撹拌針を回転させて海綿骨を撹拌するとき広い範囲の海綿骨を撹拌して破壊することができ、海綿骨中の骨髄を多量に抽出することができる。
【0020】
さらに前記湾曲部分をドリル構造とすれば、一層撹拌効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明における骨髄採取用穿刺針(以下単に穿刺針という)の基本構成の一実施形態を示し、図2は同海綿骨撹拌針を、図3は吸引時の形態を示している。
【0022】
上記穿刺針1は、細管状の外筒2と、この外筒2に可及的密に挿通される内芯3と、前記外筒2の基部に嵌着して設けられる把持部4と、この把持部4の外端に着脱自在に取り付けられ前記内芯3を挿通状態に固定するためのキャップ5とで構成され、本発明においては、基端に回転操作用ハンドル6aを有し前記内芯3を抜きとったあとの外筒2に挿通し得る海綿骨撹拌針6が付設され、前記把持部4には注射器等の吸引器7が接続自在とされている。この吸引器7は、吸引器本体7aと、この本体に密挿されるピストン7bとで構成される通常の注射器構造のものを使用することができる。
【0023】
前記外筒2は、針管状の金属製パイプ材からなっていて、その先端が斜めに研削されて鋭利な刃先2aとされており、その基端には鍔部2bが設けられ、前記把持部4の後端の吸引器接続部4aとなる凹部内に位置して把持部4に固着されている。
【0024】
前記把持部4はプラスチックにより形成されたもので、その外周部には操作時に手を掛けやすくするための突縁4bが形成されており、この突縁4bより後部の外周には前記キャップ5を螺合するための雄ネジ4cが形成されている。
【0025】
前記内芯3は金属材により形成されたもので、その後端に頭部3aを有し、前記外筒2に挿通したとき前記頭部3aが把持部4の吸引器接続部4aの底部に位置する外筒2の鍔部2bに当接して挿入位置が定められるようになっている。
【0026】
この状態において内芯3の先端は前記外筒2の先端からやや突出した状態におかれ、その先端は骨に刺通しやすくするため鋭利な刃先3bとされている。
【0027】
前記キャップ5は、前記把持部4の雄ネジ4cに螺合したときその内底部5aが前記内芯3の頭部3aに当接し、骨に刺通する際に内芯3が後退しないよう拘束するように構成されている。
【0028】
本発明における前記海綿骨撹拌針6は、図2にみられるように弾性に富む金属線材により形成され、その後端は折曲されて前述の回転操作用ハンドル6aとされており、先端は外筒2の先端から突出させたとき自己の弾性により一側方へ湾曲するようになっている。
【0029】
この湾曲部6bは、図示の例では螺旋状のドリル構造とされており、海綿骨の撹拌破壊効果を高めるようになされている。
【0030】
前記吸引器7としては通常の注射器を用いることができ、その吸引器本体7aの先端部7cが前記把持部4の吸引器接続部4a(凹部)に可及的密に嵌着して接続することができるようになっている。
【0031】
図4(A)〜(C)は本発明による穿刺針1および海綿骨撹拌針6を用いて骨髄を吸引採取する過程を示し、上記各図において符号8は皮質骨、9は皮質骨8の内面に存在する海綿骨、10は中心の髄腔を示している。
【0032】
骨髄の採取に当っては、先ず図4(A)に示すように、外筒2内に内芯3を挿通しキャップ5をネジ込んだ形態として採取すべき皮質骨8に向け刺通する。このとき内芯3はキャップ5の内底部5aにより移動することなく拘束されているので、外筒2および内芯3の各先端の刃先2a、3bにより骨8に刺通される。
【0033】
上記のように皮質骨8に刺通したのちキャップ5を外し、次いで外筒2から内芯3を引き抜き、代りに海綿骨撹拌針6を外筒2の後端から挿通し、その先端を外筒2の先端から突出させる。このとき海綿骨撹拌針6の突出した先端は自己の弾性によって自ずと一側方へ湾曲する(図4(B))。
【0034】
この湾曲部6bはドリル構造となっているので、後端のハンドル6aを持って海綿骨撹拌針6を回転させると、その湾曲部6bが海綿骨9を撹拌してこれを局部的に破壊し、この海綿骨9自体に付着する細胞や海綿骨9の近傍物に付着する細胞を含む多量の骨髄が髄腔10内に滲出する。この結果、髄腔内に浮遊する骨髄のみならず海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞をも十分に吸引採取することが可能になる。なお、海綿骨撹拌針6を回転させることに加えて、海綿骨撹拌針6を出し入れすることにより、海綿骨9自体に付着する細胞や海綿骨9の近傍物に付着する細胞を含む骨髄を髄腔10内に効率的に滲出させることができる。
【0035】
こうしたのち外筒2から海綿骨撹拌針6を引き抜く。このとき湾曲部6bは外筒2に引き込まれる際に弾性により直状になり、無理なく引き抜くことができる。
【0036】
次いで図4(C)に示すように、把持部4の吸引器接続部4aに吸引器7の吸引器本体7aの先端部7cを嵌合して接続し、そのピストン7bを白矢印P方向に引くことにより髄腔10内に滲出した骨髄が共に黒矢印のように外筒2内に吸入され、吸引器本体7a内に採取される。
【0037】
なお上記実施形態において、把持部4、キャップ5等の構成は一例を示したもので、これらはデザイン上任意に変更することは妨げるものではない。
【0038】
また、海綿骨撹拌針6は金属線材からなるとして説明したが、海綿骨撹拌針6は弾性に富む線材から構成されていればよいのであり、例えば高分子材の線材で構成されていてもよい。
【0039】
次に、本発明における骨髄採取用穿刺針の他の実施形態について、図5,図6を参照して説明する。
【0040】
図5は、海綿骨撹拌針6を振動させる撹拌針振動駆動手段12を備える例を示す。撹拌針振動駆動手段12としては、圧電素子等を用いた振動駆動手段や超音波を海綿骨撹拌針6に加える型の振動駆動手段等を用いることが可能である。撹拌針振動駆動手段12は、振動の振幅の大きさを所望に選択することができ、また時間変化を与えることも可能であり、種々の振動パターンを選択することが可能である。本実施形態では、撹拌針振動駆動手段12を備えるので、ハンドル6aを持って海綿骨撹拌針6を回転させることに加えてあるいはこれに代えて、海綿骨撹拌針9を振動をさせることにより、海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞の採取を効率的に行うことが可能になる。
【0041】
図6は、外筒2を振動させる外筒振動駆動手段14を備える例を示す。外筒振動駆動手段14としては、撹拌針振動駆動手段12と同様に圧電素子等を用いた振動駆動手段や超音波を海綿骨撹拌針6に加える型の振動駆動手段等を用いることが可能である。外筒振動駆動手段14により外筒2を振動をさせることにより、外筒2自体が振動するとともに外筒2内の海綿骨撹拌針6をも振動させることができる。この結果、ハンドル6aを持って海綿骨撹拌針6を回転させることに加えてあるいはこれに代えて、海綿骨撹拌針9を振動をさせることにより、海綿骨自体に付着していたり海面骨の近傍物に付着している細胞の採取を効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による骨髄採取用穿刺針の基本構成部分の一実施形態を示す断面図。
【図2】本発明における海綿骨撹拌針の一実施形態を示す側面図。
【図3】骨髄吸引採取時の断面図。
【図4】本発明による骨髄採取用穿刺針の使用過程を示すもので、(A)は骨への刺通時、(B)は海綿骨撹拌時、(C)は骨髄吸引時の各説明図。
【図5】本発明における骨髄採取用穿刺針の他の実施形態を示す側面図。
【図6】本発明における骨髄採取用穿刺針のさらに他の実施形態を示す側面図。
【符号の説明】
【0043】
1 骨髄採取用穿刺針
2 外筒
3 内芯
4 把持部
5 キャップ
6 海綿骨撹拌針
6b 湾曲部
7 吸引器
8 皮質骨
9 海綿骨
10 髄腔
12 撹拌針振動駆動手段
14 外筒振動駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針管状の外筒と、この外筒に挿通される内芯と、前記外筒の基部に固設された把持部と、基部に回転操作用ハンドルを有し前記内芯を抜き取ったあとの前記外筒に挿入され前記外筒の先端から所要長さ突出し得る長さを有する海綿骨撹拌針とを備え、
前記内芯を取り外したあとの前記把持部に注射器等の吸引器を接続自在としてなり、
前記外筒に前記内芯を挿通したのち前記外筒を骨に刺通し、次いで前記内芯を抜き取ったあとの前記外筒内に前記海綿骨撹拌針を挿通してこれを回転させることにより海綿骨部分を撹拌し、さらに前記海綿骨撹拌針を抜き外したあとの前記把持部に前記吸引器を接続して前記撹拌により抽出された骨髄を前記外筒を通じ吸引採取するようにした
ことを特徴とする骨髄採取用穿刺針。
【請求項2】
前記把持部の外端に着脱自在に取り付けられ前記内芯を前記外筒に挿通した状態に拘束するためのキャップを備えることを特徴とする請求項1記載の骨髄採取用穿刺針。
【請求項3】
前記海綿骨撹拌針を振動させる撹拌針振動駆動手段を備えることを特徴とする請求項1記載の骨髄採取用穿刺針。
【請求項4】
前記外筒を振動させる外筒振動駆動手段を備えることを特徴とする請求項1記載の骨髄採取用穿刺針。
【請求項5】
針管状の外筒と、この外筒に挿通される内芯と、前記外筒の基部に固設された把持部とを有する骨髄採取用穿刺針に用いられるものであって、前記外筒に挿通し得る弾性に富む線材により構成され、基端に回転操作用ハンドルを有するとともに前記外筒の先端から突出する先端部分が自己の弾性により一側方へ湾曲する湾曲部とされていることを特徴とする海綿骨撹拌針。
【請求項6】
前記湾曲部が螺旋状のドリル構造とされていることを特徴とする請求項3記載の海綿骨撹拌針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−20630(P2007−20630A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203118(P2005−203118)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000193612)瑞穂医科工業株式会社 (53)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】