説明

骨髄細胞外マトリックス抽出物およびその治療上の使用

様々な疾患を治療するための造血幹細胞の方法および使用が提供される。防御および長期生着の両方を再構成するために、未分化幹細胞と共に患者へ再導入される自家造血幹細胞の骨髄系系列への分化が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞(HSC)の同定および使用に関する。本発明は特に、防御および長期生着の両方を再構成するために、未分化幹細胞と共に患者へと再導入される自家造血幹細胞の骨髄系系列への分化に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄(BM)移植は、白血病、リンパ腫、骨髄腫および選択された固形腫瘍等の悪性腫瘍ならびに重度の再生不良性貧血、免疫不全および先天性代謝異常等の非悪性疾患を含むますます多くの疾患に有効な治療法としてヒトでますます利用されている。BM移植の目的は、成熟血液細胞に分化して欠損のあるまたは病的な細胞系列に置き換わる、健康な幹細胞集団を宿主に提供することである。移植のBM供給源は、自家、同系または同種であってよい。自家BMまたはHLA適合同胞由来のBMが好ましいが、HLA不適合ドナー由来のBMもまた移植に用いられている。
【0003】
完全な全身性ドナー特異的移植免疫寛容が起こる唯一の公知の臨床状態は、骨髄移植によりキメラ現象が生じるケースである。これは、レシピエントを全身リンパ節照射または全身照射し、続いてドナー細胞で骨髄移植することにより、新生仔および成体動物モデルならびにヒトで達成された。同種骨髄移植の成功率は、その大部分が、ドナー細胞の「主要組織適合性複合体」(MHC)をレシピエント細胞のMHCに厳密に適合させてドナーとレシピエントとの間の抗原性の差異を最小限に抑え、これにより宿主対移植片反応および「移植片対宿主病」(GVHD)の頻度を低下させる能力に依存する。実際、MHC適合は重要であり、相違が大きい場合GVHDは非常に重度となるため、1または2個の抗原ミスマッチしか容認できない。
【0004】
造血幹細胞は、骨髄赤血球(赤血球、顆粒球、単球)、巨核球(血小板)およびリンパ球系(T細胞、B細胞およびナチュラルキラー細胞)系列のそれぞれに分化することができる、胎児骨髄、臍帯血、成体骨髄および末梢血で同定された稀少な細胞である。さらに、これらの細胞は長寿命であり、自己再生と呼ばれる追加的に幹細胞を産生する過程を行うことができる。幹細胞は、先ず初めに系列限定的な前駆細胞への運命決定を行うが、これはその半流動性培地においてコロニーを形成する能力によって検定することができる。前駆細胞は多系列分化を行う能力が限定されており、自己再生する能力を失っている。前駆細胞は最終的に血液の機能成分のそれぞれに分化、成熟する。成熟血液細胞の一生涯にわたる維持は、高度であるが恐らく限られた自己再生能を有する少数の多能性造血幹細胞の増殖活性によってもたらされる。培養において、造血幹細胞は分化した細胞型へと急速に運命決定され、分化細胞型が培養において不可逆的に優勢となる。この特性は、幹細胞が血液中に相対的に少ないことと同様に、多能性造血幹細胞の長期安定培養物を作製することの困難を表す。
【0005】
積み重ねられてきた証拠は、幹細胞の骨髄へのホーミングは多段階の過程であることを示唆する。この過程に関与する機序および特異的接着分子は完全には分かっていない。PIインテグリン、最晩期抗原4(VLA−4)およびVLA−5ならびにP2インテグリン、リンパ球機能関連1(LFA−1)は、マウスおよびヒト両方の前駆細胞と、骨髄細胞外マトリックス(ECM)との接着性相互作用と共に、骨髄ストロマ細胞との接着性相互作用と関連することを示した(非特許文献1)。VLA−4は、in vivoにおけるマウス幹細胞の遊走および造血に特に重要な役割を果たす。PIインテグリンを欠くマウス幹細胞は、胎児肝臓でコロニー形成できない(非特許文献2)。
【0006】
造血幹細胞治療により多くの重篤な疾患を治療するための発展的なアプローチを考慮すると、より高い成功率で長期生着する幹細胞を得るために、骨髄への幹細胞ホーミングおよび移植した宿主での再増殖を支える機序をより良く理解することが非常に望ましい。
【0007】
骨髄移植BMTに関連する2つの障壁が、その臨床的移植への適用を制限してきた。すなわち、(1)移植片対宿主病(GVHD)および(2)生着失敗である。
BMTは、癌(リンパ腫)、異常ヘモグロビン症(鎌状赤血球症、サラセミア)、可溶性酵素欠損症および自己免疫障害等、多くの障害を治療する潜在能力を有する。未修飾骨髄の移植に関連する罹患率および死亡率は、このアプローチの広範な適用を妨げてきた。従来のT細胞枯渇は移植片対宿主病を防ぐが、これは容認できないほど高い率での移植失敗に関連する。したがって、依然として生着手順の最適化を行う必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】レベックら(Levesque et al.)、1995
【非特許文献2】ハーシュら(Hirsh et al.)、1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、非特異的免疫抑制剤および/または致死量の放射線照射の必要性がない、レシピエントを骨髄移植のために予め調整するための方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、最小の罹患率で様々な疾患および障害を治療するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のさらなる目的、利点および新たな特性を、以下の明細書および実施例において部分的に説明するが、部分的には当業者であれば以下の記載を吟味することによってある程度明らかとなるか、または本発明を実施することによって理解できるであろう。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲に特に示されている組成物および方法によって実現および達成することができる。上述および他の目的を達成するため、また具体的に示されているように本発明の目的の通り、本発明の方法は、自家造血幹細胞と自家造血幹細胞の分化によって得られた骨髄系系列細胞との組合せをレシピエントに導入する工程からなる。
【0011】
本発明はまた、細胞減少療法を受けようとする患者に自家幹細胞移植を行うための方法であって、(1)細胞減少療法前に患者から造血幹細胞(または造血前駆細胞)を得る工程と、(2)本発明の細胞外マトリックス抽出物を用いて該造血幹細胞(または造血前駆細胞)をex vivoで増殖させて、数が増加した造血幹細胞(または造血前駆細胞)および骨髄系系列等の分化した血液細胞系列からなる細胞調製物を提供する工程と、(3)細胞減少療法と同時に、または細胞減少療法の後に該細胞調製物を該患者に投与する工程とからなる方法も対象とする。この方法は、防御および長期生着の両方を再構成する目的に優れていることを示した。
【0012】
幹細胞は、末梢血採取または骨髄外植片から得ることができる。
本発明に係る方法は、任意選択で、GM−CSF、SF、GCSF、IL−3、GM−CSF/IL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される動員増殖因子を患者に投与して、造血前駆細胞を採取する前に造血前駆細胞を末梢血に動員する工程からなる予備的in vivo手順からなる。
【0013】
本発明に係る方法は、任意選択で、細胞調製物を自家移植した後に生着増殖因子を患者
に投与して生着を促進し、該細胞調製物由来の生着した造血前駆細胞の増殖を増強する工程からなる、その後のin vivo手順からなる。生着増殖因子は、GM−CSF、IL−3、SF、GM−CSF/IL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0014】
本発明は、細胞増殖培地、自家血清ならびにSF、IIL−I、IL−3、GM−CSF、GM−CSFAL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される増殖因子(但し、IL−1は少なくとも1種類の他の増殖因子と組み合わせて用いなければならない)を備えた前駆細胞増殖培地をさらに含む。
【0015】
別の態様において、本発明は哺乳動物を治療する方法を含む。先ず、ある哺乳動物が不十分な数の造血細胞を特徴とする障害があると確認される。該哺乳動物から、未分化造血幹細胞のサブセットをさらに含む、自家移植のための造血幹細胞試料を得る。本発明の細胞外マトリックス抽出物からなる培地で、未分化造血細胞を増殖させるのに適した条件下、造血細胞の試料を培養する。分化した造血細胞から未分化造血細胞を分離する。分離した未分化造血細胞をさらに培養し、これにより分離した未分化造血細胞をさらに増殖させる。適量の培養未分化造血細胞を哺乳動物に与えると、培養未分化造血細胞は該哺乳動物における造血細胞の数を増加させ、これにより障害を治療する。
【0016】
本発明の実施形態は、開放系および閉鎖系を含む。例えば治療に適した障害は、例えば癌治療によって誘発された血球減少症もしくは貧血症、異常レベルの血液細胞を生じる遺伝的欠陥、または癌、例えば移植片対腫瘍アプローチを含むが、これらに限定されるものではない。1実施形態において、長期再増殖潜在能力を有する未分化造血幹細胞の培養は、哺乳動物へと移植する前に増殖される。1実施形態において、本発明は、未分化ヒト造血細胞の細胞集団を提供するための方法を含む。
【0017】
本発明によれば、
哺乳動物、好ましくはブタ、ウシまたはヒトから骨髄を単離することによって得ることができる、ヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスからなる環境に、ヒト造血幹細胞を播種する工程と、
前記細胞をヒト骨髄細胞に分化させることにより細胞を刺激して細胞外マトリックスおよび可溶性因子を合成、分泌および組織化するために、前記細胞を培養する工程と、
前記細胞がヒト骨髄細胞に分化して細胞外マトリックスおよび可溶性因子を合成するまで、前記細胞を連続培養する工程と、
前記細胞を除去して、骨髄の細胞外マトリックス抽出物および可溶性因子を得る工程と、
からなる方法によって得ることができる、ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物および可溶性因子が提供される。
【0018】
次に、この骨髄細胞外マトリックス抽出物を新しい骨髄幹細胞の分化に用いることができるか、または骨髄細胞外マトリックス抽出物に類似の細胞外マトリックス抽出物が用いられる。そこで、
i)患者から造血幹細胞を取り出す工程と、
ii)任意選択で、該造血幹細胞をGM−CSF、SF、IL−3、IL−1、GM−CSF/IL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される増殖因子と共にex vivoで増殖させて、造血前駆細胞の増殖された集団からなる細胞調製物を提供する工程と、
iii)該造血幹細胞の画分を本発明のヒトベースの抽出物および可溶性因子と、またはヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスの脱細胞化型と接触させて、該細胞を骨髄系細胞系列に分化させる工程と、
iv)該造血幹細胞と該骨髄系細胞系列とを組み合わせて細胞調製物を形成する工程と、
v)防御および長期生着の両方を再構成するため該細胞調製物を該患者に投与する工程と、
からなる、患者に自家造血細胞を移植するための方法が提供される。
【0019】
上述によれば、本発明は、抽出物の組成が哺乳動物、好ましくはヒトの骨髄のin vivo組成に類似している、哺乳動物、好ましくはヒトの骨髄細胞外抽出物および可溶性因子をex vivoで製造するための方法も提供する。このような抽出物は、上に記載されている造血幹細胞の造血前駆細胞への分化に非常に適切である。
【0020】
骨髄組織の細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスは、ヒト、またはウマ、イヌ、ブタ、ウシおよびヒツジ由来等の動物起源であっても、マウスまたはラット等のげっ歯類の種のものであってもよい。本発明の目的は、その組成がヒトにおける組成を反映し、したがってヒト細胞から分泌された増殖因子、ミネラル等から実質的になる細胞外マトリックスおよび可溶性因子をin vitroで産生することであるが、動物の細胞外マトリックス抽出物を用いて分化を誘導し、これによりヒト幹細胞を刺激してヒト起源の細胞外マトリックスを分泌させてもよい。ヒト幹細胞は、分化するにつれ細胞外マトリックス層または細胞外マトリックス体を産生するようになるが、これには主として分化したヒト細胞が、それ自身が産生した細胞外マトリックスと共に含まれている。したがって、動物起源の抽出物において幹細胞が刺激されて分化した場合、産生された細胞外マトリックス層に非ヒト材料の画分は残らなくなる。幹細胞が対象組織の細胞に完全に分化すると、細胞外マトリックスのin vivo組成が達成されるため、多くの場合、幹細胞を一般に少なくとも14日間培養する必要がある。いずれの場合においても、細胞外マトリックスを採取する前に細胞を評価する。原則として、細胞外マトリックスを調製する前に少なくとも90%の細胞は完全に分化していなければならない。
【0021】
何らかの理由により動物成分を全く含まない骨髄細胞外マトリックスを産生する必要がある場合、次の代替法を用いてよい。i)幹細胞は最初だけ動物由来の骨髄細胞外マトリックスで刺激し、その後刺激した細胞を通常の増殖培地で培養する前に慎重に洗浄する、ii)幹細胞をヒト骨髄細胞外マトリックスで刺激する、およびiii)幹細胞は、幹細胞が所定の組織細胞型へと分化する(少なくとも部分的な)原因であることが知られた増殖および分化因子からなる「合成」細胞外マトリックスで刺激する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】培養7日後の3M CB MNCによるNOD−SCIDマウスの生着におけるX(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)の効果を示すグラフ。
【図2】培養7日後のCB MNCによるNOGマウスの生着におけるX(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)の効果を示すグラフ。
【図3】7日間の4M CB MNC+/−X(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)によるNOGマウスの生着の効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
骨髄組織の細胞外マトリックスおよび可溶性因子をin vivoで用いて、骨髄における造血前駆細胞の増殖を誘導し、そのような造血前駆細胞を末梢血に動員することができる。末梢血から採取された造血前駆細胞は、細胞減少剤で治療した患者の造血レスキュー療法に用いることができる。
【0024】
本発明は、注入または移植前にその数を増加させるための、末梢血または骨髄に由来する造血前駆細胞の増殖因子によるex vivo処置に関与する。さらに、増殖因子を用
いて、移植した造血前駆細胞の移植後の生着および増殖を促進することができる。細胞減少療法を受けている患者の造血再構成は、骨髄抑制癌化学療法剤等、大量の細胞減少療法または高線量の放射線療法で治療した患者の感染症および出血性合併症の発生率を低下させることができる。
【0025】
造血幹細胞(HSC)の増殖および分化を促進するex viva培養条件の開発は、細胞移植、遺伝子治療および組織工学等、次世代療法の臨床実施を大いに加速させるであろう。実際に、ここ数年このような細胞の移植療法における臨床的有用性の増加が示されてきた。残念ながら、HSCを堅実かつ効率的にin vitro成長することができる培養条件の確立は困難なものであった。主に増殖因子の添加またはストロマ細胞の支持によるHSCの増殖を目的とする現在の戦略は、一般に成熟前駆細胞の増殖をもたらすが、短期培養後に、より原始的な細胞の増殖が低下または減速するため困難となっている。
【0026】
HSCはin vivaにおいて高い増殖潜在能力を示してきたため、これらの結果は幾分意外なものであった。マウスまたはヒトの単一細胞の後代によりマウスにおける長期生着が達成できること、また単一クローンの後代が複数の二次レシピエントを再増殖できることを証明する実験は、この潜在能力の証拠を提供する。さらに、マウスの連続移植実験における再増殖幹細胞のインプット数およびアウトプット数をモニターして各継代で定量化したところ理論的に150〜8400倍の増殖が算出され、再増殖幹細胞がin vivo増殖を持続できることが確認された。したがって、単純培地添加では、大部分のin vitro系に観察される増殖抑制効果の克服には十分でないことが明らかである。
【0027】
本明細書において、用語「未分化造血細胞」、「未分化細胞」、「造血幹細胞(HSC)」および「原始細胞」は、長期in viva増殖および哺乳動物に移植した場合に再増殖することができる多能性造血幹細胞の記述に互換的に用いられる。最も原始的な細胞型は、BMにおける幹細胞および前駆細胞の接着に重要な役割を果たすと考えられる膜貫通型糖リン酸化タンパク質である細胞表面抗原CD34を発現することが立証された。CD34を発現しCD38抗原を欠く細胞集団(すなわち、CD34+CD38−細胞)は、原始細胞潜在能力を提示することを示した。例えば、SRCの大部分はCD34+CD38−細胞画分に存在するが、より分化した細胞型を含むと考えられるCD34+CD38+集団には存在しない。CD34+CD38−表現型は、LTC−IC特性を有する細胞の濃縮とも関連づけられてきた。長期多系列再増殖できるマウスおよびヒトCD34−HSCの存在は、CD34抗原はそれ自身がHSC潜在能力とは独立的に調節され得ること、またCD34発現それ自身は必須のHSCマーカーではないことを例証する。原始細胞はまた、T細胞関連マーカーであるThy−1の発現に基づいて同定された。Thy−1発現は、UCB、BMおよびヒト胎児肝臓単核細胞(MNC)からLTC−ICの回収を可能にし、マウスBMに存在するあらゆる再増殖細胞の原因となる(Thy−1.110)。
【0028】
別のマーカーである膜貫通レセプター糖タンパク質CD133(AC133)も、初期造血前駆細胞の濃縮と一致することを示した。
UCBから単離されたCD34+CD133+細胞画分は、二次レシピエントに生着させる能力を追加的に有する原始前駆細胞およびSRCにおいて非常に豊富である。近年、血管増殖因子レセプター2(KDR)は、原始細胞型のマーカーとして関連づけられてきた。研究により、BM由来CD34+KDR+の単離が、ヒトLTC−ICおよびSRCの濃縮をもたらすことが示された。
【0029】
原始造血幹細胞集団の特性評価および単離に特異的抗原の不在を用いてもよい。例えば、HLA−DR36またはCD45RA/CD71を欠くヒトCD34+細胞は、自己再生して複数の造血系列に分化することができる原始多分化能造血細胞を同定する。さらに
、成熟骨髄系およびリンパ球系細胞に関連するマーカーを欠く細胞の単離は、原始細胞型を濃縮する方法を表す。
【0030】
本明細書において、用語「分化した造血細胞」、「分化した細胞」または「前駆細胞」は、系列決定した造血細胞を意味する。これらの細胞は通常、抗原CD2、CD3、CD14、CD16、CD19、CD24、CD56、CD66bおよびグリコホリンAの内1または複数を発現し、これらは系列マーカー(lin+)と呼ばれる。lin+抗原の検出は多能性の性質の喪失を示し、細胞が分化、または系列決定したことを示す。したがって、これらのfin+抗原は、本明細書に記載されている通り、分化した細胞を標的とする分離に適した抗原も提供し、これら抗原に対する抗体は免疫分離手順に広く用いられている。
【0031】
記載されている通り、これまで検討してきた培養条件の多くは、分化した細胞型の優勢をもたらし、それに伴い原始細胞の頻度および数を減少させ、最終的に培養の消滅をもたらす。
【0032】
この望ましくない最終結果は、培養動態に影響を及ぼし得る数種類の競合因子の結果生じる。このようなパラメータの1つに、培養における造血細胞の異なる亜集団による、HSC増殖に対して刺激性または抑制的となり得る調節分子の内因性分泌の効果が挙げられる。遺伝子発現およびタンパク質分泌解析により、HSC増殖を抑制することが知られている様々な因子が、前駆細胞および成熟細胞型−3の両方によって発現、分泌されることを示した。例えば、単球は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−1およびマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)を分泌することが知られている。
【0033】
好中球はTGF−、B1、MIPおよび腫瘍壊死因子(TNF)の分泌と関連づけられてきたが、一方巨核球はインターロイキン(IL)を分泌する。TGF−Qを分泌することを示した赤血球および巨核球の前駆細胞に関して同様の知見が記述された。さらに、研究により、これら数多くの分泌された因子が他の細胞型による抑制因子の二次分泌を刺激する可能性が示された。例えば、単球によるIL−12、TNF−a、IL−1またはILの産生は、リンパ球を刺激してMIPを産生させることができる。これらの抑制因子は、HSCを静止状態に維持してアポトーシスを引き起こすことによってin vitroにおけるHSC増殖を妨げること、および/または成熟細胞型に分化させることが知られている。
【0034】
分化した細胞が幹細胞増殖を抑制できることを示すさらに別の証拠は、マウス再増殖幹細胞のin vivo増殖潜在能力が、増加した幹細胞の移植によって実際に制限されることを示したマウス移植実験によってもたらされる。これらの報告は、注射した再増殖細胞に起因するレシピエントマウスにおける成熟血液細胞の回復および産生が、最終的に幹細胞増殖を制限する抑制機序の活性化の原因となり得ることを示唆する。したがって、培地中の増殖因子の局所濃度を低減させるという観点から、培養におけるこれら増殖因子から未分化細胞の分離は、例えば培地の希釈、培地の交換、潅流等によって達成されるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
内因性分泌された因子が培養アウトプットに負の影響を与える可能性があることの証明は、個々の抑制因子に対して特異的に作製された遮断抗体またはアゴニスト(すなわち、オリゴヌクレオチドまたは競合的レセプター遮断薬)が、TGF−、BI、MIP−loc、(MCP)−1およびSDF−1等、公知の阻害剤の効果をin vitroおよびin vivaモデルの両方において逆転または抑制させることに成功した研究によって得られる。残念ながら、このような遮断構想を使用しても再増殖HSCがさらに高度な増殖へと拡大されることはなく、これは恐らく複数の分泌された因子がこの集団の抑制の原
因となるためと思われる。幹細胞増殖の1モデルは、サイトカインを添加した培養において生じた分化血液細胞が、直接的または間接的にHSC増殖を抑制する可溶性因子を産生する負のフィードバック制御機序に関与する。
【0036】
この機序は、これらの細胞またはこれらの細胞によって産生された内因性因子を除去することによって、幹細胞に提示されたシグナル(すなわち、添加されたサイトカインおよび分泌されたサイトカイン由来の)のバランスを、増殖抑制性から増殖促進性へと変化させてHSC増殖に対する遮断を取り除くであろうことを暗示する。
【0037】
これら細胞の除去は、刺激因子を分泌することができる細胞の濃縮機序を提供することもできる。このため、刺激および抑制因子の内因性産生を制御および調節する利用可能な方法は、現在のHSC増殖系の制限を克服する。
【0038】
培地交換と同時に培養から特異的標的細胞を除去すると、それに伴い培養に存在する抑制因子の内因性産生および全体的な濃度の減少をもたらし、次にHSC集団のさらなる増殖をもたらす。
【0039】
本明細書に記載されている通りに産生されたHSCは、様々な臨床適用に用いることができる。例えば、集中治療後の免疫および造血の回復を増強または加速するため、増殖されたHSCを、放射線療法または抗癌剤を用いた化学療法によって誘発された血球減少症および貧血症の改善のために移植することができる。あるいは、本発明は、慢性HIV感染に見られるCD4+T細胞枯渇等、リンパ球減少症に関連する感染症の抑制および治療に用いることができる。HSCは、分化因子と共に培養して特異的血液細胞型を産生することができる。例えば、本発明を用いて作製されたHSCは、公知の生物因子を用いて所望の集団および機能を備える細胞への分化を誘導することができる。この方法において、本発明は、最高の患者ケアを提供するよう確立された、複数の機能を備える「デザイナー移植片」を作製することができる。HSCを遺伝子治療に用いて、その免疫原性および多能性の特性が低下しているという利点を活用しつつレシピエント対象において導入遺伝子を発現させることもできる。
【0040】
本発明は、特に造血系列の増殖幹細胞または前駆細胞を提供する。この過程は、一般に造血幹細胞および前駆細胞が濃縮された造血細胞を得る工程と、それらを適切な増殖培地に導入する工程とを含む。細胞を培養において維持し、増殖させる。例えば培養に残った細胞に培地交換を行うことにより、また分化した細胞を標的とする分離および除去を行うことにより、培養の間中連続的に、または培養過程で断続的に、分化した細胞および内因性増殖因子を除去する。残った未分化幹細胞を培養し、さらに増殖させる。複数サイクルの培養および選抜/培地交換を行って細胞を増殖させる。あるいは、本発明に従って、系列決定の様々な時期の分化した細胞を選抜し、さらに増殖させる。同様に、1または数種類のヘマトポエチンを培養に添加して、分化または系列決定させてもよい。血液製剤の取り扱いおよび加工を管理するFDAその他の規制に従い、無菌状態を維持するため、完全に制御可能な環境的閉鎖系において細胞増殖および選抜を行うことが好ましい。
【0041】
本明細書に開示されているバイオプロセスは、開放系として実施しても、閉鎖系として実施してもよい。閉鎖系は、一般に環境から隔絶され、より調節可能な無菌微小環境を培養にもたらす。閉鎖系のさらに別の利点として、研究者および医療の専門家に対する体液の取り扱いにおける安全性の増加が挙げられる。現在のFDAその他の行政指導基準においては、血液細胞およびヒトに用いるよう設計された産物の取り扱いおよび加工に閉鎖系を必要とし、したがって閉鎖系が好ましい。しかし、本明細書や、例えば米国特許第5,674,750号および第5,925,567号明細書(それぞれ、その全体を本願明細書に援用する)に開示されている開放系等、造血幹細胞の増殖を目的とする開放系ならび
に他の公知の系を本明細書に記載の教示するところに従って改変し、適切な開放系バイオプロセスを作製することができる。
【0042】
本発明は、細胞試料を受け入れるまたは含むことができる1または複数の細胞培養チャンバからなる。細胞培養チャンバは、例えば細胞培養フラスコまたはディッシュの場合のように実質的に硬質であっても、例えば細胞培養バッグの場合のように半硬質であってもよい。コーニング・コースター(Corning Costar)によって製造された容器等、市販の細胞培養容器(チャンバ)には多くの型および種類がある。適切な材料は、オートクレーブやガンマ線照射等、様々な滅菌技法に耐え得る材料であり、細胞に直接接触する成分は生物学的に不活性でなければならない。適切な細胞培養チャンバの選択は、これらの要因や、所望の容積、透明度、ガス拡散、開放型または閉鎖型設計等、その他の要因を考慮して行われ、チャンバの特定の型や種類の選択は、当業者であれば、記載の教示するところを考慮することによって明らかとなるであろう。現時点の好ましい1実施形態において、酸素ガスおよび二酸化炭素ガスに対して半透過性だが、水蒸気や、細胞培養液等の液体に対しては実質的に不透過性である細胞培養バッグが用いられ、これにより培養の際に増殖培地のロスが全くないまたは殆どないことを確実にする。フッ化エチレンポリマーは、この目的に適した材料を例示する。ガス透過性ではないが適切な基準を満たす他の材料として、ポリプロピレン、ステンレス鋼その他の医療グレードの材料、特にポリマーが挙げられる。
【0043】
細胞培養チャンバは、1または複数のポート、交換可能なキャップまたはカバー、ユーザーがバイオプロセス内部を実質的に外部環境に曝すことなくチャンバから材料を加えたり除いたりできるゴム栓、バルブまたは同様の手段等の自己封止の隔壁を含んでいてもよい。例えば、これらの機序は、細胞、培地ならびに抗体および増殖因子等の他の要素をチャンバに導入し、チャンバから培地、細胞、内因性可溶性増殖因子等を除去し、一方で環境的閉鎖系を維持することができる。外部ガス(例えば、酸素または空気)もしくは液体(例えば、培養液)の供給元と接続するための、またはポンプもしくは加圧装置を取り付けるための孔、調整弁または他のポートを備えていてもよい。
【0044】
大部分の条件下では、ex vivo HSC培養は造血の繰り返しを試み、したがって最終的に造血系の成分を含む細胞の異種集団を形成するであろう。これら細胞の全体的な発達潜在能力および原始性の洞察は、原始細胞型を増殖させる特異的培養方法論の能力に関する情報を提供するであろう。
【0045】
この知識の構築は、異なる分化段階の細胞の忍耐強く定量的なモニタリングを必要とする。異なる機能特性に基づいてこれらの細胞を同定する様々な検定法が開発された。細胞機能は、形態学的に識別可能なコロニーの形成に基づき、運命決定された多分化能の前駆細胞の存在を検出する、確立された遡及検定を用いてin vitroで確認することができる。コロニー形成細胞(CFC)は、半流動性培地(メチルセルロース)における培養2〜3週間後に、赤血球、骨髄系または混合(すなわち、赤血球と骨髄系の両方)細胞を含むコロニーを形成することにより検出することができる前駆細胞である。長期培養初期細胞(LTC−IC)はCFCより原始的であり、ストロマ細胞と培養した後5週間を超えたらCFCを生じるその能力により計数することができる。線維芽細胞、内皮細胞、脂肪細胞および骨形成原細胞を含む間葉系細胞からなるストロマ細胞の成分は長期増殖を支持し、LTC−ICを維持する様々な可溶性因子を産生する。この検定の感度は、検出IおよびLTC−ICの維持を増強することが知られている因子を分泌する遺伝子改変マウス線維芽細胞(M2−1OB4)細胞系を用いることによって高めることができる。
【0046】
in vivo機能検定は、造血細胞集団の発達潜在能力に最適の徴候を提供する。これは、この検定が、幹細胞集団が静脈内注射後に特定の器官、組織または系の発達または
再発達に寄与する潜在能力を直接試験するためである。例えば、易感染性および血液学的易感染性宿主へと移植した後に造血を再構成するその能力に基づいて、マウスHSCが同定された。ティル(Till)およびマカロック(McCulloch)がこのような細胞型の存在を初めて報告したのは、放射線照射したマウスレシピエントに同系BM細胞を注射して、脾臓における多系列コロニーの形成を観察したときである。
【0047】
ヘマトポエチンは、造血系細胞において作用する造血増殖因子(HGF)または造血サイトカインに付けられた一般名である。これらの因子は全発達段階において活性を有し、したがってこのヘマトポエチンがバイオプロセスから除去されてHSC分化を抑制する。
【0048】
造血増殖因子は、造血系に属さない細胞型等、多くの異なる細胞型によって産生される。これらの因子は分泌されても、膜結合型またはマトリックス関連型として存在してもよい。これらは、自己分泌、パラクリンまたは接触分泌増殖制御等、異なる作用機序を有する。造血因子の産生は厳密に調節される、すなわち、これは常に構成的に産生されるのではなくむしろ特定の条件下で活性化された細胞によって合成される。多くの観察は、序列化された階層および造血系の発達に関与する因子の協奏的な作用の存在を示す。これらの因子は、造血幹細胞の維持、その増殖、その異なる造血系列への分化および増殖と分化との間の安定平衡の維持に必要である。これらの因子は、例えばストレス条件下で、必要に応じて生物にこの平衡をある側面または他の側面へと変化させることができる。これら因子の多くは、それらの生物活性において重複する。目的論的には、これは高効率を保証し、その機能が損なわれた、例えば病的な状態の可能性がある個々の成分の置換および/または補完も可能にする。さらに、これら因子によって誘発された反応は通常、文脈的である、すなわち、これらの反応は、反応している細胞の環境における他のサイトカインおよび/または因子の存在および濃度に依存する。HSC増殖をin vitroで刺激することを目的とする研究の大部分は、外因性サイトカイン添加戦略の使用に焦点を合わせる。サイトカインは、3クラスの膜貫通レセプターを介してHSCと相互作用する。1)内在性チロシンキナーゼ活性を有するレセプター、2)gpl30サブユニットと相互作用するレセプターおよび3)ヤヌスキナーゼ(JAK)と相互作用するレセプター。何年もの間、表現型および機能検定の使用は、原始造血細胞において異なる刺激効果を有する多くのサイトカインを同定してきた。これらは、flk2/flt3リガンド(FL)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン(IL)−6、IL−6/可溶性IL−6−レセプター(SIL−6R)、IL−11、トロンボポエチン(TPO)、IL−3、IL−1、IL−12、顆粒球−コロニー刺激因子(G−CSF)および顆粒球−マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)90−0を含む。最初に報告されたIL−1、IL−3、IL−6、G−CSF、GM−CSFおよびSCFを含むストロマフリーのサイトカイン添加培養の使用は、コロニー形成単位−顆粒球−マクロファージ(CFU−GM)前駆細胞の顕著な増殖(66倍)を支持した。
【0049】
HSCを増殖させる培養条件の具体例を実施例に記すが、一般に、本発明によれば、先ずHSCのサブセットを含む細胞の試料を採取し、次に培養する。次に、増殖が起きるのに適した増殖期の間培養細胞を維持するが、これは可溶性増殖因子を除去するための培地交換を含むことができ、その期間の後、他の分化した細胞からHSCを分離する。続いて、記載されている通りHSCを再度増殖させる。必要に応じて、分化した細胞の分離を再度行ってよい。培養期間の終わりに、例えばグリセリン、DMSOまたは適切な凍結保存剤の添加後に凍結することによって増殖したHSCを保存しても、治療手順に直接用いてもよい。重要なことには、上述の工程は、組み立てられたバイオプロセス装置全体を用いて行っても、細胞分離とは独立的に細胞培養を行う別個のパーツにおいて行ってもよいことに留意されたい。
【0050】
HSCの臨床用途として、例えば、血液癌の治療的処置、貧血症の治療、遺伝性血液障
害の治療、癌治療における高線量の放射線照射および大量化学療法後の血液細胞の補充、癌の移植片対腫瘍治療、自己免疫障害の治療および遺伝子治療アプローチが挙げられる。
【0051】
リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキン病、複数の骨髄腫ならびに非ホジキンおよびB細胞リンパ腫等、血液癌の治療的処置のため、先ず患者自身の癌性造血細胞を高線量の放射線照射および大量化学療法により破壊する。患者は、本明細書に提供されている方法に従って単離、増殖した移植可能なHSC供給源を提供する。未分化細胞の移植は、レシピエントの血液の長期再増殖をもたらす。HSC療法による治療を受け入れることができる非癌性血液障害として、再生不良性その他のタイプの貧血症が挙げられる。未分化細胞の移植は、レシピエントの血液の長期再増殖をもたらす。UCBを用いた複数の研究により、細胞投与量が幹細胞移植シナリオにおける患者生存の重要な決定因子であることが証明された。
【0052】
次に、上述の具体例により特定の観点から本発明を説明するが、これは例示としてのものに過ぎず、非限定的および具体的な実施形態を目的としており、本発明の全範囲は特許請求の範囲のみによって決定される。
【実施例】
【0053】
実施例1
培養7日後の3M CB MNCによるNOD−SCIDマウスの生着におけるX(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)の効果
対照群の5匹のマウスは、Busilvexにより切除したがCB MNCの静脈注射を施さなかった。2群の各5匹のマウスは、Xの存在下または不在下で7日間培養した3M CB MNCを投与した。生着%は、Xなしマウスにおける3%からXありマウスにおける10%超へと増加した。図1に示すように、2群のマウスの間の差は統計的に有意であった(P<0.05)。生着の増加は、ヒト汎白血球(CD45)、Bリンパ球(CD19)および骨髄系細胞(CD33)マーカーによっても示された。
実施例2
培養7日後のCB MNCによるNOGマウスの生着におけるX(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)の効果
対照群の4匹のマウスは、Busilvexにより切除したがCB MNCの静脈注射を施さなかった。2群の各4匹のマウスは、Xの存在下または不在下で7日間培養した1.5M CB MNCを投与した。生着%は、Xなしマウスにおける5%からXありマウスにおける20%へと増加した。図2に示すように、2群の間の差は統計的に有意であった(P<0.05)。負の二項分布に基づく線形モデルの使用により、2群間でより高い統計的有意差が得られる。生着の増加は、ヒト汎白血球(CD45)、Bリンパ球(CD19)および骨髄系細胞(CD33)マーカーによっても示される。
実施例3
7日間の4M CB MNC+/−X(ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物)によるNOGマウスの生着、3週間目に評価
対照群の3匹のマウスは、Busilvexにより切除したがCB MNCの静脈注射を施さなかった。2群の各3匹のマウスは、Xの存在下または不在下で7日間培養した4M CB MNCを投与した。未成熟赤芽球および赤血球分化を評価するため、生着%を6週間目ではなく3週間目に評価した。図3に示すように、生着はXなしマウスにおける11%からXありマウスにおける18%へと増加した。生着増加は、主として未成熟赤芽球(CD45−CD36+、濃灰色)数の増加によるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物および可溶性因子であって、
哺乳動物、好ましくはブタ、ウシまたはヒトから骨髄を単離することによって得ることができる、ヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスからなる環境に、ヒト造血幹細胞を播種する工程と、
前記細胞をヒト骨髄細胞に分化させることにより細胞を刺激して細胞外マトリックスおよび可溶性因子を合成、分泌および組織化するために、前記細胞を培養する工程と、
前記細胞がヒト骨髄細胞に分化して細胞外マトリックスおよび可溶性因子を合成するまで、前記細胞を連続培養する工程と、
前記細胞を除去して、骨髄の細胞外マトリックス抽出物および可溶性因子を得る工程と、
からなる方法によって得ることができる、ヒト骨髄細胞外マトリックス抽出物および可溶性因子。
【請求項2】
患者に自家造血細胞を移植するための方法であって、
i)患者から造血幹細胞を取り出す工程と、
ii)任意選択で、該造血幹細胞をGM−CSF、SF、IL−3、IL−1、GM−CSF/IL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される増殖因子と共にex vivoで増殖させて、造血前駆細胞の増殖された集団からなる細胞調製物を提供する工程と、
iii)該造血幹細胞の画分を請求項1に記載の抽出物および可溶性因子と、または請求項1に記載のヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスの脱細胞化型と接触させて、該細胞を骨髄系細胞系列に分化させる工程と、
iv)該造血幹細胞と該骨髄系細胞系列とを組み合わせて細胞調製物を形成する工程と、
v)防御および長期生着の両方を再構成するため該細胞調製物を該患者に投与する工程と、
からなる方法。
【請求項3】
前記患者が細胞減少剤による治療を受けている、または治療を受けた、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物が造血器悪性腫瘍に罹患している、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物が貧血症に罹患している、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞組成物が静脈内投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキン病、複数の骨髄腫および非ホジキンおよびB細胞リンパ腫を含めた血液癌の患者を治療するための骨髄系細胞系列を調製するための、請求項1に記載の抽出物および可溶性因子、または請求項1に記載のヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスの脱細胞化型の使用方法であって、
i)患者から造血幹細胞を取り出す工程と、
ii)任意選択で、該造血幹細胞をGM−CSF、SF、IL−3、IL−1、GM−CSF/IL−3融合タンパク質およびそれらの組合せからなる群から選択される増殖因子と共にex vivoで増殖させて、造血前駆細胞の増殖された集団からなる細胞調製物を提供する工程と、
iii)該造血幹細胞の画分を請求項1に記載の抽出物および可溶性因子と、または請
求項1に記載のヒト骨髄細胞外マトリックスに類似の細胞外マトリックスの脱細胞化型と接触させて、該細胞を骨髄系細胞系列に分化させる工程と、
iv)該造血幹細胞と該骨髄系細胞系列とを組み合わせて細胞調製物を形成する工程と、
v)防御および長期生着の両方を再構成するため該細胞調製物を該患者に投与する工程と、
を含む使用方法。
【請求項8】
前記患者が細胞減少剤による治療を受けている、または治療を受けた、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記哺乳動物が造血器悪性腫瘍に罹患している、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳動物が貧血症に罹患している、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞組成物が静脈内投与される、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533519(P2012−533519A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515517(P2012−515517)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058675
【国際公開番号】WO2010/146177
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511291120)
【氏名又は名称原語表記】MC2 CELL APS
【Fターム(参考)】