高い最終粘度を持つデンプンを合成する植物細胞及び植物
本発明は、遺伝的に改変された植物細胞であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、その植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招く、植物細胞に関する。本発明のさらなる側面は、そのような植物細胞を含む植物、その植物細胞及び植物を生成する方法、及びそれらから得られるデンプンに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的に改変される植物細胞及び植物に関するものであり、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く。さらに、本発明は、そのような植物細胞及び植物の生成のための手段及び方法に関する。そのような植物細胞及び植物は、少なくとも30%のアミロース含量及び遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて高められたリン酸含量を有することを特徴とし、従来技術を超えて高い、RVA分析における最終粘度を有し、及び/又は改変された側鎖分布及び/又はテクスチャーアナライザにおける高いゲル強度及び/又は改変された顆粒形態及び/又は改変された平均顆粒サイズを有する改変されたデンプンを合成する。従って、本発明はまた、本発明に係る植物細胞及び植物により合成されたデンプンにも関するものであり、本デンプンを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能な原料として現在、植物構成成分に向けられている重要性が高まっていることを考えると、バイオテクノロジー研究の仕事の1つは、これらの植物性原料を加工産業の必要要件に適合させる試みである。できるだけ多くの適用分野で再生可能な原料の使用を可能にするために、極めて多様な物質に到達することがさらに必要である。
【0003】
多糖類デンプンは化学的に均一な単位、グルコース分子のポリマーである。しかしながら、それは、重合度及びグルコース鎖の分枝の発生に関して異なる様々な形態の分子の高度に複雑な混合物の形態を取る。従って、デンプンは均一な原料ではない。人は、デンプンの2つの化学的に異なる構成成分、アミロース及びアミロペクチンの間で区別する。トウモロコシ、コムギ又はジャガイモのようなデンプンを製造するのに使用される典型的な植物では、合成されたデンプンのうち、アミロースデンプンがおよそ20〜30%を占め、アミロペクチンデンプンがおよそ70〜80%を占める。アミロースは、長いこと、α−1,4−グリコシド結合したα−D−グルコースモノマーから成る直鎖状ポリマーであるとみなされてきた。しかしながら、最近の研究によって、α−1,6−グリコシド分枝点の存在が明らかにされた(約0.1%)(Hizukuri and Takagi, Carbohydr. Res., 134:1-10, 1984;Takeda et al., Carbohydr. Res., 132:83-92, 1984)。
【0004】
アミロース含量を測定するには種々の方法を利用することができる。これらの方法の一部は、アミロースのヨウ素結合能に基づき、それは、電位差測定(Banks & Greenwood, in W. Banks & C. T. Greenwood, デンプン及びその構成成分、pp51-66, Edinburgh, Edinburgh University Press)、電流滴定(Laeson et al., Analytical Chemistry 25(5)802-804, 1953)、又は分光光度計(Morrison & Laignelet, J. Cereal Sc., 1:9-20, 1983)で測定することができる。アミロース含量は、DSC(示差走査熱量測定)測定により熱量的にも測定してもよい(Kugimiya & Donovan, Journal of Food Science 46:765-770, 1981; Sievert & Holm, Starch/Starke 45(4):136-139, 1993)。さらに、天然の又は脱分枝したデンプンのSEC(サイズ除外クロマトグラフィ)クロマトグラフィによって、アミロース含量を測定することも可能である。本方法は、遺伝的に改変されたデンプンのアミロース含量を測定するのに特に推奨されてきた(Gerard et al., Carbohydrate Polymers 44:19-27, 2001)。
【0005】
アミロースとは対照的に、アミロペクチンは、高い分枝度を示し、追加のα1,6−グリコシド結合の発生によってもたらされるおよそ4%の分枝点を有する。アミロペクチンは、様々な分枝パターンを持つ複雑なグルコース鎖の混合物を構成する。アミロースとアミロペクチンのもう1つの重要な差異は、その分子量である。デンプンの起源によって、アミロースが5x105〜106Daの分子量を有するのに対して、アミロペクチンの分子量は、107〜108Daの間である。2つの高分子は、その分子量及びその異なった物理化学的特性に基づいて区別することができ、視覚化の最も簡単な方法はその異なったヨウ素結合特性を介する。
【0006】
アミロース/アミロペクチン比及びリン酸含量に加えて、デンプンの機能特性は、分子量、側鎖の分布パターン、イオン含量、脂質及びタンパク質の含量、平均顆粒サイズ、顆粒の形態などに大きく左右される。この背景で言及されてもよい重要な機能特性は、溶解性、デンプン老化作用、水結合能、膜形成特性、粘度、ゲル化特性、凍結乾燥安定性、酸安定性、ゲル強度などである。顆粒サイズも種々の適用で重要であってもよい。
【0007】
熟練者は、ゲル化特性を測定するのに様々な方法に頼ることが多いが、その1つが最終粘度である。使用する方法によって、特に絶対値は、しかし相対値もまた、ある試料と同じデンプン試料との間で異なってもよい。ゲル化特性を分析する迅速且つ有効な方法はRVA分析である。RVA分析におけるパラメータ及び温度特性の選択によって、異なったRVA特性がある試料及び同一試料に対して得られる。場合によっては、ゲル化特性を測定するとき以下で言及される従来技術では異なった特性が使用されたことを言及すべきである。
【0008】
デンプンの生合成に加わる酵素の低下を伴った様々な植物種に関する総括は、Kossmann 及び Lloyd(Critical Reviews in Plant Science 19(3):171-126, 2000)により見い出すことができる。
今日まで、SSIIIタンパク質の活性(Abel et al., The Plant Journal 10(6)9891-991, 1996; Lloyd et al., Biochemical Journal 338:515-521, 1999)、又はBEIタンパク質の活性(Kossmann et al., Mol. Gen. Genet., 230:39-44, 1991; Safford et al., Carbohydrate Polymers 35:155-165, 1998)、又はBEIIタンパク質の活性(Jobling et al., The Plant Journal 18、1999)、又はBEI及びBEIIタンパク質の活性(Schwall et al., Nature Biotechnology 18:551-554, 2000; WO96/34968)又はBEI及びSSIIIタンパク質の活性(WO 00/08184)が低下している植物が記載されている。
【0009】
SSIIIタンパク質の活性が低下している植物では、相当する野生型植物に比べて、長鎖から短鎖へのアミロペクチン側鎖の相対的シフト(Lioyd et al., Biochemical Journal 338:515-521, 1999)、70%高いリン酸含量、不変のアミロース含量(Abel et al., The Plant Journal 10(6)9891-991, 1996)、及びRVA分析での低下した最終粘度(Abel, ベルリン、Freie大学の学位論文)が観察される。WO00/08184にも記載されるそのような植物では、形質転換されていない野生型に比べて、単離されたデンプンで、リン酸含量の197%増加、アミロース含量の123%増加、及び野生型の76%に降下したRVA分析での最終粘度を観察することができる。さらに当該デンプンのゲル強度は野生型の84%に低下する。
【0010】
Morrison & Laignelet(J. Cereal Sc., 1:9-20, 1983)の方法による分光光度計による分析は、BEI及びBEIIタンパク質双方の活性の低下した植物において、最大89.14%(野生型の344%に相当する)までのアミロース含量及び相当する野生型植物から単離したデンプンのリン酸含量の最大522%に相当するリン酸含量を示している。RVA分析は、これらのデンプンで、最大237%まで増大した最終粘度を示している。さらに、そのような植物から単離したデンプン粒における改変された顆粒形態は、偏光顕微鏡で見た場合、当該顆粒の中央に顆粒が大きな溝を有するという事実によって区別される。
【0011】
その結果、熟練者は、植物細胞及び植物に精通し、高いアミロース含量及びリン酸含量を有するが、RVA分析における最終粘度は、遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて最大256%までしか増大しない、それらによって合成されるデンプンに精通する。RVA分析におけるさらに高い最終粘度は今日まで達成されていない。しかしながら、所望の効果を達成するために、たとえば、濃厚剤、ゲル化剤又は結合剤としてデンプンを使用する場合、少ないデンプン固形物が採用されるので、このことは望ましい。これによって、たとえば、ヒト及び動物の食物、健康製品及び化粧品における添加剤の量を減らすことができる。そのようなデンプンを糊に使用する場合、少量を採用して、たとえば、紙、段ボール及び絶縁板を作成する際にコストの削減を招くことも可能である。
【0012】
発明の開示
従って、本発明は、高いアミロース含量及び高いリン酸含量を持ち、少なくとも270%増大するRVA分析における最終粘度、及び/又はゲル化デンプンの高いゲル強度及び/又は改変された顆粒形態を持つ、植物細胞、植物及び好適な植物細胞又は植物に由来するデンプンを提供するという目的に基づく。
【0013】
本目的は、特許のクレームで特定される実施形態を提供することによって達成される。
【0014】
従って、本発明の第1の態様は、遺伝的に改変される植物細胞に関するものであり、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0015】
この背景において、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く、いかなる遺伝的改変であることもできる。
【0016】
本発明の目的で、遺伝的改変は、たとえば、1以上の遺伝子を突然変異誘発の対象とすることによる本発明に係る植物細胞の生成を包含してもよい。SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質の活性の低下を招く限り、突然変異の種類は問わない。本発明に関連して、用語「突然変異誘発」は、たとえば、欠失、点突然変異(ヌクレオチド置換)、挿入、逆位、遺伝子変換又は染色体転座のようないかなる種類の突然変異も意味するとして理解される。
【0017】
この背景において、化学作用剤又は高エネルギー照射(たとえば、X線、ニュートロン、ガンマ、UV照射)を用いることによって突然変異を生じることができる。化学的に誘導される突然変異を生じるために採用されることができる作用剤、及びそれによって当該変異原の作用により生じる突然変異は、たとえば、Ehrenberg及びHusain(Mutation Res., 86:1-113, 1981)、Muler(Biologisches Zentralbalatt 91(1):31-48, 1972)に記載されている。ガンマ線、エチルメタンスルホネート(EMS)、N−メチル−N−ニトロ尿素又はアジ化ナトリウム(NaN3)を用いたコメの突然変異の生成は、たとえば、Jauharoy及びSiddiq(Indian Journal of Genetics 59(1):23-28, 1999)、Rao(Cytologica 42:443-450, 1977)、Gupta及びSharma(Oryza 27:217-219, 1990)、並びにSatch及びOmura(Japanese Journal of Breeding 31(3):316-326, 1981)に記載されている。NaN3又はマレイン酸ヒドラジドを用いたコムギの突然変異の生成はAroraら(Anals of Biology 8(1):65-69, 1992)に記載されている。別の種類の高エネルギー照射及び化学作用剤を用いたコムギの突然変異の生成に関する概説は、Scarescia-Mugnozzaら(Mutation Breeding Review 10:1-28, 1993)に提供されている。Svecら(Cereal Research Communications 26(4):391-396, 1998)は、ライムギでの突然変異の生成にためのN−エチル−N−ニトロ尿素の使用を記載している。キビの突然変異の生成のためのMMS及びガンマ照射の使用は、Shashidharaら(Journal of Maharashtra Agricultural Universities 15(1):20-23, 1990)に記載されている。
【0018】
その増殖が無性的である植物種における突然変異の生成は、たとえば、改変デンプンを生産するジャガイモ(Hovenkamp-Hemelink et al., Theoretical and Applied Genetics 75:217-221, 1987)及び油分の収量が増大し、油分の質が改変されたハッカ(Dwivedi et al., Journal of medical and Aromatic Plant Science 22:460-463, 2000)で記載されている。これらの方法はすべて原則として本発明に係る植物細胞及びそれによって製造されるデンプンを生成するのに好適である。
【0019】
関連する遺伝子、特にBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質及び/又はSSIIIタンパク質をコードする遺伝子における突然変異は、熟練者に既知の方法の助けを借りて同定することができる。プローブとのハイブリッド形成に基づく解析(サザンブロット)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅、当該ゲノム配列の配列決定、及び個々のヌクレオチド置換の探索は特に採用されてもよい。ハイブリッド形成のパターンの助けを借りた突然変異を同定する方法の1つは、たとえば、制限断片長多型(RFLP)(Nam et al., The Plant Cell 1:699-705, 1989; Leister & Dean The Plant Journal 4(4):745-750, 1993)である。PCRに基づく方法の例は、増幅断片長多型(AFLP)の解析である(Castiglioni et al., Genetics 149:2039-2056; Meksem et al., Molecular Genetics and Genomics 265:207-214, 1998; Meyer et al., Molecular and General Genetics 259:150-160, 1998)。制限エンドヌクレアーゼの助けを借りて切断された増幅断片(切断増幅多型配列、CAPS)の使用も突然変異を同定するのに使用してもよい(Konieczny & Ausubel The PLant Journal 4:403-410, 1993; Jarvis et al., Plant Molecular Biology 24:685-687, 1994; Bachem et al., The Plant Journal 9(5):745-753, 1996)。SNPを測定する方法もとりわけ、Qiら(Nucleic Acids Research 29:(22): e116, 2001)、Drenkardら(Plant Physiology 124:1483-1492, 2000)、及びChoら(Nature Genetics 23:203-207, 1999)により記載されている。特に好適である方法は、特定の遺伝子における突然変異について短い時間で多数の植物が解析されるようなものである。そのような方法は、TILLING(ゲノムにおけるターゲティング誘発の局所損傷)として知られ、McCallum et al. ら(Plant Physiology 123:439-442, 2000)により記載されている。
【0020】
これらの方法すべての使用が原則として、本発明の目的に好適である。
【0021】
Hoogkampら(Potato Research 43:179-189, 2000)は、アミロースのないデンプンを含有する安定なジャガイモ変異体を単離した。これらの植物は、顆粒結合性のデンプン合成酵素(GBSSI)について活性のある酵素をもはや合成しない。これらの植物をもう1つの突然変異誘発の対象とした後、デンプンの生合成に関与する遺伝子に追加的に突然変異を有するものを選択してもよい。従って、改善された特徴を持つデンプンを合成する植物が生成される可能性がある。好適な方法を用いて、本発明に係るデンプンを生産する本発明に係る植物細胞を同定し、単離することも可能である。
【0022】
さらに、相同性のトランスポゾン、いわゆる、当該植物細胞に天然に存在するトランスポゾンの助けを借りて発明に係る植物細胞を生成してもよい。本方法の詳細な記載は以下で提供される。
【0023】
前述の方法はすべて原則として本発明に係る植物細胞、及びそれによって合成される改変されたデンプンを生成するのに好適である。従って、本発明は、改変されたデンプンを合成する、遺伝的に改変される植物細胞を生成する方法に関するものであり、本デンプンは、少なくとも30%のアミロース含量を有し、遺伝的に改変されていない相当する野生型の植物細胞のデンプンに比べて、高いリン酸含量を有し、遺伝的に改変されていない相当する野生型の植物細胞のデンプンに比べて、RVA分析における高い最終粘度を有することを特徴とする。
【0024】
本発明のさらなる態様は、植物細胞の遺伝的改変を含む、改変されたデンプンを合成する植物細胞を生成する方法に関するものであり、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0025】
本発明のその上さらなる態様は、
a)植物細胞が上記のように生成される;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生される;及び
c)適当であれば、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを合成する、遺伝的に改変された植物細胞を生成する方法に関する。
【0026】
本発明に関連して、用語「遺伝的に改変された」は植物細胞の遺伝情報が変更されることを意味する。
【0027】
この背景で、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下が、本発明に係る植物細胞で観察される。
【0028】
本発明に係る植物細胞を生成するための遺伝的改変は、同時に行うことができ、又は連続した工程で行うことができる。この背景で各遺伝的改変は、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招くことができる。出発材料は、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性を低下させるためにあらかじめ遺伝的改変が行われていない野生型植物又は野生型植物細胞のいずれか、或いは遺伝的改変により、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性がすでに行われた他の遺伝的に改変される植物細胞又は植物でもよい。そのような遺伝的に改変された植物(植物細胞)が出発材料を構成するのであれば、続いて行われる遺伝的改変は、各場合、その活性が未だ低下させられていない1以上のタンパク質(SSIII、BEI又はBEII)の活性にのみ関する。
【0029】
たとえば、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、本発明に係る遺伝的に改変された植物細胞では、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII遺伝子の発現の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEI遺伝子の発現の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEII遺伝子の発現の低下及び/又は植物細胞に存在する各場合、1以上の前述のタンパク質の活性の低下が観察される。
【0030】
本発明の目的で、用語「活性の低下」は、SSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の低下、細胞におけるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下及び/又は細胞におけるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の酵素活性の低下を言う。
【0031】
発現の低下は、たとえば、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする転写物の量を、たとえば、ノーザンブロット解析又はRT−PCRにより測定することによって決定することができる。低下は好ましくは、本背景では、遺伝的に改変されていない相当する細胞に比べて、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは85%及び特に好ましくは95%の転写物の量の低下を意味する。
当該植物細胞におけるこれらタンパク質の活性の低下を生じるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下は、たとえば、ウエスタンブロット解析、ELISA(酵素結合免疫吸収法)又はRIA(放射性免疫測定法)のような免疫学的方法によって決定することができる。本背景で、低下は好ましくは、遺伝的に改変されていない相当する細胞に比べて、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは85%及び特に好ましくは95%のSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下を意味する。
【0032】
本発明に関連して、SSIIIタンパク質は、可溶性デンプン合成酵素(ADP−グルコース−1,4−α−D−グルカン−4−α−グルコシルトランスフェラーゼ;EC2.4.1.21)の部類を意味するとして理解される。可溶性デンプン合成酵素は、基質ADP−グルコースのグルコース残基がα−1,4−結合のグルカン鎖に転移され、α−1,4−結合を形成するグリコシル化反応(ADPグルコース+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N)⇔ADP+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N+1))を触媒する。
【0033】
SSIIIタンパク質は、たとえば、Marshall ら(The Plant Cell 8:1121-1135, 1996)、Liら(Plant Physiology 123:613-624, 2000)、Abelら(The Plant Journal 10(6):981-991, 1996)、及びWO0066745に記載されている。SSIIIタンパク質の構造は、ドメインの配列を頻繁に示す。N末端では、SSIIIタンパク質は、色素体への輸送のためのシグナルペプチドを有する。C末端に向かって、これにN末端領域、SSIII特異的領域及び触媒ドメインが続く(Li et al., Plant Physiology 123:613-624, 2000)。一次配列の配置(http://hits.isb-sib.ch/cgi-bin/PFSCAN)に基づいたさらなる解析は、ジャガイモSSIIIタンパク質が炭水化物結合ドメイン(CBM)として知られているものを有することを示した。このドメイン(Pfam motiv cbm25)は、配列番号2で示されるジャガイモSSIIIタンパク質の配列のアミノ酸377〜437を含む。本発明と関連して、従って、SSIIIタンパク質は、配列番号3の配列に少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%及び特に少なくとも90%の同一性を有するデンプン合成酵素を意味するとして理解される。
【0034】
用語、相同性又は同一性は、パーセントで表現される、他のタンパク質に一致するアミノ酸(同一性)の数を意味するとして理解される。同一性は好ましくは、コンピュータプログラムの助けを借りて配列番号3を他のタンパク質と比較することによって決定する。互いに比較する配列の長さが異なっていたら、同一性は、短い配列が長い配列と共有するアミノ酸の数が同一性の比率を決定するように同一性を決定すべきである。たとえば、ClustalW(Thompson et al., Nucleic Acids Research 22:4673-4680, 1994)のような公然と利用できる既知のコンピュータプログラムによって日常的に同一性を決定することができる。ClustalWは、ドイツ、ハイデルベル、Meyerhofstrasse 1, D69117のヨーロッパ分子生物学研究所のJulie Thompson(Thompson@EMBL-Heidelberg.DE)とToby Gibson(Gibson@EMBL-Heidelberg.DE)が公然と利用できるようにしている。ClustalWはまた、種々のインターネットのページ、とりわけ、IGBMC(Institut de Genetique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire, B.P.163, 67404 Illkirch, Cedex, France; ftp://ftp-igbmc.u-strasbg.fr/pub/)及びEBI(ftp://ftp.ebi.ac.ul/pub/software/)及びEBIの完全なミラーサイトのインターネットページ(英国、ケンブリッジCB101SD、ヒンクストン、ヨーロッパバイオインフォマティクス研究所、ウエルカム・トラスト・ゲノム・キャンパス)からダウンロードすることができる。
ClustalWコンピュータプログラムバージョン1.8を用いて、たとえば、参照タンパク質と本出願のタンパク質及びそのほかのタンパク質との間の同一性を決定するのであれば、以下のパラメータを設定すべきである:KTUPLE=1、TOPDIAG=5、WINDOW=5、PAIRGAP=3、GAPOPEN=0、GAPEXTEND=0.05、GAPDIST=8、MAXDIV=40、MATRIX=GONNET、ENDGAPS(OFF)、NOPGAP、NOHGAP。
類似の配列を見い出す可能性の1つは、配列のデータベース検索を行うことである。ここでは、1以上の配列がクエリとして知られるものとして入れられる。次いで、統計的コンピュータプログラムを用いてこのクエリの配列を精選したデータベースに存在する配列と比較する。そのようなデータベース検索(ブラスト検索)は熟練者に既知であり、様々な業者で行うことができる。たとえば、NCBI(National Center for Biotechnology Information, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)でそのようなデータベース検索を行うのであれば、各比較検索について標準設定を使用すべきである。タンパク質配列の比較については、これらの設定は、Limit entez=活性化せず、Filter=低い複雑さで活性化;Expect value=10;ワードサイズ=3;Matrix=BLOSUM62;ギャップコスト=Existence=11,Extension=1である。そのほかのパラメータの間でのそのような検索の結果は、データベースに見い出されるクエリ配列と類似の配列との間の同一性の程度である。
従って、本発明と関連して、SSIIIタンパク質は、配列番号3で示される配列との同一性を決定するために上述の方法の少なくとも1つを使用する場合、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%及び特に少なくとも90%の同一性を有するデンプン合成酵素を意味するとして理解されるべきである。
【0035】
本発明の目的で、用語、SSIII遺伝子は、好ましくはジャガイモのSSIIIタンパク質をコードする核酸分子(DNA、cDNA、RNA)を意味するとして理解される。SSIIIタンパク質をコードする核酸分子は、たとえば、ジャガイモ(Abel et al., The Plant Journal 10(6):981-991, 1996)、コムギ(WO 00/66745; Li et al., Plant Physiology 123:613-624, 2000; Genbank受入番号AF258608;Genbank受入番号AF258609)、トウモロコシ(Gao et al., Plant Cell 10(3):399-412, 1998;Genbank受入番号AF023159)、ビグニア(Genbank受入番号AJ225088)、コメ(Genbank受入番号AY100469;Genbank受入番号AF43291)、及びシロイヌナズナ(Genbank受入番号AC007296)のような種々の植物種について記載されている。
【0036】
本発明の目的で、用語「分枝酵素」又は「BEタンパク質」(α−1,4−グルカン:α−1,4−グルカン−6−グリコシルトランスフェラーゼ;EC2.4.1.18)は、α−1,4グルカン供与体のα1,4−結合が加水分解され、この過程で遊離されるα−1,4−グルカン鎖がα−1,4−グルカンアクセプタ鎖に転移され、それらがα−1,6−結合に変換されるトランスグリコシル化反応を触媒するタンパク質を意味するとして理解される。
【0037】
用語「BEIタンパク質」は、本発明の目的で、アイソフォームIの分枝酵素(分枝酵素=BE)を意味するとして理解される。BEIタンパク質は好ましくはジャガイモに由来する。本背景で、アイソフォームの用語法は、Smith-White及びPreiss(Smith-White and Preiss, Plant Mol. Biol. Rep., 12:67-71, 1994; Larsson et al., Plant Mol. Biol. 37:505-511, 1998)により提唱された命名法を基にする。この命名法は、トウモロコシBEII(Genbank受入番号AF072725、U65948)に対するよりも、高い程度でトウモロコシのBEI(Genbank受入番号D11081;Baba et al., Biochem., Biophys. Res. Commun., 181(1):87-94, 1991; Kim et al., Gene 216:233-243, 1998)とのアミノ酸レベルでの相同性(同一性)を有する酵素はすべてBEIタンパク質と略称される、アイソフォームIの分枝酵素と呼ばれる。
【0038】
用語「BEIIタンパク質」は、本発明の目的では、アイソフォームIIの分枝酵素(分枝酵素=BE)を意味するとして理解されるべきである。この酵素は好ましくはジャガイモを起源とする。本発明に関連して、トウモロコシのBEIタンパク質(Genbank受入番号D11081、AF072724)に比べて、トウモロコシのBEIIタンパク質(Genbank受入番号AF072725、U65948)にさらに高い相同性(同一性)を有する酵素はすべてBEIIタンパク質と呼ばれるべきである。
【0039】
用語「BEI遺伝子」は、本発明の目的では、「BEIタンパク質」、好ましくはジャガイモのBEIタンパク質をコードする核酸分子(cDNA、DNA)を意味するとして理解される。そのような核酸分子は、たとえば、トウモロコシ(Genbank受入番号D11081、AF072724)、コメ(Genbank受入番号D11082)、エンドウマメ(Genbank受入番号X80010)及びジャガイモのような多数の植物で記載されている。ジャガイモのBEI遺伝子又はBEIタンパク質の種々の形態が、たとえば、Khoshnoodi et al., Eur. J. Biochem., 242(1):148-155, 1996; Genbank受入番号Y08786及びKossmann et al., Mol. Gen. Genet., 230:39-44, 1991によって記載されている。ジャガイモでは、BEI遺伝子は塊茎に優勢に発現されており、葉にはわずかしか発現されていない(Larsson et al., Plant Mol. Biol., 37:505-511, 1998)。
【0040】
用語「BEII遺伝子」は、本発明の目的では、「BEIIタンパク質」、好ましくはジャガイモのBEIIタンパク質をコードする核酸分子(たとえば、cDNA、DNA)を意味するとして理解される。そのような核酸分子は、たとえば、ジャガイモ(Genbank受入番号AJ000004、AJ011888、AJ011889、AJ011885、AJ011890、EMBL、Genbank受入番号A58164)、トウモロコシ(AF072725、U65948)、オオムギ(AF064561)、コメ(D16201)、及びコムギ(AF286319)のような多数の植物で記載されている。ジャガイモでは、BEII遺伝子は塊茎に優勢に発現されており、葉にはわずかしか発現されていない(Larsson et al., Plant Mol. Biol., 37:505-511, 1998)。
【0041】
用語「トランスジェニック」は、本背景では、本発明に係る植物の遺伝情報が、外来核酸分子又は数種の外来核酸分子の細胞への導入によって、遺伝的に改変されていない相当する植物細胞から逸脱することを意味するとして理解されるべきである。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に係るトランスジェニック植物細胞の遺伝的改変は、その存在及び/又は発現が遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、1以上の核酸分子の導入にある。具体的には、用語「遺伝操作」は、相同性及び/又は異種性の核酸分子及び/又は植物細胞への突然変異誘発の対象とされている核酸分子の導入を意味するとして理解され、その際、これら分子の前記導入は、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又BEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0043】
用語「外来の核酸分子」又は「外来核酸分子の」は、本発明の目的では、当該植物には天然には存在しない、又は特定の空間配置における植物では天然には存在しない、又は天然には存在しない植物細胞のゲノム部位に局在するそのような分子を意味するとして理解される。外来核酸分子は、好ましくは植物細胞では、その組み合わせ又は特定の空間配置が天然には存在しない種々の要素から成る組換え分子である。
遺伝的改変に使用される外来核酸分子は、ハイブリッド核酸構築物、又は数個の別個の核酸構築物、特に、単一の、二重の及び三重の構築物として知られるものの形態を取ってもよい。従って、外来核酸分子は、たとえば、「三重構築物」として知られるものであってもよく、それは、1以上の内因性のSSIII遺伝子の発現を阻害するための遺伝情報だけでなく、1以上のBEI遺伝子及び1以上のBEII遺伝子の発現を阻害するための遺伝情報も含有する、植物の形質転換のための単一のベクターを意味するとして理解され、その存在又は発現は1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0044】
さらなる実施形態では、外来核酸分子が「二重構築物」として知られるものであってもよく、それは、3つの標的遺伝子(SSIII、BEI、BEII)のうちの2つの発現を阻害するための遺伝情報も含有する、植物の形質転換のためのベクターを意味するとして理解され、その存在又は発現は3つの標的タンパク質(SSIII、BEI、BEIIタンパク質)のウチの2つの活性の低下を招く。第3の標的遺伝子を阻害する関連する遺伝情報を含有する別の、外来核酸分子の助けを借りて、本発明のこの実施形態で、第3の遺伝子の発現の阻害及び/又は第3のタンパク質の活性の低下は達成される。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、それは、植物細胞のゲノムに導入される三重の構築物ではないが、数種の異なった外来核酸分子が導入され、これら外来核酸分子の1つは、たとえば、1以上の内因性のSSIII遺伝子の発現の低下をもたらす共抑制構築物を構成するDNA分子であり、さらなる核酸分子は、たとえば、1以上の内因性のBEI及び/又はBEII遺伝子の発現の低下をもたらすアンチセンスRNAをコードするDNA分子である。しかしながら、外来核酸分子を考慮する場合、1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の遺伝子発現の同時低下を招く、又は1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性の同時低下を招くアンチセンス、共抑制、リボザイム及び二本鎖RNA構築物又は生体内突然変異誘発のいずれかの組み合わせの使用も原則として好適である。同時に(「同時形質転換)、又は次々に、すなわち、異なった時間に連続して(超形質転換)、外来核酸分子を植物細胞のゲノムに導入することができる。
【0046】
1つの種の別個の植物に外来核酸分子を導入することができる。これは、1つの標的タンパク質、又は2つの標的タンパク質(BEI、BEII、SSIII)の活性が低下する植物を生じる。次いで、それに続くハイブリッド形成によって3つの標的タンパク質すべての活性が低下する植物を生じる。
【0047】
外来核酸分子を導入するために、又は本発明に係る植物細胞又は植物を生成するために、野生型の植物細胞又は植物の代わりに、1以上の標的タンパク質(BEI、BEII、SSIII)の低下した活性をすでに示すことによって区別される変異体をさらに使用してもよい。変異体は、自然に生じる変異体の形態を取ってもよいし、変異原の特定の適用によって生成された変異体の形態を取ってもよい。そのような変異体を生成する可能性は上でさらに記載されている。
【0048】
挿入突然変異誘発として知られるものを用いて、本発明に係る植物細胞及びそのデンプンを生成する又は製造することができる(概説論文:Thormeycroft et al., Journal of Experimental Botany 52(361):1593-1601, 2001)。挿入突然変異誘発は、特にトランスポゾン、又は転移DNA(T−DNA)として知られているものの、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又BEIIタンパク質をコードする遺伝子への挿入を意味するとして理解されるべきであり、従って、当該細胞における前記タンパク質の活性を低下させる。
【0049】
トランスポゾンは、細胞に天然に存在するトランスポゾン(内因性トランスポゾン)の形態を取ってもよく、又は前記細胞では天然には存在せず、たとえば、細胞を形質転換することによるような組換え法によって細胞に導入されるトランスポゾン(異種トランスポゾン)の形態を取ってもよい。トランスポゾンによって遺伝子発現を改変することは熟練者に既知である。植物のバイオテクノロジーにおける内因性及び異種のトランスポゾンのツールとしての利用に関する概説はRamachandran及びSundaresan(Plant Physiology and Biotechnology 39:234-252, 2001)に見出すことができる。トランスポゾンの挿入突然変異誘発によって特定の遺伝子が不活化されている変異体を同定する可能性は、Maesら(Trends in Plant Science 4(3):90-96, 1999)による概説に見い出される。内因性のトランスポゾンの助けを借りたコメの変異体の生成は、Hirochika(Current Opinion in Plant Biology 4:118-122, 2001)によって記載されている。内因性のトランスポゾンの助けを借りたトウモロコシの遺伝子の同定は、たとえば、Hanleyら(The Plant Journal 22(4):557-566, 2000)に示されている。レトロトランスポゾンの助けを借りた変異体の生成の可能性及び変異体の同定方法は、Kumar及びHirochika(Trends in Plant Science 6(3):127-134, 2001)に記載されている。異なった種における異種トランスポゾンの活性は、たとえば、双子葉植物及び単子葉植物の双方について記載されており、たとえば、コメ(Greo et al., Plant Physiology 125:1175-1177, 2001; Liu et al., Molecular and General Genetics 262:413-420, 1999; Hiroyuki et al., The Plant Journal 19(5):Jeon and Gynheung Plant Science 161:211-219, 2001)、オオムギ(Koprek et al., The Plant Journal 24(2):253-263, 2000)、シロイヌナズナ(Aarts et al., Nature 363:715-717, 1993; Schmidt and Willmitzer, Molecular and General Genetics 220:17-24, 1989; Alrmann et al., Theoretical and Appplied Genetics 84:371-383, 1989; Tissier et al., The Plant Cell 11:1841-1852, 1999)、トマト(Belzile and Yoder, The Plant Journal 2(2):173-179, 1992)、及びジャガイモ(Frey et al., Molecular and General Genetics 217:172-177, 1989; Knapp et al., Molecular and General Genetics 213:285-290, 1988)について記載されている。
【0050】
原則として、本発明に係る植物細胞及び植物及びそれらによって生産されるデンプンは、相同及び異種双方のトランスポゾンの助けを借りて生成されるか、又は製造され、トランスポゾンの使用は、植物ゲノムに天然にすでに存在するトランスポゾンも含む。
【0051】
T−DNA挿入突然変異誘発は、アグロバクテリウムのTiプラスミドの特定の断片(T−DNA)が植物細胞のゲノムに統合されることができるという事実に基づく。植物染色体への組込み部位は固定していないが、いかなる部位で起きてもよい。T−DNAが遺伝子機能を構成する染色体の断片に組み込まれれば、これが遺伝子発現の改変を招いてもよく、従って当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性の変更を導いてもよい。特に、タンパク質のコーディング領域へのT−DNAの組込みは、細胞が当該タンパク質を、活性形態ではもはや合成できない、又はまったく合成できないことを意味することが多い。変異体を生成するためのT−DNA挿入の使用は、たとえば、シロイヌナズナ(Krysan et al., The Plant Cell 11:2283-2290, 1999; Atipiroz-Leehan and Feldmann, Trends in genetics 13(4):152-156, 1997; Parinov and Sundaresan, Current Opinion in Biotechnology 11:157-161, 2000)、及びコメ(Jeon and An, Plant Science 162:211-219, 2001; Joen et al., The Plant Journal 22)6):561-570, 2000)に記載されている。T−DNA挿入突然変異誘発の助けを借りて生成された変異体を同定する方法は、とりわけ、Youngら(Plant Physiology 125:513-518, 2001)、Parinovら(The Plant Cell 11:2263-2270, 1999)、Thorneycroftら(Journal Experimental Botany 52:1593-1601, 2001)、及びMckinneyら(The Plant Journal 8(4):613-622, 1995)に記載されている。
【0052】
原則として、T−DNA突然変異誘発は、本発明に係る植物細胞の生成及びそれらにより生産されるデンプンの生産に好適である。
【0053】
本発明のさらなる実施形態では、1以上の外来核酸分子の存在及び/又は発現がSSIIIタンパク質、BEIタンパク質及びBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の阻害を招く。
【0054】
熟練者が精通した種々の方法、たとえば、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の阻害を招くものによって、本発明に係る植物細胞を生成することができる。それらには、たとえば、相当するアンチセンスRNA又は二本鎖RNA構築物の発現、共抑制を付与する分子又はベクターの提供、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする転写物を特異的に切断する好適に構築されたリボザイムの発現、又は「生体内突然変異誘発」として知られるものが挙げられる。さらに、抑制されるべき特定の標的遺伝子、好ましくはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの同時発現によって、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下がもたらされてもよい。熟練者はこれらの方法に精通している。
さらに、in transでのプロモータ配列の二本鎖RNA分子のin plantaでの生成は、このプロモータの相同性コピーのメチル化及び転写不活化を招くことが知られている(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。
タンパク質の活性を低下させるそのほかの方法を以下に記載する。
これらの方法はすべて、植物細胞のゲノムに1以上の外来核酸分子を導入することに基づいている。
【0055】
アンチセンス又は共抑制技術によって遺伝子の発現を阻害するために、たとえば、存在してもよい任意の隣接配列を含むSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする配列のすべてを含むDNA、或いはコーディング領域のみを含み、アンチセンス効果又は共抑制効果をもたらすのに十分な長さでなければならないそのほかのDNA分子を細胞で使用することが可能である。好適な配列は一般に、15bp以上の最小長さ、好ましくは100〜500bpの長さを有し、効果的なアンチセンス阻害又は共抑制阻害のためには、配列は500bpを超える長さを有する。
【0056】
アンチセンス又は共抑制のアプローチに好適であるもう1つの可能性は、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードし、植物細胞に内因的に生じる内因性配列に高い相同性を持つDNA配列の使用である。最低の相同性はおよそ65%を超えるべきである。少なくとも90%、特に95〜100%の間の相同性レベルを持つ配列の使用が好ましい。
【0057】
イントロン、すなわち、SSIII,BEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする遺伝子の非コーディング領域の使用もアンチセンス効果又は共抑制効果を達成するのに便利である。
デンプンの生合成タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子発現を阻害するためのイントロン配列の使用は国際特許出願、WO97/04112、WO97/04113、WO98/37213、WO98/37214に記載されている。
熟練者は、アンチセンス効果又は共抑制効果を達成するための方法に精通している。共抑制阻害法はたとえば、Jorgensen(Trends Biotech., 8:340-344, 1990)、Niebelら(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 197:91-103, 1995)、Flavellら(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 197:43-46, 1995)、Palaqui及びVaucheret(Plant Mol. Biol., 29:149-159, 1995)、Vaucheretら(Mol. Gen. Genet., 248:311-317, 1995)、de Borneら(Mol. Gen. Genet., 243:613-621, 1994)に記載されている。
【0058】
細胞における特定の酵素の活性を低下させるためのリボザイムの発現も熟練者には既知であり、たとえば、EP−B1 0321201に記載されている。植物細胞におけるリボザイムの発現はたとえば、Feyterら(Mol. Gen. Genet., 250:329-338, 1996)に記載されている。
【0059】
さらに、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、細胞を形質転換することによって細胞にRNA−DNAオリゴヌクレオチド(「キメロプラスト」)が導入される、「生体内突然変異誘発」として知られるものによっても達成される(Kipp, P. B. et al., 1997年9月21〜27日シンガポールにて、第5回植物分子生物学国際会議、ポスターセッション;R.A. Dixon & C. J. Amtzen, 「トランスジェニック植物の代謝工学」キーストーンシンポジウム、Copper Mountain, Co., USA, TIBTECH, 441-447, 1997;国際特許出願WO95/15972;Kren et al., Hepatology 25:1462-1468, 1997; Cole-Strauss et al., Science 273:1386-1389, 1996; Beetham et al., PNAS 96:8774-8778, 1999)。
RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分の一部は内因性のSSIII、BEI及び/又はBEIIの遺伝子の核酸配列と相同性であるが、内因性のSSIII、BEI及び/又はBEIIの遺伝子と比べて、突然変異を含有するか、又は相同性領域に取り囲まれた異種領域を含有する。相同組換えが続く、RNA−DNAオリゴヌクレオチドと内因性核酸分子の相同領域の塩基対のために、RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分に含有される突然変異又は異種領域を、植物細胞のゲノムに移すことができる。このことが、1以上のSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
さらに、抑制されるべき特定の標的遺伝子、好ましくはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの同時発現によって、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下が誘発されてもよい。
たとえば、関連する標的遺伝子又は標的遺伝子の一部の「逆方向反復」を含有するキメラ構築物の使用によって、これを達成してもよい。キメラ構築物は、当該遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの分子をコードする。センスRNA及びアンチセンスRNAは、1つのRNA分子としてin plantaで同時に合成され、センスRNA及びアンチセンスRNAはスペーサーで互いに分離され二本鎖RNA分子を形成することが好ましい。
植物ゲノムへの逆方向反復DNA構築物の導入は、逆方向反復DNA構築物に相当する遺伝子を抑制するための高度に有効な方法であることが明らかにされている(Waterhouse et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13959-13964, 1998; Wang & Waterhouse, Plant Mol. Biol., 43:67-82, 2000; Singh et al., Biochemical Society Transactions 28(6):925-927, 2000; Liu et al., Biochemical Society Transactions 28(6):927-929, 2000; Smith et al., Nature 407:319-320, 2000;国際特許出願WO99/53050A1)。センス配列及びアンチセンス配列は、同一の又は別々のプロモータによって互いに離れて発現されてもよい(Nap J-P et al., 2000年6月18〜24日、ケベックにて、第6回植物分子生物学会議、ポスターS7−27セッション)。
【0060】
従って、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子の二本鎖RNAを生成することによって達成することもできる。この目的で、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子のDNA分子又はcDNAの逆方向反復を植物ゲノムに導入することが好ましく、転写されるべきDNA分子(SSIII、BEI又はBEII遺伝子又はcDNA又はこれらの遺伝子若しくはcDNAの断片)は、前記DNA分子の発現を支配するプロモータの制御下にある。
【0061】
さらに、植物細胞におけるプロモータDNA分子の二本鎖RNA分子のin transでの形成がこれらプロモータの相同性コピーのメチル化及び転写不活化を招くことが知られており、以下標的プロモータと呼ぶ(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。
従って、標的プロモータの不活化を介して、天然ではこの標的プロモータの制御下にある特定の標的遺伝子(たとえば、SSIII、BEI又はBEII遺伝子)の遺伝子発現を低下させることが可能である。
これは、抑制されるべき遺伝子(標的遺伝子)の標的プロモータを含むDNA分子がこの場合であることを意味し、−植物におけるプロモータの元来の機能とは対称的に、−遺伝子又はcDNAの発現のための制御要素としては使用されないで、それ自体転写可能なDNA分子として使用される。
RNAヘアピン分子の形態で存在してもよい二本鎖標的プロモータRNA分子をin plantaで生成するには、標的プロモータDNA分子の逆方向反復を含有する構築物を使用するのが好ましく、標的プロモータDNA分子は、前記標的プロモータDNA分子の遺伝子発現を支配するプロモータの制御下にある。次いで、これらの構築物を植物のゲノムに導入する。前記標的プロモータDNA分子の逆方向反復の発現は、in plantaで二本鎖標的プロモータRNA分子の形成を招く(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。従って、標的プロモータは不活化される。
従って、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子のプロモータ配列の二本鎖RNA分子を生成することによっても達成することができる。この目的で、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIのプロモータのプロモータDNA分子の逆方向反復を植物のゲノムに導入することが好ましく、転写されるべき標的プロモータDNA分子(SSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIのプロモータ)は、前記標的プロモータDNA分子の発現を支配するプロモータの制御下にある。
【0062】
熟練者はさらに、特定のトランス優性変異体において、そのようなタンパク質の非機能的誘導体を発現させることによって、又はそのようなタンパク質の拮抗剤/阻害剤を発現させることによって1以上のSSIII、BEI及び/又はBEIIのタンパク質の活性を達成することを知っている。
そのようなタンパク質の拮抗剤/阻害剤は、たとえば、抗体、抗体断片又は類似の結合特性を持つ分子を包含する。たとえば、遺伝的に改変されたタバコにおいてフィトクロムAタンパク質の活性を変調するのに細胞質scFv抗体が用いられる(Owen, Bio/Technology 10:790-4, 1992; Review: Franken E., Teuschel U and Hain R., Current Opinion in Biotechnology 8:411-416, 1997; Whitelam, Trends Plant Sci., 1:268-272, 1996)。
【0063】
標的遺伝子の活性を低下させる核酸の発現に有用なプロモータは、たとえば、構成的発現のためのカリフラワーモザイクウイルス35SRNA及びトウモロコシのユビキチンプロモータ、パタチン遺伝子のプロモータB33(Rocha-Sosa et al., EMBO J., 8:23-29, 1989)、ジャガイモの塊茎特異的発現のためのジャガイモのメタロカルボペプチダーゼ阻害剤遺伝子のMCPIプロモータ(ハンガリー特許出願HU9801674)、又ジャガイモのGBSSIプロモータ(国際特許出願WO92/11376)、或いは光合成で活性のある組織に固有に発現することを保証するプロモータ、たとえば、ST−LS1プロモータ(Stockhaus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7943-7947, 1987;Stockhaus et al., EMBO J., 8:2445-2451, 1989)、Ca/bプロモータ(たとえば、米国特許第5,656,496号、米国特許第5,639,952号、Bansal et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3654-3658, 1992を参照のこと)、及びRubiscoSSUプロモータ(たとえば、米国特許第5,034,322号、米国特許第4,962,028号を参照のこと)、或いは、内胚乳特異的な発現のための、グルテリンプロモータ(Leisy et al., Plant Mol. Biol., 14:41-50, 1990; Zheng et al., Plant J., 4:357-366, 1993; Yoshihara et al., FEBS Lett., 383:213-218,1996)、Shrunken−1プロモータ(Werr et al., EMBO J., 4:1373-1380, 1985)、コムギHMGプロモータ、USPプロモータ、ファセオリンプロモータ又はトウモロコシのゼイン遺伝子のプロモータ(Pedersen et al., Cell 29:1015-1026, 1982; Quatroccio et al., Plant Mol. Biol., 15:81-93, 1990)である。
【0064】
外来核酸分子の発現は、デンプンを貯蔵する植物器官で特に有利である。そのような器官の例は、ジャガイモの塊茎、或いはトウモロコシ、コムギ又はコメの核又は内胚乳である。このことが、これらの器官での発現を付与するプロモータを使用するのが好ましいわけである。
しかしながら、外部因子により決定されるちょうどいい時点でのみ活性化されるプロモータを使用することも可能である(たとえば、WO93/07279を参照のこと)。この背景で特に興味深くてもよいプロモータは、単純な誘導を行う熱ショックタンパク質のプロモータである。[欠陥]であることができるその他は、たとえば、ソラマメ及びそのほかの植物で速度特異的な発現を保証するソラマメUSPプロモータのような速度特異的プロモータである(Fiedler et al., Plant Mol. Biol., 22:669-679, 1993; Baumlein et al., Mol. Gen. Genet., 225:459-467, 1991)。たとえば、WO91/01373に記載されるもののような果実特異的プロモータもさらに採用してもよい。
存在してもよいもう1つの要素は、転写の正しい停止に役立ち、転写物を安定化させる機能を有すると考えられているポリAテイルを転写物に付加するのに役立つ停止配列である。そのような要素は、文献(たとえば、Gielen et al., EMBO J., 8:23-29, 1989)に記載されており、所望に応じて置換することができる。
【0065】
本発明に係るトランスジェニック植物細胞は、野生型植物で合成されるデンプンに比べて、特定の使用にさらに適するように、その物理化学的特性、特に、アミロース含量及びアミロース/アミロペクチン比、リン酸含量、粘度挙動、ゲル強度、顆粒サイズ及び/又は顆粒形態が改変されている改変されたデンプンを合成する。
【0066】
従って、本発明はまた、本発明に係る遺伝的に改変される植物細胞、特に改変されたデンプンを合成するトランスジェニック植物細胞に関する。
【0067】
驚くべきことに、本発明に係る植物細胞におけるデンプン組成は、相当する野生型植物の植物細胞のデンプンに比べて、このデンプンが特定の用途にさらに適するように、アミロース含量が少なくとも30%に達し、リン酸含量が増え、RVA分析における最終粘度が上昇するような方法で改変されることが見い出された。
特に、本発明に係るデンプンは、アミロース含量が増加しているにもかかわらず、標準の条件下で完全にゲル化するという利点を有する。このことは、アミロース含量の多いそのほかのデンプンと比べて、本デンプンの加工性を顕著に改善する。従って、本発明に係るデンプンをゲル化するために高い温度又は高い圧力を必要としない。このことが、デンプンを粉砕する際、たとえば、ジェットクッカー、押出機又はオートクレーブのような特定の装置を必要としない理由である。本発明に係るデンプンのもう1つの利点は、ホットローラーでの加工の対象とした際、それらを懸濁液の形態で後のほうで適用してもよいことである。アミロース含量の高い他のデンプンは、この種の加工の対象とした場合、限定的にしか、又は全くゲル化せず、ペースト又はフィルムの形態で当該ローラーに適用することはできない。
【0068】
本発明に係るデンプンは、添加される物質の濃厚化能、ゲル化特性又は結合特性が重要であるあらゆる適用に特に好適である。従って、本発明に係るデンプンは、たとえば、焼き製品、インスタント食品、牛乳入りゼリー、スープ、菓子類、チョコレート、アイスクリーム、魚又は肉用の衣用生地、凍結デザート又は押出スナックのような食品の製造に特に好適である。さらに、本発明に係るデンプンは、織物加工での適用のための糊の製造に、建材用、動物栄養の分野での適用のための接着剤として、化粧品及び製紙における接着剤として好適である。本発明にかかる植物細胞から単離されるデンプンは、プレゲル化デンプンの製造に特に好適である。プレゲル化デンプンは、主として湿性温熱処理により製造される物理的に改変されたデンプンである。固有のデンプンとは相反して、使用するプレゲル化デンプンの濃度に依存して、プレゲル化デンプンを製造するのに使用するデンプンの種類の機能として、それらは、冷たい水で分散/ペースト又はゲルを形成する。これらの特性によって、食品業界及びさらに多様な業界において、一連の可能性のある適用がプレゲル化デンプンに対して存在する。冷却膨潤デンプンとも言われる、プレゲル化デンプンの使用は、固有のデンプンの代わりに、製造工程を単純化、短縮することができるという利点を有することが多い。
たとえば、インスタントデザート及びインスタント牛乳入りゼリーの製造は、プレゲル化デンプンを必要とし、たとえば、熱湯を必要とする牛乳入りゼリーと同様に、水又は牛乳のような冷たい液体で撹拌し、短時間でゲルを形成する。これらの要求は、コムギデンプン、ジャガイモデンプン又はトウモロコシデンプンで作った市販のプレゲル化デンプンによっては満たされない。上述の特性を得るには、現在市販されているプレゲル化デンプンの場合、ゼラチン、アルギン酸塩、カラーギーナン、及び/又は無機塩のような、プレゲル化デンプンへの添加物が必要である。本発明に係る植物細胞から単離される本発明に係るデンプンを用いたプレゲル化デンプンの製造後、補助剤として知られているものを添加する必要はない。
【0069】
本発明は、改変された顆粒形態を持つ改変デンプンを伴った、本発明に係る植物細胞にも関する。
本発明の目的で、用語、顆粒形態は、固有のデンプン顆粒のサイズ及び表面構造を言うことを意図する。デンプンは、顆粒形態における結晶構造として、植物の、たとえば、塊茎、根、胚、又は内胚乳のような貯蔵器官に貯蔵される。デンプンが植物細胞から単離された後、これらの顆粒構造を保持しているデンプン顆粒を固有のデンプンと呼ぶ。本発明に係る固有のデンプンの平均顆粒サイズ(以下に記載する方法で測定する)は、野生型植物から単離される固有のデンプンよりも顕著に小さい。走査電子顕微鏡では(図4及び5を参照のこと)、驚くべきことに、本発明に係る固有のデンプン顆粒は多数の孔を持つ粗い表面を有することを明瞭に見ることができる。野生型植物から単離された固有のデンプン顆粒の表面構造は、対照的に、構造は主として平滑であり、孔は認識されない。
さらに小さい顆粒の存在及び孔を持つ粗い表面の双方は、野生型植物から単離したデンプン顆粒の表面積よりも、本発明に係るデンプン顆粒の表面積が、同じ容積では、かなり大きいという事実につながる。従って、本発明に係るデンプンは、たとえば、香味剤、薬学上活性のある物質、プレバイオティクス、プロバイオティクス微生物、酵素又は着色剤のためのキャリアとしての使用に特に好適である。これらのデンプンは、凝固物質に、及び製紙においても特に好適である。
【0070】
本発明に係るデンプンのさらに可能性のある適用は、原料の掘削分野である。従って、原油の掘削の際は、ドリル又はドリルカラムの過熱を回避する補助剤及び/又は潤滑剤を用いなければならない。その特定のゲル化特性のために、従って、本発明に係るデンプンは、特にこの分野での使用に好適である。
【0071】
本発明はまた、遺伝的に改変していない野生型の植物の相当する植物細胞に比べて、少なくとも30%のアミロース含量を持ち、高いリン酸含量を有し、RVA分析で高い最終粘度を有する改変デンプンを含有する、本発明に係る植物細胞にも関する。
【0072】
本発明と関連して、アミロース含量は、ジャガイモのデンプンについて以下でさらに記載されるHovenkamp-Hemelinkら(Potato Research 31:241-246, 1988)の方法によって測定される。本方法は、他の植物種から単離されたデンプンにも適用することができてもよい。デンプンを単離する方法は熟練者には既知である。
【0073】
本発明の目的で、デンプンの「リン酸含量」は、デンプンのリン酸モノエステルの形態で共有結合したリン酸の含量を言う。
本発明に関連して、用語「高いリン酸含量」は、共有結合したリン酸及び/又は本発明に係る植物細胞の中で合成されたデンプンのC6位におけるリン酸含量の合計のリン酸含量が、相当する野生型植物の植物細胞のデンプンに比べて、好ましくは少なくとも270%、さらに好ましくは少なくとも300%、特に好ましくは少なくとも350%増加していることを意味する。
【0074】
本発明の目的では、用語「C6位におけるリン酸含量」は、デンプンのグルコースモノマーの「6」位の炭素原子にて結合しているリン酸基の含量を意味するとして理解される。生体内では、原則として、グルコース単位のC2、C3及びC6位をリン酸化することができる。本発明と関連して、C6位のリン酸含量(=C6−P含量)の決定は、視覚化酵素試験(Nielson et al., Plant Physiol., 105:111-117, 1994)によってグルコース−6−リン酸の測定を介して行われる(以下を参照のこと)。
【0075】
本発明に関連して、用語、デンプンの「合計リン酸含量」は、デンプンのグルコースモノマーの形態におけるグルコース単位のC2、C3及びC6位に共有結合したリン酸の含量を言う。リン酸化された非グルコース、たとえば、リン脂質の含量は、本発明に従った用語「合計のリン酸含量」には入らない。従って、リン酸化された非グルコースは、合計のリン酸含量を決定する前に量的に除かれなければならない。リン酸化された非グルコース(たとえば、リン脂質)とデンプンを分離する方法は熟練者に既知である。合計のリン酸含量を決定する方法は熟練者に既知であり、以下に記載される。
【0076】
本発明のさらなる態様では、本発明に係る植物細胞は、デンプンのグルコースモノマーのC6位におけるデンプンのmg当たり、40〜120nmol、特に60〜110nmol、好ましくは80〜100C6−Pのリン酸含量を有するデンプンを合成する。
【0077】
RVA分析を行うためのプロトコールをさらに以下に記載する。ジャガイモデンプンのRVA分析は8%のデンプン懸濁液(w/w)で操作されることが多いことを言及しなければならない。装置「RVAスーパー3」(Instructions, Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warried NSW 2102, オーストラリア)と共に含まれる資料は、ジャガイモのデンプンの分析のために約10%のジャガイモを含有する懸濁液を推奨している。
驚くべきことに、本発明に関連したジャガイモのデンプンの場合、最終粘度が装置の範囲を超える値を達成したので、分析に8%デンプンの懸濁液(水25mLにデンプン2g)を使用できなかったことが判明している。これが、RVA分析に、8%のデンプン懸濁液の代わりに6%のデンプン懸濁液(水25mLにデンプン1.5g)を用いた理由である。本発明に関連して、「RVA分析における高い最終粘度」は、従って、遺伝的に改変されていない野生型の植物と比較して、少なくとも150%、特に少なくとも200%、特に少なくとも250%の上昇を意味するとして理解される。この背景で、最終粘度の上昇は6%のデンプン濃度に関係する。
本発明に関連して、ジャガイモデンプンはさらに、6%のデンプン含量でのRVA分析において少なくとも300RVU、特に少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUを持つものを意味するとして理解される。RVU値の決定は、以下で詳細に議論されるであろう。
さらなる好ましい実施形態では、本発明は、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物細胞のデンプンで作ったゲルに比べて、水でゲル化した後、高いゲル強度を持つゲルを形成する改変デンプンを合成する、本発明に係る植物細胞に関する。
【0078】
本発明の目的で、用語「高いゲル強度」は、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物細胞のデンプンで作ったゲル強度に比べて、少なくとも300%、特に少なくとも500%、さらに好ましくは少なくとも700%及び特に好ましくは少なくとも800%から最大2000%以下又は1500%以下の上昇を意味するとして理解される。
本発明に関連して、ゲル強度は、以下に記載する条件下にてテクスチャーアナライザの助けを借りて決定すべきである。
デンプンゲルを調製するには、一定に撹拌しながら、水性懸濁液において加熱することにより、固有のデンプンの結晶構造を先ず破壊しなければならない。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)の助けを借りてこれを行った。すでにさらに上述したように、8%の懸濁液の最終濃度が装置の操作範囲を超えたので、ジャガイモデンプンの場合、8%のデンプン懸濁液を6%のデンプン懸濁液で置き換えた。ゲル強度を決定するために、ラピッドビスコアナライザでゲル化したデンプン懸濁液を特定の期間保存し、次いで、テクスチャーアナライザを用いて分析の対象とした。結果的に、ゲル強度を決定するために、8%のゲル化デンプン懸濁液を6%のゲル化デンプン懸濁液に置き換えた。
【0079】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に係る植物細胞で合成された改変デンプンは、相当する野生型植物のデンプンと比べて高いアミロース含量及び高いリン酸含量及びRVA分析における高い最終粘度だけでなく、改変された側鎖分布によっても区別される。
【0080】
さらなる実施形態では、本発明は、従って、改変デンプンを合成する、本発明に係る植物細胞に関するものであり、改変デンプンは、改変された側鎖分布を特徴とする。本発明の実施形態の1つでは、用語「改変された側鎖分布」は、野生型植物のアミロペクチンの6〜11のDP(=重合度)を持つ短い側鎖の量と比べて、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、特に少なくとも30%及び特に好ましくは50%の、6〜11の重合度を持つ短い側鎖の量の低下、及び/又は野生型植物のアミロペクチンの16〜22のDPを持つ短い側鎖の量に比べて、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に少なくとも15%及び特に好ましくは30%の、6〜22のDPを持つ短い側鎖の含量の増加を意味するとして理解される。
【0081】
短い側鎖の量は、全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定することを介して決定される。全側鎖の合計は、HPLCクロマトグラムにおいて6〜26のDPの重合度を表すピーク下の全面積を決定することを介して決定される。全側鎖の合計における特定の側鎖の比率は、全面積に対する、HPLCクロマトグラムにおいて特定の側鎖を表すピーク下の面積の比率を決定することを介して決定される。ピークを決定するのに使用されてもよいプログラムは、たとえば、米国DionexのChromelion 6.20である。
【0082】
本発明におけるさらなる実施形態では、本発明に係る植物細胞で合成された改変デンプンは、相当する野生型植物のデンプンと比べて高いアミロース含量及び高いリン酸含量及びRVA分析における高い最終粘度だけでなく、「DP12〜18の改変された側鎖特性」及び/又は「DP19〜24の改変された側鎖特性」及び/又は「DP25〜30の改変された側鎖特性」及び/又は「DP37〜42の改変された側鎖特性」及び/又は「DP62〜123の改変された側鎖特性」によって区別される。
【0083】
本発明に関連して、用語「DP12〜18の側鎖特性」は、野生型植物のDP12〜18を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも25%、好ましくは少なくとも35%、特に好ましくは少なくとも45%、極めて特に好ましくは55%の、DP12〜18のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0084】
本発明に関連して、用語「DP19〜24の側鎖特性」は、野生型植物のDP19〜24を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも30%の、DP19〜24のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0085】
本発明に関連して、用語「DP25〜30の側鎖特性」は、野生型植物のDP25〜30を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも5%の、DP25〜30のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0086】
本発明に関連して、用語「DP37〜42の側鎖特性」は、野生型植物のDP37〜42を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは少なくとも15%の、DP37〜42のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0087】
本発明に関連して、用語「DP62〜123の側鎖特性」は、野生型植物のDP62〜123を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも20%、好ましくは少なくとも35%、特に好ましくは少なくとも50%の、DP62〜123のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0088】
側鎖特性は、GPCクロマトグラムでの全側鎖の合計における側鎖の特定の基の比率を決定することを介して決定される。この目的で、GPCクロマトグラムの線の下の合計面積は、個々の断片に分割され、そのそれぞれは、異なった長さの側鎖の基を表す。選択された断片は、以下の重合度(DP=1つの側鎖内でのグルコースモノマーの数):DP11、DP12〜18、DP19〜24、DP25〜30、DP31〜36、DP37〜42、DP43〜48、DP49〜55、DP56〜61及びDP62〜123を持つ側鎖を含有する。溶出体積を分子の質量に相関させるために、使用するGPCカラムをデキストラン標準(フルカ、製品番号31430)で較正する。使用したデキストラン、それに関連する分子の質量及び溶出体積を図9に示す。得られた較正グラフを用いて、分子量の分布として溶出の説明図を示す。個々の側鎖の分子量を決定するために、グルコースに対して162の分子量を設定した。GPCクロマトグラムの線の下の全面積を100%として設定し、全面積の比率に基づいて、個々の断片の面積を算出する。
【0089】
さらに特別に好ましい実施形態では、本発明に係る植物細胞又は本発明に係る植物の本発明に係るデンプンのアミロペクチンは、野生型の123より多いDPを持つ側鎖の量に比べて、123より多いDPを持つアミロペクチン側鎖の高い量を示す。
【0090】
本発明に係る植物細胞を、未処理の植物の再生に用いてもよい。
【0091】
本発明に係るトランスジェニック植物細胞の再生により得ることができる植物も同様に本発明の対象である。
【0092】
本発明に係る植物細胞は、いかなる植物種、すなわち、単子葉植物及び双子葉植物の双方に属してもよい。それらは特に、農業上有用な植物、すなわち、栄養の目的で、又は技術的、特に産業上の目的でヒトによって栽培される植物の植物細胞である。本発明は好ましくは、繊維形成植物(たとえば、麻、麻布、綿)、油分貯蔵植物(たとえば、セイヨウアブラナ、ヒマワリ、大豆)、糖貯蔵植物(たとえば、サトウダイコン、サトウトウモロコシ、サトウキビ)、及びタンパク質貯蔵植物(たとえば、豆類)に関する。
さらに好ましい実施形態では、本発明は、飼料植物、特に、飼料草類及び飼い葉草類(アルファルファ、クローバなど)並びに野菜植物(たとえば、トマト、レタス、キクニガナ)に関する。
さらに好ましい実施形態では、本発明はデンプン貯蔵植物(たとえば、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、ジャガイモ、トウモロコシ、コメ、エンドウマメ、カサバ)の植物細胞に関するものであり、ジャガイモの植物細胞が特に好ましい。
【0093】
DNAを植物宿主細胞に導入するには多数の技法が利用可能である。これらの技法には、形質転換作用剤として、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)又はアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、DNAの注入、エレクトロポレーション、遺伝子銃法によるDNAの導入、及びそのほかの可能性が包含される。
アグロバクテリアが介在する、植物細胞の形質転換の使用は、鋭意検討されており、EP120516;Hoekema in The binary Plant Vector System Offsetdrukkerij Kanters B. V., Alblasserdam, Chapter V, 1985; Fraley et al., Crit. Rev. Plant Sci., 4:1-45及びAn et al., EMBO J., 4:277-287, 1985に十分に記載されている。ジャガイモの形質転換に関しては、たとえば、Rocha-Sosa et al., EMBO J., 8:29-33, 1989を参照のこと。
【0094】
アグロバクテリウムによる形質転換に基づいたベクターによる単子葉植物の形質転換も記載されている(Chan et al., Plant Mol. Biol., 22:491-506, 1993; Hiei et al., Plant J., 6:271-282, 1994; Deng er al., Science in China 33:28-34, 1990; Wilmink et al., Plant Cell Reports 11:76-80, 1992; May et al., Bio/Technology 13486-492, 1995; Conner & Domisse, Int. J. Plant Sci., 153:550-555, 1992; Ritchie et al., 2:252-265, 1993)。単子葉植物の形質転換のためのほかのシステムは、遺伝子銃による形質転換(Wan and Lemaux, Plant Physiol., 104:37-48, 1994; Vasil et al., Bio/Technology 11:1553-1558, 1993; Ritala et al., Plant Mol. Biol., 24:317-325, 1994; Spencer et al., Theor. Appl. Genet., 79:625-631, 1990)、プロトプラストの形質転換、部分的に透過性にした細胞のエレクトロポレーション、ガラス繊維によるDNAの導入である。特に、トウモロコシの形質転換は文献で繰り返し記載されている(たとえば、WO95/06128、EP0513849、EP0465875、EP0292435;Fromm et al., Biotechnology 8:833-844, 1990; Gordon-Kamm et al., Plant Cell 2:603-618, 1990; Koziel et al., Biotechnology 11:194-200, 1993; Moroc et al., Theor. Appl. Genet., 80:721-726, 1990)。
そのほかの穀物種の上手く行った形質転換は、たとえばオオムギ(Wan and Lemaux、上記参照;Ritala et al.,上記参照;Krens et al., Nature 296:72-74, 1982)及びコムギ(Nehra et al., Plant J., 6:285-297, 1994)についても記載されている。前述の方法はすべて本発明の目的に好適である。
植物細胞で活性のあるいかなるプロモータも外来核酸分子の発現に一般に好適である。本発明に係る植物における発現が植物の発達のちょうどいい時点で、又は外部因子により決定されたちょうどいい時点で、構成的に、又は特定の組織のみで起きるような方法で、プロモータを選択してもよい。植物に関して、プロモータは相同性でもよいし、異種性でもよい。
【0095】
本発明のさらなる実施形態では、1以上のSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質の活性を低下させるために、少なくとも1つのアンチセンスRNAを植物で発現させる。
【0096】
従って、本発明は、前記外来核酸分子が以下から成る群から選択される、本発明に係る植物細胞にも関する:
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子における突然変異又は異種配列の挿入、或いはSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現或いはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成の低下をもたらす突然変異又は挿入を招く生体内突然変異誘発により導入される核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードし、前記アンチセンスRNAと前記センスRNAが二本鎖RNA分子を形成して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらすDNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす、或いは不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子における突然変異又は挿入を招く、DNA分子;及び
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入のために、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす、或いは不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じるT−DNA分子。
【0097】
さらなる態様では、本発明は、本発明に係る植物のいかなる種類の増殖材料にも関する。
【0098】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る植物細胞及び植物の生成のための本明細書に記載された核酸分子の使用に関する。
【0099】
本発明のさらなる態様は、上記核酸分子の少なくとも1つを含む組成物に関するものであり、その際、少なくとも1種の核酸分子が、植物細胞に導入された後、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのSSIIIタンパク質の低下及び植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIIタンパク質の低下及び好ましくはさらに植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIタンパク質の低下を招く。組成物は1以上の核酸構築物(上記参照)を含んでもよい。
【0100】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る植物細胞及び植物を生成するための本発明に係る組成物の使用、並びに本発明に係る組成物を含有する宿主細胞、好ましくは植物細胞に関する。
【0101】
その上、本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の核酸分子及び少なくとも1種の植物細胞を含み、少なくとも1種の核酸分子が、前記植物細胞に既存の遺伝的改変によってSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性がすでに低下させられていなければ、植物細胞に内因的に生じるこれらタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、植物細胞における形質転換システムに関する。本発明の目的で、従って、「形質転換システム」は、形質転換されるべき少なくとも1種の植物細胞と形質転換のために使用される上述の少なくとも1種の核酸分子との組み合わせに関する。植物の形質転換の分野における熟練者が精通している、形質転換過程に必要とされる、緩衝液などを含むさらなる成分が本発明に係る形質転換システムに存在してもよい。
【0102】
配列の説明
配列番号1:
相当するSSIIIタンパク質をコードする配列の表示を伴った、ジャガイモ(Solanum tuberosum)デンプン合成酵素の核酸配列。
配列番号2:
ジャガイモSSIIIタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号3:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)SSIIIタンパク質のPfam cbm結合ドメインのアミノ酸配列。
配列番号4:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIのコーディング核酸配列。
配列番号5:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIのアミノ酸配列。
配列番号6:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのコーディング核酸配列。
配列番号7:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのアミノ酸配列。
配列番号8:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのPCRで増幅した核酸配列。
【0103】
実施例
一般的な方法
実施例において以下の方法を使用した。
【0104】
デンプンの分析
a)アミロース含量及びアミロース/アミロペクチンの比の決定
常法によりジャガイモ植物からデンプンを単離し、Hovenkamp-Hemelinkら(Potato Research 31:241-246, 1988)により記載された方法により、アミロース含量及びアミロース/アミロペクチンの比を決定した。
【0105】
b)リン酸含量の決定
デンプンでは、C2、C3及びC6位のグルコース単位をリン酸化することができる。デンプンのC6−P含量を決定するために、デンプン50mgを0.7MのHCl500μL中で95℃にて4時間加水分解した。次いで試料を15500gにて10分間遠心し、上清を除いた。7μLの上清をイミダゾール緩衝液(100mMのイミダゾール、pH7.4、5mMのMgCl2、1mMのEDTA及び0.4mMのNAD)193μLと混合した。340nmにて光度計で測定を行った。ベースの吸収を確定した後、2単位のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(乳酸菌Leuconostoc mesenteroides由来、Boehringer Mannheim製)の添加により酵素反応を開始させた。吸収の変化は、デンプンのG−6−P含量の濃度に直接比例する。
【0106】
Ames(Methods in Enzymology VIII:115-118, 1966)の方法によりリン酸の全含量を決定した。
デンプン約50mgを硝酸マグネシウムのエタノール溶液30μLで処理し、マッフルオーブンにて500℃で3時間、灰化した。0.5Mの塩酸300μLで残渣を処理し、60℃にて30分間インキュベートした。続いて、試料1つを0.5Mの塩酸300μLにし、これを2Mの硫酸中、10%のアスコルビン酸100μLと0.42%のモリブデン酸アンモニウム600μLに加え、45℃にて20分間インキュベートした。
これに続いて、リン酸のシリーズ較正を標準として820nmでの光度計の測定を行った。
c)ゲル強度の決定(テクスチャーアナライザ)
水性懸濁液25mLにて、RVA装置でデンプン(DM)1.5gをゲル化し(温度プログラム:項目d「ラピッドビスコアナライザ(RVA)による粘度特性の決定」を参照のこと)、続いて、密閉容器にて室温にて24時間保存した。Stable Micro System(英国、サリー)製のテクスチャーアナライザTA−XT2のプローブ(平面の表面を持つ丸いピストン)のもとに固定し、以下のパラメータを用いてゲル強度を決定した。
−試験速度 0.5mm/秒
−侵入深度 7mm
−接触面積 113mm2
−圧力 2g
【0107】
d)ラピッドビスコアナライザ(RVA)による粘度特性の決定
常法
デンプン(DM)2gをH2O(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLに溶解し、ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)における分析に用いた。製造元の指示書に従って装置を操作した。参照により本明細書に組み入れられる製造元の操作マニュアルに従って、粘度値をRVUで表した。デンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず、50℃にて1分間加熱し(工程1)、次いで1分当たり12℃の割合で50℃から95℃に加熱した(工程2)。次いで、温度を95℃にて2.5分間保持した(工程3)。次いで、1分当たり12℃の割合で95℃から50℃に溶液を冷却した(工程4)。全期間を通して粘度を測定した。
【0108】
特に、水(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLにおいてデンプン(DM)2gの重さがあったとき、RVAの測定範囲の限界が不十分である場合、水(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLにデンプン(DM)1.5gを溶解する。
【0109】
従来技術と比較するために、場合によっては、改変温度特性をさらに使用した。
以下の温度特性を用いた。
【0110】
RVA分析方法1
6%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず1分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり12℃の割合で50℃から95℃に加熱した(工程2)。温度を95℃にて2.5分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり12℃の割合で95℃から50℃に溶液を冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を2分間保持した。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0111】
RVA分析方法2
6%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず2分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり1.5℃の割合で50℃から95℃に温度を上昇させた(工程2)。温度を95℃にて15分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり1.5℃で95℃から50℃に冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を15分間保持した。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0112】
RVA分析方法3
10%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず2分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり1.5℃の割合で50℃から95℃に温度を上昇させた(工程2)。温度を95℃にて15分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり1.5℃で95℃から50℃に冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を15分間保持した。RVA分析のこの特性は、WO96/34968に採用されたものに相当する。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0113】
RVA分析の特性は、異なった測定法及び物質の比較のために示されるパラメータを含有する。本発明の背景において、以下の用語は、以下のように理解されるべきである。
1.最大粘度(RVAmax)
最大粘度は工程2又は3の温度特性で得られた、RVAにおいて測定された最高の粘度値を意味するとして理解される。
2.最小粘度(RVAmin)
最小粘度は、最大粘度の後の温度特性で得られた、RVAにおいて測定された最小の粘度値を意味するとして理解される。通常、これは工程3の温度特性で生じる。
3.最終粘度(RVAfin)
最終粘度は、測定の最後に得られる、RVAにおいて測定される粘度値を意味するとして理解される。
4.セットバック(RVAset)
セットバックとして知られるものは、曲線において最大粘度の後に生じる最小粘度から最終粘度の値を差し引くことによって算出する。
5.ゲル化温度(RVA T)
ゲル化温度は、粘度が初めてほんの一瞬、劇的に上昇する温度特性の時点を意味するとして理解される。
【0114】
e)イオン交換クロマトグラフィによるアミロペクチンの側鎖分布の解析
アミロースとアミロペクチンを分離するために、90%(v/v)DMSO水溶液12mLを用いて、50mLの反応容器にてデンプン200mgを溶解した。3容量のエタノールを添加した後、室温(RT)にて約1800gで10分間遠心することによって沈殿物を分離した。次いでペレットをエタノール30mLで洗浄し、乾燥し、75℃にて1%(w/w)のNaCl溶液40mLに溶解した。溶液を30℃まで冷却した後、チモール約90mgをゆっくり加え、この溶液を30℃にて少なくとも60時間インキュベートした。次いで、溶液を2000g(RT)にて30分間遠心した。次いで上清を3容量のエタノールで処理し、沈殿したアミロペクチンを2000g(RT)5分間の遠心で分離した。次いでペレット(アミロペクチン)をエタノールで洗浄し、アセトンを用いて乾燥した。ペレットへのDMSOの添加により、1%の溶液が得られ、その200μLを水345μL、0.5Mの酢酸ナトリウム(pH3.5)10μL及びイソアミラーゼ(1:10希釈、Megazyme)5μLで処理し、37℃にて約16時間インキュベートした。続いて、この消化物の1:5水希釈物を0.2μmのフィルターでろ過し、ろ液100μLをイオンクロマトグラフィ(HPAEC−PAD、Dionex)で分析した。PA−100カラム(好適なプレカラムと共に)を用いて分離を行い、電流滴定法で検出を行った。溶出条件は以下のとおりである。
溶液A−0.15MのNaOH
溶液B−0.15MのNaOH中1Mの酢酸ナトリウム
【0115】
【表1】
【0116】
全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定することを介して、全側鎖の合計における短い側鎖の相対量の決定を行った。HPLCのクロマトグラムにおけるDP6〜26の重合度を表すピーク下の全面積の決定を介して全側鎖の合計を決定した。
HPLCクロマトグラムにおける特定の側鎖を表すピーク下の面積の全面積に対する比を決定することにより、全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定した。ピーク面積の決定には、米国、ディオネックス社製のプログラム、クロメリオン6.20バージョン6.20を用いた。
【0117】
f)顆粒サイズの決定
ジャガイモの塊茎からデンプンを抽出した(実施例を参照のこと)
次いで、ドイツ、レッチェ社製の「ルモースドFS1」型の沈殿物光度計を用い、ソフトウエアV.2.3を用いて、顆粒サイズの決定を行った。ソフトウエアの設定は以下のとおりである。
物質のデータ 較正No.0
密度[kg/m3]1500
沈殿液 水の種類
粘度[Pas] 0.001
密度[kg/m3] 1000
添加 −
記録 5分
カットオフ[μm] 250
通過[%] 100
測定範囲 4.34〜117.39μm
較正 N
温度 20℃
【0118】
顆粒サイズの分布は、水溶液で測定し、製造元の指示書に従い、たとえば、H. Pitschによる文献、Korngrobenbestimmung [顆粒サイズの決定]; LABO-1988/3 Fachzeitschrift fur Labortechnik, Darmstadtに基づいて行った。
【0119】
g)走査電子顕微鏡写真(SEM)
デンプン試料の表面を検討するために、導電性接着剤を用いて後者を試料ホルダーの上にまぶした。荷電を回避するために、試料ホルダーを最終的には4nmのPtの被覆でスパッタリングした。加速電圧5kVにて電界放出走査電子顕微鏡JSM6330F(Joel)を用いてデンプン試料を検討した。
【0120】
h)SSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性測定
これらは実施例で特定したように行った。
【0121】
実施例
発現ベクターME5/6の生成
pGSV71は、中間ベクターpGSV1に由来するプラスミドpGSV7の誘導体である。pGSV1は、pGSC1700の誘導体であり、その構築は、Cormelissen及びVanderwiele(Nucleic Acid Research 17:19-25, 1989)により記載されている。pGSV1は、プラスミドpTiB6S3のTL−DNA領域において、カルベニシリン耐性遺伝子を欠失させ、T−DNA配列を欠失させることによって得られた。
pGSV7は、プラスミドpBR322(Bolivar et al., Gene 2:95-113, 1977)の複製開始点及びシュードモナスのプラスミドpVS1(Itoh et al., Plasmid 11:206, 1984)の複製開始点を含有する。pGSV7はさらに、抗生物質スペクチノマイシン及びストレプトマイシンに耐性を付与するクレブシエラ・ニューモニアのトランスポゾンTn1331由来の選択性マーカー遺伝子aadAを含有する(Tolmasky, Plasmid 24(3):218-226, 1990; Tolmasky & Crosa Plasmid 29(1):31-40, 1993)。プラスミドpGSV71は、pGSV7の境界領域間でのキメラbar遺伝子をクローニングすることにより得られた。キメラbar遺伝子は、転写開始のためのカリフラワーモザイクウイルスのプロモータ(Odell et al., Nature 313:180, 1985)、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカスのbar遺伝子(Thompson et al., EMBO J., 6:2519-2523, 1987)、及び転写停止及びポリアデニル化のための、pTiT37T−DNAノパリン合成酵素遺伝子の3’非翻訳領域を含有する。bar遺伝子は、除草剤、グルホシネートアンモニウムへの耐性を付与する。
T−DNAは、198〜222位にてプラスミドpTiB6S3(Gielen et al., EMBO J., 3:835-846, 1984)に由来するTL−DNAの右境界配列を含有する。ポリリンカー配列はヌクレオチド223〜249の間に位置する。ヌクレオチド250〜1634は、カリフラワーモザイクウイルスp35S3プロモータ領域(Odell et al., 上記参照)を含有する。ストレプトマイセス・ハイグロスコピカスのホスフィノトリシン耐性遺伝子(bar)のコーディング配列(Thompson et al., 上記参照)は、ヌクレオチド1635〜2186の間に配置されている。bar野生型遺伝子の5’末端での2つの末端コドンは、コドンATG及びGACによって置き換えられた。ポリリンカー配列はヌクレオチド2187〜2205の間に位置する。プラスミドpTiT37(Depicker et al., J. Mol. Appl. Genet., 1:561-573, 1982)のT−DNAに由来するノパリン合成酵素遺伝子(3’nos)の非翻訳3’末端の260bpのTaql断片は、ヌクレオチド2206〜2465の間に位置する。ヌクレオチド2466〜2519はポリリンカー配列を含有する。pTiB6S3TL−DNAの左境界配列(Gielen et al., EMBO J., 3:835-846, 1984)は、ヌクレオチド2520〜2544の間に位置する。
次いで、酵素、PstIを用いてベクターpGSV71を切断し、平滑末端を作製した。ベクターpB33−KanからEcoRI−HindIII断片の形態でB33プロモータ及びocsカセットを切り出し、平滑末端を作製し、PstIで切断し、平滑末端を作製しておいたベクターpGSV71に挿入した。得られたベクターをME5/6を構築するための出発ベクターとして使用した。B33プロモータとocs要素の間に位置するベクターME4/6のPstI切断部位に、切断部位EcoRI、PacI、SpeI、SrfI、SpeI、NotI、PacI及びEcoRIを含有するヌクレオチドを挿入し、PstI切断部位を複製した。得られた発現ベクターをME5/6と呼んだ。
【0122】
ベクターpSK−Pacの説明
pSK−Pacは、PacI切断部位がマルチクローニング部位(MCS)にそれぞれ隣接して導入されているpSK−ブルースクリプト(米国、Stratagene)の誘導体である。
【0123】
BEI、SSIII及びBEIIの遺伝子の遺伝子発現が低下しているトランスジェニックジャガイモ植物の生成
BEI、SSIII及びBEIIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物を生成するために、第1工程でBEI及びSSIIIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物を生成した。この目的で、プラスミドpB33−αBEI−αSSIII−KanのT−DNAをRocha-Sosaら(EMBO J., 8:23-29, 1989)により記載されたアグロバクテリアの助けを借りてジャガイモ植物に転移させた。
プラスミドpB33−αBEI−αSSIII−Kan(図7を参照のこと)を構築するために、発現ベクター、pBin33−Kanを第1工程で構築した。この目的で、ソラナム・ツベロサムのパタチン遺伝子B33(Rocha-Sosa et al., 上記参照)のプロモータをDraI断片の形態(ヌクレオチド−1512〜+14)でSstI切断のベクターpUC19(Genbank受入番号M77789)に連結し、その末端をT4DNAポリメラーゼの助けを借りて平滑末端にした。これによってプラスミドpUC19−B33を生じた。EcoRI及びSmaIを用いて、B33プロモータをこのプラスミドから切り出し、安定に切断したベクターpBinARに連結した。これによって、植物の発現ベクター、pBin33−Kanを生じた。プラスミド、pBinARは、ベクタープラスミドpBin19(Bevan, Nucl. Acid Res., 12:8711-8721)の誘導体であり、Hofgen 及びWillmitzer(Plant Sci., 66:221-230, 1990)により構築された。次いで、ジャガイモBEI酵素(Kossmann et al., Mol. & Gen. Genetics 230(1-2):39-44, 1991)をコードする部分的cDNAを含有する1631bpのHindIII断片を平滑末端にし、あらかじめSmaIで切断したベクターpBin33に、B33プロモータ(ソラナム・ツベロサムのパタチン遺伝子B33のプロモータ;Rocha-Sosa et al., 1989)に関してアンチセンスの方向で導入した。得られたプラスミドをBamHIを用いて切り開いた。ジャガイモのSSIII酵素(Abel et al., 1996、前に引用)をコードする部分的cDNAを含有する1363のBamHI断片を、再びB33プロモータに関してアンチセンスの方向で切断部位に導入した。
【0124】
形質転換の後、その塊茎でBEI及びSSIIIタンパク質の顕著に低下した活性が認められるトランスジェニックジャガイモの種々の株が同定された。この形質転換で得られた植物を038VLと称した。
非変性ゲル電気泳動によって可溶性デンプン合成酵素(SSIII)の活性を検出するために、50mMのトリスHCl、pH7.6、2mMのDTT、2.5mMのEDTA、10%のグリセロール及び0.4mMのPMSFでジャガイモ塊茎の組織試料を消化した。ミニプロテアンIIチャンバー(BioRad)で電気泳動を行った。厚さ1.5mmを有するゲルのモノマー濃度は7.5%(w/v)に等しく、25mMのトリス−グリシンpH8.4がゲル及び泳動緩衝液として作用した。同一量のタンパク質抽出物を適用し、各ゲルについて10mAにて2時間分離した。
続いて、活性ゲルを50mMトリシン−NaOH,pH8.5、25mMの酢酸カリウム、2mMのEDTA、2mMのDTT、1mMのADP−グルコース、0.1%(w/v)のアミロペクチン及び0.5Mのクエン酸ナトリウムでインキュベートした。形成されたグルカンをルゴール溶液で染色した。
同様に、非変性ゲル電気泳動の助けを借りてBEIの活性を検出した。
植物からタンパク質を分離するために、乳棒と乳鉢を用いて、液体窒素中で試料材料を細かく砕き、抽出緩衝液(50mMのクエン酸ナトリウム、pH6.5、1mMのEDTA、4mMのDTT)に溶解し、遠心して(4℃、14000g、10分)、次いでBradfordの方法に従ったタンパク質濃度測定にそのまま用いた。次いで、5〜20μgの全タンパク質抽出物(必要に応じて)を4x添加緩衝液(20%グリセロール、125mMのトリスHCl、pH6.8)で処理し、BE活性ゲルに適用した。泳動緩衝液(RB)は、以下:RB=トリスベースpH8.0、30.2g、1IH2O当たり144gのグリシンから成った。
ゲルでの泳動終了後、「ホスホリラーゼ緩衝液」(1Mのクエン酸ナトリウム25mL、グルコース−1−リン酸0.47g、AMP12.5mg、ウサギ由来のホスホリラーゼa/b2.5mg)25mL中にて37℃で一晩、各ゲルをインキュベートした。ゲルをルゴール溶液で染色した。
【0125】
さらに詳細な分析によって、BEI及びSSIIIの双方が低下している株、038VL008及び038VL107から単離されたデンプンは、調べたすべての個々の形質転換体で最高のリン酸含量を示すことが明らかにされた。
これらの株の植物を続いて、Rocha-Sosaら(EMBO J., 8:23-29, 1989)により記載されたようなプラスミドpGSV71−αBEII−bastaで形質転換した。
常法に従って、塊茎の全RNAを鋳型としたRT−PCR(プライマー:5’−gggggtgttggctttgacta及び5’−cccttctcctcctaatccca、Stratagene、ProSTARTM、HF単一チューブRT−PCRシステム)を用いて増幅したDNA断片で塊茎特異的なジャガイモcDNAライブラリをスクリーニングすることによってプラスミド、pGSV71−αBEII−bastaを構築した。この方法で、およそ1250bpのDNA断片(配列番号8)を単離し、次いで、EcoRV−Smal断片の形態でクローニングベクターpSK−Pac(上記参照)のEcoRV切断部位にサブクローニングし、続いて、Pacl断片の形態におけるプロモータに関してアンチセンスの方向で発現ベクター、ME5/6に連結した。これによって、プラスミド、pGSV71−αBEII−bastaが生じた(図6を参照のこと)。
【0126】
プラスミド、pGSV71−αBEII−bastaによる形質転換により得られた植物から個々の形質転換体の塊茎組織試料を得、108CF及び110CFと呼び、そのアミロース含量を決定した(方法を参照のこと)。塊茎が最高のアミロース含量を有する個々の株のデンプンをデンプン特性のさらなる分析に用いた。これらの植物で、BEI及びSSIIIタンパク質の活性が低下しているだけでなく、BEIIタンパク質の活性も低下していることを証明するために、非変性ゲル電気泳動の助けを借りてもう1つの分析を行った。非変性ポリアクリルアミドゲルが、上記の組成に加えて、0.5%のマルトデキストリン(ベバ、新生児用15%強度のマルトデキストリン溶液、Nestle)を含有することを除いて、低下したBEIの活性の分析についてすでに行った同じ方法に従って、分析を行った。デキストリンの添加によって、「ホスホリラーゼ緩衝液」(1Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0、25mL、グルコース−1−リン酸0.47g、AMP12.5mg、ウサギ由来のホスホリラーゼa/b2.5mg)25mL中にて37℃で一晩、ゲルをインキュベートし、その後ゲルにおいてルゴール溶液で染色した後、BEIタンパク質とBEIIタンパク質の活性の差異を示すことが可能になる。
【0127】
ジャガイモのデンプン抽出法
市販のジュース抽出器(Multipress automatic MP80, Braun)で、1つの株の塊茎すべて(4〜5kg)をまとめて処理した。スプーン1杯(約3〜4g)の二亜硫酸ナトリウムと共に水道水200mLを含有する10Lのバケツ(バケツの深さと直径の比=およそ1:1)にデンプンを含有する果実水を回収した。続いて、水道水でバケツを完全に満たした。2時間でデンプンが沈殿した後、上清を捨て、デンプンを10Lの水道水に再懸濁し、125μmのメッシュサイズのふるいに注いだ。2時間後(デンプンが再びバケツの底に沈殿した)、水性上清を再び捨てた。デンプンが合計5回、新鮮な水道水に懸濁されるように、この洗浄工程を3回繰り返した。その後、水分含量12〜17%まで37℃にてデンプンを乾燥し、乳棒と乳鉢を用いて均質化した。デンプンは今や分析に利用可能である。
【0128】
実施例2
BEI、SSIII及びBEIIの遺伝子発現が低下した植物のデンプンの分析
実施例1で記載した形質転換108CF及び110CFの種々の個々の株のデンプンをジャガイモの塊茎から単離した。このデンプンの物理化学的特性を続いて分析した。改変デンプンの性状分析の結果を、特定の植物株の選択の例のために、表2に示す。上述の方法によって分析を行った。
【0129】
以下の表2、3及び4は、野生型植物を基にしたRVA分析の結果を要約する。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
以下の表5、6及び7は、RVA分析の結果を要約する。データは野生型を参照せず、実際の測定値である。
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
【表7】
【0137】
【表8】
【0138】
アミロペクチンの側鎖分布の分析は上述のように行った。以下の表は、個々のピーク面積の寄与の要約である。
【0139】
【表9】
【0140】
その値がHPAECクロマトグラムのピーク下総面積に最も寄与する2つの鎖長(DPで与えられる)の平均であるピーク鎖長は、野生型植物の脱分枝したアミロペクチンの場合、DP=13であり、038VL植物の場合、同様にDP=13であり、108CF及び110CFの植物の場合、平均で15であった。
【0141】
トランスジェニック植物のピーク鎖長を野生型のアミロペクチンのピーク鎖長と比べると、ピーク鎖長比には以下の値が得られた(PCL比):
038VLに対するPCL比=13/13=1
108/110CFに対するPCL比=15/13=1.15
【0142】
さらに、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、デンプン顆粒の形態を分析した。
108/110CFの植物のデンプン顆粒の表面は、孔形成で覆われ、毛羽立たされたように見えた。
【0143】
さらに、ドイツ、レッチェ社製の「ルモースド」型の沈殿物光度計を用いて、顆粒サイズを測定した。未処理のデンプン試料の平均顆粒サイズを決定した(表3)。
【0144】
【表10】
【0145】
実施例3
ゲル透過クロマトグラフィによるアミロペクチン側鎖分布の分析
アミロースとアミロペクチンを分離するために、一定で撹拌しながら、90%(v/v)DMSO水溶液6mLに、デンプン100mgを溶解した。3容量のエタノールを添加した後、室温にて約1800gで10分間遠心することによって沈殿物を分離した。次いでペレットをエタノール30mLで洗浄し、乾燥し、60℃にて1%(w/v)のNaCl溶液10mLに溶解した。溶液を30℃まで冷却した後、チモール約50mgをゆっくり加え、この溶液を30℃にて2〜3日インキュベートした。続いて、室温にて溶液を2000gで30分間遠心した。上清を3容量のエタノールで処理し、沈殿したアミロペクチンを室温にて2000g5分間の遠心で分離した。ペレット(アミロペクチン)を70%のエタノール(v/v)10mLで洗浄し、室温にて2000gで10分間遠心し、次いでアセトンを用いて乾燥させた。
続いて、90%(v/v)のDMSO250μL中で70℃にて10分間、アミロペクチンを撹拌した。80℃の温度の水375μLを溶液に加え、完全に溶解した。
この溶液200μLを、16.6mMの酢酸ナトリウム、pH3.5、300μL及びイソアミラーゼ(0.24μL/μL、Megazyme、オーストラリア、シドニー)2μLで処理し、混合物を37℃にて15時間インキュベートした。
90mMの硝酸ナトリウムを含む、この水性イソアミラーゼ反応混合物のDMSOによる1:4希釈物を続いて0.2μmのフィルターでろ過し、ろ液24μLをクロマトグラフィで分析した。連続して接続した2つのカラム、最初がGramPSS3000(好適なプレカラム付き、Polymer Standard Service)、続いてGramPSS100によって分離を行った。屈折率検出器(RI71、Shodex)により検出した。90mMの硝酸ナトリウムを含むDMSOでカラムを平衡化した。流速0.7mL/分にて1時間かけて、90mMの硝酸ナトリウムを含むDMSOで溶出した。溶出体積と分子量を相関させるために、使用したカラムをデキストラン標準で較正した。使用したデキストラン、その分子量及び溶出体積を図9に示す。得られた較正グラフを用いて、溶出ダイアグラムを分子量分布として示す(図10)。
プログラム(ドイツ、マインツのPolymer Standards Service社製のWingpc、バージョン6)を用いて得られたクロマトグラムをさらに評価した。
GPCクロマトグラムの線の下の総面積を個々の断片に分割し、それぞれが異なった長さの側鎖の群を表すようにした。選択した断片は、以下の重合度(DP=1つの側鎖内のグルコースモノマーの数):DP=<11、DP12〜18、DP19〜24、DP25〜30、DP31〜36、DP37〜42、DP43〜48、DP49〜55、DP56〜61及びDP62〜123を持つグルカン鎖を含有した。個々の側鎖の分子量を決定するために、グルコースについて162の分子量を仮定した。次いで、GPCクロマトグラムにおける線の下の総面積を100%に設定し、総面積の比率に基づいて、個々の断片の面積の比率を算出した。この分析で得られた結果を表11に示す。
【0146】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図2】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図3】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図4】野生型植物から単離したジャガイモデンプン顆粒の走査電子顕微鏡写真。
【図5】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003)から単離したジャガイモデンプン顆粒の走査電子顕微鏡写真。
【図6】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性の低下がすでに認められる植物の形質転換に使用したベクター、pGSV71−α−BEII−bastaの模式図。(RB:T−DNAの左境界、LB:R−DNAの右境界、CaMV35:カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモータ、NOS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、OCS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトピン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、B33:ジャガイモのパタチン遺伝子のプロモータ、BEII:ジャガイモBEII遺伝子のコーディング配列、棒:ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)のホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼをコードする配列)。
【図7】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物の生成のために使用したベクター、pB33−α−BE−α−SSIII−Kanの模式図(RB:T−DNAの左境界、LB:R−DNAの右境界、nos5’:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のプロモータ、nptII:ネオマイシンホスホトランスフェラーゼの活性をコードする遺伝子、nos3’:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、OCS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトピン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、B33:ジャガイモのパタチン遺伝子のプロモータ、BE:ジャガイモBEI遺伝子のコーディング配列、SSIII:ジャガイモSSIII遺伝子のコーディング配列)。
【図8】株、038VL008、108CF041及び野生型のデンプン由来のアミロペクチンの溶出の全体図を示す。図に示されるように、バックグランド038VL008及び/又は相当する野生型とは対照的に、株108CF041における大きな側鎖の量は際立って高い。
【図9】較正曲線及び相当するデキストラン標準との表。
【図10】株、038VL008、108CF041及び野生型のデンプン由来のアミロペクチンの溶出の全体図を示す。図8とは違って、x軸は溶出体積を示さず、分子量を示す。図9の較正グラフの助けを借りて分子量分布の関数として、図8の溶出図を示す。
【図11】野生型のアミロペクチンの側鎖特性と比較して、株038VL008の植物のアミロペクチンの側鎖特性分布を示す。
【図12】野生型のアミロペクチンの側鎖特性と比較して、株108CF041の植物のアミロペクチンの側鎖特性分布を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的に改変される植物細胞及び植物に関するものであり、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く。さらに、本発明は、そのような植物細胞及び植物の生成のための手段及び方法に関する。そのような植物細胞及び植物は、少なくとも30%のアミロース含量及び遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて高められたリン酸含量を有することを特徴とし、従来技術を超えて高い、RVA分析における最終粘度を有し、及び/又は改変された側鎖分布及び/又はテクスチャーアナライザにおける高いゲル強度及び/又は改変された顆粒形態及び/又は改変された平均顆粒サイズを有する改変されたデンプンを合成する。従って、本発明はまた、本発明に係る植物細胞及び植物により合成されたデンプンにも関するものであり、本デンプンを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能な原料として現在、植物構成成分に向けられている重要性が高まっていることを考えると、バイオテクノロジー研究の仕事の1つは、これらの植物性原料を加工産業の必要要件に適合させる試みである。できるだけ多くの適用分野で再生可能な原料の使用を可能にするために、極めて多様な物質に到達することがさらに必要である。
【0003】
多糖類デンプンは化学的に均一な単位、グルコース分子のポリマーである。しかしながら、それは、重合度及びグルコース鎖の分枝の発生に関して異なる様々な形態の分子の高度に複雑な混合物の形態を取る。従って、デンプンは均一な原料ではない。人は、デンプンの2つの化学的に異なる構成成分、アミロース及びアミロペクチンの間で区別する。トウモロコシ、コムギ又はジャガイモのようなデンプンを製造するのに使用される典型的な植物では、合成されたデンプンのうち、アミロースデンプンがおよそ20〜30%を占め、アミロペクチンデンプンがおよそ70〜80%を占める。アミロースは、長いこと、α−1,4−グリコシド結合したα−D−グルコースモノマーから成る直鎖状ポリマーであるとみなされてきた。しかしながら、最近の研究によって、α−1,6−グリコシド分枝点の存在が明らかにされた(約0.1%)(Hizukuri and Takagi, Carbohydr. Res., 134:1-10, 1984;Takeda et al., Carbohydr. Res., 132:83-92, 1984)。
【0004】
アミロース含量を測定するには種々の方法を利用することができる。これらの方法の一部は、アミロースのヨウ素結合能に基づき、それは、電位差測定(Banks & Greenwood, in W. Banks & C. T. Greenwood, デンプン及びその構成成分、pp51-66, Edinburgh, Edinburgh University Press)、電流滴定(Laeson et al., Analytical Chemistry 25(5)802-804, 1953)、又は分光光度計(Morrison & Laignelet, J. Cereal Sc., 1:9-20, 1983)で測定することができる。アミロース含量は、DSC(示差走査熱量測定)測定により熱量的にも測定してもよい(Kugimiya & Donovan, Journal of Food Science 46:765-770, 1981; Sievert & Holm, Starch/Starke 45(4):136-139, 1993)。さらに、天然の又は脱分枝したデンプンのSEC(サイズ除外クロマトグラフィ)クロマトグラフィによって、アミロース含量を測定することも可能である。本方法は、遺伝的に改変されたデンプンのアミロース含量を測定するのに特に推奨されてきた(Gerard et al., Carbohydrate Polymers 44:19-27, 2001)。
【0005】
アミロースとは対照的に、アミロペクチンは、高い分枝度を示し、追加のα1,6−グリコシド結合の発生によってもたらされるおよそ4%の分枝点を有する。アミロペクチンは、様々な分枝パターンを持つ複雑なグルコース鎖の混合物を構成する。アミロースとアミロペクチンのもう1つの重要な差異は、その分子量である。デンプンの起源によって、アミロースが5x105〜106Daの分子量を有するのに対して、アミロペクチンの分子量は、107〜108Daの間である。2つの高分子は、その分子量及びその異なった物理化学的特性に基づいて区別することができ、視覚化の最も簡単な方法はその異なったヨウ素結合特性を介する。
【0006】
アミロース/アミロペクチン比及びリン酸含量に加えて、デンプンの機能特性は、分子量、側鎖の分布パターン、イオン含量、脂質及びタンパク質の含量、平均顆粒サイズ、顆粒の形態などに大きく左右される。この背景で言及されてもよい重要な機能特性は、溶解性、デンプン老化作用、水結合能、膜形成特性、粘度、ゲル化特性、凍結乾燥安定性、酸安定性、ゲル強度などである。顆粒サイズも種々の適用で重要であってもよい。
【0007】
熟練者は、ゲル化特性を測定するのに様々な方法に頼ることが多いが、その1つが最終粘度である。使用する方法によって、特に絶対値は、しかし相対値もまた、ある試料と同じデンプン試料との間で異なってもよい。ゲル化特性を分析する迅速且つ有効な方法はRVA分析である。RVA分析におけるパラメータ及び温度特性の選択によって、異なったRVA特性がある試料及び同一試料に対して得られる。場合によっては、ゲル化特性を測定するとき以下で言及される従来技術では異なった特性が使用されたことを言及すべきである。
【0008】
デンプンの生合成に加わる酵素の低下を伴った様々な植物種に関する総括は、Kossmann 及び Lloyd(Critical Reviews in Plant Science 19(3):171-126, 2000)により見い出すことができる。
今日まで、SSIIIタンパク質の活性(Abel et al., The Plant Journal 10(6)9891-991, 1996; Lloyd et al., Biochemical Journal 338:515-521, 1999)、又はBEIタンパク質の活性(Kossmann et al., Mol. Gen. Genet., 230:39-44, 1991; Safford et al., Carbohydrate Polymers 35:155-165, 1998)、又はBEIIタンパク質の活性(Jobling et al., The Plant Journal 18、1999)、又はBEI及びBEIIタンパク質の活性(Schwall et al., Nature Biotechnology 18:551-554, 2000; WO96/34968)又はBEI及びSSIIIタンパク質の活性(WO 00/08184)が低下している植物が記載されている。
【0009】
SSIIIタンパク質の活性が低下している植物では、相当する野生型植物に比べて、長鎖から短鎖へのアミロペクチン側鎖の相対的シフト(Lioyd et al., Biochemical Journal 338:515-521, 1999)、70%高いリン酸含量、不変のアミロース含量(Abel et al., The Plant Journal 10(6)9891-991, 1996)、及びRVA分析での低下した最終粘度(Abel, ベルリン、Freie大学の学位論文)が観察される。WO00/08184にも記載されるそのような植物では、形質転換されていない野生型に比べて、単離されたデンプンで、リン酸含量の197%増加、アミロース含量の123%増加、及び野生型の76%に降下したRVA分析での最終粘度を観察することができる。さらに当該デンプンのゲル強度は野生型の84%に低下する。
【0010】
Morrison & Laignelet(J. Cereal Sc., 1:9-20, 1983)の方法による分光光度計による分析は、BEI及びBEIIタンパク質双方の活性の低下した植物において、最大89.14%(野生型の344%に相当する)までのアミロース含量及び相当する野生型植物から単離したデンプンのリン酸含量の最大522%に相当するリン酸含量を示している。RVA分析は、これらのデンプンで、最大237%まで増大した最終粘度を示している。さらに、そのような植物から単離したデンプン粒における改変された顆粒形態は、偏光顕微鏡で見た場合、当該顆粒の中央に顆粒が大きな溝を有するという事実によって区別される。
【0011】
その結果、熟練者は、植物細胞及び植物に精通し、高いアミロース含量及びリン酸含量を有するが、RVA分析における最終粘度は、遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて最大256%までしか増大しない、それらによって合成されるデンプンに精通する。RVA分析におけるさらに高い最終粘度は今日まで達成されていない。しかしながら、所望の効果を達成するために、たとえば、濃厚剤、ゲル化剤又は結合剤としてデンプンを使用する場合、少ないデンプン固形物が採用されるので、このことは望ましい。これによって、たとえば、ヒト及び動物の食物、健康製品及び化粧品における添加剤の量を減らすことができる。そのようなデンプンを糊に使用する場合、少量を採用して、たとえば、紙、段ボール及び絶縁板を作成する際にコストの削減を招くことも可能である。
【0012】
発明の開示
従って、本発明は、高いアミロース含量及び高いリン酸含量を持ち、少なくとも270%増大するRVA分析における最終粘度、及び/又はゲル化デンプンの高いゲル強度及び/又は改変された顆粒形態を持つ、植物細胞、植物及び好適な植物細胞又は植物に由来するデンプンを提供するという目的に基づく。
【0013】
本目的は、特許のクレームで特定される実施形態を提供することによって達成される。
【0014】
従って、本発明の第1の態様は、遺伝的に改変される植物細胞に関するものであり、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0015】
この背景において、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く、いかなる遺伝的改変であることもできる。
【0016】
本発明の目的で、遺伝的改変は、たとえば、1以上の遺伝子を突然変異誘発の対象とすることによる本発明に係る植物細胞の生成を包含してもよい。SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質の活性の低下を招く限り、突然変異の種類は問わない。本発明に関連して、用語「突然変異誘発」は、たとえば、欠失、点突然変異(ヌクレオチド置換)、挿入、逆位、遺伝子変換又は染色体転座のようないかなる種類の突然変異も意味するとして理解される。
【0017】
この背景において、化学作用剤又は高エネルギー照射(たとえば、X線、ニュートロン、ガンマ、UV照射)を用いることによって突然変異を生じることができる。化学的に誘導される突然変異を生じるために採用されることができる作用剤、及びそれによって当該変異原の作用により生じる突然変異は、たとえば、Ehrenberg及びHusain(Mutation Res., 86:1-113, 1981)、Muler(Biologisches Zentralbalatt 91(1):31-48, 1972)に記載されている。ガンマ線、エチルメタンスルホネート(EMS)、N−メチル−N−ニトロ尿素又はアジ化ナトリウム(NaN3)を用いたコメの突然変異の生成は、たとえば、Jauharoy及びSiddiq(Indian Journal of Genetics 59(1):23-28, 1999)、Rao(Cytologica 42:443-450, 1977)、Gupta及びSharma(Oryza 27:217-219, 1990)、並びにSatch及びOmura(Japanese Journal of Breeding 31(3):316-326, 1981)に記載されている。NaN3又はマレイン酸ヒドラジドを用いたコムギの突然変異の生成はAroraら(Anals of Biology 8(1):65-69, 1992)に記載されている。別の種類の高エネルギー照射及び化学作用剤を用いたコムギの突然変異の生成に関する概説は、Scarescia-Mugnozzaら(Mutation Breeding Review 10:1-28, 1993)に提供されている。Svecら(Cereal Research Communications 26(4):391-396, 1998)は、ライムギでの突然変異の生成にためのN−エチル−N−ニトロ尿素の使用を記載している。キビの突然変異の生成のためのMMS及びガンマ照射の使用は、Shashidharaら(Journal of Maharashtra Agricultural Universities 15(1):20-23, 1990)に記載されている。
【0018】
その増殖が無性的である植物種における突然変異の生成は、たとえば、改変デンプンを生産するジャガイモ(Hovenkamp-Hemelink et al., Theoretical and Applied Genetics 75:217-221, 1987)及び油分の収量が増大し、油分の質が改変されたハッカ(Dwivedi et al., Journal of medical and Aromatic Plant Science 22:460-463, 2000)で記載されている。これらの方法はすべて原則として本発明に係る植物細胞及びそれによって製造されるデンプンを生成するのに好適である。
【0019】
関連する遺伝子、特にBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質及び/又はSSIIIタンパク質をコードする遺伝子における突然変異は、熟練者に既知の方法の助けを借りて同定することができる。プローブとのハイブリッド形成に基づく解析(サザンブロット)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅、当該ゲノム配列の配列決定、及び個々のヌクレオチド置換の探索は特に採用されてもよい。ハイブリッド形成のパターンの助けを借りた突然変異を同定する方法の1つは、たとえば、制限断片長多型(RFLP)(Nam et al., The Plant Cell 1:699-705, 1989; Leister & Dean The Plant Journal 4(4):745-750, 1993)である。PCRに基づく方法の例は、増幅断片長多型(AFLP)の解析である(Castiglioni et al., Genetics 149:2039-2056; Meksem et al., Molecular Genetics and Genomics 265:207-214, 1998; Meyer et al., Molecular and General Genetics 259:150-160, 1998)。制限エンドヌクレアーゼの助けを借りて切断された増幅断片(切断増幅多型配列、CAPS)の使用も突然変異を同定するのに使用してもよい(Konieczny & Ausubel The PLant Journal 4:403-410, 1993; Jarvis et al., Plant Molecular Biology 24:685-687, 1994; Bachem et al., The Plant Journal 9(5):745-753, 1996)。SNPを測定する方法もとりわけ、Qiら(Nucleic Acids Research 29:(22): e116, 2001)、Drenkardら(Plant Physiology 124:1483-1492, 2000)、及びChoら(Nature Genetics 23:203-207, 1999)により記載されている。特に好適である方法は、特定の遺伝子における突然変異について短い時間で多数の植物が解析されるようなものである。そのような方法は、TILLING(ゲノムにおけるターゲティング誘発の局所損傷)として知られ、McCallum et al. ら(Plant Physiology 123:439-442, 2000)により記載されている。
【0020】
これらの方法すべての使用が原則として、本発明の目的に好適である。
【0021】
Hoogkampら(Potato Research 43:179-189, 2000)は、アミロースのないデンプンを含有する安定なジャガイモ変異体を単離した。これらの植物は、顆粒結合性のデンプン合成酵素(GBSSI)について活性のある酵素をもはや合成しない。これらの植物をもう1つの突然変異誘発の対象とした後、デンプンの生合成に関与する遺伝子に追加的に突然変異を有するものを選択してもよい。従って、改善された特徴を持つデンプンを合成する植物が生成される可能性がある。好適な方法を用いて、本発明に係るデンプンを生産する本発明に係る植物細胞を同定し、単離することも可能である。
【0022】
さらに、相同性のトランスポゾン、いわゆる、当該植物細胞に天然に存在するトランスポゾンの助けを借りて発明に係る植物細胞を生成してもよい。本方法の詳細な記載は以下で提供される。
【0023】
前述の方法はすべて原則として本発明に係る植物細胞、及びそれによって合成される改変されたデンプンを生成するのに好適である。従って、本発明は、改変されたデンプンを合成する、遺伝的に改変される植物細胞を生成する方法に関するものであり、本デンプンは、少なくとも30%のアミロース含量を有し、遺伝的に改変されていない相当する野生型の植物細胞のデンプンに比べて、高いリン酸含量を有し、遺伝的に改変されていない相当する野生型の植物細胞のデンプンに比べて、RVA分析における高い最終粘度を有することを特徴とする。
【0024】
本発明のさらなる態様は、植物細胞の遺伝的改変を含む、改変されたデンプンを合成する植物細胞を生成する方法に関するものであり、遺伝的改変は、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0025】
本発明のその上さらなる態様は、
a)植物細胞が上記のように生成される;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生される;及び
c)適当であれば、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを合成する、遺伝的に改変された植物細胞を生成する方法に関する。
【0026】
本発明に関連して、用語「遺伝的に改変された」は植物細胞の遺伝情報が変更されることを意味する。
【0027】
この背景で、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下が、本発明に係る植物細胞で観察される。
【0028】
本発明に係る植物細胞を生成するための遺伝的改変は、同時に行うことができ、又は連続した工程で行うことができる。この背景で各遺伝的改変は、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招くことができる。出発材料は、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性を低下させるためにあらかじめ遺伝的改変が行われていない野生型植物又は野生型植物細胞のいずれか、或いは遺伝的改変により、1以上のSSIIIタンパク質及び/又は1以上のBEIタンパク質及び/又は1以上のBEIIタンパク質の活性がすでに行われた他の遺伝的に改変される植物細胞又は植物でもよい。そのような遺伝的に改変された植物(植物細胞)が出発材料を構成するのであれば、続いて行われる遺伝的改変は、各場合、その活性が未だ低下させられていない1以上のタンパク質(SSIII、BEI又はBEII)の活性にのみ関する。
【0029】
たとえば、遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、本発明に係る遺伝的に改変された植物細胞では、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII遺伝子の発現の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEI遺伝子の発現の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEII遺伝子の発現の低下及び/又は植物細胞に存在する各場合、1以上の前述のタンパク質の活性の低下が観察される。
【0030】
本発明の目的で、用語「活性の低下」は、SSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の低下、細胞におけるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下及び/又は細胞におけるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の酵素活性の低下を言う。
【0031】
発現の低下は、たとえば、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする転写物の量を、たとえば、ノーザンブロット解析又はRT−PCRにより測定することによって決定することができる。低下は好ましくは、本背景では、遺伝的に改変されていない相当する細胞に比べて、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは85%及び特に好ましくは95%の転写物の量の低下を意味する。
当該植物細胞におけるこれらタンパク質の活性の低下を生じるSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下は、たとえば、ウエスタンブロット解析、ELISA(酵素結合免疫吸収法)又はRIA(放射性免疫測定法)のような免疫学的方法によって決定することができる。本背景で、低下は好ましくは、遺伝的に改変されていない相当する細胞に比べて、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは85%及び特に好ましくは95%のSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の量の低下を意味する。
【0032】
本発明に関連して、SSIIIタンパク質は、可溶性デンプン合成酵素(ADP−グルコース−1,4−α−D−グルカン−4−α−グルコシルトランスフェラーゼ;EC2.4.1.21)の部類を意味するとして理解される。可溶性デンプン合成酵素は、基質ADP−グルコースのグルコース残基がα−1,4−結合のグルカン鎖に転移され、α−1,4−結合を形成するグリコシル化反応(ADPグルコース+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N)⇔ADP+{(1,4)−α−D−グルコシル}(N+1))を触媒する。
【0033】
SSIIIタンパク質は、たとえば、Marshall ら(The Plant Cell 8:1121-1135, 1996)、Liら(Plant Physiology 123:613-624, 2000)、Abelら(The Plant Journal 10(6):981-991, 1996)、及びWO0066745に記載されている。SSIIIタンパク質の構造は、ドメインの配列を頻繁に示す。N末端では、SSIIIタンパク質は、色素体への輸送のためのシグナルペプチドを有する。C末端に向かって、これにN末端領域、SSIII特異的領域及び触媒ドメインが続く(Li et al., Plant Physiology 123:613-624, 2000)。一次配列の配置(http://hits.isb-sib.ch/cgi-bin/PFSCAN)に基づいたさらなる解析は、ジャガイモSSIIIタンパク質が炭水化物結合ドメイン(CBM)として知られているものを有することを示した。このドメイン(Pfam motiv cbm25)は、配列番号2で示されるジャガイモSSIIIタンパク質の配列のアミノ酸377〜437を含む。本発明と関連して、従って、SSIIIタンパク質は、配列番号3の配列に少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%及び特に少なくとも90%の同一性を有するデンプン合成酵素を意味するとして理解される。
【0034】
用語、相同性又は同一性は、パーセントで表現される、他のタンパク質に一致するアミノ酸(同一性)の数を意味するとして理解される。同一性は好ましくは、コンピュータプログラムの助けを借りて配列番号3を他のタンパク質と比較することによって決定する。互いに比較する配列の長さが異なっていたら、同一性は、短い配列が長い配列と共有するアミノ酸の数が同一性の比率を決定するように同一性を決定すべきである。たとえば、ClustalW(Thompson et al., Nucleic Acids Research 22:4673-4680, 1994)のような公然と利用できる既知のコンピュータプログラムによって日常的に同一性を決定することができる。ClustalWは、ドイツ、ハイデルベル、Meyerhofstrasse 1, D69117のヨーロッパ分子生物学研究所のJulie Thompson(Thompson@EMBL-Heidelberg.DE)とToby Gibson(Gibson@EMBL-Heidelberg.DE)が公然と利用できるようにしている。ClustalWはまた、種々のインターネットのページ、とりわけ、IGBMC(Institut de Genetique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire, B.P.163, 67404 Illkirch, Cedex, France; ftp://ftp-igbmc.u-strasbg.fr/pub/)及びEBI(ftp://ftp.ebi.ac.ul/pub/software/)及びEBIの完全なミラーサイトのインターネットページ(英国、ケンブリッジCB101SD、ヒンクストン、ヨーロッパバイオインフォマティクス研究所、ウエルカム・トラスト・ゲノム・キャンパス)からダウンロードすることができる。
ClustalWコンピュータプログラムバージョン1.8を用いて、たとえば、参照タンパク質と本出願のタンパク質及びそのほかのタンパク質との間の同一性を決定するのであれば、以下のパラメータを設定すべきである:KTUPLE=1、TOPDIAG=5、WINDOW=5、PAIRGAP=3、GAPOPEN=0、GAPEXTEND=0.05、GAPDIST=8、MAXDIV=40、MATRIX=GONNET、ENDGAPS(OFF)、NOPGAP、NOHGAP。
類似の配列を見い出す可能性の1つは、配列のデータベース検索を行うことである。ここでは、1以上の配列がクエリとして知られるものとして入れられる。次いで、統計的コンピュータプログラムを用いてこのクエリの配列を精選したデータベースに存在する配列と比較する。そのようなデータベース検索(ブラスト検索)は熟練者に既知であり、様々な業者で行うことができる。たとえば、NCBI(National Center for Biotechnology Information, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)でそのようなデータベース検索を行うのであれば、各比較検索について標準設定を使用すべきである。タンパク質配列の比較については、これらの設定は、Limit entez=活性化せず、Filter=低い複雑さで活性化;Expect value=10;ワードサイズ=3;Matrix=BLOSUM62;ギャップコスト=Existence=11,Extension=1である。そのほかのパラメータの間でのそのような検索の結果は、データベースに見い出されるクエリ配列と類似の配列との間の同一性の程度である。
従って、本発明と関連して、SSIIIタンパク質は、配列番号3で示される配列との同一性を決定するために上述の方法の少なくとも1つを使用する場合、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%及び特に少なくとも90%の同一性を有するデンプン合成酵素を意味するとして理解されるべきである。
【0035】
本発明の目的で、用語、SSIII遺伝子は、好ましくはジャガイモのSSIIIタンパク質をコードする核酸分子(DNA、cDNA、RNA)を意味するとして理解される。SSIIIタンパク質をコードする核酸分子は、たとえば、ジャガイモ(Abel et al., The Plant Journal 10(6):981-991, 1996)、コムギ(WO 00/66745; Li et al., Plant Physiology 123:613-624, 2000; Genbank受入番号AF258608;Genbank受入番号AF258609)、トウモロコシ(Gao et al., Plant Cell 10(3):399-412, 1998;Genbank受入番号AF023159)、ビグニア(Genbank受入番号AJ225088)、コメ(Genbank受入番号AY100469;Genbank受入番号AF43291)、及びシロイヌナズナ(Genbank受入番号AC007296)のような種々の植物種について記載されている。
【0036】
本発明の目的で、用語「分枝酵素」又は「BEタンパク質」(α−1,4−グルカン:α−1,4−グルカン−6−グリコシルトランスフェラーゼ;EC2.4.1.18)は、α−1,4グルカン供与体のα1,4−結合が加水分解され、この過程で遊離されるα−1,4−グルカン鎖がα−1,4−グルカンアクセプタ鎖に転移され、それらがα−1,6−結合に変換されるトランスグリコシル化反応を触媒するタンパク質を意味するとして理解される。
【0037】
用語「BEIタンパク質」は、本発明の目的で、アイソフォームIの分枝酵素(分枝酵素=BE)を意味するとして理解される。BEIタンパク質は好ましくはジャガイモに由来する。本背景で、アイソフォームの用語法は、Smith-White及びPreiss(Smith-White and Preiss, Plant Mol. Biol. Rep., 12:67-71, 1994; Larsson et al., Plant Mol. Biol. 37:505-511, 1998)により提唱された命名法を基にする。この命名法は、トウモロコシBEII(Genbank受入番号AF072725、U65948)に対するよりも、高い程度でトウモロコシのBEI(Genbank受入番号D11081;Baba et al., Biochem., Biophys. Res. Commun., 181(1):87-94, 1991; Kim et al., Gene 216:233-243, 1998)とのアミノ酸レベルでの相同性(同一性)を有する酵素はすべてBEIタンパク質と略称される、アイソフォームIの分枝酵素と呼ばれる。
【0038】
用語「BEIIタンパク質」は、本発明の目的では、アイソフォームIIの分枝酵素(分枝酵素=BE)を意味するとして理解されるべきである。この酵素は好ましくはジャガイモを起源とする。本発明に関連して、トウモロコシのBEIタンパク質(Genbank受入番号D11081、AF072724)に比べて、トウモロコシのBEIIタンパク質(Genbank受入番号AF072725、U65948)にさらに高い相同性(同一性)を有する酵素はすべてBEIIタンパク質と呼ばれるべきである。
【0039】
用語「BEI遺伝子」は、本発明の目的では、「BEIタンパク質」、好ましくはジャガイモのBEIタンパク質をコードする核酸分子(cDNA、DNA)を意味するとして理解される。そのような核酸分子は、たとえば、トウモロコシ(Genbank受入番号D11081、AF072724)、コメ(Genbank受入番号D11082)、エンドウマメ(Genbank受入番号X80010)及びジャガイモのような多数の植物で記載されている。ジャガイモのBEI遺伝子又はBEIタンパク質の種々の形態が、たとえば、Khoshnoodi et al., Eur. J. Biochem., 242(1):148-155, 1996; Genbank受入番号Y08786及びKossmann et al., Mol. Gen. Genet., 230:39-44, 1991によって記載されている。ジャガイモでは、BEI遺伝子は塊茎に優勢に発現されており、葉にはわずかしか発現されていない(Larsson et al., Plant Mol. Biol., 37:505-511, 1998)。
【0040】
用語「BEII遺伝子」は、本発明の目的では、「BEIIタンパク質」、好ましくはジャガイモのBEIIタンパク質をコードする核酸分子(たとえば、cDNA、DNA)を意味するとして理解される。そのような核酸分子は、たとえば、ジャガイモ(Genbank受入番号AJ000004、AJ011888、AJ011889、AJ011885、AJ011890、EMBL、Genbank受入番号A58164)、トウモロコシ(AF072725、U65948)、オオムギ(AF064561)、コメ(D16201)、及びコムギ(AF286319)のような多数の植物で記載されている。ジャガイモでは、BEII遺伝子は塊茎に優勢に発現されており、葉にはわずかしか発現されていない(Larsson et al., Plant Mol. Biol., 37:505-511, 1998)。
【0041】
用語「トランスジェニック」は、本背景では、本発明に係る植物の遺伝情報が、外来核酸分子又は数種の外来核酸分子の細胞への導入によって、遺伝的に改変されていない相当する植物細胞から逸脱することを意味するとして理解されるべきである。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に係るトランスジェニック植物細胞の遺伝的改変は、その存在及び/又は発現が遺伝的に改変されていない野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、1以上の核酸分子の導入にある。具体的には、用語「遺伝操作」は、相同性及び/又は異種性の核酸分子及び/又は植物細胞への突然変異誘発の対象とされている核酸分子の導入を意味するとして理解され、その際、これら分子の前記導入は、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又BEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0043】
用語「外来の核酸分子」又は「外来核酸分子の」は、本発明の目的では、当該植物には天然には存在しない、又は特定の空間配置における植物では天然には存在しない、又は天然には存在しない植物細胞のゲノム部位に局在するそのような分子を意味するとして理解される。外来核酸分子は、好ましくは植物細胞では、その組み合わせ又は特定の空間配置が天然には存在しない種々の要素から成る組換え分子である。
遺伝的改変に使用される外来核酸分子は、ハイブリッド核酸構築物、又は数個の別個の核酸構築物、特に、単一の、二重の及び三重の構築物として知られるものの形態を取ってもよい。従って、外来核酸分子は、たとえば、「三重構築物」として知られるものであってもよく、それは、1以上の内因性のSSIII遺伝子の発現を阻害するための遺伝情報だけでなく、1以上のBEI遺伝子及び1以上のBEII遺伝子の発現を阻害するための遺伝情報も含有する、植物の形質転換のための単一のベクターを意味するとして理解され、その存在又は発現は1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
【0044】
さらなる実施形態では、外来核酸分子が「二重構築物」として知られるものであってもよく、それは、3つの標的遺伝子(SSIII、BEI、BEII)のうちの2つの発現を阻害するための遺伝情報も含有する、植物の形質転換のためのベクターを意味するとして理解され、その存在又は発現は3つの標的タンパク質(SSIII、BEI、BEIIタンパク質)のウチの2つの活性の低下を招く。第3の標的遺伝子を阻害する関連する遺伝情報を含有する別の、外来核酸分子の助けを借りて、本発明のこの実施形態で、第3の遺伝子の発現の阻害及び/又は第3のタンパク質の活性の低下は達成される。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、それは、植物細胞のゲノムに導入される三重の構築物ではないが、数種の異なった外来核酸分子が導入され、これら外来核酸分子の1つは、たとえば、1以上の内因性のSSIII遺伝子の発現の低下をもたらす共抑制構築物を構成するDNA分子であり、さらなる核酸分子は、たとえば、1以上の内因性のBEI及び/又はBEII遺伝子の発現の低下をもたらすアンチセンスRNAをコードするDNA分子である。しかしながら、外来核酸分子を考慮する場合、1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の遺伝子発現の同時低下を招く、又は1以上のSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性の同時低下を招くアンチセンス、共抑制、リボザイム及び二本鎖RNA構築物又は生体内突然変異誘発のいずれかの組み合わせの使用も原則として好適である。同時に(「同時形質転換)、又は次々に、すなわち、異なった時間に連続して(超形質転換)、外来核酸分子を植物細胞のゲノムに導入することができる。
【0046】
1つの種の別個の植物に外来核酸分子を導入することができる。これは、1つの標的タンパク質、又は2つの標的タンパク質(BEI、BEII、SSIII)の活性が低下する植物を生じる。次いで、それに続くハイブリッド形成によって3つの標的タンパク質すべての活性が低下する植物を生じる。
【0047】
外来核酸分子を導入するために、又は本発明に係る植物細胞又は植物を生成するために、野生型の植物細胞又は植物の代わりに、1以上の標的タンパク質(BEI、BEII、SSIII)の低下した活性をすでに示すことによって区別される変異体をさらに使用してもよい。変異体は、自然に生じる変異体の形態を取ってもよいし、変異原の特定の適用によって生成された変異体の形態を取ってもよい。そのような変異体を生成する可能性は上でさらに記載されている。
【0048】
挿入突然変異誘発として知られるものを用いて、本発明に係る植物細胞及びそのデンプンを生成する又は製造することができる(概説論文:Thormeycroft et al., Journal of Experimental Botany 52(361):1593-1601, 2001)。挿入突然変異誘発は、特にトランスポゾン、又は転移DNA(T−DNA)として知られているものの、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又BEIIタンパク質をコードする遺伝子への挿入を意味するとして理解されるべきであり、従って、当該細胞における前記タンパク質の活性を低下させる。
【0049】
トランスポゾンは、細胞に天然に存在するトランスポゾン(内因性トランスポゾン)の形態を取ってもよく、又は前記細胞では天然には存在せず、たとえば、細胞を形質転換することによるような組換え法によって細胞に導入されるトランスポゾン(異種トランスポゾン)の形態を取ってもよい。トランスポゾンによって遺伝子発現を改変することは熟練者に既知である。植物のバイオテクノロジーにおける内因性及び異種のトランスポゾンのツールとしての利用に関する概説はRamachandran及びSundaresan(Plant Physiology and Biotechnology 39:234-252, 2001)に見出すことができる。トランスポゾンの挿入突然変異誘発によって特定の遺伝子が不活化されている変異体を同定する可能性は、Maesら(Trends in Plant Science 4(3):90-96, 1999)による概説に見い出される。内因性のトランスポゾンの助けを借りたコメの変異体の生成は、Hirochika(Current Opinion in Plant Biology 4:118-122, 2001)によって記載されている。内因性のトランスポゾンの助けを借りたトウモロコシの遺伝子の同定は、たとえば、Hanleyら(The Plant Journal 22(4):557-566, 2000)に示されている。レトロトランスポゾンの助けを借りた変異体の生成の可能性及び変異体の同定方法は、Kumar及びHirochika(Trends in Plant Science 6(3):127-134, 2001)に記載されている。異なった種における異種トランスポゾンの活性は、たとえば、双子葉植物及び単子葉植物の双方について記載されており、たとえば、コメ(Greo et al., Plant Physiology 125:1175-1177, 2001; Liu et al., Molecular and General Genetics 262:413-420, 1999; Hiroyuki et al., The Plant Journal 19(5):Jeon and Gynheung Plant Science 161:211-219, 2001)、オオムギ(Koprek et al., The Plant Journal 24(2):253-263, 2000)、シロイヌナズナ(Aarts et al., Nature 363:715-717, 1993; Schmidt and Willmitzer, Molecular and General Genetics 220:17-24, 1989; Alrmann et al., Theoretical and Appplied Genetics 84:371-383, 1989; Tissier et al., The Plant Cell 11:1841-1852, 1999)、トマト(Belzile and Yoder, The Plant Journal 2(2):173-179, 1992)、及びジャガイモ(Frey et al., Molecular and General Genetics 217:172-177, 1989; Knapp et al., Molecular and General Genetics 213:285-290, 1988)について記載されている。
【0050】
原則として、本発明に係る植物細胞及び植物及びそれらによって生産されるデンプンは、相同及び異種双方のトランスポゾンの助けを借りて生成されるか、又は製造され、トランスポゾンの使用は、植物ゲノムに天然にすでに存在するトランスポゾンも含む。
【0051】
T−DNA挿入突然変異誘発は、アグロバクテリウムのTiプラスミドの特定の断片(T−DNA)が植物細胞のゲノムに統合されることができるという事実に基づく。植物染色体への組込み部位は固定していないが、いかなる部位で起きてもよい。T−DNAが遺伝子機能を構成する染色体の断片に組み込まれれば、これが遺伝子発現の改変を招いてもよく、従って当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性の変更を導いてもよい。特に、タンパク質のコーディング領域へのT−DNAの組込みは、細胞が当該タンパク質を、活性形態ではもはや合成できない、又はまったく合成できないことを意味することが多い。変異体を生成するためのT−DNA挿入の使用は、たとえば、シロイヌナズナ(Krysan et al., The Plant Cell 11:2283-2290, 1999; Atipiroz-Leehan and Feldmann, Trends in genetics 13(4):152-156, 1997; Parinov and Sundaresan, Current Opinion in Biotechnology 11:157-161, 2000)、及びコメ(Jeon and An, Plant Science 162:211-219, 2001; Joen et al., The Plant Journal 22)6):561-570, 2000)に記載されている。T−DNA挿入突然変異誘発の助けを借りて生成された変異体を同定する方法は、とりわけ、Youngら(Plant Physiology 125:513-518, 2001)、Parinovら(The Plant Cell 11:2263-2270, 1999)、Thorneycroftら(Journal Experimental Botany 52:1593-1601, 2001)、及びMckinneyら(The Plant Journal 8(4):613-622, 1995)に記載されている。
【0052】
原則として、T−DNA突然変異誘発は、本発明に係る植物細胞の生成及びそれらにより生産されるデンプンの生産に好適である。
【0053】
本発明のさらなる実施形態では、1以上の外来核酸分子の存在及び/又は発現がSSIIIタンパク質、BEIタンパク質及びBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の阻害を招く。
【0054】
熟練者が精通した種々の方法、たとえば、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現の阻害を招くものによって、本発明に係る植物細胞を生成することができる。それらには、たとえば、相当するアンチセンスRNA又は二本鎖RNA構築物の発現、共抑制を付与する分子又はベクターの提供、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードする転写物を特異的に切断する好適に構築されたリボザイムの発現、又は「生体内突然変異誘発」として知られるものが挙げられる。さらに、抑制されるべき特定の標的遺伝子、好ましくはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの同時発現によって、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下がもたらされてもよい。熟練者はこれらの方法に精通している。
さらに、in transでのプロモータ配列の二本鎖RNA分子のin plantaでの生成は、このプロモータの相同性コピーのメチル化及び転写不活化を招くことが知られている(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。
タンパク質の活性を低下させるそのほかの方法を以下に記載する。
これらの方法はすべて、植物細胞のゲノムに1以上の外来核酸分子を導入することに基づいている。
【0055】
アンチセンス又は共抑制技術によって遺伝子の発現を阻害するために、たとえば、存在してもよい任意の隣接配列を含むSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする配列のすべてを含むDNA、或いはコーディング領域のみを含み、アンチセンス効果又は共抑制効果をもたらすのに十分な長さでなければならないそのほかのDNA分子を細胞で使用することが可能である。好適な配列は一般に、15bp以上の最小長さ、好ましくは100〜500bpの長さを有し、効果的なアンチセンス阻害又は共抑制阻害のためには、配列は500bpを超える長さを有する。
【0056】
アンチセンス又は共抑制のアプローチに好適であるもう1つの可能性は、SSIII、BEI又はBEIIタンパク質をコードし、植物細胞に内因的に生じる内因性配列に高い相同性を持つDNA配列の使用である。最低の相同性はおよそ65%を超えるべきである。少なくとも90%、特に95〜100%の間の相同性レベルを持つ配列の使用が好ましい。
【0057】
イントロン、すなわち、SSIII,BEI及び/又はBEIIタンパク質をコードする遺伝子の非コーディング領域の使用もアンチセンス効果又は共抑制効果を達成するのに便利である。
デンプンの生合成タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子発現を阻害するためのイントロン配列の使用は国際特許出願、WO97/04112、WO97/04113、WO98/37213、WO98/37214に記載されている。
熟練者は、アンチセンス効果又は共抑制効果を達成するための方法に精通している。共抑制阻害法はたとえば、Jorgensen(Trends Biotech., 8:340-344, 1990)、Niebelら(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 197:91-103, 1995)、Flavellら(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 197:43-46, 1995)、Palaqui及びVaucheret(Plant Mol. Biol., 29:149-159, 1995)、Vaucheretら(Mol. Gen. Genet., 248:311-317, 1995)、de Borneら(Mol. Gen. Genet., 243:613-621, 1994)に記載されている。
【0058】
細胞における特定の酵素の活性を低下させるためのリボザイムの発現も熟練者には既知であり、たとえば、EP−B1 0321201に記載されている。植物細胞におけるリボザイムの発現はたとえば、Feyterら(Mol. Gen. Genet., 250:329-338, 1996)に記載されている。
【0059】
さらに、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、細胞を形質転換することによって細胞にRNA−DNAオリゴヌクレオチド(「キメロプラスト」)が導入される、「生体内突然変異誘発」として知られるものによっても達成される(Kipp, P. B. et al., 1997年9月21〜27日シンガポールにて、第5回植物分子生物学国際会議、ポスターセッション;R.A. Dixon & C. J. Amtzen, 「トランスジェニック植物の代謝工学」キーストーンシンポジウム、Copper Mountain, Co., USA, TIBTECH, 441-447, 1997;国際特許出願WO95/15972;Kren et al., Hepatology 25:1462-1468, 1997; Cole-Strauss et al., Science 273:1386-1389, 1996; Beetham et al., PNAS 96:8774-8778, 1999)。
RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分の一部は内因性のSSIII、BEI及び/又はBEIIの遺伝子の核酸配列と相同性であるが、内因性のSSIII、BEI及び/又はBEIIの遺伝子と比べて、突然変異を含有するか、又は相同性領域に取り囲まれた異種領域を含有する。相同組換えが続く、RNA−DNAオリゴヌクレオチドと内因性核酸分子の相同領域の塩基対のために、RNA−DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分に含有される突然変異又は異種領域を、植物細胞のゲノムに移すことができる。このことが、1以上のSSIII、BEI及び/又はBEIIタンパク質の活性の低下を招く。
さらに、抑制されるべき特定の標的遺伝子、好ましくはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの同時発現によって、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下が誘発されてもよい。
たとえば、関連する標的遺伝子又は標的遺伝子の一部の「逆方向反復」を含有するキメラ構築物の使用によって、これを達成してもよい。キメラ構築物は、当該遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの分子をコードする。センスRNA及びアンチセンスRNAは、1つのRNA分子としてin plantaで同時に合成され、センスRNA及びアンチセンスRNAはスペーサーで互いに分離され二本鎖RNA分子を形成することが好ましい。
植物ゲノムへの逆方向反復DNA構築物の導入は、逆方向反復DNA構築物に相当する遺伝子を抑制するための高度に有効な方法であることが明らかにされている(Waterhouse et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13959-13964, 1998; Wang & Waterhouse, Plant Mol. Biol., 43:67-82, 2000; Singh et al., Biochemical Society Transactions 28(6):925-927, 2000; Liu et al., Biochemical Society Transactions 28(6):927-929, 2000; Smith et al., Nature 407:319-320, 2000;国際特許出願WO99/53050A1)。センス配列及びアンチセンス配列は、同一の又は別々のプロモータによって互いに離れて発現されてもよい(Nap J-P et al., 2000年6月18〜24日、ケベックにて、第6回植物分子生物学会議、ポスターS7−27セッション)。
【0060】
従って、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子の二本鎖RNAを生成することによって達成することもできる。この目的で、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子のDNA分子又はcDNAの逆方向反復を植物ゲノムに導入することが好ましく、転写されるべきDNA分子(SSIII、BEI又はBEII遺伝子又はcDNA又はこれらの遺伝子若しくはcDNAの断片)は、前記DNA分子の発現を支配するプロモータの制御下にある。
【0061】
さらに、植物細胞におけるプロモータDNA分子の二本鎖RNA分子のin transでの形成がこれらプロモータの相同性コピーのメチル化及び転写不活化を招くことが知られており、以下標的プロモータと呼ぶ(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。
従って、標的プロモータの不活化を介して、天然ではこの標的プロモータの制御下にある特定の標的遺伝子(たとえば、SSIII、BEI又はBEII遺伝子)の遺伝子発現を低下させることが可能である。
これは、抑制されるべき遺伝子(標的遺伝子)の標的プロモータを含むDNA分子がこの場合であることを意味し、−植物におけるプロモータの元来の機能とは対称的に、−遺伝子又はcDNAの発現のための制御要素としては使用されないで、それ自体転写可能なDNA分子として使用される。
RNAヘアピン分子の形態で存在してもよい二本鎖標的プロモータRNA分子をin plantaで生成するには、標的プロモータDNA分子の逆方向反復を含有する構築物を使用するのが好ましく、標的プロモータDNA分子は、前記標的プロモータDNA分子の遺伝子発現を支配するプロモータの制御下にある。次いで、これらの構築物を植物のゲノムに導入する。前記標的プロモータDNA分子の逆方向反復の発現は、in plantaで二本鎖標的プロモータRNA分子の形成を招く(Mette et al., EMBO J., 19:5194-5201, 2000)。従って、標的プロモータは不活化される。
従って、植物細胞におけるSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIの活性の低下は、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEII遺伝子のプロモータ配列の二本鎖RNA分子を生成することによっても達成することができる。この目的で、SSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIのプロモータのプロモータDNA分子の逆方向反復を植物のゲノムに導入することが好ましく、転写されるべき標的プロモータDNA分子(SSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIのプロモータ)は、前記標的プロモータDNA分子の発現を支配するプロモータの制御下にある。
【0062】
熟練者はさらに、特定のトランス優性変異体において、そのようなタンパク質の非機能的誘導体を発現させることによって、又はそのようなタンパク質の拮抗剤/阻害剤を発現させることによって1以上のSSIII、BEI及び/又はBEIIのタンパク質の活性を達成することを知っている。
そのようなタンパク質の拮抗剤/阻害剤は、たとえば、抗体、抗体断片又は類似の結合特性を持つ分子を包含する。たとえば、遺伝的に改変されたタバコにおいてフィトクロムAタンパク質の活性を変調するのに細胞質scFv抗体が用いられる(Owen, Bio/Technology 10:790-4, 1992; Review: Franken E., Teuschel U and Hain R., Current Opinion in Biotechnology 8:411-416, 1997; Whitelam, Trends Plant Sci., 1:268-272, 1996)。
【0063】
標的遺伝子の活性を低下させる核酸の発現に有用なプロモータは、たとえば、構成的発現のためのカリフラワーモザイクウイルス35SRNA及びトウモロコシのユビキチンプロモータ、パタチン遺伝子のプロモータB33(Rocha-Sosa et al., EMBO J., 8:23-29, 1989)、ジャガイモの塊茎特異的発現のためのジャガイモのメタロカルボペプチダーゼ阻害剤遺伝子のMCPIプロモータ(ハンガリー特許出願HU9801674)、又ジャガイモのGBSSIプロモータ(国際特許出願WO92/11376)、或いは光合成で活性のある組織に固有に発現することを保証するプロモータ、たとえば、ST−LS1プロモータ(Stockhaus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7943-7947, 1987;Stockhaus et al., EMBO J., 8:2445-2451, 1989)、Ca/bプロモータ(たとえば、米国特許第5,656,496号、米国特許第5,639,952号、Bansal et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3654-3658, 1992を参照のこと)、及びRubiscoSSUプロモータ(たとえば、米国特許第5,034,322号、米国特許第4,962,028号を参照のこと)、或いは、内胚乳特異的な発現のための、グルテリンプロモータ(Leisy et al., Plant Mol. Biol., 14:41-50, 1990; Zheng et al., Plant J., 4:357-366, 1993; Yoshihara et al., FEBS Lett., 383:213-218,1996)、Shrunken−1プロモータ(Werr et al., EMBO J., 4:1373-1380, 1985)、コムギHMGプロモータ、USPプロモータ、ファセオリンプロモータ又はトウモロコシのゼイン遺伝子のプロモータ(Pedersen et al., Cell 29:1015-1026, 1982; Quatroccio et al., Plant Mol. Biol., 15:81-93, 1990)である。
【0064】
外来核酸分子の発現は、デンプンを貯蔵する植物器官で特に有利である。そのような器官の例は、ジャガイモの塊茎、或いはトウモロコシ、コムギ又はコメの核又は内胚乳である。このことが、これらの器官での発現を付与するプロモータを使用するのが好ましいわけである。
しかしながら、外部因子により決定されるちょうどいい時点でのみ活性化されるプロモータを使用することも可能である(たとえば、WO93/07279を参照のこと)。この背景で特に興味深くてもよいプロモータは、単純な誘導を行う熱ショックタンパク質のプロモータである。[欠陥]であることができるその他は、たとえば、ソラマメ及びそのほかの植物で速度特異的な発現を保証するソラマメUSPプロモータのような速度特異的プロモータである(Fiedler et al., Plant Mol. Biol., 22:669-679, 1993; Baumlein et al., Mol. Gen. Genet., 225:459-467, 1991)。たとえば、WO91/01373に記載されるもののような果実特異的プロモータもさらに採用してもよい。
存在してもよいもう1つの要素は、転写の正しい停止に役立ち、転写物を安定化させる機能を有すると考えられているポリAテイルを転写物に付加するのに役立つ停止配列である。そのような要素は、文献(たとえば、Gielen et al., EMBO J., 8:23-29, 1989)に記載されており、所望に応じて置換することができる。
【0065】
本発明に係るトランスジェニック植物細胞は、野生型植物で合成されるデンプンに比べて、特定の使用にさらに適するように、その物理化学的特性、特に、アミロース含量及びアミロース/アミロペクチン比、リン酸含量、粘度挙動、ゲル強度、顆粒サイズ及び/又は顆粒形態が改変されている改変されたデンプンを合成する。
【0066】
従って、本発明はまた、本発明に係る遺伝的に改変される植物細胞、特に改変されたデンプンを合成するトランスジェニック植物細胞に関する。
【0067】
驚くべきことに、本発明に係る植物細胞におけるデンプン組成は、相当する野生型植物の植物細胞のデンプンに比べて、このデンプンが特定の用途にさらに適するように、アミロース含量が少なくとも30%に達し、リン酸含量が増え、RVA分析における最終粘度が上昇するような方法で改変されることが見い出された。
特に、本発明に係るデンプンは、アミロース含量が増加しているにもかかわらず、標準の条件下で完全にゲル化するという利点を有する。このことは、アミロース含量の多いそのほかのデンプンと比べて、本デンプンの加工性を顕著に改善する。従って、本発明に係るデンプンをゲル化するために高い温度又は高い圧力を必要としない。このことが、デンプンを粉砕する際、たとえば、ジェットクッカー、押出機又はオートクレーブのような特定の装置を必要としない理由である。本発明に係るデンプンのもう1つの利点は、ホットローラーでの加工の対象とした際、それらを懸濁液の形態で後のほうで適用してもよいことである。アミロース含量の高い他のデンプンは、この種の加工の対象とした場合、限定的にしか、又は全くゲル化せず、ペースト又はフィルムの形態で当該ローラーに適用することはできない。
【0068】
本発明に係るデンプンは、添加される物質の濃厚化能、ゲル化特性又は結合特性が重要であるあらゆる適用に特に好適である。従って、本発明に係るデンプンは、たとえば、焼き製品、インスタント食品、牛乳入りゼリー、スープ、菓子類、チョコレート、アイスクリーム、魚又は肉用の衣用生地、凍結デザート又は押出スナックのような食品の製造に特に好適である。さらに、本発明に係るデンプンは、織物加工での適用のための糊の製造に、建材用、動物栄養の分野での適用のための接着剤として、化粧品及び製紙における接着剤として好適である。本発明にかかる植物細胞から単離されるデンプンは、プレゲル化デンプンの製造に特に好適である。プレゲル化デンプンは、主として湿性温熱処理により製造される物理的に改変されたデンプンである。固有のデンプンとは相反して、使用するプレゲル化デンプンの濃度に依存して、プレゲル化デンプンを製造するのに使用するデンプンの種類の機能として、それらは、冷たい水で分散/ペースト又はゲルを形成する。これらの特性によって、食品業界及びさらに多様な業界において、一連の可能性のある適用がプレゲル化デンプンに対して存在する。冷却膨潤デンプンとも言われる、プレゲル化デンプンの使用は、固有のデンプンの代わりに、製造工程を単純化、短縮することができるという利点を有することが多い。
たとえば、インスタントデザート及びインスタント牛乳入りゼリーの製造は、プレゲル化デンプンを必要とし、たとえば、熱湯を必要とする牛乳入りゼリーと同様に、水又は牛乳のような冷たい液体で撹拌し、短時間でゲルを形成する。これらの要求は、コムギデンプン、ジャガイモデンプン又はトウモロコシデンプンで作った市販のプレゲル化デンプンによっては満たされない。上述の特性を得るには、現在市販されているプレゲル化デンプンの場合、ゼラチン、アルギン酸塩、カラーギーナン、及び/又は無機塩のような、プレゲル化デンプンへの添加物が必要である。本発明に係る植物細胞から単離される本発明に係るデンプンを用いたプレゲル化デンプンの製造後、補助剤として知られているものを添加する必要はない。
【0069】
本発明は、改変された顆粒形態を持つ改変デンプンを伴った、本発明に係る植物細胞にも関する。
本発明の目的で、用語、顆粒形態は、固有のデンプン顆粒のサイズ及び表面構造を言うことを意図する。デンプンは、顆粒形態における結晶構造として、植物の、たとえば、塊茎、根、胚、又は内胚乳のような貯蔵器官に貯蔵される。デンプンが植物細胞から単離された後、これらの顆粒構造を保持しているデンプン顆粒を固有のデンプンと呼ぶ。本発明に係る固有のデンプンの平均顆粒サイズ(以下に記載する方法で測定する)は、野生型植物から単離される固有のデンプンよりも顕著に小さい。走査電子顕微鏡では(図4及び5を参照のこと)、驚くべきことに、本発明に係る固有のデンプン顆粒は多数の孔を持つ粗い表面を有することを明瞭に見ることができる。野生型植物から単離された固有のデンプン顆粒の表面構造は、対照的に、構造は主として平滑であり、孔は認識されない。
さらに小さい顆粒の存在及び孔を持つ粗い表面の双方は、野生型植物から単離したデンプン顆粒の表面積よりも、本発明に係るデンプン顆粒の表面積が、同じ容積では、かなり大きいという事実につながる。従って、本発明に係るデンプンは、たとえば、香味剤、薬学上活性のある物質、プレバイオティクス、プロバイオティクス微生物、酵素又は着色剤のためのキャリアとしての使用に特に好適である。これらのデンプンは、凝固物質に、及び製紙においても特に好適である。
【0070】
本発明に係るデンプンのさらに可能性のある適用は、原料の掘削分野である。従って、原油の掘削の際は、ドリル又はドリルカラムの過熱を回避する補助剤及び/又は潤滑剤を用いなければならない。その特定のゲル化特性のために、従って、本発明に係るデンプンは、特にこの分野での使用に好適である。
【0071】
本発明はまた、遺伝的に改変していない野生型の植物の相当する植物細胞に比べて、少なくとも30%のアミロース含量を持ち、高いリン酸含量を有し、RVA分析で高い最終粘度を有する改変デンプンを含有する、本発明に係る植物細胞にも関する。
【0072】
本発明と関連して、アミロース含量は、ジャガイモのデンプンについて以下でさらに記載されるHovenkamp-Hemelinkら(Potato Research 31:241-246, 1988)の方法によって測定される。本方法は、他の植物種から単離されたデンプンにも適用することができてもよい。デンプンを単離する方法は熟練者には既知である。
【0073】
本発明の目的で、デンプンの「リン酸含量」は、デンプンのリン酸モノエステルの形態で共有結合したリン酸の含量を言う。
本発明に関連して、用語「高いリン酸含量」は、共有結合したリン酸及び/又は本発明に係る植物細胞の中で合成されたデンプンのC6位におけるリン酸含量の合計のリン酸含量が、相当する野生型植物の植物細胞のデンプンに比べて、好ましくは少なくとも270%、さらに好ましくは少なくとも300%、特に好ましくは少なくとも350%増加していることを意味する。
【0074】
本発明の目的では、用語「C6位におけるリン酸含量」は、デンプンのグルコースモノマーの「6」位の炭素原子にて結合しているリン酸基の含量を意味するとして理解される。生体内では、原則として、グルコース単位のC2、C3及びC6位をリン酸化することができる。本発明と関連して、C6位のリン酸含量(=C6−P含量)の決定は、視覚化酵素試験(Nielson et al., Plant Physiol., 105:111-117, 1994)によってグルコース−6−リン酸の測定を介して行われる(以下を参照のこと)。
【0075】
本発明に関連して、用語、デンプンの「合計リン酸含量」は、デンプンのグルコースモノマーの形態におけるグルコース単位のC2、C3及びC6位に共有結合したリン酸の含量を言う。リン酸化された非グルコース、たとえば、リン脂質の含量は、本発明に従った用語「合計のリン酸含量」には入らない。従って、リン酸化された非グルコースは、合計のリン酸含量を決定する前に量的に除かれなければならない。リン酸化された非グルコース(たとえば、リン脂質)とデンプンを分離する方法は熟練者に既知である。合計のリン酸含量を決定する方法は熟練者に既知であり、以下に記載される。
【0076】
本発明のさらなる態様では、本発明に係る植物細胞は、デンプンのグルコースモノマーのC6位におけるデンプンのmg当たり、40〜120nmol、特に60〜110nmol、好ましくは80〜100C6−Pのリン酸含量を有するデンプンを合成する。
【0077】
RVA分析を行うためのプロトコールをさらに以下に記載する。ジャガイモデンプンのRVA分析は8%のデンプン懸濁液(w/w)で操作されることが多いことを言及しなければならない。装置「RVAスーパー3」(Instructions, Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warried NSW 2102, オーストラリア)と共に含まれる資料は、ジャガイモのデンプンの分析のために約10%のジャガイモを含有する懸濁液を推奨している。
驚くべきことに、本発明に関連したジャガイモのデンプンの場合、最終粘度が装置の範囲を超える値を達成したので、分析に8%デンプンの懸濁液(水25mLにデンプン2g)を使用できなかったことが判明している。これが、RVA分析に、8%のデンプン懸濁液の代わりに6%のデンプン懸濁液(水25mLにデンプン1.5g)を用いた理由である。本発明に関連して、「RVA分析における高い最終粘度」は、従って、遺伝的に改変されていない野生型の植物と比較して、少なくとも150%、特に少なくとも200%、特に少なくとも250%の上昇を意味するとして理解される。この背景で、最終粘度の上昇は6%のデンプン濃度に関係する。
本発明に関連して、ジャガイモデンプンはさらに、6%のデンプン含量でのRVA分析において少なくとも300RVU、特に少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUを持つものを意味するとして理解される。RVU値の決定は、以下で詳細に議論されるであろう。
さらなる好ましい実施形態では、本発明は、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物細胞のデンプンで作ったゲルに比べて、水でゲル化した後、高いゲル強度を持つゲルを形成する改変デンプンを合成する、本発明に係る植物細胞に関する。
【0078】
本発明の目的で、用語「高いゲル強度」は、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物細胞のデンプンで作ったゲル強度に比べて、少なくとも300%、特に少なくとも500%、さらに好ましくは少なくとも700%及び特に好ましくは少なくとも800%から最大2000%以下又は1500%以下の上昇を意味するとして理解される。
本発明に関連して、ゲル強度は、以下に記載する条件下にてテクスチャーアナライザの助けを借りて決定すべきである。
デンプンゲルを調製するには、一定に撹拌しながら、水性懸濁液において加熱することにより、固有のデンプンの結晶構造を先ず破壊しなければならない。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)の助けを借りてこれを行った。すでにさらに上述したように、8%の懸濁液の最終濃度が装置の操作範囲を超えたので、ジャガイモデンプンの場合、8%のデンプン懸濁液を6%のデンプン懸濁液で置き換えた。ゲル強度を決定するために、ラピッドビスコアナライザでゲル化したデンプン懸濁液を特定の期間保存し、次いで、テクスチャーアナライザを用いて分析の対象とした。結果的に、ゲル強度を決定するために、8%のゲル化デンプン懸濁液を6%のゲル化デンプン懸濁液に置き換えた。
【0079】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に係る植物細胞で合成された改変デンプンは、相当する野生型植物のデンプンと比べて高いアミロース含量及び高いリン酸含量及びRVA分析における高い最終粘度だけでなく、改変された側鎖分布によっても区別される。
【0080】
さらなる実施形態では、本発明は、従って、改変デンプンを合成する、本発明に係る植物細胞に関するものであり、改変デンプンは、改変された側鎖分布を特徴とする。本発明の実施形態の1つでは、用語「改変された側鎖分布」は、野生型植物のアミロペクチンの6〜11のDP(=重合度)を持つ短い側鎖の量と比べて、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、特に少なくとも30%及び特に好ましくは50%の、6〜11の重合度を持つ短い側鎖の量の低下、及び/又は野生型植物のアミロペクチンの16〜22のDPを持つ短い側鎖の量に比べて、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に少なくとも15%及び特に好ましくは30%の、6〜22のDPを持つ短い側鎖の含量の増加を意味するとして理解される。
【0081】
短い側鎖の量は、全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定することを介して決定される。全側鎖の合計は、HPLCクロマトグラムにおいて6〜26のDPの重合度を表すピーク下の全面積を決定することを介して決定される。全側鎖の合計における特定の側鎖の比率は、全面積に対する、HPLCクロマトグラムにおいて特定の側鎖を表すピーク下の面積の比率を決定することを介して決定される。ピークを決定するのに使用されてもよいプログラムは、たとえば、米国DionexのChromelion 6.20である。
【0082】
本発明におけるさらなる実施形態では、本発明に係る植物細胞で合成された改変デンプンは、相当する野生型植物のデンプンと比べて高いアミロース含量及び高いリン酸含量及びRVA分析における高い最終粘度だけでなく、「DP12〜18の改変された側鎖特性」及び/又は「DP19〜24の改変された側鎖特性」及び/又は「DP25〜30の改変された側鎖特性」及び/又は「DP37〜42の改変された側鎖特性」及び/又は「DP62〜123の改変された側鎖特性」によって区別される。
【0083】
本発明に関連して、用語「DP12〜18の側鎖特性」は、野生型植物のDP12〜18を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも25%、好ましくは少なくとも35%、特に好ましくは少なくとも45%、極めて特に好ましくは55%の、DP12〜18のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0084】
本発明に関連して、用語「DP19〜24の側鎖特性」は、野生型植物のDP19〜24を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも30%の、DP19〜24のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0085】
本発明に関連して、用語「DP25〜30の側鎖特性」は、野生型植物のDP25〜30を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも5%の、DP25〜30のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0086】
本発明に関連して、用語「DP37〜42の側鎖特性」は、野生型植物のDP37〜42を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは少なくとも15%の、DP37〜42のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0087】
本発明に関連して、用語「DP62〜123の側鎖特性」は、野生型植物のDP62〜123を持つアミロペクチン側鎖の量と比べて、少なくとも20%、好ましくは少なくとも35%、特に好ましくは少なくとも50%の、DP62〜123のアミロペクチン側鎖の量の低下を意味するとして理解される。
【0088】
側鎖特性は、GPCクロマトグラムでの全側鎖の合計における側鎖の特定の基の比率を決定することを介して決定される。この目的で、GPCクロマトグラムの線の下の合計面積は、個々の断片に分割され、そのそれぞれは、異なった長さの側鎖の基を表す。選択された断片は、以下の重合度(DP=1つの側鎖内でのグルコースモノマーの数):DP11、DP12〜18、DP19〜24、DP25〜30、DP31〜36、DP37〜42、DP43〜48、DP49〜55、DP56〜61及びDP62〜123を持つ側鎖を含有する。溶出体積を分子の質量に相関させるために、使用するGPCカラムをデキストラン標準(フルカ、製品番号31430)で較正する。使用したデキストラン、それに関連する分子の質量及び溶出体積を図9に示す。得られた較正グラフを用いて、分子量の分布として溶出の説明図を示す。個々の側鎖の分子量を決定するために、グルコースに対して162の分子量を設定した。GPCクロマトグラムの線の下の全面積を100%として設定し、全面積の比率に基づいて、個々の断片の面積を算出する。
【0089】
さらに特別に好ましい実施形態では、本発明に係る植物細胞又は本発明に係る植物の本発明に係るデンプンのアミロペクチンは、野生型の123より多いDPを持つ側鎖の量に比べて、123より多いDPを持つアミロペクチン側鎖の高い量を示す。
【0090】
本発明に係る植物細胞を、未処理の植物の再生に用いてもよい。
【0091】
本発明に係るトランスジェニック植物細胞の再生により得ることができる植物も同様に本発明の対象である。
【0092】
本発明に係る植物細胞は、いかなる植物種、すなわち、単子葉植物及び双子葉植物の双方に属してもよい。それらは特に、農業上有用な植物、すなわち、栄養の目的で、又は技術的、特に産業上の目的でヒトによって栽培される植物の植物細胞である。本発明は好ましくは、繊維形成植物(たとえば、麻、麻布、綿)、油分貯蔵植物(たとえば、セイヨウアブラナ、ヒマワリ、大豆)、糖貯蔵植物(たとえば、サトウダイコン、サトウトウモロコシ、サトウキビ)、及びタンパク質貯蔵植物(たとえば、豆類)に関する。
さらに好ましい実施形態では、本発明は、飼料植物、特に、飼料草類及び飼い葉草類(アルファルファ、クローバなど)並びに野菜植物(たとえば、トマト、レタス、キクニガナ)に関する。
さらに好ましい実施形態では、本発明はデンプン貯蔵植物(たとえば、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、ジャガイモ、トウモロコシ、コメ、エンドウマメ、カサバ)の植物細胞に関するものであり、ジャガイモの植物細胞が特に好ましい。
【0093】
DNAを植物宿主細胞に導入するには多数の技法が利用可能である。これらの技法には、形質転換作用剤として、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)又はアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、DNAの注入、エレクトロポレーション、遺伝子銃法によるDNAの導入、及びそのほかの可能性が包含される。
アグロバクテリアが介在する、植物細胞の形質転換の使用は、鋭意検討されており、EP120516;Hoekema in The binary Plant Vector System Offsetdrukkerij Kanters B. V., Alblasserdam, Chapter V, 1985; Fraley et al., Crit. Rev. Plant Sci., 4:1-45及びAn et al., EMBO J., 4:277-287, 1985に十分に記載されている。ジャガイモの形質転換に関しては、たとえば、Rocha-Sosa et al., EMBO J., 8:29-33, 1989を参照のこと。
【0094】
アグロバクテリウムによる形質転換に基づいたベクターによる単子葉植物の形質転換も記載されている(Chan et al., Plant Mol. Biol., 22:491-506, 1993; Hiei et al., Plant J., 6:271-282, 1994; Deng er al., Science in China 33:28-34, 1990; Wilmink et al., Plant Cell Reports 11:76-80, 1992; May et al., Bio/Technology 13486-492, 1995; Conner & Domisse, Int. J. Plant Sci., 153:550-555, 1992; Ritchie et al., 2:252-265, 1993)。単子葉植物の形質転換のためのほかのシステムは、遺伝子銃による形質転換(Wan and Lemaux, Plant Physiol., 104:37-48, 1994; Vasil et al., Bio/Technology 11:1553-1558, 1993; Ritala et al., Plant Mol. Biol., 24:317-325, 1994; Spencer et al., Theor. Appl. Genet., 79:625-631, 1990)、プロトプラストの形質転換、部分的に透過性にした細胞のエレクトロポレーション、ガラス繊維によるDNAの導入である。特に、トウモロコシの形質転換は文献で繰り返し記載されている(たとえば、WO95/06128、EP0513849、EP0465875、EP0292435;Fromm et al., Biotechnology 8:833-844, 1990; Gordon-Kamm et al., Plant Cell 2:603-618, 1990; Koziel et al., Biotechnology 11:194-200, 1993; Moroc et al., Theor. Appl. Genet., 80:721-726, 1990)。
そのほかの穀物種の上手く行った形質転換は、たとえばオオムギ(Wan and Lemaux、上記参照;Ritala et al.,上記参照;Krens et al., Nature 296:72-74, 1982)及びコムギ(Nehra et al., Plant J., 6:285-297, 1994)についても記載されている。前述の方法はすべて本発明の目的に好適である。
植物細胞で活性のあるいかなるプロモータも外来核酸分子の発現に一般に好適である。本発明に係る植物における発現が植物の発達のちょうどいい時点で、又は外部因子により決定されたちょうどいい時点で、構成的に、又は特定の組織のみで起きるような方法で、プロモータを選択してもよい。植物に関して、プロモータは相同性でもよいし、異種性でもよい。
【0095】
本発明のさらなる実施形態では、1以上のSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質の活性を低下させるために、少なくとも1つのアンチセンスRNAを植物で発現させる。
【0096】
従って、本発明は、前記外来核酸分子が以下から成る群から選択される、本発明に係る植物細胞にも関する:
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子における突然変異又は異種配列の挿入、或いはSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現或いはSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成の低下をもたらす突然変異又は挿入を招く生体内突然変異誘発により導入される核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードし、前記アンチセンスRNAと前記センスRNAが二本鎖RNA分子を形成して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらすDNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす、或いは不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子における突然変異又は挿入を招く、DNA分子;及び
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入のために、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす、或いは不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じるT−DNA分子。
【0097】
さらなる態様では、本発明は、本発明に係る植物のいかなる種類の増殖材料にも関する。
【0098】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る植物細胞及び植物の生成のための本明細書に記載された核酸分子の使用に関する。
【0099】
本発明のさらなる態様は、上記核酸分子の少なくとも1つを含む組成物に関するものであり、その際、少なくとも1種の核酸分子が、植物細胞に導入された後、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのSSIIIタンパク質の低下及び植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIIタンパク質の低下及び好ましくはさらに植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIタンパク質の低下を招く。組成物は1以上の核酸構築物(上記参照)を含んでもよい。
【0100】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る植物細胞及び植物を生成するための本発明に係る組成物の使用、並びに本発明に係る組成物を含有する宿主細胞、好ましくは植物細胞に関する。
【0101】
その上、本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の核酸分子及び少なくとも1種の植物細胞を含み、少なくとも1種の核酸分子が、前記植物細胞に既存の遺伝的改変によってSSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性がすでに低下させられていなければ、植物細胞に内因的に生じるこれらタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、植物細胞における形質転換システムに関する。本発明の目的で、従って、「形質転換システム」は、形質転換されるべき少なくとも1種の植物細胞と形質転換のために使用される上述の少なくとも1種の核酸分子との組み合わせに関する。植物の形質転換の分野における熟練者が精通している、形質転換過程に必要とされる、緩衝液などを含むさらなる成分が本発明に係る形質転換システムに存在してもよい。
【0102】
配列の説明
配列番号1:
相当するSSIIIタンパク質をコードする配列の表示を伴った、ジャガイモ(Solanum tuberosum)デンプン合成酵素の核酸配列。
配列番号2:
ジャガイモSSIIIタンパク質のアミノ酸配列。
配列番号3:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)SSIIIタンパク質のPfam cbm結合ドメインのアミノ酸配列。
配列番号4:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIのコーディング核酸配列。
配列番号5:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIのアミノ酸配列。
配列番号6:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのコーディング核酸配列。
配列番号7:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのアミノ酸配列。
配列番号8:
ジャガイモ(Solanum tuberosum)分枝酵素BEIIのPCRで増幅した核酸配列。
【0103】
実施例
一般的な方法
実施例において以下の方法を使用した。
【0104】
デンプンの分析
a)アミロース含量及びアミロース/アミロペクチンの比の決定
常法によりジャガイモ植物からデンプンを単離し、Hovenkamp-Hemelinkら(Potato Research 31:241-246, 1988)により記載された方法により、アミロース含量及びアミロース/アミロペクチンの比を決定した。
【0105】
b)リン酸含量の決定
デンプンでは、C2、C3及びC6位のグルコース単位をリン酸化することができる。デンプンのC6−P含量を決定するために、デンプン50mgを0.7MのHCl500μL中で95℃にて4時間加水分解した。次いで試料を15500gにて10分間遠心し、上清を除いた。7μLの上清をイミダゾール緩衝液(100mMのイミダゾール、pH7.4、5mMのMgCl2、1mMのEDTA及び0.4mMのNAD)193μLと混合した。340nmにて光度計で測定を行った。ベースの吸収を確定した後、2単位のグルコース−6−リン酸脱水素酵素(乳酸菌Leuconostoc mesenteroides由来、Boehringer Mannheim製)の添加により酵素反応を開始させた。吸収の変化は、デンプンのG−6−P含量の濃度に直接比例する。
【0106】
Ames(Methods in Enzymology VIII:115-118, 1966)の方法によりリン酸の全含量を決定した。
デンプン約50mgを硝酸マグネシウムのエタノール溶液30μLで処理し、マッフルオーブンにて500℃で3時間、灰化した。0.5Mの塩酸300μLで残渣を処理し、60℃にて30分間インキュベートした。続いて、試料1つを0.5Mの塩酸300μLにし、これを2Mの硫酸中、10%のアスコルビン酸100μLと0.42%のモリブデン酸アンモニウム600μLに加え、45℃にて20分間インキュベートした。
これに続いて、リン酸のシリーズ較正を標準として820nmでの光度計の測定を行った。
c)ゲル強度の決定(テクスチャーアナライザ)
水性懸濁液25mLにて、RVA装置でデンプン(DM)1.5gをゲル化し(温度プログラム:項目d「ラピッドビスコアナライザ(RVA)による粘度特性の決定」を参照のこと)、続いて、密閉容器にて室温にて24時間保存した。Stable Micro System(英国、サリー)製のテクスチャーアナライザTA−XT2のプローブ(平面の表面を持つ丸いピストン)のもとに固定し、以下のパラメータを用いてゲル強度を決定した。
−試験速度 0.5mm/秒
−侵入深度 7mm
−接触面積 113mm2
−圧力 2g
【0107】
d)ラピッドビスコアナライザ(RVA)による粘度特性の決定
常法
デンプン(DM)2gをH2O(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLに溶解し、ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)における分析に用いた。製造元の指示書に従って装置を操作した。参照により本明細書に組み入れられる製造元の操作マニュアルに従って、粘度値をRVUで表した。デンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず、50℃にて1分間加熱し(工程1)、次いで1分当たり12℃の割合で50℃から95℃に加熱した(工程2)。次いで、温度を95℃にて2.5分間保持した(工程3)。次いで、1分当たり12℃の割合で95℃から50℃に溶液を冷却した(工程4)。全期間を通して粘度を測定した。
【0108】
特に、水(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLにおいてデンプン(DM)2gの重さがあったとき、RVAの測定範囲の限界が不十分である場合、水(VE型の水、少なくとも15メガオームの伝導度)25mLにデンプン(DM)1.5gを溶解する。
【0109】
従来技術と比較するために、場合によっては、改変温度特性をさらに使用した。
以下の温度特性を用いた。
【0110】
RVA分析方法1
6%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず1分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり12℃の割合で50℃から95℃に加熱した(工程2)。温度を95℃にて2.5分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり12℃の割合で95℃から50℃に溶液を冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を2分間保持した。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0111】
RVA分析方法2
6%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず2分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり1.5℃の割合で50℃から95℃に温度を上昇させた(工程2)。温度を95℃にて15分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり1.5℃で95℃から50℃に冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を15分間保持した。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0112】
RVA分析方法3
10%のデンプン水溶液の粘度を決定するために、デンプン懸濁液を先ず960rpmにて10秒間撹拌し、続いて160rpmの速度で撹拌しながら、先ず2分間50℃に加熱した(工程1)。次いで1分当たり1.5℃の割合で50℃から95℃に温度を上昇させた(工程2)。温度を95℃にて15分間保持し(工程3)、次いで、1分当たり1.5℃で95℃から50℃に冷却した(工程4)。最後の工程で(工程5)、50℃の温度を15分間保持した。RVA分析のこの特性は、WO96/34968に採用されたものに相当する。
プログラムが終了した後、撹拌子を取り出し、ビーカーに蓋をした。24時間後、ゲル化したデンプンは、テクスチャー分析に今や利用可能である。
【0113】
RVA分析の特性は、異なった測定法及び物質の比較のために示されるパラメータを含有する。本発明の背景において、以下の用語は、以下のように理解されるべきである。
1.最大粘度(RVAmax)
最大粘度は工程2又は3の温度特性で得られた、RVAにおいて測定された最高の粘度値を意味するとして理解される。
2.最小粘度(RVAmin)
最小粘度は、最大粘度の後の温度特性で得られた、RVAにおいて測定された最小の粘度値を意味するとして理解される。通常、これは工程3の温度特性で生じる。
3.最終粘度(RVAfin)
最終粘度は、測定の最後に得られる、RVAにおいて測定される粘度値を意味するとして理解される。
4.セットバック(RVAset)
セットバックとして知られるものは、曲線において最大粘度の後に生じる最小粘度から最終粘度の値を差し引くことによって算出する。
5.ゲル化温度(RVA T)
ゲル化温度は、粘度が初めてほんの一瞬、劇的に上昇する温度特性の時点を意味するとして理解される。
【0114】
e)イオン交換クロマトグラフィによるアミロペクチンの側鎖分布の解析
アミロースとアミロペクチンを分離するために、90%(v/v)DMSO水溶液12mLを用いて、50mLの反応容器にてデンプン200mgを溶解した。3容量のエタノールを添加した後、室温(RT)にて約1800gで10分間遠心することによって沈殿物を分離した。次いでペレットをエタノール30mLで洗浄し、乾燥し、75℃にて1%(w/w)のNaCl溶液40mLに溶解した。溶液を30℃まで冷却した後、チモール約90mgをゆっくり加え、この溶液を30℃にて少なくとも60時間インキュベートした。次いで、溶液を2000g(RT)にて30分間遠心した。次いで上清を3容量のエタノールで処理し、沈殿したアミロペクチンを2000g(RT)5分間の遠心で分離した。次いでペレット(アミロペクチン)をエタノールで洗浄し、アセトンを用いて乾燥した。ペレットへのDMSOの添加により、1%の溶液が得られ、その200μLを水345μL、0.5Mの酢酸ナトリウム(pH3.5)10μL及びイソアミラーゼ(1:10希釈、Megazyme)5μLで処理し、37℃にて約16時間インキュベートした。続いて、この消化物の1:5水希釈物を0.2μmのフィルターでろ過し、ろ液100μLをイオンクロマトグラフィ(HPAEC−PAD、Dionex)で分析した。PA−100カラム(好適なプレカラムと共に)を用いて分離を行い、電流滴定法で検出を行った。溶出条件は以下のとおりである。
溶液A−0.15MのNaOH
溶液B−0.15MのNaOH中1Mの酢酸ナトリウム
【0115】
【表1】
【0116】
全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定することを介して、全側鎖の合計における短い側鎖の相対量の決定を行った。HPLCのクロマトグラムにおけるDP6〜26の重合度を表すピーク下の全面積の決定を介して全側鎖の合計を決定した。
HPLCクロマトグラムにおける特定の側鎖を表すピーク下の面積の全面積に対する比を決定することにより、全側鎖の合計における特定の側鎖の比率を決定した。ピーク面積の決定には、米国、ディオネックス社製のプログラム、クロメリオン6.20バージョン6.20を用いた。
【0117】
f)顆粒サイズの決定
ジャガイモの塊茎からデンプンを抽出した(実施例を参照のこと)
次いで、ドイツ、レッチェ社製の「ルモースドFS1」型の沈殿物光度計を用い、ソフトウエアV.2.3を用いて、顆粒サイズの決定を行った。ソフトウエアの設定は以下のとおりである。
物質のデータ 較正No.0
密度[kg/m3]1500
沈殿液 水の種類
粘度[Pas] 0.001
密度[kg/m3] 1000
添加 −
記録 5分
カットオフ[μm] 250
通過[%] 100
測定範囲 4.34〜117.39μm
較正 N
温度 20℃
【0118】
顆粒サイズの分布は、水溶液で測定し、製造元の指示書に従い、たとえば、H. Pitschによる文献、Korngrobenbestimmung [顆粒サイズの決定]; LABO-1988/3 Fachzeitschrift fur Labortechnik, Darmstadtに基づいて行った。
【0119】
g)走査電子顕微鏡写真(SEM)
デンプン試料の表面を検討するために、導電性接着剤を用いて後者を試料ホルダーの上にまぶした。荷電を回避するために、試料ホルダーを最終的には4nmのPtの被覆でスパッタリングした。加速電圧5kVにて電界放出走査電子顕微鏡JSM6330F(Joel)を用いてデンプン試料を検討した。
【0120】
h)SSIII、BEI及びBEIIタンパク質の活性測定
これらは実施例で特定したように行った。
【0121】
実施例
発現ベクターME5/6の生成
pGSV71は、中間ベクターpGSV1に由来するプラスミドpGSV7の誘導体である。pGSV1は、pGSC1700の誘導体であり、その構築は、Cormelissen及びVanderwiele(Nucleic Acid Research 17:19-25, 1989)により記載されている。pGSV1は、プラスミドpTiB6S3のTL−DNA領域において、カルベニシリン耐性遺伝子を欠失させ、T−DNA配列を欠失させることによって得られた。
pGSV7は、プラスミドpBR322(Bolivar et al., Gene 2:95-113, 1977)の複製開始点及びシュードモナスのプラスミドpVS1(Itoh et al., Plasmid 11:206, 1984)の複製開始点を含有する。pGSV7はさらに、抗生物質スペクチノマイシン及びストレプトマイシンに耐性を付与するクレブシエラ・ニューモニアのトランスポゾンTn1331由来の選択性マーカー遺伝子aadAを含有する(Tolmasky, Plasmid 24(3):218-226, 1990; Tolmasky & Crosa Plasmid 29(1):31-40, 1993)。プラスミドpGSV71は、pGSV7の境界領域間でのキメラbar遺伝子をクローニングすることにより得られた。キメラbar遺伝子は、転写開始のためのカリフラワーモザイクウイルスのプロモータ(Odell et al., Nature 313:180, 1985)、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカスのbar遺伝子(Thompson et al., EMBO J., 6:2519-2523, 1987)、及び転写停止及びポリアデニル化のための、pTiT37T−DNAノパリン合成酵素遺伝子の3’非翻訳領域を含有する。bar遺伝子は、除草剤、グルホシネートアンモニウムへの耐性を付与する。
T−DNAは、198〜222位にてプラスミドpTiB6S3(Gielen et al., EMBO J., 3:835-846, 1984)に由来するTL−DNAの右境界配列を含有する。ポリリンカー配列はヌクレオチド223〜249の間に位置する。ヌクレオチド250〜1634は、カリフラワーモザイクウイルスp35S3プロモータ領域(Odell et al., 上記参照)を含有する。ストレプトマイセス・ハイグロスコピカスのホスフィノトリシン耐性遺伝子(bar)のコーディング配列(Thompson et al., 上記参照)は、ヌクレオチド1635〜2186の間に配置されている。bar野生型遺伝子の5’末端での2つの末端コドンは、コドンATG及びGACによって置き換えられた。ポリリンカー配列はヌクレオチド2187〜2205の間に位置する。プラスミドpTiT37(Depicker et al., J. Mol. Appl. Genet., 1:561-573, 1982)のT−DNAに由来するノパリン合成酵素遺伝子(3’nos)の非翻訳3’末端の260bpのTaql断片は、ヌクレオチド2206〜2465の間に位置する。ヌクレオチド2466〜2519はポリリンカー配列を含有する。pTiB6S3TL−DNAの左境界配列(Gielen et al., EMBO J., 3:835-846, 1984)は、ヌクレオチド2520〜2544の間に位置する。
次いで、酵素、PstIを用いてベクターpGSV71を切断し、平滑末端を作製した。ベクターpB33−KanからEcoRI−HindIII断片の形態でB33プロモータ及びocsカセットを切り出し、平滑末端を作製し、PstIで切断し、平滑末端を作製しておいたベクターpGSV71に挿入した。得られたベクターをME5/6を構築するための出発ベクターとして使用した。B33プロモータとocs要素の間に位置するベクターME4/6のPstI切断部位に、切断部位EcoRI、PacI、SpeI、SrfI、SpeI、NotI、PacI及びEcoRIを含有するヌクレオチドを挿入し、PstI切断部位を複製した。得られた発現ベクターをME5/6と呼んだ。
【0122】
ベクターpSK−Pacの説明
pSK−Pacは、PacI切断部位がマルチクローニング部位(MCS)にそれぞれ隣接して導入されているpSK−ブルースクリプト(米国、Stratagene)の誘導体である。
【0123】
BEI、SSIII及びBEIIの遺伝子の遺伝子発現が低下しているトランスジェニックジャガイモ植物の生成
BEI、SSIII及びBEIIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物を生成するために、第1工程でBEI及びSSIIIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物を生成した。この目的で、プラスミドpB33−αBEI−αSSIII−KanのT−DNAをRocha-Sosaら(EMBO J., 8:23-29, 1989)により記載されたアグロバクテリアの助けを借りてジャガイモ植物に転移させた。
プラスミドpB33−αBEI−αSSIII−Kan(図7を参照のこと)を構築するために、発現ベクター、pBin33−Kanを第1工程で構築した。この目的で、ソラナム・ツベロサムのパタチン遺伝子B33(Rocha-Sosa et al., 上記参照)のプロモータをDraI断片の形態(ヌクレオチド−1512〜+14)でSstI切断のベクターpUC19(Genbank受入番号M77789)に連結し、その末端をT4DNAポリメラーゼの助けを借りて平滑末端にした。これによってプラスミドpUC19−B33を生じた。EcoRI及びSmaIを用いて、B33プロモータをこのプラスミドから切り出し、安定に切断したベクターpBinARに連結した。これによって、植物の発現ベクター、pBin33−Kanを生じた。プラスミド、pBinARは、ベクタープラスミドpBin19(Bevan, Nucl. Acid Res., 12:8711-8721)の誘導体であり、Hofgen 及びWillmitzer(Plant Sci., 66:221-230, 1990)により構築された。次いで、ジャガイモBEI酵素(Kossmann et al., Mol. & Gen. Genetics 230(1-2):39-44, 1991)をコードする部分的cDNAを含有する1631bpのHindIII断片を平滑末端にし、あらかじめSmaIで切断したベクターpBin33に、B33プロモータ(ソラナム・ツベロサムのパタチン遺伝子B33のプロモータ;Rocha-Sosa et al., 1989)に関してアンチセンスの方向で導入した。得られたプラスミドをBamHIを用いて切り開いた。ジャガイモのSSIII酵素(Abel et al., 1996、前に引用)をコードする部分的cDNAを含有する1363のBamHI断片を、再びB33プロモータに関してアンチセンスの方向で切断部位に導入した。
【0124】
形質転換の後、その塊茎でBEI及びSSIIIタンパク質の顕著に低下した活性が認められるトランスジェニックジャガイモの種々の株が同定された。この形質転換で得られた植物を038VLと称した。
非変性ゲル電気泳動によって可溶性デンプン合成酵素(SSIII)の活性を検出するために、50mMのトリスHCl、pH7.6、2mMのDTT、2.5mMのEDTA、10%のグリセロール及び0.4mMのPMSFでジャガイモ塊茎の組織試料を消化した。ミニプロテアンIIチャンバー(BioRad)で電気泳動を行った。厚さ1.5mmを有するゲルのモノマー濃度は7.5%(w/v)に等しく、25mMのトリス−グリシンpH8.4がゲル及び泳動緩衝液として作用した。同一量のタンパク質抽出物を適用し、各ゲルについて10mAにて2時間分離した。
続いて、活性ゲルを50mMトリシン−NaOH,pH8.5、25mMの酢酸カリウム、2mMのEDTA、2mMのDTT、1mMのADP−グルコース、0.1%(w/v)のアミロペクチン及び0.5Mのクエン酸ナトリウムでインキュベートした。形成されたグルカンをルゴール溶液で染色した。
同様に、非変性ゲル電気泳動の助けを借りてBEIの活性を検出した。
植物からタンパク質を分離するために、乳棒と乳鉢を用いて、液体窒素中で試料材料を細かく砕き、抽出緩衝液(50mMのクエン酸ナトリウム、pH6.5、1mMのEDTA、4mMのDTT)に溶解し、遠心して(4℃、14000g、10分)、次いでBradfordの方法に従ったタンパク質濃度測定にそのまま用いた。次いで、5〜20μgの全タンパク質抽出物(必要に応じて)を4x添加緩衝液(20%グリセロール、125mMのトリスHCl、pH6.8)で処理し、BE活性ゲルに適用した。泳動緩衝液(RB)は、以下:RB=トリスベースpH8.0、30.2g、1IH2O当たり144gのグリシンから成った。
ゲルでの泳動終了後、「ホスホリラーゼ緩衝液」(1Mのクエン酸ナトリウム25mL、グルコース−1−リン酸0.47g、AMP12.5mg、ウサギ由来のホスホリラーゼa/b2.5mg)25mL中にて37℃で一晩、各ゲルをインキュベートした。ゲルをルゴール溶液で染色した。
【0125】
さらに詳細な分析によって、BEI及びSSIIIの双方が低下している株、038VL008及び038VL107から単離されたデンプンは、調べたすべての個々の形質転換体で最高のリン酸含量を示すことが明らかにされた。
これらの株の植物を続いて、Rocha-Sosaら(EMBO J., 8:23-29, 1989)により記載されたようなプラスミドpGSV71−αBEII−bastaで形質転換した。
常法に従って、塊茎の全RNAを鋳型としたRT−PCR(プライマー:5’−gggggtgttggctttgacta及び5’−cccttctcctcctaatccca、Stratagene、ProSTARTM、HF単一チューブRT−PCRシステム)を用いて増幅したDNA断片で塊茎特異的なジャガイモcDNAライブラリをスクリーニングすることによってプラスミド、pGSV71−αBEII−bastaを構築した。この方法で、およそ1250bpのDNA断片(配列番号8)を単離し、次いで、EcoRV−Smal断片の形態でクローニングベクターpSK−Pac(上記参照)のEcoRV切断部位にサブクローニングし、続いて、Pacl断片の形態におけるプロモータに関してアンチセンスの方向で発現ベクター、ME5/6に連結した。これによって、プラスミド、pGSV71−αBEII−bastaが生じた(図6を参照のこと)。
【0126】
プラスミド、pGSV71−αBEII−bastaによる形質転換により得られた植物から個々の形質転換体の塊茎組織試料を得、108CF及び110CFと呼び、そのアミロース含量を決定した(方法を参照のこと)。塊茎が最高のアミロース含量を有する個々の株のデンプンをデンプン特性のさらなる分析に用いた。これらの植物で、BEI及びSSIIIタンパク質の活性が低下しているだけでなく、BEIIタンパク質の活性も低下していることを証明するために、非変性ゲル電気泳動の助けを借りてもう1つの分析を行った。非変性ポリアクリルアミドゲルが、上記の組成に加えて、0.5%のマルトデキストリン(ベバ、新生児用15%強度のマルトデキストリン溶液、Nestle)を含有することを除いて、低下したBEIの活性の分析についてすでに行った同じ方法に従って、分析を行った。デキストリンの添加によって、「ホスホリラーゼ緩衝液」(1Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0、25mL、グルコース−1−リン酸0.47g、AMP12.5mg、ウサギ由来のホスホリラーゼa/b2.5mg)25mL中にて37℃で一晩、ゲルをインキュベートし、その後ゲルにおいてルゴール溶液で染色した後、BEIタンパク質とBEIIタンパク質の活性の差異を示すことが可能になる。
【0127】
ジャガイモのデンプン抽出法
市販のジュース抽出器(Multipress automatic MP80, Braun)で、1つの株の塊茎すべて(4〜5kg)をまとめて処理した。スプーン1杯(約3〜4g)の二亜硫酸ナトリウムと共に水道水200mLを含有する10Lのバケツ(バケツの深さと直径の比=およそ1:1)にデンプンを含有する果実水を回収した。続いて、水道水でバケツを完全に満たした。2時間でデンプンが沈殿した後、上清を捨て、デンプンを10Lの水道水に再懸濁し、125μmのメッシュサイズのふるいに注いだ。2時間後(デンプンが再びバケツの底に沈殿した)、水性上清を再び捨てた。デンプンが合計5回、新鮮な水道水に懸濁されるように、この洗浄工程を3回繰り返した。その後、水分含量12〜17%まで37℃にてデンプンを乾燥し、乳棒と乳鉢を用いて均質化した。デンプンは今や分析に利用可能である。
【0128】
実施例2
BEI、SSIII及びBEIIの遺伝子発現が低下した植物のデンプンの分析
実施例1で記載した形質転換108CF及び110CFの種々の個々の株のデンプンをジャガイモの塊茎から単離した。このデンプンの物理化学的特性を続いて分析した。改変デンプンの性状分析の結果を、特定の植物株の選択の例のために、表2に示す。上述の方法によって分析を行った。
【0129】
以下の表2、3及び4は、野生型植物を基にしたRVA分析の結果を要約する。
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
以下の表5、6及び7は、RVA分析の結果を要約する。データは野生型を参照せず、実際の測定値である。
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
【表7】
【0137】
【表8】
【0138】
アミロペクチンの側鎖分布の分析は上述のように行った。以下の表は、個々のピーク面積の寄与の要約である。
【0139】
【表9】
【0140】
その値がHPAECクロマトグラムのピーク下総面積に最も寄与する2つの鎖長(DPで与えられる)の平均であるピーク鎖長は、野生型植物の脱分枝したアミロペクチンの場合、DP=13であり、038VL植物の場合、同様にDP=13であり、108CF及び110CFの植物の場合、平均で15であった。
【0141】
トランスジェニック植物のピーク鎖長を野生型のアミロペクチンのピーク鎖長と比べると、ピーク鎖長比には以下の値が得られた(PCL比):
038VLに対するPCL比=13/13=1
108/110CFに対するPCL比=15/13=1.15
【0142】
さらに、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、デンプン顆粒の形態を分析した。
108/110CFの植物のデンプン顆粒の表面は、孔形成で覆われ、毛羽立たされたように見えた。
【0143】
さらに、ドイツ、レッチェ社製の「ルモースド」型の沈殿物光度計を用いて、顆粒サイズを測定した。未処理のデンプン試料の平均顆粒サイズを決定した(表3)。
【0144】
【表10】
【0145】
実施例3
ゲル透過クロマトグラフィによるアミロペクチン側鎖分布の分析
アミロースとアミロペクチンを分離するために、一定で撹拌しながら、90%(v/v)DMSO水溶液6mLに、デンプン100mgを溶解した。3容量のエタノールを添加した後、室温にて約1800gで10分間遠心することによって沈殿物を分離した。次いでペレットをエタノール30mLで洗浄し、乾燥し、60℃にて1%(w/v)のNaCl溶液10mLに溶解した。溶液を30℃まで冷却した後、チモール約50mgをゆっくり加え、この溶液を30℃にて2〜3日インキュベートした。続いて、室温にて溶液を2000gで30分間遠心した。上清を3容量のエタノールで処理し、沈殿したアミロペクチンを室温にて2000g5分間の遠心で分離した。ペレット(アミロペクチン)を70%のエタノール(v/v)10mLで洗浄し、室温にて2000gで10分間遠心し、次いでアセトンを用いて乾燥させた。
続いて、90%(v/v)のDMSO250μL中で70℃にて10分間、アミロペクチンを撹拌した。80℃の温度の水375μLを溶液に加え、完全に溶解した。
この溶液200μLを、16.6mMの酢酸ナトリウム、pH3.5、300μL及びイソアミラーゼ(0.24μL/μL、Megazyme、オーストラリア、シドニー)2μLで処理し、混合物を37℃にて15時間インキュベートした。
90mMの硝酸ナトリウムを含む、この水性イソアミラーゼ反応混合物のDMSOによる1:4希釈物を続いて0.2μmのフィルターでろ過し、ろ液24μLをクロマトグラフィで分析した。連続して接続した2つのカラム、最初がGramPSS3000(好適なプレカラム付き、Polymer Standard Service)、続いてGramPSS100によって分離を行った。屈折率検出器(RI71、Shodex)により検出した。90mMの硝酸ナトリウムを含むDMSOでカラムを平衡化した。流速0.7mL/分にて1時間かけて、90mMの硝酸ナトリウムを含むDMSOで溶出した。溶出体積と分子量を相関させるために、使用したカラムをデキストラン標準で較正した。使用したデキストラン、その分子量及び溶出体積を図9に示す。得られた較正グラフを用いて、溶出ダイアグラムを分子量分布として示す(図10)。
プログラム(ドイツ、マインツのPolymer Standards Service社製のWingpc、バージョン6)を用いて得られたクロマトグラムをさらに評価した。
GPCクロマトグラムの線の下の総面積を個々の断片に分割し、それぞれが異なった長さの側鎖の群を表すようにした。選択した断片は、以下の重合度(DP=1つの側鎖内のグルコースモノマーの数):DP=<11、DP12〜18、DP19〜24、DP25〜30、DP31〜36、DP37〜42、DP43〜48、DP49〜55、DP56〜61及びDP62〜123を持つグルカン鎖を含有した。個々の側鎖の分子量を決定するために、グルコースについて162の分子量を仮定した。次いで、GPCクロマトグラムにおける線の下の総面積を100%に設定し、総面積の比率に基づいて、個々の断片の面積の比率を算出した。この分析で得られた結果を表11に示す。
【0146】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図2】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図3】ジャガイモのデンプンの粘度特性を示すグラフ。ラピッドビスコアナライザ(Newport Scientific Pty Ltd., Investment Support Group, Warriewood NSW 2102, オーストラリア)を用いて分析を行った。分析を行った条件は「一般的な方法」の章でのRVA分析方法1で記載した。野生型(WT)植物、SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(038VL008及び038VL107)、又はSSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003及び108CF041)から試験デンプンを単離した。デンプンは、「実施例」「ジャガイモのデンプン抽出法」に記載した方法によって単離した。
【図4】野生型植物から単離したジャガイモデンプン顆粒の走査電子顕微鏡写真。
【図5】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下した植物(110CF003)から単離したジャガイモデンプン顆粒の走査電子顕微鏡写真。
【図6】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性の低下がすでに認められる植物の形質転換に使用したベクター、pGSV71−α−BEII−bastaの模式図。(RB:T−DNAの左境界、LB:R−DNAの右境界、CaMV35:カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモータ、NOS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、OCS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトピン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、B33:ジャガイモのパタチン遺伝子のプロモータ、BEII:ジャガイモBEII遺伝子のコーディング配列、棒:ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)のホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼをコードする配列)。
【図7】SSIIIタンパク質及びBEIタンパク質の活性が低下したトランスジェニック植物の生成のために使用したベクター、pB33−α−BE−α−SSIII−Kanの模式図(RB:T−DNAの左境界、LB:R−DNAの右境界、nos5’:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のプロモータ、nptII:ネオマイシンホスホトランスフェラーゼの活性をコードする遺伝子、nos3’:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、OCS:アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトピン合成酵素遺伝子のポリアデニル化配列、B33:ジャガイモのパタチン遺伝子のプロモータ、BE:ジャガイモBEI遺伝子のコーディング配列、SSIII:ジャガイモSSIII遺伝子のコーディング配列)。
【図8】株、038VL008、108CF041及び野生型のデンプン由来のアミロペクチンの溶出の全体図を示す。図に示されるように、バックグランド038VL008及び/又は相当する野生型とは対照的に、株108CF041における大きな側鎖の量は際立って高い。
【図9】較正曲線及び相当するデキストラン標準との表。
【図10】株、038VL008、108CF041及び野生型のデンプン由来のアミロペクチンの溶出の全体図を示す。図8とは違って、x軸は溶出体積を示さず、分子量を示す。図9の較正グラフの助けを借りて分子量分布の関数として、図8の溶出図を示す。
【図11】野生型のアミロペクチンの側鎖特性と比較して、株038VL008の植物のアミロペクチンの側鎖特性分布を示す。
【図12】野生型のアミロペクチンの側鎖特性と比較して、株108CF041の植物のアミロペクチンの側鎖特性分布を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的に改変された植物細胞であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、その植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招く、植物細胞。
【請求項2】
該遺伝的改変が、1以上の外来核酸分子の導入であり、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、請求項1に記載の植物細胞。
【請求項3】
前記外来遺伝子が、
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制効果を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;及び
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は異種配列の挿入を招く生体内突然変異誘発によって導入される核酸分子であって、突然変異又は挿入がSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNA及び前記センスRNAが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす二本鎖RNA分子を形成する、DNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は挿入を招き、それがSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、DNA分子;及び/又は
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入によって、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、T−DNA分子
から成る群から選択される、請求項2に記載のトランスジェニック植物細胞。
【請求項4】
遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて、改変されたデンプンを合成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物細胞。
【請求項5】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて、RVA解析において高い最終粘度を有することを特徴とする、請求項2に記載の植物細胞。
【請求項6】
改変されたデンプンが、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、高いゲル強度を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の植物細胞。
【請求項7】
改変されたデンプンが、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、改変された側鎖分布及び/又は改変されたデンプン顆粒の形態を有することを特徴とする、請求項4〜6の1項に記載の植物細胞。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞を含有する植物。
【請求項9】
植物細胞の遺伝的改変を含む、改変されたデンプンを合成する植物細胞を生成する方法であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く、方法。
【請求項10】
改変されたデンプンを合成する請求項9に記載の植物細胞を生成する方法であって、植物細胞が、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、方法。
【請求項11】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において最終的に高い粘度を有すること、
を特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
a)請求項9〜11のいずれか1項に記載の植物細胞を生成し;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物を再生し;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物を生成する、
遺伝的に改変された植物を生成する方法。
【請求項13】
a)植物細胞が、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、それぞれの場合において、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生され;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを生成する、請求項12に記載のトランスジェニック植物を生成する方法。
【請求項14】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において高い最終粘度を有することを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
デンプンを貯蔵する植物である、請求項8に記載の植物であるか、又は請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法によって得られる植物。
【請求項16】
ジャガイモ植物である、請求項15に記載の植物。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の、少なくとも1つの植物細胞を含有する、請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物の増殖材料。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞又は請求項8又は15〜16の1項に記載の植物を生成するための、少なくとも1つのSSIII、少なくとも1つのBEI及び/又は少なくとも1つのBEIIタンパク質又はそれらの断片の酵素活性を持つタンパク質をコードする1以上の核酸分子の使用。
【請求項19】
前記外来遺伝子が、
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制効果を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;及び
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は異種配列の挿入を招く生体内突然変異誘発によって導入される核酸分子であって、突然変異又は挿入がSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNA及び前記センスRNAが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす二本鎖RNA分子を形成する、DNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は挿入を招き、それがSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、DNA分子;及び/又は
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入によって、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、T−DNA分子
から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞又は請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物を生成するための、1以上の核酸分子の使用。
【請求項20】
少なくとも1つの核酸分子が、植物細胞に導入された後に、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのSSIIIタンパク質の低下、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIIタンパク質の低下及び好ましくはさらに、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIタンパク質の低下を招く、請求項19で定義された少なくとも1つの核酸分子を含む組成物。
【請求項21】
前記植物細胞における少なくとも1つの核酸分子の存在が、遺伝的に改変されていない、相当する野生型植物細胞に比べて、各場合において、少なくとも1つのSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招くことを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
核酸分子が組換え核酸分子中に存在する、請求項20又は21に記載の組成物。
【請求項23】
野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の低下した活性、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の低下した活性及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の低下した活性を持つ植物細胞を生成するための、請求項20〜22の1項に記載の組成物又は請求項19で定義された少なくとも1つの核酸分子を含有する組成物の使用。
【請求項24】
植物細胞の既存の遺伝的改変によってこれらタンパク質の活性がすでに低下していない限り、少なくとも1つの核酸分子が、各場合において、植物細胞に内因的に生じるSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、少なくとも1つの核酸分子及び少なくとも1つの植物細胞を含有する植物細胞のための形質転換システム。
【請求項25】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の組成物を含有する宿主細胞。
【請求項26】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の組成物を含有するトランスジェニック植物細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
請求項1〜7又は26のいずれか1項に記載の植物細胞、或いは請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物、或いは請求項17に記載の増殖材料から得ることができるデンプン。
【請求項28】
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において最終的に高い粘度を有することを特徴とする、請求項27に記載のデンプン。
【請求項29】
遺伝的に改変されていない、相当する野生型植物のデンプンに比べて、改変された側鎖分布を有することを特徴とする、請求項27又は28に記載のデンプン。
【請求項30】
遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、デンプン顆粒の顆粒の形態及び/又は平均顆粒サイズが改変されていることを特徴とする、請求項27〜29のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項31】
ジャガイモデンプンである、請求項27〜30のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項32】
請求項8又は15〜16の1項に記載の植物及び/又はそのような植物のデンプン貯蔵部分、及び/又は請求項1〜7又は26のいずれか1項に記載の植物細胞、及び/又は請求項17に記載の増殖材料からのデンプンの抽出物を含む、請求項27〜31のいずれか1項に記載のデンプンの製造方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法により得られる、請求項27〜31の1項に記載のデンプン。
【請求項34】
以下の特徴:
a)少なくとも300RVU、好ましくは少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUの、6%(w/w)デンプン水懸濁液のRVA分析における最終粘度;
b)mg当たりC6−Pのデンプンの40〜120nmol、好ましくは60〜100nmol、特に80〜100nmolのグルコースモノマーのC6位でのリン酸含量;
c)天然の形態でのデンプン顆粒の多孔性の表面
の少なくとも1つを有する請求項27〜31又は33のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項35】
特定の食材又は飼料材、色材、粘着剤、建材又は絶縁材における、請求項27〜31又は33又は34のいずれか1項に記載のデンプンを含有する加工製品。
【請求項36】
請求項8、15又は16のいずれか1項に記載の植物のデンプン含有部分。
【請求項37】
請求項12〜14のいずれか1項に記載の植物を生成し、植物又はそのデンプン含有部分からデンプンを得る方法を含む、植物のデンプンを改変する方法。
【請求項38】
デンプンの改変が
a)デンプンのアミロース含量を高めること;
b)デンプンのリン酸含量を、mgデンプン当たりC6−P 40〜120nmol、好ましくは60〜100nmol、特に80〜100nmolのグルコースモノマーのC6位でのリン酸含量に高めること;
c)デンプンの最終粘度を、少なくとも300RVU、好ましくは少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUの、特に6%(w/w)デンプン水懸濁液でのRVA分析における最終粘度に高めること;
d)ゲル化デンプンのゲル強度を高めること;及び/又は
e)形態、特に、もとのデンプン顆粒の表面構造、多孔性及び/又は顆粒サイズ分布
を含むことを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的に改変された植物細胞であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、その植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招くが、そうであるにもかかわらず、遺伝的に改変された細胞が改変されたデンプンを合成し、そのデンプンが、6%の水懸濁液をゼラチン化した後に、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞から抽出されたデンプンのゲル強度と比較して少なくとも300%増強されたゲル強度のゲルを形成する、植物細胞。
【請求項2】
該遺伝的改変が、1以上の外来核酸分子の導入であり、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、請求項1に記載の植物細胞。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物細胞を含む植物。
【請求項4】
a)改変されたデンプンを合成する植物細胞であって、そのデンプンが、6%の水懸濁液をゼラチン化した後に、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞から抽出されたデンプンのゲル強度と比較して少なくとも300%増強されたゲル強度のゲルを形成する細胞であり、植物細胞の遺伝的改変を含み、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の低下、その植物細胞に生じる1以上のBE1タンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招く遺伝的改変である、植物細胞を生成すること;
b)a)に従って生成された植物細胞から、又はそれを用いて、植物を再生し;そして
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物を生成する、
遺伝的に改変された植物を生成する方法。
【請求項5】
a)植物細胞が、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、それぞれの場合において、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生され;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを生成する、請求項4に記載のトランスジェニック植物を生成する方法。
【請求項6】
デンプンを貯蔵する植物である、請求項3に記載の植物であるか、又は請求項4又は5に記載の方法によって得られる植物。
【請求項7】
ジャガイモ植物である、請求項6に記載の植物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の、少なくとも1つの植物細胞を含有する、請求項3、6又は7に記載の植物の増殖材料。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の植物細胞又は請求項3、6又は7に記載の植物を生成するための、少なくとも1つのSSIII、少なくとも1つのBEI及び/又は少なくとも1つのBEIIタンパク質又はそれらの断片の酵素活性を持つタンパク質をコードする1以上の核酸分子の使用。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の植物細胞、或いは請求項3、6又は7に記載の植物、或いは請求項8に記載の増殖材料から得ることができるデンプン。
【請求項11】
ジャガイモデンプンである、請求項10に記載のデンプン。
【請求項12】
請求項3、6又は7に記載の植物及び/又はそのような植物のデンプン貯蔵部分、及び/又は請求項1又は2に記載の植物細胞、及び/又は請求項8に記載の増殖材料からのデンプンの抽出物を含む、請求項10又は11に記載のデンプンの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により得られる、請求項10又は11に記載のデンプン。
【請求項14】
請求項3、6又は7に記載の植物を生成し、植物又はそのデンプン含有部分からデンプンを得る方法を含む、植物のデンプンを改変する方法。
【請求項1】
遺伝的に改変された植物細胞であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、その植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招く、植物細胞。
【請求項2】
該遺伝的改変が、1以上の外来核酸分子の導入であり、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、請求項1に記載の植物細胞。
【請求項3】
前記外来遺伝子が、
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制効果を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;及び
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は異種配列の挿入を招く生体内突然変異誘発によって導入される核酸分子であって、突然変異又は挿入がSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNA及び前記センスRNAが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす二本鎖RNA分子を形成する、DNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は挿入を招き、それがSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、DNA分子;及び/又は
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入によって、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、T−DNA分子
から成る群から選択される、請求項2に記載のトランスジェニック植物細胞。
【請求項4】
遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて、改変されたデンプンを合成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物細胞。
【請求項5】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物に比べて、RVA解析において高い最終粘度を有することを特徴とする、請求項2に記載の植物細胞。
【請求項6】
改変されたデンプンが、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、高いゲル強度を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の植物細胞。
【請求項7】
改変されたデンプンが、遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、改変された側鎖分布及び/又は改変されたデンプン顆粒の形態を有することを特徴とする、請求項4〜6の1項に記載の植物細胞。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞を含有する植物。
【請求項9】
植物細胞の遺伝的改変を含む、改変されたデンプンを合成する植物細胞を生成する方法であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下を招く、方法。
【請求項10】
改変されたデンプンを合成する請求項9に記載の植物細胞を生成する方法であって、植物細胞が、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、方法。
【請求項11】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において最終的に高い粘度を有すること、
を特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
a)請求項9〜11のいずれか1項に記載の植物細胞を生成し;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物を再生し;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物を生成する、
遺伝的に改変された植物を生成する方法。
【請求項13】
a)植物細胞が、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、それぞれの場合において、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生され;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを生成する、請求項12に記載のトランスジェニック植物を生成する方法。
【請求項14】
改変されたデンプンが
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において高い最終粘度を有することを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
デンプンを貯蔵する植物である、請求項8に記載の植物であるか、又は請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法によって得られる植物。
【請求項16】
ジャガイモ植物である、請求項15に記載の植物。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の、少なくとも1つの植物細胞を含有する、請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物の増殖材料。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞又は請求項8又は15〜16の1項に記載の植物を生成するための、少なくとも1つのSSIII、少なくとも1つのBEI及び/又は少なくとも1つのBEIIタンパク質又はそれらの断片の酵素活性を持つタンパク質をコードする1以上の核酸分子の使用。
【請求項19】
前記外来遺伝子が、
a)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす少なくとも1つのアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
b)共抑制効果を介して、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下を招くDNA分子;
c)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の転写物を特異的に切断する少なくとも1つのリボザイムをコードするDNA分子;及び
d)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は異種配列の挿入を招く生体内突然変異誘発によって導入される核酸分子であって、突然変異又は挿入がSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる核酸分子;
e)少なくとも1つのアンチセンスRNA及び少なくとも1つのセンスRNAを同時にコードするDNA分子であって、前記アンチセンスRNA及び前記センスRNAが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低下をもたらす二本鎖RNA分子を形成する、DNA分子;
f)トランスポゾンを含有するDNA分子であって、トランスポゾン配列の組込みが、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子において突然変異又は挿入を招き、それがSSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、DNA分子;及び/又は
g)SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの内因性遺伝子への挿入によって、SSIIIタンパク質及び/又はBEIタンパク質及び/又はBEIIタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現の低下を招く、又は不活性のSSIII及び/又はBEI及び/又はBEIIタンパク質の合成を生じる、T−DNA分子
から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物細胞又は請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物を生成するための、1以上の核酸分子の使用。
【請求項20】
少なくとも1つの核酸分子が、植物細胞に導入された後に、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのSSIIIタンパク質の低下、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIIタンパク質の低下及び好ましくはさらに、植物細胞に内因的に生じる少なくとも1つのBEIタンパク質の低下を招く、請求項19で定義された少なくとも1つの核酸分子を含む組成物。
【請求項21】
前記植物細胞における少なくとも1つの核酸分子の存在が、遺伝的に改変されていない、相当する野生型植物細胞に比べて、各場合において、少なくとも1つのSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招くことを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
核酸分子が組換え核酸分子中に存在する、請求項20又は21に記載の組成物。
【請求項23】
野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の低下した活性、植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の低下した活性及び植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の低下した活性を持つ植物細胞を生成するための、請求項20〜22の1項に記載の組成物又は請求項19で定義された少なくとも1つの核酸分子を含有する組成物の使用。
【請求項24】
植物細胞の既存の遺伝的改変によってこれらタンパク質の活性がすでに低下していない限り、少なくとも1つの核酸分子が、各場合において、植物細胞に内因的に生じるSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、少なくとも1つの核酸分子及び少なくとも1つの植物細胞を含有する植物細胞のための形質転換システム。
【請求項25】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の組成物を含有する宿主細胞。
【請求項26】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の組成物を含有するトランスジェニック植物細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
請求項1〜7又は26のいずれか1項に記載の植物細胞、或いは請求項8又は15〜16のいずれか1項に記載の植物、或いは請求項17に記載の増殖材料から得ることができるデンプン。
【請求項28】
a)少なくとも30%のアミロース含量を有すること;
b)遺伝的に改変されていない相当する野生型植物のデンプンに比べて、リン酸含量が高いこと、及び
c)遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、RVA解析において最終的に高い粘度を有することを特徴とする、請求項27に記載のデンプン。
【請求項29】
遺伝的に改変されていない、相当する野生型植物のデンプンに比べて、改変された側鎖分布を有することを特徴とする、請求項27又は28に記載のデンプン。
【請求項30】
遺伝的に改変されていない野生型植物のデンプンに比べて、デンプン顆粒の顆粒の形態及び/又は平均顆粒サイズが改変されていることを特徴とする、請求項27〜29のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項31】
ジャガイモデンプンである、請求項27〜30のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項32】
請求項8又は15〜16の1項に記載の植物及び/又はそのような植物のデンプン貯蔵部分、及び/又は請求項1〜7又は26のいずれか1項に記載の植物細胞、及び/又は請求項17に記載の増殖材料からのデンプンの抽出物を含む、請求項27〜31のいずれか1項に記載のデンプンの製造方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法により得られる、請求項27〜31の1項に記載のデンプン。
【請求項34】
以下の特徴:
a)少なくとも300RVU、好ましくは少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUの、6%(w/w)デンプン水懸濁液のRVA分析における最終粘度;
b)mg当たりC6−Pのデンプンの40〜120nmol、好ましくは60〜100nmol、特に80〜100nmolのグルコースモノマーのC6位でのリン酸含量;
c)天然の形態でのデンプン顆粒の多孔性の表面
の少なくとも1つを有する請求項27〜31又は33のいずれか1項に記載のデンプン。
【請求項35】
特定の食材又は飼料材、色材、粘着剤、建材又は絶縁材における、請求項27〜31又は33又は34のいずれか1項に記載のデンプンを含有する加工製品。
【請求項36】
請求項8、15又は16のいずれか1項に記載の植物のデンプン含有部分。
【請求項37】
請求項12〜14のいずれか1項に記載の植物を生成し、植物又はそのデンプン含有部分からデンプンを得る方法を含む、植物のデンプンを改変する方法。
【請求項38】
デンプンの改変が
a)デンプンのアミロース含量を高めること;
b)デンプンのリン酸含量を、mgデンプン当たりC6−P 40〜120nmol、好ましくは60〜100nmol、特に80〜100nmolのグルコースモノマーのC6位でのリン酸含量に高めること;
c)デンプンの最終粘度を、少なくとも300RVU、好ましくは少なくとも400RVU、特に少なくとも500RVUの、特に6%(w/w)デンプン水懸濁液でのRVA分析における最終粘度に高めること;
d)ゲル化デンプンのゲル強度を高めること;及び/又は
e)形態、特に、もとのデンプン顆粒の表面構造、多孔性及び/又は顆粒サイズ分布
を含むことを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的に改変された植物細胞であって、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の活性の低下、その植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIタンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招くが、そうであるにもかかわらず、遺伝的に改変された細胞が改変されたデンプンを合成し、そのデンプンが、6%の水懸濁液をゼラチン化した後に、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞から抽出されたデンプンのゲル強度と比較して少なくとも300%増強されたゲル強度のゲルを形成する、植物細胞。
【請求項2】
該遺伝的改変が、1以上の外来核酸分子の導入であり、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない、野生型植物の、相当する植物細胞に比べて、植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の活性の低下を招く、請求項1に記載の植物細胞。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物細胞を含む植物。
【請求項4】
a)改変されたデンプンを合成する植物細胞であって、そのデンプンが、6%の水懸濁液をゼラチン化した後に、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞から抽出されたデンプンのゲル強度と比較して少なくとも300%増強されたゲル強度のゲルを形成する細胞であり、植物細胞の遺伝的改変を含み、遺伝的改変が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、その植物細胞に内因的に生じる1以上のSSIIIタンパク質の低下、その植物細胞に生じる1以上のBE1タンパク質の活性の低下及びその植物細胞に内因的に生じる1以上のBEIIタンパク質の活性の低下、を招く遺伝的改変である、植物細胞を生成すること;
b)a)に従って生成された植物細胞から、又はそれを用いて、植物を再生し;そして
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物を生成する、
遺伝的に改変された植物を生成する方法。
【請求項5】
a)植物細胞が、その存在及び/又は発現が、遺伝的に改変されていない野生型植物の相当する植物細胞に比べて、それぞれの場合において、SSIII及びBEI及びBEIIタンパク質の少なくとも1つの活性の低下を招く、1以上の外来核酸分子の導入によって遺伝的に改変され;
b)a)に従って生成される植物細胞から、又はそれを用いて、植物が再生され;及び
c)それが適切であるなら、工程b)に従って生成された植物からさらに植物が生成される、
改変されたデンプンを生成する、請求項4に記載のトランスジェニック植物を生成する方法。
【請求項6】
デンプンを貯蔵する植物である、請求項3に記載の植物であるか、又は請求項4又は5に記載の方法によって得られる植物。
【請求項7】
ジャガイモ植物である、請求項6に記載の植物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の、少なくとも1つの植物細胞を含有する、請求項3、6又は7に記載の植物の増殖材料。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の植物細胞又は請求項3、6又は7に記載の植物を生成するための、少なくとも1つのSSIII、少なくとも1つのBEI及び/又は少なくとも1つのBEIIタンパク質又はそれらの断片の酵素活性を持つタンパク質をコードする1以上の核酸分子の使用。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の植物細胞、或いは請求項3、6又は7に記載の植物、或いは請求項8に記載の増殖材料から得ることができるデンプン。
【請求項11】
ジャガイモデンプンである、請求項10に記載のデンプン。
【請求項12】
請求項3、6又は7に記載の植物及び/又はそのような植物のデンプン貯蔵部分、及び/又は請求項1又は2に記載の植物細胞、及び/又は請求項8に記載の増殖材料からのデンプンの抽出物を含む、請求項10又は11に記載のデンプンの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により得られる、請求項10又は11に記載のデンプン。
【請求項14】
請求項3、6又は7に記載の植物を生成し、植物又はそのデンプン含有部分からデンプンを得る方法を含む、植物のデンプンを改変する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2006−511235(P2006−511235A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502564(P2005−502564)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014840
【国際公開番号】WO2004/056999
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(500137954)バイエル クロップサイエンス ゲーエムベーハー (31)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014840
【国際公開番号】WO2004/056999
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(500137954)バイエル クロップサイエンス ゲーエムベーハー (31)
【Fターム(参考)】
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