説明

高せん断加工装置

【課題】内部帰還型スクリューが芯振れを起こさないで効率よくせん断加工できる。
【解決手段】高せん断加工装置20は、内部に溶融樹脂が導入される加熱筒22と、加熱筒22内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴34を連通させた内部帰還型スクリュー23とを備えた。加熱筒22の内周面25と内部帰還型スクリュー23の外周面30の間に外周クリアランス38を形成し、加熱筒22の底部と内部帰還型スクリュー23の先端部との間に先端クリアランス39を形成した。加熱筒22の底部は中央の底面26とその周囲の傾斜面27を有し、内部帰還型スクリュー23の先端部は帰還穴34の流入口33を有する先端面31とその周囲のテーパ面32を有する。傾斜面27とテーパ面32は対向し、流動する溶融樹脂の組成が不均一でも樹脂圧の分力は中心軸線Oに直交する方向に働き、高速回転する内部帰還型スクリュー23の芯振れを抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料等の各種材料を高せん断加工することによって、高分子材料等の各種材料を微細レベルに分散・混合するための高せん断加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶性)ブレンド系の材料において、相溶化剤等の余分な添加物を加えることなく、例えば数十ナノメーターサイズの分散相を有する高分子ブレンド押出し物を製造するための高せん断加工機が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
例えば特許文献1や特許文献2に記載された高せん断加工機は、内部帰還型の高せん断スクリューである内部帰還型スクリューを回転可能に収容した加熱筒を有している。
【0003】
例えば図6に示す高せん断加工機1では、略有底円筒状の加熱筒2と加熱筒2内に回転可能に収容された内部帰還型スクリュー3とを備えている。内部帰還型スクリュー3は略円柱状に形成されており、螺旋状のスクリュー羽根4を有する外周面5と、先端面6の中央から内部を回転軸線Oに沿って後方の基部側に延びていると共に途中で外周面5に開口するよう湾曲形成された帰還穴7とを有している。
そして、加熱筒2と内部帰還型スクリュー3との間に略有底円筒形状のクリアランス10が形成されている。このクリアランス10は、内部帰還型スクリュー3の外周面5と加熱筒2の内周面8との間の外周クリアランス11と、内部帰還型スクリュー3の先端面6と加熱筒2の底面12との間の先端クリアランス13とで形成されている。
【0004】
加熱筒2内の外周クリアランス11に溶融状態の高分子材料を供給して、内部帰還型スクリュー3を例えば500〜3000min−1の回転数で高速回転させて数分間混練する。
混練に際して、溶融した高分子材料はスクリュー羽根4でせん断加工を受けながら外周クリアランス11内を前進して内部帰還型スクリュー3の先端面6と加熱筒2の底面12との間の先端クリアランス13に移動してこのスクリュー3の帰還穴7を通って後方に帰還し、外周クリアランス11に戻されて循環移動させられる。この循環運動によって、外周クリアランス11内の高分子材料は旋回するスクリュー羽根4で繰り返しせん断され、ナノ分散化されて耐熱性、機械的特性、寸法安定性等に優れた高分子ブレンド押出し物を製造するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−313608号公報
【特許文献2】国際公開第2010/089997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の高せん断加工機1においては、供給口から外周クリアランス11内に供給される高分子材料中に不均一な組成の材料が含まれていると、内部帰還型スクリュー3にかかるラジアル方向の荷重に対して内部帰還型スクリュー3の中心軸線Oが径方向に振れやすくなり、外周クリアランス11に対して偏心するおそれがある。
内部帰還型スクリュー3が径方向に振れると外周クリアランス11の幅が変動してしまい、内部帰還型スクリュー3の周囲で外周クリアランス11の幅に偏りが発生すると、内部帰還型スクリュー3が加熱筒2の内周面8に接触してしまうおそれがあり、スクリュー羽根4による高せん断加工を十分に行えないという不具合を生じる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて、高速回転による高せん断加工に際し、材料の組成が不均一であっても、内部帰還型スクリューが芯振れを起こさないで効率よく高せん断加工できるようにした高せん断加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る高せん断加工装置は、せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工装置において、内部に材料が導入される加熱筒と、加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、加熱筒及び内部帰還型スクリューの間の周面と先端部に形成されていて材料を流動させるクリアランスとを備え、加熱筒及び内部帰還型スクリューの先端部には断面略テーパ状または円弧状の凹部と凸部が対向して形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明による高せん断加工装置によれば、加熱筒と内部帰還型スクリューとの間のクリアランスに供給された可塑化材料等の材料は、内部帰還型スクリューの回転によって高せん断加工されると共にクリアランスと帰還穴とを循環して分散及び混合される。その際、先端部において内部帰還型スクリューと加熱筒に断面テーパ状または円弧状の凸部と凹部が対向して形成されているから、断面テーパ状または円弧状のクリアランスを流動する材料の圧力によって内部帰還型スクリューの中心軸線に垂直方向の分力が働くために、高速回転時における内部帰還型スクリューの芯振れを抑制できる。
【0010】
また、内部帰還型スクリューの先端部は略円錐台形状、略円錐形状また凸曲面形状のいずれかに形成され、加熱筒の先端部の底部は略円錐台形状、略円錐形状また凹曲面形状のいずれかに形成されていることが好ましい。
高せん断加工装置を構成する内部帰還型スクリューの先端部と加熱筒の先端部の底部が上述したいずれかの構成を備えたことによって、高速回転による内部帰還型スクリューの芯振れを、クリアランスを流動する材料の圧力と、加熱筒の底部の略円錐台形状、略円錐形状また凹曲面形状によって受けることで、抑制できる。
【0011】
また、クリアランスは、断面略テーパ状または円弧状の凸部と凹部が対向して形成されている先端クリアランスを有し、先端クリアランス内を流動する材料によって内部帰還型スクリューの中心軸線に直交する方向の分力が作用するようにしてもよい。
先端クリアランスにおいて、流動する材料の圧力によって内部帰還型スクリューの中心軸線に直交する方向の分力が中心軸線方向に働くために、内部帰還型スクリューを高速回転させても芯振れを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による高せん断加工装置によれば、加熱筒と内部帰還型スクリューに断面テーパ状または円弧状の凹部と凸部が対向して形成されているから、加熱筒と内部帰還型スクリューとの間のクリアランスに供給された可塑化材料等の材料は、断面テーパ状または円弧状の凹部と凸部を対向させたクリアランスを流動する材料の圧力によって内部帰還型スクリューの中心軸線に垂直方向の分力が働くために、不均一な組成の樹脂がクリアランス内を流動しても、回転時における内部帰還型スクリューの芯振れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態による高せん断加工装置の概略構成を示す要部断面図である。
【図2】(a)は図1に示す実施形態による高せん断加工装置においてクリアランスにかかる樹脂圧力の相対的な大きさを矢印の長さと方向で示す模式図、(b)は(a)と同様に図6に示す従来の高せん断加工機におけるクリアランスにかかる樹脂圧力の相対的な大きさを示す模式図である。
【図3】本発明の第二実施形態による高せん断加工装置の概略構成を示す要部断面図である。
【図4】本発明の第三実施形態による高せん断加工装置の概略構成を示す要部断面図である。
【図5】第一実施形態による高せん断加工装置の実施例について後部樹脂圧と前部樹脂圧と先端樹脂圧を測定した結果を示すグラフである。
【図6】従来の高せん断加工機の概略構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第一実施形態による高せん断加工装置について、図1及び図2に基づいて説明する。
図1に示す第一実施形態による高せん断加工装置20は、例えば高分子材料を溶融状態にして高せん断応力を与えつつ混練することで、樹脂の内部構造をナノレベル等の微細レベルまで分散して混合するものである。
【0015】
高せん断加工装置1で使用される高分子材料として、例えば非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、ポリマーブレンド/フィラー系の樹脂材料等のブレンド材料が挙げられる。非相溶性ポリマーブレンド系として、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)の組み合わせや、ポリカーボネート(PC)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の組み合わせがある。ポリマー/フィラー系としては、例えばポリ乳酸とカーボンナノチューブ(CNT)の組み合わせがあり、ポリマーブレンド/フィラー系として、例えばPVDFとポリアミド6とCNTとの組み合わせなどがある。
なお、本発明では高分子系材料として高分子ブレンド材料に限定されることなく、他のブレンド材料や、ブレンドしない単一の分子材料等を高せん断してナノ分散化することもできる。或いは、高分子系でない他の適宜の材料を用いることができる。
【0016】
本実施形態による高せん断加工装置20は、例えばペレット形状をなす固体状の高分子ブレンド系の樹脂(以下、「固体状樹脂」という)を図示しない可塑化ユニットに投入して可塑化した溶融樹脂を射出ノズルによって供給口21から加熱筒22内に注入して溶融樹脂をナノ分散化させるようにしている。
高せん断加工装置20では、略有底円筒状の加熱筒22と、加熱筒22内に回転可能に収容された内部帰還型スクリュー23とを備えている。なお、本実施形態による高せん断加工装置20において、内部帰還型スクリュー23の中心軸線O方向でこのスクリュー23による送り方向前方を「前方」、「前端」、「先端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。
【0017】
加熱筒22は内部帰還型スクリュー23を収容する内周面25と内奧の底面26とを有し、内周面25と底面26との間に断面テーパ状の傾斜面27を有している。また、加熱筒22の底面26の中央には中心軸線Oと同軸に排出口28が形成され、高速せん断加工された材料は排出口28から外部に排出される。なお、材料の供給口21と排出口28には開閉用のバルブ21a、28aが設けられている。
そして、供給口21に設けた供給バルブ21aは予め設定された時間等に応じて溶融樹脂の注入量を制御することが可能な自動開閉式とされ、本実施形態では排出バルブ28aの開閉動作に連動しているものとする。
【0018】
内部帰還型スクリュー23は略円柱状に形成されており、螺旋状のスクリュー羽根29を有する外周面30と、加熱筒22の底面26に対応する先端面31とを有している。そして、内部帰還型スクリュー23の外周面30と先端面31との間には加熱筒22の傾斜面27に対向するテーパ面32が形成されている。
内部帰還型スクリュー23には、その先端面31の流入口33から回転中心をなす中心軸線Oに沿って後方に延びる帰還穴34が形成されており、この帰還穴34は途中で中心軸線Oから次第に離間して1または複数に分岐されて湾曲することで外周面30に吐出口35によって開口している。帰還穴34の吐出口35は供給口21よりも後側また略同一位置に設けられている。
【0019】
また、内部帰還型スクリュー23の後端側に設けた軸部37には軸受を介して例えばサーボモータからなる駆動モータが連結されている。内部帰還型スクリュー23は駆動モータにより、例えば100〜3300min−1の回転数で高速回転させられて溶融樹脂を混練しつつ高せん断することができる。
【0020】
そして、内部帰還型スクリュー23の外周面30と加熱筒22の内周面25との間には略円筒状をなす外周クリアランス38が形成され、内部帰還型スクリュー23の先端面31及びテーパ面32と加熱筒22の底面26及び傾斜面27との間には略円錐台形状の先端クリアランス39がそれぞれ形成され、互いに連通している。
また、スクリュー羽根29の間の溝面29aが内部帰還型スクリュー23の中心軸線Oに平行となる構成、すなわち外周クリアランス38における加熱筒22の内周面と内部帰還型スクリュー23の外周面のスクリュー羽根29(または溝面29a)との間の隙間が中心軸線O方向にわたって略一定の間隙S1となっている。内部帰還型スクリュー23の先端面31及びテーパ面32と加熱筒22の底面26及び傾斜面27との隙間を構成する先端クリアランス39は略一定幅の間隙S2を有している。
そのため、外周クリアランス38と先端クリアランス39、即ち間隙S1と間隙S2とでクリアランスKによる高せん断領域が形成されている。
【0021】
帰還穴34において、流入口33が高せん断中に帰還穴34内を流れる溶融樹脂の上流側となり、吐出口35が下流側となる。つまり、クリアランスKの外周クリアランス38に注入された溶融樹脂は、内部帰還型スクリュー34の回転とともに溝面29aに沿って先端側に送られ、先端面31及びテーパ面32と加熱筒23の底面26及び傾斜面27とで形成された先端クリアランス39において流入口33より帰還穴34に流入して後方へ流れて吐出口35より外周クリアランス38へ吐出され、再び内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側へ送られる循環がなされる。そのため、流入口33が先端クリアランス39で最も低圧になる。
また、内部帰還型スクリュー23の基端部41は、スクリュー羽根29が形成されていない外周クリアランス38の範囲外の後部側位置に設けられていて、スクリュー羽根29の外径と同等或いはそれより大きい径に形成された円柱状領域を有する。この基端部は加熱筒23の内周面25に対して液密に摺動可能となっている。
【0022】
ここで、図2において、本実施形態と従来技術による高せん断加工装置のクリアランスにおける樹脂圧力について説明する。
図6に示す従来の高せん断加工機1では、図2(b)に示すように、加熱筒2と内部帰還型スクリュー3によるクリアランス10を流動する溶融樹脂に関し、外周クリアランス11は略円筒形状であるため、外周クリアランス11内の溶融した樹脂圧は、後部樹脂圧Vaから溶融樹脂の送り方向である先端側の前部樹脂圧Vbにかけて次第に樹脂圧が増大する傾向にある。そして、外周クリアランス11から先端クリアランス13に移動した溶融樹脂の樹脂圧Vcは流入口33に向けて次第に低下する。
【0023】
一方、図1に示す本実施形態による高せん断加工装置20では、図2(a)に示すように、外周クリアランス38内を流動する樹脂圧は、従来技術と同様に後部樹脂圧Vaから先端側の前部樹脂圧Vbにかけて次第に樹脂圧が増大する傾向にある。そして、溶融樹脂が外周クリアランス38から先端クリアランス39へ流動すると、内部帰還型スクリュー23のテーパ面32及び加熱筒22の傾斜面27の間の空間と先端面31及び底面26の間の空間とで形成される先端クリアランス39を流動するが、この先端クリアランス39の面積は従来技術による先端クリアランス13の面積より大きく帰還穴34の流入口33に向けて流動する溶融樹脂の流路が従来の高せん断加工機1より長いので圧力損失が大きいという特性を呈する。
なお、加熱筒22において、外周クリアランス38の後側と前側に後部樹脂圧センサー36a、前部樹脂圧センサー36bを設け、先端クリアランス39の中央に先端樹脂圧センサー36cを設けている。
【0024】
本実施形態による高せん断加工装置20は上述の構成を備えており、次にその作用について説明する。
図1に示す高せん断加工装置20において、例えば高分子材料を可塑化させた溶融樹脂を射出ノズルから供給口21を通して加熱筒22内の外周クリアランス38に注入する。
高せん断加工装置20では、加熱筒22内の内部帰還型スクリュー23を例えば300min−1以下の低速回転で回転させて、加熱筒22内の空のクリアランスKに溶融樹脂を注入することで、溶融樹脂によって内部の空気が排出口28から排出され、加熱筒22内の外周クリアランス38及び先端クリアランス39、そして帰還穴34内が溶融樹脂で次第に満たされる。
そして、溶融樹脂の注入を完了させると、注入バルブ21a及び排出バルブ28aを閉じる。
【0025】
注入バルブ21aと排出バルブ28aを閉じた段階で、高せん断加工装置20で高せん断加工が行われる。高せん断加工装置20では、加熱筒22内の内部帰還型スクリュー23を高速回転させる。高速回転数は投入される樹脂材料によって決定されるが、本実施形態では、上述した低速回転より高速回転である例えば100〜3300min−1で回転させ、クリアランスK及び帰還穴34を循環する溶融樹脂に対して、外周クリアランス38内でスクリュー羽根29の回転によって所定の設定時間だけ高せん断を行う。
【0026】
このとき、先端クリアランス39では、内部帰還型スクリュー23と加熱筒22とで、テーパ面32及び傾斜面27、そして先端面31及び底面26の間隙の面積が従来技術のものより大きいため、その間の圧力損失が大きい。そのため、帰還穴34の流入口33での低下した圧力に対して、溶融樹脂は外周クリアランス38内では高圧に保持されるから、高速回転する内部帰還型スクリュー23のスクリュー羽根29によって高いせん断力を受ける。
【0027】
しかも、図2(a)に示すように、内部帰還型スクリュー23では、先端クリアランス39のテーパ面32に印加される中心軸線Oに対して斜め方向の樹脂圧Vdに関し、中心軸線Oに直交する方向の分力Faが中心軸線O方向に全周に亘って働くため、不均一な組成の溶融樹脂が流動しても、高速回転による内部帰還型スクリュー23の芯ぶれを抑制できる。
また、高速回転する内部帰還型スクリュー23は、中心軸線Oに対して傾斜する先端のテーパ面32と加熱筒22の底部の傾斜面27とが先端クリアランス39の小さな間隙S2を以て略同一の角度で対向して傾斜保持されているから、内部帰還型スクリュー23の芯ぶれが断面テーパ状のテーパ面32と加熱筒22の傾斜面27との間の樹脂圧によって抑制される。
【0028】
そして、外周クリアランス38から先端クリアランス39へ移送させられる溶融樹脂は、内部帰還型スクリュー23のテーパ面32を中心軸線Oに向かって流動性良く流れて先端面31で流入口33から帰還穴34内に流入される。そのため、先端クリアランス39において流入口33の圧力はテーパ面32の有無に関わらず所定の低圧に制御される。
その後、溶融樹脂は帰還穴34内を中心軸線Oに沿って後方へ流れる。更に、溶融樹脂は遠心力で帰還穴34の吐出口35から内部帰還型スクリュー23の外周面30に流出して外周クリアランス38に帰還し、再び外周クリアランス39内を先端側に移送されるといった循環流動を高速で繰り返す。
これによって、溶融樹脂が循環流動によって混練されると共に高せん断応力が付与される。この循環により溶融樹脂はナノ分散化され、高分子材料の内部構造をナノレベルで分散及び混合できる。
【0029】
次に、設定された高せん断加工時間に到達したときには、内部帰還型スクリュー23の回転速度を高速回転から中速回転に切り替える。中速回転とは上述した低速回転より大きく高速回転より小さい回転数領域であり、例えば200〜1000min−1である。そして、供給バルブ21aと排出バルブ28aを開けて、供給口21と排出口28を開放する。
これにより、高せん断により加工されたクリアランスK内のナノ分散樹脂が内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側の排出口28から排出され、排出された高分子材料の溶融樹脂を高分子ブレンド押出し物として得ることができる。
【0030】
そして、予め設定した排出時間に到達し、高せん断加工装置20の加熱筒22内で製造したナノ分散樹脂が全て排出された状態に至る。そのため、高せん断加工装置20の内部帰還型スクリュー23を中速回転から低速回転に戻して回転させつつ、新たな溶融樹脂を供給口21から加熱筒22内に射出する。
このようにして、同様のステップを繰り返すことにより、順次、固体状樹脂を高せん断して高分子材料をナノレベルで分散・混合することができる。
【0031】
上述のように本実施形態による高せん断加工装置20によれば、先端部において内部帰還型スクリュー23と加熱筒22にテーパ面32と傾斜面27を対向して形成したから、先端クリアランス39を流動する溶融樹脂の中心軸線Oに対して斜め方向の樹脂圧Vdの垂直方向の分力Faが中心軸線O方向に働くために、不均一な組成の樹脂が流動しても、高速回転時における内部帰還型スクリュー23の芯振れを抑制できる。
【0032】
以上、第一の実施形態による高せん断加工装置20について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。次に、本発明の他の実施形態について説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部材、部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0033】
次に、図3に基づいて本発明の第二の実施形態による高せん断加工装置40について説明する。
本実施形態による高せん断加工装置40では、加熱筒22の先端部の底部が略円錐形状の凹曲面41に形成され、内部帰還型スクリュー23の先端部が略円錐形状の凸曲面42に形成されている。しかも、内部帰還型スクリュー23の凸曲面42と加熱筒22の凹曲面41は先端クリアランス39を構成する小さな間隙S2を以て対向して、中心軸線Oに対して鋭角で傾斜するテーパ面が全周に亘って形成されている。
凸曲面42の頂部を中心軸線Oが貫通すると共に、この頂部に帰還穴34の流入口33が形成されている。
【0034】
そのため、対向する略円錐形状の凹曲面41と凸曲面42とで形成する先端クリアランス39内を流動する溶融樹脂によって、円錐の頂部を通る中心軸線Oを中心として全周に亘る斜め方向の樹脂圧Vdが発生し、これによって垂直方向の分力Faが中心軸線O方向に働くことになる。しかも、内部帰還型スクリュー23の凸曲面42は全周に亘って凹曲面41で支持される。そのため、本実施形態においても、高速回転時における内部帰還型スクリュー23の芯振れを抑制できる。
【0035】
従って、本第二実施形態による高せん断加工装置40においても、その先端部において内部帰還型スクリュー23と加熱筒22に略円錐形状の凸曲面42と凹曲面41とを対向させて上述の従来技術よりも大きな面積の先端クリアランス39を形成したから、その内部を流動する溶融樹脂の圧力Vdによって中心軸線Oに対して垂直方向の分力Faが中心軸線Oに向けて全周に働くため、高速回転時における内部帰還型スクリュー23の芯振れを抑制できる。
【0036】
次に、図4に基づいて本発明の第三の実施形態による高せん断加工装置50について説明する。
本実施形態による高せん断加工装置50では、加熱筒22の先端部の底部が中心軸線Oと交差する点を最も先端側に突出する略球体の一部形状からなる凹曲面51に形成され、内部帰還型スクリュー23の先端部も同様に略球体の一部形状からなる凸曲面52に形成されている。しかも、これら凸曲面52と凹曲面51は小さな間隙S2を以て対向して先端クリアランス39を構成する。
【0037】
従って、本第三実施形態による高せん断加工装置50においても、その先端部において内部帰還型スクリュー23と加熱筒22に略球体形状の凸曲面52と凹曲面51とを対向させて上述の従来技術よりも大きな面積の先端クリアランス39を形成したから、その内部を流動する溶融樹脂の圧力Vdによって中心軸線Oに対して垂直方向の分力Faが中心軸線Oに向けて全周に働くため、高速回転時における内部帰還型スクリュー23の芯振れを抑制できる。
【0038】
次に、実施例として、第一実施形態による高せん断加工装置20を用いて樹脂圧を測定した。
外周クリアランス38の最も後端側の樹脂圧を後部樹脂圧Vaとし、外周クリアランス38の最も先端側(先端クリアランス39との交差部)の樹脂圧を前部樹脂圧Vbとし、先端クリアランス39の中央の樹脂圧を先端樹脂圧Vcとして測定した。これらの測定は後部、前部、先端樹脂圧センサー36a、36b、36cによりそれぞれ測定した。
測定に際し、内部帰還型スクリューは全長450mmとし、回転速度は750min−1とし、50ミリセックに1回データのサンプリングをして波形を表示した。また、1回の高せん断処理時間を20秒として40秒間隔で20回測定した。
【0039】
図5に示す測定結果から、高せん断加工装置20における外周クリアランス38と先端クリアランス39と帰還穴34とからなる溶融樹脂の循環路において、当初、前部樹脂圧Vbが最も高い14.40MPaであり、先端面31の流入口33の先端樹脂圧Vcは前部樹脂圧Vbより若干低いが高い樹脂圧=12.50MPaであった。そして、溶融樹脂の循環が繰り返されることで、スクリュー羽根29で繰り返してせん断されて発熱して粘度が低下するため、樹脂圧Vb,Vcは次第に低下していった。
後部樹脂圧Vaは、高せん断加工装置20の駆動開始時の樹脂圧がほとんどなく、その後1.30PMa前後に上昇し、次第に低下していった。
【0040】
上記の測定結果から、実施例による高せん断加工装置20では、先端クリアランス39において、外端側の前部樹脂圧Vbと中央の循環穴34の流入口33近傍の先端樹脂圧Vcはいずれも高せん断加工の間中、次第に低下しながら高い樹脂圧に維持された。そのため、これら先端クリアランス39内の樹脂圧によって内部帰還型スクリュー23の芯振れ防止効果を発揮できることを確認できた。
【0041】
上述した第一及び第二実施形態において、加熱筒22の底部と内部帰還型スクリュー23の先端部に、傾斜面27とテーパ面32または略円錐形状の凹曲面41と凸曲面42が対向して形成されているものとしたが、これらの断面形状は直線状である必要はなく断面凸曲線や凹曲線などの曲線形状であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
20,40,50 高せん断加工装置
22 加熱筒
23 内部帰還型スクリュー
25 内周面
26 底面
27 傾斜面
29 スクリュー羽根
30 外周面
31 先端面
32 テーパ面
33 流入口
34 帰還穴
35 吐出口
38 外周クリアランス
39 先端クリアランス
41、51 凹曲面
42、52 凸曲面
K クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工装置において、
内部に材料が導入される略有底円筒状の加熱筒と、
該加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、
前記加熱筒及び前記内部帰還型スクリューの間の周面と先端部に形成されていて前記材料を流動させるクリアランスとを備え、
前記加熱筒及び前記内部帰還型スクリューの先端部には断面略テーパ状または円弧状の凹部と凸部が対向して形成されている
ことを特徴とする高せん断加工装置。
【請求項2】
前記内部帰還型スクリューの先端部は略円錐台形状、略円錐形状また凸曲面形状のいずれかに形成され、前記加熱筒の先端部の底部は略円錐台形状、略円錐形状また凹曲面形状のいずれかに形成されている請求項1に記載された高せん断加工装置。
【請求項3】
前記クリアランスは、前記断面略テーパ状または円弧状の凹部と凸部が対向して形成されている先端クリアランスを有し、該先端クリアランス内を流動する材料によって前記内部帰還型スクリューの中心軸線に直交する方向の分力が作用するようにした請求項1または2に記載された高せん断加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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