説明

高アスペクト比凹凸形状に薄膜を成膜する方法

【課題】短時間かつ低コストな高アスペクト比凹凸形状の薄膜形成方法を提供すること。
【解決手段】基板表面に成膜する過程で当該基板を加熱することでマイグレーション現象により複数の成膜粒子を移動集合させて薄膜単位を形成し、これら複数の薄膜単位により基板表面に高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種成膜装置により被成膜対象である基板等にナノスケールの膜厚で薄膜パターンを成膜する場合において、高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンに成膜する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記高アスペクト比凹凸形状とは、基板上で薄膜パターンを構成する薄膜単位が基板表面において不連続となって隣り合う薄膜単位間で基板表面が露出し、かつ、その断面形状が基板表面に対して高アスペクト比の凹凸をなしている形状をいう。高アスペクト比とは薄膜単位の断面形状において膜幅と膜高さとの比率(=膜高さ/膜幅)が所定値以上の形状を言う。したがって、薄膜単位のその断面は矩形形状に限らず、任意形状である。
【0003】
こうした高アスペクト比凹凸形状の多数の薄膜単位で構成される薄膜パターンは、例えば、LED反射用基板とか、太陽光吸収用基板等の分野において用いられる。その基板上の高アスペクト比凹凸形状薄膜パターンにより、例えばLED反射用基板であれば、正面方向からはLED光を高反射率で反射し、また、太陽光吸収用基板であれば、正面からは太陽光を高効率で吸収することができる一方、側面方向では低反射率となり、反射率に異方性がある。
【0004】
そして、標準的なフォトリソグラフィ技術で上記高アスペクト比凹凸形状に薄膜パターンを基板上に形成するには多くの製造工程が必要となる。この製造工程では、例えば、基板上への膜付け、フォトレジスト塗布、露光、およびエッチング等の工程がある。これらは半導体製造工程と同様の工程である。しかしながら、高アスペクト比凹凸形状が0.1ないし100nmというナノスケールサイズになると、上記した工程では、高精度に高アスペクト比凹凸形状に薄膜パターンを成膜することが難しくなる。また、従来の方法では多くの工程を経る必要があるために、製造にも時間がかかり、また、各工程を行うための高価な各種設備が多数必要である。こうした薄膜形成の特許文献を下記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−299084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明により解決すべき課題は、工程が簡単で従来よりも短時間かつ低コストで、基板表面に対してナノスケールサイズで高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する薄膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による薄膜形成方法は、高真空チャンバ内で成膜粒子を基板表面に付着させて成膜する成膜方法において、基板表面に成膜する過程で当該基板を加熱することでマイグレーション現象により複数の成膜粒子を移動集合させて薄膜単位を形成し、これら薄膜単位の複数により基板表面に高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する、ことを特徴とする。
【0008】
ここで本明細書でのマイグレーション現象とは基板表面における原子レベルでの金属の移動現象と定義することができる。
【0009】
本発明においては、基板表面に成膜する過程で当該基板を加熱して当該基板温度を高温にすることにより、基板表面のエネルギー状態を高く維持すると共に、表面吸着物を脱離させ、マイグレーションによる金属の移動度を高めた結果、高アスペクト比凹凸形状に薄膜パターンを形成できる。
【0010】
薄膜を形成する基板表面は鏡面であることが当該基板表面上の成膜粒子がスムーズに移動することができ、結果として、高アスペクト比凹凸形状に薄膜単位を形成させるうえで好ましい。
【0011】
上記マイグレーション現象を起こさせる基板温度は、100ないし300℃の範囲であることが、吸着物の脱離および基板表面を高エネルギーに保つうえで好ましい。
【0012】
高真空チャンバ内は1×10-4Pa以下であることが金属とガスとの間の反応によりマイグレーションが発生しにくい化合物の発生を防ぐうえで好ましい。
【0013】
薄膜を形成する装置にはEB−PVD装置に限定されるものではなく、スパッタリング装置、その他の装置でもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成するのに、従来のように膜付け、フォトレジスト塗布、露光、およびエッチング等の工程が無くなり、単に、成膜中にマイグレーション現象が発生するよう基板を加熱するという工程で済むので、短時間かつ低コストで高アスペクト比凹凸形状に薄膜を形成できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるEB−PVD装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2はAl成膜時の基板温度差によるAl膜成膜状況の違いを示す図であり、図2(a)は、基板温度が低い場合のSEM写真、図2(b)は基板温度が高い場合のSEM写真をそれぞれ示す図、図2(c)は、図2(b)のSEM写真で示す薄膜パターンのアスペクト比が高アスペクト比であることを示すSEM写真図である。
【図3】図3は図2に対応するもので、図3(a)は、図2(a)の基板の一部断面の構成を概念的に示す図、図3(b)は、図2(b)の基板の一部断面の構成を概念的に示す図である。
【図4】図4は基板表面の成膜状態からマイグレーション現象により高アスペクト比凹凸形状薄膜が形成される過程を示すもので、図4(a)は成膜中、図4(b)はマイグレーション現象が発生する過程、図4(c)はマイグレーション現象後の成膜完了を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)装置により、基板上にナノスケールサイズで高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する方法を説明する。
【0017】
図1を参照して実施の形態のEB−PVD装置1は、成膜装置の一例として、図示略の高真空チャンバを備える。高真空チャンバ内の下方には蒸発源3が配置されている。
【0018】
蒸発源3は、その内部に、蒸着原料5が収納されている。この蒸着原料5は実施の形態では一例としてAl(アルミニウム)とする。蒸発源3は、その内部の蒸着原料5に対して、図示略の電子ビーム照射機構から高エネルギーの電子ビームが照射されるようになっている。蒸着原料5は、この電子ビームの照射により図中点線矢印で示すように蒸発し、蒸発粒子として被成膜対象である基板7面に蒸着する。
【0019】
基板7は、高真空チャンバ内の上方に配置される。基板7は例えば、シリコン(Si)基板である。基板7の下面は薄膜成膜面であり、その面状態は鏡面になっている。基板7の上面は加熱面になっている。
【0020】
高真空チャンバ内には、さらに、基板7の上方適所に加熱手段としてハロゲンヒータ等の適宜のヒータ9が配置されている。基板7のヒータ9による加熱の温度は、基板の温度を測定する熱電対等の温度測定素子11により測定される。温度測定素子11の測定信号は、高真空チャンバ外のマイクロコンピュータ等からなる温度制御部13に入力される。
【0021】
温度制御部13は、外部から設定された温度設定と、内蔵する温度制御プログラムとに従い、温度測定素子11の出力に応答してヒータ9を制御することができるようになっている。
【0022】
以上のEB−PVD装置1において、蒸発源3内の蒸着原料5は、図示略の電子ビームの照射により、加熱蒸気化され、この加熱蒸気化された蒸着原料5は蒸発粒子として図中点線矢印で示すように、基板7方向に移動し、基板7の薄膜成膜面に蒸着する。これにより、基板の薄膜成膜面に成膜が行われる。この蒸着原料5は上記したようにAlであるので、成膜はAl膜である。
【0023】
そして、基板7は、Al膜を構成するAl粒子にマイグレーション現象を起こさせるために、その加熱面がその上部に配置したヒータ9により加熱される。基板7の加熱面の温度は、温度測定素子11で測定され、その測定出力に応答して温度制御部13はヒータ9を制御する。このヒータ9による基板7の加熱温度は、100ないし300℃の範囲である。
【0024】
この実施の形態にかかるマイグレーション現象は、基板表面における原子レベルでの金属の移動現象と説明することができる。
【0025】
このようにして基板7の温度を、上記温度範囲に、一定時間の間、制御すると、Al膜がマイグレーション現象を起こし、Al膜を構成するAl粒子が移動集合して薄膜単位を形成し、これら複数の薄膜単位により基板表面に高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンが形成される。
【0026】
この高アスペクト比凹凸形状では、薄膜単位の断面形状は、概念的には円弧形状あるいは矩形形状である。
【0027】
これを図2および図3を参照して説明する。
【0028】
図2(a)のSEM写真では基板温度を低温とした場合の基板表面上のAl膜を示す。このSEM写真で示すAl膜では図3(a)の一部断面の概念構成で示すように、基板7表面は露出しておらず、連続したAl膜10aとなっていて、高アスペクト比凹凸の薄膜パターンではない。
【0029】
これに対して図2(b)のSEM写真では基板温度をマイグレーション現象が発生する高温とした場合の基板表面上のAl膜10bを示す。このSEM写真で示すAl膜では図3(b)の一部断面の概念構成で示すように基板表面がAl膜無しのため露出し、この露出した基板表面を間にしてAl膜10bは相互に独立した薄膜単位10bとして分離している。そして、これら薄膜単位10bで構成される薄膜パターンは高アスペクト比凹凸形状をなしている。
【0030】
図2(b)のSEM写真で示す薄膜パターンを構成する薄膜単位10bのアスペクト比が高アスペクト比であることを図2(c)のSEM写真に示す。このSEM写真では薄膜パターンを構成する薄膜単位10bのアスペクト比が高いことが判る。
【0031】
これら薄膜単位10bにより、基板7表面全体にわたり、高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンが形成される。なお、マイグレーション現象を起こさせる基板温度は、EB−PVD装置では、100℃ないし300℃の範囲であることが好ましい。
【0032】
高真空チャンバ内圧力は1×10-4Pa以下であることが好ましい。高真空チャンバ内の不活性ガス以外のガスによる分圧が1×10-4Pa超になると、金属-ガス間の反応によりマイグレーションが発生しにくい化合物となるため、上記分圧は、1×10-4Pa以下であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明は、これら成膜条件に限定されるものではない。その理由は、EB−PVD装置やスパッタリング装置等の成膜装置によって高アスペクト比凹凸の薄膜を形成するための条件が変わるからである。
【0034】
図4を参照してマイグレーション現象を説明すると、図4(a)には基板表面に図1で示すEB−PVD装置1により基板7の薄膜成膜面にはAl膜15Aが成膜されていく。図解の都合で図4では図1とは基板7の面が逆になって示している。Al膜15Aの拡大を矢印で引き出した円内に示す。円内には、Al膜15AがAl粒子15aの集合で構成されている状態を示す。
【0035】
そして、図4(a)で示す基板7をAl膜15Aがマイグレーションを起こすに必要な温度に加熱すると、図4(b)で示すように、Al膜を構成するAl粒子15aが移動していく。Al膜15Bを矢印で引き出した円内に拡大して示す。円内にはAl粒子15aが白抜矢印で示すように集合していく様子が示される。しかし、図4(b)で示す段階のAl膜15Bでは基板7の表面が露出していなくて、連続している。さらに、基板7の加熱を継続すると、上記円内でAl粒子の矢印で示す方向への移動がより促進される結果、基板表面が露出し、図4(c)で示すように高アスペクト比凹凸のAl薄膜15Cが薄膜単位15Cとして形成される。Al膜15Cの拡大を矢印で引き出した円内に示す。この円内には、Al粒子15aが、複数の薄膜単位を形成している様子を示す。これら薄膜単位は図解的にその断面構成を矩形形状で示すように、立ち上がり、立下りが共に急峻で上面が平坦となっていると共に相互間では基板7の表面が露出している。これにより基板表面には高アスペクト比凹凸形状の多数の薄膜単位で構成される薄膜パターンが形成される。その結果、この基板7を、[背景技術]の項で説明したLED反射用基板用とか、太陽光吸収用基板用等として用いることができるようになる。
【0036】
以上説明したように本実施の形態では、基板表面に成膜する過程で当該基板を加熱することでマイグレーション現象により複数の成膜粒子を移動集合させて薄膜単位を形成し、これら薄膜単位の複数により基板表面に高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成するようにした。これにより、本発明では、高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成するのに、従来のように成膜、フォトレジスト塗布、露光、およびエッチング等の工程といった工程が無くなり、単に、成膜中にマイグレーション現象が発生するよう基板を加熱するだけという簡単な工程のみで済む。したがって、本発明では、短時間かつ低コストにて、基板表面に、高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 装置
3 蒸発源
5 蒸着原料
7 基板
9 ヒータ
11 温度測定素子
13 温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置の高真空チャンバ内で成膜粒子を基板表面に付着させて成膜する成膜方法において、
基板表面に成膜粒子を付着させて成膜する過程で、基板を加熱することによりマイグレーション現象を起こさせ、このマイグレーション現象により上記付着する成膜粒子を移動集合させて基板表面が露出させるように薄膜単位を形成し、これら薄膜単位の複数により基板表面に高アスペクト比凹凸形状の薄膜パターンを形成する、ことを特徴とする薄膜形成方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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