説明

高エネルギー連続エネルギーイオン選択システム、イオン線治療システム、およびイオン線治療施設

【解決手段】 空間的に分離されエネルギーレベルに基づき変調されたレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成するための装置および方法が提供される。空間的に分離され変調されたこの高エネルギー連続エネルギー陽イオン線は、放射線治療に使用される。また、陽イオン線を空間的に分離し変調することにより提供される、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を使って放射線治療施設で患者を治療する方法が提供される。空間的に分離され変調されたレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を使った、放射性同位元素の生成工程も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2003年6月2日付け出願済み米国仮特許出願第60/475,027号に基づく利益を主張するものであり、この言及によりその全体が本明細書に組み込まれるものである。
【0002】
政府の権利
本明細書に開示する発明に至った研究作業の全体または一部は、米国国立衛生研究所(NIH)からの連邦資金により援助されたものである。米国政府は、NIH契約番号CA78331の下、本発明について一定の権利を保有しうる。
【0003】
本発明は、高エネルギーイオン線を生成する装置および方法の分野に関する。また、本発明は、放射線治療用の高エネルギーイオン線用途に関する。さらに、本発明は、癌治療施設における高エネルギーイオン線を使った患者治療の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
放射線治療は、癌治療において最も効果的な手段の1つである。光子(X線など)および電子と比べ、陽子線を使用した場合は、ブラッグピーク効果により、治療標的に適合した線量を得る可能性だけでなく、正常組織を温存できる可能性も高まることはよく知られている。その例としては、T.Bortfeldによる"An analytical approximation of the Bragg curve for therapeutic proton beams"(治療用陽子線に関するブラッグ曲線の分析的近似)、Med.Phys.,2024〜2033(1997)を参照されたい。光子は高い入射線量と深さに伴う緩慢な減弱とを呈するが、陽子はビーム侵入の関数として非常に鋭いエネルギー付与ピークを有する。その結果、3D腫瘍容積内またはそれに非常に近接した位置に入射陽子エネルギーの大半が付与されるようにでき、X線および電子で一般に発生する放射線に起因する周囲正常組織の傷害を回避することができる。
【0005】
鋭い陽子ブラッグピークにより特徴付けられる線量測定上の優位性にもかかわらず、陽子線治療の使用は光子治療に遅れをとっている。これは明らかに、電子・X線医療加速器に比べ少なくとも10倍は高価な陽子加速器の運用体制(加速器保守、エネルギー消費、およびテクニカルサポートにかかる総運用費)が原因である。現在、陽子線治療施設にはサイクロトロンおよびシンクロトロンが利用されている。例えば、Y.A.Jongenらの"Proton therapy system for MGH’s NPTC:equipment description and progress report"(MGHのNPTC用陽子線治療システム:機器に関する説明と進捗状況報告)、Cyclotrons and their Applications、J.C.Cornell(ed)(New Jersey: World Scientific)606〜609(1996);"Initial equipment commissioning of the North Proton Therapy Center"(ノース陽子線治療施設における機器の初期試運転)、Proc.of the 1998 Cyclotron Conference(1998);およびF.T.Coleの"Accelerator Considerations in the Design of a Proton Therapy Facility"(陽子線治療施設の設計における加速器についての考慮事項)、Particle Acceleration Corp.Rep(1991)などを参照されたい。これらの施設における臨床例の数はやや限定されているものの、治療記録によると、特に非常に局部的な放射線耐性の病変部に関して肯定的な結果が示されている。例えば、M.Fussらの"Proton radiation therapy(PRT)for pediatric optic pathway gliomas:Comparison with 3D planned conventional photons and a standard photon technique"(小児視覚経路神経膠腫用の陽子放射線療法(PRT):3次元計画される従来の光子技術および標準的光子技術との比較)、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.、1117〜1126(1999);J.Slaterらの"Conformal proton therapy for prostate carcinoma"(前立腺癌腫用の原体陽子線治療)、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.、299〜304(1998);W.Shipleyらの"Advanced prostate cancer: the results of a randomized comparative trial of high dose irradiation boosting with conformal protons compared with conventional dose irradiation using photons alone"(進行性前立腺癌:光子のみを使った従来線量照射と比較した高線量原体陽子線照射の無作為比較試験の結果)、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.、3〜12(1995);およびR.N.Kjellbergによる"Stereotactic Bragg Peak Proton Radiosurgery for Cerebral Arteriovenous Malformations"(脳動静脈奇形用の定位ブラッグピーク陽子線放射線外科処置)、Ann Clin.Res.、Supp.47、17〜25(1986)などを参照されたい。この状況は、この優れたモダリティの普及を実現して癌の管理に重要な進歩をもたらす、柔軟性と費用効果の高い小型陽子線治療システムが利用可能になることにより著しく改善しうる。
【0006】
このように、小型かつ柔軟で費用効果の高い陽子線治療システムを実用的に提供する上で、依然問題は存在している。例としては、C.−M.Maらの"Laser accelerated proton beams for radiation therapy"(放射線治療用のレーザー加速陽子線)、Med.Phys.、1236(2001);およびE.Fourkalらの"Particle in cell simulation of laser−accelerated proton beams for radiation therapy"(放射線治療用レーザー加速陽子線のPICシミュレーション)、Med.Phys.、2788〜2798(2002)などを参照されたい。このような陽子線治療システムには、次の3つの技術開発が必要である。(1)高エネルギー陽子のレーザー加速、(2)イオン選択およびビームコリメーション(ビーム平行化)のための小型システム設計、および(3)それらに付随した、レーザー加速陽子線を使用するための治療最適化ソフトウェア。
【0007】
米国特許出願第US 2002/0090194 A1号(Tajima)では、加速器でイオンを加速することにより、光源の生成するエネルギーを最適化するシステムおよび方法を開示している。前記加速器システムに使用する標的を構築する際、この加速器システムの性能を調整するため複数のパラメータを制御しうることも開示されている。
【0008】
Fourkalらが報告している陽子レーザー加速のシミュレーションでは、レーザー加速した陽子は、そのエネルギースペクトルが広いことから、事前に陽子エネルギーを選択しなければ治療処置に使用できる可能性は小さいことが示されている。しかし、このようなエネルギー分布が達成されれば、いわゆる拡大ブラッグピーク(Spread Out Bragg’s Peak、略称SOBP)により均一な線量分布を提供することが可能になるはずである。複数のビーム(ビームレット)を使うと、横方向で線量分布を標的に合わせることも可能になる(強度変調)。従来の光子線治療と比べ、光子線を使った強度変調放射線治療(Intensity−modulated radiation therapy、略称IMRT)は、より標的原体に沿った線量分布を付与して周囲器官への線量を最小化しうる。"On the role of intensity−modulated radiation therapy in radiation oncology"(放射線腫瘍学における強度変調放射線治療の役割)、Med.Phys.、1473〜1482(2002)において、R.J.Shultzらは特定の疾患部位の治療における強度変調放射線治療の役割について述べている。この研究テーマはまだ可能性を追求している段階であり、より多くのデータ分析を要するが、Shultzらが発見した事柄は、消化器系(結腸直腸、食道、胃)、膀胱、および腎臓としてのこのような部位の治療にIMRTを利用することには少なくとも優位性がありうることを示唆している。
【0009】
標的の深さ方向に均一な線量分布を付与することは可能でありうる。例えば、C.Yeboahらの"Intensity and energy modulated radiotherapy with proton beams:Variables affecting optimal prostate plan"(陽子線による強度・エネルギー変調放射線治療:最適な前立腺計画に影響を及ぼす可変量)、Med.Phys.、176〜189(2002);およびA.Lomaxによる"Intensity modulation methods for proton radiotherapy"(陽子放射線治療のための強度変調法)、Phys.Med.Biol.、185〜205(1999)を参照されたい。このため、エネルギーおよび強度を変調させた陽子線治療(Energy−and Intensity−Modulated Proton Therapy、略称EIMPT)では、標的のカバーと正常組織の温存とがさらに改善されるはずである。近年、X線の計画および輸送方法は顕著に改善されてきており、従来の陽子線技術とX線法のギャップは格段に埋まりつつある。研究の主な方向は、強度変調治療のための個々のビームレットの最適化および(各ビームレットに対する)最適強度分布の計算へ向けられている。例としては、E.Pedroniの"Therapy planning system for the SIN−pion therapy facility"(SIN−pion治療施設用の治療計画システム)、Treatment Planning for External Beam Therapy with Neutrons、監修G.Burger、A.Breit、およびJ.J.Broerse(Munich: Urban and Schwarzenberg);およびT.Bortfeldらの"Methods of image reconstruction from projections applied to conformation radiotherapy"(原体放射線治療に適用した投射を使った画像構築方法),Phys.Med.Biol.、1423〜1434(1990)を参照されたい。残念なことに、陽子線治療における従来のビーム付与方法の設計には制約があるため、陽子線の強度変調の実施は光子線に比べ遅れている。例えば、M.Moyersの"Proton Therapy"(陽子線治療)、The Modern Technology of Radiation Oncology、監修J.Van Dyk(Medical Physics Publishing、Madison、1999)を参照されたい。このように、レーザー加速陽子線を使ってEIMPTを可能にする、陽子選択およびコリメーション用の小型装置と、治療最適化アルゴリズムとの組み合わせを提供するための問題はいまだ残されている。
【0010】
レーザー加速は1979年、電子用に初めて提案され(T.TajimaおよびJ.M.Dawson、"Laser electron accelerator"(レーザー電子加速器)、Phys.Rev.Lett.、267〜270(1979))、チャープパルス増幅器(chirped pulse amplification、略称CPA)が考案された後(D.Strickland、G.Mourou、"Compression of amplified chirped optical pulses,"(増幅したチャープ光パルスの圧縮)Opt.Comm.、219〜221(1985))、1990年代からレーザー電子加速が急速に発展し、Ti:サファイアなど便利な高フルエンスの固体レーザー材料が発見・開発されてきた。数MeVをはるかに超えるエネルギーレベル(58MeV)で生成された陽子を観測した最初の実験は、ローレンスリバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory、略称LLNL)におけるペタワットレーザー(Petawatt Laser)で行われた。その例としては、M.H.Keyらの"Studies of the Relativistic Electron Source and related Phenomena in Petawatt Laser Matter Interactions"(ペタワットレーザーと物質の相互作用における相対論的電子源および関連現象の研究)、First International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications(Bordeaux,France,1999);およびR.A.Snavelyらの"Intense high energy proton beams from Petawatt Laser irradiation of solids"(ペタワットレーザーでの固体照射から得られる強い高エネルギー陽子線)、Phys.Rev.Lett.、2945〜2948(2000)を参照されたい。それまでは、エネルギーレベルが最高1MeVまたは2MeVの陽子を観測する実験がいくつか行われていた。例えば、A.Maksimchukらの"Forward Ion acceleration in thin films driven by a high intensity laser"(高輝度レーザー駆動による薄膜内での前方向イオン加速)、Phys.Rev.Lett.、4108〜4111、(2000)を参照されたい。英国ラザフォード‐アップルトン研究所(Rutherford−Appleton Laboratory)における別の実験では、最高30MeVの陽子エネルギーレベルのものが最近報告されている。例えば、E.L.Clarkらの"Energetic heavy ion and proton generation from ultraintense laser−plasma interactions with solids"(超高強度レーザープラズマの固体との相互作用による、高エネルギーの重イオンおよび陽子の生成)、Phys.Rev.Lett.、1654〜1657(2000)を参照されたい。
【0011】
これまで、レーザー生成プラズマにおけるイオン加速は高温電子に関することが理解されている。その例としては、S.J.Gitomerらによる"Fast ions and hot electrons in the laser−plasma interaction"(レーザーとプラズマの相互作用における高速イオンおよび高温電子)、Phys.Fluids、2679〜2686(1986)を参照されたい。レーザーパルスは、水素を多く含む高密度材料(プラスチック)と相互作用してこれをイオン化(電離)したのち、生成されたプラズマと相互作用する(自由電子および自由イオンの回収)。イオン加速に関与すると一般に理解されている効果は、標的内でレーザーに駆動される高エネルギー電子が起こすプラズマ内の電荷分離(例えばA.Maksimchukら、同上、およびW.Yuらの"Electron Acceleration by a Short Relativistic Laser Pulse at the Front of Solid Targets"(固体標的前面における短い相対論的レーザーパルスによる電子加速)、Phys Rev.Lett.、570〜573(2000)を参照)、および/または自然発生した磁場の結果生じる誘導電場(例えばY.Sentoku et al.、"Bursts of Superreflected Laser Light from Inhomogeneous Plasmas due to the Generation of Relativistic Solitary Waves"(相対論的孤立波の生成により不均一プラズマから超反射されたレーザー光のバースト)、Phys.Rev.Lett.、3434〜3437(1999)を参照)であるが、1022W/cmオーダーの極度に高強度のレーザーの場合は直接的なレーザーとイオンの相互作用が検討されてきている(例えばS.V.Bulanovらの"Generation of Collimated Beams of Relativistic Ions in Laser−Plasma Interactions"(レーザーとプラズマの相互作用におけるコリメートした相対論的イオンビームの生成)、JETP Letters、407〜411(2000)を参照)。これらの電子は、いくつかの工程により(レーザー強度に応じて)最高数MeVのエネルギーレベルまで加速でき、工程の例としては、レーザーパルスを伝播することによる動重力加速(W.Yuら、同上)、レーザーエネルギーの一部がプラズマ波の生成に使われて実質的に電子を加速する共振吸収(S.C.WilksおよびW.L.Kruerの"Absorption of Ultrashort,ultra−intense laser light by solids and overdense plasmas"(固体および超臨界密度プラズマによる超短・超高強度レーザー光の吸収)、IEEE J.Quantum Electron.、1954〜1968(1997))、およびローレンツ力のv×B成分による「真空加熱」(W.L.KruerおよびK.Estabrook、"J x B heating by very intense laser light,"(非常に高強度のレーザー光によるJ×B加熱)、Phys.Fluids、430〜432(1985))などがある。電子加速とそれに対応する電場生成の機序が何種類かあるため、イオン加速体系も種々存在する。レーザーパルスの固体標的との相互作用によるイオン加速の機序、またレーザーパルスおよびプラズマパラメータへの依存性の観点におけるイオン収率の定量化を理解すると、レーザー陽子線治療システムの設計に役立つ。
【0012】
典型的に、治療に適した陽子イオン線量を準備する上で、レーザー加速陽子イオン線のイオン収率を定量化した値だけでは不十分である。このような陽子イオン線は、治療に適したエネルギー分布への成形(すなわち、結果として生じる高エネルギーの連続エネルギーイオン線)をさらに要する幅広いエネルギー分布を有する。連続エネルギー線のエネルギー分布を成形する必要性に加え、患者体内の標的に照射を行う治療に適した陽子線を提供するには、ビームサイズ、方向、および全体的な強度も制御する必要がある。より低エネルギーの陽子は、典型的に患者身体のより浅い領域を治療し、より高エネルギーの陽子は、より深い領域を治療する。このため、所定の3次元原体領域を治療できるレーザー加速高エネルギー陽子源から治療に適した連続エネルギーイオン線を形成するシステムおよび方法を提供する際の問題が依然存在している。現在、このようなイオン選択システムは、陽イオン線治療を社会でより利用しやすくする低コストの小型イオン治療システムを提供する上で必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、治療に適した連続エネルギーイオン線を形成するためのイオン選択システムを設計した。本発明の第1の態様では、イオン選択システムであって、コリメーション装置であって、レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートでき、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線は複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを含む、コリメーション装置と、第1の磁場源であって、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従って空間的に分離させることができる第1の磁場源と、開口部であって、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調できる開口部と、第2の磁場源であって、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合できる第2の磁場源とを有するイオン選択システムが提供される。
【0014】
本発明者は、イオン線治療に適したレーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線源から高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する方法も設計した。これにより、本発明の第2の態様では、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する方法であって、レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を形成する工程であって、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線は、エネルギーレベル分布を有するとして特徴付けられる複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを含む、工程と、コリメーション装置を使って、前記レーザー加速イオン線をコリメートする工程と、前記高エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従い、第1の磁場を使って空間的に分離させる工程と、開口部を使って、空間的に分離された高エネルギー陽イオンを変調する工程と、第2の磁場を使って、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合する工程とを含む方法が提供される。
【0015】
本発明の付加的な態様では、治療用の連続エネルギービームを体内の3次元原体標的に輸送・付与することができるレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムが提供される。本発明のこれらの態様では、レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムであって、レーザー標的システムであって、高エネルギー連続エネルギーイオン線を生成できるレーザーおよび標的システムを有し、前記高エネルギー連続エネルギーイオン線は少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを含む、レーザー標的システムと、イオン選択システムであって、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部から、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できる、イオン選択システムと、イオン線監視および制御システムとを含むレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムが提供される。
【0016】
本発明の異なる別の態様では、レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにより患者を治療する方法であって、患者体内の標的領域の位置を特定する工程と、前記標的領域の治療戦略を決定する工程であって、前記治療戦略は、前記標的領域を照射するための治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の線量分布を決定する工程を有する、標的領域の治療戦略を決定する工程と、エネルギーレベルに基づき空間的に分離されている複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンから、前記治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程と、前記治療に適した複数の連続エネルギー陽イオン線を、前記治療戦略に従って前記標的領域に輸送する工程とを含む、患者を治療する方法が提供される。
【0017】
本発明の関連態様では、レーザー加速イオン線治療施設であって、患者を固定する位置と、治療に適した連続エネルギー陽イオン線を患者の前記位置に輸送できるレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムであって、レーザー標的システムであって、高エネルギー連続エネルギーイオン線を生成できるレーザーおよび少なくとも1つの標的アセンブリを有し、前記高エネルギー連続エネルギーイオン線は少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを含む、レーザー標的システムと、イオン選択システムであって、エネルギーレベルに基づき空間的に分離されている前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを使って、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できる、イオン選択システムと、前記治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のための監視および制御システムとを有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムとを含むレーザー加速イオン線治療施設が提供される。
【0018】
本発明の付加的な態様では、本明細書で提供する前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を使って放射性同位元素を生成する方法が提供される。本発明のこれらの態様では、放射性同位元素を生成する方法であって、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程であって、エネルギー分布を有するとして特徴付けられる複数の高エネルギー陽イオンを有するレーザー加速イオン線を形成する工程と、少なくとも1つのコリメーション装置を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートする工程と、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、エネルギーに応じて、第1の磁場を使って空間的に分離させる工程と、開口部を使って、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調する工程と、第2の磁場を使って、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合する工程とを含む、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程と、再結合され空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンで、放射性同位元素前駆体を照射する工程とを含む方法が提供される。
【0019】
本発明の他の態様は、本明細書に提供した発明の詳細な説明を考慮することにより、当業者に明確に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書では、以下の略称および頭字語が使用される。
【0021】
CORVUS:NOMOSからの光子IMRT用治療最適化システム
CPA:チャープパルス増幅器(chirped pulse amplification)
CT:コンピュータ断層撮影(computer−aided tomography)
DICOM:医用におけるデジタル画像と通信(Digital Imaging and Communications in Medicine)
DICOM RT:DICOM放射線治療の増補(Radiation Therapy Supplement)
DVH:線量体積ヒストグラム(dose−volume histogram)
EIMPT:エネルギーおよび強度を変調した陽子線治療(energy−and intensity−modulated proton therapy)
EGS4:電子ガンマシャワー(バージョン4)モンテカルロコードシステム(Electron Gamma Shower(version 4)Monte Carlo code system)
GEANT(3):放射線(陽子や中性子など)シミュレーション用モンテカルロシステム
IMRT:強度変調(光子)放射線治療(intensity−modulated(photon)radiation therapy)
JanUSP:LLNLの高エネルギー(1019〜1021W/cm)レーザー
LLNL:米国ローレンスリバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)
LLUMC:ロマリンダ大学医療センター(Loma Linda University Medical Center、米国カリフォルニア州ロマリンダ市)
MCDOSE:3D構造の線量計算用EGS4ユーザーコード
MGH:マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital、米国ボストン市)
MLC:多葉コリメータ(multileaf collimator)
NOMOS:NOMOS Corp.(米国ペンシルバニア州スウィックリー市)
NTCP:正常組織が合併症を起こす確率(normal tissue complication probability)
PC:パーソナルコンピュータ(personal computer)
PIC:細胞中の粒子(particle−in−cell、レーザープラズマ物理のシミュレーション手法)
PMC:一次監視チャンバー(primary monitor chamber)
PSA:前立腺特異抗原(prostate−specific antigen)
PTV:計画標的体積(planning target volume)
PTRAN:陽子輸送(proton transport)シミュレーション用モンテカルロコードシステム
RTP:放射線治療計画(radiotherapy treatment planning)
SMC:二次監視チャンバー(secondary monitor chamber)
SOBP:拡大ブラッグピーク(spread out Bragg peak、陽子/イオン線用)
SSD:線源と表面との距離(source−surface distance)
TCP:腫瘍制御確率(tumor control probability)
MeV:メガ電子ボルト(million electron volts)
GeV:ギガ電子ボルト(billion(=giga)electron volts)
T:テスラ(Tesla)
【0022】
本明細書における用語「陽子」は、+1の電荷を有する水素(H)の原子核を指す。
【0023】
本明細書における用語「陽イオン」は、正味の正電荷を有する原子および原子核を指す。
【0024】
本明細書における用語「連続エネルギー」は、2つ以上のエネルギーレベルを有すると特徴付けられる物質の状態を指す。
【0025】
本明細書における用語「高エネルギー」は、1MeVを超えるエネルギーレベルを有すると特徴付けられる物質の状態を指す。
【0026】
本明細書における用語「ビームレット」は、空間的に分離された、またはエネルギー的に分離された、あるいは空間的およびエネルギー的に分離された、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の一部を指す。
【0027】
用語「一次コリメータ」、「一次コリメーション装置」、「初期コリメータ」および「初期コリメーション装置」は、本明細書では同義的に使われる。
【0028】
用語「エネルギー変調システム」および「開口部」は、言及されている開口部が、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を変調できることが明らかな場合、同義的に使われる。
【0029】
本明細書に開示するすべての範囲は、包括的で組み合わせ自在である。
【0030】
本発明の一実施形態では、放射線治療用のレーザー加速連続エネルギーイオン選択システムが提供される。このシステムの設計は、典型的に、異なるエネルギーレベルの陽子を空間的に分離するよう設けられた磁場源を含む。磁場源は、初期、陽子とともに移動するプラズマ電子を分離するよう設けられてもいる。これらの2つの磁場源は、典型的に同じ磁場源により提供されるが、これらの機能を果たすため2つ以上の別個の磁場源を設けることもできる。陽子の空間的分離後は、典型的に所与のビームレットの深さ方向に治療標的をカバーするのに必要なエネルギー分布を選択するため、1つ以上の開口部が設けられる。開口部の形態は、以下でより詳しく説明するように、標的の位置および深さ寸法により決定される。空間位置および標的サイズがわかると、以下でより詳しく説明するように、異なる陽子エネルギーレベルの深部線量曲線同士を組み合わせることにより、所与のビームレットについて深さ方向に標的をカバーするため必要な陽子エネルギースペクトルが計算される。陽子が角度分布を伴うことから、典型的に異なるエネルギーの陽子の空間的混合を低減するため一次コリメーション装置が使用される。この一次コリメーション装置は、典型的にエネルギーレベル別にイオンを分離する磁場により陽イオンをコリメートするため使用される。この空間的混合の結果、所与の空間位置にある陽子エネルギースペクトルは、典型的に陽子のエネルギーに依存する小さな広がりを有する。深部線量曲線は、典型的に、広がった(すなわち連続エネルギー)陽子スペクトルを使って計算される。この場合、陽子エネルギーの変調に関する深部線量曲線は、以下でより詳しく説明するように、典型的にこの連続エネルギー拡大効果を考慮するよう修正される。
【0031】
陽子選択およびコリメーションシステムの説明:本発明の一実施形態では、陽子エネルギーの変調に必要なイオン選択およびコリメーション装置が提供される。Plasma Physics via Computer Simulation(McGraw−Hill Book Company,Singapore 1985)でC.K.BirdsallおよびA.B.Langdonが説明している2D細胞中の粒子(PIC)シミュレーションコードを使って、ペタワットレーザーパルスおよび高密度薄膜(水素を多く含む)の相互作用をシミュレーションしたところ、200MeVをはるかに上回るエネルギーを伴い、最大エネルギーが440MeVにも達する陽子が得られた。このシミュレーションは、3.6μm(半径方向)の半値全幅(full−width at half−maximum、略称FWHM)で、臨界密度ncr=4πε/(eλ)の30倍の密度と厚さ
【0032】
【数1】

【0033】
とを有する高密度の薄プラズマスラブ(電離膜)に法線入射した波長λ=0.8μmおよび強度I=1.9×1022W/cmの14フェムト秒(fs)直線偏光レーザーパルスについて行った。このようなレーザー強度は、G.A.Mourouらが"Ultrahigh−Intensity Lasers: Physics of the Extreme on a Tabletop"(超高強度レーザー:卓上の極限物理)、Physics Today,22〜28(1998)で説明しているように、近年開発された技術で達成可能である。このようなレーザー光源システムの基本構成は、1993年8月10日付けでMourouらに交付された米国特許第5,235,606号(言及により本明細書に組み込むものとする)に説明されている。2001年1月8日付けでTajimaが申請した米国特許出願第09/757,150号、米国公開番号第2002/0090194 A1号、公開日2002年7月11日、"Laser Driven Ion Accelerator"(レーザー駆動イオン加速器)では、このようなレーザー光源システムを使って加速器内でイオンを加速するシステムおよび方法を開示している(詳細は、言及によりその全体を本明細書に組み込むものとする)。薄膜から来る陽子は、典型的に、高強度レーザーにより誘導される電荷分離の静電場により前方へ加速される。この工程の詳細は、V.Yu.Bychenkovらが"High energy ion generation in interaction of short laser pulse with solid density plasma"(短レーザーパルスと固体密度プラズマとの相互作用における高エネルギーイオンの生成)、Appl.Phys.B、207〜215(2002)で説明している。陽子は、典型的にプラズマ周波数
【0034】
【数2】

【0035】
の数十周期にわたり、相対論的エネルギーレベルにまで加速される。陽子エネルギーレベルの最大値は、典型的に、レーザーパルスの長さおよび強度と、プラズマ膜の厚さとを含むいくつかの要因に依存する。その後期力学はPICコードにより識別でき、これにより陽子が(エネルギーおよび角度の)静止分布に達し、電子との編成構造で移動することが示される。これが低陽子放出の保存を確実にし、典型的にであればこの放出に悪影響を及ぼす陽子空間電荷の遮蔽につながる。陽子の角度分布は、エネルギーに依存する広がりを呈する。典型的には、加速された陽子のエネルギーが大きいほど、より多くの陽子が前方へ放出されるという一般傾向がある。レーザー加速陽子スペクトルを使って深部線量分布を計算すると、標的から放出される連続エネルギー陽イオンのスペクトルは、そのままでは放射線治療に利用できないことが示される。有効ブラッグピークを超えた領域への高エネルギー付与は、典型的に、表面構造に高い入射線量が与えられること、および連続エネルギー線量分布が長い裾を伴うことにより起こる。これにより、本発明の一実施形態では、腫瘍体積に均一な線量が付与され、周囲の健常組織への線量が最小化される。これは、望ましい連続エネルギー陽子エネルギー分布を生成するイオン(陽子など)選択およびコリメーション装置を提供することにより達成される。この装置は、連続エネルギー陽イオン(陽子など)をそのエネルギーに従って複数の空間的領域に分離する。空間的に分離された陽イオンの領域は、次に、少なくとも1つの磁場を使って制御される。この空間的に分離された陽イオンは、望ましい線量をもたらすため、開口部を使って制御自在に変調される。オプションで、この装置は、陽イオンとともに移動するプラズマ電子を排除する磁場を生成するための磁場源も具備する。この任意の磁場源は、連続エネルギー陽イオンを空間的に分離する磁場と同じであっても異なっていてもよい。この磁場は、レーザー加速陽イオンとともに移動するプラズマ電子の排除にも役立つ。
【0036】
前記イオン選択システム(100)の一実施形態の模式図を図1に示す。この図を参照すると、磁場パターンB=B(z)eを生成する一連の磁場源が提供されている。ここで、z方向はページに垂直な方向である。第1の磁場源は、「ページへ向かって5.0T」と記された第1の磁場(102)を、x(一次ビーム)軸(114)に沿って0cmに位置するプラズマ標的(104)から5cm〜20cmの距離で提供する。高エネルギー連続エネルギー陽イオン(110)は、前記プラズマ標的(104)と適切なレーザーパルス(図示せず)との相互作用により生成される。高エネルギー連続エネルギー陽イオンのビーム(陽子など)(106)は、初期コリメーション装置(108)から出射した後、前記第1の磁場(102)に入射する。陽子は角度広がりを有すると特徴付けられ、前記初期コリメーション装置(108)から前記第1の磁場(102)へ入射しているところが示されている。第2の磁場源は、「ページへ向かって5.0T」と記された第2の磁場(112)を、x(一次ビーム)軸(114)に沿って前記プラズマ標的(104)から60cm〜75cmの距離で提供する。高エネルギー連続エネルギー陽イオン(116)(特定の実施形態では陽子)は、開口部(118)から出射した後、前記第2の磁場(112)に入射する。図1には、x(一次ビーム)軸(114)に沿って前記プラズマ標的(104)から25cm〜55cmの距離にある、「ページから出る方向に5.0T」と記された第3の磁場(120)を提供する第3の磁場源も示している。描かれているx軸は、この実施形態のレーザーの前記ビーム軸(114)に平行である。円筒座標系や極座標系など、他の座標配向および座標系も適切に使用できる。高エネルギー連続エネルギー陽イオン(126)は、前記第1の磁場(102)から出射したのち、前記第3の磁場(120)に入射する。この第1の磁場(102)は、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌道(128)をエネルギーレベル別に空間的に分離することが示されている。この第3の磁場(120)は、空間的に分離されたイオン(130)の軌道を前記開口部(118)へ向かって曲げることが示されている。前記開口部は、本明細書で以下さらに詳しく説明するとおり、前記空間的に分離されたイオンの一部を制御自在に選択することにより、前記イオン線を変調する。この第3の磁場(120)は、空間的に分離された連続エネルギー陽イオン(132)の軌道を、前記ビーム軸へ向かって、そして前記第2の磁場(112)へ向かって曲げることも示されている。前記第2の磁場(112)は、空間的に分離され変調されたイオン(134)を再結合し、再結合されたイオン線(136)を形成する。この再結合されたイオン線(136)は、二次コリメーション装置(138)に入射することが示されている。前記二次コリメーション装置(138)からの出射後、高エネルギー連続エネルギー陽イオン放射線治療での使用に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線が提供される。本発明のこの実施形態および種々の実施形態のための適切な磁場源は、典型的に約0.1〜約30テスラ範囲の磁場強度を有し、より典型的には約0.5〜約5テスラ範囲の磁場強度を有する。磁場のローレンツ力は、典型的に連続エネルギー陽子を広げる。低エネルギー陽子(140)は、典型的に、高エネルギー陽子(142)と比べ、前記初期コリメーション装置(108)(「初期コリメータ」)出射時の元の軌道からより大きく偏向される。
【0037】
本明細書で説明するように、本発明の実施形態の多くは、陽イオン線を操作するための磁場を磁場源により提供する。本発明の付加的な実施形態において、前記1つ以上の磁場源は、陽イオン線を操作するための1つ以上の静電場源で置き換えられるか、またはそれと組み合わされる。
【0038】
前記初期コリメータ(108)は、典型的に、前記第1の磁場(102)に入射するビーム(106)の角度広がりを画成する。前記初期コリメータ(108)から出射する前記ビーム(106)のビーム広がりの角度の正接は、典型的に前記初期コリメータからのビーム出射口である、初期コリメータ出射開孔(144)の距離の半分と、前記コリメータの出射開孔(144)から陽子線源(すなわちプラズマ標的104)までの距離との比におおよそなる。典型的にこの角度は約1ラジアン未満となる。放射角度は、標的システム(標的104および初期コリメーション装置108)から出射する初期エネルギー分布の角度である。電子(146)は、典型的に前記第1の磁場により陽イオンと反対方向に偏向され、適切な電子線ストッパー(148)により吸収される。適切な電子ストッパー(148)は、タングステン、鉛、銅、または電子とそれが生成する任意の粒子とを望ましいレベルに減衰させる上で十分な厚さを有する任意材料を含む。前記開口部(118)は、典型的に望ましいエネルギー成分の選択に使われ、それに該当する磁場設定であって、選択された陽子(134)を連続エネルギー陽イオン線へと再結合できる磁場設定(この実施形態では前記第2の磁場112)が選択される。適切な開口部は、典型的にタングステン、銅、または陽イオンのエネルギーレベルを低減させる上で十分な厚さを有する他のいかなる材料からも作製できる。このエネルギーレベル低減は、典型的に、前記開口部を貫通しないイオンと陽イオンとを区別できる程度にまで行われる。本発明の種々の実施形態では、前記開口部は、プレート(152)(またはスラブ)に設けられた円形状、矩形状、または不規則形状の(1つまたは複数の)開孔(150)の構造であってよく、前記開口部は、空間的に分離された連続エネルギーイオン線の軌道上に配置した場合、このイオン線の一部を前記開口部を貫通して流体的に流通させることができる。他の実施形態では、前記開口部(118)は複数の開孔を有するプレートから作製することができ、これら複数の開孔は、物理的平行移動または回転などにより制御自在に選択され、1つまたは複数の望ましいエネルギーレベルを空間的に選択し、また分離されたイオン線を変調するため、分離されたイオン線の軌道上に配置される。このイオン線の変調により、本明細書で説明するように、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線(136)が得られる。適切な開口部は、多葉コリメータを具備する。空間的に分離されたイオン線を流体的に流通する前記開孔の空間位置を制御自在に選択するほか、前記開口部の開孔は、規則的または不規則的な形状によって制御自在に成形または乗数的に成形しうる。このように、前記空間的に分離されたイオン線(130)を変調するため、前記開口部(118)では開孔の種々の組み合わせが使用される。前記空間的に分離された陽イオン(132)は、次に、前記第2の磁場(134)を使って再結合される。
【0039】
高エネルギーおよび低エネルギーの陽イオン(陽子線など)のストッパー(それぞれ154および156)は、典型的に、望ましくない低エネルギー粒子(140)および高エネルギー粒子(図示せず)を排除する。加速された陽子は(所与のエネルギー範囲に依存する)広い角度分布を伴うため、異なるエネルギーの陽イオンは、典型的に前記第1の磁場の通過後、空間的に混合する。例えば、前記低エネルギー陽子の一部が前記高エネルギー粒子の常駐領域に侵入することがあり、またその逆もある。この陽子の空間的混合の低減は、典型的に、図1に示した実施形態の前記初期コリメーション装置108などの一次コリメーション装置を導入することにより実施される。一次コリメーション装置は、典型的に、望ましい角度分布に陽子をコリメートするために使用する。
【0040】
以下さらに説明するとおり、陽子の空間的な差別化は、典型的に、陽イオンが前記第1の磁場に入射する前に、この陽イオンに小さいコリメータ開孔を貫通させることにより行う。小さいコリメータ開孔の例は、図1に前記初期コリメータ開孔(144)として示している。典型的に、開孔が小さいほど線量率が低下し治療時間が増加するため、典型的にこのコリメータ出射開孔(144)は任意に小さくできない。前記コリメータ開孔(144)のサイズが有限である結果、陽子は典型的に空間的に混合される。このため、(どのように小さくした)コリメータ開孔用のいかなる所与の空間位置も、典型的に連続エネルギー陽子エネルギー分布をもたらす。いかなる特定の作用理論にも制限されないが、エネルギー変調の計算では、必要な深部線量曲線を提供するため、イオン選択装置に入射する陽イオンの連続エネルギー特性を考慮する。これらの陽イオンの連続エネルギー特性は、陽イオンの力学に対する磁場の影響を通して理解される。以下は、例示的実施形態の1つとしての陽子の力学についての説明である。陽子に加え、他の陽イオンに関する付加的な実施形態も想定される。
【0041】
磁場における陽子の力学を説明するため、以下の運動方程式を解くための数値コードが書かれる。
【0042】
【数3】

【0043】
ここでは、
【0044】
【数4】

【0045】
であり、Bは磁気誘導ベクトル、mは陽子静止質量、そしてiは粒子数を表す。本発明の一実施形態の場合、この式は、"A Symplectic Integration Algorithm for Separable Hamiltonian Functions"(変数分離形ハミルトン関数のためのシンプレクティック積分アルゴリズム)、J.Comp.Phys.、230〜239(1991)においてJ.CandyおよびW.Rozmusが開発したシンプレクティック積分アルゴリズムを使って解かれる。初期条件[(r,v)]は、陽子の位相空間分布を提供したPICシミュレーションデータから得られる。陽子力学の自己無撞着場に関する条件は無視される。これは、電子を陽子から分離するため外部磁場により生成したローレンツ力が、計算で使われる磁場誘導において、前記初期コリメーション装置を超えた領域でのクーロン力より大きいためである。ローレンツ力と粒子間クーロン力との均衡の式を使うと、磁力がクーロン力を上回る、粒子の離間距離に関する条件に到達する。
【0046】
【数5】

【0047】
ここで、Bは磁場の大きさ、νは粒子速度、eは電気素量である。平均粒子間距離rが粒子密度r=n−1/3から得られることにより、不等式(2)は次のように書き換えられる。
【0048】
【数6】

【0049】
治療用の最低陽子エネルギーを約50MeV(これは陽子速度ν=0.3c、および磁場誘導B=5Tに対応する)とすると、条件(3)からn<2×1020cm−3が得られる。前記初期コリメーション装置を超えた領域内の粒子密度は、E.Fourkalらが"Particle in cell simulation of laser−accelerated proton beams for radiation therapy"(放射線治療用レーザー加速陽子線のPICシミュレーション)、同上(2002)で提示した議論を使って推定できる。この領域では、粒子密度はn=4×1013cm−3であり、これは推定しきい値2×1020cm−3をはるかに下回る。この推定は、外部磁場における陽子力学への自己無撞着静電場の寄与が無視できるという仮定を検証する。
【0050】
磁場内の陽子力学の計算は、セクター場縁部でのフリンジング場パターンの影響によるエッジ集束といった境界効果も軽視してきた。これらの効果は、交互に設けられた(場誘導の絶対値が同じ)磁場パターンの相殺作用により、この選択システムのバルク内では小さいことが期待される。陽イオン(陽子など)が最後の場セクションを離れるに伴い、境界フリンジ場はいくらかの集束効果を導入する。この効果は、境界での磁場分布を使うことによって考慮可能である。
【0051】
モンテカルロ計算:いかなる特定の作用理論にも制限されないが、線量計算にはGEANT3モンテカルロ放射線輸送コードが使用される。GEANT3は、異なる構造における異なる放射線粒子の輸送および相互作用のシミュレーションに使用される。このコードは各種プラットフォームで実行できる。GEANT3の操作および用途は、R.BrunらがGEANT3−Detector description and simulation tool Reference Manual(GEANT3検出器の説明およびシミュレーションツールリファレンスマニュアル)(1994)で詳細に説明している。GEANT3は、利用者による選択が可能な各種粒子輸送モードを備えている。二次粒子生成に関する大半のモンテカルロコードより融通が利くGEANT3には、これらの放射線を扱うオプションが3つある。これらのオプションについて利用者が制御する重要な変数はDCUTEで、二次粒子エネルギーの損失は、DCUTE未満では入射粒子による連続エネルギー損失としてシミュレーションされ、DCUTEを超える値では明示的に生成される。第1のオプションでは、二次粒子は入射粒子のエネルギー範囲全体にわたり生成される。このモードは「変動なし」と呼ばれる。エネルギー損失の第2のモードは「完全変動」で、この場合、二次粒子は生成されず、エネルギー損失の揺らぎは、Landau("On the energy loss of fast particles by ionization"(高速粒子のイオン化によるエネルギー損失について)、J.Phys.USSR、201〜210(1944))、Vavilov("Ionisation losses of high energy heavy particles"(高エネルギー重粒子の電離損失)、Soviet Physics JETP、749〜758(1957))、またはGaussian distribution each according to its validity limits(各々の妥当性限界に従ったガウス分布)(R.Brunら、同上)からサンプリングされる。第3のオプションは「制限付き変動」で、DCUTEを超えた値で二次粒子の生成を伴い、DCUTE未満では制限されたランダウ変動を伴う。原則として、付与されるエネルギーが二次粒子の範囲より大きいボクセルサイズ内で算出される場合は、典型的にエネルギー損失変動を選択することに優位性がある。その結果、計算時間が大幅に短縮され、DCUTE未満で生成される多数の二次粒子の追跡が回避される。典型的に、入射粒子による連続エネルギー損失は、Berger−Seltzerの式に従って想定する。
【0052】
GEANT3では、モリエールの多重散乱理論がデフォルトで使われる。多重散乱は、モリエール理論でうまく説明される。その例としては、G.Z.Moliere、"Theorie der Streuung schneller geladener Teilchen I: Einzelstreuung am abgeschirmten Coulomb−Feld"(より高速な荷電粒子の散乱理論I:遮蔽されたクーロン場における単一の散乱)、Z.Naturforsch.、a、133〜145(1947);およびG.Z.Moliere、"Theorie der Streuung schneller geladener Teilchen II: Mehrfach−und Vielfachstreuung"(より高速な荷電粒子の散乱理論II:複数の散乱)、Z.Naturforsch.、a、78〜85(1948)を参照されたい。モリエール理論における制限要因は、1ステップでの荷電粒子に対するクーロン散乱の平均値Ωである。Ω<20の場合、典型的にモリエール理論は適用不能になる。E.Keilらの"Zur Einfach−und Mehrfachstreuung geladener Teilchen"(荷電粒子の基本散乱および複数散乱について)、Z.Naturforsch、a、1031〜1048(1960)によると、範囲1<Ω≦20は複数散乱体系と呼ばれる。この範囲では、GEANT3での散乱角度に直接シミュレーション方法が使われる(R.Brunら、同上)。GEANT3では、ガウス形式でのモリエール理論の単純化も導入されている。ガウス多重散乱は、10<Ω≦10について2%より優れた結果でモリエール散乱を表す。
【0053】
物質内のハドロン相互作用(弾性、非弾性、核分裂、中性子捕捉)は、GEANTで利用可能な2つのソフトウェアルーチンGHEISHAおよびFLUKAにより記述される。GHEISHAコードは、追跡の目的についてGEANTの理念を保ちながら、ハドロンと現在追跡中の媒体の核との相互作用を生成し、断面積を評価して最終状態の運動学および多重度をサンプリングする。GHEISHAに存在するいくつかのルーチンは、ハドロン相互作用の総断面積の生成と、この総断面積に応じた次のハドロン相互作用までの距離の計算とに関与し、最終的に方針決定用メインルーチンが、発生したハドロン相互作用のタイプを決定する。FLUKAはシミュレーションプログラムで、スタンドアロン(単独型)コードとして、ハドロンおよびレプトンの輸送過程および物理過程と、幾何学的記述用のツールとを含む。GEANTにはハドロン相互作用の部分だけが含まれる。GHEISHAパッケージと同様、FLUKAルーチンも、ハドロン過程の総断面積を計算し、弾性過程および非弾性過程間のサンプリングを実行することができる。両タイプの相互作用の断面積は、総断面積として同時に計算される。次に、粒子は弾性または非弾性の相互作用ルーチンへ渡される。この相互作用後、最終的な二次粒子がGEANTスタックに書き込まれる。
【0054】
以下の制御パラメータは、本明細書に提示した例で陽子線の深部線量分布の計算に使われたものである。粒子のカットオフエネルギーは20keVで、レイリー効果を考慮し、δ線生成はオン、カットオフエネルギーレベル未満の粒子の連続エネルギー損失はテーブルから直接サンプリング、コンプトン散乱はオン、e/eの生成に伴う対生成を考慮し、光電効果をオンにし、光子の生成を伴う陽電子消滅を考慮した。
【0055】
結果および考察:PICシミュレーションは、連続エネルギー陽子線の最大陽子エネルギーが、レーザーパルスの強度および持続時間、そして標的の密度および厚さとを含む多数の可変量の関数であることを示している。最大陽子エネルギーのレーザー/プラズマ標的パラメータに対する定量的依存性は、Fourkalらの業績に見ることができる。本研究の全体的結果から、最大陽子エネルギーは、(所与のレーザー強度について)プラズマ標的の厚さが減少するとともに増加し、高温電子デバイ長のオーダーで標的厚さについてプラトーに達することが示された。同時に、陽子エネルギーはレーザーパルス長の非単調な関数であり、50フェムト秒オーダーのレーザーパルス長で最大値に達する。このため、加速陽子については、シミュレーションパラメータに応じて広いエネルギー分布スペクトルが得られる。
【0056】
図2(a)および図2(b)は、上記のレーザーパルスにより加速された陽子についてエネルギー分布および角度分布を示したものである。シミュレーションで選択したレーザー/プラズマパラメータでは、最大陽子エネルギーは、放射線用途に典型的に必要とされる値よりはるかに高い440MeVの値に達する。望ましくない陽子を減らし、特定の角度分布にコリメートするには、一次コリメーション装置が設けられる。その幾何学的なサイズおよび形状は、典型的に陽子のエネルギー分布および角度分布に応じてカスタマイズされる。例えば、本発明の一実施形態では、望ましくないエネルギー成分を吸収する5cm長のタングステンコリメータが提供される。これは、選択システムを小型にするための密度および要件から、コリメータとしてタングステンが好適な選択肢であるためである。適切な一次コリメータ開孔は、100cmのSSDで画成された1×1cmのフィールド(場)サイズを提供する。これより大きい角度に広がる陽子は、典型的にブロックされる。例えば図1に示した磁場構成では、運動方程式(1)と、PICシミュレーションから得られる陽子位相空間スペクトルにより与えられる初期条件とから、平面x=40cmおよびz=0cmでの陽子空間分布N=N(y)の解は図3に示すとおりになる。これを見ると、磁場により、連続エネルギー陽子は、そのエネルギー分布および角度分布に応じた空間的領域に広がることが示されている。その空間分布では、エネルギーが低い粒子ほど中心軸から離れる方向へ偏向され、陽子エネルギーの増加とともに空間的偏向が減少するようになっている。したがって、この磁場および(特定のコリメータ開孔を伴う)一次コリメータは、どちらも、開口部を使ったエネルギー選択または陽子エネルギースペクトル再構成を可能にする空間的陽子分布を生成するよう寄与する。開口部の幾何学的形状は、典型的に治療用陽子のエネルギー分布を決定する。
【0057】
上記の角度広がりがあるため、典型的に、異なるエネルギーを伴う陽子が空間的に混合する。この混合の結果、典型的に、所与の空間位置における陽子エネルギー分布は単色ではなくなり、ピークの両側に広がりを持つことになる。図4は、異なる空間位置での陽子エネルギー分布を示したものである。これらの分布は、幅Δy=3mmを伴う所与の空間位置で、エネルギーの関数として陽子数を数えることにより計算された。この図は、低エネルギー粒子の方が高エネルギー粒子よりはるかに小さい広がりを有することを示している。特定の作用理論に制限されているわけではないが、この結果は明らかに、低エネルギー粒子と比べ、高エネルギー陽子が磁場でさほど偏向されないことによる。このエネルギー広がり効果があるため、また深部線量計算には典型的に単一エネルギー陽子は使われないことから、エネルギー変調計算に必要な深部線量曲線は、典型的にエネルギー広がり効果を計算に含めるよう修正される。GEANT3モンテカルロ輸送コードを使って、4×4cmのフィールドサイズについて図4に示した陽子エネルギースペクトルの線量分布が計算された。そのシミュレーションの結果は図5に示すとおりである。陽子スペクトルのエネルギーの広がりは線量分布の広がりにつながり、ひいてはエネルギーが変調されたブラッグピークのフォールオフ(曲線の落ち方)も、単一エネルギーの場合に比べ、より鈍くなる。その例としてはT.Bortfeldを参照されたい。この広がりは、典型的にエネルギーの高い陽子ほど顕著になる。
【0058】
図6(a)および図6(b)は、図1に示した磁場構成について、100cmのSSDで画成された5×5cmの一次コリメータ開孔と、陽子エネルギー分布Ni=Ni(E)(指数iは連続エネルギー陽子線のエネルギーレベルを表す)とを使った場合の、平面x=40cm、z=0cmにおける陽子の空間分布N=N(y)を示したものである。図5、図6(a)、および図6(b)を図3および図4と比較すると、より大きな開孔では陽子の空間的分離効果が低下し、このため、空間的混合が増加し、エネルギー分布がより広がっている。本明細書におけるエネルギーの広がりは、分布における最大エネルギーと最小エネルギーの差分として定義されている。図7では、複数の陽子エネルギーレベルについて、エネルギーの広がりをコリメータ開孔の関数として示した。このエネルギーの広がりは開口部開孔の拡大に伴い増加し、粒子のエネルギーが高いほど顕著になる。
【0059】
このエネルギー広がり効果の結果として、深部線量曲線は、典型的に、コリメータの開孔が狭い場合と比べ、開口部が広いほど有効ブラッグピーク領域以降でより鈍いフォールオフを有する。図8では、図6(b)に示した陽子エネルギースペクトルに対する線量分布を示しており、これは100cmのSSDで画成された5×5cmの一次コリメータを入射陽子フルエンスで正規化したものに対応する。図5を図8と比較すると、レーザー加速陽子の望ましい線量測定特性は、典型的に、より小さい一次コリメータ開孔で得られることが示される。適切な一次コリメータ開孔は、100cmのSSDで画成されている場合、典型的に約2000cmより小さく、より典型的には約100cmより小さく、さらに典型的には約1cmより小さい。典型的に、コリメータ開孔のサイズには下限があり、これは前記システムでビームコリメーション後に生成できるフィールドサイズ、線量率、またはその双方により適切に決定される。コリメータ開孔の構造は、典型的に治療時間により左右される。
【0060】
連続エネルギー陽子ビームレットの深部線量分布が決定すると、標的の位置および体積を使って、標的の深さ方向に沿って均一な線量をもたらす陽子エネルギー分布が計算される。一実施形態では、望ましい陽子エネルギー分布を計算するため、以下の工程が実施される。
【0061】
1.標的の幾何学的サイズ(深さ方向の)が、標的照射用の陽子エネルギー範囲を決定する。所与のエネルギー範囲に対する深部線量分布を使って、個々の連続エネルギービームレットの加重が計算される。その際、その標的の遠位縁部で有効ブラッグピークを付与するエネルギー分布を伴ったビームレットの加重が1に設定されると仮定する。加重W=W(E)は、標的の深さ方向に沿って線量が一定でなければならないという要件に基づき計算される。
【0062】
2.前記加重がわかった時点で、連続エネルギー陽子ビームレットのエネルギー分布N(E)で加重W(E)を畳み込むことにより、標的の深さ次元に沿って適切な線量をもたらす陽子エネルギー分布N(E)が次のように計算される。
【0063】
【数7】

【0064】
ここで、指数iは、(深さ方向に)関心領域への照射を行うための連続エネルギー陽子ビームレットのエネルギーレベルである。陽子に関する適切なエネルギー変調の指定は、Gustafsson,A.らが"A generalized pencil beam algorithm for optimization of radiation therapy"(放射線治療の最適化のための汎用ペンシルビームアルゴリズム)、Med.Phys.、343〜356(1994)で導入した電子の吸収線量分布の定式化により実施される。この場合、入射粒子エネルギーフルエンス差分を表面および立体角にわたり積分したものは、式(4)で定義されるエネルギー分布に対応する。その例として、深さ9cm〜14cmに位置する寸法4×4×5cmの仮想標的を考慮する。この標的をカバーするために必要な連続エネルギー陽子のエネルギー範囲は、110MeV<E<152MeVである。上述した拡大エネルギースペクトルを伴う連続エネルギー陽子ビームレットの深部線量分布と、標的の深さ方向に沿って結果的に得られる線量が一定であるという条件との双方を使うと、表1に示した各ビームレットの加重Wが容易に得られる。
【0065】
【表1】

【0066】
異なる特徴的エネルギーを伴った陽子に対応する加重の分布:本発明の一実施形態では、前記加重を探す手順が提供される。この手順は、以下の関数を最小化する手順に数学的に類似している。
【0067】
【数8】

【0068】
ここで、iはエネルギービン、Dはi番目の連続エネルギー・エネルギービンに対応する深部線量分布、そしてDは特定の線量レベルに対応する定数である(典型的には、隣接する深部線量分布からの寄与を考慮し、それより離れたブラッグピークより大きくする)。この加重の物理的な意味は、以降で説明する。各加重の絶対値は、前記選択システムにおける実際のエネルギー変調工程に付随した物理的な方法と相関する。エネルギー変調システム(開口部など)の設計は、前記加重と相関する幾何学的形状を有した開口部を使うことにより、あるいは、陽子がそのエネルギーレベルに応じて広がる領域内でY軸に沿って移動自在なスリットを使うことによりもたらされ、所与の領域に滞在する時間は、所与のエネルギーに対する加重の値に比例する。式(4)の各ビームレットのエネルギー分布で表(1)の加重を畳み込む(コンボリューションする)と、所与の標的の深さ次元に沿ってSOBPを付与する、変調後の実際のエネルギー分布が得られる。このエネルギー分布は、単一エネルギー陽子線を使って計算されたもの(前記加重自体が実際のエネルギー分布を表す)とは異なる。これは典型的に、有限な一次コリメータにより生ずる、前記加重に付随したエネルギーレベル外のエネルギーレベルを伴った粒子があるためである。これら「余分な粒子」が存在するため、線量分布は、典型的に単一エネルギービームを使って得られる分布よりSOBPフォールオフ以後でより鈍く低下する。
【0069】
図9は、陽子エネルギースペクトル(a)と、それに対応する線量分布(入射陽子フルエンスで正規化済み)(b)とを計算で考慮される標的について示したものである。その結果得られる線量分布は、やはり図9(b)に示した単一エネルギー陽子を畳み込んだ理想的なケースほど顕著ではないものの、標的の遠位縁部を越えたところで線量の迅速なフォールオフを示す。入射線量は、依然として標的への線量に比べ有意である。入射線量を低下させるには、標的が処方線量を受け取り、健常な組織はそれより著しく少ない線量を受け取るよう、異なる方向から入射して標的に集束する陽子線を利用しうる。したがって、エネルギーおよび強度を変調させた陽子線により治療を行うと、標的のカバーと正常組織の温存とをさらに改善することが期待される。
【0070】
線量率の決定:上述したように、前記イオン選択システムで生成できる絶対線量率を決定することは重要である。この数量は、加速される陽子の絶対数と密接な関係がある。PICシミュレーションでは、レーザー強度が約I=1.9×1022W/cmでパルス長が約14fsの場合、PICに適用する陽子の総数が1048576であると、約9MeVより高いエネルギーレベルに加速される陽子の数は約4.4×10になることが決定された。特定の作用理論に制限されているわけではないが、プラズマスラブ中の陽子は、すべてレーザーと相互作用するわけではないと考えられている。レーザーの伝播経路に位置する陽子だけが、典型的に最も強い相互作用を生じる。
【0071】
シミュレーションを使った研究では、レーザーは(伝播に垂直な方向で)シミュレーションボックスの総サイズの約3/5の領域を占め、(1048576個中)約6.3×10個の陽子がレーザーを「サンプリング」する。これは、約70%の有効陽子数が約9MeVより高いエネルギーレベルに加速されることを意味する。他方、レーザーパルスに内在するプラズマスラブ中の陽子総数は、膜nの陽子密度と、レーザーの焦点領域Sと、前記膜の厚さdとを使って試算でき、
【0072】
【数9】

【0073】
が得られる。これにより最終的に、約9MeV以上のエネルギーレベルに典型的に加速される陽子数が約N=0.7×2×1012=1.4×1012個と得られる。
【0074】
上記を考慮し、標的に付与される絶対線量は以下の方法で推定される。深さ方向(9cm≦z≦14cm)に標的をカバーするために必要な連続エネルギービームは、典型的に約110〜152MeVのエネルギー範囲を有する。0.01ラジアンの角度へ移動するエネルギー範囲約147MeV<E<157MeVの陽子の数(エネルギー範囲147MeV<E<157MeVの総陽子数の約2.6%)はN=2.6×10で、これは、線源から距離約100cmでの初期陽子フルエンスについて、レーザーパルスあたりΦ=2.6×10 1/cm(1×1cmフィールドサイズ)に対応する。
【0075】
図9(b)では、モンテカルロシミュレーション(初期フルエンスで正規化済み)において、深さ9cm≦d≦14cmで陽子が付与する線量が約D=1.6×10−9Gycmであることが示されている。これにより
【0076】
【数10】

【0077】
Gy毎レーザーショットが得られる。10Hz反復率で動作する典型的にのレーザーは、1×1cmのペンシルビームの場合、
【0078】
【数11】

【0079】
Gy/分を生成する。線量率は、典型的に、レーザープラズマパラメータの関数であるだけでなく、標的の位置および体積にも依存する。このため、深さz=25cm(標的の遠位縁部)にある、体積1×1×5cmの標的では、
【0080】
【数12】

【0081】
Gy/分になる。いかなる特定の作用理論にも制限はされないが、この場合の線量低下は、明らかに、深部にある標的をカバーするため必要なエネルギー範囲の陽子数が少ないことと、標的内に付与されるエネルギーが少ない(ブラッグピークの高さは陽子エネルギーが大きいほど小さくなる)こととによる。上記に提示した計算では、1×1cmのペンシルビームについて絶対線量率を推定したものである。より典型的には、治療体積の断面積は1×1cmより大きく、「有効」な線量率は、従来の線形加速器(直線加速器)と同程度まで低下する。比較的大きい標的は、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線で標的全体をスキャンすることにより効果的に治療可能である。代替実施形態では、ビームの断面積より大きい治療標的は、個々のビームで異なる陽子エネルギーレベルを使って、フィールドサイズを変化させフィールド体積の断面積および深部をカバーすることにより照射を行う。エネルギー、領域、位置、および形状の異なる複数のビームを組み合わせると、標的の体積に合わせることができる。例えば、空間寸法4×4×5cmのエネルギー変調計算で考慮した仮想標的の場合、線量率はD=256/16=16 Gy/分になる。これと同じ推定を行うと、z=25cmの深さに位置する体積4×4×5cmの標的ではD=4 Gy/分となる。以上に示した計算は、所与の標的に必要な治療時間の推定にも使うことができる。2Gy治療計画を仮定すると、体積4×4×5cmで深さ14cmに位置する標的にこの線量を付与するため必要な時間は、t=2/16=0.125分になる。これは、例えば図17に説明したレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設(200)を使って実施される。
【0082】
図17のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設(200)を参照すると、ミラー部材(204、a〜f)など一連のビーム反射器を使って、標的およびイオン選択システム(100)へ反射的に輸送されるメインレーザービームライン(202)が設けられている。この標的およびイオン選択システム(100)は、高エネルギー連続エネルギーイオンを生成するための標的システムと、例えば図1(標的あり)および図18(標的なし)に示したイオン分離システムとを含む。この標的およびイオン選択システムから出射する陽子線は、上記のように生成された治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオンを含む。図示したように、この標的およびイオン選択システムから出射する陽子線は、この標的およびイオン選択システムに入射するレーザービームの方向と平行に方向付けられる。陽子線(206)は、患者および患者の標的を位置付けるカウチ(208)へ向かって方向付けられ示されている。前記ミラー部材(204、a〜f)と、前記標的およびイオン選択システム(100)とは、前記メインレーザービームラインを軸とし、ガントリを使って回転できる(この図ではXZ平面で回転できるよう示している。ここで、Z方向はXY平面に垂直である)。典型的に、最後のミラー部材(204、f)であって、そこからレーザービームが前記標的およびイオン選択システム(100)へと反射される最後のミラー部材(204、f)は、この標的およびイオン選択システムに固定される。前記最後のミラー部材(204、f)とミラー部材(204、e)とイオン選択システムの距離は、前記陽子線(206)をY方向に沿ってスキャンできるよう、Y方向に沿って調整自在に示している。ミラー部材(204、e)とミラー部材(204、d)との距離は、前記陽子線をX方向に沿ってスキャンできるよう、X方向に沿って調整自在に示している。適切な標的およびイオン選択システム(100)は、小型である(すなわち、総質量約100〜200kg未満で、寸法約1m未満)。前記標的およびイオン選択システムは、小型であることによりロボット工学的に制御されたシステムで位置決めを行って、前記陽子線(206)を最高約10cm/sの高速でスキャンできるようにする。
【0083】
本発明の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線放射線治療施設の一実施形態は、図17に示したコンポーネントの他、適切なレーザー(以下で図12を参照して説明するものなど)と、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオンを監視および制御するためのシステムとを具備する。適切なレーザーは、典型的に、例えば前記陽イオン線放射線施設と同じ建造物に収容されるか、もしくは可能性としてレーザービームを含む導管により連結された近隣の建造物に収容される。前記メインレーザービームライン(202)は、典型的に、前記標的およびイオン選択システム(101)へこのレーザービーム(202)を方向付けるための一連のミラー部材(204など)を使って、遮蔽された減圧導管内の建造物を貫通して輸送される。前記標的およびイオン選択システム(100)は、典型的に、治療室に配置されたガントリーに載置される。本発明の付加的な実施形態において、前記メインレーザービーム(202)は、ビームスプリッタを使って、単一レーザーから放射される複数のレーザービームへと分割される。前記ビームスプリッタから放射される各レーザービームは、患者を治療するため、個々の標的およびイオン選択システム(100)へと方向付けられる。このように、高エネルギー連続エネルギー陽イオン放射線治療施設は、複数の患者を治療するため、1つのレーザー源および複数のイオン治療システムを使って提供される。本発明の高エネルギー連続エネルギー陽イオン放射線治療施設の特定の実施形態では、複数の治療室であって、その各々が標的およびイオン選択システムと、患者位置と、陽子線監視および制御システムとを個別に有する複数の治療室が提供される。このように装備された複数の治療室は、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオンを提供する高エネルギーレーザー1つ分に投資するだけで、より多人数の患者の治療を可能にする。
【0084】
レーザー加速陽子線は、典型的に、前記イオン線を汚染しうる中性子も生成する。エネルギー変調工程では、前記ビームストッパーと前記開口部と前記コリメータの内部に大部分の陽子エネルギーが付与される結果につながる。前述のように、N=1.4×1012個の陽子は9MeVより高いエネルギーレベルを有する。この場合、これらの陽子はレーザーによる加速が可能で、総陽子エネルギーの0.02%だけが最終コリメータを貫通でき、標的に付与される。典型的には「無駄」になった陽子と、選択されなかった粒子およびその二次粒子とが治療施設から漏れるのを防止するため、適切な遮蔽が設けられる。これらの混入粒子の一部は、有限な確率で前記最終(または二次)コリメーション装置(138)を通過するか、または遮蔽部から漏れうる。典型的に、遮蔽計算では、混入粒子の数を決定することが考慮されている。
【0085】
陽子線のクーロン爆発:特定の作用理論に制限されずに図1を参照すると、陽子が前記開口部(118)と、次の前記再結合磁場構成(112)と、前記二次コリメーション装置(138)とを貫通する際、陽子(134)は、補償されない電荷を伴った非中性の陽子プラズマを形成し、これは典型的に、陽子間のクーロン相互作用に起因する反発力で拡散する傾向があると考えられる。典型的に、この反発力(斥力)が、初期の広がりに加えた過剰な広がりを陽子線にもたらす。典型的に、この初期の広がりはレーザー加速陽子の角度広がりによるもので、典型的に前記一次コリメーション装置の構造により制御される。前記反発力の大きさは、出射領域での陽子密度に依存する。所与の陽子分布が拡散する率を推定する際は、理論的説明とPICシミュレーションとの双方を使用できる。簡略化のため、出射領域での陽子雲のサイズおよび密度には、所与の初期密度およびサイズを伴った球対称な陽子分布を仮定し対応させる。考慮する問題が球対称であることから、それ以降のシステムの時間発展も典型的にその対称性を維持する。外側にある大部分の陽子に対する運動方程式は、陽子雲のサイズに近似でき、次のように非相対論的限界内になる。
【0086】
【数13】

【0087】
ここで、mは陽子質量、Qは陽子雲の電荷である。便宜上、次元を有さない単位τ=tωpiおよびr=RRを導入する。ここで、Rは陽子雲の初期半径、
【数14】

【0088】
は初期陽子密度を表す。これらの単位において、陽子雲の外側の時間に伴う変化を決定する式は次のとおりになる。
【0089】
【数15】

【0090】
この方程式の数値解は、τ=0のときの初期条件をR=1、dR/dτ=0とすると、図10のプロットのようになる。これらの結果を実時空可変量に変換するには陽子プラズマ周波数ωpiの値を使うが、これには典型的に陽子雲の初期陽子密度がわかっている必要がある。陽子雲内の陽子総数は、前述の議論を使って推定できる。適切な計算により、約9MeVより高いエネルギーレベルに加速される陽子の数は、約
【0091】
【数16】

【0092】
と決定される。これらの陽子のわずか一部
【0093】
【数17】

【0094】
は、典型的に前記初期コリメーション装置を貫通し、その数は
【0095】
【数18】

【0096】
である。図1に説明した本発明の一実施形態では、前記粒子選択システムの出射点は線源から70cm離れており、加速された陽子が占める体積は積V=ΔLΔLΔLとして決定される。ここで、ΔL、ΔL、ΔLは陽子雲の空間寸法である。0.7×0.7cmのフィールドサイズでは、ΔL=0.7cm、ΔL=0.7cmである。ΔLは、治療目的で使用される最も速い粒子と最も遅い粒子との間の(典型的には約50MeV<E<約500MeVで、より典型的には約80MeV<E<約250MeV)、前記出射点における空間的広がりを計算することにより得られる。これらのエネルギーレベルでは、
【0097】
【数19】

【0098】
となる。これを考慮すると、平均陽子密度および陽子プラズマ周波数は、それぞれ
【0099】
【数20】

【0100】
となる。前記二次コリメーション装置からの患者の位置を1メートル(「m」)とすると、陽子線が患者に到達するための平均所要時間は
【0101】
【数21】

【0102】
で、τ=ωpit=0.4となる。図10は、τ=0.4で、主に静電反発力による2%〜3%の陽子雲サイズ増加が期待されることを示している。また、図10は、この説明で使用したものに対応する初期条件を伴った非中性陽子プラズマ力学のPICシミュレーション結果も示している。ここに示すように、これら2つのアプローチには良好な一致が見られる。上記に示した計算は、静電反発力による陽子広がり率の上限を表す。典型的に、エネルギー変調工程により、粒子の総数は計算に使われた値未満になり(初期陽子の多くは廃棄されることから)、これにより、静電反発力によるビーム広がり率の下方値が得られる。
【0103】
本発明の一実施形態では、陽子選択システムが提供される。本明細書に提示する計算では、磁場をコリメーション装置とともに利用する本発明のイオン選択システムは、放射線治療に適したエネルギースペクトルを伴う陽子線を生成できることが示される。レーザー加速陽子が広いエネルギー分布および角度分布を伴うことにより、前記イオン選択システムは、単一エネルギー陽子と比べて広い線量分布につながるエネルギー広がりを有したエネルギー分布を伴う連続エネルギー陽イオン(陽子など)線を提供する。この実施形態の設計では、約100cmのSSDで画成された約1×1cmのコリメータ開孔が設けられ、約80MeVの陽子線のエネルギー広がりは約9MeV、約250MeVの陽子線のエネルギー広がりは約50MeVとなる。このシステムでは、一次開口部の開孔が拡大すると、陽子エネルギー分布の広がりも増加する。約1×1cmと約5×5cmと約10×10cmとのコリメータ開孔について計算される深部線量分布からは、より狭い開口部が好ましいことが示される。この開口部開孔は、大きい標的に対し有効線量率を低下させるため、任意に小さくできない。約100cmのSSDで画成された約1×1cmのコリメータ開孔は、典型的に十分な治療時間をもたらし、また典型的にエネルギーを変調した陽子線について要件を満たす深部線量分布をもたらす。
【0104】
本発明の種々の実施形態により提供される陽子選択システムは、逆方向治療計画に使用できる連続エネルギー陽子の小型ビームレット生成への道を開く。陽子の線量測定特性により、エネルギーおよび強度を変調した陽子線治療は、治療原体への線量最適化を著しく改善できる。また、従来の治療と比べ、本発明の方法を使うと健常組織も温存される。全体的な結果からは、放射線治療用のレーザー加速陽子およびイオン選択システムは、癌管理で有意な優位性をもたらすことが示唆される。
【0105】
放射線治療は、前立腺癌に対し最も効果的な治療モダリティの1つである。外部ビーム放射線治療では、陽子線を使うと、ブラッグピーク効果により、治療標的への適合および正常組織の温存の点で、より優れた線量最適化が図れる。図11は、陽子、光子(X線)、電子、および中性子について侵入深度の関数としてのエネルギー付与(または線量)を示したものである。中性子および光子(X線)は高入射線量と深さに伴う緩慢な減弱とを呈するが、単一エネルギー陽子は、組織を貫通した伝搬の停止直前に、ビーム侵入の関数として非常に鋭いエネルギー付与ピークを有する。その結果、3D腫瘍容積内またはそれに非常に近接した位置に入射陽子エネルギーのほぼすべてが付与されるようにでき、放射線に起因する周囲正常組織の傷害を回避することができる。陽子は、その到達範囲の遠位付近でより高い線形エネルギー輸送成分を有し、深部腫瘍の放射線治療に対し、従来の医療用加速器ビームすなわちコバルト60線源より生物学的に効果的であることが期待される。
【0106】
鋭い陽子ブラッグピークにより特徴付けられる線量測定上の優位性にもかかわらず、陽子線治療の使用は前立腺の光子治療に著しい遅れをとっている。これは、電子/X線医療加速器に比べ、陽子加速器の運用体制が少なくとも10倍はコスト高で複雑なことから、結果として臨床用途で普及するには高価すぎるためである。従来の陽子加速器はサイクロトロンおよびシンクロトロンであり、このような医療施設は、マサチューセッツ総合病院(MGH)(Jongen 1996、Flanzら 1998)およびロマリンダ大学医療センター(LLUMC)(Cole 1991)と、米国内にわずか2箇所しか存在しない。そして双方とも広大なスペースを占めている(フロアまたは建物全体)。このような医療施設は数を増してはいるが、世界中でもほんの数箇所しかない(Sisterson 1999)。これらの施設における臨床例の数はやや限定されているが、治療記録によると、特に非常に局部的な放射線耐性の病変部に関して肯定的な結果が示されている(Sisterson 1989、1996;Austin−Seymourら、DugganおよびMorgan 1997;Seddonら、1990;Kjellberg 1986)。多種多様な悪性腫瘍に関する臨床効果の程度は、このビームモダリティの治療経験が制約されているため、まだ定量化されていない。この状況は、本発明で提供されるような、小型かつ柔軟で費用効果の高い陽子線治療システムが利用できるようになることで著しく改善される。本発明は、この優れたビームモダリティの普及を可能にすることにより、脳癌、肺癌、乳癌、前立腺癌などの癌管理に大幅な進歩をもたらす。
【0107】
本発明の一実施形態では、小型かつ柔軟で費用効果の高い陽子線治療システムが提供される。この実施形態は、次の3つの飛躍的な技術的進歩に依存する。(1)高エネルギー連続エネルギー陽子のレーザー加速、(2)イオン選択およびビームコリメーション(ビーム平行化)のための小型システム設計、および(3)レーザー加速陽子線を使用するための治療最適化ソフトウェア。上記のように、レーザー陽子線源は、レーザー誘起プラズマを使って陽子を加速するよう開発されてきた。2001年1月8日付け出願済み米国特許出願第09/757,150号、2002年7月11日付け公開済み米国公開番号第2002/0090194 A1号の"Laser Driven Ion Accelerator"(レーザー駆動イオン加速器)では、このようなレーザー光源システムを使って加速器でイオンを加速するシステムおよび方法が開示されている(言及によりその詳細全体を本明細書に組み込むものとする)。このようなレーザー陽子源は、現行の高周波数および磁石技術ベースのシンクロトロンおよびサイクロトロンと比べ、レーザーにより誘起される加速勾配がはるかに大きく、ビーム放射がはるかに小さいという理由から小型である(Umstadterら、1996)。
【0108】
本発明の一実施形態では、レーザー加速陽子をそのエネルギーレベルおよび放射角度に基づいて空間的に広げるために磁場が使われるイオン選択システムであって、治療用のエネルギー範囲内および角度範囲内の陽子を選択するために異なる形状の開口部が使われるイオン選択システムを提供する。このような小型装置は、従来の陽子線治療システムでは一般的な、巨大なビーム輸送およびコリメート装置の必要性を排除する。本発明のレーザー陽子源とイオン選択およびコリメーション装置とは、典型的に従来の放射線治療室に設置できる小型治療ユニットを形成するため、治療ガントリー(例えば従来の臨床用加速器に提供されているもの)に設置される。
【0109】
治療最適化アルゴリズムも、本発明のイオン選択システムで生成される細い陽子ペンシルビームを利用して、前立腺治療などの癌治療のため原体に合った線量分布を取得するため提供される。本発明の種々の実施形態では、レーザー陽子加速用の最適標的設定と、イオン選択およびビームコリメーションの方法とが提供される。本発明のこの実施形態では、癌治療用のレーザー加速陽子の線量分布は、典型的に、陽子ビームレットの線量計算と、ビームレット加重の最適化と、効率的なスキャンシーケンスを使ったビームレットの付与とにより決定される。照準用に光子線の強度変調を実施するには、市販のソフトウェアを利用することができる。このようなソフトウェアは、以下の工程によるレーザー加速陽子線への用途に適合している。それらは、必要な線量を計算する工程と、ビームの加重を最適化する工程と、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のシーケンスを決定する工程とである。その具体例として、前立腺癌の治療は、標的体積およびその標的体積と重要臓器(直腸、膀胱、および大腿)との関係に基づきビーム入射角度を選択し、異なる形状、サイズ、および/またはエネルギーの陽イオン線を準備し、ここのビームレットの加重を最適化し、そのビーム加重に基づいてスキャンシーケンスを生成し、モンテカルロ計算または適切な監視装置での測定により最終的な線量分布を確認することにより実施される。
【0110】
レーザー加速は電子に対し1979年に初めて提案され(TajimaおよびDawson 1979)、チャープパルス増幅(CPA)が考案され(Stricklandら 1985)、Ti:サファイアなど便利な高フルエンス固体レーザー材料が発見および開発された後で、1990年代レーザー電子加速の急速な進歩が始まった。数MeVをはるかに超えるエネルギーレベルで生成された陽子を観測した最初の実験は、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)におけるペタワットレーザーで行われた(Keyら 1999、Snavelyら 2000)。それまでは、「標準的」と考えられていた最高1MeVまたは2MeVのエネルギーレベルの陽子を観測する実験がいくつか行われていた(Maximchuckら 2000)。英国ラザフォード‐アップルトン研究所における別の実験では、最高30MeVの陽子エネルギーレベルのものが最近報告されている(Clarkら 2000)。ペタワットレーザーは、LLNLの大規模NOVAレーザーの一部を特別修正したものである。パルスはCPA技術により数百fs(フェムト秒、fs=10−15秒)まで短くされているが(Stricklandら 1985)、極限的に短い(数十fsの範囲)わけではない。最新のペタワットレーザー実験では、58MeVの高エネルギー陽子が観測された(Keyら 1999、Snavelyら 2000)。これらの実験では、レーザーエネルギーの驚異的に大きな割合(10%オーダー)が陽子エネルギーに変換された。特定の作用理論に制限されているわけではないが、一般に、その主な原因はレーザーにより駆動される電子が生成した静電場であると考えられている(Wilksら 1999)。水素の電離により高速生成された水素原子は(すなわち陽子は)、典型的に高エネルギーレベルの空間電荷により金属の背面から加速される。高レーザー強度での陽子加速に関連した理論研究および計算研究はいくつかある(Rauら 1998、Bulanovら 1999、Wilksら 1999、Ueshimaら 1999、Fourkalら 2002a)。
【0111】
レーザー陽子加速に関する実験調査については、短パルスCPA高強度Ti:サファイアレーザー(JanUSP)を使ったものが実施されてきている。この技術は、(ガラスレーザーに基づく)ペタワットレーザーとは異なる。この短パルスTi:サファイアレーザーは、ガラスレーザーよりはるかに小型にでき、より高速な反復が可能である。典型的に、1回の治療には複数の短パルスが必要とされるため、上記の利点は特に放射線治療への応用に役立つ。図12に前記JanUSPレーザーシステムを示した。
【0112】
800nmで100fs未満の一連の連続パルスは、8ワットの530nm光でポンプした市販モードにロックされた発振器から放射される。時間周波数変換に制限された発振器出力は、折り畳み式回折格子パルスストレッチャーで約250psに引き伸ばされる。引き伸ばされた4nJパルスは、次に再生増幅器で8mJに増幅されたのち、ボウタイ型5パス増幅器で220mJに増幅される。増幅された自然放射と再生増幅器からのパルス前漏れとからの単離は、3段階のグラン偏光子ポッケルセルパルススライサーにより提供される。レーザーの一部は10Hzおよび90mJのエネルギーで作用し、最高強度1019W/cmでの高速設定および診断タイミングの双方を可能にする。付加的な2段階の増幅は、周波数を2倍にしたNd:ケイ酸塩ガラス増幅器によりポンプされる。これらの最終増幅器は、引き伸ばしたビームエネルギーを21Jより大きく増幅する。80fsへのパルス再圧縮には、直径40cmの格子を2つ使用した真空圧縮機が使われる。200TWの圧縮パルスは、減圧下で標的チャンバーへルーティングされ、そこで直径15cmのF/2軸外し放物面鏡により標的へと集束されて、標的上で>2×1021W/cmの焦点強度を提供する。ガウス焦点は直径約2μmである。JanUSPレーザーは、焦点強度が高いことから、本発明に係る高エネルギー連続エネルギーイオン線を生成するための照準システムに連結された適切なレーザーである。
【0113】
レーザー加速イオン治療システム用の施設は、既存の癌治療施設内で従来中性子線治療に使用されてきている部屋を使って設計でき、これにより十分な空間および遮蔽を提供できる。イオン治療システムにおいて有用な典型的にのレーザーは、JanUSPレーザーに類似した構造を有する。レーザーパルス反復率は、典型的には1〜100Hzの率で構成されるが、より典型的には約2〜50Hzであり、最も典型的には約10Hzである。レーザー強度は、典型的に約1017W/cm〜約1024W/cmの範囲で、より典型的には約1019W/cm〜約1023W/cmの範囲で、さらに典型的には約1020W/cm〜約1022W/cmの範囲で、最も典型的には市販で利用できる約1021W/cmである。
【0114】
標的構成は、レーザー陽子加速において重要な役割を果たすことがわかっている。近年の理論結果および計算結果(Tajima 1999;Ueshimaら 1999)によると、強度1021W/cmにおいて、好ましい条件下では、陽子は最高約400MeVまで加速できることが示されている(表2)。標的技術の革新と、レーザーパラメータおよび標的パラメータの慎重な選択とにより、エネルギーレベルが>100MeVの陽子を多数生成できることもわかった(Tajima 1999)。標的準備および標的構造の詳細と、パルスの長さおよび形状とに応じ、陽子(および他のイオン)の平均エネルギーレベルおよび最大エネルギーレベルは異なる。最も高度な技術を要する標的を伴うケース3では、平均陽子エネルギーは100MeVを超え、最大値は400MeVである。イオンに変換されたエネルギーは、入射レーザーエネルギーの14%になる。この効率は、約10%の陽子への変換効率が得られたペタワットレーザーと一貫しているが、パラメータおよび準備はケース3とペタワットレーザーで異なる。
【0115】
表2:3つの薄い標的へのレーザー照射による陽子および電子の加速に関するPICシミュレーションの結果(Ueshimaら 1999)。標的表面に1021W/cmのレーザー強度が適用されている。
【0116】
【表2】

【0117】
特定の作用理論に制限されているわけではないが、1017W/cm〜約1024W/cm範囲の高いレーザー強度は、放射線治療に適したエネルギーレベルの陽イオンを生成および加速する上で重要なパラメータと考えられている。他の重要なパラメータは、連続エネルギー陽子を生成する適切な標的の設計である。高エネルギー連続エネルギー陽イオンの生成には、種々の適切な標的が知られている。適切な標的は、種々の材料と寸法と構造とを使って設計されている。強度およびスポットサイズといったレーザー照射の様式も、陽イオンの生成に影響を及ぼすことが知られている。最適化されたレーザー標的相互作用の予備的なPICシミュレーションによると(Ueshimaら 1999;Tajima 1999、Fourkalら 2002a)、高Z材料(電子密度約1024/cm)に照射を行った場合、100GeV/mmオーダーの電場での数μmの電荷分離距離が生じると期待される。この場およびこの距離では、陽子は100MeVを超えたエネルギーレベルへの加速が可能である。標的の構造および寸法が適切であれば、単純な標的の場合、平均陽子エネルギーレベルは数倍増加されうる。2001年1月8日付け申請済み米国特許出願第09/757,150号、米国公開番号第2002/0090194 A1号、公開日付2002年7月11日、"Laser Driven Ion Accelerator"(レーザー駆動イオン加速器)は、レーザー陽子加速器システムに使われる標的の構築に関する開示のため、言及により本明細書に組み込むものとする。このような標的は、本発明の種々の実施形態で適切に使用される。
【0118】
特定の標的形状を伴った表2のケース3では、100MeVより大きい平均陽子エネルギーと、400MeVの最大エネルギーとが提供されている。より高エネルギーの陽子生成については、種々の標的構成が容易に試験される。
【0119】
これらのレーザー仕様に基づき、標的の形状および材料と、レーザーパルス長とがレーザー加速陽子のエネルギーに及ぼす効果を調べるため、PICシミュレーションも実施された(Fourkalら 2002a)。これらの結果は、1021W/cmのレーザー強度および50fsのパルス長を使用すると、陽子は310MeVに加速できることを示している。図13は、これらの陽子の角度分布と最大陽子エネルギーとを同じレーザー強度でのレーザーパルス長の関数として示したものである。レーザー駆動陽子加速器からの生陽子線は、広いエネルギースペクトルと、異なるエネルギーレベルに応じて変化するビームプロファイルとを有し、典型的には治療用途に直接使用できない。この問題に対する解決策の1つは、上述の、また以下にさらに説明する、治療深さ範囲をカバーする望ましいエネルギースペクトルを伴った陽子の細いペンシルビーム(ビームレット)を付与するため、小型イオン選択およびコリメーション装置を設計するというものである。
【0120】
図14に示すように、異なる連続エネルギー陽子について1cm×1cmのビームレットの深部線量曲線が示されている。深さ方向に治療標的をカバーする拡大ブラッグピーク(SOBP)は、異なるスペクトルの深部線量曲線を組み合わせることによりもたらされる(図15)。本明細書ではこの工程を「エネルギー変調」と呼ぶ。スペクトルベースの(連続エネルギー)SOBPは、単一エネルギーでのSOBPほど理想的ではないが、最適化ルーチンにより個々の陽子ビームレットの加重を変化させて、標的に対し線量分布を横方向に適合させることができる。本明細書ではこの工程を「強度変調」と呼び、この用語は光子線治療で一般的に使われている。図14および図15に示したレーザー陽子線について推定される線量率は、1cm×1cm〜20cm×20cmのフィールドサイズについて1〜20Gy/分である。従来の4〜6光子場治療と比べ、光子線を使った強度変調放射線治療(IMRT)は、典型的に、より前立腺標的原体(およびそれに付随する節)に沿った線量分布を付与しうる。深さ方向での光子線の線量分布の変調は本質的に不可能ではあるが、陽子線ではこれが可能である(VerheyおよびMunzenrider 1982)。このため、エネルギーおよび強度を変調した陽子線治療(EIMPT)は、前立腺癌治療などの放射線治療における標的のカバーおよび正常組織の温存をさらに改善する。小型イオン選択およびコリメーション装置とそれに付随する治療最適化アルゴリズムとの組み合わせは、典型的に、レーザー加速陽子線を使ったEIMPTを可能にする。特定の作用理論に制限されているわけではないが、レーザー陽子線の連続エネルギー特性は、(スペクトルを使った)エネルギー変調および(ビームスキャンによる)強度変調の双方にとって便利であるため、EIMPTには理想的である。
【0121】
前立腺治療におけるEIMPTの優位性を実証するため、異なる治療モダリティを使った前立腺計画の線量分布が比較されている(Maら 2001a、Shahineら 2001)。図16は、前立腺治療について標的および直腸の線量体積ヒストグラム(DVH)を示したものである。陽子等線量分布も示している。この光子IMRT計画は、8本の15MeV光子線を使って、市販の治療最適化システムCORVUS(NOMOS Corp.、米国ペンシルバニア州スウィックリー市)から導出された。ガントリー角度は、45度、85度、115度、145度、215度、245度、275度、および315度であった。8フィールドの従来の陽子計画にはエネルギー変調が含まれていたが、強度変調は含まれていなかった。陽子線は、光子IMRT計画と同じガントリー角度で入射した。前記8フィールドEIMPTには、同じガントリー角度でエネルギー変調も強度変調も含まれていた。4フィールドの従来の陽子計画は、45度、115度、245度、および315度のポートだけを使って導出された。これは、陽子線治療でエネルギー変調および強度変調の双方を使うと、標的のカバーを著しく改善できることを示している。直腸線量は、他のビームモダリティと比較し、8フィールドEIMPTの方がはるかに低い。8フィールドの従来の陽子計画は4フィールドの陽子計画より優れ、直腸線量の点から後者の方が8フィールド光子IMRT計画より優れていた。Maら 2001aの結果は、5フィールド強度変調陽子線を5フィールドIMRT(the Memorial Sloan−Kettering Cancer Center technique、Burmanら、1997)、2フィールドの従来陽子(the LLUMC technique、Slaterら、1998)、および従来の6フィールドの前立腺光子治療と比較したCellaら(2001)の発見と一貫している。EIMPT計画は、標的のカバーおよび正常組織の温存の観点で、従来治療とIMRT計画より一貫して優れている(直腸、膀胱、および大腿骨頭により低線量)。
【0122】
上記のMaら 2001aの結果では、陽子ビームレットに対し、理想的なエネルギー選択およびビームコリメーションを想定した。典型的に、本発明のイオン照射システムにより生成された現実的な陽子スペクトルの実際のビームレット線量分布は、これら計画の立案に2D患者構造も使用したMaら 2001aの予備計算に使用した理想的線量分布とは異なる。
【0123】
本発明者は、ビームレット最適化により異なるビームレット線量分布を組み合わせることにより、理想的な線量分布が得られることを実証した。本発明の一実施形態では、PICシミュレーションは、最適な標的構成およびレーザーパラメータを導出したのち、シミュレーション結果の陽子線データを使って効率的なイオン選択およびビームコリメーション装置を設計するために実行された。またシミュレーション結果の陽子位相空間データは、陽子線治療ユニットからの陽子ビームレットを使ってモンテカルロシミュレーションで正確な線量分布を得ることにより、最適な標的のカバーと正常組織の温存とを達成するため使用された。
【0124】
エネルギーおよび強度の変調により、レーザー加速陽子源により生成された高エネルギー陽子は、放射線治療のための有効なモダリティへと開発される。本発明の陽イオン治療システムは、サイズおよびコストの両面で従来の光子臨床加速器に匹敵する。したがって、この小型で柔軟な低コスト陽子源の普及は、癌患者にとって重大な利益となる。
【0125】
方法
システム設計:上述したように、レーザー誘起プラズマにより加速された生陽子線は、典型的に放射線治療には直接使用できない。レーザー陽子放射線治療システムの重要なコンポーネントは小型のイオン選択およびビームコリメーション装置であり、この装置は、異なるエネルギーレベルおよび強度を伴った細い陽子ペンシルビームを提供するための小型レーザー陽子源に連結されている。本発明の一実施形態ではレーザー陽子線治療システムの全体設計が提供され、これにはシステムの構成およびレイアウトと、主要コンポーネント機構と、実験用研究戦略とが含まれる(Ma 2000)。図17には、レーザー加速陽イオン線治療施設の一実施形態の模式図を示している(レーザー陽子線治療ユニットなど、レーザーは図示せず)。典型的に、このレーザーおよび治療ユニットは、レーザービームアラインメントを確実に行うため、同じサスペンションベンチに配置される(距離が短いためエネルギー損失は無視できる)。これによりシステム全体が小型にもなる。標的アセンブリおよびイオン選択装置は、回転ガントリー上に配置され、レーザービームは一連のミラー部材204(a〜e)を貫通して最後のミラー部材204(f)へ輸送される。ミラー部材204(d)および204(e)の間の距離と、ミラー部材204(e)および204(f)の間の距離とは、それぞれX軸およびY軸に沿って陽子線をスキャンするよう調整され、これにより平行なスキャンビームが生成される。代替方法は、ミラー部材204(d)および204(e)により画成されるレーザービーム軸の周りで標的を、ミラー部材204(e)および204(f)により画成されるレーザービーム軸の周りでイオン選択装置をそれぞれ揺動させて、スキャンパターンをもたらすというものである。これがスキャンビームに広がりをもたらす。治療台は調整して、同一平面上の治療、非同一平面上の治療、アイソセントリック治療、およびSSD(線源と表面との距離)治療を実施できるようにする。
【0126】
陽子加速のPIC研究:レーザー陽子加速を最適化するため、標的構成およびレーザーパラメータのPICシミュレーションを実施する。このPICシミュレーション方法では、互いに相互作用し、また外部から印加した場と相互作用する荷電粒子(イオンなど)集合の運動を計算する。荷電プラズマ種は、個々のマクロ粒子としてモデル化される(各マクロ粒子は多数の実粒子を表す)。空間解は粒子サイズにより制限されるため、シミュレーションボックス全体にわたり空間グリッド(セル)が導入される。グリッドのサイズは、マクロ粒子のサイズにほぼ等しい。電荷密度および電流は、加重スキームを使用し、粒子をその粒子の位置に従って前記グリッドに割り当てることにより、各グリッド位置で計算される。グリッド位置での電荷密度および電流密度がわかった時点で、同じグリッド点の電場および磁場が、ポアソン方程式およびマクスウェル方程式を使って計算される。これらの方程式は、典型的に高速フーリエ変換(Fast Fourier Transforms、略称FFT)を使って解く。次に、逆加重スキームを使って粒子位置での場が決定される。この体系では、粒子位置での場を得るため、グリッド点での場が粒子位置の点へ補間される。次に、粒子はニュートン方程式によりリープフロッグ有限差分法を使って移動される(位置および場は整数の時間ステップで計算され、速度は半分の時間ステップで計算される)。この手順を繰り返し、このシステムの時間発展を得る。これらの最適化実験には、2次元の電磁相対論的PICコードが典型的に使われる。各時間ステップで、所与の初期条件および境界条件について、粒子の座標および運動量と電磁場とが計算される。計算する変数は、すべて時間と2つの空間座標XおよびYとの関数である。シミュレーションには、異なるレーザーパラメータおよび標的構造が使われる。前記PICシミュレーションの詳細は、本明細書における以下の付加的な説明と、Fourkalら、2002aを参照されたい。
【0127】
PICシミュレーションは、Tajima(1989)により開発されたコードを使って実行する。1〜2.5次元で第1の原理による完全に力学的なこれらの物理ツールは、特に超高速高強度レーザーと物質との相互作用について有効である。当業者であれば、高強度場物理解析(Tajimaら 2000など)およびプラズマ物理でのPICシミュレーション(Fourkalら 2002a)に精通していることであろう。これらの技能を適用すると、これまでの実験や、レーザー陽子加速の実験結果を確定するため現在使用されている実験設定をシミュレートすることができる。追加実験を方向付けるには、実験の状況を解析し、構成およびパラメータを最適化する。使用される適切な標的は、典型的に単純な自立構造の平面膜と、プラスチックおよび他の材料からなる複合平面膜とである。高密度のガス標的も適切な標的である。異なるレーザー強度と焦点サイズとパルス長とを使ったこれらの標的構成のPICシミュレーションは、本発明のイオン放射線施設について実施することができる。少なくとも最高250MeVのエネルギーレベルで小さい角度分布と高い線量率を伴う陽子を生成できるこれらのシミュレーションを使うことにより、レーザーパラメータの最適セットを見つけることができる。これらのPICシミュレーション結果は、前記イオン選択およびビームコリメーションシステムについてさらに解析研究を行うため使われる。
【0128】
レーザー加速陽子線の特徴付け: レーザー加速陽子線に含まれる粒子成分の特徴を正確に決定することは、特に重要である。この知識が、前記イオン選択およびビームコリメーションシステムの設計および操作に役立つ。レーザー加速陽子のエネルギー分布、角度分布、および空間分布は、PICシミュレーションで評価される。ビームを特徴付ける研究は、付加的な線量測定研究用の線源モデル化およびビーム委託のため実施される。EGS4(Nelsonら 1985)、PENELOPE(Salvatら 1996)、PTRAN(Berger 1993)、およびGEANT(Goosensら 1993)を含む放射線治療線量計算については、いくつかのモンテカルロコードが導入・展開され、また広範囲にわたり使用されてきている。このコードは典型的に、16のPentium(登録商標)III(866MHz)マイクロプロセッサからなるPCネットワークで動作する。磁場分布は、3次元場シミュレーションに適した市販のソフトウェアを使ってシミュレートされ、その結果が本発明のイオン照射システム測定値と比較される。磁場における放射線輸送は、電子線について広範にシミュレーションされてきている(Maら 2001b、LeeおよびMa 2000)。陽子に関しては、レーザー陽子装置の出射窓における陽子のエネルギー分布、角度分布、および空間分布を得るため、ソフトウェアが導入および検証されている。シミュレーションでは、本発明のイオン照射システムの構造が使われる。予測されるビームの特徴は、放射線腫瘍学用途における長所および短所を評価するため調べられる。
【0129】
イオン選択およびビームコリメーションの解析的研究:陽子線を治療に使用するには、典型的に、種々のビームストッパー材料および遮蔽材料を使って、混入した光子と中性子と電子とをビームから除外する。本発明のイオン選択システムの好適な実施形態では、4つの主要な放射線成分を分離するため低磁場が使われる。図18に概略を示したように、陽子を小さい角度で偏向させるため、3テスラの磁場(220、222、224)がいくつか使われる。光子のビームストッパー(228)は、ビーム軸(230)上に配置される。望ましくない低エネルギー陽子および高エネルギー陽子を除去するには、適切なビームストッパー(228、234)が使われる。この実施形態において組み合わせる磁場設定は選択された陽子再結合に役立ち、最終的なビームは、それぞれ一次コリメータ242および二次コリメータ240によりコリメートされる。このコリメータの開孔は典型的に小さく(約0.5cm×0.5cm)、これらのコリメータの厚さ合計は典型的に約10cmを超える。前記ビームストッパー228および234で散乱した陽子、および開口部の前記開孔に到達できなかった陽子は、コリメータ開孔を貫通して伝達されことができない。制動放射光子および中性子も順方向に方向付けられ、幅1〜2cm、厚さ10cmのタングステンストッパーが典型的にすべての直接粒子を止め、散乱粒子は遮蔽材料(図示せず)により止められる。電子は典型的に前記磁場(220)により下方へ偏向され、電子ストッパーにより吸収される。図19(a)は、イオン選択前後における陽子のエネルギー分布および角度分布を示したものである。低エネルギー陽子(140)は、高エネルギー陽子(142)と比べ、典型的に大きな角度広がりを有する。図19(b)では、低エネルギー陽子(140)は、高エネルギー陽子の空間的広がり(246)と比べ、典型的に前記磁場の貫通後、空間的に大きな領域(244)に広がる。開口部(238)は、典型的に、望ましいエネルギー成分を選択するため使用される。図19(c)には、生陽子のエネルギースペクトル(実線)、および結果的に選択された陽子のエネルギースペクトル(破線)を示している。図19(d)には、生陽子の深部線量曲線(実線)、および結果的に選択された陽子の深部線量曲線(破線)を示している。二次監視チャンバー(240)(図18の「SMC」)は、各エネルギー成分の強度を測定する。一次監視チャンバー(242)(図18の「PMC」)も設けられる。2001年1月8日付け申請済み米国特許出願第09/757,150号、米国公開番号第2002/0090194 A1号、公開日付2002年7月11日、"Laser Driven Ion Accelerator"(レーザー駆動イオン加速器)には、イオン線を監視する種々の方法と制御システムとが開示されており、そのイオン線監視および制御システムに関する部分は言及により本明細書に組み込むものとする。本発明のイオン選択システム(100)により選択された適切なレーザー陽子線は、典型的に、望ましい治療深部範囲(その範囲の線量は均一)に適したエネルギースペクトルを有する。複数のビームを使うと、本質的にいかなる標的形状および標的深さに対しても、原体に適合し、ビーム方向に均一な線量照射が達成される。
【0130】
上記の実験設定を使った前記イオン選択およびコリメーションシステムの設計パラメータは、当業者により最適化されうる。陽子線は断面積が非常に小さいため、小さい空間内に高磁場をもたらすため適切な磁場(B場)源が使用される。このような磁場をもたらすための適切な磁石は、当業者であれば容易に入手できる。本発明のイオン選択システムは、厳密な空間的磁場分布を必要としない。例えば、この磁場は緩やかな勾配も急な勾配も有しうる。同様に、対向する磁場はマッチするものであってもマッチしないものであってもよい。当業者であれば、異なる磁石について理論的最適化研究を実行して種々の小型構造を決定することができる。適切な小型構造は図18に例示しており、長さ50cm未満および直径40cm未満の寸法を提供する。治療用一次ビームおよびコリメーションシステムの漏れの特徴は、他の混入粒子とともに、付加的な治療計画のため数値シミュレーションプログラムを使って調べることができる。陽子スペクトルおよびビームレットの線量分布基準は、治療最適化に関する横方向および深さ方向のビーム半影最小要件に基づき決定される。その結果は、コリメータ設計および陽子エネルギー選択および変調研究でさらに最適化作業を行う際の指針として使われる。陽子線の線源モデルも研究され、(シミュレーションに非効率的で大きなディスクスペースを占める、Ma 1998、Maら 1997)大きな位相空間データファイルを使う代わりに、またレーザー陽子装置を毎回シミュレートする代わりに、患者シミュレーションで前記線源モデルから位相空間情報を再構築できるようにする。線源モデルパラメータおよびビーム再構築の精度を検証するため、当業者によりビーム委託手順も確立される。
【0131】
図20では、前記イオン選択の機序について本発明の1組の設計原理を例示している。異なるレーザー陽子は異なる角度分布を有することから(図20(a)には3つのエネルギーレベルを示している)、フィールドサイズを画成するには典型的にコリメータ(図1の108など)が使用される(すなわち、図18ではビーム軸に沿って0cmの距離に位置付けられる)。この初期コリメータ(108)が正方形の開孔を有し、コリメートされた異なるエネルギーレベルの連続エネルギー陽子が前記磁場を貫通した場合、コリメートされた陽子は(図18で30cmの距離に示したように)異なる横断面位置(250)に達する。図20(aおよびb)は、50MeV、150MeV、および250MeVの陽子の正方形のフィールドを示したもので、これらのフィールドは十分離間されている。異なるエネルギーレベルの陽子は典型的に異なる横断面位置を占めるため、前記横断面は「エネルギー空間(平面)」と呼ばれる。前記初期コリメータは有限な大きさを有するため、典型的に陽子エネルギーレベルの重なりが生じ、これは典型的に前記初期コリメータのサイズと、前記磁場の強度と、前記エネルギー平面から前記初期コリメータまでの距離とに依存する。この実施形態の望ましいエネルギーを選択するには、第2のコリメータが使用され、これは典型的に対応する横断面位置に位置付けられる。図20(b)に示すように、(右側の)正方形の開口部(248)は、50MeV、150MeV、または250MeVのフィールドの選択に使われる。各エネルギー成分の強度測定には、差分伝達チャンバー(図18では前記二次監視チャンバー、SMC)が使われる。望ましいスペクトルをもたらすよう陽子を組み合わせるには、典型的に複数のレーザーパルスが提供される。望ましい深さ範囲にわたり均一な線量分布をもたらす治療用高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成するには、望ましい陽子エネルギースペクトルが使われる。
【0132】
本発明のイオン選択システムの異なる別の実施形態では、エネルギー空間(平面)で可変開口部サイズを使用して、エネルギーおよびそのエネルギー(強度)の陽子総数の双方を選択する。この実施形態は、典型的に、望ましい陽子スペクトルを達成する上で先行実施形態より少数のレーザーパルスを要する。この可変開口部サイズの実施形態は、前記エネルギー空間において異なる横断面(エネルギー)位置で可変幅を伴う細長い開口部を使うことが好ましい。特定の作用理論に制限されているわけではないが、この設計により、同じレーザーパルスからエネルギーおよび強度を同時に選択することが可能になる。これは、連続エネルギーレーザー陽子線を使用して放射線治療の深さ範囲にわたり均一な線量を達成する上で、高度に効率的な方法であると考えられる。可変のエネルギー開口部サイズでは、典型的に後続の磁気差分システムを使って、異なる陽子エネルギーレベルの場を類似したフィールドサイズへと再結合する。
【0133】
特定の実施形態では、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する陽イオンの最終フィールドのサイズおよび形状を画成するため、典型的に二次コリメーション装置(138)(図1)が提供される。小さく成形したビーム(正方形、円形、矩形、およびそれらの組み合わせなど)は、標的体積に適合した線量分布が達成されるよう個々のビームレットの強度を変調するため提供される。個々の陽子ビームは、標的体積の深さ範囲にわたり均一な線量分布をもたらすよう可変エネルギースペクトルを有しうるため、EIMPTを使うと、標的において光子IMRTより均一な陽子線量分布を生成することができる(Lomax 1999、Maら 2001)。
【0134】
空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を変調する異なる別の方法は、標的体積の断面積の少なくとも一部を対応する深さでカバーする比較的大きな場を伴った、個別の狭域連続エネルギー陽子ビームを同時に複数使ってEIMRTを提供するというものである(ブラッグピークの深さなど)。この実施形態では、空間的に分離されたビームを変調できる変調自在な二次コリメーション装置が提供される。この変調自在な二次コリメーション装置は多葉コリメータ(MLC)など、上述した開口部を使って実現できる可変形状を有しうる。標的体積を治療するため、この実施形態を使って多数のレーザーパルスが典型的に提供される。エネルギーレベルを変調する前記開口部は、標的体積全体の少なくとも一部の深さ範囲をカバーする望ましいエネルギースペクトルを選択するため、典型的に横断面方向に移動するが、前記変調自在な二次コリメーション装置(MLCなど)は、標的体積全体の少なくとも一部を対応する深さで囲むため、再結合されたビームの場の形状を変更することができる。
【0135】
本明細書で説明する、本発明のイオン選択システム(100)のための方法は、本明細書で説明する装置および手段を使って適切に実施しうる。陽子線は典型的に断面積が小さいため、小空間で高磁場を確立することが可能である。本発明の特定の実施形態は、厳密な空間的磁場分布を必要とせず、むしろ、この磁場は緩やかな勾配も、空間的な重複も、またはその双方をも有しうる。本発明の適切な実施形態は、マッチした反対の磁場を有する少なくとも2つの磁場源を具備する。例えば、図18に示した前記イオン選択システムの構造は、長さ50cm未満、直径40cm未満であり、ページへ向かう方向に3.0Tの第1の磁場源(220)と、ページへ向かう方向に3.0Tの第2の磁場源(224)と、ページから出てくる方向に3.0Tの第3の磁場源(222)とを具備する。この構造は、より強い磁場、より細い光子のビームストッパー、またはその双方を使うと、ビーム方向にさらに縮小しうる。
【0136】
モンテカルロ線量計算ツールの改善:EIMPT用の線量計算ツールは、本発明によっても提供される。細い陽子ビームレットの線量分布はビームサイズおよび不均一な患者の身体構造に著しく影響されるため、レーザー加速陽子腺治療の治療最適化では線量計算が実行される。患者用の線量計算は、GEANT3システムを使って推定される。このコードは汎用モンテカルロシミュレーションとして設計されている。図16(a〜d)に示した線量分布計算には、Pentium III 450 MHz PCで約100時間のCPU時間がかかった。これよりはるかに高速な、現在利用できるコンピュータであれば、この計算時間を少なくとも約1桁または2桁短縮できるであろう。線量計算を高速化するため、従来の光子および電子モンテカルロ線量計算アルゴリズムに基づく高速陽子線量計算アルゴリズムが開発されてきた(Maら 1999a−b、2000ab、Dengら 2000ab、Jiangら 2000a、2001、Liら 2000、2001)。前記コードには、モンテカルロシミュレーションを高速化するため、種々の分散低減技術が導入されてきている。「決定論的サンプリング」および「粒子追跡反復」などがそれに含まれ(Maら 2000b、Liら 2000)、これらは荷電粒子シミュレーションについて非常に効率的である。この高速モンテカルロコードの導入は、GEANT3コードを使ってテストされた。モンテカルロ線量計算中にレーザー陽子線治療装置から放射される陽子ペンシルビームについて、位相空間パラメータ(エネルギー、電荷、方向、および位置)を再構築するための線源モデルも導入された。レーザー加速連続エネルギー陽イオンでの患者治療用途に適合できる適切なソフトウェアが利用可能である(Moyersら 1992、Maら 1999b)。このようなソフトウェアは、まず患者のCTデータを、空気と組織と肺と骨とからなるシミュレーションファントムに変換する。標的体積および重要器官の等高線に基づき、前記ソフトウェアは、異なるスペクトルと、入射角度(計画者指定のガントリー角度など)と、入射位置(治療ポートや治療場など)とを伴うビームレットの線量分布をすべて計算する。以下さらに説明するように、すべてのビームレットについての最終的な線量配列が、前記治療最適化アルゴリズムに提供される。
【0137】
治療最適化ツールの改善:特定の実施形態では、改善された治療最適化ツールもEIMPT用に提供されている。典型的なレーザー陽子加速器から生成される典型的な連続エネルギー陽子線と、実際の患者の身体構造とに基づき、治療最適化アルゴリズムが開発されている。一般に使われている「逆方向治療計画」技術には、コンピュータシミュレーションによるアニーリング(Webb 1990、1994)、反復法(HolmesおよびMackie 1994a、XingおよびChen 1996)、フィルター逆投影および直接的なフーリエ変換(Brahme 1988、HolmesおよびMackie 1994b)などがある。計算時間および陽子線に考えられる複雑度を考慮すると、(勾配検索に基づく)反復法による最適化アプローチが適切に適用される。これは、光子および電子のエネルギーおよび強度変調用の反復最適化アルゴリズムに基づいている(Pawlickiら 1999、Jiang 1998、Maら 2000b、Jiangら 2000b)。エネルギーおよび強度を変調した陽子線用に改善されたアルゴリズムはテスト済みである。このアルゴリズムは、実際の陽子線に見られる特殊な特徴を視野に入れ、さらに改善されている。この「オプティマイザ」は次の処理を行う。(1)前記線量計算アルゴリズムからビームレット線量分布を取得する(上記参照)。(2)ビームレット加重(強度)を調整し、考えられる最良の治療計画を標的または重要器官の線量処方に基づき生成する。(3)ビーム付与シーケンス研究のため、すべてのビームポートおよびガントリー角度について強度マップ(ビームレット加重係数)を出力する。
【0138】
治療計画の比較:本発明は前立腺癌用の治療モダリティについて評価されてきた。レーザー加速陽子線を使ったEIMPTにより生成された治療計画は、従来の光子線、陽子線、光子IMRTなど、既存のビームモダリティにより生成された治療計画と比較されている。前立腺のみ、前立腺+精嚢、および前立腺+精嚢+リンパ節について、20の臨床ケースからなるグループに、従来の光子と、陽子と、光子IMRTとを使った従来の放射線治療と同じ条件下でEIMPTが実施された。これらの治療計画は、従来の4または6光子場を伴う光子線向け汎用RTPシステム(FOCUSシステム)、および5〜9強度変調光子場を伴うIMRT向け汎用治療最適化システム(CORVUSシステム)を使った治療計画と比較された。また、これらのケースは、従来の2〜6場陽子線治療のためのFOCUSシステムの陽子線治療計画モジュールを使って計画される。
【0139】
これらの計画は、等線量分布、DVH、TCP、NTCP、および他の生物学的指標を使い、標的のカバー、標的線量の均一性、および正常組織の温存に重点を置いて評価される。陽子EIMPTにも光子IMRTにも、類似条件下で同じ目的(ペナルティ)関数が使われる。治療計画の「良好度」は、前記等線量分布の目視のほか、DVH、TCP、NTCP、および他の生物学的指標に基づき審査される。著しく改善された計画は、次のうち1つ以上に該当するものとする。(a)標的体積内では線量がより均一(5〜10%)で、隣接する正常構造への線量がはるかに少ない(「強い」に対し「中程度」、または「中程度」に対し「低い」)。(b)離れた器官への出射/散乱線量が著しく低減されている(2分の1以下)。(d)線量分布が明らかに改善されている。さらに医師は、典型的に、特定の計画を採用するかどうか臨床的判断を下し、その理由も加える。
【0140】
放射性同位元素の生成:本発明は、本明細書で提供する前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を使って放射性同位元素を生成する方法も提供する。2−デオキシ−2−18Fフルオロ−D−グルコース(「[18F]FDG」)の生成は、放射性同位元素の化学的前駆体に陽子を照射することにより行われる。これらの工程では、伝統的なサイクロトロン源およびシンクロトロン源を使って生成される陽子線を使う。例えば、J.Medemaら[http://www.kvi.nl/〜agorcalc/ecpm31/abstracts/medema2.html]は、まず18Oを多く含む水中での18O(p,n)[18F]核反応により[18F]フッ化物を生成し、次に樹脂法およびクリプテート乾燥工程で[18F]フッ化物を回収して[18F]FDGを生成することによる[18F]フッ化物および[18F]FDGの生成について報告している。本発明は、この放射性同位元素生成工程での用途に適した高エネルギー連続エネルギーイオン線を提供する。このため、放射性同位元素を生成する工程は、本明細書で説明する、適切な粒子と標的とビーム電流とをもたらすための高エネルギー連続エネルギー陽子線を形成する工程を含む。標的前駆体はH18Oで満たされる。この高エネルギー連続エネルギー陽子線で、事前に選択された統合ビーム電流または時間に達するまで、標的前駆体に照射を行う。標的圧力は、典型的に圧力トランスデューサで監視される。前記統合ビーム電流または前記時間に達した時点で、[18F]フッ化物を使って[18F]FDGを化学的に合成する。最終的な生成物は等張、無色、無菌で、発熱物質を含まず、臨床用途に適している。
【0141】
図21〜44には本発明の種々の代替実施形態をさらに示しており、ここではイオンの全般的な位置および配向を提供するためイオン軌跡を例示している。例えば、図21、図23(概略断面積図)および22(斜視図)では、複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線をコリメートできるコリメーション装置(408)と、第1の磁場源(磁石402)であって、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンをそのエネルギーレベルに従って空間的に分離させることができる第1の磁場源と、開口部(418)であって、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調できる開口部と、第2の磁場源(磁石412)であって、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合できる第2の磁場源とからなるイオン選択システム(100)の実施形態を示している。
【0142】
図24は図21で提供されるイオン選択システムに類似したイオン選択システムの実施形態の概略図で、このイオン選択システムの実施形態は、第3の磁場源(磁石420)であって、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡(428)を前記開口部(418)へ向かって曲げることができる第3の磁場源をさらに具備している。
【0143】
図25は図24で提供されるイオン選択システムに類似したイオン選択システムの実施形態の概略図で、前記開口部(418)が前記第3の磁場源(磁石420)の磁場内部に配置されていることを示している。
【0144】
図26は図24で提供されるイオン選択システムに類似したイオン選択システムの実施形態の概略図で、前記開口部(418)が前記第3の磁場源(磁石420)の磁場外部に配置されていることを示しており、この第3の磁場源は2つの部分に分割されている。
【0145】
図27は、前記第3の磁場源(磁石420)の磁場が、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの前記軌跡(428)を、前記第2の磁場源(磁石412)へ向かって曲げることのできるイオン選択システムの実施形態の概略図を示している。
【0146】
図28は、前記第2の磁場源(磁石412)が、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの前記軌跡(428)を、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線の方向に非平行な方向へ向かって曲げることができるイオン選択システムの実施形態の概略図を示したものである。
【0147】
図29は、前記第2の磁場源(磁石412)が、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの前記軌跡(428)を、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線の方向に平行な方向へ向かって曲げることができるイオン選択システムの実施形態の概略図を示したものである。
【0148】
図30は、二次コリメーション装置(430)であって、再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部を、前記二次的コリメーション装置を貫通して流体的に流通させることができる二次コリメーション装置(430)をさらに示す、イオン選択システムの実施形態の概略図を示している。
【0149】
図31は、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンのビーム形状を変調できる前記二次コリメーション装置(430)を示す、イオン選択システムの実施形態を示している。
【0150】
図32は、複数の開孔(442および444)を有する開口部(418)を伴った回転自在なホイール(440)であって、前記複数の開孔(442および444)は、その各々を貫通して高エネルギー連続エネルギー陽イオンを流体的に流通させることができる、回転自在なホイール(440)の詳細を示したものである。
【0151】
図33は、開孔(444および442)であって、それぞれ低エネルギーイオン、または高エネルギーイオン、あるいはその組み合わせを通過させることができる開孔(444および442)を有する開口部すなわち多葉コリメータ(408)の詳細を示している。
【0152】
図34は、本発明に係るイオン選択システムがいかにイオン線を操作するか示したものである。この図では、複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン(110)を含むレーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線の形成を示しており、前記複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン(110)はエネルギーレベル分布を有するとして特徴付けられる。前記レーザー加速イオン線(110)のコリメーションは、コリメーション装置(コリメータ408)を使って行われ、前記陽イオン(140および142)はそのエネルギーレベルに従い、第1の磁場(磁石402)を使って空間的に分離される。前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、エネルギー選択開口部(418)を使って変調され、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、第2の磁場(磁石412)を使って再結合される(428)。この実施形態では、前記陽イオンの一部、例えば、約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するものは、前記開口部を貫通して伝達され、他の部分は前記エネルギー選択開口部(418)によりブロックされる。
【0153】
図35では、前記第1の磁場(磁石402)を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線(110)のビーム軸から離れる方向に前記陽イオン(140および142)の軌跡を曲げる工程を示している。
【0154】
図36は、第3の磁場(磁石420)を使って、開口部(444)へ向かう方向へ前記空間的に分離された陽イオン(140および142)の軌跡を曲げる工程を示している。
【0155】
図37および図38では、開口部(442および444)の位置制御自在な開孔を使って、前記空間的に分離された高エネルギー陽イオンがエネルギーレベル別に(それぞれ低エネルギー(140)および高エネルギー(142))変調される様子を示している。
【0156】
図39は、前記第3の磁場(磁石420)が、選択された陽イオンを図28のように前記第2の磁場(磁石412)へ向かって曲げることのできるイオン選択システムの実施形態を示したものである。
【0157】
図40では、最高約50cmの距離にわたり前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンが空間的に分離されるイオン選択システムの実施形態を示している。
【0158】
図41では、高エネルギー連続エネルギーイオン線(110)を生成できるレーザーおよび標的システム(104)を有したレーザー標的システムであって、前記高エネルギー連続エネルギーイオン線は少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有する、レーザー標的システムを具備したイオン選択システムの実施形態を示している。前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、エネルギーレベル(140および142)に基づき空間的に分離され(428)、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部から治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できるイオン選択システムが提供される。また、差分チャンバー(448)および統合チャンバー(446)も提供されている。異なるエネルギーの陽イオンは、典型的に、これらイオンのエネルギーの差異を測定し選択されたイオンのエネルギーを監視する前記差分チャンバー(448)の異なる部分を貫通する。典型的に、この差分チャンバー(448)は前記エネルギー選択開口部を制御しない。前記統合チャンバーは、前記開口部(418)およびこの開口部の開孔の位置を決定するため(図示していないコンピュータまたは適切なデータプロセッサにより)解析される信号の生成用に設けられている。
【0159】
図42(a〜d)は、種々のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設(200)の斜視図であり、これらのレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設(200)はそれぞれ、図21〜41に図示されたイオン治療システムを少なくとも1つ適切に具備し、また患者を固定するための位置(すなわちカウチ208)を具備する。例えば、図42(a)では上記図17で説明したタイプの適切な治療施設を示しており、前記レーザービーム(202)は、複数のミラー部材(204)を使って標的アセンブリ(100)へ反射的に輸送される。図42(b)では、前記レーザービーム(202)用の光監視および制御システム(450)を具備する適切な治療施設を示している。図42(c)は、少なくとも2つの標的アセンブリ(100)の各々へ向け前記レーザービーム(202)を分割または反射されたレーザービーム454に分割するため、あるいは、前記レーザービームを前記標的アセンブリ(100)の1つへと反射するため、少なくとも1つのビームスプリッタまたはミラー部材(452)が設けられている適切な治療施設を示したものである。ここには、2つの標的アセンブリおよび2つのイオン選択システムを有するレーザー標的システムであって、それぞれ個別に、各前記高エネルギー連続エネルギー陽イオン線から、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できる、レーザー標的システムを示した適切な治療施設が図示されている。前記治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のそれぞれのために、個別連続エネルギーイオン線監視および制御システムも設けられている。この実施形態では、前記イオン治療システムの1つへビームを方向付けるため、前記メインレーザービームの内外に位置付けが可能なミラー部材(452)を示している。あるいは、分割されたビームを2つ以上のイオン治療システムで同時に使用できるよう、十分に強力なレーザービームが提供される場合は、ビームスプリッタを使うことができる。患者のプライバシーのため、2つ以上のイオン治療システムを有する典型的なイオン治療施設は、各前記イオン治療システム用に個別の治療室を有する。このような実施形態では、前記レーザービーム源は、別個の部屋または建物に適切に配置される。図42(d)には、光監視システム(450)をさらに具備する前記治療施設の実施形態を示している。この実施形態では、前記光監視システム(450)は、作業者が現在作動中の前記イオン治療システムがどれであるかを知り、それを制御できるようになっている。
【0160】
図43は、本発明に従って患者を治療する方法のフローチャート(500)である。この方法は、患者体内の標的領域の位置を特定する工程と、前記標的領域の治療戦略を決定する工程であって、前記治療戦略は、前記標的領域に照射を行うための治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の線量分布を決定する工程(例えば、治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のエネルギー分布と、強度と、方向とを決定する工程など)を有する、標的領域の治療戦略を決定する工程と、エネルギーレベルに基づき空間的に分離されている複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンから、前記治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程と、前記治療に適した複数の連続エネルギー陽イオン線を、前記治療戦略に従って前記標的領域に輸送する工程と(502〜508)を含む。
【0161】
以上のように、高エネルギー連続エネルギー陽イオン放射線治療を提供する方法およびシステムが提供されてきた。本発明では、種々の図の例示的な実施形態と関連させ説明を行ってきたが、本発明の範囲内で本発明と同じ機能を実行するために、類似した他の実施形態が使用でき、あるいは説明した実施形態に修正および追加が行えることはことは言うまでもない。例えば、当業者であれば本用途に説明された本発明が、レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン源からの陽イオンをエネルギーに基づき選択する磁石と開口部とコリメータとのいかなる構成にも適用しうることが理解できるであろう。したがって、本発明はいかなる単一の実施形態にも限定されるべきではなく、むしろ添付した請求項に係る範囲において解釈されるべきである。
【0162】
【表3−1】

【0163】
【表3−2】

【0164】
【表3−3】

【0165】
【表3−4】

【0166】
【表3−5】

【図面の簡単な説明】
【0167】
以上の課題を解決するための手段および以降の詳細な説明は、添付の図面を参照することで、さらに明確に理解される。本発明を例示するため本発明の例示的な実施形態を図面に示すが、本発明は開示されている具体的な方法および手段に限定されるものではない。前記図面は、以下のとおりである。
【図1】図1は、本発明の連続エネルギーイオン選択システムの一実施形態の模式図。EはY軸に沿って偏極されたパルスの電場を表し、kはX軸に沿って方向付けられた前記パルスの波ベクトルを表す。前記パルスは標的の左側へ初期化され、この図の左側から右側へ伝播する。
【図2a】図2aは、t=400ωpe、ωpe=1.18×1015rad/sにおける陽子のエネルギー分布を示した図。Nは、前記シミュレーションに使用する陽子総数が1048576の場合の、所与のエネルギー範囲の陽子数を表す。
【図2b】図2bは、at=400ωpeで加速された陽子の角度分布を示した図。実線はエネルギー範囲95≦E≦105MeVの陽子の分布を示し、点線はエネルギー範囲145≦E≦155MeVの陽子の分布を示し、破線はエネルギー範囲245≦E≦255MeVの陽子の分布を示す。前記レーザーパルスの長さおよび強度は、それぞれ14fsおよびI=1.9×1022W/cmである。エラーバー(誤差指示線)は、1標準偏差の統計的不確実性を表す。
【図3】図3は、源から表面までの距離(source to surface distance、略称SSD)100cmで画成された、1×1cmの一次コリメータ開孔について、x=40cm、z=0cmの平面でY軸に対しシミュレートされた、所与の陽子総数に関するレーザーパルスごとの陽子の空間分布N=N(y)を示した図。Nは、空間的Y座標の所与の範囲に含まれる陽子の数を表す。実線はエネルギー範囲80≦E≦90MeVの陽子の分布を表し、点線はエネルギー範囲110≦E≦120MeVの陽子の分布を表し、破線はエネルギー範囲140≦E≦150MeVの陽子の分布を表し、一点鎖線はエネルギー範囲190≦E≦200MeVの陽子の分布を表し、二点鎖線はエネルギー範囲250≦E≦260MeVの陽子の分布を表す。
【図4】図4は、100cmのSSDで画成された1×1cmの一次コリメータ開孔について、x=40cm、z=0cmの平面でエネルギーに対しシミュレートされた、所与の陽子総数に関するレーザーパルスごとの陽子のエネルギー分布N=N(E)を示した図。実線はE=81MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、点線はE=114MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、破線はE=145MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、一点鎖線はE=190MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、二点鎖線はE=250MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表す。
【図5】図5は、初期陽子フルエンスで正規化した、図4のエネルギースペクトルを伴う陽子について深部線量分布を示した図。実線はE=81MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、点線はE=114MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、破線はE=145MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、一点鎖線はE=190MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、二点鎖線はE=240MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表す。前記一次コリメータ開孔は、100cmのSSDで画成され、1×1cmである。この計算に使用した1標準偏差は、1%のオーダーである。
【図6a】図6aは、100cmのSSDで画成された、5×5cmの一次コリメータ開孔について、x=40cm、z=0cmの平面でのY軸に対する陽子の空間分布N=N(y)を示した図。実線はエネルギー範囲80≦E≦90MeVの陽子の分布を表し、点線はエネルギー範囲110≦E≦120MeVの陽子の分布を表し、破線はエネルギー範囲140≦E≦150MeVの陽子の分布を表し、一点鎖線はエネルギー範囲180≦E≦190MeVの陽子の分布を表し、二点鎖線はエネルギー範囲245≦E≦255MeVの陽子の分布を表す。
【図6b】図6bは、100cmのSSDで画成された、5×5cmの一次コリメータ開孔について、x=40cm、z=0cmの平面でのエネルギーに対する陽子のエネルギー分布N=N(E)を示した図。実線はE=76MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、点線はE=95MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、破線はE=133MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、一点鎖線はE=190MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表し、二点鎖線はE=208MeVにピークのあるエネルギー分布の陽子を表す。
【図7】図7は、前記一次コリメータ開孔に対するエネルギーの広がりを示した図。実線は103MeVにピークのある陽子に対応し、破線は124MeVにピークのある陽子に対応し、一点鎖線は166MeVにピークのある陽子に対応する。
【図8】図8は、初期陽子フルエンスで正規化した、図6bのエネルギースペクトルを伴う陽子について深部線量分布を示した図。実線はE=76MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、点線はE=133MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、破線はE=190MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表し、一点鎖線はE=208MeVにピークのある陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表す。前記一次コリメータ開孔は、100cmのSSDで画成され、5×5cmである。この計算に使用した1標準偏差は、1%のオーダーである。
【図9a】図9aは、100cmのSSDで確定された1×1cmの一次コリメータ開孔に基づき、変調された陽子エネルギー分布を示した図。ηは、E=152MeVのエネルギーを伴う陽子の数で正規化した所与のエネルギー範囲における陽子の数を表す。実線は、連続エネルギー陽子線を使って計算したエネルギースペクトルを表す。破線は、単一エネルギー陽子線を使って計算したエネルギースペクトルを表す。
【図9b】図9bは、陽子の初期フルエンスで正規化した4×4cmのフィールドでのSOBP線量分布を示す図。実線は、図9aに示したスペクトル(実線)を伴う16の1×1cmビームレットを使って計算した線量分布を表す。破線は、理想的な単一エネルギー陽子スペクトルを使って計算した線量分布を表す。この計算に使用した1標準偏差は、1%のオーダーである。
【図10】図10は、時間経過に伴う陽子雲のサイズ変化を示した図。実線は式7の数値解を表す。各点はPICシミュレーションの結果を表す。τは、イオンプラズマ周波数τ=ωpit単位での時間を表す。
【図11】図11は、種々の放射線モダリティの線量分布を、水深の関数として示した図。
【図12】図12は、JanUSPレーザーシステムおよび標的チャンバーを示した図。
【図13】図13は、1021W/cmのレーザー強度について、レーザー加速陽子の角度分布と、1ラジアンごとの相対数値(上図)と、レーザーパルス長の関数としての最大陽子エネルギー(下図)とを示した図。
【図14】図14は、1021W/cmのレーザー強度および50fsパルス長について、小さい開口部(上図)によりコリメートしたレーザー加速陽子エネルギースペクトルと、これらのスペクトルからの線量分布(下図)とを示した図。
【図15】図15は、異なるエネルギーレベルおよび強度の、SOBPを形成する陽子について、単一エネルギー(実線)または図14のスペクトル(破線)を使って、深部線量曲線を示した図(上図)、およびスペクトルベースのSOBPについて各エネルギースペクトルの加重を示した図(下図)。
【図16a】図16は、8フィールドEIMPT計画(a)および8フィールド光子IMRT計画(b)について等線量分布を示した図、および異なる4つの治療モダリティを使って同じ患者構造について標的(c)および直腸(d)のDVH(線量体積ヒストグラム)を示した図。処方された標的(PTV)線量は50Gyである。等線量線は、5Gy、15Gy、25Gy、35Gy、40Gy、45Gy、50Gy、および55Gyを表す。
【図16b】図16は、8フィールドEIMPT計画(a)および8フィールド光子IMRT計画(b)について等線量分布を示した図、および異なる4つの治療モダリティを使って同じ患者構造について標的(c)および直腸(d)のDVH(線量体積ヒストグラム)を示した図。処方された標的(PTV)線量は50Gyである。等線量線は、5Gy、15Gy、25Gy、35Gy、40Gy、45Gy、50Gy、および55Gyを表す。
【図16c】図16は、8フィールドEIMPT計画(a)および8フィールド光子IMRT計画(b)について等線量分布を示した図、および異なる4つの治療モダリティを使って同じ患者構造について標的(c)および直腸(d)のDVH(線量体積ヒストグラム)を示した図。処方された標的(PTV)線量は50Gyである。等線量線は、5Gy、15Gy、25Gy、35Gy、40Gy、45Gy、50Gy、および55Gyを表す。
【図16d】図16は、8フィールドEIMPT計画(a)および8フィールド光子IMRT計画(b)について等線量分布を示した図、および異なる4つの治療モダリティを使って同じ患者構造について標的(c)および直腸(d)のDVH(線量体積ヒストグラム)を示した図。処方された標的(PTV)線量は50Gyである。等線量線は、5Gy、15Gy、25Gy、35Gy、40Gy、45Gy、50Gy、および55Gyを表す。
【図17】図17は、本発明のレーザー駆動陽子線治療システムのレーザービームラインおよびビームスキャン機構を有するレーザー加速陽イオン線治療施設(レーザー陽子線治療ユニットなど、レーザー図示せず)の一実施形態の模式図を示した図。
【図18】図18は、3T磁場における50MeV、150MeV、および250MeVの陽子について計算した軌跡(左から右へ移動)を示した、本発明のイオン選択システムの一実施形態の模式図。所定エネルギー範囲のエネルギーレベルを有する陽子は、ビームストッパー横を通過し、出射コリメータおよび一次監視チャンバー(primary monitor chamber、略称PMC)を貫通して再結合する。高エネルギー陽子ストッパーは光子ストッパーとしても機能し、電子は下方へ偏向され電子ストッパーで終端を迎える。二次監視チャンバー(secondary monitor chamber、略称SMC)は、エネルギーの広がりおよび強度の変化を測定する。
【図19】図19は、(a)生ビームにおける陽子の角度分布(各曲線は1エネルギーを表す)、(b)望ましいエネルギーレベルの選択用に磁場(各円は1エネルギーを表す)および矩形状開口部を通過した後の陽子の空間的広がり、(c)生陽子(実線)および選択された陽子(破線)のエネルギースペクトル、および(d)生陽子(実線)および選択された陽子(破線)の深部線量曲線を示した図。
【図20】図20は、(a)生レーザー陽子線における異なるエネルギーの陽子の角度分布、および(b)正方形コリメータおよび磁石を通過した後の、異なるエネルギーレベルの陽子の空間的広がりを示した図。(b)の右側の正方形開口部は、望ましいエネルギーを選択するため使用する。
【図21】図21は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図22】図22は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の斜視図。
【図23】図23は、図22に示したイオン選択システムの断面図。
【図24】図24は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図25】図25は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図26】図26は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図27】図27は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図28】図28は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図29】図29は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図30】図30は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図31】図31aは、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。図31bは、XZ平面におけるコリメータ2(すなわち、多葉コリメータ)の概略図であって、特定エネルギーの陽イオンを選択するための前記コリメータの開孔を示した図。
【図32】図32は、エネルギー選択開口部の概略図。
【図33】図33は、XZ平面における多葉コリメータの概略図。(a)は低エネルギーイオンを選択するための多葉コリメータの開孔を示し、(b)は高エネルギーイオンを選択するための多葉コリメータの開孔を示す。
【図34】図34は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図35】図35は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図36】図36は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図37】図37は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図38】図38は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図39】図39は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図40】図40は、本発明のイオン選択システムの一実施形態の断面図。
【図41】図41は、本発明のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムの断面図。
【図42a】図42aは、レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設の一実施形態の斜視図。
【図42b】図42bは、光監視および制御システムを含むレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設の一実施形態の斜視図。
【図42c】図42cは、2つ以上のイオン治療システムを含むレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設の一実施形態の斜視図。
【図42d】図42dは、2つ以上のイオン治療システムであって、それぞれが光監視および制御システムを有する2つ以上のイオン治療システムを含む、レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設の一実施形態の斜視図。
【図43】図43は、連続エネルギー高エネルギー陽イオンを使った患者治療方法の一実施形態のフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択システムであって、
レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートできるコリメーション装置であって、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線は複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するものである、コリメーション装置と、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従って空間的に分離させることができる第1の磁場源と、
開口部であって、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調できる開口部と、
第2の磁場源であって、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合できる第2の磁場源と
を有するイオン選択システム。
【請求項2】
請求項1のイオン選択システムにおいて、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するものである。
【請求項3】
請求項1のイオン選択システムにおいて、前記第1の磁場源は、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記レーザー加速連続エネルギーイオン線のビーム軸から離れる方向へ曲げることができる。
【請求項4】
請求項3のイオン選択システムであって、このイオン選択システムは、さらに、
第3の磁場源を有し、この第3の磁場源が前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記開口部へ向かって曲げることができるものである。
【請求項5】
請求項4のイオン選択システムにおいて、前記開口部は、前記第3の磁場の磁場の外側に配置されるものである。
【請求項6】
請求項4のイオン選択システムにおいて、前記第3の磁場源の磁場は、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記第2の磁場源へ向かって曲げることができるものである。
【請求項7】
請求項6のイオン選択システムにおいて、前記第2の磁場源は、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線の方向に平行な方向へ向かって曲げることができるものである。
【請求項8】
請求項1のイオン選択システムであって、このイオン選択システムは、さらに、
二次コリメーション装置を有し、前記二次コリメーション装置が再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部を前記二次コリメーション装置を貫通して流体的に流通させることができるものである。
【請求項9】
請求項8のイオン選択システムにおいて、前記二次コリメーション装置は、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンのビーム形状を変調することができるものである。
【請求項10】
請求項1のイオン選択システムにおいて、前記開口部は、複数の開孔であって、各前記開孔を貫通して高エネルギー連続エネルギー陽イオンを流体的に流通させることができる開孔を有するものである。
【請求項11】
請求項10のイオン選択システムにおいて、前記開口部は、多葉コリメータである。
【請求項12】
高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する方法であって、
複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を形成する工程であって、前記複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンはエネルギーレベル分布を有するとして特徴付けられるものである、工程と、
コリメーション装置を使って、前記レーザー加速イオン線をコリメートする工程と、
前記高エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従い、第1の磁場を使って空間的に分離させる工程と、
開口部を使って、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調する工程と、
第2の磁場を使って、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合する工程と
を有する方法。
【請求項13】
請求項12の方法において、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調する工程は、前記開口部を貫通して伝達されている陽イオンの一部を励起し、前記陽イオンの一部は約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するものである。
【請求項14】
請求項12の方法において、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、前記第1の磁場を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸から離れる方向へ曲げられるものである。
【請求項15】
請求項14の方法において、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、第3の磁場を使って、前記開口部へ向かってさらに曲げられるものである。
【請求項16】
請求項15の方法において、前記空間的に分離された高エネルギー陽イオンは、前記開口部内の制御自在な複数の開孔を使って、エネルギーレベルに応じ変調されるものである。
【請求項17】
請求項15の方法において、前記第3の磁場は、前記第2の磁場へ向かって前記軌跡をさらに曲げるものである。
【請求項18】
請求項17の方法において、前記第2の磁場は、レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線の方向に平行な方向へ向かって前記軌跡を曲げるものである。
【請求項19】
請求項12の方法において、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部は、二次コリメーション装置を貫通して流体的に流通されるものである。
【請求項20】
請求項12の方法において、複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンビームレットは、空間的に分離された高エネルギー陽イオンを変調するため、前記開口部内の制御自在な複数の開孔を貫通して流体的に流通されるものである。
【請求項21】
請求項12の方法において、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギー分布に従って最高約50cmの距離だけ空間的に分離され、前記距離は、前記第1の磁場に入射する前記レーザー加速イオン線のビーム軸に垂直な方向に測定されるものである。
【請求項22】
請求項12の方法であって、この方法は、さらに、
再結合された前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを放射性同位元素の前駆体に照射する工程を有するものである。
【請求項23】
レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムであって、
高エネルギー連続エネルギーイオン線を生成できるレーザーおよび標的システムを有するレーザー標的システムであって、前記高エネルギー連続エネルギーイオン線は少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有し、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンはエネルギーレベルに基づき空間的に分離されているものである、レーザー標的システムと、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部から、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できるイオン選択システムと、
イオン線監視および制御システムと
を有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システム。
【請求項24】
請求項23のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記イオン選択システムは、
前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートすることができるコリメーション装置と、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従って空間的に分離させることができる第1の磁場源と、
空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調できる開口部と、
変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合できる第2の磁場源と
を有するものである。
【請求項25】
請求項24のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するとして特徴付けられるものである。
【請求項26】
請求項24のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記第1の磁場源は第1の磁場を提供し、前記第1の磁場は高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を曲げることができ、前記曲げは前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸から離れる方向に行われるものである。
【請求項27】
請求項26のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記イオン選択システムは第3の磁場源をさらに有し、この第3の磁場源は前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記開口部へ向かって曲げることができるものである。
【請求項28】
請求項27のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記開口部は、前記第3の磁場の磁場の外側に配置されるものである。
【請求項29】
請求項27のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記第3の磁場源の磁場は、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部の軌跡を前記第2の磁場源へ向かって曲げることができるものである。
【請求項30】
請求項29のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記第2の磁場源は、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部の軌跡を前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸に平行な方向へ向かって曲げることができるものである。
【請求項31】
請求項24のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムはであって、このレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムは、さらに、
二次コリメーション装置であって、再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部を前記二次コリメーション装置を貫通して流体的に流通させることができる、二次コリメーション装置をさらに有するものである。
【請求項32】
請求項31のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記二次コリメーション装置は、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンのビーム形状を変調することができるものである。
【請求項33】
請求項24のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにおいて、前記開口部は複数の開孔を有し、各前記開孔を貫通してイオンビームレットを流体的に流通させることができるものである。
【請求項34】
レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムにより患者を治療する方法であって、
患者体内の標的領域の位置を特定する工程と、
前記標的領域の治療戦略を決定する工程であって、前記治療戦略は、前記標的領域に照射を行うための治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の線量分布を決定する工程を有するものである、標的領域の治療戦略を決定する工程と、
エネルギーレベルに基づき空間的に分離されている複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンから、前記治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程と、
前記治療に適した複数の連続エネルギー陽イオン線を、前記治療戦略に従って標的領域に輸送する工程と
を有する、患者を治療する方法。
【請求項35】
請求項34の患者を治療する方法において、前記線量分布を決定する工程は、治療に適した複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のエネルギー分布、強度、および方向を決定する工程を有するものである。
【請求項36】
請求項34の患者を治療する方法において、前記治療に適した連続エネルギー陽イオン線は、
高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を形成する工程と、
少なくとも1つのコリメーション装置を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートする工程と、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従い、第1の磁場を使って空間的に分離させる工程と、
開口部を使って、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調する工程と、
第2の磁場を使って、変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合する工程と
により生成されるものである。
【請求項37】
請求項36の患者を治療する方法において、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するものである。
【請求項38】
請求項36の患者を治療する方法において、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、前記第1の磁場を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸から離れる方向へ曲げられるものである。
【請求項39】
請求項38の患者を治療する方法において、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、第3の磁場を使って、前記開口部へ向かって曲げられるものである。
【請求項40】
請求項39の患者を治療する方法において、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、前記開口部内の制御自在な複数の開孔を使って、エネルギーレベルに応じ変調されるものである。
【請求項41】
請求項40の患者を治療する方法において、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、前記第3の磁場を使って、前記第2の磁場へ向かってさらに曲げられるものである。
【請求項42】
請求項41の患者を治療する方法において、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡は、前記第2の磁場を使って、前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸の方向に平行な方向へ向かって曲げられるものである。
【請求項43】
請求項36の患者を治療する方法において、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部は、二次コリメーション装置を貫通して流体的に流通されるものである。
【請求項44】
請求項43の患者を治療する方法において、前記再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンのビーム形状は、前記二次コリメーション装置により変調されるものである。
【請求項45】
レーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設であって、
患者を固定する位置と、
治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を患者の前記位置に輸送できるレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムであって、
レーザー標的システムであって、高エネルギー連続エネルギーイオン線を生成できるレーザーおよび標的アセンブリを有し、前記高エネルギー連続エネルギーイオン線は少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するものである、レーザー標的システムと、
イオン選択システムであって、エネルギーレベルに基づき空間的に分離されている前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを使って、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できるものである、イオン選択システムと、
前記治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線のための監視および制御システムと
を有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン治療システムと
を有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設。
【請求項46】
請求項45のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記イオン選択システムは、
前記高エネルギー連続エネルギーイオン線をコリメートすることができるコリメーション装置と、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンのエネルギーレベルに従って空間的に分離させることができる第1の磁場源と、
空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調できる開口部と、
変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、前記治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線へと再結合できる第2の磁場源と
を有するものである。
【請求項47】
請求項46のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、
前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンは、約50MeV〜約250MeV範囲のエネルギーレベルを有するとして特徴付けられるものである。
【請求項48】
請求項46のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記第1の磁場源は、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を、前記第1の磁場に入射する前記レーザー加速連続エネルギーイオン線のビーム軸から離れる方向へ曲げることができるものである。
【請求項49】
請求項48のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記イオン選択システムは、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記開口部へ向かって曲げることができる第3の磁場源をさらに有するものである。
【請求項50】
請求項49のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記開口部は、前記第3の磁場(源)の磁場の外側に配置されるものである。
【請求項51】
請求項49のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記第3の磁場源の磁場は、前記変調された高エネルギー陽イオンの軌跡を前記第2の磁場源へ向かって曲げることができるものである。
【請求項52】
請求項51のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記第2の磁場源は、前記変調された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの軌跡を前記レーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線のビーム軸に平行な方向へ向かって曲げることができるものである。
【請求項53】
請求項48のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設であって、このレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設は、さらに、
二次コリメーション装置であって、再結合された高エネルギー連続エネルギー陽イオンの一部を前記二次コリメーション装置を貫通して流体的に流通させることができる、二次コリメーション装置をさらに有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設である。
【請求項54】
請求項46のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記開口部は複数の開孔を有し、各前記開孔を貫通してイオンビームレットを流体的に流通させることができる開孔を有するものである。
【請求項55】
請求項45のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記標的アセンブリおよび前記イオン選択システムは、回転ガントリー上に配置されるものである。
【請求項56】
請求項45のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記レーザーのレーザービームは、複数のミラー部材を使って前記標的アセンブリへ反射的に輸送されるものである。
【請求項57】
請求項56のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、前記イオン選択システムはロボット式に載置され、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の走査を可能にするものである。
【請求項58】
請求項56のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設であって、このレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設は、さらに、
少なくとも2つの標的アセンブリの各々にレーザービームを分割するための、少なくとも1つのビームスプリッタをさらに有するものである。
【請求項59】
請求項45のレーザー加速高エネルギー連続エネルギー陽イオン線治療施設において、
前記レーザー標的システムは複数の標的アセンブリを有し、各前記標的アセンブリは高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成でき、前記高エネルギー連続エネルギー陽イオン線は、少なくとも約50MeVのエネルギーレベルを有する高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するものである、複数の標的アセンブリと、
複数のイオン選択システムであって、それぞれ個別に、各前記高エネルギー連続エネルギー陽イオン線から、治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を生成できるものである、複数のイオン選択システムと、
前記治療に適した高エネルギー連続エネルギー陽イオン線の各々のための個別連続エネルギーイオン線監視および制御システムと
を有するものである。
【請求項60】
放射性同位元素を生成する方法であって、
高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程であって、
複数の高エネルギー連続エネルギー陽イオンを有するレーザー加速高エネルギー連続エネルギーイオン線を形成する工程であって、前記複数の高エネルギー陽イオンはエネルギー分布を有するとして特徴付けられるものである、工程と、
少なくとも1つのコリメーション装置を使って、前記レーザー加速イオン線をコリメートする工程と、
前記高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、エネルギーに応じて、第1の磁場を使って空間的に分離させる工程と、
開口部を使って、空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを変調する工程と、
第2の磁場を使って、前記空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを再結合する工程と
を有する、高エネルギー連続エネルギー陽イオン線を形成する工程と、
再結合され空間的に分離された高エネルギー連続エネルギー陽イオンを、放射性同位元素前駆体に照射する工程と
を有する方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【図16c】
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【図16d】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42a】
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【図42b】
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【図42c】
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【図42d】
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【図43】
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【公表番号】特表2007−525249(P2007−525249A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515029(P2006−515029)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017081
【国際公開番号】WO2004/109717
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(500565663)
【氏名又は名称原語表記】FOX CHASE CANCER CENTER
【Fターム(参考)】