説明

高カロリー経腸製剤

本明細書においては、高カロリー経腸製剤に関する組成物および方法を開示する。本発明は、加水分解された大豆タンパク質を含み、低粘度および許容可能な貯蔵寿命を有する飲食用組成物を提供する。本発明の飲食用組成物を使用する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年10月10日に出願された米国仮特許出願第61/104,554号の優先権を主張するものであり、その全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明は、飲食用組成物(dietary composition)および経腸栄養に有用な方法に関する。特に、本発明は、低粘度および許容可能な安定性を有する高カロリー経腸栄養製剤を包含する。
【背景技術】
【0003】
経腸栄養製剤は、代謝および/または生理的負荷が加わっている対象の栄養所要量を満たすために開発された高カロリー濃度製品である場合がある。このような対象としては、外傷性疾患、熱傷、術後、ならびにこの種の代謝的および/または生理的負荷要因による負荷が加わっていない対象と比較して栄養およびエネルギーを増加させる必要性が非常に高い何らかの疾病状態にある者が挙げられる。代謝的および/または生理的負荷が加わっている場合、通常であれば対象が十分な供給量で合成することができる栄養素が制限される場合がある。さらに、胃腸管からの栄養素の吸収は、たとえ胃腸管系に直接的な損傷がなくても支障が出る場合がある。
【0004】
代謝的および/または生理的負荷(metabolic/physiological challenge)に直面している対象は、通常の食事を代替または補助する非経口製剤または経腸製剤のいずれかを摂取する場合が多い。これらの製品は1.0〜2.0kcal/mlを送達することが可能であり、典型的には、カゼインや大豆タンパク質等の生物価の高いタンパク質が配合されている。これらの製剤が経管栄養で供給される場合は重力によるかまたはポンプを用いて投与され、特定の粘度および栄養摂取群(feeding regiment)の期間中に亘る安定性が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの経腸栄養製剤においては、乳および大豆タンパク質成分を含有させることに付随して粘度が上昇するため、最大カロリー量(caloric capacity)が制限される。乳および大豆タンパク質成分を含む経腸栄養製剤は、これらの成分の含有量が高くなるにつれて初期粘度が高くなるかまたは時間の経過に伴う粘度上昇が大きくなる。粘度が増大することによって製品がより濃厚になり、経腸栄養製剤の対象への流速に影響が及ぼされる。乳および大豆タンパク質成分を酵素処理することは粘度の問題の軽減に役立っているが、高度の最終滅菌を施される予定の経腸製品の場合、製剤中に非常に高い含有量で酵素処理されたタンパク質を使用すると、沈降、凝集、相分離等の安定性に関する問題が発生する。したがって、カロリー量が高く、低粘度であり、かつ保存期間に亘って安定性を有する経腸栄養製剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カロリー濃度が約1.3kcal/ml〜約2.1kcal/mlであり、約30〜約200センチポイズの範囲の低粘度を有する飲食用組成物に関連する組成物および方法を提供する。この組成物は、酵素的に加水分解された大豆タンパク質材料を含み、加水分解された大豆タンパク質が組成物中の唯一のタンパク質である場合は、加水分解度は約0.1%〜約16%、好ましくは約0.1〜約5%である。さらにこの組成物は、炭水化物供給源、脂質供給源、特定の最終用途に必須の微量栄養素(ビタミンおよびミネラル類)を含む。必須というわけではないが、この組成物は、米国の一日摂取量の参考値(United States Reference Daily Intake)(US RDI)の100%以上のビタミンおよびミネラル類を含んでいてもよい。この組成物は、EUの特定医療用食品(EU Foods for Special Medical Purposes)(EU FSMP)の特定の最終用途の所要量の最小〜最大の範囲内の栄養素を含んでいてもよい。この組成物は液体で提供され、経腸投与される。また、この組成物は、最終滅菌後にも安定な特性(stability characteristics)を保持している。
【0007】
本発明の他の態様は、本発明の組成物の使用方法を提供する。栄養を必要とする対象にそれを供給する方法を提供する。この方法には、酵素的に加水分解された大豆タンパク質材料を含み、加水分解度が約0.1%〜約16%、好ましくは約0.1〜約5%である製剤を対象に投与することが含まれる。この組成物は、経腸投与するかまたは胃腸管に組成物を送達する他の手段を用いて投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】大豆含有製剤の粘度を例示する図である。
【図2】様々な処理を施した大豆組成物を大豆50%で含む大豆含有製剤の粘度を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、代謝的および/または生理的負荷が加わっている対象に栄養を供給するのに有用な組成物および方法を提供する。実施例に示すように、特定の処理を施された大豆タンパク質を含む経腸栄養製剤によって、カロリー量が十分かつ/または高く、低粘度であり、かつ許容可能な保存安定性を有する製剤が得られることが見出された。具体的には、大豆タンパク質を酵素的に処理することによって、加水分解度が約0.1〜約16%、好ましくは約0.1%〜約5%の範囲になるようにする。
【0010】
I.組成
本発明は、代謝的および/または生理的負荷が加わっている対象の栄養所要量を満たすことを対象とする組成物を提供する。この組成物は、高カロリー濃度を有すると同時に、低粘度および許容可能な保存安定性を有することが可能である。本発明の製剤は、好ましくは、加水分解された大豆タンパク質を利用している。
【0011】
本発明のタンパク質供給源は、組成物の総カロリーの約14%〜約25%、好ましくは約15%〜約20%を提供する。
【0012】
本発明の組成物は、好ましくは、加水分解されたタンパク質をベースとする飲食品である。本発明により、タンパク質供給源の選択において加水分解されたタンパク質を用いることによって、寛容性および吸収が最大限になる。本発明の一態様においては、タンパク質供給源は、酵素的に加水分解された大豆タンパク質である。タンパク質供給源は、加水分解された大豆タンパク質、大豆タンパク質、カゼイン、ホエー、加水分解されたカゼイン、加水分解されたホエー、およびこれらの組合せであってもよい。
【0013】
(a)大豆タンパク質材料
大豆タンパク質製品は、タンパク質含有量が高く、オリゴ糖/炭水化物含有量が低い。さらに、大豆タンパク質製品は、「完全な」タンパク質を提供する。大豆は人体で合成することができず食事で補わなければならない人間栄養学的に必須のアミノ酸をすべて含んでいる。大豆タンパク質は、高タンパク質/低炭水化物含有量であることに加えて、コレステロールを含有していない。数十年間に亘る栄養学的研究においては、血清コレステロールが危険値にある人が大豆タンパク質を含む食事を摂取することによってその濃度が実際に低減することが示されている。さらに、血中コレステロール濃度が高くなるほど大豆タンパクがその濃度を低下させる効果が高くなる。
【0014】
一般に、大豆タンパク加水分解物を生成させる本発明の方法においては様々な大豆タンパク質材料を使用することができる。大豆タンパク質材料は、当該技術分野において周知の方法に従い全粒大豆から誘導されたものであってもよい。全粒大豆は、標準的な大豆(すなわち、非遺伝子組換え大豆)、遺伝子組換え大豆(例えば、油分が改変された大豆、炭水化物が改変された大豆、タンパク質サブユニットが改変された大豆等)、またはこれらの組合せであってもよい。大豆タンパク質材料の好適な例としては、これらに限定されるものではないが、大豆エキス、豆腐、大豆粉、分離大豆タンパク(soy protein isolate)、濃縮大豆タンパク、粉末または乾燥豆乳、粗砕大豆(soy meal)、磨砕大豆、大豆ペースト、ならびにこれらの混合物が挙げられる。本発明に使用されるさらなる好適な大豆タンパク質材料としては、大豆フレーク、大豆粉、粗粒大豆(soy grit)、粗砕大豆、濃縮大豆タンパク、分離大豆タンパク、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの大豆タンパク質材料の主な違いは、全粒大豆と比較した際の精製の度合いである。
【0015】
大豆フレークは、通常、大豆を脱皮、脱脂、および磨砕することによって製造され、典型的には、乾物換算で大豆タンパク質を約65重量%未満含む。大豆フレークはまた、可溶性炭水化物、不溶性炭水化物(大豆繊維等)、および大豆固有の脂質も含む。大豆フレークを、例えば、ヘキサンで抽出することによって脱脂してもよい。大豆粉、粗粒大豆、および粗砕大豆は、大豆フレークをハンマーミルやエアージェットミル等の磨砕または粉砕設備で所望の粒度に細砕することによってフレークから製造される。典型的には、細砕された材料を乾熱または湿熱蒸気で熱処理してこの磨砕されたフレークを「焦がす」ことによって、大豆中に存在するBowman−BirkおよびKunitz trypsinインヒビター等の抗栄養要素が不活化される。磨砕フレークの熱処理は、材料中の大豆タンパク質の変性を防ぐとともに、加水および大豆材料からの水の除去に関わる費用を回避するため、相当量の水の存在下に実施しないようにする。結果として得られた磨砕および熱処理された材料は、材料の平均粒度に応じて、大豆粉、粗粒大豆、または粗砕大豆となる。一般に、大豆粉の粒度は約150μm未満である。粗粒大豆の粒度は、一般に約150〜約1000μmである。粗砕大豆の粒度は、一般に約1000μmを超える。
【0016】
濃縮大豆タンパクは、典型的には、大豆タンパク質を乾物換算で約65重量%〜約90重量%未満含み、主要な非タンパク質成分は繊維である。濃縮大豆タンパクは、典型的には、脱脂大豆フレークから、このフレークをアルコール水溶液または酸性水溶液のいずれかで洗浄することによりタンパク質および繊維から可溶性炭水化物を除去することによって形成される。好適な濃縮大豆タンパクの例としては、Solae,LLC(St.Louis,MO)より入手可能なPromine DSPC、Procon,Alpha(登録商標) 12、およびAlpha(登録商標) 5800が挙げられる。さらに、濃縮大豆タンパクは、大豆タンパク質材料の供給源としての分離大豆タンパクとブレンドすることによって一部を分離大豆タンパクに置き換えてもよい。典型的には、濃縮大豆タンパクの最大約40重量%までが分離大豆タンパクで置き換えられる場合、約30重量%までを分離大豆タンパクで置き換えることがより好ましい。
【0017】
分離大豆タンパクは、分離された大豆タンパク質(isolated soy protein)とも称されるより精製度の高い大豆タンパク質材料であり、大豆タンパク質を乾物換算で少なくとも約90重量%含有し、可溶性炭水化物も繊維もほとんどまたは全く含まないように処理されたものである。分離された大豆タンパク質は、典型的には、脱脂された大豆フレークまたは大豆粉からアルカリ性水性抽出剤を用いて大豆タンパク質および水溶性炭水化物を抽出することによって形成される。可溶性タンパク質および可溶性炭水化物を含む水性抽出物が、抽出物に不溶な材料(主に繊維)から分離される。次いで、典型的には、抽出物を酸で処理することによって抽出物のpHをタンパク質の等電点に調節することにより、タンパク質を抽出物から析出させる。析出したタンパク質は抽出物(可溶性炭水化物を保持している)から分離され、任意的なpH調節ステップの後に乾燥される。分離大豆タンパクは、完全な状態の大豆タンパク質を含有していてもよく、あるいは一部加水分解された大豆タンパクを含有していてもよい。市販の分離大豆タンパクの例としては、SUPRO(登録商標) 500E、SUPRO(登録商標) 545、SUPRO(登録商標) 670、SUPRO(登録商標) Plus 675、SUPRO(登録商標) 760、SUPRO(登録商標) 620、SUPRO(登録商標) EX33、SUPRO(登録商標) 8020、およびSUPRO(登録商標) 8021(Solae,LLC,St.Louis,MO)が挙げられる。
【0018】
本発明の組成物は、加水分解された大豆タンパク質材料を含む。加水分解度(DH)とは、加水分解された具体的なペプチド結合の割合(すなわち、完全な状態のタンパク質中に存在するペプチド結合の数のうち切断された数)を指す。低加水分解度には、約16%DH未満が含まれる。DHは、約0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16%であってもよい。好ましくは、DHは、約0.1%〜約5%である。この処理には、大豆タンパク質材料を切断するエンドペプチダーゼを大豆タンパク質材料と接触させることによってポリペプチドの小および大断片の混合物を含むタンパク質加水分解物を生成させることが含まれる。
【0019】
加水分解は、好適なペプチダーゼを用いて実施してもよい。この種のペプチダーゼとしては、これらに限定されるものではないが、枯草菌(Bacillus subtilis)から単離されたセリンエンドペプチダーゼファミリーのものが挙げられる。本発明の方法に使用するのに好適な代表的なアルカリ性プロテアーゼとしては、フサリウム(Fusarium)トリプシン様エンドペプチダーゼ(TL1)(米国特許第5,255,627号明細書、米国特許第5,693,520号明細書、それぞれの全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)が挙げられる。ALCALASE(登録商標)(Novozymes A/S,Denmark);濃縮アルカリ性プロテアーゼ(Valley Research,South Bend,IN);およびProtex 6 L(Genencor,Palo Alto,CA)。好ましくは、エンドペプチダーゼTL1は、DHが約0.1%〜約16%である大豆タンパク質のポリペプチドを生成させるために使用してもよい。
【0020】
加水分解度(DH)の低い大豆タンパク質材料は、一般に平均分子量も高い。加水分解度とは、加水分解された具体的なペプチド結合の割合を指す。大豆タンパク質材料の低DHの加水分解は、DHが約0.1%〜約16%の範囲になるまで加水分解を実施することによって到達させることができる。DHの測定方法は当該技術分野において周知である。当業者は、例えば、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法またはpH−STAT法(Jacobsen,C.F.ら、「Methods of Biochemical Analysis」、第IV巻、pp.171〜210、Interscience Publishers Inc.,New York(1957))を用いることができる。
【0021】
大豆タンパク質材料の加水分解は、当該技術分野において周知の任意の手段を用いて実施してもよい。例えば、大豆タンパク質材料の加水分解は、大豆タンパク質材料を処理する際に酵素処理、熱処理、または酸/アルカリ処理を用いることによって実施してもよい。本開示においては、酵素処理を用いて大豆タンパク質材料を加水分解することが特に好ましい。酵素処理については、特に米国特許出願公開第2008/0305212号明細書に記載されており、その全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0022】
一般に、大豆タンパク質材料を酵素的に加水分解する処理は、大豆タンパク質材料を水で希釈することによって大豆タンパク質スラリーを形成することと、大豆タンパク質スラリーのpHを好適な塩基でアルカリ性のpHに調節することとを含む。続いて、pH調節された大豆タンパク質スラリーを熱処理し、pH調節された大豆タンパク質スラリーのpHを維持しながらまたは維持せずに酵素と反応させることによって、酵素的に加水分解された大豆タンパク質混合物が形成される。結果として得られた酵素的に加水分解された大豆タンパク質混合物が大豆タンパク質材料である。さらなる任意的なステップを以下に詳述する。
【0023】
上述した第1のステップにおいては、大豆タンパク質材料を水で希釈することによって大豆タンパクスラリーが形成される。好適には、大豆タンパク質材料を水で希釈することによって、「総量(as is)」換算で固体が約1重量%〜約20重量%の大豆タンパク質スラリーが形成される。よりさらに好適には、大豆タンパク質スラリーは、「総量」換算で固体が約16重量%〜約20重量%、一層好適には、「総量」換算で固体が約11重量%〜約15重量%である。
【0024】
次いで、大豆タンパク質スラリーのpHを好適な塩基を用いてpH約6.0〜約11.0に調節する。より好適には、大豆タンパク質スラリーのpHを約7.0〜約9.0に調節する。好適な塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、大豆タンパク質スラリーのpHは水酸化ナトリウムで調節する。
【0025】
次いで、pH調節された大豆タンパク質スラリーは熱処理される。好ましくは、pH調節された大豆タンパク質スラリーは、大豆タンパク質スラリーに含まれる大豆タンパク質材料を有効に変性させる温度および時間で熱処理される。変性させることによって大豆タンパク質材料の折り畳み構造が解け、大豆タンパク質スラリーに酵素を添加した際により多くの不溶性大豆タンパク質材料が酵素的加水分解を受けることになる。好適には、pH調節された大豆タンパク質スラリーは、約70℃(158°F)〜約90℃(194°F)の温度で、大豆タンパク質材料または推定上の内因性プロテアーゼ阻害剤を変性させるのに十分な時間熱処理される。pH調節された大豆タンパク質スラリーは、約48℃(118°F)〜約55℃(131°F)の温度、よりさらに好適には、約51℃(123°F)〜約53℃(127°F)の温度で熱処理される。熱処理の長さは、好適には、約30分間〜約70分間である。より好適には、熱処理の長さは、約35分間〜約65分間または加水分解条件を最適化するものである。好ましい熱処理方法としては、直接または水蒸気を用いた間接加熱が挙げられる。
【0026】
pH調節された大豆タンパク質スラリー中に含有されている大豆タンパク質材料を変性させた後、pH調節された大豆タンパク質スラリーに酵素を添加する。好ましい酵素はアルカリ性プロテアーゼであり、好適には、pH調節された大豆タンパク質スラリーに、大豆タンパク質1キログラム当たり酵素を約5mg〜約950mg以上の量で添加する。大豆タンパク質材料の酵素的加水分解をアルカリ性のpHで実施すると、pH調節された大豆タンパク質スラリー中における2種類の反応が促進される。
【0027】
本開示方法に使用するのに好適な代表的なアルカリ性プロテアーゼとしては、TL1、Alcalase(登録商標)、濃縮アルカリ性プロテアーゼ、およびProtex(TM)6Lが挙げられる。好ましくは、酵素はTL1である。
【0028】
大豆タンパク質材料を有効に酵素的加水分解するのに必要な時間は、典型的には、約30分間〜約60分間である。より好適には、酵素的加水分解は約30分間〜約50分間実施され、よりさらに好適には、酵素的加水分解は約35〜約45分間、所望の加水分解度に応じて最適化された時間実施される。
【0029】
アルカリ性プロテアーゼ酵素を大豆タンパク質スラリーと反応させる間、pHは特定の値に維持されない。寧ろ、アルカリ性プロテアーゼ酵素のpHおよびpH調節された大豆タンパク質スラリーに含まれる大豆タンパク質材料の加水分解中に起こる化学的過程に応じた変動に任せる。典型的には、結果として得られた酵素的に加水分解された大豆タンパク質混合物のpHは最終的に約8.0〜約9.0となるであろう。しかしながら、酵素的加水分解に必要な時間が完了した後の酵素的に加水分解された大豆タンパク質混合物のpHは、好適な酸を用いてpH約7.2〜約7.6に調節される。より好適には、酵素的に加水分解された大豆タンパク質混合物のpHは、好適な酸を用いて約7.4に調節される。好適な酸としては、塩酸、リン酸、クエン酸、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
本開示の方法には、市販の加水分解された分離大豆タンパクを使用してもよい。好適な加水分解された分離大豆タンパクとしては、酵素的に加水分解された分離大豆タンパクであるSUPRO(登録商標) XF8020およびSUPRO(登録商標) XF8021(Solae,LLC、St.Louis、MO)が挙げられる。
【0031】
大豆タンパク加水分解物を本発明の組成物に使用する前にさらに最適化することが望ましい場合があることを当業者は理解するであろう。このような最適化としては、これらに限定されるものではないが、不純物の分離、より小さな断片からのより大きな断片の精製、可溶性相の水相からの分離が挙げられるであろう。さらなる最適化には、当該技術分野において周知の方法だけでなく、米国特許出願公開第20080182002号明細書(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されているものも用いてもよい。
【0032】
(b)さらなる構成成分
炭水化物は、組成物のカロリー量の約35〜約65%を提供してもよい。炭水化物供給源は、組成物のカロリー量の約35、40、45、50、55、60、65%であるかまたはそれを超えてもよい。本発明には多くの炭水化物を使用してもよい。例示的な炭水化物供給源としては、これらに限定されるものではないが、マルトデキストリン、コーンスターチ、スクロース、粉飴、および大豆繊維が挙げられる。
【0033】
本発明の脂質供給源としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)の混合物が挙げられる。脂質供給源は、長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)の混合物をさらに含んでいてもよい。好ましくは、組成物の脂質供給源は、組成物全体のカロリー量の約20%〜約50%である。より好ましくは、脂質供給源は、組成物全体のカロリー量の約25%〜約40%である。脂質供給源は、組成物全体のカロリー量の約20、25、30、35、40、45、50%であっても、あるいはそれを超えてもよい。組成物の脂質分は、オメガ−6およびオメガ−3必須脂肪酸等の多価不飽和脂肪酸を含むように設計される。好適な脂質供給源としては、これらに限定されるものではないが、ヤシ油、カノーラ油、トウモロコシ油、大豆油、MCT油、大豆レシチン、残留乳脂(residual milk fat)、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0034】
本発明の組成物はまた、特定の最終用途に必須の微量栄養素も含有する。必須の微量栄養素としては、ビタミン類およびミネラル類が挙げられる。必須というわけではないが、組成物は、US RDIの100%以上のビタミン類およびミネラル類を含んでいてもよい。この組成物は、EU FSMPの特定の最終用途の所要量の最小〜最大の範囲の栄養素を含んでいてもよい。この組成物は、それを受容する対象の要求を補助するように設計されたより高量の重要なビタミン類およびミネラル類を含んでいてもよいことを当業者は理解するであろう。個々の要求に応じた特定の成分が対象の回復を増進し得ることと、重要なビタミン類およびミネラル類が対象の状態によって必要とされる専用の治療に応じて変更されることとを当業者は認識するであろう。
【0035】
本発明の組成物は、プロバイオティクスおよび他の生理学的利益を供与する非栄養物質をさらに含んでいてもよい。この組成物は、それを受容する対象の要求を補助するように設計されたより高量の重要なプロバイオティクスおよび他の非栄養物質を含んでいてもよいことを当業者は理解するであろう。当業者はまた、個々の要求に応じた特定の成分が対象の回復を増進し得ることと、重要なプロバイオティクスおよび他の非栄養物質が対象の状態によって必要とされる専用の治療に応じて変更されることとも認識するであろう。
【0036】
(c)組成物の特性
本発明の組成物は、そのまま使用できる経腸製剤であってもよい。この組成物は、代謝的および/または生理的負荷が加わっている患者の栄養所要量を総合的に提供するものであってもよいし、あるいは栄養補助剤として作用するものであってもよい。この組成物は、対象に経管栄養で摂取させてもよいし、あるいはこの製剤を患者に飲用させることによって摂取させてもよい。例えば、この組成物は、缶または皮下注射針および吊り下げバッグ(hang bag)で提供してもよい。この組成物は、使用前に水等による再調製(reconstitution)または混合を行うことを必要とせずそのまま使用できるように提供してもよい。別法として、この組成物は、使用前に水等で再調製するかまたは混合するように提供してもよい。
【0037】
本発明はまた、液状飲食品の形態にあるカロリー濃度の高い栄養補給剤(nutritional support)を提供すると同時に、許容可能な安定性を有する低粘度製剤を提供することができる。粘度計を用いて測定した組成物の粘度の測定値は、約30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、125、150、および200センチポイズであってもよいし、あるいはそれを超えてもよい。好ましくは、粘度は、約50〜約150センチポイズである。水の粘度は約1センチポイズであるが、糖蜜のそれは約100,000センチポイズである。
【0038】
さらに、本発明の組成物は、最終滅菌後に安定な特性を保持する能力を有する。本明細書における実施例に記載するように、他の製剤がレトルト処理や超高温(UHT)処理等の最終滅菌後に結合による沈降(bound−sedimentation)、凝集、相分離等による安定な特性の低下が進行するのに対し、本発明の組成物は安定性を保持している。
【0039】
本発明の組成物は、多くの代謝的および/または生理的負荷に悩む患者の栄養所要量を満たすように設計されたものであってもよい。さらにこの組成物は、様々な流体、カロリー、タンパク質、ビタミンおよびミネラル、ならびに/または炭水化物に関し患者の要求を満たすように設計されていてもよい。この組成物はまた、これらに限定されるものではないが、以下を含む多くの異なる疾患を予防および治療するように設計されていてもよい:下痢/嘔気、炎症性ボール疾患(irritated bowl disorder)、放射線を受けた腸の免疫抑制作用、肺疾患、腫瘍壊死因子の増加、呼吸不全、敗血症/SIS、多臓器不全、外科手術、癌、放射線照射、化学療法、創傷、褥瘡、ストレス高血糖、摂取の移行(transitional feeding)、冠動脈疾患、CVA、虚血再灌流障害(ischemic reperfusion injury)、切断、吸収不良、胃腸障害、潰瘍性大腸炎、膵炎、代謝的負荷、ARDS、COPD、人工呼吸器依存、肺炎、低灌流、DIC/症候群、外傷、悪液質、摂食障害、熱傷、腎機能不全、長期摂取、CHF、CNS、放射線障害、静脈不全、腎および/または肝不全に適応可能なもの、クローン病(Crohn’s)、腸摘出、糸球体腎炎、危篤状態、異化亢進、血栓症、感染、エンドトキシンショック、膿瘍、HIV/AIDS/ARC、真性糖尿病、肝機能不全、低アルブミン血症、心原性ショック、壊疽、貧血、嚥下障害、および上下顎固定。
【0040】
本発明によって様々な配合が可能であることが理解されるであろう。本発明に従い使用することができる好適な組成物の非限定的な例を本明細書の実施例に記載する。
【0041】
(II)方法
本発明は、本発明の組成物を利用する方法を提供する。本発明の一態様においては、対象に栄養を供給する方法は、酵素的に加水分解された大豆タンパク質材料を含む製剤を対象に投与することを含み、この大豆タンパク質材料の加水分解度は約0.1%〜約16%、好ましくは約0.1〜約5%である。投与経路は、経口投与、経鼻投与、経胃栄養管(gastric feeding tube)、経十二指腸栄養管(duodenal feeding tube)、他の消化器系に基づく栄養法等を介した経腸的なものである。
【0042】
本発明の他の態様は、大豆タンパク加水分解物が生成するように大豆タンパク質材料を加水分解することと、この大豆加水分解物を加熱された脂質成分の混合物に加えることと、大豆タンパク加水分解物および脂質成分を混合することによって均質なスラリーを得ることと、大豆タンパク加水分解物および脂質のスラリーをさらなる成分のスラリーと混合することと、結果として得られた混合物を均質化することとを含む、飲食用組成物の製造方法を含む。さらなる成分としては、これらに限定されるものではないが、水、炭水化物供給源(食物繊維供給源等)、脂質供給源、塩供給源、カルシウム供給源、必須微量栄養素、プロバイオティクス、および他の非栄養物質、ならびにこれらの組合せが挙げられるであろう。好適なさらなる成分としては、これらに限定されるものではないが、水、マルトデキストリン、粉飴、糖、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カノーラ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド油、大豆油、クエン酸カリウム、大豆繊維、ビタミン類、ミネラル類、短鎖フラクトオリゴサッカライズ(fructo−oligosacharides)、リン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、レシチン、アスコルビン酸ナトリウム、塩化コリン、およびこれらの組合せが挙げられるであろう。
【0043】
定義
「加水分解度」(DH)という用語は、加水分解された具体的なペプチド結合の割合(すなわち、完全な状態のタンパク質中に存在するペプチド結合の数のうち切断された数)を指す。
【0044】
「エンドペプチダーゼ」または「ペプチダーゼ」という用語は、オリゴペプチドまたはポリペプチド鎖中の内部ペプチド結合を加水分解する酵素を指す。
【0045】
「経腸」、「経腸栄養」、「経腸的に」、または「経腸投与」という用語は、経口的に、経鼻胃的に、経胃栄養管を介して、経十二指腸栄養管を介して、または他の当該技術分野において周知の消化器系に基づく栄養法によって栄養素を送達する経路を指す。
【0046】
「加水分解物」は、酵素の作用によって化合物が切断された際に得られる反応生成物である。タンパク質加水分解物は、熱的、化学的、または酵素的分解に続いて生成する。大きな分子は反応中に分断されてより小さなタンパク質、可溶性タンパク質、ペプチド断片、および遊離アミノ酸になる。
【0047】
本明細書において用いられる「必須微量栄養素」という用語は、具体的な最終用途の所要量に基づく量のビタミン類およびミネラル類の組合せを指す。
【0048】
本明細書において用いられる「プロバイオティクス」という用語は、適量を投与すると宿主に健康上の利益を与える生きた微生物を指す(Food Agriculture Organization(FAO) of the United Nations and World Health. Guidelines for the Evaluation of Probiotics in Food. Report of a Joint FAO/WHO Working Group on Drafting Guidelines for the Evaluation of Probiotics in food.2009年10月9日承認)。
【0049】
本明細書において用いられる「精製」という用語は、結果として得られる大豆加水分解物から特定のサイズのペプチドを排除することを指す。本発明は、未精製の大豆タンパク加水分解物について検討するものであり、これは、加水分解処理中に生成したペプチドを結果として得られる加水分解物から一切排除していない加水分解物を指す。
【0050】
本明細書において用いられる「分離大豆タンパク」または「分離された大豆タンパク質」という用語は、乾物換算でタンパク質含有量が少なくとも約90%である大豆タンパク質を含む大豆材料を指す。分離大豆タンパクは、大豆種子の子葉から種皮および胚芽を除去し、子葉をフレーク化または磨砕し、フレーク化または磨砕された子葉から油分を除去し、子葉繊維(cotyledon fiber)から子葉の大豆タンパク質および炭水化物を分離し、次いで、炭水化物から大豆タンパク質を分離することによって大豆から形成される。
【0051】
本明細書において用いられる「濃縮大豆タンパク」という用語は、タンパク質含有量が、乾物換算で大豆タンパク質約65%〜約90%未満の大豆材料である。濃縮大豆タンパクはまた、大豆子葉繊維も含み、典型的には乾物換算で大豆子葉繊維が3.5重量%〜約20重量%までである。濃縮大豆タンパクは、大豆の種皮および胚芽を除去し、子葉をフレーク化または磨砕し、フレーク化および磨砕された子葉から油分を除去し、子葉の可溶性炭水化物から大豆タンパク質および大豆子葉繊維を分離することによって大豆から形成される。
【0052】
本明細書において用いられる「大豆粉」という用語は、脱脂された、好ましくは油分を約1%未満含む細砕された形態の大豆材料であって、No.100のメッシュ(米国標準)の篩を通過できるような粒度の粒子から形成されたものを指す。大豆粕(soy cake)、小片(chip)、フレーク、粗砕物、またはこの材料の混合物を従来の大豆磨砕処理を用いて細砕すると大豆粉になる。大豆粉の大豆タンパク質含有量は、乾物換算で約49%〜約65%である。好ましくは、この粉は非常に微細に、最も好ましくは、300メッシュ(米国標準)の篩上に保持される粉が約1%未満となるように磨砕されている。
【0053】
本明細書において用いられる「大豆子葉繊維」という用語は、食物繊維を少なくとも約70%含む大豆子葉の多糖部分を指す。大豆子葉繊維は、典型的には、ある程度の少量の大豆タンパク質を含むが、繊維100%であってもよい。本明細書において用いられる大豆子葉繊維は、大豆種皮繊維を指すのではなく、大豆種皮繊維を含まない。一般に、大豆子葉繊維は、大豆の種皮および胚芽を除去し、子葉をフレーク化または磨砕し、フレーク化および磨砕された子葉から油分を除去し、大豆材料および子葉の炭水化物から大豆子葉繊維を分離することによって大豆から形成される。
【0054】
本明細書において用いられる「安定な特性」という用語は、組成物が、組成物の保存期間全体を通して安定なままでいる能力を指す。本発明の組成物に関する安定な特性の低下は、沈降、凝集、および相分離の進行によって示されるであろう。典型的には、安定な特性の低下は、熱処理用の製剤に起こる。
【0055】
本明細書において用いられる「対象」は、典型的には、哺乳動物である。対象は、齧歯類動物、ヒト、家畜動物、伴侶動物、または動物園動物(zoological animal)であってもよい。一実施形態においては、対象は、齧歯類動物、すなわち、マウス、ラット、モルモット等である。他の実施形態においては、対象はヒトである。さらなる他の実施形態においては、対象は家畜動物である。家畜動物の非限定的な例としては、ブタ、雌ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマ、およびアルパカが挙げられる。さらなる他の実施形態においては、対象は伴侶動物である。伴侶動物の非限定的な例としては、イヌ、ネコ、ウサギ、トリ等の愛玩動物が挙げられる。さらなる他の実施形態においては、対象は動物園動物である。本明細書において用いられる「動物園動物」は、動物園で見られる場合がある動物を指す。この種の動物としては、非ヒト霊長類、大型のネコ、オオカミ、およびクマが挙げられるであろう。さらなる実施形態においては、本発明の方法によって治療することができる対象としては、ヒト、イヌ、ネコ、雌ウシ、ウマ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギに加えて、鳥類および魚類を含む非哺乳動物が挙げられる。
【0056】
本明細書において用いられる「最終滅菌」という用語は、レトルトおよび無菌(超高温(UHT)等)処理等の、商業的無菌を達成するための熱処理を指す。
【0057】
例示的な実施形態に関連して本発明を説明してきたが、本記載を読むことにより、様々な変更が当業者に明らかとなるであろうことを理解すべきである。したがって、本明細書において開示される本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるこの種の変更を網羅することを意図していることを理解すべきである。
【0058】
以下の表において、様々な構成要素の重量%の合計は、構成要素の合計の端数を切り上げまたは切り下げているため、丁度100%にはならない。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は本発明の様々な実施形態を例示するものである。
【0060】
実施例1.高カロリー栄養製剤
経腸栄養製剤は、経腸栄養を受けている対象の栄養必要量を満たすために開発された高カロリー濃度製品であってもよい。経腸栄養製剤は、経口的に、重力によるかまたはポンプを用いて投与され、したがって、最終製品の保存期間に亘る粘度および安定性は、栄養群の標的の量および時間に適合させるという観点で重要である。乳および大豆タンパク質成分を経腸栄養製剤に使用する際に付随する典型的な問題としては、含有量が増加するにつれて初期粘度が高くなるかまたは時間の経過に伴い粘度が上昇することが挙げられる。酵素的に処理された乳および大豆タンパク質成分は粘度の問題を軽減するのを助けるであろう。
【0061】
粘度が大幅に上昇することがない最適な大豆含有量を決定するために、最適化されていない高カロリー栄養製剤を使用して様々な大豆含有量の(33%、50%、75%、および100%)試作試料を作製した(図1)。最適な大豆含有量を決定するために用いた配合を表1に示す。
【0062】
表1:最適な大豆含有量を決定するために用いた配合

【0063】
クエン酸塩およびマグネシウム塩を80〜98%の水に77℃(170°F)で加えて混合した。カゼインナトリウムおよびカルシウムを加えて素早く分散させ、10分間混合した。炭水化物(繊維、マルトデキストリン、粉飴、および糖)をカゼイン塩混合物に加えて5分間混合した。別の槽で、カノーラ、大豆油、およびレシチンを混合し、74℃(165°F)に加熱した。大豆含有試料を調製するために、加熱後の油に大豆タンパク質を加えて均質な試料が得られるまで混合した。混合後、MCT油を加えた。油−タンパク質スラリーをカゼイン塩に加えて、すべての成分が溶解するまで(5〜10分間)混合した。スラリーのpHを測定し、45%水酸化カリウムを用いて7.0〜7.1に調節した。結果として得られた混合物を計3000〜3500psiで均質化した。ミネラル類を1〜10%の水に溶解し、均質化混合物に加えた。生成物を計3000〜3500psiで均質化した。アスコルビン酸ナトリウムを残りの1〜10%の水に溶解し、均質化されたスラリーに加えた。生成物を缶に回収し、121℃〜122℃(250°F〜252°F)で10分間レトルト処理した。特定の期間、試料のpH、粘度、色、および安定性について評価した。
【0064】
乳タンパク質の含有量が低下し、大豆タンパク質の含有量が増加するに従って、粘度および安定な特性に及ぼされる影響が大きくなった。具体的には、この場合、大豆の含有量が増加(特に大豆75%および100%含有)すると、21℃(70°F)で3ヵ月後に粘度がかなり上昇した。データから、試料を37℃(100°F)で1ヶ月間加速貯蔵条件に付すと、大豆を75%および100%含有するものに粘度上昇が起こることが示された。33%および50%の試料は高温で貯蔵しても粘度が劇的に変化することはなかった(図1)。この結果から、利用可能な成分と一緒に配合した後に許容可能な粘度および保存安定性が得られるであろう最適な濃度は、大豆タンパク質含有量50%と考えられることが示された。
【0065】
実施例2.製剤試料の評価
より高カロリーな経腸栄養製剤(1.5kcal/ml)に含まれる乳タンパク質全体のうちの相当量を、低粘度および良好な溶解性を示すことを特徴とする新規な酵素処理された大豆タンパク質を用いて置き換えることによって、低粘度および許容可能な安定性の両方を有する生成物が得られた。高カロリー栄養製剤試料の詳細を表2に示す。
【0066】
表2:高カロリー栄養製剤

【0067】
乳タンパク質100%含有対照試料(試料1)、市販の大豆タンパク質のブレンド(試料2)、および酵素処理された大豆試料(試料3)を含む3種類の試作品を評価用として作製した。クエン酸塩およびマグネシウム塩を80〜98%の水に77℃(170°F)で加えて混合した。カゼインナトリウムおよびカルシウムを加えて素早く分散させ、10分間混合した。炭水化物(繊維、マルトデキストリン、粉飴、および糖)をカゼイン塩混合物に加えて5分間混合した。別の槽で、カノーラ、大豆油、およびレシチンを混合し、74℃(165°F)に加熱した。大豆含有試料を調製するために、加熱後の油に大豆タンパク質を加えて均質な試料が得られるまで混合した。混合後、MCT油を加えた。油−タンパク質スラリーをカゼイン塩スラリーに加えて全成分が溶解するまで(5〜10分間)混合した。スラリーのpHを測定し、45%水酸化カリウムを用いて7.0〜7.1に調節した。結果として得られた混合物を計3000〜3500psiで均質化した。ミネラル類を1〜10%の水に溶解し、均質化された混合物に添加した。生成物を計3000〜3500psiで均質化した。アスコルビン酸ナトリウムを残りの1〜10%の水に溶解し、均質化されたスラリーに加えた。生成物を缶に回収して121℃〜122℃(250°F〜252°F)で10分間レトルト処理した。特定の期間、試料のpH、粘度、色、および安定性について評価した。
【0068】
特定の期間、試料(表2)のpH、粘度、色、および安定性について評価した。
【0069】
pH
標準的な手順の後に試料のpH測定を実施した。対照試料のpHは約6.8〜6.9の範囲にあり、大豆含有試料は約6.6〜6.7の範囲にあった。どの生成物のpHも時間が経過しても大きく変化しなかった。保存期間の評価中は安定なままであった(表3)。
【0070】
表3:製剤試料のpH

【0071】
粘度
製剤試料の粘度を粘度計を用いて測定した。具体的には、試料を振盪して均質な分散液が得られたらすぐに180mlのビーカーに注いだ。視認できる泡は測定前に全て取り除いた。一定時間が経過した後、スピンドル#2を取り付けたブルックフィールド粘度計(型式DV−II+)を用いて、粘度(センチポイズ単位(cP))を25℃〜30℃(77°F〜86°F)、30RPMで1分間測定した。結果を表4に示す。
【0072】
通常、酵素処理された大豆タンパク質は低粘度であるが、安定性が特にレトルト処理条件に付した場合に劣ることが特徴的である。それにも拘わらず、一般に、新規な酵素処理された大豆タンパク質を用いて作製された試料は、対照(乳タンパク質100%)に匹敵する安定性を示し、市販の大豆タンパク質のブレンド物よりも安定であった(表4)。
【0073】
表4:製剤試料の粘度

【0074】

HunterLab Colorimeter(型式DP−9000)を用いて製剤試料の色を測定した。この装置を標準的な手順に従い較正した。試料を振盪して均質な分散液を得た。試料の温度を約25℃〜30℃(77°F〜86°F)とした。各試料を同量ずつ試料用カップに注ぎ(Agtron 内径57mm、ガラスカタログNo.11595、Magnuson Engineering,Inc.)、捕捉された気泡は全て除去した。試料を満たしたカップを装置の測定ポートに載置し、蓋をした。試料の測定値を読み取り、結果をL、a、およびb単位で記録した。
【0075】
予想されたように、大豆含有試料の色は乳製品100%の試料と異なっていた(表5)。しかしながら、明度または白さを示すL値は、すべての試料に関し、保存期間調査の間中ずっと変化しなかった。
【0076】
表5:製剤試料の色

【0077】
安定性
製剤の安定性に関し、0、2、および8週間の貯蔵寿命で評価した(表7)。静置しておいた各試料の生成物の缶を開封して、クリーム化、乳清、沈降、および粒子について目視で検査した。一旦開封した後、飲料の最上層の外観をクリーム化および粒子について主観的に評価した。次いで、試料を注いで乳清および沈殿について検査した。内部で開発した尺度に基づき試料の安定性を示す評点を付けたものを表6に示す。
【0078】
表6:安定性の尺度

【0079】
表7:製剤試料の安定性評価

【0080】
試料3の安定性は、試料1(乳タンパク質100%の対照)と同等であった。
【0081】
総じて、16週後の試料3の粘度は、乳製品の対照試料である試料1と同等であった(表4)。
【0082】
実施例3.高カロリー栄養製剤中における既存の大豆タンパク質技術および新規な酵素処理された大豆タンパク質の比較
実施例1と同様の手順を用いて、含有される総タンパク質の100%が大豆から誘導されたものである高カロリー栄養製剤を調製した。配合は、金属イオン封止剤を最適化するように変更することによって安定性を最大限にするとともに、使用したタンパク質供給源に関わらず全試料のミネラルプロファイルを類似したものにするようにした。時間の経過に伴う安定性を評価するため、商業的滅菌された生成物を無菌の透明プラスチックボトルに移し替えた(表8)。
【0083】
表8 変更した高カロリー栄養製剤

【0084】
最終生成物を室温で保管し、実施例2と同様の手順に従い、1日、2および4週間後の保存期間におけるpH、物理的安定性、および粘度を評価した。
【0085】
表9:製剤試料のpH

【0086】
どの生成物も時間が経過してもpHは大幅に変化しなかった。保存期間評価中はずっと安定なままであった。
【0087】
表10:製剤試料の粘度

【0088】
試料の粘度評価から、2週間後に大豆含有試料の粘度が上昇したが、どちらの試料も4週間の貯蔵寿命まで粘度は一定のままであったことがわかる。どちらの試料も標的時間における粘度が類似していたにも拘わらず、試料の安定性は異なっていた。試料2はレトルト熱処理で重度の凝集が起こったが、試料1は4週間後においても凝集、クリーム化、および沈降が最小限であった。
【0089】
実施例4.高カロリー栄養製剤
経腸栄養製剤は、経腸栄養を受けている対象の栄養所要量を満たすために開発され高カロリー濃度製品であってもよい。経腸栄養製剤は、経口的に、重力によるかまたはポンプを用いて投与され、したがって、最終製品の保存期間に亘る粘度および安定性は、栄養群の標的の量および期間を満たすという観点で重要である。乳および大豆タンパク質成分を経腸栄養製剤に使用する際に付随する典型的な問題としては、含有量が増加するについれて初期粘度が高くなるかまたは時間の経過に伴い粘度が上昇することが挙げられる。酵素的に処理された乳および大豆タンパク質成分は粘度の問題の軽減を助けるであろう。
【0090】
実施例3に記載したものと類似の製剤を使用して、超高温(UHT)処理によって熱処理することができる様々な大豆含有量(33%、50%、75%、および100%)の試作試料を作製することができる。ビタミンおよびミネラル類等の特定の成分が商業的無菌を達成するために熱処理に曝される度合いが低減され、したがって、熱処理にかなり曝された場合の損失分を補うために多量に添加する必要性が低減されるので、その使用量を調節することができる(表11)。
【0091】
表11:高カロリー栄養製剤を製造するための配合

【0092】
クエン酸塩およびマグネシウム塩を77℃(170°F)で80〜98%の水に加えて混合する。カゼインナトリウムおよびカルシウムを加えて素早く分散させ、10分間混合する。炭水化物(繊維、マルトデキストリン、粉飴、および糖)をカゼイン塩混合物に加えて5分間混合する。別の槽で、カノーラ、大豆油、およびレシチンを混合して74℃(165°F)に加熱する。大豆含有試料を調製するために、加熱後の油に大豆タンパク質を加え、均質な試料が得られるまで混合する。混合後、MCT油を加える。油−タンパク質スラリーをカゼイン塩スラリーに加えて、すべての成分が溶解するまで(5〜10分間)混合する。スラリーのpHを測定し、45%の水酸化カリウムを用いてpHを7.0〜7.1に調節する。結果として得られた混合物を計3000〜3500psiで均質化する。ビタミンおよびミネラル類を1〜10%の水に溶解し、均質な混合物とする。生成物を計3000〜3500psiで均質化する。生成物を141℃(286°F)の超高温(UHT)で6秒間処理することによって無菌処理し、滅菌されたプラスチックボトルに回収する。経口的に咀嚼可能な製剤となるように香味剤を加えてもよい。
【0093】
本明細書において開示および特許請求した組成物および方法はすべて、本開示に照らして過度な実験を行うことなく作製および実施することができる。好ましい実施形態という観点で本発明の組成物および方法について説明してきたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物ならびに方法および方法のステップまたはステップの順序に変形を適用してもよいことは当業者に明らかであろう。より具体的には、化学的にも物理的にも関連がある特定の試剤を本明細書に記載された試剤と置き換えてもよく、それでも同一または類似の結果が達成されるであろうことは明らかであろう。この種の類似の置換および修正はすべて当業者に明らかであり、特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1.4kcal/ml〜約2.1kcal/mlのカロリー濃度、約30〜110センチポイズの範囲の低粘度、および最終滅菌後に安定な特性を保持する能力を有する飲食用組成物であって、
a.加水分解度が約0.1%〜約16%である酵素的に加水分解された大豆タンパク質材料と、
b.炭水化物供給源と、
c.脂質供給源と、
d.必須微量栄養素と
を含む、飲食用組成物。
【請求項2】
前記大豆タンパク質材料の加水分解度が約0.1%〜約5%である、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項3】
前記組成物が液体である、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項4】
前記必須微量栄養素が、U.S.RDIの100%のビタミン類およびミネラル類またはUS RDIの100%を超えるビタミン類およびミネラル類からなる群から選択される、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項5】
前記組成物が、EU FSMPの特定の最終用途の所要量の最小〜最大の範囲の栄養素をさらに含む、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項6】
前記大豆タンパク質材料が、大豆タンパク質、分離大豆タンパク、濃縮大豆タンパク、大豆タンパク質抽出物、大豆粉、粉末または乾燥豆乳、粗砕大豆、磨砕大豆、大豆ペースト、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項7】
前記粘度が、約30〜約200センチポイズである、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項8】
前記粘度が、約50〜約150センチポイズである、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項9】
前記炭水化物供給源が、マルトデキストリン、粉飴、糖、大豆繊維、短鎖フラクトオリゴサッカライズ、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項10】
前記脂質供給源が、カノーラ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項11】
水、塩供給源、カルシウム供給源、プロバイオティクス、およびこれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項12】
栄養を必要とする対象にそれを提供する方法であって、前記対象に、加水分解度が約0.1%〜約16%である酵素的に加水分解された大豆タンパク質材料を含む製剤を投与することを含む、方法。
【請求項13】
対象に栄養を提供するための前記方法が、経腸投与である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が、U.S.RDIの100%のビタミン類およびミネラル類またはUS RDIの100%を超えるビタミン類およびミネラル類からなる群から選択される必須微量栄養素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記製剤が、EU FSMPの特定の最終用途の所要量の最小〜最大の範囲の栄養素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記大豆タンパク質材料が、大豆タンパク質、分離大豆タンパク、濃縮大豆タンパク、大豆タンパク質抽出物、大豆粉、粉末または乾燥豆乳、粗砕大豆、磨砕大豆、大豆ペースト、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記粘度が、約30〜約200センチポイズである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記飲食用組成物が、商業的無菌性を達成するための熱処理後に安定な特性を保持している、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−504971(P2012−504971A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531245(P2011−531245)
【出願日】平成21年10月12日(2009.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/060384
【国際公開番号】WO2010/042932
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(504140299)ソレイ リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】