説明

高リガンド親和性アルブミン変異体の製造方法

【課題】ビリルビン(BR)などのアルブミン結合性毒素(ABT)がより効率的に除去されたアルブミン透析液を調製するために用い得る高BR親和性アルブミン変異体を提供すること。
【解決手段】本発明の高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング方法は、ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;および該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;を含み、該ヒト血清アルブミン変異体が、配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンにおいて、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高リガンド親和性アルブミン変異体を製造する方法に関する。より詳細には、高リガンド親和性アルブミン変異体のハイスループットスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルブミン結合性毒素(ABT)を効率的に除去するアルブミン透析という新しい血液浄化療法が開発された。アルブミン透析とは、多分子結合能を有する血清タンパク質であるアルブミンを吸着剤として応用して、血中のABTを除去する方法である。具体的には、高性能血液透析膜を介して血中のABTを透析液内のアルブミンに吸着させる。これまでに開発されたアルブミン透析の臨床システムの1つに、Molecular Absorbent Recirculating System(MARS(登録商標))があり、すでにMARS(登録商標)の施行によるABTの除去効果、30日生存率の改善、中枢神経系の機能や循環動態の改善作用などの臨床効果が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、MARS(登録商標)の有用性に関しては、現在もなお賛否が問われている。その原因として、ABTの1つでありかつ核黄疸などを引き起こす原因物質であるビリルビン(BR)の劇的な除去効果が得られていないことが挙げられる。
【0003】
ヒト血清アルブミン(HSA)におけるリガンド結合領域は、HSA−リガンド複合体のX線結晶構造解析、これにより得られた分子模型にアミノ酸置換を導入する部位特異的変異法、化学修飾法などの種々の手法を用いて検討が行われてきた。BRに関しては、薬物の置換実験によってサイトI(ドメインII)が高親和性結合サイトであることが報告されている。しかし、BRが光分解を受けやすい物質であるためHSA−BR複合体のX線結晶構造解析は困難であり、結合に関与するHSAのアミノ酸については未だに解明されていない。
【0004】
一方、リガンドライブラリーをファージに提示させてアルブミンに対する結合能をスクリーニングすることにより、アルブミンに対して高い結合性を有するリガンドを検討する方法が開示されている(特許文献1)。この方法では、アルブミンに対して特異的に結合するリガンドが見出されるのみであって、アルブミン中のリガンド結合領域についての情報を容易に得ることはできない。
【0005】
このように、従来の方法では、高BR親和性アルブミン変異体を作製するには困難を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−512050号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Camus C.ら、Intensive Care Med.,2006年,32巻,1817-1825頁
【非特許文献2】Brodersen R.ら、J. Clin. Invest.,1974年,54巻,1353-1364頁
【非特許文献3】Diaz N Z.ら、J. Med. Chem.,2001年,44巻,250-260頁
【非特許文献4】Watanabe H.ら、Pharm. Res.,2001年,18巻,1775-1781頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、BRなどのアルブミン結合性毒素(ABT)がより効率的に除去されたアルブミン透析液を調製するために用い得る高BR親和性アルブミン変異体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ヒト血清アルブミン(HSA)変異体をファージ表面に提示させたファージライブラリーを作製し、これを用いたランダムスクリーニングによって、高BR親和性を発揮するために必須なアミノ酸残基を同定し、高BR親和性アルブミン変異体を得て、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング方法を提供し、該方法は、
ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;および
該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;
を含み、
該ヒト血清アルブミン変異体が、配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンにおいて、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する。
【0011】
1つの実施態様では、上記リガンドはビリルビンである。
【0012】
本発明はまた、高リガンド親和性アルブミン変異体の製造方法を提供し、該方法は、
ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;
該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;
該選択したファージを有するクローンから抽出した高リガンド親和性アルブミン変異体をコードするDNAを、宿主細胞に導入して、該宿主細胞を増殖させる工程;
該増殖させた宿主細胞から、該高リガンド親和性アルブミン変異体を回収する工程;
を含み、
該ヒト血清アルブミン変異体が、配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンにおいて、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する。
【0013】
1つの実施態様では、上記リガンドはビリルビンである。
【0014】
1つの実施態様では、上記宿主細胞はピキア属酵母である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体内毒素または疾患に関与する特定の分子(例えば、ビリルビン)に対して、ランダムなアルブミン変異体についてスクリーニングする場合と比較して、特異性および親和性の高いアルブミン変異体をハイスループットにスクリーニングすることができる。したがって、特定の分子に対して特異的結合能を有するアルブミン変異体を容易に製造するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】オリゴヌクレオチドからの2本鎖DNA(それぞれフラグメント1、2、および3)の合成を示す模式図である。
【図2】実施例1−4で調製したフラグメント1、2、および3のアニーリングを示す模式図である。
【図3】種々の濃度のranHSAdIIディスプレイファージおよびM13KO7ヘルパーファージと、抗ファージ抗体または抗HSAポリクローナル抗体との結合量(吸光度)の関係を示すグラフである。
【図4】ランダムに選択した各クローンのビリルビン(BR)結合活性を示すグラフである。遊離BR濃度が低いほど、BR結合活性が高いことを示す。
【図5】高BR結合ファージクローンのシーケンス解析結果を示す図である。塩基性アミノ酸(LysおよびArg)は黒色の背景に白抜き文字で表し、酸性アミノ酸(Glu)は灰色の背景に黒字で表す。
【図6】精製したアルブミン変異体のSDS−PAGEによる電気泳動写真である。
【図7】クローン7(野生型)およびクローン107のビリルビン結合活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
アルブミンとしては、血清アルブミン、卵白アルブミンなどが挙げられるが、本発明において、好ましくは血清アルブミンである。アルブミンの由来は、例えば、ヒトまたは他の温血動物(例えば、ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ウズラ)由来であり得る。医薬への利用を考慮すると、ヒトアルブミン、特にヒト血清アルブミン(HSA)が好ましい。以下、本発明においては、アルブミンという場合は、特に言及がなければ、HSAを意図する。
【0018】
本発明において、HSAとは、野生型成熟HSAをいい、これは配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有する。
【0019】
本発明において、アルブミン変異体とは、配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列(HSAのアミノ酸配列)とは異なる配列であるが、実質的に同一のアミノ酸配列を有し、かつHSAと実質的に同質の活性を有するタンパク質をいう。以下で詳述する本発明の高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング方法およびその製造方法において、ファージ表面に提示するアルブミン変異体は、少なくとも配列番号2の195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンである。
【0020】
本発明において、HSAと実質的に同一のアミノ酸配列とは、HSAと好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0021】
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(すなわち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は、当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0022】
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]などが挙げられ、これらも同様に好ましく用いられ得る。
【0023】
本発明において、実質的に同質の活性とは、HSAの生理機能(例えば、血清分子のキャリアとしての機能、血漿コロイド浸透圧の維持機能)などを有することをいう。「実質的に同質」とは、それらの機能が定性的に同じであることを意味する。したがって、血清分子のキャリアとしての機能などは同等であることが好ましいが、その程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
【0024】
本発明において、高リガンド親和性アルブミン変異体とは、配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有する野生型のHSAよりも、任意のリガンドに対してより高い結合活性を有するアルブミン変異体をいう。高リガンド親和性アルブミン変異体は、配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列のうち、任意の1以上のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されているアミノ酸配列であって、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンである。野生型HSAにおいては、配列番号2の195位および199位のアミノ酸はリジンである。一方、高リガンド親和性アルブミン変異体では、195位および199位のアミノ酸は塩基性アミノ酸(リジンまたはアルギニン)に保持されており、240位のリジンも保持されている。
【0025】
本発明において、リガンドとは、上記高リガンド親和性アルブミン変異体と結合可能な標的分子をいう。このようなリガンドとしては、生体内毒素、疾患に関与する特定の分子(例えば、ビリルビン)、脂肪酸、無機イオン、あるいは薬剤(例えば、ジルチアゼム、フェニトイン、テオフィリン)などが挙げられる。本発明では、リガンドとして、好ましくはビリルビンが標的とされる。
【0026】
本発明の高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング方法は、ファージディスプレイ法に基づくものであり、
ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;および
該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;
を含む。
【0027】
本発明に用いられるファージとしては、ファージディスプレイ法に一般的に用いられる繊維状ファージ(f1、fd、およびM13ファージ)、他のバクテリオファージ(例えば、T7バクテリオファージとラムドイドファージ)などが挙げられる。繊維状ファージディスプレイ系は、典型的には、III遺伝子タンパク質のようなマイナーコートタンパク質と、VIII遺伝子タンパク質、メジャーコートタンパク質への融合を使用するが、VI遺伝子タンパク質、VII遺伝子タンパク質、IX遺伝子タンパク質、またはそれらのドメインのような他のコートタンパク質への融合も使用してよい。例えば、M13ファージの場合は目的のタンパク質をコードするDNAをコートタンパク質遺伝子に連結する。このファージの遺伝子を大腸菌に形質転換し発現させて、ファージライブラリーを作製する。
【0028】
また、ファージミド系を利用してもよい。この系では、III遺伝子へ融合するポリペプチド成分をコードする核酸が、代表的には長さ700未満のヌクレオチドのプラスミド上に提供される。このプラスミドにはファージの複製起点が含まれるので、このプラスミドを担う細菌細胞がヘルパーファージ、例えば、M13K01ファージで感染されるときに、このプラスミドはバクテリオファージ粒子へ組み込まれる。ヘルパーファージは、ファージの複製および構築に必要とされるIII遺伝子や他のファージ遺伝子のインタクトなコピーを提供する。ヘルパーファージは欠損起点を有するので、ヘルパーファージゲノムは、野生型起点を有するプラスミドに比べて、ファージ粒子へ効率的には組み込まれない。
【0029】
上記のようなファージに提示されるヒト血清アルブミン変異体(HSA変異体)は、配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列(HSAのアミノ酸配列)のうち、任意の1以上のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されているアミノ酸配列であって、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する。このヒト血清アルブミン変異体をコードするDNAは、例えば、配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列(HSA)をコードする塩基配列と実質的に同一の塩基配列であって、配列番号2の195位および199位がリジンまたはアルギニン、そして240位がリジンをコードする塩基配列を含有するDNAなどが挙げられ、例えば、HSAをコードするDNAに、任意の手段で変異を導入することによって得られる。
【0030】
HSAをコードするDNAとしては、ヒトのゲノムDNA、アルブミン産生細胞(例えば、肝細胞など)由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。HSAをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、その産生細胞もしくは組織(例えば、肝臓など)より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および逆転写PCR(RT−PCR)によって直接増幅することもできる。あるいは、HSAをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適切なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。
【0031】
HSAをコードするDNAは、配列番号1の73位から1827位までの塩基配列を含有するDNA、または配列番号1の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、上記の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同質の活性(例えば、血清分子のキャリア機能など)を有するタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。配列番号1の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号1の73位から1827位までの塩基配列とオーバーラップする領域において、約80%以上、好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0032】
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0033】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrookら, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989年)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行うことができる。
【0034】
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での1回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度などを適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0035】
塩基配列への変異の導入は、特定のDNA領域に変異を導入するために当業者が通常用いる手段によって行われる。上記HSAをコードするDNAに対して、例えば、縮重コドンを用いたPCR(特定のコドンにヌクレオチドの混合物を含むようなオリゴヌクレオチドを用いてDNA領域を増幅する)、エラープローンPCR(複製ミスが起こりやすい酵素や反応条件を選択して行うPCR)などを行うことによって、ランダム変異が導入される。
【0036】
ランダム変異を導入したHSA変異体をコードする遺伝子は、当業者が通常用いる手段によって、上記ファージに導入される。例えば、ファージミドベクターにランダム変異を導入したHSA遺伝子を挿入し、このベクターを用いてエレクトロポレーションなどの公知の形質転換技術を用いて大腸菌を形質転換する。次いで、形質転換された大腸菌に、ヘルパーファージを感染させた後、当業者が通常用いる手段によってランダム変異HSA変異体ディスプレイファージを回収する。回収されたファージは、それぞれが種々の変異を有するHSAを提示しており、ファージライブラリーを構成する。なお、ファージ表面へのHSA変異体の提示は、抗HSA抗体を用いるELISAなどによって確認することができる。
【0037】
ファージライブラリーとリガンドとの接触では、リガンドを、予めマイクロタイタープレートの表面やゲルなどの支持体に固定化しておき、そこにファージを含む液を加えて反応させる。反応後、支持体を緩衝液で洗浄することにより、リガンドに結合したファージは支持体に残り、非結合ファージは洗い流される。結合したファージは、緩衝液を相対的に強い酸性または塩基性のpH(例えばpH2またはpH10)へ変えること、緩衝液のイオン強度を変えること、変性剤を加えること、または他の既知の手段などの任意の手段により、リガンドより遊離させることができる。
【0038】
また、リガンドから遊離させたファージは、回収後、これをパンニングによって、すなわち、ヘルパーファージとともに大腸菌に感染させて増幅し、上記の操作を繰り返すことによって、次第に強く結合するファージを濃縮することができる。
【0039】
ファージへのリガンドの結合量を測定するには、まず、回収したファージをマルチウェルアッセイプレート中のウェルのプラスチック表面のような固体支持体表面へ(受動免疫化によって)吸着させる。ここに、HSA変異体およびファージの構造を維持する適切な条件下で、リガンドを含む液を添加して反応させる。結合したリガンドの量は、添加した溶液中の非結合リガンド量を測定することによって、あるいは支持体を洗浄した後に支持体に残ったリガンド量を測定することによって求めることができる。
【0040】
このようにして、リガンドの結合量が多いファージを選択することができる。選択したファージは、上記パンニングによってさらに増幅させることができる。選択されたファージが提示しているHSA変異体の遺伝子配列を決定することにより、リガンドとの親和性の高い(結合活性が高い)HSA変異体のペプチド配列がわかる。この配列に基づき、さらに2次ライブラリーを設計することが可能である。例えば、配列表の配列番号2の195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるだけでなく、他の位置のアミノ酸が任意のアミノ酸に特定したライブラリーが設計され得る。したがって、高リガンド親和性アルブミン変異体のよりハイスループットなスクリーニングが可能となる。
【0041】
スクリーニングによって見出された高リガンド親和性アルブミン変異体(高リガンド親和性HSA変異体)は、これを提示するファージを有するクローンから抽出したDNAを宿主細胞に導入し、この宿主細胞を増殖させる工程;次いで、増殖させた宿主細胞から、高リガンド親和性HSA変異体を回収することによって、製造することができる。
【0042】
高リガンド親和性HSA変異体をコードするDNAは、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて、適切な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより、このDNAを含む発現ベクターを製造することができる。
【0043】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例えば、SH19、pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物(昆虫)ウイルス、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
【0044】
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。本発明において宿主細胞として用いることができるものとしては、特に制限はなく、哺乳動物をはじめとする動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌細胞などの各種真核細胞、あるいはトランスジェニック動植物もしくは昆虫などが挙げられる。
【0045】
例えば、宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
【0046】
宿主が動物細胞である場合、サイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーター(例えば、CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例えば、HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例えば、RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来プロモーター(例えば、MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター(例えば、MMTV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例えば、HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例えば、AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2またはAd5主要後期プロモーター)などが用いられる。
【0047】
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0048】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子[メソトレキセート(MTX)耐性]、アンピシリン耐性(Amp)遺伝子、ネオマイシン耐性(Neo)遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター(CHO−dhfr)細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。さらに、挿入されるDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
【0049】
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、高リガンド親和性HSA変異体をコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。例えば、宿主が酵母である場合、MFαシグナル配列、SUC2シグナル配列などが、宿主が動物細胞である場合、インスリンシグナル配列、α−インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。しかしながら、HSAのネイティブなプレプロ配列(配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号−24〜−1で示されるアミノ酸配列)は多くの異種真核細胞で分泌シグナルとして機能することが知られているので、プレプロHSAをコードするDNAをそのまま発現ベクター中に挿入することもできる。
【0050】
上記のように、宿主としては、例えば、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞、動物などが用いられる。
【0051】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R、NA87−11A、DKD−5D、20B−12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036などが用いられる。
【0052】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、In Vivo, 13, 213-217 (1977))などが用いられる。
【0053】
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。
【0054】
動物細胞としては、例えば、サル由来細胞(例えば、COS−1、COS−7、CV−1、Vero)、ハムスター由来細胞(例えば、BHK、CHO、CHO−K1、CHO−dhfr)、マウス由来細胞(例えば、NIH3T3、L、L929、CTLL−2、AtT−20)、ラット由来細胞(例えば、H4IIE、PC−12、3Y1、NBT−II)、ヒト由来細胞(例えば、HEK293、A549、HeLa、HepG2、HL−60、Jurkat、U937)などが用いられる。
【0055】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
【0056】
酵母は、例えば、Methods in Enzymology, 194, 182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0057】
昆虫細胞および昆虫は、例えば、Bio/Technology, 6, 47-55 (1988)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0058】
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology, 52, 456 (1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。
【0059】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。
【0060】
宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地や0.5% カザミノ酸を含有するSD培地などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行われる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
【0061】
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace’s Insect Mediumに非働化した10%ウシ血清などの添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行われる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0062】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行われる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0063】
ところで、ピキア(Pichia)属酵母は、メタノールを唯一の炭素源として増殖することが可能であり、メタノール中で生育させると、メタノールおよびその代謝中間体の処理に必要な酵素が脱抑制されて発現する。このメタノール資化経路を利用すると、異種タンパク質の分泌発現量は、サッカロミセス属酵母を大きく上回ることが知られている。実際、この系を利用したHSA製造は既に実用化の段階にあり(例えば、特開平6−22784号公報参照)、1Lの培地から10gオーダーのHSAを製造することができる。したがって、以下に、本発明の特に好ましい実施態様の1つとして、ピキア属酵母を宿主細胞として用いた高リガンド親和性HSA変異体の製造方法について説明する。
【0064】
用いられるベクターは、ピキア属酵母の菌体内で自律的に複製されるか、あるいは酵母ゲノム内に組み込まれることにより遺伝的に安定に維持されるものであれば特に制限はない。自律複製可能なベクターとして、例えばYEpベクター、YRpベクター、YCpベクターなどが挙げられる。また、酵母ゲノム内に組み込まれ得るベクターとしては、例えば、YIpベクター、YRpベクターが挙げられる。
【0065】
ピキア属酵母で機能し得るプロモーターとしては、酵母由来のプロモーター、例えば、S.セレビシエ由来のPHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなど、P.パストリス由来のアルコールオキシダーゼ(AOX)1プロモーター、AOX2プロモーター、ジヒドロキシアセトンシンターゼプロモーター、P40プロモーター、ADHプロモーター、葉酸デヒドロゲナーゼプロモーター等が挙げられる。また、上記酵母由来プロモーターが、遺伝子発現効率がさらに向上するように修飾された変異型プロモーター、例えば、変異型AOX2(mAOX2)プロモーター[Ohi et al., Mol. Gen.Genet., 243, 489-499 (1994); 特開平4−299984号公報]などであってもよい。好ましくは、プロモーターは、ピキア属酵母のメタノール代謝系を利用すべく、メタノールもしくはその代謝中間体の処理に必要な酵素遺伝子のプロモーター、例えば、AOX1プロモーターおよびmAOX2プロモーターである。
【0066】
得られた高リガンド親和性HSA変異体をコードするDNAを含む発現ベクターは、さらにピキア属酵母で機能し得る転写終結配列(ターミネーター)(例えば、AOX1ターミネーターなど)、エンハンサー配列、酵母の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(栄養要求性遺伝子、例えば、P.パストリスもしくはS.セレビシエ由来のHIS4、LEU2、ARG4、URA3遺伝子など、または抗生物質耐性遺伝子、例えば、シクロヘキシミド、G−418、クロラムフェニコール、ブレオマイシン、ハイグロマイシン等に対する耐性遺伝子など)などを含んでいることが好ましく、また、所望により酵母で機能し得る複製可能単位を含んでいてもよい。さらに、ベクターの大量調製のために、大腸菌で機能し得る複製可能単位および大腸菌の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(例えば、アンピシリンやテトラサイクリンに対する耐性遺伝子など)を含んでいることがより好ましい。
【0067】
発現ベクターが酵母ゲノム内に組み込まれるタイプのベクターである場合、このベクターは、相同組換えに必要な酵母ゲノムと相同な配列をさらに含むことが望ましい。そのような相同配列としては、上述の栄養要求性遺伝子の配列が挙げられる。したがって、好ましい一実施態様において、本発明の発現ベクターは、栄養要求性遺伝子内に上記変異型アルブミンの発現カセット(本明細書において「発現カセット」とは遺伝子発現を可能にする単位を意味し、プロモーターの制御下に蛋白質コード配列が配置されたものを最小単位とするが、好ましくはプロモーター−蛋白質コード領域−ターミネーターからなる単位である)が挿入されたものである。
【0068】
上記のようにして得られた発現ベクターは、例えば、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール法、リチウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法、パーティクル・ガン法などの公知の形質転換技術を用いて、標的ピキア属酵母菌体内に導入することができる。
【0069】
本発明で用いられるピキア属酵母は特に限定されない。例えば、P.パストリス、ピキア・アカシエ(Pichia acaciae)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・カプスルラータ(Pichia capsulata)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピキア・エチェルシイ(Pichia etchellsii)、ピキア・ファビアニイ(Pichia fabianii)、ピキア・ファリノーサ(Pichia farinosa)、ピキア・グイリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ピキア・イノシトヴォラ(Pichia inositovora)、ピキア・ジャディニイ(Pichia jadinii)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ノルヴェゲンシス(Pichia norvegensis)、ピキア・オフナエンシス(Pichia ofunaensis)、ピキア・ピヌス(Pichia pinus)などが挙げられる。好ましくは、P.パストリス、栄養要求性変異P.パストリス株(例えば、P.パストリスGTS115株(HIS4- )[NNRL Y−15851]、P.パストリスGS190株(ARG4- )[NNRLY−1801]、P.パストリスPPF1(HIS4- ,URA4- )[NNRL Y−18017]など)である。
【0070】
形質転換されたピキア属酵母は、当該技術分野で通常使用される方法で培養することにより、高リガンド親和性HSA変異体を産生することができる。用いられる培地には、宿主細胞の生育に必要な炭素源および無機または有機窒素源が少なくとも含まれる必要がある。炭素源としては、メタノール、グリセロール、グルコース、ショ糖、デキストラン、可溶性デンプン等が例示される。また、無機または有機窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。さらに、所望により他の栄養素、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどの無機塩、ビオチンなどのビタミン類、抗生物質などを含んでいてもよい。
【0071】
用いられる培地としては、例えば、通常の天然培地(例えば、YPD培地、YPM培地、YPG培地など)または合成培地が挙げられる。培地のpHおよび培養温度は、酵母の増殖およびアルブミンの産生に適したpHおよび温度が適宜採用されるが、例えば、pH約5〜約8、培養温度約20〜約30℃が好ましく例示される。また、必要に応じて通気や攪拌を行うこともできる。培養は、通常約48〜約120時間行われる。
【0072】
例えば、ピキア属酵母菌体内で機能し得るプロモーターとしてAOX1プロモーター、mAOX2プロモーターなどのメタノールにより発現誘導されるプロモーターを使用する場合、菌体の増殖のための炭素源としてグリセロールを含み、アルブミンの発現誘導因子としてメタノールを含む、pH約6.0に制御された天然培地を用いて液体通気攪拌培養を行う方法が最も好ましく例示される。アルブミンの発現が菌体の生育にとって好ましくない場合には、まずメタノール以外の炭素源で菌体量を増加させた後でメタノールを添加してアルブミンの発現を誘導する培養方法がより好ましい。また、ジャーファーメンターでの培養においては、高密度培養法がアルブミンの産生に好適な方法として例示される。培養は、回分培養、流加培養、連続培養のいずれの方式により行ってもよいが、好ましくは流加培養法が挙げられる。すなわち、一定期間、宿主菌体をその増殖に適した炭素エネルギー源(例えば、グルコースなど)および/または栄養源を含有する培地(初期培地)中で培養し、状況に応じてある時点から、宿主菌体の増殖を支配する基質(即ち、メタノール)を該培地に追加供給しながら、アルブミンを培養終了時まで系外に抜き出さない方法が用いられる(例えば、特開平3−83595号公報を参照)。
【0073】
培養物中に産生された高リガンド親和性HSA変異体は、培養終了後の培養物を遠心分離および/または濾過して培養上清(分泌発現させた場合)もしくは酵母菌体(菌体内発現させた場合)を回収し、次いで、上清もしくは菌体から公知の方法に従って単離・精製することができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0074】
こうして得られた高リガンド親和性HSA変異体は、必要に応じて、公知の手法(限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥など)により処理されて、医療用製剤とされ得る。
【0075】
医療用製剤として処理された高リガンド親和性HSA変異体は、各種微生物に汚染されている可能性はきわめて低いと考えられるが、製剤の無菌性をより積極的に確保するための手段として、無菌充填後に加熱処理(パストリゼーション)による夾雑微生物の不活化を行ってもよい。
【0076】
加熱処理は、投与単位当たりに容器に充填された製剤が、いずれの容器に充填されたものであっても、例えば、約50〜約70℃(好ましくは約60℃)の湯浴中に約30分間以上保持することにより十分に夾雑微生物が不活化される。加熱時間は、好ましくは約30分間〜約2時間である。
【0077】
高リガンド親和性HSA変異体は、代表的には、アルブミン透析に吸着剤として用いられ得る。あるいは、リガンドの種類に応じて、血液などの体液や医療用液体からリガンドを除去する目的であるいはリガンドの濃度を調節する目的で使用され得る。あるいは、医薬としても使用することができる。
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
(実施例1:HSAドメインII(HSAdII)遺伝子の構築)
(実施例1−1:HSAdII遺伝子の調製方法)
Tonen株式会社から恵与されたHSAcDNAを鋳型とし、SfiI−domainII(5'-CCTTTCTATGCGGCCCAGCCGGCCATGGCCGATGAAGGGAAGGCT-3':配列番号3)とNotI−domainII(5'-CGGCGCACCTGCGGCCGCCTGAGGCTCTTCCAC-3':配列番号4)とを合成プライマーとしてPCRを行って、HSAdII遺伝子を得た。PCR反応液は、プラスミドpPIC9にHSAの遺伝子が挿入されたプラスミドpPIC9−HSA(5ng/μL)2μL、10×pfu緩衝液5μL、2.5mM dNTPs 4μL、HO 34μL、cloned pfu DNAポリメラーゼ(2.5ユニット/μL、STRATAGENE社)1μL、および合成プライマー(10pmol/μL)各2μLであった。PCR条件は、95℃,2分の後、95℃,30秒、50℃,30秒、72℃,30秒を30サイクル、次いで72℃,10分で行った。
【0080】
(実施例1−2:HSAdII遺伝子のpCANTAB−5Eファージミドベクターへのライゲーション方法)
pCANTAB−5EファージミドベクターおよびHSAdII遺伝子を、それぞれ制限酵素SfiI/NotIで切断した。制限酵素で切断したpCANTAB−5E 0.1μgに対し、HSAdII遺伝子を0.1μg加え、さらに1M NaCl 1μLとTE(pH7.5)とを加えて計23μLとした。65℃,10分でアニーリング後、室温まで冷却し、5×ライゲーション緩衝液(BRL)6μL、T4 DNAリガーゼ(BRL)1μLを加えて計30μLとし、16℃にて一晩インキュベートし、ライゲーションを行った。
【0081】
(実施例1−3:調製したHSAdII遺伝子のランダム変異)
HSAdII遺伝子の前半部分であるHSAdIIA領域に存在する計12残基のLysおよびArgの遺伝子コドンをRRA配列とし(RはAまたはGである)、Lys、Arg、Glu、およびGlyの4残基にランダムに変異が導入されるようにオリゴヌクレオチドを設計した。このオリゴヌクレオチドから2本鎖DNAを合成し(フラグメント1、2、および3)、これらのフラグメントを繋いで両末端に制限酵素SfiI/NcoIの認識部位を付加したフラグメントを作製した(フラグメント5)。次いで、WT HSAdIIにおいてフラグメント5の位置に対応する配列を、WT HSAdII遺伝子を挿入したpCANTAB−5Eベクターから切り出し、このベクターとフラグメント5とをライゲーションすることにより、ranHSAdII遺伝子を導入した。
【0082】
(実施例1−4:オリゴヌクレオチドからの2本鎖DNA合成)
オリゴヌクレオチドからの2本鎖DNA合成には、酵素としてクレノウフラグメント(TaKaRa)用いた。オリゴヌクレオチド(それぞれHSA_mut_1(配列番号5)とHSA_mut_2(配列番号6)、HSA_mut_3(配列番号7)とHSA_mut_4(配列番号8)、およびHSA_mut_5(配列番号9)とHSA_mut_6(配列番号10)との組み合わせ)各1nmolを終濃度50mMのNaCl中で、95℃,5分で反応させてアニーリングした。次いで、室温までゆっくり冷却し、10×ライゲーション緩衝液7.5μL、HO 9.5μL、2.5mM dNTPs 6μL、およびクレノウフラグメント(2ユニット/μL)2μLを加え、37℃にて1時間反応させた。増幅された2本鎖DNAを、それぞれフラグメント1、2、および3と表記する(図1参照)。使用したオリゴヌクレオチドの配列を表1に示す。なお、塩基に付した下線は変異導入部位を示す。
【0083】
【表1】

【0084】
(実施例1−5:2本鎖DNAフラグメントのアニーリング・伸長・増幅(ジャンピングPCR))
クレノウフラグメントを用いて増幅した2本鎖DNAを等モル量混和した反応液に、10×pfu緩衝液10μL、2.5mM dNTPs 8μL、HO 76μL、およびpfu Ultra HF DNA pal(2.5ユニット/μL)1μLを加えた。PCR条件は、95℃,2分の後、95℃,1分、63℃,4分を7サイクル、次いで72℃,10分で2本鎖DNAを伸長させた後、プライマー(20pmol/μL)を2μLずつ加え、95℃,2分の後、95℃,30秒、50℃,30秒、72℃,30秒を30サイクル、次いで72℃,10分で増幅を行った。まず、フラグメント1と2とを繋げてフラグメント4を作製し、次にフラグメント3とフラグメント4とを繋げてフラグメント5を作製した(図2参照)。以下に使用したプライマーを示す。
【0085】
HSA_dII_SfiI:
5'-CCTTTCTATGCGGCCCAGCCGGCCATGTCCGATGAA-3'(配列番号11)
HSA_dII_120r:
5'-GGAAACTTCTGCAAACTCAGC-3'(配列番号12)
HSA_dII_NcoI:
5'-CAGATCTCCATGGCAGCATTCCGTGTGGAC-3'(配列番号13)
【0086】
(実施例1−6:ranHSAdII遺伝子のpCANTAB−5Eファージミドベクターへのライゲーション方法)
WT HSAdII遺伝子を挿入したpCANTAB−5Eファージミドベクターとフラグメント5を制限酵素SfiI/NcoIで切断した。制限酵素で切断したpCANTAB−5E 0.1μgに対し、フラグメント5(インサート)を0.1μg加え、1M NaCl 1μLとTE(pH7.5)とで計23μLとした。65℃,10分でアニーリング後、室温まで冷却し、5×ライゲーション緩衝液(BRL)6μLおよびT4 DNAリガーゼ(BRL)1μLを加えて計30μLとし、16℃にて一晩インキュベートしてライゲーションを行った。
【0087】
(実施例2:ranHSAdIIディスプレイファージライブラリーの作製)
ranHSAdII遺伝子を挿入したpCANTAB−5Eファージミドベクターを用いて、大腸菌XL1−Blue 300μLをエレクトロポレーション法(2.5kV,25μF,400Ω)により形質転換した。パルス直後の菌をSOC培地3mLで懸濁し、37℃にて1時間培養した。次いで、10mLのSB培地(3%Tryprone、2%YeastExtract、1%MOPS)(カルベニシリン20μg/mLおよびテトラサイクリン10μg/mLを含む)を加え、緩やかに混和し、37℃にてさらに1時間培養後、カルベニシリンを終濃度50μg/mLとなるように加えた。さらに1時間培養し、M13KO7ヘルパーファージを約1012pfu加えて緩やかに混和した後、全量を100mLのSB培地(カルベニシリン50μg/mLおよびテトラサイクリン10μg/mLを含む)に移した。37℃にて穏やかに振とう培養し、ファージを大腸菌へ感染させ、2時間後に終濃度70μg/mLとなるようにカナマイシンを加え、37℃にて一晩激しく振とう培養した。当業者が通常用いる一般的手法に従って、ranHSAdIIディスプレイファージを回収した。
【0088】
ファージ表面にアルブミンが提示されているかどうかを、ELISAで確認を行った。96穴マルチプレートに0.5%ゼラチン/PBS溶液で2倍希釈した濃縮ファージディスプレイranHSAdII 100μLを加え、室温にて一晩静置した。0.05%のTween20/PBS溶液300μLで3回洗浄後、非特異的結合を除くために0.5%ゼラチン/PBS溶液150μLを加え、37℃にて2時間静置した。0.05%Tween20/PBS溶液300μLで3回洗浄後、0.5%ゼラチン/PBS溶液で5000倍希釈した抗M13KO7/HRP標識抗体(抗ファージ抗体)または抗HSAポリクローナル抗体(抗アルブミン抗体)100μLを加え、室温にて1時間静置した。0.05%のTween20/PBS溶液300μLで3回洗浄後、発色液(0.4mg/mLオルトフェニレンジアミンおよび0.007%H)100μLを加えた。室温にて5〜15分間反応させた後、1M硫酸を加えて反応を停止した。各ウェルの490nmにおける吸光度を測定した。なお、対照として、何も提示していないヘルパーファージについても同様の操作を行った。結果を図3に示す。
【0089】
図3から明らかなように、何も提示していないヘルパーファージが抗ファージ抗体のみに反応性を示したのに対し、作製したranHSAdIIディスプレイファージは抗アルブミン抗体にも反応を示した。このことから、ファージ上にHSAのドメインIIが提示されていることが確認できた。
【0090】
(実施例3:バイオパンニング)
BRをカップリングさせたEAH Sepharose 4Eゲルにブロッキング溶液として0.5%ゼラチン/PBS溶液1mL加え、遮光下で室温にて一晩静置した。ゼラチン/PBS溶液を除去した後、ブロッキング溶液で2倍希釈したファージライブラリー1mLを加え、37℃にて2時間静置した。0.005%Tween20/PBSで10回洗浄後、0.1Nグリシン/塩酸(pH2.2)+1mg/mL BSA 1mLを加え、室温にて10分間放置した。次いで、スピンでゲルを落とし、上清を別のチューブに移し、60μLの2M Trisを加えて中和した。ここへ10mLの増殖期XL1−Blue株(OD600=1.0)を加え、室温にて15分間放置した。12mLのSB培地(カルベニシリン50μg/mLおよびテトラサイクリン10μg/mLを含む)を加えて静かに混和し、37℃にて穏やかに振とう培養して大腸菌への感染を行った。2時間後、終濃度70μg/mLとなるようにカナマイシンを加え、37℃にて一晩激しく振とう培養した。当業者が通常行う一般的手法に従ってHSAdIIディスプレイファージを回収し、PEG沈殿を500μLのPBSに溶解させ、同量のブロッキング溶液を加えて穏やかに混合した。以上の操作をさらに2回繰り返した。
【0091】
(実施例4:ペルオキシダーゼ(HRP)法による遊離BR濃度の定量)
パンニング後、スクリーニングされたファージの中から111クローンをランダムに拾い、以下に記載のようにBR結合活性を評価した。なお、遊離BR濃度は、Brodersenらの方法(非特許文献2)を改良して評価した。
【0092】
96穴マルチプレートに0.5%ゼラチン/PBS溶液で2倍希釈した濃縮ranHSAdIIディスプレイファージ100μLを加え、室温にて一晩静置した。0.05%Tween20/PBS溶液300μLで3回洗浄後、非特異的結合を除くために0.5%ゼラチン/PBS溶液150μLを加え、37℃で2時間放置した。0.05%Tween20/PBS溶液300μLで3回洗浄後、50μM BR溶液200μLを加え、37℃で20分間静置した。1.75mM H 10μLを加え、3分間放置した後、1μg/mL西洋ワセビペルオキシダーゼ(HRP)溶液10μLを加えて反応を開始した。添加後、経時的に各ウェルの450nmにおける吸光度を測定した。初期酸化速度(V)とBR濃度とをプロットした検量線を作成し、反応液中の遊離BR濃度を算出した。結果を図4に示す。遊離BR濃度が低いほど、BR結合活性が高いことを示す。
【0093】
図4において矢印で示すように、野生型dII(コントロール)に比べ非結合型BRが90%以下だったクローンが15クローン存在した。
【0094】
(実施例5:高BR結合ファージクローンのシーケンス解析)
野生型dIIに比べて非結合型BRが90%以下だったクローンについて、シーケンス解析を行った。15クローンのうち7クローンは、遺伝子上でフレームシフトを起こしておりHSAdIIの配列を保持していなかった。HSAdII配列を保持していた8クローンのシーケンス解析結果を図5に示す。
【0095】
図5に示すように、クローン7は、野生型HSAdIIの配列と全く一致していたので、図5では7(野生型)と表記する。変異を導入した12残基のうち10残基は電荷の異なる4残基にランダムに変異が導入されていたのに対し、配列番号2の195位および199位のLysは、ほぼ全てのクローンにおいてLysもしくはArgという塩基性アミノ酸に保持されていた。この結果より、HSAの配列番号2の195位および199位のLysが、BR結合に関与していることが考えられた。興味深いことに、この結果はDiaz N Z.ら(非特許文献3)が報告したHSA分子上のBR結合部位と一致していた。すなわち、さらなる高BR親和性アルブミン変異体を作製するには、配列番号2の195位および199位にLysもしくはArgという塩基性アミノ酸を保持する必要があると考えられた。
【0096】
ファージの保持する遺伝子は一本鎖DNAであるため、二本鎖DNAに比べて不安定であることが知られている。そのため、HSAdIIの配列を保持していなかったクローンは、パンニングを繰り返す間に遺伝子上でフレームシフトを起こしたと考えられた。
【0097】
(実施例6:選択したクローンのタンパク質発現・精製)
選択したクローンを感染させた大腸菌XL1-BlueのコロニーをLB寒天培地上からピックアップし、PCRによりHSAdIIcDNAを増幅・精製した後、GS115株ピキア属酵母のゲノムに挿入し、アルブミン変異体の発現細胞を作製した。その後、当該酵母を、Watanabe H.ら(非特許文献4)の方法に従って培養し、アルブミン変異体の発現・精製を行った。精製したアルブミン変異体をSDS−PAGEによって確認した(図6)。
【0098】
図6に示すように、クローンの1、2、4、および6が断片化され、メインバンド(図6中の囲みの位置)が他のバンドより薄いことが認められた。全てのタンパク質を同条件で培養・精製したため、クローンによっては酵母由来のプロテアーゼにより切断されやすい配列または構造を有していることが考えられる。そこで、断片化を受けているクローンの相互比較を行ったところ、配列番号2の240位の正電荷が欠落しているクローンが断片化されやすい傾向が見られた。このことから、HSAの構造を安定化するには、配列番号2の240位のリジンを保持する必要があることが示唆された。
【0099】
(実施例7:HRP法によるBR結合活性評価)
HRP法を用いて、クローン7(野生型)およびクローン107のビリルビン結合活性を評価した。結果を図7に示す。クローン107はタンパク質レベルにおいて、野生型ドメインIIに比べて高いビリルビン結合活性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング法によれば、生体内毒素または疾患に関与する特定の分子に対して、ランダムな変異体についてスクリーニングする場合と比較して、特異性および親和性の高いアルブミン変異体をハイスループットにスクリーニングすることができる。したがって、医薬品、例えば、BRがより効率的に除去されたアルブミン透析液、の迅速な開発および副作用の少ない医薬品を提供する上で非常に有用である。
【0101】
さらに、本発明の方法は、アルブミンとの結合性が高く透析では除くことが難しい分子、または、本来アルブミンには結合しないが、透析では除くことが難しい分子などに対して高親和性のアルブミン変異体をハイスループットにスクリーニングし、速やかに医薬への応用を実現させることにも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リガンド親和性アルブミン変異体のスクリーニング方法であって、
ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;および
該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;
を含み、
該ヒト血清アルブミン変異体が、配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンにおいて、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する、
方法。
【請求項2】
前記リガンドがビリルビンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高リガンド親和性アルブミン変異体の製造方法であって、
ヒト血清アルブミン変異体をファージ表面に提示するファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーをリガンドと接触させて、該ファージへの該リガンドの結合量を測定する工程;
該リガンドの結合量が多いファージを選択する工程;
該選択したファージを有するクローンから抽出した高リガンド親和性アルブミン変異体をコードするDNAを、宿主細胞に導入して、該宿主細胞を増殖させる工程;
該増殖させた宿主細胞から、該高リガンド親和性アルブミン変異体を回収する工程;
を含み、
該ヒト血清アルブミン変異体が、配列表の配列番号2の1位から585位までのアミノ酸配列を有するヒト血清アルブミンにおいて、195位および199位のアミノ酸がリジンまたはアルギニンであり、そして240位のアミノ酸がリジンであるアミノ酸配列を有する、
方法。
【請求項4】
前記リガンドがビリルビンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記宿主細胞がピキア属酵母である、請求項3または4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172277(P2010−172277A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19238(P2009−19238)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月8日 社団法人 日本薬学会 物理系薬学部会主催の「第21回バイオメディカル分析科学シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】