説明

高リスク群ヒトパピローマウイルスの中和抗体を誘導する抗原

【課題】少なくとも高リスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)に対応でき得る抗原であって、なおかつ型共通性がより高いワクチン抗原を提供する。
【解決手段】ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープを挿入したキメラ蛋白質の集合体であるキャプシド。ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープを挿入したキメラ蛋白質。このキメラ蛋白質を集合させることでキャプシドを形成させることを含むキメラ蛋白質の集合体であるキャプシドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高リスク群ヒトパピローマウイルスの中和抗体を誘導する抗原に関する。特に本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープを挿入したキメラ蛋白質及びこのキメラ蛋白質の集合体であるキャプシドに関する。
【背景技術】
【0002】
パピローマウイルスのキャプシドは、360分子のL1蛋白質と12分子のL2蛋白質から構成される正二十面体の粒子である。これまでにヒト、ウシ、シカ、ウサギ等を宿主とするウイルスが見つかっており、ヒフや粘膜に感染して増殖性の病変を形成する。ウシやウサギのパピローマウイルスでは、不活化したウイルス粒子やL1蛋白質のみで形成される粒子(L1-キャプシド)、L1蛋白質とL2蛋白質で形成される粒子(L1/L2-キャプシド)、大腸菌で作ったL2蛋白質のいずれかをワクチン抗原とする免疫で、感染を防御できることが示されている。
【0003】
ヒトパピローマウイルスには80以上の遺伝子型が存在する。粘膜に感染する型(粘膜指向性HPV)のうち、少なくとも12の型(高リスク型:16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、68型)が子宮頚癌の原因となることが知られている。我が国では集団検診で子宮頚癌の早期発見に努めているにもかかわらず、年間15000人の発症と2500人の死亡が報告されている。さらに、陰茎癌、外陰癌、舌癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌の一部もHPV感染が原因ではないかと考えられている。WHOでは世界の女性の悪性腫瘍の11%(45万人)にHPV感染が関わっており3億人のHPVキャリアーがいると推定している。
【0004】
HPV粒子は、L1蛋白質の5量体(キャプソメア)72個とL2蛋白質12分子で構成される正20面体のキャプシドがDNAゲノムを包む構造をしている(図1)。組換えDNA技術を応用してL1蛋白質のみを大量に発現させるとキャプシド様の構造(L1-キャプシド)ができる。L2蛋白質も同時に発現させればウイルス粒子と組成の同じキャプシド(L1/L2-キャプシド)が形成される。L1-キャプシドは、強い免疫原性を持ち、動物に接種するとアジュバント無しに抗体産生と細胞性免疫の両者を誘導することが示されている。この免疫原性はHPVの型に特異的で、16型のL1-キャプシドの免疫では16型に特異的な反応が起こる。
【0005】
HPVの増殖を許す培養細胞系が無いため、HPVの感染をモニターするにはHPVのL1/L2-キャプシドにマーカー遺伝子の発現プラスミド等を組み込んだ感染性偽ウイルスが工夫されている。HPVの感染中和抗体は、この感染性偽ウイルスの感染阻害で測定されている。
【0006】
動物パピローマウイルスがワクチンで感染予防できることから、HPV感染もワクチンによって防ぐことができると期待されている。HPV6、11,16型及び18型のL1-キャプシドを抗原とするワクチンが米国で開発され、臨床試験が行われている。(Luisa Vilola et al.: Prophylactic quadrivalent human papillomavirus types 6, 11, 16, and 18) L1 virus-like particle vaccine in young women: a randomised double-blind placebo-controlled multicentre phase II efficacy trial. Lanset Oncology6, 271-278, 2005(非特許文献1)、Koutsky et al.: A controlled trial of a human papillomavirus type 16 vaccine. N Eng J Med, 347(21), 1645-1651, 2002(非特許文献2))
【0007】
この第一世代ワクチン抗原は極めて型特異性が高く、例えば16型L1-キャプシドワクチンは16型の感染しか防がない。従って、高リスク型共通の中和抗体を誘導するワクチン抗原の開発が望まれている。
【0008】
本発明者らはこれまでの検討で、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域にあるエピトープ(L2-エピトープ)を認識するマウス(BALB/c)単クローン抗体(MAb5、13)及びHPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域と同じ配列を持つ合成ペプチドをBALB/cに免疫して得た抗血清は、16型だけでなく6、11、型の感染を阻害することを示してきた(Kawana. K, et al. : Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology., 73, 6188-6190, 1999(非特許文献3))。
【0009】
このL2領域のアミノ酸配列は粘膜指向性のHPV群で良く似ていることから、L2-エピトープを認識する抗体は幅広く粘膜指向性HPV群の感染を防ぐ可能性があることを指摘してきた。さらに、この合成ペプチドをヒト健常者のボランティアに経鼻接種しても安全で、一部のヒトの血清中に抗体が誘導され、少なくとも16型と52型を中和することを示した(Kawana. K, et al. : Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV16 L2 administered nasally in healthy volunteers. Vaccine., 21: 4256-4260, 2003(非特許文献4))。
【0010】
本発明者らは、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-126領域を蛍光蛋白質につないで4℃で細胞培養液に加えると、この融合蛋白質が細胞に表面に結合すること、37℃に暖めると細胞内に侵入することを見出した(Kawana. Y, et al. : Human papillomavirus type 16 minor capsid protein l2 N-terminal region containing a common neutralization epitope binds to the cell surface and enters the cytoplasm. J. Virology., 75, 2331-2336, 2001 (非特許文献5)参照)。
【0011】
本発明者らは、このような知見を基に、HPV16型のL2蛋白質のアミノ酸108-120領域に型共通中和エピトープが存在する(図1)ことを見出し、このエピトープをL1蛋白質の3カ所に組み込んで作ったキメラキャプシドが第二世代ワクチン抗原の候補であることを示し、既に特許出願した。
【0012】
HPVキャプシドはL1蛋白質の5量体(キャプソメア)が72個集合した正二十面体構造(L1-キャプシド)に12分子のL2蛋白質が挿入された構造を持つ。L2分子の一部はキャプシド表面に出ており、感染初期に重要な機能を担うと考えられている。本発明らは、L1蛋白質の3カ所に短いペプチドを挿入しても粒子が形成され、挿入したペプチドが粒子表面に存在することを明らかにした。HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域に、高リスクHPV群の感染を中和する型共通中和エピトープが存在することを突き止め、この領域をL1蛋白質に挿入してキメラ粒子を作った。キメラ粒子には、1080個のエピトープを提示できる。キメラ粒子をマウスに免疫して得た抗血清は複数の高リスクHPVを中和したので、ワクチン抗原の候補として特許出願をしている。
【非特許文献1】Luisa Vilola et al.: Prophylactic quadrivalent human papillomavirus types 6, 11, 16, and 18) L1 virus-like particle vaccine in young women: a randomised double-blind placebo-controlled multicentre phase II efficacy trial. Lanset Oncology6, 271-278, 2005
【非特許文献2】Koutsky et al.: A controlled trial of a human papillomavirus type 16 vaccine. N Eng J Med, 347(21), 1645-1651, 2002
【非特許文献3】Kawana. K, et al. : Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology., 73, 6188-6190, 1999
【非特許文献4】Kawana. K, et al. : Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV16 L2 administered nasally in healthy volunteers. Vaccine., 21: 4256-4260, 2003
【非特許文献5】Kawana. Y, et al. : Human papillomavirus type 16 minor capsid protein l2 N-terminal region containing a common neutralization epitope binds to the cell surface and enters the cytoplasm. J. Virology., 75, 2331-2336, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
HPVのL1-キャプシドを動物に免疫すると、型に極めて特異的な免疫応答を誘導する。16型のL1-キャプシドワクチンを用いた臨床試験の中間成績は、16型の感染予防に有効性が示されている一方で、他の型の予防には効果が殆どないことを示している。従ってワクチンで子宮頚癌の発症を阻止するには、少なくとも高リスク型すべてに対応できるワクチン抗原の開発が必要である。
【0014】
本発明者らはこれまでにHPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域にある高リスク型共通中和エピトープを用いたワクチン抗原を開発した。しかし、このエピトープのアミノ酸配列は、高リスク型L2蛋白質間で約60から75%程度の相同性であり、誘導される抗体は複数の高リスク型HPVに結合するものの、HPV16型に比べ結合能は劣る。そこで、型共通性がより高い抗原の出現が望まれている。
【0015】
そこで本発明の目的は、少なくとも高リスク型すべてに対応でき得る抗原であって、なおかつ型共通性がより高い抗原を提供することにある。
【0016】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)を挿入したキメラ蛋白質の集合体であるキャプシドであって、
前記L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるキャプシド。
[2]前記L2エピトープ群は、前記アミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ前記キャプシドに元となるL2エピトープを有するHPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群からなる[1]に記載のキャプシド。
[3]前記64-81 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所である[1]または[2]に記載のキャプシド。
[4]VEETSFIDA、 VEESGIVDV、IEETTFIES、IEESSFIDA、IEDSSVVTS、またはIEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下、109-117 L2エピトープという)をさらに挿入した[1]〜[3]のいずれかに記載のキャプシド。
[5]前記109-117 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であって、かつ前記64-81 L2エピトープを挿入していない箇所である[4]に記載のキャプシド。
[6]L1-キャプシドワクチンの製造に用いられる[1]〜[5]いずれかに記載のキャプシド。
[7]ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)を挿入したキメラ蛋白質であって、
前記L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるキメラ蛋白質。
[8]前記L2エピトープ群は、前記アミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ前記キメラ蛋白質から構成されるキャプシドにL2エピトープを有するHPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群からなる[7]に記載のキメラ蛋白質。
[9]前記64-81L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所である[7]または[8]に記載のキメラ蛋白質。
[10]VEETSFIDA、 VEESGIVDV、IEETTFIES、IEESSFIDA、IEDSSVVTS、またはIEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下、109-117 L2エピトープという)をさらに挿入した[7]〜[9]のいずれかに記載のキメラ蛋白質。
[11]前記109-117 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であって、かつ前記64-81 L2エピトープを挿入していない箇所である[10]に記載のキメラ蛋白質。
[12][7]〜[11]のいずれかに記載のキメラ蛋白質を集合させることでキャプシドを形成させることを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のキャプシドの製造方法。
[13]キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)の複合体であり、前記64-81 L2エピトープは、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有する複合体。
[14]キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスの64-81 L2エピトープはシステインを介して結合している[13]に記載の複合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粒子構造が強い免疫誘導活性を持つことと併せ、HPVのL2-エピトープを強力に抗原提示でき、型共通性がより高い抗原を提供できる。その結果、少なくとも高リスク型すべてに対応でき得るL1-キャプシドワクチンを提供することも可能になる。
【0018】
HPV16型L2蛋白質のアミノ酸64-81領域及びアミノ酸131-144領域は、感染中和抗体のエピトープを含み、しかも高リスクHPV群でアミノ酸配列が極めてよく保存されていることから、中和活性の交差性によって高リスクHPV群の感染を同時に阻害できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(L1-キャプシド)
本発明のL1-キャプシドは、ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(64-81 L2エピトープ)を挿入したキメラ蛋白質の集合体であるキャプシドである。
【0020】
前述のようにHPV粒子は、5分子のL1蛋白質が集合したキャプソメアが72個集まって正20面体のキャプシドを形成する。L1蛋白質を細胞で高発現させると、L1蛋白質は核に集まって、自律的にキャプシドを形成する。L1蛋白質のみで形成されるキャプシドをL1-キャプシドまたはウイルス様粒子(virus-like particle: VLP)と呼ぶ。L1蛋白質とL2蛋白質を同時に発現させると12分子のL2蛋白質がL1-キャプシドに取り込まれてL1/L2-キャプシド(またはL1/L2-VLP)ができる。但し、L1-キャプシドとL1/L2-キャプシドは、電子顕微鏡では識別できない。
【0021】
本発明のL1-キャプシドは、HPV16型のL1-キャプシドをベースとするキャプシドである。HPVは遺伝子型が多いので、一般にHPV16やHPV58等の表示で型とともに記載する。ここではHPV16型のL1-キャプシドは16L1-キャプシド、HPV52型のL1/L2-キャプシドは52L1/L2-キャプシドのように記載する。
【0022】
本発明のL1-キャプシドは、HPV16型L1蛋白質に、HPVのL2エピトープを挿入したキメラ蛋白質の集合体である。以下、キメラ蛋白質とは、「ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープを挿入したキメラ蛋白質」を意味し、本発明は、このキメラ蛋白質も包含する。
【0023】
本発明のキメラ蛋白質を作るためにL1蛋白質に挿入されるL2エピトープは、HPV16型のL2蛋白質のアミノ酸64-81領域の18個のアミノ酸からなる。
【0024】
尚、本発明においては、蛋白質のアミノ末端から順にアミノ酸残基に番号を付け、例えば50番目のアミノ酸をアミノ酸50と記載した。
【0025】
HPV16型L2蛋白質内で親水性アミノ酸の多い領域として、新たにアミノ酸14-27、64-81、131-144領域に注目し、これらのアミノ酸配列を持つ合成ペプチドをウサギに免疫した(図2)。全てのペプチドは特異的な抗体を誘導した(図3)。
【0026】
HPV16型キャプシドを抗原とするELISAで、抗原が粒子表面に提示されているか調べた。解析には、これまで注目してきた抗107-122抗体を加えた。全ての抗体は、L1-キャプシドには結合しなかった(ELISAでの吸光度0,1程度がこの測定系のバックグラウンドである)。L1/L2-キャプシドに対しては、抗107-122抗体だけでなく、抗64-81、及び131-144抗体が結合し、これらのエピトープを含む領域が粒子表面に存在することが示された。抗14-27抗体はL1/L2-キャプシドにも結合せず、この領域はキャプシド内部に存在することが示された(図4)。
【0027】
さらに、HPV52型及び58型L1/L2-キャプシドを抗原として、抗体の交差性を調べた(図4)。抗64-81抗体は、2匹の抗体とも明瞭な交差性を示した。抗107-122抗体は、1匹の抗体が58型に対する反応が低く、抗131-144抗体の交差性は、ウサギ個体差が大きかった。
【0028】
HPVの増殖を許す培養細胞系が無いため、HPVの感染はL1/L2-キャプシドに分泌性アルカリフォスファターゼ遺伝子の発現プラスミドを組み込んだ偽ウイルスを作り、293TT細胞に感染させて72時間後の培養液のアルカリフォスファターゼ活性でモニターした。抗体による感染中和は、この感染性偽ウイルスと抗体を混合したのち細胞に感染させて、アルカリフォスファターゼ活性の低下で調べた(図5)。抗64-81、107-122、131-144抗体は、HPV16型偽ウイルスの培養細胞への感染を阻害した。中でも、抗64-81抗体は最も優れた中和活性を示した。
64-81領域のアミノ酸配列は、複数の発がん性HPVL2に極めて良く保存されており(相同率75%以上)、ここにも型共通中和エピトープが存在する可能性がある(図6)。
【0029】
抗64-81抗体は、アミノ酸配列の相同性から期待されるとおり、HPV18型に対しても感染中和活性を示した(図7)。
【0030】
64-81領域は感染成立に重要な働きを担っていると考え、この領域にアミノ酸置換変異を導入したHPV16型偽ウイルスを作製し、感染性を調べた(図8)。69番目のアルギニンと72番目のタイロシンのアラニンへの置換は有意に感染性を低下させた。従って、L2蛋白質のこの領域はHPVが細胞に感染する際に重要な役割を担っており、抗体が結合することでHPVの感染が阻害されると考えられる。
【0031】
以上の成績から、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸64-81領域は、高リスク型HPV群の感染を予防するワクチン抗原に応用できる。
【0032】
特に、本発明においては、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸64-81領域にあるL2エピトープ(64-81 L2エピトープ)群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT(配列番号2)、SGTGGRTGYIPLGGRSNT(配列番号3)、SGTGGRTGYVPLSTRPST(配列番号4)、SGSGGRTGYVPIGTDPPT(配列番号5)、SGTGGRSGYVPLGTTPPT(配列番号6)、TGTGGRTGYIPLGGRPNT(配列番号7)、SGSGGRTGYVPLGGRSNT(配列番号8)、SGSGGRTGYIPLGGGGRP(配列番号9)、AGSGGRAGYVPLSTRPPT (配列番号10)、TGSGGRAGYVPLGSRPST (配列番号11)、SGTGGRTGYVPLGSTPPS (配列番号12)、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNT(配列番号13)で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなることが好ましい。SGTGGRTGYIPLGTRPPT(配列番号2)は、HPV群の16型L2エピトープであり、特に好ましい。
【0033】
また、SGTGGRTGYIPLGGRSNT(配列番号3) はHPV群の18型L2エピトープであり、SGTGGRTGYVPLSTRPST(配列番号4) はHPV群の31型L2エピトープであり、SGSGGRTGYVPIGTDPPT(配列番号5) は HPV群の33型L2エピトープであり、SGTGGRSGYVPLGTTPPT(配列番号6) はHPV群の35型L2エピトープであり、TGTGGRTGYIPLGGRPNT(配列番号7) はHPV群の39型L2エピトープであり、SGSGGRTGYVPLGGRSNT(配列番号8) は HPV群の45型L2エピトープであり、SGSGGRTGYIPLGGGGRP(配列番号9) は HPV群の51型L2エピトープであり、AGSGGRAGYVPLSTRPPT (配列番号10) は HPV群の52型L2エピトープであり、TGSGGRAGYVPLGSRPST (配列番号11) は HPV群の56型L2エピトープであり、SGTGGRTGYVPLGSTPPS (配列番号12) はHPV群の58型L2エピトープであり、SGTGGRTGYIPLGGKPNT(配列番号13) は HPV群の68型L2エピトープである。
【0034】
前記64-81 L2エピトープ群は、前記アミノ酸配列、即ち、配列番号2〜13のいずれかに記載されたアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドに元となるL2エピトープを有するHPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群からなることもできる。
【0035】
即ち、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT(配列番号2)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV16型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。そのような変異体としては、図8に示すHPV16/T66A、HPV16/R69A、HPV16/Y72A、HPV16/P74A、HPV16/R78A、及びHPV16/R69A/Y72Aを挙げることができる。これらの変異は、以下のHPV18型等においても同様に適用可能である。
【0036】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGGRSNT(配列番号3)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV18型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0037】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRTGYVPLSTRPST(配列番号4)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV31型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0038】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGSGGRTGYVPIGTDPPT(配列番号5)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV 33型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0039】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRSGYVPLGTTPPT(配列番号6)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV35型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0040】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、TGTGGRTGYIPLGGRPNT(配列番号7)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV39型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0041】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGSGGRTGYVPLGGRSNT(配列番号8)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV45型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0042】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGSGGRTGYIPLGGGGRP(配列番号9)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV51型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0043】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、AGSGGRAGYVPLSTRPPT (配列番号10)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV52型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0044】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、TGSGGRAGYVPLGSRPST (配列番号11)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV56型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0045】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRTGYVPLGSTPPS(配列番号12)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV58型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0046】
同様に、64-81 L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGGKPNT(配列番号13)で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ本発明のキャプシドにHPV68型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有するL2エピトープの変異体を含むことができる。
【0047】
本発明のキメラ蛋白質において、64-81 L2エピトープが挿入されるL1蛋白質は、L1蛋白質のループ部位である。L1蛋白質のループ部位は、例えば、L1蛋白質のアミノ酸52-62、85-97、133-152、171-183、266-294、315-325、346-360、及び426-446領域である。特に、64-81 L2エピトープが挿入されるL1蛋白質のループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であることが好ましい。HPV16型L1蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号1に示す。
【0048】
本発明者らは、HPV16L1蛋白質の構造解析、中和抗体エピトープの分布、及びキャプシド形成に必須なシステイン残基の位置等の観点から、L1蛋白質の外側にあって、抗原として認識されうる領域は、アミノ酸52-62、85-97、133-152、171-183、266-294、315-325、346-360、及び426-446領域であると推定した。
【0049】
本発明者らは、HPV16型、18型、6型L1蛋白質のアミノ酸配列を並べて比較し、型間で共通な部分は構造に関わる可能性が高いと考え、L2エピトープの挿入には不適切とした。型によってアミノ酸配列が大きく異なる領域はキャプシドの形成そのものに必須ではないと予想し、L2エピトープの挿入候補領域とした。さらに、HPV16型L1蛋白質のアミノ末端から10アミノ酸を除いた蛋白質の集合で形成されるL1-小型粒子(キャプシドより小型の正二十面体粒子)の構造解析(引用文献2)と、中和抗体エピトープの分布(引用文献3)、及びキャプシド形成に必須なシステイン残基の位置(引用文献4)を参考にし、L1タンパク質の外側にあって、L2エピトープの挿入が可能で、かつ抗原として認識されうる領域は、アミノ酸52-62 (HPV16型のL1-小型粒子においてBCループ)、85-97(CDループ)、133-152(DEループ)、171-183(EFループ)、266-294(FGループ)、315-325(GHループ)、346-360(HIループ)、及び426-446(カルボキシ末端)領域であると推定した。尚、引用文献は実施例の最後にリストを付す。
【0050】
さらに、下記の理由から挿入部位を絞り込み、L2エピトープを挿入したキメラ蛋白質を作出してキャプシド形成を調べた。
【0051】
部位A:アミノ酸52-62領域では、アミノ酸56と57のあいだにB型肝炎ウイルスのエピトープを挿入した報告(引用文献3)が参考になった。アミノ酸50はフェニルアラニン、51はプロリン、52はイソロイシンと疎水性のアミノ酸が続いた後に、53と54はリジン、56、57、58はアスパラギン、59はリジンとほぼ全て親水性アミノ酸が続き、60はイソロイシンと疎水性になるので、56と57の間に挿入されたL2エピトープは表面にでると推定し、挿入部位に選定した。
【0052】
部位B:アミノ酸133-152領域では、アミノ酸140と141のあいだにB型肝炎ウイルスのエピトープを挿入した報告(引用文献3)が参考になった。この領域は親水性アミノ酸残基を多く含むので、挿入されたL2エピトープは表面にでると推定した。146番目のシステイン残基のすぐそばを避け、アミノ酸140と141の間に挿入することとした。
【0053】
部位C:アミノ酸266-294領域では、267のバリン、269のグルタミンがL2エピトープのアミノ末端のバリン、3番目のグルタミンと一致したため、266と267の間に挿入した。すこしでもL1蛋白質のアミノ酸配列に合えば、キャプシドを形成しやすいと考えたからである。同時にB型肝炎ウイルスのエピトープを挿入した報告(引用文献3)も参考にした。
【0054】
部位D:アミノ酸426-446領域では、428のシステイン残基がキャプシド形成にかかせないことが知られている(引用文献4)ので、428を避けた。431と432のアミノ酸は、HPV16、18、6型L1蛋白質でアミノ酸がまちまちであり、L2エピトープを挿入してもキャプシド形成に影響が少ないと考え、アミノ酸430と433の間に挿入した。
【0055】
そして、実際にキャプシドの形成を試みたところ、64-81 L2エピトープ以外のL2エピトープではあるが、部位3へL2エピトープを挿入したキメラL1蛋白質(16L1-266VA)と部位4へL2エピトープを挿入したキメラL1蛋白質(16L1-430VA)は、キャプシドを形成した。部位2と部位3に同時にL2エピトープを挿入したキメラL1蛋白質(16L1-140/266VA)は、キャプシドを形成した。部位1と部位2と部位3に同時にL2エピトープを挿入したキメラL1蛋白質(16L1-56/140/266VA)は、キャプシドを形成した。
【0056】
L1蛋白質に挿入される64-81 L2エピトープは、1つのL1蛋白質に1つであることができるが、同一の64-81 L2エピトープが2つ以上1つのL1蛋白質の異なるループ部位に挿入されることもでき、あるいは、種類の異なる少なくとも2種類の64-81 L2エピトープが1つのL1蛋白質の異なるループ部位に挿入されることもできる。
【0057】
さらに、本発明のキャプシドは、上記64-81 L2エピトープ以外のL2エピトープをさらに含むことができる。例えば、VEETSFIDA(配列番号14)、 VEESGIVDV(配列番号15)、IEETTFIES(配列番号16)、IEESSFIDA(配列番号17)、IEDSSVVTS(配列番号18)、またはIEESAIINA(配列番号19)で表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(109-117 L2エピトープ)を、上記64-81 L2エピトープに加えて、さらに挿入したキャプシドも本発明のキャプシドである。VEETSFIDA(配列番号14)は、HPV群の16型L2エピトープであり、特に好ましい。また、VEESGIVDV(配列番号15)は、HPV群の31型L2エピトープであり、IEETTFIES(配列番号16)は HPV群の52型L2エピトープであり、IEESSFIDA(配列番号17)はHPV群の58型L2エピトープであり、IEDSSVVTS(配列番号18)はHPV群の18型L2エピトープであり、IEESAIINA(配列番号19)は6及び11型L2エピトープである。
【0058】
109-117 L2エピトープは、64-81 L2エピトープと同様にL1蛋白質のループ部位に挿入することができ、具体的には、挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であって、かつ前記64-81 L2エピトープを挿入していない箇所であることができる。
【0059】
L1蛋白質に挿入される109-117 L2エピトープは、1つのL1蛋白質に1つであることができるが、同一の109-117 L2エピトープが2つ以上1つのL1蛋白質の異なるループ部位に挿入されることもでき、あるいは、種類の異なる少なくとも2種類の109-117 L2エピトープが1つのL1蛋白質の異なるループ部位に挿入されることもできる。いずれの場合も、L1蛋白質には、1つまたは2つ以上の64-81 L2エピトープが挿入される。L1蛋白質に挿入される64-81 L2エピトープと109-117 L2エピトープの組み合わせと挿入位置の例を図9に示す。但し、これらは例示であって、これらの組合せ限定される意図ではない。
【0060】
(L2エピトープを含むペプチドの作製)
L2ペプチド(アミノ酸64-81または109-117)の作製は、常法により、96カラム自動ペプチド合成装置でのFmoc固相法により合成した。なお、このペプチドは抗体作製を目的としたため、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)接合されており、このKLHによるペプチド領域のマスキングを防ぐためにN末にシステイン残基を付加してある。
【0061】
本発明は、キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスの64-81 L2エピトープの複合体であり、前記L2エピトープは、SGTGGRTGYIPLGTRPPT(配列番号2)、SGTGGRTGYIPLGGRSNT(配列番号3)、SGTGGRTGYVPLSTRPST(配列番号4)、SGSGGRTGYVPIGTDPPT(配列番号5)、SGTGGRSGYVPLGTTPPT(配列番号6)、TGTGGRTGYIPLGGRPNT(配列番号7)、SGSGGRTGYVPLGGRSNT(配列番号8)、SGSGGRTGYIPLGGGGRP(配列番号9)、AGSGGRAGYVPLSTRPPT(配列番号10)、TGSGGRAGYVPLGSRPST(配列番号11)、SGTGGRTGYVPLGSTPPS(配列番号12)、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNT(配列番号)で表されるアミノ酸配列を有する複合体を包含する。キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスのL2エピトープはシステインを介して結合していることができる。SGTGGRTGYIPLGTRPPT(配列番号2)については、図2に示す。
【0062】
(L2エピトープの挿入されたL1蛋白質(キメラ蛋白質)の作製)
キメラL1遺伝子を作製し、これをバキュロウイルスベクターを用いて発現させて、キメラL1蛋白質、キメラキャプシドを作製した。キメラL1遺伝子の作製は、PCRによった。詳細は以下の通りである。
【0063】
(A)挿入したい部分を持つプライマー対を作成する。
(B)挿入部分を持つプライマーの一方とプライマー1またはプライマー2を組み合わせてPCRを行う。
(C)片側に挿入断片を持つDNAを2つ合成した。それぞれの相補部分をアニールさせ、伸長反応を行う。
(D)挿入DNAを持つキメラ遺伝子を作成する。
(E)このDNAを鋳型にプライマー1とプライマー2を用いてPCRを行う。
(F)挿入遺伝子を持つDNAを増幅できる。
【0064】
本発明は、本発明のキメラ蛋白質を集合させることでキャプシドを形成させることを含むキャプシドの製造方法を包含する。上述の様に、キメラL1遺伝子を作製し、これを、バキュロウイルスベクターを用いて発現させて、キメラL1蛋白質を作製する。そして、キメラL1蛋白質が作製されると、自律的にキメラキャプシド(本発明のキャプシド)が形成される。バキュロウイルスベクターを用いる発現は、常法で行うことができるが、キメラキャプシドの自律的な形成を促進するという観点から、条件を設定することが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0066】
例1
ウサギペプチド抗血清の作製
日本白色ウサギ(2.5kg〜3.0kg)2羽に免疫した。抗原は化学合成したペプチドとKLH(keyhole limpet hemocyanin)を結合させたものを用いた。初回感作は0.5mgの抗原をコンプリートフロイントアジュバンドと共に皮下投与した。初回投与後2週間後に0.25mgの抗原をコンプリートフロイントアジュバンドと共に皮下投与した。さらに2週間後、4週間後、6週間後に同様に(0.25mg)感作し計5回感作した。最終感作の1週間後に全採血し血清を得た。(株式会社スクラムに委託して行った。)
【0067】
ペプチドELISA測定法
1.合成ペプチドを抗原とした。抗原をELISAプレートに0.5μg/100μl/well
加え、4℃で一晩静置し、抗原をwellに結合させた。
2.抗原液を除去し、洗浄液(0.2% Teen20 in PBS)にて2回洗浄後、さらに洗浄液でwellを満たし、室温で2時間静置した。
3.wellから洗浄液除去後、希釈液(0.05% Twenn20 in PBS)にて抗血清を1000倍から段階希釈したものを各wellに100μl加え、室温で2時間静置した。
4.血清試料を除去し、3回洗浄し、HRP(horse radish peroxydase)結合抗ウサギIgG抗体を10000倍希釈したものを各wellに100μl加える。室温で2時間静置し、溶液を液除去後に洗浄液で3回洗浄。
5.基質液(0-フェニレンジアミン10mgをクエン酸一リン酸緩衝液(pH 5.0)25mlにて溶解し、H2O2 5μl加えたもの)100μlを加え、20分間発色後に1M H2SO4にて発色を停止しImmuno readerで490nmの波長を測定した。結果を図3に示す。
【0068】
例2
キャプシド抗原の作製法
16L1、16L1/L2、52L1、52L1/L2、58L1、58L1/L2遺伝子を組み換えバキュロウイルス系で発現させた。Bac-to-Bac baculovirus expression system(GIBCO-BRL Inc.、New York, NY)を用いて組み換えウイルスを作り、sf9細胞(夜盗蛾由来細胞)で発現させた。16L1(52L1、58L1も同様)遺伝子をpFastbac1 vectorにクローニングしてpFsatbac1/16L1を得た。16L1/L2(52L1/L2、58L1/L2も同様)はpFastbac dual vectorにクローニングしてpFastbac dual/16L1/L2を得た。次にそれぞれクローニングしたpFastbacベクターをDH10BAC大腸菌(Max Efficiency competent cell containing baculovirus DNA and helper plasmid, GIBCO BRL)に導入してBacmidを作成した。 Bacmid DNAをEffectene Transfection Reagent(QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)を用いてsf-9に導入し、キャプシド蛋白質を発現する組み換えバキュロウイルスを得た。
【0069】
組み換えバキュロウイルスをsf-9感染させ72時間後に細胞を回収した。感染細胞を0.5%NP40溶液に縣濁し、10分間室温放置後、遠心(9000rpm、15分、4℃)して核分画(沈殿)と細胞質分画に分けた。核分画を1.28g/mlの塩化セシウム-PBS溶液に縣濁し、超音波(Sonifier250, Branson)破砕後、SW50.1 roter(Beckman Coulter Inc., Fulleron, CA)で超遠心(34000rpm、20時間、20℃)を行った。塩化セシウム勾配中で比重1.28g/ml付近に集まった蛋白質を回収し、0.5M NaCl-PBSで透析したものを、キャプシド蛋白質溶液とした。
【0070】
キャプシド ELISA測定法
1.各キャプシド抗原を1μg/100μl/well加え、4℃で一晩静置。
2.抗原液除去後にブロッキング液(5% skim milk in PBS)を350μl加え、37℃2時間静置した。
3.ブロッキング液除去後に洗浄液(0.05% Teen20/0.05% NP40 in PBS)にて3回洗浄した。
4.ブロッキング液にて抗血清を500倍希釈したものを各wellに50μl加え、室温で1時間静置した。
5.血清試料を除去した後に9回洗浄し、HRP結合抗ウサギIgG抗体を2000倍希釈したものを各wellに50μl加える。室温で30分静置し、液除去後に洗浄液で6回洗浄。
6.基質液(0-フェニレンジアミン24mgをクエン酸一リン酸緩衝液(pH 5.0)12mlにて溶解し、H2O2 1.2μl加えたもの)50μlを加え、15分間発色後にImmuno readerで450nmの波長を測定した。結果を図4に示す。
【0071】
例3
感染性偽ウイルスの作製
1.293TT細胞にHPV16L1蛋白質発現プラスミド、HPV16L2蛋白質発現プラスミド、分泌型アルカリフォスファターゼ発現プラスミドをLipofectamine2000を用いてトランスフェクションした。(18型感染性偽ウイルス作製の場合には18L1プラスミド、18L2プラスミドをそれぞれ使用)トランスフェクション72時間後に細胞を回収した。
2.回収した細胞をDetergent buffer (0.5%Briji58, 0.5%Benzonase, 1%ATP dependent plasmid safe exonuclease C in D-PBS(CaCl2 1mM, MgCl2 10mM))にて懸濁し、37℃で一晩静置した。
3.その後、4℃、10分静置したのち、最終850mM NaClとなるように、5M NaClを加えた。
4.1500g、10分間遠心し、上清を回収した。
5.回収した上清は、27%, 33%, 39%のoptiprep(AXIS-SHIELD PoC AS製)溶液(PBSで希釈)の上に重層し、43700rpm、3時間、16℃にて超遠心した。
6.超遠心後、底面より約300μlずつ分画を回収し、分画3もしくは4を感染性偽ウイルス分画として感染実験に使用した。
【0072】
中和実験
1.中和実験前日に96穴細胞培養用プレートに20000個/wellの293TT細胞を植えておく。
2.Neautralization Buffer(フェノールレッド抜きのDMEM培地に10%FCS、1% non-essentialアミノ酸、1%L-グルタミン酸、10mM HEPESを添加したもの)で血清を希釈し感染性偽ウイルスと混合させ1時間4℃にて反応させ、前日に植えておいた293TT細胞に加えた。
3.約72時間培養後に上清15μl回収し、BD clontech社のGreat ESCAPE SEAP Chemiluminescence Kitにてアルカリフォスファターゼ活性をLuminometerを用いて測定した。結果を図5及び7に示す。
【0073】
例4
例3において、HPV16L2蛋白質発現プラスミドの代りに、図6に示す64-81に変異を導入したL2変異型HPV16L2蛋白質発現プラスミドを用いた以外は、例3と同様の操作を行った。L2の変異型の違いと感染性との関係を示す結果を図8に示す。
【0074】
明細書で前記非特許文献1〜5以外に引用した文献は下記の通りである。
引用文献
1)Matsumoto. K, et al. : Antibodies to human papillomavirus 16, 18, 58, and 6b major capsid proteins among Japanese females. Jpn. J. C ancer Res., 88, 369-375,1997.
2)Xiaojiang S. Chen, et al. : Structure of small virus-like particles assembled from the L1 protein of human papillomavirus 16. Mol. Cell., 5, 557-567, 2000.
3)Jean-Remy Sadeyen, et al. : Insertion of a foreign sequence on capsid surface loops of human papillomavirus type 16 virus-like particles reduces their capacity to induce neutralizing antibodies and delineates a conformational neutralizing epitope. Virology., 309, 32-40, 2003.
4)Ishii. Y, et al, : Mutational analysis of human papillomavirus type 16 major capsid protein L1: the cysteines affecting the intermolecular bonding and structure of L1-capsids. Virology., 308, 128-136, 2003
【産業上の利用可能性】
【0075】
HPV16L1蛋白質に、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域を挿入したキメラ蛋白質による粒子は、強い免疫原性と高リスクHPV群に共通の中和抗体誘導能を持つ(特許申請中)。このキメラ蛋白質に64-81領域を追加することで、さらに強力な型共通中和抗体を誘導できるワクチン抗原が作製できる。
このワクチンにより高リスクHPV群の感染予防ができれば、子宮頚癌の発生予防につながる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】先に特許出願したキメラキャプシドの模式図。
【図2】作製したペプチド抗体の領域。ペプチドはKLHと結合して免疫抗原とした。
【図3】各ペプチドを2匹のウサギに免疫して得た抗血清とペプチドの反応性(1匹の成績を示した)。ELISAの抗原はペプチドのみ。血清は特異的な抗体を含んでいた。
【図4】各ペプチド抗体のL1-ないしL1/L2-キャプシドに対する反応性。ELISAの抗原はHPV16型L1/L2-キャプシド(16L1/L2)、L1-キャプシド(16L1)等。L2蛋白質の粒子表面に出ている領域と抗体が結合するか調べた。52型、58型L2蛋白質との交差による結合も調べた。
【図5】各ペプチド抗体のHPV16型に対する中和活性。L2蛋白質の表面領域に結合しない抗14-27抗体と型特異性の高い抗52型L1抗体は中和活性を示さなかった。抗64-81、107-122、131-144抗体は中和活性を示した。
【図6】64-81領域のアミノ酸配列の比較。代表的な抗リスクHPVL2蛋白質を示した。
【図7】抗64-81抗体によるHPV18型の感染中和。用いた2用量の偽ウイルスは、効率よく中和された。
【図8】64-81領域のアミノ酸を置換した変異体をもつHPV16型偽ウイルスの感染性。
【図9】L1蛋白質に挿入される64-81 L2エピトープと109-117 L2エピトープの組み合わせと挿入位置の例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)を挿入したキメラ蛋白質の集合体であるキャプシドであって、
前記L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるキャプシド。
【請求項2】
前記L2エピトープ群は、前記アミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ前記キャプシドに元となるL2エピトープを有するHPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群からなる請求項1に記載のキャプシド。
【請求項3】
前記64-81 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所である請求項1または2に記載のキャプシド。
【請求項4】
VEETSFIDA、 VEESGIVDV、IEETTFIES、IEESSFIDA、IEDSSVVTS、またはIEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下、109-117 L2エピトープという)をさらに挿入した請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャプシド。
【請求項5】
前記109-117 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であって、かつ前記64-81 L2エピトープを挿入していない箇所である請求項4に記載のキャプシド。
【請求項6】
L1-キャプシドワクチンの製造に用いられる請求項1〜5いずれか1項に記載のキャプシド。
【請求項7】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイルスのL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)を挿入したキメラ蛋白質であって、
前記L2エピトープ群は、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるキメラ蛋白質。
【請求項8】
前記L2エピトープ群は、前記アミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸からなり、かつ前記キメラ蛋白質から構成されるキャプシドにL2エピトープを有するHPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群からなる請求項7に記載のキメラ蛋白質。
【請求項9】
前記64-81L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所である請求項7または8に記載のキメラ蛋白質。
【請求項10】
VEETSFIDA、 VEESGIVDV、IEETTFIES、IEESSFIDA、IEDSSVVTS、またはIEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群からなるL2エピトープ群のうちの少なくとも1つのL2エピトープ(以下、109-117 L2エピトープという)をさらに挿入した請求項7〜9のいずれか1項に記載のキメラ蛋白質。
【請求項11】
前記109-117 L2エピトープを挿入するループ部位は、アミノ酸56と57の間、アミノ酸140と141の間、アミノ酸266と267の間、及びアミノ酸430と433の間の少なくとも一カ所であって、かつ前記64-81 L2エピトープを挿入していない箇所である請求項10に記載のキメラ蛋白質。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のキメラ蛋白質を集合させることでキャプシドを形成させることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャプシドの製造方法。
【請求項13】
キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスのL2エピトープ(以下64-81 L2エピトープという)の複合体であり、前記64-81 L2エピトープは、SGTGGRTGYIPLGTRPPT、SGTGGRTGYIPLGGRSNT、SGTGGRTGYVPLSTRPST、SGSGGRTGYVPIGTDPPT、SGTGGRSGYVPLGTTPPT、TGTGGRTGYIPLGGRPNT、SGSGGRTGYVPLGGRSNT、SGSGGRTGYIPLGGGGRP、AGSGGRAGYVPLSTRPPT、TGSGGRAGYVPLGSRPST、SGTGGRTGYVPLGSTPPS、またはSGTGGRTGYIPLGGKPNTで表されるアミノ酸配列を有する複合体。
【請求項14】
キーホールリンペットヘモシアニンとヒトパピローマウイルスの64-81 L2エピトープはシステインを介して結合している請求項13に記載の複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−45746(P2007−45746A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232233(P2005−232233)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】