説明

高分子アクチュエータおよび電気音響変換器および電子機器

【課題】大きな振動振幅を確保することができ、振動の周波数を所望により調節することも容易な、高分子アクチュエータを提供する。
【解決手段】電界が印加されることにより膜状の高分子電解質ゲル1−bが振動する。高分子電解質ゲル1−bの一対の主面に個々に形成されている一対の電極層に電界が印加される。一対の電極層が一対の主面に個々に形成されている高分子電解質ゲル1−bを拘束している振動膜1−aが振動を伝播させる。このため、振動膜1−aにより大きな振動振幅を確保することができ、振動の周波数を所望により調節することも容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質ゲルの振動を利用した高分子アクチュエータ、この高分子アクチュエータを備える電気音響変換器、この電気音響変換器を備える電子機器、に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器の音響部品として動電型電気音響変換器が利用されている。この動電型電気音響変換器は、永久磁石とボイスコイルと振動膜から構成されている。その動作原理は、磁石を用いたステータの磁気回路の作用によりボイスコイルに固定された有機フィルム等の振動膜が振動し、音波を発生させるものである。
【0003】
現在、上述のようなアクチュエータとして各種の提案がある。例えば、高分子電解質ゲルを自律振動させるアクチュエータの提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−053399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、携帯電話機やラップトップ型パーソナルコンピュータの携帯端末の需要が増えており、電気音響変換器の小型化への要求が高まりつつある。しかしながら、電気音響変換器の音響性能において重要な示強量である音圧レベルは、振動膜の空気に対する体積排除によって決定される。
【0006】
従って、電気音響変換器を小型する場合、振動膜の放射面の面積が減少するため、音圧レベルが低下する問題があった。一方、音圧レベルを向上させる手段として、磁気回路の発生力を高め、振動膜の振幅を増加させる方法がある。
【0007】
しかしながら、この手段においては磁束密度の増加や駆動電流の増加が必要とされ、永久磁石の体積増加やボイスコイルの太線化により、磁気回路の厚みが増加する課題がある。さらに、電流量増大に伴う消費電力の増加などの課題もある。
【0008】
一方、小型薄型の電気音響変換器を実現する手段として、圧電セラミックスによる圧電効果を利用した圧電型電気音響変換器がある。この圧電方式は、セラミック素材の圧電効果を利用して、電気信号の入力による電歪作用により、振動振幅を発生させるものである。
【0009】
上下層を電極材料で拘束されたセラミック自体が振動し、これが駆動源として機能するため、磁石やボイスコイルなど多数の部材から構成される磁気回路に比べ、部材点数が少なく、薄型化に優位である。
【0010】
しかしながら、内部損失が低いセラミックス材料を振動源とするため、有機フィルムを通して振幅を発生させる動電型電気音響変換器に比べ、機械品質係数Qが高い傾向にある。
【0011】
例えば、動電型は3〜5程度に対して、圧電型では約50程度となる。機械品質係数Qは共振時に先鋭度を示すため、要約すれは、圧電型電気音響変換器では、基本共振周波数近傍では音圧が高く、それ以外の帯域では音圧が減衰することを意味する。
【0012】
すなわち、音圧レベル周波数特性において、音響特性の山谷が発生し、特定周波数の音が強調されたり、消失されたりして、音楽再生などに十分な音質が得られない課題を持つ。
【0013】
また、脆性材料であるセラミックスを用いるため、落下時の衝撃安定性が弱く、携帯電話などの小型電子機器に搭載した場合の信頼性確保に課題がある。これに対して、圧電性を持つ高分子フィルム、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を振動源に使用する方法も挙げられる。
【0014】
このPVDFフィルムは、材料自体が圧電性を有することから、上下主面を電極で拘束することで、セラミックスと同様に、電気信号を入力することにより伸縮運動が発生する。
【0015】
このため、高い柔軟性と、高分子樹脂特有の高い内部損失特性を有することから、高音質・高信頼性の電気音響変換器の駆動源として期待される。しかしながら、PVDFは高純度の熱可塑性フッ素重合体であるため、圧電性を得るには緻密な精製工程が必要であり、一般的に高価な材料として認知されている。また、PVDFは材料線形性、すなわち、入力電圧に対する振動量との線形特性が悪いため、音響再生時の歪音が発生する課題も持つ。
【0016】
このため、動電型電気音響変換器や圧電型電気音響変換器の代替となる、高音質で小型な電気音響変換器を生み出す小型で大振幅なアクチュエータに関する画期的な技術が要求されていた。
【0017】
また、特許文献1に記載のアクチュエータは、前述のように高分子電解質ゲルを自律振動させるものである。このため、大きな振動振幅を確保することが困難であり、振動の周波数を所望により調節するようなことも困難である。
【0018】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、大きな振動振幅を確保することができ、振動の周波数を所望により調節することも容易な、高分子アクチュエータ、この高分子アクチュエータを備える電気音響変換器、この電気音響変換器を備える電子機器、を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の高分子アクチュエータは、電界が印加されることにより振動する膜状の高分子電解質ゲルと、高分子電解質ゲルの一対の主面に個々に形成されていて電界が印加される一対の電極層と、一対の電極層が一対の主面に個々に形成されている高分子電解質ゲルを拘束していて振動を伝播させる振動膜と、を有する。
【0020】
本発明の電気音響変換器は、本発明の高分子アクチュエータを備える。
【0021】
本発明の電子機器は、本発明の電気音響変換器を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高分子アクチュエータでは、電界が印加されることにより膜状の高分子電解質ゲルが振動する。高分子電解質ゲルの一対の主面に個々に形成されている一対の電極層に電界が印加される。一対の電極層が一対の主面に個々に形成されている高分子電解質ゲルを拘束している振動膜が振動を伝播させる。このため、振動膜により大きな振動振幅を確保することができ、振動の周波数を所望により調節することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の第一の形態の高分子アクチュエータの構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図2】高分子アクチュエータの要部を示す模式的な縦断正面図である。
【図3】実施の第二の形態の高分子アクチュエータの構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図4】実施の第三の形態の高分子アクチュエータの構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図5】高分子アクチュエータの要部を示す模式的な縦断正面図である。
【図6】電気音響変換器を備える電子機器である携帯電話端末の外観を示す模式的な正面図である。
【図7】電気音響変換器を備える電子機器であるパーソナルコンピュータの外観を示す模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の第一の形態]
本発明の実施の第一の形態を図1および図2を参照して以下に説明する。図1は、本実施の形態の高分子アクチュエータを示す模式的な縦断正面図である。図2は、高分子アクチュエータの要部を示す模式的な縦断正面図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態の高分子アクチュエータは、振動膜1−a、この振動膜1−aの一方の面に固定された高分子電解質ゲル1−b、振動膜を固定支持する支持体1−c、電気を接続するリード線1−dを備えている。
【0026】
高分子電解質ゲル1−bは、振動を発生させる駆動源として機能しており、図2に示すように、上下主面が電極層2−a,2−cで拘束されている。高分子電解質ゲル2−bは、電場などによる外部刺激に対して刺激応答特性を有する材料である。
【0027】
すなわち、電界が印加されることにより、収縮と膨張を繰りかえし、電気エネルギを振動エネルギに変換する機能を持つ材料であり、以下のようなメカニズムで振動を発振させる。
【0028】
高分子電解質ゲル2−bは、三次元高分子の網目構造の中に、溶剤を含んだ状態の物質である。その特徴は、塩濃度、温度、電場、磁場、光などの外部刺激に対する刺激応答性を持っていることである。
【0029】
すなわち、ゲルが分子を基本単位とする三次元ネットワークにより構成されているため、分子間や高分子鎖間、ミクロドメイン間の構造変化を、種々のスケール形態に変換でき、この変化を集積させることで、力学エネルギーに変換できることを意味する。
【0030】
ところで、高分子電解質ゲルの電気応答性を示す例として、電気収縮と電気浸透がある。水を含有する高分子電解質ゲルに電極を接触させ、電圧を印加することで、ゲルは高分子鎖内に取り込んだ水を吐き出しながら異方性に収縮していく一方で、電圧の印加を停止すると、ゲルは水分を吸収により膨張し、再びもとの大きさに回復する機能を持っている。
【0031】
なお、この電気刺激による収縮は、すべての電解質ゲルに発現する現象であり、この電場におけるイオン性網目の電気収縮は、ゲル中の水分子の電気浸透による影響である。例えば、アニオン性高分子電解質ゲルの場合は、電圧を印加することで高分子イオンはアノードへ、その対イオンはカソードへ移動するが、高分子イオンは固定されているため、大部分は移動できないが、低分子対イオンはカソードへ移動する現象である電気泳動が生じる。
【0032】
すなわち、電極に達した対イオンは電気化学反応により打ち消され、水和していた水はカソード側で吐き出され、ゲルが縮んでいくものである。このメカニズムにそった、収縮と膨張を繰り返し、電気エネルギが振動エネルギに変換されるものである。
【0033】
本実施の形態の高分子アクチュエータにおいて、高分子電解質ゲル2−bは電界に対して刺激応答性を持つ高分子材料であれば、特に限定されないが、一例として、以下に示されるような、
【化1】

ポリ(Nーイソプロピルアクリルアミド)(以下、PNIPAと略す)などが使用できる。
【0034】
分子内に疎水基(イソプロピル基)と親水基(アミド基)を持つPNIPAは刺激応答性が高い材料として広く認知されている汎用材料であるため、コストや信頼性の観点で優位である。
【0035】
また、本実施の形態の高分子アクチュエータにおいて、高分子電解質ゲル2−bの厚みは特に限定されないが、その厚みが50μmであることが好ましい。厚みが50μm未満の場合は、厚みによるばらつきや、分子構造の構築に際に、極度に不安定な三次元ネットワークが形成され、充分な収縮が得られない課題がある。
【0036】
また、本発明の高分子電解質ゲル2−bに電界を発生させるために上下主面に電極層2−a,2−cを形成する。電極材料には電気伝導性を有する材料であれば特に限定されないが、金や銀、銀/パラジウムを使用することが好ましい。
【0037】
また、電極材料の厚みは特に限定されないが、厚み1〜50μであるのが好ましい。例えば、厚み1μmm未満では、膜厚が薄いため、電極上に均一に成形できない課題がある。
【0038】
これに対して、膜厚が100μmを超える場合は、成形が容易となるが、電極層2−a,2−cが拘束面となり、振動エネルギへの変換効率を低下させてしまう課題が生じる。なお、電極形成方法としては、スパッタリング法などが挙げられる。
【0039】
本発明の高分子電解質ゲル2−bは、振動膜1−aによって拘束されている。例えば、振動膜1−aは音波を伝播させる機能を有し、高分子電解質から収縮・膨張による振動が伝播することで音波を発生させ、高分子アクチュエータ自体が電気音響変換器としての機能を有する。
【0040】
また、この振動膜1−aには、落下時に衝撃安定性を高める機能と、高分子アクチュエータもしくは電気音響変換器の基本共振周波数を調整する機能を持つ。すなわち、振動膜1−aは弾性材料から構成されるため、落下時の衝撃エネルギを振動膜1−aで吸収することが可能であり、電気音響変換器の衝撃安定性が向上する。
【0041】
また、機械振動子の基本共振周波数は、以下の数式1で示されるように、
[数1]
f=1/2πL√(m・C) … 数式1
負荷重量と、コンプラインスに依存する。
【0042】
言い換えれば、コンプラインスは振動子の機械剛性であるため、このことは振動膜1−aの剛性を制御することで基本共振周波数を制御できることを意味する。例えば、弾性率の高い材料の選択や、材料の厚みを低減することで、基本共振周波数は低域にシフトさせることが可能となる。
【0043】
この一方で、弾性率の高い材料を選択することや、弾性材料の厚みを増加させることで基本共振周波数を高域にシフトさせることができる。基本構造の変更を伴わず、設計上の制約やコストに優位である。
【0044】
本実施の形態のように、構成部材である弾性材料を変更することで所望の基本共振周波数に容易に調整できることとから、工業上の価値は大きい。なお、振動膜1−aには、有機高分子材料など高い弾性率を持つ材料であれば特に限定されないが、加工性やコストの観点からポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリウエタンなどの汎用材料が使用される。
【0045】
また、振動膜1−aの厚みについては、5〜1000μmであることが好ましい。厚みが5μ未満の場合、機械強度が弱く、拘束部材として機能を損なうことや、加工精度による低下により、製造ロット間で振動子の機械振動特性のばらつきが生じてしまう課題がある。
【0046】
また、厚みが1000μmを超える場合は、剛性増による高分子電解質ゲル2−bへの拘束が強まり、振動変位量の減衰を生じさせてしまう課題がある。また、本実施の形態の弾性材料は、材料の剛性を示す指標である縦弾性係数が、1〜500GPaであることが好ましい。上述のように、弾性材料の剛性が過度に低い場合や、過度の高い場合は、機械振動子として特性や信頼性を損なう課題がある。
【0047】
本実施の形態では、振動膜1−aは支持体1−cに接合している。支持体1−cは高分子アクチュエータのケースとしての役割を果たす。支持体1−cの材質は、金属や樹脂、さらには、金属と樹脂との複合材料などの何れの材質も使用できるが、振動膜1−aから振動エネルギを効率よく伝播させるためには、伝達振動量に対してある程度の剛性を持つ材料であることが好ましい。
【0048】
以下に本実施の形態の高分子アクチュエータの動作原理を説明する。本実施の形態の高分子アクチュエータは、高分子電解質ゲル2−bに電気信号を印加と停止を繰り返し、収縮と膨張を利用している。
【0049】
上述のように、高分子電解質ゲル2−bに電気刺激を与えることで、収縮・膨張による可逆的で連続的な屈曲運動が発生する。この屈曲運動を振動膜1−aに伝播し、振動振幅や音波を発生させるものが、本実施の形態の高分子アクチュエータもしくは電気音響変換器の動作原理である。
【0050】
このように、本実施の形態の高分子アクチュエータでは、振動膜1−a、及び高分子電解質ゲル2−bから駆動源が構成されるため、従来使用されている磁気回路からなる動電型電気音響変換器に比べて小型化で優位となる。
【0051】
本実施の形態の高分子アクチュエータは、上述のように電界が印加されることにより膜状の高分子電解質ゲル1−bが振動し、一対の電極層が一対の主面に個々に形成されている高分子電解質ゲル1−bを拘束している振動膜1−aが振動を伝播させる。
【0052】
このため、振動膜1−aにより大きな振動振幅を確保することができる。従って、前述した特許文献1のアクチュエータに比較して、省電力に大音量の音波を発生させることができる。しかも、振動の周波数を所望により調節することも容易である。従って、前述した特許文献1とは相違して、所望の音階の音波を発生させることができる。
【0053】
また、駆動源の構成部材が、金属やセラミックスに比べて内部損失の大きい樹脂材料で構成されることから、圧電型電気音響変換器に比べて、機械品質係数Qが低く、平坦な振幅周波数特性を実現できる点で優位となる。
【0054】
また、この高分子アクチュエータを電気音響変換器の駆動源に利用した場合、構成部材が柔軟性の高い樹脂材料である点から、製造時の機械加工も容易であり、製造コストの点でも従来の電気音響変換器に比べて、優位である。
【0055】
さらに、樹脂材料で構成されていることから、落下時の衝撃安定性についても優位となる。以上のように、本実施の形態の高分子アクチュエータ、もしくは電気音響変換器は、小型で高音質を実現できる上に、携帯電話へ容易に搭載可能であることから、工業価値は大きい。
【0056】
なお、本実施の形態に係る高分子アクチュエータを利用した電子部品、例えば電気音響変換器は、図6および図7に示すように、電子機器(例えば、携帯電話機、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、小型ゲーム機器など)の音源としても利用可能である。上述のように、小型高音質で高い信頼性を有することから、携帯型の電子機器に対して好適に利用することが可能である。
【0057】
[実施の第二の形態]
本発明の実施の第二の形態を、図3を参照して以下に説明する。本実施の形態では、第一の実施形態に対して、弾性部材5−eを新たに配置していることが特徴である。なお、支持体5−c、リード線5−d、は第一の形態と同様である。
【0058】
すなわち、振動膜5−aと、高分子電解質ゲル5−bとの間に弾性部材5−eが介在することで、高分子アクチュエータとして好適な基本共振周波数への調整を、容易に可能としている。
【0059】
例えば、電気音響変換器を考慮した場合、従来、音楽再生などの再生には、100〜20kHzの周波数帯域が使用されている。このため、電気音響変換器の基本共振数は帯域間での音圧レベル差を防止するために、約1kHz近傍に調整されている。
【0060】
通常、機械振動子の基本共振周波数は、前述の「数式1」のように、剛性と不可重量に依存するため、ヤング率の小さい樹脂材料で構成される本発明の電気音響変換器では、必然的に低周波数にシフトしてしまう課題がある。
【0061】
そこで、振動膜と高分子電解質ゲルとの間に弾性部材を介在させることで、剛性を強化し、所望の基本共振周波数への調整が可能となる。なお、弾性材料には、金属や樹脂金属複合材料など、高分子電解質ゲルに対して高いヤングを持つ材料であれば特に限定されないが、加工性やコストの観点からリン青銅やステンレスなどの汎用材料が使用される。
【0062】
また、弾性材料の厚みについては、5〜1000μmであることが好ましい。厚みが5μ未満の場合、機械強度が弱く、拘束部材として機能を損なうことや、加工精度による低下により、製造ロット間で振動子の機械振動特性のばらつきが生じてしまう課題がある。
【0063】
また、厚みが1000μmを超える場合は、剛性増による圧電素子への拘束が強まり、振動変位量の減衰を生じさせてしまう課題や、基本共振周波数が増大してしまう課題がある。
【0064】
また、本実施の形態の弾性材料は、材料の剛性を示す指標である縦弾性係数が、1〜500GPaであることが好ましい。上述のように、ヤング率の過度に低い場合や、過度の高い場合は、機械振動子として特性や信頼性を損なう課題がある。
【0065】
このように、本実施の形態によれば、高分子電解質ゲルと振動膜との間に弾性材料を介在させることで、音響変換器に好適な基本共振周波数へ容易に調整でき、高音質の音声の再生が可能となる。
【0066】
上述のように構成された高分子アクチュエータでは、駆動源が電場の状態に応じて屈曲運動を行う高分子電解質ゲル材料で構成されているため、磁気回路で構成される動電型電気音響変換器と比較して、小型な変換器が実現できる。
【0067】
すなわち、駆動源自体が内部損失の高い高分子電解質ゲル材料で構成されるため、アクチュエータ自体の機械品質係数Qが低く、共振周波数近傍での振幅ピークが小さく、周波数振幅特性幅の山谷がない平坦な周波数特性が実現できる。
【0068】
また、共有結合で架橋された基本構造を持つ高分子電解質ゲルは化学的に安定であるため、これを駆動源に用いた高分子アクチュエータは高い信頼性を有する。さらに、高分子電解質ゲルは、広義では固体分散媒のコロイドであるため、柔軟性が高く、粘性も高いため、落下時の衝撃安定性にも強い。
【0069】
また、寒天に代表されるような粘性固体であるため、形状加工も容易である。このため、高い信頼性を持つ低コストである高分子アクチュエータが実現できる。さらに、この高分子アクチュエータを電子部品の駆動源、電気音響変換器に利用することで、小型で高音質な電気音響変換器が実現できる。
【0070】
以上、本実施の形態に係る高分子アクチュエータ及び電気音響変換器は、図6および図7に示すように、電子機器(例えば、携帯電話機、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、小型ゲーム機器など)の音源としても利用可能である。電気音響変換器全体の形状が大幅に増加せず、音響特性が向上することから、携帯型の電子機器に対しても好適に利用することが可能である。
【0071】
[本発明の実施の第三の形態]
本発明の第三の実施形態について図4を参照して以下に説明する。本実施の形態の高分子アクチュエータは、二つの高分子電解質ゲル6−b1,6−b2が振動膜6−aの上下主面を拘束している。なお、支持体6−c、リード線6−d、は第一の形態と同様である。
【0072】
すなわち、二つの高分子電解質ゲル6−b1,6−b2の屈曲運動を利用することで、振動膜6−aの振動量が増幅するものである。本実施の形態の高分子アクチュエータでは、高分子電解質ゲル6−b1,6−b2を同相となるように駆動させることで、図5のように、二つの高分子電解質ゲル7−b1,7−b2から発生する振動が干渉し、振動膜7−aの振動量が増幅するものである。
【0073】
従って、本実施の形態は、振動子の形状を大幅に増大させることなく、振動量を増加できる点で優位である。以上、本実施の形態に係る高分子アクチュエータ及び電気音響変換器は、図6および図7に示すように、電子機器(例えば、携帯電話機、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、小型ゲーム機器など)の音源としても利用可能である。電気音響変換器全体の形状が増加せず、音響特性が向上することから、携帯型の電子機器に対しても好適に利用することが可能である。
【0074】
[発明の実施例1]
本発明の高分子アクチュエ−タの効果を実証するために、下記実施例の電気音響変換器を作製し、その特性評価を、以下、評価1〜評価3の評価項目で行った。
【0075】
(評価1)
音圧レベル周波数特性の測定:交流電圧1V入力時の音圧レベルを、素子から所定距離だけ離れた位置に配置したマイクロホンにより測定した。なお、この所定距離は、特に明記しない限り10cmであり、周波数の測定範囲は10Hz〜10kHzとした。
【0076】
(評価2)
音圧レベル周波数特性の平坦性測定:交流電圧1V入力時の音圧レベルを、素子から所定距離だけ離れた位置に配置したマイクロホンにより測定した。周波数の測定範囲は10Hz〜10kHzとし、2kHz〜10kHzの測定範囲において、最大音圧レベルPmaxと最小音圧レベルPminとの音圧レベル差により、音圧レベル周波数特性の平坦性を測定した。
【0077】
その結果、音圧レベル差(最大音圧レベルPmaxと最小音圧レベルPminとの差のことを指す)が20dB以内を○とし、20dB以上を×とした。この所定距離は、特に明記しない限り10cmである。
【0078】
(評価3)
落下衝撃試験:電気音響変換器を搭載した携帯電話を50cm直上から、5回自然落下させ、落下衝撃安定性試験を行った。具体的には、落下衝撃試験後の割れ等の破壊を目視で確認し、さらに、試験後の音圧特性を測定した。その結果、音圧レベル差(試験前の音圧レベルと試験後の音圧レベルとの差のことを指す)が3dB以内を○とし、3dB以上を×とした。
【0079】
[実施例1]
本発明の第一の実施の形態で記載した高分子アクチュエータからなる電気音響変換器の特性評価を実施した。評価結果は以下の通りである。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :80dB
音圧レベル(3kHz) :81dB
音圧レベル(5kHz) :82dB
音圧レベル(10kHz) :83dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃安定 :○
【0080】
上記の結果より明らかなように、本実施例の電気音響変換器によれば、音圧レベル周波数特性は平坦であり、大音量の再生が可能であり、高い信頼性を有することが実証された。
【0081】
[比較例1]
比較例1として、従来の動電型電気音響変換器を作製した。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :77dB
音圧レベル(3kHz) :75dB
音圧レベル(5kHz) :76dB
音圧レベル(10kHz) :97dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :×
落下衝撃安定 :×
【0082】
[発明の実施例2]
実施例2として、実施の第二の形態の高分子アクチュエータからなる電気音響変換器を作成した。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :85dB
音圧レベル(3kHz) :87dB
音圧レベル(5kHz) :84dB
音圧レベル(10kHz) :86dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃安定 :○
上記の結果より明らかなように、本実施例の電気音響変換器によれば、実施例1と同等の特性を有しており、音圧レベル周波数特性は平坦で、高い信頼性を有する。
【0083】
[発明の実施例3]
実施例3として、第三の実施形態の高分子アクチュエータからなる電気音響変換器を作成した。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :87dB
音圧レベル(3kHz) :91dB
音圧レベル(5kHz) :88dB
音圧レベル(10kHz) :86dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃安定 :○
上記の結果より明らかのように、本実施例の電気音響変換器によれば、実施例1と同等の特性を有しており、音圧レベル周波数特性は平坦で、高い信頼性を有する。
【0084】
[発明の実施例4]
実施例4として、図6に示すような携帯電話機を用意し、この筐体内に実施例1の電気音響変換器を搭載した。具体的には、携帯電話機の筐体内側面に、電気音響変換器を貼り付ける構成とした。
【0085】
(評価):素子から10cm離れた位置に配置したマイクロホンにより、音圧レベルと周波数特性とを測定した。また、落下衝撃試験も行った。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :81dB
音圧レベル(3kHz) :82dB
音圧レベル(5kHz) :84dB
音圧レベル(10kHz) :80dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃試験 :5回落下後においても圧電素子の割れは見られず、試験後、音圧レベル(1kHz)を測定したところ84dBであった。
【0086】
[発明の実施例5]
実施例5として、図6に示すような携帯電話機を用意し、この筐体内に実施例2の電気音響変換器を搭載した。具体的には、携帯電話機の筐体内側面に、電気音響変換器を貼り付ける構成とした。
【0087】
(評価):素子から10cm離れた位置に配置したマイクロホンにより、音圧レベルと周波数特性とを測定した。また、落下衝撃試験も行った。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :81dB
音圧レベル(3kHz) :84dB
音圧レベル(5kHz) :87dB
音圧レベル(10kHz) :83dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃試験 :5回落下後においても圧電素子の割れは見られず、試験後、音圧レベル(1kHz)を測定したところ78dBであった。
【0088】
[発明の実施例6]
実施例6として、図6に示すような携帯電話機を用意し、この筐体内に実施例3の電気音響変換器を搭載した。具体的には、携帯電話機の筐体内側面に、電気音響変換器を貼り付ける構成とした。
【0089】
(評価):素子から10cm離れた位置に配置したマイクロホンにより、音圧レベルと周波数特性とを測定した。また、落下衝撃試験も行った。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :81dB
音圧レベル(3kHz) :82dB
音圧レベル(5kHz) :85dB
音圧レベル(10kHz) :80dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃試験 :5回落下後においても圧電素子の割れは見られず、試験後、音圧レベル(1kHz)を測定したところ78dBであった。
【0090】
[発明の実施例7]
実施例7として、図7に示すようなラップトップPC(Personal Computer)を用意し、この筐体内に実施例1の電気音響変換器を搭載した。具体的には、携帯電話機の筐体内側面に、電気音響変換器を貼り付ける構成とした。
【0091】
(評価):素子から10cm離れた位置に配置したマイクロホンにより、音圧レベルと周波数特性とを測定した。また、落下衝撃試験も行った。
〔結果〕
音圧レベル(1kHz) :79dB
音圧レベル(3kHz) :81dB
音圧レベル(5kHz) :84dB
音圧レベル(10kHz) :80dB
音圧レベル周波数特性の平坦性 :○
落下衝撃試験 :5回落下後においても圧電素子の割れは見られず、試験後、音圧レベル(1kHz)を測定したところ78dBであった。
【0092】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。また、当然ながら、上述した実施の形態および複数の実施例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0093】
1−a 振動膜
1−b 高分子電解質ゲル
1−c 支持体
1−d リード線
2−a 上部電極層
2−b 高分子電解質ゲル
2−c 下部電極層
5−a 振動膜
5−b 高分子電解質ゲル
5−c 支持体
5−d リード線
5−e 弾性部材
6−a 振動膜
6−b1 高分子電解質ゲル
6−b2 高分子電解質ゲル
6−c 支持体
6−d リード線
7−a 振動膜
7−b1 高分子電解質ゲル
7−b2 高分子電解質ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界が印加されることにより振動する膜状の高分子電解質ゲルと、
前記高分子電解質ゲルの一対の主面に個々に形成されていて前記電界が印加される一対の電極層と、
一対の前記電極層が前記一対の主面に個々に形成されている前記高分子電解質ゲルを拘束していて前記振動を伝播させる振動膜と、
を有する高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記振動膜の両端を固定する支持体を、さらに有する請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記振動膜と前記高分子電解質ゲルとの間に弾性部材が介在する請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
前記振動膜が一対の主面の両方で一対の前記高分子電解質ゲルを個々に拘束している請求項1ないし3の何れか一項に記載の高分子アクチュエータ
【請求項5】
前記振動膜が、樹脂からなる請求項1ないし4の何れか一項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項6】
前期振動膜が、音波を放射する音響振動膜である請求項1ないし5の何れか一項に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の前記高分子アクチュエータを備える電気音響変換器。
【請求項8】
請求項7に記載の電気音響変換器を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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