説明

高分子化合物を生産する微生物の培養装置及び培養方法

【課題】高分子化合物の通気攪拌培養による製造において、高分子化合物の蓄積に伴う培養液粘度の上昇に起因する酸素供給能力の低下の問題を解決する微生物の培養装置及び培養方法を提供する。
【解決手段】γ−PGAなどの高分子化合物を生産する微生物を含む培養液に酸素を供給して培養する培養装置1において、培養装置1内に培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気手段6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養中における培養液の高粘度化にともなう酸素供給能力の低下を軽減し、高分子化合物、例えばポリ−γ−グルタミン酸などの高分子を生産する能力を有する微生物(以下「γ−PGA生産菌」という。)を用いて、高分子量ポリ−γ−グルタミン酸(以下「γ−PGA」と言う)を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物、例えばγ−PGAは、バチルス(Bacillus)属細菌が生産する蛋白質であって、近年、食品、医薬品、化粧品、水質浄化などの多くの分野で機能性素材として利用されている。
【0003】
ところが、工業的な製造に好適な液体培養でγ−PGAを生産する場合、特に分子量300万以上の高分子量γ−PGAを生産しようとする場合、培養液中に産生するγ−PGAの高分子量化および/または高濃度化によって培養液の粘度が上昇し、培養液と空気の接触が不均一となって、生産が停止または不安定化する事が問題で、このことが、高分子量γ−PGAの工業的生産の障害となっていた。
【0004】
この培養液の粘度の上昇による問題を解決する方法として、先ず培養装置においてディスクタービン羽根のような攪拌羽根の攪拌速度を上げて酸素供給効率を上げ培養液を均質に保持しようとする試みがある。しかしこの方法による培養液の攪拌は、剪断力によりγ−PGAの分子鎖の切断等のダメージを受けるため、攪拌速度を抑えなければならない。すなわち、攪拌速度の強化は培養中の培養液の高粘度化に対応できる手段とはならない。従って、高分子量γ−PGAの生産は困難であった。
【0005】
次に、ステンレスメッシュのスパージャーのような、一般的に用いられるリングスパージャーに比べ微細気泡を形成し酸素供給効率のよい酸素供給装置の利用の試みがある。この方法は、低粘度下では微細気泡を形成するものの高粘度下では微細気泡を形成できないので酸素供給能力低下の軽減ができず、培養液の高粘度化に対応できない。
【0006】
さらに、培養装置に通気する空気の酸素分圧を増加させる試みがある。この場合、先に述べた高粘度下で攪拌速度が抑えられ、かつ微細気泡が形成できない環境下ではその目的を充分達成できない。
【0007】
一方、γ−PGAを微生物により液体培養で製造することは、特許文献1〜4などに開示されているが、製造されるγ−PGAの分子量は数千〜200万程度であった。これは、先に述べた培養液の高粘度化の問題を避け著量のγ−PGAを生産する有効な一手段であったが、結果的に高分子量のγ−PGAを製造できない。
【0008】
ところで、γ−PGA生産菌の中でも食経験があって安全・安心な納豆製造に供する納豆菌(Bacillus subtilis natto)のγ−PGAは、その分子量が数百から500万程度と他のγ−PGA生産菌に比べ高分子量であり、その有用性が期待できる。しかし、高分子量であるため先に述べた培養液の高粘度化がもたらす技術上の困難さが顕著である。例えば、比較的少量の3リットル以下の培養容量の場合に比べて300リットル以上の培養容量の場合にはその生産性が格段に不安定で、100リットルを超す培養容量で納豆製造に供する納豆菌のγ−PGAを製造した報告はなく、結果的にγ−PGAのような消費者により身近で安心感を与え且つ高分子量のγ−PGAを得る機会を逃している。
【0009】
また、γ−PGAの生産以外、例えばバイオセルロース、キサンタンガム、プルラン、デキストラン、フラクタン及びレバンなどの生産における微生物の培養においても、その培養液の粘度が上昇する場合、培養液への酸素の供給に関する同様の問題が発生し有用な生産物の製造が制限される。
【特許文献1】特開昭43−24472号公報
【特許文献2】特開平01−174397号公報
【特許文献3】特開平03−47087号公報
【特許文献4】特許第3081901号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が目的とするところは、高分子化合物の通気攪拌培養による製造において、高分子化合物の蓄積に伴う培養液粘度の上昇に起因する酸素供給能力の低下の問題を解決し、また、通気攪拌培養によるγ−PGAの製造において、γ−PGAの蓄積に伴う培養液粘度の上昇に起因する酸素供給能力の低下の問題を解決し、平均分子量300万以上の高分子量γ−PGAを収率良くかつ安定して製造することができる高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養装置及び培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、γ−PGA生産菌を液体培養する際に観察される培養液粘度の上昇に伴うγ−PGA産生の停止または不安定化を、高粘度条件下での酸素供給能力の低下を軽減することによって防止できるという新たな知見に基づくものである。
【0012】
前記の知見から、本発明は、高分子化合物を生産する微生物を含む培養液に酸素を供給して培養する培養装置において、前記培養装置内に培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養装置は、培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気手段を備え、分子量300万以上の高分子量γ−PGAを生産することを特徴とする。
【0014】
本発明の高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養方法は、高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養液に酸素を供給して分子量300万以上の高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養方法において、培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、培養の経過と共に培養液の粘度が上昇する条件下であっても酸素を含む気体の微細気泡を形成する酸素供給装置または高粘度流体の散気装置と攪拌羽根を備えた攪拌装置を組み合わせることで攪拌の剪断力による高分子量γ−PGAのダメージを低減し酸素を効率的に供給することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いた納豆製造に供する納豆菌の培養では、高粘度条件下での酸素供給能力の低下を軽減させることにより、1000ミリパスカル秒(mPa・s)以上の粘度を示す培養液条件下においても、安全性が高く且つ平均分子量300万以上の高分子量γ−PGAを対培養液当たり2%以上の回収率で得ることができ、従来の方法に比べて収率よくかつ安定して製造することが可能となる。これは、ファーメンターで一般的に用いられるリングスパージャーを用いて培養した場合に比べ約2.3倍の生産量である。加えて、従来のγ−PGAは分子量が約100万以下のものが大半であり、高分子量であることによる新たな機能または公知の機能の強化が期待される。従って、本発明は、γ−PGAの化粧品、食品、医療関係品等への用途を拡大させるものであり、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明が対象とするγ−PGA生産菌は、特に限定されるものではないが、特に、市販の納豆製造に供される納豆菌が好ましい。納豆の製造に用いられる代表的な納豆菌は、宮城野菌、高橋菌、成瀬菌、旭川菌、松村菌などであるが、γ−PGAの生産に供する菌株はこれらのいずれでもよく、任意のタイプカルチャー(例えばIFO3009、IFO3013、IFO3336、IFO3936、IFO13169、ATCC7058、ATCC7069、ATCC15245)を用いてもよい。また、市販納豆から公知の手法(納豆試験法研究会、納豆試験法、pp.65−73、 光琳 (1990))によって選択した高粘性発現株でもよい。
【0018】
加えて、納豆菌以外であってもγ−PGAを生産する菌であればいかなるものでもよく、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtillis)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)などのバチルス属細菌やキサントバクター(Xanthobacter)、マイコバクテリウム・チュバクロセス(Mycobaterium tuberculosis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などでもよい。
【0019】
また、前記の菌から公知の各種変異処理法を用いて得られる変異株を用いることができる。変異処理法としては紫外線照射法、エックス線照射法、薬品の接触などが挙げられる。
【0020】
本発明の培養装置に、γ−PGA生産菌を培養するか、または該装置にγ−PGA生産菌の培養液を一定期間保持することで目的が達成できる。高粘度条件下での酸素供給能力低下を軽減させる通気手段は、該条件下において酸素を含む気体の微細気泡を形成する能力を有している酸素供給装置(例えば、特開2001−000890号公報、特開2002−045667号公報参照)または高粘度流体の散気装置であれば使用できる。
【0021】
さらに、通気手段を備える培養装置は、微生物を純粋培養する性能を有している培養装置、または純粋培養した培養液を無菌的に保持可能な容器であれば使用できる。培養装置に通気する空気の酸素分圧は、培養液の粘度に応じて任意に変更することができる。
【0022】
また、γ−PGA生産菌の培養液培養で分子量300万以上のγ−PGAを製造するか、または300万以下のγ−PGAを高濃度に蓄積し培養液粘度が1000ミリパスカル秒(mPa・s)以上となる場合であれば本発明を使用できる。加えて、本発明によるγ−PGAの製造は、好適には納豆製造に供する納豆菌の培養液培養による分子量300万以上の高分子量γ−PGAの製造に使用される。
【0023】
本発明は、γ−PGAの製造の他に、培養液の粘度が高くなる高分子化合物の製造、例えば、(1)バイオセルロースの生産(生産菌:アセトバクター キシリナム サブスピーシーズ シュクロファーメンタンス(Acetobacter xylinum subsp. Sucrofermentans)、アセトバクター キシリナム(Acetobacter xylinum)ATCC23768、ATCC23769、ATCC14851、ATCC11142、ATCC10821、アセトバクター パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)ATCC10245などの酢酸菌、アグロバクテリウム属、アゾトバクター属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属、ズーグレア属など)、(2)キサンタンガムの生産(生産菌:ザントモナス カンペストリス(Xanthomonas campestris)など)、(3)プルランの生産(生産菌:アウレオバシディウム プルランス(Aureobasidium pullulans)など)、(4)デキストランの生産(生産菌:リューコノストック メゼンテロイデス( Leuconostoc mesenteroides)など)、(5)フラクタン及びレバンの生産(生産菌:バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス サブチルス ナットウ(Bacillus subtilis natto)などのバチルス(Bacillus)属、ラーネラ アクアティリス(Rahnella aquatilis)、ザイモモナス モビリス(Zymomonas mobilis)、シュードモナス オーランチアカ(Pseudomonas aurantiaca)、グルコノバクター オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、エアロバクター レバニカム(Aerobacter levanicum)、コリネバクテリウム レバニフォルマンス(Corynebacterium laevaniformans)、エルウィニナ アミロボーラ(Erwinia amylovora)、ストレプトコッカス サリバリウス(Streptococcus salivarius)、アセトバクター(Acetobacter)属、アスペルギルス(Aspergillus)属など)に応用することができる。
【0024】
図1は本発明の培養装置の一例を示す概略図である。
【0025】
培養液を収納する容器(ファーメンター)1の上部には、培養液を容器1内に供給する蓋2a付きの培養液供給口2、容器内に供給された空気を排出する排気口3、培養液を攪拌するためモータMで回転する攪拌羽根4、容器1の温度を一定に維持するため熱交換媒体が流れるジャケット5が設けられている。容器内には攪拌羽根4の下方に空気を供給する通気手段として循環流発生装置6が配設される。循環流発生装置6には、コンプレッサー8から高圧空気が配管7を通して供給される(図2参照)。
【0026】
図2は本発明で使用する通気手段の一例である循環流発生装置を示し、(a)はパイプの縦断面図、(b)は気体吹き込み孔部分の横断面図、(c)は培養液放出口部分の縦断面図、(d)は循環流発生装置の高圧空気供給の経路を示す図である。
【0027】
図2(a)において、循環流発生装置6のパイプ11内には流路12が形成され、流路12の一端には培養液放出口13が錐台形状に末拡がりに形成され、他端には培養液吸い込み口14が形成されている。
【0028】
また、パイプ11の下部には、複数の気体吹き込み孔15が形成される。気体吹き込み孔15は、パイプ11の垂直断面においては、流路12における培養液の進行方向(矢印a方向)に対して、鋭角に(角度θ1で)斜向するように設けられる。そして、さらに気体吹き込み孔15は、図2(b)に示すように、パイプ11の水平断面においては、流路12の壁面の接線方向に形成される。
【0029】
循環流発生装置6では、酸素を含む高圧気体が、矢印bに示すように、気体吹き込み孔15を通じて、流路12に吹き込まれると、気泡となって流路12の壁面に沿って、旋回しながら上昇する。培養液は、このような気泡の旋回流に巻き込まれ、エジェクタ効果によって、培養液吸込み口14から吸込まれて、旋回流と混合し流路12を流れ、気体吹き込み孔15から吹込まれた気体と混合されて、流路12を流れ、培養液放出口13から放出される。その結果、矢印cに示すような気液混合循環流が発生する。
【0030】
培養液吸い込み口14から培養液放出口13に至るまでの流路12は、一定半径を持つ円筒状になっているが、流路12に連続する培養液放出口13は、末拡がりの形状をしている。そのため、流路12を高エネルギー状態で流れてきた培養液の圧力が急激に低下し、強力な剪断力が発生することで、培養液に含まれていた気泡は、剪断力により分断され、培養液と気泡の接触面積が拡大し、吹き込まれた気体(酸素)の溶解が加速されることとなる。
【0031】
気体吹き込み孔15の角度θ1は、10度以上80度以下の範囲に設定する。この範囲で旋回流が最も激しくなり、10度より小さい角度、または、80度より大きい角度では、いずれも旋回流が不十分となる。なお、θ2=90−θ1である。また、気体吹き込み孔15は、パイプ11の水平断面においては、壁面の接線方向に形成される。このように、流路12の壁面の接線方向に形成した場合が、最も強力な旋回流を発生させることができる。なお、気体吹き込み孔15の数は、3〜8個程度とするが、必要に応じて適宜増減してよい。
【0032】
以上のようにして形成された気体吹き込み孔15から吹き込まれた高圧気体は、気泡となって、流路12の壁面に沿って旋回しながら上昇し、培養液吸い込み口14から培養液を吸込む。吸込まれた培養液は、旋回しながら気泡と混合されて上昇し、末拡がりとなるように設けられた培養液放出口13に到達したところで、強力な剪断応力がおこり、気泡が、より微細な気泡に分断されることとなる。ここで、気体吹き込み孔15から流路12へ吹き込む高圧気体の圧力は、概ね0.1〜10kgf/平方メートルの範囲が適切である。なお、高圧気体は培養に必要な空気、酸素である。
【0033】
図2(c)において、流路12と培養液放出口13との接続点Aにおいて、培養液放出口13の曲面に接する接線dが形成する角度λを、培養液放出口13の開き角とする。培養液放出口13の開き角λは、50度以上70度以下が最も好ましい。そうでない場合でも、開き角λは、30度以上が好ましい。30度未満では、吹き込まれた高圧気体によって生じた気泡を微細化できなくなり、また、開き角λは、90度より大きくなると、気泡を微細化できなくなる。
【0034】
パイプ1の下端はホルダ16と接続され、ホルダ16は、垂直断面においては、矩形状になっており、その内部には、空洞17が形成される。また、ホルダ16の下部内面には、パイプ11の外形に即した孔が形成される。さらに、その孔からホルダ16の外部まで貫通するように、培養液吸い込み口14が形成される。また、ホルダ16の側部には、コンプレッサ8から空洞17へ配管7を通して高圧空気を吹き込む。
【実施例1】
【0035】
本実施例は納豆製造に供される納豆菌を図2に示す循環流発生装置を備えた500リットル培養容量の培養装置で培養したものである。比較例は図4に示す従来のリングスパージャーを備えた従来の500リットル培養容量の培養装置で培養した例を示す。なお、図4に示す培養装置は、図1に示す。容器1に循環流発生装置6でなく空気供給のために多数の空気噴出孔を有するリング状のリングスパージャー18を配置したもので、図1と同一部材に同一符号を付してその説明は省略する。
【0036】
培養に用いた培養液の培地組成は重量/容量として、グルタミン酸ナトリウム5.0%、塩化ナトリウム0.05%、リン酸水素2ナトリウム12水0.42%、リン酸2水素カリウム0.27%、グルコース2.0%、硫酸マグネシウム7水0.05%、ビオチン1.0ppmからなる。循環流発生装置を備えたファーメンターに培養液400Lを投入し121℃で30分間殺菌した。これに、市販の食用納豆菌を10cfu/ミリリットルに成るように接種し、通気量0.6vvm、攪拌速度80rpm、培養温度40℃で80時間培養した。
【0037】
なお、培養液の見掛け粘度は、B型粘度計にてNo.2ローター又はNo.3ローターを使用し、測定回転数30rpm、測定温度20℃で測定した。また、見掛け粘度が1000ミリパスカル秒(mPa・s)未満ではNo.2ローターでの測定値をそのまま採用し、1000ミリパスカル秒(mPa・s)以上ではNo.3ローターの測定値を予め求めたNo.2ローター測定値とNo.3ローターの測定値の回帰式によりNo.2ローターでの値に換算して示した。
【0038】
その結果、従来のリングスパージャーを備えたファーメンターでは、図3の△で示すように、培養45時間目に培養液の見掛け粘度は1000ミリパスカル秒(mPa・s)に達したが、それ以降粘度の上昇が停止しγ−PGAの生産が停止した。これに対して、循環流発生装置を備えた本発明によるファーメンターでは、図3の○で示すように、その後も見掛け粘度が上昇し培養76時間目で3500ミリパスカル秒(mPa・s)に達した。
【0039】
本実施例で製造した培養液から公知の方法であるアルコール沈澱によりγ−PGAを回収した例を示す。アルコール沈澱したγ−PGAを真空乾燥して9.1kgの白色ペレットを得た。この白色ペレットの純度は90%以上であった。また、分離カラムとしてTSK−GEL GMPW(7.8×300mm)を装着した高速液体クロマトグラフにて、移動相に50mMリン酸ナトリウム緩衝液を用い紫外部214nmで分子量を測定した結果、分子量は300万であった。
【0040】
表1に、本発明で食用納豆菌を培養した場合と、従来のリングスパージャーにて培養した場合の培養液粘度とγ−PGA生産量および得られたγ−PGAの平均分子量の比較を示す。
【表1】

【0041】
表1から、本発明によるγ−PGAの生産量が、従来のリングスパージャーにて培養した場合に比べて優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、γ−PGAの化粧品、食品、医療関係品等への用途を拡大させるものであり、また、微生物生産する高分子物質の培養生産にも応用可能である。
【0043】
また、本発明は、微生物より生産される高分子物質の製造において、その培養液の粘度の上昇に伴う酸素の供給能力の低減により、高分子物質の生産が抑制される場合において効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の培養装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明で使用する通気手段である循環流発生装置を示す図である。
【図3】本発明と従来例の培養液粘度の経時変化を示す図である。
【図4】従来の培養装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1:容器
2:培養液供給口
3:排気口
4:攪拌羽根
5:ジャケット
6:循環流発生装置
7:配管
8:コンプレッサー
11:パイプ
12:流路
13:培養液放出口
14:培養液吸い込み口
15:気体吹き込み孔
16:ホルダ
17:空洞
18:リングスパージャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物を生産する微生物を含む培養液に酸素を供給して培養する培養装置において、前記培養装置内に培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気手段を備えていることを特徴とする高分子化合物を生産する微生物の培養装置。
【請求項2】
ポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物を含む培養液に酸素を供給して培養する培養装置において、前記培養装置内に培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気手段を備え、分子量300万以上の高分子量ポリ−γ−グルタミン酸を生産することを特徴とする高分子量ポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物の培養装置。
【請求項3】
通気手段が、培養液中に酸素を含む気体の微細気泡を形成させる装置であることを特徴とする請求項2記載の高分子量ポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物の培養装置。
【請求項4】
高分子量ポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物の培養液に酸素を供給して分子量300万以上の高分子量γ−PGAを生産する微生物の培養方法において、培養液の粘度の上昇によって生じる酸素供給能力の低下を軽減させる通気を行うことを特徴とする高分子量ポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物の培養方法。
【請求項5】
培養液中に酸素を含む気体の微細気泡を形成させることを特徴とする請求項4記載の高分子量γ−PGAポリ−γ−グルタミン酸を生産する微生物の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−34235(P2006−34235A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222133(P2004−222133)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(591027927)福岡県醤油醸造協同組合 (11)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(504290192)
【Fターム(参考)】