高分子化合物結晶化促進装置
【課題】タンパク質などの高分子化合物の結晶化を促進して、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようにするとともに、結晶化の効率を向上させてその歩留まりを高める。
【解決手段】高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、上記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段とを有し、上記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列や照射強度が制御されたパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射する。
【解決手段】高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、上記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段とを有し、上記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列や照射強度が制御されたパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物結晶化促進装置に関し、さらに詳細には、高分子化合物としてタンパク質の結晶化を促進する際に用いて好適な高分子化合物結晶化促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトを含む多くの生物種のDNA塩基配列の解読が急速に進み、これら大量のゲノム配列情報から抽出される膨大な数の遺伝子について、個々の遺伝子にコードされるタンパク質の立体構造を明らかにして、機能との関係を解明することが重要な課題となってきている。
【0003】
こうしたタンパク質の立体構造を明らかにする構造ゲノム科学における構造解析の対象となるタンパク質は、ヒトの遺伝子に関して言えば約10万種類ほどにおよび、その数は極めて多い。
【0004】
ここで、タンパク質の立体構造は、千種類から数千種類の基本構造単位の組み合わせから形成されており、その組み合わせによって機能の多様性が実現されていると考えられている。このため、これら基本構造単位を全て解明することにより、タンパク質の構造と機能の関係を明らかにすることを目標とした体系的・網羅的な構造解析の研究が鋭意進められている。
【0005】
一般に、体系的・網羅的な構造解析の研究を効率的に進めていくためには、その構造解析における各工程を高速化・自動化することが要求される。
【0006】
特に、タンパク質は、変性、分解あるいは吸着などにより失活あるいは損失するものであるため、目的とするタンパク質試料を調製するに際しては、これらの損失を避けながら、できるだけ短時間に効率良く一連の操作を行うことが望ましいものであり、構造解析における各工程の高速化・自動化は火急の課題となっている。
【0007】
ところで、タンパク質の構造解析の手法の一つとしてX線法が知られているが、このX線法においては、目的とするタンパク質を精製・濃縮した後に結晶化し、その結晶化したタンパク質を測定用試料として用いるため、タンパク質の結晶化を短時間かつ高効率で行うことが要求されていた。
【0008】
ここで、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を調製する際に用いるタンパク質の結晶化の手法としては、蒸気拡散法の一種であるハンギングドロップ法が一般に広く用いられている。
【0009】
このハンギングドロップ法とは、沈殿剤を混合したタンパク質溶液をカバーグラスの上に滴下し、当該カバーグラスを液滴がぶら下がる状態に引っ繰り返して予め沈殿剤などを充填した結晶化プレートのウェルに封じ固定し、これを20℃以下に一定時間保存するという手法である。
【0010】
上記したハンギングドロップ法によれば、カバーグラスに付着した液滴は自然拡散し、これにより目的とするタンパク質が結晶成長して、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を得ることができるものである。
【0011】
なお、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を得る際に、上記したハンギングドロップ法以外によく用いられている手法としては、例えば、シッティングドロップ法などが知られている。
【0012】
ところが、このような従来のハンギングドロップ法やシッティングドロップ法によれば、タンパク質をX線法による構造解析に適した結晶にまで成長させるには長時間を要するとともに、結晶化の効率が劣りその歩留まりは非常に低いという問題点があった。
【0013】
即ち、ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法は、沈殿剤の濃度や分子量などとタンパク質の特性とが最適になった条件(最適条件)下においてのみ構造解析に適した結晶が析出されるものであり、かつ、析出までに数十時間から数週間と時間がかかるものであった。
【0014】
さらに、ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法により新規なタンパク質の結晶を得る場合には、上記したような最適条件を得るまでに、一つのタンパク質に対して、例えば、約100種類以上の沈殿剤などを手作業で組み合わせる必要があり、より一層作業時間を要するものとなっていた。
【0015】
近年、こうしたX線法による構造解析に適した結晶にまで成長させるには長時間を要するというハンギングドロップ法やシッティングドロップ法に対して、タンパク質溶液にレーザービームを照射することにより結晶化を促進するという手法が報告されている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0016】
しかしながら、上記非特許文献1および非特許文献2に開示された手法によれば、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質に対して効率よく作業することが困難であり、汎用性に欠けるという問題点があった。
【0017】
例えば、新規なタンパク質については、その結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が不明であるため、照射条件を種々に変更してレーザービームを照射する必要があるが、上記非特許文献1および非特許文献2に開示された手法では、照射条件を種々に変更してレーザービームを照射することについては何らの考慮も払われておらず、こうした作業を効率よく行うことができないという問題点があった。
【非特許文献1】H.Adachi et al, Laser Irradiated Growth of Protein Crystal, Jpn.J.Appl.Phys. Vol.42, No.7B, pp.L798−L800 (2003)
【非特許文献2】H.Adachi et al, Membrane Protein Crystallization Using Laser Irradiation, Jpn.J.Appl.Phys. Vol.43, No.10B, pp.L1376−L1378(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タンパク質などの高分子化合物の結晶化を促進して、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようにするとともに、結晶化の効率を向上させてその歩留まりを高めた高分子化合物結晶化促進装置を提供しようとするものである。
【0019】
また、本発明の目的とするところは、結晶化工程における作業性の向上を図り、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても、効率よく作業することが可能な汎用性に優れた高分子化合物結晶化促進装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、所定のパルス列に制御して切り出されたパルスレーザービームや所定の照射強度に制御されたパルスレーザービームをタンパク質溶液などの高分子化合物溶液の液滴に照射して、タンパク質などの高分子化合物の結晶成長を促進するようにしたものである。
【0021】
従って、本発明によれば、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物や新規なタンパク質などの高分子化合物に対しても、パルス列や照射強度を制御することにより照射条件を変化させてレーザービームを照射することが可能となる。
【0022】
このため、本発明によれば、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようになり、結晶化の効率を向上させてその歩留まりを高め、構造解析のハイスループット化を図ることが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、結晶化工程における作業性の向上を図ることができ、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても効率よく作業することが可能となり、本発明は極めて汎用性に優れている。
【0024】
つまり、本発明によれば、タンパク質などの高分子化合物の結晶化の工程における作業効率が飛躍的に向上し、短時間処理が可能となる。
【0025】
即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、上記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段とを有し、上記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射するようにしたものである。
【0026】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記シャッター手段は、パルスピッカーまたはデジタルマイクロミラーデバイスであるようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、さらに、上記パルスレーザービームの上記液滴への照射強度を所定の照射強度に制御する照射強度制御手段を有するようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記照射強度制御手段は、デジタルマイクロミラーデバイスであるようにしたものである。
【0029】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の発明において、さらに、上記パルスレーザービームの偏光を所定の偏光に制御する偏光制御手段を有するようにしたものである。
【0030】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項5に記載の発明において、上記偏光制御手段は、上記パルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板であるようにしたものである。
【0031】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の発明において、上記高分子化合物は、タンパク質であるようにしたものである。
【0032】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の発明において、上記液滴は、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法またはサンドイッチドロップ法を実施する容器内に配置されたものである。
【0033】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記パルスレーザービーム出力手段は、モード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザ発振器であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、以上説明したように構成されているので、タンパク質などの高分子化合物の結晶化が促進され、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようになるとともに、結晶化の効率が向上してその歩留まりが高まるという優れた効果を奏する。
【0035】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、結晶化工程における作業性の向上が図られ、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても効率のよい作業を行うことを可能とするものであって、極めて汎用性に優れているという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0037】
図1(a)(b)には、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の第1の実施の形態が示されている。なお、図1(a)は高分子化合物結晶化促進装置の概念構成説明図であり、また、図1(b)は図1(a)のA領域を拡大して示した概略断面構成説明図である。
【0038】
この高分子化合物結晶化促進装置10は、蒸気拡散法であるハンギングドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴12がセットされた結晶化プレート容器14と、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段としてモード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザー発振器16と、フェムト秒レーザー発振器16から出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列を間引くことによって当該フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すシャッター機能と当該シャッター機能のシャッター速度を制御する機能と当該フェムト秒レーザービームのパルス列の繰り返し周波数を可変する機能とを備えたシャッター手段としてのパルスピッカー18と、パルスピッカー18から出力されたフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度を制御して当該照射強度を結晶成長のための最適値に調整する照射強度制御手段としてのデジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)20と、パルスピッカー18とデジタルマイクロミラーデバイス20とをシステム化して自動制御するパーソナルコンピューター22と、デジタルマイクロミラーデバイス20から出力されたフェムト秒レーザービームを所定の方向に反射する全反射ミラー24と、全反射ミラー24から出力されたフェムト秒レーザービームを結晶化プレート容器14にセットされた液滴12のなかで結晶化すべき対象の液滴12に一点集光する集光手段としての集光レンズ26とを有して構成されている。
【0039】
以下に、上記した高分子化合物結晶化促進装置10の各構成について詳細に説明すると、まず、結晶化プレート容器14は、従来より公知のものを適宜に選択して用いることが可能であるが、一度に高分子溶液の液滴12を複数セットすることができるものが好ましい。
【0040】
次に、フェムト秒レーザー発振器16は、例えば、パルス幅が170fsであり、出力パワーが1.1Wであり、波長が1060nmであり、繰り返し周波数が50MHzであるものを用いることができる。なお、図2には、フェムト秒レーザー発振器16から出力されるフェムト秒レーザービームの出力パルスの模式図が示されている。
【0041】
次に、パルスピッカー18は、従来より公知のものを適宜に選択して用いることが可能であるが、フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すシャッター機能と、当該シャッター機能のシャッター速度を制御する機能と、当該フェムト秒レーザービームのパルス列の繰り返し周波数を可変する機能とを備えるように構成する。
【0042】
より詳細には、このパルスピッカー18は、フェムト秒レーザ発振器16から出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すゲートタイムがnsオーダーであって、1パルス〜∞パルスまで任意に切り出す、即ち、シャッターとして動作することができるようになされているものであって、シャッター速度がnsオーダー〜∞のシャッター動作を行うものである。これにより、フェムト秒レーザービームの所要のパルス列が得られることになる。
【0043】
また、パルスピッカー18は、パルス列の繰り返し周波数を4Hz〜4MHzの範囲で可変できるようになされているとともに、さらに照射回数を0〜400000ショットまで可変できるようになされている。なお、これらの制御は、パーソナルコンピューター22により実行される。
【0044】
従って、こうしたパルスピッカー18を用いることにより、高分子化合物溶液の液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの照射条件を任意に制御できることになり、多種類のタンパク質などのような種々の高分子化合物に対してそれぞれ最適な照射条件を設定することができるようになる。
【0045】
次に、図3に示すデジタルマイクロミラーデバイス20の概念構成説明図ならびに図4に示すデジタルマイクロミラーデバイス20の動作原理図を参照しながら、デジタルマイクロミラーデバイス20について説明する。
【0046】
デジタルマイクロミラーデバイス20は、図3に示すように、XY平面上において、パーソナルコンピューター22により制御されるXアドレス指定手段20aとYアドレス指定手段20bとによりそれぞれ指定されるXアドレスとYアドレスとの交点である各XY座標上に、マイクロミラー20cをアレイ状にそれぞれ配設して構成されている。なお、このようにアレイ状に配設された多数のマイクロミラー20cのそれぞれをミラーピクセル(mirror pixel)と称する。
【0047】
デジタルマイクロミラーデバイス20が、例えば、プロジェクションディスプレイなどで用いられている0.7インチ型で1024×768ピクセル搭載のものと同様な構成の場合には、マイクロミラー20cはXアドレス上に1024個配置されるともにYアドレス上に768個配置されるように構成されており、全部で786432(1024×768=786432(ピクセル:pixels))個配置されている。
【0048】
こうしたデジタルマイクロミラーデバイス20は、半導体を用いたマイクロマシニング技術により製造することができるものであり、各マイクロミラー20cは回転軸(図示せず。)にそれぞれ固定されている。そして、デジタルマイクロミラーデバイス20は、パーソナルコンピューター22の制御によってXアドレス指定手段20aとYアドレス指定手段20bとにより指定されるXY座標上のミラーピクセルたるマイクロミラー20cのみを、駆動手段(図示せず。)によって初期位置から回転軸を回転中心として所定の角度α(αは、例えば、l2゜である。)だけ回転することができるように設定されている(図4を参照する。)。
【0049】
なお、図4においては、初期位置にあるマイクロミラー20cを実線で示し、所定の角度αだけ回転した状態のマイクロミラー20cを破線で示している。
【0050】
ここで、図4に示すように、デジタルマイクロミラーデバイス20には斜めから光が入射するように光の入射方向が設定されており、XYアドレスにより選択されたマイクロミラー20cが初期位置から12゜回転した状態がオン(ON)状態であり、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射した光は、デジタルマイクロミラーデバイス20内に配置された集光レンズ20dを通して照射光としてデジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ導出される。一方、マイクロミラー20cが初期位置にある状態がオフ(OFF)状態であり、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射した光は、デジタルマイクロミラーデバイス20内に配置された光吸収板20eに吸収されて、デジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ導出されることはない。
【0051】
上記した動作原理に基づいて、アレイ上に配置された各マイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とを適宜に選択することにより、デジタルマイクロミラーデバイス20から外部へ導出可能な照射光の出力状態、即ち、照射強度を、全てのマイクロミラー20cをオン状態とした最大出力状態(デジタルマイクロミラーデバイス20の100%の出力状態である。)から全てのマイクロミラー20cをオフ状態として外部へ照射光を全く出力しない状態(デジタルマイクロミラーデバイス20の0%の出力状態である。)までの間で適宜に制御することができる。
【0052】
即ち、デジタルマイクロミラーデバイス20においては、アレイ状に配列された、例えば、786432個の各マイクロミラー20cを傾斜するか否か、即ち、オン状態とするかオフ状態とするかを選択することにより、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射された光の経路を変化させることができるものであり、この動作原理を応用して、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射したフェムト秒レーザービームを0〜100%の任意の照射強度でデジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ出力することができる。
【0053】
従って、従来の減光フィルター(NDフィルター)の装着による照射強度の調整に比べて、任意の光照射強度を容易に設定することができる。
【0054】
ここで、アレイ上に配置された各マイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とは、例えば、以下に説明する2通りの手法により制御することができる。
【0055】
まず、第1の手法は、図5(a)(b)(c)に示す、所謂、チェッカーボードパターンによるマイクロミラー20cのオン状態とオフ状態との制御方法である。
【0056】
この図5(a)(b)(c)に示す第1の手法においては、所望の照射強度に応じてオン状態のマイクロミラー20cの数とオフ状態のマイクロミラー20cの数とを設定するものである。
【0057】
即ち、照射強度を100%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とする(図5(a)参照)。また、照射強度を50%としたい場合には、半数のマイクロミラー20cをオン状態とし、残りの半数のマイクロミラー20cをオフ状態とするものであり、その際に、オン状態とオフ状態とが交互に千鳥状に配置されるチェッカーボードパターンとする(図5(b)参照)。さらに、照射強度を0%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオフ状態とする(図5(c)参照)。なお、上記以外の照射強度を設定する際には、オン状態のマイクロミラー20cの数とオフ状態のマイクロミラー20cの数とを照射強度に応じて調整することにより、所望の照射強度を得ることができるものであり、その際に、オン状態のマイクロミラー20cとオフ状態のマイクロミラー20cとがなるべく交互に配置されるようにする。
【0058】
次に、図6(a)(b)(c)ならびに図7を参照しながら、第2の手法について説明すると、この第2の手法は、全てのマイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とを256段階の階調に応じて制御するという方法である。
【0059】
即ち、全てのマイクロミラー20cをオン状態とした状態において、照射強度を100%と定義する全てのマイクロミラー20cのオン状態継続時間(以下、単に「オン状態継続時間」と称する。)を時間Tとして予め設定するとともに、全てのマイクロミラー20cがオフ状態とされたとき、即ち、オン状態継続時間が0の場合を照射強度0%と定義しておき、この時間Tを256段階の分解能で制御することにより、画像処理における256階調のグレースケールと同様に256通りの照射強度が簡単に得られるようになる。
【0060】
図7には、縦軸に照射強度をとり、かつ、横軸に階調およびオン状態継続時間をとったグラフが示されているが、このグラフに示されているように、オン状態継続時間を変化することにより、照射時間をリニアに変化することができる。
【0061】
つまり、照射強度を100%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とするとともにオン状態継続時間を時間Tとする(図6(a)参照)。また、照射強度を50%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とするとともにオン状態継続時間を時間T/2とする(図6(b)参照)。さらに、照射強度を0%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオフ状態としてオン状態継続時間を0とする(図6(c)参照)。なお、上記以外の照射強度を設定する際には、図7に示すように照射強度に応じてオン状態継続時間を調整することにより、所望の照射強度を得ることができる。
【0062】
従って、デジタルマイクロミラーデバイス20によれば、レーザービームの出力側に偏光板や減光フィルタを挿入するという従来の照射強度を可変する手法と比較すると、非常に簡単な方法と構造とにより照射強度を任意に可変することができる。
【0063】
なお、上記した第1の手法ならびに第2の手法の制御は、パーソナルコンピューター22により実行される。
【0064】
次に、パルスピッカー18によりパルス列を切り出されるとともにデジタルマイクロミラーデバイス20により照射強度を制御されたフェムト秒レーザービームを、高分子化合物溶液の液滴12へ一点集光する照射手法について説明する。
【0065】
上記したように、高分子化合物結晶化促進装置10においては、フェムト秒レーザービームを高分子化合物溶液の液滴12へ集光する集光手段として、集光レンズ26がデジタルマイクロミラーデバイス20の後段に配設されている。この集光レンズ26としては、この実施の形態においては、倍率が20倍であってNAが0.7の高倍率・高開口数対物レンズを用いている。こうした集光レンズ26を持つ光学系を用いて、フェムト秒レーザービームを絞り込み、単位面積当りのレーザービームの照射強度としてGW/cm2オーダーの値を得ることができるようになされている。
【0066】
以上の構成において、高分子化合物結晶化促進装置10により、高分子化合物として、例えば、目的のタンパク質を精製・濃縮して結晶を生成するには、まず、種々の沈殿剤30を調製し、結晶化プレート容器14のウェル14aに注入する。
【0067】
次に、上記のタンパク質の溶液をピペッティングで結晶化プレート容器14のカバーグラス14bに滴下して液滴12を形成する。それから、カバーグラス14bを液滴12がぶら下がる状態に引っ繰り返して予め沈殿剤30を充填したウェル14aに被せ、カバーグラス14bとウェル14aとをグリースにより封じる。
【0068】
上記したような準備の後に、タンパク質の液滴12に対して、フェムト秒レーザー発振器16により出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列をパルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20、全反射ミラー24ならびに集光レンズ26を介して照射する。
【0069】
即ち、フェムト秒レーザ発振器16から出力されたモード同期フェムト秒パルスレーザービームは、そのパルス列をパルスピッカー18により切り出されてパルス列の繰り返し周波数やショット数(照射回数)が調整され、それからデジタルマイクロミラーデバイス20により照射強度を調整された後に集光レンズ26へ入射され、液滴12に対して1点集光されて照射される。
【0070】
従って、この高分子化合物結晶化促進装置10においては、最適な結晶化促進条件を得るために、パルスレーザービームのパルス列の繰り返し周波数、ショット数あるいは照射強度を極めて容易に調整することができる。
【0071】
ここで、図8ならびに図9には、高分子化合物結晶化促進装置10を用いて、高分子化合物溶液として、
・タンパク質:Lysozyme、 濃度50mg/ml
・緩衝溶液:HEPES 0.1M、pH7.3
・NaCl:0.2M
のタンパク質溶液の液滴12から結晶を析出した本願発明者の実験結果が示されている。
【0072】
この実験においては、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度は220GW/cm2であり、これを照射強度100%としてその状態を維持し、パルスピッカー18により制御されるシャッターの周波数(Hz)とショット(shot)数とを変化させ、複数のサンプルにフェムト秒レーザービームを照射し、これらのサンプルから結晶が析出されたサンプル数を計数した。
【0073】
なお、図8には、パルスピッカー18により制御されるシャッターの周波数(Hz)とショット(shot)数とに関して結晶化されたサンプル数を示す実験結果の測定値が示されている。また、図9は、図8に対応する図表であって、図8の測定値について、実験したサンプル数に対する結晶化されたサンプル数の割合を百分率で示したものである。
【0074】
一方、図10には、パルスピッカー18により繰り返し周波数を4MHzに固定するとともにショット数を4000ショットに固定し、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度を変化させた実験の実験結果が示されており、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度と実際の結晶化確率との関係を示すグラフが示されている。
【0075】
ここで、この実験においては、照射強度220GW/cm2を照射強度100%として示しており、また、タンパク質溶液などのその他の実験条件は上記と同じであって、複数のサンプルにフェムト秒レーザービームを照射し、これらのサンプルから結晶が析出されたサンプル数を計数した。
【0076】
これら図8乃至図10に示す本願発明者の実験結果から明らかなように、結晶化、即ち、結晶析出の促進には最適な条件が存在するものである。
【0077】
つまり、タンパク質分子は、レーザービーム照射のような外部エネルギーを印加しない場合にはランダムな方向に散在している。ところが、タンパク質分子の電子励起エネルギーを超えるようなレーザービームを照射した場合には、当該タンパク質分子は異方性を持ち、当該タンパク質分子はある一定の方向に配向する。この場合、レーザービームの照射により、タンパク質分子には熱エネルギーが蓄積される。
【0078】
ここで、もし、タンパク質分子に蓄積された熱エネルギーが十分放散される時間間隔を保って、再度レーザービームの行うならば、タンパク質分子は更に異方性を持ち、その結果、結晶核が生成されて結晶が析出される。
【0079】
このように、パルスレーザービーム、特に、フェムト秒レーザービームなどのような短パルスレーザビームの照射がタンパク質の結晶析出に有効である。また、結晶核の生成過程や結晶析出過程においては、結晶核や析出した結晶を損傷しない程度の熱エネルギー、即ち、照射強度範囲とパルス数が存在する。
【0080】
上記した本願発明者の実験においては、照射強度220GW/cm2、繰り返し周波数0.4MHz、4000ショットが結晶析出に有効であった。
【0081】
図11には、上記した実験に使用したタンパク質溶液の液滴12に対して、フェムト秒レーザービームを照射強度220GW/cm2、繰り返し周波数0.4MHz、4000ショットで照射した際に得られた結晶の一例の顕微鏡写真が示されている。
【0082】
なお、集光レンズ26を介して液滴12に照射されたフェムト秒レーザービームの照射強度は、以下のようにして計算した。
【0083】
集光レンズ26を取り外してステージ上でレーザー出力を測定した値:300mW
集光レンズ26の波長1060nmのフェムト秒レーザービームの透過率:約60%
集光レンズ26下でのレーザー出力:300mW×0.6=180mW
フェムト秒レーザー発振器16のパラメータ
繰り返し周波数:50MHz
パルス幅:200fs
ピーク波長:1060nm
なお、フェムト秒レーザー発振器16から出力されるフェムト秒レーザービームのパルス幅170fsであるが、パルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20、全反射ミラー24および集光レンズ26を通過するため200fsに広がると見積もった。
【0084】
単位パルスあたりのエネルギー:180mW/50MHz=3.2nJ
単位パルスあたりのパワー:3.2nJ/0.2ps=18kW=18×10−6GW ・・・ 式1
集光レンズ26の倍率は20倍で、NA=0.4の場合、焦点を結んだときにフェムト秒レーザービームが照射される面積は、以下のようになる。
【0085】
ビームスポット径:1.22×1060nm/0.4=3233nm=3.2μm
ビームの照射面積:1.6μm×1.6μm×π=8.04μm2=8.04×10−8cm2 ・・・ 式2
上記の式1および式2より、
サンプル上での1パルス当たりのパワー密度:18/8.04×102GW/cm2
となる。
【0086】
上記したように、この高分子化合物結晶化促進装置10によれば、パルスピッカー18によるパルスの切り出しの可変制御ならびに繰り返し周波数の可変制御、デジタルマイクロミラーデバイス20による照射強度の可変制御あるいは集光レンズ26による液滴12の一点集光などによって、タンパク質分子に超短時間で大照射強度のフェムト秒レーザービームを照射することができ、その結果、結晶核が生成され、かつ、タンパク質分子内におけるフェムト秒レーザービームによる熱エネルギーを効率良く放散することができるので、蓄積熱による生成結晶核の損傷なしに、タンパク質分子の配向を行い、析出された結晶成長を促進する。
【0087】
即ち、高分子化合物結晶化促進装置10によれば、結晶化促進条件を任意に変えることができ、種々のタンパク質溶液を容易に結晶化することができるようになる。
【0088】
つまり、高分子化合物結晶化促進装置10を用いると、結晶成長まで長時間要することなく、タンパク質溶液を結晶化することが可能となり、構造解析用試料供給に要する時間を著しく短縮することが可能となる。
【0089】
一方、引用文献1または引用文献2に開示された技術では、倍率が10倍でありNAが0.4の対物レンズを用いており、単位面積当りの照射強度は高くない。また、シャッター機能も備えておらず、200fs、1KHz固定の繰り返しパルスを照射している。従って、タンパク質分子の配向を任意に制御することはできず、種々のタンパク質溶液を結晶化することもできない。
【0090】
次に、図12には、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の他の実施の形態の概念構成説明図が示されている。なお、図1に示す構成と同一または相当する構成には、図1に示す構成と同一の符号を付して示すことにより、その重複する説明は適宜に省略するものとする。
【0091】
この高分子化合物結晶化促進装置100は、高分子化合物の結晶化促進におけるレーザー偏光モード依存性に対応するための偏光モード切替機構を備えたものである。
【0092】
即ち、高分子化合物においては、レーザーの偏光モードが直線偏光であるか円偏光であるかによって、結晶化状態が異なることが知られている。例えば、尿素の場合では、直線偏光においては分子は長手方向に伸張して異方性を持って整列し、一方、円偏光においては分子は伸張しない状態が得られる。
【0093】
このため、高分子化合物結晶化促進装置100においては、タンパク質を含む種々の高分子化合物結晶化促進に対応するために、直線偏光と円偏光とを切換えることができる機構が配設されている。
【0094】
即ち、高分子化合物結晶化促進装置100は、直線偏光モードのフェムト秒レーザービームを出力するフェムト秒レーザービーム発振器102を備え、フェムト秒レーザービーム発振器102から出力されたフェムト秒レーザービームをフィルタリングするレーザーラインフィルター104と、レーザーラインフィルター102から出力されたフェムト秒レーザービームのビーム径を拡大するビームエクスパンダー106とを有しており、ビームエクスパンダー106によりビーム径を拡大されたフェムト秒レーザービームが、パルスピッカー18へ入力されるようになされている。
【0095】
そして、パルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20を経由して出力されたフェムト秒レーザービームは、ダイクロイックミラー108により反射されて、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板110へ入射される。この1/4波長板110は、パーソナルコンピューター22によって制御されるモーター(図示せず。)によって駆動されて、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されたり、あるいは、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上から排除されたりする。
【0096】
なお、符号112は、ダイクロイックミラー108を透過した液滴12の画像を観察するためのCCDカメラであり、また、符号114は、ダイクロイックミラー108を透過した液滴12からの反射光をCCDカメラ112へ集光するための集光レンズである。
【0097】
以上の構成において、1/4波長板110がダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されている場合には、液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの偏光モードは直線偏光から円偏光に変換される。一方、1/4波長板110がダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されていない場合には、液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの偏光モードは直線偏光のまま維持される。
【0098】
従って、高分子化合物結晶化促進装置100によれば、偏光モードを直線偏光と円偏光とに適宜変更して、液滴12へフェムト秒レーザービームを照射することができるので、高分子化合物の結晶化促進におけるレーザー偏光モード依存性に対応してフェムト秒レーザービームを照射することができるようになる。
【0099】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に示すように変形することができるものである。
【0100】
(1)上記した実施の形態においては、高分子化合物としてタンパク質を例示して示したが、高分子化合物はタンパク質に限られるものではないことは勿論であり、本発明は、樹脂、糖類、脂質あるいは核酸などのような種々の生理活性機能を有する物質の結晶化促進に用いることができる。
【0101】
(2)上記した実施の形態においては、パルスレーザーとしてフェムト秒レーザーを例示して示したが、パルスレーザーはフェムト秒レーザーに限られるものではないことは勿論であり、例えば、ナノ秒パルスレーザーやピコ秒パルスレーザーなどの短パルスレーザーを用いることができる。
【0102】
(3)上記した実施の形態においては、シャッター手段をパルスピッカーにより構成し、照射強度制御手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成し、あるいは、偏光制御手段をパルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板により構成するようにしたが、シャッター手段、照射強度制御手段、偏光制御手段の具体的構成はこれらに限られるものではないことは勿論であり、パルスレーザーの種類などに応じて適宜に変更するようにしてもよい。
【0103】
例えば、上記した実施の形態においては、シャッター手段をパルスピッカーにより構成したが、これに代えて、シャッター手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成してもよい。シャッター手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成する場合には、単一のデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)によりシャッター手段と照射強度制御手段とを構成することが可能となり、装置全体の構成を簡略化することができる。
【0104】
なお、シャッター手段としてデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を用いた場合には、フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すゲートタイムは、例えば、2μs以下であり、シャッター速度は2μs以下〜∞のシャッター動作を行うものである。
【0105】
(4)上記した実施の形態においては、結晶化プレート容器として、蒸気拡散法であるハンギングドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴がセットされるようにしたものを用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、シッティングドロップ法やサンドイッチドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴がセットされるようにした結晶化プレート容器を用いるようにしてもよい。
【0106】
(5)上記した実施の形態においては、フェムト秒レーザー発振器の仕様などについて、具体的な数値を挙げて示したが、これらは単に理解を容易にするために示したに過ぎないものであり、本発明は、上記した実施の形態に示した数値に限定されるものではない。
【0107】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、タンパク質をはじめとして、糖類、樹脂、脂質あるいは核酸などの結晶を生成する際に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1(a)(b)は本発明による高分子化合物結晶化促進装置の第1の実施の形態を示し、図1(a)は高分子化合物結晶化促進装置の概念構成説明図であり、図1(b)は図1(a)のA領域を拡大して示した概略断面構成説明図である。
【図2】図2は、フェムト秒レーザー発振器から出力されるフェムト秒レーザービームの出力パルスの模式図である。
【図3】図3は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の概念構成説明図である。
【図4】図4は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の動作原理図である。
【図5】図5(a)(b)(c)は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)にアレイ上に配置されたマイクロミラーのオン状態とオフ状態との制御の第1の手法を示す説明図である。
【図6】図6(a)(b)(c)は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)にアレイ上に配置されたマイクロミラーのオン状態とオフ状態との制御の第2の手法を示す説明図である。
【図7】図7は、図6(a)(b)(c)に示す第2の手法による制御状態を示すグラフであり、縦軸に照射強度をとり、横軸に階調およびオン状態継続時間をとったグラフである。
【図8】図8は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図9】図9は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図10】図10は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図11】図11は、本願発明者の実験により得られた結晶の一例の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の他の実施の形態の概念構成説明図である。
【符号の説明】
【0110】
10 高分子化合物結晶化促進装置
12 液滴
14 結晶化プレート容器
16 フェムト秒レーザー発振器
18 パルスピッカー
20 デジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)
22 パーソナルコンピューター
24 全反射ミラー
26 集光レンズ
100 高分子化合物結晶化促進装置
102 フェムト秒レーザービーム発振器
104 レーザーラインフィルター
106 ビームエクスパンダー
108 ダイクロイックミラー
110 1/4波長板
112 CCDカメラ
114 集光レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物結晶化促進装置に関し、さらに詳細には、高分子化合物としてタンパク質の結晶化を促進する際に用いて好適な高分子化合物結晶化促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトを含む多くの生物種のDNA塩基配列の解読が急速に進み、これら大量のゲノム配列情報から抽出される膨大な数の遺伝子について、個々の遺伝子にコードされるタンパク質の立体構造を明らかにして、機能との関係を解明することが重要な課題となってきている。
【0003】
こうしたタンパク質の立体構造を明らかにする構造ゲノム科学における構造解析の対象となるタンパク質は、ヒトの遺伝子に関して言えば約10万種類ほどにおよび、その数は極めて多い。
【0004】
ここで、タンパク質の立体構造は、千種類から数千種類の基本構造単位の組み合わせから形成されており、その組み合わせによって機能の多様性が実現されていると考えられている。このため、これら基本構造単位を全て解明することにより、タンパク質の構造と機能の関係を明らかにすることを目標とした体系的・網羅的な構造解析の研究が鋭意進められている。
【0005】
一般に、体系的・網羅的な構造解析の研究を効率的に進めていくためには、その構造解析における各工程を高速化・自動化することが要求される。
【0006】
特に、タンパク質は、変性、分解あるいは吸着などにより失活あるいは損失するものであるため、目的とするタンパク質試料を調製するに際しては、これらの損失を避けながら、できるだけ短時間に効率良く一連の操作を行うことが望ましいものであり、構造解析における各工程の高速化・自動化は火急の課題となっている。
【0007】
ところで、タンパク質の構造解析の手法の一つとしてX線法が知られているが、このX線法においては、目的とするタンパク質を精製・濃縮した後に結晶化し、その結晶化したタンパク質を測定用試料として用いるため、タンパク質の結晶化を短時間かつ高効率で行うことが要求されていた。
【0008】
ここで、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を調製する際に用いるタンパク質の結晶化の手法としては、蒸気拡散法の一種であるハンギングドロップ法が一般に広く用いられている。
【0009】
このハンギングドロップ法とは、沈殿剤を混合したタンパク質溶液をカバーグラスの上に滴下し、当該カバーグラスを液滴がぶら下がる状態に引っ繰り返して予め沈殿剤などを充填した結晶化プレートのウェルに封じ固定し、これを20℃以下に一定時間保存するという手法である。
【0010】
上記したハンギングドロップ法によれば、カバーグラスに付着した液滴は自然拡散し、これにより目的とするタンパク質が結晶成長して、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を得ることができるものである。
【0011】
なお、X線法による構造解析の測定用試料として用いることのできるタンパク質結晶を得る際に、上記したハンギングドロップ法以外によく用いられている手法としては、例えば、シッティングドロップ法などが知られている。
【0012】
ところが、このような従来のハンギングドロップ法やシッティングドロップ法によれば、タンパク質をX線法による構造解析に適した結晶にまで成長させるには長時間を要するとともに、結晶化の効率が劣りその歩留まりは非常に低いという問題点があった。
【0013】
即ち、ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法は、沈殿剤の濃度や分子量などとタンパク質の特性とが最適になった条件(最適条件)下においてのみ構造解析に適した結晶が析出されるものであり、かつ、析出までに数十時間から数週間と時間がかかるものであった。
【0014】
さらに、ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法により新規なタンパク質の結晶を得る場合には、上記したような最適条件を得るまでに、一つのタンパク質に対して、例えば、約100種類以上の沈殿剤などを手作業で組み合わせる必要があり、より一層作業時間を要するものとなっていた。
【0015】
近年、こうしたX線法による構造解析に適した結晶にまで成長させるには長時間を要するというハンギングドロップ法やシッティングドロップ法に対して、タンパク質溶液にレーザービームを照射することにより結晶化を促進するという手法が報告されている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0016】
しかしながら、上記非特許文献1および非特許文献2に開示された手法によれば、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質に対して効率よく作業することが困難であり、汎用性に欠けるという問題点があった。
【0017】
例えば、新規なタンパク質については、その結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が不明であるため、照射条件を種々に変更してレーザービームを照射する必要があるが、上記非特許文献1および非特許文献2に開示された手法では、照射条件を種々に変更してレーザービームを照射することについては何らの考慮も払われておらず、こうした作業を効率よく行うことができないという問題点があった。
【非特許文献1】H.Adachi et al, Laser Irradiated Growth of Protein Crystal, Jpn.J.Appl.Phys. Vol.42, No.7B, pp.L798−L800 (2003)
【非特許文献2】H.Adachi et al, Membrane Protein Crystallization Using Laser Irradiation, Jpn.J.Appl.Phys. Vol.43, No.10B, pp.L1376−L1378(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タンパク質などの高分子化合物の結晶化を促進して、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようにするとともに、結晶化の効率を向上させてその歩留まりを高めた高分子化合物結晶化促進装置を提供しようとするものである。
【0019】
また、本発明の目的とするところは、結晶化工程における作業性の向上を図り、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても、効率よく作業することが可能な汎用性に優れた高分子化合物結晶化促進装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、所定のパルス列に制御して切り出されたパルスレーザービームや所定の照射強度に制御されたパルスレーザービームをタンパク質溶液などの高分子化合物溶液の液滴に照射して、タンパク質などの高分子化合物の結晶成長を促進するようにしたものである。
【0021】
従って、本発明によれば、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物や新規なタンパク質などの高分子化合物に対しても、パルス列や照射強度を制御することにより照射条件を変化させてレーザービームを照射することが可能となる。
【0022】
このため、本発明によれば、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようになり、結晶化の効率を向上させてその歩留まりを高め、構造解析のハイスループット化を図ることが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、結晶化工程における作業性の向上を図ることができ、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても効率よく作業することが可能となり、本発明は極めて汎用性に優れている。
【0024】
つまり、本発明によれば、タンパク質などの高分子化合物の結晶化の工程における作業効率が飛躍的に向上し、短時間処理が可能となる。
【0025】
即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、上記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段とを有し、上記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射するようにしたものである。
【0026】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記シャッター手段は、パルスピッカーまたはデジタルマイクロミラーデバイスであるようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、さらに、上記パルスレーザービームの上記液滴への照射強度を所定の照射強度に制御する照射強度制御手段を有するようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記照射強度制御手段は、デジタルマイクロミラーデバイスであるようにしたものである。
【0029】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の発明において、さらに、上記パルスレーザービームの偏光を所定の偏光に制御する偏光制御手段を有するようにしたものである。
【0030】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項5に記載の発明において、上記偏光制御手段は、上記パルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板であるようにしたものである。
【0031】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の発明において、上記高分子化合物は、タンパク質であるようにしたものである。
【0032】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の発明において、上記液滴は、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法またはサンドイッチドロップ法を実施する容器内に配置されたものである。
【0033】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記パルスレーザービーム出力手段は、モード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザ発振器であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、以上説明したように構成されているので、タンパク質などの高分子化合物の結晶化が促進され、従来に比して短時間でタンパク質などの高分子化合物の結晶を得ることができるようになるとともに、結晶化の効率が向上してその歩留まりが高まるという優れた効果を奏する。
【0035】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、結晶化工程における作業性の向上が図られ、結晶化を促進するためのレーザービームの照射条件が異なる各種のタンパク質などの高分子化合物に対しても効率のよい作業を行うことを可能とするものであって、極めて汎用性に優れているという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0037】
図1(a)(b)には、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の第1の実施の形態が示されている。なお、図1(a)は高分子化合物結晶化促進装置の概念構成説明図であり、また、図1(b)は図1(a)のA領域を拡大して示した概略断面構成説明図である。
【0038】
この高分子化合物結晶化促進装置10は、蒸気拡散法であるハンギングドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴12がセットされた結晶化プレート容器14と、パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段としてモード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザー発振器16と、フェムト秒レーザー発振器16から出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列を間引くことによって当該フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すシャッター機能と当該シャッター機能のシャッター速度を制御する機能と当該フェムト秒レーザービームのパルス列の繰り返し周波数を可変する機能とを備えたシャッター手段としてのパルスピッカー18と、パルスピッカー18から出力されたフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度を制御して当該照射強度を結晶成長のための最適値に調整する照射強度制御手段としてのデジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)20と、パルスピッカー18とデジタルマイクロミラーデバイス20とをシステム化して自動制御するパーソナルコンピューター22と、デジタルマイクロミラーデバイス20から出力されたフェムト秒レーザービームを所定の方向に反射する全反射ミラー24と、全反射ミラー24から出力されたフェムト秒レーザービームを結晶化プレート容器14にセットされた液滴12のなかで結晶化すべき対象の液滴12に一点集光する集光手段としての集光レンズ26とを有して構成されている。
【0039】
以下に、上記した高分子化合物結晶化促進装置10の各構成について詳細に説明すると、まず、結晶化プレート容器14は、従来より公知のものを適宜に選択して用いることが可能であるが、一度に高分子溶液の液滴12を複数セットすることができるものが好ましい。
【0040】
次に、フェムト秒レーザー発振器16は、例えば、パルス幅が170fsであり、出力パワーが1.1Wであり、波長が1060nmであり、繰り返し周波数が50MHzであるものを用いることができる。なお、図2には、フェムト秒レーザー発振器16から出力されるフェムト秒レーザービームの出力パルスの模式図が示されている。
【0041】
次に、パルスピッカー18は、従来より公知のものを適宜に選択して用いることが可能であるが、フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すシャッター機能と、当該シャッター機能のシャッター速度を制御する機能と、当該フェムト秒レーザービームのパルス列の繰り返し周波数を可変する機能とを備えるように構成する。
【0042】
より詳細には、このパルスピッカー18は、フェムト秒レーザ発振器16から出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すゲートタイムがnsオーダーであって、1パルス〜∞パルスまで任意に切り出す、即ち、シャッターとして動作することができるようになされているものであって、シャッター速度がnsオーダー〜∞のシャッター動作を行うものである。これにより、フェムト秒レーザービームの所要のパルス列が得られることになる。
【0043】
また、パルスピッカー18は、パルス列の繰り返し周波数を4Hz〜4MHzの範囲で可変できるようになされているとともに、さらに照射回数を0〜400000ショットまで可変できるようになされている。なお、これらの制御は、パーソナルコンピューター22により実行される。
【0044】
従って、こうしたパルスピッカー18を用いることにより、高分子化合物溶液の液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの照射条件を任意に制御できることになり、多種類のタンパク質などのような種々の高分子化合物に対してそれぞれ最適な照射条件を設定することができるようになる。
【0045】
次に、図3に示すデジタルマイクロミラーデバイス20の概念構成説明図ならびに図4に示すデジタルマイクロミラーデバイス20の動作原理図を参照しながら、デジタルマイクロミラーデバイス20について説明する。
【0046】
デジタルマイクロミラーデバイス20は、図3に示すように、XY平面上において、パーソナルコンピューター22により制御されるXアドレス指定手段20aとYアドレス指定手段20bとによりそれぞれ指定されるXアドレスとYアドレスとの交点である各XY座標上に、マイクロミラー20cをアレイ状にそれぞれ配設して構成されている。なお、このようにアレイ状に配設された多数のマイクロミラー20cのそれぞれをミラーピクセル(mirror pixel)と称する。
【0047】
デジタルマイクロミラーデバイス20が、例えば、プロジェクションディスプレイなどで用いられている0.7インチ型で1024×768ピクセル搭載のものと同様な構成の場合には、マイクロミラー20cはXアドレス上に1024個配置されるともにYアドレス上に768個配置されるように構成されており、全部で786432(1024×768=786432(ピクセル:pixels))個配置されている。
【0048】
こうしたデジタルマイクロミラーデバイス20は、半導体を用いたマイクロマシニング技術により製造することができるものであり、各マイクロミラー20cは回転軸(図示せず。)にそれぞれ固定されている。そして、デジタルマイクロミラーデバイス20は、パーソナルコンピューター22の制御によってXアドレス指定手段20aとYアドレス指定手段20bとにより指定されるXY座標上のミラーピクセルたるマイクロミラー20cのみを、駆動手段(図示せず。)によって初期位置から回転軸を回転中心として所定の角度α(αは、例えば、l2゜である。)だけ回転することができるように設定されている(図4を参照する。)。
【0049】
なお、図4においては、初期位置にあるマイクロミラー20cを実線で示し、所定の角度αだけ回転した状態のマイクロミラー20cを破線で示している。
【0050】
ここで、図4に示すように、デジタルマイクロミラーデバイス20には斜めから光が入射するように光の入射方向が設定されており、XYアドレスにより選択されたマイクロミラー20cが初期位置から12゜回転した状態がオン(ON)状態であり、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射した光は、デジタルマイクロミラーデバイス20内に配置された集光レンズ20dを通して照射光としてデジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ導出される。一方、マイクロミラー20cが初期位置にある状態がオフ(OFF)状態であり、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射した光は、デジタルマイクロミラーデバイス20内に配置された光吸収板20eに吸収されて、デジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ導出されることはない。
【0051】
上記した動作原理に基づいて、アレイ上に配置された各マイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とを適宜に選択することにより、デジタルマイクロミラーデバイス20から外部へ導出可能な照射光の出力状態、即ち、照射強度を、全てのマイクロミラー20cをオン状態とした最大出力状態(デジタルマイクロミラーデバイス20の100%の出力状態である。)から全てのマイクロミラー20cをオフ状態として外部へ照射光を全く出力しない状態(デジタルマイクロミラーデバイス20の0%の出力状態である。)までの間で適宜に制御することができる。
【0052】
即ち、デジタルマイクロミラーデバイス20においては、アレイ状に配列された、例えば、786432個の各マイクロミラー20cを傾斜するか否か、即ち、オン状態とするかオフ状態とするかを選択することにより、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射された光の経路を変化させることができるものであり、この動作原理を応用して、デジタルマイクロミラーデバイス20に入射したフェムト秒レーザービームを0〜100%の任意の照射強度でデジタルマイクロミラーデバイス20の外部へ出力することができる。
【0053】
従って、従来の減光フィルター(NDフィルター)の装着による照射強度の調整に比べて、任意の光照射強度を容易に設定することができる。
【0054】
ここで、アレイ上に配置された各マイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とは、例えば、以下に説明する2通りの手法により制御することができる。
【0055】
まず、第1の手法は、図5(a)(b)(c)に示す、所謂、チェッカーボードパターンによるマイクロミラー20cのオン状態とオフ状態との制御方法である。
【0056】
この図5(a)(b)(c)に示す第1の手法においては、所望の照射強度に応じてオン状態のマイクロミラー20cの数とオフ状態のマイクロミラー20cの数とを設定するものである。
【0057】
即ち、照射強度を100%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とする(図5(a)参照)。また、照射強度を50%としたい場合には、半数のマイクロミラー20cをオン状態とし、残りの半数のマイクロミラー20cをオフ状態とするものであり、その際に、オン状態とオフ状態とが交互に千鳥状に配置されるチェッカーボードパターンとする(図5(b)参照)。さらに、照射強度を0%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオフ状態とする(図5(c)参照)。なお、上記以外の照射強度を設定する際には、オン状態のマイクロミラー20cの数とオフ状態のマイクロミラー20cの数とを照射強度に応じて調整することにより、所望の照射強度を得ることができるものであり、その際に、オン状態のマイクロミラー20cとオフ状態のマイクロミラー20cとがなるべく交互に配置されるようにする。
【0058】
次に、図6(a)(b)(c)ならびに図7を参照しながら、第2の手法について説明すると、この第2の手法は、全てのマイクロミラー20cのオン状態とオフ状態とを256段階の階調に応じて制御するという方法である。
【0059】
即ち、全てのマイクロミラー20cをオン状態とした状態において、照射強度を100%と定義する全てのマイクロミラー20cのオン状態継続時間(以下、単に「オン状態継続時間」と称する。)を時間Tとして予め設定するとともに、全てのマイクロミラー20cがオフ状態とされたとき、即ち、オン状態継続時間が0の場合を照射強度0%と定義しておき、この時間Tを256段階の分解能で制御することにより、画像処理における256階調のグレースケールと同様に256通りの照射強度が簡単に得られるようになる。
【0060】
図7には、縦軸に照射強度をとり、かつ、横軸に階調およびオン状態継続時間をとったグラフが示されているが、このグラフに示されているように、オン状態継続時間を変化することにより、照射時間をリニアに変化することができる。
【0061】
つまり、照射強度を100%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とするとともにオン状態継続時間を時間Tとする(図6(a)参照)。また、照射強度を50%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオン状態とするとともにオン状態継続時間を時間T/2とする(図6(b)参照)。さらに、照射強度を0%としたい場合には、全てのマイクロミラー20cをオフ状態としてオン状態継続時間を0とする(図6(c)参照)。なお、上記以外の照射強度を設定する際には、図7に示すように照射強度に応じてオン状態継続時間を調整することにより、所望の照射強度を得ることができる。
【0062】
従って、デジタルマイクロミラーデバイス20によれば、レーザービームの出力側に偏光板や減光フィルタを挿入するという従来の照射強度を可変する手法と比較すると、非常に簡単な方法と構造とにより照射強度を任意に可変することができる。
【0063】
なお、上記した第1の手法ならびに第2の手法の制御は、パーソナルコンピューター22により実行される。
【0064】
次に、パルスピッカー18によりパルス列を切り出されるとともにデジタルマイクロミラーデバイス20により照射強度を制御されたフェムト秒レーザービームを、高分子化合物溶液の液滴12へ一点集光する照射手法について説明する。
【0065】
上記したように、高分子化合物結晶化促進装置10においては、フェムト秒レーザービームを高分子化合物溶液の液滴12へ集光する集光手段として、集光レンズ26がデジタルマイクロミラーデバイス20の後段に配設されている。この集光レンズ26としては、この実施の形態においては、倍率が20倍であってNAが0.7の高倍率・高開口数対物レンズを用いている。こうした集光レンズ26を持つ光学系を用いて、フェムト秒レーザービームを絞り込み、単位面積当りのレーザービームの照射強度としてGW/cm2オーダーの値を得ることができるようになされている。
【0066】
以上の構成において、高分子化合物結晶化促進装置10により、高分子化合物として、例えば、目的のタンパク質を精製・濃縮して結晶を生成するには、まず、種々の沈殿剤30を調製し、結晶化プレート容器14のウェル14aに注入する。
【0067】
次に、上記のタンパク質の溶液をピペッティングで結晶化プレート容器14のカバーグラス14bに滴下して液滴12を形成する。それから、カバーグラス14bを液滴12がぶら下がる状態に引っ繰り返して予め沈殿剤30を充填したウェル14aに被せ、カバーグラス14bとウェル14aとをグリースにより封じる。
【0068】
上記したような準備の後に、タンパク質の液滴12に対して、フェムト秒レーザー発振器16により出力されたフェムト秒レーザービームのパルス列をパルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20、全反射ミラー24ならびに集光レンズ26を介して照射する。
【0069】
即ち、フェムト秒レーザ発振器16から出力されたモード同期フェムト秒パルスレーザービームは、そのパルス列をパルスピッカー18により切り出されてパルス列の繰り返し周波数やショット数(照射回数)が調整され、それからデジタルマイクロミラーデバイス20により照射強度を調整された後に集光レンズ26へ入射され、液滴12に対して1点集光されて照射される。
【0070】
従って、この高分子化合物結晶化促進装置10においては、最適な結晶化促進条件を得るために、パルスレーザービームのパルス列の繰り返し周波数、ショット数あるいは照射強度を極めて容易に調整することができる。
【0071】
ここで、図8ならびに図9には、高分子化合物結晶化促進装置10を用いて、高分子化合物溶液として、
・タンパク質:Lysozyme、 濃度50mg/ml
・緩衝溶液:HEPES 0.1M、pH7.3
・NaCl:0.2M
のタンパク質溶液の液滴12から結晶を析出した本願発明者の実験結果が示されている。
【0072】
この実験においては、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度は220GW/cm2であり、これを照射強度100%としてその状態を維持し、パルスピッカー18により制御されるシャッターの周波数(Hz)とショット(shot)数とを変化させ、複数のサンプルにフェムト秒レーザービームを照射し、これらのサンプルから結晶が析出されたサンプル数を計数した。
【0073】
なお、図8には、パルスピッカー18により制御されるシャッターの周波数(Hz)とショット(shot)数とに関して結晶化されたサンプル数を示す実験結果の測定値が示されている。また、図9は、図8に対応する図表であって、図8の測定値について、実験したサンプル数に対する結晶化されたサンプル数の割合を百分率で示したものである。
【0074】
一方、図10には、パルスピッカー18により繰り返し周波数を4MHzに固定するとともにショット数を4000ショットに固定し、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度を変化させた実験の実験結果が示されており、デジタルマイクロミラーデバイス20により制御されるフェムト秒レーザービームの液滴12への照射強度と実際の結晶化確率との関係を示すグラフが示されている。
【0075】
ここで、この実験においては、照射強度220GW/cm2を照射強度100%として示しており、また、タンパク質溶液などのその他の実験条件は上記と同じであって、複数のサンプルにフェムト秒レーザービームを照射し、これらのサンプルから結晶が析出されたサンプル数を計数した。
【0076】
これら図8乃至図10に示す本願発明者の実験結果から明らかなように、結晶化、即ち、結晶析出の促進には最適な条件が存在するものである。
【0077】
つまり、タンパク質分子は、レーザービーム照射のような外部エネルギーを印加しない場合にはランダムな方向に散在している。ところが、タンパク質分子の電子励起エネルギーを超えるようなレーザービームを照射した場合には、当該タンパク質分子は異方性を持ち、当該タンパク質分子はある一定の方向に配向する。この場合、レーザービームの照射により、タンパク質分子には熱エネルギーが蓄積される。
【0078】
ここで、もし、タンパク質分子に蓄積された熱エネルギーが十分放散される時間間隔を保って、再度レーザービームの行うならば、タンパク質分子は更に異方性を持ち、その結果、結晶核が生成されて結晶が析出される。
【0079】
このように、パルスレーザービーム、特に、フェムト秒レーザービームなどのような短パルスレーザビームの照射がタンパク質の結晶析出に有効である。また、結晶核の生成過程や結晶析出過程においては、結晶核や析出した結晶を損傷しない程度の熱エネルギー、即ち、照射強度範囲とパルス数が存在する。
【0080】
上記した本願発明者の実験においては、照射強度220GW/cm2、繰り返し周波数0.4MHz、4000ショットが結晶析出に有効であった。
【0081】
図11には、上記した実験に使用したタンパク質溶液の液滴12に対して、フェムト秒レーザービームを照射強度220GW/cm2、繰り返し周波数0.4MHz、4000ショットで照射した際に得られた結晶の一例の顕微鏡写真が示されている。
【0082】
なお、集光レンズ26を介して液滴12に照射されたフェムト秒レーザービームの照射強度は、以下のようにして計算した。
【0083】
集光レンズ26を取り外してステージ上でレーザー出力を測定した値:300mW
集光レンズ26の波長1060nmのフェムト秒レーザービームの透過率:約60%
集光レンズ26下でのレーザー出力:300mW×0.6=180mW
フェムト秒レーザー発振器16のパラメータ
繰り返し周波数:50MHz
パルス幅:200fs
ピーク波長:1060nm
なお、フェムト秒レーザー発振器16から出力されるフェムト秒レーザービームのパルス幅170fsであるが、パルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20、全反射ミラー24および集光レンズ26を通過するため200fsに広がると見積もった。
【0084】
単位パルスあたりのエネルギー:180mW/50MHz=3.2nJ
単位パルスあたりのパワー:3.2nJ/0.2ps=18kW=18×10−6GW ・・・ 式1
集光レンズ26の倍率は20倍で、NA=0.4の場合、焦点を結んだときにフェムト秒レーザービームが照射される面積は、以下のようになる。
【0085】
ビームスポット径:1.22×1060nm/0.4=3233nm=3.2μm
ビームの照射面積:1.6μm×1.6μm×π=8.04μm2=8.04×10−8cm2 ・・・ 式2
上記の式1および式2より、
サンプル上での1パルス当たりのパワー密度:18/8.04×102GW/cm2
となる。
【0086】
上記したように、この高分子化合物結晶化促進装置10によれば、パルスピッカー18によるパルスの切り出しの可変制御ならびに繰り返し周波数の可変制御、デジタルマイクロミラーデバイス20による照射強度の可変制御あるいは集光レンズ26による液滴12の一点集光などによって、タンパク質分子に超短時間で大照射強度のフェムト秒レーザービームを照射することができ、その結果、結晶核が生成され、かつ、タンパク質分子内におけるフェムト秒レーザービームによる熱エネルギーを効率良く放散することができるので、蓄積熱による生成結晶核の損傷なしに、タンパク質分子の配向を行い、析出された結晶成長を促進する。
【0087】
即ち、高分子化合物結晶化促進装置10によれば、結晶化促進条件を任意に変えることができ、種々のタンパク質溶液を容易に結晶化することができるようになる。
【0088】
つまり、高分子化合物結晶化促進装置10を用いると、結晶成長まで長時間要することなく、タンパク質溶液を結晶化することが可能となり、構造解析用試料供給に要する時間を著しく短縮することが可能となる。
【0089】
一方、引用文献1または引用文献2に開示された技術では、倍率が10倍でありNAが0.4の対物レンズを用いており、単位面積当りの照射強度は高くない。また、シャッター機能も備えておらず、200fs、1KHz固定の繰り返しパルスを照射している。従って、タンパク質分子の配向を任意に制御することはできず、種々のタンパク質溶液を結晶化することもできない。
【0090】
次に、図12には、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の他の実施の形態の概念構成説明図が示されている。なお、図1に示す構成と同一または相当する構成には、図1に示す構成と同一の符号を付して示すことにより、その重複する説明は適宜に省略するものとする。
【0091】
この高分子化合物結晶化促進装置100は、高分子化合物の結晶化促進におけるレーザー偏光モード依存性に対応するための偏光モード切替機構を備えたものである。
【0092】
即ち、高分子化合物においては、レーザーの偏光モードが直線偏光であるか円偏光であるかによって、結晶化状態が異なることが知られている。例えば、尿素の場合では、直線偏光においては分子は長手方向に伸張して異方性を持って整列し、一方、円偏光においては分子は伸張しない状態が得られる。
【0093】
このため、高分子化合物結晶化促進装置100においては、タンパク質を含む種々の高分子化合物結晶化促進に対応するために、直線偏光と円偏光とを切換えることができる機構が配設されている。
【0094】
即ち、高分子化合物結晶化促進装置100は、直線偏光モードのフェムト秒レーザービームを出力するフェムト秒レーザービーム発振器102を備え、フェムト秒レーザービーム発振器102から出力されたフェムト秒レーザービームをフィルタリングするレーザーラインフィルター104と、レーザーラインフィルター102から出力されたフェムト秒レーザービームのビーム径を拡大するビームエクスパンダー106とを有しており、ビームエクスパンダー106によりビーム径を拡大されたフェムト秒レーザービームが、パルスピッカー18へ入力されるようになされている。
【0095】
そして、パルスピッカー18、デジタルマイクロミラーデバイス20を経由して出力されたフェムト秒レーザービームは、ダイクロイックミラー108により反射されて、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板110へ入射される。この1/4波長板110は、パーソナルコンピューター22によって制御されるモーター(図示せず。)によって駆動されて、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されたり、あるいは、ダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上から排除されたりする。
【0096】
なお、符号112は、ダイクロイックミラー108を透過した液滴12の画像を観察するためのCCDカメラであり、また、符号114は、ダイクロイックミラー108を透過した液滴12からの反射光をCCDカメラ112へ集光するための集光レンズである。
【0097】
以上の構成において、1/4波長板110がダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されている場合には、液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの偏光モードは直線偏光から円偏光に変換される。一方、1/4波長板110がダイクロイックミラー108により反射されたパルスレーザービームの光路上に挿入されていない場合には、液滴12へ照射されるフェムト秒レーザービームの偏光モードは直線偏光のまま維持される。
【0098】
従って、高分子化合物結晶化促進装置100によれば、偏光モードを直線偏光と円偏光とに適宜変更して、液滴12へフェムト秒レーザービームを照射することができるので、高分子化合物の結晶化促進におけるレーザー偏光モード依存性に対応してフェムト秒レーザービームを照射することができるようになる。
【0099】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に示すように変形することができるものである。
【0100】
(1)上記した実施の形態においては、高分子化合物としてタンパク質を例示して示したが、高分子化合物はタンパク質に限られるものではないことは勿論であり、本発明は、樹脂、糖類、脂質あるいは核酸などのような種々の生理活性機能を有する物質の結晶化促進に用いることができる。
【0101】
(2)上記した実施の形態においては、パルスレーザーとしてフェムト秒レーザーを例示して示したが、パルスレーザーはフェムト秒レーザーに限られるものではないことは勿論であり、例えば、ナノ秒パルスレーザーやピコ秒パルスレーザーなどの短パルスレーザーを用いることができる。
【0102】
(3)上記した実施の形態においては、シャッター手段をパルスピッカーにより構成し、照射強度制御手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成し、あるいは、偏光制御手段をパルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板により構成するようにしたが、シャッター手段、照射強度制御手段、偏光制御手段の具体的構成はこれらに限られるものではないことは勿論であり、パルスレーザーの種類などに応じて適宜に変更するようにしてもよい。
【0103】
例えば、上記した実施の形態においては、シャッター手段をパルスピッカーにより構成したが、これに代えて、シャッター手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成してもよい。シャッター手段をデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により構成する場合には、単一のデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)によりシャッター手段と照射強度制御手段とを構成することが可能となり、装置全体の構成を簡略化することができる。
【0104】
なお、シャッター手段としてデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を用いた場合には、フェムト秒レーザービームのパルス列を切り出すゲートタイムは、例えば、2μs以下であり、シャッター速度は2μs以下〜∞のシャッター動作を行うものである。
【0105】
(4)上記した実施の形態においては、結晶化プレート容器として、蒸気拡散法であるハンギングドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴がセットされるようにしたものを用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、シッティングドロップ法やサンドイッチドロップ法によりタンパク質溶液などの高分子溶液の液滴がセットされるようにした結晶化プレート容器を用いるようにしてもよい。
【0106】
(5)上記した実施の形態においては、フェムト秒レーザー発振器の仕様などについて、具体的な数値を挙げて示したが、これらは単に理解を容易にするために示したに過ぎないものであり、本発明は、上記した実施の形態に示した数値に限定されるものではない。
【0107】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、タンパク質をはじめとして、糖類、樹脂、脂質あるいは核酸などの結晶を生成する際に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1(a)(b)は本発明による高分子化合物結晶化促進装置の第1の実施の形態を示し、図1(a)は高分子化合物結晶化促進装置の概念構成説明図であり、図1(b)は図1(a)のA領域を拡大して示した概略断面構成説明図である。
【図2】図2は、フェムト秒レーザー発振器から出力されるフェムト秒レーザービームの出力パルスの模式図である。
【図3】図3は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の概念構成説明図である。
【図4】図4は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の動作原理図である。
【図5】図5(a)(b)(c)は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)にアレイ上に配置されたマイクロミラーのオン状態とオフ状態との制御の第1の手法を示す説明図である。
【図6】図6(a)(b)(c)は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)にアレイ上に配置されたマイクロミラーのオン状態とオフ状態との制御の第2の手法を示す説明図である。
【図7】図7は、図6(a)(b)(c)に示す第2の手法による制御状態を示すグラフであり、縦軸に照射強度をとり、横軸に階調およびオン状態継続時間をとったグラフである。
【図8】図8は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図9】図9は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図10】図10は、本願発明者の実験結果を示すグラフである。
【図11】図11は、本願発明者の実験により得られた結晶の一例の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、本発明による高分子化合物結晶化促進装置の他の実施の形態の概念構成説明図である。
【符号の説明】
【0110】
10 高分子化合物結晶化促進装置
12 液滴
14 結晶化プレート容器
16 フェムト秒レーザー発振器
18 パルスピッカー
20 デジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)
22 パーソナルコンピューター
24 全反射ミラー
26 集光レンズ
100 高分子化合物結晶化促進装置
102 フェムト秒レーザービーム発振器
104 レーザーラインフィルター
106 ビームエクスパンダー
108 ダイクロイックミラー
110 1/4波長板
112 CCDカメラ
114 集光レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、
パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、
前記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段と
を有し、
前記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記シャッター手段は、パルスピッカーまたはデジタルマイクロミラーデバイスである
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、さらに、
前記パルスレーザービームの前記液滴への照射強度を所定の照射強度に制御する照射強度制御手段を有する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記照射強度制御手段は、デジタルマイクロミラーデバイスである
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項5】
請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、さらに、
前記パルスレーザービームの偏光を所定の偏光に制御する偏光制御手段を有する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記偏光制御手段は、前記パルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記高分子化合物は、タンパク質である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記液滴は、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法またはサンドイッチドロップ法を実施する容器内に配置された
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記パルスレーザービーム出力手段は、モード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザ発振器である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項1】
高分子化合物溶液の液滴に対してパルスレーザービームを照射して高分子化合物の結晶化を促進する高分子化合物結晶化促進装置において、
パルスレーザービームを出力するパルスレーザービーム出力手段と、
前記レーザー発振器から出力されたパルスレーザービームを所定のパルス列に制御して切り出すシャッター手段と
を有し、
前記シャッター手段によって切り出されたパルスレーザービームのパルス列を高分子化合物溶液の液滴に対して照射する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記シャッター手段は、パルスピッカーまたはデジタルマイクロミラーデバイスである
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、さらに、
前記パルスレーザービームの前記液滴への照射強度を所定の照射強度に制御する照射強度制御手段を有する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記照射強度制御手段は、デジタルマイクロミラーデバイスである
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項5】
請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、さらに、
前記パルスレーザービームの偏光を所定の偏光に制御する偏光制御手段を有する
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記偏光制御手段は、前記パルスレーザービームの光路上に挿脱自在に配置された1/4波長板である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記高分子化合物は、タンパク質である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記液滴は、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法またはサンドイッチドロップ法を実施する容器内に配置された
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の高分子化合物結晶化促進装置において、
前記パルスレーザービーム出力手段は、モード同期フェムト秒パルスレーザービームを出力するフェムト秒レーザ発振器である
ことを特徴とする高分子化合物結晶化促進装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【公開番号】特開2006−342015(P2006−342015A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168783(P2005−168783)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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