説明

高分子多孔質中空糸膜

【課題】上水膜、飲料処理膜、血液処理膜など種々の水性流体処理膜、特にポリフェノールを含有する飲料処理において、優れた分画特性、透過性を有しながら、モジュール成形時や実際の使用時に破断やリークを招くことのない十分な強度を有し、これらの性能、特性の経時的な低下の抑制が実現され、洗浄による膜特性の回復性に優れると同時に、特にポリフェノールを含有する飲料の処理においては、風味調整効果をも期待できる高分子多孔質中空糸膜を提供する。
【解決手段】本発明の高分子多孔質中空糸膜は、疎水性高分子と親水性高分子を含んでなり、内外両表面で規定される表面積1mあたりのポリフェノールの吸着量が50〜500mgであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性流体の処理に使用される高分子多孔質中空糸膜に関する。詳しくは、疎水性高分子と親水性高分子を含んでなり、内表面および外表面に緻密層を有し、内表面から外表面に向かって当初空孔率が増大し、少なくともひとつの極大部を通過後、再び外表面側で空孔率が減少する特徴的な構造を有すると同時に、内外両表面で規定される表面積1mあたりのポリフェノールの吸着量が50〜500mgである、特にポリフェノールを含有する飲料を濾過するのに好適な高分子多孔質中空糸膜であって、長期間の安定した膜性能、洗浄による膜性能の回復性に優れると同時に、飲料の風味成分であると同時に雑味成分であるポリフェノールとの相互作用が最適化され、飲料の風味を整えることが可能な高分子多孔質中空糸膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性流体の処理を目的とした中空糸膜は、精密濾過、限外濾過などの工業用途や、血液透析、血液濾過、血液透析濾過などの医療用途に広く利用されている。特に近年、ワインやビールなど、ポリフェノールを含有する飲料の製造プロセスにおいて、中空糸膜による濾過が広く利用されてきている。これらの膜の素材としてはセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリルなどが用いられている。
【0003】
このような中空糸膜に求められる基本的な特性としては、例えば、次の各点が挙げられる。
(1)被除去物質の除去性が高いこと
(2)透過物質の透過性が高いこと
((1)、(2)をあわせて分画特性)
(3)処理流体の透過性が高いこと(透過性)
((1)、(2)、(3)をあわせて膜特性)
(4)強度が十分に高く破断やリークしにくいこと(強度)
(5)分画特性が経時的に低下しないこと(分画特性の保持性)
(6)処理流体の透過性が経時的に低下しないこと(透過性の保持性)
((5)、(6)をあわせて膜特性の保持性)
また、飲料濾過膜など長期間にわたり使用される膜においては、
(7)洗浄による分画特性の回復に優れていること(分画特性の回復性)
(8)洗浄による透過性の回復に優れていること(透過性の回復性)
((7)、(8)をあわせて膜特性の回復性)
も加えられる。
【0004】
従来、中空糸膜は上記(3)の濾過性能の向上に注目して開発されたものが多く、それ以外の特性が犠牲になることがあった。膜の透過性を向上させるには、孔径を大きくする方法が一般的であるが、これは同時に分画性能と強度の低下を招く傾向にある。
【0005】
中空糸膜は膜の構造から、中空糸膜の膜厚方向で孔径が実質的に変化しない対称膜と、孔径が連続的あるいは不連続的に変化し、膜の内表面、内部、外表面で孔径が異なっている非対称膜に大別される。このうち対称膜は、濾過にあたって膜厚部分全体が流体の流れに対し大きな抵抗を示し、大きな流量を得ることが困難である上、溶質(被除去物質)の目詰まりが生じやすいという欠点がある。
【0006】
流体の濾過による被除去物質の除去には、膜表面の孔径による表層効果と、膜厚部分による深層効果の双方による寄与がある。このうち主として深層効果に依存する分離は、分画特性の鋭敏化が期待できるが、ある程度の厚みを利用しての分離であるため、大きな流量を得るのが困難であり、非除去物質の目詰まりによって経時的に流量が低下するという短所が存在する。前述の対称膜においては、この深層効果の寄与が比較的大きいために、上記の欠点が顕在化しやすいと考えられる。
【0007】
このような背景から、分画特性と透過性を主として規定する薄い緻密層を設けた非対称膜の検討がなされている。特許文献1では、内面に存在する孔の形が滑らかな周を有する楕円形〜円形で最大長径が少なくとも0.1μmであり、外面にスキン層、断面にマクロボイドを有さない芳香族ポリスルホン中空糸膜が開示されている。この技術においては、孔の形を楕円形〜円形にすることでシャープな分画特性を実現し、血液濾過時に血球成分に対してかかる局部的な力を低減させることで溶血などの問題を解決しうるとされている。確かに孔の形を制御することでこのような効果は期待できるであろうが、ここでは、断面部分での構造についての配慮が不十分であり、特に膜特性の保持性や膜特性の回復性についての配慮は欠落している。
【0008】
特許文献2では、芳香族ポリスルホンとポリビニルピロリドンからなり、特定のポリビニルピロリドン含量、膜構造、破断強度が規定された中空糸状精密濾過膜が開示されている。この膜は、透過性を向上させるために、膜内表面の孔径を制御することが好ましく、具体的には、濾過により阻止しようとする物質の径よりも小さい孔径でなければならず、0.01〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μmであるとされている。しかしながら、孔の形状やサイズによっては孔径を測定しても誤差が大きくなるため、内圧濾過時の阻止径が0.015〜1μmであることが必要であるとされている。また、膜の破断強度が50kgf/cm未満では、リーク等が多発し実用的でないことから、少なくとも50kgf/cm以上であるとの記載が見られる。また、濾過液が血液であった場合の配慮として、血漿タンパク質の吸着を抑制するために親水性であるポリビニルピロリドンの膜内表面における濃度が20〜45重量%であるとされている。この技術においては、高い強度、高い透水性能(高い透過性)、目詰まりが少ないこと(分画特性の保持性)について考慮されており、事実、これらの問題点についてある程度の解決はなされているものと考えられるが、上水膜、飲料処理膜として長期間にわたり使用した場合の膜性能の保持性、洗浄による膜特性の回復性についての記載は見られず、未だ配慮が不十分であると言わざるを得ない。
【0009】
特許文献3では、ε−カプロラクタム可溶性のポリマーからなり、500〜5000000ダルトンの分離限界を有する分離層A、流体力学的抵抗は分離層Aおよび層Cに対して無視できるほど小さい支持層B、孔径は分離層Aよりは大きいが支持層Bよりは小さい層Cの多層多重構造からなる半透膜が開示されているが、この技術において解決すべき課題として記載されているのは、分離限界および流体力学的透過性が正確に調整でき、その際、分離限界とは独立して流体力学的透過性が正確に調整でき、これにより要求に応じて低域、中間域または高域の透過度を有する指定の分離限界を有する膜の製造が可能となる膜の提供とされており、強度、膜特性の保持性、膜性能の回復性については配慮されていない。
【0010】
また、構造的にこれに類似した膜として特許文献4では、膜内壁部表面近傍層における微細孔の孔径が500nm以下であり、膜厚方向断面に分布する微細孔の分布において少なくとも1つ以上の極大孔径を有し、その極大孔径が特定の値である膜が開示されている。この技術は、実質的には生体適合性に優れた医療用膜についてのものであり、血液と接触する内表面の緻密化で高分子量タンパク質の膜内部への侵入の抑制、高分子量タンパク質と膜の接触面積低減を図り、生体適合性の向上を狙っている。また、膜断面の孔径極大部を経て、外面近傍で再び緻密な構造とするのは、膜外面からのエンドトキシンフラグメントの侵入を抑制するためである。すなわち、膜の密−疎−密構造は、血液処理膜としての物質除去能力、生体適合性、エンドトキシン侵入抑制のために必要な構造であり、それ以外、例えば、膜特性の保持性、膜性能の回復性との関わりについての記載は見られない。
【0011】
また、ポリフェノールの処理という観点から、特許文献5では、ポリフェノールを含む液体にポリビニルポリピロリドン(以下PVPPと略記する)とラッカーゼ酵素活性を有する物質を併用してポリフェノールを除去する方法が開示されている。この技術は、ラッカーゼ酵素活性を有する物質により、PVPPに吸着されやすい大きさにポリフェノールを重合させた後、PVPPに吸着させて分離、除去するのが特徴であり、処理後のPVPPを除去するプロセスが不可欠であるため、工程が煩雑になってしまう。
【0012】
特許文献6では、シリカキセロゲルと架橋ポリビニルピロリドンを含む組成物によって単一段階処理法によって効率的にビールを清澄化する技術が開示されているが、やはり清澄化処理後には組成物を除去するプロセスが必要である。
【0013】
特許文献7では、飲料と水不溶性多孔質親水マトリックスを接触させ、マトリックスから飲料を回収するヘイズ発生物質を含有する飲料の安定化方法が開示されており、マトリックスの形状の一例として膜が挙げられている。しかしながら、マトリックスとして膜を選択した場合の膜の構造、特性についての記載は見られず、実質的にはビーズ型のマトリックスによるカラムでの処理方法に関するものである。従って、この技術においては膜濾過による透過物質と被除去物質の分離に関する考慮は不十分である。
【0014】
このように、公知技術において、ポリフェノールとの相互作用、膜構造および親水性高分子の含量の組み合わせにより、ポリフェノールを含有する飲料への利用が特に好適である膜を得るという技術的な発想は見られなかった。
【特許文献1】特公平07−022690号公報
【特許文献2】特許第3594946号公報
【特許文献3】特表平11−506387号公報
【特許文献4】特開平09−047645号公報
【特許文献5】特開2004−267177号公報
【特許文献6】特表2002−515236号公報
【特許文献7】特開平10−042852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、上水膜、飲料処理膜、血液処理膜など種々の水性流体処理膜、特にポリフェノールを含有する飲料処理において、優れた分画特性、透過性を有しながら、モジュール成形時や実際の使用時に破断やリークを招くことのない十分な強度を有し、これらの性能、特性の経時的な低下の抑制が実現され、洗浄による膜特性の回復性に優れると同時に、特にポリフェノールを含有する飲料の処理においては、風味調整効果をも期待できる高分子多孔質中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、水性流体の処理に使用される中空糸膜に要求される基本特性である膜特性(分画特性および透過性)、強度、膜特性の保持性、膜特性の回復性、全てに配慮し、これらを高いレベルで同時に実現した高分子多孔質中空糸膜を得るために鋭意検討した結果、特定の構成により上記課題を解決することができた。また、膜構造と親水性高分子の含量、ポリフェノールの吸着特性に注目することで、ポリフェノールを含有する飲料を処理するのに好適な膜を得ることができ、本発明に至った。
【0017】
すなわち本発明の高分子多孔質中空糸膜は、
(1)疎水性高分子と親水性高分子を含んでなり、内外両表面で規定される表面積1mあたりのポリフェノールの吸着量が50〜500mgであることを特徴とする。
(2)該高分子多孔質中空糸膜において、
(a)内表面および外表面に緻密層を有し、
(b)内表面から外表面に向かって当初空孔率が増大し、少なくともひとつの極大部を通過後、再び外表面側で空孔率が減少し、
(c)内表面における親水性高分子の含量が10〜40wt%、膜全体での親水性高分子の含量が0.5〜10wt%である
ことを特徴とする。
(3)ポリフェノールを含有する飲料の濾過に用いることを特徴とする。
(4)膜厚をD[μm]、25℃における純水の透過性をF[L/(h・m・bar)]としたとき、
(a)40≦D≦400 かつ
(b)400≦F≦4000
であることを特徴とする。
(5)中空糸膜の内表面をIS、中空糸膜の断面での空孔率極大部をCSmaxとし、各部位の孔径をそれぞれdIS、dCSmax、各部位の空孔率をpIS、pCSmaxとしたとき、
(a)0.01[μm]≦dIS≦1[μm] かつ
(b)0.1[μm]≦dCSmax≦10[μm] かつ
(c)5[%]≦pIS≦30[%] かつ
(d)40[%]≦pCSmax≦80[%]
であることを特徴とする。
(6)実質的に不溶成分を含有しないことを特徴とする。
(7)親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする。
(8)疎水性高分子がポリスルホン系高分子であることを特徴とする。
(9)疎水性高分子がフェノール性水酸基を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、上水膜、飲料処理膜、血液処理膜など種々の水性流体処理膜に利用が可能であり、膜特性の保持性、洗浄による膜特性の回復性に優れることから、上水膜、飲料処理膜などの工業用膜として好ましく利用され得る。特に、ポリフェノールとの相互作用が最適化されているため、ポリフェノールを含有する飲料の風味を整えることが可能であり、ポリフェノール含有飲料処理膜として好ましく利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、疎水性高分子と親水性高分子を含んでなることが好ましく、親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(以下PVPと略記する)、カルボキシメチルセルロース、デンプンなどの高分子炭水化物などが例示される。中でも、ポリスルホンとの相溶性、水性流体処理膜としての使用実績、ポリフェノールとの相互作用から、PVPが好ましい。これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。PVPの分子量としては重量平均分子量10000〜1500000のものが好ましく用いられ得る。具体的には、BASF社より市販されている分子量9000のもの(K17)、以下同様に45000(K30)、450000(K60)、900000(K80)、1200000(K90)を用いるのが好ましい。
【0020】
本発明における疎水性高分子としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスルホン(以下PSfと略記する)、ポリエーテルスルホン(以下PESと略記する)、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどが例示される。中でも、下記の式[1]、[2]で示される繰返し単位を有するPSf、PESなどのポリスルホン系高分子は高い透水性の膜を得るのに有利であり、好ましい。ここで言うポリスルホン系高分子は、官能基やアルキル基などの置換基を含んでいてもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲンなど他の原子や置換基で置換されていてもよい。また、これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
本発明に使用される疎水性高分子は、フェノール性水酸基を含有するのが好ましい。詳細な機構等は明らかでないが、フェノール性水酸基と親水性高分子が相互作用することによってある種のアンカー効果をもたらし、中空糸膜とポリフェノールとの相互作用が最適化されるものと考えられる。具体的には、上記ポリスルホン系高分子の構造を有し、末端がヒドロキシフェニル基となった疎水性高分子が好ましく用いられる。
【0024】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、内表面および外表面に緻密層を有し、内表面から外表面に向かって当初空孔率が増大し、少なくともひとつの極大部を通過後、再び外表面側で空孔率が減少する構造であることを特徴とする。本発明における孔径、空孔率は乾燥膜の電子顕微鏡写真をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトにより解析して数値化することにより求められる。具体的には、画像解析ソフトに読み込んだ画像の総面積、空孔部分の面積の総和、空孔部分の個数から、次の式[3]で空孔率が、式[4]および[5]で孔径(平均孔径)が求められる。
空孔率[%]=100×(空孔部分の面積の総和/読み込んだ画像の総面積) [3]
空孔の面積(平均空孔面積)[μm]=空孔部分の面積の総和/空孔部分の個数 [4]
孔径(平均孔径)[μm]=(平均空孔面積/π)1/2 [5]
【0025】
本発明において、孔の形状は特に制限されないが、上記の式[5]でわかるように孔を円形と近似してその面積から孔径を算出しているので、スリット状、紡錘状、不定形状などの形状で円形から著しく異なっている場合には算出値と実態との乖離が大きくなってしまうので、楕円形または円形であることがより好ましい。
【0026】
内表面および外表面に緻密層を有するということは、内表面および外表面が分画特性と透過性を規定するということを意味する。水性流体を内部灌流でクロスフロー濾過により処理する場合、内表面では流体によるせん断力が生じるため、表面への被除去物質の積層を避けやすい。この際、表面に緻密層があることでよりその効果は高くなる。また、この緻密層の背後の部分は、大孔径、大空孔率のスポンジ状支持層となっているほうが、流体の抵抗が低くなり、高透過性を得られやすい点で有利である。すなわち、膜構造は、内表面−膜内部で密−疎となった構造が好ましい。これとは逆の疎−密構造では、膜厚部分への被除去物質の目詰まりが進行してしまい、好ましくない。ところが、孔径には必然的に分布が存在するため、被除去物質がトラップされず、ある程度すり抜けてしまうことは避け難い。このため、内表面の薄い緻密層のみで分画特性が規定される膜では、分画特性の鈍化を来たしたり、また、鋭敏な分画特性を得るには中空糸膜の生産性が犠牲となる問題がある。
【0027】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、内外両表面に緻密層を持つため、内表面の緻密層をすり抜けた被除去物質は外表面の緻密層でトラップされる可能性があるため、より鋭敏な分画特性を得ることができる。
【0028】
ここで、膜壁部分において空孔率が極大となる部位は、膜壁の中央からやや内表面よりに存在することが好ましい。このような構造をとることで、内面近傍においては表面から内部方向への孔径分布の傾きが大きくなり、分画既定層が薄くなることで透過性の向上に寄与する。また、外面近傍では内部から表面方向への孔径分布の傾きが小さくなり、深層濾過の効果によって分画に寄与する。
【0029】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、内表面が緻密層であることにより、クロスフロー濾過による内表面でのせん断力の効果も効いて、膜特性が保持されやすい。さらに、密−疎−密構造の内表面が緻密層であるため、逆洗時に被除去物質が外れやすく、膜特性の回復性に優れる。外面緻密層でも被除去物質のトラップは行われていると考えられるが、逆洗時には孔径小→孔径大方向に洗浄液が流れるので、外れやすい。また、詳細な機構は不明だが、恐らくは密−疎−密の構造のため、膜壁内部での洗浄液の流れが非直線的にランダム化することで、洗浄効果がより高まるものと考えられる。
【0030】
長期の安定した透過性、分離特性を得るためには、膜への被処理液由来物質の非特異的な吸着を抑制することが必要である。水性流体を膜処理する場合、膜素材の親水性を高めることによってこのような非特異吸着は低下させることができるが、親水性高分子溶離の可能性もあり、効果的に極力抑えた量の導入が好ましい。また、親水性高分子はポリフェノールとの相互作用によってポリフェノールを吸着する。さらに、疎水性と親水性のバランスもポリフェノールの吸着に影響するが、本発明においては、中空糸膜内表面の親水性高分子の含量が10〜40wt%、膜全体での親水性高分子の含量が0.5〜10wt%であることが好ましい。これを満足することにより、全体の量は親水性付与およびポリフェノールとの相互作用に必要かつ十分な量が、被処理液と主に接触する膜表面、特に分離特性を規定する内表面に濃縮されて存在することになり、好ましい。中空糸膜内表面の親水性高分子の含量は20〜30wt%がより好ましく、25〜30wt%がさらに好ましい。また、膜全体での親水性高分子の含量は1〜5wt%がより好ましく、1〜3wt%がさらに好ましく、1.5〜2.5wt%がさらにより好ましい。
【0031】
本発明においては、内外両表面で規定される表面積1mあたりのポリフェノールの吸着量が50〜500mgであることが好ましい。これを満足することでポリフェノールとの相互作用が最適化され、飲料の風味を整える効果が最適化される。ポリフェノール吸着量がこれよりも大きいと、ポリフェノール含有飲料を濾過した場合のポリフェノール吸着が過剰となり、飲料の風味が損なわれることがある。これよりもポリフェノール吸着量が小さいと、ポリフェノール吸着が過少となり、雑味や濁りを残すことがある。したがって、該吸着量は80〜460mgがより好ましく、110〜420mgがさらに好ましく、130〜410mgがさらにより好ましい。
なお、吸着されたポリフェノールは、飲料濾過などの工程で一般的に実施されている薬剤洗浄(アルカリ性条件下での薬剤洗浄)によって脱着するので、本発明の高分子多孔質膜は長期間にわたり継続して飲料の風味を整える効果が期待できる。
【0032】
ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性水酸基を持つ植物成分の総称であって、光合成によって植物の産生する色素や苦味、渋味の成分であり、化合物としては5000種以上にもおよぶ。本発明においてポリフェノールとは、カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバノン、ケルセチンなどのフラボノイド、クロロゲン酸などのフェノール酸などのほか、フェニルカルボン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン、ルチンなど一般的にポリフェノールと呼称されている物質を包括して指す。本発明で言うポリフェノール吸着量は、ポリフェノールと呼称されるある特定の化合物の吸着量であってもよいし、複数の化合物の混合物の吸着量であってもよい。
【0033】
本発明の高分子多孔質中空糸膜の径は、使用される用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、内径は100〜1500μmが好ましく、より好ましくは130〜1300μmである。内径が小さすぎると、用途によっては被処理液中の成分により内腔の閉塞などが生じる可能性がある。また、内径が大きすぎると、中空糸膜のつぶれ、ゆがみなどが生じやすくなる。
【0034】
本発明の高分子多孔質中空糸膜においては、膜厚と純水の透過性が特定範囲内にあることが好ましい。膜厚が厚く、透過性が低い場合には、膜通過時の膜壁部分の被処理液の接触時間が長くなり、逆に膜厚が薄く、透過性が高い場合には、膜通過時の膜壁部分の被処理液の接触時間が短くなる。接触時間が長い場合には、ポリフェノール含有飲料を濾過した場合のポリフェノール吸着が過剰となり、飲料の風味が損なわれることがある。逆に接触時間が短い場合にはポリフェノール吸着が過少となり、雑味や濁りを残すことがある。
このような観点から、膜厚は40〜400μm、25℃での純水の透過性が400〜4000L/(h・m・bar)であるのが好ましい。また、膜厚が小さすぎると、中空糸膜のつぶれ、ゆがみなどを生じやすくなる。膜厚が大きすぎると、処理流体が膜壁を通過する際の抵抗が大きくなり、透過性が低下する可能性がある。
【0035】
本発明の高分子多孔質中空糸膜の内表面における孔径は、0.01μm〜1μmであることが好ましい。孔径が小さすぎると透過性が低くなることがあり、大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
また、内表面における空孔率は5%〜30%であることが好ましく、7%〜25%であることがより好ましい。空孔率が小さすぎると透過性が低くなることがあり、大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
【0036】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は膜壁部分に空孔率が極大となる部位が存在するのが特徴のひとつであるが、この極大部における孔径は、内表面、外表面での孔径よりも大きく、かつ、0.1μm〜10μmであることが好ましく、0.2μm〜8μmであることがより好ましい。極大部における孔径が小さすぎると膜構造の傾斜が緩やかとなるため、膜特性、膜特性の保持性、膜特性の回復性が低下することがある。また、極大部における孔径が大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
また、極大部における空孔率は、内表面、外表面での空孔率よりも大きく、かつ、40%〜80%であることが好ましく、45%〜70%であることがより好ましい。空孔率が小さすぎると膜構造の傾斜が緩やかとなるため、膜特性、膜特性の保持性、膜特性の回復性が低下することがある。極大部における空孔率が大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
【0037】
外表面における孔径は特に制限されないが、0.02〜2μmが好ましい。孔径が小さすぎると透過性が低くなることがあり、大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
外表面における空孔率は特に制限されないが、5%〜30%であることが好ましく、7%〜25%であることがより好ましい。空孔率が小さすぎると透過性が低く、隣接する中空糸膜同士の固着がおこりやすくなり、大きすぎると膜の強度が低下する可能性がある。
なお、ここでいう空孔率、孔径とはそれぞれ、前記式[3]で得られる空孔率、[4]および[5]で得られる平均孔径である。
【0038】
架橋などの処理によって構造の一部を改変した親水性高分子は、本来その親水性高分子が持つ特性と微妙に異なる挙動を示すことが考えられる。水性流体処理時の膜特性、およびその保持性を確保するために、本発明の高分子多孔質中空糸膜に含まれる親水性高分子は実質的に不溶化されていないことが好ましく、具体的には不溶成分の含有率が膜全体に対して2重量%未満であることが好ましい。ここで言う不溶成分の含有率は、成形、乾燥された中空糸膜を製膜原液に使用される溶媒に溶解した際に、溶解せずに残存する成分の比率を意味する。具体的には、以下の方法で算出される含有率を意味する。すなわち、中空糸膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を遠心分離機で1500rpm、10分間かけた後上澄みを除去する。残った不溶物に再度、100mlのジメチルホルムアミドを添加して、撹拌をおこなった後、同条件で遠心分離操作をおこない、上澄みを除去する。再び、100mlのジメチルホルムアミドを添加して撹拌し、同様の遠心分離操作をおこなった後、上澄みを除去する。残った固形物を蒸発乾固して、その量から不溶成分の含有率を求める。
【0039】
本発明の高分子多孔質中空糸膜の基本部分の製造方法はなんら限定されるものではなく、疎水性高分子、親水性高分子、溶媒、非溶媒を混合溶解し、脱泡したものを製膜溶液として芯液とともに二重管ノズルの環状部、中心部から同時に吐出し、空走部(エアギャップ部)を経て凝固浴中に導いて中空糸膜を形成し(乾湿式紡糸法)、水洗後巻き取り、乾燥する方法が例示される。
【0040】
製膜溶液に使用される溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略記する)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略記する)、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略記する)、ε−カプロラクタムなど、使用される疎水性高分子、親水性高分子の良溶媒であれば広く使用することが可能であるが、疎水性高分子としてPSf、PESなどのポリスルホン系高分子を使用する場合には、NMP、DMF、DMAcなどのアミド系アプロティック溶媒が好ましく、NMPが特に好ましい。なお、本発明においてアミド系溶媒とは、構造中にN−C(=O)のアミド結合を含有する溶媒を意味し、アプロティック溶媒とは、構造中において炭素原子以外のヘテロ原子に直接結合した水素原子を含有していない溶媒を意味する。
【0041】
また、製膜溶液には高分子の非溶媒を添加することも可能である。使用される非溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール(以下DEGと略記する)、トリエチレングリコール(以下TEGと略記する)、ポリエチレングリコール(以下PEGと略記する)、グリセリン、水などが例示されるが、疎水性高分子としてPSf、PESなどのポリスルホン系高分子、親水性高分子としてPVPを使用する場合には、DEG、TEG、PEGなどのエーテルポリオールが好ましく、TEGが特に好ましい。なお、本発明においてエーテルポリオールとは、構造中に少なくともひとつのエーテル結合と、ふたつ以上の水酸基を有する物質を意味する。
【0042】
詳細な機構は不明であるが、これらの溶媒、非溶媒を使用して調製した製膜原液を使用することで、紡糸工程における相分離(凝固)が制御され、本発明の好ましい膜構造を形成するのに有利になると考えられる。なお、相分離の制御には、後述の芯液組成や凝固浴中の液(外部凝固液)の組成も重要になる。
【0043】
製膜原液における疎水性高分子の濃度は、該原液からの製膜が可能であれば特に制限されないが、10〜35重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。高い透過性を得るには疎水性高分子の濃度は低いほうが好ましいが、過度に低いと強度の低下や、分画特性の悪化を招く可能性があるので、15重量%以上が好ましい。
親水性高分子の添加量は、中空糸膜に親水性を付与し、水性流体処理時の非特異吸着を抑制するのに十分な量であれば特に制限されないが、疎水性高分子に対する親水性高分子の比率として10〜30重量%が好ましく、10〜20重量%がより好ましい。親水性高分子の添加量が少なすぎると、膜への親水性付与が不十分となり、膜特性の保持性が低下する可能性がある。また、親水性高分子の添加量が多すぎると、親水性付与効果が飽和してしまい効率がよくなく、また、製膜原液の相分離(凝固)が過度に進行しやすくなり、本発明の好ましい膜構造を形成するのに不利となることがある。
【0044】
製膜原液中における溶媒/非溶媒の比は、紡糸工程における相分離(凝固)の制御に重要な要因となる。具体的には、溶媒/非溶媒の含有量が重量比で30/70〜70/30であることが好ましく、35/65〜60/40であることがより好ましく、35/65〜55/45であることがさらに好ましい。溶媒の含有量が少なすぎると、凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、溶媒含有量が多すぎると、相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性が大きくなる。
【0045】
製膜原液は、疎水性高分子、親水性高分子、溶媒、非溶媒を混合、攪拌して溶解することで得られる。この際、適宜温度をかけることで効率的に溶解を行うことができるが、過度の加熱は高分子の分解を招く危険があるので、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜80℃である。また、親水性高分子としてPVPを使用する場合、PVPは空気中の酸素の影響により酸化分解を起こすことから、紡糸溶液の溶解は不活性気体封入下で行うのが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴンなどが上げられるが、窒素を用いるのが好ましい。このとき、溶解タンク内の残存酸素濃度は3%以下であることが好ましい。窒素封入圧力を高めてやれば溶解時間短縮が望めるが、高圧にするには設備費用が嵩む点と、作業安全性の面から大気圧以上2kgf/cm以下が好ましい。
【0046】
製膜を行うに際しては、中空糸膜への異物混入による膜構造の欠陥の発生を回避するために、異物を排除した製膜原液を使用することが好ましい。具体的には、異物の少ない原料を用いる、製膜原液を濾過し異物を低減する方法等が有効である。本発明では、中空糸膜束の膜厚よりも小さな孔径のフィルターを用いて製膜原液を濾過してからノズルより吐出するのが好ましく、具体的には均一溶解した紡糸溶液を溶解タンクからノズルまで導く間に設けられた孔径10〜50μmの焼結フィルターを通過させる。濾過処理は少なくとも1回行えば良いが、ろ過処理を何段階かにわけて行う場合は後段になるに従いフィルターの孔径を小さくしていくのが濾過効率およびフィルター寿命を延ばす意味で好ましい。フィルターの孔径は10〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。フィルター孔径が小さすぎると背圧が上昇し、生産性が落ちることがある。
【0047】
また、製膜原液からは気泡を排除するのが欠陥のない中空糸膜を得るのに有効である。気泡混入を抑える方法としては、製膜原液の脱泡を行うのが有効である。製膜原液の粘度にもよるが、静置脱泡や減圧脱泡を用いることができる。この場合、溶解タンク内を常圧から−100〜−750mmHg減圧した後、タンク内を密閉し30分〜180分間静置する。この操作を数回繰り返し脱泡処理を行う。減圧度が低すぎる場合には、脱泡の回数を増やす必要があるため処理に長時間を要することがある。また減圧度が高すぎると、系の密閉度を上げるためのコストが高くなることがある。トータルの処理時間は5分〜5時間とするのが好ましい。処理時間が長すぎると、減圧の影響により製膜原液の構成成分が分解、劣化することがある。処理時間が短すぎると脱泡の効果が不十分になることがある。
【0048】
中空糸膜の製膜時に使用される芯液の組成は、製膜原液に含まれる溶媒および非溶媒と、水との混合液を使用することが好ましい。この際、芯液中に含まれる該溶媒と該非溶媒の比率は、製膜原液の溶媒/非溶媒比率と同一とすることが好ましい。製膜原液に使用されるのと同一の溶媒および非溶媒を、製膜原液中の比率と同一にして混合し、これに水を添加して希釈したものが好ましく用いられる。芯液中の水の含量は、10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%である。水の含有量がこれよりも多いと凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、水含有量がこれよりも少ないと相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。
【0049】
外部凝固液の組成は、製膜原液に含まれる溶媒および非溶媒と、水との混合液を使用することが好ましい。この際、芯液中に含まれる該溶媒と該非溶媒の比率は、製膜原液の溶媒/非溶媒比率と同一であることが好ましい。製膜原液に使用されるのと同一の溶媒および非溶媒を、製膜原液中の比率と同一にして混合し、これに水を添加して希釈したものが好ましく用いられる。外部凝固液中の水の含量は、30〜85重量%、好ましくは40〜80重量%である。水の含有量がこれよりも多いと凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、水含有量がこれよりも少ないと相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。また、外部凝固液の温度は、低いと凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、高いと相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性があるので、30〜80℃、好ましくは40〜70℃である。
【0050】
本発明において、膜構造を制御する因子のひとつには、ノズルの温度が挙げられる。ノズルの温度は、低いと凝固が進行しやすくなり、膜構造が緻密化しすぎて透過性が低下することがある。また、高いと相分離の進行が過度に抑制され、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性があるので、30〜90℃、好ましくは40〜80℃である。
【0051】
本発明の高分子多孔質中空糸膜を得る好ましい製造方法としては、芯液とともに二重管ノズルから吐出した製膜原液を、エアギャップ部分を経て外部凝固液を満たした凝固浴中に導いて中空糸膜を形成する乾湿式紡糸法が例示されるが、ノズルから吐出された製膜原液の、エアギャップ部分での滞留時間が膜構造を制御する因子のひとつとなり得る。滞留時間が短いと、エアギャップ部分での相分離による凝集粒子の成長が抑制された状態で外部凝固液によりクエンチされるので、外表面が緻密化して透過性が低下することがある。また、外表面の緻密化により、得られた中空糸膜が固着しやすい傾向がある。滞留時間が長いと、大孔径の空孔が生じやすくなり、分画特性や強度の低下を招く可能性がある。エアギャップにおける滞留時間の好ましい範囲は0.05〜4秒であり、0.1〜3秒がより好ましい。
【0052】
上記、比較的滞留時間の短いエアギャップ部分を経て、凝固浴に導かれた中空糸膜は、芯液からの凝固が進行しながら、外部からの凝固はある程度抑制された状態で、比較的凝固性のマイルドな外部凝固液と接触する。すなわち、凝固浴内に突入した直後の中空糸膜は未だ完全に構造が決定しない「生きた」状態にあるが、この「生きた」中空糸膜が凝固浴内で完全に凝固し、構造が決定されて引き上げられる。前述のとおり、外部凝固液の凝固性は比較的マイルドであるので、凝固浴内での滞留時間は完全に凝固が完了するまで十分にとる必要がある。具体的には、5〜20秒が好ましく、10〜20秒がより好ましい。凝固浴内での滞留時間がこれよりも短いと凝固が不十分となる可能性があり、これよりも長いと製膜速度の低下や凝固浴の大型化が必要となることがある。
【0053】
本発明の高分子多孔質膜は、内表面および外表面に緻密層を有し、内表面から外表面に向かって当初空孔率が増大し、少なくともひとつの極大部を通過後、再び外表面側で空孔率が減少する構造を持つのが大きな特徴であるが、このような構造を実現するには、上記の製膜原液を使用し、上記の紡糸条件によって中空糸膜を得る方法を採るのが好適である。内表面から外表面に向かって密−疎−密の非対称構造を構成させるには、中空糸膜の内側からの凝固(主として芯液による相分離・凝固)と外側からの凝固(主としてエアギャップ、外部凝固液での相分離・凝固)のバランスをとり、両者を拮抗させることで内外両表面から膜壁内部に向かっての凝固を制御しなければならない。そのための有効な制御手段が、上記芯液の組成、外部凝固液の組成・温度、エアギャップ部分での滞留時間、凝固浴内での滞留時間である。これらを上記の範囲に設定することによって、本発明の特徴的な膜構造を得ることができる。
【0054】
本発明の高分子多孔質中空糸膜を得るには、内外両表面からの凝固進行を微妙に制御する必要があるが、その際に注意しなければならない点として、中空糸膜の凝固浴中における屈曲がある。乾湿式紡糸においては、通常、下向きに配列したノズルから製膜原液を重力方向に吐出、エアギャップ部分を経て凝固浴に導き、凝固浴内で進行方向を上向きに変更して凝固浴から引き上げ、水洗浴での洗浄を経て巻き取るのが一般的である。本発明の高分子多孔質中空糸膜は、凝固浴内突入直後には完全に構造が決定しない「生きた」状態にあるので、凝固浴内での方向転換が急激に行われると、膜構造の欠陥や破壊を招く可能性がある。具体的には、方向転換時の曲率半径が20〜300mm、より好ましくは30〜200mm、さらに好ましくは40〜100mm、さらにより好ましくは40〜70mmである。また、多点ガイドを使用し、複数のポイントで徐々に方向を転換する方法も好ましい。
【0055】
本発明の高分子多孔質中空糸膜の製造において、完全に中空糸膜構造が固定される以前に実質的に延伸をかけないことが好ましい。実質的に延伸を掛けないとは、ノズルから吐出された紡糸溶液に弛みや過度の緊張が生じないように、紡糸工程中のローラー速度をコントロールすることを意味する。吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.7〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.7未満では、走行する中空糸膜に弛みが生じ生産性の低下につながることがあるので、ドラフト比は0.8以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、0.95以上がよりさらに好ましい。1.8を超える場合には中空糸膜の緻密層が裂けるなど膜構造が破壊されることがある。そのため、ドラフト比は、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、よりさらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.4以下である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜性能の保持性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
【0056】
製膜速度(紡速)については、欠陥のない中空糸膜が得られ、生産性が確保できれば特に制限されないが、好ましくは、5〜40m/min、より好ましくは7〜20m/minである。これよりも紡速が低いと、生産性が低下することがある。これよりも紡速が高いと、上記の紡糸条件、特にエアギャップ部分での滞留時間や、凝固浴内での滞留時間を確保するのが困難となる可能性がある。
【0057】
中空糸膜は製膜後、洗浄工程を経て得られる。中空糸膜の洗浄方法は特に制限されないが、洗浄効果、安全性、簡便性から、温水を満たした洗浄浴内に製膜された中空糸膜をそのままオンラインで走行させ、しかる後に巻き取るのが好ましい。この際使用される温水の温度は、常温〜100℃が好ましく、30℃〜90℃がさらに好ましい。これよりも低温では洗浄効果が不十分になったり、これよりも高温では洗浄液として水が使用できないことがある。
【0058】
製膜後、洗浄を経て得られた中空糸膜は、使用中や洗浄操作による膜特性の変化を抑制し、膜特性の保持性・安定性、膜特性の回復性を確保する目的で、加熱処理を施すのが好ましい。この加熱処理を熱水への浸漬処理とすることで、同時に、中空糸膜に残存する溶媒や非溶媒などを洗浄・除去する効果も期待できる。本発明の高分子多孔質中空糸膜を得るには、この熱水中への浸漬処理に先立ち、溶媒/非溶媒の水溶液と中空糸膜を接触させた状態で、しばらくエージングするのが好ましい手法である。このエージングを施すことによって、膜中の親水性高分子の含量、存在状態が最適化されることにより、ポリフェノールとの相互作用が最適化されると考えられる。この工程における溶媒/非溶媒の水溶液の濃度は、有機成分濃度として30〜70wt%、温度は15〜30℃、時間は10〜180minが好ましい。
【0059】
上記エージングを実施するには、完全に有機成分を除去した中空糸膜を再度溶媒/非溶媒の水溶液に浸漬してもよいが、紡糸後のオンラインでの洗浄条件を調整することで、芯液中の有機成分濃度を上記の好ましい範囲とし、そのまま上記好ましい温度、時間でエージングするのが簡便である。具体的には、
S = 中空糸膜の内腔の半径の2乗[mm]×芯液の有機成分濃度[%]÷100 [6]
H = 水洗浴中での中空糸膜の滞留時間[min]×水洗浴の水温[K] [7]
(水洗浴が複数個ある場合は、それぞれについて上記Hを算出し、その合計をもってHとする。)
で規定されるS、Hの値が、下記を満足する条件で水洗を実施するのがよい。
H/S = 500〜2500 [8]
ただし、水洗浴中の有機成分濃度は、常に上記有機成分濃度の1/10以下となるよう適宜液更新を実施するのが好ましい。
【0060】
上記エージングを経た中空糸膜の加熱処理に使用される熱水の温度は、60〜100℃、より好ましくは70〜90℃、処理時間は30〜120min、より好ましくは40〜90min、さらに好ましくは50〜80minである。温度がこれよりも低く、処理時間がこれよりも短いと中空糸膜にかかる熱履歴が不十分となり、膜特性の保持性・安定性が低下する可能性があり、また、洗浄効果が不十分となり溶出物が増加する可能性が高くなる。温度がこれよりも高く、処理時間がこれよりも長いと、水が沸騰してしまったり、処理に長時間を要するため生産性が低下することがある。熱水に対する中空糸膜の浴比は、中空糸膜が十分に浸る量の熱水を使用すれば、特に制限されないが、あまり多量の熱水を使用するのは、生産性が低下する可能性がある。
【0061】
製膜、加熱処理を完了した中空糸膜は、乾燥することによって、最終的に完成する。乾燥方法は、風乾、減圧乾燥、熱風乾燥など通常利用される乾燥方法が広く利用できる。最近、血液処理膜の乾燥などで利用されているマイクロ波乾燥なども利用可能であるが、簡便な装置で効率的に大量の中空糸膜を乾燥できる点で、熱風乾燥が好ましく利用され得る。乾燥に先立って、上記の加熱処理を施しておくことで、熱風乾燥による膜特性の変化も抑制することができる。熱風乾燥時の熱風温度は特に制限されないが、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。これよりも温度が低いと乾燥までに長時間を要し、これよりも温度が高いと熱風生成のためのエネルギーコストが高くなることがある。熱風の温度は、上記の熱水加熱処理を超えると膜の劣化を促進してしまい、特性の低下を招く可能性があるので、熱水加熱処理の温度よりも低いことが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における評価方法は以下の通りである。
【0063】
1.中空糸膜の電子顕微鏡による構造観察・解析
乾燥した中空糸膜を切断し、内表面、外表面、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、倍率10000倍または2000倍で撮影した。SEM写真を466dpiの解像度でコンピュータに取り込み、画像解析ソフトを使用して解析を行い、空孔率と平均細孔面積、細孔分布を求めた。具体的には、まず、取り込んだ画像を二値化処理し、空孔部が黒、構成ポリマー部分が白となった画像を得た。この画像を解析することにより、空孔部分の個数、各空孔部分の面積、空孔部分の面積の総和を得た。読み込んだ画像の総面積と、空孔項部分の面積の総和から、次式[3]により空孔率を算出した。
空孔率[%]=100×(空孔部分の面積の総和/読み込んだ画像の総面積) [3]
空孔部分の面積の総和と、空孔部分の個数から平均空孔面積を算出し、さらに空孔の形状を円と近似して、平均空孔面積から平均孔径を算出した。(次式[4]および[5])
空孔の面積(平均空孔面積)[μm]=空孔部分の面積の総和/空孔部分の個数 [4]
孔径(平均孔径)[μm]=(平均空孔面積/π)1/2 [5]
【0064】
2.ミニモジュールの作製
中空糸膜を約30cmの長さに切断し、両末端をパラフィンフィルムで束ねて中空糸膜束を作製した。この中空糸膜束の両端をパイプ(スリーブ)に挿入し、ウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、両末端がスリーブで固定された両端開口ミニモジュールを得た。中空糸膜の本数は、内面の表面積が50〜100cmになるよう適宜設定した。
【0065】
3.モジュールの作製
中空糸膜を約30cmの長さに切断し、ポリエチレンフィルムで巻いて中空糸膜束とした。この中空糸膜束を円筒型のポリカーボネート製モジュールケースに挿入し、両末端をウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、両末端が開口したモジュールを得た。中空糸膜の本数は、内面の表面積が約200cmとなるよう適宜設定した。なお、円筒状のモジュールケースは円筒面2箇所にポートを設け、中空糸膜の外面を流体が灌流できるようにし、両末端にはエンドキャップを装着して、中空糸膜の内面を流体が灌流できるようにした。
【0066】
4.ループ型ミニモジュールの作製
中空糸膜を約40cmの長さに切断し、ループ型に束ね、端部をパラフィンフィルムで固定した。このループ型中空糸膜束の端部をパイプ(スリーブ)に挿入し、ウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、端部がスリーブで固定されたループ型ミニモジュールを得た。中空糸膜の本数は、内面の表面積が20〜50cmになるよう適宜設定した。
【0067】
5.中空糸膜の内径、膜厚の測定
中空糸膜を長さ方向に対して垂直に鋭利な剃刀でカットし、断面を20倍の顕微鏡で観察する、内径値と外径値をそれぞれn=10で測定し、平均値を算出する。
膜厚[μm]={(外径)−(内径)}/2
【0068】
6.膜面積の計算
モジュールの膜面積は中空糸膜の内面側の径を基準として求めた。次式[6]によってモジュールの膜面積が計算できる。
A=n×π×d×L [9]
ここで、nは中空糸膜の本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径[m]、Lはモジュールにおける中空糸膜の有効長[m]である。
【0069】
7.透水率(純水Fluxと略記する)の測定
モジュールのエンドキャップ2箇所(それぞれ内面流入口、内面流出口と呼称する)に回路を接続し、モジュールへの純水の流入圧とモジュールからの純水の流出圧を測定できるようにした。中空糸膜の内外両面に純水を満たした。内面流入口から純水をモジュールに導入し、内面流出口に接続した回路(圧力測定点よりも下流)を鉗子で封じて流れを止め、モジュールの内面流入口から入った純水を全濾過するようにした。25℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、25℃恒温槽で保温したモジュールへ純水を送り、透析液流出口から流出した濾液量をメスシリンダーで測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2 [10]
とした。ここで、Piはモジュールの内面流入口側圧力、Poはモジュールの内面流出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから純水Flux[L/h/bar]を算出した。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならないとした。中空糸膜の純水Fluxは膜面積とモジュールの透水率から算出した。
純水Flux=純水Flux(M)/A [11]
ここで純水Fluxは中空糸膜の透水率[L/m/h/bar]、純水Flux(M)はモジュールの透水率[L/h/bar]、Aはモジュールの膜面積[m]である。
【0070】
8.中空糸膜表面におけるPVP含量の測定
中空糸膜1本を両面テープ上に貼り付け、ナイフで開腹した後展開して内表面を露出させた。これを試料台に貼り付けてElectron Spectroscopy for Chemical Analysis(ESCA)での測定を行った。なお、上記の操作は中空糸膜内表面の測定を実施する際のものであるが、外表面の測定時には、開腹・内表面露出は不要であり、単に両面テープで中空糸膜を試料台に貼り付けて測定した。測定条件は次に示すとおりであった。
測定装置:アルバック・ファイ ESCA5800
励起X線:MgKα線
X線出力:14kV、25mA
光電子脱出角度:45°
分析径:400μmφ
パスエネルギー:29.35eV
分解能:0.125eV/step
真空度:約10−7Pa以下
窒素の測定値(N)と硫黄の測定値(S)から、次式[12]または[13]により膜表面でのPVP含量を算出した。
<PVP添加PES膜の場合>
PVP含量[重量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×232) [12]
<PVP添加PSf膜の場合>
PVP含量[重量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×442) [13]
【0071】
9.中空糸膜全体におけるPVP含量の測定
中空糸膜をDMSO−d6に溶解させ、60℃で1H−NMRを測定した。測定には、Brucker社製Avance−500を使用した。1H−NMRスペクトルにおける7.2ppm付近のポリスルホン系高分子の芳香環由来のピーク(a)と、2.0ppm付近のPVPのピロリドン環由来のピーク(b)の積分強度比より、次式[14]でPVPの含量を算出した。
PVP含有率[重量%]
={(b/nb)×111×100}/{(a/na)×Ma+(b/nb)×111} [14]
ただし、Maはポリスルホン系高分子の繰り返し単位の分子量、111はPVPの繰り返し単位の分子量、naは繰り返し単位中に含まれる上記aのプロトンの個数、nbは繰り返し単位中に含まれる上記bのプロトンの個数を示す。
【0072】
10.中空糸膜のポリフェノール吸着量
太陽化学社製緑茶抽出物サンフェノン100Sを純水に溶解し、100ppm溶液とした(以下緑茶ポリフェノール溶液と略記する)。この緑茶ポリフェノール溶液10mLに対して、内面、外面の面積の合計が10cmとなる量の中空糸膜を浸漬し、常温で60min間穏やかに攪拌した。中空糸膜接触前の緑茶ポリフェノール溶液と、中空糸膜接触後の緑茶ポリフェノール溶液を適当に希釈し、それぞれ280nmにおける吸光度を測定して次式[15]でポリフェノール吸着量を算出した。
ポリフェノール吸着量[mg/m
=1000×{(AbsB×Nb−AbsA×Na)/(AbsB×Nb)}×V/Sf [15]
ただし、AbsBは中空糸膜接触前の緑茶ポリフェノール溶液の吸光度、Nbは中空糸膜接触前の緑茶ポリフェノール溶液の吸光度を測定した際の希釈倍率、AbsAは中空糸膜接触後の緑茶ポリフェノール溶液の吸光度、Naは中空糸膜接触後の緑茶ポリフェノール溶液の吸光度を測定した際の希釈倍率、Vは使用した緑茶ポリフェノール溶液の量[mL]、Sfは使用した中空糸膜の外面、内面の面積の合計[cm]を示す。
【0073】
11.ワイン透過率(ワインFluxと略記する)の測定
ヒトミワイナリー社から市販されている濁りワイン「にごり生葡萄酒−凛−赤」を、メルシャン社から市販されている「ワインライフ[赤]」で希釈し、濁度が10NTUになるよう調整した(以下評価用ワインと呼称する)。モジュールはRO水に1時間以上浸漬した後、評価用ワインで置換し、内外両面に評価用ワインを満たした。容器内に評価用ワインを満たし、22℃になるよう温度を制御した。この容器からポンプを介して評価用ワインがモジュールの内面を灌流して容器に戻ると同時に、中空糸膜によって濾過された評価用ワインも容器に戻るよう回路を組んだ。その際、モジュールへの評価用ワインの流入圧とモジュールからの評価用ワインの流出圧を測定できるようにした。中空糸膜の内腔を、評価用ワインが1.5m/secの流速で流れるように、内面流入口から評価用ワインを導入した。この際、TMPは約1.5barになるよう調整した。この状態で、中空糸膜内腔に評価用ワインを灌流、一部を濾過するクロスフロー濾過を継続して実施した。所定の時間が経過した時点で、一定時間に濾過されるワインの量を測定した(例えば灌流開始後10〜11minの時点における濾過量、20〜21minの時点における濾過量)。ワインFluxを次式[16]により算出した。
ワインFlux[L/m/h/bar]
=(1分あたりのワイン濾過量[L/min]×60/A)/TMP[bar] [16]
ただし、Aはモジュールの膜面積[m]である。
【0074】
12.中空糸膜の孔径、空孔率、平均空孔面積の測定
孔径、空孔率は乾燥膜の電子顕微鏡写真をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトにより解析して数値化することにより求められる。具体的には、画像解析ソフトに読み込んだ画像の総面積、空孔部分の面積の総和、空孔部分の個数から、次の式[3]で空孔率が、式[4]および[5]で孔径(平均孔径)が求められる。
空孔率[%]=100×(空孔部分の面積の総和/読み込んだ画像の総面積) [3]
空孔の面積(平均空孔面積)[μm]=空孔部分の面積の総和/空孔部分の個数 [4]
孔径(平均孔径)[μm]=(平均空孔面積/π)1/2 [5]
【0075】
13.不溶成分含有率の測定
中空糸膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を遠心分離機で1500rpm、10分間かけた後上澄みを除去する。残った不溶物に再度、100mlのジメチルホルムアミドを添加して、撹拌をおこなった後、同条件で遠心分離操作をおこない、上澄みを除去する。再び、100mlのジメチルホルムアミドを添加して撹拌し、同様の遠心分離操作をおこなった後、上澄みを除去する。残った固形物を蒸発乾固して、その量から不溶成分の含有率を求める。
【0076】
(実施例1)
末端がヒドロキシフェニル基となっているPES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.2重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)2.8重量部、三菱化学社製NMP35.1重量部、三井化学社製TEG42.9重量部を70℃で3時間にわたって混合、溶解し均一な溶液を得た。さらに、70℃で常圧−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して溶液組成が変化しないようにすぐに系内を密封して2時間放置脱泡を行い、この溶液を製膜原液とした。一方、NMP35.1重量部、TEG42.9重量部、RO水22.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から上記製膜原液を、中心部から上記芯液を吐出し、20mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は65℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。凝固浴内では径100mmの円筒状ガイドを3個使用して中空糸膜の進行方向を徐々に変え、凝固浴から引き出した。すなわち、曲率半径50mm、方向変更点3点で中空糸膜の進行方向を変えた。凝固浴内における中空糸膜の浸漬深さは最大で800mm、凝固浴内での中空糸膜の走行距離は2000mmであった(図1参照)。
【0077】
凝固浴内から中空糸膜を引き出した後、300Kの温水を満たした水洗浴、310Kの温水を満たした水洗浴、320Kの温水を満たした水洗浴、330Kの温水を満たした水洗浴にこの順で中空糸膜を走行させた。それぞれの水洗浴での中空糸膜の滞留時間は、順に、0.29min、0.24min、0.21min、0.19minであった。中空糸膜は、8.5m/minの紡速で巻取り、内径が約1200μm(内腔の半径は0.6mm)、膜厚が約340μmになるよう、製膜原液、芯液の吐出量を制御した。この際、上記[6]、[7]、[8]で規定されるH/Sの値は
(300×0.29+310×0.24+320×0.21+330×0.19)/
(0.6×0.6×78÷100)=1037
となる。この工程を経て得られた中空糸膜の内腔に充填された芯液中の有機成分濃度は50%であった。
【0078】
巻き取った中空糸膜は、約1m長の束とし、芯液を充填したまま25℃で20minにわたってエージングを行った後、膜束を垂直方向に直立させて芯液を除去した。さらに、中空糸膜束を80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った。その後、60℃で10hにわたり熱風乾燥を実施し、内径1182μm、膜厚335μmの中空糸膜(A)を得た。上記の方法で内表面、外表面、断面のSEM観察を行い、画像解析を実施して各部位における空孔率と孔径を求めた。空孔率、孔径の測定結果は表1に示した。表中、ISとは中空糸膜の内表面、OSとは中空糸膜の外表面、CS1、CS2、CS3、CS4、CS5、CS6、CS7、CS8とは中空糸膜の断面を内表面から外表面方向に8等分したときの各部分(内表面方向から順に1〜8)を意味する。内表面および外表面に緻密層が存在し、開孔率、孔径がCS3において極大(60%、1.32μm)となっていることがわかる。
【0079】
【表1】

【0080】
中空糸膜(A)の内径、膜厚、および上記の方法で測定、算出した内表面におけるPVPの含量、中空糸膜全体におけるPVPの含量、ポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。表中、IDとは中空糸膜の内径、Δdとは中空糸膜の膜厚、Ciとは中空糸膜内表面におけるPVP含量、Caとは中空糸膜全体におけるPVPの含量、Appとは中空糸膜のポリフェノール吸着量を意味する。
【0081】
【表2】

【0082】
中空糸膜(A)で作製したモジュールにより、上記の方法でワインFluxを測定した。結果は表3に示した。表中、WineFlux1−30とは新たなモジュールで30minのワイン濾過(クロスフロー濾過)を実施した時点で測定したワインFlux、WineFlux1−120とはさらにワイン濾過を継続し、120min経過時点で測定したワインFlux、WineFlux2−30とは120minのワイン濾過後、中空糸膜の外側から内腔方向に60℃の温水を2barの圧力で10minにわたって逆濾過して洗浄を実施したモジュールを使用し、ワイン濾過を30min実施した時点でのワインFlux、保持率とはWineFlux1−30に対するWineFlux1−120の値を百分率で示した値、回復率とはWineFlux1−30に対するWineFlux2−30の値を百分率で示した値をそれぞれ意味する。また、WineFlux1−120測定時、濾液として得られたワインの濁度を測定した。結果は表3に濾液濁度として示した。
【0083】
濾過の効率から考えて、保持率、回復率はともに高値であることが好ましい。保持率は継続して濾過を実施した際の濾過性能の保持性に関わる。すなわち、保持率の高い膜は洗浄の頻度を落としても濾過性能の低下が少なく、好ましい膜である。具体的には、本発明の定義における保持率が60%を下回るようだと実際の濾過性能保持性は不十分であり、濾過操業性が実用レベルでなくなってしまう。好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であることが、濾過操業性からは好ましい特性である。
【0084】
回復率は逆濾過洗浄を行うことによる濾過性能の回復性に関わる。すなわち、回復率の高い膜は適宜洗浄を実施することで長期間にわたって使用することができ、製品寿命が長い膜であるということになる。具体的には本発明の定義における回復率が80%を下回るようだと実際の濾過操業時には経時的な膜性能の低下が大きく、実用的でない。好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であることが濾過操業性からは好ましい特性である。
【0085】
また、濾過前のワイン、濾液として得られたワインについて、その風味をテイスティングにより評価した。酸味、渋味、甘味、全体としてのまとまりをそれぞれ5点満点で採点し、合計点を得点とした。それぞれの項目は、ほどよい程度にあるのを満点とし、強すぎても弱すぎても減点した。10名が個別に評価し、その平均点を表3に示した。
【0086】
【表3】

【0087】
(実施例2)
末端がヒドロキシフェニル基となっているPES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K90)3.0重量部、三菱化学社製NMP35.1重量部、三井化学社製TEG42.9重量部を70℃で3時間にわたって混合、溶解し均一な溶液を得た。さらに、70℃で常圧−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して溶液組成が変化しないようにすぐに系内を密封して2時間放置脱泡を行い、この溶液を製膜原液とした。一方、NMP36.0重量部、TEG44.0重量部、RO水20.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から上記製膜原液を、中心部から上記芯液を吐出し、20mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は63℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。凝固浴内では径100mmの円筒状ガイドを3個使用して中空糸膜の進行方向を徐々に変え、凝固浴から引き出した。すなわち、曲率半径50mm、方向変更点3点で中空糸膜の進行方向を変えた。凝固浴内における中空糸膜の浸漬深さは最大で800mm、凝固浴内での中空糸膜の走行距離は2000mmであった(図1参照)。凝固浴内から中空糸膜を引き出した後、300Kの温水を満たした水洗浴、310Kの温水を満たした水洗浴、320Kの温水を満たした水洗浴、330Kの温水を満たした水洗浴にこの順で中空糸膜を走行させた。それぞれの水洗浴での中空糸膜の滞留時間は、順に、0.29min、0.24min、0.21min、0.19minであった。中空糸膜は、8.5m/minの紡速で巻取り、内径が約1200μm(内腔の半径は0.6mm)、膜厚が約340μmになるよう、製膜原液、芯液の吐出量を制御した。この際、上記[6]、[7]、[8]で規定されるH/Sの値は
(300×0.29+310×0.24+320×0.21+330×0.19)/
(0.6×0.6×80÷100)=1011
となる。この工程を経て得られた中空糸膜の内腔に充填された芯液中の有機成分濃度は52%であった。
【0088】
巻き取った中空糸膜は、約1m長の束とし、芯液を充填したまま25℃で20minにわたってエージングを行った後、膜束を垂直方向に直立させて芯液を除去した。さらに、中空糸膜束を80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った。その後、60℃で10hにわたり熱風乾燥を実施し、内径1186μm、膜厚332μmの中空糸膜(B)を得た。上記の方法で内表面、外表面、断面(膜厚方向に8分割した視野についてそれぞれ)のSEM観察を行い、画像解析を実施して各部位における空孔率と孔径を求めた。ISを中空糸膜の内表面、OSを中空糸膜の外表面、CS1、CS2、CS3、CS4、CS5、CS6、CS7、CS8を中空糸膜の断面を内表面から外表面方向に8等分したときの各部分としたとき、中空糸膜(B)は内外両表面に緻密層が存在し、その構造を示す数値は次のとおりであった。
ISでの孔径 :0.05μm
ISでの空孔率 :17%
OSでの孔径 :0.11μm
OSでの空孔率 :12%
断面において空孔率が極大となる部位:CS3
CS3での孔径 :1.53μm
CS3での空孔率 :59%
【0089】
中空糸膜(B)の内径、膜厚、さらに、実施例1と同様に測定した内表面におけるPVPの含量、中空糸膜全体におけるPVPの含量、ポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。
【0090】
中空糸膜(B)で作製したモジュールにより、実施例1と同様にワインFluxを測定し、濾液として得られたワインの評価を実施した。結果は表3に示した。
【0091】
(実施例3)
PSf(アモコ社製P−3500)19.0重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K30)3.0重量部、三菱化学社製NMP35.1重量部、三井化学社製TEG42.9重量部を70℃で3時間にわたって混合、溶解し均一な溶液を得た。さらに、70℃で常圧−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して溶液組成が変化しないようにすぐに系内を密封して2時間放置脱泡を行い、この溶液を製膜原液とした。一方、NMP35.1重量部、TEG42.9重量部、RO水22.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から上記製膜原液を、中心部から上記芯液を吐出し、20mmのエアギャップを経て、NMP13.5重量部、TEG16.5重量部、RO水70.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は63℃、外部凝固液温度は55℃に設定した。凝固浴内では径100mmの円筒状ガイドを3個使用して中空糸膜の進行方向を徐々に変え、凝固浴から引き出した。すなわち、曲率半径50mm、方向変更点3点で中空糸膜の進行方向を変えた。凝固浴内における中空糸膜の浸漬深さは最大で800mm、凝固浴内での中空糸膜の走行距離は2000mmであった(図1参照)。凝固浴内から中空糸膜を引き出した後、300Kの温水を満たした水洗浴、310Kの温水を満たした水洗浴、320Kの温水を満たした水洗浴、330Kの温水を満たした水洗浴にこの順で中空糸膜を走行させた。それぞれの水洗浴での中空糸膜の滞留時間は、順に、0.29min、0.24min、0.21min、0.19minであった。中空糸膜は、8.5m/minの紡速で巻取り、内径が約1200μm(内腔の半径は0.6mm)、膜厚が約340μmになるよう、製膜原液、芯液の吐出量を制御した。この際、上記[6]、[7]、[8]で規定されるH/Sの値は
(300×0.29+310×0.24+320×0.21+330×0.19)/(0.6×0.6×78÷100)=1037
となる。この工程を経て得られた中空糸膜の内腔に充填された芯液中の有機成分濃度は48%であった。
【0092】
巻き取った中空糸膜は、約1m長の束とし、芯液を充填したまま25℃で20minにわたってエージングを行った後、膜束を垂直方向に直立させて芯液を除去した。さらに、中空糸膜束を80℃のRO水に60min浸漬して加熱処理を行った。その後、60℃で10hにわたり熱風乾燥を実施し、内径1164μm、膜厚325μmの中空糸膜(C)を得た。上記の方法で内表面、外表面、断面(膜厚方向に8分割した視野についてそれぞれ)のSEM観察を行い、画像解析を実施して各部位における空孔率と孔径を求めた。ISを中空糸膜の内表面、OSを中空糸膜の外表面、CS1、CS2、CS3、CS4、CS5、CS6、CS7、CS8を中空糸膜の断面を内表面から外表面方向に8等分したときの各部分としたとき、中空糸膜(C)は内外両表面に緻密層が存在し、その構造を示す数値は次のとおりであった。
ISでの孔径 :0.04μm
ISでの空孔率 :9%
OSでの孔径 :0.05μm
OSでの空孔率 :11%
断面において空孔率が極大となる部位:CS3
CS3での孔径 :2.29μm
CS3での空孔率 :60%
【0093】
中空糸膜(C)の内径、膜厚、さらに、実施例1と同様に測定した内表面におけるPVPの含量、中空糸膜全体におけるPVPの含量、ポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。
【0094】
中空糸膜(C)で作製したモジュールにより、実施例1と同様にワインFluxを測定し、濾液として得られたワインの評価を実施した。結果は表3に示した。
【0095】
(比較例1)
市販のポリエチレン製精密濾過膜(以下PE-MF膜と呼称する)を使用し、実施例1と同様にSEMで構造を観察した。この膜は均質の対称膜であり、膜壁部分での空孔率の極大部位は見られなかった。PE−MF膜の構造を示す数値は次のとおりであった。実施例1と同様に測定したポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。さらに、PE-MF膜で作製したモジュールにより、実施例1と同様にワインFluxを測定し、濾液として得られたワインの評価を実施した。結果は表3に示した。
ISでの孔径 :0.22μm
ISでの空孔率 :31%
OSでの孔径 :0.22μm
OSでの空孔率 :29%
断面において空孔率が極大となる部位:なし
【0096】
(比較例2)
市販のポリフッ化ビニリデン製精密濾過膜(以下PVDF-MF膜と呼称する)を使用し、実施例1と同様にSEMで構造を観察した。この膜は均質の対称膜であり、膜壁部分での空孔率の極大部位は見られなかった。PVDF-MF膜の構造を示す数値は次のとおりであった。実施例1と同様に測定したポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。さらに、PE-MF膜で作製したモジュールにより、実施例1と同様にワインFluxを測定し、濾液として得られたワインの評価を実施した。結果は表3に示した。
ISでの孔径 :0.31μm
ISでの空孔率 :35%
OSでの孔径 :0.18μm
OSでの空孔率 :25%
断面において空孔率が極大となる部位:なし
【0097】
(比較例3)
PES(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)17.3重量部、BASF社製PVP(コリドン(登録商標)K90)4.7重量部、DMAc75.0重量部、RO水3.0重量部を50℃で2時間にわたって混合、溶解し均一な溶液を得た。さらに、50℃で常圧−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して溶液組成が変化しないようにすぐに系内を密封して2時間放置脱泡を行い、この溶液を製膜原液とした。一方、DMAc40.0重量部、RO水60.0重量部の混合液を調製し、この溶液を芯液とした。二重管ノズルの環状部から上記製膜原液を、中心部から上記芯液を吐出し、450mmのエアギャップを経て、DMAc20.0重量部、RO水80.0重量部の混合液からなる外部凝固液を満たした凝固浴に導いた。この際、ノズル温度は65℃、外部凝固液温度は60℃に設定した。凝固浴内では径12mmの棒状ガイドを1個使用して中空糸膜の進行方向を変え、凝固浴から引き出した。すなわち、曲率半径6mm、方向変更点1点で中空糸膜の進行方向を変えた。凝固浴内における中空糸膜の浸漬深さは最大で200mm、凝固浴内での中空糸膜の走行距離は600mmであった。
【0098】
凝固浴内から中空糸膜を引き出した後、300Kの温水を満たした水洗浴、310Kの温水を満たした水洗浴、320Kの温水を満たした水洗浴、330Kの温水を満たした水洗浴にこの順で中空糸膜を走行させた。それぞれの水洗浴での中空糸膜の滞留時間は、順に、0.20min、0.027min、0.024min、0.021minであった。中空糸膜は、75m/minの紡速で巻き取り、内径が約200μm、膜厚が約30μmになるよう、製膜原液、芯液の吐出量を制御した。この際、上記[6]、[7]、[8]で規定されるH/Sの値は
(300×0.20+330×0.027+320×0.024+310×0.021)/(0.2×0.2×40÷100)=5194
となる。この工程を経て得られた中空糸膜の内腔に充填された芯液中の有機成分濃度は1%未満であった。
【0099】
得られた中空糸膜は、エンボス加工されたポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後27cmの長さに切断して中空糸膜束とした。この中空糸膜束を80℃のRO水に30min浸漬する操作を4回繰り返し、加熱・洗浄処理を行った。得られた湿潤中空糸膜束を600rpm×5minの遠心脱液処理し、オーブン内に反射板を設置し均一加熱ができるような構造を持つマイクロ波発生装置によりマイクロ波を照射すると同時に前記乾燥装置内を7kPaに減圧し60minの乾燥処理を行った。マイクロ波の出力は初期1.5kWから20minごとに0.5kWずつ低下させた。この乾燥処理により、内径196μm、膜厚30μmの中空糸膜(D)を得た。
【0100】
中空糸膜(D)を使用し、実施例1と同様にSEMで構造を観察した。構造としては、ISにのみ緻密層を有し、内表面から外表面の方向に向かって空孔率が増大する非対称膜であった。中空糸膜(D)の構造を示す数値は次のとおりであった。
ISでの孔径 :0.01μm
ISでの空孔率 :9%
OSでの孔径 :0.52μm
OSでの空孔率 :14%
断面において空孔率が極大となる部位:なし
【0101】
中空糸膜(D)の内径、膜厚、さらに、実施例1と同様に測定した内表面におけるPVPの含量、中空糸膜全体におけるPVPの含量、ポリフェノール吸着量、純水Fluxを表2に示した。
【0102】
中空糸膜(D)で作製したモジュールにより、実施例1と同様にワインFluxを測定し、濾液として得られたワインの評価を実施した。結果は表3に示した。
【0103】
ワイン透過率の測定結果から明らかになったように本発明の高分子多孔質中空糸膜は、ワインFluxの保持率、回復率が高く、膜特性の保持性、回復性に優れていることがわかる。また、濾液として得られたワインの濁度も低く、濾過成分の優れた透過性と、保持成分(非濾過成分)の除去、すなわち優れた分画特性が同時に実現されている。同時に、濾液として得られたワインの風味も濾過前よりも向上しており、本発明の特徴である特定の構成、膜構造、ポリフェノールとの最適化された相互作用がこれらの優れた特性の発揮に寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の高分子多孔質中空糸膜は、上水膜、飲料処理膜、血液処理膜など種々の水性流体処理膜として適用可能であり、分画特性、透過性に優れ、またこれらの特性の経時的な低下の抑制、洗浄による膜特性の回復性に加え、ポリフェノールとの相互作用が最適化されていることで、特にポリフェノールを含有する飲料の処理用に好適であるという利点を有し、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本願実施例1において凝固浴中での中空糸膜の走行状態を示す模式図。
【図2】本願比較例3において凝固浴中での中空糸膜の走行状態を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子と親水性高分子を含んでなる高分子多孔質中空糸膜であって、内外両表面で規定される表面積1mあたりのポリフェノールの吸着量が50〜500mgであることを特徴とする高分子多孔質中空糸膜。
【請求項2】
該高分子多孔質中空糸膜において、
(a)内表面および外表面に緻密層を有し、
(b)内表面から外表面に向かって当初空孔率が増大し、少なくともひとつの極大部を通過後、再び外表面側で空孔率が減少し、
(c)内表面における親水性高分子の含量が10〜40wt%、膜全体での親水性高分子の含量が0.5〜10wt%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項3】
ポリフェノールを含有する飲料の濾過に用いる請求項1または2に記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項4】
膜厚をD[μm]、25℃における純水の透過性をF[L/(h・m・bar)]としたとき、
(a)40≦D≦400 かつ
(b)400≦F≦4000
であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項5】
中空糸膜の内表面をIS、中空糸膜の断面での空孔率極大部をCSmaxとし、各部位の孔径をそれぞれdIS、dCSmax、各部位の空孔率をpIS、pCSmaxとしたとき、
(a)0.01[μm]≦dIS≦1[μm] かつ
(b)0.1[μm]≦dCSmax≦10[μm] かつ
(c)5[%]≦pIS≦30[%] かつ
(d)40[%]≦pCSmax≦80[%]
である請求項1〜4いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項6】
実質的に不溶成分を含有しない請求項1〜5いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項7】
親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項8】
疎水性高分子がポリスルホン系高分子であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。
【請求項9】
疎水性高分子がフェノール性水酸基を含有することを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の高分子多孔質中空糸膜。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284471(P2008−284471A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132494(P2007−132494)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】