説明

高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料

【課題】水分散無機物の表面と有機反応性シランとを反応させつつ水を除去することにより無機物粒子が有機溶媒に安定に分散し、高分子樹脂にいずれの比率でも溶解可能な高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料の提供。
【解決手段】コロイド状無機物に有機シラン1〜120重量部を添加してナノ粒子無機物の表面に有機シランを反応させつつ水を除去し、有機溶媒を添加して反応媒質を疎水化する第1段階と、前記第1段階の結果物1〜99重量部に高分子樹脂1〜99重量部を添加して分散溶解させる第2段階と、前記第2段階の結果物に反応開始剤0.01〜5重量部を添加して硬化させる第3段階とを含んでなることを特徴とする、高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物と高分子樹脂とが混合されてなる有無機ハイブリッド材料に係り、特に、水分散無機物の表面と有機反応性シランとを反応させつつ水を除去することにより無機物粒子が有機溶媒に安定に分散し、高分子素子と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンまたはフッ素樹脂以外の大部分の有機高分子は、低い表面エネルギーと低い分子間力によって機械的強度および接着力がなく、300℃以上の高温で劣化が進んで変色し或いは表面硬度が弱くなるという限界を持っている。
【0003】
このような変色や弱い表面硬度などの問題点を解決するための従来の代表的な方法の一つに、高分子樹脂に無機物を添加して有機物と無機物とを複合化することがある。
【0004】
一般に、無機物は、耐熱性、化学的安定性、熱伝導性、絶縁性などには優れるが、脆性が強く、薄膜化が難しく、低温焼成ができないので、繊維状または粉末状として高分子に添加して複合材料の形で広く用いられている。
【0005】
ところが、有機物と無機物は、表面特性および表面エネルギーの差異が大きくて両物質の界面における物性の制御が難しく、数μmまたはnm単位の超薄膜化を実現するためには塗膜厚さの1/10以下程度の粒子を使用することが不可避である。ところが、無機物のナノ粒子は、製造も難しいが、無機物粒子が小さくなると表面積が大きくなって疎水性の高分子に均一に分散せず、吸湿性が高くなるという問題点を持っているため、ナノ準位の複合材料が商業的に適用される場合は稀ではなく、界面物性が重要な電気、電子、光機能性材料、または長寿命が要求される材料としては適用が不可能である。
【0006】
最近、シリカやアルミナなどはコロイド状のナノ粒子分散液として生産されている。また、有機金属化合物からゾル合成法を用いて、アルコールに溶解される無機物ナノ粒子を製造することは普遍化されている。これらとシランを原料としたゾルゲルコーティング材料は、高温耐久性に優れるうえ、低温焼成が可能であるが、硬化収縮が大きく、有機基の導入が制限的であって脆性が強く、2〜3μm以上の厚さに製造することも難しいため、靭性および衝撃強度が要求される用途としては使用されていない。
【0007】
従来の有機/無機ナノ混成高分子は、有機金属アルコキシドを水と触媒によって加水分解、縮合反応させてゾル溶液を製造し硬化させるゾルゲル法を用いて製造した。特許文献1、特許文献2、特許文献3は、このゾルゲル法によって製造された有機/無機ナノ混成高分子を光素子に適用させる方法を開示している。ところが、この方法は、水分遮蔽性とコーティング膜の機械的物性に限界がある。また、ゾルゲル法を用いて硬質被覆物を製造する方法、およびより柔軟な粘弾性を与えるための有機/無機被覆物(ormosil:有機的に改質された珪酸塩、ormocer:有機的に改質されたセラミック、nanomer:ナノ粒子を含有する有機物)が公知になっているが、これは安定性が悪くて製造し難く、機械的特性が脆弱であり、水に敏感であるという欠点を持っている。
【0008】
そして、有機/無機組成物に対する特許(特許文献4)が公知になっているが、無機表面改質剤と有機架橋結合剤の混合溶液を水分散ナノ粒子無機物ゾルに添加することにより、有機架橋結合剤として高分子樹脂を使用するには限界があり、無機物粒子が大きくなると、溶液が不安定になり、コーティング塗膜の光学特性および表面粗さが悪くなり、無機物の表面における金属イオンまたはイオン性化合物に対する排除が難しく、無機物粒子と有機物とが化学的に結合している状態ではないので(無機物粒子の表面に小さい無機物粒子が生成されている状態である)、高強度の厚膜を製造することが難しく、薄膜で高電界絶縁の長期信頼性を保ち難いという欠点を持っている。
【0009】
また、光素子またはディスプレイに用いられる有機/無機混成オリゴマー、ナノ混成高分子、およびその製造方法に関する特許(特許文献5)が出願されているが、有機金属化合物において付加重合または縮合重合が可能な作用基を持っており、これらが高分子化反応を引き起こすゾルゲル反応の条件をなしている。
【0010】
また、ナノ級無機物粒子の表面をシランで処理し、粉末化した後、硬化性樹脂に添加して電気電子用超精密ナノ複合材料の製造を試みてきているが、完全に表面処理されたナノ粉末の製造が技術的に難しく、取り扱いも難しくて経済性が確保されていない実情である。
【0011】
また、アクリル樹脂またはアクリルエマルジョンにナノ粒子無機物を単に物理的に混合した材料(特許文献6)が報告されているが、異種材料間の反応誘導ができずナノ複合材料の界面特性において限界を示している。
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,054,253号明細書
【特許文献2】米国特許第5,774,603号明細書
【特許文献3】米国特許第6,309,803号明細書
【特許文献4】韓国公開特許第2002−0042732号明細書
【特許文献5】韓国公開特許第2005−0099849号明細書
【特許文献6】韓国公開特許第2003−0017219号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決するために案出されたもので、その目的とするところは、水分散無機物の表面と有機反応性シランとを反応させつつ水を除去することにより無機物粒子が有機溶媒に安定に分散し、高分子樹脂にいずれの比率でも溶解可能な高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、コロイド状無機物に有機シラン1〜120重量部を添加してナノ粒子無機物の表面に有機シランを反応させつつ水を除去し、有機溶媒を添加して反応媒質を疎水化する第1段階と、前記第1段階の結果物1〜99重量部に高分子樹脂1〜99重量部を添加して分散溶解させる第2段階と、前記第2段階の結果物に反応開始剤0.01〜5重量部を添加して硬化させる第3段階とを含んでなることを特徴とする、高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法、およびこれにより製造された材料を提供する。
【0015】
また、前記コロイド状無機物は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛、有機シランとの反応が可能な無機物、またはシリカで表面改質された前記無機物のうち少なくとも一つを含む水分散コロイド状無機物で形成されることが好ましい。
【0016】
ここで、前記水分散コロイド状無機物に対して、前記有機シランの添加、水の除去および有機溶媒の添加が単一または時差を置いて多数回繰り返し行われることが好ましい。
【0017】
また、前記有機シランは、R0〜3Si(OR1〜4において、Rは反応性のないアルキル基、フェニル基およびフルオロアルフキル基、アクリル基、メタアクリル基、アリール基、ビニル基、並びにエポキシ基のうち少なくとも一つが選択されて混用され、ORはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、または酢酸基から構成される一般式を持つことが好ましい。
【0018】
また、前記有機溶媒は、NMP、ホルムアミド、DMF、THF、グリコールエーテル、IPA、またはこれらの混合溶媒のうち少なくとも一つが選択されることが好ましく、前記高分子樹脂は、シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂のうち少なくとも一つが選択されることが好ましい。
【0019】
また、前記コロイド状無機物は、1〜100nmサイズの球状または100〜1000nmサイズの繊維状に形成されることが好ましい。また、前記反応開始剤は、熱反応開始剤または光反応開始剤であることが好ましい。
【0020】
これにより、本発明は、前記コロイド状無機物の表面を、反応性基を持つ有機シランで表面処理すると、無機物のナノ粒子が有機溶媒において安定し、且つ貯蔵性に優れた分子準位で化学的に結合した有無機ハイブリッド材料を得ることができる。
【0021】
すなわち、本発明に係る有無機ハイブリッドゾル溶液は、高分子樹脂の反応基とナノ粒子無機物の表面に形成された反応基とが分子準位で相互共重合して無機物の表面が疎水化されると、超薄膜で優れた電気絶縁性を有し、水と酸素とを含んだ低分子物質が有機物と無機物との界面を介して浸透されることが排除されるから、電気絶縁性、透明性、化学安定性、耐候性、ガス遮断性、機械的物性、耐熱性、高熱伝導性、撥水性、およびこれら特性の長期信頼性に優れるという特徴を持つ。
【0022】
本発明に係る有無機ハイブリッドゾル溶液は、表面コーティング剤、含浸剤、結合剤、接着剤などの用途として使用されるが、耐熱性が要求される電気電子絶縁材料、光応用機能材料、並びに超耐久性および無毒性のコーティング剤分野への適用が好まれる。また、有無機ハイブリッドゾル溶液は、シランで表面処理された疎水性ナノ粒子無機物の製造原料となり、エマルジョンに添加して有機高分子の特性向上に使用可能である。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明に係る前記有無機ハイブリッドゾル溶液は、製造する過程中に水を除去することにより、無機物表面への反応性基の付与と疎水化がよく行われ、分子量の大きい樹脂への溶解性に優れるし、共重合可能な樹脂に添加して硬化反応をさせると、単純分散ではなく、分子準位で化学的に結合した有無機ハイブリッド材料を得ることができるという効果がある。
【0024】
また、本発明に係る有無機ハイブリッド材料は、特性が優秀であり、異種材料界面における化学的変化が殆ど発生しないため、使用中に物性の低下が問題とならず、無機物が十分に疎水化されて高分子樹脂との溶解性が優れて厚膜のコーティング膜形成が可能であり、接着強度および塗膜強度に優れる。その上、コーティング溶液に水が殆ど含まれていないため、100〜1000nm程度の繊維状無機物粒子が多量含まれていながらもコーティング塗膜が優れるという効果がある。
【0025】
また、電界がかかったとき、キャリアとしての役割を果たす異種材料界面の金属イオンまたはイオン性化合物の排除が容易であり、使用中に水分吸収による絶縁性の低下が起こることなく、薄膜コーティング性と高性能塗膜物性を持つことができるため、電気電子用高信頼性絶縁材料としての応用が大きく期待される。
【0026】
本発明の溶液は、コーティングされて乾燥硬化すると、透明な塗膜を形成し、フィルムまたは高分子シートへの適用の際に表面物性(硬度、耐湿性、薄膜照度、表面エネルギー)を向上させ、金属箔または板材への適用の際に酸化腐食を防止することができる。また、本発明の溶液は、ディスプレイ、半導体、高集積電子部品、および電熱設備用の絶縁材料として使用する場合、薄膜化が可能であり、耐熱性に優れるうえ、ガス遮断性および電気絶縁性の長期信頼性に優れるという特徴を持っている。また、本発明の溶液は、環境親和性、高温長期耐久性、化学的安定性(耐候性)、耐摩耗性、および接着強度を持つ最先端コーティング材料および塗料への使用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は本発明に係る有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法を示す順序図である。
【0028】
まず、前記第1段階はコロイド状無機物に有機シラン1〜120重量部を添加してナノ粒子無機物の表面に有機シランを反応させつつ水を除去し、有機溶媒を添加して反応媒質を疎水化させる段階である。
【0029】
ここで、コロイド状無機物は、水分散したコロイド状無機物であって、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛、シランとの反応が可能な無機物、またはシリカで表面改質された前記無機物を含む。
【0030】
また、前記水分散コロイド状無機物は、1〜100nm程度の球状ナノ粒子、および100〜1000nm程度の繊維状のものを使用することができる。よって、貯蔵安定性に優れたゾル溶液を製造して、4μm程度の厚膜にコーティング可能な有無機ハイブリッド材料を得ることができる。
【0031】
また、前記有機溶媒は、NMP、ホルムアミド、DMF、THF、グリコールエーテル、IPA、またはこれらの混合溶媒のうち少なくとも一つを選択して使用することができる。前記有機溶媒は、前記コロイド状無機物の固形分濃度を調節し、前記高分子樹脂(硬化性樹脂)との溶解が円滑に行われるようにする。
【0032】
前記水分散コロイド状の無機物を前記有機溶媒に分散させて疎水性ゾルに合成する好ましい方法では、コロイド状の無機物をpH3〜5の酸性に調節し、アルコールで希釈された有機シランを添加して無機物の表面とシランとを反応させ、水を除去しながら有機溶媒を添加して無機物反応媒質を疎水化させる。
【0033】
また、前記第1段階の有機シランは、R0〜3Si(OR1〜4において、Rは反応性のないアルキル基、フェニル基およびフルオロアルフキル基(C−C結合からなるアルキルと同じ構造であるが、アルキル基の水素のうち一部または全部がフッ素原子で代替された構造)、アクリル基、メタアクリル基、アリール基、ビニル基、並びにエポキシ基のうち少なくとも一つが選択されて混用され、ORはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、または酢酸基から構成される一般式を持つ。
【0034】
ここで、前記水分散コロイド状の無機物に有機シランを添加して疎水化するとき、前記有機シランを時差をおいて添加することができる。また、有機反応性シランを混合して使用する場合には、前記高分子樹脂との重合反応が可能な反応基を持っている有機反応性シランが少なくとも1%以上含まれていなければならない。また、前記有機反応性シランは、前記高分子樹脂の反応基に対応する反応基を持っており、前記コロイド状無機物と高分子樹脂との共重合反応が円滑に行われるようにする。
【0035】
第2段階は、前記第1段階で得られた有機シラン表面反応疎水化コロイド状無機物1〜99重量部に高分子樹脂1〜99重量部を添加して前記コロイド状無機物を分散溶解させる。
【0036】
第3段階は、前記高分子樹脂に分散溶解した有機シラン表面反応疎水化コロイド状無機物に反応開始剤0.01〜5重量部を添加して前記コロイド状無機物を硬化させる。前記反応開始剤は、熱反応開始剤の添加による加熱硬化、または光反応開始剤の添加によるUV硬化などが可能である。
【0037】
これにより、ナノ粒子無機物を合成する場合、最後段階に有機シランを反応させて、有機溶媒に安定な分散性を持った無機物ゾルを製造し、高分子樹脂(硬化性樹脂)に均一に分散溶解して樹脂の硬化反応の際に無機物の界面における共重合を誘導し、異種材料の界面に水分の存在を排除することにより、数ミクロンまたはサブミクロンの超薄膜において硬化性樹脂の固有な特性である透明性、化学安定性、耐候性を低下させないながら、優れた機械的物性、耐熱性、高熱伝導性、電気絶縁性、および撥水性を持つ有無機ハイブリッド材料を提供し、例えば表面コーティング、含浸、バインダーなどの用途として使用可能にするという利点がある。
【0038】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。
『コロイド状無機物−コロイドシリカ(CS、colloidal silica)
有機溶媒−エチルセルソルブ(EC、ethylcellusolve)、ジメチルフラン(DMF、dimethylfurane)
有機(反応性)シラン−メチルトリメトキシシラン(MTMS、methyltrimethoxysilane)、ビニルトリメトキシシラン(VTMS、vinyltrimethoxysilane)
高分子樹脂−ウレタンまたはイミド変性アクリル樹脂
反応開始剤−有機過酸化物(硬化条件:160℃、1hr)』を使用する。
【0039】
これを詳しく説明すると、コロイド状無機物にMTMS10重量部を添加して常温、400rpmで4時間反応させる。
【0040】
前記MTMSは、メトキシ基がコロイド状無機物粒子の表面に反応すると、メチル基が表面に露出され、前記コロイド状無機物が有機系樹脂に分散可能な形に変わるが、無機物の表面における疎水化程度を調節する役割を果たす。前記VTMSは、3つのメトキシ基が前記疎水化されたコロイド状無機物の界面のOH基と縮合反応を行い、ビニル基が表面に露出される。よって、前記疎水化されたコロイド状無機物粒子は有機反応基を持つ。
前記ビニル基(またはその他の反応性基)が形成されたコロイド状無機物1〜90重量部を、硬化性樹脂であるアクリル樹脂10〜99重量部に添加する。これにより、前記ビニル基が形成されたコロイド状無機物とビニル系硬化性樹脂とからなる混合ゾルが生成され、前記混合液に0.1〜1重量部の反応開始剤を添加する。
【0041】
その後、前記有無機ハイブリッドゾルを母材に塗布して160℃で1時間熱重合させると、高分子樹脂とナノ粒子無機物とからなる有無機ハイブリッド材料が完成される。
【0042】
次は、前記コロイド状無機物とMTMSとの反応式、メチル基で疎水化されたコロイド状無機物とVTMSとの反応式を示す。

【0043】
次は、前記ビニル基が形成されたナノ粒子無機物と高分子樹脂であるアクリル単量体との反応式、および最終的に反応開始剤によってポリマー(硬化)状態になった有無機ハイブリッド材料の反応式を示す。

【0044】
以下、前記実施例に対する幾つかの実験例による結果データについて説明する。
【0045】
前記実施例における構成成分によって、アクリル樹脂と、有機反応基が形成された有機溶媒に分散したナノ粒子無機物との固形分比が10:0、9:1、7:3、6:4、5:5であるサンプルに対して約0.5重量部の反応開始剤を添加して有無機ハイブリッド材料を製造する。これを表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
前記有無機ハイブリッド材料をテフロン(登録商標)皿に薄く塗布し、オーブンによって160℃で約1時間熱架橋させて透明フィルムを得、或いはガラスにコートしてフィルムまたはコーティング膜の状態をSEMで測定した。その測定結果を図2に示す。
【0048】
製造された有無機ハイブリッド材料の熱分解温度を測定するために、熱重量分析器(Thermogravimetric analysis、TGA)(TA、Q600)を使用した。前記熱重量分析器は、窒素雰囲気の下で昇温速度を20℃/minで常温〜600℃で測定した。
【0049】
図3は本発明に係る有無機ハイブリッド材料に対する熱重量分析器による実験結果を示す図である。純粋なアクリル樹脂は、熱分解温度が約200℃前後であるが、有機反応基が形成されたナノ粒子無機物を含有した有無機ハイブリッド材料の場合は、無機物であるシリカの影響により約50℃以上の耐熱性向上を示し、前記有機反応基が形成されたナノ粒子無機物の含量が増加するにつれて優れた熱的性質を示すことが分かる。
【0050】
そして、有無機ハイブリッド材料の接触角(°)を測定して材料の撥水性を確認することができるが、使用されたアクリル樹脂は、ウレタンアクリレート樹脂であって、親水性のあるウレタン基の影響により接触角(66.97°)が非常に低い方である。
【0051】
ところが、本発明に係る有無機ハイブリッド材料は、相対的に表面エネルギーの高い一般シリカとは異なり、向上した表面接触角を示す。これを図4に示す。
【0052】
そして、高分子に無機物が添加されると、大部分の場合、表面抵抗は低下する。これは無機物表面のイオンまたは水分吸着のためであるが、本発明の有無機ハイブリッド材料はこれらの排除が可能であり、無機物の添加量が増加するほど表面抵抗が増加する結果を示しており、優れた絶縁材料として使用可能であることを示している。これを図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る高分子樹脂と疎水化された無機物で形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る有無機ハイブリッド材料を用いたフィルムおよびコーティング膜のSEM写真である。
【図3】本発明に係る有無機ハイブリッド材料に対する熱重量分析器による実験結果を示す図である。
【図4】本発明に係る有無機ハイブリッド材料に対して測定された接触角を示す図である。
【図5】本発明に係る有無機ハイブリッド材料に対して測定された絶縁抵抗を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド状無機物に有機シラン1〜120重量部を添加してナノ粒子無機物の表面に有機シランを反応させつつ水を除去し、有機溶媒を添加して反応媒質を疎水化する第1段階と、
前記第1段階の結果物1〜99重量部に高分子樹脂1〜99重量部を添加して分散溶解させる第2段階と、
前記第2段階の結果物に反応開始剤0.01〜5重量部を添加して硬化させる第3段階とを含んでなることを特徴とする、高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第1段階のコロイド状無機物は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛、有機シランとの反応が可能な無機物、またはシリカで表面改質された前記無機物のうち少なくとも一つを含む水分散コロイド状無機物で形成されることを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第1段階は、
前記水分散コロイド状無機物に対して、前記有機シランの添加、水の除去、および有機溶媒の添加が単一または時差を置いて多数回繰り返し行われることを特徴とする、請求項2に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項4】
前記第1段階の前記有機シランは、
0〜3Si(OR1〜4において、
は反応性のないアルキル基、フェニル基およびフルオロアルフキル基、アクリル基、メタアクリル基、アリール基、ビニル基、並びにエポキシ基のうち少なくとも一つが選択されて混用され、
ORはメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、または酢酸基から構成される一般式を持つことを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項5】
前記1段階の有機溶媒は、
NMP、ホルムアミド、DMF、THF、グリコールエーテル、IPA、またはこれらの混合溶媒のうち少なくとも一つが選択されることを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項6】
前記第2段階の高分子樹脂は、
シリコン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、および前記樹脂の変性樹脂のうち少なくとも一つが選択されることを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項7】
前記コロイド状無機物は、1〜100nmサイズの球状または100〜1000nmサイズの繊維状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項8】
前記第3段階の反応開始剤は、熱反応開始剤または光反応開始剤であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項の記載の製造方法によって製造された高分子樹脂と疎水化された無機物とで形成された有無機ハイブリッドゾル溶液を用いた保護コーティング材料、難燃性含浸材料、超耐候性塗料、耐熱性絶縁材料、および誘電材料または機能性バインダー材料に活用される、有無機ハイブリッド材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−102503(P2009−102503A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275012(P2007−275012)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(507296791)コリア エレクトロテクノロジー リサーチ インスティテュート (24)
【Fターム(参考)】