説明

高分子粒子の製造方法

【課題】 懸濁重合と逆ヨウ素移動重合法を組み合せる高分子粒子の製造方法において、分子量制御性と重合転化率を高いレベルで両立可能な方法を提供する。
【解決手段】 油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤とヨウ素分子とを含有する第一の混合液体を、水とヨウ化物イオンとを含有する第二の混合液体中に懸濁することにより、前記第一の混合液体からなる油滴を含有する懸濁液を得る懸濁工程と、前記油滴中において前記ラジカル重合開始剤の開裂により生成するラジカルと前記ヨウ素分子とを反応させてヨウ素化合物を合成する合成工程と、前記油滴中の前記油性オレフィンモノマーを重合する重合工程とを有する高分子粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子粒子は、懸濁重合や乳化重合、析出重合をはじめとする様々な重合方法によって製造される。中でも懸濁重合は、容易に色材等の機能性物質を高分子粒子中に内包可能であることから、例えば重合トナーの製造方法として工業的に広く利用されている。
【0003】
近年、高分子粒子の分子量制御技術に関する研究領域が活性化している。例えば、原子移動ラジカル重合や可逆的付加開裂連鎖移動重合に代表されるリビングラジカル重合を、懸濁重合と組み合わせる方法が報告されている(非特許文献1,2)。しかし、残存触媒や安全衛生、コスト等の問題から、多くのリビングラジカル重合は、現時点で工業適用が難しい。
【0004】
高分子粒子の分子量を工業的に制御する方法として、連鎖移動剤や重合禁止剤等の重合制御剤を使用する方法が公知であるが、僅かな使用量の差によって分子量に大きな差異が生じる場合や、重合転化率を極端に低下させる場合がある(特許文献1,2)。分子量は、重合開始剤量や重合温度によって制御することも可能であるが、例えば低分子量の高分子粒子を得る目的においては、コストや安全面で課題が多い。
【0005】
非特許文献3には、低コスト、且つ簡便に分子量制御できる方法として逆ヨウ素移動重合が開示されている。
【0006】
また、非特許文献4には、懸濁重合と逆ヨウ素移動重合を組み合わせた高分子粒子の製造工程において、水相に過酸化水素と塩酸を加えることによって、良好な分子量制御性と重合転化率を達成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−043909号公報
【特許文献2】特開2006−221203号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アダム リメール,アレックス ヘミング,イアン シアリー,および ダビッド ハドレトン(Adam Limer,Alex Heming,Ian Shirley,David Haddleton)著,European Polymer Journal,2005年,Vol.41,p.805−816
【非特許文献2】ジョン ディー.ビアスッティ,トーマス ピー.デイビス,フランク ピー.ルシアン,および ジョハン ピー.エー.ヘウツ(John D.Biasutti,Thomas P.Davis,Frank P.Lucien,Johan P.A.Heuts)著,Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,2005年,Vol.43,2001−2012
【非特許文献3】パトリック ラクロイ−デスマゼス,ロメイン セヴェラック,および バーナード ボウテビン(Patrick Lacroix−Desmazes,Romain Severac,and Bernard Boutevin)著,Macromolecules,2005年,Vol.38,p.6299−6309
【非特許文献4】ジェフ トナー,パトリック ラクロイ−デスマゼス,および バーナード ボウテビン(Jeff Tonner,Patrick Lacroix−Desmazes,and Bernard Boutevin)著,Macromolecules,2007年,Vol.40,p.186−190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等は、非特許文献3に記載されている逆ヨウ素移動重合と懸濁重合とを組み合わせた場合、ヨウ素分子が油相から水相へヨウ化物イオンとして漏洩し、特に分子量制御性が大幅に悪化することを見出した。
【0010】
また、非特許文献4の方法では、過酸化水素の熱分解によって生成する酸素が重合反応を阻害するため、本質的に重合転化率が不十分となる。さらに、強酸条件下での懸濁重合であるため、高分子粒子の分散安定性が損なわれる場合がある。
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、懸濁重合と逆ヨウ素移動重合を組み合せる高分子粒子の製造方法において、分子量制御性と重合転化率の両方を良好に達成可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する高分子粒子の製造方法は、
油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤とヨウ素分子とを含有する第一の混合液体を、水とヨウ化物イオンとを含有する第二の混合液体中に懸濁することにより、前記第一の混合液体からなる油滴を含有する懸濁液を得る懸濁工程と、
前記油滴中において前記ラジカル重合開始剤の開裂により生成するラジカルと前記ヨウ素分子とを反応させてヨウ素化合物を合成する合成工程と、
前記油滴中の前記油性オレフィンモノマーを重合する重合工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、懸濁重合と逆ヨウ素移動重合を組み合せる高分子粒子の製造方法において、分子量制御性と重合転化率を良好に両立可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の高分子粒子の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図2】従来技術における高分子粒子の製造方法を示す工程図である。
【図3】逆ヨウ素移動重合におけるヨウ素化合物の生成機構を示す図である。
【図4】逆ヨウ素移動重合における典型的な重合転化率−重合時間の関係を示す模式図である。
【図5】ヨウ素分子の漏洩抑制機構を示す図であり、図5(a)は本発明におけるヨウ素分子の漏洩抑制機構、図5(b)従来技術におけるヨウ素分子の漏洩機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る高分子粒子の製造方法は、油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤とヨウ素分子とを含有する第一の混合液体を、水とヨウ化物イオンとを含有する第二の混合液体中に懸濁することにより、前記第一の混合液体からなる油滴を含有する懸濁液を得る懸濁工程と、
前記油滴中において前記ラジカル重合開始剤の開裂により生成するラジカルと前記ヨウ素分子とを反応させてヨウ素化合物を合成する合成工程と、
前記油滴中の前記油性オレフィンモノマーを重合する重合工程とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る高分子粒子の製造方法は逆ヨウ素移動重合を用いて行われる。そこで、まず逆ヨウ素移動重合について説明する。逆ヨウ素移動重合は、例えば非特許文献3に記載されている様に、ヨウ素分子(化学式:I)を用いることを特徴とするリビングラジカル重合である。図4に逆ヨウ素移動重合における典型的な重合転化率−重合時間の関係の模式図を示す。逆ヨウ素移動重合における重合反応は、重合反応の初期に誘起される誘導期と、重合反応の中後期に誘起される成長期に分類される。誘導期では、ラジカル重合開始剤の開裂により発生するラジカルとヨウ素分子の反応によってヨウ素化合物が形成される。成長期では、ヨウ素化合物とラジカル重合開始剤を介するモノマーの連鎖反応によって、高分子化合物が形成される。
【0017】
図4のように、誘導期における重合転化率はほとんど変化せず、成長期において重合転化率が重合時間にともなって大きくなる点が、逆ヨウ素移動重合の特徴である。
【0018】
理想的な逆ヨウ素移動重合から得られる高分子化合物の分子量(重合転化率100%の場合)、は、下記の式(1)のようにヨウ素分子の仕込み量に依存する。
(分子量)=[(モノマーの仕込み重量)/{2×(ヨウ素分子の仕込み個数)}]+(ラジカル重合開始剤残基の質量数)+(ヨウ素原子の質量数) 式(1)
なお、本発明の明細書中における「高分子化合物の分子量」と「高分子粒子の分子量」は同概念である。
【0019】
次に、逆ヨウ素移動重合と懸濁重合を組み合わせる高分子粒子の製造方法について、その問題点を図2によって説明する。
【0020】
図2は、従来技術における高分子粒子の製造方法を示す工程図である。図2において、油性オレフィンモノマー10とラジカル重合開始剤11、ヨウ素分子12とを含有する第一の混合液体を、水13中に懸濁させる懸濁工程2によって、第一の混合液体からなる油滴20が水13中に分散した懸濁液3を得る。
【0021】
次に、合成工程2によって、逆ヨウ素移動重合の誘導期が油滴20中で生じ、ラジカル重合開始剤11の開裂により発生するラジカルとヨウ素分子12が反応することによって生成するヨウ素化合物16を含有する油滴21が水13に分散した懸濁液4を得る。最後に、重合工程2によって、逆ヨウ素移動重合の成長期が油滴21中で生じ、高分子粒子22が水13に分散した水性分散液2を得る。なお、説明のため、合成工程2(誘導期)と重合工程2(成長期)を分割して記載したが、実際の実験操作では連続した一連の工程である。
【0022】
本発明者等は、逆ヨウ素移動重合と懸濁重合を組み合わせる高分子粒子の製造方法において、問題の本質は、図2の懸濁工程で発生すると考えている。本来、ヨウ素分子12の、水13に対する溶解度は比較的小さい(溶解度(25℃):0.34g/水100g)。しかし、懸濁液の油滴15と水13との界面を通じて水13中に溶解したヨウ素分子12は、周囲に存在する多量の水13により加水分解されて、ヨウ化物イオン14(化学式:I)へと変換される。すなわち、問題の本質は、懸濁工程において、第一の混合液体を水13中に懸濁させ、第一の混合液体からなる油滴20が水13に分散した懸濁液3を得る際、ヨウ素分子12の一部が加水分解されて油滴20から水13にヨウ化物イオン14として漏洩する点にある。
【0023】
式(1)より、逆ヨウ素移動重合における分子量はヨウ素分子の仕込み量によって決定されることから、図2におけるヨウ素分子12の漏洩は、本質的に分子量制御性を悪化させる。
【0024】
次に、本発明における高分子粒子の製造方法について説明する。本発明における高分子粒子の製造方法によれば、図2の従来技術における問題を解決できる。
【0025】
図1は、本発明の高分子粒子の製造方法の一実施態様を示す工程図である。図1において、油性オレフィンモノマー10とラジカル重合開始剤11、ヨウ素分子12を含有する第一の混合液体を、水13とヨウ化物イオン14とを含有する第二の混合液体中に懸濁させる懸濁工程1によって、第一の混合液体からなる油滴15が水13中に分散した懸濁液1を得る。次に、合成工程1において、逆ヨウ素移動重合の誘導期が油滴15中で生じ、ラジカル重合開始剤11の開裂により発生するラジカルとヨウ素分子12が反応することによって生成するヨウ素化合物16を含有する油滴17が水13中に分散した懸濁液2を得る。最後に、重合工程1において、逆ヨウ素移動重合の成長期が油滴17中で生じ、油性オレフィンモノマー10を重合させることによって高分子粒子18が水13に分散した水性分散液1を得る。なお、説明のため、合成工程1(誘導期)と重合工程1(成長期)を分割して記載したが、実際の実験操作では連続した一連の工程である。
【0026】
本発明の高分子粒子の製造方法の特徴は、懸濁工程1において、ヨウ化物イオン14を含有させた第二の混合液体に第一の混合液体を懸濁させる点である。この第二の混合液体中に含有させたヨウ化物イオン14の存在により、油滴15からヨウ素分子12が水13中にヨウ化物イオン14として漏洩することを抑制することができる。
【0027】
このことを、図5を用いて説明する。図5は、ヨウ素分子の漏洩抑制機構を示す図である。図5(a)は本発明におけるヨウ素分子の漏洩抑制機構、図5(b)は従来技術におけるヨウ素分子の漏洩機構を示す。
【0028】
図5(b)に示す従来技術においては、先に説明したように、油滴20と水13との界面51を介して水13中へ溶解したヨウ素分子12が、周囲に存在する多量の水13により加水分解されることにより、ヨウ化物イオン14が発生する。ここで発生するヨウ化物イオン14の量は、水13と比較して極めて少量であるため、ヨウ素分子12の加水分解反応における速度vはその逆反応の速度vよりも大きくなる(v>v)。そのため、ヨウ化物イオン14等の、ヨウ素分子12の加水分解反応生成物の量が、水13と比較して極めて少ない条件下では、ヨウ素分子12がヨウ化物イオン14として水13中へ漏洩し続ける。したがって、式(1)より、逆ヨウ素移動重合における分子量はヨウ素分子の仕込み量によって決定されることから、上記したヨウ素分子12の漏洩は、良好な分子量制御性を達成する上で大きな問題となる。さらに、ヨウ素分子12の加水分解反応において、ヨウ化物イオン14と同時に発生する水素イオン(H)によって、懸濁液の分散安定性が損なわれることも危惧される。
【0029】
一方、本発明では、図5(a)に示す様に、第二の混合液体中に予めヨウ化物イオン14を含有させておくことにより、ヨウ素分子12の加水分解反応はほとんど起こらない。そのために、懸濁工程における初期の段階で平衡状態に到達して、ヨウ素分子12の加水分解反応における速度vと、その逆反応の速度vが等しくなる(v=v)。したがって、界面50を介してヨウ素分子12が水13中へヨウ化物イオン14として漏洩することを抑制できるため、良好な分子量制御性を達成することが可能になる。以上により、本発明における高分子粒子の製造方法は、良好な分子量制御性を達成する課題を本質的に解決できる。
【0030】
[第一の混合液体]
本発明における第一の混合液体は、少なくとも、油性オレフィンモノマーと、ラジカル重合開始剤と、ヨウ素分子とを含有する液体である。また、第一の混合液体中には、相溶を促進する助剤として油性有機溶剤を含有させることができる。特に、油性オレフィンモノマーが常温において固体である場合には、油性有機溶剤を併用することが好ましい。使用する油性有機溶剤として、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、酢酸エチル等の一般的な油性有機溶剤を例示することができるが、これらに限定されない。また、2種類以上の油性有機溶剤を使用することも可能である。
【0031】
なお、本発明の目的を達成可能な範囲において、第一の混合液体には、油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤、ヨウ素分子以外に、何らかの機能性物質を含有させても良い。
【0032】
例えば、機能性物質として、N−ヨードコハク酸イミド、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、フタル酸イミド、等のイミド化合物やジフェニルアミン等の芳香族アミン化合物、亜リン酸ジエチル等の亜リン酸化合物を例示できる。これらの化合物群は、逆ヨウ素移動重合において、重合触媒として機能することから、重合速度の向上に寄与する。
【0033】
また、第1の混合液体に可溶であり、水に対する溶解度が0.01g/L以下であることを特徴とするハイドロホーブ(共界面活性剤)を機能性物質として第一の混合液体に含有させても良い。ハイドロホーブを用いることにより、懸濁液が安定化され、後述の懸濁工程において微小油滴を形成させるのに有利となる。ハイドロホーブの具体例としては、以下の化合物群が挙げられる。即ち、
(a)ヘキサデカン、スクアラン、シクロオクタン等のC8〜C30の直鎖、分岐鎖、環状アルカン類、
(b)ステアリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のC8〜C30アルキルアクリレート、
(c)セチルアルコール等のC8〜C30アルキルアルコール、
(d)ドデシルメルカプタン等のC8〜C30アルキルチオール、
(e)ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン等のポリマー類、
(f)長鎖脂肪族又は芳香族カルボン酸類、長鎖脂肪族又は芳香族カルボン酸エステル類、長鎖脂肪族又は芳香族アミン類、ケトン類、ハロゲン化アルカン類、シラン類、シロキサン類、イソシアネート類などである。
【0034】
本発明の目的を達成可能な範囲において、機能性物質はこれらに限定されず、また、機能性物質は2種類以上を併用しても良い。
【0035】
[油性オレフィンモノマー]
本発明における油性オレフィンモノマーは、水と実質的に混和せず、水と混合した際に界面を形成するモノマーである。油性オレフィンモノマーの水に対する溶解度は、常温(20℃)において3%(水100gに対して油性オレフィンモノマー3g)以下であることが好ましい。この条件を満たせば、懸濁工程において懸濁液を良好に形成できる。また、本発明における油性オレフィンモノマーは、ラジカル重合開始剤の開裂によって重合可能なラジカル重合性のオレフィンモノマーである。
【0036】
本発明における油性オレフィンモノマーとして、重合性不飽和芳香族類や重合性カルボン酸エステル類は、有機溶剤との相溶性、懸濁液の安定性、重合反応の制御性等の点で好ましい。油性オレフィンモノマーの具体例としては、スチレン、クロロスチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等を例示することができる。ただし、本発明の目的を達成可能な範囲において、油性オレフィンモノマーはこれらに限定されない。油性オレフィンモノマーは、1種類を用いても、また複数を適宜混合して共重合体を形成しても良く、さらに複数を逐次的に添加してグラジエント共重合体、或はブロック共重合体を形成しても良い。特に、ブロック共重合体を含む高分子粒子を得る目的においては、重合工程を多段階で行うことが好ましい。例えば、1種類の油性オレフィンモノマーを用いて1段階目の重合工程を行った後、別の種類の油性オレフィンモノマーを懸濁液に投入し、2段階目の重合工程を行うことにより、ブロック共重合体を含む高分子粒子が得られる。
【0037】
[ラジカル重合開始剤]
本発明では、従来公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。中でも、20℃の水に対する溶解度が10重量%以下であり、合成工程と重合工程における反応温度において油性オレフィンモノマー中に溶解する油溶性ラジカル重合開始剤が好ましい。また、良好な重合転化率を達成する目的において、本発明のラジカル重合開始剤の酸化還元電位は、I/I(ヨウ素分子/ヨウ化物イオン)の酸化還元電位(0.54V vs SHE)よりも小さい(卑である)ことが好ましい。これは、ラジカル重合開始剤の酸化還元電位がI/I(ヨウ素分子/ヨウ化物イオン)の酸化還元電位よりも小さい場合、ラジカル重合開始剤がヨウ化物イオンによって還元されることに基づく、ラジカル重合開始剤の意図しない分解反応を抑制できるためである。ラジカル重合開始剤の酸化還元電位が、I/I(ヨウ素分子/ヨウ化物イオン)の酸化還元電位よりも小さいか否かは、下記方法で検証可能である。すなわち、ラジカル重合開始剤を含有する溶液、例えばN,N−ジメチルホルムアミド溶液中に、ヨウ化カリウム飽和水溶液を滴下した際の溶液色の変化を観察する。もし、前記溶液色が黄色、又は褐色へ変化してヨウ素分子の生成が確認された場合、ラジカル重合開始剤の酸化還元電位は、I/I(ヨウ素分子/ヨウ化物イオン)の酸化還元電位よりも大きい。
【0038】
本発明におけるラジカル重合開始剤として、具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤を主に例示することができる。また、酸化還元電位が、I/I(ヨウ素分子/ヨウ化物イオン)の酸化還元電位よりも小さい有機過酸化物系重合開始剤も本発明に適用することができる。有機過酸化物系重合開始剤として、具体的には、t−ブチル−ペルオキシピバレート、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等のアルキルぺルオキシエステルを例示することができる。また、アセトフェノン系やケタール系等の光ラジカル重合開始剤も適用可能である。ただし、本発明の目的を達成可能な範囲において、ラジカル重合開始剤はこれらに限定されない。また、ラジカル重合開始剤は1種類を用いても良いし、複数を適宜混合して用いても良い。
【0039】
ラジカル重合開始剤は、図1の懸濁工程1以降のタイミングにおいて、追加で添加しても良い。
【0040】
[第二の混合液体]
本発明における第二の混合液体は、少なくとも、水と、ヨウ化物イオン(I)を含有する液体である。本発明における第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、5×10−2mol/l以上5mol/l以下、好ましくは1×10−1mol/l以上1mol/l以下であることが望ましい。第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量が5×10−2mol/l未満ではヨウ素分子の加水分解反応を抑制するには十分でなく、5mol/lより大きいと懸濁液の分散性が悪化する可能性が懸念されるため好ましくない。
【0041】
ヨウ化物イオンの原料としては、一般的な水溶性のヨウ化物塩を用いることができる。例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化バリウム、等のヨウ化アルカリ(土類)金属塩、又は、ヨウ化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムヨージド、アセチルコリンヨージド、等のヨウ化アンモニウム塩、等を例示することができる。ただし、本発明の目的を達成可能な範囲において、ヨウ化物塩はこれらに限定されない。また、ヨウ化物塩は1種類を用いても良いし、複数を適宜混合して用いても良い。
【0042】
[ヨウ素化合物]
本発明におけるヨウ素化合物は、本発明のラジカル重合開始剤の開裂により発生するラジカルとヨウ素分子とが反応することにより生成する。以下、本発明のヨウ素化合物について図3を用いて説明する。
【0043】
図3は、逆ヨウ素移動重合におけるヨウ素化合物の生成機構を示す図である。図3に示すように、ヨウ素化合物31は、ラジカル重合開始剤11の開裂により生成する残基30の化学構造を有するラジカルとヨウ素分子が反応することにより生成する。すなわち、ヨウ素化合物31は、残基30にヨウ素原子が直接結合した化学構造を有する。但し、本発明の目的を達成可能な範囲において、ヨウ素化合物は、残基30の化学構造を有するラジカルがさらに開裂することにより生成する残基30の誘導体に、ヨウ素原子が直接結合した化学構造であっても良い。さらに、残基30とヨウ素原子の間に油性オレフィンモノマー10が挿入されたオリゴマー32がヨウ素化合物14として混在しても良い。ヨウ素化合物は、通常、ヨウ素分子と比較して極めて親油性が大きいため、水相に漏洩することなく、懸濁液の油滴中に留まる。ところで、図3(a)はラジカル重合開始剤11としてアゾ系重合開始剤を用いる場合を、図3(b)はラジカル重合開始剤11として有機過酸化物系重合開始剤を用いる場合を示している。
【0044】
(懸濁工程)
本発明における懸濁工程は、油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤とヨウ素分子とを含有する第一の混合液体を水とヨウ化物イオンとを含有する第二の混合液体に懸濁することによって、第一の混合液体からなる油滴が第二の混合液体中に分散した懸濁液を得る工程である。
【0045】
懸濁液は、第一の混合液体と、第二の混合液体を混合して分散することにより得られる。第一の混合液体と、第二の混合液体の混合割合は、第一の混合液体に含有されるヨウ素分子に対する、第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンのモル比[ヨウ化物イオン(mol)/ヨウ素分子(mol)]が0.1以上1000以下、好ましくは0.5以上500以下であることが望ましい。
【0046】
本発明における懸濁には、従来公知の攪拌・せん断装置を用いることができる。例えば、高せん断型ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサー等、機械的エネルギー付与に基づいて懸濁液を得ることができる。また、本発明の懸濁には、SPG(シラス多孔質ガラス)膜を利用する膜乳化法や、マイクロチャネル乳化法やマイクロ流路分岐乳化法等のマイクロリアクター等、界面化学的なメカニズムに基づいて懸濁液を得る従来公知の懸濁方法を適用しても良い。これらの方法は、単独で用いることも、或は複数を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
本発明の懸濁工程では、懸濁液の分散安定性を向上させる目的で、水に分散剤を含有させても良い。本発明の目的を達成可能な範囲において、分散剤は、懸濁工程前、懸濁工程中、懸濁工程後の何れのタイミングでも含有させても良いが、好ましくは懸濁工程前か懸濁工程中である。本発明では、従来公知の分散剤を使用できる。例えば、アニオン性低分子界面活性剤、カチオン性低分子界面活性剤、ノニオン性低分子界面活性剤、アニオン性高分子分散剤、カチオン性高分子分散剤、ノニオン性高分子分散剤、無機分散剤等が挙げられる、これらの中でも、無機分散剤は、ブロッキング作用に基づく分散安定化効果が大きく、温度変化に対しても優れた安定性を示すことから、好ましい。
【0048】
また、無機分散剤を使用することは、目的物である高分子粒子の分離・精製を容易にすることができるという観点からも好ましい。このような無機分散剤として、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等のリン酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ベントナイト、アルミナ等が例示される。ただし、本発明の目的を達成可能な範囲において、無機分散剤はこれらに限定されない。
【0049】
分散剤は、単独で用いることも、或いは複数を組み合わせて用いることもできる。また、本発明の目的を達成可能な範囲において、分散剤以外の化学物質を、懸濁工程前、懸濁工程中、懸濁工程後で水に添加しても良い。
【0050】
特許文献4では、水に過剰な塩酸を添加するため、特に、アニオン性低分子界面活性剤やアニオン性高分子分散剤、無機分散剤の分散安定性能を劣化させ、高分子粒子の製造方法として不利な場合がある。一方、本発明は、何れの分散剤でも良好に使用可能であるため、高分子粒子の製造方法として有利である。
【0051】
(合成工程)
本発明における合成工程は、第二の混合液体中に分散した第一の混合液体からなる油滴中において、ラジカル重合開始剤から発生するラジカルとヨウ素分子を反応させることによってヨウ素化合物を合成する工程であって、逆ヨウ素移動重合の誘導期に相当する。この誘導期を誘起する方法として、加熱や光照射、還元剤の添加等、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。中でも加熱は、作業性や反応の制御性という観点から優れており、好ましい。加熱により反応を誘起する場合、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以上、且つ10時間半減期温度より40℃高温以下の範囲で加熱することが好ましい。さらに好ましくは、10時間半減期温度以上、且つ10時間半減期温度より30℃高温以下の範囲で加熱することである。10時間半減期温度より40℃高温より高い温度で加熱すると、反応の制御性が著しく損なわれる場合がある。また、10時間半減期温度より低い温度で加熱する場合、合成工程に係る作業時間が極めて長くなるため、反応の制御性と作業効率の観点から好ましくない。誘導期を誘起する方法として、複数の方法を組み合わせて適用しても良い。また、本発明の逆ヨウ素移動重合の誘導期を誘起する方法は、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気において実施することが好ましい。
【0052】
(重合工程)
本発明における重合工程は、水に分散した第一の混合液体からなる油滴中において、逆ヨウ素移動重合の成長期を誘起させ、高分子粒子を得る工程である。
【0053】
逆ヨウ素移動重合の成長期を誘起する方法は、一般的なラジカル重合を誘起する方法と同様であり、具体的には、加熱や光照射、還元剤添加等、従来公知の方法を適用することができる。中でも加熱は、作業性や反応の制御性という観点から優れているので好ましい。加熱により成長期を誘起する場合、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以上、且つ10時間半減期温度より40℃高温以下の範囲で加熱することが好ましい。さらに好ましくは、10時間半減期温度以上、且つ10時間半減期温度より30℃高温以下の範囲で加熱することである。10時間半減期温度より40℃高温より高い温度で加熱すると、重合反応の制御性が著しく損なわれる場合がある。100℃より高い温度で加熱すると、懸濁液の水が沸騰する場合があり、好ましくない。また、10時間半減期温度より低い温度で加熱する場合、重合工程に係る作業時間が極めて長くなるため、重合反応の制御性と作業効率の観点から好ましくない。本発明の重合工程において、加熱する温度を、昇温、或いは降温しても良い。逆ヨウ素移動重合の成長期を誘起する方法として、複数の方法を組み合わせて適用しても良い。また、本発明の逆ヨウ素移動重合の成長期を誘起する方法は、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気において実施することが好ましい。
【0054】
本発明において、ヨウ素分子に対するラジカル重合開始剤のモル比:[ラジカル重合開始剤(mol/l)]/[ヨウ素分子(mol/l)]は、1より大きく20以下であることが好ましい。モル比が1以下の場合、重合反応が停止するため、良好な重合転化率を達成することが困難である。一方、モル比が20より大きい場合、副反応として、ヨウ素化合物を介さないモノマーの連鎖反応が生じるため、良好な分子量制御性を達成することが困難である。また、ヨウ素分子に対する油性オレフィンモノマーのモル比:[油性オレフィンモノマー]/[ヨウ素分子]は、任意に変化させることができる。
【0055】
[高分子粒子の回収方法]
本発明の製造方法により得られる高分子粒子は、重合工程により得られた高分子粒子の水性分散液から、デカンテーション、ろ過あるいは遠心分離などの方法を用いて固液分離することにより回収することが可能である。但し、本発明の目的を達成可能な範囲において、高分子粒子の回収方法はこれらに限定されず、従来公知の方法を適用することができる。また、これらの方法は、単独で用いることも、或は複数を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
[高分子粒子]
本発明の高分子粒子の粒径は、懸濁工程における懸濁方法、あるいは分散剤の種類、量、等を変えることによって任意に調整することができる。高分子粒子の粒径は、特に制限はないが、数平均粒子径が300μm以下、特に20nm以上100μm以下が好ましい。より好ましくは、50nm以上50μm以下である。
【0057】
また、本発明の高分子粒子は、高分子鎖の末端にヨウ素原子を有する高分子化合物を含有する。この末端のヨウ素原子は、核磁気共鳴分光(NMR)法等により同定可能である。例えば、本発明に基づいて作製したポリスチレン鎖の末端に結合したヨウ素原子は、H NMR測定によりヨウ素原子に近接するプロトンのシグナル(重クロロホルム中で4〜5ppm)を検出することによって同定することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明における高分子粒子の製造方法の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
(粒径の測定方法)
高分子粒子の粒径は、細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いて、個数平均粒子径を測定した。測定に使用する電解水溶液は、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)を使用した。一方、粒径が1μm未満の高分子粒子は、動的光散乱法による精密粒度分布測定装置「DLS8000」(大塚電子社製)を用いて、個数平均粒子径を測定した。
【0060】
(重合転化率の測定方法)
重合転化率は、ガスクロマトグラフィー(装置:アジレント・テクノロジー株式会社製、カラム:同社製 HP−5)により測定される重合工程にともなう油性オレフィンモノマーの消費量から、検量線法に基づいて算出した。
【0061】
(分子量の測定)
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(装置:東ソー株式会社製 HLC−8121GPC/HT、カラム:同社製 TSKgel G2000HXL/G3000HXL/G4000HXL)により、数平均分子量(M)、重量平均分子量(M)、ピーク分子量(M)を測定した。
【0062】
(分子量制御性の評価)
分子量制御性は、非特許文献3を参考にして、逆ヨウ素移動重合を塊状重合で行った場合のピーク分子量(Mp,bulk)と、懸濁重合と逆ヨウ素移動重合を組み合わせた場合のピーク分子量(Mp,suspension)とを、重合転化率90%以上において比較することによって評価した。具体的には、Mp,suspension/Mp,bulkの値が、0.9−1.1の場合を分子量制御性が良好(○)とし、それ以外の場合を分子量制御性は不良(×)とし、評価を行うことが出来ない場合を(−)とした。
【0063】
(実施例1)
[懸濁工程]
100mlガラス製容器に8.4mmolの2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65;和光純薬工業(株)製、アゾ系ラジカル重合開始剤、10時間半減期温度:51℃)、2.8mmolのヨウ素分子、0.54molのスチレンを、均一に混合した後、濃い赤色を呈した第一の混合液体を得た。また、200gのイオン交換水に2.2gのリン酸三カルシウム(無機分散剤)を添加し、30分間、15,000rpmにて撹拌することにより作製した30℃の分散液に、0.02molのヨウ化カリウムを溶解させることにより、第二の混合液体(pH8から9)を得た。前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、ヨウ化カリウム量で1×10−1mol/lである。
【0064】
次いで、窒素雰囲気下において、前記第二の混合液体中に、前記第一の混合液体を一息に流し入れた。10分間、窒素雰囲気下、15000rpmで撹拌した後、撹拌を停止することにより橙色を呈した懸濁液を得た。
【0065】
[合成工程・重合工程]
前記懸濁液を、窒素雰囲気下、メカニカルスターラーを用いて200rpmで撹拌しながらウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから徐々に懸濁液の橙色は薄くなり、約30分後には白色へと変化した。この橙色から白色への色変化は、誘導期において、懸濁液中のヨウ素分子が、V−65の開裂により発生したラジカルと反応してヨウ素化合物を形成したことを示している。また、この間、モノマーの重合反応はほとんど起きず、転化率は0%であった。
【0066】
次いで、引き続き重合工程を行った。白色を呈した前記懸濁液を窒素雰囲気下、ウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから6時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径(数平均粒子径)、重合転化率およびピーク分子量Mp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例1におけるピーク分子量(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0067】
(実施例2)
実施例1における、0.54molのスチレンを、0.56molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから6時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例2における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0068】
(実施例3)
実施例1における0.54molのスチレンを、0.43molのスチレンと0.11molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例3における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0069】
(実施例4)
実施例1における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolの2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(アゾ系重合開始剤,10時間半減期温度:65℃)に代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから6時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例4における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0070】
(実施例5)
実施例2における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、実施例2と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例5における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0071】
(実施例6)
実施例3における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例6における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0072】
(実施例7)
実施例1における、第二の混合液体中に含有されるヨウ化カリウム量を、0.02molから0.01mol(前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、ヨウ化カリウム量で5×10−2mol/l)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例1における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0073】
(実施例8)
実施例1における、第二の混合液体中に含有されるヨウ化カリウム量を、0.02molから0.2mol(前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、ヨウ化カリウム量で1mol/l)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例1における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0074】
(実施例9)
実施例1において、第一の混合液体中に機能性物質として0.07mmolのN−ヨードコハク酸イミドを加えた以外は、実施例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱を開始してから7時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、分子量分布(M/M)は、実施例1の結果と同等の値であった。一方、重合工程の加熱を開始してから2時間後の懸濁液を採取し、重合転化率を測定したところ、68%であった。この値は、実施例1における同加熱時間の重合転化率61%と比較して大きくなったことから、N−ヨードコハク酸イミドの添加に伴う重合速度の向上を確認した。
【0075】
(実施例10)
[懸濁工程]
100mlガラス製容器に8.4mmolの2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65;和光純薬工業(株)製、アゾ系ラジカル重合開始剤、10時間半減期温度:51℃)、2.8mmolのヨウ素分子、0.20molのアクリル酸ブチルと、20gのトルエンを、均一に混合した後、濃い赤色を呈した第一の混合液体を得た。また、200gのイオン交換水に2.2gのリン酸三カルシウム(無機分散剤)を添加し、30分間、15,000rpmにて撹拌することにより作製した30℃の分散液に、0.02molのヨウ化カリウムを溶解させることにより、第二の混合液体(pH8から9)を得た。前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、ヨウ化カリウム量で1×10−1mol/lである。
【0076】
次いで、窒素雰囲気下において、前記第二の混合液体中に、前記第一の混合液体を一息に流し入れた。10分間、窒素雰囲気下、15000rpmで撹拌した後、撹拌を停止することにより橙色を呈した懸濁液を得た。
【0077】
[合成工程・重合工程]
前記懸濁液を、窒素雰囲気下、メカニカルスターラーを用いて200rpmで撹拌しながらウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから徐々に懸濁液の橙色は薄くなり、約30分後には白色へと変化した。この橙色から白色への色変化は、誘導期において、懸濁液中のヨウ素分子が、V−65の開裂により発生したラジカルと反応してヨウ素化合物を形成したことを示している。また、この間、モノマーの重合反応はほとんど起きず、転化率は0%であった。
【0078】
引き続き1段階目の重合工程を行った。白色を呈した前記懸濁液を窒素雰囲気下、ウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから4時間後の懸濁液1を採取した。
【0079】
続いて、2段階目の重合工程を行った。2.0mmolのV−65を0.34molのスチレンに溶解させた溶解液を、超音波ホモジナイザーを用いて100gの水に微分散させた分散液として、前記懸濁液に投入し、さらに12時間、70℃にて加熱した後の懸濁液2を採取した。
【0080】
懸濁液1中の高分子粒子の重合転化率、及び、ピーク分子量Mp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定したところ、重合転化率が100%、Mp,suspensionが4500、M/Mが1.8であることを確認した。一方、懸濁液2中の高分子粒子の重合転化率、及び、ピーク分子量Mp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定したところ、重合転化率が93%、Mp,suspensionが10200、M/Mが1.6であることを確認した。
【0081】
以上の結果から、アクリル酸ブチルとスチレンから成るブロック共重合体を含む高分子粒子を作製できたと判断した。
【0082】
(実施例11)
[懸濁工程]
100mlガラス製容器に8.4mmolの2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65;和光純薬工業(株)製、アゾ系ラジカル重合開始剤、10時間半減期温度:51℃)、2.8mmolのヨウ素分子、0.54molのスチレン、0.034molのヘキサデカンを、均一に混合した後、濃い赤色を呈した第一の混合液体を得た。また、90gのイオン交換水に4.7mmolのドデシル硫酸ナトリウムを添加することにより作製した30℃の分散液に、9.0mmolのヨウ化カリウムを溶解させることにより、第二の混合液体(pH8から9)を得た。前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、ヨウ化カリウム量で1×10−1mol/lである。
【0083】
次いで、窒素雰囲気下において、前記第二の混合液体中と、前記第一の混合液体を混合し、窒素雰囲気下、4℃、10分間、300Wの超音波ホモジナイザーで処理することにより、橙色を呈した懸濁液を得た。
【0084】
[合成工程・重合工程]
前記懸濁液を、窒素雰囲気下、メカニカルスターラーを用いて200rpmで撹拌しながらウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから徐々に懸濁液の橙色は薄くなり、約30分後には白色へと変化した。この橙色から白色への色変化は、誘導期において、懸濁液中のヨウ素分子が、V−65の開裂により発生したラジカルと反応してヨウ素化合物を形成したことを示している。また、この間、モノマーの重合反応はほとんど起きず、転化率は0%であった。
【0085】
次いで、引き続き重合工程を行った。白色を呈した前記懸濁液を窒素雰囲気下、ウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから6時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径(数平均粒子径)、重合転化率およびピーク分子量Mp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。この結果、粒径が185nm、重合転化率が93%、ピーク分子量が10400(Mp,suspension)、分子量分布(M/M)が1.5であった。本実施例のピーク分子量(Mp,suspension)と参考例1におけるピーク分子量(Mp,bulk)を比較したところ、Mp,suspension/Mp,bulkが0.9−1.1の範囲であったことから、本実施例の分子量制御性が良好であると判断した。
【0086】
(参考例1)
以下参考例は、重合反応に塊状重合を用いた例である。塊状重合は一つの油滴の中で起こる重合反応である。すなわち、塊状重合は、懸濁重合の油滴の一つのみの反応とみなすことができる。そのために、塊状重合が集合した懸濁重合は理想的な懸濁重合であるといえる。
【0087】
従って、塊状重合のデータと実施例のデータを比較することで、実施例が理想的なデータであるかを示すものが以下の参考例である。
【0088】
100mlガラス製容器に8.4mmolのV−65、2.8mmolのヨウ素分子、0.54molのスチレンを仕込み、均一に混合した後、濃い赤紫色を呈した混合液体を得た。この混合液体に対して、氷浴中で窒素ガスを200ml/minの流量で30分間バブリングすることにより、混合液体中の溶存酸素を除去した後、窒素雰囲気下においてウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱開始6時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0089】
(参考例2)
参考例1における、0.54molのスチレンを、0.56molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、参考例1と同様の方法によって高分子化合物を得た。加熱開始6時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0090】
(参考例3)
参考例1における、0.54molのスチレンを、0.43molのスチレンと0.11molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、参考例1と同様の方法によって高分子化合物を得た。加熱開始6時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0091】
(参考例4)
参考例1における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、重合時の加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、参考例1と同様の方法によって高分子化合物を得た。加熱開始6時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0092】
(参考例5)
参考例2における、V−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、重合時の加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、参考例2と同様の方法によって高分子化合物を得た。加熱開始6時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0093】
(参考例6)
参考例3における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、重合時の加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、参考例3と同様の方法によって高分子化合物を得た。加熱開始7時間後に得られた高分子化合物について、重合転化率およびMp,bulk、分子量分布(M/M)を測定した。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0094】
(比較例1)
[懸濁工程]
実施例1の懸濁工程における、ヨウ化カリウムを含有した第二の混合液体の代わりに、200gのイオン交換水に2.2gのリン酸三カルシウム粒子(無機分散剤)を分散させた30℃の分散液(pH6.5から7.0)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によって赤色を呈した懸濁液を得た。
【0095】
[合成工程・重合工程]
前記懸濁液を、窒素雰囲気下、メカニカルスターラーを用いて200rpmで撹拌しながらウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから徐々に懸濁液の赤色は薄くなり、約30分後には白色へと変化した。この赤色から白色への色変化は、懸濁液中のヨウ素分子が、V−65の開裂により発生したラジカルと反応してヨウ素化合物を形成したことを示している。また、この間、モノマーの重合反応はほとんど起きず、転化率は0%であった。
【0096】
次いで、引き続き重合工程を行う。白色を呈した前記懸濁液を、窒素雰囲気下、ウォーターバスを用いて70℃に加熱した。加熱を開始してから6時間後の懸濁液を採取し、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例1における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0097】
(比較例2)
比較例1における、0.54molのスチレンを、0.56molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、比較例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱開始6時間後の懸濁液について、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例2における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0098】
(比較例3)
比較例1における、0.54molのスチレンを、0.43molのスチレンと0.11molのメタクリル酸メチルに代えた以外は、比較例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱開始6時間後の懸濁液について、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例3における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0099】
(比較例4)
比較例1における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、比較例1と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱開始6時間後の懸濁液について、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例4における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0100】
(比較例5)
比較例2における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、比較例2と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱開始6時間後の懸濁液について、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例5における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0101】
(比較例6)
比較例3における、8.4mmolのV−65を、8.4mmolのAIBNに代えたのに加え、合成工程・重合工程における加熱温度70℃を80℃に変更した以外は、比較例3と同様の方法によって高分子粒子を得た。重合工程の加熱開始6時間後の懸濁液について、得られた高分子粒子の粒径、重合転化率およびMp,suspension、及び分子量分布(M/M)を測定した。また、参考例6における(Mp,bulk)との比較により、分子量制御性の評価を行った。これらの結果を、まとめて表1に記載した。
【0102】
【表1】

【0103】
(注1)St:スチレン、MMA:メタクリル酸メチルを示す。
(注2)ヨウ化カリウム量は、第二の混合液体に含有されるヨウ化カリウム量(mol/l)であり、ヨウ化物イオンの含有量を示す。
(注3)分子量制御性は、○は良好、×は○以外の場合で不良、−は評価を行うことが出来ないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の高分子粒子の製造方法は、分子量制御性と重合転化率の両方を良好に達成可能なために、例えば、重合トナーやインジェットインク等に含有される機能性バインダーの製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0105】
10 油性オレフィンモノマー
11 ラジカル重合開始剤
12 ヨウ素分子
13 水
14 ヨウ化物イオン
15 油滴
16 ヨウ素化合物
17 油滴
18 高分子粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性オレフィンモノマーとラジカル重合開始剤とヨウ素分子とを含有する第一の混合液体を、水とヨウ化物イオンとを含有する第二の混合液体中に懸濁することにより、前記第一の混合液体からなる油滴を含有する懸濁液を得る懸濁工程と、
前記油滴中において前記ラジカル重合開始剤の開裂により生成するラジカルと前記ヨウ素分子とを反応させてヨウ素化合物を合成する合成工程と、
前記油滴中の前記油性オレフィンモノマーを重合する重合工程とを有することを特徴とする高分子粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ラジカル重合開始剤が油溶性ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1に記載の高分子粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第二の混合液体に含有されるヨウ化物イオンの含有量は、5×10−2mol/l以上5mol/l以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236967(P2012−236967A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250856(P2011−250856)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】