説明

高分子薄膜、パターン基板の製造方法、パターン転写体、及び磁気記録用パターン媒体

【課題】高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を用いて、柱状ミクロドメインが、膜の貫通方向に配向するとともに規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供することを課題にする。
【解決手段】第1モノマー(11)の重合体を主成分にする連続相(10)と、第2モノマー(21)の重合体を主成分にし連続相(10)中に分布するとともに膜の貫通方向に配向している柱状ミクロドメイン(20)と、を備える高分子薄膜(30)において、第1モノマー(11)が重合してなる第1セグメント(12)、及び前記第2モノマー(21)が重合してなる第2セグメント(22)を少なくとも有する高分子ブロック共重合体(31)と、第1セグメントに相溶する高分子重合体(13)と、が配合されてなることを手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状ミクロドメインが膜の貫通方向に配向したミクロ相分離構造を有する高分子薄膜に関する。また、このミクロ相分離構造の規則配列パターンを表面に有するパターン基板の製造方法に関する。さらに、対象物(被転写体)の表面に前記規則配列パターンを転写させるためのパターン転写体、このパターン転写体によって製造される磁気記録用パターン媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、エネルギー貯蔵デバイス、センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートル〜数百ナノメートルのサイズの微細な規則配列パターンを基板上に形成する必要性が高まっている。このため、このような微細パターンの構造を高精度でかつ低コストに製造できるプロセスの確立が求められている。
このような微細パターンの加工方法としては、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、すなわちバルク材料を微細に刻むことにより形状を付与する方法が一般に用いられている。例えば、LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0003】
しかしながら、微細パターンの微細度が高まるに従い、このようなトップダウン的手法の適用は、装置・プロセス両面における困難性が増大する。特に、微細パターンの加工寸法が数十ナノメートルまで微細になると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり、装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクを適用した微細パターンの形成が困難になると、直接描画法を適用せざるをえないので、加工スループットが著しく低下してしまう問題を回避することができない。
【0004】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に高分子ブロック共重合体の自己組織化現象、いわゆるミクロ相分離を応用したプロセスは、簡便な塗布プロセスにより数十ナノメートル〜数百ナノメートルの種々の形状を有する微細な規則構造を形成できる点で、優れたプロセスである。
【0005】
ここで、高分子ブロック共重合体をなす異種の高分子セグメントが互いに混じり合わない(非相溶な)場合、これらの高分子セグメントの相分離(ミクロ相分離)により、特定の規則性を持った微細構造が自己組織化される。
そして、このような自己組織化現象を利用して微細な規則構造を形成した例としては、ポリスチレンとポリブタジエン、ポリスチレンとポリイソプレン、ポリスチレンとポリメチルメタクリレートなどの組み合わせからなる高分子ブロック共重合体薄膜をエッチングマスクとして用い、孔やラインアンドスペースなどの構造を基板上に形成した公知技術が知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0006】
ところで、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象によると、球状や柱状のミクロドメインが連続相中に規則的に配列した構造を有する高分子薄膜を得ることができる。
このようなミクロ相分離構造をエッチングマスク等のパターン転写体として利用する場合、連続相中に柱状ミクロドメインが基板に直立する方向(膜の貫通方向)に配向して規則的に配列していることが望ましい。
なぜならば、柱状ミクロドメインが基板に直立した構造の場合、球状ミクロドメインが基板表面に規則的に配列した構造に比べて、得られる構造のアスペクト比(基板に平行方向のドメインサイズに対する、基板に直立する方向のドメインサイズの比)が自由に調整できるからである。
一方、球状ミクロドメインを有するミクロ相分離構造をエッチングマスク等のパターン転写体として利用する場合、得られる構造の最大のアスペクト比は1であるので、基板に直立した柱状ミクロドメインの場合と対比すると、アスペクト比が小さく調節自由度も無いといえる。
【0007】
しかしながら、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象による柱状ミクロドメイン構造は、しばしば膜表面に対して平行に配向した構造を示すものである。
このように、膜表面に対して平行に配向しやすい柱状ミクロドメインを基板に直立する方向(膜の貫通方向)に配向させるための従来方法としては次のようなものが挙げられる。
【0008】
第1の従来方法は、高分子ブロック共重合体の膜に、膜面を貫通する方向に極めて高い電界を印加することにより、柱状ミクロドメインを電界の方向へ配向させ、膜表面に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献3参照)。
第2の従来方法は、基板表面を化学的に修飾し高分子ブロック共重合体の各セグメントに対して等しい親和性を持つように処理して柱状ミクロドメインが基板に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献4参照)。
【非特許文献1】Science 276 (1997)1401
【非特許文献2】Polymer 44 (2003) 6725
【非特許文献3】Macromolecules 24(1991) 6546
【非特許文献4】Macromolecules 32(1999) 5299
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記した第1の従来方法では、高分子ブロック共重合体の膜に高電界を印加するには、膜表面に電極を密着させ非常に狭いギャップ間でこの膜に電圧を印加する必要があるなど特別の工程あるいは設備が必要であった。
また、前記した第2の従来方法では、基板表面を高分子ブロック共重合体の各セグメントに対して等しい親和性を持つように処理するのは一般的に容易でなかった。
このような点から、これら従来方法を採用して柱状ミクロドメインを膜表面に対して直立させることは現実的でないといった問題があった。
このように、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を応用して数十ナノメートル〜数百ナノメートルの微細な規則構造を得る方法は簡便でかつ低コストであるが、柱状ミクロドメインを、膜の貫通方向に配向させることは困難であった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を用いて、柱状ミクロドメインが、膜の貫通方向に配向するとともに規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供するものである。そして、この規則配列パターンを表面に有するパターン基板の製造方法を提供するものである。さらには、対象物(被転写体)の表面に、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンが得られるエッチングマスク等のパターン転写体、記録密度を向上させることができる磁気記録用パターン媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために本発明は、第1モノマーの重合体を主成分にする連続相と、第2モノマーの重合体を主成分にし前記連続相中に分布するとともに膜の貫通方向に配向している柱状ミクロドメインと、を備える高分子薄膜において、前記第1モノマーが重合してなる第1セグメント及び前記第2モノマーが重合してなる第2セグメントを少なくとも有する高分子ブロック共重合体と、前記第1セグメントに相溶する高分子重合体と、が配合されてなることを手段とする。
【0012】
このような手段から発明が構成されることにより、膜の平行方向に配向する傾向が強い柱状ミクロドメインは、高分子重合体の作用により、膜の貫通方向に配向することになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を用いて、柱状ミクロドメインが、膜の貫通方向に配向するとともに規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供することができる。そして、この規則配列パターンを表面に有するパターン基板の製造方法を提供することができる。さらには、対象物(被転写体)の表面に、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンが得られるエッチングマスク等のパターン転写体、記録密度を向上させることができる磁気記録用パターン媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(高分子薄膜について)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態の高分子薄膜30は、連続相10と、柱状ミクロドメイン20とからなるミクロ層分離構造を有し、基板40の表面に配置されている。
【0015】
柱状ミクロドメイン20は、連続相10中に分布するとともに、図1(a)中のZ軸方向である基板40に直立する方向(膜の貫通方向)に配向している。そして、図1(b)に示すように柱状ミクロドメイン20は、高分子薄膜30の水平面(図中XY平面)において、六方最密構造となるように規則配列パターンを形成している。
【0016】
次に、図2を参照して、高分子薄膜30の構成単位を模式的に拡大して、高分子薄膜30のミクロ層分離構造についてさらに詳しく説明する。
高分子薄膜30は、図2(a)に示されるような高分子ブロック共重合体31と、図2(b)に示されるような高分子重合体13との混合物が主成分として配合されてなるものである。
【0017】
高分子ブロック共重合体31は、第1モノマー11が重合してなる第1セグメント12と、第2モノマー21が重合してなる第2セグメント22とから構成されるものである。
ここで、高分子ブロック共重合体31における第2セグメント22の重合度は、第1セグメント12の重合度より小さいことが望ましい。
このように重合度が調整されることにより、第1セグメント12と第2セグメント22との結合部位が図2(c)に示されるような円形形状を有するように、高分子ブロック共重合体31が配列されやすくなる。
そして、第1セグメント12と第2セグメント22との結合部を境界として、第1モノマー11の重合体を主成分にする連続相10の領域と、第2モノマー21の重合体を主成分にする柱状ミクロドメイン20の領域とが形成されることになる。
【0018】
また、高分子ブロック共重合体31は適切な方法で合成すればよいが、ミクロ相分離構造の規則性を向上するためにはできる限り分子量分布が小さくなるような合成手法、例えばリビング重合法を用いることが適切である。
【0019】
なお、本実施形態において高分子ブロック共重合体31は、図2(a)のような、第1セグメント12及び第2セグメント22における互いの末端が結合してなるAB型の高分子ジブロック共重合体が例示されている。しかし、本実施形態で用いられる高分子ブロック共重合体は、図3(a)に示されるように、ABA型高分子トリブロック共重合体31aであっても構わない。また、図3(b)に示されるように、第3モノマー23が重合してなる第3セグメント24を有し、三種以上の高分子セグメントからなるABC型高分子ブロック共重合体31bであっても構わない。さらに、このようにセグメントが直列した高分子ブロック共重合体の他、図3(c)(d)に示されるように、各セグメントが1点で結合したスター型の高分子ブロック共重合体31c,31dであっても構わない。
また、本発明に適用される高分子ブロック共重合体31は、図3に示される形態に限定されるものでなく、第3セグメントが、第2セグメントとは反対側の第1セグメントの末端に連結しても構わない。さらに、図3において、第1セグメント12,12´及び第2セグメント22の配置位置を入れ替えた形態であっても構わない。
【0020】
図2に戻って、
高分子重合体13は、図2(b)では、第1モノマー11が重合して構成されるものが例示されている。しかし、高分子重合体13は、このように第1モノマー11の重合体に限定されるものではなく、高分子ブロック共重合体31のうち連続相10を形成することとなる第1セグメント12に相溶するものであれば適宜用いることができる。
【0021】
具体的に、高分子重合体13に適用することができる高分子を例示する。ここで、第1セグメント12がポリスチレンの場合、高分子重合体13は、ポリスチレンを適用することができるほか、この第1セグメント12(ポリスチレン)に相溶する高分子であるポリフェニレンエーテル、ポリメチルビニルエーテル、ポリジメチルシロキサン、ポリαメチルスチレン、ニトロセルロース等を適用することができる。
また、第1のセグメント12がポリメチルメタクリレートの場合、高分子重合体13は、ポリメチルメタクリレートを適用することができるほか、この第1セグメント12(ポリメチルメタクリレート)に相溶する高分子であるスチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフロロアセトン共重合体、ビニルフェノール-スチレン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、フッ化ビニリデンホモポリマー等を適用することができる。
なお、以上の高分子でも、分子量や濃度、さらに共重合体の場合は組成によっては非相溶になる場合もある。また、温度によっても非相溶になる場合があり、熱処理時の温度においても相溶状態であることが望ましい。
【0022】
この高分子重合体13の重合度は、高分子ブロック共重合体31における第1セグメント12の重合度より小さいことが望ましい。
そして、高分子重合体13の配合量は、高分子ブロック共重合体31との関係において次のように調整されることが望ましい。
すなわち、高分子薄膜30において第1セグメント12及び高分子重合体13の体積の和が占める体積率をφ%として、柱状ミクロドメイン20が形成されうる最大のφ%をφmax%とした場合、次の第(1)式を満たすことが望ましい。なお、この第(1)式については、後に図4、図8、図9、図10を参照して詳述することにする。
【0023】
φmax − 7 ≦ φ ≦ φmax (1)
【0024】
このように、高分子重合体13の重合度及び配合量が調節されることにより、図2(d)に示されるように、多くの柱状ミクロドメイン20が基板40に直立する方向(膜の貫通方向)に配向する効果が得られる。これは、図2(c)に示すように、配合された高分子重合体13が、柱状ミクロドメイン20の単位配列の重心部分に分布することにより、図2(d)に示すように、基板40の表面から成長開始した柱状ミクロドメイン20は、寝ることなく直立して成長することになるためと考えられているからである。
なお、図2(c)(d)に示される、高分子重合体13又は高分子ブロック共重合体31の配列は、その概念を示すものであるので、本発明の権利範囲を限定するように解釈してはならない。また、図2、図3において丸印で示されているモノマーは、高分子ブロック共重合体31及び高分子重合体13の概要を理解するために概念的に示されているのであって、現実の高分子鎖がこのように構成されていると理解してはならない。特に、これら高分子鎖の重合度に関し、図面が本発明の権利範囲を限定するように解釈されてはならない。
【0025】
次に、図4を参照して、前記した第(1)式について説明する。
ここで、図4(a)〜(d)は、高分子薄膜30a,30b,30c,30を構成する第1モノマー11(図2(a)(b)参照)の重合体及び第2モノマー21の重合体の体積率を変化させた場合に形成されるミクロ相分離構造について示す図である。
図4(a)に示されるミクロ相分離構造は、図2(a)で示される高分子ブロック共重合体31を構成する第1セグメント12及び第2セグメント22の体積率がほぼ等しい場合にとり得る構造である。
すなわち、図4(a)の高分子薄膜30aは、第1セグメント12及び第2セグメント22をそれぞれ主成分とする板状の高分子相10a,20bが交互に配列した構造となっている。
【0026】
図4(b)に示されるミクロ相分離構造は、すでに従来技術として紹介されている高分子重合体13が配合されていない場合であって、図4(a)よりも第1セグメント12の体積率を大きくした場合にとり得る構造である。図4(e)は、後記する原子間力顕微鏡による表面の観察結果である。
すなわち、図4(b)の高分子薄膜30bは、第1セグメント12を連続相10bとして、この連続相10bに柱状ミクロドメイン20bが分布した構造となっている。この柱状ミクロドメイン20bが、本実施形態の柱状ミクロドメイン20(図4(d)参照)と比較して相違する点は、基板40に対して平行方向に寝ていることである。
この理由は、高分子薄膜30bの内部において、基板40に対してより親和性の高いセグメントが基板40に接するように、一方では自由表面(基板40と反対側の表面)に対してより親和性の高いセグメントが自由表面に接するように、柱状ミクロドメイン20bが配列しようとしているからである。
【0027】
図4(c)に示されるミクロ相分離構造は、第1セグメント12の体積率を図4(b)よりもさらに大きくした場合にとり得る構造である。図4(f)は、後記する原子間力顕微鏡による表面の観察結果である。
すなわち、図4(c)の高分子薄膜30cは、第1セグメント12を連続相10cとして、この連続相10cに球状ミクロドメイン20cが分布した構造となっている。
このように図4(b)(c)に示すように、第1モノマー11の重合体が占める体積率φ%を連続的に増加させていくと高分子薄膜30bから同30cに切り替わる体積率の閾値が存在するといえる。第(1)式では、この閾値を柱状ミクロドメイン20が形成されうる最大の体積率φmaxと定義したわけである。
【0028】
図4(d)は、他の図4(a)〜(c)と対比するために掲載した本実施形態の高分子薄膜30(図1(a)に対応)を示す概略図であり、図4(g)は、後記する原子間力顕微鏡による表面の観察結果である。
図4(d)に示される本実施形態のミクロ相分離構造では、前記した第(1)式を満たすように高分子重合体13(図2(b)参照)が添加されているために、図4(b)で寝ていた柱状ミクロドメイン20bが、基板40に直立する方向(膜の貫通方向)に配向する構造を得たわけである。
このように高分子薄膜30のミクロ相分離構造の形態は、これを構成する第1セグメント12、第2セグメント22及び高分子重合体13の比率により、大きく変化するものである。
【0029】
基板40は、はSiウエハが好適であるが、そのほかガラス、ITO、樹脂等、目的に合わせて適切に選択することができる。
ところで、図5に示されるような、表面が大面積にわたりフラットな基板40に形成された高分子薄膜30は、柱状ミクロドメイン20の配列規則性が異なる領域が多数集まったグレイン状の構造をとる場合がある。また、そのグレイン内においても、ミクロドメインの配列に点欠陥や線欠陥が存在する場合がある。そのため、大面積にわたり高度な規則性が要求される用途、例えば後記する磁気記録用パターン媒体の加工等にはそのままでは適用することができない可能性も存在する。
【0030】
そこで、図7に示すように、基板41はその表面に、溝42及びガイド43が形成されて凸凹形状を有するようにしてもよい。このように基板41の表面が加工されていることにより、溝42において形成される高分子薄膜30には、連続相10中の柱状ミクロドメイン20の規則配列パターンの規則性を乱す粒界が発生しなくなる。
このような溝42及びガイド43を基板41の表面に形成する方法としては、フォトリソグラフィー法等が挙げられる。そして、このガイド43に囲まれている、すなわち拘束された溝42の空間内でミクロ相分離構造を発現させることにより、欠陥・グレイン・粒界等の発生を抑えた高分子薄膜30を基板41上に形成することができる。
【0031】
(パターン基板の製造方法について)
図5を参照して高分子薄膜及びパターン基板の製造方法の実施形態について説明する。
まず、高分子ブロック共重合体31(図2参照)と高分子重合体13との混合物(以下、高分子混合物という場合がある)を溶媒に配合して溶解し、高分子混合物の溶液を作製する。そして、この溶液を、スピンコート法、ディップコート法、溶媒キャスト法等の方法により、図5(a)に示す基板40の表面に塗布する。なお、用いる溶媒は高分子混合物を構成する高分子ブロック共重合体31と高分子重合体13双方に対して良溶媒であることが望ましい。
【0032】
その際、図5(b)に示す塗膜38の厚みが所定の値となるように、高分子混合物の濃度やスピンコートにおける回転数や時間、ディップコート法における引き上げ速度等を調整することが必要である。
次に、高分子混合物の溶液から溶媒を揮発させて基板40の表面に塗膜38を固定する。ところで、塗膜38の厚みは、目的に応じて任意に調整すればよいが、一般に図5(c)に示す高分子薄膜30の厚みが増すにつれて直立する柱状ミクロドメイン20の配向度が低下する傾向にある。このため、高分子薄膜30の厚みは、柱状ミクロドメイン20の直径の10倍以下になるようにすることが望ましい。
【0033】
次に、基板40に固定された塗膜38を熱処理して、図5(c)に示すように、連続相10と、基板40の直立方向に配向した柱状ミクロドメイン20とに分離したミクロ相分離構造を発現させる。
これは、図5(b)の段階で固定されている塗膜38は、そのままの状態ではミクロ相分離が十分に進行せず規則性の低い非平衡構造である場合が多いため、ミクロ相分離を十分に進行させ規則性の高いより平衡に近い構造に変化させるために熱処理を行うことにより達成する。
この熱処理は、高分子混合物の酸化を防止するために真空や窒素あるいはアルゴン雰囲気下において、高分子混合物のガラス転移温度以上に加熱することにより行うとよい。
【0034】
以上の方法により、図5(c)に示すような、ミクロ相分離構造による規則配列パターンを有する高分子薄膜30が基板40上に形成され、パターン基板61が製造されたことになる。なお、この規則配列パターンの構成要素となる柱状ミクロドメイン20の、断面積及び配置間隔は、高分子混合物中の高分子ブロック共重合体31の分子量及び組成、高分子重合体13の分子量、および両者の体積率を変更することで適宜調整することができる。
【0035】
次に、図5(c)に示す高分子薄膜30のミクロ相分離構造から、柱状ミクロドメイン20の高分子相を選択的に除去して、図5(d)に示すような、複数の微細孔25が規則配列パターンを形成した多孔質高分子薄膜35を得る。なお、図示しないが、連続相10の高分子相を選択的に除去して、複数の柱状構造体(柱状ミクロドメイン20)が規則配列パターンを形成した高分子薄膜を得ることもできる。このように、複数の微細孔25又は柱状構造体が規則配列パターンを形成する多孔質高分子薄膜35が基板40上に形成されて、パターン基板62が製造されたことになる。
また、詳しくは述べないが、図5(d)において、残存した他方の高分子相(図では連続相10からなる多孔質高分子薄膜35)を基板40の表面から剥離して、単独の多孔質高分子薄膜35をパターン基板として製造することもできる。
【0036】
ところで、図5(d)に示すように、高分子薄膜30を構成する連続相10又は柱状ミクロドメイン20のいずれか一方の高分子相を選択的に除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、又はその他のエッチング手法により各高分子相間のエッチングレートの差を利用する方法を用いる。
このためには、図2(a)に示す高分子ブロック共重合体31を構成する第1モノマー11及び第2モノマー21の組み合わせを適宜選択する必要がある。
【0037】
例えば、第1モノマー11及び第2モノマー21の組み合わせがポリスチレン及びポリブタジエンである高分子ブロック共重合体31である場合には、オゾン処理によりポリスチレンセグメントからなる高分子相のみを残すように現像処理が可能である。
また、第1モノマー11及び第2モノマー21の組み合わせがポリスチレンとポリメチルメタクリレートである高分子ブロック共重合体31では、ポリスチレンの方がポリメチルメタクリレートよりも、酸素やCF4をエッチャントとして用いるRIEに対するエッチング耐性が高い。このため、RIEによるエッチングを適用すれは、ポリメチルメタクリレートからなる高分子相のみが選択的に除去された多孔質高分子薄膜35を得ることが可能である。
【0038】
このように、いずれか一方の高分子相のみを選択的に除去できる高分子薄膜30を形成しうる高分子ブロック共重合体31としては、例えばポリブタジエン−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−4−ビニルピリジン、ポリブタジエン−メチルメタクリレート、ポリブタジエン−ポリ−t−ブチルメタクリレート、ポリブタジエン−t−ブチルアクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリメチルメタクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリイソプレンーポリー2−ビニルピリジン、ポリメチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリメチルアクリレート−ポリスチレン、ポリブタジエンーポリスチレン、ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレンポリ−2−ビニルピリジン、ポリスチレンポリ−4−ビニルピリジン、ポリスチレンポリジメチルシロキサン、ポリスチレンポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリブタジエン−ポリアクリル酸ナトリウム、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリエチレンオキシド、ポリスチレンポリアクリル酸、ポリスチレンポリメタクリル酸等がある。
【0039】
また、連続相10又は柱状ミクロドメイン20のいずれか一方の高分子相に金属原子等をドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。例えば第1モノマー11及び第2モノマー21の組み合わせがポリスチレンとポリブタジエンである高分子ブロック共重合体31の場合、ポリブタジエンからなる高分子相は、ポリスチレンからなる高分子相と比較してよりオスミウムがドープされやすい。この効果を利用して、ポリブタジエンからなるドメインのエッチング耐性を向上させることが可能である。
【0040】
一方で、連続相10又は柱状ミクロドメイン20のいずれか一方の高分子相に金属原子がドープされることにより、導入した物質を界面において触媒反応させる高分子薄膜30のメンブレンリアクターとしての用途も期待できる。また、金属原子をドープするタイミングとしては、連続相10及び柱状ミクロドメイン20に相分離させる前に行ってもよいし、相分離させた後に行ってもよい。
【0041】
次に、図5(d)に示す連続相10のように残存した他方の高分子相(多孔質高分子薄膜35)をマスクとして基板40をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。すると、図5(e)に示すように、微細孔25を介してミクロ分離構造の規則配列パターンが表面に転写されたパターン基板63が形成されることになる。そして、このパターン基板63の表面に残存した多孔質高分子薄膜35をRIEまたは溶媒で除去すると、図5(f)に示すように、柱状ミクロドメイン20に対応した規則配列パターンを有する微細孔25が表面に形成されたパターン基板63が得られることになる。
【0042】
次に、図6を参照して、パターン基板の製造方法に係る他の実施形態について説明する。
ここで、図6(a)〜(d)にかけての工程は、すでに説明した図5(a)〜(d)にかけての工程と同等であるので、説明を省略する。
そして、図6(d)に示すパターン基板62を、パターン転写体として用いて、残存した他方の高分子相(連続相10)を、図6(e)のように被転写体50に密着させて、ミクロ相分離構造の規則配列パターンを被転写体50の表面に転写する。その後、図6(f)に示すように、被転写体50をパターン基板62から剥離することにより、多孔質高分子薄膜35の規則配列パターンが転写されたレプリカ64(パターン基板)を得る。
【0043】
ここで、レプリカ64の材質は、金属であればニッケル、白金、金等、無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。レプリカ64が金属製の場合、被転写体50は、スパッタ、蒸着、めっき法、又はこれらの組み合わせによりパターン基板62の表面に密着させることが可能である。
また、レプリカ64が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えばゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっきやゾルゲル法は、ミクロ相分離構造における数十ナノメートルの微細な規則配列パターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で好ましい方法である。
【0044】
以上述べたパターン基板の製造方法により、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンを表面に有するパターン基板を製造することができる。
【0045】
(パターン転写体、磁気記録用パターン媒体について)
前記した製造方法により得られたパターン基板は、その表面に形成される規則配列パターンが微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
例えば、製造されたパターン基板の表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則配列パターンを表面に有するパターン転写体のレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
【0046】
以下に、ナノインプリント法によりパターン転写体の表面の微細な規則配列パターンを被転写体に転写する方法について示す。
第1の方法は、図5(f)で作製したパターン転写体63を被転写体(図示せず)に直接インプリントして規則配列パターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体とする場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱した後に、パターン転写体63をこの被転写体に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後にパターン転写体63を被転写体の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
【0047】
また、第2の方法として、パターン転写体63がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂をパターン転写体63に密着させた後に光を照射すると、この光硬化性樹脂は硬化するので、パターン転写体63を離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
さらに、このような光インプリント法において、ガラス等の基板を被転写体(図示せず)とする場合、パターン転写体63と被転写体の基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を密着させて光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に、パターン転写体63を離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工して、基板上に規則配列パターンを転写する方法もある。
【0048】
ところで、以上第1,第2の方法において適用することができるパターン転写体としては、図5(f)で示されるパターン基板62の他、図5(d)で作製されたパターン基板63や、図6(f)で作製されたパターン基板64を用いることもできる。なお、パターン転写体として図5で作製されたパターン基板62を用い熱インプリント法を実施するときは、被転写体(図示せず)を構成する熱可塑性樹脂よりも、軟化温度が高い材質を多孔質高分子薄膜35に適用する必要がある。
【0049】
次に、磁気記録用パターン媒体について述べる。
本実施形態の説明に先立って、磁気記録メディアについて言及する。
磁気記録メディアは、データの記録密度を向上させることが常に要求されている。このため、データを刻む基本単位となる磁気記録メディア上のドットも、微小化するとともに隣接するドットの間隔も狭くなり、高密度化している。
ちなみに、記録密度が1テラビット/平方インチの記録媒体を構成するためには、ドットの配列パターンの周期は約25ナノメートルになるようにする必要があるとされている。
このように、ドットの高密度化が進むと、一つのドットをON/OFFするために付与された磁気が、隣接するドットに影響を及ぼすことが懸念される。
そこで、隣接するドットの方から漏洩してくる磁気の影響を排除するために、磁気記録メディア上のドットの領域を物理的に分断して配列パターンを形成する方法が検討されている。
【0050】
つまり、ここで述べる磁気記録用パターン媒体は、本発明により製造されたパターン基板の規則配列パターンを利用して、このような磁気記録メディアのドットの配列パターンを形成するものである。図5を参照して説明を続ける。
【0051】
この磁気記録用パターン媒体用の基板40にはガラス製やアルミニウム製のもの等が用いられる。そして、この基板40の表面を前記したように図5(a)〜(f)に従い加工して磁気記録用パターン媒体63を得た後、スパッタ等の方法を用いて磁気記録層をその表面に形成することにより磁気記録メディアを製造することができる。
【0052】
また一方で、図5(d)、図5(f)または図6(f)のようなパターン基板62,63,64をパターン転写体として、光インプリント又は熱インプリント等のナノインプリント法により、磁気記録用パターン媒体を加工する方法も考えられる。
具体的には、規則配列パターンが形成される前の磁気記録用パターン媒体の基板に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗膜し、この塗膜に凹凸の規則配列パターンを転写する。このように規則配列パターンの凹凸が転写された塗膜をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工すれば、規則配列パターンの凹凸が基板上に形成されるわけである。この方法によれば、コストや生産性の観点からより好適である。
【0053】
ところで、以上の説明において、高分子薄膜30について、その表面の規則配列パターンを転写したパターン基板61,62,63,64を製造する用途を中心に述べてきた。しかし、高分子薄膜30は、このような用途に限定されるわけではなく、例えば、フィルタとして単体で用いられる多孔質高分子薄膜35を製造するような用途も存在する。
また、以上の説明において規則配列パターンは、六方最密構造をとるものを例示したが、これに限定されることなく、例えば、正方配列をとる場合もある。また、本発明の高分子薄膜が保護される範囲は、規則配列パターンを有している場合に限定されるわけでなく、不規則配列パターンである場合も含まれる。
【実施例1】
【0054】
本実施例では、図5(a)〜(c)に示す工程に従い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる柱状ミクロドメイン20が、ポリスチレン(PS)からなる連続相10中に配列する構造を有する高分子薄膜30を基板40上に形成させる例を示す。そして、図5(c)〜(d)に示す工程に従い、高分子薄膜30中のPMMAからなる柱状ミクロドメイン20を分解除去し、基板40の表面に多孔質高分子薄膜35を形成する例について示す。
ここでは、PSを第1セグメント12(図2(a)参照)(以下、PSセグメントという)として、PMMAを第2セグメント22(以下、PMMAセグメントという)とした高分子ジブロック共重合体31(以下、PS-b-PMMAという)と、PSの高分子重合体13(図2(b)参照)(以下、ホモPSという)とを混合して高分子混合物を作製した。
【0055】
作製した高分子混合物をトルエンの溶媒に溶解し、濃度1.0重量%の高分子混合溶液を調整した。この高分子混合溶液を基板40の表面に滴下してスピンコートすることにより、図5(b)に示すように基板40の表面に塗膜38を製膜した。この際、スピンコーターの回転数を調整することにより塗膜38の厚みを100nmとした。
【0056】
この際、基板40には、Siウエハを用いた。基板40は実験に供する前に濃硫酸と過酸化水素水の3:1混合溶液(ピラニア溶液)に60℃で10分間浸漬することにより表面を十分に洗浄した。
【0057】
この際用いたPS-b-PMMAとホモPSの高分子混合物に関して以下に詳述する。まず、PS-b-PMMAを構成する各セグメントの数平均分子量Mnは、PSセグメントが46,000、PMMAセグメントが21,000であった。また、PS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.09であった。また、ホモPSのMnは7,500、Mw/Mnは1.09であった。
【0058】
以下、これらのサンプルをそれぞれPS(46k)-b-PMMA(21k)、PS(7k)と称する。
次に、PS(46k)-b-PMMA(21k)とPS(7k)とを混合し、PSセグメント及びホモPSの体積の和が高分子混合物の全体に占める割合(φPS(%))が異なる一連の高分子混合物を調整した。ここで、PS(46k)-b-PMMA(21k)単独ではφPSが69%であるが、PS(46k)-b-PMMA(21k)にPS(7k)を添加することによりφPSを図8の左列に示すように69%〜85%まで1%刻みで調整した。
【0059】
次に基板40の表面に製膜した塗膜38の表面を原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、D-500)で観察した。その結果、塗膜38の表面は均一であり基板40の表面が均一な厚みで被覆されていることが判明した。塗膜38を鋭利な刃で一部剥離し原子間力顕微鏡で塗膜38が存在する部分と剥離した部分の段差を測定した。その結果、塗膜38の厚みは100nmであることを確認した。
【0060】
次に、塗膜38を製膜した基板40を真空雰囲気下、230℃で4時間熱処理することにより高分子薄膜30中にミクロ相分離構造を発現させた(図5(c)参照)。得られた基板40の一部を切り分け原子間力顕微鏡を用いて高分子薄膜30内部のミクロ相分離構造の様子を観察した。
【0061】
原子間力顕微鏡による観察は以下の方法により高分子薄膜30の表面にミクロ相分離構造に由来する凸凹を形成することで実施した。すなわち、高分子薄膜30の表面にUV光を6分間照射することにより表面をアッシングしPMMA相を5nm程度除去することで高分子薄膜30表面にミクロ相分離構造に由来する凸凹を作製した。
【0062】
図8の左側に各φPS値における観察結果の概要図を示す。これらのうち代表的な原子間力顕微鏡による観察像を示したものが図4(e)(f)(g)である。
図4(e)は、φPSが72%のサンプルについての観察像で、直径約20nmの柱状の凹形状が、膜表面に寝た構造で観察される像が支配的となっている。この凹形状はPMMA相がUVによりエッチングされて形成したものであり、PMMAの柱状ミクロドメイン20b(図4(b)参照)がPSの連続相10b中で膜表面に対して寝た構造を主にとっていることが明らかになった。
【0063】
図4(g)は、φPSが80%のサンプルについての観察像で、膜表面に直径が約20nmの円形の凹形状が規則的に配列した構造が観察されている。ここで、円形の凹部はほぼ六方最密構造となるように配列し、その中心間距離はほぼ40nmであった。この凹形状はPMMA相がUVによりエッチングされたものであり、PMMAからなる柱状ミクロドメイン20(図4(d)参照)がPSからなる連続相10中で膜表面に対して直立して存在することが明らかになった。
【0064】
図4(f)は、φPSが84%のサンプルについての観察像で、明確な構造が観察されていない。これは、φPSの増加に伴い、ミクロ相分離構造が高分子薄膜中に球状ミクロドメイン20c(図4(c)参照)が分布した構造へと変化したためであると考えられる。
図8に、表中に以上の説明図をまとめて掲載した。このようにφPS(%)を連続的に変化させると、φPSが69%〜75%の領域ではPMMAからなる柱状ミクロドメイン20bが膜表面に対して寝た構造を、76%〜83%ではPMMAからなる柱状ミクロドメイン20が膜表面に対して直立した構造を、84%〜85%ではPMMAからなる球状ミクロドメイン20cが膜表面に分布した構造をとることが明らかになった。
【0065】
次に、前記した結果より、PMMAからなる柱状ミクロドメイン20が膜表面に対して直立(膜の貫通方向に配向)した構造をとるφPSが76%〜83%のサンプルについて、図5(d)に示すようにRIEによりPMMA相を除去する操作を行い、多孔質高分子薄膜35を得た。ここで酸素のガス圧力は1Pa、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。作製した多孔質高分子薄膜35の表面形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
【0066】
代表的な観察結果を図8の右側に示す。この図はφPSが80%のサンプルに対する結果である。多孔質高分子薄膜35には膜の貫通方向に配向して柱状の微細孔25が形成されていることが確認された。ここで、微細孔25の直径は約20nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、微細孔25の中心間距離はほぼ40nmであった。さらに、微細孔25の深さはほぼ80nmであった。ここで、多孔質高分子薄膜35の厚みをその一部を鋭利な刃物で基板40の表面から剥離し、基板40の表面と多孔質高分子薄膜35表面の段差を原子間力顕微鏡で測定したところ、その値は80nmであった。
【0067】
以上の結果から、微細孔25は多孔質高分子薄膜35の表面から基板40の表面まで貫通していることが判明した。また、得られた微細孔25のアスペクト比は4であり、球状ミクロドメイン構造では得られない大きな値が実現されている。なお、高分子薄膜30の膜厚が、RIEの実施前で100nmあったものが、80nmに減少したのは、RIEの実施によりPMMA相とともにPS連続相10も若干エッチングされたためと考えられる。
そして、φPSが76%〜83%の一連のサンプルに関して同様に評価したところ、同様の結果が得られ、多孔質高分子薄膜35は、柱状の微細孔25が膜の貫通方向に配向して形成されていることを確認した。
【0068】
以上、図8に示されるように、PS(46k)-b-PMMA(21k)にPS(7k)を混合して調整した試料を基板表面に製膜した試料を用いミクロ相分離構造を発現させると、φPSが83%以下では柱状のミクロ相分離構造を形成し、76%〜83%の領域では柱状ミクロドメインが高分子薄膜および基板表面に対して直立して配向することが確認された。
【0069】
(比較例)
このように、PS(46k)-b-PMMA(21k)とPS(7k)を混合してφPSが81%に調整したサンプルは、図8に示すように柱状ミクロドメイン20が基板40の表面に対して直立して配向した。そこで、ホモPSを混合する効果を確認するために、以下の実験を実施した。
【0070】
まず、PS-b-PMMA単独でφPSが81%となるサンプルを準備し、ホモPSの添加効果を検証した。サンプルにはPSセグメントのMnは89,000、PMMAセグメントのMnが21,000、分子量分布Mw/Mnが1.07であるPS-b-PMMAを用いた。
以下、このサンプルをPS(89k)-b-PMMA(21k)と略記する。PS(89k)-b-PMMA(21k)はそれ単独で、すなわち、ホモPSを混合することなく、φPSが81%の値をとる。
【0071】
前記したPS(46k)-b-PMMA(21k)及びPS(7k)の混合系と同様な方法により、PS(89k)-b-PMMA(21k)を基板40の表面に製膜し、熱処理することによりミクロ相分離構造を発現させた。得られた高分子薄膜をUV照射後に原子間力顕微鏡により観察したところ、直径が約21nmの柱状ミクロドメイン20bが図4(b)(e)に示すように約40nm間隔で膜表面に対して寝た状態で配向していることが判明した。
【0072】
次に、PS-b-PMMA単独でφPSが85%となるサンプルを準備し、ホモPMMAを添加することによりφPSが81%になるように調整した場合について検討を行った。サンプルにはPSセグメントのMnは85,000、PMMAセグメントのMnが15,000、分子量分布Mw/Mnが1.08であるPS-b-PMMAを用いた。以下、このサンプルをPS(85k)-b-PMMA(15k)と略記する。
【0073】
PS(85k)-b-PMMA(15k)はそれ単独ではφPSが85%の値をとり、球状ミクロドメイン20cを形成する。このサンプルにMnが5,000、分子量分布Mw/Mnが1.10のホモPMMAを混合することによりφPSが81%に調整した高分子混合物を作製した。
【0074】
前記したPS(46k)-b-PMMA(21k)とPS(7k)混合系と同様な方法により、PS(85k)-b-PMMA(15k)とPMMA(5k)を基板表面に製膜し、熱処理することによりミクロ相分離構造を発現させた。得られた高分子薄膜をUV照射後に原子間力顕微鏡により観察したところ、直径が約20nmの柱状ミクロドメイン20bが約42nm間隔で膜表面に対して寝た状態で配向していることが判明した。
【0075】
以上の結果より、PMMAからなる柱状ミクロドメイン20がPSからなる連続相10中で、基板40に対して直立した状態で配向したミクロ相分離構造を形成するためには、PS-b-PMMAに、連続相を形成するPSセグメントと同じモノマーからなる高分子重合体(PS)を前記した第(1)式を満たすように混合すればよいことが実証された。
【実施例2】
【0076】
実施例1と同様な方法に従い、ポリスチレン(PS)からなる柱状ミクロドメイン20が基板40の直立方向に配向した状態で、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる連続相10中に配列した構造を有する高分子薄膜を形成した例を説明する。
【0077】
検討にはPSセグメントとPMMAセグメントからなる高分子ジブロック共重合体(PS-b-PMMA)とホモPMMAを混合した高分子混合物を用いた。
検討に用いた高分子混合物に関して以下に詳述する。PS-b-PMMAを構成する各セグメントの数平均分子量Mnは、PSセグメントが20,000、PMMAセグメントが50,000であった。また、PS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.09であった。また、ホモPMMAのMnは6,500、Mw/Mnは1.07であった。以下、これらのサンプルをそれぞれPS(20k)-b-PMMA(50k)、PMMA(6k)と称す。
【0078】
PS(20k)-b-PMMA(50k)とPMMA(6k)とを混合し、PMMAセグメント及びホモPMMAの体積の和が高分子混合物の全体に占める割合(体積率;φPMMA(%))が異なる一連の高分子混合物を調整した。PS(20k)-b-PMMA(50k)単独ではφPMMAが71%であるが、PS(20k)-b-PMMA(50k)にPMMA(6k)を添加することによりφPMMAを71%〜87%まで1%刻みで調整した。得られた結果を図9の左側にまとめる。
【0079】
このように、PS(20k)-b-PMMA(50k)とPMMA(6k)とを混合して調整した試料を基板表面に製膜してミクロ相分離構造を発現させ、その後UV照射して原子間力顕微鏡観察をすると、φPMMAが85%以下では柱状のミクロ相分離構造が形成され、そのうち78%〜85%の領域では柱状ミクロドメイン20が基板表面に直立して配向していることが確認された。
【0080】
また、RIE処理後の代表的な観察結果を図9の右側に示す。図9はφPMMAが82%のサンプルを用いた場合の結果である。基板40表面には基板表面に対して直立した柱状構造体26が形成されていることが確認された。
ここで、柱状構造体26の直径は約20nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、柱状構造体26の中心間距離はほぼ40nmであった。さらに、柱状構造体26の高さはほぼ70nmであった。以上の結果から、得られた柱状構造体26のアスペクト比は3.5であることが判明した。
【0081】
以上の結果より、PSからなる柱状ミクロドメイン20がPMMAからなる連続相10中で、基板40に対して直立した状態で配向したミクロ相分離構造を形成するためには、PS-b-PMMAに、連続相を形成するPMMAセグメントと同じモノマーからなる高分子重合体(PMMA)を前記した第(1)式を満たすように混合すればよいことが実証された。
【実施例3】
【0082】
実施例1と同様な方法に従い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる柱状ミクロドメイン20が、ポリスチレン(PS)からなる連続相10中に配列する構造を有する高分子薄膜を基板40上に形成させる例を示す。
【0083】
検討にはPSセグメント及びPMMAセグメントからなる高分子ジブロック共重合体(PS-b-PMMA)と、PSセグメントに相溶する性質を有するポリメチルビニルエーテル(PMVE)からなる高分子重合体13とを混合した高分子混合物を用いた。
この際用いたPS-b-PMMAとPMVEの高分子混合物に関して以下に詳述する。まず、PS-b-PMMAを構成する各セグメントの数平均分子量Mnは、PSセグメントが46,000、PMMAセグメントが21,000であった。また、PS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.09であった。また、PMVEのMnは8,700、Mw/Mnは1.05であった。以下、これらのサンプルをそれぞれPS(46k)-b-PMMA(21k)、PMVE(9k)と称する
【0084】
PS(46k)-b-PMMA(21k)とPMVE(9k)とを混合し、PSセグメントとPMVEの体積の和が高分子混合物の全体に占める割合(φPS+PMVE(%))が異なる一連の高分子混合物を調整した。PS(46k)-b-PMMA(21k)単独ではφPS+PMVEが69%であるが、PS(46k)-b-PMMA(21k)にPMVE(9k)を添加することによりφPS+PMVEを図10の左列に示すように69%〜88%まで1%刻みで調整した。得られた結果を図10の左側にまとめる。
【0085】
PS(46k)-b-PMMA(21k)とPMVE(9k)とを混合して調整した試料を基板表面に製膜してミクロ相分離構造を発現させ、その後UV照射して原子間力顕微鏡観察をすると、φPS+PMVEが69%〜76%の領域ではPMMAからなる柱状ミクロドメインが膜表面に対して寝た構造を、77%〜84%ではPMMAからなる柱状ミクロドメインが膜表面に対して直立した構造を、85%〜88%ではPMMAからなる球状ミクロドメインが膜表面に分布した構造をとることが明らかになった。
【0086】
ここで、柱状構造体の直径は約21nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、柱状構造体の中心間距離はほぼ43nmであった。さらに、柱状構造体の高さはほぼ70nmであった。以上の結果から、得られた柱状構造体のアスペクト比は3.5であることが判明した。
【0087】
以上の結果より、PMMAからなる柱状ミクロドメイン20がPSからなる連続相10中で、基板40に対して直立した状態で配向したミクロ相分離構造を形成するためには、PS-b-PMMAに、連続相を形成するPSセグメントに相溶する高分子重合体(PMVE)を前記した第(1)式を満たすように混合すればよいことが実証された。
【実施例4】
【0088】
本実施例では、基板表面に溝状の構造等をトップダウン的手法により形成し、その溝状の構造、すなわち拘束された空間内でミクロ相分離構造を形成することにより、欠陥・グレイン・粒界等がきわめて少ない状態で、柱状ミクロドメイン構造が配列する例を示す。以下、図7(a)〜(d)に示す工程に従い、そのようなミクロ相分離構造を形成させた後に、基板41の全面に規則配列パターンを有するパターン基板を形成する。
【0089】
まず、図7(a)に示すように、表面に溝42を有する基板41を作製する。ここで溝42の幅(L)は350nm、深さ(d)は80nm、隣接する溝42の間隔(t)は50nmとし、各溝42は平行になるように基板41の表面に配置する。溝42の加工には以下の方法を用いる。すなわち、表面がフラットなシリコン基板上に厚さ80nmのSiO2薄膜をプラズマCVDにより積層し、その後に定法のフォトリソプロセスを用いドライエッチングによりSiO2薄膜をエッチングすることにより溝42を加工する。
【0090】
次に、得られた基板41を濃硫酸と過酸化水素水の3:1混合溶液(ピラニア溶液)に60℃で10分間浸漬することにより表面を十分に洗浄する。
前記した方法で得られた溝42の内部に実施例1と同様な手法に従い、高分子混合系を製膜し、塗膜38を得る。ここで、高分子混合系はPS(46k)-b-PMMA(21k)にPS(7k)を添加することによりφPSを80%に調整したものを用いる。
【0091】
その後に、図7(b)(c)に示すように実施例1と同様なプロセスに従い、高分子薄膜30中にPMMAからなる柱状ミクロドメイン20がPS連続相10中で配列した構造を有するミクロ相分離構造を形成し、さらに、PMMAの柱状ミクロドメイン20を酸素RIEにより分解し、溝42の内部に微細孔25を形成する。
【0092】
得られた基板41の表面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、多孔質高分子薄膜35には膜の貫通方向に、柱状の微細孔25が形成されていることが確認された。ここで、柱状の孔の直径は約20nmであり、それらが六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、微細孔25の中心間距離はほぼ40nmであった。さらに、微細孔25の深さはほぼ60nmであった。また、これらの微細孔25は六方最密構造となるように溝42の側壁に沿って配列していることが確認された。さらに、電子顕微鏡の倍率を下げて10ミクロン四方の範囲を観察したところ、微細孔25の配列を乱すような粒界等は認められなかった。さらに、各溝42中における微細孔25の配列方向はすべて同一であった。
【0093】
以上の結果より、基板41の表面に溝42等の構造をトップダウン的手法により形成し、その構造の内部、すなわち拘束された空間内でミクロ相分離構造を形成することにより、欠陥・グレイン・粒界等がきわめて少ない状態で、柱状ミクロドメイン20を配列させることができることが判明した。
【実施例5】
【0094】
図6を用いて実施例1記載の方法で作製した柱状の微細孔25を有する多孔質高分子薄膜35のレプリカ64をニッケル膜によるめっき手法により作製する方法を説明する。まず、図6(a)〜図6(d)に示す工程に従い、実施例1と同一のサンプル、同一の手法を用いて微細孔25を有する多孔質高分子薄膜35を作製する。ここではPS(46k)-b-PMMA(21k)にPS(7k)を添加することによりφPSを80%に調整したものを用いた。
【0095】
次に、多孔質高分子薄膜35の表面に無電解ニッケルめっきを施した。さらに、無電解ニッケルめっき層を給電層として電気ニッケルめっきを施し、厚さ20μmのニッケルの薄膜を被転写体50としてパターン基板62の表面に形成した(図6(e))。
【0096】
無電解ニッケルめっきは以下の方法を適用した。まず、多孔質高分子薄膜35を有する基板40(以下、単に基板40という)を無電解めっき用触媒の付与を促進するためのクリーナー溶液(アトテックジャパン製セキュリガント902)に30℃において5分間浸漬した。その後、純水で十分に洗浄し、触媒液の汚染を防止する目的でプレディップ溶液(アトテックジャパン社製ネオガントB)に室温で1分間浸漬した。しかる後に基板40を触媒溶液(アトテックジャパン社製ネオガント834)液に40℃において5分間浸漬した。ここで用いた触媒はパラジウム錯体分子が溶液中に溶解したタイプである。触媒付与後、純水に浸漬することにより洗浄し、アトテックジャパン社製ネオガントW液を用いて付与したパラジウムを核として活性化した。
【0097】
最後に、純水で洗浄することにより、無電解めっき析出用の触媒層を有する基板40を得た。次に、触媒の付与を行った基板40を無電解ニッケルめっき液に30秒間浸漬することにより基板40上の多孔質高分子薄膜35の表面全体にニッケルめっき膜を析出させた。ここで用いた無電解ニッケルめっき液の組成およびめっき条件を図11(a)に示す。なお、めっき液のpHはアンモニア水溶液を用いて調整した。
【0098】
電気ニッケルめっきは以下に示す手順により実施した。すなわち、無電解ニッケルめっきにより多孔質高分子薄膜35表面全体を被覆するように析出させたニッケルめっき膜の周辺部から導電テープによりリードを取り、ニッケル板を対極として、日本化学産業社製のスルファミン酸Niめっき液を用いて電気ニッケルめっきを施した。めっき液の組成およびめっき条件を図11(b)に示す。
【0099】
最後に、前記した方法で得られたニッケルの薄膜50を、多孔質高分子薄膜35から剥離することにより微細柱状構造体を有するレプリカ64を得た(図6(f))。得られたニッケル膜のレプリカ64の表面構造を走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製 S-4800)で観察したところ、直径20nm、高さ80nmの微細な柱状構造体26が、柱状構造体26の中心間距離を40nmとして、ニッケル膜表面全面に、欠陥・グレイン・粒界なくほぼ規則的な状態で六方細密構造となるように配列した状態で存在することが明らかとなった。
【実施例6】
【0100】
図5に記載した工程を経て実施例1記載の方法で作製した柱状の微細孔25を有する多孔質高分子薄膜35をマスクとして、基板40をドライエッチングにより加工した事例を実施例6として示す。まず、図5(a)〜(d)に示す工程に従い、実施例1と同一のサンプル、同一の手法を用いて柱状の微細孔25を有する多孔質高分子薄膜35を作製する。ここで、φPSは80%とした。なお、基板40には、シリコン基板表面上に厚さ100nmのSiO2薄膜をプラズマCVDにより積層したものを用いた。
【0101】
ここで、多孔質高分子薄膜35には膜の貫通方向に、柱状の微細孔25が形成されていることを確認した。ここで、柱状の孔の直径は約20nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、微細孔25の中心間距離はほぼ40nmであった。さらに、微細孔25の深さはほぼ80nmであった。また、微細孔25は多孔質高分子薄膜35表面から基板40表面まで貫通していることを確認した。
【0102】
次に、微細孔25をマスクとして、基板40表面のSiO2薄膜をC2F6ガスによりドライエッチングした。エッチング条件は出力150W、ガス圧1Pa、エッチング時間は60秒とした。SiO2層のエッチングの後、基板表面に残存している多孔質高分子薄膜35を酸素プラズマ(30W,1Pa,120秒)処理により除去し、図5(f)に示したように微細孔25が形成されているパターン基板63を作製した。
【0103】
ここで、得られたパターン基板63を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、微細孔25はその直径が20nmであり、それらが最近接する中心間距離が40nmである三角格子を形成した六方最密充填構造が、ほぼ規則的に配列している状態が観察された。また、パターン基板63を収束イオンビームにより加工し、走査型電子顕微鏡を用いて、基板の断面構造を観察したところ、微細孔25の深さは50nmで均一に形成されていることが判明した。
【実施例7】
【0104】
本実施例では、実施例4に開示した方法と同等な工程により作製した規則配列パターンを表面に有するニッケル膜をナノインプリント法のスタンパとして用いた例を説明する。
まず、図12(a)に試作したニッケルスタンパ81の模式図を示す。ニッケルスタンパ81の外寸は4インチφ、厚みは25μmである。スタンパ81の中心部2.5cm四方の領域82には直径20nm、高さ80nmの微細孔83が六方細密構造となるように規則的に配列している。中心部2.5cm四方の領域の拡大図を図12(b)に示す。なお、ニッケルスタンパ81は、実施例5と同等の手法により作製した。
【0105】
図13にスタンパ81を用いて試作したナノプリント装置90の模式図を示す。
ここで、プロセス手順を説明する。まず、スタンパ81の表面に、樹脂成形時に、離型を容易にするために剥離剤をコートする。剥離剤にはポリジメチルシロキサン系剥離剤を用いた。
【0106】
次に、剥離剤をコートしたスタンパ81を用いて、樹脂を成形するプロセスを説明する。まず、Si基板91(4インチφ厚さ0.5mm)にポリスチレン樹脂92(ポリスチレン679、エイアンドエム製)を厚さ600nmになるようにスピンコートした。剥離剤でコートされたスタンパ81を位置決めして組み合わせた後、ステージ98上にセットした。
このステージ98は、支持体99を介して連結している駆動部93により、水平方向及び垂直方向の任意の位置に移動することが可能な構成をとる。
ナノプリント装置90は真空チャンバ97を有し、ステージ98は加熱機構を備えている。これを、0.1Torr以下に減圧し、250℃に加熱した上で、上下方向に駆動する支持体96に保持されたスタンパ81を12MPaで加圧して10分間ポリスチレン樹脂92に押し当てた。次に、100℃以下になるまで放冷後、大気解放を行った。室温にてスタンパ81の裏面に剥離治具を接着固定し、0.1mm/sで鉛直方向に引き上げたところ、ポリスチレン樹脂表面にスタンパ表面の形状が転写された。
【0107】
次に、同一の剥離剤でコートされたスタンパ81を用いて前記した樹脂成形プロセスを100回繰り返し、スタンパ表面の形状が転写された樹脂成形体を100個得た。得られた樹脂成型体の中心部表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、すべてのポリスチレン樹脂成型体について、柱状の微細孔が六方最密構造をとって、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。なお、微細孔の直径は20nmであり、その中心間の距離40nmであった。以上から、スタンパの表面形状をポリスチレン樹脂表面に正確に転写することができたことを確認した。
【実施例8】
【0108】
本発明を用いて、磁気記録用パターン媒体を作製する方法を説明する。本方法は、パターン基板を高分子ブロック共重合体の自己組織化により作製する工程と、このパターン基板のレプリカをニッケルめっきにより作製する工程と、このニッケルめっきレプリカをスタンパ(パターン転写体)として磁気記録用パターン媒体となるガラス基板の表面に微細パターンを成型する工程と、作製した磁気記録用パターン媒体の表面に磁性膜を製膜する工程からなる。
まず、パターン基板を高分子ブロック共重合体が自己組織化してなる高分子薄膜により作製する工程を説明する。
【0109】
まず、2.5インチのシリコン基板の表面に厚さ80nmのSiO2層をCVD法により製膜する。次に、定法のフォトリソグラフィープロセスを適用することによりSiO2層をエッチングすることにより、基板表面に深さ80nm、幅200nmの同心円状の溝を1000nm間隔で形成する。そして、実施例2に記載の工程に従い、PSからなる微小凸形状物が規則的に配列したパターン基板を作製する。この際、サンプルには、PS(20k)-b-PMMA(50k)にPMMA(6k)を添加することによりφPMMAを80%に調整したサンプルを用いた。
【0110】
得られたパターン基板の表面を原子間力顕微鏡により観察した結果、微視的にはパターン基板表面に直径20nm、高さ70nmのPSからなる微小な柱状構造体が最近接中心間距離30nmで六方最密充填構造をとり三角格子を形成して、ほぼ欠陥なく規則的に配列している状況が観察された。また、原子間力顕微鏡観察の倍率を下げて巨視的な観察を行ったところ、PSからなる微小な柱状構造体が形成している規則構造は、パターン基板の中心を中心とする同心円状にほぼ欠陥なく配列していることが判明した。
【0111】
次に、実施例5に記載した方法に従い、PSからなる微小な柱状構造体が規則的に配列したパターン基板表面にニッケルめっきを施し、その表面構造を反転転写したレプリカ形状を有する厚さ25μmニッケル膜からなるナノインプリント用スタンパを作製した。得られたスタンパの表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ニッケル膜表面に直径20nmの微小な柱状の孔が規則的に形成していることが確認できた。
【0112】
直径が2.5インチで中心に直径0.5インチの穴が開いたドーナッツ状のガラス基板の表面に、厚さが約30nmのPd下地層と厚さが約30nmのCoCrPt層を製膜することにより磁性層を作製した。次に磁性層の表面に厚さ50nmのPS層をスピンコート法により製膜した。ここで用いたPSの分子量Mnは5,000であった。磁性層表面のPS薄膜を、前記した方法で得たスタンパを用いて実施例7記載の方法と同等な手法によりナノインプリント加工した。得られた磁性層表面のPS薄膜を原子間力顕微鏡で観察したところ、PS薄膜に直径20nmの微小な柱状構造体が規則的に形成できていることが確認できた。ここで、微小な柱状構造体の形状およびその配置はスタンパ表面の微小なポアの形状をおよび配置が反転転写されたものであった。また、微小な凸状形状物の断面を詳細に原子間力顕微鏡を用いて測定したところ、微小凸状形状物の高さは50nmであった。
【0113】
次に、磁性層表面に作製したPSからなる微小な柱状構造体をマスクとして磁性層表面の磁性層をArイオンミリングによりエッチングした。この過程で、PS薄膜はすべて消失した。得られたガラス基板の表面を原子間力顕微鏡により詳細に観察したところ、その表面には、微視的には基板表面に直径20nm、高さ30nmの微小な凸状の磁性層が、最近接中心間距離30nmで六方最密充填構造をとり三角格子を形成して、ほぼ欠陥なく規則的に配列している状況が観察された。また、原子間力顕微鏡観察の倍率を下げて巨視的な観察を行ったところ、微小な凸状の磁性層が形成している規則構造は、基板の中心を中心とする同心円状にほぼ欠陥なく配列していることが判明した。
最後に、得られた基板表面全面に厚さ30nmのSiO2層を製膜し、得られた表面をCMP法により研磨し平坦化した。その後、得られた基板表面全面にカーボン層をCVD法により製膜して保護膜を形成し磁気記録用パターン基板を得た。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る高分子薄膜を示す斜視断面図であり、(b)は上面図である。
【図2】(a)は実施形態に係る高分子薄膜の構成要素である高分子ブロック共重合体の概念図であり、(b)は高分子重合体の概念図であり、(c)は高分子薄膜の単位構成を拡大して示す上面図であり、(d)は(c)のP−P断面図である。
【図3】(a)〜(d)は高分子ブロック共重合体の類型を示す概念図である。
【図4】(a)〜(d)は第1モノマーの重合体及び第2モノマーの重合体の体積率を変化させた場合に高分子薄膜が取りうるミクロ相分離構造の変化を説明する図であり、(e)〜(g)は(b)〜(d)に対応する原子間力顕微鏡による表面観察像である。
【図5】本発明の実施形態に係る高分子薄膜を示すパターン基板の製造方法を示す工程図である。
【図6】本発明の実施形態に係る高分子薄膜を示すパターン基板の製造方法を示す工程図である。
【図7】本発明の実施形態に係る高分子薄膜を示すパターン基板の製造方法を示す工程図である。
【図8】第1セグメントにPS、第2セグメントにPMMAを採用し、配合する高分子重合体を変化させた場合のミクロ相分離構造の変化を示す観察結果表である。
【図9】第1セグメントにPMMA、第2セグメントにPSを採用し、配合する高分子重合体を変化させた場合のミクロ相分離構造の変化を示す観察結果表である。
【図10】第1セグメントにPMMA、第2セグメントにPS、高分子重合体にPVMEを採用し、配合する高分子重合体を変化させた場合のミクロ相分離構造の変化を示す観察結果表である。
【図11】(a)(b)はめっき法によりパターン基板を製造する場合のめっき液の組成及び条件表である。
【図12】(a)はスタンパの模式図であり、(b)はその中心部の拡大図である。
【図13】ナノプリント装置の模式図である。
【符号の説明】
【0115】
10 連続相
11 第1モノマー
12 第1セグメント
13 高分子重合体
20 柱状ミクロドメイン
21 第2モノマー
22 第2セグメント
23 第3モノマー
24 第3セグメント
25, 83 微細孔
26 柱状構造体
30 高分子薄膜
31(31a,31b,31c,31d) 高分子ブロック共重合体
35 多孔質高分子薄膜(パターン転写体)
40,41 基板(被転写体)
50 被転写体
61,62 パターン基板(パターン転写体)
63 パターン基板(磁気記録用パターン媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モノマーの重合体を主成分にする連続相と、
第2モノマーの重合体を主成分にし、前記連続相中に分布するとともに膜の貫通方向に配向している柱状ミクロドメインと、を備える高分子薄膜において、
前記第1モノマーが重合してなる第1セグメント、及び前記第2モノマーが重合してなる第2セグメントを少なくとも有する高分子ブロック共重合体と、
前記第1セグメントに相溶する高分子重合体と、が配合されてなることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項2】
前記高分子薄膜において前記第1セグメント及び前記高分子重合体の体積の和が占める体積率をφ%として、前記柱状ミクロドメインが形成されうる最大のφ%をφmax%とした場合、
φmax − 7 ≦ φ ≦ φmaxの関係を充足するように、
前記高分子ブロック共重合体及び前記高分子重合体が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子薄膜。
【請求項3】
前記高分子重合体の重合度は、前記高分子ブロック共重合体における前記第1セグメントの重合度より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜。
【請求項4】
前記高分子ブロック共重合体における前記第2セグメントの重合度は、前記第1セグメントの重合度より小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項5】
前記高分子ブロック共重合体は、前記第1セグメント及び前記第2セグメントの互いの末端が結合してなる高分子ジブロック共重合体であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項6】
高分子ブロック共重合体は、さらに第3モノマーが重合してなる第3セグメントを有し、この第3セグメントの末端が前記第1セグメント又は第2セグメントのいずれか一方の末端と結合していることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項7】
前記第1モノマーがスチレンモノマーであり、前記第2モノマーがメチルメタクリレートモノマーであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項8】
前記第1モノマーがメチルメタクリレートモノマーであり、前記第2モノマーがスチレンモノマーであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項9】
前記高分子重合体が第1モノマーからなることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項10】
基板の表面に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の高分子薄膜。
【請求項11】
前記基板の表面に設けられた溝に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の高分子薄膜。
【請求項12】
第1モノマーが重合してなる第1セグメント及び第2モノマーが重合してなる第2セグメントを少なくとも有する高分子ブロック共重合体と、前記第1セグメントに相溶する高分子重合体と、が配合されている溶液を、基板の表面に塗布する工程と、
前記溶液から溶媒を揮発させて前記基板の表面に塗膜を形成する工程と、
前記基板の表面を熱処理して、前記第1セグメントを主成分にする連続相と、前記第2セグメントを主成分にして前記連続相中に分布するとともに膜の貫通方向に配向している柱状ミクロドメインと、に分離したミクロ相分離構造を前記塗膜に形成する工程と、を含むことを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項13】
前記連続相及び前記柱状ミクロドメインのうちいずれか一方の高分子相を選択的に除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項14】
他方の高分子相を介して前記基板を加工して前記ミクロ相分離構造のパターンを前記基板の表面に転写する工程をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項15】
他方の高分子相に被転写体を密着させて前記ミクロ相分離構造のパターンを前記被転写体の表面に転写する工程をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項16】
他方の高分子相を前記基板の表面から剥離する工程をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項17】
前記塗膜において前記第1セグメント及び前記高分子重合体の体積の和が占める体積率をφ%として、前記柱状ミクロドメインが形成されうる最大のφ%をφmax%とした場合、
φmax − 7 ≦ φ ≦ φmaxの関係を充足するように、
前記高分子ブロック共重合体及び前記高分子重合体が調整されていることを特徴とする請求項12から請求項16のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項18】
前記高分子重合体が第1モノマーからなることを特徴とする請求項12から請求項17のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項19】
前記いずれか一方の高分子相に金属原子が、ドープされていることを特徴とする請求項13から請求項18のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項20】
請求項12から請求項19のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法を利用して製造されたパターン転写体。
【請求項21】
請求項12から請求項19のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法を利用して製造された磁気記録用パターン媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−138052(P2007−138052A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334979(P2005−334979)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】