説明

高分子量の安定なアミロイドβオリゴマーを生成するための組成物および方法

本発明は、安定な可溶性アミロイドβ(Aβ)オリゴマーの調製のための方法、およびアルツハイマー病および異常なアミロイドβ凝集に関連する他の状態の治療のための抗体の産生のための抗原として使用するその組成物に関する。7.0を超えるpHおよび高濃度のAβを使用するこの方法は、オリゴマーを形成するための、二価アニオンまたはヘリックス誘導溶媒の使用を任意選択で含む。本明細書中の方法によって生成された安定な可溶性Aβオリゴマーは、動的光散乱技術で測定した場合直径10〜100nmの粒子サイズを有し、100〜500kDaの分子量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病および異常なアミロイドβ凝集に関連する他の状態の治療または診断のための抗体の生成のための、抗原またはスクリーニング試薬として使用するための、安定なアミロイドβオリゴマーおよびその組成物の調製のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在限定的な治療しか存在しないアルツハイマー病は、非常に大きな世界的公衆衛生問題を構成している。この疾患は、神経原線維変化およびアミロイド斑の蓄積に関連する進行性の認知症によって特徴付けられ、アミロイド斑は、膜タンパク質前駆体であるアミロイド前駆タンパク質(APP)からタンパク質分解によって誘導される39〜43アミノ酸を含む両親媒性ペプチドであるアミロイドβ(Aβ)を含む(概説については、Lee,V.M.ら、Annu.Rev.Neurosci.、24:1121−1159(2001)、Klein,W.L.、Molecular Mechanisms of Neurodegradative Diseases、Chesselet,M.F.編、(2000)pp1−49、Humana Press,Inc.Totowa、New Jerseyを参照のこと。)。
【0003】
Aβの自己会合は、細胞培養物中のニューロンに対する毒性に必要である(Pike,C.J.ら、Brain Res.563:311−314(1991)、Lorenzo,A.およびYankner,B.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:12243−12247(1994)、Howlett,D.R.ら、Neurodegeneration 4:23−32(1995))。最初、原線維の形成が毒性種であると考えられていた。しかし、培養物中のニューロンを殺傷するのに必要な原線維Aβの用量は過剰なようであった(Seubert,P.ら、Nature(London)359:325−327(1992))。引き続く研究により、神経学的機能不全および変性は、Aβのより小さい可溶性アセンブリ(これは、可溶性オリゴマー(アミロイド由来拡散性リガンド、ADDL)と呼ばれてきた。)に起因し得ることが示されている(Lambert,M.P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:6448−6453(1998)、Hartley,D.M.ら、J.Neurosci.19:8876−8884(1999)、Walsh,D.M.ら、J.Biol.Chem.274:25945−25952(1999))。特に、可溶性オリゴマーによって誘導される選択的ニューロン変性が実証されている(Kim,H.−J.ら、Faseb J.17(1):118−20(2003))。
【0004】
出願人らは、本明細書中で、高収率での可溶性オリゴマーの調製のための方法およびこの可溶性オリゴマーを安定化する条件を開発した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、Aβオリゴマーの安定で可溶性の調製物ならびにその組成物および製剤を生成する方法である。この方法は、高濃度のAβペプチド、7.5を超えるpHおよび多価アニオン(例えば、2価アニオンを有する緩衝液)を使用して、Aβオリゴマーの形成を促進する。さらなる実施形態において、この方法はまた、トリフルオロエタノールおよびグリセロールなどのさらなる添加剤を利用して、オリゴマーの安定性を増強する。
【0006】
本発明の別の実施形態において、この方法の生成物は、動的光散乱技術によって測定した場合に10nm〜100nmの粒子サイズを有し、100kDa〜500kDaの分子量(Mw)を有する、安定な可溶性Aβオリゴマーである。
【0007】
本発明のなおさらなる実施形態において、この安定な可溶性Aβオリゴマーは、10nm〜50nmの直径を有し、100kDa〜500kDaのMwを有するオリゴマーの形態で、少なくとも50%を有するペプチド調製物である。
【0008】
本発明のなお別の実施形態において、このペプチド調製物は、アルツハイマー病の治療のための治療抗体を生成するために使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
可溶性Aβオリゴマーの調製のための標準的な手順(「標準プロトコール」)は、F12培地(pH7.4)中4℃で100μMまでの濃度での、Aβペプチドの一晩のインキュベーションを利用する(Lambert,M.P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:6448−6453(1998)、Chromy B.A.ら、Biochemistry 42:12749−12760(2003)、Stine W.B.ら、J.Biol.Chem.278:11612−11622(2003))。これらの研究は、これらの条件下で形成された可溶性Aβオリゴマー調製物が、ゲル電気泳動で分析した場合にトリマー、テトラマー(12kDa〜17kDa)および50kDa〜200kDaの分子量(Mw)範囲のより大きいオリゴマーの混合物を含み、原子間力顕微鏡(AFM)で分析した場合に直径3.5〜10nmの粒子サイズを有するようであったことを、一貫して実証した。標準プロトコールは、混合物の高い割合がモノマー形態としてなお存在する、可溶性Aβオリゴマー調製物を生じる。このように、この調製物は、抗原として使用される場合には、免疫応答を生じる傾向がより低く、可溶性Aβオリゴマーに特異的な抗体を回収することがより困難なものである。
【0010】
Aβ原線維形成は、最終βプリーディド(beta−pleaded)コンフォメーションが達成される前に一過的なヘリックス中間体の存在を伴い得る、複雑なプロセスである(Walsh.D.M.ら、J.Biol.Chem.274:25945−25952(1999))。in vitro研究は、ヘリックス誘導溶媒トリフルオロエタノール(TFE)の低濃度(Aβ原線維形成の臨界濃度(約20μM)よりも十分に低い。)が、pH7.4で原線維形成を誘導することを示している。20%を超えるTFE濃度で、このヘリックス構造が優勢となり、原線維の伸長の阻害を導く(Fezoui,Y.、およびTeplow,D.B.、J.Biol.Chem.277:36948−36954(2002))。いずれの理論に束縛されることも望まないが、出願人らは、Aβのヒスチジン残基のイオン化状態が関連する現象に影響を与えるので、pHをこのイオン化範囲の十分上に上昇させることにより、原線維形成が阻害され、ヘリックス誘導溶媒の少量の添加が構造の形成および引き続く会合を促進する条件が提供されると考えている。したがって、このような条件は、可溶性Aβオリゴマーの収率および安定性を増強する。以下の実施例に示すように、出願人らは、このような安定な可溶性Aβオリゴマーを生成した。
【0011】
本明細書中で使用する場合、用語「可溶性Aβオリゴマー」は、Aβペプチドの可溶性のオリゴマー形態を意味する。好ましい実施形態において、可溶性AβオリゴマーはAβ42のオリゴマー形態であるが、当業者は、Aβの他の形態(変更および変異を含むものが含まれ得る。)が同様に使用され得ることを認識する。例えば、ネイティブ配列のアミノ酸残基1および2に変異を有する合成ペプチドの使用から得られるAβの形態が、本明細書中で使用され得る。ネイティブAβ配列のアミノ酸残基1および2に改変を有するペプチドの例については、WO02/094985およびWO04/099376(詳細に示されたかのように、本明細書中に組み込まれる。)を参照のこと。適切なペプチドの別の例には、Aβペプチドのビオチン化形態の使用が含まれる。
【0012】
本明細書中で使用する場合、用語「安定な可溶性Aβオリゴマー」は、本明細書中で特許請求される方法によって生成されるAβペプチドの可溶性のオリゴマー形態を意味する。「安定な」とは、オリゴマーと比較して少ないモノマーを有し、そのように形成された化溶性Aβオリゴマーがさらに会合して原線維または凝集物を形成する傾向が実質的により低く、解離してモノマーを形成する傾向がより低い、調製物を意味する。本明細書中で本発明の前に当該分野で公知の標準プロトコールを使用して、約100μg/mlまでのオリゴマー濃度は、約1日の安定性を有した。本明細書中に記載された方法に従って、1mg/ml以上の濃度を有する本発明のオリゴマーは、4℃で1週間保存できる。安定性の測定として使用される凝集の程度は、弱いピーク位置の存在または非存在およびプレフィルター上での凝集物の保持に起因する乏しい回収を特異的に決定することによって、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)技術を使用して測定された。
【0013】
本発明において、出願人らは、増大した濃度(100μMより高い)、高いpH(7.5より高いpH)および2価アニオンの使用を含む、標準プロトコールに対して標準的でない条件を使用して、安定な可溶性Aβオリゴマーの形成を誘導した。出願人らの改善された方法は、動的光散乱によって測定した場合に直径約10nm〜50nmであり、静的光散乱で測定した場合に分子量約100kDa〜500kDaである、安定な可溶性Aβオリゴマーを主に生成した。好ましい実施形態において、出願人らは、本明細書中で特許請求されるオリゴマーが直径18nmであり、約155,000Daの測定された分子量(Mw)を有することを見出した。これらの測定値は、SDS−PAGEによって、得られたオリゴマーを独立に架橋および分析することによって確認された。出願人らは、以前の文献の報告は、SDS溶液中のトリマーおよびテトラマーの形成、ならびに原子間力顕微鏡測定の間の走査プローブ先端によるポリペプチド鎖の可動フラグメントの除外に起因して、これらのオリゴマーのサイズを過小評価していると考えている。例えば、Chromyら、Biochemistry 42:12749−12760(2003)は、原子間力顕微鏡(AFM)に基づく10nm未満の直径、ならびにSDS−PAGE実験から決定した場合ほとんどトリマーおよびテトラマーである会合状態を報告している。
【0014】
本発明の安定な可溶性Aβオリゴマーは、その高い収率および安定性に起因して、抗原としての使用に適している。このオリゴマーは、ヘリックス誘導溶媒(例えばTFEの5%溶液)の低濃度の存在下で特に安定である。他の有機溶媒(例えば塩化メチレン)は、ヘリックス誘導特性を有し得、オリゴマー形成に使用できる。ヘリックス構造を誘導する特性は、円偏光二色機器において非構造化ペプチドを滴定することによって個々に試験できる。ヘリックス誘導特性を有さないある種の有機溶媒(例えばジメチルスルホキシド)は、最初のモノマーストック溶液中の調製物用に十分適している。
【0015】
さらに、Aβは自己抗原であるので、免疫寛容を破壊するために、天然に存在する毒性拡散性オリゴマーと類似の構造を有し、高度に免疫原性のオリゴマーを創出することが有利である。当業者は、大きいアセンブリへと会合する抗原が、一般により免疫原性であることを知っている(例えば、Kovacsovics−Bankowski,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4942−4946(1993)を参照のこと。)。構造的に関連する安定な可溶性Aβオリゴマーの利用能は、治療的モノクローナル抗体の生成、選択および量の制御において有益なものである。このように、本発明の安定な可溶性Aβオリゴマーは、ADおよび異常なAβ凝集に関連する他の疾患の治療のための、受動免疫アプローチのための抗原の開発において、改善された調製物を提供する。
【0016】
本発明の一実施形態は、直径10nm〜50nmであり、サンプル中の優勢な同種集団に相当する、安定な可溶性Aβオリゴマーを含む。好ましい実施形態において、本発明の可溶性Aβオリゴマーは、100μMより高い濃度、pH7.5以上および2価アニオンの存在下で形成された場合、ペプチド抗原集団の少なくとも50%を構成する。より好ましくは、安定な可溶性Aβオリゴマーは、ペプチド抗原調製物の少なくとも70%を構成し、最も好ましくは、本発明の安定な可溶性Aβオリゴマーは、ペプチド抗原調製物の少なくとも90%を構成する。
【0017】
固体物質がプローブ先端によって検出される原子間力顕微鏡(AFM)技術を使用した場合、可溶性Aβオリゴマーの見かけのサイズは、動的光散乱によって決定されたサイズとは異なり得ることに留意すべきである。このような場合、この先端は溶液中に緩く懸濁されたペプチド末端を記録することができないと推定されるので、得られたサイズ決定は、実際のオリゴマーサイズの過小評価であり得る。対照的に、動的光散乱技術を使用した場合、これらの緩く懸濁された末端は、全体的拡散係数に対する実質的な寄与を提供し、得られた流体力学サイズを増加させる傾向がある(Koppel,D.E.、J.Chem.Phys.37:4814−4820(1972))。オリゴマーの非構造化外側層の存在は、原線維中のペプチドのN末端について報告された構造の欠如と一致している(Petkovaら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:16742−16747(2002))。
【0018】
いずれの理論に束縛されることも望まないが、出願人らは、本明細書中に記載される安定な可溶性Aβオリゴマーの特性が、その調製および保存における比較的高いpHの使用から一部生じると考えている。Aβペプチドは、6つの負に荷電したアミノ酸残基(3つのアスパラギン酸残基および3つのグルタミン酸残基)および6つの潜在的に正のアミノ酸残基(1つのアルギニン、1つのリジン残基、1つの末端アミノ基および3つのヒスチジン残基)からなる。pH6.5で公称イオン化定数pKiを有する3つのヒスチジン残基の存在は、酸性および中性のpHでイオン化する(正になる)傾向があるが、高いpHでは中性の(脱プロトン化された)ままである。3つのヒスチジン残基のイオン化は、正味のペプチド電荷の中和および荷電反発の欠如に起因する会合の加速を生じる。対照的に、ヒスチジン残基の脱プロトン化は、会合をより選択的にする3つの負の荷電の全体的な正味の量を生じる。結果として、原線維の形成のための公開されたプロトコールのほとんどは、低いpHおよび低いイオン強度(静電相互作用を最大化する条件)の使用を必要とする。このように、当業者は、安定な可溶性Aβオリゴマーを形成するための即時の方法における上昇したpHの出願人らの使用は、原線維を調製する公知の方法の技術とは異なることを認識する。
【0019】
本明細書中に記載される安定な可溶性Aβオリゴマーは好ましくは、多価アニオンの存在下で形成および保存される。再度、いずれの理論に束縛されることも望まないが、出願人らは、この優先傾向が、Aβがホスファチジルイノシトール(リン酸基を含む負に荷電した脂質)を含む脂質膜に対して有する既知の親和性に関連し得ると考えている。多価アニオンの存在に対する優先傾向は、Aβがモノシアロガングリオシド(GM1)に対して有する親和性にも関連し得る。GM1は、水溶液中でミセルへと集合し、負に荷電したカルボキシル基を含むオリゴ糖表面を形成することが知られている。典型的には、リン酸イオンは、一般に選択される多価アニオンである。しかし、リン酸イオンの水酸化アルミニウム含有アジュバント(例えば、Merckアルミニウムアジュバント)への既知の共有結合に起因して(Kleinら、J.Pharm.Sci.89:311−321(2000))、水酸化アルミニウム含有アジュバントが抗原調製物の一部として使用される場合、硫酸イオンの使用が好ましい。
【0020】
Aβの両親媒性特性は、ホスファチジルイノシトール含有膜またはGM1ミセルへと分配するその能力から明らかである。ペプチドの濃度の増大にもかかわらず、TFEの非存在下で、ペプチドの約100μMの濃度がモノマー形態のままであることが明らかである。このような観察は、このペプチドについて報告された界面活性剤様の特性と一致し(Kim,J.およびLee,M.、Biochem.Biophys.Res.Commun.316(2):393−7(2004))、このように、この特性は、200μM以上まで濃度を増大させることによって、安定な可溶性Aβオリゴマーの高収率を達成するために、出願人らによって使用されてきた。対照的に、100μMの濃度および生理学的pH(7.4)でより長い反応時間(7日間)を使用することによってオリゴマーを形成する以前の試みは、原線維の過剰な集団の形成のみを生じた(Stine,W.B.ら、J.Biol.Chem.278:11612−11622(2003))。
【0021】
出願人らはまた、Aβの両親媒性特性およびその界面活性剤様の挙動が、水よりも有意に低い誘電率を有する溶媒(例えば、グリセロール)での希釈の際に、本発明の安定な可溶性Aβオリゴマーにおいても実証されることを見出した。本発明のこの態様は、元のオリゴマーサンプルがより低い濃度の条件下で適用される必要がある場合にリガンドスクリーニングを含む実験に有用であり得、粒子の解離が最小化される。グリセロールの存在は、希釈後に元のオリゴマー化状態のままであるオリゴマーのより高い割合を生じ、したがって、結合アッセイまたは実験におけるより高い親和性におそらくつながっている。
【0022】
温度の上昇は凝集を加速することが公知であるため、安定な可溶性Aβオリゴマーの調製において使用される温度もまた、重要であると考えられる(Stineら、J.Biol.Chem.278:11612−11622(2003))。出願人らは、2℃〜8℃の範囲の温度が、原線維形成を最小化するために使用されるべきであることを見出した。
【0023】
本発明の一実施形態において、安定なAβオリゴマーの調製は、原線維形成を最小化することによって、その保存においてオリゴマー形成を加速し、オリゴマーを安定化するために、37℃でのヘリックス誘導有機溶媒の使用を用いる。このような実施形態において、この方法は、可溶性オリゴマーへのモノマーペプチドの変換を促進し、可溶性オリゴマーを安定化させるために、TFEを使用する。この安定な可溶性Aβオリゴマーの形成の方法は、TFEの毒性が関連ない場合、または例えばアルミニウムアジュバントへの結合後の静置−デキャントアプローチによって除去できる場合に好ましい。このような安定化溶媒の非存在下では、低温(2℃〜8℃)の使用が、比較的高いpHおよび濃度に加えて、最適な安定性(最低7日間)を達成するために必要である。
【0024】
さらに、本明細書中の可溶性Aβオリゴマーの安定性は、濃度に依存するように見えるので、化学的架橋は、希釈から生じる分解から、このように生成されたオリゴマーを保護し得る。したがって、本発明の一実施形態において、SDS処理で試験する場合、グルタルアルデヒドは、分解からこのオリゴマーを保護するために使用される。
【実施例1】
【0025】
可溶性Aβオリゴマーの形成およびサイズに対するpHの影響
すべての化学物質および試薬は、他に注記しない限りSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から得た。
【0026】
Aβペプチド(1−42)(Aβ42)(American Peptide、Sunnyvale、CA)を、100%ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に溶解し、1.7mlのポリエチレンチューブ中に2mgのアリコートへと分配し、減圧および低温下で、溶媒が蒸発するまで遠心分離した(CentriVap Concentrator、Labconco、Kansas City、MO)。乾燥フィルムを湿気から保護し、使用するまで−70℃で保存した。ペプチドストック溶液を、100μLの無水ジメチルスルホキシド(DMSO)を、室温中での平衡化後に2mgの乾燥フィルムに添加することによって調製し、ピペットでの吸引を繰り返すことによって穏やかに混合した。ストック溶液を室温で最大2週間保存した。
【0027】
Aβサンプル(100μM)を、4.5と9.0との間の種々のpH値に調整した50mMリン酸ナトリウム緩衝液中に調製し、4℃で3日間インキュベートした。これらのサンプルを、卓上遠心機(半径7cm)で7,000rpmで3分間遠心分離し、大きい凝集物または原線維を除去し、次いで0.22ミクロンのフィルター(Millipore、Bedford、MA)を通して濾過し、サイズ排除カラムにとって大きすぎる粒子を除去した。各濾液の10μlを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラム上に注入した。安定な可溶性Aβオリゴマーのピークは約6.5mlで溶出したが、モノマーについてのピークは約9mlで溶出した。
【0028】
サイズ排除クロマトグラフィーを、Waters(登録商標)Protein PAK 125 7.8×300mmカラムを使用するAlliance(登録商標)HPLC System(Waters Corporation、Milford、MA)を用いて実施した。ランニング緩衝液は、1ml/分で溶出する50mMリン酸ナトリウム(pH9)であった。注入したペプチドの最小量は25μgであった。フォトダイオードアレイUV検出器を、3.5mmの分解能で、210nmと350nmとの間での検出のために設定した。オリゴマーおよびモノマーのピークのスペクトルを、ピークの正体を確認するために時々試験した。完全なUV読み出しを、スプレッドシート形式(Excel、Microsoft Corporation、Redmond、WA)に移し、230nmでのUV吸光度を抽出し、溶出体積に対してプロットした。ある例では、ピーク下の面積を、ビルトイン関数を使用して積分し、オリゴマー画分(即ち、5mlと7.5mlとの間で溶出した総物質の画分)ならびに総回収率を見積もった。
【0029】
半径約4.5cmのローター中で40,000r.p.m.で15分間遠心分離(Beckman Optima超遠心分離機)して直径約200nmの凝集物の小さい(5%未満)の画分を除去した後、1W 488nm Argonレーザーを備えたMalvern 4700システム(Malvern Instruments、Southborough、MA)を使用して静的および動的光散乱分析を実施して、オリゴマーのサイズを決定した。典型的には、5つの測定値からの結果(各々3分間実施した。)を平均した。非線形最小二乗法手順(Malvern Instruments)を使用してデータを分析した。
【0030】
種々のpHレベルで調製した可溶性オリゴマーサンプルの高圧サイズ排除クロマトグラフィー(HP−SEC)分析の結果を図1A中に示す。pH4.5およびpH6でインキュベートしたサンプルについてのピーク下の面積は、最初の物質の実質的な喪失が生じたことを示している。pH6でインキュベートしたサンプルは見るからに濁っており、サンプルのほとんどは、穏やかな遠心分離および0.22ミクロン(220nm)フィルターを介した濾過の際に除去された。pH4.5でインキュベートしたサンプルは透明に見えたが、質量の大部分は遠心分離および濾過のステップにおいて失われたので、実質的な原線維/凝集物の形成が生じていた。7.0を上回るpHでインキュベートした両方のサンプルは、完全な回収率および質量の大部分がオリゴマーの形態で存在することを示した。本発明の好ましい実施形態において、オリゴマー化の速度の制御を提供するために、pHは8を上回るレベルで維持される。オリゴマーを形成および保存するための2℃〜8℃でのpH7.4の50mMリン酸ナトリウム緩衝液の使用は、さらに会合し、HP−SECカラムから溶出しなかった物質のより高い割合によって判断した場合、より低い保存安定性を生じた(示さず。)。
【0031】
こうして形成されたAβオリゴマーのサイズを決定するために、出願人らは、サンプルを動的光散乱分析に供した。非線形最小二乗法(NLLS)分析により、質量の大部分が直径約20nmの粒子として存在し、少量(5%未満)が非常に大きい粒子(直径約200nm)として存在することが示された。散乱光の強度は散乱粒子の分子量に比例し、より大きい粒子(100万ダルトンを超えるMwを有すると見積もられた。)は総光散乱強度の約50%に寄与したので、出願人らは遠心分離ステップを使用してより大きい粒子を除去した。半径4.5cmのローターを用いた40,000rpmで15分間の遠心分離は、大きい粒子(約200nm)のほとんどを除去するのに十分であった。この遠心分離ステップにおける総質量損失は、275nmでのUV吸光度によって判断した場合、約3%であった(データ示さず。)。
【0032】
pH9で調製し450μMで測定した、遠心分離したAβオリゴマーサンプルの光散乱分析の結果を図1B中に示す。散乱光の変動の分析により、拡散係数の決定および結果的に流体力学直径の分布の決定が可能となる。大部分の可溶性Aβオリゴマーの直径は、非線形最小二乗法を使用して18.9nm+/−0.3nmであることが見出された。D=21.4nm+/−0.7nmの本質的に同じ結果が、標準プロトコールを使用して形成されたオリゴマーについて以前に得られていた(データ示さず。)。
【実施例2】
【0033】
可溶性Aβオリゴマーの形成に対する2価アニオンの影響
この実施例は、Aβオリゴマーの形成に対する緩衝化成分の価数の影響を示す。緩衝液を50mMの濃度で調製し、1M塩酸または水酸化ナトリウムを使用してpHを9.0に調整した。220μMのサンプルを4℃で一晩インキュベートし、HP−SECによって分析した。6分と8分との間のピークおよび8分と9.5分との間のピークを積分して、それぞれオリゴマーおよびモノマーのピーク面積を得た。ナトリウムをすべての場合にカチオンとして使用した。
【0034】
4℃で一晩インキュベートした可溶性Aβオリゴマーの220μM調製物のHP−SEC分析の結果を図2中に示す。多価アニオン(リン酸塩およびクエン酸塩)を含む調製物は、1価イオン(Trisおよびホウ酸塩)の存在下で調製したものよりも、可溶性Aβオリゴマーのかなりより高い割合を示した。
【実施例3】
【0035】
可溶性Aβオリゴマーの形成に対するAβ濃度の影響
この実施例は、可溶性Aβオリゴマーの形成に対するAβ濃度の影響を示す。100%DMSO中のAβ20mg/mlストック溶液を、種々の割合で50mMリン酸ナトリウム中に溶解し、4℃で一晩インキュベートした。HP−SEC分析を実施し、可溶性Aβオリゴマーピークの総面積を、モノマーおよびオリゴマーのピークの合計の総面積によって除算した。高濃度のサンプルもまた、4℃でのさらに3日間のインキュベーションの後に試験した。
【0036】
図3は、Aβの濃度の増大が、可溶性Aβオリゴマーの割合の増大を導くことを示す。高濃度のサンプルについて、形成の過程は、一晩のインキュベーション後にほぼ完了する。さらに、増大した濃度の影響は、ペプチドの約90%がオリゴマー種に変換されるときに飽和するようである。このことは、界面活性剤の臨界ミセル濃度(cmc)に類似した、ペプチドの溶解限度が存在することを示唆する。
【実施例4】
【0037】
可溶性Aβオリゴマーの安定性
この実施例は、4℃での1日間および4日間の保存後の、HP−SECカラムからの可溶性Aβオリゴマーの回収を示す。総Aβピーク面積を積分し、公称濃度に対してプロットした。
【0038】
実施例3に記載した実験を使用して、4℃でインキュベーションしたときの調製物の安定性もまた見積もった。図4は、一晩および4日間のインキュベーション後の種々の濃度での総ピーク面積を示す。UV検出によって判断した場合、HP−SECカラムから回収された物質の総量は、1日間と4日間との間で変化しなかった。これは、これらの調製物が保存中安定であることを示す。
【実施例5】
【0039】
可溶性Aβオリゴマーの形成および安定性に対する温度および賦形剤の影響
この実施例は、可溶性Aβオリゴマーの形成に対する温度および賦形剤の影響を示す。サンプルを、100μMの濃度で調製し、HP−SECによって試験し、その後ピーク積分を実施した。これらのサンプルを、37℃(図5A)および4℃(図5B)で評価した。緩衝液は、他に注記しない限り50mMリン酸ナトリウムであった。
【0040】
図5A中に見られるように、40%グリセロールを含むサンプル以外、37℃でインキュベートしたサンプルにおいて乏しい回収が観察された。対応する4℃のサンプル(図5B)からの可溶性Aβオリゴマーの割合の試験により、グリセロールの存在が(コントロールと比較して)可溶性Aβオリゴマーの形成を阻害することが示された。いずれの理論に束縛されることも望まないが、この阻害は、オリゴマーが既に形成された後にグリセロールを添加した場合に観察された安定化効果の基礎をなし得る。さらに、2価アニオン(リン酸塩および硫酸塩)ならびにプロピレングリコールの存在は、可溶性Aβオリゴマーの形成を促進するようであった。4℃での可溶性Aβオリゴマーの形成は、以前の実験(実施例3および4)において観察された安定性と一致する、実際に適用可能な動的規模で生じたようにも見える。さらに、可溶性Aβオリゴマーが希釈の際に界面活性剤特性と比較して部分的に解離することが注目されたので、かなり低い誘電率を有する不活性賦形剤を試験して、可溶性Aβオリゴマーの安定性に対するその影響を確立した。図5A中に見られるように、40%グリセロールは、37℃でこのような安定化効果を示す。
【実施例6】
【0041】
希釈溶液における可溶性Aβオリゴマーの安定性に対するグリセロールの影響
この実施例は、440μMの濃度で調製し、40%グリセロールの存在下で50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH9)中に4倍希釈した可溶性Aβオリゴマーの解離の阻害を示す(図6)。同一ではあるがグリセロールを用いずに製剤化したサンプルは、コントロールとして機能した。サンプルを4℃で一晩インキュベートし、その後HP−SECカラム上に注入した。オリゴマーのより高い割合が、グリセロールを含むサンプル中で観察された。
【実施例7】
【0042】
化学的架橋による可溶性Aβオリゴマーの安定化
この実施例は、可溶性Aβオリゴマーを架橋するために必要なグルタルアルデヒドの濃度を示す。最適な条件下で形成されたオリゴマーに関連する潜在的な問題点の1つは、それらが希釈時に解離することである。他方、過剰な化学的修飾は、生理活性の喪失を通常導く。この実施例は、分析目的(生理活性の喪失を伴う比較的高濃度のグルタルアルデヒド)および生物学的実験において使用される物質の調製(生理活性の維持を伴う比較的低濃度のグルタルアルデヒド)のためにオリゴマーを架橋するための架橋剤の最適な濃度を示す。
【0043】
可溶性Aβオリゴマーを、グルタルアルデヒドで架橋し、室温で10分間インキュベートし、次いで1Mグリシン、1M Tris−HCl(pH7.5)でクエンチした。次いで、架橋したサンプルを、Tris−グリシンSDSサンプル緩衝液中0.02μg/μLの最終濃度に希釈した。分析のために、モノマーまたはオリゴマーのいずれかの形態の0.28μgのAβ(公称濃度)を、4%〜20%のtris−グリシンゲル(Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用して125Vで約100分間の電気泳動によって分離した。次いで、ゲルを銀染色し、可溶性Aβオリゴマーのサイズ分布を可視化した。グルタルアルデヒド濃度の最適化のために、HFIP乾燥したAβ42またはHFIP乾燥したAβ40を、DMSO(20mg/mL、4.4mM)中に溶解し、50mMリン酸塩(pH0.9)に添加し、1.8mg/mL(400μM)の最終濃度にして、光から保護して4℃で一晩インキュベートした。一晩のインキュベーション後、Aβタンパク質の36ngを、0〜0.5%の範囲の種々の濃度のグルタルアルデヒドで架橋した。
【0044】
以下の図7に示した銀染色したゲルは、この実験から得られたデータの代表である。結果は、0.1%のグルタルアルデヒドが、4℃で一晩のインキュベーションの間に形成された可溶性Aβ42オリゴマーを架橋するのに十分であることを示す。0.01%および0.05%のグルタルアルデヒドの濃度で、少量のダイマー(8kDa)がレーン2および3において認められる。レーン5〜10は、Aβ40が主にモノマーで存在し、50mMリン酸塩(pH9.0)中4℃での24時間のインキュベーションの間にオリゴマーを形成しないことを示す。17kDaの範囲で見られたこれらのバンドは、SDS添加前に存在しなかったSDS処理の生成物を示す;サンプル中に元々(即ち、SDSを添加する前)存在した場合、これらは架橋されていた。したがって、可溶性Aβオリゴマーは、150kDa(これは、20kDaの範囲の分子量を示した、当該分野における合意とは対照的である。)の範囲の分子量を有するように見える。
【0045】
この実施例の結果として、出願人らは、この方法論が、可溶性Aβオリゴマー調製物の形成をモニターし、サイズ分布を決定するのに有効であると結論付けた。
【実施例8】
【0046】
50mMリン酸塩(pH9.0)における可溶性Aβオリゴマーの安定性
実施例1〜4に上記したように、Aβ42は、2℃〜8℃での保存の間、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中で可溶性Aβオリゴマーを形成する。しかし、保存の間のこれらのオリゴマー種の形成、生物学的活性および保存安定性に最適な濃度は、決定していなかった。実施例7に記載したように、分析目的でAβ42オリゴマー種を架橋するために0.1%グルタルアルデヒドが使用される方法を開発した。これらの架橋種はSDSの存在下で破壊され、したがって、適切なサイズ分布はSDS−PAGEによって決定できた。この実施例において、Aβ42を、上記50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中、1mM、850μM、650μM、450μM、250μMおよび100μMの濃度で調製した。4℃での1日間、4日間および7日間のインキュベーション後、これらのサンプルを、0.5%グルタルアルデヒドまたは非架橋コントロールとして機能する等量の水で架橋し、次いで実施例7に記載したとおりにSDS−PAGEで分離した。
【0047】
図8中に示されるように、1mMのAβ42濃度で、可溶性Aβオリゴマー(約150kDa、本明細書中以下「150kDa種」、35マー以上と等価)が、図8Aのレーン2で観察されるように、4℃での1日のインキュベーション後に形成される。4℃での4日間および7日間の保存後、この種の量は減少し、より高分子量の物質が観察される(図8A、レーン3および4)。同様のパターンが、850μMおよび650μMのAβ42ストック濃度で観察されたが(それぞれ、図8Bのレーン2、3、4、7、8および9)、1500kDa種の相対的な量は、保存期間の間に徐々に減少した。しかし、450μMのAβ42ストック濃度では、150kDa種の量は、4℃での保存の7日間の間一定のままであり、より高分子の種はほとんど〜まったく観察されない(図8Cのレーン2、3および4)。最後に、250μMおよび100μMのAβ42ストック濃度は、4℃での1日の保存後にも主にモノマー(約4kDa)のままである種を生じ、150kDa種はほとんど形成されない(図8Dのレーン2および7)。4℃でのさらなる保存時間により、150kDa種の量は増大せず、一方でモノマーの見かけの量は減少しているように見える(図8Dのレーン3、4、8および9)。このことは、Aβ42ペプチドが経時的に分解していることを示唆する。これらの結果に基づき、出願人らは、450μMのストック濃度のAβ42が、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中で比較的安定なオリゴマー種を形成し、4℃で7日間保存され得ると結論付けた。実施例9に示されるMTTアッセイデータに加えて、このデータは、比較的安定な生物活性の可溶性Aβオリゴマーとしての、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中450μMのAβ42ストックの使用を支持する。
【実施例9】
【0048】
可溶性Aβオリゴマーの毒性の評価
Aβ42は、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中で可溶性Aβオリゴマーを形成することが、HP−SECによって以前に示されている(実施例1〜4)。これらの可溶性Aβオリゴマーはまた、PC−12 MTT(3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロマイド)還元アッセイ(実施例10)において生理活性であることが示された。これらの種を形成するAβ42の臨界濃度および/または最大の細胞生理活性を提供する臨界濃度は知られていなかった。したがって、これらの条件の両方を満たすAβ42ストックの臨界濃度を決定するための実験を行った。
【0049】
PC−12細胞を、30,000細胞/ウェルでプレートし、37℃/5%COで一晩増殖させた。可溶性Aβオリゴマーまたはビヒクルを、1μMおよび5μMの濃度で細胞に添加した。37℃/5%COでの4時間のインキュベーション後、MTT還元アッセイを実施した(Lambertら、2001、J.Neurochem.79、595−605)。簡潔に述べると、MTT(10μL、5mg/mL)を各ウェルに添加し、4時間インキュベートした。可溶化緩衝液(100μL、0.01N HCl中10%のSDS)を添加し、プレートを37℃/5%COで一晩インキュベートした。次いで、このアッセイを、Tecan Spectrafluor Plusプレートリーダー(Tecan Systems、San Jose、CA)で595nmで定量した。
【0050】
この実験において、実施例8に記載したように、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中1mM、850μM、650μM、450μM、250μMおよび100μMの濃度でAβ42を調製した。4℃での7日間のインキュベーション後、サンプルをMTTアッセイによって試験して、生理活性を決定した。1μMおよび5μMの公称濃度で試験したこれらのサンプルについての結果を図9中に示す。結果は、Aβ42が、450μM〜650μMの範囲のストック濃度で高度に生理活性であることを示している。5μMの試験濃度で、これらのストック濃縮物は約55%のMTT還元を示した。対照的に、450μMを下回るストック濃度および650μMを上回るストック濃度は、ほとんど生理活性を有さないことが示され、PC−12細胞において80〜105%のMTT還元を示した。これらの結果に基づき、出願人らは、450μM〜650μMのストック濃度のAβ42が、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中で可溶性Aβオリゴマーを形成し、2〜8℃での7日間の保存まで、生理活性を保持すると結論付けた。
【実施例10】
【0051】
安定な可溶性Aβオリゴマーの調製
Aβペプチド(1−42)(Aβ42)(American Peptide、Sunnyvale、CA)を、100%ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に溶解し、1.7mlのポリプロピレンチューブ中2mgのアリコートへと分配し、溶媒が蒸発するまで減圧および低温下で遠心分離した(CentriVap(登録商標)Concentrator、Labconco、Kansas City、MO)。乾燥フィルムを湿気から保護し、使用するまで−70℃で保存した。ペプチドストック溶液を、室温での平衡化後に2mgの乾燥フィルムに100μLの無水ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加することによって調製し、ピペットを用いた吸引の繰り返しによって穏やかに混合した。ストック溶液を、最大2週間にわたって室温で保存した。
【0052】
Aβストック溶液を、室温でボルテックスしながら50mMリン酸ナトリウム(pH9.0)緩衝液中に種々の濃度で添加し、400μMと700μMとの間の最終ペプチド濃度を得る。サンプルを2〜8℃に移し、使用の前に少なくとも1日間保存する。
【実施例11】
【0053】
安定な可溶性Aβオリゴマー抗原の調製
50mM硫酸ナトリウムをリン酸ナトリウムの代わりに使用することを除き、実施例8に記載したとおりに調製した安定な可溶性オリゴマーを準備する。少量の一価緩衝液(例えば、10mM Tris)を添加して、pHを8.0より上に維持する。2〜8℃での一晩のインキュベーション後、オリゴマーサンプルを、ボルテックスで混合しながらMerckアルミニウムアジュバントに添加する。最終緩衝液を、サンプルを遠心分離してalumをペレット化することによって誘導し、上清を交換し、抗原−alum複合体をボルテックスによって再懸濁する。任意選択で、非alumアジュバントを導入してもよい。任意選択で、alumへの結合を最小化する場合、リン酸アルミニウムまたはリン酸ナトリウムで調製したオリゴマーが使用できる。
【実施例12】
【0054】
抗体を作製するための、安定な可溶性Aβオリゴマー抗原調製物の使用
抗原−alum複合体を動物に、好ましくは反復様式で注射する。この動物を屠殺し、脾臓細胞を骨髄細胞と混合し、融合に供する。次いで、これらの融合ハイブリッド細胞を培養し、これらの培養物から回収した上清を、抗オリゴマー抗体の存在についてスクリーニングする。陽性クローンを、モノクローナル抗体の産生のために増幅する。
【0055】
あるいは、Aβオリゴマーを96ウェルプレート上に固定化し、ファージライブラリーを、Aβオリゴマー抗原を認識する能力についてスクリーニングする。陽性ファージ種を増幅し、抗体産生に使用する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】可溶性Aβオリゴマー形成に対するpHの影響を示すグラフである。Aβサンプルを、4.5と9.0との間の種々のpH値に調整したナトリウム緩衝液中に調製した。
【図1B】動的光散乱分析から得たAβオリゴマーの流体力学直径(D)分布を示すグラフであり、(◇)は質量分率を示し、(*)は散乱強度分率を示す。
【図2】可溶性Aβオリゴマーの形成に対する多価イオンの影響を示すグラフである。
【図3】可溶性Aβオリゴマーの形成に対するAβペプチド濃度の影響を示すグラフである。
【図4】4℃での1日間および4日間の保存後の、HP−SECカラムからの可溶性Aβオリゴマー調製物の回収を示すグラフである。総Aβピーク面積を積分し、公称濃度に対してプロットした。
【図5A】可溶性Aβオリゴマー形成に対する、温度および種々の賦形剤の影響を示すグラフである。37℃での種々の賦形剤の影響を示す。
【図5B】可溶性Aβオリゴマー形成に対する、温度および種々の賦形剤の影響を示すグラフである。4℃での同じ賦形剤の影響を示す。
【図6】リン酸ナトリウム緩衝液における可溶性Aβオリゴマー安定性に対するグリセロールの影響を示すグラフである。
【図7】グルタルアルデヒドを用いて実施した、Aβ42およびAβ40モノマーペプチドの架橋を示す図である。分子量マーカーを、サイズ分布の推定として左側に示す。レーン1〜5はそれぞれ、Aβ42、0%、0.01%、0.05%、0.10%および0.50%のグルタルアルデヒドを含む。レーン6〜10はそれぞれ、Aβ40、0%、0.01%、0.05%、0.10%および0.50%のグルタルアルデヒドを含む。
【図8A】グルタルアルデヒド架橋サンプルおよび非架橋コントロールのSDS−PAGE分析によって決定した、4℃(2〜8℃)での保存の1日目、4日目および7日目の、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中の形成された可溶性Aβオリゴマーの安定性を示す図である。分子量マーカーをサイズ分布の推定として示す。レーン1、ブランク;レーン2〜4、50mMリン酸塩中1mMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン5〜7、1mMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン8、MWM、0.5%グルタルアルデヒド;レーン9、MWM、0%グルタルアルデヒド;レーン10〜12、850μMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目。
【図8B】グルタルアルデヒド架橋サンプルおよび非架橋コントロールのSDS−PAGE分析によって決定した、4℃(2〜8℃)での保存の1日目、4日目および7日目の、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中の形成された可溶性Aβオリゴマーの安定性を示す図である。分子量マーカーをサイズ分布の推定として示す。レーン1、ブランク;レーン2〜4、50mMリン酸塩中850μMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ、1日目、4日目および7日目;レーン5、MWM、0.5%グルタルアルデヒド;レーン6、MWM、0%グルタルアルデヒド;レーン7〜10、650μMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン10〜12、650μMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目。
【図8C】グルタルアルデヒド架橋サンプルおよび非架橋コントロールのSDS−PAGE分析によって決定した、4℃(2〜8℃)での保存の1日目、4日目および7日目の、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中の形成された可溶性Aβオリゴマーの安定性を示す図である。分子量マーカーをサイズ分布の推定として示す。レーン1、ブランク;レーン2〜4、50mMリン酸塩中450μMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン5〜7、450μMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン8、MWM、0.5%グルタルアルデヒド;レーン9、MWM、0%グルタルアルデヒド;レーン10〜12、250μMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目。
【図8D】グルタルアルデヒド架橋サンプルおよび非架橋コントロールのSDS−PAGE分析によって決定した、4℃(2〜8℃)での保存の1日目、4日目および7日目の、50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中の形成された可溶性Aβオリゴマーの安定性を示す図である。分子量マーカーをサイズ分布の推定として示す。レーン1、ブランク;レーン2〜4、50mMリン酸塩中250μMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン5、MWM、0.5%グルタルアルデヒド;レーン6、MWM、0%グルタルアルデヒド;レーン7〜10、100μMストック、0.5%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目;レーン10〜12、100μMストック、0%グルタルアルデヒド、それぞれ1日目、4日目および7日目。
【図9】PC−12細胞におけるin vitro生理活性に対する、4℃で7日間での50mMリン酸塩(pH9.0)緩衝液中のAβ42ストック濃度の影響を示すグラフである。黒四角−5マイクロモル濃度の試験濃度、白丸−1マイクロモル濃度の試験濃度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機溶媒中のAβペプチドの濃縮ストック溶液を得るステップ;および
(b)少なくとも10mMの2価アニオンを有し、少なくとも7.5のpHに緩衝化された水溶液に、前記ペプチドの濃縮ストック溶液を添加して、100μMを超える最終ペプチド濃度を有する反応混合物を形成するステップ
を含む、安定な可溶性アミロイドβ(Aβ)オリゴマーを生成する方法であり、安定な可溶性Aβオリゴマーが、静置した際にステップ(b)の反応混合物中に形成され、前記反応混合物の少なくとも50%を構成する前記方法。
【請求項2】
2℃〜8℃の温度でステップ(b)の反応混合物をインキュベートするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サイズ排除クロマトグラフィーによってステップ(b)の反応混合物を分離して、溶出したオリゴマー画分を生成するステップ、および溶出したオリゴマー画分から安定な可溶性Aβオリゴマーを回収するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)の水溶液へのヘリックス誘導有機溶媒の添加をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ストック溶液が、200μM〜900μMのAβ濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応混合物が、7.5〜11.0のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
2価アニオンが、リン酸イオンおよび硫酸イオンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ヘリックス誘導賦形剤が、2%〜15%のトリフルオロエタノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法によって生成される、安定な可溶性Aβオリゴマー。
【請求項10】
5%〜50%のグリセロールの存在下で保存される、請求項9に記載の安定な可溶性Aβオリゴマー。
【請求項11】
直径10nm〜100nmの粒子サイズを有する、請求項9に記載のオリゴマー。
【請求項12】
100kDa〜500kDaの分子量を有する、請求項9に記載のオリゴマー。
【請求項13】
動的光散乱技術によって測定した場合に直径10nm〜100nmの寸法の粒子を含む、単離された安定な可溶性Aβオリゴマー調製物。
【請求項14】
100kDa〜500kDaの分子量を有する、請求項13に記載のオリゴマー。
【請求項15】
(a)有機溶媒中のAβペプチドの濃縮ストック溶液を得るステップ;
(b)少なくとも10mMの2価アニオンを有し、少なくとも7.5のpHに緩衝化された水溶液に、前記ペプチドの濃縮ストック溶液を添加して、100μMを超える最終ペプチド濃度を有する反応混合物を形成するステップ;および
(c)ステップ(b)の反応混合物中に形成された安定な可溶性Aβオリゴマーをアジュバントと共に製剤化するステップ
を含む、安定な可溶性アミロイドβ(Aβ)オリゴマーを生成する方法であり、安定な可溶性Aβオリゴマーが、ステップ(b)の反応混合物の少なくとも50%を構成する前記方法。
【請求項16】
2℃〜8℃の温度でステップ(b)の反応混合物をインキュベートするステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
サイズ排除クロマトグラフィーによってステップ(b)の反応混合物を分離して、溶出したオリゴマー画分を生成するステップ、および溶出したオリゴマー画分から安定な可溶性Aβオリゴマーを回収するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)の水溶液へのヘリックス誘導有機溶媒の添加をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
ヘリックス誘導賦形剤が、2%〜15%のトリフルオロエタノールである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項15に記載の方法によって生成される、安定な可溶性Aβオリゴマー。
【請求項21】
5%〜50%のグリセロールの存在下で保存される、請求項20に記載の安定な可溶性Aβオリゴマー。
【請求項22】
直径10nm〜100nmの粒子サイズを有する、請求項20に記載のオリゴマー。
【請求項23】
100kDa〜500kDaの分子量を有する、請求項20に記載のオリゴマー。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−500326(P2009−500326A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519443(P2008−519443)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/024744
【国際公開番号】WO2007/005359
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】