説明

高分子電解質、高分子電解質膜、およびその利用

【課題】 本発明の目的は、加工性に優れ、かつ、プロトン伝導度、特に水分の少ない状況で優れたプロトン伝導度を持つ炭化水素系高分子電解質およびその膜を提供することである。
【解決手段】 スルホン酸基導入率の高いユニットおよびスルホン酸基導入率の低いユニットを含むブロック共重合体であり、スルホン酸基導入率の高いユニットとして下記式(1)で示される構造にスルホン酸基が導入されている構造を主鎖に有する、高分子電解質。
【化1】


(Ar1、Ar2、およびAr3は、各々置換基を有していてもよいベンゼン環、ナフタレン環または窒素を含むヘテロ芳香環を示す。ただし、Ar1〜Ar3の少なくとも一つはパラでない部位で結合しているものとする。X1は、各々O、直接結合またはフルオレニリデンを示す。aは0〜4である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられる高分子電解質、高分子電解質膜、またそれによって構成される膜/電極接合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。それに対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが電解質である。その電解質からなる燃料と酸化剤とを隔てる電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。これら高分子電解質の利用法の中でも、特に、固体高分子形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。
【0003】
ここで、固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。しかしながらナフィオン(登録商標)は、使用原料が高く、複雑な製造工程を経るため、非常に高価であるという欠点がある。また、電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。またその構造上、プロトン伝導基であるスルホン酸基の導入については限界がある。
【0004】
このような背景から、再び炭化水素系電解質膜の開発が期待されるようになってきた。その理由としては、炭化水素系電解質膜は化学構造の多様性を持たせやすく、スルホン酸基などのプロトン伝導基の導入の範囲が広く調整できる、他の材料との複合化、架橋の導入などが比較的容易であるという特徴があるからである。
【0005】
例えば、非特許文献1では、スルホン化の容易なフェニル基を分子内に多く含む構造を有し、高温安定性を有するポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキシド)(以下PPPOと略す)を用い、これをスルホン化処理することで得られる、イオン交換容量(以下IECと略す)が0.7〜2.8meq/gの高分子電解質(スルホン化ポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキシド))が例示されている。しかしこの文献においては、IECが2.6meq/g以上では水に溶解してしまうことが示されており、燃料電池用電解質膜としては使用できないものであった。
【0006】
特許文献1ではベンゾニトリル構造を含むホモポリマーおよびランダム共重合体が例示されているが、ランダム共重合体やホモポリマーを用いた電解質膜では低湿度でのプロトン伝導度に有効なミクロ相分離状態になりにくいことが知られている。
【0007】
特許文献2ではブロック共重合体が例示されているが、用いられる親水部、疎水部とも別の合成法により合成しなくてはならず、また用いられているポリパラフェニレン系のユニットの重合において副反応を抑えるために用いることのできるモノマーが限られるため、例示されているもの以外の合成は難しい。複雑な製造工程を経る必要があり、非常に高価であるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−244437号公報
【特許文献2】特開2001−250567号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】New Materials For Fuel Cell And Modern Battery Systems II 796−785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、加工性に優れ、かつ、プロトン伝導度、特に水分の少ない状況で優れたプロトン伝導度を持つ炭化水素系高分子電解質およびその膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、スルホン酸基導入率の高いユニット、スルホン酸基導入率の低いユニットからなるブロック共重合体において、スルホン酸基導入率の高いユニットに、屈曲した主鎖構造を持たせることによって部分的なスルホン酸基密度を高めると、水分の少ない状況において所望のプロトン伝導度を発揮できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、スルホン酸基導入率の高いユニットおよびスルホン酸基導入率の低いユニットを含むブロック共重合体であり、スルホン酸基導入率の高いユニットとして下記式(1)で示される構造にスルホン酸基が導入されている構造を主鎖に有する、高分子電解質である。
【0013】
【化1】

【0014】
(Ar1、Ar2、およびAr3は、各々置換基を有していてもよいベンゼン環、ナフタレン環または窒素を含むヘテロ芳香環を示す。ただし、Ar1〜Ar3の少なくとも一つはパラでない部位で結合しているものとする。X1は、各々O、直接結合またはフルオレニリデンを示す。aは0〜4である。)
上記式(1)におけるAr1、Ar2、およびAr3の少なくとも一つが、下記式(2)、(3)、(4)または(5)であることが好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
(R1はフッ素、塩素、臭素、シアノ基、ニトロ基、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、炭素数1〜10のアルコキシ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基が付いていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。bは0〜4の整数を示す。)
【0017】
【化3】

【0018】
(R1は上記と同様。bは上記と同様。)
【0019】
【化4】

【0020】
(R1は上記と同様。cは0〜6の整数を示す。ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
【0021】
【化5】

【0022】
(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
上記式(1)におけるAr1、Ar2、およびAr3の少なくとも一つが、下記式(6)で示される構造であることが好ましい。
【0023】
【化6】

【0024】
(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
上記スルホン酸基導入率の高いユニットが下記式(7)および/または(8)で示される構造を含むことが好ましい。
【0025】
【化7】

【0026】
(X1は上記と同様。R2はフッ素、塩素、臭素、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、あるいは炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良く、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。aおよびbは上記と同様。)
【0027】
【化8】

【0028】
(X1は上記と同様。R2は上記と同様。aおよびcは上記と同様。)
上記スルホン酸基導入率の低いユニットが、下記構造式(9)で示される構造を含むことが好ましい。
【0029】
【化9】

【0030】
(X2はCO、またはSO2を示す。R3はフッ素で置換されていても良い炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。dは0〜4の値を示す。Yは水素、金属イオン、あるいはアンモニウムイオンを示す。eは0〜2を示す。ただしaが1の場合、eの合計は2未満の値である。)
上記スルホン酸基導入率の低いユニットが下記式(10)で示される構造を含むことが好ましい。
【0031】
【化10】

【0032】
(X1およびX2は上記と同様。)
本発明の高分子電解質膜は、上記高分子電解質を含む。
【0033】
本発明の膜電極接合体は、上記高分子電解質膜を含む。
【0034】
本発明の固体高分子形燃料電池は、上記高分子電解質膜および/または上記膜電極接合体を含む。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、加工性に優れ、プロトン伝導度、特に水分の少ない状況で優れたプロトン伝導度を持つ高分子電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0038】
<本発明にかかる高分子電解質>
本発明の高分子電解質はスルホン酸基導入率の高いユニット、スルホン酸基導入率の低いユニットからなるブロック共重合体である。ここでブロック共重合体とは性質の異なるユニット同士が結合し、もとのユニットからなるホモポリマーとは異なる性質を有するものを指す。ユニットとは、連続した同一組成と見なせる構造からなる部位を指す。
【0039】
本発明の高分子電解質は、スルホン酸基導入率の高いユニットとして、下記式(1)で示される屈曲した構造にスルホン酸基が導入されている主鎖を持たせることにより、電解質膜中の部分的なスルホン酸基密度を高めることを特徴とするものである。
【0040】
【化11】

【0041】
(Ar1、Ar2、およびAr3は、各々置換基を有していてもよいベンゼン環、ナフタレン環または窒素を含むヘテロ芳香環を示す。ただし、Ar1〜Ar3の少なくとも一つはパラでない部位で結合しているものとする。X1は、各々O、直接結合またはフルオレニリデンを示す。aは0〜4である。)
より具体的には、パラでない部位で結合しているベンゼン環としては、下記(2)および(3)が好ましい。
【0042】
【化12】

【0043】
(R1はフッ素、塩素、臭素、シアノ基、ニトロ基、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、炭素数1〜10のアルコキシ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基が付いていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。bは0〜4の整数を示す。)
【0044】
【化13】

【0045】
(R1は上記と同様。bは上記と同様。)
加工性を高める観点から、下記式(6)で示される構造が少なくとも1個含まれることが好ましい。
【0046】
【化14】

【0047】
(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
ナフタレン環としては、下記化(4)で示される構造が好ましい。
【0048】
【化15】

【0049】
(R1は上記と同様。cは0〜6の整数を示す。ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
なお、ナフタレン環がパラでない部位で結合しているとは、結合部位が互いに1,4位でないことをいい、具体的にはナフタレン環の1,2位、1,3位、1,5位、1,6位、1,7位、1,8位、2,3位、2,6位、2,7位で結合しているものである。原料入手の点で1,2位、1,5位、1,6位、1,7位、1,8位、2,6位で結合しているものが好ましい。
【0050】
パラでない部位で結合している窒素を含むヘテロ芳香環としては、下記式(5)で示される構造が好ましい。
【0051】
【化16】

【0052】
(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
式(1)においては、上記化(2)〜(5)を少なくとも一つ含有されることが好ましい。上記化(2)〜(5)が複数含有される場合は、各々同一であってもよいが、異なっていても良い。
【0053】
本発明の高分子電解質は、スルホン酸基導入率の高いユニットが下記式(7)および/または(8)で示される構造を含むことが好ましい。
【0054】
【化17】

【0055】
(X1は上記と同様。R2はフッ素、塩素、臭素、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、あるいは炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良く、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。aおよびbは上記と同様。)
【0056】
【化18】

【0057】
(X1は上記と同様。R2は上記と同様。aおよびcは上記と同様。)
加工性を高める観点から、上記式(7)、(8)におけるベンゼン環またはナフタレン環の少なくとも1つがパラでない部位で結合していることが好ましい。
【0058】
スルホン酸基導入率の低いユニットとしては、電子吸引性官能基と結合した芳香環を多く有するか、または置換基を有する芳香環を多く有することが好ましく、なかでもユニットに含まれる芳香環がいずれも一つ以上の電子吸引性官能基を有する、または置換基を1個以上有することが好ましい。具体的には、化学的安定性の観点から、式(9)で示される構造を含むことが好ましい。
【0059】
【化19】

【0060】
(X2はCO、SO2を示す。R3はフッ素で置換されていても良い炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。dは0〜4の値を示す。Yは水素、金属イオン、あるいはアンモニウムイオンを示す。eは0〜2を示す。ただしaが1の場合、eの合計は2未満の値である。)
中でも、加工性の観点から、式(10)で示される構造を含むことが好ましい。
【0061】
【化20】

【0062】
(X1およびX2は上記と同様。)
本発明において、スルホン酸基導入率の高いとは、特に限定するわけではないが、ユニットに含まれる全芳香環のうちスルホン酸基を有するものが25%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。一方、スルホン酸基導入率の低いとは、ユニットに含まれる全芳香環のうちスルホン酸基を有するものが25%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、15%未満であることが更に好ましい。
【0063】
スルホン酸基導入率の高いユニットおよびスルホン酸基導入率の低いユニットは、各々、数平均分子量が200以上であることが好ましく、1000以上がより好ましく、2000以上が更に好ましい。
【0064】
<高分子電解質の製造方法>
本発明の高分子電解質の製造法として、主に2通りの方法がありいずれの方法で行うこともできる。
【0065】
第一の製法は、ユニット前駆体またはブロック共重合体を製造してからスルホン酸基へと変換する方法である。ただし、ここでのユニット前駆体またはブロック共重合体は、スルホン酸基、または酸化処理などによりスルホン酸基へと変換可能なスルフィド結合、スルホキシド結合、スルホン結合などの硫黄含有部位を有するモノマー、オリゴマー、またはポリマー、およびこれらのスルホン酸基誘導体のいずれかを使用して合成されるものである。
【0066】
第二の製法は、電子吸引基を有さない芳香環を多く有するユニット前駆体またはブロック共重合体を製造してからスルホン化反応によりスルホン酸基を導入する方法である。なかでも、製造工程の簡便化の観点から、ブロック共重合体を製造してから、スルホン化反応によりスルホン酸基導入率の高いユニットを形成することが好ましい。
【0067】
ここでは、第二の製法による高分子電解質の製造方法を説明する。
【0068】
(ユニット前駆体の合成法)
各ユニット前駆体の合成法としては様々な方法が可能であり、一般的な重合方法(例えば、「新高分子実験学3 高分子の合成法・反応(2)縮合系高分子の合成」p.7−57、p.399−401、(1996)共立出版株式会社、など)を適用することができる。
【0069】
重合反応は酸素があまり存在しない雰囲気で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気、たとえば窒素ガス雰囲気下やアルゴンガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0070】
好ましい重合反応としては、ジハライドと、フェノール性水酸基を有するジオールとの重縮合反応が例示される。これらのモノマーはそれぞれ1種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
スルホン酸基導入率の高いユニットを合成する際に用いることのできるモノマーとしては、ベンゼン環を持つジオールとして、ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−ビフェニルイル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,3−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,5−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,5−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3´−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,5−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,5−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,3´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,3−ジヒドロキシビフェニル、2,4−ジヒドロキシビフェニル、2,5−ジヒドロキシビフェニル、3,4−ジヒドロキシビフェニル、3,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2´−ジヒドロキシビフェニル、2,3´−ジヒドロキシビフェニル、2,4´−ジヒドロキシビフェニル、3,3´−ジヒドロキシビフェニル、3,4´−ジヒドロキシビフェニル、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)フルオレンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。ベンゼン環は置換基を有していてもよく、置換基としては水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、あるいはこれらの一部または全てがフッ素で置換されたもの等が例示される。化学的安定性の観点から水素、アリール基あるいは全てがフッ素で置換されたアルキル基が好ましい。
【0072】
ベンゼン環を持つジハライドとして、2,3−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,5−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,3−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,5−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリルおよびこれらの誘導体などが挙げられる。ベンゼン環は置換基を有していてもよく、置換基としては水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、あるいはこれらの一部または全てがフッ素で置換されたもの等が例示される。化学的安定性の観点から水素、アリール基あるいは全てがフッ素で置換されたアルキル基が好ましい。
【0073】
ナフタレン環をもつジオールとして、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,1´−ビ−2−ナフトール、1,1´−ビ−3−ナフトール、1,1´−ビ−4−ナフトール、1,1´−ビ−5−ナフトール、1,1´−ビ−6−ナフトール、1,1´−ビ−7−ナフトール、1,1´−ビ−8−ナフトール、2,2´−ビ−1−ナフトール、2,2´−ビ−3−ナフトール、2,2´−ビ−4−ナフトール、2,2´−ビ−5−ナフトール、2,2´−ビ−6−ナフトール、2,2´−ビ−7−ナフトール、2,2´−ビ−8−ナフトールおよびこれらの誘導体などが挙げられる。ナフタレン環は置換基を有していてもよく、置換基としては水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、あるいはこれらの一部または全てがフッ素で置換されたもの等が例示される。化学的安定性の観点から、水素、アリール基あるいは全てがフッ素で置換されたアルキル基が好ましい。
【0074】
窒素を含むヘテロ芳香環を持つジオールとして、2,3−ジヒドロキシピリジン、2,4−ジヒドロキシピリジン、2,5−ジヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジンなどが挙げられる。窒素を含むヘテロ芳香環は置換基を有していてもよく、置換基としては水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、あるいはこれらの一部または全てがフッ素で置換されたもの等が例示される。
【0075】
窒素を含むヘテロ芳香環を持つジハライドとして、2,3−ジフルオロピリジン、2,4−ジフルオロピリジン、2,5−ジフルオロピリジン、2,6−ジフルオロピリジン、2,3−ジクロロピリジン、2,4−ジクロロピリジン、2,5−ジクロロピリジン、2,6−ジクロロピリジンなどが挙げられる。窒素を含むヘテロ芳香環は置換基を有していてもよく、置換基としては水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、あるいはこれらの一部または全てがフッ素で置換されたもの等が例示される。
屈曲した構造であるためには、式(1)において少なくとも一つがパラでない部位で結合していることが必要であるが、好ましくは全てがパラでない部位で結合している構造である。
【0076】
パラでない部位で結合しているベンゼン環を持つジオールとしては、レソルシノール、カテコール、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−ビフェニルイル)プロパン、2,3−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,5−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3´−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,5−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,3´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,3−ジヒドロキシビフェニル、2,4−ジヒドロキシビフェニル、3,4−ジヒドロキシビフェニル、3,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2´−ジヒドロキシビフェニル、2,3´−ジヒドロキシビフェニル、2,4´−ジヒドロキシビフェニル、3,3´−ジヒドロキシビフェニル、3,4´−ジヒドロキシビフェニルおよびこれらの誘導体などが挙げられる。中でも3,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2´−ジヒドロキシビフェニル、2,4´−ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0077】
パラでない部位で結合しているベンゼン環を持つジハライドとしては、2,3−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,3−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリルおよびこれらの誘導体などが挙げられる。中でも2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリルが好ましい。
【0078】
パラでない部位で結合している窒素を含むヘテロ芳香環としては、原料入手の観点から、2,4−ジフルオロピリジン、2,6−ジフルオロピリジン、2,4−ジクロロピリジン、2,6−ジクロロピリジンが好ましい。
【0079】
スルホン酸基導入率の低いユニット前駆体の合成には、ジハライドとして、上記スルホン酸基導入率の高いユニットの製造に使用できるジハライドを同様に使用でき、その他、4,4´−ジフルオロベンゾフェノン、4,4´−ジクロロベンゾフェノン、4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4´−ジクロロジフェニルスルホン、またはこれらの構造異性体を用いることが出来る。また、ハロゲン置換基を2つ以上芳香環に有する芳香族化合物、芳香族カルボニル化合物、または芳香族スルホニル化合物、芳香族ニトリル化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族フルオロアルキル化合物も用いることが出来る。
【0080】
ジオールとしては、スルホン酸基導入率の高いユニット前駆体の合成に使用できるジオールが同様に使用できる。中でも、スルホン酸基導入率の調整の観点から、
ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、あるいは電子吸引基を含むものが好ましい。
【0081】
重縮合反応には炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物などの塩基を一種以上用いることができる。
【0082】
溶媒としては、重合を禁止するものでなければ特に制限は無く、例えば、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、1−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(以下DMIと略す))、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル等)、二トリル化合物類(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等)、非プロトン性極性物質(ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略す)、スルホラン、ジメチルホルムアミド(以下DMFと略す)、ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略す)等)、非極性溶媒(ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ハロゲン系溶媒(クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等)、水等が列挙できる。溶解度の点から、DMIやNMPなどの複素環化合物やDMSOやDMF、DMAcなどの非プロトン性極性物質がポリマーの溶解性が高く好ましい。なかでもDMIやDMSO、DMF、DMAcが特にポリマーの溶解性が高く好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。またシクロヘキサンやトルエンなどの溶媒を共に用い、重合により生じる水を系中から除いてもよい。
【0083】
反応温度は重合反応に用いるモノマーの反応性、安定性に応じて適宜設定でき、好ましくは20℃〜300℃に設定すればよく、より好ましくは40℃〜250℃であり、さらに好ましくは70℃〜240℃である。この範囲よりも低温であれば反応速度が著しく低下する傾向があり、一方、高温であればモノマーおよびポリマーの分解が進行する恐れがある。
【0084】
重合反応工程では停止操作を行うことが好ましく、これは冷却、希釈、重合禁止剤の添加によって行うことができる。重合反応工程の後に生成した高分子を取り出してもよい。さらに精製工程を追加してもよい。
【0085】
ジハライドと、フェノール性水酸基を有するジオールとのモル比を変えることで、両末端にハロゲンの付いたハロゲン末端のポリマー、または両末端にフェノール性水酸基のついたフェノール性水酸基末端のポリマーを作ることができる。
【0086】
(ブロック共重合体の製造)
スルホン酸基導入率の高いユニット前駆体と、スルホン酸基導入率の低いユニット前駆体とを重縮合反応で合成することができ、重合条件等は上述と同様の条件で行うことができる。いずれかのユニット前駆体をフェノール性水酸基末端に、もう一方のユニット前駆体をハロゲン末端にしておき、これらの重縮合反応によりブロック共重合体を得ることができる。いずれのユニット前駆体もフェノール性水酸基末端にしておき、連結剤を用いて、これらユニット前駆体を連結させてブロック共重合体を得ることもできる。連結基としては、2価や3価の連結基、またはデカフルオロビフェニルなどの多価の連結基を用いることができる。いずれのユニット前駆体もハロゲン末端にしておき、ジオールを用いて、これらユニット前駆体を連結させてブロック共重合体を得ることもできる。ジオールには、前述のジオールが同様に適用されうる。
【0087】
合成工程の簡略化のために、いずれかのユニット前駆体をあらかじめ合成しておき、その反応容器にモノマーを追加し、もう一方のユニットを合成すると共にブロック共重合体を合成しても良い。
【0088】
(スルホン酸基導入)
スルホン酸基の導入は、ブロック共重合体の合成前でもよく、ブロック共重合体の合成後でもよい。
【0089】
スルホン化剤としては、例えば硫酸、クロロスルホン酸、発煙硫酸などが挙げられる。中でも、硫酸やクロロスルホン酸が適度な反応性を有しているため好ましい。
【0090】
溶媒としては反応を阻害するものでなければ特に制限は無く、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)塩素系溶媒(メチレンクロリド、1,2−ジクロロエタン、エチレンクロリド等)、スルホン酸類(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸など)、硫酸、水が列挙できる。中でも、溶解度の点からメチレンクロリドや1,2−ジクロロエタンなどの塩素系溶媒が好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0091】
反応温度は反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン化剤の最適使用範囲である−80℃〜200℃に設定するのが好ましく、−50℃〜160℃がより好ましく、−20℃〜140℃がさらに好ましい。この範囲よりも低温であれば反応が遅くなる傾向があり、高温であれば急激な反応が起こり目的とする部位以外にもスルホン化が進行してしまう恐れがある。
【0092】
<高分子電解質膜>
本発明の高分子電解質は、それ単独で、またはその他成分を含有した複合体の形態で、膜状に成型して高分子電解質膜に使用することができる。
【0093】
製膜方法としては、公知の方法が適宜使用され得る。例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、キャスト法、エマルション法などの溶液からの製膜方法が例示され得る。例えば、高分子電解質を、Tダイがセットされた押出機に投入し、溶融混練しながら製膜を行なう方法が挙げられる。製膜工程で前記複合化を行うことも可能である。キャスト法の場合、粘度を調整した高分子電解質、または高分子電解質複合体の溶液を、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得ることができる。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0094】
高分子電解質膜の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させてもよい。
【0095】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子フィルムの厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス、メタノール遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。高分子電解質膜の厚さが上記数値の範囲内であれば、取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0096】
高分子電解質膜は、製膜してからスルホン酸基を導入することも可能である。その場合、高分子電解質膜の製膜方法は、高分子電解質膜前駆体フィルムの製膜方法と読み替えることができる。つまり、スルホン酸基を導入する高分子、あるいはスルホン酸基を導入する高分子を含んだ複合体からフィルムを作製する方法を例示したことになる。この場合、フィルムをスルホン化することによって、最終的に高分子電解質膜を得ることになる。
【0097】
本発明の高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらに性能が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0098】
<本発明にかかる高分子電解質膜>
本発明にかかる高分子電解質膜は、上記高分子電解質、高分子電解質複合体を任意の方法で膜状に成型したものである。このような製膜方法としては、公知の方法が適宜使用され得る。上記放置の方法としては、例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、キャスト法、エマルション法などの溶液からの製膜方法が例示され得る。溶融成型方法の例としては、溶融押出成形で高分子電解質膜を製造することが挙げられる。具体的には、材料を、Tダイがセットされた押出機に投入し、溶融混練しながら製膜を行なう方法が適用され得る。さらには、この工程で前記複合化を行うことも可能である。溶液からの製膜方法としては、キャスト法が例示される。これは粘度を調整した高分子電解質、あるいは高分子電解質複合体の溶液を、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0099】
さらに、高分子電解質膜の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させたりすることも、本発明の範疇である。
【0100】
製造される高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子フィルムの厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス、メタノール遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。上記高分子電解質膜の厚さが上記数値の範囲内であれば、取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0101】
なお、高分子電解質膜は、製膜してからスルホン酸基を導入することも可能である。その場合、上記高分子電解質膜の製膜方法は、高分子電解質膜前駆体フィルムの製膜方法と読み替えることができる。つまり、スルホン酸基を導入する高分子、あるいはスルホン酸基を導入する高分子を含んだ複合体からフィルムを作製する方法を例示したことになる。この場合、フィルムをスルホン化することによって、最終的に高分子電解質膜を得ることになる。
【0102】
なお、本発明の高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらに性能が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0103】
<本発明にかかる膜/電極接合体、燃料電池>
本発明にかかる高分子電解質、高分子電解質複合体は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、例えば、膜/電極接合体(以下MEAと表記する)を挙げることができる。かかるMEAは、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池、および直接メタノール形燃料電池等の燃料電池に用いることができる。
【0104】
すなわち、本発明には、上記高分子電解質、高分子電解質複合体を用いてなるMEA、燃料電池が含まれていてもよい。
【0105】
上記膜/電極接合体や燃料電池によれば、上述したような安価で化学構造の多様性を持つ炭化水素系材料であって、伝導度、特に水分の少ない状況での伝導度に有利な高イオン交換容量部位を持ち、優れたプロトン伝導度を持つ高分子電解質膜、触媒層バインダーを備えているため、高い発電特性を有する。
【0106】
次に、本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態では、固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明する。
【0107】
図1は、本実施の形態にかかる高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10は、高分子電解質膜1、触媒層2・2、拡散層3・3、セパレーター4・4を備えている。
【0108】
高分子電解質膜1は、固体高分子形燃料電池10のセルの略中心部に位置している。触媒層2は、高分子電解質膜1に接触するように設けられている。拡散層3は、触媒層2に隣接して設けられており、さらにその外側にセパレーター4が配置されている。セパレーター4には、燃料ガスまたは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための流路5が形成されている。これらの部材は、固体高分子形燃料電池10のセルとして構成されていると換言できる。
【0109】
一般的に、高分子電解質膜1に触媒層2を接合したものや、高分子電解質膜1に触媒層2と拡散層3を接合したものは、膜/電極接合体(本明細中ではMEAとも表記)といわれ、固体高分子形燃料電池の基本部材として使用される。
【0110】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0111】
MEAの具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0112】
触媒層2の形成は、高分子電解質である触媒層バインダーの溶液あるいは分散液に、金属担持触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をPTFEなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を高分子電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、高分子電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2が形成されたMEAが作製できる。
【0113】
また、上記分散溶液を、コーターなどを用いて拡散層3上に塗工して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、高分子電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成されたMEAが製造できる。なお、上記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を使用しても構わない。
【0114】
上記高分子電解質の溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)やスルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などが使用でき、もちろん本発明における触媒層バインダーを用いることもできる。上記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。
【0115】
金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。
【0116】
上記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで塗工したりしやすい粘度に調整するため、水や有機溶媒で適宜希釈しても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与するため、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。
【0117】
上記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、高分子電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。
【0118】
高分子電解質膜1と触媒層2を加熱・加圧条件下でホットプレスする条件は、使用する高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の種類に応じて適宜設定する必要がある。上記条件としては、一般的に高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の熱劣化や熱分解温度以下であって、高分子電解質膜1あるいは触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度、さらには高分子電解質膜1および触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度条件下であることが好ましい。
【0119】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下の範囲であることが、高分子電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。特にMEAが高分子電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0120】
上記のような方法で得られたMEAを、燃料ガスまたは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10が得られる。
【0121】
上記セパレーター4としてはカーボングラファイトやステンレス鋼の導電性材料のものが使用できる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0122】
上記の固体高分子形燃料電池10に対して、燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ別個の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として、例えば、含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール形燃料電池となる。つまり、固体高分子形燃料電池10について例示した上記実施形態は、そのまま直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池についても適用可能といえる。
【0123】
なお、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成し使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0124】
なお、上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質膜は、特開2001−313046号公報、特開2001−313047号公報、特開2001−93551号公報、特開2001−93558号公報、特開2001−93561号公報、特開2001−102069号公報、特開2001−102070号公報、特開2001−283888号公報、特開2000−268835号公報、特開2000−268836号公報、特開2001−283892号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池や直接メタノール形燃料電池の電解質膜として、使用可能である。これらの公知の特許文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質膜を用いて容易に固体高分子形燃料電池や直接メタノール形燃料電池を構成することができる。
【0125】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0126】
ポリマーの分子量、高分子電解質のイオン交換容量およびプロトン伝導度の各測定方法は以下のとおりである。
【0127】
〔分子量の測定方法〕
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
【0128】
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム SHOWA DENKO社製 SuperAW4000、S uperAW2500の2本を直列に接続
カラム温度 40℃
移動相溶媒 NMP(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.3mL/min
〔イオン交換容量(以下IECと略す)の測定方法〕
対象となる高分子電解質(約100mg:十分に乾燥)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、IECを算出した。
【0129】
〔プロトン伝導度の測定方法〕
プロトン伝導度測定は恒温恒湿器(ESPEC社製、SH−221)を用いて温度と湿度を一定に保ち(約3時間)、インピーダンスアナライザー(日置社製、3532−50)を用いて、電解質の抵抗を測定した。具体的にはインピーダンスアナライザーにより50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、次式からプロトン伝導性を算出した。
プロトン伝導度(S/cm)=D/(W×T×R)
ここでDは電極間距離(cm)、Wは膜幅(cm)、Tは膜厚(cm)、Rは測定した抵抗値(Ω)である。本測定においては、D=1cm、W=1cmで行い、膜厚はそれぞれのサンプルについてマイクロメーターを用いて測定した値を用いた。温度と湿度はそれぞれ85℃、30%RHとした。
【0130】
〔合成例1〕
4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン12.2g、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン10.2g、炭酸カリウム8.6g、DMAc50mlおよびトルエン15mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。8時間後室温まで冷却後反応溶液を水に加え、析出したポリマーをミキサーで細かく粉砕し濾過後乾燥し、ポリマー(以下P1と呼ぶ)を得た。得られたP1の分子量はMn=44000であった。
【0131】
また、このP1を2gジクロロメタン100mlに溶解し、10mlのクロロスルホン酸を加えてスルホン化を行ったが、IECは0.05meq/gであった。スルホン酸基導入率は0.01%であった。
【0132】
〔合成例2〕
合成例1において、4,4´−ジフルオロジフェニルスルホンおよび4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに、2,6−ジフルオロベンゾニトリル3.0gおよび2,2´−ジヒドロキシビフェニル4.2gを使用したほかは、同様に合成を行い、白色ポリマー(以下、P2と呼ぶ。)を得た。得られたP2の分子量はMn=10000であった。また、このP2をP1と同様にスルホン化したところIECは3.62meq/gであった。スルホン酸基導入率は52%であった。
【0133】
〔合成例3〕
合成例1において、4,4´−ジフルオロジフェニルスルホンおよび4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに、2,6−ジフルオロベンゾニトリル3.0gおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル4.2gおよび2,2´−ジヒドロキシビフェニル4.2gを使用したほかは、同様に合成を行い、白色ポリマー(以下、P3と呼ぶ。)を得た。得られたP3の分子量はMn=11000であった。また、このP3をP1と同様にスルホン化したところIECは3.48meq/gであった。スルホン酸基導入率は46%であった。
【0134】
〔合成例4〕
合成例1において、4,4´−ジフルオロジフェニルスルホンおよび4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに、2,6−ジフルオロベンゾニトリル2.6gおよび4,4´−(9−フルオレニリデン)ジフェノール6.0gを使用したほかは、同様に合成を行い、白色ポリマー(以下、P4と呼ぶ。)を得た。得られたP4の分子量はMn=8000であった。また、このP4をP1と同様にスルホン化したところIECは4.03meq/gであった。スルホン酸基導入率は53%であった。
【0135】
〔合成例5〕
合成例1において、4,4´−ジフルオロジフェニルスルホンおよび4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに、2,6−ジフルオロベンゾニトリル7.1gおよび1,1´−ビ−2−ナフトール13.9gを使用したほかは、同様に合成を行い、白色ポリマー(以下、P5と呼ぶ。)を得た。得られたP5の分子量はMn=13000であった。また、このP5をP1と同様にスルホン化したところIECは2.88meq/gであった。スルホン酸基導入率は48%であった。
【0136】
〔合成例6〕
合成例1において、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりにヒドロキノン4.5gを使用したほかは同様に合成を行い、白色ポリマーを得た(以下P6と呼ぶ)。P6の分子量はMn=4400であった。また、このP6をP1と同様にスルホン化したところIECは2.05meq/gであった。スルホン酸基導入率は26%であった。
【0137】
〔実施例1〕
4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン1.14g、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン1.00g、炭酸カリウム0.9g、DMAc5ml、トルエン2mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。1.5時間後冷却し、P2を1.5g加え、さらに135度で7時間反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液を水に加え、白色固体を得た。ミキサーで粉砕、ろ過、メタノールで洗浄後80度減圧乾燥を行った。得られたポリマーの分子量はMn58000であった。得られたポリマー3gを100mlのジクロロメタンに溶解し、10mlのクロロスルホン酸を加え、スルホン化を行った。上澄み溶液を除き、沈殿物を多量の水中に加え、ミキサーで粉砕後ろ過をしながらpHが7になるまで多量の水で洗浄した。得られた個体を乾燥し高分子電解質を得た。
【0138】
得られた高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0139】
得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.70meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.2×10-4S/cmであった。
【0140】
〔実施例2〕
4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン3.04g、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン2.66g、炭酸カリウム2.2g、DMAc10ml、トルエン4mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。1.5時間後冷却し、P3を3.98g加え、さらに135度で5時間反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液を水に加え、白色固体を得た。ミキサーで粉砕、ろ過、メタノールで洗浄後80度減圧乾燥を行った。得られたポリマーの分子量はMn79000であった。得られたポリマー3gを60mlのジクロロメタンに溶解し、10mlのクロロスルホン酸を加え、スルホン化を行った。上澄み溶液を除き、沈殿物を多量の水中に加え、ミキサーで粉砕後ろ過をしながらpHが7になるまで多量の水で洗浄した。得られた個体を乾燥し高分子電解質を得た。
【0141】
得られた高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0142】
得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.63meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.5×10-4S/cmであった。
【0143】
〔実施例3〕
4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン2.24g、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン1.96g、炭酸カリウム1.6g、DMAc5ml、トルエン2mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。2時間後冷却し、P4を1.85g加え、さらに135度で3時間反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液を水に加え、白色固体を得た。ミキサーで粉砕、ろ過、メタノールで洗浄後80度減圧乾燥を行った。得られたポリマーの分子量はMn56000であった。得られたポリマー5gを200mlのジクロロメタンに溶解し、10mlのクロロスルホン酸を加え、スルホン化を行った。上澄み溶液を除き、沈殿物を多量の水中に加え、ミキサーで粉砕後ろ過をしながらpHが7になるまで多量の水で洗浄した。得られた個体を乾燥し高分子電解質を得た。
【0144】
得られた高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0145】
得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.55meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.0×10-3S/cmであった。
【0146】
〔実施例4〕
4,4´−ジフルオロジフェニルスルホン1.68g、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン1.47g、炭酸カリウム1.2g、DMAc5ml、トルエン2mlを窒素雰囲気下混合し、180度に加熱した。2時間後冷却し、P4を3.00g加え、さらに135度で3時間反応させた。反応後室温まで冷却し、反応溶液を水に加え、白色固体を得た。ミキサーで粉砕、ろ過、メタノールで洗浄後80度減圧乾燥を行った。得られたポリマーの分子量はMn39000であった。得られたポリマー3gを60mlのジクロロメタンに溶解し、10mlのクロロスルホン酸を加え、スルホン化を行った。上澄み溶液を除き、沈殿物を多量の水中に加え、ミキサーで粉砕後ろ過をしながらpHが7になるまで多量の水で洗浄した。得られた個体を乾燥し高分子電解質を得た。
【0147】
得られた高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0148】
得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.81meq/gであった。低加湿条件においてプロトン伝導度を測定したところ3.7×10-4S/cmであった。
【0149】
〔比較例1〕
合成例1において、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン4.5gを使用したほかは同様の方法で合成したポリマー(Mn=47200)10gを30%発煙硫酸に加え、100℃で20時間かけてスルホン化し、高分子電解質を得た。得られた高分子電解質を多量の水に加え、濾過および水洗を行った。得られた高分子電解質は水に溶けやすく、1.2gしか得られなかった。
【0150】
水洗処理した高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス板上に流延塗布し、60℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、ガラス板から剥がすときに水をかけると溶けてしまった。
【0151】
〔比較例2〕
合成例1において、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンの代わりに4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル4.5gを使用したほかは同様の方法で合成したポリマー(Mn=47200)6gを実施例1と同様にスルホン化し、高分子電解質を得た。スルホン化後多量の水に加え、濾過および水洗を行った。高分子電解質は水を吸うことによる膨潤が激しいが、5g得ることができた。
【0152】
得られた高分子電解質0.5gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス板上に流延塗布し、60℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、ガラス板から剥がすときに水をかけると溶けてしまった。
【0153】
〔比較例3〕
実施例1において、P2の代わりにP6を1g用いたほかは同様に合成を行い、高分子電解質を得た。
【0154】
得られた高分子電解質1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス板上に流延塗布し、60℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥し、ガラス板から剥がすときに水をかけ、膨潤させると簡単に剥がれた。再び120℃で12時間真空乾燥し、自己支持性のある高分子電解質膜を得た。
【0155】
得られた高分子電解質膜のイオン交換容量は1.63meq/gであった。低加湿条件においては膜の抵抗率が高くプロトン伝導度が測定不可であった。
【0156】
実施例1〜4と、比較例1及び2との比較から、本発明のブロック共重合体(高分子電解質)は、良好な耐水性を有することが分かる。
【0157】
実施例1〜4と、比較例3との比較から、本発明のブロック共重合体(高分子電解質)は、低加湿条件において優れたプロトン伝導度を示すことが分かる。
【0158】
よって本発明の高分子電解質は固体高分子形燃料電池の材料として有用であり、特に高分子電解質膜として有用であることが示された。
【符号の説明】
【0159】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
10 固体高分子形燃料電池



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基導入率の高いユニットおよびスルホン酸基導入率の低いユニットを含むブロック共重合体であり、スルホン酸基導入率の高いユニットとして下記式(1)で示される構造にスルホン酸基が導入されている構造を主鎖に有する、高分子電解質。
【化1】

(Ar1、Ar2、およびAr3は、各々置換基を有していてもよいベンゼン環、ナフタレン環または窒素を含むヘテロ芳香環を示す。ただし、Ar1〜Ar3の少なくとも一つはパラでない部位で結合しているものとする。X1は、各々O、直接結合またはフルオレニリデンを示す。aは0〜4である。)
【請求項2】
Ar1、Ar2、およびAr3の少なくとも一つが、下記式(2)、(3)、(4)または(5)である、請求項1に記載の高分子電解質。
【化2】

(R1はフッ素、塩素、臭素、シアノ基、ニトロ基、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、炭素数1〜10のアルコキシ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基が付いていてもよい炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。bは0〜4の整数を示す。)
【化3】

(R1は上記と同様。bは上記と同様。)
【化4】

(R1は上記と同様。cは0〜6の整数を示す。ただし結合部位は1位かつ4位でない場合に限定される。)
【化5】

(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
【請求項3】
Ar1、Ar2、およびAr3の少なくとも一つが、下記式(6)で示される構造である、請求項1または2に記載の高分子電解質。
【化6】

(ただし結合部位は互いにパラでない部位に限定される。)
【請求項4】
スルホン酸基導入率の高いユニットが下記式(7)および/または(8)で示される構造を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質。
【化7】

(X1は上記と同様。R2はフッ素、塩素、臭素、フッ素化されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜9で窒素を含むヘテロ芳香環、あるいは炭素数1〜10のアルコキシ基を示し、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良く、いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。aおよびbは上記と同様。)
【化8】

(X1は上記と同様。R2は上記と同様。aおよびcは上記と同様。)
【請求項5】
スルホン酸基導入率の低いユニットが下記構造式(9)で示される構造を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質。
【化9】

(X2はCO、またはSO2を示す。R3はフッ素で置換されていても良い炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、COZ、あるいはSO2Zを示し、Zは置換基が付いていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基を示す。いくつかある場合はそれぞれ同一でも異なっていても良い。dは0〜4の値を示す。Yは水素、金属イオン、あるいはアンモニウムイオンを示す。eは0〜2を示す。ただしaが1の場合、eの合計は2未満の値である。)
【請求項6】
スルホン酸基導入率の低いユニットが下記式(10)で示される構造を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質。
【化10】

(X1およびX2は上記と同様。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項7に記載の高分子電解質膜を含む、膜電極接合体。
【請求項9】
請求項7に記載の高分子電解質膜を含む、固体高分子形燃料電池。
【請求項10】
請求項8に記載の膜電極接合体を含む、固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63730(P2011−63730A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216280(P2009−216280)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】