説明

高分子電解質膜、その製造方法、高分子電解質、電解質組成物、膜電極接合体及び燃料電池

【課題】高いイオン伝導率が得られ、補機による電解質の加湿を行わない場合や低加湿の場合でも高い出力が安定して得られる高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体からなる電解質膜であって、前記イオン伝導性ブロックが形成するイオン伝導部12のシリンダー状ドメイン14が、電解質膜の厚さd方向と平行に配列してなる高分子電解質膜。前記イオン伝導性ブロックがイオン交換基を有するポリマーからなる。前記イオン交換基がスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基または亜ホスホン酸基である。前記ブロック共重合体中におけるイオン伝導性ブロックの体積分率が5%以上30%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高イオン伝導性を有し、イオン伝導性に対する湿度および温度の影響の小さな、燃料電池用に適した高分子電解質膜、その製造方法および該高分子電解質膜を用いた膜電極接合体および燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用する電解質の種類によって、高分子電解質型、リン酸型、アルカリ型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等に分類される。これらの中で、低温作動型の燃料電池、特に高分子電解質型燃料電池は、燃料電池を構成する材料面での制約が少なく、小型化・軽量化が可能である。そのために、可搬型の小型電源や車載用動力源等への応用が期待されている。特に携帯機器用の小型電源としての応用には、さらなる高出力化及び小型化を図ることが望まれており、そのためには解決すべき課題が残されている。
【0003】
第1の課題は、電解質膜の高イオン伝導率化及び高強度化である。高分子電解質型燃料電池の場合、電解質として、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表される非架橋のパーフルオロ系電解質や種々の炭化水素系電解質などの高分子膜を用いるのが一般的である。このような高分子電解質型燃料電池を高出力化するためには、高分子膜のイオン伝導率は高い方が望ましい。また、燃料電池は、一般に多数の単電池を積層したスタックとして使用されるので、高分子電解質型燃料電池を小型化するためには、高分子膜の厚さは薄い方が好ましく、そのためには、高分子膜の強度は高い方が望ましい。
【0004】
しかしながら、一般に高分子膜中におけるイオン交換基の分布はランダムであるため、イオン交換基の密度が小さいところでは抵抗が大きくなる。そのため、イオン交換基の密度の低い高分子膜では、高いイオン伝導率は得られない。一方、イオン交換基の密度を高くすれば、高分子膜のイオン伝導率は高くなる。しかしながら、高分子膜のイオン交換基の密度が高くなると、あるところで膜が水溶性となり、高分子膜の強度が低下するという問題がある。すなわち、高分子膜では、高イオン伝導率と高強度とを両立させるのが困難である。
【0005】
従来の高分子電解質型燃料電池においては、この問題を解決するために、複合化や架橋により高分子膜の強度や寸法安定性を向上させながら、イオン交換基の密度を高める方法が提案されている。例えば、特許文献1には、パーフルオロ系電解質の寸法安定性及び取扱適正を改善するために、繊維が無作為に配向した多孔質支持体に、イオン伝導性ポリマーを含浸させた複合膜が開示されている。
【0006】
さらに、高イオン伝導率と高強度とを両立させるため、電解質膜内において、イオン伝導性物質の導入場所を固定化することにより、イオン交換基の導入量が相対的に少ない場合であっても、高いイオン伝導率が得られる高分子電解質が提案されている。
【0007】
たとえば、特許文献2には、厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体と、前記連通孔の内部に導入されたイオン伝導性物質とを有する電解質膜が開示されている。イオン伝導性物質を導入するための多孔質支持体として、厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体を用いると、イオン伝導性物質の導入場所が特定される。そのため、イオン交換基の導入量が相対的に少ない場合であっても、高いイオン伝導率が得られる高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜を提供している。
【0008】
また特許文献3には、イオン輸送を担うイオン伝導性セグメントと、機械的安定性の役割を担う柔軟で弾力性のあるエラストマーセグメント(マトリックスセグメント)からなるブロック共重合体の電解質膜が開示されている。
【0009】
第2の課題は、電解質膜の耐ドライアウト化及び電極の耐フラッディング化である。高分子電解質型燃料電池に用いられる電解質膜としては、種々の材料が知られているが、これらは、いずれもイオン伝導性を発現するには水を必要とする。
【0010】
そのため、燃料電池の運転条件がドライ条件になると、電解質膜の含水率が低下し、イオン伝導率が低下する、いわゆるドライアウトが発生し、燃料電池の出力を低下させる原因となる。
【0011】
従来の高分子電解質型燃料電池においては、この問題を解決するために、補機を用いて外部から電解質膜に水分を補給する方法を用いるのが一般的である。電解質膜に水分を補給する方法としては、具体的には、バブラー、ミスト発生器等を用いて反応ガスを加湿する方法、セパレーター内部に形成された反応ガス流路に直接水分を注入する方法等が知られている。
【0012】
高分子電解質型燃料電池の場合、カソードにおいて、電池反応により水が生成する。また、イオンがアノード側からカソード側に移動する際に、電気浸透により水もカソード側に移動する。そのため、電解質膜内に含水率の偏りが生じる。これにより、カソードにおいて過剰の水が滞留しやすくなり、電極内の細孔が水で閉塞し、いわゆるフラッディングが発生し、燃料電池の出力を低下させる原因となる。
【0013】
また、このような電解質膜内に含水率の偏りなどによる特性低下を抑制する為、湿度条件によりイオン伝導性に影響を受けない電解質膜が望まれている。
上記課題を解決する方法として、特許文献4には、燃料電池用高分子電解質膜として、スルホン酸基含有ブロックと、スルホン酸基を含有していないブロックとからなるブロック共重合体が開示されている。具体的には、スルホン酸基の導入された親水性セグメントと、導入されていない疎水性セグメントとからなるスルホン化芳香族ポリエーテルスルホン系ブロック共重合体を用いている。前記電解質膜は、ランダムにスルホン酸基が導入された高分子電解質と比較して、イオン伝導度は同等以上で、また、吸水量が少なく抑えられることから、耐水性に優れていることが記載されている。また、イオン伝導性に対する湿度及び温度の影響の少ない高分子電解質が得られる。
【特許文献1】特開平6−231779号公報
【特許文献2】特開2002−203576号公報
【特許文献3】特表平10−503788号公報
【特許文献4】特開2003−031232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した従来技術には、それぞれ以下のような問題がある。
第1に、特許文献1では、繊維が無作為に配向した多孔質支持体にイオン伝導性ポリマーを含浸させた複合膜を電解質膜として用いる。そのために、多孔質支持体内部の気孔はランダムに配向しているので、導入されたイオン交換基の中で、イオン伝導に有効に寄与するのはその内の一部である。従って、高いイオン伝導率を得るためには、多量のイオン伝導性ポリマーを多孔質支持体に導入する必要がある。しかしながら、複合膜の強度を維持するには、多孔質支持体の気孔率をあまり大きくできない。そのため、このような複合膜を用いた高イオン伝導化には限界がある。
【0015】
第2に、特許文献2では、厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体と、前記連通孔の内部に導入されたイオン伝導性物質とを備えることにより、イオン交換基の導入量が相対的に少ない場合であっても、比較的高いイオン伝導率が得られる。しかし、イオン伝導性物質を膜支持体に浸漬させた場合、作製した電解質膜は、イオン伝導性物質膜と支持体という異なる二つの物質からなる複合膜である為、内部に導入したイオン伝導性物質が含水や膨張などにより流出する可能性があり、電極との接触性や、燃料電池の長期耐久性に問題がある。また、連通孔をイオン伝導性物質で修飾させた場合においても、膜支持体に導入されるイオン交換性物質が疎であることから、ガス遮断性に乏しく、また、イオン交換基の導入量を増大させることが難しく、更なるイオン伝導度の向上は期待できない。
【0016】
第3に、補機を用いて電解質を加湿する場合、加湿用の水を貯蔵するための水タンク、加湿器、燃料電池から排出される水を回収するための凝縮器等、様々なコンポーネントが必要となる。そのため、燃料電池システム全体が複雑かつ大型化するという問題がある。また、補機を用いた電解質の加湿は、余分な補機動力が必要となり、燃料電池の発電効率を低下させる原因にもなる。一方、高分子電解質型燃料電池の場合、上述したように、カソード側において電池反応により水が生成する。この生成水を電解質の加湿に直接利用することができれば、補機による電解質の加湿を軽減又は不要化することができ、燃料電池システム全体の小型化、軽量化及び高効率化が期待できる。
【0017】
しかしながら、高分子電解質型燃料電池に用いられる従来の電極は、フラッディングによる出力低下を抑制するために、電極の細孔内表面に撥水処理を施す等、電極内に滞留する水を排出しやすくしたものが一般的である。そのために、生成水を有効利用することはできない。また、安定して作動させるためには、補機による加湿などの水分管理が必要となり、燃料電池の小型化における大きな障害となっている。
【0018】
第4に、特許文献4では、スルホン酸基が導入された親水性セグメントと、導入されていない疎水性セグメントとからなるスルホン化芳香族ポリエーテルスルホン系ブロック共重合体を用いている。これにより、イオン伝導性に対する湿度及び温度の影響の少ない高分子電解質が得られる。しかし、このようなブロック共重合体は、スルホン酸基の導入された親水性セグメントと、導入されていない疎水性セグメントの相分離によりミクロドメインを形成しているが、その構造はあらゆる方向に向いており、イオン伝導効率の向上には限界がある。
【0019】
またブロック共重合体からなるミクロ相分離膜は一般に、狭い範囲(グレイン)内では規則的なミクロドメインの配列を示すが、グレインとグレインの境界(グレインバウンダリー)では、ドメインの連続性は分断される。特許文献3においては、イオン伝導性ドメインはエラストマーマトリックスにより分断されているが、加湿に伴う水和によりイオン伝導性ドメインが膨潤し、該ドメイン同士がグレインバウンダリー間でも接触することによりイオン伝導率が向上することが開示されている。しかしながら、燃料電池起動時の水分不足条件下や、高温での無加湿あるいは低加湿条件下では、これらイオン伝導性ドメインは水和されていないため、ドメイン間は分断され、イオン伝導率が低下するとともに、起動特性や高温出力特性も低下することが予想される。
【0020】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、本発明の最良の形態の目的は、高いイオン伝導率が得られ、補機による電解質の加湿を行わない場合や低加湿の場合でも高い出力が安定して得られる高分子電解質膜およびその製造方法を提供することにある。
【0021】
また、本発明の最良の形態の目的は、高いイオン伝導率が得られる、低温作動型の携帯機器用小型燃料電池を提供することにある。
また、本発明の最良の形態の目的は、上記の高分子電解質膜および燃料電池に用いられる高分子電解質、電解質組成物および膜電極接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための高分子電解質膜は、イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体からなる電解質膜であって、前記イオン伝導性ブロックが形成するイオン伝導部のシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする。
【0023】
前記イオン伝導性ブロックが、イオン交換基を有するポリマーからなることが好ましい。
前記イオン交換基がスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基または亜ホスホン酸基であるのが好ましい。
【0024】
前記ブロック共重合体中におけるイオン伝導性ブロックの体積分率が5%以上30%以下であることが好ましい。
前記ブロック共重合体からなる電解質のイオン伝導性ブロックの繰り返し単位として、下記化学式(1)乃至(3)で表される群から選択される少なくとも一つの構造が含まれることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、R5およびR8はアルキレン基またはアリーレン基を表し、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から3の有機基を表す。)
【0031】
また、上記課題を解決するための高分子電解質膜は、イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの分子鎖が架橋構造を有する高分子電解質膜である。このような架橋構造は、架橋前の高分子自体が有する架橋性基によって形成してもよいし、架橋剤を用いて形成してもよい。
【0032】
前記イオン伝導性を示さないブロックの分子鎖が架橋構造を有する高分子電解質膜において、イオン伝導性ブロックが形成するイオン伝導部のシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることが好ましい。
【0033】
また、上記課題を解決するための高分子電解質は、イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの繰り返し単位に、架橋性基が少なくとも1つ含まれていることを特徴とする高分子電解質である。
【0034】
また、上記課題を解決するための電解質組成物は、(A)イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの繰り返し単位に、架橋構造が少なくとも1つ含まれている高分子電解質、および(B)ラジカル発生剤を含有することを特徴とする。
【0035】
前記ラジカル発生剤が光ラジカル発生剤であることが好ましい。
また、前記ラジカル発生剤が熱ラジカル発生剤であることが好ましい。
また、上記課題を解決するための高分子電解質膜の製造方法は、イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体を成膜する工程、成膜したブロック共重合体のイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させて、電解質膜の厚さ方向と平行に配列したイオン伝導部を形成する工程を有することを特徴とする。
【0036】
また、上記課題を解決するための高分子電解質膜の製造方法は、イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体を成膜する工程、成膜したブロック共重合体のイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させて、電解質膜の厚さ方向と平行に配列したイオン伝導部を形成する工程、およびイオン伝導性を有さないブロックのポリマー側鎖を架橋する工程を有することを特徴とする。
【0037】
前記成膜したブロック共重合体を加熱処理および外場を印加してイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させることが好ましい。
また、上記課題を解決するための膜電極接合体は、上記の高分子電解質膜の両面に電極が配置されていることを特徴とする。
【0038】
前記高分子電解質膜のイオン伝導部が、電極面に対して略垂直な方向に配列していることが好ましい。
また、上記課題を解決するための燃料電池は、上記の高分子電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体を有することを特徴とする。
【0039】
前記高分子電解質膜のイオン伝導部が、電極面に対して垂直な方向に配列していることが好ましい。
以上に記載した発明において、前記ブロック共重合体の主鎖が、芳香環を有さないことが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の好適な態様によれば、高分子電解質膜の膜構造を形成するマトリックス中に、ブロック共重合体のイオン伝導性ブロックからなるイオン伝導部を自己組織的に相分離させることにより、イオン伝導性に対する湿度及び温度の影響が少なく、また、高いイオン伝導率が得られる。
【0041】
さらに、高分子電解質膜の厚さ方向に対して平行にイオン伝導部を配向させた構造を備えることにより、イオン伝導部を一軸方向に配列することが可能となり、イオン伝導効率を向上させることができる。
【0042】
また、本発明の好適な態様によれば、高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を備えた燃料電池において、電解質膜の厚さ方向に対して平行にイオン伝導部を配向させた構造を備えた電解質膜を用いているので、水の拡散速度が向上する。電池反応による電極での生成水の一部は、拡散によって電解質膜まで戻され、電解質膜の加湿に再利用される。そのため、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に配列させた構造を備えていることにより、電解質膜中の水は膜中に偏りなく均一に存在することができる。
【0043】
そのために、低加湿条件下においても、電解質膜の含水率を安定作動に必要な水準に維持することができ、出力の低下を抑制し、また高い出力が安定して得られる。これにより、補機による電解質の加湿を行わない場合や低加湿の場合においても、燃料電池の起動時など水分供給が不十分でも発電量が低下しにくく、また高い出力が長期間に渡って安定して得られ、燃料電池の小型化が可能となる。
【0044】
このように、本発明の好適な態様によれば、高いイオン伝導率が得られ、補機による電解質の加湿を行わない場合や低加湿の場合でも、高い出力が長期間に渡って安定して得られる高分子電解質膜およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の高分子電解質膜の一実施形態を示す概略構成図である。図1において、高分子電解質膜(以降、電解質膜とも称する)10は、イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体からなり、膜支持部位のマトリックス11と、イオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインからなるイオン伝導部12に相分離し、イオン伝導部12が膜厚d方向にシリンダー状に配列した構造を有する。
【0046】
図2は、本発明のブロック共重合体の一実施形態を示す構成図である。ブロック共重合体13は、イオン伝導性高分子からなるイオン伝導性ブロック(以降、イオン伝導性高分子とも称する)12aと、膜支持部位のマトリックスを形成するマトリックスポリマーからなるマトリックスブロック(マトリックスポリマーとも称する)11aからなる共重合体である。
【0047】
電解質膜10において、マトリックス11中にイオン伝導部12がシリンダー状に、配置した構造を備えている。シリンダー状ドメイン14の直径は、特に制限はないが、1nm以上100nm以下のものが一般的に用いられる。
【0048】
シリンダー状ドメイン14の直径は、イオン伝導性高分子の分子量及びマトリックスポリマーの分子量に依存する。ブロック共重合体の数平均分子量に特に制限はないが、Mn=1,000以上1,000,000以下のものが一般的に用いられる。
【0049】
また、イオン伝導部12は、少なくとも電解質膜の厚さ方向に略平行に配向しているものであれば良く、その形状は、特に限定されるものではない。例えば、シリンダーは、膜厚方向に対して90゜未満の角度で傾斜していてもよいが、膜厚方向からの傾きは30°以内の角度が好ましく、10°以内の角度がより好ましい。また、シリンダーは、直線状であってもよく、あるいはジグザグ状であってもよいが、枝分かれ部を有していないことが好ましい。つまり、シリンダーは膜厚方向に対してほぼ平行方向に配向していればよい。また、イオン伝導部の断面の形状は、ミクロ相分離により発現した形状であれば円形、だ円形、波打った不定形など、特に限定されるものではない。
【0050】
なお、電解質膜10を形成するブロック共重合体は、イオン伝導性ブロック12aを形成するイオン伝導性高分子と、マトリックスブロック11aを形成するマトリックスポリマーからなる。
【0051】
マトリックスポリマーの材質は、ブロック共重合体を合成可能であり、膜構造を形成することができるものであれば良く、特に限定されるものではない。
マトリックスポリマーとしては、イオン交換基を有さない一般的な高分子、例えば、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン誘導体、共役ジエン、ビニルエステル化合物などの単量体から合成される重合体が挙げられる。具体的には、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、またポリメタクリル酸トリフルオロエチルなどが挙げられる。これらの他にも、マトリックスポリマーを形成する単量体としては、スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、アセナフタレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;トリメチルシロキサニルジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキサニル)シリルプロピル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルプロピルジメチルシリルエーテルなどのシロキサニル化合物類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミン含有(メタ)アクリレート類;クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル、ケイ皮酸2−ヒドロキシプロピルなどの不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アリルアルコールなどの不飽和アルコール類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などの不飽和(モノ)カルボン酸類;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−プロピルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−エチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;およびこれらのモノ、ジエステル類;
その他、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどのN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド類;N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ポリカルボン酸(無水物)類、塩化ビニル、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0052】
なお、シリンダー構造を容易に形成するという観点、およびそのシリンダーの配向構造を制御するという観点からは、イオン伝導性高分子はガラス転移点(Tg)が低い物質であることが好ましい。同様の観点から、イオン伝導性高分子の主鎖は脂肪族炭化水素であること(主鎖に芳香環を有さないこと)が好ましい。ここで、脂肪族炭化水素とは、構成原子が芳香環以外の原子もしくは原子群で置換された脂肪族炭化水素を含む。例えば、主鎖のメチレン基が、酸素原子、NH基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基などで置換されていても良い。また、主鎖が、シクロヘキシレン基なマレイミド構造などの置換もしくは非置換の脂環式炭化水素基を有していてもよい。主鎖が二重結合や三重結合を有していてもよい。
【0053】
また、後述するように成膜した後に光などにより架橋可能な官能基を用いることにより、膜強度を向上させることもできる。
イオン伝導性高分子は、イオン交換基を有し、かつ、ブロック共重合体が合成可能な物質であれば良く、特に限定されるものではない。イオン交換基の量は、シリンダー構造を形成可能であれば良い。
【0054】
イオン伝導部を構成するイオン伝導性高分子は、ブロック共重合体を合成可能な高分子であればよく、それに含まれるイオン交換基についても、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができるが、スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸のいずれかが、特に好ましく用いられる。また、これらのポリマーには、1種類のイオン交換基が含まれていてもよく、あるいは、2種以上のイオン交換基が含まれていても良い。
【0055】
スルホン酸基を有する単量体としては、前記ジエン単量体またはオレフィン系単量体にスルホン酸基が付加したものが好ましい例として挙げられる。具体的には、スルホン酸(塩)基含有スチレン、スルホン酸(塩)含有(メタ)アクリレート、スルホン酸(塩)含有(メタ)アクリルアミド、スルホン酸(塩)基含有ブタジエン、スルホン酸(塩)基含有イソプレン、スルホン酸(塩)基含有エチレン、スルホン酸(塩)基含有プロピレンなどがある。さらに、電解質の膜強度の向上、寸法安定性や、相分離構造の明確化を促す為、これらの単量体にフッ素を導入したもの、エチレンテトラフルオロエチレンスチレンスルホン酸、パーフルオロカーボンスルホン酸系、パーフルオロカーボンホスホン酸、トリフルオロスチレンスルホン酸等を用いてもよい。
【0056】
さらに、これらイオン交換基としてスルホン酸基を有するイオン伝導性高分子としては、下記化学式(1)乃至(3)で表される構造を繰り返し単位として含まれることが好ましい。イオン伝導性ブロックの構成する成分として、これらの構造を単独で、あるいは2種以上が一緒に含まれているものを使用することができる。
【0057】
【化4】

【0058】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0059】
【化5】

【0060】
(式中、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0061】
【化6】

【0062】
(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、R5およびR8はアルキレン基またはアリーレン基を表し、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から3の有機基を表す。)
【0063】
上記の化学式(1)乃至(3)において、各置換基の具体例を以下に示す。
アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
アリーレン基としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0064】
炭素数1から3の有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基等が挙げられる。
ブロック共重合体では、各成分の自己凝集によりそれぞれミクロドメインを形成し、自己組織的に相分離する。しかし、水と油のようなマクロな相分離とは異なり、それぞれの成分が一本の高分子鎖内で固定されている為、相分離は分子の大きさによって規制され、そのサイズも数ナノメートルから100ナノメートル程度となる。さらにこれらの相分離の形態は、各成分の組成比や相溶性により球状、シリンダー状、ラメラ状に変化し、ミクロドメインの大きさも、鎖長や相溶性により制御することが出来る。本発明においては、電解質膜中においてシリンダー状ドメインを形成するためには、ブロック共重合体中におけるイオン伝導性ブロックの体積分率が、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0065】
このようなブロック共重合体は溶液より成膜し、ブロック共重合体を構成している両成分(ポリマー)のガラス転移温度(Tg)以上で熱処理することにより、この温度で熱力学的に平衡なミクロドメイン構造を発現する(相分離構造の作製)。また、この工程にさらに外場を加えることにより、ミクロ相分離構造はある一定方向に並んだ構造を形成する(一軸配向化)。本発明において、「外場」とは、電場、磁場、シェアなどのことを指し、例えば、一軸配向の方法として、得られた高分子電解質膜に、熱処理を行いながら電場、磁場、シェアなどの外場を加えることにより、一軸方向にイオン伝導部を配向させることができる。この場合、外場を印加した状態であれば、Tg以下の温度で熱処理を行ってもよい。
【0066】
本発明において、「イオン伝導部12がシリンダー状に配置した構造」とは、イオン伝導部と、マトリックス部位からなるブロック共重合体において、そのミクロ相分離構造の誘起により、イオン伝導部が膜厚方向にシリンダー状に一軸方向に配向させた構造を有することをいう。具体的には、イオン伝導性高分子を有するブロック共重合体を合成した後、成膜、熱処理により相分離構造を作製し、その後一軸配向化させることにより、イオン伝導部が膜厚方向にシリンダー状に配向している構造を有する電解質膜を得る。なお、成膜した後、外場を印加しなくても一軸配向が達成できる場合には、もちろん、この一軸配向処理の工程は不要である。
【0067】
この一軸配向した相分離構造においては、イオン伝導部が形成するシリンダードメインが膜厚方向に略平行に配列しているため、該シリンダードメインが加湿などで水和されていない場合でも、膜の上下間で分断なく連結している。そのため、燃料電池起動時の水分不足条件下や、無加湿あるいは低加湿条件下においても、良好な起動特性や高い出力特性が安定して得られる。
【0068】
イオン伝導部がシリンダー状に一軸配向した構造は、フィルムの超薄切片を切り出し、該切片をRuO4で染色した後、透過型電子顕微鏡(以下TEM)で膜断面の観察を行うことにより確認することができる。また、原子間力顕微鏡(以下AFM)で膜表面の相分離構造を観察することによりイオン伝導部がシリンダー状に一軸配向した構造を確認することもできる。
【0069】
イオン伝導部を有するブロック共重合体の組成比は、シリンダー状のミクロ相分離構造が作製可能な組成比であればよい。シリンダー構造などミクロ相分離構造の形態は、体積分率の値だけでなく、ブロック共重合体を構成する両成分の相溶性パラメーター(当該技術分野でχパラメーターという)や両成分の重合度などにも影響を受けるため、使用するブロック共重合体の化学構造(両ブロックの相溶性)や重合度に応じて、体積分率も決定すればよいが、一般的には、ブロック共重合体に含有されるイオン伝導性ブロック(IB)の体積分率は、5%以上30%以下、好ましくは10%以上30%以下が望ましい。IBの体積分率が低くなる(約20%以下)とそのミクロ相分離構造は球構造となるが、熱処理および外場によりシリンダー構造へと転移させることができる。一般に、IBの体積分率が5%未満では、相分離構造の形成が難しくなり、また一方、IBの体積分率が30%を超えると他の相分離形態(ジャイロイド、ラメラなど)が出現する。なお、体積分率とは、ブロック共重合体1分子鎖に対する、ブロック共重合体を構成する各ブロック鎖の体積の分率の値を示す。なお、各ブロック鎖の体積値は、分子量と比重より求めればよい。
【0070】
また、ブロック共重合体を形成するイオン伝導性高分子の分子量は、Mn=2,000以上500,000以下程度が一般的に用いられるが、この範囲に限定されるものではない。また、マトリックスポリマーの分子量も、Mn=1,000以上400,000以下程度が一般的に用いられるが、特に制限はない。
【0071】
ブロック共重合体の合成方法は、特に制限はなく、モノマー種によるが、例えば、(1)イオン交換基を有するイオン伝導性高分子を合成した後、マトリックスポリマーとなる単量体を共重合する、(2)マトリックスポリマーを合成した後、イオン交換基を有するイオン伝導性高分子となる単量体を共重合する、(3)イオン交換基を有するイオン伝導性高分子、マトリックスポリマーをそれぞれ合成した後に高分子反応によりブロック共重体化する(4)ブロック共重合体を合成した後、イオン交換基の導入を行う、などがあげられる。
【0072】
前記ブロック共重合体の合成方法は、ブロック共重合体が得られれば特に重合法について制限はなく、例えば、リビング重合、あるいは疎水性セグメントプレポリマーとイオン交換基を有する親水性セグメントプレポリマーを反応させて、共重合体を得ても良く、用途に応じて任意に選択することができる。
【0073】
ここでブロック共重合体の合成法として、リビング重合法を用いると、ブロック鎖の重合度を自由に制御して共重合体を合成することが可能である。リビング重合法には、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、配位重合、リビングラジカル重合など様々な重合法がある。これらの重合法の中で、本発明を特に限定するものではないが、リビングラジカル重合法が好ましく用いられる。
【0074】
リビングラジカル重合法は近年様々な手法が開発されており、以下の様な例が挙げられる。
例えば、Macromol.Chem.Rapid Commun.1982年,3巻,133頁に示されるイニファーター重合、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、27巻、7228頁に示されるようなニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの、ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)、1995年、117巻、5614頁に示されるような有機ハロゲン化物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする「原子移動ラジカル重合」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1998年、31巻、5559頁に示される「RAFT:Reversible Addition−Fragmentation chain Transfer重合」などがあげられる。このような重合法を用いることにより、種々のビニルモノマーを重合することが可能である。
【0075】
本発明の一形態は、電解質膜支持部位のマトリックスを形成するマトリックスポリマー11aの側鎖に重合性官能基が含まれているブロック共重合体の高分子電解質である。このブロック共重合体を成膜した後、該重合性官能基を反応させることにより、イオン伝導性を示さないマトリックス部位11のみ架橋し、膜全体の機械的強度を向上させた電解質膜を形成することができる。具体的な架橋方法としては、(A)側鎖に重合性官能基を含むマトリックスポリマーと、(B)ラジカル発生剤からなる組成物を調製し、かかる組成物を成膜した後、光反応や熱反応により(B)成分のラジカル発生剤から発生したラジカルにより、(A)成分の側鎖の重合性官能基同士が分子間・分子内で反応・硬化することで、架橋すればよい。
【0076】
側鎖に重合性官能基を有するマトリックスポリマー(A)としては、1分子内に1個以上の重合性官能基であるエチレン性不飽和基を有し、かつ、成膜後に光反応や熱反応により(B)成分より発生したラジカルと反応・硬化し架橋体を形成することができるポリマーであれば、特に制限されない。
【0077】
かかる化合物の重合性官能基としては、ビニル基や(メタ)アクリル基等のエチレン性不飽和基を有し、ラジカル重合機構で反応する官能基が挙げられる。このようにポリマー側鎖に重合性官能基を有する構造を導入することにより、成膜後にマトリックスポリマー側鎖間で架橋反応が進行するため、機械的強度が著しく向上した膜特性を発現することができる。
【0078】
これらポリマー側鎖に含まれるラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ラジカル重合性モノマー由来の官能基のどれを含んでいてもよく、かかるラジカル重合性モノマーの骨格例には、スチレン、α−メチルスチレン、2−ビニルピリジンおよび4−ビニルピリジンなどのビニル芳香族モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェネチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、β−シアノエチルアクリレート、無水マレイン酸、イタコン酸ジエチル、アクリルアミド、メタクリロニトリルおよびN−ブチルアクリルアミドなどのα、β−不飽和カルボン酸およびそれらの誘導体、酢酸ビニルおよびビニル2−エチルヘキサノエートなどのカルボン酸のビニルエステル、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムおよびN−ビニルカルバゾールなどのN−ビニル化合物、メチルビニルケトンなどのビニルケトンなどが挙げられる。
【0079】
これらエチレン性不飽和基のポリマー側鎖導入法は特に限定されず、エチレン性不飽和基を側鎖に含む単量体をポリマー化してもよく、ポリマーを合成した後に、ポリマー側鎖にエチレン性不飽和基を導入してもよいが、ラジカル重合によりブロックポリマーを合成する場合には、ブロックポリマー合成の際に側鎖のエチレン性不飽和基も反応し副反応が起こるため、後者のポリマー合成後にポリマー側鎖にエチレン性不飽和基を導入することがより好ましい。
【0080】
(B)成分であるラジカル重合開始剤は、光、熱、或いはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、前記(A)成分の側鎖エチレン性不飽和基の重合を開始、促進させる化合物を指す。本発明に係るラジカル発生剤としては、公知の光重合開始剤や熱重合開始剤などを選択して使用することができる。
【0081】
かかる光ラジカル重合開始剤としては、公知の化合物を用いることができ、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフエノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類、2,4,6−トリス(モノクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のs−トリアジン類等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0082】
また、これらの光重合開始剤の外に、成膜後の熱処理を利用しての硬化も考慮して、各種有機過酸化物やアゾ系化合物といった熱ラジカル重合開始剤を添加してもよい。これら熱重合開始剤の種類としては、成膜後の熱処理温度に応じて適宜選択できる。例えば有機化酸化物としては、ジ−tertブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5,−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナン、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、ジ(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどが好ましく用いられる。
【0083】
このような(A)側鎖にエチレン性不飽和基を有するブロック共重合体、および(B)ラジカル発生剤からなる組成物溶液から成膜し、マトリックスブロック11aを架橋することで、膜強度が向上すると共に、ブロック共重合体が自己組織的に相分離した構造を固定化することができ、膜中のシリンダー状のプロトン伝導構造を安定化することで、安定的なプロトン伝導性能を発揮することができる。
【0084】
具体的には、先ず前記組成物溶液を基板表面に塗膜を形成する。この際、塗布する方法としては、スピンコート法、浸漬法、ロールコート法、スプレー法、キャスト法などの塗布手段を用いることができる。イオン伝導性を示さないマトリックス部位が架橋した本発明の高分子電解質膜も、ミクロ相分離により形成されたシリンダー構造を一軸配向させることで、イオン伝導を向上させることができる。架橋させる前の高分子電解質膜に、熱処理しながら電場などの外場を加える工程により、ミクロ相分離構造の一軸配向化を行い、膜厚方向にシリンダー状に配列したイオン伝導部を形成する。さらに、配向化した電解質膜を、光照射や加熱によりラジカルを発生させ架橋する工程により、マトリックスブロックが架橋した電解質膜を形成することができる。
【0085】
前記光照射工程における照射光としては、波長365nmのi線、404nmのh線、436nmのg線、キセノンランプ等の広域波長光源等の紫外線、波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザー等の遠紫外線、可視光およびこれらの混合線等が挙げられ、(B)ラジカル発生剤の化学構造に応じて選択すれば良いが、紫外光および可視光が好ましい。照度としては照射波長などにもよるが、0.1mW/cm2以上100mW/cm2以下とすることが最も反応効率が良く好ましい。
【0086】
一方、加熱により(B)ラジカル発生剤からラジカルを発生させる場合には、ブロック共重合体の相分離構造形成時の加熱温度より高い温度で分解するラジカル発生剤を用いることが好ましい。低温でラジカルを発生するラジカル発生剤を用いると、イオン伝導部が膜厚方向にシリンダー状に配列する前に架橋が起こるため、一軸配向した電解質膜を形成できないことがある。
【0087】
ところで、イオン伝導性を示さないマトリックス部位11のみ架橋するためには、架橋剤を用いることも可能である。この場合、ブロック共重合体側鎖にエチレン性不飽和基を含んだもの、含んでいないもの、のいずれを用いた場合であっても架橋剤を使用することができる。前者の場合、架橋剤はブロック共重合体側鎖のエチレン性不飽和基と共有結合で化学的に結合され、相分離構造の安定化や機械強度の向上が図られる。後者の場合、架橋剤が形成する緻密なネットワーク構造中にブロック共重合体が存在することにより、ポリマー鎖の運動性が該ネットワークに束縛され、構造の安定化が図られ、また機械強度の向上も達成される。
【0088】
架橋剤としては、ラジカル重合性を示すエチレン性不飽和基を分子内に2個以上含むものが好適に用いられる。エチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、特に制限はなく公知の重合性化合物を使用することができる。例えば、エチレン性不飽和基を分子中に2個有する化合物の例は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソランジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N,N′−アクリロイルエチレンジアミン、N,N′−アクリロイルプロピレンジアミン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、等を挙げることができる。
【0089】
エチレン性不飽和基を分子中に3個有する化合物の例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリオキシエチレン化トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリオキシプロピレン化トリメチロールプロパントリアクリレート、N,N′,N″−トリヒドロキシエチル−1,3,5,トリアジン−2,4,6,トリオントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ポリオキシエチレン化グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、等を挙げることができる。
【0090】
エチレン性不飽和基を分子中に4個以上有する化合物の例としては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリヒドロキシオリゴエステルポリアクリレート、ポリヒドロキシオリゴウレタンポリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ポリヒドロキシオリゴエステルポリメタクリレート、等を挙げることができる。
【0091】
これらのエチレン性不飽和基を有する重合性化合物は架橋剤として単独で用いても、2種類以上組み合わせてもちいてもよい。
架橋剤は疎水性セグメント(非イオン伝導性のマトリックスセグメント)に局在化されるような構造をもつものが好ましく、疎水的な化学構造を有するものが好適に用いられる。上記の中で疎水性の高い架橋剤としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン化ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ポリオキシプロピレン化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアジン−2,4,6,トリオントリアクリレートなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0092】
ブロックコポリマーを構成する2つの成分に加えて、第3の成分として架橋剤を添加した後の膜は、架橋剤がマトリックスセグメントに局在化されるため、親水性セグメント(イオン伝導性ブロック)と疎水性セグメント(マトリックスブロック+架橋剤)の体積分率が元のブロックコポリマーの体積分率から変化する。そのため、所望の膜ナノ構造(シリンダー等)を得るために、元のブロックコポリマーの体積分率や添加する架橋剤量を調節すればよい。
【0093】
次に、本発明の形態に係る電解質膜の作用について説明する。本発明における電解質膜では、イオン伝導性高分子からなるイオン伝導部と、膜を構成するマトリックスポリマーが相分離した構造を有する。そのため、イオン伝導部内では、イオン伝導に有効に寄与する割合が高く、またイオン伝導部が、低湿度時でも多くの水を含むことから、イオン伝導率が高く、また湿度の影響が小さい電解質膜を得ることができる。また、マトリックスポリマーは、膜の含水状態などにより形状変化を起こさない為、寸法安定性に優れ、また高強度、高イオン伝導率といった特性の両立が可能となる。
【0094】
さらに、前記電解質膜では、イオン伝導部が電解質膜の膜厚方向に対してほぼ平行方向に配向していることにより、イオン伝導部が電解質膜の両側に設けられる電極間が最短のイオン移動経路でつながることになる。そのため、イオン伝導効率がさらに向上し、高イオン伝導が得られる。またイオン伝導部内の水の拡散速度が向上し、カソードで発生した水を膜内にすばやく均一に分布させることが可能となる。これにより、低加湿下においても膜の乾燥を抑え、湿度に依存しないイオン伝導率特性を得ることができる。
【0095】
上述した本発明の高分子電解質膜に、電極を配置することにより、本発明の一形態である膜電極接合体を作製することができる。この膜電極接合体は、本発明の高分子電解質と、それを挟んで対向する触媒電極(アノードおよびカソード)から構成され、該触媒電極はガス拡散層上に触媒層が形成されている。この接合体の作製方法としては、特に制限はなく、公知の技術を用いることができ、例えば、白金、白金−ルテニウム合金、あるいはその微粒子をカーボンなどの担持体上に分散担持させたものを触媒とするガス拡散電極を高分子電解質膜に直接形成する方法、ガス拡散電極と高分子電解質膜をホットプレスする方法、あるいは、接着液により接合する方法などの方法により作製できる。
【0096】
また、本発明の高分子電解質膜および前記膜電極接合体を用いて、公知の手法により燃料電池を作製することができる。該燃料電池の構成の一例としては、前記膜電極接合体、該膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、セパレータに取り付けられた集電体およびパッキンとを備える構成が挙げられる。アノード極側のセパレータにはアノード極側開口部が設けられ、水素、メタノール等のアルコール類のガス燃料または液体燃料が供給される。一方、カソード極側のセパレータにはカソード極側開口部が設けられ、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。パッシブタイプの燃料電池の場合、酸化剤ガス側のセパレータは無くても良い。
【0097】
このようにして形成される燃料電池のユニットの一例を図4に示す。なお、セパレータに代えて、あるいはセパレータとガス拡散層との間に、発泡金属などのガス流路を設けることも可能である。
【0098】
前記高分子電解質膜を用いて燃料電池を作製することにより、補機による電解質の加湿を行わない場合や低加湿の場合においても、高い出力が長期間に渡って安定して得られるため、燃料電池の小型化が可能となる。また、本発明のマトリックスを架橋した高分子電解質膜を用いた場合、その機械的強度や寸法安定性が向上するため、水分による膜の膨潤を抑制でき、メタノールを直接燃料とする燃料電池としてもメタノールの透過を抑制できるため、好適に用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。まず、以下の手順により各種ポリマーを合成した。
合成例1
ポリスチレンスルホン酸−b−ポリスチレンの合成(BP−2)[bはブロック共重合体を示す。]
20mlシュレンク管に、スチレンスルホン酸エチルエステル5.5g、1−ブロモエチルベンゼン(1−Bromoethyl−benzene)30μl、ジメチルホルムアミド5.5g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(1,1,4,7,10,10−Hexamethyl−triethylene tetramine)85μl、CuBr触媒45mgを加え、この混合溶液を窒素で溶存酸素を置換した後、100℃で5時間重合を行った。これをトルエンに再沈殿することによりポリマーaを得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリマーaの分子量を測定したところMn(数平均分子量)=24,200であった。
【0100】
次いで、20mlシュレンク管中、スチレンモノマー1.5g、ポリマーa0.5g、ジメチルホルムアミド1.5g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン10μl、CuBr触媒5mgを加え、110℃で5時間重合を行い、ブロック共重合体BP−1(ポリスチレンスルホン酸エチルエステル−b−ポリスチレン)を得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ブロック共重合体BP−1の分子量を測定したところ、Mn=82,100であった。
【0101】
さらに得られたブロック共重合体BP−1に1.5M炭酸アンモニウム水溶液、ジメチルホルムアミドを加え、加熱還流を行い、エチルエステルの脱保護を行い、目的のブロック共重合体ポリスチレンスルホン酸−b−ポリスチレン(BP−2)を得た。BP−2におけるポリスチレンスルホン酸の体積分率は29%であった。このブロック共重合体BP−2の構造式を以下に示す。
【0102】
【化7】

【0103】
合成例2
ポリスチレンスルホン酸−b−ポリメタクリル酸トリフルオロエチルの合成(BP−4)
20mlシュレンク管に、スチレンスルホン酸エチルエステル5.5g、1−ブロモエチルベンゼン30μl、ジメチルホルムアミド5.5g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン85μl、CuBr触媒45mgを加え、この混合溶液を窒素で溶存酸素を置換した後100℃で5時間重合を行った。これをトルエンに再沈殿することによりポリマーbを得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリマーbの分子量を測定したところMn=24,200であった。
【0104】
次いで、20mlシュレンク管に、メタクリル酸トリフルオロエチル3.0g、ポリマーb1.0g、ジメチルホルムアミド3.0g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン16μl、CuBr触媒11.7mgを加え、110℃で3時間重合を行い、ブロック共重合体BP−3(ポリスチレンスルホン酸エチルエステル−b−ポリメタクリル酸トリフルオロエチル)を得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ブロック共重合体BP−3の分子量を測定したところMn=81,420であった。
【0105】
さらに得られたブロック共重合体BP−3に1.5M炭酸アンモニウム水溶液、ジメチルホルムアミドを加え、加熱還流を行い、エチルエステルの脱保護を行い、目的のブロック共重合体ポリスチレンスルホン酸−b−ポリメタクリル酸トリフルオロエチル(BP−4)を得た。BP−4におけるポリスチレンスルホン酸の体積分率は27%であった。このブロック共重合体BP−4の構造式を以下に示す。
【0106】
【化8】

【0107】
合成例3
ポリスチレンスルホン酸−b−ポリメタクリル酸メチルの合成(BP−6)
20mlシュレンク管に、スチレンモノマー8g、1−ブロモエチルベンゼン51μl、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン202μl、CuBr触媒100mgを加え、この混合溶液を窒素で溶存酸素を置換した後110℃で2時間重合を行った。これをトルエンで希釈した後、メタノールに再沈殿することによりポリマーcを得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリマーcの分子量を測定したところMn=19,100であった。
【0108】
次いで、20mlシュレンク管に、メタクリル酸メチル2.0g、ポリマーc1.0g、アニソール4ml、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン19.5μl、CuBr触媒14.3mgを加え、80℃で10時間重合を行い、ブロック共重合体BP−5(ポリメタクリル酸メチル−b−ポリスチレン)を得た。ジメチルホルムアミドを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ブロック共重合体BP−5の分子量を測定したところMn=68,520であった。
【0109】
さらに、反応容器にジオキサン5gを入れ、これに無水硫酸0.5gを内温を25℃に保ちながら添加し、2時間攪拌して無水硫酸−ジオキサン錯体を得た。また、別の反応容器に、ブロック共重合体BP−5 1.3gを1−テトラヒドロフラン4.0gに溶解させた。この中に、内温を25℃に保ちながら無水硫酸−ジオキサン錯体を添加し、2時間攪拌することで、ポリスチレンのみをスルホン化し、BP−6(ポリスチレンスルホン酸−b−ポリメタクリル酸メチル)を得た。BP−6におけるポリスチレンスルホン酸の体積分率は29%であった。このブロック共重合体BP−6の構造式を以下に示す。
【0110】
【化9】

【0111】
合成例4
ポリスチレンスルホン酸−r−ポリスチレンの合成(RP−2)[rはランダム共重合体を示す。]
20mlシュレンク管に、スチレンスルホン酸エチルエステル2.5g、スチレンモノマー4.5g、ジメチルホルムアミド2.5g、アゾイソブチロニトリル60mgを加え、100℃で2時間重合を行った。これをトルエンに再沈殿することによりランダム共重合体(RP−1)を得た。DMFを溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、RP−1の分子量を測定したところMn=100,000であった。
【0112】
さらに得られたランダム共重合体RP−1に1.5M炭酸アンモニウム水溶液、ジメチルホルムアミドを加え、加熱還流を行い、エチルエステルの脱保護を行い、目的のランダム共重合体ポリスチレンスルホン酸−r−ポリスチレン(RP−2)を得た。RP−2におけるポリスチレンスルホン酸の体積分率は28%であった。
【0113】
実施例1
合成例1で得たスルホン酸基をイオン交換基としたブロック共重合体BP−2を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。さらにこの基板上にPt基板でPt/BP−2/Ptとなるように挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。電解質膜表面のAFM観察結果を図3に示す。
【0114】
図3から明らかなように、フィルム表面においてドット状のパターンが観察された。BP−2のポリスチレンスルホン酸部位の体積分率は27%であり、本体積分率においては、イオン伝導部であるポリスチレンスルホン酸がシリンダー状のミクロドメイン構造を形成することが知られている。つまり、フィルム表面で観察されたドット状のパターンはシリンダー構造の断面を意味しており、イオン伝導部が形成するシリンダー構造が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向していることが認められた。
【0115】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.02S・cm-1であった。
【0116】
実施例2
合成例2で得たBP−4を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。さらにこの基板上にPt基板でPt/BP−4/Ptとなるように挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0117】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.02S・cm-1であった。
【0118】
実施例3
合成例3で得たBP−6を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。さらにこの基板上にPt基板でPt/BP−6/Ptとなるように挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0119】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.03S・cm-1であった。
【0120】
比較例1
合成例1で得たBP−2を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜し、ホットプレート上、70℃で5分乾燥した。この膜は、長時間の熱処理および外場による配向処理を行っていない膜である。得られた電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部とマトリックス部位が海島構造で無秩序に相分離していることが認められた。
【0121】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.005S・cm-1であった。
【0122】
比較例2
合成例1で得たBP−2を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。さらにこの基板を160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。この膜は、外場を印加せずに熱処理だけを行った膜である。得られた電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部とマトリックス部位が海島構造で無秩序に相分離していることが認められた。
【0123】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.007S・cm-1であった。
【0124】
比較例3
合成例4で得たRP−2を固形分濃度20wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を作製し、電解質膜を得た。この膜は、ブロック共重合体ではなくランダム共重合体からなる膜である。得られた電解質膜表面をAFMにより観察したが、相分離構造は確認されなかった。
【0125】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.001S・cm-1であった。
【0126】
合成例5
式(1)で表される構造を繰り返し単位として含むスルホン酸含有ブロックとポリスチレンブロックからなるブロック共重合体(BP−8)の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅0.3ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.3ミリモル、メチル2−ブロモプロピオネート0.3ミリモル、tert−ブチルアクリレート(tBA)45ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、70℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリtBAの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=13,600、Mw/Mn=1.07であった。
【0127】
次いで、得られた臭素を末端に有するポリtBA0.4ミリモル、臭化銅(I)0.4ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.4ミリモル、スチレン800ミリモルを混合、窒素置換した。100℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPtBA−b−PSt(BP−7)の分子量をGPCで確認した結果、Mn=75,700、Mw/Mn=1.18であった。この結果より、各ブロックの分子量は、PtBAブロックが13,600、PStブロックが62,100と計算され、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0128】
次いで、得られたブロック共重合体BP−7をテトラヒドロフラン(THF)中、室温でトリフルオロ酢酸(tert−ブチル基に対して5当量)と混合することによりPtBAセグメントのtert−ブチル基の脱保護反応を行いカルボン酸へと変換し、ポリアクリル酸−b−ポリスチレン(PAA−b−PSt)を得た。さらに、PAA−b−PStをTHFに溶解し、水素化ナトリウム(カルボン酸に対して10当量)および1,3−プロパンスルトン(カルボン酸に対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PAAセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基をイオン交換基とした目的の構造式(1)を一成分とするブロック共重合体(BP−8)を得た。BP−8におけるスルホン酸含有ブロックの体積分率は23%であった。このブロック共重合体BP−8の構造式を以下に示す。
【0129】
【化10】

【0130】
合成例6
式(2)で表される構造を繰り返し単位として含むスルホン酸含有ブロックとポリヘキサフルオロイソプロピルアクリレートからなるブロック共重合体(BP−10)の合成
窒素雰囲気下で、臭化銅0.6ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.6ミリモル、1−ブロモエチルベンゼン0.3ミリモル、tert−ブトキシスチレン(tBOS)30ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、110℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリtBOSの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=10,300、Mw/Mn=1.12であった。
【0131】
次いで、得られた臭素を末端に有するポリtBOS0.4ミリモル、臭化銅(I)0.4ミリモル、ペンタメチルジエチレントリアミン0.4ミリモル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート(HFIPA)100ミリモルを溶媒であるトリフルオロトルエン/アニソール(2/1、v/v)に溶解・混合し、窒素置換した。90℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPtBOS−b−PHFIPA(BP−9)の分子量をGPCで確認した結果、Mn=48,100、Mw/Mn=1.22であった。この結果より、各ブロックの分子量は、PtBOSブロックが10,300、PHFIPAブロックが37,800と計算され、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0132】
次いで、得られたブロック共重合体BP−9をトリフルオロトルエン/1,4−ジオキサン(1/1、v/v)を溶媒として、8.6N臭化水素酸(tert−ブトキシ基に対して3当量)と60℃で反応させることによりPtBOSセグメントのtert−ブトキシ基の脱保護反応を行ってフェノールへと変換し、ポリビニルフェノール−b−ポリヘキサフルオロイソプロピルアクリレート(PVPh−b−PHFIPA)を得た。さらに、PVPh−b−PHFIPAをTHFに溶解し、水素化ナトリウム(水酸基に対して10当量)および1,4−ブタンスルトン(フェノールに対して20当量)を加え、加熱還流を行い、PVPhセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸基をイオン交換基とした目的の構造式(2)を一成分とするブロック共重合体(BP−10)を得た。BP−10におけるスルホン酸含有ブロックの体積分率は26%であった。このブロック共重合体BP−10の構造式を以下に示す。
【0133】
【化11】

【0134】
合成例7
式(3)で表される構造を繰り返し単位として含むスルホン酸含有ブロックとポリメタクリル酸トリフルオロエチルからなるブロックポリマー(BP−12)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅0.2ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.4ミリモル、2−エチルブロモイソブチレート0.2ミリモル、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAMA)30ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、40℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリDMAMAの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=12,200、Mw/Mn=1.24であった。
【0135】
次いで、得られたポリDMAMA0.3ミリモル、臭化銅(I)0.3ミリモル、4,4−ジノニル−2,2−ビピリジル0.6ミリモル、2,2,2−メタクリル酸トリフルオロエチル(TFEMA)200ミリモルを溶媒であるトリフルオロトルエン/ジメチルホルムアミド(1/1、v/v)に溶解・混合し、窒素置換した。80℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPDMAMA−b−PTFEMA(BP−11)の分子量をGPCで確認した結果、Mn=64,600、Mw/Mn=1.21であった。この結果より、各ブロックの分子量は、PDMAMAブロックが12,200、PTFEMAブロックが52,400と計算され、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0136】
次いで、得られたブロック共重合体BP−11をトリフルオロトルエン/THF(1/1、v/v)を溶媒として、1,3−プロパンスルトン(DMAMAユニットに対して2当量)を加え、40℃で反応を行い、PDMAMAセグメントのスルホン化を行うことで、スルホン酸をイオン交換基とした目的の構造式(3)を一成分とするブロック共重合体(BP−12)を得た。BP−12におけるスルホン酸含有ブロックの体積分率は28%であった。このブロック共重合体BP−12の構造式を以下に示す。
【0137】
【化12】

【0138】
実施例4
本実施例は、式(1)をイオン伝導部の繰り返し単位として有するブロック共重合体から電解質膜を作製した例である。合成例5で得たBP−8を固形分濃度15wt%となるようにプロピレングリコールメチルエーテルアセテートに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚25μmの膜を成膜した。次にこの基板上にPt基板でPt/BP−8/Ptとなるようにサンドイッチ構造で挟み込み、100℃で30V/μmとなるように10時間、電界を印加した。電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0139】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は 0.04S・cm-1であった。
【0140】
実施例5
本実施例は、式(2)をイオン伝導部の繰り返し単位として有するブロック共重合体から電解質膜を作製した例である。合成例6で得たBP−10を固形分濃度17wt%となるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚25μmの膜を成膜した。さらにこの基板上にPt基板でPt/BP−10/Ptとなるようにサンドイッチ構造で挟み込み、140℃で40V/μmとなるように10時間、電界を印加した。電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0141】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.05S・cm-1であった。
【0142】
実施例6
本実施例は、式(3)をイオン伝導部の繰り返し単位として有するブロック共重合体から電解質膜を作製した例である。合成例7で得たBP−12を固形分濃度22wt%となるようにプロピレングリコールメチルエーテルアセテートに溶解し、ディップコートによりPt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。さらにこの基板上にPt基板でPt/BP−12/Ptとなるように挟み込み、140℃で40V/μmとなるように10時間、電界を印加した。電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0143】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.04S・cm-1であった。
【0144】
合成例8
イオン伝導性ブロックとして、式(3)で表される構造を有するポリマー、イオン伝導性を示さないブロックとして、マトリックスポリマーの側鎖に重合性官能基を導入したブロックポリマー(BP−14)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅0.35ミリモル、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン0.7ミリモル、2−エチルブロモイソブチレート0.35ミリモル、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAMA)40ミリモルを混合し、窒素で溶存酸素を置換した後、40℃で反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。得られたポリDMAMAの分子量をGPCにより確認した結果、Mn=9,400、Mw/Mn=1.29であった。
【0145】
次いで、得られたポリDMAMA0.3ミリモル、臭化銅(I)0.25ミリモル、4,4−ジノニル−2,2−ビピリジル0.5ミリモル、2−(トリメチルシリロキシ)エチルメタクリレート(TMSOMA)200ミリモルを溶媒であるジメチルホルムアミドに溶解・混合し、窒素置換した。70℃で反応を行った後、液体窒素で急冷し、反応を停止した。メタノールへの再沈澱による精製の後、得られたPDMAMA−b−PTMSOMA(BP−13)の分子量をGPCで確認した結果、Mn=58,300、Mw/Mn=1.27であった。この結果より、各ブロックの分子量は、PDMAMAブロックが9,400、PTMSOMAブロックが48,900と計算され、1H−NMRのピーク積分値比より求められる両ブロックの組成比と良く一致した。
【0146】
次いで、得られたBP−13をTHFに溶解し、6N塩酸水溶液と室温で混合することによりトリメチルシリル基の脱保護反応を行い、PTMSOMAブロックの側鎖を水酸基へと変換した。得られた生成物をTHFに溶解し、トリエチルアミン存在下、アクリル酸クロリドと反応させることにより、イオン伝導性を示さないブロック側鎖に重合性官能基であるアクリル基を導入した。
【0147】
さらに、アクリル基を側鎖に導入したブロック共重合体をTHFを溶媒として、1,3−プロパンスルトン(DMAMAユニットに対して2当量)を加え、40℃で反応を行い、PDMAMAセグメントのスルホン化を行うことで、イオン伝導性成分として構造式(3)を含み、かつイオン伝導性を示さないマトリックスポリマーの側鎖にアクリル基を導入したブロックを含むブロック共重合体(BP−14)を得た。BP−14におけるスルホン酸含有ブロックの体積分率は25%であった。このブロック共重合体BP−14の構造式を以下に示す。
【0148】
【化13】

【0149】
実施例7
本実施例は、式(3)をイオン伝導部の繰り返し単位として有し、かつイオン伝導性を示さないブロックに重合性官能基を有するブロック共重合体、および熱ラジカル発生剤からなる電解質組成物を調製し、成膜した後にマトリックス部を架橋した電解質膜を作製した例である。
【0150】
合成例8で得たBP−14を25重量部、および熱ラジカル発生剤としてジクミルペルオキシドを8重量部となるようにジメチルホルムアミド100重量部に溶解し、電解質組成物を調製した。
【0151】
この組成物溶液からディップコートにより、Pt基板上に膜厚25μmの膜を成膜した。さらにこの基板を110℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。この膜は、外場を印加せずに熱処理を行うことにより、イオン伝導性を示さないマトリックス部位を架橋した膜である。加熱処理後の膜の赤外分光(IR)測定を行ったところ、成膜後に存在したポリマー側鎖のアクリル基由来のピーク(1615cm−1)が消失したことから、架橋反応が進行したことを確認した。また、得られた電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部とマトリックス部位が海島構造で無秩序に相分離していることが認められた。
【0152】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.008S・cm-1であった。
【0153】
また、ナノインデンテーション法(エリオニクス社製、ENT−1100)により膜硬度を測定したところ、実施例4の架橋していない膜が0.2GPaであったのに対して、本実施例の架橋膜では0.7GPaであり、機械強度が向上していることが確認された。
【0154】
実施例8
本実施例は、式(3)をイオン伝導部の繰り返し単位として有し、かつイオン伝導性を示さないブロックに重合性官能基を有するブロック共重合体、および光ラジカル発生剤からなる電解質組成物を調製し、成膜した後に電場を印加することで、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造を形成するとともに、マトリックス部を架橋した電解質膜を作製した例である。
【0155】
合成例8で得たBP−14を22重量部、および光ラジカル発生剤として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(イルガキュア369;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)を5重量部となるようにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート100重量部に溶解し、電解質組成物を調製した。
【0156】
この組成物溶液からディップコートにより、Pt基板上に膜厚20μmの膜を成膜した。この基板上にPt基板でPt/BP−14/Ptとなるように挟み込み、70℃で40V/μmとなるように6時間、電界を印加した。次いで、i線を照射光として露光しマトリックスポリマー側鎖の架橋反応を行った。光照射後の膜の赤外分光(IR)測定を行ったところ、成膜後に存在したポリマー側鎖のアクリル基由来のピーク(1615cm-1)が消失したことから、架橋反応が進行したことを確認した。また、電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0157】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.03S・cm-1であった。
【0158】
また、ナノインデンテーション法(エリオニクス社製、ENT−1100)により膜硬度を測定したところ、実施例4の架橋していない膜が0.2GPaであったのに対して、本実施例の架橋膜では0.6GPaであり、機械強度が向上していることが確認された。
【0159】
実施例9
膜電極接合体、および燃料電池セルの作製方法の一例を以下に示す。
触媒粉末として、HiSPEC1000(登録商標、ジョンソン&マッセイ社製)を使用し、電解質溶液としてはNafion溶液(登録商標、デュポン社製)を使用した。まず、触媒粉末と電解質溶液の混合分散液を作製し、ドクターブレード法を用いてPTFEシート上に成膜し、触媒シートを作製した。次に、作製した触媒シートをデカール法によって、150℃、9.8MPa(100kgf/cm2)で、実施例8で得たBP−14の一軸配向処理を行った電解質膜上にホットプレス転写し、膜電極接合体を作製した。さらに、その膜電極接合体をカーボンクロス電極(E−TEK社製)で挟持した後、集電体で挟んで締結し、図4に示すような燃料電池を作製した。
【0160】
作製した燃料電池を用いて、アノード側に水素ガスを注入速度300ml/minで、カソード側には空気を供給し、セル出口圧力を大気圧、相対湿度をアノード、カソードともに50%、セル温度を50℃とした。電流密度400mA/cm2で放電試験を行ったところ、初期のセル電位は540mVであった。この電池出力性能の安定性を確認したところ、1週間以上運転を継続した後のセル電位は、初期値の99%とほとんど変わらず、出力は安定していた。
【0161】
比較例4
合成例4で得られたランダム共重合体RP−2からなる電解質膜を用いた以外は実施例9と同様の条件で燃料電池を作製、運転を行い、電池出力性能の安定性を確認したところ、1週間後には初期セル電位の50%の電位を示し、出力の大幅な低下が見られた。
【0162】
実施例10
本実施例は、式(1)をイオン伝導部の繰り返し単位として有するブロック共重合体、および光ラジカル発生剤と架橋剤からなる電解質組成物を調製し、成膜した後に電場を印加することで、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造を形成するとともに、マトリックス部を架橋した電解質膜を作製した例である。
【0163】
合成例5で得たBP−8を25重量部、架橋剤としてポリオキシプロピレン化ビスフェノールAジアクリレート7重量部、および光ラジカル発生剤として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(イルガキュア369;チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)を5重量部となるようにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート100重量部に溶解し、電解質組成物を調製した。
【0164】
この組成物溶液からディップコートにより、Pt基板上に膜厚30μmの膜を成膜した。この基板上にPt基板でPt/BP−8+架橋剤/Ptとなるように挟み込み、70℃で40V/μmとなるように6時間、電界を印加した。次いで、i線を照射光として露光しマトリックスポリマー側鎖の架橋反応を行った。光照射後の膜の赤外分光(IR)測定を行ったところ、成膜後に存在した架橋剤に含まれるアクリル基由来のピーク(1613cm-1)が消失したことから、架橋反応が進行したことを確認した。また、電解質膜表面のAFM観察を行った結果、イオン伝導部が電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0165】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、周波数1kHzの交流2端子法により電解質膜の抵抗を測定した結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は0.03S・cm-1であった。
【0166】
また、ナノインデンテーション法(エリオニクス社製、ENT−1100)により膜硬度を測定したところ、実施例4の架橋していない膜が0.2GPaであったのに対して、本実施例の架橋膜では1.0GPaであり、機械強度が向上していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の好適な態様に係る高分子電解質膜は、高いイオン伝導率が得られ、補機による電解質の加湿を行うことなく高い出力が安定して得られるので、低温作動型の携帯機器用小型燃料電池に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の高分子電解質膜の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明のブロック共重合体の一実施形態を示す構成図である。
【図3】本発明のブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造のAFM像である。
【図4】本発明の燃料電池のユニットの一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0169】
10 高分子電解質膜
11 マトリックス
12 イオン伝導部
14 シリンダー状ドメイン
13 ブロック共重合体
12a イオン伝導性ブロック(イオン伝導性高分子)
11a マトリックスブロック(マトリックスポリマー)
21 高分子電解質膜
22a,22b 触媒層
23a、23b ガス拡散層
24a,24b セパレータ
25a,25b 集電体
26 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体からなる電解質膜であって、前記イオン伝導性ブロックが形成するイオン伝導部のシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
前記イオン伝導性ブロックがイオン交換基を有するポリマーからなる請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記ブロック共重合体中におけるイオン伝導性ブロックの体積分率が5%以上30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記ブロック共重合体の主鎖が芳香環を有さないことを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記ブロック共重合体からなる電解質のイオン伝導性ブロックの繰り返し単位として、下記化学式(1)乃至(3)で表される群から選択される少なくとも一つの構造が含まれることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【化2】

(式中、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【化3】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、R5およびR8はアルキレン基またはアリーレン基を表し、R6およびR7は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から3の有機基を表す。)
【請求項6】
イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの分子鎖が架橋構造を有することを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項7】
前記イオン伝導性を示すブロックがイオン伝導部のシリンダー状ドメインを形成しており、該シリンダー状ドメインが電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記ブロック共重合体の主鎖が芳香環を有さないことを特徴とする請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの繰り返し単位に、架橋性基が少なくとも1つ含まれていることを特徴とする高分子電解質。
【請求項10】
前記ブロック共重合体の主鎖が芳香環を有さないことを特徴とする請求項9に記載の高分子電解質。
【請求項11】
(A)イオン伝導性を示すブロックと、イオン伝導性を示さないブロックとを有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜であって、該ブロック共重合体中の該イオン伝導性を示すブロックの体積分率が5%以上30%以下であり、該イオン伝導性を示さないブロックの繰り返し単位に、架橋構造が少なくとも1つ含まれている高分子電解質、および(B)ラジカル発生剤を含有することを特徴とする電解質組成物。
【請求項12】
前記ブロック共重合体の主鎖が芳香環を有さないことを特徴とする請求項11に記載の電解質組成物。
【請求項13】
イオン伝導性ブロックを有するブロック共重合体を成膜する工程、成膜したブロック共重合体のイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させて電解質膜の厚さ方向に配列したイオン伝導部を形成する工程を有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
イオン伝導性を有さないブロックのポリマー側鎖を架橋する工程をさらに有することを特徴とする請求項13に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項15】
前記成膜したブロック共重合体を加熱処理および外場を印加してイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させることを特徴とする請求項13に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の高分子電解質膜の両面に電極が配置されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項17】
前記高分子電解質膜のイオン伝導部が、電極面に対して垂直または略垂直な方向に配列していることを特徴とする請求項16に記載の膜電極接合体。
【請求項18】
請求項1に記載の高分子電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、集電体とを少なくとも有することを特徴とする燃料電池。
【請求項19】
前記高分子電解質膜のイオン伝導部が、電極面に対して垂直または略垂直な方向に配列していることを特徴とする請求項18に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−265955(P2007−265955A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203819(P2006−203819)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】