説明

高分子電解質膜、膜−電極接合体及び固体高分子型燃料電池

【課題】耐久性と、低湿度雰囲気でのイオン伝導性とに優れる高分子電解質膜、膜−電極接合体、及び固体高分子型燃料電池を提供すること。
【解決手段】イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)、非晶性オレフィン重合体ブロック(B)、及び芳香族ビニル重合体ブロック(C)からなる7または8個の重合体ブロックからなり、重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端重合体ブロックとし、重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみであるブロック共重合体(Z)の、重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した構造からなり、25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.における破断伸びが300%以上であるブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜;該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体;及び該膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に有用な高分子電解質膜、膜−電極接合体、及び固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、効率の高い発電システムとして燃料電池が注目されている。燃料電池は、電解質の種類によって、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、リン酸型、固体高分子型等に分類される。これらのうち、高分子電解質膜を電極(アノード及びカソード)で挟んだ構造からなり、アノードに還元剤からなる燃料を、カソードに酸化剤を、供給することにより発電する固体高分子型燃料電池は、低温作動性、小型軽量化等の観点から、自動車用電源やポータブル機器電源、さらに電気と熱を同時利用する家庭用コージェネレーションシステム等への適用が検討されている。
【0003】
そこで、固体高分子型燃料電池用に好適な種々の高分子電解質膜が提案されている。
例えば、イオン伝導性基を有する芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロック(A)及びフレキシブルな重合体ブロック(B)を所定の比率で含むブロック共重合体を主成分とする、25℃、引張速度500mm/min.の条件での引張試験における100%モジュラスが15MPa以下であり、破断強さが15MPa以上であり、かつ破断伸びが300%以上である高分子電解質膜が提案されている(特許文献1参照)。かかる高分子電解質膜は電極との接合性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−67526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体高分子型燃料電池の内部は、起動中は高湿度雰囲気に、停止中は低湿度雰囲気になる。固体高分子型燃料電池に用いられる高分子電解質膜は、高湿度雰囲気では膨潤し、低湿度雰囲気では収縮している。近年、固体高分子型燃料電池の利用が期待されている自動車用途においては、固体高分子型燃料電池は頻繁に起動と停止が繰り返される。このため高分子電解質膜には、固体高分子型燃料電池の起動及び停止の繰り返しに伴う、膜の破断に対する耐久性(以下、単に「耐久性」と称する)が求められている。
一方、起動時に速やかに発電を開始する上では、高分子電解質膜は低湿度雰囲気においてイオン伝導性に優れる必要がある。イオン伝導性を高める手段としては高分子電解質膜中のイオン伝導性基の含有率(イオン交換容量)を高めることが一般的である。しかしながら、高分子電解質膜中のイオン交換容量を高めるにしたがって、耐久性は低下する傾向となる。かかる観点からは特許文献1で開示された高分子電解質膜は、なお改良の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は耐久性と低湿度雰囲気下での高いイオン伝導性とを兼ね備えた高分子電解質膜;該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体;該膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の目的は、
[1]イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)、イオン伝導性基を有さない非晶性オレフィン重合体ブロック(B)、及びイオン伝導性基を有さない芳香族ビニル化合物重合体ブロック(C)からなる7または8個の重合体ブロックからなり、前記重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端重合体ブロックとし、前記重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみであるブロック共重合体(Z)の、前記重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した構造からなり、25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.における破断伸びが300%以上であるブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜;
[2]前記ブロック共重合体(Z)が、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)15〜45質量%と、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)15〜35質量%と、イオン伝導性を有さない重合体ブロック(C)35〜55質量%とからなる上記[1]の高分子電解質膜;
[3]前記イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックである、上記[1]又は[2]の高分子電解質膜;
[4]前記イオン伝導性基が、−SOM又は−POHM(式中、Mは水素原子、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す)で示される基である上記[1]〜[3]のいずれかの高分子電解質膜;
[5]前記重合体ブロック(B)が、軟化温度30℃以下の非晶性オレフィン重合体ブロックである上記[1]〜[4]のいずれかの高分子電解質膜;
[6]前記重合体ブロック(C)が、下記一般式(a)
【0008】
【化1】


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数3〜8のアルキル基を表し、かつR〜Rの少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す)
で示される芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる、上記[1]〜[5]のいずれかの高分子電解質膜;
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの高分子電解質膜を備える膜−電極接合体;及び
[8]上記[7]の膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池
を提供することによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば耐久性及び低湿度雰囲気下でのイオン伝導性に優れる高分子電解質膜;該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体;および該膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ブロック共重合体]
本発明の高分子電解質膜を構成するブロック共重合体(Z)は、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)(以下、単に「重合体ブロック(A)」と称する場合がある)、イオン伝導性基を有さない非晶性オレフィン重合体ブロック(B)(以下、単に「重合体ブロック(B)」と称する場合がある)、及びイオン伝導性基を有さない芳香族ビニル化合物重合体ブロック(C)(以下、単に「重合体ブロック(C)」と称する場合がある)からなる7または8個の重合体ブロックからなり、重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端重合体ブロックとし、前記重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみであるブロック共重合体(Z)の重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入し重合体ブロック(A)とした構造からなる。
【0011】
なお、ここで便宜的に重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(C)について上記したが、重合体ブロック(A)は重合体ブロック(B)または重合体ブロック(C)と構造上区別できず、イオン伝導性基を導入して重合体ブロック(A)となる重合体ブロックが重合体ブロック(A)である。すなわちブロック共重合体(Z)は、重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端重合体ブロックとし、前記重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみであるブロック共重合体(Z)のブロック共重合体(A)が有するイオン伝導性基を水素に置換して重合体ブロック(A)とした構造からなる。
【0012】
該ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜の耐久性の観点から、ブロック共重合体(Z)の25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.における破断伸びは300%以上であり、350〜1000%の範囲であることが好ましく、400〜800%の範囲であることがより好ましい。
ここで破断伸びは、ブロック共重合体(Z)より厚さ30μmの膜を作製し、ダンベル状の試験片を打ち抜いて、25℃、相対湿度50%の条件で調湿したものを、引張試験機により、25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.の条件にて測定する。上記膜は、ブロック共重合体(Z)を適当な溶媒に溶解させた溶液を離型フィルム上に塗布し、溶媒を乾燥除去したのち、離型フィルムから剥離することで得られる。
【0013】
ブロック共重合体(Z)の数平均分子量は、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、11,000〜500,000が好ましく、14,000〜450,000がより好ましく、17,000〜350,000がさらに好ましく、20,000〜300,000が特に好ましい。
【0014】
ブロック共重合体(Z)は、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)15〜45質量%と、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)15〜35質量%と、イオン伝導性を有さない重合体ブロック(C)35〜55質量%とからなることが好ましい。
【0015】
ブロック共重合体(Z)において、重合体ブロック(A)の総量と重合体ブロック(C)の総量との質量比(A:C)は、80:20〜10:90であるのが好ましく、75:25〜15:85であるのがより好ましく、65:35〜20:80であるのがさらに好ましい。重合体ブロック(C)の質量比が小さくなりすぎると、乾燥時、及び湿潤時の強度を保持しにくくなる。また、前記重合体ブロック(A)の質量比が小さくなりすぎると、該重合体ブロックに導入されるイオン伝導性基の量が少なくなり、かかるブロック共重合体(Z)から得られるブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜はイオン伝導性が低くなる傾向がある。
【0016】
ブロック共重合体(Z)において、重合体ブロック(B)の総量と重合体ブロック(C)の総量との質量比(B:C)は、85:15〜5:95であるのが好ましく、75:25〜10:90であるのがより好ましく、70:30〜12:88であるのがさらに好ましい。(B:C)が上記範囲であれば、かかるブロック共重合体(Z)から得られるブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜は、形状保持性、強靭性に優れる。
【0017】
ブロック共重合体(Z)は、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、及び重合体ブロック(C)からなる7または8個の重合体ブロックからなり、重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端ブロックとし、重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみである構造からなる。
ブロック共重合体(Z)はブロック共重合体(Z)の重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した構造からなり、重合体ブロック(A)は重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した構造からなる重合体ブロックである。
【0018】
イオン伝導性基の導入量は、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜として使用するのに十分なイオン伝導性を発現するために、通常、ブロック共重合体(Z)のイオン交換容量が0.80meq/g以上となる量が好ましく、1.30meq/g以上となる量がより好ましく、1.40meq/g以上となる量がさらに好ましく、1.80meq/g以上となる量が特に好ましい。一方、高分子電解質膜の耐水性の観点から、ブロック共重合体(Z)のイオン交換容量は4.00meq/g以下となる量が好ましく、3.60meq/g以下となる量がより好ましく、3.20meq/g以下となる量がさらに好ましい。
【0019】
ブロック共重合体(Z)のイオン交換容量は、酸塩基滴定法を用いて算出することができる。
【0020】
ブロック共重合体(Z)において、重合体ブロック(B)は、ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜の弾力性、柔軟性を担う相として機能する。ブロック共重合体(Z)においては、重合体ブロック(B)の両端が、拘束相として機能する重合体ブロック(C)と結合している。すなわち、ブロック共重合体(Z)中に(C)−(B)−(C)のブロック結合を有しており、この結果、湿潤時の機械強度の低下が抑制され、破断伸びが向上し、さらに耐熱性が向上すると推定される。
【0021】
一方、一般に重合体ブロック(α)と重合体ブロック(γ)とが重合体ブロック(β)を間に挟むα−β−γ型ブロック共重合体は、重合体ブロック(α)と重合体ブロック(γ)がそれぞれ他のポリマーとドメインを形成し、重合体ブロック(β)を挟むブリッジ構造を形成することで力学強度を発現する(この際、重合体ブロック(β)がとる鎖の形態をブリッジ鎖と呼ぶ)。一方、ブロック共重合体がループ構造を形成して重合体ブロック(α)と重合体ブロック(γ)が同じドメインを形成し、ループ構造を形成すると、前記ブリッジ構造の比率が低下するので力学強度が低下する。すなわちループ構造を低減し、ブリッジ構造を増やすことで力学強度を高めることができる。
ブロック共重合体(Z)は、(A)−(C)−(B)−のブロック結合を有するので、ブリッジ構造のみとなり、重合体ブロック(C)がブリッジ鎖を形成する。このことからブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜は力学強度が向上すると推定される。
【0022】
ブロック共重合体(Z)が7個の重合体ブロックにより構成される場合、重合体ブロックの結合様式としては、A−C−A−C−B−C−A、A−C−B−C−B−C−A、C−A−C−B−C−A−C、C−A−C−A−C−B−C、C−B−C−A−C−B−C、C−B−C−B−C−A−C等が挙げられるが、高分子電解質膜が膨潤したときの破膜を抑制する観点から、重合体ブロック(A)の両端が、拘束相として機能する重合体ブロック(C)と結合した構造を有するC−A−C−B−C−A−C、C−A−C−A−C−B−C、C−B−C−A−C−B−C、C−B−C−B−C−A−Cが好ましく、C−A−C−B−C−A−C、C−A−C−A−C−B−Cがより好ましく、製膜性の観点からC−A−C−B−C−A−Cがさらに好ましい。
【0023】
ブロック共重合体(Z)が8個の重合体ブロックにより構成される場合、末端重合体ブロックの少なくとも一方が重合体ブロック(A)であることで、高分子電解質膜のイオン伝導性を向上させる観点から有利となる。また、後述する、本発明のブロック共重合体(Z)と溶媒または分散媒を含む塗工液を調製する際、該塗工液が水を分散媒とする乳化液である場合に塗工液の乳化安定性が高くなると考えられる。重合体ブロックの結合様式の具体例としては、A−C−B−C−A−C−A−C、A−C−A−C−A−C−B−C、A−C−A−C−B−C−A−C、A−C−B−C−B−C−A−C、A−C−B−C−A−C−B−C、A−C−A−C−B−C−B−C、A−C−B−C−B−C−B−C等が挙げられるが、イオン伝導度、湿潤時の機械強度、製膜性などの観点から、A−C−A−C−B−C−A−Cが好ましい。
【0024】
ブロック共重合体(Z)は、1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。
【0025】
(重合体ブロック(A))
ブロック共重合体(Z)を構成する重合体ブロック(A)は、重合体ブロック(B)と極性、構造が異なり、重合体ブロック(C)とは極性が異なるので、ミクロ相分離が起こりやすい。重合体ブロック(A)は、重合体ブロック(B)および重合体ブロック(C)とミクロ相分離した状態で、イオンチャンネルを形成するため、ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜のイオン伝導性を高める上で有利となると推定している。
【0026】
重合体ブロック(A)は、ブロック共重合体(Z)におけるイオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)に、イオン伝導性基を導入した構造を有する。ブロック共重合体(Z)は、後述するように、例えば、イオン伝導性基を有さない特定のブロック共重合体(Z)を製造した後に、該ブロック共重合体(Z)における重合体ブロック(A)に変換すべき位置にある重合体ブロック(A)に選択的にイオン伝導性基を導入することで製造できる。
重合体ブロック(A)としては、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロック、ポリエーテルケトンブロック、ポリスルフィドブロック、ポリホスファゼンブロック、ポリフェニレンブロック、ポリベンゾイミダゾールブロック、ポリエーテルスルホンブロック、ポリフェニレンオキシドブロック、ポリカーボネートブロック、ポリアミドブロック、ポリイミドブロック、ポリ尿素ブロック、ポリスルホンブロック、ポリスルホネートブロック、ポリベンゾオキサゾールブロック、ポリベンゾチアゾールブロック、ポリフェニルキノキサリンブロック、ポリキノリンブロック、ポリトリアジンブロック、ポリアクリレートブロック、ポリメタクリレートブロック等の重合体ブロックが挙げられる。中でも、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロック、ポリエーテルケトンブロック、ポリスルフィドブロック、ポリホスファゼンブロック、ポリフェニレンブロック、ポリベンゾイミダゾールブロック、ポリエーテルスルホンブロック、ポリフェニレンオキシドブロックから選ばれる重合体ブロックが好ましく、製造が容易である観点から、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックがより好ましい。
【0027】
上記の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が有する芳香環は炭素環式芳香環であるのが好ましく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環等が挙げられる。
【0028】
上記芳香族ビニル化合物の具体例として、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2−メトキシスチレン、3−メトキシスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルビフェニル、ビニルターフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−フェノキシスチレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。
【0029】
かかる芳香族ビニル化合物を1種のみ単独で用いる場合、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンのいずれかを用いることが好ましく、複数種併用する場合には、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン、α−メチル−2−メチルスチレンからなる群から複数種を選択することが好ましい。これら複数種の芳香族ビニル化合物を併用する場合、ランダム共重合によって重合体ブロック(A)を形成していることが好ましい。
【0030】
かかる芳香族ビニル化合物の芳香環上には、イオン伝導性基を導入する反応を阻害する置換基がないことが望ましい。例えば、該芳香環がベンゼン環である場合、該ベンゼン環上の水素(特に4位の水素)がアルキル基(特に炭素数3以上のアルキル基)等で置換されていると、イオン伝導性基の導入が困難な場合があるので、該芳香環は他の置換基を有さないか、アリール基等の、それ自体がイオン伝導性基を導入可能な置換基を有していることが好ましい。また、イオン伝導性基の導入容易性、イオン伝導性基の高密度化等の観点から、上記の芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルビフェニルなどの炭素数8〜15の芳香族ビニル化合物がより好ましい。
【0031】
また、上記の芳香族ビニル化合物は、そのビニル基上の水素原子のうち、芳香環のα−位の炭素原子(α−炭素原子)に結合した水素原子が他の置換基で置換され、α−炭素原子が4級炭素原子である構造のものでもよい。α−炭素原子に結合した水素原子が置換されていてもよい置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、またはtert−ブチル基)、炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロエチル基等)、フェニル基などが挙げられる。具体例として、α−メチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン、α−メチル−4−エチルスチレン、α−メチル−2−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレンが好ましい。
【0032】
重合体ブロック(A)が芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックである場合、本発明の効果を損なわない範囲で、他の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。かかる他の単量体としては、例えば炭素数4〜8の共役ジエン(ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等)、炭素数2〜8のアルケン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等が挙げられる。上記単量体と芳香族ビニル化合物とは、ランダム共重合によって重合体ブロック(A)を形成していることが好ましい。上記他の単量体に由来する構造単位の含有率は、重合体ブロック(A)を構成する構造単位の5モル%以下であることが好ましい。
【0033】
重合体ブロック(A)1つあたりの分子量は、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、1,000〜100,000の範囲であるのが好ましく、2,000〜70,000の範囲であるのがより好ましく、3,000〜50,000の範囲であるのがさらに好ましく、4,000〜30,000の範囲であるのが特に好ましい。
かかる分子量がかかる分子量が1,000以上であれば、ミクロ相分離が起こりやすく、イオンチャンネルを形成しやすくなるためイオン伝導性が高くなり、また力学特性が優れる傾向となり、100,000以下であれば、高分子電解質膜の成形性、製膜性が良好となる。
【0034】
ブロック共重合体(Z)における重合体ブロック(A)は、イオン伝導性基を有する。なお、本発明でイオン伝導性に言及する場合のイオンとしてはプロトン等が挙げられる。
イオン伝導性基としては、ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜および膜−電極接合体が十分なイオン伝導度を発現できる基であればよく、例えばプロトン等のカチオンを伝導するイオン伝導性基として、−SOM、−POHM、−COM(式中、Mは水素原子、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す)で示されるスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基又はそれらの塩を用いることができ、特に高いカチオン伝導性を示す観点から、−SOM又は−POHM(式中、Mは前記定義のとおりである)で示されるスルホン酸基、ホスホン酸基又はそれらの塩が好ましい。
【0035】
重合体ブロック(A)を構成する構造単位全てがイオン伝導性基を有する必要はなく、要求性能に応じて適宜イオン伝導性基の導入量を制御できる。重合体ブロック(A)中のイオン伝導性基の位置について特に制限はないが、通常、重合体ブロック(A)を構成する構造単位中にランダムに導入する。芳香環を有する構造単位の場合、イオンチャンネル形成を容易にする観点から、イオン伝導性基は芳香環上にあることが好ましい。また、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の場合、芳香環上にイオン伝導性基があると、当該ブロック共重合体(Z)の耐ラジカル性が向上する。
【0036】
また、重合体ブロック(A)は、本発明の効果を損なわない範囲内で公知の方法により架橋されていてもよい。重合体ブロック(A)が架橋されていることにより、形成するイオンチャンネル相が膨潤しにくくなり、高分子電解質膜中の構造が保持されやすく、性能が安定しやすい傾向にある。
【0037】
(重合体ブロック(B))
ブロック共重合体(Z)を構成する重合体ブロック(B)は、イオン伝導性基を有さない非晶性オレフィン重合体ブロックである。ここで、非晶性オレフィン重合体ブロックとは、オレフィンに由来する構造単位からなる重合体ブロックであって、かつ非晶性のものを指す。非晶性については、動的粘弾性の測定で、結晶性オレフィン重合体由来の貯蔵弾性率の変化がないことによって確認できる。ブロック共重合体(Z)を用いた本発明の高分子電解質膜において重合体ブロック(B)は、重合体ブロック(A)および重合体ブロック(C)とミクロ相分離が起こりやすく、使用温度域において弾力性を有し、かつ柔軟になり、膜−電極接合体や固体高分子型燃料電池の作製にあたっては成形性(組立性、接合性、締付性等)に優れる。
【0038】
重合体ブロック(B)の軟化温度は、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
重合体ブロック(B)を構成するオレフィンに由来する構造単位としては、例えば炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数5〜8のシクロアルケン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルカン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン単位、炭素数4〜8の共役ジエン単位、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエン単位などが挙げられる。これらは、1種が単独で存在しても複数種が存在してもよい。
【0039】
上記オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等の炭素数2〜8のアルケン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン及びシクロオクテン等の炭素数5〜8のシクロアルケン;ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン等炭素数7〜10のビニルシクロアルカン;ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテン等の炭素数7〜10のビニルシクロアルケン;ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等の炭素数4〜8の共役ジエン;シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の炭素数5〜8の共役シクロアルカジエンが挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。
複数種の単量体を併用する場合、これら単量体はランダム共重合して重合体ブロック(B)を形成していることが好ましい。
【0040】
重合体ブロック(B)を形成するための単量体が炭素−炭素二重結合を複数有する場合、そのいずれが重合に用いられてもよく、例えば、共役ジエンの場合には1,2−結合単位または1,4−結合単位のいずれの結合単位となってもよい。共役ジエンを重合して形成した重合体ブロックには通常、炭素−炭素二重結合が残るが、耐熱劣化性の向上等の観点から、重合後に水素添加反応(以下、「水添反応」と称する)を行い、かかる炭素−炭素二重結合を水素添加(以下、「水添」と称する)することが好ましい。かかる炭素−炭素二重結合の水素添加率(以下、「水添率」と称する)は30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。このようにして重合体ブロック(B)中の炭素−炭素二重結合を低減させることで、高分子電解質膜の劣化を抑制できる。
なお、炭素−炭素二重結合の水添率は、H−NMR測定によって算出できる。
【0041】
重合体ブロック(B)は、ブロック共重合体(Z)を高分子電解質膜とした際に、使用温度領域において弾力性を有し、かつ柔軟になり、膜−電極接合体や固体高分子型燃料電池の作製にあたって成形性(組立性、接合性、締付性等)に優れる観点から、炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数5〜8のシクロアルケン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン単位、炭素数4〜8の共役ジエン単位及び炭素数5〜8の共役シクロアルカジエン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位からなる重合体ブロックであることが好ましく、炭素数3〜8のアルケン単位及び炭素数4〜8の共役ジエン単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位からなる重合体ブロックであることがより好ましく、炭素数4〜6のアルケン単位及び炭素数4〜6の共役ジエン単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位からなる重合体ブロックであることがさらに好ましい。
【0042】
上記のうち、アルケン単位としてより一層好ましいのは、イソブテン単位、ブタジエン単位に基づく2種の構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)、イソプレン単位に基づく3種の構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)であり、柔軟性の高さから、ブタジエン単位に基づく2種の構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)、又はイソプレン単位に基づく3種の構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)が最も好ましい。共役ジエン単位として最も好ましいのはブタジエン単位、イソプレン単位である。
また、イオン伝導性基を有さないブロック共重合体(Z)を重合した後にイオン伝導性基を導入してブロック共重合体(Z)とする場合に、重合体ブロック(B)が飽和炭化水素構造であれば、重合体ブロック(B)にはイオン伝導性基が導入されにくいため好ましい。したがって、イオン伝導性基を有さないブロック共重合体(Z)を重合した後に重合体ブロック(B)に残存する炭素−炭素二重結合の水添反応を行う場合は、イオン伝導性基を導入する前に行うことが望ましい。
【0043】
また、重合体ブロック(B)は、上記構造単位以外に、使用温度領域においてブロック共重合体(Z)に弾力性を与えるという重合体ブロック(B)の目的を損なわない範囲で他の単量体、例えばスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物、塩化ビニル等のハロゲン含有ビニル化合物、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等に由来する他の構造単位を含有してもよい。この場合、前述したオレフィンと、これら他の単量体とはランダム共重合して重合体ブロック(B)を形成していることが好ましい。これら他の単量体に由来する構造単位の含有率は、重合体ブロック(B)を構成する構造単位の5モル%以下であることが好ましい。
【0044】
重合体ブロック(B)1つあたりの分子量は、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常5,000〜250,000の範囲であるのが好ましく、7,000〜150,000の範囲であるのがより好ましく、8,000〜100,000の範囲であるのがさらに好ましく、10,000〜70,000の範囲であるのが特に好ましい。
【0045】
(重合体ブロック(C))
ブロック共重合体(Z)を構成する重合体ブロック(C)は、イオン伝導性基を有さない芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックである。重合体ブロック(C)は重合体ブロック(A)と極性が異なり、重合体ブロック(B)と構造が異なるので、ミクロ相分離が起こりやすい。重合体ブロック(C)は重合体ブロック(A)および重合体ブロック(B)とミクロ相分離した状態で、かつ軟化温度(すなわち該重合体ブロック(C)が独立して重合体となった場合の軟化温度)以下で使用した場合に拘束相として機能し、ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜の耐久性を高める上で有利となると推定している。
【0046】
重合体ブロック(C)の軟化温度は、重合体ブロック(B)の軟化温度(重合体ブロック(B)が独立して重合体となった場合の軟化温度)と比べて20℃以上高いことが好ましく、幅広い使用温度域において拘束相として機能する観点から、重合体ブロック(B)の軟化温度と比べて40℃以上高いことがより好ましく、70℃以上高いことがさらに好ましい。
また、同様の観点から、重合体ブロック(C)の軟化温度は80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
【0047】
重合体ブロック(C)としては、下記の一般式(a)
【0048】
【化2】


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数3〜8のアルキル基を表し、かつR〜Rの少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す)
で示される芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックが、合成が容易であり、かつ拘束相として機能するという観点から好ましい。また、イオン伝導性基を有さないブロック共重合体(Z)を重合した後に重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入する場合に、R〜Rが存在することで、重合体ブロック(C)へのイオン伝導性基の導入が妨げられる。さらに、該重合体ブロックの軟化温度が高くなるので、使用温度域を広くすることができる。
【0049】
上記一般式(a)で表される構造単位を形成するための芳香族ビニル化合物としては、4−プロピルスチレン、4−イソプロピルスチレン、4−ブチルスチレン、4−イソブチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−オクチルスチレン、α−メチル−4−tert−ブチルスチレン、α−メチル−4−イソプロピルスチレン等が挙げられ、4−tert−ブチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、α−メチル−4−tert−ブチルスチレン、及びα−メチル−イソプロピルスチレンがより好ましい。これらは1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。上記芳香族ビニル化合物を複数種併用する場合、これらはランダム共重合して重合体ブロック(C)を形成していることが好ましい。
【0050】
重合体ブロック(C)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の単量体、例えば、炭素数4〜8の共役ジエン(ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等)、炭素数2〜8のアルケン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等に由来する構造単位を含有していてもよい。芳香族ビニル化合物と上記他の単量体とはランダム共重合して重合体ブロック(C)を形成していることが好ましい。これら他の単量体に由来する構造単位の含有率は、重合体ブロック(C)を構成する構造単位の5モル%以下であることが好ましい。
【0051】
重合体ブロック(C)1つあたりの分子量は、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常1,000〜50,000の範囲であるのが好ましく、1,500〜30,000の範囲であるのがより好ましく、2,000〜20,000の範囲であるのがさらに好ましい。かかる分子量が1,500以上であれば、高分子電解質膜の力学特性が優れる傾向となり、50,000以下であれば、高分子電解質の成形性、製膜性が良好となる。
【0052】
(ブロック共重合体(Z)の製造方法)
ブロック共重合体(Z)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、ブロック共重合体(Z)を製造した後、イオン伝導性基を導入する方法が好ましい。
【0053】
ブロック共重合体(Z)の製造方法は、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、及び重合体ブロック(C)を構成する単量体単位の種類、各重合体ブロックの分子量等によって、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等から適宜選択できるが、工業的には、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法が好ましい。特に、分子量制御、分子量分布制御、重合体構造制御の観点からリビング重合法が好ましく、具体的にはリビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法が好ましい。
【0054】
具体例を以下に説明する。
4−tert−ブチルスチレン等の前記一般式(a)で示される構造単位で構成される重合体ブロック(C)、スチレン等の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位で構成される重合体ブロック(A)及び共役ジエンに由来する構造単位で構成される重合体ブロック(B)からなるイオン伝導性基を有さないブロック共重合体(Z)を製造する場合、リビングアニオン重合法が好ましい。具体的には、シクロヘキサン等の溶媒中で、有機リチウム化合物等のアニオン重合開始剤の存在下に、10〜100℃で、単量体を順次重合させることで得られるブロック共重合体を、ブロック共重合体(Z)とすることができる。
【0055】
また、このようにして得られたブロック共重合体の共役ジエンに由来する構造単位で構成される重合体ブロックが有する炭素−炭素二重結合を水添して得られるブロック共重合体をブロック共重合体(Z)としてもよい。この場合、水添反応後の非晶性オレフィン重合体ブロックが重合体ブロック(B)となる。該水添反応の方法としては、リビングアニオン重合によって得られたブロック共重合体の溶液を耐圧容器に仕込み、Ni/Al系等のチーグラー系触媒を添加して、水素雰囲気下において水添反応を行う方法を例示できる。
【0056】
次に、ブロック共重合体(Z)の重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入して、ブロック共重合体(Z)を得る。
ブロック共重合体(Z)の重合体ブロック(A)にスルホン酸基を導入する方法(スルホン化)について述べる。スルホン化は、公知のスルホン化法を適用でき、例えば、ブロック共重合体(Z)と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、スルホン化剤を添加する方法や、ブロック共重合体(Z)にガス状のスルホン化剤を添加する方法等が挙げられる。
【0057】
スルホン化剤としては、硫酸、硫酸と脂肪族酸無水物との混合物、クロロスルホン酸、クロロスルホン酸とトリメチルシリルクロリドとの混合物、三酸化硫黄、三酸化硫黄とトリエチルホスフェートとの混合物、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸などの芳香族有機スルホン酸等が挙げられる。また、有機溶媒としては、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。
【0058】
次に、ブロック共重合体(Z)の重合体ブロック(A)にホスホン酸基を導入する方法(ホスホン化)について述べる。ホスホン化は、公知の方法を適用でき、例えば、ブロック共重合体(Z)と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、無水塩化アルミニウム及びクロロメチルエーテルを加えて、芳香環にハロメチル基を導入し、次いで三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加え、さらに加水分解反応を行う方法;ブロック共重合体(Z)と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加えて、芳香環にホスフィン酸基を導入後、硝酸を加えてホスフィン酸基を酸化してホスホン酸基とする方法を例示できる。
【0059】
スルホン酸基またはホスホン酸基などのイオン伝導性基は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンなどの対イオンで中和された塩であってもよい。
【0060】
上記の方法でイオン伝導性基を導入する反応を行った後のブロック共重合体(Z)を含む反応溶液は、水中に反応溶液を注いでブロック共重合体(Z)を析出させた後に有機溶媒と水を留去する方法や、反応溶液に停止剤としての水を徐々に添加してブロック共重合体(Z)を析出させた後に溶媒と水を留去する方法等によって単離できる。中でも、ブロック共重合体(Z)が微分散化し、単離工程における水での洗浄効率が高くなる観点から、反応溶液に水を徐々に添加し、ブロック共重合体(Z)を析出させる方法が好ましい。
【0061】
[高分子電解質膜]
本発明の高分子電解質膜はブロック共重合体(Z)を含有する。高分子電解質膜はかかるブロック共重合体(Z)またはブロック共重合体(Z)を含有する組成物(以下、「ブロック共重合体(Z)またはブロック共重合体(Z)を含有する組成物」を、単に「ブロック共重合体(Z)を含有する組成物」と称する)のみからなっても、該ブロック共重合体(Z)を含有する組成物からなる高分子電解質層に通液性の高い補強材層が積層されていてもよい。上記ブロック共重合体(Z)を含有する組成物中の当該ブロック共重合体(Z)の含有量は、イオン伝導性の観点から、90〜100質量%であることが好ましく、93質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
また、前記補強材層としては、通液性が高いことが求められ、補強材層の主面を貫通する貫通孔を複数備える多孔質材料が好ましく、織布および不織布がより好ましい。中でも、加工性(電解質との複合化の容易性、補強材の薄膜化の容易性など)、材料の入手性などの観点から不織布がさらに好ましく、低吸水性、耐酸性、耐薬品性の観点から、芳香族単位を主体とする液晶ポリエステル繊維からなる不織布が特に好ましい。これら不織布を補強材層として有する高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池に用いた場合に良好な耐久性及び出力特性を有する。
また、補強材層が多孔質材料である場合、ブロック共重合体(Z)を含有する組成物は、多孔質材の内部の一部または全部に含浸していてもよい。
【0062】
本発明の高分子電解質膜は、膜強度、ハンドリング性等の観点から、膜厚は5〜500μmの範囲であることが好ましく、7〜200μmの範囲であることがより好ましく、8〜80μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明の高分子電解質膜がブロック共重合体(Z)を含有する組成物のみからなる場合、ガスの遮断性、膜抵抗の観点から、その膜厚が5〜200μmの範囲であることが好ましく、7〜100μmの範囲であることがより好ましく、8〜70μmの範囲であることがさらに好ましい。膜厚が5μm以上であれば、膜の力学特性やガスの遮断性が充分となる傾向となる。逆に、膜厚が200μm以下であれば膜抵抗が小さくなり、充分なイオン伝導性を発現するため、発電特性が良好になる傾向となる。
【0064】
本発明の高分子電解質膜がブロック共重合体(Z)を含有する組成物からなる高分子電解質層と補強材層とを積層している場合、該高分子電解質層の厚さは、ガスの遮断性、膜抵抗の観点から、5〜200μmの範囲であることが好ましく、7〜100μmの範囲であることがより好ましく、8〜70μmの範囲であることがさらに好ましい。また、高分子電解質層と補強材層との厚さの比は5:95〜80:20の範囲であることが好ましく、10:90〜70:30の範囲であることがより好ましく、20:80〜60:40の範囲であることがさらに好ましい。補強材層の厚さは、100μm以下であることが好ましく、3〜70μmの範囲であることがより好ましく、5〜30μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の高分子電解質膜は、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤、例えば軟化剤、安定剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、顔料、染料、増白剤等を含有してもよい。これらの添加剤はそれぞれ、1種のみ含有していても、複数種を含有していてもよい。また、これらの添加剤は通常ブロック共重合体(Z)と混合して組成物としたのちに高分子電解質膜となる。
【0066】
軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系もしくは芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、パラフィン、植物油系軟化剤、可塑剤等が挙げられる。
【0067】
安定剤としては、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等が挙げられる。フェノール系安定剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスチリル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロジナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等;、イオウ系安定剤としては、例えばペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート等;リン系安定剤としては、例えばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジアステリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、リン単体等が挙げられる。
【0068】
光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物やヒンダードアミン類などが挙げられる。
ヒンダードアミン類としては、例えば、コハク酸ジメチル/1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジル)イミノ))、2−(2,3−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、N,N'−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン/2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペジル)セバケート、コハク酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)が挙げられる。
これら光安定剤は1種のみ用いても複数種を併用してもよい。
【0069】
帯電防止剤としては、例えば、ステアロアミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムニトレート等が挙げられる。
【0070】
離型剤としては、高級アルコールおよび/またはグリセリンモノエステルが挙げられる。高級アルコールとしては、セチルアルコール、ステアリルアルコールが挙げられる。グリセリンモノエステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリドなどの高級脂肪酸のグリセリドが挙げられる。
【0071】
難燃剤としては、例えばテトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキシド、臭素化ポリカーボネート等の有機ハロゲン系難燃剤;酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、トリクレジルホスフェート等の非ハロゲン系難燃剤などが挙げられる。
【0072】
顔料、染料、増白剤としては、ターフェニル、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤等が挙げられる。
【0073】
本発明の高分子電解質膜の作製方法としては、例えば、ブロック共重合体(Z)及び必要に応じて上記した添加剤を適当な溶媒と混合して、該ブロック共重合体(Z)を5質量%以上含む塗工液を調製し、離型処理済のPETフィルム等にコーターやアプリケーター等を用いて塗布し、適切な条件で溶媒を除去するで、所望の厚みを有する高分子電解質膜を得る方法等が挙げられる。
高分子電解質膜が補強材層を有する場合の作製方法としては、上記した方法で調製した塗工液を、離形処理済のPETフィルム等にコーターやアプリケーター等を用いて塗布した後、適切な条件で溶媒を除去することによって、所望の厚みを有する高分子電解質膜を得、次いで補強材を得られた高分子電解質膜上に積層した後、該補強材上に別途上記した方法で調製した塗工液を、コーターやアプリケーター等を用いて塗布し、適切な条件で溶媒を除去することによって得る方法が挙げられる。
【0074】
上記塗工液としては、ブロック共重合体(Z)の均一性、安定性が高ければ、溶液であっても、分散液であっても、乳化液であってもよい。塗工液に用いる溶媒または分散媒としては、例えば塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;テトラヒドロフラン等のエーテル;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール;水が挙げられる。
中でも、ブロック共重合体(Z)の溶解性の観点から、トルエン及びイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエン及び2−プロパノールの混合溶媒、シクロヘキサン及び2−プロパノールの混合溶媒、シクロヘキサン及びイソブチルアルコールの混合溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン及びメタノールの混合溶媒が好ましく、特に、トルエン及びイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエン及び2−プロパノールの混合溶媒が好ましい。なお、上記混合溶媒の混合比(質量比)は適宜選択できる。
【0075】
上記の方法で調製した塗工液を不織布等の補強材や、離型処理済みのPETフィルム等の基材フィルムにコーターやアプリケーター等を用いて塗布した後、適切な条件で溶媒を除去することで所望の厚みを有する高分子電解質層を形成する。高分子電解質層が補強材上に形成されている場合は、高分子電解質層と補強材層とからなる高分子電解質膜となる。また高分子電解質層が基材フィルム上に形成されている場合は、かかる基材フィルムを剥離することで高分子電解質膜が得られる。
【0076】
塗布した塗工液から溶媒を除去する条件は、ブロック共重合体(Z)が有するスルホン酸基等のイオン伝導性基が脱落しない温度範囲であればよい。複数の温度を組み合わせたり、通風下での乾燥と減圧下での乾燥を組み合わせてもよい。例えば、60〜100℃の範囲で熱風乾燥にて短時間で溶媒を除去する方法や、100〜140℃程度の熱風乾燥にて短時間で溶媒を除去する方法や、25℃で1〜3時間程度乾燥させ、次いで100℃で短時間熱風乾燥する方法や、25℃程度で1〜3時間程度乾燥させ、次いで25〜40℃程度で減圧条件下にて1〜12時間程度乾燥する方法等が挙げられる。良好な力学特性を有する高分子電解質膜を作製しやすい観点から、60〜100℃程度の熱風乾燥にて4分以上かけて溶媒を除去する方法や、25℃程度で1〜3時間程度予備乾燥させた後、100℃程度の熱風乾燥にて数分かけて乾燥する方法や、25℃程度で1〜3時間程度予備乾燥させた後、25〜40℃程度で減圧条件下にて1〜12時間程度乾燥する方法等が好適に用いられる。
【0077】
[膜−電極接合体]
本発明の膜−電極接合体は、前述した本発明の高分子電解質膜を備える。該膜−電極接合体の製造方法に特に制限はなく、公知の方法を適用することができ、例えば、イオン伝導性バインダー、導電性触媒担体および分散媒を含む触媒ペーストを、印刷法やスプレー法によりガス拡散層上に塗布し乾燥することで、触媒層とガス拡散層との接合体を形成させ、このようにして形成した接合体2枚でそれぞれの触媒層が高分子電解質膜に接するように挟み、ホットプレス等により接合させる方法;上記触媒ペーストを印刷法やスプレー法により高分子電解質膜の両面に塗布し、乾燥して触媒層を形成させ、それぞれの触媒層にホットプレス等によりガス拡散層を圧着させる方法;イオン伝導性バインダーを含む溶液又は懸濁液を、高分子電解質膜の両面及び/又は1対のガス拡散電極の触媒層面に塗布し、高分子電解質膜と触媒層面とを貼り合わせ、熱圧着等により接合させる方法;上記触媒ペーストをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の基材フィルムに塗布し、乾燥して触媒層を形成させたものを2枚用意し、それぞれの触媒層が高分子電解質膜に接するように挟み、高分子電解質膜の両側に加熱圧着により触媒層を転写したのち、基材フィルムを剥離することで高分子電解質膜と触媒層との接合体を得、それぞれの触媒層にホットプレスによりガス拡散層を圧着する方法;が挙げられる。これらの方法においては、ブロック共重合体(Z)を含有する高分子電解質膜が有するイオン伝導性基をナトリウム等の金属との塩にした状態で上記の操作を行い、接合後の酸処理によってプロトン型に戻してもよい。
【0078】
上記膜−電極接合体の製造に用いるイオン伝導性バインダーとしては、例えば、「Nafion」(登録商標、デュポン社製)や「Gore−select」(登録商標、ゴア社製)等のパーフルオロスルホン酸系ポリマー、スルホン化ポリエーテルスルホンやスルホン化ポリエーテルケトン、リン酸や硫酸を含浸したポリベンズイミダゾール等を用いることができる。また、本発明の高分子電解質膜を構成するブロック共重合体(Z)をイオン伝導性バインダーとして用いてもよい。なお、高分子電解質膜とガス拡散電極との密着性を一層高めるためには、高分子電解質膜と同様の構造(重合体の繰り返し単位、共重合比率、分子量、イオン伝導性基、イオン交換容量等が共通又は類似している;特に重合体の構造単位、イオン伝導性基が共通又は類似している)を有するイオン伝導性バインダーを用いることが好ましい。
【0079】
上記膜−電極接合体において形成する触媒層を構成する導電性触媒担体としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。触媒金属としては、水素やメタノール等の燃料の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する作用を有するものであればよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガンまたはこれらの合金が挙げられる。中でも白金や白金−ルテニウム合金が通常用いられる。触媒金属の粒径は、通常、10〜300オングストロームである。これらは先述した導電性触媒担体に担持させて用いるのがコスト的に有利である。また、触媒層には、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエーテルエーテルケトン等の撥水剤が含まれていてもよい。
【0080】
上記膜−電極接合体のガス拡散層は、導電性及びガス透過性を備えた材料から構成され、かかる材料としては、例えばカーボンペーパーやカーボンクロス等の炭素繊維よりなる多孔性材料が挙げられる。また、ガス拡散層の撥水性を向上させるため、撥水化処理を施してもよい。
【0081】
[固体高分子型燃料電池]
本発明の固体高分子型燃料電池は、前述した本発明の膜−電極接合体を、極室分離と電極へのガス供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータ材の間に挿入することにより得られる。
本発明の固体高分子型燃料電池は、用いる燃料によって、水素を使用した純水素型、メタノールを改質して得られる水素を使用したメタノール改質型、天然ガスを改質して得られる水素を使用した天然ガス改質型、ガソリンを改質して得られる水素を使用したガソリン改質型、メタノールを直接使用する直接メタノール型等に分類できる。
【実施例】
【0082】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0083】
(ブロック共重合体(Z)のイオン交換容量の測定方法)
各実施例および比較例で得たブロック共重合体(1)〜(4)(ブロック共重合体(Z))を秤量(秤量値a(g))し、過剰量の塩化ナトリウム飽和水溶液((300〜500)×a(ml))を添加して、密閉系で12時間攪拌した。フェノールフタレインを指示薬として、水中に発生した塩化水素を0.01規定の水酸化ナトリウム標準水溶液(力価f)にて滴定(滴定量b(ml))した。
以上の結果から、ブロック共重合体(Z)のイオン交換容量を次式により求めた。
イオン交換容量(meq/g)=(0.01×b×f)/a
【0084】
(ブロック共重合体(Z)の数平均分子量の測定方法)
ブロック共重合体(Z)の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定した。
装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:東ソー(株)製、商品名:TSK−GEL(TSKgel G3000HxL(内径7.6mm、有効長30cm)を1本、TSKgel Super Multipore HZ−M(内径4.6mm、有効長15cm)を2本の計3本を直列で接続)
カラム温度:40℃
検出器:RI
送液量:0.35ml/分
数平均分子量計算:標準ポリスチレン換算
【0085】
(試験膜の製造)
後述の実施例及び比較例で得たブロック共重合体(1)〜(4)について、下記1)〜3)の物性を測定するため、試験膜を製造した。
【0086】
(試験膜(1)の製造)
ブロック共重合体(1)の13質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比75/25)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約450μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥後、25℃で離型処理済PETフィルムから剥離させて、厚さ30μmの高分子電解質膜(試験膜(1)と称する)を得た。
【0087】
(試験膜(2)の製造)
ブロック共重合体(2)の14質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比825/175)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約350μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥後、25℃で離型処理済PETフィルムから剥離させて、厚さ29μmの高分子電解質膜(試験膜(2)と称する)を得た。
【0088】
(試験膜(3)の製造)
ブロック共重合体(3)の12質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比8/2)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約100μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥後、さらに約300μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥後、25℃で離型処理済PETフィルムから剥離させて、厚さ30μmの高分子電解質膜(試験膜(3)と称する)を得た。
【0089】
(試験膜(4)の製造)
ブロック共重合体(4)の19質量%トルエン/イソプロピルアルコール(質量比5/5)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約350μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥後、25℃で離型処理済PETフィルムから剥離させて、厚さ30μmの高分子電解質膜(試験膜(4)と称する)を得た。
【0090】
1)貯蔵弾性率及び軟化温度の測定
試験膜(1)〜(4)より試験片を切り出し、広域動的粘弾性測定装置(レオロジ社製「DVE−V4FTレオスペクトラー」)を使用して、引張りモード(周波数:11Hz)で、昇温速度を3℃/分、−80℃から250℃まで昇温して、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)及び損失正接(tanδ)を測定した。結晶化オレフィン重合体に由来する80〜100℃における貯蔵弾性率の変化がないことに基づき、重合体ブロック(B)の非晶性を判断した。この結果、下記実施例、比較例で得られたすべてのブロック共重合体について、重合体ブロック(B)は非晶性であった。また、損失正接のピーク温度より、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)の軟化温度を測定した。なお、重合体ブロック(C)と重合体ブロック(A)の損失正接のピーク温度が近いため、ピーク分割処理にてそれぞれのピークに分割し、重合体ブロック(C)の軟化温度を特定した。
【0091】
2)プロトン伝導度の測定
試験膜(1)〜(4)から1cm×4cmの試験片を切り出し、一対の金電極で挟み、開放系セルに装着した。測定セルを温度90℃、相対湿度30%の雰囲気下に設置し、交流インピーダンス法によりプロトン伝導度を測定した。
【0092】
3)破断伸び
3−1)25℃、相対湿度50%における破断伸びの測定
試験膜(1)〜(4)からダンベル状の試験片を切り出し、25℃、相対湿度50%の条件で調湿したのち、引張試験機(インストロンジャパン社製5566型)にセットし、25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.の条件において、破断伸びを測定した。
3−2)25℃、湿潤時における破断伸びの測定
試験膜(1)〜(4)からダンベル状の試験片を切り出し、25℃の蒸留水中に12時間浸漬させたのち、3−1)と同様に破断伸びを測定した。
【0093】
参考例1〜4はポリスチレン、水添ポリイソプレン及びポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるブロック共重合体(ブロック共重合体(Z))の製造例である。
[参考例1]
乾燥後、窒素置換した内容積1400mlのオートクレーブに、脱水したシクロヘキサン664ml、及びsec−ブチルリチウム(1.0mol/Lシクロヘキサン溶液)1.65mlを添加した後、60℃にて撹拌しつつ、スチレン27.4ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、スチレン27.4ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、イソプレン111ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、スチレン27.4ml、及び4−tert−ブチルスチレン13.8mlを順次添加して重合し、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTITST−1と略記する)を製造した。
得られたSTSTITST−1の数平均分子量は196,000であり、H−NMR(400MHz)から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は93.8%、スチレン単位の含有量は35.4質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は24.4質量%であった。
【0094】
上記で得られたSTSTITST−1のシクロヘキサン溶液を調製して、窒素置換した耐圧容器に入れ、Ni/Al系のチーグラー系触媒を用いて、水素圧0.5〜1.0MPa、70℃で18時間水添反応を行い、ポリスチレンからなる重合体ブロック(A)、水添ポリイソプレンからなる重合体ブロック(B)、及びポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるからなる重合体ブロック(C)からなるブロック共重合体である、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−水添ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTETST−1と略記する)を得た。
得られたSTSTETST−1のポリイソプレンに由来する炭素−炭素二重結合量を、H−NMRスペクトル(400MHz)により算出を試みたが、検出限界以下であった。
【0095】
[参考例2]
乾燥後、窒素置換した内容積2000mlのオートクレーブに、脱水したシクロヘキサン851ml、及びsec−ブチルリチウム(1.15mol/Lシクロヘキサン溶液)2.79mlを添加した後、60℃にて撹拌しつつ、4−tert−ブチルスチレン6.2ml、スチレン17.5ml、4−tert−ブチルスチレン6.0ml、イソプレン51.0ml、4−tert−ブチルスチレン5.9ml、スチレン17.0ml、及び4−tert−ブチルスチレン5.8mlを順次添加して重合し、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSTITSTと略記する)を製造した。
得られたTSTITSTの数平均分子量は52,000であり、H−NMR(400MHz)から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は93.8%、スチレン単位の含有量は34.8質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は24.2質量%であった。
【0096】
上記で得られたTSTITSTのシクロヘキサン溶液を調製して、窒素置換した耐圧容器に入れ、Ni/Al系のチーグラー系触媒を用いて、水素圧0.5〜1.0MPa、70℃で18時間水添反応を行い、ポリスチレンからなる重合体ブロック(A)、水添ポリイソプレンからなる重合体ブロック(B)、及びポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるからなる重合体ブロック(C)からなるブロック共重合体である、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−水添ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSTETSTと略記する)を得た。
得られたTSTETSTのポリイソプレンに由来する炭素−炭素二重結合量をH−NMRスペクトル(400MHz)により算出を試みたが、検出限界以下であった。
【0097】
[参考例3]
乾燥後、窒素置換した内容積2000mlのオートクレーブに、脱水したシクロヘキサン904ml、及びsec−ブチルリチウム(0.83mol/Lシクロヘキサン溶液)2.00mlを添加した後、60℃にて撹拌しつつ、スチレン28.8ml、4−tert−ブチルスチレン20.8ml、スチレン28.8ml、4−tert−ブチルスチレン20.8ml、イソプレン91.5ml、4−tert−ブチルスチレン20.8ml、スチレン28.8ml、及び4−tert−ブチルスチレン20.8mlを順次添加して重合し、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTITST−2と略記する)を製造した。
得られたSTSTITST−2の数平均分子量は126,000であり、H−NMR(400MHz)から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は93.7%、スチレン単位の含有量は35.4質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は34.4質量%であった。
【0098】
上記で得られたSTSTITST−2のシクロヘキサン溶液を調製して、窒素置換した耐圧容器に添加した後、Ni/Al系のチーグラー系触媒を用いて、水素圧0.5〜1.0MPaの水素圧下において、70℃で18時間水添反応を行い、ポリスチレンからなる重合体ブロック(A)、水添ポリイソプレンからなる重合体ブロック(B)、及びポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるからなる重合体ブロック(C)からなるブロック共重合体である、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−水添ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTETST−2と略記する)を得た。
得られたSTSTETST−2のポリイソプレンに由来する炭素−炭素二重結合量をH−NMRスペクトル(400MHz)により算出を試みたが、検出限界以下であった。
【0099】
[参考例4]
乾燥後、窒素置換した内容積1400mlのオートクレーブに、脱水したシクロヘキサン865ml、及びsec−ブチルリチウム(1.2mol/Lシクロヘキサン溶液)1.27mlを添加した後、60℃にて撹拌しつつ、4−tert−ブチルスチレン36.1ml、スチレン51.0ml、イソプレン148.8ml、スチレン49.4ml及び4−tert−ブチルスチレン33.7mlを順次添加して重合し、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSISTと略記する)を製造した。
得られたTSISTの数平均分子量は86,000であり、H−NMR(400MHz)から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は93.8%、スチレン単位の含有量は35.2質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は25.1質量%であった。
【0100】
上記で得られたTSISTのシクロヘキサン溶液を調製して、窒素置換した耐圧容器に添加した後、Ni/Al系のチーグラー系触媒を用いて、水素圧0.5〜1.0MPa、70℃で18時間水添反応を行い、ポリスチレンからなる重合体ブロック(A)、水添ポリイソプレンからなる重合体ブロック(B)、及びポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるからなる重合体ブロック(C)からなるブロック共重合体である、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−水添ポリイソプレン−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSESTと略記する)を得た。
得られたTSESTのポリイソプレンに由来する炭素−炭素二重結合量をH−NMRスペクトル(400MHz)により算出を試みたが、検出限界以下であった。
【0101】
<実施例1>
(ブロック共重合体(1)の製造)
乾燥後、窒素置換した内容積200mlの三口フラスコに、塩化メチレン72.7ml及び無水酢酸36.4mlを添加し、0℃にて撹拌しつつ濃硫酸16.3mlを滴下し、さらに0℃にて60分間攪拌して、スルホン化剤を調製した。
一方、参考例1で得られたブロック共重合体STSTETST−1を20g、攪拌機を備えた内容積3Lのガラス製反応容器に入れ、系内を窒素置換した後、塩化メチレン250mlを加えて25℃で4時間攪拌して溶解させた。この溶液に、先に調製したスルホン化剤114mlを5分かけて滴下した。25℃で48時間攪拌後、蒸留水25.2mlを加えて反応を停止し、攪拌しながらさらに、蒸留水225mlを徐々に滴下して、ブロック重合体を析出させた。この混合液から塩化メチレンを留去した後、ろ過してブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体をビーカーに入れ、蒸留水を1.0L添加して、攪拌下で洗浄を行った後、ろ過によりブロック共重合体を回収した。この洗浄及びろ過操作を、洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、得られたブロック共重合体を減圧下で乾燥して、スルホン化STSTETST−1(以下、ブロック共重合体(1)と称する)を得た。
得られたブロック共重合体(1)のスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR(400MHz)から100モル%、滴定の結果からイオン交換容量は2.65meq/gであった。
【0102】
(高分子電解質膜の製造)
前述の試験膜(1)の製造と同様の手法で、厚さ30μmの高分子電解質膜を得た。
【0103】
<実施例2>
(ブロック共重合体(2)の製造)
乾燥後、窒素置換した内容積2000ml三口フラスコに、塩化メチレン581ml及び無水酢酸290mlを添加し、0℃にて撹拌しつつ濃硫酸を130ml滴下し、さらに0℃にて60分間攪拌して、スルホン化剤を調製した。
一方、参考例2で得られたブロック共重合体TSTETSTを130g、攪拌機を備えた内容積5Lのガラス製反応容器に入れ、系内を窒素置換した後、塩化メチレン1625mlを加えて25℃で4時間攪拌して溶解させた。この溶液に、先に調製したスルホン化剤909mlを、5分かけて滴下した。25℃で48時間攪拌後、蒸留水160mlを加えて反応を停止し、攪拌しながらさらに蒸留水1465mlを徐々に滴下して、ブロック共重合体を析出させた。この混合液から塩化メチレンを留去した後、ろ過してブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体をビーカーに入れ、蒸留水を1.0L添加して、攪拌下で洗浄を行った後、ろ過によりブロック共重合体の回収をした。この洗浄及びろ過操作を、洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、得られたブロック共重合体を減圧下で乾燥してスルホン化TSTETST(以下、ブロック共重合体(2)と称する)を得た。
得られたブロック共重合体(2)のスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR(400MHz)から100モル%、滴定の結果からイオン交換容量は2.61meq/gであった。
【0104】
(高分子電解質膜の製造)
前述の試験膜(2)の製造と同様の手法で、厚さ29μmの高分子電解質膜を得た。
【0105】
<実施例3>
(高分子電解質膜の作製)
ブロック共重合体(1)の9質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比75/25)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約100μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させた後、全芳香族液晶ポリエステル系不織布(厚み13μm、空孔率67%)を該電解質膜上に固定し、さらに約100μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させ、さらに約150μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させることで、厚さ23μmの高分子電解質膜を得た。
【0106】
<比較例1>
(ブロック共重合体(3)の製造)
乾燥後、窒素置換した内容積1l三口フラスコに、塩化メチレン262ml及び無水酢酸131mlを添加し、0℃にて撹拌しつつ濃硫酸を58.7ml滴下し、さらに0℃にて60分間攪拌して、スルホン化剤を調製した。
一方、参考例3で得られたブロック共重合体STSTETST−2を72g、攪拌機を備えた内容積5Lのガラス製反応容器に入れ、窒素置換した後、塩化メチレン900mlを加え、25℃で4時間攪拌して溶解させた。この溶液に、先に調製したスルホン化剤411mlを、5分かけて滴下した。25℃で48時間攪拌後、蒸留水91.0mlを加えて反応を停止し、攪拌しながらさらに蒸留水1000mlを徐々に滴下し、ブロック重合体を析出させた。この混合液から塩化メチレンを留去した後、ろ過によりブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体をビーカーに入れ、蒸留水を1.0L加えて、攪拌しながら洗浄を行った後、ろ過によりブロック共重合体を回収した。この洗浄及びろ過操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、最後に回収したブロック共重合体を減圧下で乾燥してスルホン化STSTETST−2(以下、ブロック共重合体(3)と称する)を得た。
得られたブロック共重合体(3)のスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR(400MHz)から100モル%、滴定の結果からイオン交換容量は2.65meq/gであった。
【0107】
(高分子電解質膜の製造)
前述の試験膜(3)の製造と同様の手法で、厚さ30μmの高分子電解質膜を得た。
【0108】
<比較例2>
(高分子電解質膜の製造)
ブロック共重合体(3)の9質量%トルエン/イソブチルアルコール(質量比8/2)溶液を調製し、離型処理済PETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約100μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させた後、全芳香族液晶ポリエステル系不織布(厚み13μm、空孔率67%)を該電解質膜上に固定し、さらに約100μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させ、さらに約150μmの厚みでコートし、熱風乾燥機にて、100℃で4分間乾燥させることで、厚さ23μmの高分子電解質膜を得た。
【0109】
<比較例3>
(ブロック共重合体(4)の製造)
乾燥後、窒素置換した内容積2lの三口フラスコに、塩化メチレン492.8ml及び無水酢酸246.4mlを添加し、0℃にて攪拌しつつ濃硫酸110.2mlを滴下し、さらに0℃にて60分間攪拌して、スルホン化剤を調製した。
一方、参考例4で得られたブロック共重合体TSESTを100g、攪拌機を備えた内容積5Lのガラス製反応容器に入れ、窒素置換した後、塩化メチレン1337mlを加え、25℃で4時間攪拌して溶解させた。この溶液に、先に調製したスルホン化剤566.3mlを、5分かけて滴下した。25℃で48時間攪拌後、蒸留水130mlを加えて反応を停止し、攪拌しながらさらに蒸留水1200mlを徐々に滴下し、ブロック共重合体を析出させた。この混合液から塩化メチレンを留去した後、ろ過によりブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体をビーカーに移し、蒸留水を1.0L添加して、攪拌下で洗浄を行った後、ろ過によりブロック共重合体を回収した。洗浄及びろ過操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、得られたブロック共重合体を減圧下で乾燥してスルホン化TSEST(以下、ブロック共重合体(4)と称する)を得た。
得られたブロック共重合体(4)のスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR(400MHz)から100モル%、滴定の結果からイオン交換容量は2.64meq/gであった。
【0110】
(高分子電解質膜の製造)
前述の試験膜(4)の製造と同様の手法で、厚さ30μmの高分子電解質膜を得た。
【0111】
(固体高分子型燃料電池用単セルの作製)
以下の試験において、実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜の耐久性を評価するため、固体高分子型燃料電池用単セルは以下の手順で作製した。Pt触媒担持カーボンに、Nafionの10質量%水分散液を、カーボンとNafionとの質量比が1:1になるように添加混合し、ついでn−プロピルアルコールを、水/n−プロピルアルコールの質量比が1/1になるまで添加混合し、均一に分散されたペーストを調製した。このペーストをスプレー法にて、カーボンペーパーの片面に均一に塗布した。130℃で30分乾燥させ、電極を作製した。その後、実施例、比較例で作製した高分子電解質膜を、上記の電極でそれぞれ膜と触媒面とが向かい合うように挟み、その外側を2枚の耐熱性フィルム及び2枚のステンレス板で順に挟み、ホットプレス(115℃、2MPa、8min)により膜−電極接合体を作製した。ついで作製した膜−電極接合体を、2枚のガス供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータで挟み、さらにその外側を2枚の集電板及び2枚の締付板で挟み、固体高分子型燃料電池用単セル(電極面積は25cm)を作製した。
【0112】
(耐久性試験)
上記で得られた固体高分子型燃料電池用単セルの温度を80℃にした後、かかる固体高分子型燃料電池用単セルの両極に、100%R.H.に加湿した窒素ガスを1000ml/minで3分間供給することで高分子電解質膜を固体高分子型燃料電池が起動している間の湿潤状態と同様の環境にした。次いで、乾燥窒素ガスを1000ml/minで7分間供給して固体高分子型燃料電池が停止している間の乾燥状態と同様の環境にした。以上を固体高分子型燃料電池の起動停止モデルの1サイクルとした。
かかる固体高分子型燃料電池の起動停止モデルの操作を繰り返して、250サイクル毎に試験を中断し、アノードへ水素、カソードへ窒素を供給し、リニアスイープボルタンメトリーを実施し、アノードからカソードへの水素リークにより生じる電流値を測定した。0.4Vの時の電流値が試験前の値と比べて10倍以上となった時点で膜の破断を生じたと判断し、サイクル数を記録し、耐久性の指標とした。実用上、2000サイクル以上であれば問題なく、5000サイクルにおいて膜が破断しないものは特に優れていると判断した。
【0113】
実施例1、2及び比較例1、3で用いたブロック共重合体(1)〜(4)のイオン交換容量;試験膜(1)〜(4)の90℃、相対湿度30%におけるプロトン伝導度及び25℃における破断伸び(相対湿度50%、湿潤時);並びにブロック共重合体(1)〜(4)から作製した高分子電解質膜の耐久性試験において膜の破断が生じたサイクル数を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
実施例3及び比較例2で用いたブロック共重合体(1)、(3)のイオン交換容量;試験膜(1)、(3)の90℃、相対湿度30%におけるプロトン伝導度及び25℃における破断伸び(相対湿度50%、湿潤時);並びにブロック共重合体(1)、(3)を用いて作製した高分子電解質膜の起動停止耐久試験のサイクル数を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
表1から、本発明の高分子電解質膜は低湿度下でのイオン伝導性に優れ、比較例の高分子電解質膜に比べて、耐久性に優れる。また、表2から、本発明の高分子電解質膜は補強材層を含む場合でも同様に、耐久性に優れる。以上の結果から、本発明の高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体及び固体高分子型燃料電池は、耐久性と、低湿度下でのイオン伝導性を両立できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の高分子電解質膜は、耐久性及び低湿度下でのイオン伝導性に優れ、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)、イオン伝導性基を有さない非晶性オレフィン重合体ブロック(B)、及びイオン伝導性基を有さない芳香族ビニル化合物重合体ブロック(C)からなる7または8個の重合体ブロックからなり、前記重合体ブロック(A)又は重合体ブロック(C)を末端重合体ブロックとし、前記重合体ブロック(B)の両端に結合する重合体ブロックが重合体ブロック(C)のみである構造からなるブロック共重合体(Z)の、前記重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した構造からなり、25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/min.における破断伸びが300%以上であるブロック共重合体(Z)を含む高分子電解質膜。
【請求項2】
前記ブロック共重合体(Z)が、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)15〜45質量%と、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)15〜35質量%と、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)35〜55質量%とからなる、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる重合体ブロックである請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記イオン伝導性基が、−SOM又は−POHM(式中、Mは水素原子、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを表す)で示される基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記重合体ブロック(B)が軟化温度30℃以下の非晶性オレフィン重合体ブロックである請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記重合体ブロック(C)が、下記一般式(a)
【化1】


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数3〜8のアルキル基を表し、かつR〜Rの少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す)
で示される芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の繰り返し単位からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜を備える膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2013−80599(P2013−80599A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219479(P2011−219479)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】