説明

高分子電解質膜およびその製造方法、複合体、燃料電池

【課題】スルホン化ポリアリーレンエーテルポリマーを高分子電解質膜とする場合の加工性を犠牲にすることなく、高分子電解質膜の力学特性を特に高いレベルとする
【解決手段】30℃、0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液で測定した対数粘度が1.5〜4.0dL/gの範囲にあるスルホン化ポリアリーレンエーテルをからなる高分子電解質膜により上記課題が達成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。また、水電解により生成した水素をクリーンなエネルギーとして使用しようとする水電解装置の技術開発においても、高分子電解質膜の利用が検討されている。これらの装置に使用される高分子電解質膜は、カチオン交換膜としてプロトン導電率とともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとしては、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。最近では、この他にも炭化水素系高分子電解質膜の開発が進み、多種多様な材料の可能性が検討されている。これらの中で、加工性と耐熱性を兼ね備えるスーパーエンジニアリングプラスチックとして知られるポリアリーレンエーテルの分子鎖中にスルホン酸基を導入することで、イオン伝導性機能を付与したものが特に注目を集めている(例えば特許文献1参考)。
【特許文献1】特開2004−149779
【0003】
スルホン化ポリアリーレンエーテルは、プロトン導電率を高くすることができことや燃料透過性を抑制できる特徴を示すが、温湿度条件が異なる条件で使われる膜の力学特性と一般にポリマー溶液から製膜される加工性において、両者を共に満たしながら優れた高分子電解質特性を示すことが難しく、これらを全て満足するものは従来なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、スルホン化ポリアリーレンエーテルポリマーを高分子電解質膜とする場合の加工性を犠牲にすることなく、高分子電解質膜の力学特性を特に高いレベルとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)30℃、0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液で測定した対数粘度が1.5〜4.0dL/gの範囲にあるスルホン化ポリアリーレンエーテルからなる高分子電解質膜。
(2)スルホン化ポリアリーレンエーテルが、一般式1で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化3】

[一般式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は0以上の整数を表す。]
(3)スルホン化ポリアリーレンエーテルが、一般式2で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質膜。
【化4】

[一般式2において、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n0は1以上の整数を表す。]
(4)高分子電解質ポリマー溶液を基材上に流延し、溶媒の揮発により膜形成を行う工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかの高分子電解質膜の製造方法。
(5)請求項1から3のいずれかに記載の高分子電解質膜と電極とを含有することを特徴とする複合体。
(6)請求項5に記載の複合体を含有することを特徴とする燃料電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、電解質膜が使用される条件が変わっても優れた機会特性を保つスルホン化ポリアリーレンエーテル系高分子電解質膜が得られる。力学特性に関わる膜欠陥が生じにくいため、品質の安定した高分子電解質膜とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の高分子電解質膜はスルホン化ポリアリーレンエーテルからなる。本特許で言うポリアリーレンエーテルとは、ポリマー分子鎖中にフェニレン環をエーテル結合またはチオエーテル結合で結びつけている構成単位を有している芳香族系ポリマーのことである。スルホン化ポリアリーレンエーテルの例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン、等の構成成分を少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基およびそれらの誘導体が導入されているポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定するものではない。
【0008】
芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル化合物を得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0009】
また、上記酸性基含有ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン化芳香族ジハライドやスルホン化芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン化ジオールを用いるよりも、スルホン化ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましいと言える。
【0010】
スルホン化ポリアリーレンエーテルの中で好ましいのは、一般式3で表される繰り返し単位を有するものである。
【化5】

一般式3において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを、Arは2価の芳香環を表す。
【0011】
一般式3で表される繰り返し単位を有するスルホン化ポリアリーレンエーテルを合成する際に使用するスルホン化モノマーの具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、およびそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったものが挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。一般式3で表される繰り返し単位を有するスルホン化ポリアリーレンエーテルを合成する際に使用するAr構成成分を与えるモノマーとしては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー等を挙げることができる。末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマーにおいては、フェニレン基数は2以上の整数からなり、nの異なる成分が混合されたものでも良い。この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオールを使用することもできる。これら芳香族ジオールは、単独で使用することができるが、複数の芳香族ジオールを併用することも可能である。
【0012】
スルホン化ポリアリーレンエーテルの中で好ましいのは、一般式1で表される繰り返し単位を有するものである。
【0013】
【化6】

一般式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は0以上の整数を表す。
【0014】
一般式1において、Xは−S(=O)−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。ZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n1は0〜30の範囲にあることが好ましく、n1が3以上の場合には、n1が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Zが直接結合である場合は、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n1が3以上の場合はZがO原子であると、高分子電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0015】
一般式1で表される繰り返し単位を有するスルホン化ポリアリーレンエーテルは、さらに一般式2で表される繰り返し単位をさらに含有していることが好ましい。
【0016】
【化7】

一般式2において、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n0は1以上の整数を表す。
【0017】
一般式2において、ZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。n2は0〜30の範囲にあることが好ましく、n2が3以上の場合には、n2が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Zが直接結合である場合は、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n2が3以上の場合はZがO原子であると、高分子電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0018】
本発明における高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、主として、一般式1で表される繰り返し単位と、一般式2で表される繰り返し単位で構成される場合には、それぞれのモル比は、7:93〜70:30の範囲であることが好ましい。モル比が7:93とは、一般式1で表される繰り返し単位のモル数を7としたとき、一般式2で表される繰り返し単位のモル数が93であることを表す。70:30のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が多くなると、高分子電解質膜としたときの燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。7:93のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が少なくなると、高分子電解質膜としたときのプロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。10:90〜50:50の範囲であることがより好ましい。10:90〜40:60の範囲であることがさらに好ましい。本発明におけるイオン性基含有ポリマーは、一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位を有することによって適切な軟化温度を有し、高分子電解質膜としたときに良好な電極との接合性を示す。
【0019】
本発明の高分子電解質膜を構成するスルホン化ポリアリーレンエーテルのさらに好ましい態様の一つは、高分子電解質膜が主として、一般式1で表される構造と、一般式2で表される構造で構成され、かつ一般式1におけるZ及びZがいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であるイオン性基含有ポリマーである。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性が特に向上するため好ましい。
【0020】
前記のイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式2における、Z及びZがいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であるとより好ましい。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性がより一層向上するため好ましい。
【0021】
なお、本発明におけるスルホン化ポリアリーレンエーテルにおいて、上記各一般式で表される各繰り返し単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合など、いずれでもよい。
【0022】
本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテルとしては、上記で示した繰り返し単位の他に、スルホン酸基を含まないジハロゲン化化合物をモノマーとして得られる繰り返し単位を含んでいてもよく、これらの例として同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0023】
本発明におけるスルホン化ポリアリーレンエーテルにおいて、上記で上げたモノマー以外のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0024】
本発明におけるスルホン化ポリアリーレンエーテルは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒中0.5g/dLにポリマーを溶解した際の30℃における対数粘度が1.5〜4.0dL/gである。対数粘度が1.5dL/g未満である場合は力学特性にバラツキがでる傾向にあり、4.0dL/g以上の場合は成型時の溶液粘度が高くなりすぎて加工が困難となる傾向となる。対数粘度が1.5〜4.0dL/gの範囲にあるときに、加工性に優れるとともに、優れた力学特性が安定して発現することになる。対数粘度が1.7〜3.7の範囲であることがより好ましく、対数粘度が2.0〜3.5の範囲であれば更に好ましい。
これらの範囲にあるときに本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテルは、引張試験において安定して高い破断強度を示す。この具体的な平均値としては60MPa以上であり、好ましくは65MPa以上、更に好ましくは70MPa以上であり、75Mpa以上であれば最も好ましい。これらの平均破断強度測定では平均破断強度の70%以下の値を示す試料の割合が、15%以下となることが好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物は、単体として使用することができるが、他のポリマーとの組み合わせによる樹脂組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせと言える、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。これら樹脂組成物として使用する場合には、本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物は、樹脂組成物全体の85質量%以上100質量%以下含まれていることが好ましい。本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物が、90質量%以上100質量%の範囲であれば更に好ましい。本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物の含有量が樹脂組成物全体の85重量%未満の場合には、この樹脂組成物を含む高分子電解質膜の力学特性の均一性が低下する傾向となる。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0026】
本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物およびその樹脂組成物は、押し出し、紡糸、圧延またはキャストなど任意の方法で高分子電解質膜とすることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。この溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1重量%未満であると良好な高分子電解質膜を得るのが困難となる傾向にあり、50重量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。たとえば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒と混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。このようにして得られた高分子電解質膜中のスルホン酸基はカチオン種との塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
【0027】
本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物を含む高分子電解質膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜1000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、1000μmよりも厚いと不均一な高分子電解質膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。本発明の高分子電解質膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、イオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には1〜200μmであることが好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましく、1〜20μmであることが最も好ましい。高分子電解質膜の厚みが1μmより薄いと高分子電解質膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子電解質膜の電気抵抗値が高くなり燃料電池の発電性能が低下する傾向にある。高分子電解質膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに得られた膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。また、高分子電解質膜のイオン伝導率は1.0x10−3S/cm以上であることが好ましい。イオン伝導率が1.0x10−3S/cm以上である場合には、その高分子電解質膜を用いた燃料電池において良好な出力が得られる傾向にあり、1.0x10−3S/cm未満である場合には燃料電池の出力低下が起こる傾向にある。
【0028】
また、上述した本発明の高分子電解質膜またはフィルム等を電極に設置することによって、本発明の高分子電解質膜またはフィルム等と電極との接合体を得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法または高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。この中でも本発明のスルホン化ポリアリーレンエーテル系化合物およびその樹脂組成物を主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。高分子電解質膜と電極との接着性が向上し、また、高分子電解質膜のイオン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。
【0029】
上述した高分子電解質膜またはフィルム等と電極との接合体を用いて、燃料電池を作製することもできる。本発明の高分子電解質膜またはフィルム等は、耐熱性、加工性、イオン伝導性に優れているため、高温での運転にも耐えることができ、作製が容易で、良好な出力を有する燃料電池を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は次のように行った。
<溶液粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0031】
〈引張試験〉
20℃相対湿度65%での引張試験は東洋ボールドウィン製テンシロンUTMIIを用いて、試料幅1cm、有効資料帳4cmに切り出したフィルム片を用いて測定した(引張速度:20cm/分)。測定は、同一試料について100個のフィルム片を用いて測定を行った。
【0032】
〈発電評価〉
Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業株式会社TEC61E54)に少量の超純水およびイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業株式会社TEC10V40E)に少量の超純水およびイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの重量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施した東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により130℃、8MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜−電極複合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込み、燃料電池発電試験機(株式会社東陽テクニカ製)を用いて発電試験を行った。発電は、セル温度40℃で、アノードおよびカソードにそれぞれ40℃に調整した2mol/lのメタノール水溶液(1.5ml/min)および高純度酸素ガス(80ml/min)を供給しながら行った。
【0033】
〈イオン交換容量〉
窒素雰囲気下で一晩乾燥した試料の重量をはかり、水酸化ナトリウム水溶液と撹拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定でイオン交換容量(IEC)を求めた。
【0034】
〔実施例1〕
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778g、2,6−ジクロロベンゾニトリル553g、4,4’−ビフェノール893g、炭酸カリウム862g、N−メチル−2−ピロリドンを5621g入れて、窒素雰囲気下にて150℃で1時間撹拌した後、反応温度を200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(20時間)。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを水中で繰り返し洗浄した後、乾燥した。このポリマーのこのポリマーのNMP溶液中で測定した対数粘度は1.55dL/gであった。
次いで、このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて厚み200μmになるよう温度20℃で連続的に流延し、温度140℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃、20質量%硫酸水溶液に10分間浸漬し、次いで、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃純水に40分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃で30分間風乾させた。その後、支持体からポリマー膜を剥がして高分子電解質膜を得た。
本高分子電解質膜の膜厚は31μmであった。引張試験における平均破断強度は72MPaであり、50MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は3%であった。
本項分子電解質膜を構成するポリマーは下記構造式で示されるものである。
【0035】
【化8】

【0036】
〔実施例2〕
実施例1のポリマーを12%に溶解し、40μmの厚みで流延する以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製した。
本高分子電解質膜の膜厚は3μmであった。引張試験における平均破断強度は67MPaであり、47MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は5%であった。
【0037】
〔比較例1〕
実施例1のポリマー合成に置いて、反応時間を4時間とすることで、NMP溶液中で測定した対数粘度1.32のポリマーを得た。実施例1と同様に作製した高分子電解質膜の膜厚は、31μmであった。引張試験における平均破断強度は63MPaであり、44MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は25%であった。
【0038】
〔比較例2〕
実施例1のポリマー合成に置いて、反応時間を40時間とすることで、NMP溶液中で測定した対数粘度4.2のポリマーを得た。実施例1と同様に高分子電解質膜の作製を試みたが、均一な溶液を作製することができず、高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0039】
〔実施例3〕
4−フェニルフェノール50.00g(0.2938mol)を100mlのNMPに溶解し、水酸化ナトリウム12.37gを15mlの水にとかしたものを加えた。ここへ、ベンゼン40mlを加え、ベンゼン環流下に水を共沸除去した(約7時間)。ブロムベンゼン60.00g(0.3821mol)、塩化第一銅1g(0.01mol)を加え、窒素気流下145℃で約20時間攪拌した。濾過で沈殿を除いた後、ベンゼンで希釈し、数回水洗した。ベンゼン層は硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮した。粗生成物はシリカゲル、ベンゼンを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、活性炭処理で4−フェノキシビフェニルを得た。4−フェノキシビフェニル2.18g(0.00886mol)、ジフェニルエーテル1.51g(0.00887mol)、イソフタル酸クロリド(3.60g(0.01773mol)をジクロロエタン200mlに溶解し、氷浴で冷却した後塩化アルミニウム6.15g(0.0461mol)を加えた。1時間攪拌した後、氷欲を除き室温でさらに17時間重合を続けた。反応物はメタノールに注いでポリマーを取り出し、希塩酸に引き続き熱水で洗浄を繰り返した後、乾燥した。収量4.92g。濃硫酸中で測定した対数粘度は1.44。
ポリマー1gを濃硫酸20mlに溶解し、65℃に加熱して9時間攪拌した。ポリマー溶液を水中に注いでポリマーを回収し、洗液が中性になるまで水洗を繰り返した後乾燥した。得られたスルホン化ポリマーの収量は1.1gであった。スルホン化ポリマー500mgをNMP2.5mlに室温で攪拌して溶解し、ホットプレート上で加温したガラス板上に厚み200μmにキャストし、溶媒を留去後、水浸漬してフィルムを得た。フィルムは100℃希硫酸中1時間浸漬処理した後、100℃純水中でさらに1時間浸漬処理した。イオン交換容量は、1.22meq/gであった。80℃、98%RHで測定したイオン伝導率は、0.06S/cmを示した。NMP溶液により測定した対数粘度は、1.91であった。
本高分子電解質膜の膜厚は24μmであった。引張試験における平均破断強度は76MPaであり、53MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は3%であった。
本項分子電解質膜を構成するポリマーは下記構造式で示されるものである。
【0040】
【化9】

【0041】
〔実施例4〕
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)7.0157g(0.014281mole)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)2.4565g(0.014281mole)、2,6−ジヒドロキシナフタレン4.5749g(0.02856mole)、炭酸カリウム5.5398gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。42mlのN−メチル−2−ピロリドンを入れて、150℃で一時間撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて17時間反応させた。放冷の後、重合液を水中に注いでポリマーをストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、1日新鮮な水に浸漬後、乾燥した。NMP溶液中で測定したポリマーの対数粘度は3.62を示した。
ポリマー9gをNMP21mlに溶解し、ホットプレート上ガラス板に約450μm厚にキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩以上浸漬した。得られたフィルムは、希硫酸(濃硫酸6ml、水300ml)中で1日浸漬処理して塩をはずした後、純水中に1時間づつ2回浸漬することで酸成分を除去し、乾燥した。本高分子電解質膜の膜厚は34μmであった。引張試験における平均破断強度は79MPaであり、55MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は2%であった。
本項分子電解質膜を構成するポリマーは下記構造式で示されるものである。
【0042】
【化10】

【0043】
〔実施例5〕
実施例4のポリマー3gを用い、キャスト厚を40μmとする以外は実施例4と同様に高分子電解質膜を作製した。本高分子電解質膜の膜厚は2μmであった。引張試験における平均破断強度は73MPaであり、51MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は4%であった。
【0044】
〔比較例3〕
実施例4のポリマー合成に置いて、反応時間を5時間とすることで、NMP溶液中で測定した対数粘度1.21のポリマーを得た。実施例4と同様に作製した高分子電解質膜の膜厚は、31μmであった。引張試験における平均破断強度は66MPaであり、4546MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は35%であった。
【0045】
〔比較例4〕
実施例4のポリマー合成に置いて、反応時間を40時間とすることで、NMP溶液中で測定した対数粘度4.1のポリマーを得た。実施例4と同様に高分子電解質膜の作製を試みたが、均一な溶液を作製することができず、高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0046】
〔実施例6〕
実施例1において、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778gのかわりに3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン2ナトリウム塩721gを用いて同様にポリマーを合成した。得られたポリマーのNMP溶液中で測定した対数粘度は2.54dL/gであった。実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製したところ、本高分子電解質膜の膜厚は30μmであった。引張試験における平均破断強度は66MPaであり、46MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は4%であった。
本項分子電解質膜を構成するポリマーは下記構造式で示されるものである。
【0047】
【化11】

【0048】
〔実施例6〕
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン0.60g、ビスフェノールS1.00g、ジフルオロジフェニルスルホン1.45g、炭酸カルシウム0.91gを50ml四つ口フラスコに計り取り、窒素気流下で20mlのNMPを入れて、反応温度を175℃付近に設定して35時間程度反応を続けた。放冷の後、約100mlのメタノール中に再沈殿させ、ミキサーを用いて3回水洗処理をしてポリマーを得た。ポリマー試料を濃硫酸(98%)とともに室温でマグネティックスターラーにより撹拌することで、スルホン化反応を行い、反応後、硫酸溶液を過剰の氷水中に投入して反応を止め、生じた沈殿を濾取、水洗して、スルホン化ポリマーを得た。本ポリマーのNMP溶液中で測定した対数粘度は1.75dL/gであった。実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製したところ、本高分子電解質膜の膜厚は31μmであった。引張試験における平均破断強度は63MPaであり、44MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は4%であった。
本項分子電解質膜を構成するポリマーは下記構造式で示されるものである。
【0049】
【化12】

【0050】
〔実施例7〕
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン15g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム14g、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)205g、五酸化リン164gを重合容器に量り取る。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温 した。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温 して1時間、200℃に昇温 して4時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いて3回水洗を繰り返した後の水浸漬ポリマーに炭酸ナトリウムを加えて中和し、更に水洗を繰り返して洗液のpHが中性となり変化しないことを確認した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.68を示した。本ポリマーと実施例1のポリマーを12:88の割合として、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製したところ、膜厚は33μmの高分子電解質膜が得られた。引張試験における平均破断強度は79MPaであり、55MPa以下の破断強度を与える測定試料の割合は5%であった。
本実施例で合成したスルホン化ポリベンズイミダゾールは下記構造式で示されるものである。
【0051】
【化13】

【0052】
〔実施例8〕
実施例1で作製したフィルムを用いて発電評価を実施したところ、100mAの電流密度において0.36Vと、良好な発電特性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、加工性に優れるとともに、優れた力学特性を安定して示す高分子電解質膜が得られた。耐久性が課題となっている固体高分子形燃料電池において、優れた膜耐久性が期待されることから燃料電池技術の発展に寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃、0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液で測定した対数粘度が1.5〜4.0dL/gの範囲にあるスルホン化ポリアリーレンエーテルからなる高分子電解質膜。
【請求項2】
スルホン化ポリアリーレンエーテルが、一般式1で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は0以上の整数を表す。]
【請求項3】
スルホン化ポリアリーレンエーテルが、一般式2で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質膜。
【化2】

[一般式2において、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n0は1以上の整数を表す。]
【請求項4】
高分子電解質ポリマー溶液を基材上に流延し、溶媒の揮発により膜形成を行う工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかの高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の高分子電解質膜と電極とを含有することを特徴とする複合体。
【請求項6】
請求項5に記載の複合体を含有することを特徴とする燃料電池。

【公開番号】特開2009−301882(P2009−301882A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155386(P2008−155386)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】